説明

樹脂組成物とその製造方法およびそれを用いた電気機器

【課題】 エポキシ樹脂中に充填する材料を適切に選択することにより、高誘電率と低熱膨張率を併せ持ち、機械的強度にも優れた絶縁材料を提供する。
【解決手段】 樹脂組成物1は、1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とエポキシ樹脂用硬化剤からなるエポキシ樹脂2中に、層状シリケート化合物3、酸化物系粒子4、および高誘電率粒子5という3種類の無機粒子が均一に分散して構成されている。エポキシ化合物100重量部に対して、層状シリケート化合物が1〜50重量部、酸化物系粒子が100〜400重量部、高誘電率粒子が100〜400重量部、の割合でそれぞれ充填され、かつ、エポキシ化合物100重量部に対して、酸化物系粒子と高誘電率粒子の充填量の合計は500重量部以下とされる。層状シリケート化合物は、酸化物系粒子および高誘電率粒子より先に、剪断混合によりエポキシ化合物中に分散させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁を行う注型部材や構造部材を有する電気機器に関するものであり、特に、高誘電率と低熱膨張率の両立を図った樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
変電所等で用いられる高電圧回路の開閉装置および送電装置として、真空バルブを収納したスイッチギア、六弗化硫黄ガスが封入されたガス絶縁開閉装置および管路気中送電装置などが使用されている。これらの送変電機器では、真空バルブや高圧導体を絶縁するための注型部材、金属容器内で高圧導体を絶縁支持するための構造部材などが用いられているが、機器の小形化・高性能化の要求に伴い、これらの注型・構造部材の誘電率を変化させ、高圧導体と絶縁物の界面における電界を低減する試みが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のスイッチギアでは、真空バルブの固定側および可動側に取り付けられた絶縁バリアを覆う絶縁物の誘電率を、他の部分と異なる誘電率にすることで、絶縁バリアにおける電界を低減し、対地間および相間の絶縁耐力の向上を図っている。また、特許文献2に記載の絶縁スペーサでは、高圧導体部分と接地容器間において、高圧導体側と接地容器側で誘電率が異なる絶縁材料を用いることで、高圧導体と絶縁スペーサの境界部における電気ストレスの低減を図っている。
【0004】
上述のような注型・構造部材の材料としては、機械強度、耐熱性、電気絶縁性などの特性に優れたエポキシ樹脂からなる注型物が用いられるのが一般的であるが、実用上、エポキシ樹脂のみでは不十分な機械的・熱的物性を補うため、或いは新しい機能を付与するため、無機物粒子やガラス繊維等が補強材として充填して使用されている。例えば、特許文献3では、シリカ粒子とコアシェル型のゴム粒子を高充填することで、機械的強度の向上と熱膨張の抑制を図っている。また、特許文献4では、酸化チタンやチタン酸バリウムなど高誘電率の粒子をエポキシ樹脂に充填することで、樹脂混合物の高誘電率化を図っている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−110287
【特許文献2】特開平5−260619
【特許文献3】特開2002−15621
【特許文献4】特開2004−285105
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来技術には、以下に述べるような課題がある。すなわち、特許文献1および特許文献2に記載されているように絶縁注型物の誘電率を変化させることで、高圧導体と絶縁スペーサの境界部における電気ストレスを低減することは、理論上可能であるが、これらの文献には、誘電率を変化させるための具体的な方法或いは誘電率を変化させた絶縁注型物の具体的な製造方法は一切記載されていない。また、特許文献3および特許文献4に記載の絶縁注型物により、特許文献1および特許文献2に記載の絶縁バリアのモールド或いは絶縁スペーサを作製することは非常に難しい。
【0007】
特許文献3に記載の絶縁注型物では、シリカ粒子とコアシェル型のゴム粒子を高充填することで、破壊靱性の向上と熱膨張率の抑制がなされているが、シリカ粒子およびゴム粒子の誘電率は、エポキシ樹脂の2〜3倍程度であるため、誘電率を大きく変化させることはできない。また、特許文献4に記載の絶縁組成物では、エポキシ樹脂の100倍程度と高い誘電率を有する酸化チタン粒子を充填することで、誘電率を変化させることが可能であるが、酸化チタン粒子の直径は、シリカ粒子と比較して概して小さいことから、酸化チタン粒子を高充填すると樹脂粘度が増加してしまい、作業性が著しく低下する。このため、酸化チタン粒子の高充填による熱膨張率の抑制が困難である。
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、エポキシ樹脂中に充填する材料を適切に選択することにより、高誘電率と低熱膨張率を併せ持ち、機械的強度にも優れた絶縁材料を提供可能な樹脂組成物とその製造方法を提供すると共に、そのような絶縁材料を使用することにより、小形・高性能で信頼性の高い電気機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明は、1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とエポキシ樹脂用硬化剤からなるエポキシ樹脂中に、層状シリケート化合物、酸化物系粒子、および高誘電率粒子を分散させることにより、高誘電率と低熱膨張率を併せ持ち、機械的強度にも優れた絶縁材料を提供できるようにしたものである。
【0010】
