説明

樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置

【課題】キャビティ面に均一に加熱することができる電磁誘導加熱式金型を提供する。
【解決手段】樹脂成形用金型を有する装置であり、この金型を構成する2つの型は、互いに向かい合う面に、それぞれ、キャビティ面12a、12bが形成され、2つの型は、それぞれ、キャビティ面を有する部位に磁性金属部14aが配され、その磁性金属部の外面に、誘導コイル保持部15及び非磁性金属部14bが順に配され、絶縁樹脂製の誘導コイル保持部及び非磁性金属部が順に配され、誘導コイル保持部には、複数の誘導コイル15aが、当該型のキャビティ面からの距離の最大と最小の差が5mm以内に配されると共に、キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルが、キャビティ外周縁から30mmの範囲内に配された樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂成形用に用いられる電磁誘導加熱式の金型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金型を用いた樹脂成形法としては、射出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法があげられる。これらは、金型に原料樹脂を投入した後、熱の授受を行って、樹脂を賦型し、固化させる方法である。
【0003】
上記の金型の加熱方法としては、電熱ヒーターを用いる方法の他、高周波電磁誘導加熱による方法が知られている(特許文献1)。この高周波電磁誘導加熱による方法は、高周波電磁誘導加熱によって金型を加熱する方式を採用したもので、急速に加熱することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−039571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この特許文献1に記載の金型は、複数の誘導コイルが、一列に配されているが、キャビティ面は、単一平面からできておらず、キャビティ面と複数の誘導コイルとの最短距離が、場所によって異なっている。
【0006】
この場合、各誘導コイルに同じ電流をかけると、キャビティ面の加熱が場所によって異なることとなり、加熱ムラが生じ、得られる成形体に影響が生じる場合がある。
【0007】
そこで、この発明は、キャビティ面に均一に加熱することができる電磁誘導加熱式金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、樹脂成形用金型を有する装置であり、この金型を構成する2つの型は、互いに向かい合う面に、それぞれ、キャビティ面が形成され、上記2つの型は、それぞれ、上記キャビティ面を有する部位に磁性金属が配され、上記型の外周部を形成する部位に非磁性金属が配されると共に、この磁性金属と非磁性金属との間に絶縁樹脂製の誘導コイル保持部が形成され、上記誘導コイル保持部には、複数の誘導コイルが、当該型のキャビティ面からの距離の最大と最小の差が5mm以内に配されると共に、キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルを、キャビティ外周縁から30mmの範囲内に配することにより、上記課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、各誘導コイルとキャビティ面との距離、各誘導コイルの設置範囲とキャビティ部が所定範囲内としたので、キャビティ面が均一に加熱することが可能となる。
また、磁性金属と非磁性金属との間に絶縁樹脂製の誘導コイル保持部が形成されるので、誘導コイルの配置を任意に設定することができ、各誘導コイルとキャビティ面との距離が所定範囲内にすることを容易にする。
【0010】
さらにまた、キャビティ面を有する部位に磁性金属を配し、金型の外周には、断熱材が
配され、さらに断熱材の外周部を形成する部位に非磁性金属を配するので、誘導コイルによる加熱は、主に磁性金属で行われ、キャビティ面側の加熱が優先されることとなり、効率よく加熱することが可能となる。
【0011】
また、複数の誘導コイルを設け、これに通電するための通電装置を複数用いた場合、通電装置毎に、通電するタイミングや通電量を調整することができ、加熱を部分毎に意図的に変化させることができ、成形対象物品毎に加熱の度合いを変更させることができ、射出成形では、ウエルドライン、ひけ、ガス抜き不足による外観曇り、バリなどの外観不良のない高転写の成形品、ブロー成形では、コーナー部分の偏肉、しわが少なく、喰い切り部分の溶着強度が高い高転写の成形品、プレス成形では、低い樹脂シートの予熱温度で、コーナー部分の偏肉が少なく、低成形歪の成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1(a)】この発明の樹脂射出成形用電磁誘導加熱式金型装置の固定型をキャビティ面12aから見た正面図
【図1(b)】この発明の樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置の可動型をキャビティ面12bから見た正面図
【図1(c)】この発明の樹脂射出成形用電磁誘導加熱式金型装置の例を示す縦断断面図
【図1(d)】比較例1及び2で用いた樹脂射出成形用電磁誘導加熱式金型装置の固定型をキャビティ面12aから見た正面図
【図1(e)】比較例1及び2で用いた樹脂射出成形用電磁誘導加熱式金型装置の可動型をキャビティ面12bから見た正面図
【図1(f)】比較例1で用いた樹脂射出成形用電磁誘導加熱式金型装置の縦断断面図
【図1(g)】比較例2で用いた樹脂射出成形用電磁誘導加熱式金型装置の縦断断面図
【図1(h)】誘導コイル保持部の他の形態の例を示す断面図
【0013】
【図2(a)】この発明の樹脂ブロー成形用電磁誘導加熱式金型装置の例を示す縦断断面図(パリソン押し出し時)
【図2(b)】この発明の樹脂ブロー成形用電磁誘導加熱式金型装置の例を示す縦断断面図(エアー注入後)
【図2(c)】この発明の樹脂ブロー成形用電磁誘導加熱式金型装置の一方の型をキャビティ面22aから見た正面図
【図2(d)】この発明の樹脂ブロー成形用電磁誘導加熱式金型装置の他方の型をキャビティ面22bから見た正面図
【図2(e)】比較例3で用いた樹脂射出成形用電磁誘導加熱式金型装置の一方の型をキャビティ面22aから見た正面図
【図2(f)】比較例3で用いた樹脂射出成形用電磁誘導加熱式金型装置の他方の型をキャビティ面22bから見た正面図
【図2(g)】比較例3で用いた樹脂射出成形用電磁誘導加熱式金型装置の縦断断面図
【図2(h)】誘導コイル保持部の他の形態の例を示す断面図
【0014】
【図3(a)】この発明の樹脂プレス成形用電磁誘導加熱式金型装置の例を示す縦断断面図(シート挿入時)
【図3(b)】この発明の樹脂プレス成形用電磁誘導加熱式金型装置の例を示す縦断断面図(プレス後)
【図3(c)】この発明の樹脂プレス成形用電磁誘導加熱式金型装置の雄型をキャビティ面32aから見た正面図
【図3(d)】この発明の樹脂プレス成形用電磁誘導加熱式金型装置の雌型をキャビティ面32bから見た正面図
【図3(e)】比較例4で用いた樹脂射出成形用電磁誘導加熱式金型装置の雄型をキャビティ面32aから見た正面図
