説明

樹脂スタンパ

【課題】紫外光(UV)の透過性、成形時の精密転写性、硬化性樹脂組成物層からの離型性、に優れた樹脂スタンパを提供する。
【解決手段】ポリカーボネートポリマーのマトリックス中にポリジオルガノシロキサンドメインが分散した凝集構造であり、該ポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズが5〜40nm、規格化分散が40%以下であるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体より形成された硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UVナノインプリント技術を用いた製品の製造に好適な樹脂スタンパに関する。中でも本発明は、光学多層記録媒体の製造に好適な樹脂スタンパに関する。併せて本発明は、該樹脂スタンパを用いた積層体の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、特定の凝集構造を形成する透明性に優れたポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体から形成された樹脂スタンパであって、紫外光(UV光)の透過性、成形時の精密転写性、硬化性樹脂組成物層からの離型性に優れ、かかる特性に加えて、成形滞留時の安定性、使用後のリサイクル性にも優れた樹脂スタンパを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
高精度なパターン形成を低コストで行うための技術として、ナノインプリント技術が知られている。ナノインプリント技術は、基板上に形成するパターンと凹凸が逆のスタンパを、該基板表面上に形成された硬化性樹脂組成物層に対して型押しすることで、所定のパターンを転写する技術である。特に、硬化性樹脂組成物としてUV硬化性樹脂を用いたUVナノインプリント技術は、加熱が不要であり、室温でのパターン形成が可能であるためパターンの変形が少なく、透明の型を使用することで基板と型の位置合わせが容易との利点がある。かかるナノインプリント技術は、半導体デバイスの回路、コイル・アンテナ類、マイクロ流体デバイス、フィルム型光導波路、バイオデバイス、モスアイパターン、並びにフォトニック結晶デバイス等の形成手法として期待されている。また、DVDやブルーレイディスクに代表される光ディスクの光学多層記録媒体における光透過性中間層を形成する際にも同様な手法がなされている。かかる点について以下により詳細を説明する。
【0003】
光ディスクの分野においては、ハイビジョン映像等の情報技術における進展に伴い、情報記録媒体の大容量化が求められ、種々の方式が提案されている。その中でも、2層以上の記録面を有する多層記録媒体は従来の光ディスクと同サイズでありながら大容量化が達成できる技術として様々な検討が行われている。このような記録媒体の中でも光学多層記録媒体としては、図1のような断面を有する媒体構造が一般的に用いられている。図1では片面、2層タイプの書き換え可能な光学記録媒体を示す。
【0004】
図中、ポリカーボネート樹脂やガラスあるいは金属等の素材からなる基板1の片面に第1相変化記録層2が設けられている。基板1の第1相変化記録層2形成側には、螺旋状、あるいは、同心円状に記録ピット形成用凹凸パターンが形成されており、この基板1の凹凸部に該当する部分の第一相変化記録層2は凹凸パターンが形成されている。第1相変化記録層2の上には光透過性素材(通常は樹脂)からなる光透過性中間層3、第2相変化記録層4、及び、カバー層5がこの順で形成されている。光透過性中間層3の第2相変化記録層4側の面には螺旋状に、あるいは、同心円状に記録ピット形成用凹凸パターンが形成されており、この基板1の凹凸部に該当する部分の第2相変化記録層4は凹凸パターンが形成されている。第2相変化記録層4は、硬化性樹脂組成物またはポリカーボネート樹脂等の素材からなるカバー層5によって保護されている。
【0005】
このような光学多層記録媒体は、図2、図3のような製造プロセスにより製造されている。
まず、樹脂成形やエッチングにより形成された記録ピット形成用凹凸パターンを片面に有する基板1(図2(a)参照)上に第1相変化記録層2を形成し(図2(b)参照)、その上に未硬化の硬化性樹脂組成物3aをスピンコートなどの手段により塗布する。その後、硬化性樹脂組成物3aが未硬化状態でスタンパ6を積層する(図2(c)参照)。
スタンパ6はガラス、あるいは、ポリカーボネートまたは非晶性ポリオレフィン等の樹脂からなり、光を透過する。一方、第1相変化記録層2は、金属反射層を有するため、全くあるいはほとんど光を透過しない。
【0006】
次いで図3(a)に示すように未硬化の硬化性樹脂組成物にその硬化に適した波長の光をスタンパ6を透過して照射することで、光透過性中間層3を形成する。その後、図3(b)に示すようにスタンパ6を取り去り、光透過性中間層3上に第2相変化記録層4及びカバー層5をこの順に形成する。
【0007】
このような光学多層記録媒体の製造方法において、硬化性樹脂組成物3aが硬化して形成された光透過性中間層3とスタンパ6との離型性、並びに離型時のスタンパの強度が問題となる。例えば、ポリカーボネート樹脂以外の公知の技術として、非晶性ポリオレフィンを用いた樹脂スタンパが知られている。該樹脂スタンパは、硬化性樹脂組成物層からの離型に優れているが、樹脂スタンパは数回の繰り返し使用後に破棄するため、非晶性ポリオレフィンを用いた場合、高コスト並びにリサイクル性が劣る点で使用が困難であった。
【0008】
一方、光ディスク基板材料として使用されているポリカーボネート樹脂からなるスタンパは、ニッケル電鋳製のマザースタンパを利用した成形により多量複製が可能で、製造プロセスの低コスト化ができさらにポリカーボネート樹脂は、多くの光学記録媒体の基板や、その難燃性他の優れた性質を利用して各種の筐体などに幅広く利用され、更には縮重合系のポリマーであることからケミカルリサイクルも実用化されている。故に幅広い再生方法の選択肢があり、樹脂スタンパの如き極めて寿命の短い樹脂製品への適用性に優れている。しかしながら、概して硬化性樹脂組成物層との密着性が高いことから、離型が困難であるとの問題がある。
【0009】
かかる離型性の改良のため、ポリカーボネート樹脂からなるスタンパに離型剤を塗布する方法が考えられる。しかし、この方法は、離型剤を塗布する工程が増え塗布する過程でごみや埃などを巻き込んでしまった場合、忠実な凹凸部形成ができない等の欠点がある。
【0010】
また、特定の末端基構造を有するポリカーボネート樹脂に汎用される脂肪酸エステル系離型剤を配合した樹脂スタンパ(特許文献1参照)、汎用されるポリカーボネート樹脂にヒンダードフェノール化合物を配合した樹脂スタンパ(特許文献2参照)、汎用されるポリカーボネート樹脂に亜リン酸エステル化合物を配合した樹脂スタンパ(特許文献3参照)が知られている。しかしながら、いずれの方法も硬化性樹脂組成物からの離型性は十分ではない。
【0011】
さらに、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキン共重合体からなる樹脂スタンパ(特許文献4参照)が知られている。しかしながら、透明なポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体を製造するのは難しいとされている。ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は通例、ポリジオルガノシロキサン含有ビスフェノールとBPAのような二価フェノールの混合物をホスゲン及び水酸化ナトリウム水溶液のような水性酸受容体と界面条件下で反応させることによって製造される(特許文献5〜8)。かかる製造法により得られるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、白濁し不透明であるため、樹脂スタンパには不向きである。
【0012】
また、特許文献9によれば、通常の成形においては透明な成形品が得られるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体が、成形時に高温で滞留される場合において白濁し、不透明な成形品となることが公知である。該特許文献9においては、亜リン酸の配合により、かかる白濁を抑制できることが記載されているが、亜リン酸の配合は、樹脂スタンパの製造装置に腐食の如き悪影響を及ぼす。したがって、かかる亜リン酸を配合することなく、成形時に高温で滞留される場合であっても透明性を維持できるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は未だ存在しないのが現状である。
【0013】
なお、上記は光学多層記録媒体を一例として説明したが、基板上に、硬化性樹脂組成物を積層し、該硬化性樹脂組成物をスタンパにより押圧して凹凸パターンが転写された構造を有する各種の製品は、基本的に同様の手法を用いて製造される。基板は、用途により平坦表面およびパターン化された表面を有することができ、基板表面は、有機物および無機物のいずれであってもよい。かかる製造において、上記スタンパにおける課題は程度の差はあるものの共通であり、殊に離型性の問題は、凹凸形状が微細であるほど、またそのアスペクト比が高くなるほど重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−096117号公報
【特許文献2】特開2009−193646号公報
【特許文献3】特開2009−193647号公報
【特許文献4】特開2009−096924号公報
【特許文献5】特許第2662310号公報
【特許文献6】特開平3−79626号公報
【特許文献7】特開平4−202466号公報
【特許文献8】欧州特許第0500087号明細書
【特許文献9】特表2006−518803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、紫外光(UV)の透過性、成形時の精密転写性、硬化性樹脂組成物層からの離型性、に優れた樹脂スタンパを提供することにある。本発明の更なる目的は、かかる特性に加えて、成形時の滞留安定性や使用後のリサイクル性にも優れた樹脂スタンパを提供することにある。更に本発明の目的は、殊にUVナノインプリント技術に好適な硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従来ポリカーボネート樹脂は硬化性樹脂組成物層からの離型性が不十分であり、樹脂スタンパには不向きであるとの認識があるが、本発明者らは、驚くべきことに特定の凝集構造を形成する透明性に優れたポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体を用いることにより、上記目的を達成する樹脂スタンパが得られることを見出した。かかる知見に基づき更に検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明によれば、上記課題は、
(構成1):ポリカーボネートポリマーのマトリックス中にポリジオルガノシロキサンドメインが分散した凝集構造であり、該ポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズが5〜40nm、規格化分散が40%以下であるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体より形成された硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパにより解決される。
【0018】
本発明の好適な態様の1つは、
(構成2):(A)常温、常圧で厚み2mmの平滑平板を用いて測定された蒸留水の接触角が85〜105°であり、(B)波長300〜400nmの紫外光域における全ての波長域での平均紫外線透過率が100%の場合を紫外線透過光量が100%であるとしたとき、厚み2mmの平滑平板を用いて測定された紫外線透過光量が、60〜80%の範囲である上記構成1の樹脂スタンパである。
【0019】
本発明の好適な態様の1つは、
(構成3):ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、下記式[1]で表されるポリカーボネートブロックと、下記式[3]で表されるポリジオルガノシロキサンブロックからなる共重合体である、上記構成1の樹脂スタンパである。
【0020】
【化1】

[上記式[1]において、R及びRは夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数3〜14のアリール基、炭素原子数3〜14のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる基を表し、それぞれ複数ある場合は同一でも異なっていても良く、e及びfは夫々1〜4の整数であり、Wは単結合もしくは下記式[2]で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。
【化2】

