説明

楽音制御装置

【課題】演奏操作に応じた適切な制御を行うことができる楽音制御装置を提供する。
【解決手段】ピッチベンダー7aにより設定されている操作値PBをRAM4から読み込み(S21)、その操作値PBが、所定の範囲内であるか否かを判断する(S22)。操作値PBが所定の範囲内である場合は(S22:Yes)、時刻tを1進め(S23)、時刻tがt1に至ったか否かを判断する(S23)。時刻tが、t1に至った場合は、時刻tに対応するLFOの振幅値をLFOテーブルから読み出し(S25)、その読み出した振幅値にビブラート深さを乗算することによりビブラート値VIを算出する(S26)。次に、ピッチベンダー7aにより設定される操作値PBと、ビブラート値VIとを加算し、音源9に送信する(S27)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽音制御装置に関し、特に演奏操作に応じた適切な制御を行うことができる楽音制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子楽器などにおいて、演奏者の演奏操作に応じて楽音を制御する楽音制御装置が知られている。これらの楽音制御装置では、演奏者の操作に応じて楽音を変調するなどの様々な制御が行われている。
【0003】
特開平7−121165号公報(特許文献1)には、第1の操作子が操作されると音高を徐々に一定方向へ変更させ、更に第2の操作子が操作された場合は、音高を一定方向へ変更するのを中止し、その第2の操作子が操作された時の音高を中心音高として周期的に変更する装置が開示されている。
【0004】
また、特許3465466号公報(特許文献2)には、演奏者によりピッチベンドホイールが操作され、ピッチベンドホイールの位置が変化している途中である場合は、LFO(低周波発振器)によるビブラートの付与を抑制し、ピッチベンドホイールの位置が変化せず、ある位置で停止している場合は、LFOによるビブラートがかかる装置が開示されている。これにより、初心者が演奏する場合には、ピッチベンドホイールを操作することなく自動的にビブラートを付与する(以下、「自動ビブラート」と称す)ことができ、上級者が演奏する場合には、ピッチベンドホイールを操作することにより、演奏者が所望するビブラートを付与することができるとしている。
【特許文献1】特開平7−121165号公報
【特許文献2】特許3465466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された装置では、所定の音高に至った場合にビブラートをかけるという操作が困難である。即ち、第1の操作子の操作に応じて一定方向へ音高を変化させ、その音高が所定の音高に至った場合にビブラートをかけようとすると、第1の操作子の操作に応じて変化している音高が所定の音高に至ったか否かを演奏者自身が判断しなければならず、演奏操作が非常に難しい。
【0006】
また、特許文献2に開示された装置では、ピッチベンドホイールを操作範囲の途中で停止した場合に、その音高がビブラートをかけるには適切でない音高であっても自動ビブラートがかかってしまうという問題点があった。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、演奏操作に応じた適切な制御を行うことができる楽音制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1記載の楽音制御装置は、操作子の操作に応じた操作値を入力する入力手段と、周期信号を発生する周期信号発生手段と、前記入力手段により入力された操作値と前記周期信号発生手段により発生された周期信号とに基づいて楽音を変調する変調信号を形成する変調信号形成手段と、その変調信号形成手段により形成された変調信号を出力する出力手段とを備えたものであり、前記入力手段により入力された操作値が所定の範囲内であるか否かを判定する判定手段と、その判定手段により前記入力手段により入力された操作値が所定の範囲でないと判定された場合は、前記周期信号発生手段により発生される周期信号を抑制し、操作値が所定の範囲内であると判定された場合は、前記周期信号発生手段により発生される周期信号の抑制を解除するように制御する制御手段とを備えている。
【0009】
請求項2記載の楽音制御装置は、請求項1記載の楽音制御装置において、前記入力手段により入力された操作値が前記所定の範囲内でない値から所定の範囲内の値に変化したと前記判定手段により判定された場合に計時を開始する計時手段を備え、前記制御手段は、その計時手段により計時された時間が所定の時間に達した場合に、前記周期信号発生手段により発生される周期信号の抑制を解除するように制御するものである。
