説明

樹脂成形体の製造方法

【課題】透明性、柔軟性、耐熱性、寸法安定性に優れるセルロース誘導体(a)を含む樹脂成形体を製造する方法を提供する。
【解決手段】セルロース誘導体(a)1〜80質量%及びビニル単量体(b)20〜99質量%(但し、セルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)の合計が100質量%)を含む混合物を注型重合して得られる樹脂成形体の製造方法であって、ビニル単量体(b)に対するセルロース誘導体(a)の膨潤率が2.0以上である樹脂成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、柔軟性、耐熱性、寸法安定性に優れる樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテート等のセルロース誘導体は、植物由来の非石油を原料とする樹脂であり、地球環境に及ぼす負荷が小さいことから、石油を原料とする樹脂の代替として、その活用が求められている。セルロース誘導体は、機械的特性や熱的特性に優れるものの、溶融温度と熱分解温度の差が小さいため、単独での溶融成形が困難であるという課題を有する。
【0003】
上記課題を解決するために、特許文献1では、セルロース誘導体の存在下でビニル単量体を懸濁重合した重合体を熱可塑性樹脂に配合して溶融成形し、セルロース誘導体を含む樹脂成形体を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−155626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に提案されている方法は、溶融成形により樹脂成形体を得るため、熱履歴が大きく、また、重合体の溶融流動性が低いため、溶融成形するために溶融流動性が高い熱可塑性樹脂を更に添加しなければならず、重合体単独での成形が困難であり、得られる樹脂成形体は耐熱性が充分ではない。
本発明の目的は、透明性、柔軟性、耐熱性、寸法安定性に優れる樹脂成形体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、セルロース誘導体(a)1〜80質量%及びビニル単量体(b)20〜99質量%(但し、セルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)の合計が100質量%)を含む混合物を注型重合して得られる樹脂成形体の製造方法であって、ビニル単量体(b)に対するセルロース誘導体(a)の膨潤率が2.0以上である樹脂成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法により得られる樹脂成形体は、透明性、柔軟性、耐熱性、寸法安定性に優れるため、自動車、家電、OA機器の部品、農業用資材等の各種用途において好適に用いることができる。また、樹脂材料において、石油由来の原料から非石油由来の原料への代替を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施例3及び比較例4で得られた樹脂成形体の貯蔵弾性率の図である。
【図2】図2は、実施例1及び参考例1で得られた樹脂成形体の貯蔵弾性率の図である。
【図3】図3は、実施例2及び参考例2で得られた樹脂成形体の貯蔵弾性率の図である。
【図4】図4は、実施例1で得られた樹脂成形体の線膨張係数の図である。
【図5】図5は、実施例2で得られた樹脂成形体の線膨張係数の図である。
【図6】図6は、実施例3で得られた樹脂成形体の線膨張係数の図である。
【図7】図7は、参考例1及び2で得られた樹脂成形体の線膨張係数の図である。
【図8】図8は、実施例1で得られた樹脂成形体の写真である。
【図9】図9は、実施例1で得られた樹脂成形体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明のセルロース誘導体(a)は、セルロースの官能基を化学反応により置換したものをいう。これらのセルロース誘導体の中でも、ビニル単量体(b)に対するセルロース誘導体(a)の膨潤率及び得られる樹脂成形体の透明性の観点から、セルロースの水酸基等をエステル化したセルロースエステルが好ましい。
【0011】
セルロースエステルとしては、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート等のセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが挙げられる。これらのセルロースエステルの中でも、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート等のセルロースアセテートが好ましく、セルロースジアセテートがより好ましい。
【0012】
セルロースアセテートのアセチル化度としては、40〜62%であることが好ましく、50〜61%であることがより好ましく、52〜59%であることが更に好ましい。
【0013】
これらのセルロース誘導体(a)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明のビニル単量体(b)は、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、シアノエチル(メタ)アクリレート、シアノブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート単量体;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート等のフッ素化(メタ)アクリレート単量体;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有単量体が挙げられる。これらのビニル単量体(b)の中でも、得られる樹脂成形体の透明性、柔軟性の観点から、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレートが好ましく、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレートがより好ましく、メチルアクリレートが更に好ましい、
