説明

樹脂成形方法及び樹脂製品

【課題】樹脂製品の軸孔のエッジにおけるクラックの発生を防止すること。
【解決手段】軸孔を有する円盤形状の樹脂製品を成形する樹脂成形方法であって、軸孔は、その内周に軸線方向に伸びるエッジを含む。金型18,19等のキャビティ29において、軸孔の一端に対応する部分を覆うように樹脂溜まり部31が設けられる。樹脂溜まり部31の中央に外部から溶融樹脂を注入するためのスプルー30が設けられる。樹脂溜まり部31の反スプルー側が複数の脚31aに分岐し、各脚31aが軸孔のエッジの対応部分から離れて配置される。そして、スプルー30からガラス繊維を配合した溶融樹脂を樹脂溜まり部31に注入し、樹脂溜まり部31の各脚31aからキャビティ29に溶融樹脂を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸孔を有する円盤形状の樹脂製品を成形する樹脂成形方法及びその樹脂成形方法により成形される樹脂製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として、例えば、下記の特許文献1に記載される樹脂製のインペラの製造方法を挙げることができる。この技術は、中心に軸孔を有する円盤形状をなす樹脂製品の製造方法に係り、キャビティの軸孔に対応する部分の周縁部分にリング状に開口する樹脂溜まり部を設け、その樹脂溜まり部の中央部にピンポイントゲートを設ける。そして、溶融樹脂は、ピンポイントゲートから樹脂溜まり部に注入された後、この樹脂溜まり部からリング状のゲート部を通ってキャビティ内に充填されるようになっている。このとき、溶融樹脂は、キャビティの内側から外側へ向けて放射状にほぼ均等に流れ、ウエルドラインの発生を効果的に抑え、平面度及び強度をアップさせるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−181884号公報
【特許文献2】特開平9−158885号公報
【特許文献3】特開平10−259789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の製造方法につき、成形される樹脂製品の軸孔の形状を断面D形状にすることが考えられる。また、上記した樹脂溜まり部に注入された溶融樹脂は、樹脂成形後に余剰肉として切断加工する必要がある。従って、断面D形状をなす軸孔では、その内周に2本のエッジがあることから、余剰肉の切断加工時に、成形品の応力が変化してエッジにてクラックが発生するおそれがあった。
【0005】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、樹脂製品の軸孔のエッジにおけるクラックの発生を防止できる樹脂成形方法及び樹脂製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、軸孔を有する円盤形状の樹脂製品を成形する樹脂成形方法であって、軸孔は、その内周に軸線方向に伸びるエッジを含み、金型のキャビティにおいて、軸孔の一端に対応する部分を覆うように樹脂溜まり部が設けられ、樹脂溜まり部に外部から溶融樹脂を注入するためのスプルーが設けられ、樹脂溜まり部の反スプルー側が複数の脚に分岐し、各脚が軸孔のエッジに対応する部分から離れて配置されており、スプルーからガラス繊維を配合した溶融樹脂を樹脂溜まり部に注入し、樹脂溜まり部の各脚からキャビティに溶融樹脂を充填するようにしたことを趣旨とする。
【0007】
上記発明の構成によれば、スプルーから樹脂溜まり部へ注入されるガラス繊維を配合した溶融樹脂が、樹脂溜まり部の複数に分岐した脚からキャビティに充填されるので、軸孔の周囲の樹脂流動及びガラス繊維の配向が軸孔の軸線方向に対し斜めに向きやすくなり、軸孔の周囲の樹脂収縮バランスが良くなる。また、樹脂溜まり部の各脚が軸孔のエッジに対応する部分から離れて配置されるので、エッジ付近の樹脂流動及びガラス繊維の配向がエッジに対して斜めに向きやすくなる。更に、樹脂溜まり部を複数の脚に分岐したので、分岐した分だけ樹脂溜まり部の容積が小さくなる。
【0008】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、キャビティに充填された溶融樹脂を冷却した後、金型を型開きして樹脂成形品を取り出した後、樹脂溜まり部にて成形された余剰肉を切断加工することを趣旨とする。
【0009】
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、樹脂溜まり部にて成形された余剰肉が切断加工により取り除かれ、軸孔の両端が開放される。
【0010】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、樹脂溜まり部の脚は少なくとも3つであることが好ましい。