【0010】
請求項3記載の楽音制御装置は、請求項1または2記載の楽音制御装置において、前記入力手段により入力される操作値および前記周期信号発生手段により発生される周期信号は、楽音の音高変化を指示するものであり、前記所定の範囲は、音階を構成する音高に基づいて設定されるものである。
【0011】
請求項4記載の楽音制御装置は、請求項1または2記載の楽音制御装置において、前記入力手段により入力される操作値は、操作子の操作位置を示すものであり、前記所定の範囲は、前記操作位置に基づいて設定されるものである。
【0012】
請求項5記載の楽音制御装置は、前記入力手段により入力される操作値は、操作子の操作範囲の一端から他端までの操作位置を示すものであり、前記所定の範囲は、操作子の操作位置が一端、または他端、または一端と他端との中央の位置に基づいて設定されるものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の楽音制御装置によれば、操作子の操作に応じた操作値が入力手段により入力され、周期信号発生手段により周期信号が発生される。入力手段により入力された操作値と周期信号発生手段により発生された周期信号とに基づいて楽音を変調する変調信号が変調信号形成手段により形成され、その形成された変調信号は、出力手段により出力される。そして、入力手段により入力された操作値が所定の範囲内であるか否かが判定手段により判定され、操作値が所定の範囲内でないと判定された場合は、制御手段により周期信号が抑制され、操作値が所定の範囲内であると判定された場合は、制御手段により周期信号の抑制が解除される。よって、操作子により指示される値が所定の範囲内でない場合は、周期信号による変調が抑制され、操作子により指示される値に基づいて楽音の特性が変調される。一方、操作値が所定の範囲内である場合は、操作子により指示される値と周期信号との両方に基づいて楽音の特性が変調される。したがって、演奏者が操作子を所定の範囲内で操作した場合は、周期信号による変調がかけられるが、所定の範囲以外では周期信号による変調がかけられない。その結果、演奏操作に応じた適切な制御を行うことができるという効果がある。例えば、操作子を操作することにより特定の音高に至った場合に、ビブラートがかかるが、その特定の音高ではない場合は、ビブラートがかからないというような音楽的に適切な制御を行ったり、操作子を特定位置に操作した場合にのみビブラートがかかるという制御を行うことができる。
【0014】
請求項2記載の楽音制御装置によれば、請求項1記載の楽音制御装置の奏する効果に加え、入力手段により入力された操作値が所定の範囲外の値から所定の範囲内の値に変化した場合に、計時手段による計時が開始され、制御手段は、その計時手段により計時された時間が所定の時間に達した場合に、周期信号の抑制を解除するように制御するので、入力手段により入力された操作値が所定の範囲内に所定の時間以上留まっている場合に、周期信号による制御が行われる。よって、操作子の位置が変化している場合には、例え操作値が所定の範囲内であったとしても、周期信号による変調は抑制され、演奏者が、操作子を所定の範囲内で所定時間以上保持することにより、周期信号による変調をかけることができる。
【0015】
請求項3記載の楽音制御装置によれば、請求項1または2記載の楽音制御装置の奏する効果に加え、入力手段により入力される操作値および変調信号形成手段により形成される変調信号は、楽音の音高変化を指示するものであり、所定の範囲は、音階を構成する音高に基づいて設定されるものであるので、音楽的に適切な楽音の制御を行うことができるという効果がある。例えば、音階を半音階や長音階などとし、操作子を操作することにより楽音の音高が、その音階を構成する音高に至った場合にビブラートがかかるというような制御を行うことができる。音階を構成する音高としては、5度離れた音高や、1オクターブ離れた音高にすることができる。
【0016】
請求項4記載の楽音制御装置によれば、請求項1または2記載の楽音制御装置の奏する効果に加え、入力手段により入力される操作値は、操作子の操作位置を示すものであり、所定の範囲は、操作位置に基づいて設定されるものであるので、演奏者は、操作子の位置により、周期信号により楽音の変調が行われるか否かを認識することができ、操作が容易であるという効果がある。
【0017】
