説明

樹脂用抗菌剤及びそれを用いた樹脂成形体

【課題】樹脂との加熱混練時や樹脂成形時などの熱履歴による抗菌性の低下、樹脂成形体の着色、及び樹脂成形体の強度低下を十分に抑制でき、使用金属器械などの腐食やハロゲン化ガスの発生もなく、さらに帯電防止性を樹脂成形体に付与することもできる樹脂用抗菌剤を提供する。
【解決手段】下式(1)で表される第4級アンモニウムカチオンと、X(RO)SO(式中、Xはヒドロキシル基又は硫酸エステル基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは1〜35の整数を表す。)で表されるアルキレングリコール硫酸エステルアニオンとの塩を含むことを特徴とする樹脂用抗菌剤。


(式中、R1とRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数10〜14の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基又はベンジル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体などに抗菌性を付与することができる樹脂用抗菌剤と、それを用いた樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の間で清潔志向や安全志向が高まり、それに伴い様々な機能性を有する樹脂成形体が開発販売されている。中でも、抗菌機能を有する抗菌加工樹脂製品の市場が年々拡大してきている。その一因として、最近の住宅の高気密化に伴う湿気の増大や換気不足などにより、細菌が増殖したりカビが発生しやすい生活環境となってきていることが挙げられる。また、樹脂成形体は一般的に静電気を帯びやすい性質を持っており、ほこりの付着や人体への感電のショックなどの不便な面がある。
【0003】
こうしたことを背景にして、快適で衛生的な生活環境を実現するため、抗菌加工や帯電防止性を施した樹脂加工製品が多く販売され、消費されるようになった。
【0004】
樹脂成形体に抗菌性を付与する方法としては、抗菌剤を樹脂に添加する方法が挙げられる。そのような抗菌剤として、例えば、銀を含むリン酸塩系抗菌剤(例えば、特許文献1参照)や、銀、亜鉛、銅などの金属をゼオライトなどの担体に担持させた多孔性構造体(例えば、特許文献2参照)といった無機系の抗菌剤が知られている。また、有機系抗菌剤として、トリメトキシシリルプロピルオクタデシルアンモニウムクロライド(例えば、特許文献2参照)、ジメチルジデシルアンモニウム四フッ化ホウ素酸塩(例えば、特許文献3参照)といった第4級アンモニウム塩が知られている。
【0005】
しかし、特許文献1、2などに記載の無機系抗菌剤には、樹脂との加熱混練時や樹脂成形時の熱履歴により成形体が着色してしまうという問題があった。
【0006】
また、特許文献2、3などに記載の有機系抗菌剤も、樹脂との加熱混練時や樹脂成形時の熱履歴により熱分解を起こし、抗菌性が低下したり、樹脂成形体が着色したりする問題があった。さらに、これら4級アンモニウム塩の中で、対塩としてハロゲンが用いられているものは、樹脂との加熱混練時や樹脂成形時の熱履歴、廃棄する際の熱処理時にハロゲン化ガスを発生する恐れがあり、環境負荷の観点から問題となっていた。また、ハロゲンが含有されていることにより、金属器械や器具が腐食しやすいという問題もあった。
【0007】
さらに、特許文献3などに記載の有機系抗菌剤においては、製造する際に炭酸ジアルキルエステルを用いるものがあり、製造した抗菌剤に炭酸ジエステルが含有されてしまうことがあった。その場合には、樹脂との混練時もしくは経時的に炭酸ガスが発生し、樹脂成形体の強度が低下してしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−12836号公報
【特許文献2】特開2000−178452号公報
【特許文献3】特開2006−83331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、樹脂との加熱混練時や樹脂成形時などの熱履歴による抗菌性の低下と樹脂成形体の着色とを十分に抑制することができ、しかも樹脂成形体の強度の低下も十分に抑制することができ、含有ハロゲンによる使用金属器械などの腐食やハロゲン化ガスの発生もなく、さらに帯電防止性を樹脂成形体に付与することもできる樹脂用抗菌剤、並びに前記樹脂用抗菌剤により抗菌性及び帯電防止性を付与された樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の第4級アンモニウムと特定のアニオンとの塩は耐熱性に優れた抗菌剤であり、その抗菌剤を用いると樹脂との加熱混練時や樹脂成形時の熱による抗菌性の低下と樹脂成形体の着色とが十分に抑制され、しかも樹脂成形体の強度の低下も十分に抑制され、さらに帯電防止性も樹脂成形体に付与できることを見出し、本発明を完成させるに至った。また、その抗菌剤は、含有ハロゲンによる金属器械などの腐食やハロゲン化ガスの発生がなく、環境に配慮したものとなっている。
【0011】
すなわち、本発明の樹脂用抗菌剤は、下記一般式(1):
【0012】
【化1】

【0013】
(式(1)中、R1とRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数10〜14の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基又はベンジル基を表す。)
で表される第4級アンモニウムカチオンと、下記一般式(2):
