説明

標識用土嚢

【課題】
耐候性及び汎用性に優れ、標識用として十分な視認性を備えた土嚢を提供することを目的とする。
【解決手段】
筒状の胴部11と、該胴部11の底面となる底部12と、充填物の注排口13とを有する土嚢において、前記胴部11は、縞状に配置される明色糸(A)及び暗色糸(B)と、前記明色糸(A)及び暗色糸(B)に交差する方向に配置される交織糸(C)とから織成される織物からなり、前記胴部は明色糸(A)と交織糸(C)とから織成される明色部111と、前記暗色糸(B)と交織糸(C)とから織成される暗色部112を備え、明色部111と暗色部112の可視光線反射率の差が15〜90%であり、胴部11を構成する織物は、充填物の表面被覆率が95〜100%であることを特徴とする標識用土嚢1によって課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山間、海岸、河川、湖畔、道路等での土木工事に用いられる土嚢に関する。特に、視認性に優れた標識用の土嚢に関する。
【背景技術】
【0002】
工事現場や、崖崩れが起きた災害現場等では、付近を通行する歩行者や車両の運転者等に注意を喚起するために看板形式の警告表示板やカラーコーンが使用される。時には土嚢のような安定した重量物に塗料を用いて注意喚起をしている場合も見られる。
【0003】
注意喚起をするための土嚢としては、特許文献1や特許文献2に示すものが提案されている。特許文献1は、彩色層を土嚢の表面に形成し、視認性を高めた土嚢を開示している。この土嚢は、図3に記載されているように、安全表示柵の転倒防止用の錘として使用することもできる。彩色層を形成する方法としては蛍光顔料を塗布する方法と、蛍光顔料を含浸させる方法が例示されている。しかしながら、蛍光顔料は比較的高価であり、土嚢1袋あたりのコストが高くなってしまうという問題がある。また、1袋あたりの大きさが小さいので、視認性に劣るという問題がある。また、蛍光顔料は、耐候性に優れないものが多く、紫外線を可視光線に変換する性質から紫外線吸収剤の使用も制限されるため、長期間使用すると色が褪せてしまうという問題がある。特に、汎用的な土嚢の材料として一般的に使用されるポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンは極性を持たないので、蛍光塗料は早ければ数日で色が抜けてしまう。そのため、野外での汎用性に劣るという問題があった。
【0004】
特許文献2は、複数の土嚢からなる案内表示用の土嚢集合体を開示している。特許文献2においても、汎用性や顔料の耐候性を向上させるための具体的な方法についてまでは開示されておらず、やはり汎用性と耐候性が問題となる。また、複数の土嚢を用いて案内表示を現出させる構成であるので、工事現場の状況や工事の進捗状況によって必要となる土嚢の数が変化し、土嚢の手配や在庫管理が煩雑であるという問題があった。
【0005】
一方、特許文献3のような土嚢用の自立式のフレキシブルコンテナも公知である。このフレキシブルコンテナは上端に開口部9を備えており、そこから土砂等の充填物を胴部4に充填する。充填完了後は、縛り紐10で縛って開口部9を閉じる。特許文献3のフレキシブルコンテナは標識用のものではなく、視認性は一切考慮されていない。この種のフレキシブルコンテナは単一色であるのが通常であり、暗色で構成されている場合は、日差しの強い日中においてはコンクリート等の白色の背景に馴染むことはないが、夜間は暗闇に紛れてしまい、車中から土嚢の存在を認識し難く、危険であった。反対に明色で構成されている場合は、夜間の視認性は良好であるが、日中の視認性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平5−73022号
【特許文献2】特開2009−108652号
