説明

横型工作機械

【課題】主軸の振り回しを安定させた上で、空間精度を補正して、大幅な精度向上が可能な横型工作機械を提供する。
【解決手段】横型工作機械10に、ラム17のたわみを補正するラムテンションバー20と、サドル16を吊り上げる2箇所の吊り力を調整して、サドル16の傾きを補正する吊り力補正機構30と、コラム14の曲がりを補正するコラムテンションバー40と、ラムテンションバー20、吊り力補正機構30及びコラムテンションバー40を制御すると共に、数値制御により空間精度を補正する空間精度補正機能を有する制御装置とを設け、制御装置により、ラムテンションバー20、吊り力補正機構30及びコラムテンションバー40を用いて、主軸18の先端の振り回しのみを補正すると共に、ベッド11の沈み込みによる空間精度の悪化を、空間精度補正機能を用いて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横中繰り盤等の横型工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを加工する工作機械の1つとして、横中繰り盤等の横型工作機械が従来技術として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−216319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図10に、従来の横型工作機械を示し、その概略を説明する。
横型工作機械50は、ベッド51のガイド52上に水平方向(X方向)に移動可能にコラムベース53が設けられ、コラムベース53上にコラム54が立設されている。コラム54の1つの側面にはガイド55が設けられており、ガイド55上に鉛直方向(Y方向)に移動可能にサドル56が支持されており、このサドル56には、水平方向(Z方向)に移動可能にラム57が支持されている。ラム57は、主軸58を有しており、主軸58の先端に取り付けた工具を用いて、加工対象のワークに加工を行うことになる。加工を行う際には、コラムベース53、サドル56、ラム57を、各々、前後方向、上下方向、左右方向に移動させながら、所望の加工を行うことになる。
【0005】
次に、図10を参照して、横型工作機械50の問題点を説明する。
横型工作機械50においては、ラム57を繰り出したとき(例えば、Z=0の位置からZ=Lの位置へ繰り出したとき;Lはラム57の最大繰り出し量)、ラム57の自重によって生じるラム57のたわみ(図10中のB1)と、このときの重心変化(G(0)→G(L))によるモーメント変化によって生じるサドル56の傾き(図10中のB2)、コラム54の傾き(図10中のB3)、ベッド51の傾き(図10中のB4)及びジャッキの傾き(図示省略)とが発生し、加工精度が悪化する問題がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、主軸の振り回しを安定させた上で、空間精度を補正して、大幅な加工精度の向上が可能な横型工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する第1の発明に係る横型工作機械は、
ベッド上に水平方向移動可能に設けられたコラムと、前記コラムの側面に鉛直方向移動可能に支持されたサドルと、前記サドルに水平方向移動可能に保持され、先端に主軸が設けられたラムとを有する横型工作機械において、
前記ラムのたわみを補正するラムテンションバーと、
前記サドルを吊り上げる2箇所の吊り力を調整して、前記サドルの傾きを補正する吊り力補正機構と、
前記コラムの曲がりを補正するコラムテンションバーと、
前記ラムテンションバー、前記吊り力補正機構及び前記コラムテンションバーを制御すると共に、数値制御により空間精度を補正する空間精度補正機能を有する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記ラムテンションバー、前記吊り力補正機構及び前記コラムテンションバーを用いて、前記主軸先端の振り回しのみを補正すると共に、
前記ベッドの沈み込みによる空間精度の悪化を、前記空間精度補正機能を用いて補正することを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決する第2の発明に係る横型工作機械は、