(上記式[2]においてR11,R12,R13,R14,R15,R16,R17及びR18は夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数3〜14のアリール基及び炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群から選ばれる基を表し、R19及びR20は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数3〜14のアリール基、炭素原子数6〜10のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる基を表し、複数ある場合は同一でも異なっていても良く、gは1〜10の整数、hは4〜7の整数である。)]
【0021】
【化3】

(上記式[3]において、R、R、R、R、R及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12の置換若しくは無置換のアリール基であり、R及びR10は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基であり、pは自然数であり、qは0又は自然数であり、p+qは100未満の自然数である。XはC〜Cの二価脂肪族基である。)
【0022】
本発明の好適な態様の1つは、
(構成4):式[3]で表されるポリジオルガノシロキサンブロックが、(2−アリルフェノール)末端ポリジオルガノシロキサン、もしくは(2−メトキシ−4−アリルフェノール)末端ポリジオルガノシロキサンより誘導されたものである、上記構成3の樹脂スタンパである。
【0023】
本発明の好適な態様の1つは、
(構成5):式[3]におけるp+qが5〜70である、上記構成3の樹脂スタンパである。
【0024】
本発明の好適な態様の1つは、
(構成6):共重合体の全重量を基準にして式[3]で表されるポリジオルガノシロキサンブロックが0.1〜50重量%である、上記構成3の樹脂スタンパである。
【0025】
本発明の好適な態様の1つは、
(構成7):式[3]におけるR、R、R、R、R、Rがメチル基である、上記構成3の樹脂スタンパである。
【0026】
本発明の好適な態様の1つは、
(構成8):ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、あらかじめ水に不溶性の有機溶媒とアルカリ水溶液との混合液中における式[4]で表わされる二価フェノール(I)とホスゲンとの反応により、二価フェノール(I)のクロロホーメートおよび/または末端クロロホーメート基を有する二価フェノール(I)のカーボネートオリゴマーを含むクロロホーメート化合物の混合溶液を調製し、次いで、該混合溶液を攪拌しながら式[5]で表わされるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)を、該混合溶液の調整にあたり仕込まれた二価フェノール(I)の量1モルあたり、0.01モル/min以下の速度で加え、該ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)と該クロロホーメート化合物とを界面重縮合させて製造されたポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体である、上記構成1の樹脂スタンパである。
【0027】
【化4】

(式中、R、R、e、f及びWは前記と同じである。)
【化5】

(式中、R、R、R、R、R、R、R、R10、p、q及びXは前記と同じである。)
【0028】
本発明の好適な態様の1つは、
(構成9):水に不溶性の有機溶媒を、式[4]で表わされる二価フェノール(I)1モルあたり、8モル以上使用する、上記構成8の樹脂スタンパである。
【0029】
本発明の好適な態様の1つは、
(構成10):樹脂スタンパは、表面に微細な凹凸パターンを有し、該凸部の高さまたは凹部の深さが10〜400nm、凹凸部のピッチが0.01〜1.0μmである、上記構成1〜9のいずれか1つの樹脂スタンパである。
【0030】
本発明の好適な態様の1つは、
(構成11):樹脂スタンパは、マザースタンパを備えた金型キャビティ内に溶融状態の樹脂成分を充填するかもしくは開いた型に備えられたマザースタンパ上に溶融状態の樹脂成分を塗布することにより、該マザースタンパを転写して製造されてなる、上記構成1〜10のいずれか1つの樹脂スタンパである。
【0031】
本発明の好適な態様の1つは、
(構成12):下記(i)〜(iv)の工程を含む、トラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを第1の表面に有する基体層(S−1)、並びに該基体層(S−1)の第1の表面側にトラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを有する硬化性樹脂組成物層(S−4)が該基体層上に形成されてなる光学多層記録媒体(Z’)の製造方法である。
(i)トラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを第1の表面に有する基体層(S−1)上に未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)を積層し、基体層(S−1)および未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)からなる積層体(Z’−1)を得る工程、
(ii)積層体(Z’−1)の未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)側に、トラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを有する上記構成1の樹脂スタンパ(S−3)を積層し、未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)の表面に、樹脂スタンパの有する微細な凹凸パターンを転写する工程、
(iii)硬化性樹脂組成物層(S−2)を硬化させ、基体層(S−1)、硬化した硬化性樹脂組成物層(S−4)、および樹脂スタンパ(S−3)からなる積層体(Z’−2)を得る工程、並びに
(iv)該積層体(Z’−2)から樹脂スタンパを除去し、基体層(S−1)および樹脂スタンパ表面の微細な凹凸パターンが転写された硬化性樹脂組成物層(S−4)からなる積層体(Z’)を得る工程
【発明の効果】
【0032】
本発明のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体からなる樹脂スタンパは、紫外光(UV)の透過性、成形時の精密転写性、硬化性樹脂組成物層からの離型性に優れるので、特に光学多層記録媒体の製造に使用される。殊に本発明は、特定の凝集構造を形成する透明性に優れたポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体を用いることより、紫外光(UV)の透過性および硬化性樹脂組成物層からの離型性が優れていることを見出したものであり、光学多層記録媒体の製造やモスアイパターンやバイオデバイス等の精密転写が必要な光学素子等の幅広い分野に利用され、さらに成形時の滞留安定性や使用後のリサイクル性にも優れる。したがって、その奏する産業上の効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】片面2層構造の書き換え可能な光学記録媒体の層構成概略を説明する図である。
【図2】該2層構造光記録媒体の製造プロセスのうち、(a)記録ピット形成用凹凸パターンを片面に有する基板上に、(b)第1相変化記録層を形成し、(c)該層上に未硬化の硬化性樹脂組成物をスピンコート法で塗布し、該樹脂に樹脂スタンパを積層し押圧する工程の概略を説明する図である。
【図3】該2層構造光記録媒体の製造プロセスのうち、(a)樹脂スタンパを押圧後、UV光を照射して硬化性樹脂組成物を硬化させ、(b)樹脂スタンパを剥離し、(c)更に該光硬化性樹脂組成物層上に第2相変化記録層を形成し、(d)カバー層を形成する工程の概略を説明する図である。
【図4】実施例1で測定した3段型プレートの厚み1.0mm部における小角エックス線散乱プロファイルと解析結果のグラフであり、(a)は、測定散乱プロファイル(測定データ)のグラフ、(b)は、それから解析した粒径分布のグラフである。
【図5】比較例1で測定した3段型プレートの厚み1.0mm部における小角エックス線散乱プロファイルと解析結果のグラフであり、(a)は、測定散乱プロファイル(測定データ)のグラフ、(b)は、それから解析した粒径分布のグラフである。
【図6】実施例1で観察した3段型プレートの厚み1.0mm部における透過型電子顕微鏡観察像である(20,000倍)。
【図7】比較例1で観察した3段型プレートの厚み1.0mm部における透過型電子顕微鏡観察像である(20,000倍)。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の詳細について説明する。
<ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体について>
本発明に用いられる式[4]で表される二価フェノール(I)としては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,3’−ビフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエ−テル、4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,2’−ジメチル−4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、2,2’−ジフェニル−4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルジフェニルスルフィド、1,3−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,8−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、4,4’−(1,3−アダマンタンジイル)ジフェノール、および1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン等が挙げられる。
【0035】
なかでも、強度に優れ、良好な耐久性を有する2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが最も好適である。また、これらは単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
式[5]で表されるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)としては、例えば次に示すような化合物が好適に用いられる。
【0036】
【化6】