【特許文献3】特許第4303774号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐候性及び汎用性に優れ、標識用として日中及び夜間において十分な視認性有する土嚢を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、筒状の胴部と、該胴部の底面となる底部と、充填物の注排口とを有する土嚢において、前記胴部は、縞状に配置される明色糸(A)及び暗色糸(B)と、前記明色糸(A)及び暗色糸(B)に交差する方向に配置される交織糸(C)とから織成される織物からなり、前記胴部は明色糸(A)と交織糸(C)とから織成される明色部と、前記暗色糸(B)と交織糸(C)とから織成される暗色部を備え、明色部と暗色部の可視光線反射率の差が15〜90%であり、胴部を構成する織物は、充填物の表面被覆率が95〜100%であることを特徴とする標識用土嚢によって上記の課題を解決する。
【0009】
このとき、上記標識用土嚢においては、明色糸(A)の可視光線吸収率が0〜40%、暗色糸(B)の可視光線吸収率が30〜100%であることが好ましい。上記標識用土嚢においては、交織糸(C)の可視光線吸収率が0〜40%であることが好ましい。上記標識用土嚢においては、明色部の可視光線反射率が20〜90%、暗色部の可視光線反射率が0〜50%であることが好ましい。上記標識用土嚢においては、明色糸(A)、暗色糸(B)及び交織糸(C)がフラットヤーンであることが好ましい。上記標識用土嚢においては、容量が250リットル以上であることが好ましい。上記標識用土嚢においては、胴部に明色糸(A)及び暗色糸(B)と平行方向に吊りベルトが縫着されてなることが好ましい。また、上記標識用土嚢においては、胴部に夜光性反射材を備えてなることが好ましい。上記標識用土嚢においては、胴部は斜文織又は朱子織で織成される織物であって、明色部では暗色糸(B)よりも明色糸(A)が多く表面に露出し、暗色部では明色糸(A)よりも暗色糸(B)が多く表面に露出する構成とすることが好ましい。上記標識用土嚢においては、交織糸(C)は、縞状に配置される明色交織糸(C1)と暗色交織糸(C2)とからなり、明色部は、明色糸(A)と、明色糸(A)に交差する方向に配置される明色交織糸(C1)及び暗色交織糸(C2)とから織成され、暗色部は、暗色糸(B)と、暗色糸(B)に交差するように配置される明色交織糸(C1)及び暗色交織糸(C2)とから織成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の標識用土嚢の胴部は、複数色の色糸を用いて織成され、明色部と暗色部を有するので、背景色に馴染みにくく、昼間だけでなく夜間も視認性が良好である。蛍光塗料を含侵等する従来技術に比べて耐候性に優れるので、野外でも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の標識用土嚢の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】実施例1の織物の織組織を模式的に示した図である。
【図3】実施例4の織物の織組織を模式的に示した図である。
【図4】実施例5の織物の織組織を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の標識用土嚢の一例である。図1の標識用土嚢1は、筒状の胴部11と、胴部11の底面となる底部12と、充填物の注排口13とを備える。図1の例では、胴部11と同径の筒状の延設部14を胴部11の上方に設けて、延設部14の上端の開口を注排口13としている。延設部14には、縛り紐が取り付けてあり、縛り紐を縛ることで注排口13を閉じる。注排口13の形態や設ける位置は特に限定されず、製品の仕様に応じて適宜変更することができる。また、底部12に排出口を設けて、そこから充填物を排出するように構成してもよい。また、図1の例では、胴部11の形状は円筒形としたが、胴部11の形状は特に限定されず、例えば、角柱形状の筒としてもよい。
【0013】
胴部11、延設部14及び底部12は縫製や熱溶着により接合して、袋形状にする。底部12と延設部14は、フィルム、織編布、不織物、又はそれらを組み合わせた積層体等のシート材料から構成する。底部12は、摩耗性が高く、高強度であることが好ましく、胴部11と同程度以上の目付け重量を有する織編布から構成することが好ましい。一方、延設部14は、土嚢の内部に雨水が入ることを防ぐために、柔軟性を有することが好ましく、胴部11と同等以下の目付け重量を有するフィルムと織編布又は不織物とを積層した積層体で延設部14を構成することが好ましい。