上記第1の発明に記載の横型工作機械において、
前記コラムテンションバーを、前記サドルが支持された前記コラムの側面の反対側の側面の方に2本設けたことを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決する第3の発明に係る横型工作機械は、
上記第2の発明に記載の横型工作機械において、
前記コラムテンションバーを、前記コラムの断面2次モーメントの中心に対し、2つの前記吊り力による荷重がかかる2箇所の荷重中心と点対称となる位置に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、横型工作機械において、ラムテンションバー、吊り力補正機構、コラムテンションバーによる補正を、主軸先端の振り回しの安定のためのみに使用すると共に、主軸先端の振り回しを安定させた上で、空間精度については、数値制御(NC)による空間精度補正を用いて補正しているので、主軸振り回しの安定性と空間精度の向上を両立させ、その結果、大幅な加工精度の向上が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る横型工作機械の実施形態の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示した横型工作機械におけるラムテンションバーを説明する図である。
【図3】図1に示した横型工作機械において、サドルの吊り力補正とサドルの吊り力補正時にコラムに加わる力を説明する図である。
【図4】図1に示した横型工作機械におけるコラムテンションバーを説明する上面図である。
【図5】図4に示したコラムのA−A線矢視断面図である。
【図6】図1に示した横型工作機械において、ラムを繰り出したときの補正後のラムのたわみ量を示すグラフである。
【図7】図1に示した横型工作機械において、ラムを繰り出したときの補正後の主軸振り回し変化を示すグラフである。
【図8】図1に示した横型工作機械におけるY真直度(Y−Z直角度)の変化を示すグラフであり、(a)は補正前、(b)は補正後を示すグラフである。
【図9】コラムテンションバーの有無によるY摺動面曲がりを示すグラフである。
【図10】従来の横型工作機械における問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1〜図9を参照して、本発明に係る横型工作機械の実施形態について説明する。
【0013】
(実施例1)
図1に示す横型工作機械10は、ベッド11のガイド12上に水平方向(X方向)に移動可能にコラムベース13が設けられ、コラムベース13上にコラム14が立設されている。コラム14の1つの側面にはガイド15が設けられており、ガイド15上に鉛直方向(Y方向)に移動可能にサドル16が支持されており、このサドル16には、水平方向(Z方向)に移動可能にラム17が保持されている。ラム17は、主軸18を有しており、主軸18の先端に取り付けた工具を用いて、加工対象のワークに加工を行うことになる。加工を行う際には、コラムベース13、サドル16、ラム17を、各々、前後方向、上下方向、左右方向に移動させながら、所望の加工を行うことになる。
【0014】
前述したように、横型工作機械には、(B1)自重によるラム17のたわみ、(B2)重心変化によるサドル16の傾き(回転)、(B3)重心変化によるコラム14の傾き(曲がり)、(B4)重心変化によるベッド11(以降、ジャッキも含む)の傾き(沈み込み)が発生し、加工精度が悪化する問題がある。
【0015】
そこで、横型工作機械10においては、図1、図2に示すように、ラム17の内部(ラム17の中心線より上側)に、ラム17の繰り出し方向(Z方向)に沿って、ラムテンションバー20を設けている。このラムテンションバー20は、ラム17の長手方向に配置した円筒状のロッド21と、ラム17の後端部に配置されたシリンダ部22と、ラム17の先端部に配置されたストッパ23からなる。そして、横型工作機械10の制御装置(図示省略)を用いて、ラム17の繰り出し時に、シリンダ部22に油圧を供給することにより、シリンダ部22とストッパ23によりラム17の両端に引張力FPを付与し、この引張力FPでラム17の両端を内側に引っ張ることにより、ラム17の先端に曲げモーメントを発生させ、この曲げモーメントによりラム17の自重によるたわみを補正している。