【図3(f)】比較例4で用いた樹脂射出成形用電磁誘導加熱式金型装置の雌型をキャビティ面32bから見た正面図
【図3(g)】比較例4で用いた樹脂射出成形用電磁誘導加熱式金型装置の縦断断面図
【図3(h)】誘導コイル保持部の他の形態の例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明にかかる樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置は、樹脂成形用金型(以下、単に「金型」と称する。)を有する装置である。以下、射出成形用金型(図1(a)〜(h))、ブロー成形用金型(図2(a)〜(h))、プレス成形用金型(図3(a)〜(h))のそれぞれについて説明する。
【0016】
まず、射出成形用金型として用いられる、図1(a)〜(c)に示す樹脂成形用金型を用いて説明する。この金型11は、図1(c)に示すように、固定型11a及び可動型11bの2つの型に分離されており、この2つの型11a、11bの互いに向かい合った面同士を突き合わせて使用される。
【0017】
上記2つの型11a、11bの互いに向き合う面には、それぞれ、キャビティ面12a、12bが形成され、2つの型11a、11bが突き合うことにより、2つの型11a、11bの間にキャビティ12が形成される。そして、一方の型11aには、その外表面からキャビティ面12aに向かってのノズル穴13aが形成される。このノズル穴13は、射出成形の場合は、ランナー・ゲート13bを通じて成形用樹脂をキャビティ12に供給することができる。
【0018】
これらの2つの型11a、11bのうち、上記キャビティ面12a、12bを有する部位は、それぞれ磁性金属が配された磁性金属部14aによって形成される。そして、その磁性金属部14aの外面、すなわち、磁性金属部14aの面のうち、上記キャビティ面12a、12bが形成される面と反対の面に、誘導コイル15aを保持する絶縁樹脂製の誘導コイル保持部15、及び非磁性金属が配された非磁性金属部14bがこの順に配される。
【0019】
上記誘導コイル15aを絶縁樹脂で覆い、かつ、その絶縁樹脂からなる誘導コイル保持部15の両側に、磁性金属部14aと非磁性金属部14bとを別々に配置することにより、上記誘導コイル15aに通電したとき、磁性金属部14aが非磁性金属部14bより、優先的に加熱されることとなり、キャビティ面12a、12bの加熱をより効率よく行うことができる。
【0020】
上記磁性金属としては、比透磁率が200以下の金属があげられ、150以下の金属が好ましい。比透磁率が200より高くてもよいが、そのような金属は少なく、経済的でないため、150以下の金属で十分である。このような条件を満たす金属の具体例としては、鉄材、SUS430、SUS410等の一般の鋼材があげられる。なお、比透磁率は、1より大きければよい。
【0021】
上記非磁性金属としては、比透磁率が1の金属があげられる。このような金属の具体例としては、オーステナイト系材(SUS304)、アルミ、銅等があげられる。
【0022】
上記の磁性金属部14aと非磁性金属部14bとの間には、樹脂製の断熱絶縁材からなる誘導コイル保持部15が形成される。この誘導コイル保持部15には、誘導コイル15aが複数配置される。
【0023】
上記誘導コイル保持部15は、樹脂製の断熱絶縁材で形成されるので、磁性金属部14aからこの誘導コイル保持部15を介して非磁性金属部14bに熱が逃げるのを防止でき、磁性金属部14aの温度上昇をより速く行うことができる。
【0024】
また、上記誘導コイル保持部15は、樹脂で形成されるので、誘導コイル15aの配置を任意に行うことが可能となる。このため、誘導コイル15aを、上記キャビティ面12a、12bとの距離がほぼ等しくなるように配することが可能となる。
【0025】
この誘導コイル保持部15を形成する断熱絶縁樹脂としては、フェノール、エポキシ樹脂等があげられる。
【0026】
この誘導コイル保持部15は、これを構成する樹脂が、図1(c)に示すように、誘導コイル15aを構成するコイル間に含浸された状態のものであってもよく、図1(h)に示すように、樹脂シートを誘導コイル15aを覆うように配したものであってもよい。
【0027】
上記誘導コイル15aは、金属線又は金属製の管をコイル状に巻いたものであり、ここに電流を流すことで、磁界を生じさせる。このような誘導コイル15aを構成する金属としては、電気抵抗率の低い金属がよく、例えば、銀、銅等があげられる。
【0028】
上記誘導コイル保持部15に設けられる誘導コイル15aの数は、2つの型11a、11bやキャビティの大きさ、使用する樹脂の種類等にあわせて、適宜設けることができる。
【0029】
この誘導コイル15aとキャビティ面12a、12bとの距離の最大と最小の差は、5mm以内が必須で、2mm以内が好ましい。5mmより大きくなると、誘導加熱時に、キャビティ面12a、12bの温度にバラツキが生じやすく、樹脂成形体に影響が生じやすい。
【0030】
この誘導コイルの外周面から、径方向外方に向かって上記磁性金属部までの距離(図1(c)のrで示された距離)、特に最短距離は、10mm以上がよく、20mm以上が好ましい。10mmより短いと、この誘導コイルに近接する、加熱不要な磁性金属部の部分まで加熱されてしまい、非効率だからである。一方、この距離の上限は特に限定されないが、50mmが好ましい。50mmより長いと、金型が撓みやすくなり、強度や耐久性に問題点がある。
【0031】
この誘導コイルは、その外側面及び外周面から選ばれる一方の面又は両方の面の一部又は全部にフェライトを配してもよい。このフェライトを配することにより、誘導コイルから生じる磁束の流れから外れる磁界を吸収することができ、磁性金属部14aの加熱を促進することができると共に、周辺機器へのノイズ漏れを軽減することができる。
【0032】
上記誘導コイル保持部15は、樹脂で形成されるので、キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルを、図1(a)(b)の点描で示された最外誘導コイル設置範囲Aに配置することが容易となり、成形品のバリ発生を抑制し、溶融樹脂からの揮発性ガスを容易にキャビティ外に排出することができる。この最外誘導コイル設置範囲Aは、より具体的には、キャビティ12の外周縁から30mm内側までの範囲内がよく、5mmの範囲内が好ましい。
【0033】
上記誘導コイル保持部15において、上記管製の誘導コイル15aの外側は、上記誘導コイル保持部15を形成する樹脂で覆われるが、一方、この誘導コイル15aの内側は、樹脂は満たされておらず、空洞状態である。
【0034】
上記複数の誘導コイル15aは、通電装置(図示せず)によって通電されるが、この通電装置は、1つであってもよく、2つ以上の通電装置を用いてもよい。1つの通電装置を用いた場合は、各誘導コイル15aに同時に同量の電流を流すことができ、加熱を均一にすることができる。一方、2つ以上の通電装置を用いる場合は、通電装置毎に、通電タイミング、電流の量を調整することができ、加熱を部分毎に意図的に変えることができる。加熱を金型の部分毎に変化させたい場合は、少なくとも2つの通電装置を用いることが好ましい。
なお、2つ以上の通電装置を用いる場合の、通電装置の数の最大値は、誘導コイル15aを設けた数となる。