【0014】
本発明の標識用土嚢1は、胴部11に、明色部111と暗色部112を縞状となるように設けたものである。この明色部111と暗色部112の可視光線反射率の差が15〜90%となることが肝要であり、この反射率の差を満たすことにより、標識用として優れた視認性を発揮する。明色部111と暗色部112の可視光線反射率の差は、45〜90%であることがより好ましい。このときの明色部111の可視光線反射率が20〜90%、暗色部112の可視光線反射率が0〜50%であることが好ましい。
【0015】
明色部111は、明色糸(A)と交織糸(C)から織成され、暗色部112は暗色糸(B)と交織糸(C)から織成される。本発明では、図2〜図4に示したように、複数の明色糸(A)からなる群と、複数の暗色糸(B)からなる群を交互に配置し縞状のパターンを形成する。明色糸(A)と暗色糸(B)は同一方向に配置され、交織糸は明色糸(A)と暗色糸(B)に交わるように配置される。図2〜図4の例では明色糸(A)及び暗色糸(B)を経糸とし、交織糸(C)を緯糸に使用している。明色糸(A)と暗色糸(B)は、30〜500mmの間隔で縞状に配置することが好ましく、60〜300mmの間隔とするとより好ましい。30mmより小さい間隔で配置すると、遠くから観た時に明色糸と暗色糸が混ざったような色合い見えてしまい視認性に優れない。また、500mmよりも大きい間隔で配置すると、明色糸又は暗色糸のいずれか一方しか見えなくなる場合があり、視認性に優れないものとなってしまう。後述の明色交織糸(C1)と暗色交織糸(C2)を縞状に配置する場合の明色交織糸(C1)と暗色交織糸(C2)の間隔も上記と同様とすることが好ましい。
【0016】
本発明の標識用土嚢1の胴部11は、充填物の表面被覆率が95〜100%となるように構成する。これにより、標識用土嚢1に充填した充填物が漏れ出さないようにし、漏れ出した充填物で標識用土嚢の視認性が損なわれないようにする。被覆率が95%未満の場合、充填する土砂等の粒径が小さいと、漏れ出してしまうおそれがある。充填物の表面被覆率は次式で算出される。
被覆率=100−(((25.4−W×D)×(25.4−W×D))÷(25.4×25.4))×100
ただし、Wは経糸幅(mm)であり、Wは緯糸幅(mm)であり、Dは経糸の織成密度(本/25.4mm)であり、Dは緯糸の織成密度(本/25.4mm)である。また、被覆率が100%を超える場合は、被覆率は100%とみなす。
【0017】
上記の式で求められる被覆率は100%であっても、実際には糸の撚れや、充填物を充填した時の膨らみや、充填物の偏りによって、織物に若干の空隙ができる。そのため、降雨等で水が土嚢の中に入ったときでも、土嚢内部に大量の水が溜まるようなことはない。したがって、織物の大半にフィルム等を積層したり、塗料やラテックス等を塗布するなどしない限り、土嚢内部に溜まった水によって土嚢が不安定になって倒れるおそれはない。ただし、織物の目付け重量(m当たりの重量)が大きくなりすぎると糸の動きが大きく制限され土嚢内部に溜まった水が抜けにくくなる場合があるため、目付け重量としては100〜500g/mに保つことが好ましい。
【0018】
胴部11は明色糸(A)、暗色糸(B)及び交織糸(C)を用いて織成した織物である。胴部11には、平織、斜文織、絡み織、模紗織、朱子織など種々の織組織が使用できる。安価で、高強度で、しかも加工性がよく、かつ、土嚢の充填物が漏れないようにするためには、被覆率を高くし、小さい織成密度で、目を詰めて織成することが好ましい。そのためには、繊度は300〜3,000dtexとし、テープ幅(糸幅)1〜10mm程度のフラットヤーンを用いて、8〜30本/25.4mmの織成密度で平織、斜文織、又は朱子織に織成することが好ましい。
【0019】
上述のように明色糸(A)と、交織糸(C)で明色部111を織成し、暗色糸(B)と交織糸(C)で暗色部112を織成する。明色部111と暗色部112の可視光線反射率の差を15〜90%とするためには、明色糸(A)は、可視光線(400〜800nm)の吸収を低く抑えて、暗色糸(B)は、可視光線の吸収が大きくなるようにする必要がある。具体的には、明色糸(A)の可視光線吸収率は0〜40%であることが好ましく、暗色糸(B)の可視光線吸収率は30〜100%であることが好ましい。
