説明

樹脂粒子分散体、インクジェット用インク、樹脂粒子分散体の製造方法及びインクジェット用インクの製造方法

【課題】 インクとして用いたときに着弾ずれを低減でき、高い分散安定性を有する樹脂粒子分散体の提供
【解決手段】 本発明は、水及び樹脂粒子を含む樹脂粒子分散体において、前記樹脂粒子分散体は、水不溶性モノマーと、ポリオキシアルキレンユニット及び複数の疎水性基を有するノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤とを水中に分散した後に、前記水不溶性モノマーを重合することにより得られることを特徴とする樹脂粒子分散体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂粒子分散体、インクジェット用インク、樹脂粒子分散体の製造方法及びインクジェット用インクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用インク(以下、単にインクともいう)として、樹脂粒子を含有するインクが知られている。特許文献1には、樹脂粒子及び界面活性剤を含むインクが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−351931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術について本発明者等が検討を行ったところ、インク滴を付与しようと意図した場所と、実際にインク滴が付与された場所とがずれてしまう現象、即ち、着弾ずれが生じることがあった。
上記した従来技術の課題を鑑み、本発明は高い分散安定性を有すると共に、インクとして用いたときに着弾ずれを低減できる樹脂粒子分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、水及び樹脂粒子を含む樹脂粒子分散体において、前記樹脂粒子分散体は、水不溶性モノマーと、ポリオキシアルキレンユニット及び複数の疎水性基を有するノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤とを水中に分散した後に、前記水不溶性モノマーを重合することにより得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、インクとして用いたときに着弾ずれを低減できる、即ち、優れた吐出安定性を有する樹脂粒子分散体及び係る樹脂粒子分散体の製造方法を提供することができる。また、高い分散安定性を有する樹脂粒子分散体及び係る樹脂粒子分散体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明が着弾ずれを低減できた理由について、以下、詳細に説明する。まず、着弾ずれが生じる推定メカニズムについて説明する。従来の樹脂粒子を含むインクは、インクを吐出する際に生じる剪断力によって樹脂粒子の構造や物性が変化すると考えられる。また、係る変化によってインク滴を吐出するための吐出口を有する面(以下、フェイス面ともいう)の表面特性が変化し、着弾ずれが生じると推察される。
【0008】
本発明者等は、剪断力による樹脂粒子の構造や物性の変化を低減するという観点から更に検討を重ねた結果、水不溶性モノマーと、ポリオキシアルキレンユニット及び複数の疎水性基を有するノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤とを水中に分散した後に、前記水不溶性モノマーを重合することにより得られる樹脂粒子分散体を用いることで、着弾ずれを抑制できることを見出した。上記した方法によって得られる樹脂粒子に含まれるノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤を樹脂粒子を含む分散体中に単に添加した場合に比べ、極めて強固に樹脂粒子に吸着している。また、詳細な理由は不明であるが、ノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の1鎖1親水基型界面活性剤に比べ、極めて高い吸着力を有する。そのため、剪断力によって生じる樹脂粒子の構造や物性の変化を抑制することができたと推測される。
【0009】
本発明において、樹脂粒子の粒径は30nm以上500nm以下であることが好ましい。尚、樹脂粒子の平均粒径は、日機装製「Microtrack UPA EX−150」等の粒度分析計を用いて、樹脂粒子のメジアン径であるD50の値を測定することで求めることができる。
【0010】
<ノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤>
本発明においては、ポリオキシアルキレンユニット及び複数の疎水性基を有するノニオン性の多鎖多親水基型界面活性剤を用いる。本発明において、多鎖多親水基型界面活性剤とは、複数の疎水性基、複数の親水性基及び連結基を有する界面活性剤を指す。即ち、本発明のポリオキシアルキレンユニットを有するノニオン性の多鎖多親水基型界面活性剤とは、複数の疎水性基、複数の親水性基及び連結基を有し、複数の親水性基のうち少なくとも一つがポリオキシアルキレンユニットであるノニオン性界面活性剤である。
【0011】
本発明の多鎖多親水基型界面活性剤としては、例えば、2鎖2親水基型界面活性剤、2鎖3親水基型界面活性剤、3鎖3親水基型界面活性剤等が挙げられる。2鎖2親水基型界面活性剤としては、具体的には、下記一般式(1)で表わされる化合物を好適に用いることができる。
【0012】
【化1】