【0035】
上記の磁性金属部14a、非磁性金属部14b、及び誘導コイル保持部15からなる金型中核部の外周は、断熱材16a、16bで覆われ、熱がそれより外部に逃げるのを防止する。そして、その断熱材16a、16bの外周は、母型17で覆われる。
【0036】
上記断熱材16a、16bとしては、フェノール、フッ素樹脂等があげられる。
【0037】
上記磁性金属部14aは、図1(c)に示すように、折れ曲がり部を有する場合がある。この折れ曲がり部は、その折れ曲がった箇所で所定の角度を有するが、上記誘導コイル保持部15と接する側の上記折れ曲がり部の内角が、上記誘導コイル保持部15に対して、鋭角、直角又は鈍角を形成している場合、すなわち、この折れ曲がり部の角度が180°未満の場合がある。このとき、この折れ曲がり部は、上記誘導コイル保持部15に対して、凸状を形成することとなる。このため、誘導コイル15aに電流を流して磁界を生じさせたとき、磁束がこの凸状部に集中してしまい、過熱が生じてしまう。
【0038】
これに対し、この凸状部に丸みの面取り部(図1(c)のRで示された部分)を設けることにより、磁束の集中を緩和することができ、過熱を抑制することができる。この折れ曲がり部の面取り部の曲率半径は、50mm以上がよく、80mm以上が好ましい。50mmより小さいと、折れ曲がり部の肉厚が薄肉化し、強度や耐久性に問題点を生じる場合がある。曲率半径の上限は、特には限定されないが、200mmが好ましい。200mmより大きいと、磁束の集中の緩和が不十分であるため折れ曲がり部の過熱が発生し、温度ムラが生じやすいという問題点がある。
【0039】
上記磁性金属からなる部位、すなわち磁性金属部14aには、水冷用の貫通孔18が形成される。この貫通孔18の数は、磁性金属部14aの冷却の程度に合わせ、任意の数を設けることができる。
【0040】
成形後、上記金型は、冷却されるが、冷却手段としては、上記の貫通孔18を用いる第1冷却機構による方法や、上記の誘導コイル15aを用いる第2冷却機構及び第3冷却機構による方法があげられる。
【0041】
まず、第1冷却機構は、上記の貫通孔18に冷却水を通す機構であり、これにより、磁性金属部14aの冷却をすることができる。このとき、上記貫通孔18に空気を通じ、この貫通孔18を乾燥させるためのエアパージ機構を設けることが好ましい。このエアパージ機構を設けると、冷却水を通した後に、このエアパージ機構で、貫通孔18内の水を外部に出すことができ、金型を再加熱する際に、貫通孔18内の水が突沸したり、磁性金属部14aの加熱ムラが生じたりするのを防止できる。
【0042】
次に、第2冷却機構は、上記誘導コイル15aとして銅管をコイル状に巻いたものを用い、この銅管内に冷却水や空気を通す機構であり、誘導コイル15aを冷却し、これを基点に周囲の冷却を間接的に行っていく方法である。また、第3冷却機構は、上記誘導コイル15aとして銅線又は銅管をコイル状に巻いたものを用い、誘導コイル保持部15aと誘導コイル15の間に部分的に隙間を設け、その隙間に空気を通す機構であり、誘導コイル15aを冷却し、これを基点に周囲の冷却を間接的に行っていく方法である。
【0043】
これらの第2冷却機構及び第3冷却機構は、誘導コイル15aは、誘導加熱の際に同時に加熱が生じているので、これを冷却するものである。そして、上記金型の冷却の好ましい態様としては、第1冷却機構を用いるともに、第2冷却機構及び第3冷却機構の何れか一方又は両方を用いることが考えられる。これにより、磁性金属部14aと誘導コイル15aとを一緒に冷却することができる。
【0044】
ところで、図1(b)のピン19は、エジェクターピンである。
【0045】
次に、図1(a)〜(c)に示す樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置を用いた樹脂の射出成形方法について説明する。本発明の射出成形用金型11は、所定の肉厚、幅、長さ、外周の高さを有する箱型形状に、角穴a、1つの大きな丸穴b1及び2つのより小さな丸穴b2を有する形状を有する。
【0046】
まず、この本発明の射出成形用金型11の固定型11a及び可動型11bを開けた状態(製品を取り出した直後)で、上記誘導コイル15aに通電し、固定型11a及び可動型11bの磁性金属部14aの加熱を開始し、2つの型11a及び11bを突き合わせて、金型11を閉じ、所定温度に昇温させる。このときの温度は、例えば、使用する樹脂の融点又はガラス転移温度と、融点又はガラス転移温度より10℃高い温度との間で適宜選択されるが、これに限定されるものではない。上記樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば、その種類に限定されるものではない。
【0047】
次いで、ノズル穴13a、ランナー・ゲート13bを通じて、キャビティ12内に樹脂を充填すると共に、圧力を保持する。所定時間経過した後、上記の第1冷却機構と、第2冷却機構及び/又は第3冷却機構とによって、金型を冷却する。上記保持する時間としては、樹脂成形体の収縮によるそり変形観点から、5秒分〜60秒分が好ましい。
【0048】
降温完了後、金型を開いて、樹脂成形体を取り出すことによって、樹脂成形体を得ることができる。
【0049】
ところで、上記の誘導コイル15aに通電することにより、固定型11a及び可動型11bの磁性金属部14aを加熱して、所定温度に昇温する際、上記においては、金型11を閉じると記載したが、所定範囲内に開けた状態とし、キャビティ12内の圧力を保持するときに、金型11を閉じる操作をすると、得られる樹脂成形体の寸法精度を向上させることができ、ひけが発生するのを抑制することができ、得られる樹脂成形体表面の粗さを減らすことができ、さらに、得られる樹脂成形体の角にまで樹脂を確実に充填させることができる。
【0050】
上記の金型11を開ける量は、キャビティの最大厚みの5%以上がよく、10%以上が好ましい。5%より少ないとひけやそり変形を低減する効果が少なくなる傾向がある。一方、上限は、30%がよく、20%が好ましい。30%より多いと、キャビティを圧縮するときに大きい力が必要となる。
【0051】
次に、ブロー成形用金型として用いられる、図2(a)〜(d)に示す樹脂成形用金型を用いて説明する。この金型21は、図2(a)に示すように、2つの型21a及び21bの2つの型に分離されており、この2つの型21a、21bの互いに向かい合った面同士を突き合わせて使用される。
【0052】
上記2つの型21a、21bの互いに向き合う面には、それぞれ、キャビティ面22a、22bが形成され、2つの型21a、21bが突き合うことにより、図2(b)に示すように、2つの型21a、21bの間にキャビティ22が形成される。
【0053】
これらの2つの型21a、21bのうち、上記キャビティ面22a、22bを有する部位は、それぞれ磁性金属が配された磁性金属部24aによって形成される。そして、その磁性金属部24aの外面、すなわち、磁性金属部24aの面のうち、上記キャビティ面22a、22bが形成される面と反対の面に、誘導コイル25aを保持する絶縁樹脂製の誘導コイル保持部25、及び非磁性金属が配された非磁性金属部24bがこの順に配される。
【0054】