これらのビニル単量体(b)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
尚、本発明において、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを示す。
【0015】
本発明のビニル単量体(b)に対するセルロース誘導体(a)の膨潤率は、以下の(イ)〜(ホ)に示す測定により求められる値である。
(イ)セルロース誘導体(a)1g及びビニル単量体(b)25mlを混合して、「セルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)の混合物」を調製し、25℃で1時間放置する。
(ロ)金網(100メッシュ)の質量(W)を秤量し、この金網を用いて、「セルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)の混合物」を濾過する。
(ハ)ビニル単量体(b)で膨潤したセルロース誘導体(a)が金網上に残った状態で質量(金網を含む)(W)を秤量し、ビニル単量体(b)で膨潤したセルロース誘導体(a)の質量(W−W)を求める。
(ニ)ビニル単量体(b)で膨潤したセルロース誘導体(a)を乾燥した後、質量(金網を含む)(W)を秤量し、ビニル単量体(b)を除去したセルロース誘導体(a)の質量(W−W)を求める。
(ホ)ビニル単量体(b)に対するセルロース誘導体(a)の膨潤率を、以下の式1により算出する。
膨潤率=((W−W)−(W−W))÷(W−W) (式1)
尚、この方法で求めたビニル単量体(b)で膨潤したセルロース誘導体(a)の質量は、セルロース誘導体(a)に付着したビニル単量体(b)の質量も含む。
【0016】
本発明のビニル単量体(b)に対するセルロース誘導体(a)の膨潤率は、2.0以上であり、得られる樹脂成形体の透明性の観点から、2.5以上であることがより好ましく、3.0以上であることが更に好ましく、3.5以上であることが特に好ましい。また、本発明のビニル単量体(b)に対するセルロース誘導体(a)の膨潤率は、25以下であることが好ましい。
【0017】
本発明のビニル単量体(b)に対するセルロース誘導体(a)の膨潤率を2以上となるセルロース誘導体(a)とビニル単量体(b)の組合せとしては、セルロース誘導体(a)としてセルロースジアセテート、ビニル単量体(b)として(メタ)アクリレート単量体であることが好ましく、セルロース誘導体(a)としてセルロースジアセテート、ビニル単量体(b)としてメチル(メタ)アクリレートであることがより好ましく、セルロース誘導体(a)としてセルロースジアセテート、ビニル単量体(b)としてメチルアクリレートであることが更に好ましい。
【0018】
本発明の混合物は、セルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)を公知の混練方法により調製することができる。本発明の混合物は、混合物の均一性及び型への封入の観点から、ビニル単量体(b)を加熱、混練しながら、30分以上の時間をかけて、セルロース誘導体(a)を少量ずつ加える方法が好ましい。
【0019】
本発明の混合物中のセルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)の含有率は、セルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)の合計100質量%中、セルロース誘導体(a)1〜80質量%、ビニル単量体(b)20〜99質量%である。
【0020】
セルロース誘導体(a)の含有率としては、セルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)の混合物の膨潤性及び型への封入の観点から、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、35%質量以下であることが更に好ましい。また、得られる樹脂成形体の耐熱性の観点から、3質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。
【0021】
本発明の樹脂成形体は、セルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)を含む混合物を注型重合することにより得られる。
【0022】
本発明の注型重合は、セルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)を含む混合物に、重合開始剤、必要に応じて、連鎖移動剤、架橋剤等の添加剤を添加して混合し、型に封入し、加熱、冷却、光照射等により行うことができる。
【0023】
型としては、得られる樹脂成形体の用途に応じて適宜設定することができ、例えば、フィルム、シート等の形状が挙げられる。具体的には、二枚のガラス板又は金属板の間に、セルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)を含む混合物を封入し、重合を行い、フィルム状又はシート状の樹脂成形体を得る方法、連続した鏡面ステンレスのベルトを上下に2枚並べ、ベルト間にセルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)を含む混合物を注入し、重合を行い、フィルム状又はシート状の樹脂成形体を得る方法が挙げられる。
【0024】
