説明

樹脂成形体及び成形回路板

【課題】 金属膜の密着強度が高い樹脂成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】 プラズマ処理により活性化された表面に乾式めっきで金属膜が形成される樹脂成形体に関する。窒素官能基を有する硬化剤を配合したエポキシ樹脂組成物で樹脂成形体を成形する。金属との化学反応性が高い窒素をエポキシ樹脂で成形される樹脂成形体の表面に導入することができ、樹脂成形体に対する金属膜の密着強度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に金属膜が形成されるエポキシ樹脂系の樹脂成形体及びこの樹脂成形体を基板として用いた成形回路板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、種々ある硬化剤を選択して硬化させることにより、一般的に機械的性質、耐水性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などに優れたものになり、接着剤、成形材料、積層板、半導体封止など幅広い用途に使用されている。またMID(Molded Interconnection Device)など樹脂成形品で作製される成形回路板は、比較的高い耐熱性(すなわち高いガラス転移温度)が求められ、特にICなどの半導体素子をフリップチップ実装する場合には、熱膨張率を低く抑える必要があって高いガラス転移温度が求められる。このような成形回路板の樹脂成形体の材料として適した樹脂の一つとしてエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0003】
一方、樹脂成形体を成形回路基板として用いる場合、樹脂成形体の表面にスパッタリングや真空蒸着など乾式めっき法で金属膜を形成し、この金属膜から回路を作製することが行なわれている。このように樹脂成形体の表面に形成した金属膜によって回路形成をする場合、回路の導通信頼性を高めるためには、樹脂成形体の表面に対する金属膜の密着強度を高く得る必要がある。そこで、樹脂成形体の表面をプラズマ処理して活性化した後、樹脂成形体の表面に乾式めっき法で金属膜を形成することによって、樹脂成形体の表面に対する金属膜の密着強度を向上させることが行なわれている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。
【特許文献1】特開2002−60522号公報
【特許文献2】特開2002-283498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように熱可塑性樹脂で成形された樹脂成形体の表面にプラズマ処理を行なう場合には、プラズマ処理による表面処理で金属膜の密着強度を向上させる効果を高く得ることが可能であるが、エポキシ樹脂で成形した樹脂成形体の場合には、プラズマ処理によって金属膜の密着強度を向上させる効果を高く得ることができず、金属膜の十分な密着強度を得ることが難しいという問題があった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、金属膜の密着強度が高いエポキシ樹脂系の樹脂成形体を提供することを目的とするものであり、また回路の密着信頼性が高い成形回路板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る樹脂成形体は、プラズマ処理により活性化された表面に乾式めっきで金属膜が形成される樹脂成形体であって、窒素官能基を有する硬化剤を配合したエポキシ樹脂組成物を成形・硬化させて得られたものであることを特徴とするものである。
【0007】
この発明によれば、金属との化学反応性が高い窒素をエポキシ樹脂で成形される樹脂成形体の表面に導入することができ、樹脂成形体に対する金属膜の密着強度を高めることができるものである。
【0008】
また請求項2の発明は、請求項1において、プラズマ処理は窒素雰囲気で行なわれるものであることを特徴とするものである。
【0009】
この発明によれば、樹脂成形体の表面の窒素量を増加させることができ、樹脂成形体に対する金属膜の密着強度をさらに高めることができるものである。
【0010】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、プラズマ処理は窒化処理がされた表面に行なわれるものであることを特徴とするものである。
【0011】
この発明によれば、樹脂成形体の表面の窒素量をさらに増加させることができ、樹脂成形体に対する金属膜の密着強度をさらに高めることができるものである。
【0012】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、窒素官能基を有する硬化剤は、アミノトリアジンノボラック系樹脂であることを特徴とするものである。
【0013】
この発明によれば、樹脂成形体に対する金属膜の密着強度を向上する効果を高く得ることができるものである。
【0014】
また請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、エポキシ樹脂組成物の主剤は、ジシクロペンタジエン−フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂から選ばれるものであることを特徴とするものである。