上記誘導コイル25aを絶縁樹脂で覆い、かつ、その絶縁樹脂からなる誘導コイル保持部25の両側に、磁性金属部24aと非磁性金属部24bとを別々に配置することにより、上記誘導コイル25aに通電したとき、磁性金属部24aが非磁性金属部24bより、優先的に加熱されることとなり、キャビティ面22a、22bの加熱をより効率よく行うことができる。
【0055】
上記磁性金属部24aを構成する磁性金属は、上記した磁性金属部14aを構成する磁性金属と同様の金属を用いることができる。また、上記非磁性金属部24bを構成する非磁性金属は、上記した非磁性金属部14bを構成する非磁性金属と同様の金属を用いることができる。
【0056】
上記の磁性金属部24aと非磁性金属部24bとの間には、樹脂製の断熱絶縁材からなる誘導コイル保持部25が形成される。この誘導コイル保持部25には、誘導コイル25aが複数配置される。
【0057】
上記誘導コイル保持部25は、樹脂製の断熱絶縁材で形成されるので、磁性金属部24aからこの誘導コイル保持部25を介して非磁性金属部24bに熱が逃げるのを防止でき、磁性金属部24aの温度上昇をより速く行うことができる。
【0058】
また、上記誘導コイル保持部25は、樹脂で形成されるので、誘導コイル25aの配置を任意に行うことが可能となる。このため、誘導コイル25aを、上記キャビティ面22a、22bとの距離がほぼ等しくなるように配することが可能となる。
【0059】
この誘導コイル保持部25を形成する断熱絶縁樹脂としては、上記の誘導コイル保持部15を形成する樹脂と同様の樹脂を用いることができる。
【0060】
この誘導コイル保持部25は、これを構成する樹脂が、図2(a)(b)に示すように、誘導コイル25aを構成するコイル間に含浸された状態のものであってもよく、図2(h)に示すように、樹脂シートを誘導コイル25aを覆うように配したものであってもよい。
【0061】
上記誘導コイル25aは、上記の誘導コイル15aと同様のものを用いることができる。また、上記誘導コイル保持部25に設けられる誘導コイル25aの数は、2つの型21a、21bやキャビティの大きさ、使用する樹脂の種類等にあわせて、適宜設けることができる。
【0062】
この誘導コイル25aとキャビティ面22a、22bとの距離の最大と最小の差は、5mm以内が必須で、2mm以内が好ましい。5mmより大きくなると、誘導加熱時に、キャビティ面22a、22bの温度にバラツキが生じやすく、樹脂成形体に影響が生じやすい。
【0063】
この誘導コイルの外周面から、径方向外方に向かって上記磁性金属部までの距離(図2(a)(b)のrで示された距離)、特に最短距離は、10mm以上がよく、20mm以上が好ましい。10mmより短いと、この誘導コイルに近接する、加熱不要な磁性金属部の部分まで加熱されてしまい、非効率だからである。一方、この距離の上限は特に限定されないが、50mmが好ましい。50mmより長いと、金型が撓みやすくなり、強度や耐久性に問題点がある。
【0064】
この誘導コイルは、その外側面及び外周面から選ばれる一方の面又は両方の面の一部又は全部にフェライトを配してもよい。このフェライトを配することにより、誘導コイルから生じる磁束の流れから外れる磁界を吸収することができ、磁性金属24aの加熱を促進することができると共に、周辺機器へのノイズ漏れを軽減することができる。
【0065】
上記誘導コイル保持部25は、樹脂で形成されるので、キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルを、図2(c)(d)の点描で示された最外誘導コイル設置範囲Aに配置することが容易となり、成形品のバリ発生を抑制し、溶融樹脂からの揮発性ガスを容易にキャビティ外に排出することができる。この最外誘導コイル設置範囲Aは、より具体的には、キャビティ22の外周縁から30mm内側までの範囲内がよく、5mmの範囲内が好ましい。
【0066】
上記誘導コイル保持部25において、上記管製の誘導コイル25aの外側は、上記誘導コイル保持部25を形成する樹脂で覆われるが、一方、この誘導コイル25aの内側は、樹脂は満たされておらず、空洞状態である。
【0067】
上記複数の誘導コイル25aは、通電装置(図示せず)によって通電されるが、この通電装置は、1つであってもよく、2つ以上の通電装置を用いてもよい。1つの通電装置を用いた場合は、各誘導コイル25aに同時に同量の電流を流すことができ、加熱を均一にすることができる。一方、2つ以上の通電装置を用いる場合は、通電装置毎に、通電タイミング、電流の量を調整することができ、加熱を部分毎に意図的に変えることができる。加熱を金型の部分毎に変化させたい場合は、少なくとも2つの通電装置を用いることが好ましい。
なお、2つ以上の通電装置を用いる場合の、通電装置の数の最大値は、誘導コイル25aを設けた数となる。
【0068】
上記の磁性金属部24a、非磁性金属部24b、及び誘導コイル保持部25からなる金型中核部の外周は、断熱材26a、26bで覆われ、熱がそれより外部に逃げるのを防止する。そして、その断熱材26a、26bの外周は、母型27で覆われる。上記断熱材26a、26bとしては、上記の断熱材16a、16bと同様の材料が用いられる。
【0069】
上記磁性金属部24aは、図2(a)(b)に示すように、折れ曲がり部を有する場合がある。この折れ曲がり部は、その折れ曲がった箇所で所定の角度を有するが、上記誘導コイル保持部25と接する側の上記折れ曲がり部の内角が、上記誘導コイル保持部25に対して、鋭角、直角又は鈍角を形成している場合、すなわち、この折れ曲がり部の角度が180°未満の場合がある。このとき、この折れ曲がり部は、上記誘導コイル保持部25に対して、凸状を形成することとなる。このため、誘導コイル25aに電流を流して磁界を生じさせたとき、磁束がこの凸状部に集中してしまい、過熱が生じてしまう。
【0070】
これに対し、この凸状部に丸みの面取り部(図2(a)(b)のRで示された部分)を設けることにより、磁束の集中を緩和することができ、過熱を抑制することができる。この折れ曲がり部の面取り部の曲率半径は、50mm以上がよく、80mm以上が好ましい。50mmより小さいと、折れ曲がり部の肉厚が薄肉化し、強度や耐久性に問題点を生じる場合がある。曲率半径の上限は、特には限定されないが、200mmが好ましい。200mmより大きいと、磁束の集中の緩和が不十分であるため折れ曲がり部の過熱が発生し、温度ムラが生じやすいという問題点がある。
【0071】
上記磁性金属からなる部位、すなわち磁性金属部24aには、水冷用の貫通孔28が形成される。この貫通孔28の数は、磁性金属部24aの冷却の程度に合わせ、任意の数を設けることができる。
【0072】
成形後、上記金型は、冷却されるが、冷却手段としては、上記の貫通孔28を用いる第1冷却機構による方法や、上記の誘導コイル25aを用いる第2冷却機構及び第3冷却機構による方法があげられる。これらの3種類の冷却機構は、上記した射出成型用金型11で用いられる3種類の冷却機構と同様の冷却機構を用いることができる。
【0073】
次いで、図2(a)〜(d)に示す樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置を用いた樹脂のブロー成形方法について説明する。ブロー成形に用いられる金型は、所定の幅、長さ及び厚みを有する段差付き箱型形状からなる金型である。
【0074】