【0013】
(一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立して、炭化水素基又はフッ素化炭化水素基を表し、m及びnはそれぞれ独立して、5以上50以下の整数を表す。また、Xは2価の有機連結基を表し、Y及びYはそれぞれ独立して、下記式(1)〜(5)より選ばれる基を表す。また、Z及びZはそれぞれ独立して、下記式(6)又は(7)で表わされる基を表す。)
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
【化5】

【0018】
【化6】

【0019】
(Yが式(1)で表わされる基である場合、式(1)中の炭素はR及びXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(1)で表わされる基である場合、式(1)中の炭素はR及びXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(2)で表わされる基である場合、式(2)中の炭素はR及びXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(2)で表わされる基である場合、式(2)中の炭素はR及びXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(3)で表わされる基である場合、式(3)中の炭素はR及びXと結合し、窒素はZと結合する。Yが式(3)で表わされる基である場合、式(3)中の炭素はR及びXと結合し、窒素はZと結合する。Yが式(4)で表わされる基である場合、式(4)中の炭素はR、X及びZと結合する。Yが式(4)で表わされる基である場合、式(4)中の炭素はR、X及びZと結合する。Yが式(5)で表わされる基である場合、式(5)中のベンゼン環を構成する炭素のうち、酸素が結合している炭素のパラ位に位置する炭素はRと結合し、ベンゼン環を構成する炭素のうち、酸素が結合している炭素及び酸素が結合している炭素のパラ位に位置する炭素以外の炭素のうちの任意の一つはXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(5)で表わされる基である場合、式(5)中のベンゼン環を構成する炭素のうち、酸素が結合している炭素のパラ位に位置する炭素はRと結合し、ベンゼン環を構成する炭素のうち、酸素が結合している炭素及び酸素が結合している炭素のパラ位に位置する炭素以外の炭素のうちの任意の一つはXと結合し、酸素はZと結合する。)
【0020】
【化7】

【0021】
【化8】

【0022】
一般式(1)中、R及びRが疎水性基に相当する。一般式(1)中のR及びRにおける炭化水素基としては、直鎖あるいは分鎖のアルキル基、アルキルアリール基、アリール基、アルケニル基及びフェニル基が挙げられる。フッ素化炭化水素基としては、フルオロアルキル基、フルオロルケニル基及びフルオロアリール基が挙げられる。炭化水素基又はフッ素化炭化水素基が有する炭素数は4以上20以下であることが好ましい。一般式(1)中のXにおける2価の有機基としては、特に限定されず、炭素結合、エステル結合、アミド結合、エーテル結合及びウレタン結合等を有する2価の有機基が挙げられる。
【0023】
一般式(1)中、(Z及び(Zはそれぞれ親水性基であるポリオキシエチレンユニットを表す。具体的には、Z及びZはそれぞれ独立して、式(6)で表わされるエチレンオキサイドユニット或いは式(7)で表わされるプロピレンオキサイド−エチレンオキサイドユニットである。m及びnの少なくとも一方が15未満の整数である場合、ノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤の親水性が低下し、樹脂粒子分散体の分散安定性が低下する場合がある。また、m及びnの少なくとも一方が50より大きい場合、吐出安定性が低下する場合がある。RとRとに含まれる炭素の数の総和は、m、nの数n総和以下であることが好ましい。
【0024】
本発明のノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤は、下記一般式(2)〜(4)で表わされる化合物のいずれかであることがより好ましい。
【0025】
【化9】