【0015】
この発明によれば、樹脂成形体に対する金属膜の密着強度を向上する効果を高く得ることができるものである。
【0016】
本発明の請求項6に係る成形回路板は、請求項1乃至5のいずれかに記載の樹脂成形体の表面に形成された金属膜によって、回路が形成されて成ることを特徴とするものである。
【0017】
この発明によれば、樹脂成形体の表面に高い密着強度で形成された金属膜によって、密着信頼性の高い回路を形成することができるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属との化学反応性が高い窒素をエポキシ樹脂で成形される樹脂成形体の表面に導入することができ、樹脂成形体に対する金属膜の密着強度を高めることができるものであり、密着信頼性の高い回路を有する成形回路板を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0020】
本発明においてエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、ビスフェノール型エポキシ樹脂あるい環式脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。前者のビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂を挙げることができる。また後者の環式脂肪族エポキシ樹脂としては、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂のエポキシ化物(化学式1参照)を挙げることができる。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂のエポキシ化物が好ましく、またグリシジルアミン型エポキシ樹脂(化学式2の構造含む)が好ましい。これらのものは、他のエポキシ樹脂よりも、金属膜との密着性が高く、また耐湿性や耐熱性がより向上する観点から好ましいものである。
【0021】
【化1】

【0022】
そして本発明では、このエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤として、窒素官能基を有するものを用いるものである。この窒素官能基を有する硬化剤としては、フェノール骨格とトリアジン骨格とを有するものが好ましく、このような化合物としては特に制限されるものではないが、トリアジン化合物とフェノール類とアルデヒド類とを縮合反応させて得られる、種々の化合物の混合物として用いることができるものである。
【0023】
ここで用いられるフェノール類としては、特に限定されるものではなく、公知の種々のフェノール類を単独又は2種以上併用して使用することができるものであるが、アミノ基含有トリアジン化合物との反応性に優れるので、フェノールを使用するのが好ましい。またアルデヒド類についても特に限定されるものではないが、ホルムアルデヒドを使用するのが好ましい。
【0024】
またトリアジン化合物としては、トリアジン環を含むものであればよく特に限定されるものではないが、次の一般式(3)で表される化合物、あるいはイソシアヌル酸が好ましく、これらを単独で、もしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0025】
【化2】

【0026】
(一般式(1)中、R,R,Rは、アミノ基、アルキル基、フェニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシルアルキル基、エーテル基、エステル基、酸基、不飽和基、シアノ基のいずれかを表す)
そしてトリアジン化合物とフェノール類とアルデヒド類とを縮合反応させて得られる化合物のなかでも、次の化学式(4)で示されるアミノトリアジンノボラックフェノール樹脂を硬化剤として用いるのが好ましい。硬化剤としてアミノトリアジンノボラックフェノール樹脂を使用することによって、他の硬化剤を用いる場合よりも、金属膜との密着性を向上させる効果を高く得ることができるものである。
【0027】
【化3】

【0028】
また硬化剤は水酸基当量が120〜160の範囲のものが好ましい。水酸基当量が120未満であると、硬化剤中の窒素官能基の含有量が少なくなるため、金属膜の密着性を大きく向上させることが難しい。逆に水酸基当量が160を超えると、硬化剤の硬化性能が低くなり、エポキシ樹脂を硬化させて得られる樹脂成形体の強度等の機械的特性に問題が生じるおそれがある。
【0029】
上記のエポキシ樹脂にこの硬化剤を配合することによって、エポキシ樹脂組成物を調製することができるものである。硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂を完全に硬化させることができる量であればよく、特に限定されるものではないが、用いるエポキシ樹脂の一分子中に含まれるエポキシ基の数と、硬化剤中の活性水素の数が当量付近となる量に設定するのが好ましい。
【0030】