【0020】
明色糸(A)は、全く着色をしないか、公知の有機顔料及び/又は無機顔料を添加して、可視光線の吸収率が低くなるように任意の色に着色する。上述の通り、好適な可視光線吸収率は、0〜40%である。この範囲を超えて吸収率が高くなると、暗色糸(B)との可視光線吸収率の差が小さくなり、織物にしたときの視認性が劣る。明色糸(A)に用いられる好適な顔料としては、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、黄色酸化鉄、チタンイエロー等の可視光線の吸収率が低い無機顔料が挙げられる。明色糸(A)は、これらの顔料を添加した状態で延伸を行い、糸自身の可視光線の反射率を高めておくことが好ましい。明色糸(A)の色合いとしては、可視光線の吸収率が低ければ何色であってもよいが、白色又は黄色を呈することが好ましい。
【0021】
暗色糸(B)は、公知の有機顔料及び/又は無機顔料を添加して、可視光線の吸収率が高くなるように任意の色に着色する。上述の通り、好適な可視光線吸収率は、30〜100%である。このとき、明色糸(A)との吸収率の差をなるべく大きくする方が織物にしたときの視認性を高めるうえで好ましい。具体的には、明色糸(A)と暗色糸(B)の可視光線吸収率の差を10〜100%とすることが好ましい。暗色糸(B)に用いられる好適な顔料としては、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ペリレンレッド、ペリレンブラック、縮合アゾレッド、縮合アゾイエロー、アンスラキノンレッド、キナクドリンレッド、ジオキサジンバイオレット、アルミニウム粉、黒色酸化鉄、カーボンブラック等であり、これらの顔料を一種又は複数種を組み合わせて使用して着色する。中でもカーボンブラックを用いることが可視光線吸収率を高めるうえで好ましい。暗色糸(B)の色合いに特に制約はないが、黒色又はそれに近い色が好ましい。
【0022】
交織糸(C)の着色については、特に限定されず、明色糸(A)又は暗色糸(B)と同じであっても構わない。例えば、図5に示したように、明色交織糸(C1)と暗色交織糸(C2)のように着色が異なる二種類以上の糸を用いても構わない。交織糸(C)を一種類の糸で構成するならば、明色糸(A)の方が光を透過しやすいことや、夜間に視認しやすくすることを考慮すると、可視光線吸収率が低く、かつ、可視光線反射率が高いものが好ましい。すなわち、交織糸(C)を一種類の糸で構成する場合は、図2及び図4に示した例のように、交織糸(C)は明色糸(A)と同様の着色を行い、可視光線吸収率を0〜40%とすることが好ましい。交織糸を二種類の糸で構成するならば、明色交織糸(C1)は明色糸(A)と同様に可視光線吸収率が0〜40%となるよう着色を行い、暗色交織糸(C2)は暗色糸(B)と同様に可視光線吸収率が30〜100%となるよう着色を行うことが好ましい。
【0023】
上述のように、本発明では、明色糸(A)及び暗色糸(B)で胴部11を織成し、明色部111と暗色部112の可視光線反射率に差をつける。明色部111と暗色部112の可視光線反射率の差をより大きくする場合は、交織糸(C)の糸幅を小さくする方法、交織糸(C)の織成密度を小さくする方法、斜文織や朱子織等を用いて明色部111において明色糸(A)を多く露出させ、暗色部112において暗色糸(B)を表面に多く露出させる方法、明色交織糸(C1)と暗色交織糸(C2)の二種類を使用し、縞状に配置した明色糸(A)と暗色糸(B)に交わるように明色交織糸(C1)と暗色交織糸(C2)を縞状に配置し、明色部111を明色糸(A)と明色交織糸(C1)で織成し、暗色部112を暗色糸(B)と暗色交織糸(C2)で織成する方法等により、可視光線反射率により大きな差をつけることができる。
【0024】
明色糸(A)、暗色糸(B)、及び交織糸(C)の構成については、特に限定されず、フラットヤーン、モノフィラメント、マルチフィラメント、スパン糸等を用いることができる。必要に応じて、開繊や撚り等の加工を行っても構わない。小さい織成密度であっても、高強度で、充填物が漏れない程度に密に目を詰めることができるため、フラットヤーンを用いることが好ましい。