重合方法としては、公知の重合方法を用いることができ、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、遷移金属触媒重合が挙げられる。
【0025】
重合温度としては、ビニル単量体(b)や重合開始剤の種類等によって適宜設定することができるが、一般に0〜150℃であり、ビニル単量体(b)の重合転化率と得られる樹脂成形体の熱履歴低減の観点から、50〜100℃であることが好ましい。
重合時間としては、ビニル単量体(b)や重合開始剤の種類等によって適宜設定することができるが、一般に1〜10時間である。
【0026】
重合開始剤としては、例えば、t−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物;前記有機過酸化物又は前記過硫酸塩と還元剤との組合せによるレドックス系開始剤が挙げられる。
これらの重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
連鎖移動剤としては、例えば、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類が挙げられる。
これらの連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
架橋剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能性ビニル単量体が挙げられる。これらの架橋剤の中でも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
これらの架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
架橋剤の使用は、溶融成形では不可能であり、注型重合により樹脂成形体を得る本発明において非常に有効である。架橋剤を用いると、得られる樹脂成形体の耐熱性、寸法安定性に優れる。
架橋剤の使用量としては、ビニル単量体100質量部に対して、0.001〜10質量部であることが好ましく、0.1〜1質量部であることが好ましい。
架橋剤の使用量が0.001質量部以上であると、得られる樹脂成形体の耐熱性、寸法安定性に優れる。また、架橋剤の使用量が10質量部以下であると、得られる樹脂成形体の柔軟性に優れる。
【0029】
その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤;光安定剤;ガラス繊維、炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、ケナフ、バクテリアセルロース等のフィラー;染顔料が挙げられる。
【0030】
本発明の製造方法により得られる樹脂成形体は、透明性、柔軟性、耐熱性、寸法安定性に優れるため、自動車、家電、OA機器の部品、農業用資材等の各種用途において好適に用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
実施例及び比較例における各種物性評価は、以下の方法による。
【0032】
(1)ビニル単量体(b)に対するセルロース誘導体(a)の膨潤率
(イ)セルロース誘導体(a)1g及びビニル単量体(b)25mlを混合して、「セルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)の混合物」を調製し、25℃で1時間放置した。
(ロ)金網(100メッシュ)の質量(W)を秤量し、この金網を用いて、「セルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)の混合物」を濾過した。
(ハ)ビニル単量体(b)で膨潤したセルロース誘導体(a)が金網上に残った状態で質量(金網を含む)(W)を秤量し、ビニル単量体(b)で膨潤したセルロース誘導体(a)の質量(W−W)を求めた。
(ニ)ビニル単量体(b)で膨潤したセルロース誘導体(a)を乾燥した後、質量(金網を含む)(W)を秤量し、ビニル単量体(b)を除去したセルロース誘導体(a)の質量(W−W)を求めた。
(ホ)ビニル単量体(b)に対するセルロース誘導体(a)の膨潤率を、以下の式1により算出した。
膨潤率=((W−W)−(W−W))÷(W−W) (式1)
【0033】
(2)混合物の混合状態
得られた混合物の混合状態を目視し、以下の基準により判定した。
○:均一であった。
△:やや不均一であった。
×:不均一であった。
【0034】
(3)透明性(全光線透過率)
得られた樹脂成形体(厚み0.5mm)の全光線透過率を、JIS−K7261−1に準拠して測定した。
【0035】
(4)柔軟性、耐熱性
得られた樹脂成形体から試験片(厚み0.5mm、幅4mm、長さ15mm)を作製し、動的粘弾性測定装置(機種名「DMS200」、セイコーインスツル(株)製)を用い、引張モード、周波数1Hz、チャック間距離10mm、昇温速度5℃/分の条件で、貯蔵弾性率を測定した。
得られた樹脂成形体の柔軟性を、以下の基準により判定した。
◎:60℃での貯蔵弾性率が、0.1GPa以下。
○:60℃での貯蔵弾性率が、0.1GPaより高く2GPaより低い。
△:60℃での貯蔵弾性率が、2GPa以上。
得られた樹脂成形体の耐熱性を、以下の基準により判定した。
◎:200℃での貯蔵弾性率が、60℃での貯蔵弾性率の1/10以下であった。
○:150℃での貯蔵弾性率が、60℃での値の1/10以下であったが、200℃での貯蔵弾性率は、低過ぎて測定不能であった。
×:150℃での貯蔵弾性率は、低過ぎて測定不能であった。
【0036】
(5)寸法安定性(線膨張係数)
得られた樹脂成形体から試験片(厚み0.5mm、幅4mm、長さ15mm)を作製し、熱機械的分析装置(機種名「TMA/SS6100」、セイコーインスツル(株)製)を用い、引張モード、引張応力49mN、チャック間距離10mm、温度20〜150℃、昇温速度5℃/分の条件で、以下の式2により線膨張係数を算出した。