X(RO)SO (2)
(式(2)中、Xはヒドロキシル基又は硫酸エステル基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは1〜35の整数を表し、但し、nが2以上の場合にはROは同一であっても異なっていてもよく、ROが2種以上の場合にはランダム付加であってもブロック付加であってもよい。)
で表されるアルキレングリコール硫酸エステルアニオンとの塩を含むことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の樹脂成形体は、前記本発明の樹脂用抗菌剤を含有することを特徴とするものである。
【0015】
本発明においては、前記第4級アンモニウムカチオンが、ジメチルヒドロキシエチルデシルアンモニウム、ジメチルヒドロキシエチルドデシルアンモニウム及びジメチルヒドロキシエチルテトラデシルアンモニウムからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0016】
また、本発明においては、前記アルキレングリコール硫酸エステルアニオンが、ジエチレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ジプロピレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ジエチレングリコールジ硫酸エステルアニオン、ジプロピレングリコールジ硫酸エステルアニオン、ポリエチレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ポリプロピレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ポリエチレングリコールジ硫酸エステルアニオン及びポリプロピレングリコールジ硫酸エステルアニオンからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂用抗菌剤は耐熱性に優れた抗菌剤であるため、それを用いれば樹脂との加熱混練時や樹脂成形時の熱履歴による抗菌性の低下と樹脂成形体の着色とが十分に抑制され、しかも樹脂成形体の強度の低下も十分に抑制され、さらに帯電防止性も樹脂成形体に付与されるため、得られる樹脂成形体の強度や意匠性を十分維持しつつ、樹脂成形体に優れた抗菌性と帯電防止性とを付与することが可能となる。
【0018】
また、本発明の樹脂用抗菌剤はハロゲンを含んでいないため、樹脂との加熱混練時や樹脂成形時の熱履歴、廃棄する際の熱処理時に、ハロゲン化ガスを発生する恐れや含有ハロゲンによる金属器械や器具の腐食の恐れがないため、安全性や環境面に考慮したものとなっている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
本発明の樹脂用抗菌剤は、特定の第4級アンモニウムカチオンと特定のアニオンとの塩を含むことを特徴とするものである。
【0021】
本発明において用いる第4級アンモニウムカチオンは、下記一般式(1)で表されるものである。下記条件を満たす第4級アンモニウムカチオンを用いることによって、後述する特定の対アニオンとの塩とした際に十分に優れた耐熱性を有する抗菌剤として機能するようになる。
【0022】
【化2】

【0023】
前記式(1)中、RとRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基であり、直鎖であっても分岐を有していてもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。このような脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基が挙げられ、抗菌性がより向上する傾向にあるという観点から好ましくはメチル基である。
【0024】
また、前記式(1)中、Rは炭素数10〜14の脂肪族炭化水素基であり、直鎖であっても分岐を有していてもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。このような脂肪族炭化水素基としては、抗菌性がより向上する傾向にあるという観点から好ましくは直鎖状の脂肪族炭化水素基であり、より好ましくは飽和の直鎖状脂肪族炭化水素基である。このような脂肪族炭化水素基としては、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基などが挙げられ、より好ましくはドデシル基である。
【0025】
さらに、前記式(1)中、Rは炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基又はベンジル基であり、抗菌性がより向上する傾向にあるという観点から好ましくはヒドロキシエチル基又はベンジル基である。このようなヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基が挙げられる。
【0026】
このような一般式(1)で表される第4級アンモニウムカチオンの具体例としては、ジメチルヒドロキシエチルデシルアンモニウム、ジメチルヒドロキシエチルドデシルアンモニウム、ジメチルヒドロキシエチルテトラデシルアンモニウムなどが挙げられる。これらのうち抗菌性がより向上する傾向にあるという観点から好ましいのは、ジメチルヒドロキシエチルドデシルアンモニウム、ジメチルヒドロキシエチルテトラデシルアンモニウムである。
【0027】