まず、金型21を開けた状態で、誘導コイル25aに通電し、2つの型21a、21bの磁性金属部を加熱して、所定温度に昇温する。この温度としては、例えば、使用する樹脂の融点又はガラス転移温度と、融点又はガラス転移温度より10℃高い温度との間で適宜選択されるが、これに限定されるものではない。上記樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば、その種類に限定されるものではない。
【0075】
次に、金型21を構成する2つの型21a、21bの間に、ダイス29よりパリソン23を押し出して挿入する。そして、型を閉じて、キャビティ内にエアー注入口29aから空気を供給して、ブロー成形を行いながら、上記の第1冷却機構と、第2冷却機構及び/又は第3冷却機構とによって、金型を冷却する。上記保持する時間としては、樹脂成形体の収縮によるひけ・そり変形の観点から、40秒分〜120秒分が好ましい。降温完了後、金型を開いて、樹脂成形体を取り出すことによって、樹脂成形体を得ることができる。
【0076】
次に、プレス成形用金型として用いられる、図3(a)〜(d)に示す樹脂成形用金型を用いて説明する。この金型31は、図3(a)に示すように、雄型31a及び雌型31bの2つの型に分離されており、この2つの型31a、31bの互いに向かい合った面同士を突き合わせて使用される。
【0077】
上記雄型31a、雌型31bの互いに向き合う面には、それぞれ、キャビティ面32a、32bが形成され、雄型31a、雌型31bが突き合うことにより、図3(b)に示すように、2つの型31a、31bの間にキャビティ32が形成される。
【0078】
これらの雄型31a及び雌型31bのうち、上記キャビティ面32a、32bを有する部位は、それぞれ磁性金属が配された磁性金属部34aによって形成される。そして、その磁性金属部34aの外面、すなわち、磁性金属部34aの面のうち、上記キャビティ面32a、32bが形成される面と反対の面に、誘導コイル35aを保持する絶縁樹脂製の誘導コイル保持部35、及び非磁性金属が配された非磁性金属部34bがこの順に配される。
【0079】
上記誘導コイル35aを絶縁樹脂で覆い、かつ、その絶縁樹脂からなる誘導コイル保持部35の両側に、磁性金属部34aと非磁性金属部34bとを別々に配置することにより、上記誘導コイル35aに通電したとき、磁性金属部34aが非磁性金属部34bより、優先的に加熱されることとなり、キャビティ面32a、32bの加熱をより効率よく行うことができる。
【0080】
上記磁性金属部34aを構成する磁性金属は、上記した磁性金属部14aを構成する磁性金属と同様の金属を用いることができる。また、上記非磁性金属部34bを構成する非磁性金属は、上記した非磁性金属部14bを構成する非磁性金属と同様の金属を用いることができる。
【0081】
上記の磁性金属部34aと非磁性金属部34bとの間には、樹脂製の断熱絶縁材から
なる誘導コイル保持部35が形成される。この誘導コイル保持部35には、誘導コイル35aが複数配置される。
【0082】
上記誘導コイル保持部35は、樹脂製の断熱絶縁材で形成されるので、磁性金属部34aからこの誘導コイル保持部35を介して非磁性金属部34bに熱が逃げるのを防止でき、磁性金属部34aの温度上昇をより速く行うことができる。
【0083】
また、上記誘導コイル保持部35は、樹脂で形成されるので、誘導コイル35aの配置を任意に行うことが可能となる。このため、誘導コイル35aを、上記キャビティ面32a、32bとの距離がほぼ等しくなるように配することが可能となる。
【0084】
この誘導コイル保持部35を形成する断熱絶縁樹脂としては、上記の誘導コイル保持部15を形成する樹脂と同様の樹脂を用いることができる。
【0085】
この誘導コイル保持部35は、これを構成する樹脂が、図3(a)(b)に示すように、誘導コイル35aを構成するコイル間に含浸された状態のものであってもよく、図3(h)に示すように、樹脂シートを誘導コイル35aを覆うように配したものであってもよい。
【0086】
上記誘導コイル35aは、上記の誘導コイル15aと同様のものを用いることができる。また、上記誘導コイル保持部35に設けられる誘導コイル35aの数は、2つの型31a、31bやキャビティの大きさ、使用する樹脂の種類等にあわせて、適宜設けることができる。
【0087】
この誘導コイル35aとキャビティ面32a、32bとの距離の最大と最小の差は、5mm以内が必須で、2mm以内が好ましい。5mmより大きくなると、誘導加熱時に、キャビティ面32a、32bの温度にバラツキが生じやすく、樹脂成形体に影響が生じやすい。
【0088】
この誘導コイルの外周面から、径方向外方に向かって上記磁性金属部までの距離(図3(a)(b)のrで示された距離)、特に最短距離は、10mm以上がよく、20mm以上が好ましい。10mmより短いと、この誘導コイルに近接する、加熱不要な磁性金属部の部分まで加熱されてしまい、非効率だからである。一方、この距離の上限は特に限定されないが、50mmが好ましい。50mmより長いと、金型が撓みやすくなり、強度や耐久性に問題点がある。
なお、プレス成形用金型においては、図3(a)(b)に示されるように、雄型において、この距離が確保される。
【0089】
この誘導コイルは、その外側面及び外周面から選ばれる一方の面又は両方の面の一部又は全部にフェライトを配してもよい。このフェライトを配することにより、誘導コイルから生じる磁束の流れから外れる磁界を吸収することができ、磁性金属34aの加熱を促進することができると共に、周辺機器へのノイズ漏れを軽減することができる。
【0090】
上記誘導コイル保持部35は、樹脂で形成されるので、キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルを、図3(c)(d)の点描で示された最外誘導コイル設置範囲Aに配置することが容易となり、成形品のバリ発生を抑制し、溶融樹脂からの揮発性ガスを容易にキャビティ外に排出することができる。この最外誘導コイル設置範囲Aは、より具体的には、キャビティ32の外周縁から30mm内側までの範囲内がよく、5mmの範囲内が好ましい。
【0091】
上記誘導コイル保持部35において、上記管製の誘導コイル35aの外側は、上記誘導コイル保持部35を形成する樹脂で覆われるが、一方、この誘導コイル35aの内側は、樹脂は満たされておらず、空洞状態である。
【0092】
上記複数の誘導コイル35aは、通電装置(図示せず)によって通電されるが、この通電装置は、1つであってもよく、2つ以上の通電装置を用いてもよい。1つの通電装置を用いた場合は、各誘導コイル35aに同時に同量の電流を流すことができ、加熱を均一にすることができる。一方、2つ以上の通電装置を用いる場合は、通電装置毎に、通電タイミング、電流の量を調整することができ、加熱を部分毎に意図的に変えることができる。加熱を金型の部分毎に変化させたい場合は、少なくとも2つの通電装置を用いることが好ましい。
なお、2つ以上の通電装置を用いる場合の、通電装置の数の最大値は、誘導コイル35aを設けた数となる。
【0093】
上記の磁性金属部34a、非磁性金属部34b、及び誘導コイル保持部35からなる金型中核部の外周は、断熱材36a、36bで覆われ、熱がそれより外部に逃げるのを防止する。そして、その断熱材36a、36bの外周は、母型37で覆われる。上記断熱材36a、36bとしては、上記の断熱材16a、16bと同様の材料が用いられる。