【0016】
又、横型工作機械10においては、ラム17を繰り出した際に、サドル16の吊り力を補正する吊り力補正機構30を設けている。具体的には、図1、図3に示すように、サドル16の上部において、Z方向に沿う2箇所の吊り部31a、31bをワイヤ32a、32bで吊り上げており、ワイヤ32a、32bは、コラム14の上部に設けられた滑車33a、33bに掛け渡されて、コラム14の内部に配置したカウンタウェイト34に接続されている。そして、一方のワイヤ32aは、シリンダ35を介して、吊り部31aと接続されており、制御装置を用いて、このシリンダ35を制御することにより、吊り部31aにおける吊り力FSaと吊り部31bにおける吊り力FSbとを補正している。
【0017】
例えば、図3に示すように、ラム17がZ=0の位置であるとき、サドル16及びラム17の重心位置がG(0)に位置にあるので、この場合、各吊り力FSa、FSbが、FSa(0)<FSb(0)となるように(黒塗り矢印参照)、シリンダ35を制御することにより、サドル16の傾き(回転)を抑制している。
【0018】
一方、ラム17がZ=Lの位置であるとき(Lはラム17の最大繰り出し量;例えば、1m程度)、サドル16及びラム17の重心位置がG(L)に位置にあるので、この場合、各吊り力FSa、FSbが、FSa(L)>FSb(L)となるように(白抜き矢印参照)、シリンダ35を制御することにより、サドル16の傾き(回転)を抑制している。
【0019】
このように、ラム17の移動に伴う重心G(0)→G(L)の移動に応じて、サドル16の2箇所の吊り力FSa、FSbを調整しており、これにより、サドル16に発生するモーメント変化をキャンセルし、サドル16の水平を保っている。この結果、サドル16の傾き(回転)を抑制し、その摺動面での局所変形を防止することになる。
【0020】
一方、上述した吊り力FSa、FSbの補正を行うと、ワイヤ32a、32bに加わる力も変化し、滑車33a、33bを介してコラム14上部に伝わる力も変化する。これを、図3、図4を参照して説明する。
【0021】
例えば、図3に示すように、ラム17がZ=0の位置であるときには、前述したように、FSa(0)<FSb(0)となるように、シリンダ35が制御される。通常、カウンタウェイト34は、サドル16及びラム17の重量と釣り合う重量(同じ重量)となっている。そして、横型工作機械10では、ラム17のZ位置に応じて、吊り力FSa、FSbを補正しているので、その荷重がかかる荷重中心41a、41b(サドル16、ラム17及びカウンタウェイト34による荷重中心)には、各々FSa(0)、FSb(0)の2倍の荷重がかかり、その荷重FLa、FLbは、FLa(0)<FLb(0)となる(黒塗り矢印参照)。
【0022】
一方、ラム17がZ=Lの位置であるとき、前述したように、FSa(L)>FSb(L)となるように、シリンダ35が制御されるので、荷重中心41a、41bには、各々FSa(L)、FSb(L)の2倍の荷重がかかり、その荷重FLa、FLbは、FLa(L)>FLb(L)となる(白抜き矢印参照)。
【0023】
このように、吊り力FSa、FSbの補正に伴い、荷重中心41a、41bにかかる荷重FSa、FSbが変化し、その結果、コラム14の上部に曲げモーメントが加わり、コラム14の傾き(曲がり)、ベッドの傾き(沈み込み)が発生する。そこで、吊り力FSa、FSbの変化によって発生するモーメントを相殺して、コラム14の曲がりを補正するため、横型工作機械10においては、サドル16、ラム17が配置されたコラム14の側面とは反対側の側面の方(背部側)に、2つのコラムテンションバー40(40a、40b)を設けている。より具体的には、コラム14の断面2次モーメントの中心42に対し、荷重中心41a、41bの点対称位置に、コラムテンションバー40a、40bを配置している。
【0024】
コラムテンションバー40aは、図5の断面図に示すように、コラム14の内部に、コラム14の高さ方向に沿って設けられている。具体的には、ラムテンションバー20と同様の構成であり、コラム14の長手方向に配置した円筒状のロッド43aと、コラム14の底部に配置されたストッパ44aと、コラム14の上部に配置されたシリンダ部45aとからなる。そして、シリンダ部45aの油室46aに油圧を供給することにより、ストッパ44aとシリンダ部45aによりコラム14の上下端に引張力FQaを付与し、この引張力FQaでコラム14の上下端を内側に引っ張るようにしている。