【0011】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一つに記載の樹脂成形方法により成形される樹脂製品であって、軸孔のエッジに対してガラス繊維の配向が斜め又は直角をなすことを趣旨とする。
【0012】
上記発明の構成によれば、軸孔のエッジに対してガラス繊維の配向が斜め又は直角をなすので、エッジの周方向に対する強度が向上し、エッジにかかる応力も低減される。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、樹脂製品の軸孔のエッジにおけるクラックの発生を防止することができる。また、樹脂溜まり部に残る溶融樹脂量を低減させることができ、樹脂製品のために使用される樹脂材料の歩留まりを向上させることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、軸孔にモータ等の回転軸を貫通させることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、樹脂製品の軸孔のエッジにおけるクラックの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係り、インペラを示す平面図。
【図2】同実施形態に係り、射出成形用金型を含む金型装置を概略的に示す断面図。
【図3】同実施形態に係り、金型装置の一部につき、図2の鎖線四角の部分を拡大して示す断面図。
【図4】同実施形態に係り、金型装置の一部を示す、図3のA−A線断面図。
【図5】同実施形態に係り、樹脂成形方法の手順を示すフローチャート。
【図6】同実施形態に係り、図3に示すキャビティ等に溶融樹脂を注入・充填した状態を示す断面図。
【図7】同実施形態に係り、離型した樹脂成形品の中央部分を示す平面図。
【図8】同実施形態に係り、樹脂成形品の中央部分を示す、図7のB−B線断面図。
【図9】同実施形態に係り、樹脂成形品の中央部を破断して示す斜視図。
【図10】同実施形態に係り、ゲートを取り除いた状態の樹脂成形品の中央部分を示す平面図。
【図11】同実施形態に係り、樹脂成形品の中央部分を示す、図10のC−C線断面図。
【図12】同実施形態に係り、キャビティの中央部分におけるガラス繊維の配向(樹脂流動の方向)につきシミュレーション結果を示す概念図。
【図13】同実施形態に係り、図12の概念図を少し回転させた状態で示す概念図。
【図14】従来の樹脂溜まり部とリング状のゲートを使用した従来例に係り、ガラス繊維の配向(樹脂流動の方向)を示す、図12に準ずる概念図。
【図15】従来の樹脂溜まり部とリング状のゲートを使用した従来例に係り、ガラス繊維の配向(樹脂流動の方向)を示す、図13に準ずる概念図。
【図16】ピンポイントゲートを使用した従来例に係り、ガラス繊維の配向(樹脂流動の方向)を示す、図12に準ずる概念図。
【図17】ピンポイントゲートを使用した従来例に係り、ガラス繊維の配向(樹脂流動の方向)を示す、図13に準ずる概念図。
【図18】第1実施形態に係り、樹脂成形品の軸孔の周辺における変形量のシミュレーション結果を断面により示す概念図。
【図19】同実施形態に係り、軸孔の周辺を示す図18のD−D線断面の概念図。
【図20】従来の樹脂溜まり部とリング状のゲートを使用した従来例に係り、樹脂成形品の軸孔の周辺を示す図18に準ずる概念図。
【図21】従来の樹脂溜まり部とリング状のゲートを使用した従来例に係り、軸孔の周辺を示す図20のE−E線断面の概念図。
【図22】ピンポイントゲートを使用した従来例に係り、樹脂成形品の軸孔の周辺を示すを示す図18に準ずる概念図。
【図23】ピンポイントゲートを使用した従来例に係り、軸孔の周辺を図22の上側から見た状態を示す平面の概念図。
【図24】第1実施形態に係り、樹脂成形品の軸孔の周辺を破断した体積収縮率のシミュレーション結果を断面により示す概念図。
【図25】従来の樹脂溜まり部とリング状のゲートを使用した従来例に係り、体積収縮率のシミュレーション結果を示す図24に準ずる概念図。
【図26】ピンポイントゲートを使用した従来例に係り、体積収縮率のシミュレーション結果を示す図24に準ずる概念図。
【図27】第2実施形態に係り、金型装置の一部を示す、図3に準ずる断面図。
【図28】同実施形態に係り、ゲート部を示す、図27のF−F線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下、本発明における樹脂成形方法及び樹脂製品を具体化した第1実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