上記の化合物を硬化剤として用いる場合、硬化促進剤を適宜配合することができる。硬化促進剤としては、公知のものを用いることができ、特に限定されるものではないが、例えばリン系化合物、第三級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等を挙げることができ、これらは単独で使用できるだけでなく、複数を併用することも可能である。
【0031】
エポキシ樹脂組成物にはさらに無機フィラーを配合することもできる。無機フィラーを配合することによって、樹脂成形体の機械的強度や硬度を高めることができるものであり、また線膨張率や吸水率を低減することができるものである。その配合量は特に制限されるものではないが、線膨張率の観点から、組成物中70〜95質量%の範囲が好ましい。このような無機フィラーとしては、特に制限されるものではないが、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス繊維、タルク、マイカ等を挙げることができる。
【0032】
エポキシ樹脂組成物には、上記の各成分の他に、必要に応じて、着色剤、難燃剤、離型剤、カップリング剤等の各種の添加剤を適宜配合することができる。
【0033】
そしてエポキシ樹脂組成物を任意の成形法で成形し、エポキシ樹脂を硬化させることによって、本発明に係る電気絶縁性の樹脂成形体を得ることができるものである。
【0034】
この樹脂成形体の表面に金属膜を形成するにあたっては、金属膜の形成に先立って、樹脂成形体の表面をプラズマ処理し、樹脂成形体の表面を化学的に活性化させる。プラズマ処理は、チャンバー内に一対の電極を対向配置し、一方の電極に高周波電源を接続すると共に他方の電極を接地して構成したプラズマ処理装置を用いて行なうことができる。そして樹脂成形体を電極間において一方の電極の上にセットし、チャンバー内を真空引きして10−4Pa程度に減圧した後、チャンバー内にプラズマ生成用の活性ガスを導入して流通させると共に、チャンバー内のガス圧を8〜15Paに制御し、次に高周波電源によって電極間に高周波電圧(RF:13.56MHz)を10〜100秒程度印加する。このとき、電極間の高周波グロー放電による気体放電現象によって、チャンバー内の活性ガスが励起され、陽イオンやラジカル等のプラズマが発生し、陽イオンやラジカル等がチャンバー内に形成され、これらの陽イオンやラジカルが樹脂成形体の表面に衝突することによって、樹脂成形体の表面を活性化することができるものであり、樹脂成形体とその表面に被覆される金属膜との密着性を高めることができるものである。
【0035】
ここで本発明では、プラズマ生成用の活性ガスとして窒素を用い、窒素雰囲気でプラズマ処理を行なうのが好ましい。このように窒素プラズマ処理を行なうことによって、樹脂成形体の表面の窒素含有量を増加させることができるものであり、金属膜の密着性を向上することができるものである。
【0036】
またこのように樹脂成形体の表面をプラズマ処理するに先立って、その前処理として、樹脂成形体の表面を窒化処理するのが好ましい。窒化処理は、樹脂成形体を加圧した窒素ガス雰囲気中に所定時間保持することによって行なうことができる。窒化処理の条件は特に限定されるものではないが、樹脂成形体を0.3〜0.7MPaの窒素ガス雰囲気で、0.5〜3時間保持することによって、窒化処理を行なうのが望ましい。このように樹脂成形体を窒化処理することによって、樹脂成形体の表面の窒素含有量を増加させることができるものであり、金属膜の密着性を向上することができるものである。
【0037】
そして上記のように樹脂成形体をプラズマ処理した後、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングなどから選ばれる乾式めっき法(物理蒸着法:PVD法)により、樹脂成形体の表面に金属膜を形成する。ここで、上記のように成形体をチャンバー内でプラズマ処理した後、このチャンバー内を大気開放することなく、スパッタリングや真空蒸着やイオンプレーティングなどを連続プロセスで行なうのが好ましい。金属膜を形成する金属としては、銅、ニッケル、金、アルミニウム、チタン、モリブデン、クロム、タングステン、スズ、鉛、黄銅、ニクロムなどの単体、あるいは合金を用いることができる。これらの中でも、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)や、これらを含む合金を用いるのが、樹脂成形体との密着性が高いので好ましい。
【0038】
スパッタリングとしては、例えばDCスパッタ方式を適用することができる。すなわち、まずチャンバー内に成形体を配置した後、真空ポンプによりチャンバー内の圧力が10−4Pa以下になるまで真空引きし、この状態でチャンバー内にアルゴン等の不活性ガスを0.1Paのガス圧になるように導入する。さらに500Vの直流電圧を印加することによって、銅ターゲットをボンバードし、膜厚200〜500nm程度の銅などの金属膜を成形体の表面に形成することができるものである。
【0039】
また真空蒸着としては、例えば電子線加熱式真空蒸着方式を適用することができる。すなわちまず真空ポンプによりチャンバー内の圧力が10−4Pa以下になるまで真空引きを行なった後、400〜800mAの電子流を発生させ、この電子流をるつぼの中の蒸着材料に衝突させて加熱すると蒸着材料が蒸発し、膜厚200nm程度の銅などの金属膜を成形体の表面に形成することができる。