線膨張係数(ppm)= {チャック間距離変化(mm)÷チャック間距離初期値(mm)}÷温度変化(℃)×10 (式2)
尚、チャック間距離変化は、温度変化50℃での最大値をとした。
【0037】
[実施例1]
フラスコ内にメチルアクリレート75部を加え、50℃に昇温し、攪拌を行いながらセルロースジアセテート(商品名「L−20」、ダイセル化学工業(株)製、アセチル化度55%)25部を少量ずつ加えていき、均一な混合物を調製した。更に、フラスコ内にエチレングリコールジメタクリレート0.5部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5部を加え、攪拌した後、減圧下で脱泡し、二枚のガラス製平面板の間(間隔0.5mm)に封入し、加熱装置内で内容物が発泡しないように徐々に昇温し、加熱装置内の温度が60℃に到達後、4時間保持した。その後、80℃に昇温し、4時間保持して、重合を完了し、樹脂成形体(厚み0.5mmのフィルム)を得た。
【0038】
[実施例2〜3]
混合物を表1のようにした以外は、実施例1と同様に行った。
【0039】
[比較例1〜3]
混合物を表1のようにした以外は、実施例1と同様に混合物の調製を試みたが、均一な混合物は得られず、注型重合を行うことができなかった。
【0040】
[比較例4〜5]
混合物を表1のようにした以外は、実施例1と同様に行った。
【0041】
[比較例6]
攪拌装置、冷却管、加熱装置、温度センサー及び定量供給装置を備えた反応容器に、イオン交換水700部、メタクリル酸とメチルメタクリレートの共重合体のカリウム塩0.1部、セルロースジアセテート25部(商品名「L−20」、ダイセル化学工業(株)製、アセチル化度55%)を仕込んだ。攪拌を行いながら、60℃に昇温し、メチルアクリレート75部、エチレングリコールジメタクリレート0.5部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3部、t−ブチルパーオキシベンゾエート0.15部の混合物を、反応容器内に6時間かけて加えた。更に、1時間攪拌を行い、90℃に昇温し2時間攪拌を行った後、冷却し、固形物をろ過、洗浄、乾燥し、重合体を得た。
得られた重合体について、溶融成形により成形を試みたが、メルトフローレートが0.1g/10分未満(JIS K7210準拠、荷重10kg、温度280℃)であり溶融流動性が低く、樹脂成形体を得ることができなかった。尚、成形温度を280℃以上とすると、重合体が著しく劣化するため、280℃以上に温度を上げることができなかった。
【0042】
[参考例1〜2]
参考例として、市販の軟質アクリルフィルム(商品名「HBS010」、三菱レイヨン(株)製、厚み500μm)及び市販のポリエステルフィルム(商品名「E5000」、東洋紡(株)製、厚み500μm)を樹脂成形体として用いた。
【0043】
実施例1〜3、比較例4〜5及び参考例1〜2で得られた樹脂成形体の評価結果を、表1に示す。
尚、比較例4で得られた樹脂成形体は、機械強度に劣り、熱機械的分析ができなかった。また、比較例5で得られた樹脂成形体は、機械強度、柔軟性に劣り、動的粘弾性測定、熱機械的分析ができなかった。
【0044】
【表1】

表1中の略号を、以下に示す。
CDA:セルロースジアセテート(商品名「L−20」、ダイセル化学工業(株)製、アセチル化度55%)
CTA:セルローストリアセテート(商品名「LT−35」、ダイセル化学工業(株)製、アセチル化度61%)
MA :メチルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
ST :スチレン
【0045】
表1に示す通り、実施例1〜3で得られた樹脂成形体は、透明性、柔軟性、耐熱性、寸法安定性に優れていた。
セルロース誘導体(a)の含有率が高過ぎる比較例1及びビニル単量体(b)に対するセルロース誘導体(a)の膨潤率が低過ぎる比較例2〜3において、混合状態が不均一となり、注型重合を行うことができなかった。
セルロース誘導体(a)を含まない比較例4〜5で得られた樹脂成形体は、柔軟性、耐熱性に劣った。
比較例6で得られた懸濁重合で作製した重合体は、溶融流動性が低く溶融成形ができず、樹脂成形体を得ることができなかった。
市販のアクリルフィルムである参考例1の樹脂成形体は、耐熱性に劣った。市販のポリエステルフィルムである参考例2の樹脂成形体は、透明性、柔軟性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の製造方法により得られる樹脂成形体は、透明性、柔軟性、耐熱性、寸法安定性に優れることから、自動車、家電、OA機器の部品、農業用資材等の各種用途において好適に用いることができる。また、樹脂材料において、石油由来の原料から非石油由来の原料への代替を促進することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース誘導体(a)1〜80質量%及びビニル単量体(b)20〜99質量%(但し、セルロース誘導体(a)及びビニル単量体(b)の合計が100質量%)を含む混合物を注型重合して得られる樹脂成形体の製造方法であって、
ビニル単量体(b)に対するセルロース誘導体(a)の膨潤率が2.0以上である樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
混合物に、更に架橋剤を添加して注型重合して得られる請求項1記載の樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−51127(P2011−51127A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199584(P2009−199584)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】