【0037】
ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)は、オレフィン性の不飽和炭素−炭素結合を有するフェノール類、好適にはビニルフェノール、2−アリルフェノール、イソプロペニルフェノール、2−メトキシ−4−アリルフェノールを所定の重合度を有するポリシロキサン鎖の末端に、ハイドロシリレーション反応させることにより容易に製造される。なかでも、(2−アリルフェノール)末端ポリジオルガノシロキサン、(2−メトキシ−4−アリルフェノール)末端ポリジオルガノシロキサンが好ましく、殊に(2−アリルフェノール)末端ポリジメチルシロキサン、および(2−メトキシ−4−アリルフェノール)末端ポリジメチルシロキサンが好ましい。
【0038】
また、高度な透明性を実現するためにヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)のジオルガノシロキサン重合度(p+q)は100未満が適切である。かかるジオルガノシロキサン重合度(p+q)は好ましくは5〜70、より好ましくは20〜60、更に好ましくは30〜60、特に好ましくは30〜50である。かかる好適な範囲の下限以上では、耐衝撃性や難燃性に優れ、かかる好適な範囲の上限以下では、透明性に優れる。かかる上限以下の共重合体は、ポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズと規格化分散を小さくしやすい。その結果高温で長時間シリンダー内に滞留される成形条件下にあっても、優れた透明性を有する樹脂成形品を得ることができる。上記上限以下のポリジオルガノシロキサン単位は、その単位重量あたりのモル数が増加し、ポリカーボネート中に該単位が均等に組み込まれやすくなる。ジオルガノシロキサン重合度が大きいと、ポリジオルガノシロキサン単位のポリカーボネート中への組み込みが不均等になるとともに、ポリマー分子中のポリジオルガノシロキサン単位の割合が増加するため、該単位を含むポリカーボネートと、含まないポリカーボネートとが生じやすく、かつ相互の相溶性が低下しやすくなる。その結果として大きなポリジオルガノシロキサンドメインが生じやすくなる。一方で、耐衝撃性や難燃性の観点からは、ポリジオルガノシロキサンドメインがある程度大きい方が有利であることから、上記の如く好ましい重合度の範囲が存在する。
【0039】
なお、本発明においてポリジオルガノシロキサンドメインとは、ポリカーボネートのマトリックス中に分散したポリジオルガノシロキサンを主成分とするドメインをいい、他の成分を含んでもよい。上述の如く、ポリジオルガノシロキサンドメインは、マトリックスたるポリカーボネートとの相分離により構造が形成されることから、必ずしも単一の成分から構成されない。
【0040】
共重合体全重量に占めるポリジオルガノシロキサン含有量は0.1〜50重量%が好ましい。かかるポリジオルガノシロキサン成分含有量はより好ましくは0.5〜30重量%、さらに好ましくは1〜20重量%である。かかる好適な範囲の下限以上では、耐衝撃性や難燃性に優れ、かかる好適な範囲の上限以下では、成形条件の影響を受けにくい安定した透明性が得られやすい。かかるジオルガノシロキサン重合度、ポリジオルガノシロキサン含有量は、H−NMR測定により算出することが可能である。
【0041】
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体の製造方法において、ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)は1種のみを用いてもよく、また、2種以上を用いてもよい。また、かかる製造方法の妨げにならない範囲で、上記二価フェノール(I)、ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)以外の他のコモノマーを共重合体の全重量に対して10重量%以下の範囲で併用することもできる。
【0042】
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体の製造方法においては、あらかじめ水に不溶性の有機溶媒とアルカリ水溶液との混合液中において、二価フェノール(I)と、ホスゲンや二価フェノール(I)のクロロホルメート等のクロロホルメート形成性化合物との反応により、二価フェノール(I)のクロロホルメートおよび/または末端クロロホルメート基を有する二価フェノール(I)のカーボネートオリゴマーを含むクロロホルメート化合物の混合溶液を調製する。クロロホルメート形成性化合物としてはホスゲンが好適である。
【0043】
二価フェノール(I)からのクロロホルメート化合物を生成するにあたり、本発明の方法に用いられる二価フェノール(I)の全量を一度にクロロホルメート化合物としてもよく、又は、その一部を後添加モノマーとして後段の界面重縮合反応に反応原料として添加してもよい。後添加モノマーとは、後段の重縮合反応を速やかに進行させるために加えるものであり、必要のない場合には敢えて加える必要はない。
【0044】
このクロロホルメート化合物生成反応の方法は特に限定はされないが、通常、酸結合剤の存在下、溶媒中で行う方式が好適である。更に、所望に応じ、亜硫酸ナトリウム、およびハイドロサルファイドなどの酸化防止剤を少量添加してもよく、添加することが好ましい。
【0045】
クロロホルメート形成性化合物の使用割合は、反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜調整すればよい。また、好適なクロロホルメート形成性化合物であるホスゲンを使用する場合、ガス化したホスゲンを反応系に吹き込む方法が好適に採用できる。
【0046】
前記酸結合剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、および炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、並びにピリジンの如き有機塩基、あるいはこれらの混合物などが用いられる。
【0047】
酸結合剤の使用割合も、上記同様に、反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜定めればよい。具体的には、二価フェノール(I)のクロロホルメート化合物の形成に使用する二価フェノール(I)1モルあたり(通常1モルは2当量に相当)、2当量若しくはこれより若干過剰量の酸結合剤を用いることが好ましい。
【0048】
前記溶媒としては、公知のポリカーボネートの製造に使用されるものなど各種の反応に不活性な溶媒を1種単独であるいは混合溶媒として使用すればよい。代表的な例としては、例えば、キシレンの如き炭化水素溶媒、並びに、塩化メチレンおよびクロロベンゼンをはじめとするハロゲン化炭化水素溶媒などが挙げられる。特に塩化メチレンの如きハロゲン化炭化水素溶媒が好適に用いられる。得られるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体の透明性向上のためには、固形分濃度を下げることが有効である。二価フェノール(I)の濃度は、好ましくは400g/L以下、より好ましくは300g/L以下、更に好ましくは250g/L以下である。二価フェノール(I)の濃度は、安定した透明性の点からは低いほど好ましいものの、製造効率の観点から、その下限は100g/L以上が好ましい。
【0049】
水に不溶性の有機溶媒のモル比は二価フェノール(I)1モルあたり、好ましくは8モル以上、より好ましくは10モル以上、さらに好ましくは12モル以上、特に好ましくは14モル以上である。上限は特に制限されないが、装置の大きさやコストの面から50モル以下で充分である。二価フェノール(I)に対する有機溶媒のモル比をかかる範囲内とすることにより、ポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズおよび規格化分散を、より適正値に制御しやすくなる。その結果、高シロキサン重合度のヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)(p+q>30)からなる共重合体であっても、紫外光の透過性の高いポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体を与え得る。さらに、かかる共重合体は成形条件の透明性への影響が少なく、安定して透明性の高い樹脂スタンパを与え得る。
【0050】
クロロホルメート化合物の生成反応における圧力は特に制限はなく、常圧、加圧、もしくは減圧のいずれでもよいが、通常常圧下で反応を行うことが有利である。反応温度は−20〜50℃の範囲から選ばれ、多くの場合、反応に伴い発熱するので、水冷又は氷冷することが望ましい。反応時間は他の条件に左右され一概に規定できないが、通常、0.2〜10時間で行われる。クロロホルメート化合物の生成反応におけるpH範囲は、公知の界面反応条件が利用でき、pHは通常10以上に調製される。
【0051】
本発明においては、このようにして二価フェノール(I)のクロロホルメートおよび末端クロロホルメート基を有する二価フェノール(I)のカーボネートオリゴマーを含むクロロホルメート化合物の混合溶液を調整した後、該混合溶液を攪拌しながら式[5]で表わされるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)を、該混合溶液の調整にあたり仕込まれた二価フェノール(I)の量1モルあたり、0.01モル/min以下の速度で加え、該ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)と該クロロホーメート化合物とを界面重縮合させることにより、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体を得る。本発明を何らかの理論により限定するものではないが、かかる方法により、所定のドメインサイズおよび該ドメインサイズの規格化分散を小さくできる理由を以下のように推察する。
【0052】
従来の方法では、二価フェノール(I)とヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)との混合物に対してホスゲンを反応させるため、二価フェノール(I)とヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)との反応性の差から一方のモノマーのみからなる連鎖長の長いブロック共重合体が形成されやすい。さらには、ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)が二価フェノール(I)からなる短鎖のカーボネートオリゴマーを介して結合した構造が形成されやすい。
【0053】
一方、本発明のプロセスには、ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)濃度の急増を抑制し、その結果、該モノマーと末端クロロホルメート基を有する二価フェノール(I)のカーボネートオリゴマーとの反応を着実に進展させ、未反応のヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)の量を低減することができる。かかる低減は、二価フェノール(I)とヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)との反応性の差を解消し、一方のモノマーのみからなる連鎖長の長いブロック共重合体や、ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)が二価フェノール(I)からなる短鎖のカーボネートオリゴマーを介して結合した構造の形成確率を低下させると考えられる。これにより、ポリジオルガノシロキサンドメインサイズの規格化分散の小さい凝集構造が形成され、そして透明性の高く、成型条件に影響され難い熱安定性に優れた共重合体が得られると推測される。
【0054】
上述のヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)の添加速度が、0.01モル/minより速い場合、得られるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体の成形品において、内部に分散したポリジオルガノシロキサンドメインサイズの規格化分散が40%を超え、透明性が悪化しやすくなる。さらに、成形加工条件によっては良好な透明性が得られない、または成形加工条件により透明性がばらつきやすくなる。上述のヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)の添加速度が0.0001モル当量/minよりも遅い場合、生産効率上好ましくなく、また得られる共重合体のポリジオルガノシロキサン成分含有量が少なくなり、分子量がばらつく傾向があるため好ましくない。したがって、ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)の添加速度の下限は実質的には0.0001モル当量/minである。ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)の添加速度は、該混合溶液の調整にあたり仕込まれた二価フェノール(I)の量1モルあたり、より好ましくは0.005モル/min以下、更に好ましくは0.0025モル/min以下、特に好ましくは0.0015モル/min以下の速度であり、下限はより好ましくは0.0002モル/min以上の速度である。
【0055】
また、均一分散性を高めるため、ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)は、溶媒と混合して溶液状態で、末端クロロホルメート化合物を含有する混合溶液中に投入することが望ましい。該溶液の濃度は、反応を阻害しない範囲内で希薄であることが望ましく、好ましくは、0.01〜0.2モル/Lの範囲、より好ましくは0.02〜0.1モル/Lの範囲である。尚、かかる溶媒は特に限定されないものの、上述のクロロホルメート化合物の生成反応に使用する溶媒と同一が好ましく、特に塩化メチレンが好ましい。
【0056】
界面重縮合反応を行うにあたり、酸結合剤を反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜追加してもよい。酸結合剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、および炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、並びにピリジンの如き有機塩基、あるいはこれらの混合物などが用いられる。具体的には、使用するヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)、又は上記の如く二価フェノール(I)の一部を後添加モノマーとしてこの反応段階に添加する場合には、後添加分の二価フェノール(I)とヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)との合計モル数(通常1モルは2当量に相当)に対して2当量若しくはこれより過剰量のアルカリを用いることが好ましい。
【0057】
二価フェノール(I)のオリゴマーとヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)との界面重縮合反応は、上記混合液を激しく攪拌することにより行われる。
かかる重縮合反応においては、末端停止剤或いは分子量調節剤が通常使用される。末端停止剤としては一価のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられ、通常のフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノール、トリブロモフェノールなどの他に、長鎖アルキルフェノール、脂肪族カルボン酸クロライド、脂肪族カルボン酸、ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル、ヒドロキシフェニルアルキル酸エステル、アルキルエーテルフェノールなどが例示される。その使用量は用いる全ての二価フェノール系化合物100モルに対して、好ましくは0.5〜100モル、より好ましくは2〜50モルの範囲であり、二種以上の化合物を併用することも当然に可能である。
【0058】
重縮合反応を促進するために、トリエチルアミンのような第三級アミン又は第四級アンモニウム塩などの触媒を添加することができ、添加することが好ましい。特に好適にはトリエチルミンが利用される。
かかる重合反応の反応時間は、透明性を向上させるためには比較的長くする必要がある。好ましくは30分以上、更に好ましくは50分以上であり、製造効率の点からその上限は好ましくは2時間以下、より好ましくは1.5時間以下である。
【0059】
本発明のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、分岐化剤を上記の二価フェノール系化合物と併用して分岐化ポリカーボネート共重合体とすることができる。かかる分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、または4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキジフェニル)ヘプテン−2、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、4−{4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}−α,α−ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノール、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ビス(4,4−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、またはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が挙げられ、中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0060】
かかる分岐化ポリカーボネート共重合体の製造方法は、クロロホルメート化合物の生成反応時にその混合溶液中に分岐化剤が含まれる方法であっても、該生成反応終了後の界面重縮合反応時に分岐化剤が添加される方法であってもよい。分岐化剤由来のカーボネート構成単位の割合は、該共重合体を構成するカーボネート構成単位全量中、好ましくは0.005〜1.5モル%、より好ましくは0.01〜1.2モル%、特に好ましくは0.05〜1.0モル%である。なお、かかる分岐構造量についてはH−NMR測定により算出することが可能である。
【0061】
重縮合反応における系内の圧力は、減圧、常圧、もしくは加圧のいずれでも可能であるが、通常は、常圧若しくは反応系の自圧程度で好適に行い得る。反応温度は−20〜50℃の範囲から選ばれ、多くの場合、重合に伴い発熱するので、水冷又は氷冷することが望ましい。反応時間は反応温度等の他の条件によって異なるので一概に規定はできないが、通常、0.5〜10時間で行われる。
【0062】
場合により、得られたポリカーボネート共重合体に適宜物理的処理(混合、分画など)及び/又は化学的処理(ポリマー反応、架橋処理、部分分解処理など)を施して所望の還元粘度[ηSP/c]のポリカーボネート共重合体として取得することもできる。
得られた反応生成物(粗生成物)は公知の分離精製法等の各種の後処理を施して、所望の純度(精製度)のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体として回収することができる。
【0063】
ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体において、ポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズは、5〜40nmの範囲である。かかる平均サイズの下限は好ましくは6nmであり、より好ましくは7nmである。かかる平均サイズの上限は、好ましくは20nm、より好ましくは15nm、特に好ましくは12nmである。かかる範囲の下限未満では、耐衝撃性や難燃性が十分に発揮されず、かかる範囲の上限を超えると透明性が安定して発揮されない。
【0064】
さらに、ポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズが好適な範囲であっても、その規格化分散が40%を超えると良好かつ安定した透明性が発揮されない。かかるポリジオルガノシロキサンドメインサイズの規格化分散は40%以下であり、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。かかる規格化分散の下限は実用上5%以上が好ましく、7%以上がより好ましい。かかる適切なドメインの平均サイズと、その規格化分散を有することにより、透明性と耐衝撃性、ならびに難燃性の両立に優れた成形品が提供される。
【0065】
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、射出成形により形成される厚み2.0mmの平滑平板において、その紫外線透過光量が60〜90%の範囲にあることが好ましい。紫外線透過光量は、より好ましくは65〜80%、さらに好ましくは70〜80%である。紫外線透過光量が下限未満では紫外線透過性が劣るため硬化性樹脂組成物の硬化時間を長くなり生産性に劣る。また、上限の紫外線透過光量は、生産性に十分であり、ベースとなるポリカーボネートの紫外線透過光量を考慮すると適切である。本発明の好適な樹脂スタンパが有する、かかる紫外線透過光量の特性は、特にメタルハライドランプにより硬化される硬化樹脂組成物に対して好適である。なお、具体的な測定方法としては、射出成形により成形した3段型プレート(幅50mm、長さ90mm、厚みがゲート側から3.0mm(長さ20mm)、2.0mm(長さ45mm)、1.0mm(長さ25mm)、表面の算術平均粗さ(Ra):0.03μm)を用いて、その厚み2.0mm部における300〜400nmの範囲の光線透過率を分光光度計により測定される。ここで紫外線透過光量とは、硬化性樹脂組成物の硬化に汎用されるUV−A領域における透過光量を表す指標である。100%の紫外線透過光量とは、横軸に波長を、縦軸に光線透過率を取ったとき、横軸:300〜400nmの範囲、縦軸:0〜100%の範囲で囲まれる長方形の面積といえる。よって紫外線透過光量とは、横軸:300〜400nmの範囲における紫外線透過率の曲線、両縦軸、および横軸により囲まれる面積のかかる長方形の面積に対する割合(%)となる。
【0066】
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、射出成形により形成される厚み2.0mmの平滑平板において、常温、常圧で測定された蒸留水の接触角が85〜95°であることが好ましい。かかる下限未満では硬化性樹脂組成物との離型性が劣るため好ましくない。また、上記上限はベースとなるポリカーボネート樹脂表面の接触角を考慮すると適切である。なお、具体的には、上記3段型プレートその厚み2.0mm部を測定することにより接触角を測定することができる。
【0067】
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、ガラス転移温度(Tg)が100℃〜180℃であることが好ましい。さらに110〜170℃であることが好ましい。Tgが100℃未満では、樹脂スタンパの耐熱性が低下するため好ましくない。該ガラス転移温度は、示差走査熱量分析装置(DSC)を使用し、JISK7121に準拠した昇温速度20℃/minで測定される。
【0068】
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体からなる厚み2.0mmの成形品において、そのヘイズは0.3〜20%が好ましい。かかるヘイズは、より好ましくは0.5〜10%、さらに好ましくは0.6〜5%、特に好ましくは0.7〜2%である。「ヘイズ」は、透明性のレベルを表示するもので、試験片を通過する際に前方散乱により入射光束から逸れる透過光の割合(%)を意味する(ASTM−D1003−61)。すなわち、ヘイズが低いほど透明性に優れる。
【0069】
本発明におけるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体成形品のポリジオルガノシロキサンドメインの平均ドメインサイズ、規格化分散は、小角エックス線散乱法(Small Angle X−ray Scattering:SAXS)により評価される。小角エックス線散乱法とは、散乱角(2θ)が10°未満の範囲の小角領域で生じる散漫な散乱・回折を測定する方法である。この小角エックス線散乱法では、物質中に電子密度の異なる1〜100nm程度の大きさの領域があると、その電子密度差によりエックス線の散漫散乱が計測される。この散乱角と散乱強度に基づいて測定対象物の粒子径を求める。ポリカーボネートポリマーのマトリックス中にポリジオルガノシロキサンドメインが分散した凝集構造となるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体の場合、ポリカーボネートマトリックスとポリジオルガノシロキサンドメインの電子密度差により、エックス線の散漫散乱が生じる。散乱角(2θ)が10°未満の範囲の各散乱角(2θ)における散乱強度Iを測定して、小角エックス線散乱プロファイルを測定し、ポリジオルガノシロキサンドメインが球状ドメインであり、粒径分布のばらつきが存在すると仮定して、仮の粒径と仮の粒径分布モデルから、市販の解析ソフトウェアを用いてシミュレーションを行い、ポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズと粒径分布(規格化分散)を求める。小角エックス線散乱法によれば、透過型電子顕微鏡による観察では正確に測定できない、ポリカーボネートポリマーのマトリックス中に分散したポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズと粒径分布を、精度よく、簡便に、かつ再現性良く測定することができる。
【0070】
平均ドメインサイズとは個々のドメインサイズの数平均を意味する。規格化分散とは、粒径分布の広がりを平均サイズで規格化したパラメータを意味する。具体的には、ポリジオルガノシロキサンドメインサイズの分散を平均ドメインサイズで規格化した値であり、下記式(1)で表される。
【0071】
【数1】

