説明

樹脂成形品

【課題】本体部にヒンジ部を介して取付部が一体に成形された樹脂成形品において、ヒンジ部を中心として取付部を成形位置から取付位置まで回動した状態で、取付部を本体部に保持した場合でも、本体部の変形を抑制することが可能な樹脂成形品を提供する。
【解決手段】サイドマッドガード12は、本体部13と、該本体部13を車両に取り付けるための取付部17と、これらを連結するヒンジ部16とを一体に成形してなる。取付部17は、ヒンジ部16を中心として、成形された際の位置態様である成形位置と本体部13を車両に取り付ける際の位置態様である取付位置との間で回動可能になっている。本体部13には、取付部17が取付位置にある場合に、取付部17の係合部19と係合して該取付部17を取付位置に保持する保持部14が設けられている。保持部14は、少なくとも基端部が本体部13における保持部14以外の部位よりも肉厚が厚くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に取り付けられるサイドマッドガードなどの樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両には、種々の樹脂成形品が取り付けられている。このような樹脂成形品では、部品点数が増えるのを抑えるために、通常、その樹脂成形品の本体部に車両へ取り付けるための取付部を一体に成形している。しかしながら、こうした樹脂成形品の本体部に取付部を一体に成形する場合、この取付部がアンダーカットになることが多い。このため、従来から、本体部にヒンジ部を介して取付部をアンダーカットにならないように一体に成形した樹脂成形品が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
すなわち、この特許文献1に記載のプラスチックパネル(樹脂成形品)は、成形留め具(取付部)を、一体ヒンジ(ヒンジ部)を中心として、成形された際の成形位置から車両に取り付ける際の取付位置まで回動して保持した状態で、成形留め具を介して車両に取り付けるようにしている。
【特許文献1】特表2007−504032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のプラスチックパネルでは、成形留め具を取付位置まで回動した状態で、該成形留め具の突出部をプラスチックパネルにおける本体部の一部を構成する下方部分の凹部に係止することで、成形留め具を取付位置に保持している。このため、成形留め具には、一体ヒンジを中心として、成形位置に戻る方向に回動しようとする反力が働くこととなる。この結果、成形留め具によってプラスチックパネルの下方部分が引っ張られて、プラスチックパネルが変形してしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたものである。その目的とするところは、本体部にヒンジ部を介して取付部が一体に成形された樹脂成形品において、ヒンジ部を中心として取付部を成形位置から取付位置まで回動した状態で、取付部を本体部に保持した場合でも、本体部の変形を抑制することが可能な樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、本体部と、該本体部を車両に取り付けるための取付部と、該取付部と前記本体部とを連結するヒンジ部とを一体に成形してなり、前記取付部は、前記ヒンジ部を中心として、成形された際の位置態様である成形位置と前記本体部を前記車両に取り付ける際の位置態様である取付位置との間で回動可能とされ、前記本体部には、前記取付部が前記取付位置にある場合に、前記取付部と係合して該取付部を前記取付位置に保持する保持部が設けられ、前記保持部は、少なくとも基端部が前記本体部における保持部以外の部位よりも肉厚が厚くなるように設定されていることを要旨とする。
【0007】
通常、本体部における保持部に取付部を係合して該取付部を取付位置に保持すると、取付部が成形位置に戻ろうとする反力が保持部に対して加わるため、この反力によって本体部が変形されてしまう。この点、上記構成によれば、保持部の剛性が高められるので、取付部が成形位置に戻ろうとする反力が保持部に対して加わった場合でも、本体部の変形を抑制することが可能となる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記保持部は、該保持部の先端に向かうほど肉厚が薄くなった板状をなしており、前記保持部の先端は、前記本体部における保持部以外の部位と肉厚が同じになるように設定されていることを要旨とする。
【0009】