【0094】
上記磁性金属部34aは、図3(a)(b)に示すように、折れ曲がり部を有する場合がある。この折れ曲がり部は、その折れ曲がった箇所で所定の角度を有するが、上記誘導コイル保持部35と接する側の上記折れ曲がり部の内角が、上記誘導コイル保持部35に対して、鋭角、直角又は鈍角を形成している場合、すなわち、この折れ曲がり部の角度が180°未満の場合がある。このとき、この折れ曲がり部は、上記誘導コイル保持部35に対して、凸状を形成することとなる。このため、誘導コイル35aに電流を流して磁界を生じさせたとき、磁束がこの凸状部に集中してしまい、過熱が生じてしまう。
【0095】
これに対し、この凸状部に丸みの面取り部(図3(a)(b)のRで示された部分)を設けることにより、磁束の集中を緩和することができ、過熱を抑制することができる。この折れ曲がり部の面取り部の曲率半径は、50mm以上がよく、80mm以上が好ましい。50mmより小さいと、折れ曲がり部の肉厚が薄肉化し、強度や耐久性に問題点を生じる場合がある。曲率半径の上限は、特には限定されないが、200mmが好ましい。200mmより大きいと、磁束の集中の緩和が不十分であるため折れ曲がり部の過熱が発生し、温度ムラが生じやすいという問題点がある。
【0096】
上記磁性金属からなる部位、すなわち磁性金属部34aには、水冷用の貫通孔38が形成される。この貫通孔38の数は、磁性金属部34aの冷却の程度に合わせ、任意の数を設けることができる。
【0097】
成形後、上記金型は、冷却されるが、冷却手段としては、上記の貫通孔38を用いる第1冷却機構による方法や、上記の誘導コイル35aを用いる第2冷却機構及び第3冷却機構による方法があげられる。これらの3種類の冷却機構は、上記した射出成型用金型11で用いられる3種類の冷却機構と同様の冷却機構を用いることができる。
【0098】
次いで、図3(a)〜(d)に示す樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置を用いた樹脂のプレス成形方法について説明する。プレス成形に用いられる金型は、所定の幅、長さ及び傾斜を有する台形の形状からなる金型である。
【0099】
まず、雌型31bと雄型31aを開けた状態で、誘導コイル35aに通電し、2つの型31a、31bの磁性金属部34aを加熱して、所定温度に昇温する。この温度としては、例えば、使用する樹脂の融点又はガラス転移温度と、融点又はガラス転移温度より10℃高い温度との間で適宜選択されるが、これに限定されるものではない。上記樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば、その種類に限定されるものではない。
【0100】
次に、金型31を構成する雌型31bと雄型31aとの間に、樹脂シート33を挿入し、雌型31bを閉じる。そして、キャビティ32を樹脂で完全充填し、上記の第1冷却機構と、第2冷却機構及び/又は第3冷却機構とによって、金型を冷却する。上記保持する時間としては、樹脂成形体の収縮によるひけ・そり変形の観点から、10秒分〜60秒分が好ましい。
【0101】
降温完了後、金型を開いて、樹脂成形体を取り出すことによって、樹脂成形体を得ることができる。
【実施例】
【0102】
以下、本発明を実施例、比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。
【0103】
[実施例1]
樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置として、図1(a)〜(c)に示す射出成形用金型を用いた。この金型は、肉厚2.5mm、幅250mmx長さ310mmx外周の高さ10mmの箱型形状に、170mm×115mmの角穴、Φ20の丸穴2個、Φ40の丸穴を有する形状である。
名機製作所(株)製200t射出成形機で、ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、ノバテックPP BC6C)シリンダー温度210℃で溶融させた。この成形機に図1(a)〜(e)に示す電磁誘導加熱式金型を取り付けた。
誘導コイル15aとしては、肉厚1mm、外径14mmの銅管を用いた。この誘導コイル15aは、誘導コイル15aとキャビティ面12a、12bとの距離の最大と最小の差が、3mm以内となるように配置した。また、キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルが、キャビティ外周縁から5mm内側までの最外誘導コイル設置範囲Aの範囲内となるように、誘導コイル15aを配置した。
この金型を図示していない電磁誘導加熱装置から銅管に通電し、キャビティ面12a、12bを170℃に昇温し、次いで、ノズル13a、ランナー・ゲート13bを通じて、キャビティ12内に樹脂を2.0秒で充填し、充填完了後、50MPaの保持圧力で10秒間圧力を保持し、図示していない冷却装置から貫通孔18、銅管製誘導コイルに通水して、金型を冷却し、金型温度が60℃に達した時点で金型を開いて樹脂成形体を取り出し
た。
得られた樹脂成形体は、そり変形がなく、成形体表面は全体に亘って美麗な外観を呈していた。
【0104】
[比較例1]
名機製作所(株)製200t射出成形機で、ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、ノバテックPP BC6C)シリンダー温度210℃で溶融させた。この成形機に、実施例1で用いた、図1(a)〜(c)に示す電磁誘導加熱式金型を取り付けた。
ところで、誘導コイル15aの配置位置としては、図1(d)(e)に示す、キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルが、キャビティ外周縁から35mm内側の41a、41bの位置とした。なお、誘導コイル15aとキャビティ面12a、12bとの距離の最大と最小の差は、図1(f)に示すように、実施例1の場合と同様とした。
この金型を図示していない電磁誘導加熱装置から銅管に通電し、キャビティ面12a、12bを170℃に昇温し、次いで、ノズル13a、ランナー・ゲート13bを通じて、キャビティ12内に樹脂を2.0秒で充填し、充填完了後、50MPaの保持圧力で10秒間圧力を保持し、図示していない冷却装置から貫通孔18、銅管製誘導コイルに通水して、金型を冷却し、金型温度が60℃に達した時点で金型を開いて樹脂成形体を取り出した。
得られた樹脂成形体は、ウエルドラインが完全に消滅せず、成形体中央と外周部で光沢むらが認められた。
【0105】
[比較例2]
名機製作所(株)製200t射出成形機で、ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、ノバテックPP BC6C)シリンダー温度210℃で溶融させた。この成形機に、実施例1で用いた、図1(a)〜(c)に示す電磁誘導加熱式金型を取り付けた。
ところで、誘導コイル15aの配置位置としては、図1(d)(e)に示す、キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルが、キャビティ外周縁から20mm外側の42a、42bの位置とした。また、図1(g)に示すように、誘導コイル15aは、誘導コイル保持部15内を一直線上に配置し、誘導コイル15aとキャビティ面12a、12bとの距離の最大と最小の差を20mm以内とした。