本発明の樹脂用抗菌剤においては、前記特定の第4級アンモニウムカチオンを、以下に説明する特定の対アニオンと組み合わせて、それらの塩として用いる必要がある。本発明に係る特定の第4級アンモニウムカチオンと特定の対アニオンとの塩は、耐熱性に優れた抗菌剤として機能し、さらに帯電防止剤としても機能する。また、本発明に係る塩はいわゆるイオン液体となり易い傾向にあり、室温で液状を維持し易い。そのため、係る抗菌剤を含む樹脂成形体が使用されるにつれて摩耗などの物理的な作用により表面付近の抗菌剤が失われてその部分の抗菌剤濃度が低下して濃度勾配ができた際に、成形体内部の抗菌剤が表面付近に移動することにより、抗菌効果と帯電防止効果が持続的に維持されることとなる。
【0028】
本発明において用いるアニオンは、下記一般式(2):
X(RO)SO (2)
で表されるアルキレングリコール硫酸エステルアニオンである。このように対アニオンの一方の末端がスルホ基アニオン(−SO)となっていることにより、前述の第4級アンモニウムカチオンとの塩が耐熱性に優れた抗菌剤となる。
【0029】
前記式(2)中、Xはヒドロキシル基(−OH)又は硫酸エステル基(−OSOH又は−OSO)である。また、前記式(2)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基である。このような炭素数2〜4のアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ブチレン基が挙げられるが、抗菌性がより向上する傾向にあるという観点からエチレン基又はプロピレン基が好ましい。
【0030】
また、前記式(2)中、nは1〜35の整数を表し、樹脂との相溶性がより向上する傾向にあるという観点から2〜20の整数が好ましい。なお、nが2以上の場合にはROは同一であっても異なっていてもよく、ROが2種以上の場合にはランダム付加であってもブロック付加であってもよい。
【0031】
本発明に係る対アニオンが他方の末端としてヒドロキシル基を有しており且つ特定の(ポリ)アルキレングリコール鎖を有している場合、前述の第4級アンモニウムカチオンとの塩がイオン液体となり易く、より持続性に優れた抗菌剤となる傾向にある。他方、本発明に係る対アニオンが他方の末端として硫酸エステル基を有している場合、前述の第4級アンモニウムカチオンとの塩の耐熱性がより向上する傾向にある。なお、本明細書中において、(ポリ)アルキレングリコールとは、アルキレンオキシ基が単数のモノアルキレングリコール及びアルキレンオキシ基が複数のポリアルキレングリコールを意味する。
【0032】
このような一般式(2)で表されるアルキレングリコール硫酸エステルアニオンの具体例としては、ジエチレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ジプロピレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ジエチレングリコールジ硫酸エステルアニオン、ジプロピレングリコールジ硫酸エステルアニオン、ポリエチレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ポリプロピレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ポリエチレングリコールジ硫酸エステルアニオン、ポリプロピレングリコールジ硫酸エステルアニオンなどが挙げられる。これらのうち得られる抗菌剤が液状によりなり易く、樹脂との相溶性が向上する傾向にあるという観点から、好ましいのはジエチレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ジプロピレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ポリエチレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ポリプロピレングリコールモノ硫酸エステルアニオンなどの前記一般式(2)中のXがヒドロキシル基のものである。
【0033】
本発明の樹脂用抗菌剤は、前記一般式(1)で表される第4級アンモニウムカチオンと、前記一般式(2)で表されるアルキレングリコール硫酸エステルアニオンとの塩の一種又は二種以上を含む。本発明の樹脂用抗菌剤は、前記塩のみからなるものであってもよいが、樹脂に使用される公知の他の抗菌剤(例えば、酸化銀や酸化亜鉛)などが前記塩と共に含有されていてもよい。
【0034】
また、前記一般式(1)で表される第4級アンモニウムカチオンと、前記一般式(2)で表されるアルキレングリコール硫酸エステルアニオンとの比率(カチオン:アニオン)は、1:1(モル比)が理想的であるが、それに限定されず、1.0:1.5〜1.5:1.0程度が好ましく、1.0:1.2〜1.2:1.0程度がより好ましい。
【0035】
本発明の樹脂用抗菌剤の製造方法としては、特に限定されないが、以下の方法が挙げられる。すなわち、前記一般式(2)のアニオンである(ポリ)アルキレングリコール硫酸エステルの存在下で、前記一般式(1)の第4級アンモニウムに対応する第3級アミン(NR)をエチレンオキサイドにより4級化する方法、又は前記一般式(1)の第4級アンモニウム塩と、前記一般式(2)のアニオンである(ポリ)アルキレングリコール硫酸エステル塩との塩交換法が挙げられる。
【0036】
具体例としては、(ポリ)アルキレングリコール硫酸エステルの存在下で、ジメチルアルキルアミンをエチレンオキサイドによって4級化する方法、又はジメチルヒドロキシエチルアルキルアンモニウム塩あるいはジメチルベンジルアルキルアンモニウム塩と、(ポリ)アルキレングリコール硫酸エステル塩との塩交換法が挙げられる。