請求項5記載の楽音制御装置によれば、請求項4記載の楽音制御装置の奏する効果に加え、操作情報は、操作子の操作範囲の一端から他端までの操作位置を示すものであり、所定の範囲は、操作子が一端、または他端、または一端と他端との中央の位置に基づいて設定されるものであるので、演奏者は、操作子が一端、または他端、または一端と他端との中央の位置において、周期信号により楽音の変調が行われることを認識することができ、操作が容易であるという効果がある。例えば、ピッチベンダーは、通常状態(何も操作されない状態)では、操作子が中央位置に保持され、音高は変更されず、一方の端に操作された場合は、1オクターブ音高が高くなり、他方の端に操作された場合は、1オクターブ低くなるように制御される。この時、操作子が中央位置、または一方の端、または他方の端に操作された場合に、ビブラートなどの効果がかかり、途中の位置、例えば、中央位置と一方の端との中間の位置にある場合は、例え操作子を停止してもビブラートなどの効果がかからないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態である楽音制御装置を有する電子楽器1の電気的構成を示したブロック図である。電子楽器1は、CPU2(中央処理装置)と、そのCPU2により実行される制御プログラム3a等を記憶したROM3(リード・オンリ・メモリ)と、CPU2が制御プログラム3aを実行する際の作業用のメモリエリア等を提供するRAM4(ランダム・アクセス・メモリ)と、複数の白鍵および黒鍵を有する鍵盤6と、演奏者により操作されることにより電子楽器1に指示を行う操作子7と、その操作子7により設定されたパラメータなどを表示する表示器8と、CPU2により送信された演奏情報に対応した楽音信号を生成する音源9と、その音源9により生成された楽音信号を増幅する増幅器10と、その増幅器10により増幅された楽音信号を放音するスピーカ11とにより構成されている。
【0019】
CPU2は、ROM3に記憶された制御プログラムに従って各種処理を実行する演算処理装置であり、CPU2には、タイマ2aが内蔵されている。タイマ2aは、所定の周波数のクロック信号が入力されて時間を計時するものであり、タイマ2aが所定時間(例えば、1msec)を計時する度に、CPU2に割込みを発生し、そのタイマ割込みに応じてCPU2は、図4に示すタイマ割込処理を実行するように構成されている。
【0020】
ROM3は、書き換えることができないメモリであり、図3および図4に示すフローチャートの処理を行う制御プログラム3aや、その制御プログラム3aを実行する際に参照されるLFOテーブル3bなどが記憶されている。LFOテーブル3bは、周期的に楽音の特性を変更するための周期信号を形成するための波形を記憶するものであって、サイン波や、三角波などの1周期が記憶され、演奏者により、いずれかの波形が選択される。
【0021】
RAM4は、CPU2が制御プログラムを実行する際、変数などを一時記憶するワークエリア等を有するランダムにアクセスできるメモリである。RAM3には、操作子により設定された値が記憶され、前回の値と比較することにより操作による変更が行われたか否かが判断される。
【0022】
鍵盤6は、演奏操作が行われるもので、各白鍵または黒鍵は、常態では、バネなどにより水平位置に維持され、指などにより押下することにより、その鍵に割り当てられた音高の楽音の発音の開始を指示し、指を離すことにより発音の停止を指示するものである。
【0023】
操作子7は、各種スイッチやボリュームなどにより構成され、音源9により出力される音色を選択したり、音量などを演奏者が任意に設定することができる。LFOテーブル3bに記憶された複数の波形のいずれかを選択したり、そのLFOテーブル3bから読み出す周期信号の周期(周波数)や変調の深さなどを設定する操作子や、ピッチベンダー7aと呼ばれる操作子が設けられている。ピッチベンダー7aは、揺動操作される操作子であり、常態ではバネにより中央位置に保持され、指などにより左端、または右端まで操作することができる。ピッチベンダー7aの回転軸には、回転型の可変抵抗器の軸が連結され、その可変抵抗器により設定された電圧値がA/D変換器(図示なし)によりデジタル値に変換されてCPU2により読み込まれる。ピッチベンダー7aにより設定された値に基づいて、音源9により形成される楽音の音高が制御されることが多いが、音量やフィルタのカットオフ周波数などが制御されるようにしてもよい。
【0024】
音源9は、CPU2から送信される制御信号に基づいて、楽音を発生するものである。発音の開始を指示するノートオン情報を受信した場合は、そのノートオン情報が示す音高、または音色の楽音の発生を開始し、発音の停止を指示するノートオフ情報を受信した場合は、発生している楽音の発生を停止する。また、発生している楽音の変調を指示する情報を受信した場合は、その情報に応じて変調を行う。変調を指示する情報は、楽音の音高や音量や周波数特性の変化を指示するものである。以下の実施形態では、楽音の音高を変調する場合について説明する。