(一般式(2)中、a及びbはそれぞれ独立して4以上20以下の整数であり、m及びnはそれぞれ独立して5以上50以下の整数である。)
【0026】
【化10】


(一般式(3)中、a及びbはそれぞれ独立して4以上20以下の整数であり、m及びnはそれぞれ独立して5以上50以下の整数である。)
【0027】
【化11】

【0028】
(一般式(4)中、a及びbはそれぞれ独立して4以上20以下の整数であり、m及びnはそれぞれ独立して5以上50以下の整数である。)
上記一般式(1)或いは一般式(2)〜(4)のいずれかを満たすノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤としては特開平10−175935に記載の化合物(下記式(8)に記載の化合物)、5811384に記載の化合物(下記式(9)に記載の化合物)、Journal of Colloid and Interface Science,2004年、275巻、649項に記載の化合物(下記式(10)の化合物)、USP5900397に記載の化合物が挙げられる。
【0029】
【化12】

【0030】
【化13】

【0031】
【化14】

【0032】
ノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤の含有量は、樹脂粒子中の水不溶性樹脂全質量を基準として20質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
<水不溶性樹脂>
本発明の水不溶性樹脂としては特に限定されないが、20℃の環境下において100gの水に対する溶解度が1g以下であるモノマー(以下、水不溶性モノマーともいう)を重合することにより得られる重合体であることが好ましい。
【0034】
<樹脂粒子分散体の製造方法>
本発明の樹脂粒子は、水中に、水不溶性モノマーと、ポリオキシアルキレンユニット及び複数の疎水性基を有するノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤とを分散することにより分散液を得た後に、分散液中の水不溶性モノマーを重合することで得ることができる。即ち、本発明の樹脂粒子分散体の製造方法は、樹脂粒子を含む樹脂微粒子分散体の製造方法であって、水中に水不溶性モノマー及び界面活性剤を分散することにより分散液を得る分散工程と、前記分散工程によって得られた分散液に含まれる前記水不溶性モノマーを重合することにより樹脂粒子を得る重合工程とを有し、前記界面活性剤はポリオキシアルキレンユニット及び複数の疎水性基を有するノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤であることを特徴とする。
【0035】
[分散工程]
本発明における分散工程とは、水中に、水不溶性モノマーと、ポリオキシアルキレンユニット及び複数の疎水性基を有するノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤とを分散することにより分散液を得る工程である。
水不溶性モノマーとポリオキシアルキレンユニット及び複数の疎水性基を有するノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤を分散する際には、超音波照射を用いることが好ましい。また、超音波照射を行う際には20kHz以上850kHz以下の周波数の超音波を用いることが好ましい。
【0036】
(水不溶性モノマー)
本発明の分散工程に好適に用いることのできる水不溶性モノマーとしては、具体的には、スチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレートアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレートアクリレートなどの(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。分散液中に含まれる水不溶性モノマーの含有量は、分散液全質量を基準として5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
(その他のモノマー)
本発明においては、分散工程における分散液中に上記した水不溶性モノマー以外のモノマーを更に加えてもよい。水溶性モノマー以外のモノマーとしては、具体的には、アクリルアミド、アクリロニトリル、ビニルエーテル、酢酸ビニル、ビニルイミダゾール、エチレン、マレイン酸誘導体、メチル(メタ)アクリル酸等のモノマーを好適に用いることができる。水溶性モノマー以外のモノマーを分散液に加える場合、分散液中の全モノマーに占める水不溶性モノマーの割合が、質量基準で90%以上であることが好ましい。
【0038】
(ノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤)
分散工程において用いることのできるノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンユニットと複数の疎水性基とを有するノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤であればいずれも好適に用いることができるが、上述した一般式(1)や一般式(2)〜(4)で表わされる化合物をいずれも好適に用いることができる。本発明において、分散液中に含まれるノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤の量は、分散液中に含まれる水不溶性モノマーの全質量を基準として20質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
(顔料)
本発明においては、分散液に、顔料を更に加えてもよい。顔料としては、カーボンブラック等のブラック顔料やカラー顔料等の公知の顔料を好適に用いることができる。顔料を加えた後に、水不溶性モノマー及び顔料を分散し、後述する重合工程を行うことで、顔料をコアとし、樹脂粒子をシェルとしたマイクロカプセル顔料を得ることができる。尚、本発明においてシェルは、コアの表面すべてを被覆する必要はなく、コアの表面(顔料表面)の少なくとも一部を被覆していればよい。顔料としては特に限定されず、ブラック顔料、カラー顔料等の公知の顔料をいずれも好適に用いることができる。分散液中の顔料の含有量としては、分散液全質量を基準として0.01質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0040】
(重合開始剤)