【0037】
次に、本発明の樹脂成形体について説明する。本発明の樹脂成形体は、前記本発明の樹脂用抗菌剤を含有することを特徴とするものである。
【0038】
適用対象となる樹脂としては、公知の樹脂成形品の製造に用いられるものであれば特に限定されることはなく、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。本発明の樹脂用抗菌剤は、いわゆるイオン液体として液体状をとり易く樹脂と混ざり易いことに加えて、中性付近のpHを示すため樹脂強度の低下が十分に抑制されることにより、本発明の樹脂成形体に用いられる樹脂はこれらの点を考慮して特に限定される必要はない。
【0039】
本発明に用いることが可能な熱可塑性樹脂としては、ビニル重合系樹脂(ポリオレフィン樹脂、塩素含有ビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂など)、縮合系樹脂(ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリオキシフェニレンなど)、重付加系樹脂(熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリアセタール樹脂など)、開環重合系樹脂(ポリオキシアルキレン(アルキレン基の炭素数:2〜4)樹脂など)などが挙げられる。
【0040】
ポリオレフィン樹脂の例としては、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン(好ましくは炭素数3〜12)共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(好ましくは炭素数4〜12)共重合体など;塩素含有ビニル樹脂の例としてはポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなど;(メタ)アクリル樹脂の例としては(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルおよび(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどからなる群より選ばれた1種以上のモノマーの(共)重合物など;スチレン樹脂の例としてはポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン−無水マレイン酸樹脂、スチレン−アクリル酸エステル樹脂、HIPSなどが挙げられる。なお、本明細書中において、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルを意味する。
【0041】
ポリアミド樹脂の例としては6ナイロン、66ナイロン、11ナイロン、12ナイロンなど;熱可塑性ポリエステル樹脂の例としてはPET樹脂、PBT樹脂、PEN樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。
【0042】
本発明に用いることが可能な熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂(グリコールと、不飽和および飽和二塩基酸から誘導される不飽和ポリエステルと他のビニルモノマーとの架橋共重合物など)、エポキシ樹脂(ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂の、ポリアミン、酸無水物などによる硬化樹脂など)、熱硬化性ポリウレタン樹脂(ポリウレタンフォームを含む)、高吸水性樹脂(架橋ポリアクリルアミドの部分加水分解物、架橋されたアクリル酸−アクリルアミド共重合体など)などが挙げられる。
【0043】
本発明の樹脂用抗菌剤の添加量は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対して通常10質量部以下であり、抗菌効果と樹脂強度とのバランスがより向上するという観点から、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.3〜2質量部である。
【0044】
本発明の樹脂用抗菌剤を含有してなる樹脂成型体は、必要によりさらに顔料、核剤、可塑剤、安定剤、充填材、難燃剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤などから選ばれるその他の添加剤を含有させることができる。
【0045】
顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、黄鉛、カドミウム、群青、アゾ系、フタロシアニン系、建染染料系、キナクリドン系、ジオキサジン系、染付レーキなど;核剤としては、ジベンジリデンソルビトールなど;可塑剤としては、フタル酸エステル系(ジオクチルフタレートなど)、リン酸エステル系、アジピン酸系、セバシン酸エステル系、グリコール酸エステル系、ポリエステル系、エポキシ系など;安定剤としては、鉛白、塩基性亜硫酸鉛、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、シリカゲル共沈けい酸鉛、液状金属系、ラウレート系有機スズ、マレエート系有機スズ、メルカプタイド系有機スズ、アンチモン系、エポキシ系、亜リン酸エステル系など;充填材としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