【0025】
次に図2を参照して、時間経過に応じて変化するビブラート深さについて説明する。図2は、時間経過に応じて変化するビブラート深さを示すグラフであり、横軸を時刻t、縦軸をビブラート深さαとするものである。横軸上の時刻tは、いずれかの鍵が押下された場合、またはピッチベンダー7aの操作位置が所定の範囲以外の位置から所定の範囲内に至った場合に、計時が開始される時刻である。
【0026】
図2に示すように、ビブラート深さαは、時刻t1までは0であり、時刻t1から時刻t2までは徐々に増加し、時刻t2以降は、1である。時刻t1からt2までは、直線で示したが、例えば、S字状に変化するようにしてもよい。このように、時間経過に従ってビブラート深さαが変化し、このビブラート深さαが、LFOテーブル3bから読み出された周期信号に乗算され、その乗算された値が周期信号とされる。従って、図2に示す時刻0からt1までの間は、周期信号による変調が抑制され、時刻t1からt2までの間に徐々にその抑制が解除される。
【0027】
押鍵が行われた場合は、いわゆるディレイビブラートと呼ばれるように、押鍵されてから少しの時間(時刻t1まで)はビブラートがかけられず、その少しの時間の後にビブラートがかけられるように制御される。
【0028】
ピッチベンダー7aは、操作された現在位置を示す操作値をとるものとする。例えば、操作位置が中央位置である場合に0、右端に操作された場合に+100、左端に操作された場合に−100の値をとり、所定の範囲を−100から−98、±2、+98から+100の3つの範囲とする。ピッチベンダー7aは、操作されない状態では、中央位置に位置し、0の値をとる。ビブラートがかけられている場合に、ピッチベンダー7aが操作されて±2の範囲を超えると、ビブラート深さは、0に設定され、ピッチベンドがかけられると共に、ビブラートがかけられない状態となる。この時、時刻tが0に設定される。ピッチベンダー7aが更に操作されて、所定の範囲(上記−100から−98、±2、+98から+100のいずれかの範囲)に達すると、再び時刻tの計時が開始され、ディレイビブラートがかけられることになる。
【0029】
次に図3および図4をを参照して、上記したビブラートとピッチベンドをかける処理について説明する。まず、図3を参照してCPU2により実行されるメイン処理について説明する。図3は、メイン処理を示すフローチャートであって、電子楽器1の電源が投入されることにより起動され、電源が遮断されるまで繰り返し実行される処理である。
【0030】
まず、初期設定を行う(S1)。この初期設定としては、タイマ2aによるタイマ割込を禁止し、各種パラメータの値などを初期値に設定するなどの処理である。初期設定処理の次に、鍵盤6の鍵の状態を走査し(S2)、いずれかの鍵が押下されたか否かを判断する(S3)。いずれかの鍵が押下された場合は(S3:Yes)、その鍵のノートオン情報を音源9に送信する(S4)。ノートオン情報は、鍵が押下されたことを示すステータスと、押下された鍵に割り当てられた音高を示すノートナンバと、押下された鍵速度を示すベロシティとにより構成される。音源9は、このノートオン情報を受信すると、ノートナンバにより示される音高の楽音を、ベロシティに応じた強さおよび音色で楽音の発生を開始する。
【0031】
S4の処理の次に、タイマ2aによる計時を開始するように設定し、タイマ2aが所定時間(例えば1msec)を計時した場合に、タイマ割込処理を行うように割込を許可する。(S5)。S3の判断処理において、いずれの鍵も押下されない場合(S3:No)またはS5の処理を行った場合は、次に鍵盤6のいずれかの鍵が離鍵されたか否かを判断する(S6)。鍵盤6のいずれかの鍵が離鍵された場合は(S6:Yes)、その鍵のノートオフ情報を音源9に送信する(S7)。ノートオフ情報は、鍵が離鍵されたことを示すステータスと、離鍵された鍵に割り当てられた音高を示すノートナンバと、離鍵された速度を示すベロシティとにより構成される。音源9は、このノートオフ情報を受信すると、ノートナンバにより示される音高の楽音を、ベロシティに応じた速さで楽音の発生を減衰させる。
【0032】
次に、鍵盤6のいずれの鍵も押下されていないか否かを判断し(S8)、いずれの鍵も押下されていない状態となった場合は(S8:Yes)、タイマ2aを停止してタイマ割込を禁止する(S9)。
【0033】