本発明においては、分散工程における分散液中に重合開始剤を加えてもよい。重合開始剤としては、具体的には、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等の水溶性アゾ系重合開始剤や、2、2’アゾビス(2−イソブチロニトリル)や2、2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等の油溶性アゾ系重合開始剤が挙げられる。重合開始剤の含有量は、分散液中の水不溶性モノマー全質量を基準として0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0041】
(ハイドロホーブ)
本発明においては、分散工程における分散液中にハイドロホーブを加えてもよい。ハイドロホーブとしては、具体的には、ヘキサデカン、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、クロロベンゼン、ドデシルメルカプタン更にはオリーブ油、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸等が挙げられる。ハイドロホーブの含有量は、分散液中の水不溶性モノマー全質量を基準として1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0042】
[重合工程]
本発明の重合工程とは、分散工程によって得られた分散液に含まれる水不溶性モノマーを重合することにより樹脂粒子を得る工程である。水不溶性モノマーを重合する方法としては特に限定されないが、熱重合を用いることが好ましい。熱重合を用いる場合、反応温度としては40度以上100度以下であることが好ましく、反応時間としては1時間以上50時間以下であることが好ましい。
【0043】
<インクジェット用インク>
本発明においては、上述した樹脂粒子分散体をインクジェット用インク(以下、単にインクともいう)としてそのまま用いてもよいが、樹脂粒子分散体に後述する水溶性有機溶剤等の成分を加えてインクを調製することが好ましい。
【0044】
以下、本発明のインクに用いることのできる各成分について、詳細に説明する。
【0045】
(色材)
本発明のインクは、色材を含まないクリアインクとして好適に用いることができるが、色材を含む着色インクとしても好適に用いることができる。着色インクとして用いる場合、係るインクに用いることのできる色材としては特に限定されず、公知の染料や顔料等の色材をいずれも好適に用いることができる。
色材としては、カーボンブラック等のブラック顔料やカラー顔料等の公知の顔料をいずれも好適に用いることができる。顔料を用いる場合、顔料を水中に分散する方式としては特に限定されず、顔料に吸着することのできる水溶性樹脂をインク中に添加することにより顔料の水に対する分散性を高める樹脂分散方式、顔料の表面に水に対する親和性の高い官能基を導入することにより顔料自身の水に対する分散性を高める自己分散方式等の公知の分散方式をいずれも好適に用いることができる。以下、樹脂分散方式によって水に対する分散性が高められた顔料及び係る顔料の分散剤である樹脂を、樹脂分散顔料ともいい、自己分散方式によって水に対する分散性が高められた顔料を自己分散顔料ともいう。本発明において、自己分散顔料を用いる場合、顔料の表面に導入する親水性の官能基としては−COOHや−SOHが挙げられる。係る自己分散顔料は市販品を用いてもよい。具体的には、例えば、Cab−o−jet200、Cab−o−jet300及びCab−o−jet400(いずれもキヤボット社製)等が挙げられる。尚、Cab−o−jet300とは、カーボンブラックの表面に−COOHが導入された自己分散顔料である。色材の含有量としては、インク全質量を基準として0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。インク中に存在する色材と樹脂粒子との質量比は、2:1〜1:10の範囲内であることが好ましい。
【0046】
(水溶性有機溶剤)
本発明のインクに好適に用いることのできる水溶性有機溶剤としては、特に限定されず、公知の水溶性有機溶剤をいずれも用いることができる。水溶性有機溶剤としては、具体的には、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、2−ピロリドン、グリセリン等が挙げられる。また、インク中の水溶性有機溶剤の含有量は、インク全質量を基準として5質量%以上40質量%以下であることがこのましい。また、本発明の水は、脱イオン水であることが好ましい。また、インク中の水の含有量は、インク全質量を基準として、40質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0047】
(界面活性剤)
本発明のインクには、ポリオキシアルキレンユニットを有するノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤以外の界面活性剤を別途添加してもよい。インクに添加することのできる好適な界面活性剤としては、具体的には、アセチレノ−ルEH(川研ファインケミカル社製)等が挙げられる。インク中の界面活性剤の量は、インク全質量を基準として0.01質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0048】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。尚、実施例中「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0049】
[ノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤1の合成]
Journal of Colloid and Interface Science,2004年、275巻、649項に記載の合成方法に従い、下記式(11)で表わされる構造を有するノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤1を合成した。具体的には、CH(CH17BrをCH(CH13Brに代えた以外は上記文献の実施例に記載のノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤の合成方法と同様の操作を行って下記式(11)の化合物を含むノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤の混合物を得た。その後、カラムクロマトグラフィーによって混合物から下記式(11)の化合物を分取した。
【0050】
【化15】