この実施形態では、本発明の樹脂製品を、燃料ポンプに使用される「インペラ」に、また、本発明の樹脂成形方法を、そのインペラを樹脂により射出成形する樹脂成形方法に具体化して説明する。
【0019】
図1に、インペラ1を平面図により示す。このインペラ1は、燃料ポンプの重要機能部品であり、樹脂(PPS)を主材料として円盤形状に形成される。インペラ1は、その中央に、断面D形状の軸孔2と、軸孔2の周囲に配置された3つの連通孔3を含むボス4を備える。軸孔2は、その内周に軸線方向に伸びる2本のエッジ2aを含む。また、インペラ1は、その外周部に沿って配列された多数の羽根5を備える。
【0020】
図2に、この実施形態の射出成形用金型を含む金型装置11を概略的に断面図により示す。図2は、この金型装置11の型締め状態を示す。この金型装置11は、射出成形用の一対をなす第1の金型18と第2の金型19を備える。第2の金型19には、その中心部分に、上記した軸孔2及び連通孔3に対応する入れ子26,27が組み付けられる。また、第2の金型19には、成形後に樹脂成形品を取り出すためのエジェクトピン28が組み付けられる。
【0021】
図2に示すように、各金型18,19及び各入れ子26,27が互いに型締めされた状態で、両金型18,19及び入れ子26,27の間に、樹脂成形品であるインペラ1を成形するための空間(キャビティ)29が形成される。また、第1の金型18には、キャビティ29に溶融樹脂を注入・充填するためのスプルー30が形成される。この実施形態では、樹脂材料として、ガラス繊維が配合された樹脂(PPS)が使用される。
【0022】
図3に、金型装置11の一部につき、図2の鎖線四角S1の部分を拡大して断面図により示す。図4に、金型装置11の一部につき、図3のA−A線断面図により示す。図3,4に示すように、金型装置11のキャビティ29において、インペラ1の中央部分に対応する部分には、軸孔2の一端に対応する部分、すなわち、入れ子26の先端に対応する部分に、入れ子26の先端を覆うように樹脂溜まり部31が設けられる。上記したスプルー30は、この樹脂溜まり部31の上側中央に対し、垂直に交わるように設けられる。図4に示すように、樹脂溜まり部31の反スプルー側は複数(この実施形態では3つ)の脚31aに分岐して形成される。そして、各脚31aが、軸孔2のエッジ2aに対応する部分、すなわち、入れ子26の外周のエッジ26aから所定の距離以上離れて配置される。
【0023】
次に、上記した金型装置11を使用して行われるインペラ1の樹脂成形方法について説明する。図5に、その樹脂成形方法の手順をフローチャートにより示す。図6に、図3に示すキャビティ29等に溶融樹脂10を注入・充填した状態を断面図により示す。
【0024】
最初に、図5(1)に示すように、型締めを行う。この型締め状態では、図2,3に示すように、両金型18,19と、各入れ子26,27との間にキャビティ29が形成される。
【0025】
次に、図5(2)に示すように、溶融樹脂10の注入・充填を行う。すなわち、図6に示すように、キャビティ29に対し、スプルー30を通じてガラス繊維を配合した溶融樹脂10を注入・充填する。このとき、スプルー30から溶融樹脂10を樹脂溜まり部31に注入し、樹脂溜まり部31の各脚31aからキャビティ29に溶融樹脂を充填するようにする。
【0026】
その後、図5(3)に示すように、冷却を行う。すなわち、キャビティ29に注入・充填した溶融樹脂10が冷えて固まるのを待つ。
【0027】
そして、冷却が完了すると、図5(4)に示すように、型開きを行う。すなわち、型開きのために可動側の金型である第2の金型19を後退させる。
【0028】
その後、図5(5)に示すように、離型を行う。すなわち、エジェクトピン28を固定側の金型である第1の金型18の方向へ突き出すことにより、樹脂成形品を第2の金型19の先端部から抜き取る。
【0029】
図7に、離型した樹脂成形品41の中央部分を平面図により示す。図8に、樹脂成形品41の中央部分を、図7のB−B線断面図により示す。図9に、樹脂成形品41の中央部を破断して斜視図により示す。図7〜図9に示すように、樹脂成形品41のボス4には、樹脂溜まり部31に対応する余剰肉(ゲート)42が残存している。
【0030】
次に、図5(6)に示すように、ゲート加工を行う。すなわち、ゲート42を切断加工により除去する。図10に、ゲート42を取り除いた状態の樹脂成形品41の中央部分を平面図により示す。図11に、樹脂成形品41の中央部分を、図10のC−C線断面図により示す。
【0031】
その後、図5(7)に示すように、その他のバリ取りを行い、図5(8)に示すように、「アニール」、すなわち樹脂成形品41の再加熱を行い、これによってインペラ1の完成品を得る。