上記式(1)において、σはポリジオルガノシロキサンドメインサイズの標準偏差、Davは平均ドメインサイズである。
【0072】
本発明に関連して用いる用語「平均ドメインサイズ」、「規格化分散」は、射出成形により形成される厚み1.0mmの成形品を用いて、小角エックス線散乱法により測定することにより得られる測定値を示す。具体的には、射出成形により成形した3段型プレート(幅50mm、長さ90mm、厚みがゲート側から3.0mm(長さ20mm)、2.0mm(長さ45mm)、1.0mm(長さ25mm)、表面の算術平均粗さ(Ra)が0.03μm)を用いて、厚み1.0mm部の端部より5mm、側部より5mmの交点におけるポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズと粒径分布(規格化分散)を小角エックス線散乱法により測定したものである。
【0073】
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体の粘度平均分子量は5.0×10〜5.0×10の範囲が好ましい。かかる粘度平均分子量はより好ましくは1.0×10〜4.0×10、更に好ましくは1.2×10〜3.0×10、特に好ましくは1.3×10〜2.0×10である。ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体の粘度平均分子量が5.0×10未満では、実用上の機械的強度が得られにくく、5.0×10を超えると、溶融粘度が高く、概して高い成形加工温度を必要とするため、樹脂の熱劣化などの不具合を生じやすい。
【0074】
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、その20gを塩化メチレン1Lに溶解した溶液をハイアックロイコ社製液体パーティクルカウンターモデル4100を用いたレーザーセンサー法にて散乱光をラテックス粒子の散乱光に換算する方法で求めた径0.5μm以上の未溶解粒子が該ポリカーボネート樹脂1g当り25,000個以下且つ1μm以上の未溶解粒子が500個以下であることが好適である。0.5μm以上の未溶解粒子が25,000個を超えるか、または1μm以上の未溶解粒子が500個を超えると樹脂スタンパの凹凸形状を硬化性樹脂組成物に転写する際に悪影響を及ぼす場合がある。さらに好ましくは、0.5μm以上の未溶解粒子が20,000個以下、且つ1μm以上の未溶解粒子が200個以下である。また、10μm以上の未溶解粒子は実質的に存在しないことが好ましい。
【0075】
<樹脂以外の成分>
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、離型剤、熱安定剤、および流動改質剤などのそれ自体公知の機能剤を含有できる。
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体には、必要に応じて燐系熱安定剤を加えることができる。燐系熱安定剤としては、亜燐酸エステルおよび燐酸エステルが好ましく使用される。
【0076】
亜燐酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ジフェニレンホスホナイト等の亜燐酸のトリエステル、ジエステル、モノエステルが挙げられる。これらのうち、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
【0077】
一方、熱安定剤として使用される燐酸エステルとしては、例えばトリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート等が挙げられ、なかでもトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートが好ましい。
【0078】
前記燐系熱安定剤は、単独で使用してもよく、また二種以上を組み合わせて使用してもよい。燐系熱安定剤は、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体100重量部に対して、好ましくは0.0001〜0.1重量部、より好ましくは0.001〜0.05重量部、さらに好ましくは0.005〜0.05重量部の範囲で使用するのが適当である。
【0079】
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体には、その成形加工時の熱安定性、および耐熱老化性を向上させることを主たる目的としてヒンダードフェノール系安定剤を配合することができる。かかるヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0080】
上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤の量は、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体100重量部に対して、好ましくは0.0001〜1重量部、より好ましくは0.001〜0.1重量部、さらに好ましくは0.005〜0.1重量部である。安定剤が上記範囲よりも少なすぎる場合には良好な安定化効果を得ることが難しく、上記範囲を超えて多すぎる場合は、逆に耐衝撃性等の物性低下や、マザースタンパ、金型汚染を起こす場合がある。
【0081】
本発明のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体には、適宜上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤以外の他の酸化防止剤を使用することもできる。かかる他の酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、およびグリセロール−3−ステアリルチオプロピオネートなどが挙げられる。これら他の酸化防止剤の使用量は、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体100重量部に対して0.001〜0.05重量部が好ましい。
【0082】
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、優れた離型性を発現するが、本発明の効果を損なわない範囲で、離型剤を併用しても良い。離型剤としては、例えば、シリコーン化合物、脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス、1−アルケン重合体など。酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイルなど)、パラフィンワックス、蜜蝋などを挙げることができる。これらの中でも入手の容易さ、離型性および透明性の点からシリコーン化合物、及び脂肪酸エステルが好ましい。しかしながら、これらの離型剤は入れ過ぎると成形時の金型、マザースタンパ汚染やブリードアウトによる精密転写性が低下する等の問題が起き易い。そのため、離型剤の配合量としては、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体100重量部に対して、好ましくは0.005〜0.2重量部、より好ましくは0.007〜0.1重量部、更に好ましくは0.01〜0.06重量部の範囲である。離型剤の含有量が上記範囲であれば、離型性の改良効果が得られ、且つ、金型表面またはマザースタンパの汚染などの悪影響を与え難くなり好ましい。
【0083】
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は流動改質剤を含むことができる。かかる流動改質剤としては、スチレン系オリゴマー、ポリカーボネートオリゴマー(高度分岐型、ハイパーブランチ型および環状オリゴマー型を含む)、ポリアルキレンテレフタレートオリゴマー(高度分岐型、ハイパーブランチ型および環状オリゴマー型を含む)高度分岐型およびハイパーブランチ型の脂肪族ポリエステルオリゴマー、テルペン樹脂、並びにポリカプロラクトン等が好適に例示される。かかる流動改質剤は、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体100重量部当たり、好ましくは0.1〜30重量部であり、より好ましくは1〜20重量部であり、さらに好ましくは2〜15重量部であり、特に好ましくは2〜7重量部である。流動改質剤として特にポリカプロラクトンが好適である。ポリカプロラクトンの分子量は数平均分子量で表して1,000〜70,000であり、1,500〜40,000が好ましく、2,000〜30,000がより好ましく、2,500〜15,000が更に好ましい。
【0084】
本発明で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、他にも、ブルーイング剤、蛍光染料、帯電防止剤、および染顔料などの各種の添加剤を含有することができる。これらは、樹脂スタンパおよび該スタンパを用いた部材製造プロセスに支障のない剤および配合量を適宜選択して含有することができる。
【0085】
ブルーイング剤はポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体中0.05〜3.0ppm(重量割合)含んでなることが好ましい。ブルーイング剤としては代表例として、バイエル社のマクロレックスバイオレットB及びマクロレックスブルーRR、並びにクラリアント社のポリシンスレンブルーRLSなどが挙げられる。
【0086】
蛍光染料(蛍光増白剤を含む)としては、例えば、クマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、ペリレン系蛍光染料、アンスラキノン系蛍光染料、チオインジゴ系蛍光染料、キサンテン系蛍光染料、キサントン系蛍光染料、チオキサンテン系蛍光染料、チオキサントン系蛍光染料、チアジン系蛍光染料、およびジアミノスチルベン系蛍光染料などを挙げることができる。蛍光染料(蛍光増白剤を含む)の配合量は、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体100重量部に対して0.0001〜0.1重量部が好ましい。
【0087】
<ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体成形材料の製造について>
本発明のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体の製造に当たっては、その製造方法は特に限定されるものではなく公知の方法が利用できる。最も汎用される方法として、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体と、必要に応じて添加剤を予備混合した後、押出機に投入して溶融混練を行い、押出されたスレッドを冷却し、ペレタイザーにより切断して、ペレット状の成形材料を製造する方法が挙げられる。かかる製造法においては、殊にポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体からなる光ディスク用成形材料の製造方法を利用することが好ましい。
【0088】
上記方法における押出機は単軸押出機、および二軸押出機のいずれもが利用できるが、生産性や混練性の観点からは二軸押出機が好ましい。かかる二軸押出機の代表的な例としては、ZSK(Werner&Pfleiderer社製、商品名)を挙げることができる。同様のタイプの具体例としてはTEX((株)日本製鋼所製、商品名)、TEM(東芝機械(株)製、商品名)、KTX((株)神戸製鋼所製、商品名)などを挙げることができる。押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部手前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
【0089】
更に添加剤は、独立して押出機に供給することもできるが、前述のとおり樹脂原料と予備混合することが好ましい。かかる予備混合の手段には、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、および押出混合機などが例示される。より好適な方法は、例えば原料樹脂の一部と添加剤とをヘンシェルミキサーの如き高速攪拌機で混合してマスター剤を作成した後、かかるマスター剤物を残る全量の樹脂原料とナウターミキサーの如き高速でない攪拌機で混合する方法である。
【0090】
押出機より押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。更にかかるペレットの製造においては、光学ディスク用ポリカーボネート樹脂において既に提案されている様々な方法を用いて、ペレットの形状分布の狭小化、ミスカット物の更なる低減、運送または輸送時に発生する微小粉の更なる低減、並びにストランドやペレット内部に発生する気泡(真空気泡)の低減を行うことが好ましい。ミスカットの低減には、ペレタイザーでの切断時のスレッドの温度管理、切断時のイオン風の吹き付け、ペレタイザーのすくい角の適正化、および離型剤の適切な配合などの手段、並びに切断されたペレットと水との混合物を濾過してペレットと水およびミスカットとを分離する方法などが挙げられる。その測定方法の一例は例えば特開2003−200421号公報に開示されている。これらの処方により成形のハイサイクル化、およびシルバーの如き不良発生割合の低減を行うことができる。
【0091】
成形材料におけるミスカット量は、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下である。ここで、ミスカットとは、目開き1.0mmのJIS標準篩を通過する所望の大きさのペレットより細かい粉粒体を意味する。ペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱(楕円柱を含む)であり、かかる円柱の直径は好ましくは1.5〜4mm、より好ましくは2〜3.5mmである。楕円柱において長径に対する短径の割合は、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上である。一方、円柱の長さは好ましくは2〜4mm、より好ましくは2.5〜3.5mmである。
【0092】
<樹脂スタンパの形状について>
本発明の樹脂スタンパは、表面に形成された微細な凹凸パターンの該凸部の高さまたは凹部の深さが10〜400nm、凹凸部のピッチが0.01〜1.0μmであることが好ましい。本発明の樹脂スタンパは、かかる微細な凹凸パターンを精密に転写するのに良好な離型性を有する。該凸部の高さまたは凹部の深さの上限は、より好ましくは200nm、更に好ましくは100nmであり、かかる下限は、より好ましくは20nm、更に好ましくは30nmである。凹凸部のピッチの上限は、より好ましくは0.5μm、更に好ましくは0.4μmであり、かかる下限は、より好ましくは0.1μm、更に好ましくは0.2μmである。
【0093】
また、本発明の樹脂スタンパの厚みは特に限定されないが、好ましくは0.3〜1.5mm、より好ましくは0.4〜1.0mm、更に好ましくは0.5〜0.8mmの範囲である。樹脂スタンパは、使用寿命が短いため、できる限り薄い方が樹脂材料を節約でき好ましいものの、あまりに薄いとスタンパの生産効率が低下しやすい。更に樹脂スタンパの厚さがこの範囲にあると、樹脂スタンパが適度な柔軟性を有するために樹脂スタンパを硬化樹脂組成物層から離型する際に、樹脂スタンパを変形させながら引き剥がすことができるので、離型が容易で、かつ、離型強度に優れ、積層体の表面を傷つけにくいので好ましい。
【0094】
<樹脂スタンパの製造について>
本発明の樹脂スタンパは、マザースタンパの凹凸パターンを各種の方法で転写して製造することができる。かかる転写方法としては、第1にいわゆるホットエンボス法や熱ナノンイプリント法と称される熱プレス法(以下“方法−I”と称することがある)が、第2に射出成形(射出圧縮成形を含む)に代表される溶融転写法(以下“方法−II”と称することがある)が好適に例示される。上記方法−Iは、生産性の高いシート状成形体を利用できる利点はあるが、全体として工数が増える欠点がある。上記方法−IIは、ペレット形状の如き樹脂組成物から直接に樹脂スタンパが製造される点で効率的である。特に射出成形の適用は製造効率が高く好ましい。尚、本発明のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、汎用されるポリカーボネート樹脂に比較して、良好な離型性を有することから、上記樹脂スタンパ製造方法のいずれにおいても、良好な転写性およびその形状保持性を有する。上記樹脂スタンパ製造方法において使用されるマザースタンパは、シリコンモールド、SiC、石英、GaAs、ダイヤモンド、ガラス、並びにアルミニウムおよびチタン(これらの陽極酸化処理品を含む)などから作成できる。
【0095】
成形工程での環境は、本発明の目的から考えて、可能な限りクリーンであることが好ましい。また、成形に供する材料を十分乾燥して水分を除去することや、溶融樹脂の分解を招くような滞留を起こさないように配慮することも重要となる。
以下、上記樹脂スタンパ製造方法について詳細に説明する。
【0096】
(方法−I)
方法−Iは、(i)ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体からなる基材シートを準備する工程、(ii)該基材シートの内、少なくともマザースタンパの凹凸パターンを転写する表面を軟化する工程、(iii)かかる軟化された表面をマザースタンパに押圧して該マザースタンパの凹凸パターンを写し取る工程、並びに(iv)凹凸パターンの転写された基材シートを冷却した後、マザースタンパから離型し、樹脂スタンパを回収する工程からなる。
【0097】
ここで基材シートは、厚みムラが低減されていることが好ましく、かかる厚みムラの範囲としては、好ましくは±5μmの範囲、より好ましくは±3μmの範囲、更に好ましくは±2μmの範囲である。また該基材シートは、5μm以上の異物が100個/g以下であることが好ましい。上記好ましい厚みムラを有するシートの製造は、例えば特開2006−277914号公報および特開2007−141408号公報に記載された製造方法に従い適宜条件を調整することにより製造することができる。
【0098】
工程(ii)および(iii)は、従来公知の熱ナノインプリント法が適用できる。軟化温度は対象となる樹脂組成物のガラス転移温度Tg(℃)に対して、好ましくはTg+5(℃)〜Tg+50(℃)の範囲、より好ましくはTg+10(℃)〜Tg+40(℃)の範囲である。ここでTgはJISK7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる値である。基材シートの加熱は、該基材シートと、スタンパもしくはスタンパを備えた型のいずれかと接触させ、かかるスタンパもしくは型の加熱によりなされることが好ましい。スタンパもしくは型の加熱は、高温媒体の流通、電気ヒーター、誘電加熱、超音波加熱、および赤外線加熱などの方法により行うことができる。赤外線加熱は、特開2008−188953号公報に開示された如く、スタンパを通して赤外線照射される方法で行うこともできる。
【0099】
マザースタンパへの押圧の圧力は、好ましくは1〜20MPa、より好ましくは3〜15MPa、更に好ましくは4〜10MPaである。かかる押圧においては、系内を減圧することができる。また、マザースタンパへの濡れ性の改善、および樹脂の可塑化の促進を目的として、亜臨界および超臨界の流体を含浸させた状態で押圧し、その後該流体をガス化する方法を選択してもよい。本発明のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、かかる超臨界流体、殊に可塑性の良好な超臨界炭酸ガスの含浸性に優れる点で、かかる方法を適用し易い特徴も有する。