【0051】
[ノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤2の合成]
Journal of Colloid and Interface Science,2004年、275巻、649項に記載の合成方法に従い、下記式(12)で表わされる構造を有するノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤2を合成した。具体的には、CH(CH17BrをCH(CH19Brに代えた以外は上記文献の実施例に記載のノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤の合成方法と同様の操作を行って下記式(12)の化合物を含むノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤の混合物を得た。その後、カラムクロマトグラフィーによって混合物から下記式(12)の化合物を分取した。
【0052】
【化16】

【0053】
[樹脂粒子分散体Aの製造]
10gのエチルメタクリレートと、0.1gのノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤1と、1gのヘキサデカンと、0.5gの2、2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)と、61gの水とを混合した後、混合液に1分間超音波を照射することで分散液を得た。得られた分散液を、窒素雰囲気下で60℃、8時間加熱することでエチルメタクリレートを重合し、樹脂粒子Aを14.5質量%含む樹脂粒子分散体Aを得た。粒度分布測定機(日機装製 マイクロトラック UPA EX−150)を用いて、樹脂粒子Aのメジアン径であるD50粒径を測定したところ、152nmであった。
【0054】
[樹脂粒子分散体Bの製造]
10gのエチルメタクリレートと、0.1gのノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤2と、1gのヘキサデカンと、0.5gの2、2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)と、61gの水とを混合した後、混合液に1分間超音波を照射することで分散液を得た。得られた分散液を、窒素雰囲気下で60℃、8時間加熱することでエチルメタクリレートを重合し、樹脂粒子Bを14.5質量%含む樹脂粒子分散体Bを得た。粒度分布測定機(日機装製 マイクロトラック UPA EX−150)を用いて、樹脂粒子Bのメジアン径であるD50粒径を測定したところ、144nmであった。
【0055】
[樹脂粒子分散体Cの製造]
7gのエチルメタクリレートと、3gの下記式(13)で表わされる化合物{RMA150M(商品名)、日本乳化剤社製}と、1gのヘキサデカンと、0.5gの2、2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)と、61gの水とを混合した後、混合液に1分間超音波を照射することで分散液を得た。得られた分散液を、窒素雰囲気下で60℃、8時間加熱することでエチルメタクリレートを重合し、樹脂粒子Cを14.5質量%含む樹脂粒子分散体Cを得た。粒度分布測定機(日機装製 マイクロトラック UPA EX−150)を用いて、樹脂粒子Cのメジアン径であるD50粒径を測定したところ、162nmであった。
【0056】
【化17】