【0032】
上記したように、この実施形態では、断面D形状の軸孔2を有する円盤形状のインペラ1を上記した樹脂成形方法により成形する。ここで、軸孔2は、その内周に軸線方向に伸びる2本のエッジ2aを含む。金型装置11のキャビティ29において、軸孔2の一端に対応する部分、すなわち入れ子26の先端に対応する部分に、その入れ子26の先端を覆うように樹脂溜まり部31が設けられる。この樹脂溜まり部31の中央には、外部から溶融樹脂10を注入するためのスプルー30が設けられる。また、樹脂溜まり部31の反スプルー側は、3つの脚31aに分岐して形成される。各脚31aは、軸孔2のエッジ2aに対応する部分、すなわち入れ子26の外周のエッジ26aから所定の距離離れて配置される。そして、スプルー30からガラス繊維を配合した溶融樹脂10を樹脂溜まり部31に注入し、その樹脂溜まり部31の各脚31aからキャビティ29に溶融樹脂10を充填するようにしている。
【0033】
また、この実施形態では、キャビティ29に充填された溶融樹脂10を冷却した後、金型装置11を型開きして樹脂成形品41を取り出した後、樹脂溜まり部31に対応する余剰肉、すなわちゲート42を「ゲート加工」により切断加工するようにしている。
【0034】
ここで、上記した樹脂成形方法における樹脂流動及びガラス繊維の配向について説明する。図12に、この実施形態に係り、キャビティ29の中央部分におけるガラス繊維の配向(樹脂流動の方向)につきシミュレーション結果を概念図により示す。図中の右側に付した縦帯状のスケールは、ガラス繊維の配向度を濃淡により表現したものである。図中のガラス繊維の向きは、上記スケールの下に四角枠中の摘要に示すように、菱形の幅と長さの違いにより表現される。後述する図13〜図17においても、スケールと四角枠中の摘要については、図12と同様である。図13に、この実施形態に係り、図12の概念図を少し回転させた状態で概念図により示す。図14に、従来の樹脂溜まり部とリング状のゲートを使用した従来例に係り、ガラス繊維の配向(樹脂流動の方向)につき、図12に準ずる概念図により示す。図15に、従来の樹脂溜まり部とリング状のゲートを使用した従来例に係り、ガラス繊維の配向(樹脂流動の方向)につき、図13に準ずる概念図により示す。図16に、ピンポイントゲートを使用し、入れ子26より外側から溶融樹脂が注入される従来例に係り、ガラス繊維の配向(樹脂流動の方向)につき、図12に準ずる概念図により示す。図17に、ピンポイントゲートを使用し、入れ子26より外側から溶融樹脂が注入される従来例に係り、ガラス繊維の配向(樹脂流動の方向)につき、図13に準ずる概念図により示す。
【0035】
この実施形態では、図12,13に太線矢印で示すように、溶融樹脂及びそのガラス繊維51は、樹脂溜まり部31の各脚31aからキャビティ29へ下向きに流れることが分かる。また、図13に示すように、軸孔2のエッジ2aに対応する入れ子26のエッジ26aの部分では、ガラス繊維51の配向が、そのエッジ26aに対して斜め又は直角をなすことが分かる。
【0036】
これに対し、従来の樹脂溜まり部とリング状のゲートを使用した従来例では、図14,15に太線矢印で示すように、溶融樹脂及びそのガラス繊維51は、樹脂溜まり部からキャビティ29へ下向きに流れることが分かる。また、図15に示すように、軸孔2のエッジ2aに対応する入れ子26のエッジ26aの部分では、ガラス繊維51の配向が、そのエッジ26aに対してほぼ平行になることが分かる。
【0037】
これに対し、ピンポイントゲートを使用した従来例では、図17に太線矢印で示すように、溶融樹脂及びそのガラス繊維51は、キャビティ29にて横向きに流れることが分かる。また、図17に示すように、軸孔2のエッジ2aに対応する入れ子26のエッジ26aの部分では、ガラス繊維51の配向が、そのエッジ26aに対してほぼ垂直に交わることが分かる。
【0038】
ここで、「ゲート加工」前における樹脂成形品の変形状態について説明する。図18に、本実施形態に係り、樹脂成形品41の軸孔2の周辺における変形量のシミュレーション結果を断面の概念図により示す。図19に、軸孔2の周辺を図18のD−D線断面の概念図により示す。図20に、従来の樹脂溜まり部とリング状のゲートを使用した従来例に係り、樹脂成形品61の軸孔2の周辺を図18に準ずる概念図により示す。図21に、軸孔2の周辺を図20のE−E線断面の概念図により示す。図22に、ピンポイントゲートを使用した従来例に係り、樹脂成形品71の軸孔2の周辺を図18に準ずる概念図により示す。図23に、軸孔2の周辺を図22の上側から見た平面の概念図により示す。
【0039】