この金型を図示していない電磁誘導加熱装置から銅管に通電し、キャビティ面12a、12bを170℃に昇温し、次いで、ノズル13a、ランナー・ゲート13bを通じて、キャビティ12内に樹脂を2.0秒で充填し、充填完了後、50MPaの保持圧力で10秒間圧力を保持し、図示していない冷却装置から貫通孔18、銅管製誘導コイルに通水して、金型を冷却し、金型温度が60℃に達した時点で金型を開いて樹脂成形体を取り出した。
得られた樹脂成形体は、外周部でバリが発生し、成形体表面にガス抜き不足による曇り現象が認められた。
【0106】
[実施例2]
樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置として、図2(a)〜(d)に示すブロー成形用金型を用いた。この金型は、幅200mm×長さ300mm×厚み20mm(一部40mm)の段差付き箱型形状である。
日本製鋼所(株)製NB−30ブロー成形機で、ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、ニユーストレン SH9000)シリンダー温度210℃で溶融させた。このブロー成形機に、図2(a)〜(d)に示す電磁誘導加熱式金型を取り付けた。
誘導コイル25aとしては、肉厚1mm、外径14mmの銅管を用いた。この誘導コイル25aは、誘導コイル25aとキャビティ面22a、22bとの距離の最大と最小の差が、3mm以内となるように配置した。また、キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルが、キャビティ外周縁から2mm内側までの最外誘導コイル設置範囲Aの範囲内となるように、誘導コイル25aを配置した。
この金型を図示していない電磁誘導加熱装置から銅管に通電し、キャビティ面22a、22bを170℃に昇温し、金型21を構成する2つの型21a、21bに外径50mm、肉厚4mmのパリソン23を挿入し、型を閉じて、キャビティ内にエアー注入口29aから空気を供給して、ブロー成形を行い、図示していない冷却装置から貫通孔28、銅管製誘導コイルに通水して、金型を冷却し、金型温度が60℃に達した時点で成形体内部のエアーをパージし、型を開いて樹脂成形体を取り出した。
得られた樹脂成形体は、コーナー部分の偏肉が小さく、しわがなく、成形体表面は全体に亘って美麗な外観を呈していた。
【0107】
[比較例3]
日本製鋼所(株)製NB−30ブロー成形機で、ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、ニユーストレン SH9000)シリンダー温度210℃で溶融させた。このブロー成形機に、実施例2で用いた、図2(a)〜(d)に示す電磁誘導加熱式金型を取り付けた。
ところで、誘導コイル25aの配置位置としては、図2(e)(f)に示す、キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルが、キャビティ外周縁から20mm外側の43a、43bの位置とした。なお、誘導コイル25aとキャビティ面22a、22bとの距離の最大と最小の差は、図2(g)に示すように、実施例2の場合と同様とした。
この金型を図示していない電磁誘導加熱装置から銅管に通電し、キャビティ面22a、22bを170℃に昇温し、金型21を構成する2つの型21a、21bに外径50mm、肉厚4mmのパリソン23を挿入し、型を閉じて、キャビティ内にエアー注入口29aから空気を供給して、ブロー成形を行い、図示していない冷却装置から貫通孔28、銅管製誘導コイルに通水して、金型を冷却し、金型温度が60℃に達した時点で成形体内部のエアーをパージし、型を開いて樹脂成形体を取り出した。
得られた樹脂成形体は、喰い切り部分にバリが観られた。
【0108】
[実施例3]
樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置として、図3(a)〜(d)に示すプレス成形用金型を用いた。この金型は、肉厚3mm、幅200mm、長さ300mm、両端50mmが傾斜した台形の形状である。
河中産業(株)製の100tプレス成形機に、図3(a)〜(d)に示す電磁誘導加熱式金型を取り付けた。また、シートとして、500mm×500mm×肉厚3.2mmのポリプロピレンシート(日本ポリプロ(株)製、ニユーストレン SH9000)を用いた。
誘導コイル35aとしては、肉厚1mm、外径14mmの銅管を用いた。この誘導コイル35aは、誘導コイル35aとキャビティ面32a、32bとの距離の最大と最小の差が、3mm以内となるように配置した。また、雌型金型31bにおける誘導コイル35aは、キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルが、キャビティ外周より1mm内側までの最外誘導コイル設置範囲Aの範囲となるように配置し、さらに、雄型金型31aにおける誘導コイル35aは、キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルが、キャビティ外周より30mm内側までの最外誘導コイル設置範囲Aの範囲となるように配置した。
この金型を図示していない電磁誘導加熱装置から銅管に通電し、キャビティ面32a、32bを170℃に昇温し、金型31を構成する雄型31a、雌型31bに上記シートを挿入し、型を閉じて、プレス成形を行い、図示していない冷却装置から貫通孔38、銅管製誘導コイルに通水して、金型を冷却し、金型温度が60℃に達した時点で、型を開いて樹脂成形体を取り出した。
得られた樹脂成形体は、コーナー部分偏肉が小さく、成形体表面は全体に亘って美麗な外観を呈していた。
【0109】
[比較例4]
河中産業(株)製の100tプレス成形機に、図3(a)〜(d)に示す電磁誘導加熱式金型を取り付けた。また、シートとして、500mm×500mm×肉厚3.2mmのポリプロピレンシート(日本ポリプロ(株)製、ニユーストレン SH9000)を用いた。
ところで、誘導コイル35aの配置位置としては、図3(e)(f)に示す、キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルが、キャビティ外周縁から35mm内側の44bの位置、かつ、雄型金型31aのキャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルが、キャビティ外周縁から30mm内側の位置に肉厚1mm、外径14mmの銅管を配置した。また、誘導コイル35aとキャビティ面32a、32bとの距離の最大と最小の差は、図3(g)に示すように、実施例3と同様とした。
この金型を図示していない電磁誘導加熱装置から銅管に通電し、キャビティ面42a、42bを170℃に昇温し、金型41を構成する2つの型41a、41bに上記シートを挿入し、型を閉じて、プレス成形を行い、図示していない冷却装置から貫通孔38、銅管製誘導コイルに通水して、金型を冷却し、金型温度が60℃に達した時点で、型を開いて樹脂成形体を取り出した。
得られた樹脂成形体は、コーナー部分の偏肉が大きく、コーナー部分にしわが観られた。
【符号の説明】
【0110】
11 射出成形用金型
11a 固定型