【0057】
[樹脂粒子分散体Dの製造]
10gのエチルメタクリレートと、0.6gの−(CHCHO)15−を構造中に有するノニオン性の1鎖1親水基型界面活性剤(BC−15、日光ケミカルズ社製)と、1gのヘキサデカンと、0.5gの2、2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)と、61gの水とを混合した後、混合液に1分間超音波を照射することで分散液を得た。得られた分散液を、窒素雰囲気下で60℃、8時間加熱することでエチルメタクリレートを重合し、樹脂粒子Dを14.5質量%含む樹脂粒子分散体Dを得た。粒度分布測定機(日機装製 マイクロトラック UPA EX−150)を用いて、樹脂粒子Aのメジアン径であるD50粒径を測定したところ、163nmであった。
【0058】
[インクジェット用インクの調製]
下記表1に記載の成分を合計で100部となるように混合した後に30分撹拌し、孔径1.2μmのメンブレンフィルターでろ過し、KOH水溶液を用いてpHを8に調整することで実施例1〜4、比較例1〜4のインクを得た。
【0059】
【表1】



【0060】
[保存安定性の評価]
実施例及び比較例のインクをそれぞれ60℃で30日間保存した後、インク中の樹脂粒子の平均粒子径を測定し、保存前の平均粒子径からの変化率を算出した。得られた変化率及び下記評価基準を用いて各インクの保存安定性の評価を行った。尚、保存前、保存後の樹脂粒子の平均粒子径は粒度分布測定機(日機装製 マイクロトラック UPA EX−150)を用い、メジアン径であるD50粒径を測定することで算出した。下記評価基準において、評価結果がB以上であれば、十分な保存安定性を有するとした。結果を表2に示す。
A:平均粒子径の変化率が10%未満
B:平均粒子径の変化率が10%以上20%未満
C:平均粒子径の変化率が20%以上
【0061】
[吐出安定性の評価]
実施例及び比較例インクをインクジェット記録装置(PIXUS 850i、キヤノン製)を改造したものにそれぞれ搭載した。各インクを用いてインクジェット用OHPフィルム(KOKUYO VF−1101N)に、PIXUS850iのノズルチェックパターンをそれぞれ形成した。その後、10枚のOHPフィルムのそれぞれに18cm×24cmのベタ画像を、デフォルトモードで連続して形成した後、再びOHPフィルムにノズルチェックパターンを形成した。尚、連続してベタ画像を形成する際、3枚に1回の割合でインクジェット記録装置のワイパーブレードを用いて記録ヘッド表面(インク吐出口面)のクリーニング動作を行った。始めに形成したノズルチェックパターンと、最後に形成したノズルチェックパターンとを横に並べ、それぞれのノズルチェックパターンを10cm離れた距離から目視にて観察し、下記評価基準を用いて吐出安定性の評価を行った。下記評価基準において、評価結果がB以上であれば十分な吐出安定性を有するとした。結果を表2に示す。
A:最初に形成したノズルチェックパターンと最後に形成したノズルチェックパターンとに差異が見られない。
B:最後に形成したノズルチェックパターンは一部に着弾ずれが認められるものの、インクの不吐出は認められない。
C:最後に形成したノズルチェックパターンにインク不吐出や着弾ずれがはっきりと認められる。
【0062】
[フェイス面の表面特性の評価]
上記した吐出安定性の評価と同様の条件でノズルチェックパターン及びベタ画像を形成した。2回目のノズルチェックパターン形成が終了した後、フェイス面を金属顕微鏡を用いて目視にて観察し、下記評価基準を用いることで、フェイス面の表面特性の評価を行った。下記評価基準において、評価結果がB以上であれば、印字前後におけるフェイス面の表面特性の変化を好適に抑制できるとした。結果を表2に示す。
A:フェイス面にインクの付着が見られない。
B:フェイス面にインクの付着がほとんど見られない。
C:フェイス面にインクの付着が見られるが、帯状の液膜は見られない。
D:フェイス面に付着するインクの量が多く、インクが帯状の液膜を形成している。
【0063】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及び樹脂粒子を含む樹脂粒子分散体において、
前記樹脂粒子分散体は、水不溶性モノマーと、ポリオキシアルキレンユニット及び複数の疎水性基を有するノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤とを水中に分散した後に、前記水不溶性モノマーを重合することにより得られることを特徴とする樹脂粒子分散体。
【請求項2】
前記ノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤が、下記一般式(1)で表わされる構造を有する請求項1に記載の樹脂粒子分散体。
【化1】