すなわち、酸化物系粒子と高誘電率粒子の両方を充填することにより、熱膨張を抑制しながらエポキシ樹脂に必要な誘電率を付与すると共に、エポキシ樹脂の粘度上昇を抑制できるため、作業性が低下することもない。さらに、層状シリケート化合物は、ナノスケールでエポキシ樹脂中に分散することにより、エポキシ樹脂の高分子鎖を拘束し、熱による分子鎖の運動を抑制することで熱膨張を抑制すると共に、クラックが発生した場合、その進展を抑制できるため、破壊靱性を向上することができる。
【0011】
また、そのような高誘電率と低熱膨張率を併せ持ち、機械的強度にも優れた絶縁材料を電気機器の注型部材や構造部材などの絶縁物として使用することにより、高圧導体と絶縁物の境界部における電気ストレスを低減でき、絶縁物の熱膨張率を高圧導体と同程度にすることができるため、運転時の発熱による高圧導体と絶縁物界面の剥離を防ぐことができ、また、破壊靭性などの機械的強度も確保できる。したがって、小形・高性能で信頼性の高い電気機器を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、エポキシ樹脂中に充填する材料を適切に選択することにより、高誘電率と低熱膨張率を併せ持ち、機械的強度にも優れた絶縁材料を提供可能な樹脂組成物とその製造方法を提供できると共に、そのような絶縁材料を使用することにより、小形・高性能で信頼性の高い電気機器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下には、上記のような本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
[樹脂組成物の構成]
図1は、本発明による樹脂組成物の一つの実施形態を示す模式図である。この図1に示すように、樹脂組成物1は、1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とエポキシ樹脂用硬化剤からなるエポキシ樹脂2中に、層状シリケート化合物3、酸化物系粒子4、および高誘電率粒子5という3種類の無機粒子が均一に分散して構成されている。以下には、各構成要素2〜5についてより詳細に説明する。
【0015】
[エポキシ化合物]
エポキシ樹脂2に使用される1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物としては、炭素原子2個と酸素原子1個からなる三員環を1分子中に2個以上持った硬化し得る化合物であれば適宜使用可能であり、その種類は限定されるものではない。具体的なエポキシ化合物としては、例えば、エピクロルヒドリンと、ビスフェノール類などの多価フェノール類や多価アルコールとの縮合によって得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂や、エピクロルヒドリンとガルボン酸との縮合によって得られるグリジジルエステル型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネートやエピクロルヒドリンとヒダイトン類との反応によって得られるヒダントイン型エポキシ樹脂のような複素環式エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ化合物は、少なくとも1種単独で、あるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0016】
[エポキシ樹脂用硬化剤]
エポキシ樹脂2に使用されるエポキシ樹脂用硬化剤としては、上述したエポキシ化合物と化学反応してエポキシ化合物を硬化させるものであれば、適宜使用可能であり、その種類は限定されるものではない。具体的なエポキシ樹脂用硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、ジプロプレンジアミン、ポリエーテルジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチル)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、アミノエチルエタノールアミン、トリ(メチルアミノ)へキサン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロへキサン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、m−キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド等のアミン系硬化剤、ドデセニル無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物、ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロへキセンジカルボン酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水ヘット酸、テトラブロモ無水フタル酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、無水ポリアゼライン酸等の酸無水物硬化剤、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール系硬化剤、ポリサルファイド、チオエステルなどのポリメルカプタン系硬化剤、フェノール系硬化剤、ルイス酸系硬化剤、イソシアネート系硬化剤などがあげられる。これらのエポキシ樹脂用硬化剤は、少なくとも1種単独で、あるいは2種類以上の混合物として使用することができる。
【0017】
[エポキシ樹脂用硬化促進剤]