【0025】
コラムテンションバー40bも同様の構成であり、その上下端を引張力FQbで内側に引っ張るようにしている。そして、制御装置を用いて、コラムテンションバー40aによる引張力FQaとコラムテンションバー40bによる引張力FQbを制御することにより、コラム14に曲げモーメントを発生させ、この曲げモーメントによりコラム14の曲がりを補正している。
【0026】
例えば、図3に示すように、ラム17がZ=0の位置であるときには、前述したように、FSa(0)<FSb(0)となるように、シリンダ35が制御され、そして、荷重中心41a、41bには、FLa(0)<FLb(0)となる荷重がかかる。このとき、コラムテンションバー40a、40bには、FQa(0)<FQb(0)となるように、引張力を制御することで、コラム14の曲がりを補正している。
【0027】
一方、ラム17がZ=Lの位置であるとき、前述したように、FSa(L)>FSb(L)となるように、シリンダ35が制御される、そして、荷重中心41a、41bには、FLa(L)>FLb(L)となる荷重がかかる。このとき、コラムテンションバー40a、40bには、FQa(L)>FQb(L)となるように、引張力を制御することで、コラム14の曲がりを補正している。
【0028】
上記の2つのコラムテンションバー40a、40bによる効果を確認するため、ラム17がZ=0のとき、ラム17がZ=Lのときについて、力学的に算出した引張力FQa、FQbを、FEM(有限要素法)モデルに加えて解析を行ったところ、モーメント変化によるコラム14の曲がりは殆ど無く、ラム17がZ=Lの位置であっても、12μm程度のたわみであり、非常に精度良く補正できることが確認できた(後述の図9のY=Hの位置参照)。
【0029】
上述した構成、即ち、ラムテンションバー20、吊り力補正機構30、コラムテンションバー40a、40bを用いて、(B1)自重によるラム17のたわみ、(B2)重心変化によるサドル16の傾き(回転)、(B3)重心変化に伴う吊り力の変化よるコラム14の曲がりは補正可能である。
【0030】
ここで、ラム17がZ=0、Y=H(Hはラム17の最大の高さ位置;例えば、5m程度)のとき、ラム17がZ=L、Y=Hのときについて、ラムテンションバー20、吊り力補正機構30、コラムテンションバー40a、40bによる補正を、FEMモデルを用いて、解析してみると、コラム14の曲がりは補正されて、その摺動面(例えば、ガイド15)は略まっすぐになっているが、ベッド11の傾き(沈み込み)により、コラム14の傾きが大きく変化していることが確認できる(後述の図8(a)参照)。
【0031】
つまり、(B4)重心変化によるベッドの傾き(沈み込み)については、上述した構成では補正できていない。但し、上記解析から、ラム17のZ位置に応じて、コラム14の傾きのみが変化することが明らかとなった。このことから、ラム17のZ位置に応じた補正量を用いて、Y軸の真直度を補正すれば、空間精度の補正が可能である。
【0032】
横型工作機械10の制御装置は、NC(数値制御)による空間精度補正機能を有しており、具体的には、この空間精度補正を用いて、予め、Y軸の移動量−Z軸の移動量に応じた補正マップを作成しておき、ラム17のY軸上の位置とラム17の繰り出し量(Z軸の移動量)に基づいて、Z座標を補正しており、これにより、Y軸の真直度変化を補正し、重心変化によるベッドの傾き(沈み込み)を補正し、横型工作機械10の加工精度を向上させている。なお、空間精度補正に用いる式については、後述する図8と共に説明する。
【0033】
なお、一般的に、NCによる空間精度補正では、予め、X軸、Y軸、Z軸の移動量(主軸の位置)に応じた補正マップと、A軸(主軸の傾斜)、C軸(主軸の回転)の移動量(主軸の姿勢)に応じた補正マップとを作成しておき、これらを用いて、主軸に取り付けた工具の先端位置を補正して、その加工精度を向上させている。
【0034】
このようにして、横型工作機械10においては、重心変化によるベッドの傾き(沈み込み)に起因する空間精度の悪化(基準平面に対するY軸の真直度の悪化)を、NCによる空間精度補正を用いて補正している。