S6の判断処理において、いずれの鍵も離鍵されない場合(S6:No)、またはS8の判断処理においていずれの鍵も押下されていない状態ではない場合、即ち、いずれかの鍵が押下されている場合は(S8:No)、またはS9の処理を終了した場合は、次に操作子の状態を走査し(S10)、いずれかの操作子が操作されたか否かを判断する(S10)。いずれかの操作子が操作された場合は(S11:Yes)、その操作に応じた処理を行う(S12)。ピッチベンダー7aが操作された場合は、操作された位置を示す操作値PBがRAM4に記憶される。音色を設定する操作が行われた場合は、新たに選択された音色を示す情報が音源9に送信される。
【0034】
S11の判断処理において、いずれの操作子も操作されない場合(S11:No)または、S12処理を行った場合は、次にその他の処理を行い(S13)、その他の処理を終了した場合は、S2の処理に戻る。その他の処理は、上記した操作子以外の操作子が操作されたことを検出し、その操作に応じて行う処理などである。
【0035】
次に図4を参照して、タイマ割込処理について説明する。図4は、タイマ割込処理を示すフローチャートである。タイマ割込処理では、まず、ピッチベンダー7aにより設定されている操作値PBをRAM4から読み込み(S21)、その操作値PBが所定の範囲内であるか否かを判断する(S22)。操作値PBが所定の範囲内である場合は(S22:Yes)、時刻tを1進め(S23)、時刻tがt1に至ったか否かを判断する(S24)。この時刻t1は、図2を参照して説明したように、時刻0から時刻t1の間はビブラート深さαを0にするように設定された時刻である。時刻tが、t1に至った場合は(S24:Yes)、時刻tに対応するLFOの振幅値をLFOテーブルから読み出し(S25)、その読み出した振幅値に時刻tに対応するビブラート深さαを乗算することによりビブラート値VIを算出する(S26)。なお、ビブラート深さαに、更に演奏者により任意に設定された係数を掛けるようにしてもよい。
【0036】
次に、ピッチベンダー7aにより設定される操作値PBと、ビブラート値VIとを加算し、音源9に送信する(S27)。一方、S22の判断処理において、操作値PBが所定の範囲でない場合は(S22:No)、時刻tを0とし(S31)、ビブラートがかかるのを抑制する。S31の処理を終了した場合、またはS24の判断処理において、時刻t1に至らない場合は(S24:No)、次に、操作値PBが変化したか否かを判断する(S32)。後述する(S33)ように、音源9に送信した操作値PBは、RAM4に記憶され、その記憶された操作値PBと今回取得された操作値PBとを比較することにより、変化したか否かが判断される。
【0037】
操作値PBが変化した場合は(S32:Yes)、変化した操作値PBを音源9に送信し、送信した操作値PBをRAM4に記憶する(S33)。S33の処理を終了した場合、または操作値PBが変化しない場合は(S32:No)、このタイマ割込処理を終了する。
【0038】
以上、説明したようにビブラートなどの周期的な楽音の変化が設定されていて、ピッチベンダー7aが操作され、その操作された位置が所定の範囲内である場合は、ビブラートが有効とされ、それ以外の場合には、ビブラートがかからないように制御される。
【0039】
従って、操作子が操作され、所定の位置に到達するまでの途中の位置では、ビブラートが抑制されるが、所定の位置に到達されるとビブラートがかけられる。また、操作子が所定の位置に到達した場合でも到達してから所定の時間が経過した後、徐々にビブラート深さが大きくなるように制御され、押鍵に応じてかけられるディレイビブラートと同じような効果が付与される。
【0040】
なお、請求項に記載の入力手段は、図3に示すフローチャートのS12の処理が該当し、周期信号発生手段は、図4に示すフローチャートのS25の処理が該当し、変調信号形成手段および出力手段は、図4に示すフローチャートのS27およびS33の処理が該当し、判定手段は、図4に示すフローチャートのS22の処理が該当する。また、請求項2記載の計時手段は、図4に示すフローチャートのS23の処理が該当する。
【0041】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0042】
例えば、上記実施形態では、鍵盤6、操作子7、音源9は、CPU2とバスにより相互に接続されているものとしたが、MIDIなどのインターフェースを介して、接続されるようにしてもよい。この場合、ピッチベンダー7aの操作により発生されたベンド値は、MIDI規格で規定されているコントロールチェンジにより送受信される。