【0025】
明色糸(A)、暗色糸(B)、及び交織糸(C)の素材も特に限定されず、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル等が使用できる。その中でも、汎用性、軽量性の観点からポリオレフィンが好ましく、特に高密度ポリエチレン、ポリプロピレンが強度を得られやすいため好ましい。ポリプロピレンは形態保持性にも優れるため、最も好適な素材である。
【0026】
明色糸(A)、暗色糸(B)、及び交織糸(C)は、それぞれ必要に応じて着色する。顔料の塗布や、染色によって糸を着色しても良いが、糸を構成する樹脂に顔料を添加する方法(いわゆる原着)により着色すると、安価で、耐候性、摩擦等に対する耐久性が良く、長期に渡って着色することができる。
【0027】
本発明の標識用土嚢1は、視認性を考慮して、大型にすることが好ましい。土嚢の大きさとしては、胴部の高さが50〜150cmであることが好ましい。土嚢の容量としては、250〜2,000リットルであることが好ましい。胴部11の高さを大きくすることで、通行人や車両を運転者が明色部111と暗色部112を備えた胴部11を視認しやすくなる。
【0028】
標識用土嚢1を大型とした場合は、重機等による取り扱いを容易にするために、吊下げベルト2を設けることが好ましい。吊下げベルト2が、胴部11の視認性を損なわないように、吊下げベルト2は明色又は暗色とし、明色部111及び暗色部112と平行方向に配置させることが好ましい。吊下げベルト2としては、モノフィラメント又はフラットヤーンを長さ方向に用いて織成した幅80〜200mm程度の帯状の織物が好適に用いられる。吊下げベルト2の取り付け方は特に限定されないが、底部12の対角位置4ヶ所から垂直に吊下げベルト2を延ばして胴部11に沿わせて、胴部11及び底部12で縫着し、胴部11の上方にU字状の吊り下げ部21を形成することが好ましい。
【0029】
夜間において通行人や車両の運転者の目を引きやすくするために、帯状の夜光反射材3を胴部11に配することが好ましい。ここでいう夜行反射材とは、再帰反射性(ガラスビーズやプリズム等を使用して、入射光を光源に戻すもの)、蓄光性(酸化亜鉛やアルミン酸ストロンチウム等を用いた光を蓄えて発光するもの)、又は蛍光性(放射線等の励起により発光するもの)の性質を有する材料を指す。これらのうちから、一種類又は複数種類を組み合わせたものでもよい。中でも、再帰反射性の夜光反射材は遠方からの視認性に優れるので好ましい。耐候性、透水性、強度、及びコスト等を考慮し、帯状の夜光反射材3を胴部11と別に作っておいて、胴部11に縫製等により取付けることが好ましい。胴部11に取り付けるにあたっては、幅1〜15cmの帯状にし、交織糸(C)と平行方向に、特に胴部11の中央から上の高さに配置することが好ましい。このようにすると、通行人や車両の運転者の目線に近づくとともに、夜光反射材が明色部111及び暗色部112の両方に掛かることで胴部11が縞模様であることが通行人や車両の運転者に伝わりやすくなり、夜間であっても、より高い視認性が得られる。また、これにより、土嚢の大きさを通行人や車両の運転者に伝えることができる。
【0030】
明色糸(A)、暗色糸(B)、及び交織糸(C)には、糸と顔料の耐候性を向上するために、光安定剤及び/又は紫外線吸収剤を添加することが好ましい。光安定剤は、主に糸自身の耐候性向上に用いられ、ベンゾエート系、ヒンダードアミン系の従来公知の光安定剤を用いることができる。光安定剤は、0.005〜2重量%の割合で添加することが好ましい。紫外線吸収剤は、主に顔料の耐候性向上に用いられ、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系等の従来公知の紫外線吸収剤を用いることができる。紫外線吸収剤は0.005〜2重量%添加することが好ましい。また、カーボンブラックや、酸化チタン等の紫外線吸収領域を持つ無機顔料を紫外線吸収剤として加えてもよい。その他の添加剤として、その性能を損ねない範囲で、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、結晶核剤、可塑剤等を添加しても構わない。胴部11と同様に、延設部14及び底部12、夜光反射材3、吊りベルト2等のその他の部分にも耐候剤を添加することが好ましい。また、性能を損ねない範囲で、その他の部分に、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、結晶核剤、顔料、可塑剤等を添加しても構わない。