【0100】
(方法−II)
方法−IIは、(i)ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体を溶融状態とする工程、(ii)マザースタンパを備えた金型キャビティ内に溶融状態の共重合体を充填するかもしくは開いた型に備えられたマザースタンパ上に溶融状態の共重合体を塗布する工程、(iii)溶融状態の共重合体をマザースタンパに押圧して該マザースタンパの凹凸パターンを写し取る工程、並びに(iv)凹凸パターンの転写された成形品を冷却した後、マザースタンパから離型し樹脂スタンパを回収する工程からなる。
【0101】
(i)における溶融状態にする方法は、通常射出成型機や押出成形機に備えられたスクリュー式可塑化装置が好適に利用される。(ii)における金型キャビティ内への溶融樹脂組成物の充填は、通常の射出成形法が好適に利用でき、特に射出圧縮成形が好ましい。かかる射出圧縮成形は、ポリカーボネート樹脂から光学記録媒体を成形する方法として幅広く利用されており、その成形条件は、成形時間、成形品の精度、歩留り、およびそれらのバラツキの点で、極限に近い条件を達成し、膨大な知見を有する。かかる光記録媒体の成形において従来公知のさまざまな方法および条件を、本発明の樹脂スタンパの成形においても適宜利用することができる。射出圧縮成形における型のプレス圧力は好ましくは1〜20MPa、より好ましくは3〜15MPaである。
【0102】
一方、(ii)における開いた型上への溶融樹脂組成物の塗布は、マザースタンパ表面に溶融樹脂を塗布し、その後型を閉じて溶融樹脂にスタンパを押圧し成形する方法であり、該方法は例えば、特開2004−188822号公報および特開2007−283714号公報等に記載された方法を適用することができる。かかる方法における押圧の圧力は、好ましくは1〜30MPa、より好ましくは5〜25MPa、更に好ましくは10〜20MPaである。
【0103】
<樹脂スタンパの用途>
本発明の樹脂スタンパは、半導体デバイスの回路、コイル・アンテナ類、マイクロ流体デバイス、フィルム型光導波路、バイオデバイス、モスアイパターン、フォトニック結晶デバイス、並びに記録媒体におけるトラックまたは信号の形成などに利用できる。中でも記録媒体のトラックまたはビット等の信号の複製が好ましい。かかる記録媒体の代表的な事例としては、光学多層記録媒体における光透過性中間層の形成が挙げられる。また、スタンパは、通常は1回使用した後、再度、粉砕・精製し、スタンパ成形用材料に再生する。実用上一回限りの利用が望ましいが、原料樹脂を選択し、あるいは、硬化性樹脂組成物やその硬化条件を最適化して、あるいは、再利用前に検査を行うなどして2回以上用いることも可能である。
【0104】
<硬化性樹脂組成物について>
本発明において、樹脂スタンパの凹凸パターンを基材上に転写するために硬化性樹脂組成物が好ましく使用される。該硬化性樹脂組成物は、特に限定されないが、光硬化性樹脂組成物が好ましく、特に紫外線硬化性樹脂組成物が好ましい。かかる硬化性樹脂組成物は、通常、分子中に重合性不飽和結合またはエポキシ基を有するプレポリマー、オリゴマーとともに光重合開始剤を含む。重合性の官能基は、ラジカル重合性、カチオン重合性のいずれであってもよい。より好適な官能基としては、例えば、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、およびエポキシ基等が例示され、特にアクリレート基および/またはメタクリレート基を有するアクリル系硬化性樹脂組成物が好ましい。
【0105】
かかる硬化性樹脂組成物を構成する重合性モノマーの一態様としては、シクロペンチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルシクロヘキシルメタクリレート、トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、ノルボルニルメタクリレート、ノルボルニルメチルメタクリレート、イソボニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ヘキサンジオールメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート、トリメチルプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、およびテトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、並びにこれらの組み合わせが例示される。
【0106】
光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトイン、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルギリオキシレート、2−ヒトロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−エチルアントラキノン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド等の硫黄化合物;2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド;等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0107】
光重合開始剤の配合量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、重合性モノマー100重量部当たり、通常0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部の範囲である。重合開始剤の配合剤がこの範囲にあるときに大きな成形物でも、均一な硬化が可能となり、斑や黄変のなく、色合いものにも生産性良く製造できるので好適である。
【0108】
<積層体(Z)の製造法について>
本発明によれば、下記の工程により基体層、並びに表面側に微細な凹凸パターンを有する硬化性樹脂組成物層が該基体層上に形成されてなる積層体(Z)が製造できる。なお、積層体として光学多層記録媒体を例にあげて説明する。
即ち、トラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを第1の表面に有する基体層(S−1)、並びに該基体層(S−1)の第1の表面側にトラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを有する硬化性樹脂組成物層(S−4)が該基体層上に形成されてなる下記(i)〜(iv)の工程を含む光学多層記録媒体(Z’)の製造方法が好適に採用される。
【0109】
(i):トラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを第1の表面に有する基体層(S−1)上に未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)を積層し、基体層(S−1)および未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)からなる積層体(Z’−1)を得る工程、
(ii):積層体(Z’−1)の未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)側に、トラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを有する樹脂スタンパ(S−3)を積層し、未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)の表面に、樹脂スタンパの有する微細な凹凸パターンを転写する工程であって、該樹脂スタンパは、上記ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体から形成されている工程、
(iii):硬化性樹脂組成物層(S−2)を硬化させ、基体層(S−1)、硬化した硬化性樹脂組成物層(S−4)、および樹脂スタンパ(S−3)からなる積層体(Z’−2)を得る工程、並びに
(iv):該積層体(Z’−2)から樹脂スタンパを除去し、基体層(S−1)および樹脂スタンパ表面の微細な凹凸パターンが転写された硬化性樹脂組成物層(S−4)からなる積層体(Z’)を得る工程
【0110】
上記基体層(S−1)は、特に限定されないが、例えばエッチング等により必要な形状としたガラス、またはポリカーボネートから好適に形成される。かかる成形方法としては、射出成形、射出プレス成形、プレス成形、および溶融熱転写成形などが挙げられる。これらの中でも、射出成形法及びプレス成形法が、凹凸形状の面内のバラツキを小さくでき好適である。プレス成形法としては、溶融押出法により作製したシート又はフィルム等を成形しようとする凹凸状の金型内で加温・加圧する方法が挙げられる。
【0111】
上記基体層(S−1)の厚みは好ましくは0.5mm〜1.5mmであり、ピットの凸部高さが好ましくは10nm〜200nmであり、凸部のトラックピッチが好ましくは0.2μm〜1.0μmである。かかる基板層(S−1)上には、未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)を形成する前に、蒸着やCVDあるいはスパッタリング等により金属膜が形成される。金属膜としてはアルミニウム、銀合金が好適に用いられる。金属膜は光を透過しない、またはほとんど透過しない。更に該金属膜上には、第1相変化記録層として、第1誘電体膜、相変化記録膜、および第2誘電体膜がこの順で積層される。相変化記録膜の光学的特性を変化させることにより情報の記録及び消去が可能である。未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)は、かかる第1相変化記録層上に形成され、光透過性中間層となる。
【0112】
光学多層記録媒体の製造にあたり、2層目となる第2相変化記録層の構成として2つのタイプが汎用され、本発明においても好適に利用できる。一つは、第2相変化記録層は、光透過性中間層側から、第1誘電体膜、相変化記録膜、および第2誘電体膜の順で積層されるタイプである。2つ目は、第2相変化記録層は光透過性中間層側から、第0誘電体膜、半透明金属薄膜、第1誘電体膜、相変化記録膜、および第2誘電体膜の順で積層されるタイプである。記録層が3層になる場合には第2相変化記録層とカバー層との間に、さらに光透過性中間層と第2相変化記録層と同様の構成を有する第3相変化記録層を積層する。3層を超える記録層を有する光学多層記録媒体の場合はその数に応じて光透過性中間層と相変化記録層とを増やしていくことが可能である。
【0113】
本発明の光学多層記録媒体の製造方法として、上記第1相変化記録層までが積層された基板に、例えば上記硬化性樹脂組成物を公知の方法により塗布した後、本発明の樹脂スタンパを貼り合せる。塗工法としては、ワイヤバーコート法、ディップ法、スプレー法、スピンコート法、およびロールコート法等が挙げられる。特にスピンコート法が好適に用いられる。硬化性樹脂組成物の粘度としては未硬化の状態で50〜800mPa・secが好ましい。その後、樹脂スタンパの垂直上方から紫外線を照射して、硬化性樹脂組成物を硬化させる。例えば、硬化後の硬化性樹脂組成物層の厚みは10〜30μmが好ましい。
【0114】
最後に、樹脂スタンパを硬化樹脂組成物層から引き剥がす。引き剥がす方法としては、鉤状になったフックを使用して、樹脂スタンパの外周端又は内周囲端の一部を浮かせて、そこにエアブローを吹き付けることにより引き剥がすことができる。
以上のようにして、溝または凹凸形状を有し、光学多層記録情報媒体を構成する高い面精度の溝または凹凸形状を有する、基板及び硬化性樹脂組成物からなる積層体を得ることができる。
【0115】
第1誘電体膜、および第2誘電体膜には、記録再生用のレーザー光の適用波長に対して吸収能のないものが好ましく、具体的には消衰係数kの値が0.3以下である材料が望ましい。かかる材料としては、例えばZnS−SiO混合体(モル比約4:1)を挙げることができる。ZnS−SiO混合体以外にも、従来から光学記録媒体製造用に用いられている誘電体の材料をいずれも用いることができる。例えば、Al、Si、Ta、Ti、Zr、Nb、Mg、B、Zn、Pd、Ca、La、およびGe等の金属および半金属等の元素の窒化物、酸化物、炭化物、フッ化物、窒酸化物、窒炭化物、および酸炭化物等からなる層、並びにこれらを主成分とする材料を適用することができる。
【0116】
相変化記録層としては、レーザー光の照射により、可逆的な状態変化を生じる材料であり、特にアモルファス状態と結晶状態との可逆的相変化を生じる材料が好適であり、カルコゲン化合物あるいは単体のカルコゲン等、従来公知の材料をいずれも適用することができる。例えば、Te、Se、Ge−Sb−Te、Ge−Te、Sb−Te、In−Sb−Te、Ag−In−Sb−Te、Au−In−Sb−Te、Ge−Sb−Te−Pd、Ge−Sb−Te−Se、In−Sn−Se、Bi−Te、Bi−Se、Ge−Sb−Te−Bi、Ge−Sb−Te−Co、およびGe−Sb−Te−Auを含む系、あるいはこれらの系に窒素、酸素等のガス添加物を導入した系を挙げることができる。特に好適なのは、Sb−Te系を主成分とするものである。
【実施例】
【0117】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の製造例、実施例、および比較例において、各特性の測定法は次のとおりである。
【0118】
(1)粘度平均分子量
ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体の粘度平均分子量は、以下の方法で測定し、算出したものである。
次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mvを算出する。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c (但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−4 Mv0.83
c=0.7
【0119】
(2)ポリジオルガノシロキサン成分含有量
日本電子株式会社製 JNM−AL400を用い、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体のH−NMRスペクトルを測定し、二価フェノール(I)由来のピークの積分比とヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)由来のピークの積分比を比較することにより算出した。
【0120】
(3)ガラス転移温度
TAインスツルメント社製の熱分析システムDSC−2910を使用して、JISK7121に従い窒素雰囲気下(窒素流量:40ml/min)、昇温速度:20℃/minの条件下で測定した。
【0121】
(4)紫外線透過光量
算術平均粗さ(Ra)が0.03μmとしたキャビティ面を持つ金型を使用し、日本製鋼所製の射出成形機J−75E3を用いてシリンダ温度280℃、金型温度80℃の条件で、保圧時間20秒および冷却時間20秒にて幅50mm、長さ90mm、厚みがゲート側から3mm(長さ20mm)、2mm(長さ45mm)、1mm(長さ25mm)である3段型プレートを成形した。かかる3段型プレートの厚み2.0mm部における300〜400nmの光線透過率を日立製分光光度計U−4100型にて測定した。横軸:300〜400nmの範囲、縦軸:0〜100%の範囲で囲まれる長方形の面積に対する、横軸:300〜400nmの範囲における紫外線透過率の曲線、両縦軸、および横軸により囲まれる面積のかかる長方形の面積に対する割合(%)を算出し、紫外線透過光量とした。
【0122】
(5)接触角
上記成形した3段型プレートを温度23℃、湿度50%RHの室内に24時間静置させた後、同室内で厚み2.0mm部にマイクロシリンジを用いて液滴直径1.5mmのイオン交換水を滴下し、接触角を測定した。測定装置には協和界面科学製FACE接触計、型式CA−Aを用いた。
【0123】
(6)ポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズと規格化分散
(4)で作成した3段型プレートを用いて、厚み1.0mm部の端部より5mm、側部より5mmの交点におけるポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズと粒径分布(規格化分散)を、X線回折装置((株)リガク社製 RINT−TTRII)を用いて測定した。X線源として、CuKα特性エックス線(波長0.1541841nm)、管電圧50kV、管電流300mAで行った。小角散乱光学系は、Slit:1st 0.03mm、HS 10mm、SS 0.2mm、RS 0.1mmとした。測定は、非対称走査法(2θスキャン)により、FT 0.01°ステップ、4sec/step、走査範囲 0.06−3°として実施した。カーブフィッティングの解析には、(株)リガク社製 小角散乱解析ソフトウェア NANO−Solver(Ver.3.3)を使用した。解析はポリカーボネートポリマーのマトリックス中にポリジオルガノシロキサンの球状ドメインが分散した凝集構造であり、粒径分布のばらつきが存在すると仮定して、ポリカーボネートマトリックスの密度を1.2g/cm、ポリジオルガノシロキサンドメインの密度を1.1g/cmとし、粒子間相互作用(粒子間干渉)を考慮しない孤立粒子モデルにて実施した。
【0124】
(7)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
(4)で作成した3段型プレートを用いて、厚み1.0mm部の端部より5mm、側部より5mmの交点の深さ0.5mm部をミクロトーム(Leica Microsystems社製 EM UC6)で樹脂の流動方向に対して垂直に切削することにより超薄切片を作成し、グリッド(日本電子株式会社製 EM FINE GRID No.2632 F−200−CU 100PC/CA)に付着させ、日本電子株式会社製 JEM−2100を用いて加速電圧200kVで観察した。
【0125】
(8)滞留熱安定性
射出成形機(日本製鋼所(株)製, JSW J−75EIII)を用いシリンダー温度300℃で10分間滞留させたものとさせないものの上記3段型プレートをそれぞれ作成した。かかる3段型プレートの厚み2.0mm部におけるヘイズを日本電飾工業(株)製 Haze Meter NDH 2000を用い、ASTM D1003に準拠して測定し、その変化(Δヘイズ)を測定した。
【0126】
(9)樹脂スタンパの成形転写性
乾燥後のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体ペレットを用いて、シリンダ温度、金型温度を所定の温度に設定し、外径120mm、内径15mm、厚さ0.6mmの樹脂スタンパを射出圧縮成形により作成した。用いた射出成形機[住友重機械工業(株)製SD−40E]には、BD−R用のニッケル製メタルスタンパ(トラックピッチ0.32μmおよび深さ0.05μmのグルーブ(溝)を有する)を装着した。
かかる樹脂スタンパにおける、ニッケル製メタルスタンパから転写した平坦部からの凸部の高さを、原子間力顕微鏡(セイコー電子工業製SPI3800N)を用いて、樹脂スタンパの中心から半径25、40、および55mmの位置にて測定した。転写性は各3点の平均値を樹脂スタンパの凸高さとし、下記式により算出した。
【0127】
【数2】