エポキシ樹脂2においてはさらに、上述したエポキシ樹脂用硬化剤と併用して、エポキシ樹脂の硬化反応を促進或いは制御可能なエポキシ樹脂用硬化促進剤を使用することができる。特に、エポキシ樹脂用硬化剤として酸無水物系硬化剤を使用した場合、その硬化反応はアミン系硬化剤などの他の硬化剤と比較して遅いため、エポキシ樹脂用硬化促進剤を使用することが望ましい。酸無水物系硬化剤用の硬化促進剤としては、例えば、三級アミンまたはその塩、四級アンモニウム化合物、イミダゾール、アルカリ金属アルコキシドなどが適している。
【0018】
[層状シリケート化合物]
層状シリケート化合物3は、スメクタイト群、マイカ群、バーミキュライト群、雲母群からなる鉱物群から選択された少なくとも一種であればよい。ここで、スメクタイト群に属する層状シリケート化合物としては、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、バイデライト、ステブンサイト、ノントロナイト等が挙げられる。また、マイカ群に属する層状シリケート化合物としては、クロライト、フロゴパイト、レピドライト、マスコバイト、バイオタイト、パラゴナイト、マーガライト、テニオライト、テトラシリシックマイカ等が挙げられる。また、バーミキュライト群に属する層状シリケート化合物としては、トリオクタヘドラルバーミキュライト、ジオクタヘドラルバーミキュライトが挙げられ、さらに、雲母群に属する層状シリケート化合物としては、白雲母、黒雲母、パラゴナイト、レビトライト、マーガライト、クリントナイト、アナンダイト等が挙げられる。いずれの層状シリケート化合物も選択可能であるが、エポキシ樹脂への分散性の点からは、特に、スメクタイト群に属する層状シリケート化合物が望ましい。これらの層状シリケート化合物は、少なくとも1種単独で、あるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0019】
また、これらの層状シリケート化合物は、シリケート層が積層した構造を有しており、イオン交換反応(インターカレーション)により、その層間にイオン、分子、クラスター等の種々の物質を保持することができるため、シリケート層の層間に種々の有機化合物を挿入することができる。層状シリケート化合物の層間に挿入する有機化合物としては、エポキシ樹脂に対する親和性を層状シリケート化合物に付与できる有機化合物であれば適宜使用可能であり、その種類は限定されるものではないが、イオン交換処理により層間挿入される度合を考慮すると四級アンモニウムイオンが望ましい。
【0020】
この四級アンモニウムイオンとしては、例えば、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、ジヘキシルジメチルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、ヘキサトリメチルアンモニウムイオン、オクタトリメチルアンモニウムイオン、ドデシルトリメチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、ドコセニルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリエチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルアンモニウムイオン、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムイオン、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、ジオレイルジメチルアンモニウムイオン、N−メチルジエタノールラウリルアンモニウムイオン、ジプロパノールモノメチルラウリルアンモニウムイオン、ジメチルモノエタノールラウリルアンモニウムイオン、ポリオキシエチレンドデシルモノメチルアンモニウムイオン、ジメチルヘキサデシルオクタデシルアンモニウムイオン、トリオクチルメチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン等が挙げられる。これらの四級アンモニウムイオンは、少なくとも1種単独で、あるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0021】
[酸化物系粒子]
酸化物系粒子4としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、三酸化ビスマス、二酸化セリウム、一酸化コバルト、酸化銅、三酸化鉄、酸化ホルミウム、酸化インジウム、酸化マンガン、酸化錫、酸化イットリウム、酸化亜鉛などが挙げられる。これらの酸化物系粒子は、少なくとも1種単独で、あるいは2種類以上の混合物として使用することができる。
【0022】
[高誘電率粒子]
高誘電率粒子5としては、例えば、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸バリウムネオジウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム錫、チタン酸ジルコン酸バリウム、カーボンブラック、シリコンカーバイド、チタン−バリウム−ネオジウム系複合酸化物、鉛−カルシウム系複合酸化物などが挙げられる。これらの高誘電率粒子は、少なくとも1種単独で、あるいは2種類以上の混合物として使用することができる。
【0023】
[カップリング剤または表面改質剤]