【0031】
本発明は、所定間隔で規則正しく明色糸(A)と暗色糸(B)を縞状に配置して、明色部111と暗色部112を設けている。そのため、明暗の差が視認しやすく土嚢を設置する背景の色(例えば、山肌、コンクリート、道路等)に馴染みにくい。明色部111は、明色糸(A)及び/又は交織糸(C)自身の反射や、明色糸(A)及び/又は交織糸(C)の折れ重なりにより光を屈折させることによって、光を反射するので、夜間であっても視認しやすい。また、暗色糸(B)によって、暗色部112全体の可視光線の反射を抑えるので、昼間に強い光が土嚢に当たるなどしても、コンクリート等の白色の背景に馴染みにくい。
【実施例】
【0032】
次に実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0033】
[明色糸、暗色糸、及び交織糸の作製]
明色糸(A)、暗色糸(B)及び交織糸(C)として用いるFY1ないしFY5の5種類のフラットヤーンを次のように作製した。まず、密度0.91g/cm、MFR3.0g/10min(230℃、2,160g荷重)のポリプロピレンに、顔料及び光安定剤(ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート)を添加して混合した。この樹脂組成物をインフレーション成形し、10mm幅にスリットした。スリットされたテープを熱板を用いて一軸方向に延伸倍率6倍で延伸して、繊度1300dt、テープ幅4mmのフラットヤーンとした。FY1のフラットヤーンは、上記の顔料として酸化チタン及びモノアゾイエローを用いたものであって、黄色を呈する。FY2のフラットヤーンは、上記の顔料としてカーボンブラックを用いたものであって、黒色を呈する。FY3のフラットヤーンは、顔料として酸化チタンを用いたものであって、白色を呈する。FY4のフラットヤーンは、顔料としてフタロシアニンブルーを用いたものであって、青色を呈する。FY5のフラットヤーンは、顔料としてペリレンレッドを用いたものであって、赤色を呈する。
【0034】
[可視光線反射率、可視光線透過率及び可視光線吸収率の測定]
上記手順で得られたFY1ないしFY5のフラットヤーンを糸の幅方向に糸が重ならないように隙間なく並べて、糸の長手方向の両端を粘着テープで固定して、3cm角の試験片を作製した。FY1ないしFY5の各試験片について、島津社製の分光光度計UV3100PCを使用して400〜800nmの反射スペクトル及び透過スペクトルを測定した。400〜800nmのスペクトルを平均化して、平均反射率と平均透過率を算出した。ここで、平均反射率及び平均透過率の測定では、積分球を使用した状態で測定した。また、平均反射率の算出においては、硫酸バリウムの標準白板の反射率を100%として平均反射率を求めた。なお、吸収率は吸収率=100−(反射率+透過率)として計算し、平均化した。結果を表1に記す。
【0035】
【表1】

【0036】
[実施例1]
明色糸(A)として、表1の黄色のフラットヤーン(FY1)を使用し、暗色糸(B)として表1の黒色のフラットヤーン(FY2)を使用し、交織糸(C)として表1の黄色のフラットヤーン(FY1)を使用して、織機を用いて平織りの胴部用織物を作製した。図2に示したように、FY1からなる明色糸(A)及びFY2からなる暗色糸(B)を経糸とし、FY1からなる交織糸(C)を緯糸とした。明色糸(A)及び暗色糸(B)は100mm間隔で交互に配置した。織成密度は、経14本/25.4mm、緯14本/25.4mmとし、被覆率は100%とし、目付け重量150g/mとした。胴部用織物の経糸である明色糸(A)及び暗色糸(B)が土嚢の鉛直方向に沿うように配置して、直径1,100mm、高さ1,060mmの円筒形に仕立てた。土嚢の容量は約1,000リットルである。
【0037】