、けい酸、けい酸塩、アスベスト、マイカ、ガラス繊維、ガラスバルーン、カーボン繊維、金属繊維、セラミックウィスカ、チタンウィスカなど;難燃剤としては、リン酸エステル系[トリクレジルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェートなど]、臭素系(デカブロモビフェニルエーテルなど)、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸塩系(ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウムなど)、水酸化アルミニウム、赤リン、水酸化マグネシウム、ポリリン酸アンモニウム、ヘット酸、テトラブロモビスフェノールAなどが挙げられる。
【0046】
また、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などが挙げられる。フェノール系酸化防止剤の例としては2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)など;硫黄系酸化防止剤の例としてはジラウリル3,3’−チオジプロピオネート(DLTDP)、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート(DSTDP)など;リン系酸化防止剤の例としてはトリフェニルホスファイト(TPP)、トリイソデシルホスファイト(TDP)など;アミン系酸化防止剤の例としてはオクチル化ジフェニルアミン、N−n−ブチル−p−アミノフェノール、N,N−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミンなどが挙げられる。
【0047】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、サリチレート系、ベンゾトリアゾール系、アクリル系などが挙げられる。ベンゾフェノン系の例としては2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなど;サリチレート系の例としてはフェニルサリチレート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなど;ベンゾトリアゾール系の例としては(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)ベンゾトリアゾールおよびその(共)重合体など;アクリル系の例としてはエチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、メチル−2−カルボメトキシ−3−(パラメトキシベンジル)アクリレートなどが挙げられる。
【0048】
帯電防止剤としては、ポリマー型(ポリエーテルエステルアミドなど)などが挙げられる。
【0049】
前記の添加剤の使用量は、本発明の樹脂用抗菌剤及びその他の添加剤が未添加の樹脂100質量部に対して、可塑剤、充填材は通常80質量部以下、好ましくは10〜50質量部、難燃剤は通常40質量部以下、好ましくは10〜30質量部、顔料は通常40質量部以下、好ましくは1〜10質量部、核剤、安定剤、帯電防止剤は通常10質量部以下、好ましくは1〜5質量部、酸化防止剤、紫外線防止剤は通常5質量部以下、好ましくは0.1〜2質量部である。
【0050】
本発明の樹脂成形体の製造方法としては、特に限定されないが、以下の方法が挙げられる。すなわち、樹脂が熱可塑性の場合は、本発明の樹脂用抗菌剤と、ペレット又は粉末状の樹脂と、必要によりその他の添加剤とを混合機で所定濃度になるように配合し均一に混合した後、押出機で加熱溶融混練して本発明の樹脂用抗菌剤を含む樹脂組成物を得、次いで加熱成形機又は射出成形機などにより成形加工する方法や、予め高濃度の樹脂用抗菌剤を樹脂に配合したいわゆるマスターバッチを作製しておき、次いで樹脂用抗菌剤を含まない樹脂ペレット又は粉末で所定濃度まで希釈し、必要によりその他の添加剤を配合した後、成形加工する方法などが挙げられる。また、樹脂が熱硬化性の場合は、本発明の樹脂用抗菌剤及びその他の添加剤を混合可能な成分に予め配合した後に成形する方法が挙げられる。
【0051】
本発明の樹脂用抗菌剤を含む樹脂組成物は、成形機(加熱成形機、射出成形機など)によりブロック状物、板状物、シート、フィルム、糸などの樹脂成形体とされ、浴槽、洗面台などのサニタリー用品、冷蔵庫、洗濯機などの家電用品、食卓、台所などの家庭用品、塩ビパイプなどの建築用品、ポリエステル、ナイロン、スパンデックスなどの繊維および繊維製品、ポリエチレンシートなどの包装用品などの各種用途に使用される。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
ジエチレングリコール106質量部に室温でクロロスルホン酸117質量部を滴下し、2時間撹拌した。得られた反応混合物から減圧下において塩酸ガスを除去し、ジエチレングリコールモノ硫酸エステル186質量部を得た。
【0054】
次に、ジメチルドデシルアミン221質量部を50容量%イソプロピルアルコール水溶液457質量部に溶解し、前記のジエチレングリコールモノ硫酸エステル186質量部を加えて撹拌した後、水酸化ナトリウムでpHを6.0に調整した。得られた混合物を100℃に加熱した後、エチレンオキサイド53質量部を加え、4級化反応せしめた。得られた反応混合物を室温まで冷却後、溶媒を除去して、ジメチルヒドロキシエチルドデシルアンモニウムカチオンとジエチレングリコールモノ硫酸エステルアニオンとの塩を95質量%含む樹脂用抗菌剤457質量部を得た。