11b 可動型
12 キャビティ
12a、12b キャビティ面
13a ノズル穴
13b ランナー・ゲート
14a 磁性金属部
14b 非磁性金属部
15 誘導コイル保持部
15a 誘導コイル
16a、16b 断熱材
17 母型
18 貫通孔
19 エジェクターピン
a 角穴
b 丸穴
A 最外誘導コイル設置範囲
【0111】
21 ブロー成形用金型
21a、21b 型
22 キャビティ
22a、22b キャビティ面
23 パリソン
24a 磁性金属部
24b 非磁性金属部
25 誘導コイル保持部
25a 誘導コイル
26 断熱材
27 母型
28 貫通孔
29 ダイス
29a エアー注入口
【0112】
31 プレス成形用金型
31a 雄型
31b 雌型
32a、32b キャビティ面
33 樹脂シート
34a 磁性金属部
34b 非磁性金属部
35 誘導コイル保持部
35a 誘導コイル
36 断熱材
37 母型
38 貫通孔
【0113】
41a、41b、42a、42b、43a、43b、44a、44b 各比較例における誘導コイルの配置位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形用金型を有する装置であり、
この金型を構成する2つの型は、互いに向かい合う面に、それぞれ、キャビティ面が形成され、
上記2つの型は、それぞれ、上記キャビティ面を有する部位に磁性金属部が配され、
その磁性金属部の外面に、絶縁樹脂製の誘導コイル保持部及び非磁性金属部が順に配され、
上記誘導コイル保持部には、複数の誘導コイルが、当該型のキャビティ面からの距離の最大と最小の差が5mm以内に配されると共に、
キャビティの対角中心を基準としたとき、最も外側に配される誘導コイルが、キャビティ外周縁から30mmの範囲内に配された樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置。
【請求項2】
上記磁性金属部に、水冷用の貫通孔を形成した樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置。
【請求項3】
上記水冷用の貫通孔に冷却水を通すための第1冷却機構を有し、この第1冷却機構には、上記貫通孔に空気を通じ、この貫通孔を乾燥させるためのエアパージ機構を設けた請求項2に記載の樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置。
【請求項4】
上記誘導コイルは、銅線又は銅管をコイル状に巻いたものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置。
【請求項5】
上記誘導コイルは、銅管をコイル状に巻いたものであり、この銅管の中に冷却水を供給するための第2冷却機構を有する請求項4に記載の樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置。
【請求項6】
上記誘導コイルは、銅線又は銅管をコイル状に巻いたものであり、誘導コイル保持部と磁性金属部の間に隙間を設け、その隙間に空気を供給するための第3冷却機構を有する請求項4に記載の樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置。
【請求項7】
上記複数の誘導コイルは、それぞれ、少なくとも2つの通電装置のいずれかに接続された請求項1乃至6のいずれか1項に記載の樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置。
【請求項8】
上記の磁性金属部、非磁性金属部、及び絶縁樹脂製の誘導コイル保持部からなる金型中核部の外周には、断熱材が配される請求項1乃至7のいずれか1項に記載の樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置。
【請求項9】
上記磁性金属部は折れ曲がり部を有し、
上記誘導コイル保持部と接する側の上記折れ曲がり部の内角が、上記誘導コイル保持部に対して、鋭角、直角又は鈍角を形成しており、
この折れ曲がり部の面取り部の曲率半径は、50mm以上200mm以下である請求項1乃至8のいずれか1項に記載の樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置。
【請求項10】
上記誘導コイルの最外周面から上記磁性金属部までの距離が、10mm以上50mm以下である請求項1乃至9のいずれか1項に記載の樹脂成形用電磁誘導加熱式金型装置。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図1(c)】
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【図1(d)】
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【図1(e)】
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【図1(f)】
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【図1(g)】
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【図1(h)】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図2(c)】
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【図2(d)】
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【図2(e)】
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【図2(f)】
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【図2(g)】
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【図2(h)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図3(d)】
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【図3(e)】
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【図3(f)】
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【図3(g)】
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【図3(h)】
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【公開番号】特開2012−214040(P2012−214040A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−69042(P2012−69042)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】