表1のFY2(黒色)を経糸及び緯糸に使用した平織りの織物を作製し、この織物を円筒形の胴部に対応する円形に裁断して土嚢の底部とした。織成密度は経14本/25.4mmとし、緯14本/25.4mmとした。胴部の上端には、胴部と同径の円筒形の延設部を設け、延設部の上端の開口を注排口とした。延設部には、密度0.91g/cm、MFR8.0g/10min(230℃、2160g荷重)のポリプロピレンを押出しラミネートで積層した積層体を使用した。延設部の織物には表1のFY2(黒色)を経糸及び緯糸に使用した平織りの織物を使用した。ポリプロピレン層の厚さは30μmとし、織成密度は経8本/25.4mmとし、緯8本/25.4mmとした。
【0038】
土嚢の胴部の暗色部に沿って吊りベルトを縫着した。吊りベルトは土嚢の左右に1本ずつ縫着し、胴部の上方に一対のU字状の吊下げ部を設けた。吊りベルトには、黒色のポリプロピレン製のモノフィラメントヤーン(繊度6,000dt)を経糸とし、黒色のポリプリピレン製のマルチフィラメントを緯糸に使用して織成した織物を使用した。織成密度は、経20本/25.4mmとし、緯15本/25.4mmとした。
【0039】
土嚢の胴部に市販の再帰反射性の夜光テープを縫着した。夜行テープは幅30mm、長さ400mmに切断し、土嚢の底部から垂直方向に600mmの位置にて胴周方向(交織糸と平行方向)に縫い付けた。
【0040】
[実施例2]
胴部の交織糸(C)を、黒色のフラットヤーン(表1のFY2)とした以外は実施例1と同様にして、標識用土嚢を作製した。
【0041】
[実施例3]
胴部の明色糸(A)及び交織糸(C)を、白色のフラットヤーン(表1のFY3)とした以外は実施例1と同様にして、標識用土嚢を作製した。
【0042】
[実施例4]
胴部の明色糸(A)及び交織糸(C)を、白色のフラットヤーン(表1のFY3)とし、組織を斜文織とした以外は実施例1と同様にして、標識用土嚢を作製した。図3に示すように明色部111においては、明色糸(A)が2/3を占める割合で露出し、暗色部112においては、暗色糸(B)が2/3を占める割合で露出する。
【0043】
[実施例5]
胴部の明色糸(A)を、白色のフラットヤーン(表1のFY3)とし、交織糸(C)を2種類使用して平織りとした以外は実施例1と同様にして、標識用土嚢を作製した。交織糸の一方は明色交織糸(C1)とし、他方は暗色交織糸(C2)を使用する。本実施例では、図4に示したように、明色交織糸(C1)は、白色のフラットヤーン(表1のFY3)とし、暗色交織糸(C2)は、黒色のフラットヤーン(表1のFY2)とした。明色交織糸(C1)と暗色交織糸(C2)は150mm間隔で交互に配置して縞状にした。
【0044】
[比較例1]
胴部の明色糸(A)及び交織糸(C)を、青色のフラットヤーン(表1のFY4)とした以外は実施例1と同様にして、標識用土嚢を作製した。
【0045】
[比較例2]
胴部の明色糸(A)及び交織糸(C)を、赤色のフラットヤーン(表1のFY5)とした以外は実施例1と同様にして、標識用土嚢を作製した。
【0046】
[比較例3]
胴部の明色糸(A)及び交織糸(C)を、青色のフラットヤーン(表1のFY4)とし、暗色糸(B)を赤色のフラットヤーン(表1のFY5)とした以外は実施例1と同様にして、標識用土嚢を作製した。
【0047】
[比較例4]
胴部の明色糸(A)及び交織糸(C)を、黒色のフラットヤーン(表1のFY2)とした以外は実施例1と同様にして、標識用土嚢を作製した。
【0048】
実施例1ないし実施例5の標識用土嚢、及び比較例1ないし比較例4の標識用土嚢について、明色部と暗色部の可視光線反射率の測定及び明色部と暗色部の可視光線反射率の差の算出を行った。また、実施例1ないし実施例5の標識用土嚢、及び比較例1ないし比較例4の標識用土嚢について、視認性の官能評価を行った。結果を表2に示す。
【0049】
明色部と暗色部の可視光線反射率の測定は、胴部の明色部と、暗色部から3cm角の試験片を切り抜き、この試験片について、分光光度計を用いて、可視光線反射率を測定した。明色部の可視光線反射率から暗色部の可視光線反射率を除して明色部と暗色部の可視光線反射率の差を算出した。測定方法は、上述した明色糸(A)等の可視光線反射率の測定方法と同様である。
【0050】