【0055】
(実施例2)
ポリエチレングリコール(分子量300)300質量部に室温でクロロスルホン酸117質量部を滴下し、2時間撹拌した。得られた反応混合物から減圧下において塩酸ガスを除去し、ポリエチレングリコールモノ硫酸エステル380質量部を得た。
【0056】
次に、ジメチルドデシルアミン217質量部を50容量%イソプロピルアルコール水溶液600質量部に溶解し、前記のポリエチレングリコールモノ硫酸エステル380質量部を加えて撹拌した後、水酸化ナトリウムでpHを6.0に調整した。得られた混合物を100℃に加熱した後、エチレンオキサイド53質量部を加え、4級化反応せしめた。得られた反応混合物を室温まで冷却後、溶媒を除去して、ジメチルヒドロキシエチルドデシルアンモニウムカチオンとポリエチレングリコールモノ硫酸エステルアニオンとの塩を97質量%含む樹脂用抗菌剤600質量部を得た。
【0057】
(実施例3)
ポリエチレングリコール(分子量300)300質量部に室温でクロロスルホン酸234質量部を滴下し、2時間撹拌した。得られた反応混合物から減圧下において塩酸ガスを除去し、ポリエチレングリコールジ硫酸エステル380質量部を得た。
【0058】
次に、ジメチルドデシルアミン217質量部を50容量%イソプロピルアルコール水溶液717質量部に溶解し、前記のポリエチレングリコールジ硫酸エステル380質量部を加えて撹拌した後、水酸化ナトリウムでpHを6.0に調整した。得られた混合物を100℃に加熱した後、エチレンオキサイド53質量部を加え、4級化反応せしめた。得られた反応混合物を室温まで冷却後、溶媒を除去して、ジメチルヒドロキシエチルドデシルアンモニウムカチオンとポリエチレングリコールジ硫酸エステルアニオンとの塩を93質量%含む樹脂用抗菌剤717質量部を得た。
【0059】
(実施例4)
ポリプロピレングリコール(分子量1000)1000質量部に室温でクロロスルホン酸117質量部を滴下し、2時間撹拌した。得られた反応混合物から減圧下において塩酸ガスを除去し、ポリプロピレングリコールモノ硫酸エステル1117質量部を得た。
【0060】
次に、ジメチルドデシルアミン217質量部を50容量%イソプロピルアルコール水溶液1387質量部に溶解し、前記のポリプロピレングリコールモノ硫酸エステル1117質量部を加えて撹拌した後、水酸化ナトリウムでpHを6.0に調整した。得られた混合物を100℃に加熱した後、エチレンオキサイド53質量部を加え、4級化反応せしめた。得られた反応混合物を室温まで冷却後、溶媒を除去して、ジメチルヒドロキシエチルドデシルアンモニウムカチオンとポリプロピレングリコールモノ硫酸エステルアニオンとの塩を92質量%含む樹脂用抗菌剤1387質量部を得た。
【0061】
(実施例5)
ポリエチレングリコール(分子量400)400質量部に100℃でスルファミン酸97質量部と尿素6質量部とを加え、ホモミキサー(T.K.RABOMICS、プライミクス(株)製)を用いて3,000rpmで約8時間撹拌し、ポリエチレングリコールモノ硫酸エステルのアンモニウム塩497質量部を得た。
【0062】
次に、塩化ベンザルコニウム50質量%水溶液(ニッカノン50、日華化学(株)製)680質量部に、前記のポリエチレングリコールモノ硫酸エステルのアンモニウム塩497質量部、水酸化ナトリウム(50質量%水溶液)80質量部を加えた。得られた反応混合物を100℃にて含水率0.5%以下となるまで脱水処理し、5Aろ紙(ADVANTEC製)にてろ過して、ジメチルベンジルドデシルアンモニウムカチオンとポリエチレングリコールモノ硫酸エステルアニオンとの塩を95質量%含む樹脂用抗菌剤744質量部を得た。
【0063】
(実施例6〜10)
実施例1〜5で得られた樹脂用抗菌剤の各々と、ポリプロピレン樹脂(プライムポリプロJ106G、(株)プライムポリマー製)とを、質量比1対100になるように、反応改質混練システム(PRMN−25FS、パーカーコーポレーション製)にて200℃で溶融混練し、それぞれのペレットを得た。次に、得られたペレットを用いて、射出成形機(ROBOSHOT S−2000i 100B、ファナック製)により、シリンダー温度200℃の条件でダンベルを作製し、実施例6〜10の樹脂成形体を得た。
【0064】
(実施例11〜15)
実施例1〜5で得られた樹脂用抗菌剤の各々と、ポリプロピレン樹脂(プライムポリプロJ106G、(株)プライムポリマー製)とを、質量比1対50になるように、反応改質混練システム(PRMN−25FS、パーカーコーポレーション製)にて200℃で溶融混練し、それぞれのペレットを得た。次に、得られたペレットを用いて、射出成形機(ROBOSHOT S−2000i 100B、ファナック製)により、シリンダー温度200℃の条件でダンベルを作製し、実施例11〜15の樹脂成形体を得た。
【0065】
(実施例16〜20)
実施例1〜5で得られた樹脂用抗菌剤の各々と、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂(スタイラックABS121、旭化成(株)製)とを、質量比1対100になるように、反応改質混練システム(PRMN−25FS、パーカーコーポレーション製)にて220℃で溶融混練し、それぞれのペレットを得た。次に、得られたペレットを用いて、射出成形機(ROBOSHOT S−2000i 100B、ファナック製)により、シリンダー温度200℃の条件でダンベルを作製し、実施例16〜20の樹脂成形体を得た。