さらに、上述した層状シリケート化合物3、酸化物系粒子4、高誘電率粒子5の表面を改質し、エポキシ樹脂と層状シリケート化合物間の接着性を改善する目的で、あるいは、分散した層状シリケート化合物3がエポキシ樹脂1中で再凝集するのを抑制する目的で、カップリング剤または表面処理剤を使用することが可能である。カップリング剤または表面処理剤としては、例えば、γ−グリシドキシ−プロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピル−トリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピル−トリメトキシシラン等のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などが挙げられる。これらのカップリング剤または表面処理剤は、少なくとも1種単独で、あるいは2種類以上の混合物として使用することができる。
【0024】
[配合比率]
高誘電率と低熱膨張率を併せ持ち、機械的強度にも優れた絶縁材料を得るために、エポキシ化合物に対する3種の無機粒子、すなわち、層状シリケート化合物、酸化物系粒子、高誘電率粒子の配合比率は、望ましくは、図2に示す範囲内で設定される。図2に示すように、エポキシ化合物100重量部に対して、層状シリケート化合物が1〜50重量部、酸化物系粒子が100〜400重量部、高誘電率粒子が100〜400重量部、の割合でそれぞれ充填される。かつ、エポキシ化合物100重量部に対して、酸化物系粒子と高誘電率粒子の充填量の合計は500重量部以下とされる。このような無機粒子の配合比率の限定は、以下の理由による。
【0025】
層状シリケート化合物の配合量は、エポキシ化合物100重量部に対して1〜50重量部とすることにより、樹脂組成物の熱膨張を抑制し、破壊靱性を向上することができると共に、樹脂組成物の粘度上昇を抑制し、注型・構造部材製造の作業効率低下を防止できる。すなわち、層状シリケート化合物の配合量が、エポキシ化合物100重量部に対して1重量部未満であると、樹脂組成物の熱膨張を抑制することが困難となり、破壊靱性を向上することが困難となる。逆に、層状シリケート化合物の配合量が、エポキシ化合物100重量部に対して50重量部を超えると、樹脂組成物の粘度が上昇するため、酸化物系粒子、高誘電率粒子を均一分散することが困難になると共に、注型・構造部材製造の作業効率の低下にもつながる。
【0026】
酸化物系粒子の配合量は、エポキシ化合物100重量部に対して100〜400重量部とすることにより、樹脂組成物の熱膨張および粘度上昇を抑制することができる。すなわち、酸化物系粒子の配合量が、エポキシ化合物100重量部に対して100重量部未満であると、樹脂組成物の熱膨張を抑制することが困難となる。逆に、酸化物系粒子の配合量が、エポキシ化合物100重量部に対して400重量部を超えると、樹脂組成物の粘度が上昇するため、酸化物系粒子、高誘電率粒子を均一分散することが困難になる。
【0027】
高誘電率粒子の配合量は、エポキシ化合物100重量部に対して100〜400重量部とすることにより、樹脂組成物に必要な誘電率を付与すると共に、樹脂組成物の粘度上昇を抑制することかできる。すなわち、高誘電率粒子の配合量が、エポキシ化合物100重量部に対して100重量部未満であると、樹脂組成物に必要な誘電率を付与することが困難となる。逆に、高誘電率粒子の配合量が、エポキシ化合物100重量部に対して400重量部を超えると、樹脂組成物の粘度が上昇するため、酸化物系粒子、高誘電率粒子を均一分散することが困難になる。
【0028】
酸化物系粒子と高誘電率粒子の充填量の合計は、エポキシ化合物100重量部に対して500重量部以下とすることにより、樹脂組成物の粘度上昇を抑制することかできる。すなわち、酸化物系粒子と高誘電率粒子の個々の配合比率が上記の範囲内であっても、その充填量の合計が、エポキシ化合物100重量部に対して500重量部を超えると、樹脂組成物の粘度上昇が著しくなり、注型用樹脂として使用することが困難となる。
【0029】
[樹脂組成物の製造工程]
図3は、上述した樹脂組成物の製造工程の一例を示すフローチャートである。この図3に示すように、樹脂組成物の製造に当たっては、まず、エポキシ化合物に層状シリケート化合物を添加し、剪断力を加えながら混合して分散させる(S01)。剪断力を加えることにより、層状シリケート化合物をエポキシ樹脂中に均一分散させることが可能となる。
【0030】
すなわち、層状シリケート化合物は、長さおよび幅が各々100nm程度、厚さが数nmの、大きなアスペクト比を持つ平板状物質が積層したナノサイズの粒子で、均一に分散するためには剪断混合を行う必要がある。この場合に、酸化物系粒子、高誘電率粒子のように、層状シリケート化合物よりも粒子径の大きな粒子がエポキシ化合物中に存在すると、混合機からの剪断力が層状シリケート化合物まで十分に及ばなくなるので、均一に分散することが困難となる。このため、エポキシ化合物に対する粒子分散工程では、図3に示すように、層状シリケート化合物を最初に分散する必要がある。
【0031】
また、剪断混合を行う混合装置としては、剪断力を加えながら混合可能な装置であれば、適宜に使用可能であり、その種類は特に限定されるものではないが、具体例としては、ビーズミル混合機、3本ロールミル混合機、ホモジナイザー混合機、ラボプラストミル混合機(東洋精機製作所社製)、ミラクルKCK(浅田鉄工所社製)、Distromix(エーテクジャパン社製)等、Clear S55(エム・テクニック社製)などが挙げられる。
【0032】
層状シリケート化合物の剪断混合(S01)時にはまた、カップリング剤あるいは表面処理剤を共に混合することで、層状シリケート化合物の表面をカップリング剤あるいは表面処理剤で改質することが望ましい。このように層状シリケート化合物の表面改質を行うことにより、エポキシ樹脂と層状シリケート化合物の界面接着を強固にすることができる。さらに、層状シリケート化合物は、四級アンモニウムイオンにより予め有機修飾することにより、エポキシ化合物に対する親和性を向上することができる。
【0033】