視認性の官能評価は、以下の方法で行った。土嚢の胴部の織物を1m角に切り抜き、ベニヤ板に貼り付けた。このベニヤ板をアスファルトの道路を挟んで、10m離れた位置にから目視し、以下の基準で視認性を官能評価した。評価は、夜間に行った。照度は0.3Lxであった。
◎:全容が確認できる。
○:ほぼ全容が確認できる。
△:やや見にくいが、確認できる。
×:ほとんど見えない。
【0051】
【表2】

【0052】
表2に示されるように、明色部、暗色部の反射率の差が大きいものが、夜間の視認性が良好であることが確認された。実施例1の土嚢と、比較例4の土嚢を実際にアスファルトの路上に並べて比較してみたところ、比較例4の土嚢はアスファルトの色に馴染んでしまい遠くからでは認識しづらかった。実施例1の土嚢は遠くからでも認識しやすかった。また、実施例1の土嚢と、比較例4の土嚢を同様に夜間において比較したところ、双方共に、夜光反射材を備えているので、かなり遠くからでも何かあるということはすぐに分かる状態であった。実施例1の土嚢は、ある程度距離がある状態でもそれが土嚢であることが認識でき、ある程度の大きさも分かる状態であった。しかし、比較例4の土嚢については、それが土嚢であることはかなり近寄らなければ分からない状態であった。
【符号の説明】
【0053】
1 標識用土嚢
11 胴部
111 明色部
112 暗色部
12 底部
13 注排口
14 延設部
2 吊下げベルト
21 吊下げ部
3 夜光反射材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の胴部と、該胴部の底面となる底部と、充填物の注排口とを有する土嚢において、
前記胴部は、縞状に配置される明色糸(A)及び暗色糸(B)と、明色糸(A)及び暗色糸(B)に交差する方向に配置される交織糸(C)とから織成される織物からなり、前記胴部は前記明色糸(A)と交織糸(C)とから織成される明色部と、前記暗色糸(B)と交織糸(C)とから織成される暗色部とを備え、明色部と暗色部の可視光線反射率の差が15〜90%であり、
胴部を構成する織物は、充填物の表面被覆率が95〜100%であることを特徴とする標識用土嚢。
【請求項2】
明色糸(A)の可視光線吸収率が0〜40%、暗色糸(B)の可視光線吸収率が30〜100%である請求項1に記載の標識用土嚢。
【請求項3】
交織糸(C)の可視光線吸収率が0〜40%である請求項1又は2のいずれかに記載の標識用土嚢。
【請求項4】
明色部の可視光線反射率が20〜90%、暗色部の可視光線反射率が0〜50%である請求項1〜3のいずれかに記載の標識用土嚢。
【請求項5】
明色糸(A)、暗色糸(B)及び交織糸(C)がフラットヤーンである請求項1〜4のいずれかに記載の標識用土嚢。
【請求項6】
容量が250リットル以上である請求項1〜5のいずれかに記載の標識用土嚢。
【請求項7】
胴部に、明色部及び暗色部と平行方向に吊りベルトが縫着されてなる請求項1〜6のいずれかに記載の標識用土嚢。
【請求項8】
胴部に、夜光性反射材を備えてなる請求項1〜7のいずれかに記載の標識用土嚢。
【請求項9】
胴部は斜文織又は朱子織で織成される織物であって、明色部では暗色糸(B)よりも明色糸(A)が多く表面に露出し、暗色部では明色糸(A)よりも暗色糸(B)が多く表面に露出する請求項1〜8のいずれかに記載の標識用土嚢。
【請求項10】
交織糸(C)は、縞状に配置される明色交織糸(C1)と暗色交織糸(C2)とからなり、
明色部は、明色糸(A)と、明色糸(A)に交差する方向に配置される明色交織糸(C1)及び暗色交織糸(C2)とから織成され、
暗色部は、暗色糸(B)と、暗色糸(B)に交差するように配置される明色交織糸(C1)及び暗色交織糸(C2)とから織成される請求項1〜8のいずれかに記載の標識用土嚢。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−60736(P2013−60736A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199263(P2011−199263)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.カラーコーン
【出願人】(000234122)萩原工業株式会社 (47)
【Fターム(参考)】