この実施形態では、図18に2点鎖線で示すように、軸孔2の変形は、その内周壁が垂直に近くなることが分かる。これに対し、従来の樹脂溜まり部81とリング状のゲートを使用した従来例では、図20に2点鎖線で示すように、軸孔2の変形は、その内周壁が逆ハの字状になることが分かる。また、ピンポイントゲートを使用した従来例では、図22に2点鎖線で示すように、軸孔2の変形は、その内周壁がハの字状になることが分かる。図20〜図23において、「61,71」は従来例の樹脂成形品を示し、「62」は、従来例のゲートを示す(以下において同じ)。
【0040】
また、「ゲート加工」前における樹脂成形品の体積収縮について説明する。図24に、本実施形態に係り、樹脂成形品41の軸孔2の周辺を破断した体積収縮率のシミュレーション結果を断面の概念図により示す。図25に、従来の樹脂溜まり部とリング状のゲートを使用した従来例に係り、体積収縮率のシミュレーション結果を図24に準ずる概念図により示す。図26に、ピンポイントゲートを使用した従来例に係り、体積収縮率のシミュレーション結果を図24に準ずる概念図により示す。
【0041】
この実施形態では、図24に示すように、軸孔2のエッジ2aにつき、スプルー側ASの収縮率と反スプルー側BSの収縮率が中程度で同じとなる。このことから、図18に示すように、軸孔2の内周壁が垂直に近くなると考えられる。これに対し、従来の樹脂溜まり部リング状のゲートを使用した従来例では、図25に示すように、スプルー側ASの収縮率が反スプルー側BSの収縮率に比べて小さくなる。このことから、図20に示すように、軸孔2の内周壁が逆ハの字状に変形すると考えられる。
【0042】
更に、図24〜26に示すように、樹脂成形品41,61,71の外側の肉厚部分の収縮率が内側の肉厚部分に比べて大きいことから、樹脂成形品41,61,71の固化時には、軸孔2の周囲が外側から押圧される形となる。ここで、図24,25に示すように、ゲート42,62がある場合は、その分だけ樹脂成形品41,61の剛性が高くなる。このため、樹脂成形品41,61の外側の肉厚部が収縮しても、軸孔2のエッジ2aにクラックは入らない。しかし、ゲート42,62を切断加工すると、その部分の剛性がなくなり、変形することとなる。特に、図25に示す従来例では、軸孔2のスプルー側ASの収縮率が反スプルー側BSの収縮率より小さいので、その部分で応力が高くなり易く、応力が集中するスプルー側ASでは、エッジ2aにクラックが入るおそれがある。一方、ピンポイントゲートを使用した従来例では、ゲート42,46等のゲート処理が不要であるため、剛性の変化がなく、さらに、図26に示すように、スプルー側ASの収縮率と反スプルー側BSの収縮率が中程度になるため、応力が低くなり、クラックが入るおそれが小さい。
【0043】
以上説明したこの実施形態の樹脂成形方法によれば、スプルー30から樹脂溜まり部31へ注入されるガラス繊維を配合した溶融樹脂10が、樹脂溜まり部31の3つに分岐した脚3aからキャビティ29に充填されるので、図12,13に示すように、軸孔2に対応する入れ子26の周囲の樹脂流動及びガラス繊維51の配向が入れ子26の軸線方向に対し斜めに向きやすくなる。このため、成形後のインペラ1につき、軸孔2の周方向に対する強度を向上させることができる。また、樹脂溜まり部31の各脚31aが軸孔2のエッジ2aに対応する入れ子26のエッジ26aから離れて配置されるので、入れ子26の周囲の樹脂収縮バランスが良くなり、成形後のインペラ1につき、軸孔2のエッジ2aにかかる応力を低減することができ、樹脂溜まり部31を切断加工した後の応力開放を少なくすることができる。この意味で、軸孔2のエッジ2aにおけるクラックの発生を防止することができる。
【0044】
また、この実施形態の樹脂成形方法では、樹脂溜まり部31を複数の脚31aに分岐させたので、分岐した分だけ樹脂溜まり部31の容積が小さくなる。この意味で、樹脂溜まり部31に残る溶融樹脂量を低減させることができ、インペラ1のために使用される樹脂材料の歩留まりを向上させることができる。
【0045】
また、この実施形態の樹脂成形方法では、樹脂溜まり部31に対応した余剰肉、すなわち、軸孔2を塞ぐゲート42が切断加工により取り除かれ、軸孔2の両端が開放される。このため、軸孔2にモータの回転軸を貫通させて組み付けることができる。
【0046】
更に、この実施形態のインペラ1によれば、断面D形状をなす軸孔2のエッジ2aに対してガラス繊維51の配向が斜め又は直角をなすので、エッジ2aの周方向に対する強度が向上し、エッジ2aにかかる応力も低減される。このため、インペラ1の軸孔2のエッジ2aにおけるクラックの発生を防止することができる。
【0047】
<第2実施形態>
次に、本発明における樹脂成形方法及び樹脂成形品を具体化した第2実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0048】