【0035】
通常、ラムテンションバー、吊り力補正機構、コラムテンションバーにより各構造体の曲がり(傾き)の補正を行う場合、空間精度と主軸振り回しはトレードオフの関係にあるため、空間精度を優先すると、主軸振り回しが悪化し、主軸振り回しを優先すると、空間精度が悪化する。一方、空間精度補正は、NCの機能として、位置のみを補正しているため、主軸振り回しの補正はできない。
【0036】
そこで、横型工作機械10においては、ラム17の繰り出し時に生じるラム17のたわみをラムテンションバー20で補正し、重心変化によるサドル16の傾きを吊り力補正機構30で補正し、重心変化に伴う吊り力変化によるコラム14の曲がりをコラムテンションバー40a、40bで補正し、これらにより、主軸18先端の振り回しを安定させており、更に、主軸18先端の振り回しを安定させた上で、重心変化によるベッド11の沈み込みを空間精度補正で補正している。以上の構成により、主軸の振り回し、加工精度を常に安定した状態に保ち、横型工作機械10のストローク全域において、大幅な加工精度の向上を図ることができる。
【0037】
上述した構成を有する横型工作機械10の精度について、FEMモデルを用いて、解析した結果が、図6〜図9に示すグラフである。
【0038】
例えば、図6は、ラム17を繰り出した時のラム17のたわみ量を示すグラフである。ここでは、ラム17のY軸位置が、Y=0、Y=0.5H、Y=Hのときの各々について、ラム17の繰り出し量が、Z=0、Z=0.5L、Z=Lのときのたわみ量をFEM解析により求めた。図6に示すように、ラム17のたわみ量の変化は全て略同様の変化傾向を示している。一般的に保証されているラム真直度の精度を100%とすると、図6に示す補正後のたわみ量は、最大のもので55%であり、半分程度の精度を確保できることがわかる。
【0039】
又、図7は、ラム17を繰り出した時の主軸18の振り回しの変化を示すグラフである。ここでも、ラム17のY軸位置が、Y=0、Y=0.5H、Y=Hのときの各々について、ラム17の繰り出し量が、Z=0、Z=0.5L、Z=Lのときの主軸18の振り回しの変化をFEM解析により求めた。図7に示すように、主軸18の振り回しの変化は全て略同様の変化傾向を示している。一般的に保証されている主軸振り回し変化の精度を100%とすると、図7に示す補正後の主軸振り回し変化は、最大のもので42%であり、半分以下の精度を確保できることがわかる。
【0040】
又、図8は、ラム17のZ位置によるY軸の真直度(Y軸−Z軸直角度)を示すグラフであり、図8(a)は補正前、図8(b)は補正後のものである。ここでは、ラム17の繰り出し量が、Z=0、Z=0.5L、Z=Lのときの各々について、Y=0、Y=0.5H、Y=Hの位置におけるコラム14の倒れ(ラム17先端のZ方向変位)をFEM解析により求めた。なお、図8(a)、(b)では、一般的に保証されているコラム倒れの精度を100%とし、これを基準にして横軸を示している。
【0041】
図8(a)に示すように、補正(空間精度補正)を行わない場合(但し、ラムテンションバー20、吊り力補正機構30、コラムテンションバー40a、40bによる補正は行われている。)、ラム17の繰り出し量によって、基準平面(Z軸)に対するY軸の直角度は大きく変化し、繰り出し量に比例して、その傾きが変化しているが、Y軸の真直度自体は良好である。
【0042】
従って、ラム17の繰り出し量zsとY軸座標yに基づき、以下の式を用いて、Z位置の補正量δzを求めている。なお、下記式において、aは補正係数である。
δz=(a×zs)×y
【0043】
図8(b)が、上記式を用いて補正を行った後のグラフである。図8(b)に示すように、補正(空間精度補正)を行うと、Y軸の真直度に加えて、基準平面(Z軸)に対するY軸の直角度も補正されており、その精度は10μm以下であり、一般的に保証されている精度の半分以下の精度を確保できることがわかる。
【0044】
又、図9は、コラムテンションバー40a、40bの有無によるY摺動面曲がり(コラム14の曲がり)を示すグラフである。ここでは、コラムテンションバー40a、40bの有/無の各々の場合について、ラム17の繰り出し量が、Z=0、Z=LのときのZ彷方向変位をFEM解析により求めた。