【0040】
さらにイオンプレーティングで金属膜を形成するにあたっては、例えば、まずチャンバー内の圧力を10−4Pa以下になるまで真空引きを行ない、上記の真空蒸着の条件で蒸着材料を蒸発させると共に、成形体とるつぼの間に設けた誘導アンテナ部にアルゴン等の不活性ガスを導入し、ガス圧を0.05〜0.1Paとなるようにしてプラズマを発生させ、そして誘導アンテナに13.56MHzの高周波で500Wのパワーを印加すると共に、成形体を載せている電極に所望のバイアス電圧になるように高周波を印加することによって、膜厚200〜500nm程度の銅などの金属膜を成形体の表面に形成することができるものである。
【0041】
上記のようにして乾式めっき法で樹脂成形体の表面に金属膜を形成するにあたって、樹脂成形体は窒素を含有する硬化剤で硬化させたエポキシ樹脂からなるものであり、金属膜の金属との化学反応性が高い窒素を樹脂成形体の表面に導入することができ、樹脂成形体に対する金属膜の密着強度を高めることができるものである。そして樹脂成形体の表面は上記のようにプラズマ処理によって化学的に活性化されており、成形体の表面に対する金属膜の密着性をより高く得ることができるものである。
【0042】
特に、プラズマ処理を上記のように窒素プラズマ処理で行なうことによって、樹脂成形体の表面の窒素含有量を増加させることができるものであり、金属膜の密着性をより向上することができるものである。またプラズマ処理の前処理として、樹脂成形体を窒化処理することによって、樹脂成形体の表面の窒素含有量をさらに増加させることができるものであり、金属膜の密着性をさらに向上することができるものである。
【0043】
上記のように金属膜を形成した樹脂成形体を用いて、成形回路板を作製することができる。すなわち、上記のように樹脂成形体の表面に通常200〜500nm程度の厚みで銅などの金属膜を形成し、そしてこの金属膜で回路パターン形成をすることによって、成形回路板として仕上げることができるものである。ここで、樹脂成形体を三次元立体表面を有するように形成し、この立体表面に金属膜を形成した後に回路パターン形成することによって、MID等の立体回路板として仕上げることができるものである。回路パターン形成は例えばレーザ法によって行うことができる。すなわち、回路形成部分と回路非形成部分との境界に沿って金属膜にレーザ光を照射し、この境界部分の金属膜を除去することによって、回路形成部分の金属膜を回路パターンとして、金属膜の他の部分から分離する。次に、この回路形成部分の金属膜に通電して銅などの電解メッキを施して厚付けし、5〜20μm程度の厚みの導電層にする。次にソフトエッチング処理をして、回路非形成部分に残る金属膜を除去すると共に、電解メッキを施した回路形成部分は残存させることによって、所望のパターン形状の回路を形成した成形回路基板を得ることができるものである。この回路の表面には、さらにニッケルメッキや金メッキ等の導電層を数μm程度の厚みで設けるようにしてもよい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0045】
(実施例1)
エポキシ樹脂としてジシクロペンタジエン−フェノール樹脂のエポキシ化物(大日本インキ工業株式会社製「エピクロン HP−7200」、軟化点60℃、エポキシ当量255〜260g/eq)、硬化剤としてアミノトリアジンノボラック樹脂(大日本インキ工業株式会社製「フェノライト KA−7052−L2」、軟化点80℃、水酸基当量120g/eq)を用いた。そしてジシクロペンタジエン−フェノール樹脂のエポキシ化物とアミノトリアジンノボラック樹脂を低粘度化するためにそれぞれを100℃に加熱し、エポキシ樹脂:硬化剤=100:46の重量比になるように計量した後、ミキサーによって十分に均一に攪拌混合することによって、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0046】
次に、予め150℃に加熱された平板状金型(キャビテーの寸法30mm×60mm×2mm)に、トランスファ成形機によりプランジャ圧力7.8MPa(80kgf/cm)、成形時間180秒の条件で、エポキシ樹脂組成物を注入して成形し、その後、150℃で8時間のアフターキュアを行なうことによって、樹脂成形体を得た。
【0047】
次に、この樹脂成形体の表面をプラズマ処理し、さらにDCマグネトロンスパッタリング装置を使って金属膜を形成した。すなわち、まず成形体をプラズマ処理装置のチャンバー内にセットし、チャンバー内を真空引きして10−4Pa程度に減圧した後、チャンバー内に活性ガスとしてNを導入して流通させると共に、チャンバー内のガス圧を10Paに制御し、この後、電極間にパワー350Wの高周波電圧(RF:13.56MHz)を30秒間印加することによって、窒素雰囲気でプラズマ処理を行った。さらに、チャンバー内の圧力が10−4Pa以下になるまで真空引きし、この状態でチャンバー内にアルゴンガスを0.1Paのガス圧になるように導入した後、更に500Vの直流電圧を印加することによって、銅ターゲットをボンバードしてスパッタリングを行ない、樹脂成形体の表面に300nmの膜厚の銅の金属膜を形成した。
