説明

樹脂組成物、プリプレグおよび積層板

【課題】誘電正接が低く、優れた耐熱性および密着性を有する樹脂組成物、プリプレグおよび積層板を提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂と、アルキルフェノール変性キシレン樹脂とを含有し、前記アルキルフェノール変性キシレン樹脂の含有量は、樹脂組成物全体の20〜70重量%であることを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、プリプレグおよび積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パーソナルコンピューターや携帯電話等の情報処理機器は高速化が要求されておりCPUクロック周波数が高くなっている。そのため信号伝搬速度の高速化が要求されており、高速化に誘電正接の低いプリント板であることが必要とされる。
【0003】
エポキシ樹脂は優れた耐熱性や電気絶縁性や密着性を有するが、硬化後に水酸基を生じるため誘電正接がやや大きい欠点がある。誘電正接を低減するために、ポリスチレンやポリブタジエンなどの非極性ポリマーをエポキシ樹脂に混合すると、誘電正接は小さくなるが密着性や耐熱性に劣る(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開平07−188516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、誘電正接が低く、優れた耐熱性および密着性を有する樹脂組成物、プリプレグおよび積層板を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記(1)〜(4)に記載の本発明により達成される。
(1)エポキシ樹脂と、アルキルフェノール変性キシレン樹脂とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
(2)前記アルキルフェノール変性キシレン樹脂の含有量は、樹脂組成物全体の20〜70重量%である(1)に記載の樹脂組成物。
(3)(1)又は(2)に記載の樹脂組成物を基材に含浸させてなることを特徴とするプリプレグ。
(4)(3)に記載のプリプレグを1枚以上成形してなることを特徴とする積層板。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、エポキシ樹脂と、アルキルフェノール変性キシレン樹脂を含有する樹脂組成物、及び、これを用いたプリプレグ、積層板であり、従来のものと比較して、低誘電正接、耐熱性、密着性を有する積層板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、アルキルフェノール変性キシレン樹脂を含有することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明のプリプレグは、上述の樹脂組成物を基材に含浸させてなることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の積層板は、上述のプリプレグを1枚以上成形してなることを特徴とするものである。
まず、本発明の樹脂組成物について説明する。
【0010】
本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含む。これにより、積層板の耐熱性を向上させることができ、密着性を有する。
【0011】
本発明の樹脂組成物で用いられるエポキシ樹脂としては特に限定されないが、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂、ナフタレン変性エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂、アラルキル変性エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン変性エポキシ樹脂などがあげられる。また難燃性を発現させるためにこれらのエポキシ樹脂をハロゲン化したものもあげられる。
【0012】
高耐熱性を発現するために、これらのうちからクレゾールノボラックエポキシ樹脂が好ましく、さらなる誘電正接の低減のためにはジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂が好ましい。
【0013】
本発明のエポキシ樹脂はこれらに限定されないが、1種類もしくは2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、アルキルフェノール変性キシレン樹脂を含む。これにより、密着性や耐熱性を維持したまま誘電正接を低減することができる。
【0015】
ポリスチレンやポリブタジエンなどの非極性ポリマーは、分極作用がないため誘電正接が優れている。このため、エポキシ樹脂に添加することで誘電正接を低減することができる。
しかしながら、ポリスチレンやポリブタジエンなどの非極性ポリマーをエポキシ樹脂に混合すると、密着性や耐熱性が悪化する。
【0016】
これに対して本発明の樹脂組成物は、アルキルフェノール変性キシレン樹脂を使用することで密着性や耐熱性を低下させることなく誘電正接を低減することができる。
アルキルフェノール変性キシレン樹脂は、分子内にアルキル基およびアリール基等の非極性部分を多く含むため、誘電正接が低減する。また、フェノール水酸基とエポキシが反応するため、エポキシ樹脂とアルキルフェノール変性キシレン樹脂が相溶し、相分離しないためエポキシ樹脂の密着性および耐熱性を悪化させない。本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂を使用した場合においても、その耐熱性、密着性とともに、積層板の誘電正接を低減することができるものである。
【0017】
本発明で用いられるアルキルフェノール変性キシレン樹脂の平均分子量は500〜1500が好ましい。平均分子量が前記下限値未満であると耐熱性が低下し、前記上限値を超えるとエポキシ樹脂との相溶性が悪化する場合がある。
【0018】
本発明で用いられるアルキルフェノール変性キシレン樹脂のOH価は100〜200mgKOH/gが好ましい。OH価が前記下限値未満であると耐熱性が低下し、前記上限値を超えると誘電正接低減の効果が不十分となる。