この実施形態では、主として樹脂溜まり部の形状の点で第1実施形態と構成が異なる。図27に、金型装置の一部につき、図3に準ずる断面図により示す。図28に、樹脂溜まり部32を、図27のF−F線断面図により示す。この実施形態では、入れ子26の周囲を取り囲むように形成される通常の樹脂溜まり部81(図28に実線と2点鎖線により示す。)について、その樹脂溜まり部81の内周縁と、入れ子26の外周縁との間に形成されるD形をなす帯状部分の一部を第1の金型18の肉により分断することで、この実施形態の樹脂溜まり部32が形成される。分断されるのは、断面D形状をなす入れ子26の頂点に対応する部分18aと、入れ子26のエッジ26aに対応する2つの部分18b,18cである。このように分断されることで、樹脂溜まり部32の反スプルー側が3つの脚32aに分岐して形成され、各脚32aが軸孔2のエッジ2aの対応部分、すなわち入れ子26のエッジ26aから離れて配置される。
【0049】
従って、この実施形態でも、上記した金型装置を使用して第1実施形態と同様の樹脂成形方法を実施することにより、第1実施形態と同等の作用効果を得ることができる。
【0050】
なお、この発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜に変更して実施することもできる。
【0051】
(1)前記各実施形態では、樹脂溜まり部31,32の脚31a,32aを3つ設けたが、この脚の数を1、2又は4つ以上にすることもできる。
【0052】
(2)前記各実施形態では、軸孔2を断面D形状としたが、軸孔の軸線方向に延びるエッジを有するものであれば断面D形状に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
この発明は、燃料ポンプを構成する樹脂製のインペラを製造するために利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 インペラ(樹脂製品)
2 軸孔
2a エッジ
10 溶融樹脂
11 金型装置
18 第1の金型
18a 部分
18b 部分
18c 部分
26 入れ子
26a エッジ
29 キャビティ
30 スプルー
31 樹脂溜まり部
31a 脚
32 樹脂溜まり部
32a 脚
41 樹脂成形品
42 ゲート(余剰肉)
51 ガラス繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸孔を有する円盤形状の樹脂製品を成形する樹脂成形方法であって、
前記軸孔は、その内周に軸線方向に伸びるエッジを含み、
金型のキャビティにおいて、前記軸孔の一端に対応する部分を覆うように樹脂溜まり部が設けられ、前記樹脂溜まり部に外部から溶融樹脂を注入するためのスプルーが設けられ、前記樹脂溜まり部の反スプルー側が複数の脚に分岐し、前記各脚が前記軸孔の前記エッジに対応する部分から離れて配置されており、
前記スプルーからガラス繊維を配合した溶融樹脂を前記樹脂溜まり部に注入し、前記樹脂溜まり部の前記各脚から前記キャビティに前記溶融樹脂を充填するようにしたことを特徴とする樹脂成形方法。
【請求項2】
前記キャビティに充填された前記溶融樹脂を冷却した後、前記金型を型開きして樹脂成形品を取り出した後、前記樹脂溜まり部にて成形された余剰肉を切断加工することを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形方法。
【請求項3】
前記樹脂溜まり部の前記脚は少なくとも3つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂成形方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一つに記載の樹脂成形方法により成形される樹脂製品であって、
前記軸孔の前記エッジに対して前記ガラス繊維の配向が斜め又は直角をなすことを特徴とする樹脂製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図27】
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【図28】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2012−106391(P2012−106391A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256526(P2010−256526)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】