【0128】
(10)樹脂スタンパの離型性
後述の“(C)光学多層記録媒体中間層の作成”の方法で、BD−R用のグルーブを有する光ディスク基板の作成、該基板上の光反射層の形成、該光反射層上への硬化性樹脂組成物(品番SD318)のスピンコート法による塗布、作成した樹脂スタンパのUV硬化樹脂層側への押し当て、並びに樹脂スタンパ側からの紫外線の照射を行い、厚さ約20μmの硬化性樹脂組成物層を得た。その後ピンセットを用いて樹脂スタンパの最外周部分を1cmの高さにつまみ上げ、得られた硬化性樹脂組成物から樹脂スタンパが剥離するか否かを確認した。かかるつまみ上げによって樹脂スタンパ全面が剥離したものを○、剥離しなかったものを×として表中に記載した。
【0129】
(11)樹脂スタンパの離型強度
樹脂スタンパを硬化性樹脂組成物層から離型させる際に、仮に大きな変形があっても割れないことを確認するため、以下の要領で変形させて割れの有無を確認した。即ち、上記(9)で作成した樹脂スタンパの中心部分を固定し、外周部を2cm持ち上げて樹脂スタンパの割れ発生状況の有無を確認した。10個の樹脂スタンパ成形品においてクラック等の割れが確認された枚数を記載した。
【0130】
(12)光学多層記録媒体中間層の外観評価
上記(10)の離型性評価と同様の操作により、硬化性樹脂組成物層から樹脂スタンパを離型し、得られた硬化性樹脂組成物層の外観を目視にて観察した。
【0131】
(13)光学多層記録媒体中間層の転写性
上記(10)の離型性評価と同様の操作により、硬化性樹脂組成物層から樹脂スタンパを離型し、得られた硬化性樹脂組成物層の平坦部からの溝深さ及びトラックピッチを、原子間力顕微鏡(セイコー電子工業製SPI3800N)を用いて、樹脂スタンパの中心から半径25、40、55mmの位置にて測定した。溝深さは各3点の平均値から下記式により算出した(尚、離型しなかったものは評価しなかった)。また、トラックピッチは、各溝の最大深さ点間の距離を測定した。
【0132】
【数3】