保持部全体を本体部における保持部以外の部位よりも肉厚が厚くなるように設定した場合には、成形時に保持部にヒケが発生するおそれがある。この点、上記構成によれば、成形時に保持部にヒケが発生するおそれをなくすことが可能となる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記取付部が前記取付位置にある場合に、前記取付部の先端部における前記保持部と対向する位置には、前記保持部と係合する係合部が設けられていることを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、係合部が取付部の先端部における保持部と対向する位置に設けられているため、取付部が取付位置にある場合に、係合部が保持部の先端部に係合される。このため、梃子の原理により、係合部が保持部の基端部に係合される場合に比べて、小さい力で取付部を取付位置に保持することが可能となる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の発明において、前記取付部には、該取付部を前記取付位置において前記保持部と係合した状態で位置決めするための位置決め部が設けられていることを要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、保持部により取付部を正確な取付位置において確実に保持することが可能となる。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記取付部が前記取付位置にある場合に、前記取付部の先端部における前記保持部と対向する位置には、前記保持部と係合する係合部が設けられており、前記保持部と前記係合部とが係合した場合に、前記保持部が前記係合部と前記位置決め部とによって挟持されることを要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、取付部が取付位置にある場合に、保持部と係合部とが係合すると、保持部が係合部と位置決め部とによって挟持されるため、取付部を正確な取付位置において確実かつ強固に保持することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、本体部にヒンジ部を介して取付部が一体に成形された樹脂成形品において、ヒンジ部を中心として取付部を成形位置から取付位置まで回動した状態で、取付部を本体部に保持した場合でも、本体部の変形を抑制することが可能な樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、「前後方向」をいう場合は、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。また、「上下方向」及び「左右方向」をいう場合は、特に説明がない限り、車両の進行方向を前方とした場合の上下方向及び左右方向をいうものとする。
【0017】
図1に示すように、車両11の左側面における下端部には、前後方向に延びる樹脂成形品としてのサイドマッドガード12が取着されている。なお、図面においては、左側のサイドマッドガード12のみが示されているが、車両11の右側面における下端部にも同様なサイドマッドガード12が取着されている。
【0018】
次に、サイドマッドガード12の構成について詳述する。
図2に示すように、サイドマッドガード12は、ポリプロピレン(PP)よりなり、右側、前側、及び後側が開口した断面視横U字状をなす長尺板状の本体部13を備えている。本体部13の下側端縁部には、右方向に延びる略四角板状の保持部14が、前後方向に等間隔をおいて複数設けられている。したがって、各保持部14は、本体部13の一部を構成している。
【0019】
保持部14は、先端側(図2では右側)に向かうほど前後方向の幅が徐々に狭くなっているとともに、先端側に向かうほど上下方向の肉厚が徐々に薄くなっている。この場合、保持部14は、基端部の上下方向の肉厚が本体部13における保持部14以外の部位よりも厚くなるように設定されているとともに、先端の上下方向の肉厚が本体部13における保持部14以外の部位と同じになるように設定されている。本実施形態では、保持部14の基端部の肉厚が3.3mmに設定されているとともに、保持部14の先端の肉厚(本体部13における保持部14以外の部位の肉厚)が3.0mmに設定されている。なお、保持部14における前後方向の両端部には、保持部14における他の部位よりも高さが高くなるように段差部15が設けられている。
【0020】
各保持部14間における本体部13の下側端縁部には、前後方向に延びるヒンジ部16を介して下側が開口した略四角箱状をなす取付部17がそれぞれ連結されている。各取付部17は、ヒンジ部16を回動中心として回動可能になっており、本体部13に一体成形されている。すなわち、本体部13、各ヒンジ部16、及び各取付部17は、一体成形されている。したがって、各ヒンジ部16は、いわゆるインテグラルヒンジとされている。
【0021】
取付部17は、本体部13を車両11(図1参照)に取り付けるためのものであり、右端部には前後一対の取付孔18が設けられている。すなわち、取付部17は、取付孔18において図示しないクリップにより、車両11(図1参照)の下面に固定されるようになっている。取付部17の前後方向の両側面における先端部(図2では右端部)には、取付部17の外側斜め下方に向かって延びる矩形板状の係合部19が設けられている。各取付部17の係合部19は、該各係合部19と対応する各保持部14の段差部15の上面とそれぞれ係合可能になっている。