続いて、層状シリケート化合物を分散させたエポキシ化合物に、酸化物系粒子と高誘電率粒子を添加して、混合・分散させる(S02)。この場合、層状シリケート化合物の剪断混合(S01)時にカップリング剤あるいは表面処理剤が混合されていれば、酸化物系粒子と高誘電率粒子についても表面改質を行うことができ、エポキシ樹脂との界面接着を強固にすることができる。
【0034】
以上のように、エポキシ化合物に、層状シリケート化合物を剪断混合により分散させ、続いて、酸化物系粒子、および高誘電率粒子を分散させてなる混合物に、エポキシ樹脂用硬化剤を添加してさらに混合する(S03)ことにより、上記の樹脂組成物を得ることができる。さらに、この樹脂組成物を加熱硬化することで、目的とする絶縁材料を作製することができる。
【0035】
[実施形態の作用・効果]
以上のように、本実施形態によれば、1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とエポキシ樹脂用硬化剤からなるエポキシ樹脂中に、層状シリケート化合物、酸化物系粒子、および高誘電率粒子を分散させることにより、高誘電率と低熱膨張率を併せ持ち、機械的強度にも優れた絶縁材料を提供できる。
【0036】
すなわち、酸化物系粒子と高誘電率粒子の両方を充填することにより、熱膨張を抑制しながらエポキシ樹脂に必要な誘電率を付与すると共に、エポキシ樹脂の粘度上昇を抑制できるため、作業性が低下することもない。さらに、層状シリケート化合物は、ナノスケールでエポキシ樹脂中に分散することにより、エポキシ樹脂の高分子鎖を拘束し、熱による分子鎖の運動を抑制することで熱膨張を抑制すると共に、クラックが発生した場合、その進展を抑制できるため、破壊靱性を向上することができる。
【0037】
また、そのような高誘電率と低熱膨張率を併せ持ち、機械的強度にも優れた絶縁材料を電気機器の注型部材や構造部材などの絶縁物として使用することにより、高圧導体と絶縁物の境界部における電気ストレスを低減でき、絶縁物の熱膨張率を高圧導体と同程度にすることができるため、運転時の発熱による高圧導体と絶縁物界面の剥離を防ぐことができ、また、破壊靭性などの機械的強度も確保できる。したがって、小形・高性能で信頼性の高い電気機器を提供することができる。
【0038】
[電気機器への適用]
具体的な電気機器への適用としては、本実施形態の樹脂組成物により、図4に示すような真空バルブ41をモールドする注型絶縁物42を製造したり、図5に示すような高圧導体51を絶縁・支持する絶縁スペーサ52を製造することができる。このような注型絶縁物42や絶縁スペーサ52では、高圧導体と絶縁物の境界部における電気ストレスを低減でき、高圧導体などの金属(銅、アルミニウム等)と絶縁物の熱膨張率を同程度にすることができるため、運転時の発熱による高圧導体と絶縁物界面の剥離を防止でき、また、破壊靭性などの機械的強度も確保できる。
【0039】
したがって、ガス絶縁開閉装置や管路気中送電装置などのスイッチギアにおいて、図4や図5に示すような真空バルブ41や絶縁スペーサ52を用いることにより、小形・高性能で信頼性の高いスイッチギアを実現できる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の具体的な実施例および従来技術による比較例を示し、これらの実施例および比較例の対照的な評価により、本発明の作用・効果についてさらに詳しく説明する。
【0041】
[実施例1]
実施例1としては、図2に記載の範囲の望ましい配合比率で、前述した実施形態に記載の製造工程(図3)により、有機修飾された層状シリケート化合物と表面処理用のカップリング剤をエポキシ化合物に添加して剪断混合し、続いて、酸化物系粒子と高誘電率粒子を混合した。この実施例1の詳細は以下の通りである。
【0042】
まず、エポキシ化合物100重量部(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製)に、四級アンモニウムイオンで有機修飾されている層状シリケート化合物10重量部(一次粒径1〜数100nm、コープケミカル社製)とシランカップリング剤:γ−グリシドキシ−プロピルトリメトキシシラン(日本ユニカー社製、商品名:A187)1重量部を添加し、剪断力を加えて混合した。
【0043】
この混合物に、酸化物系粒子としてシリカ(クリスタライトA1、龍森社)200重量部と、高誘電率粒子として酸化チタン(MT−100S、テイカ社製)200重量部を添加し、万能混合攪拌機(ダルトン製社、商品名:5DMV−r型)を用いて混合した。この混合物に、エポキシ樹脂用酸無水物系硬化剤(新日本理化社製、商品名:リカシッド MH−700)86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤(日本油脂社製、商品名:M2−100)1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って、樹脂組成物を調製した。
【0044】
このように調整した樹脂組成物を、予め100℃に加熱した金型に流し込み、真空脱泡後に100℃×3時間(一次硬化)+150℃×15時間(二次硬化)の条件で硬化処理を施すことによって、目的とする絶縁材料を作製した。この絶縁材料を後述する特性評価に供した。
【0045】
なお、他の実施例2,3、および比較例1,2についても、具体的に使用した材料の種類や装置の型などの製品識別(製造元や商品名)は実施例1と同様であるため、以下の説明においては、個々の製品識別の記載を省略する。
【0046】
[実施例2]
実施例2としては、実施例1と同様の配合比率としながら、実施例1とは異なる製造工程により、表面処理用のカップリング剤を使用せず、酸化物系粒子と高誘電率粒子をエポキシ化合物に混合した後、有機修飾されていない層状シリケート化合物を剪断力を加えることなく混合した。この実施例2の詳細は以下の通りである。