【0048】
この後、金属膜に回路形成部分と回路非形成部分との境界に沿ってレーザを照射してレーザ加工を施し、回路形成部分の金属膜に銅の電解めっきを施して厚付けし、ソフトエッチング処理して回路非形成部分に残る金属膜を除去することによって、幅5mm、厚み15μmのピール強度評価用回路を形成した。
【0049】
(実施例2)
実施例1において、樹脂成形体の表面をプラズマ処理するにあたって、活性ガスとしてNの代りにOを用いて酸素プラズマ処理を行なうようにした。その他は実施例1と同様にした。
【0050】
(実施例3)
実施例1において、樹脂成形体の表面をプラズマ処理するにあたって、活性ガスとしてNの代りにArガスを用いてアルゴンプラズマ処理を行なうようにした。その他は実施例1と同様にした。
【0051】
(実施例4)
実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物を調製し、樹脂成形体を成形した。そしてこの樹脂成形体を耐圧容器に入れて密閉し、耐圧容器に窒素ガスを封入して内圧を0.49MPa(5kg/cm)にまで高めた状態で1時間保持し、樹脂成形体を窒化処理した。そして耐圧容器を開放して樹脂成形体を取り出し、後は実施例1と同様にして、樹脂成形体をプラズマ処理し、さらに金属膜を形成し、ピール強度評価用回路を形成した。
【0052】
(実施例5)
実施例1において、樹脂成形体の表面に金属膜を形成するにあたって、まず膜厚100nmのNiスパッタリングを行なった後、膜厚200nmのCuスパッタリングを行なうようにした。その他は実施例1と同様にした。
【0053】
(実施例6)
エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(大日本インキ工業株式会社製「エピクロン 850S」、エポキシ当量190g/eq)、硬化剤として実施例1と同じアミノトリアジンノボラック樹脂を用いた。そしてビスフェノールA型エポキシ樹脂を80℃に、アミノトリアジンノボラック樹脂を100℃に加熱して低粘度化し、エポキシ樹脂:硬化剤=100:63の重量比になるように計量した後、ミキサーによって十分に均一に攪拌混合することによって、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0054】
後は、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を成形して樹脂成形体を作製し、また実施例1と同様にしてプラズマ処理をした後、金属膜を形成し、さらにピール強度評価用回路を形成した。
【0055】
(実施例7)
エポキシ樹脂として実施例1と同じジシクロペンタジエン−フェノール樹脂のエポキシ化物を、硬化剤としてアミノトリアジンノボラック樹脂(大日本インキ工業株式会社製「フェノライト LA−7751」、水酸基当量135g/eq)を用いた。そしてジシクロペンタジエン−フェノール樹脂のエポキシ化物とアミノトリアジンノボラック樹脂を低粘度化するためにそれぞれを100℃に加熱し、エポキシ樹脂:硬化剤=100:52の重量比になるように計量した後、ミキサーによって十分に均一に攪拌混合することによって、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0056】
後は、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を成形して樹脂成形体を作製し、また実施例1と同様にしてプラズマ処理をした後、金属膜を形成し、さらにピール強度評価用回路を形成した。
【0057】
(実施例8)
エポキシ樹脂として実施例1と同じジシクロペンタジエン−フェノール樹脂のエポキシ化物を、硬化剤としてアミノトリアジンノボラック樹脂(大日本インキ工業株式会社製「フェノライト EXB−9808」、水酸基当量151g/eq)を用いた。そしてジシクロペンタジエン−フェノール樹脂のエポキシ化物とアミノトリアジンノボラック樹脂を低粘度化するためにそれぞれを100℃に加熱し、エポキシ樹脂:硬化剤=100:58の重量比になるように計量した後、ミキサーによって十分に均一に攪拌混合することによって、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0058】
後は、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を成形して樹脂成形体を作製し、また実施例1と同様にしてプラズマ処理をした後、金属膜を形成し、さらにピール強度評価用回路を形成した。
【0059】
(実施例9)
エポキシ樹脂としてグリシジルアミン型のテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(チバガイギー社製「アラルダイト MY720」)を、硬化剤としてジアミノジフェニルスルホン(チバガイギー社製「ハードナー HY906」)を用いた。そしテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンとジアミノジフェニルスルホンを低粘度化するためにそれぞれを80℃に加熱し、エポキシ樹脂:硬化剤=100:120の重量比になるように計量した後、ミキサーによって十分に均一に攪拌混合することによって、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0060】