【0022】
そして、取付部17の係合部19が対応する保持部14の段差部15の上面とそれぞれ係合したときの取付部17の位置態様が、本体部13を車両11(図1参照)に取り付ける際の取付部17の取付位置(図2に示す取付部17の位置)とされている。また、取付部17の前後方向の両側壁の下端には、前後方向において取付部17の外側に向かって延びる矩形板状の位置決め部20が設けられている。そして、取付部17が取付位置にある場合に、各取付部17の位置決め部20の上面は該各位置決め部20と対応する各保持部14の段差部15の下面に当接するようになっている。この場合、各取付部17の係合部19と位置決め部20とにより、これらと対応する各保持部14の段差部15がそれぞれ挟持されるようになっている。
【0023】
また、サイドマッドガード12は、射出成形によって製造されるものであり、成形された際には、図3に示すように、取付部17が保持部14に対して直交するように下方に延びた状態になっている。そして、この取付部17が保持部14に対して直交するように下方に延びた状態での取付部17の位置態様が、取付部17の成形位置(図3に示す取付部17の位置)とされている。したがって、サイドマッドガード12は、取付部17が、ヒンジ部16を回動中心として、取付位置と成形位置との間で回動可能になっている。
【0024】
次に、上記したサイドマッドガード12を車両11に取り付ける場合の作用について説明する。
さて、図3に示すように、取付部17が成形位置にある状態で成形されたサイドマッドガード12を車両11に取り付ける場合には、まず、取付部17を回動させて、該取付部17を取付位置に移動させる。すなわち、取付部17を成形位置から取付位置に移動しようとすると、係合部19が保持部14の段差部15の下面における先端部に当接する。引き続き、取付部17を取付位置に向かって押圧すると、係合部19が取付部17の内側へ撓む。
【0025】
引き続き、取付部17を取付位置に向かって押圧し、係合部19が保持部14の段差部15よりも上側に位置するようになると、係合部19が内側に撓んでいた状態から元の形状に戻る。これにより、図4に示すように、係合部19が保持部14の段差部15の上面に係合する。このとき、取付部17の位置決め部20の上面は、保持部14の段差部15の下面に当接する。したがって、保持部14の段差部15は、取付部17の係合部19と位置決め部20とにより挟持される。これにより、取付部17は、取付位置に位置決めされた状態で保持される。
【0026】
このとき、取付部17が成形位置に戻ろうとする反力が保持部14に加わることで本体部13が変形しようとする。この点、本実施形態では、保持部14の基端部の肉厚が本体部13における保持部14以外の部位よりも厚くなっているため、保持部14の剛性は本体部13における保持部14以外の部位よりも高くなっている。したがって、取付部17が成形位置に戻ろうとする反力が保持部14に加わった際の本体部13の変形が抑制される。
【0027】
その後、サイドマッドガード12は、本体部13を車両11の左側面における下端部にタッピングスクリューによって螺着するとともに、取付部17を取付孔18においてクリップにより車両11の下面に固定することで、車両11に取り付けられる。なお、車両11の右側面における下端部にも、上記と同様の手順によりサイドマッドガード12が取り付けられる。
【0028】
以上詳述した実施形態によれば次のような効果が発揮される。
(1)サイドマッドガード12は、取付部17が保持部14によって取付位置に保持された状態では、取付部17が成形位置に戻ろうとする反力が保持部14に対して加わるため、この反力によって本体部13が変形される。この点、本実施形態のサイドマッドガード12では、保持部14の基端部が本体部13における保持部14以外の部位よりも肉厚が厚くなっているため、保持部14の剛性が高くなっている。このため、取付部17が成形位置に戻ろうとする反力が保持部14に対して加わっても、本体部13の変形を抑制することができる。したがって、製品としてのサイドマッドガード12を、設計通りの形状にすることができる。
【0029】
(2)サイドマッドガード12は、保持部14全体を本体部13における保持部14以外の部位よりも肉厚が厚くなるようにした場合には、成形時に保持部14にヒケが発生するおそれがある。この点、本実施形態のサイドマッドガード12では、保持部14が該保持部14の先端に向かうほど肉厚が薄くなっており、該保持部14の先端が本体部13における保持部14以外の部位と肉厚が同じになっている。このため、サイドマッドガード12の成形時に保持部14にヒケが発生するおそれをなくすことができる。
【0030】