【0047】
まず、エポキシ樹脂100重量部に、酸化物系粒子としてシリカ200重量部と、高誘電率粒子として酸化チタン200重量部を添加し、万能混合攪拌機を用いて混合した。この混合物に、有機修飾されていない層状シリケート化合物10重量部を加えて、万能混合攪拌機を用いて混合した。この混合物に、エポキシ樹脂用酸無水物系硬化剤86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って樹脂組成物を調製した。
【0048】
このように調整した樹脂組成物に対して、実施例1と同様の条件で硬化処理を施すことによって、目的とする絶縁材料を作製した。この絶縁材料を後述する特性評価に供した。
【0049】
[実施例3]
実施例3としては、無機粒子の配合比率を図2に記載の範囲から逸脱させる点以外は、実施例1と同様の製造工程により、有機修飾された層状シリケート化合物と表面処理用のカップリング剤をエポキシ化合物に添加して剪断混合し、続いて、酸化物系粒子と高誘電率粒子を混合した。この実施例3の詳細は以下の通りである。
【0050】
まず、エポキシ樹脂100重量部に、四級アンモニウムイオンで有機修飾されている層状シリケート化合物60重量部とシランカップリング剤:γ−グリシドキシ−プロピルトリメトキシシラン1重量部を添加し、剪断力を加えて混合した。
【0051】
この混合物に、酸化物系粒子としてシリカ250重量部と、高誘電率粒子として酸化チタン250重量部を添加し、万能混合攪拌機を用いて混合した。この混合物に、エポキシ樹脂用酸無水物系硬化剤86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って、樹脂組成物を調製した。
【0052】
このように調整した樹脂組成物に対して、実施例1と同様の条件で硬化処理を施すことによって、目的とする絶縁材料を作製した。この絶縁材料を後述する特性評価に供した。
【0053】
[比較例1]
比較例1としては、層状シリケート化合物を使用しない点以外は、実施例1と同様の配合比率の酸化物系粒子と高誘電率粒子を用いて、表面処理用のカップリング剤と共にエポキシ化合物に添加して混合した。この比較例1の詳細は以下の通りである。
【0054】
まず、エポキシ樹脂100重量部に、酸化物系粒子としてシリカ200重量部と、高誘電率粒子として酸化チタン100重量部と、シランカップリング剤:γ−グリシドキシ−プロピルトリメトキシシラン1重量部を添加し、万能混合攪拌機を用いて混合した。この混合物に、エポキシ樹脂用酸無水物系硬化剤86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って、樹脂組成物を調製した。
【0055】
このように調整した樹脂組成物に対して、実施例1と同様の条件で硬化処理を施すことによって、目的とする絶縁材料を作製した。この絶縁材料を後述する特性評価に供した。
【0056】
[比較例2]
比較例2としては、高誘電率粒子を使用しない点以外は、実施例1と同様の配合比率の層状シリケート化合物と酸化物系粒子を用いて、有機修飾された層状シリケート化合物と表面処理用のカップリング剤をエポキシ化合物に添加して剪断混合し、続いて、酸化物系粒子を混合した。この比較例2の詳細は以下の通りである。
【0057】
まず、エポキシ樹脂100重量部に、四級アンモニウムイオンで有機修飾されている層状シリケート化合物10重量部と、シランカップリング剤:γ−グリシドキシ−プロピルトリメトキシシラン1重量部を添加し、剪断力を加えて混合した。
【0058】
この混合物に、酸化物系粒子としてシリカ250重量部を添加し、万能混合攪拌機を用いて混合した。この混合物に、エポキシ樹脂用酸無水物系硬化剤86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って、樹脂組成物を調製した。
【0059】
このように調整した樹脂組成物に対して、実施例1と同様の条件で硬化処理を施すことによって、目的とする絶縁材料を作製した。この絶縁材料を後述する特性評価に供した。
【0060】
以下の表1は、上述した実施例1〜3および比較例1,2で使用した配合組成物とその配合比率および製造工程の違いをまとめたものである。
【表1】

【0061】
[実施例・比較例で得た絶縁材料の物性値測定方法]
次に、上述した実施例1〜3および比較例1,2により得た絶縁材料について、下記に示す方法で線膨張係数、誘電率、破壊靱性、樹脂粘度の測定を行った。
【0062】
〈線膨張係数の測定方法〉
縦5mm×横5mm×高さ15mmの試験片を用いて、熱機械分析装置(TMS−110:セイコーインスツルルメンツ)により線膨張係数を求めた。測定温度範囲は20〜200℃、昇温速度は2℃/分とした。
【0063】
〈誘電率の測定方法〉
JIS− K6911に従い、直径100mm×厚さ2mmの円形試験片を用いて、室温においてGRブリッジ(GR1616:General Radio)により誘電率を測定した。測定周波数は60Hzである。
【0064】
〈破壊靱性の測定方法〉
ASTM D5045−91に従い、コンパクトテンション試験片に初期亀裂を生成させ、引張り荷重を加え、亀裂が進展して破断した時の荷重から、破壊靭性値(KIC)を算出した。また、クロスヘッドの移動速度は1mm/分、測定温度は室温である。
【0065】
〈樹脂粘度の測定方法〉
エポキシ樹脂化合物に各粒子を分散し、続いてエポキシ樹脂硬化剤を加えた後、加熱硬化前の樹脂組成物を60℃まで温め、B型粘度計により樹脂粘度を測定した。
【0066】
[実施例・比較例で得た絶縁材料の物性値測定結果]