【0133】
[実施例1]
(A)ポリカーボネート樹脂の製造
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水21592部、48.5%水酸化ナトリウム水溶液3675部を入れ、式[4]で表される二価フェノール(I)として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)3897部(17.07モル)、およびハイドロサルファイト7.6部を溶解した後、塩化メチレン14565部(二価フェノール(I)1モルに対して10モル)を加え、撹拌下22〜30℃でホスゲン1900部を60分要して吹き込んだ。48.5%水酸化ナトリウム水溶液1131部、p−tert−ブチルフェノール133部を塩化メチレン800部に溶解した溶液を加え、攪拌しながら式[5]で表される二価フェノール(II)として下記構造のポリジオルガノシロキサン化合物(信越化学工業(株)製 X−22−1821)205部(0.067モル)を塩化メチレン800部に溶解した溶液を、二価フェノール(II)が二価フェノール(I)の量1モルあたり0.0004モル/minとなる速度で加えて乳化状態とした後、再度激しく撹拌した。かかる攪拌下、反応液が26℃の状態でトリエチルアミン4.3部を加えて温度26〜31℃において1時間撹拌を続けて反応を終了した。
【0134】
【化7】

【0135】
反応終了後有機相を分離し、塩化メチレンで希釈して水洗した後塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで温水を張ったニーダーに投入して、攪拌しながら塩化メチレンを蒸発し、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体のパウダーを得た。得られた樹脂パウダーをスクリュー径30mmのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α−35BW−3V)を用いて、最後部の第1投入口に供給した。シリンダ温度およびダイ温度は270℃に設定した。スクリュー回転数は250rpm、1時間当りの吐出量は15kg/時、並びにベントの真空度は10kPaで行った。尚、スクリューセグメントの構成は、ベントの位置の上流および下流側にニーディングディスクにより構成された混練ゾーンを有していた。押出されたストランドを水浴において冷却した後、ペレタイザーで切断しペレット化した。得られた樹脂ペレットは、数平均直径2.8mm、数平均長さ3.0mmであり、ミスカットは3ppmであった。かかる樹脂ペレットを120℃で6時間、熱風乾燥機にて乾燥した。該樹脂ペレットを用いて、粘度平均分子量、ポリジオルガノシロキサン成分含有量、ガラス転移温度ならびにポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体成形品の紫外線透過光量、接触角、ポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズ、ポリジオルガノシロキサンドメインサイズの規格化分散を測定し、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体成形品断面のTEM観察を実施した(図6)。さらに、滞留試験によるヘイズの変化を測定した。測定結果を表1に示す。
【0136】
(B)樹脂スタンパの製造
樹脂スタンパを以下の要領で作成した。120℃で5時間以上乾燥させた樹脂ペレットを用いて、シリンダ温度は360℃、金型温度は固定側、可動側ともに110℃、並びに型締圧力を20MPaの条件において、外径120mm、内径15mm、厚さ0.6mmのディスク形状樹脂スタンパを射出成形により成形した。射出成形機[住友重機械工業(株)製SD−40E]には、BD−R用のニッケル製メタルスタンパ(トラックピッチ0.32μmおよび深さ0.05μmのグルーブ(溝)を有する)を装着した。得られた樹脂スタンパの転写性、離型強度を測定し、表1に記載した。
【0137】
(C)光学多層記録媒体中間層の作成
光ディスク用ポリカーボネート樹脂(帝人化成製パンライト(登録商標)AD−5503)を用いてシリンダ温度360℃および金型温度115℃で外径120mm、内径15mm、厚さ1.1mmのディスク状基板を射出成形により作成した。射出成形機[住友重機械工業(株)製SD−40E]には、BD−R用のニッケル製メタルスタンパ(トラックピッチ0.32μmおよび深さ0.05μmのグルーブ(溝)を有する)を装着した。得られた基板の凹凸パターン側に高周波マグネトロンスパッタ装置(アネルバ製ILC3102型)によるDCスパッタリングによって0.1μmの金属薄膜を堆積させた。かかるスパッタリングは、Ndを5.0原子%、Biを1.0原子%含んだAg合金スパッタリングターゲット(コベルコ科研製)を用い、放電電力500Wで実施した。その他の成膜条件は、基板温度:22℃、アルゴンガス圧:2m、成膜速度:5nm/sec、背圧:<5×10−6とした。かかる光反射層の形成された基板をスパッタリング装置から取り出し、スピンコーターに取り付けた。ディスクを回転させながら、金属反射膜上に大日本インキ化学工業製の硬化性樹脂組成物(品番SD318)をスピンコート法により塗布し、樹脂スタンパを硬化樹脂組成物層側に押し当てた。その後、樹脂スタンパ側からFUSION製UVランプ(型式558434−D)にて紫外線を照射強度100mW/cmで3秒間照射し、約20μmの硬化性樹脂層を得た。樹脂スタンパの外径側からエアブローにより樹脂スタンパを硬化性樹脂組成物層から離型させた。得られた光学多層記録媒体中間層の凹凸パターンの深さおよびトラックピッチを測定し、結果を表1に記載した。
【0138】
[実施例2]
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを3880部用い、式[5]で表される二価フェノール(II)430部を塩化メチレン1600部に溶解した溶液を、二価フェノール(II)が二価フェノール(I)の量1モルあたり0.0008モル/minとなる速度で加えた以外は、実施例1と同様にポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体のパウダーを得た。得られた共重合体を実施例1と同様に樹脂スタンパを作成した。測定結果を表1に併記する。
【0139】
[実施例3]
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを3860部用い、式[5]で表される二価フェノール(II)681部を塩化メチレン2400部に溶解した溶液を、二価フェノール(II)が二価フェノール(I)の量1モルあたり0.0012モル/minとなる速度で加えた以外は、製造例1と同様にポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体のパウダーを得た。得られた共重合体を実施例1と同様に樹脂スタンパを作成した。測定結果を表1に併記する。
【0140】
[実施例4]
塩化メチレンを20387部(二価フェノール(I)1モルに対して14モル)用いた以外は、実施例1と同様にポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体のパウダーを得た。得られた共重合体を実施例1と同様に樹脂スタンパを作成した。測定結果を表1に併記する。
【0141】
[実施例5]
塩化メチレンを20387部(二価フェノール(I)1モルに対して14モル)用いた以外は、実施例2と同様にポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体のパウダーを得た。得られた共重合体を実施例1と同様に樹脂スタンパを作成した。測定結果を表1に併記する。
【0142】
[比較例1]
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水21592部、48.5%水酸化ナトリウム水溶液3675部を入れ、式[4]で表される二価フェノール(I)として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)3897部(17.07モル)、およびハイドロサルファイト7.6部を溶解した後、塩化メチレン14565部を加え、撹拌下22〜30℃でホスゲン1900部を60分要して吹き込んだ。48.5%水酸化ナトリウム水溶液1131部、p−tert−ブチルフェノール133部を塩化メチレン800部に溶解した溶液を加え、攪拌しながら式[5]で表される二価フェノール(II)として上記ポリジオルガノシロキサン化合物(信越化学工業(株)製 X−22−1821)205部(0.067モル)を塩化メチレン800部に溶解した溶液を、二価フェノール(II)が二価フェノール(I)の量1モルあたり0.5モル/minとなる速度で加えて乳化状態とした後、再度激しく撹拌した。かかる攪拌下、反応液が26℃の状態でトリエチルアミン4.3部を加えて温度26〜31℃において0.5時間撹拌を続けて反応を終了した。反応終了後有機相を分離し、塩化メチレンで希釈して水洗した後塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで温水を張ったニーダーに投入して、攪拌しながら塩化メチレンを蒸発し、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体のパウダーを得た。得られた共重合体を実施例1と同様に分析した。測定結果を表1に併記する。
【0143】
[比較例2]
ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体のかわりにビスフェノールAポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成製 パンライト(商標登録)AD−5503)を用いた。該材料を用いて実施例1と同様に樹脂スタンパを作成した。測定結果を表1に併記する。
【0144】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の樹脂スタンパは、半導体デバイスの回路、コイル・アンテナ類、マイクロ流体デバイス、フィルム型光導波路、バイオデバイス、モスアイパターン、フォトニック結晶デバイス、並びに情報記録媒体におけるトラックまたはビット等の信号形成などに利用できる。
【符号の説明】
【0146】
1 基板
2 第1相変化記録層
3 光透過性中間層
3a 硬化性樹脂組成物層
4 第2相変化記録層
5 カバー層
6 スタンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネートポリマーのマトリックス中にポリジオルガノシロキサンドメインが分散した凝集構造であり、該ポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズが5〜40nm、規格化分散が40%以下であるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体より形成された硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。
【請求項2】
(A)常温、常圧で厚み2mmの平滑平板を用いて測定された蒸留水の接触角が85〜105°であり、(B)波長300〜400nmの紫外光域における全ての波長域での平均紫外線透過率が100%の場合を紫外線透過光量が100%であるとしたとき、厚み2mmの平滑平板を用いて測定された紫外線透過光量が、60〜80%の範囲である請求項1記載の樹脂スタンパ。
【請求項3】
ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、下記式[1]で表されるポリカーボネートブロックと、下記式[3]で表されるポリジオルガノシロキサンブロックからなる共重合体である、請求項1記載の樹脂スタンパ。
【化1】