【0019】
アルキルフェノール変性キシレン樹脂の含有量は、樹脂全体の20〜70重量%であることが好ましい。含有量が前記下限値未満であると誘電正接低減の効果が低下し、前記上限値を超えると耐熱性が悪化する場合がある。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、上述したエポキシ樹脂と、アルキルフェノール変性キシレン樹脂を必須成分として含有するが、本発明の目的に反しない範囲において、その他の樹脂、イミダゾール化合物などの硬化促進剤、カップリング剤、フィラー、その他の成分を添加することは差し支えない。
【0021】
次に、プリプレグについて説明する。
【0022】
本発明のプリプレグは、上述の樹脂組成物を基材に含浸させてなるものである。これにより、耐熱性等の各種特性に優れたプリプレグを得ることができる。
【0023】
本発明のプリプレグで用いる基材としては、例えばガラス繊布、ガラス不繊布等のガラス繊維基材、あるいはガラス以外の無機化合物を成分とする繊布又は不繊布等の無機繊維基材、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等の有機繊維で構成される有機繊維基材等が挙げられる。これら基材の中でも強度、吸水率の点でガラス織布に代表されるガラス繊維基材が好ましい。
【0024】
本発明で得られる樹脂組成物を基材に含浸させる方法には、例えば、樹脂組成物を溶媒に溶解して樹脂ワニスを調製し、基材を樹脂ワニスに浸漬する方法、各種コーター装置により樹脂ワニスを基材に塗布する方法、樹脂ワニスをスプレー装置により基材に吹き付ける方法等が挙げられる。これらの中でも、基材を樹脂ワニスに浸漬する方法が好ましい。これにより、基材に対する樹脂組成物の含浸性を向上させることができる。なお、基材を樹脂ワニスに浸漬する場合、通常の含浸塗布装置を使用することができる。
【0025】
前記樹脂ワニスに用いられる溶媒は、前記樹脂組成物に対して良好な溶解性を示すことが望ましいが、悪影響を及ぼさない範囲で貧溶媒を使用しても構わない。良好な溶解性を示す溶媒としては、例えばメチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
前記樹脂ワニス中の固形分は、特に限定されないが、前記樹脂組成物の固形分40〜8
0重量%が好ましく、特に50〜65重量%が好ましい。これにより、樹脂ワニスの基材への含浸性を更に向上できる。
前記基材に前記樹脂組成物を含浸させ、所定温度、例えば80〜200℃で乾燥させることによりプリプレグを得ることができる。
【0026】
次に、積層板について説明する。
【0027】
本発明の積層板は、上述のプリプレグを少なくとも1枚成形してなるものである。これにより、優れた耐熱性と密着性を有し、誘電正接が低い積層板を得ることができる。
プリプレグ1枚のときは、その上下両面もしくは片面に金属箔あるいはフィルムを重ねる。
また、プリプレグを2枚以上積層することもできる。プリプレグ2枚以上積層するときは、積層したプリプレグの最も外側の上下両面もしくは片面に金属箔あるいはフィルムを重ねる。
【0028】
次に、プリプレグと金属箔等とを重ねたものを加熱、加圧して成形することで積層板を得ることができる。
【0029】
前記加熱する温度は、特に限定されないが、120〜220℃が好ましく、特に150〜200℃が好ましい。
また、前記加圧する圧力は、特に限定されないが、2〜5MPaが好ましく、特に2.5〜4MPaが好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
(1)樹脂ワニスの調製
クレゾールノボラックエポキシ樹脂(エポキシ当量220、大日本インキ化学工業社製N−690)23.0重量部、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量400、大日本インキ化学工業社製153)20.6重量部、アルキルフェノール変性キシレン樹脂(OH価160mgKOH/g、平均分子量1200、三菱ガス化学社製ニカノールHP−100)55.4重量部、2−メチルイミダゾール1.0重量部にメチルエチルケトンを加え、不揮発分濃度55重量%となるように樹脂ワニスを調製した。
(2)プリプレグの製造
上述の樹脂ワニスを用いて、ガラス繊布(厚さ0.18mm、日東紡績社製)100重量部に対して、樹脂ワニスを固形分で80重量部含浸させて、150℃の乾燥炉で5分間乾燥させ、樹脂含有量44.4重量%のプリプレグを作製した。
(3)積層板の製造
上記プリプレグを6枚重ね、上下に厚さ35μmの電解銅箔を重ねて、圧力4MPa、温度200℃で150分間加熱加圧成形を行い、厚さ1.2mmの両面銅張積層板を得た。
(実施例2)
ジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂(エポキシ当量280、大日本インキ化学工業社製HP−7200)22.5重量部、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量400、大日本インキ化学工業社製153)26.3重量部、アルキルフェノール変性キシレン樹脂(OH価160mgKOH/g、平均分子量1200、三菱ガス化学社製ニカノールHP−100)50.2重量部、2−メチルイミダゾール1.0重量とした以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製し、プリプレグ及び積層板を得た。
(実施例3)
クレゾールノボラックエポキシ樹脂(エポキシ当量220、大日本インキ化学工業社製N−690)16.3重量部、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量400、大日本インキ化学工業社製153)20.7重量部、アルキルフェノール変性キシレン樹脂(OH価115mgKOH/g、平均分子量1000、三菱ガス化学社製ニカノールHP−70)62.0重量部、2−メチルイミダゾール1.0重量とした以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製し、プリプレグ及び積層板を得た。
(実施例4)
ジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂(エポキシ当量280、大日本インキ化学工業社製HP−7200)15.1重量部、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量400、大日本インキ化学工業社製153)26.4重量部、アルキルフェノール変性キシレン樹脂(OH価115mgKOH/g、平均分子量1000、三菱ガス化学社製ニカノールHP−70)57.5重量部、2−メチルイミダゾール1.0重量とした以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製し、プリプレグ及び積層板を得た。
(比較例1)
ジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂と臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂のみを用い、アルキルフェノール変性キシレン樹脂を用いずに表1の配合量とした以外は実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製し、プリプレグ及び積層板を得た。
(比較例2)
エポキシ樹脂としてクレゾールノボラックエポキシ樹脂と臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用い、アルキルフェノール変性キシレン樹脂を用いずにポリスチレン樹脂を用い、表1の配合量とした以外は実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製し、プリプレグ及び積層板を得た。
(比較例3)
エポキシ樹脂としてジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂と臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用い、アルキルフェノール変性キシレン樹脂を用いずにポリスチレン樹脂を用い、表1の配合量とした以外は実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製し、プリプレグ及び積層板を得た。
(比較例4)
エポキシ樹脂としてクレゾールノボラックエポキシ樹脂と臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用い、アルキルフェノール変性キシレン樹脂を用いずにポリブタジエン樹脂を用い、表1の配合量とした以外は実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製し、プリプレグ及び積層板を得た。
【0031】
各実施例および比較例により得られた積層板について、次の各評価を行った。各評価を、評価方法と共に以下に示す。得られた結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表の注
1.原材料
(1)クレゾールノボラックエポキシ樹脂(エポキシ当量210、商品名:大日本インキ化学工業社製N−690)
(2)ジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂(エポキシ当量280、商品名:大日本インキ化学工業社製HP−7200)
(3)臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量400、臭素化率49%、商品名:大日本インキ化学工業社製153)
(4)アルキルフェノール変性キシレン樹脂(OH価160mgKOH/g、平均分子量1200、商品名:三菱ガス化学社製ニカノールHP−100)
(5)アルキルフェノール変性キシレン樹脂(OH価110mgKOH/g、平均分子量1000、商品名:三菱ガス化学社製ニカノールHP−70)
(6)ポリスチレン樹脂(商品名:東洋スチレン社製H450)
(7)ポリブタジエン樹脂(商品名:出光興産社製R−45HT)
2.評価方法
(1)誘電率および誘電正接
誘電率および誘電正接はJIS C 6481に準じて行い、周波数1MHzの静電容量を測定して求めた。
(2)半田耐熱性
半田耐熱性は、JIS C 6481に準拠して測定した。測定は、煮沸2時間の吸湿処理を行った後、260℃の半田槽に120秒間浸漬した後で外観の異常の有無を調べた。
(3)ピール強度
ピール強度は、JIS C 6481に準拠して測定した。
【0034】
表から明らかなように、実施例1〜4は、エポキシ樹脂と、アルキルフェノール変性キシレン樹脂を含有する本発明の樹脂組成物を用いた積層板であり、耐熱性、密着性に優れており、誘電正接も十分低い値であった。
これに対して比較例1はエポキシ樹脂のみを用いたが、十分に誘電正接が低くならなかった。また、比較例2および3はアルキルフェノール変性キシレン樹脂を用いず、ポリスチレン樹脂を用いたので、密着性および耐熱性が劣る結果となった。また、比較例4はアルキルフェノール変性キシレン樹脂を用いず、ポリブタジエン樹脂を用いたので、耐熱性が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の樹脂組成物、プリプレグ、積層板は、小型軽量化に対応でき、高度な耐熱性、密着性および信号伝搬速度の高速化に必要なプリント配線板に適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、
アルキルフェノール変性キシレン樹脂とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記アルキルフェノール変性キシレン樹脂の含有量は、樹脂組成物全体の20〜70重量%である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を基材に含浸させてなることを特徴とするプリプレグ。
【請求項4】
請求項3に記載のプリプレグを1枚以上成形してなることを特徴とする積層板。

【公開番号】特開2008−156493(P2008−156493A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347538(P2006−347538)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】