【0066】
(実施例21〜25)
実施例1〜5で得られた樹脂用抗菌剤の各々と、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂(スタイラックABS121、旭化成(株)製)とを、質量比1対50になるように、反応改質混練システム(PRMN−25FS、パーカーコーポレーション製)にて220℃で溶融混練し、それぞれのペレットを得た。次に、得られたペレットを用いて、射出成形機(ROBOSHOT S−2000i 100B、ファナック製)により、シリンダー温度200℃の条件でダンベルを作製し、実施例21〜25の樹脂成形体を得た。
【0067】
(ブランク1)
ポリプロピレン樹脂(プライムポリプロJ106G、(株)プライムポリマー製)を反応改質混練システム(PRMN−25FS、パーカーコーポレーション製)にて200℃で溶融し、抗菌剤未添加のペレットを得た。次に、得られた抗菌剤未添加のペレットを用いて、射出成形機(ROBOSHOT S−2000i 100B、ファナック製)により、シリンダー温度200℃の条件でダンベルを作製し、これをブランク1の樹脂成形体とした。
【0068】
(ブランク2)
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂(スタイラックABS121、旭化成(株)製)を反応改質混練システム(PRMN−25FS、パーカーコーポレーション製)にて200℃で溶融し、抗菌剤未添加のペレットを得た。次に、得られた抗菌剤未添加のペレットを用いて、射出成形機(ROBOSHOT S−2000i 100B、ファナック製)により、シリンダー温度200℃の条件でダンベルを作製し、これをブランク2の樹脂成形体とした。
【0069】
(比較例1)
塩化ベンザルコニウム50質量%水溶液(ニッカノン50、日華化学(株)製)の水分を除去し、得られた塩化ベンザルコニウムと、ポリプロピレン樹脂(プライムポリプロJ106G、(株)プライムポリマー製)とを、質量比1対50になるように、反応改質混練システム(PRMN−25FS、パーカーコーポレーション製)にて200℃で溶融混練し、ペレットを得た。次に、得られたペレットを用いて、射出成形機(ROBOSHOT S−2000i 100B、ファナック製)により、シリンダー温度200℃の条件でダンベルを作製し、これを比較例1の樹脂成形体とした。
【0070】
(比較例2)
塩化ベンザルコニウム50質量%水溶液(ニッカノン50、日華化学(株)製)の水分を除去し、得られた塩化ベンザルコニウムと、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂(スタイラックABS121、旭化成(株)製)とを、質量比1対50になるように反応改質混練システム(PRMN−25FS、パーカーコーポレーション製)にて200℃で溶融混練し、ペレットを得た。次に、得られたペレットを用いて、射出成形機(ROBOSHOT S−2000i 100B、ファナック製)により、シリンダー温度200℃の条件でダンベルを作製し、これを比較例2の樹脂成形体とした。
【0071】
(1)樹脂成形体の性能評価
実施例6〜10、12、16〜20、22及びブランク1、2において得られた樹脂成形体の引っ張り試験を行い、各樹脂成形体の応力を測定した。応力測定には、万能引張試験機(材料試験システム4482、インストロンコーポレーション製)を用いた。得られた結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の樹脂用抗菌剤を用いて得られた樹脂成形体の最大応力は、抗菌剤使用量が樹脂100質量部に対して2質量部の場合でも1質量部の場合とほぼ変わらず、表1に示した全ての実施例の樹脂成形体においてブランクの樹脂成形体とほぼ変わらなかった。
【0074】
(2)樹脂成形体の抗菌性評価
実施例7、11〜15、17、21〜24及びブランク1、2において得られた樹脂成形体の抗菌性を、日本工業規格で定められた抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果(JIS Z2801 2000)に従い、評価した。
【0075】
各実施例及びブランク1、2において得られた樹脂成形体の試験片(20mm×30mm)、並びに、普通ブイヨン培地を滅菌水で500倍希釈した液を用いて菌数が2.5〜10×10個/mlとなるように試験菌液を調製した。調製した試験菌液0.1mlを試験片に滴下して上からフィルムをかぶせ、35℃で24時間培養した。その後、試験片とフィルムを10mlのSCDLP培地で洗い出し、その液を速やかに生菌数測定に供して生菌数(生菌数が<10の場合は10とする)を求め、下記式:
抗菌活性値(R)=Log{(ブランク試験片の生菌数)/(実施例試験片の生菌数)}
により抗菌活性値(R)を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示した結果から明らかなように、本発明の樹脂用抗菌剤を用いて得られた樹脂成形体は、ブランクの樹脂成形体より高い抗菌活性値を持ち、優れた抗菌性を有していることが確認された。
【0078】
(3)樹脂成形体の帯電防止性の評価
実施例1〜5において得られた樹脂用抗菌剤を、下記の各樹脂100質量部:
・ポリ塩化ビニル(PVC)(重量平均分子量(Mw)43000、ALDRICH製)
・ポリメタクリル酸メチル(PMMA)(重合度 約8000、ナカライ製)
・ポリスチレン(PSt)(Mw192000、ALDRICH製)