以下の表2は、以上の測定方法による測定結果を示す。表2の測定結果が示すように、本発明の実施例1〜3による絶縁材料は、比較例1〜2による絶縁材料と比較して、熱膨張率が導体の材料である銅と同程度と小さく、高誘電率で、破壊靱性が高く、粘度も注型作業に適した値であることが分かる。以下には、表1,2において実施例1〜3と比較例1,2を比較参照することで、本発明の作用・効果についてさらに詳しく説明する。
【0067】
【表2】

【0068】
[実施例1と比較例1,2の比較]
まず、表1,2において実施例1と比較例1,2を比較することで、層状シリケート化合物、酸化物系粒子、高誘電率粒子という3種類の無機粒子を充填することによる作用・効果を説明することができる。すなわち、表1に示すように、実施例1による絶縁材料では、層状シリケート化合物、酸化物系粒子、高誘電率粒子の3種類が充填されている。これに対して、比較例1では、酸化物系粒子と高誘電率粒子のみが充填され、層状シリケート化合物が充填されていない。また、比較例2では、層状シリケート化合物と酸化物系粒子のみが充填され、高誘電率粒子が充填されていない。
【0069】
表2に示すように、実施例1では、比較例1よりも線膨張係数が小さく、破壊靱性が高くなっている。この理由は、エポキシ樹脂中にナノスケールで分散した層状シリケート化合物が、エポキシ樹脂の高分子鎖を拘束し、熱による分子鎖の運動を抑制することで熱膨張を抑制すると共に、クラックが発生した場合、その進展を抑制できることから、破壊靱性を向上するためであると考えられる。また、実施例1では、高誘電率粒子が充填されているため、比較例2よりも高い誘電率を示している。
【0070】
[実施例1と実施例3の比較]
次に、表1,2において実施例1と実施例3を比較することで、無機粒子の充填量(エポキシ化合物に対する配合比率)の限定による作用・効果を説明することができる。すなわち、表1に示すように、実施例1における無機粒子の充填量は、図2に示す望ましい範囲内となっている。一方、実施例3における無機粒子の充填量は、図2に示す範囲を逸脱している。
【0071】
表2に示すように、実施例1における樹脂の粘度が十分低いのに比べて、実施例3における樹脂の粘度は著しく高くなっている。このことは、無機粒子の充填量が図2に示す望ましい範囲内であれば、樹脂の粘度上昇を抑制できる一方で、当該範囲を逸脱した場合には、樹脂の粘度上昇が著しいことを意味している。また、表2に示す粘度以外の各物性値は、実施例1と実施例3の間で大きな差はないが、実施例3のように樹脂粘度が非常に高いと、注型などの作業性が著しく低下する。
【0072】
[実施例1と実施例2の比較]
続いて、表1,2において実施例1と実施例2を比較することで、層状シリケート化合物を酸化物系粒子および高誘電率粒子より先に剪断混合する点、層状シリケート化合物を四級アンモニウムイオンで有機修飾する点、および無機粒子をシランカップリング剤により表面処理する点、による作用・効果を説明することができる。すなわち、表1に示すように、実施例1の製造工程はこれらの特徴を有するのに対し、実施例2の製造工程はこれらの特徴を持たない。
【0073】
まず、実施例1では、実施例2に比べて、線膨張係数が小さく、破壊靱性が高くなっている。すなわち、実施例1では、ナノサイズの粒径を持つ層状シリケート化合物を、粒子径の大きな酸化物系粒子および高誘電率粒子より先に、剪断混合によりエポキシ化合物中に分散していることから、層状シリケート化合物に対して剪断力を効率よく与えて混合することができ、エポキシ化合物中に均一に分散させることができるため、線膨張係数が小さく、破壊靱性が高くなっているものと考えられる。これに対して、実施例2では、エポキシ化合物に酸化物系粒子と高誘電率粒子を分散した後に、層状シリケート化合物を大きな剪断力が加わらない汎用の混合装置で分散していることから、層状シリケート化合物を実施例1ほど均一に分散させることができないため、線膨張率が若干大きく、破壊靱性値が若干小さくなっているものと考えられる。
【0074】
さらに、実施例1では、層状シリケート化合物を四級アンモニウムイオンで有機修飾しているため、四級アンモニウムイオンによりシリケート層の表面エネルギーが低減され、かつ、層間が親油性雰囲気となる。実施例1では、このような四級アンモニウムイオンによる有機修飾の効果によって、層状シリケート化合物のエポキシ樹脂に対する親和性が高くなり、剪断応力を加えて混合することで、層状シリケート化合物は層間で剥離して、各層が絶縁材料中でより均一に分散することができるものと考えられる。これに対して、実施例2では、層状シリケート化合物を四級アンモニウムイオンで有機修飾していないため、このような四級アンモニウムイオンによる有機修飾の効果を得ることもできない。
【0075】
また、実施例1では、シランカップリング剤により無機粒子を表面処理しているが、このような表面処理は、無機粒子と樹脂の界面を化学結合するため、エポキシ樹脂の高分子鎖を拘束し易くなり、熱による分子鎖の運動を抑制でき、クラック進展の弱点となる粒子/樹脂界面の接着を強固にすることができる。これに対して、実施例2では、シランカップリング剤による無機粒子の表面処理を行っていないため、表面処理による上記の効果を得ることができない。このこともまた、実施例1の破壊靱性値が実施例2より高いことの一因であると考えられる。
【0076】
[他の実施形態]
なお、本発明は、前述した各実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で他にも多種多様な変形例が実施可能である。例えば、前記実施形態および実施例で示した材料の種類や組成、装置の型は一例にすぎず、具体的に使用する材料の種類や組成、具体的な装置の型は適宜選択可能である。また、具体的に使用する材料の種類や組成、装置の型などに応じて、具体的な製造工程や処理条件なども適宜選択可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明による樹脂組成物の一実施形態を示す模式図。