【0043】
また、上記実施形態では、操作子により設定された操作値は、操作子が操作された現在位置を示すものとしたが、操作子の位置に応じて音高を指定する値でもよい。例えば、ピッチベンダー7aを右端まで操作した場合を+1オクターブ、左端まで操作した場合を−1オクターブとし、−1オクターブから+1オクターブ間で半音毎に離散的に音高が変化するようにしてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、操作子により設定された操作値が所定の範囲内ではない場合は、周期信号による変調が全く行われないものとしたが、周期信号による変調のレベルを小さくするようにしてもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、鍵盤6の鍵が押下されてからビブラートがかかるまでの時間と、ピッチベンダー7aの操作位置が所定の範囲に至った時からビブラートがかかるまでの時間とを同じ時間t1としたが、鍵が押下された場合と、ピッチベンダー7aによる操作位置が所定の範囲に至った場合とで異なる時間に設定してもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、説明を簡単にするため、ピッチベンダー7aの操作位置が、所定の範囲内から所定の範囲外に変化した場合は、ビブラート係数αが、1から0に離散的に変化するものとしたが、徐々に1から0に変化するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による楽音制御装置を搭載した電子楽器の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】時刻に伴うビブラート深さの変化を示すグラフである。
【図3】メイン処理を示すフローチャートである。
【図4】タイマ割込処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1 電子楽器
2 CPU
3 ROM
3b LFOテーブル(周期信号発生手段の一部)
4 RAM
7 操作子
7a ピッチベンダー
9 音源(楽音発生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作子の操作に応じた操作値を入力する入力手段と、周期信号を発生する周期信号発生手段と、前記入力手段により入力された操作値と前記周期信号発生手段により発生された周期信号とに基づいて楽音を変調する変調信号を形成する変調信号形成手段と、その変調信号形成手段により形成された変調信号を出力する出力手段とを備えた楽音制御装置において、
前記入力手段により入力された操作値が所定の範囲内であるか否かを判定する判定手段と、
その判定手段により、前記入力手段により入力された操作値が所定の範囲内でないと判定された場合は、前記周期信号発生手段により発生される周期信号を抑制し、操作値が所定の範囲内であると判定された場合は、前記周期信号発生手段により発生される周期信号の抑制を解除するように制御する制御手段とを備えていることを特徴とする楽音制御装置。
【請求項2】
前記入力手段により入力された操作値が前記所定の範囲内でない値から所定の範囲内の値に変化したと前記判定手段により判定された場合に計時を開始する計時手段を備え、
前記制御手段は、その計時手段により計時された時間が所定の時間に達した場合に、前記周期信号発生手段により発生される周期信号の抑制を解除するように制御するものであることを特徴とする請求項1記載の楽音制御装置。
【請求項3】
前記入力手段により入力される操作値および前記変調信号形成手段により形成される変調信号は、楽音の音高変化を指示するものであり、前記所定の範囲は、音階を構成する音高に基づいて設定されるものであることを特徴とする請求項1または2記載の楽音制御装置。
【請求項4】
前記入力手段により入力される操作値は、操作子の操作位置を示すものであり、前記所定の範囲は、前記操作位置に基づいて設定されるものであることを特徴とする請求項1または2記載の楽音制御装置。
【請求項5】
前記入力手段により入力される操作値は、操作子の操作範囲の一端から他端までの操作位置を示すものであり、
前記所定の範囲は、操作子の操作位置が一端、または他端、または一端と他端との中央の位置に基づいて設定されるものであることを特徴とする請求項4記載の楽音制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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