【0045】
図9に示すように、コラムテンションバーが無い場合、コラム14の上部(Y位置=1.2H)では、Z方向に大きく変化している。これは、サドル16の吊り力補正の影響と考えられる。このように、コラム14が大きく曲がった場合、Y位置の上下において、主軸18の振り回しが変わってしまい、そのため、Y位置、Z位置それぞれの位置において、サドル16の吊り力FSa、FSb、そして、ラムテンションバー20の引張力FPを変えなければならず、補正が難しくなってしまう。
【0046】
一方、コラムテンションバー40a、40bが有る場合、コラム14の上部(Y位置=1.2H)では、コラムテンションバーが無い場合の変化量を100%とすると、Z方向に最大で40%程度変化しているだけであり、コラムテンションバーが無い場合の半分以下となっている。
【0047】
以上の結果より、ラムテンションバー20、吊り力補正機構30、コラムテンションバー40a、40bにより、主軸振り回しの補正を行うと共に、空間精度補正を行うことにより、一般的に保証されている精度の半分程度の数値となる高精度を確保できることが確認でき、その結果、加工精度を向上できることが確認できた。
【0048】
つまり、ラムテンションバー20、吊り力補正機構30、コラムテンションバー40a、40bによる補正を、主軸18先端の振り回しの安定のためのみに使用しており、このようにして、主軸18先端の振り回しを安定させた上で、空間精度については、NCによる空間精度補正を用いて補正することで、主軸振り回しの安定性と空間精度の向上を両立させ、その結果、大幅な精度向上が可能となっている。
【0049】
なお、本実施例の横型工作機械10は、機械自体の重心移動を抑制し、完全バランスを保つためのバランスウェイト(例えば、実開平1−31367号公報参照)を備えていない。そのため、装置自体のコストダウンを図ることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、横型工作機械に好適なものである。
【符号の説明】
【0051】
10 横型工作機械
11 ベッド
14 コラム
16 サドル
17 ラム
18 主軸
20 ラムテンションバー
30 吊り力補正機構
40、40a、40b コラムテンションバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッド上に水平方向移動可能に設けられたコラムと、前記コラムの側面に鉛直方向移動可能に支持されたサドルと、前記サドルに水平方向移動可能に保持され、先端に主軸が設けられたラムとを有する横型工作機械において、
前記ラムのたわみを補正するラムテンションバーと、
前記サドルを吊り上げる2箇所の吊り力を調整して、前記サドルの傾きを補正する吊り力補正機構と、
前記コラムの曲がりを補正するコラムテンションバーと、
前記ラムテンションバー、前記吊り力補正機構及び前記コラムテンションバーを制御すると共に、数値制御により空間精度を補正する空間精度補正機能を有する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記ラムテンションバー、前記吊り力補正機構及び前記コラムテンションバーを用いて、前記主軸先端の振り回しのみを補正すると共に、
前記ベッドの沈み込みによる空間精度の悪化を、前記空間精度補正機能を用いて補正することを特徴とする横型工作機械。
【請求項2】
請求項1に記載の横型工作機械において、
前記コラムテンションバーを、前記サドルが支持された前記コラムの側面の反対側の側面の方に2本設けたことを特徴とする横型工作機械。
【請求項3】
請求項2に記載の横型工作機械において、
前記コラムテンションバーを、前記コラムの断面2次モーメントの中心に対し、2つの前記吊り力による荷重がかかる2箇所の荷重中心と点対称となる位置に配置したことを特徴とする横型工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−131010(P2012−131010A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287332(P2010−287332)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】