【図2】本発明の一実施形態における層状シリケート化合物、酸化物系粒子、高誘電粒子の充填量の望ましい範囲を示す概念図。
【図3】本発明による樹脂組成物の製造工程の一例を示すフローチャート。
【図4】本発明による樹脂組成物によりモールドされた真空バルブを示す模式図。
【図5】本発明による樹脂組成物により作製された絶縁スペーサを示す模式図。
【符号の説明】
【0078】
1…樹脂組成物
2…エポキシ樹脂
3…層状シリケート化合物
4…酸化物系粒子
5…高誘電率粒子
41…真空バルブ
42…注型絶縁物
51…高圧導体
52…絶縁スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とエポキシ樹脂用硬化剤からなるエポキシ樹脂中に、層状シリケート化合物、酸化物系粒子、および高誘電率粒子が分散してなる
ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ化合物100重量部に対して、
前記層状シリケート化合物が1〜50重量部、前記酸化物系粒子が100〜400重量部、前記高誘電率粒子が100〜400重量部、の割合でそれぞれ充填され、かつ、酸化物系粒子と高誘電率粒子の充填量の合計が500重量部以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記層状シリケート化合物は、スメクタイト群、マイカ群、バーミキュライト群、および雲母群からなる鉱物群の中から選択される少なくとも1種、または2種以上の混合物である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸化物系粒子は、シリカ、アルミナ、酸化チタン、三酸化ビスマス、二酸化セリウム、一酸化コバルト、酸化銅、三酸化鉄、酸化ホルミウム、酸化インジウム、酸化マンガン、酸化錫、酸化イットリウム、酸化亜鉛、からなる酸化物群の中から選択される少なくとも1種、または2種以上の混合物である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記高誘電率粒子は、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸バリウムネオジウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム錫、チタン酸ジルコン酸バリウム、カーボンブラック、シリコンカーバイド、チタン‐バリウム‐ネオジウム系複合酸化物、鉛−カルシウム系複合酸化物、からなる高誘電率材料群の中から選択される少なくとも1種、または2種以上の混合物である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記層状シリケート化合物は、前記酸化物系粒子および前記高誘電率粒子より先に、剪断混合により前記エポキシ化合物中に分散させられている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記層状シリケート化合物は、四級アンモニウムイオンで有機修飾されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記層状シリケート化合物、前記酸化物系粒子、および前記高誘電率粒子の表面は、カップリング剤または表面処理剤により改質されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
電気絶縁を行う注型部材または構造部材を有する電気機器において、
前記注型部材または構造部材は、請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の樹脂組成物を硬化してなる
ことを特徴とする電気機器。
【請求項10】
前記注型部材または構造部材は、真空バルブをモールドする絶縁物を含む
ことを特徴とする請求項9に記載の電気機器。
【請求項11】
前記注型部材または構造部材は、高圧導体を絶縁・支持する絶縁スペーサを含む
ことを特徴とする請求項9に記載の電気機器。
【請求項12】
1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とエポキシ樹脂用硬化剤からなるエポキシ樹脂中に物性改善用の材料を分散させて樹脂組成物を製造する方法において、
前記エポキシ化合物中に層状シリケート化合物を剪断混合により分散させた後、酸化物系粒子および高誘電率粒子を分散させてなる混合物に、前記エポキシ樹脂用硬化剤を添加する
ことを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記層状シリケート化合物を、前記分散前に四級アンモニウムイオンで予め有機修飾する
ことを特徴とする請求項12に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記層状シリケート化合物、前記酸化物系粒子、および前記高誘電率粒子の表面を、前記分散時にカップリング剤または表面処理剤により改質する
ことを特徴とする請求項12または請求項13に記載の樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−56049(P2007−56049A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239319(P2005−239319)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】