(一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立して、炭化水素基又はフッ素化炭化水素基を表し、m及びnはそれぞれ独立して、5以上50以下の整数を表す。また、Xは2価の有機基を表し、Y及びYはそれぞれ独立して、下記式(1)〜(5)より選ばれる基を表す。また、Z及びZはそれぞれ独立して、下記式(6)又は(7)で表わされる基を表す。)
【化2】


【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


(Yが式(1)で表わされる基である場合、式(1)中の炭素はR及びXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(1)で表わされる基である場合、式(1)中の炭素はR及びXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(2)で表わされる基である場合、式(2)中の炭素はR及びXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(2)で表わされる基である場合、式(2)中の炭素はR及びXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(3)で表わされる基である場合、式(3)中の炭素はR及びXと結合し、窒素はZと結合する。Yが式(3)で表わされる基である場合、式(3)中の炭素はR及びXと結合し、窒素はZと結合する。Yが式(4)で表わされる基である場合、式(4)中の炭素はR、X及びZと結合する。Yが式(4)で表わされる基である場合、式(4)中の炭素はR、X及びZと結合する。Yが式(5)で表わされる基である場合、式(5)中のベンゼン環を構成する炭素のうち、酸素が結合している炭素のパラ位に位置する炭素はRと結合し、ベンゼン環を構成する炭素のうち、酸素が結合している炭素及び酸素が結合している炭素のパラ位に位置する炭素以外の炭素のうちの任意の一つはXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(5)で表わされる基である場合、式(5)中のベンゼン環を構成する炭素のうち、酸素が結合している炭素のパラ位に位置する炭素はRと結合し、ベンゼン環を構成する炭素のうち、酸素が結合している炭素及び酸素が結合している炭素のパラ位に位置する炭素以外の炭素のうちの任意の一つはXと結合し、酸素はZと結合する。)
【化7】


【化8】

【請求項3】
前記一般式(1)中のR及びRがそれぞれ独立して、炭素数が4以上20以下の炭化水素基又は炭素数が4以上20以下のフッ素化炭化水素基であり、Z及びZがいずれも上記式(6)で表わされる基である請求項1又は2に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項4】
前記ノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤が一般式(2)〜(4)で表わされる化合物のうちのいずれかである請求項1に記載の樹脂粒子分散体。
【化9】