(3)サイドマッドガード12は、係合部19が取付部17の先端部における保持部14と対向する位置に設けられているため、取付部17が取付位置にある場合に、係合部19が保持部14の段差部15の先端部に係合される。このため、梃子の原理により、係合部19が保持部14の段差部15の基端部に係合される場合に比べて、小さい力で取付部17を取付位置に保持することができる。
【0031】
(4)サイドマッドガード12は、取付部17を取付位置において位置決めするための位置決め部20が設けられているため、保持部14により取付部17を正確な取付位置において確実に保持することができる。また、サイドマッドガード12は、取付部17が取付位置よりも上方に向かって過剰に押し上げられた場合でも、位置決め部20が保持部14の段差部15に当接するため、取付部17が取付位置からずれることを抑制することができる。
【0032】
(5)サイドマッドガード12は、取付部17が取付位置にある場合に、保持部14の段差部15が取付部17の係合部19と位置決め部20とによって挟持されるため、取付部17を正確な取付位置において確実かつ強固に保持することができる。
【0033】
(変更例)
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・位置決め部20は、省略してもよい。
【0034】
・係合部19を保持部14側に設けるようにしてもよい。
・保持部14全体を本体部13における保持部14以外の部位よりも肉厚が厚くなるようにしてもよい。
【0035】
・保持部14には、必ずしも段差部15を設ける必要はない。すなわち、保持部14をフラットな形状にしてもよい。
・上記実施形態では樹脂成形品をサイドマッドガード12に具体化したが、樹脂成形品をサイドモール、オーバーフェンダ、バンパーなどの車両外装用部品に具体化してもよいし、あるいはグラブボックスなどの車両内装用部品に具体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施形態において車両にサイドマッドガードが取り付けられた状態を示す側面図。
【図2】実施形態のサイドマッドガードの一部を示す斜視図。
【図3】実施形態のサイドマッドガードにおいて、取付部が成形位置にある状態を示す要部拡大側面図。
【図4】実施形態のサイドマッドガードにおいて、取付部が取付位置にある状態を示す要部拡大側面図。
【符号の説明】
【0037】
11…車両、12…樹脂成形品としてのサイドマッドガード、13…本体部、14…保持部、16…ヒンジ部、17…取付部、19…係合部、20…位置決め部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、該本体部を車両に取り付けるための取付部と、該取付部と前記本体部とを連結するヒンジ部とを一体に成形してなり、
前記取付部は、前記ヒンジ部を中心として、成形された際の位置態様である成形位置と前記本体部を前記車両に取り付ける際の位置態様である取付位置との間で回動可能とされ、
前記本体部には、前記取付部が前記取付位置にある場合に、前記取付部と係合して該取付部を前記取付位置に保持する保持部が設けられ、
前記保持部は、少なくとも基端部が前記本体部における保持部以外の部位よりも肉厚が厚くなるように設定されていることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
前記保持部は、該保持部の先端に向かうほど肉厚が薄くなった板状をなしており、
前記保持部の先端は、前記本体部における保持部以外の部位と肉厚が同じになるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形品。
【請求項3】
前記取付部が前記取付位置にある場合に、前記取付部の先端部における前記保持部と対向する位置には、前記保持部と係合する係合部が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂成形品。
【請求項4】
前記取付部には、該取付部を前記取付位置において前記保持部と係合した状態で位置決めするための位置決め部が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の樹脂成形品。
【請求項5】
前記取付部が前記取付位置にある場合に、前記取付部の先端部における前記保持部と対向する位置には、前記保持部と係合する係合部が設けられており、
前記保持部と前記係合部とが係合した場合に、前記保持部が前記係合部と前記位置決め部とによって挟持されることを特徴とする請求項4に記載の樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−279935(P2008−279935A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126927(P2007−126927)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】