次に、平板状金型(キャビテーの寸法30mm×60mm×2mm)に、トランスファ成形機によりプランジャ圧力7.8MPa(80kgf/cm)、成形時間180秒の条件で、エポキシ樹脂組成物を注入し、120℃で1.5時間及び180℃で4時間の条件で硬化させることによって、樹脂成形体を得た。
【0061】
(比較例1)
エポキシ樹脂として実施例1と同じジシクロペンタジエン−フェノール樹脂のエポキシ化物を、硬化剤としてフェノールノボラック樹脂(大日本インキ工業株式会社製「フェノライト TD2131」、軟化点80℃、水酸基当量103g/eq)を用いた。そしてジシクロペンタジエン−フェノール樹脂のエポキシ化物とフェノールノボラック樹脂を低粘度化するためにそれぞれを100℃に加熱し、エポキシ樹脂:硬化剤=100:40の重量比になるように計量した後、ミキサーによって十分に均一に攪拌混合することによって、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0062】
後は、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を成形して樹脂成形体を作製し、また実施例1と同様にしてプラズマ処理をした後、金属膜を形成し、さらにピール強度評価用回路を形成した。
【0063】
(比較例2)
エポキシ樹脂として実施例6と同じビスフェノールA型エポキシ樹脂、硬化剤として比較例1と同じフェノールボラック樹脂を用いた。そしてビスフェノールA型エポキシ樹脂を80℃に、フェノールボラック樹脂を100℃に加熱して低粘度化し、エポキシ樹脂:硬化剤=100:54の重量比になるように計量した後、ミキサーによって十分に均一に攪拌混合することによって、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0064】
後は、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を成形して樹脂成形体を作製し、また実施例1と同様にしてプラズマ処理をした後、金属膜を形成し、さらにピール強度評価用回路を形成した。
【0065】
(比較例3)
実施例1において、樹脂成形体の表面をプラズマ処理することなく、樹脂成形体の表面に金属膜を形成するようした。その他は実施例1と同様にした。
【0066】
上記の実施例1〜9及び比較例1〜3で形成したピール強度評価用回路について、万能試験機(島津製作所製「EG Test」)を用いて、単位幅当たりのピール強度(90度ピール強度)を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
各実施例と比較例との比較にみられるように、硬化剤として窒素官能基を有する化合物を用いることよって、金属膜による回路のピール強度が向上することが確認される。また実施例1と実施例2,3の比較から、窒素プラズマ処理を行なうことによって、ピール強度が向上することが確認される。また実施例4にみられるように、窒化処理をすることによって、ピール強度がさらに向上することが確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理により活性化された表面に乾式めっきで金属膜が形成される樹脂成形体であって、窒素官能基を有する硬化剤を配合したエポキシ樹脂組成物を成形・硬化させて得られたものであることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項2】
プラズマ処理は窒素雰囲気で行なわれるものであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項3】
プラズマ処理は窒化処理がされた表面に行なわれるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂成形体。
【請求項4】
窒素官能基を有する硬化剤は、アミノトリアジンノボラック系樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂成形体。
【請求項5】
エポキシ樹脂組成物の主剤は、ジシクロペンタジエン−フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂から選ばれるものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂成形体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の樹脂成形体の表面に形成された金属膜によって、回路が形成されて成ることを特徴とする成形回路板。

【公開番号】特開2006−35657(P2006−35657A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219324(P2004−219324)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】