(一般式(2)中、a及びbはそれぞれ独立して4以上20以下の整数であり、m及びnはそれぞれ独立して5以上50以下の整数である。)
【化10】


(一般式(3)中、a及びbはそれぞれ独立して4以上20以下の整数であり、m及びnはそれぞれ独立して5以上50以下の整数である。)
【化11】


(一般式(4)中、a及びbはそれぞれ独立して4以上20以下の整数であり、m及びnはそれぞれ独立して5以上50以下の整数である。)
【請求項5】
前記ノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤が一般式(4)で表わされる化合物である請求項4に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂粒子分散体を含有することを特徴とするインクジェット用インク。
【請求項7】
色材を更に含有する請求項6に記載のインクジェット用インク。
【請求項8】
前記色材と前記樹脂粒子の質量比が2:1〜1:10である請求項7に記載のインクジェット用インク。
【請求項9】
前記色材が自己分散顔料である請求項7又は8に記載のインクジェット用インク。
【請求項10】
樹脂粒子を含む樹脂微粒子分散体の製造方法であって、
水中に水不溶性モノマー及び界面活性剤を分散することにより分散液を得る分散工程と、
前記分散工程によって得られた分散液に含まれる前記水不溶性モノマーを重合することにより樹脂粒子を得る重合工程とを有し、
前記界面活性剤はポリオキシアルキレンユニット及び複数の疎水性基を有するノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤であることを特徴とする樹脂粒子分散体の製造方法。
【請求項11】
前記ノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤が、下記一般式(1)で表わされる構造を有する請求項10に記載の樹脂粒子分散体の製造方法。
【化12】


(一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立して、炭化水素基又はフッ素化炭化水素基を表し、m及びnはそれぞれ独立して、5以上50以下の整数を表す。また、Xは2価の有機基を表し、Y及びYはそれぞれ独立して、下記式(1)〜(5)より選ばれる基を表す。また、Z及びZはそれぞれ独立して、下記式(6)又は(7)で表わされる基を表す。)
【化13】


【化14】


【化15】


【化16】


【化17】


(Yが式(1)で表わされる基である場合、式(1)中の炭素はR及びXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(1)で表わされる基である場合、式(1)中の炭素はR及びXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(2)で表わされる基である場合、式(2)中の炭素はR及びXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(2)で表わされる基である場合、式(2)中の炭素はR及びXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(3)で表わされる基である場合、式(3)中の炭素はR及びXと結合し、窒素はZと結合する。Yが式(3)で表わされる基である場合、式(3)中の炭素はR及びXと結合し、窒素はZと結合する。Yが式(4)で表わされる基である場合、式(4)中の炭素はR、X及びZと結合する。Yが式(4)で表わされる基である場合、式(4)中の炭素はR、X及びZと結合する。Yが式(5)で表わされる基である場合、式(5)中のベンゼン環を構成する炭素のうち、酸素が結合している炭素のパラ位に位置する炭素はRと結合し、ベンゼン環を構成する炭素のうち、酸素が結合している炭素及び酸素が結合している炭素のパラ位に位置する炭素以外の炭素のうちの任意の一つはXと結合し、酸素はZと結合する。Yが式(5)で表わされる基である場合、式(5)中のベンゼン環を構成する炭素のうち、酸素が結合している炭素のパラ位に位置する炭素はRと結合し、ベンゼン環を構成する炭素のうち、酸素が結合している炭素及び酸素が結合している炭素のパラ位に位置する炭素以外の炭素のうちの任意の一つはXと結合し、酸素はZと結合する。)
【化18】


【化19】

【請求項12】
前記ノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤が一般式(2)〜(4)で表わされる化合物のうちのいずれかである請求項10に記載の樹脂粒子分散体の製造方法。
【化20】


(一般式(2)中、a及びbはそれぞれ独立して4以上20以下の整数であり、m及びnはそれぞれ独立して5以上50以下の整数である。)
【化21】


(一般式(3)中、a及びbはそれぞれ独立して4以上20以下の整数であり、m及びnはそれぞれ独立して5以上50以下の整数である。)
【化22】


(一般式(4)中、a及びbはそれぞれ独立して4以上20以下の整数であり、m及びnはそれぞれ独立して5以上50以下の整数である。)
【請求項13】
前記ノニオン性多鎖多親水基型界面活性剤が一般式(4)で表わされる化合物である請求項12に記載の樹脂粒子分散体の製造方法。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか1項に記載樹脂粒子分散体の製造方法を有することを特徴とするインクジェット用インクの製造方法。


【公開番号】特開2012−167168(P2012−167168A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28709(P2011−28709)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】