[上記式[1]において、R及びRは夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数3〜14のアリール基、炭素原子数3〜14のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる基を表し、それぞれ複数ある場合は同一でも異なっていても良く、e及びfは夫々1〜4の整数であり、Wは単結合もしくは下記式[2]で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。
【化2】

(上記式[2]においてR11,R12,R13,R14,R15,R16,R17及びR18は夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数3〜14のアリール基及び炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群から選ばれる基を表し、R19及びR20は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数3〜14のアリール基、炭素原子数6〜10のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる基を表し、複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、gは1〜10の整数、hは4〜7の整数である。)]
【化3】

(上記式[3]において、R、R、R、R、R及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12の置換若しくは無置換のアリール基であり、R及びR10は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基であり、pは自然数であり、qは0又は自然数であり、p+qは100未満の自然数である。XはC〜Cの二価脂肪族基である。)
【請求項4】
式[3]で表されるポリジオルガノシロキサンブロックが、(2−アリルフェノール)末端ポリジオルガノシロキサン、もしくは(2−メトキシ−4−アリルフェノール)末端ポリジオルガノシロキサンより誘導されたものである、請求項3記載の樹脂スタンパ。
【請求項5】
式[3]におけるp+qが5〜70である、請求項3記載の樹脂スタンパ。
【請求項6】
共重合体の全重量を基準にして式[3]で表されるポリジオルガノシロキサンブロックが0.1〜50重量%である、請求項3記載の樹脂スタンパ。
【請求項7】
式[3]におけるR、R、R、R、R、Rがメチル基である、請求項3記載の樹脂スタンパ。
【請求項8】
ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体は、あらかじめ水に不溶性の有機溶媒とアルカリ水溶液との混合液中における式[4]で表わされる二価フェノール(I)とホスゲンとの反応により、二価フェノール(I)のクロロホーメートおよび/または末端クロロホーメート基を有する二価フェノール(I)のカーボネートオリゴマーを含むクロロホーメート化合物の混合溶液を調製し、次いで、該混合溶液を攪拌しながら式[5]で表わされるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)を、該混合溶液の調整にあたり仕込まれた二価フェノール(I)の量1モルあたり、0.01モル/min以下の速度で加え、該ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)と該クロロホーメート化合物とを界面重縮合させて製造されたポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体である、請求項1記載の樹脂スタンパ。
【化4】

(式中、R、R、e、f及びWは前記と同じである。)
【化5】

(式中、R、R、R、R、R、R、R、R10、p、q及びXは前記と同じである。)
【請求項9】
水に不溶性の有機溶媒を、式[4]で表わされる二価フェノール(I)1モルあたり、8モル以上使用する、請求項8記載の樹脂スタンパ。
【請求項10】
樹脂スタンパは、表面に微細な凹凸パターンを有し、該凸部の高さまたは凹部の深さが10〜400nm、凹凸部のピッチが0.01〜1.0μmである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂スタンパ。
【請求項11】
樹脂スタンパは、マザースタンパを備えた金型キャビティ内に溶融状態の樹脂成分を充填するかもしくは開いた型に備えられたマザースタンパ上に溶融状態の樹脂成分を塗布することにより、該マザースタンパを転写して製造されてなる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂スタンパ。
【請求項12】
下記(i)〜(iv)の工程を含む、トラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを第1の表面に有する基体層(S−1)、並びに該基体層(S−1)の第1の表面側にトラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを有する硬化性樹脂組成物層(S−4)が該基体層上に形成されてなる光学多層記録媒体(Z’)の製造方法。
(i)トラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを第1の表面に有する基体層(S−1)上に未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)を積層し、基体層(S−1)および未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)からなる積層体(Z’−1)を得る工程、
(ii)積層体(Z’−1)の未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)側に、トラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを有する請求項1記載の樹脂スタンパ(S−3)を積層し、未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)の表面に、樹脂スタンパの有する微細な凹凸パターンを転写する工程、
(iii)硬化性樹脂組成物層(S−2)を硬化させ、基体層(S−1)、硬化した硬化性樹脂組成物層(S−4)、および樹脂スタンパ(S−3)からなる積層体(Z’−2)を得る工程、並びに
(iv)該積層体(Z’−2)から樹脂スタンパを除去し、基体層(S−1)および樹脂スタンパ表面の微細な凹凸パターンが転写された硬化性樹脂組成物層(S−4)からなる積層体(Z’)を得る工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−159340(P2011−159340A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18833(P2010−18833)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】