・ポリビニルブチラール(PVB)(重合度 約700、和光製)
・スチレンブタジエン重合ブロック樹脂(SBR)(Nipol NS310S、日本ゼオン製)
に対して2質量部になるように加え、溶剤としてテトラヒドロキシフラン(THF)を加え、密封した。樹脂が完全に溶解したのを確認した後、アルミトレーに均一になるように広げ、風乾させた。その後、真空乾燥(80℃×8h)を行い、完全にTHFを除去した。得られた樹脂成形体の漏洩抵抗値(Ω)を、20℃、40%RH、測定装置SM−5E型超絶縁計(東亜電波工業k.k)にて測定し、抗菌剤無添加の樹脂成形体の漏洩抵抗値(Ω)と比較した。得られた結果を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
表3に示した結果から明らかなように、本発明の樹脂用抗菌剤を用いて得られた各樹脂成形体の漏洩抵抗値は、抗菌剤無添加の樹脂成形体より漏洩抵抗値が小さく、本発明の樹脂用抗菌剤を用いて得られた樹脂成形体には帯電防止性が付与されていることが確認された。
【0081】
(4)樹脂成型体の着色性の評価
実施例11〜15、21〜25において得られた樹脂成形体の着色性を、ブランクの樹脂成形体を基準に、JIS L0805 2005「汚染用グレースケール」に従い試験し、同JIS中のL表色系による色差に基づく色号(1〜5、及びその中間値)により評価した。得られた結果を表4に示す。なお、5が基準との色差が最も小さいことを表す。
【0082】
【表4】

【0083】
表4に示した結果から明らかなように、本発明の樹脂用抗菌剤を用いて得られた各樹脂成型体の着色は、ブランクの樹脂成形体の着色と殆ど差がなく、本発明の樹脂用抗菌剤による着色性は小さいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明したように、本発明の樹脂用抗菌剤は優れた耐熱性を有しているため、本発明の樹脂用抗菌剤によれば、樹脂との加熱混練時や樹脂成形時などの熱履歴による抗菌性の低下と樹脂成形体の着色とが十分に抑制され、しかも樹脂形成体の強度の低下も十分に抑制されるようになる。そのため、本発明の樹脂用抗菌剤を用いれば、樹脂成形体の変色を抑えながら、樹脂成形体に優れた抗菌性を付与することが可能となる。加えて、本発明の樹脂用抗菌剤によれば樹脂成形体に帯電防止性を付与することもできるため、本発明の樹脂用抗菌剤は極めて有用である。
【0085】
さらに、本発明の樹脂用抗菌剤はハロゲンを含んでいないため、樹脂との加熱混練時や樹脂成形時の熱履歴、廃棄する際の熱処理時に、ハロゲン化ガスを発生する恐れや含有ハロゲンによる金属器械や器具の腐食の恐れがないため、安全性や環境面の観点からも本発明の樹脂用抗菌剤及びそれを用いた樹脂成形体は優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

(式(1)中、R1とRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数10〜14の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基又はベンジル基を表す。)
で表される第4級アンモニウムカチオンと、下記一般式(2):
X(RO)SO (2)
(式(2)中、Xはヒドロキシル基又は硫酸エステル基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは1〜35の整数を表し、但し、nが2以上の場合にはROは同一であっても異なっていてもよく、ROが2種以上の場合にはランダム付加であってもブロック付加であってもよい。)
で表されるアルキレングリコール硫酸エステルアニオンとの塩を含むことを特徴とする樹脂用抗菌剤。
【請求項2】
前記第4級アンモニウムカチオンが、ジメチルヒドロキシエチルデシルアンモニウム、ジメチルヒドロキシエチルドデシルアンモニウム及びジメチルヒドロキシエチルテトラデシルアンモニウムからなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂用抗菌剤。
【請求項3】
前記アルキレングリコール硫酸エステルアニオンが、ジエチレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ジプロピレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ジエチレングリコールジ硫酸エステルアニオン、ジプロピレングリコールジ硫酸エステルアニオン、ポリエチレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ポリプロピレングリコールモノ硫酸エステルアニオン、ポリエチレングリコールジ硫酸エステルアニオン及びポリプロピレングリコールジ硫酸エステルアニオンからなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂用抗菌剤。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の樹脂用抗菌剤を含有することを特徴とする樹脂成形体。

【公開番号】特開2011−173816(P2011−173816A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37808(P2010−37808)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】