説明

樹脂組成物及び回路基板の製造方法

【課題】絶縁基材表面に形成した樹脂皮膜にレーザ光を照射して回路パターンを形成する工程を含む回路基板の製造方法において、樹脂皮膜のレーザ光の吸収率を高くし、回路基板の生産性の向上を図る。
【解決手段】少なくとも1つ以上のカルボキシル基を有するモノマー単位を含有する単量体及びこの単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体と、紫外線吸収剤とを含む樹脂組成物を用いる。その場合に、樹脂組成物の樹脂液を塗布して生成する樹脂皮膜2を溶媒で溶解した溶液での樹脂皮膜2の単位重量あたりの吸光係数をε1としたときに、樹脂皮膜2に対して照射する光の波長でのε1が0.01(L/(g・cm))以上である樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子分野における電気回路の高密度化に伴い、配線幅の細線化や配線間隔の狭化が進んでいる。しかし、配線間隔が狭くなるほど、隣接する配線間に短絡やマイグレーションが起こり易くなる。
【0003】
この問題に対処し得る技術として、特許文献1には、次のような回路基板の製造方法が記載されている。まず、絶縁基材表面に樹脂皮膜を形成する(樹脂皮膜形成工程)。次に、樹脂皮膜の外表面を基準として樹脂皮膜の厚み分以上の深さの凹部を形成して回路パターンを形成する(回路形成工程)。次に、回路パターンの表面及び樹脂皮膜の表面にメッキ触媒又はその前駆体を被着させる(触媒被着工程)。次に、絶縁基材から樹脂皮膜を除去する(皮膜除去工程)。次に、樹脂皮膜を除去した後のメッキ触媒又はその前駆体が残留する部分にのみ無電解メッキ膜を形成する(メッキ処理工程)。この製造方法によれば、高精度な電気回路を絶縁基材上に形成でき、短絡やマイグレーションの発生が抑制された回路基板が得られる。
【0004】
前記製造方法において、特許文献1には、回路パターンを形成する方法の1つとしてレーザ加工が挙げられている。そして、レーザ光が有する固有の波長に対して吸収率の高い樹脂皮膜を用いることにより生産性が向上すると記載されている。しかしながら、樹脂皮膜のレーザ光の吸収率を高くする具体的な技術は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−135768号公報(段落0018、0100、0102)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、絶縁基材表面に形成した樹脂皮膜にレーザ光を照射して回路パターンを形成する工程を含む回路基板の製造方法において、樹脂皮膜のレーザ光の吸収率を高くし、もって回路基板の生産性の向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面は、少なくとも1つ以上のカルボキシル基を有するモノマー単位を含有する単量体及びこの単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体と、紫外線吸収剤とを含み、その樹脂液を塗布して生成する樹脂皮膜を溶媒で溶解した溶液での樹脂皮膜の単位重量あたりの吸光係数をε1としたときに、樹脂皮膜に対して照射する光の波長でのε1が0.01(L/(g・cm))以上である樹脂組成物である。
【0008】
前記構成においては、樹脂皮膜は、樹脂皮膜に対して照射する光の波長を有するレーザ光でレーザ加工されたとき、レーザ加工部周辺の樹脂皮膜の厚みがレーザ加工後はレーザ加工前の2倍以下である加工特性を有することが好ましい。
【0009】
前記構成においては、紫外線吸収剤は、共役系がベンゼンよりも広がった構造を有し、芳香環とヘテロ原子とを有する化合物であり、共重合体に対して0.1〜60質量%含有されることが好ましい。
【0010】
前記構成においては、紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾエート誘導体、トリアジン誘導体、ベンゾチアゾール誘導体及びベンゾイルメタンからなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0011】
前記構成においては、共重合体は、α,β−不飽和カルボニル基含有単量体を10〜90質量%及びこれと共重合可能な分子末端に重合性不飽和基を有する単量体を10〜90質量%含む、少なくとも2元系以上の共重合体であることが好ましい。
【0012】
前記構成においては、α,β−不飽和カルボニル基含有単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸及びこれらのエステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0013】
前記構成においては、分子末端に重合性不飽和基を有する単量体は、スチレン及びジエン骨格を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0014】
前記構成においては、共重合体の重量平均分子量は、5,000〜1,000,000であることが好ましい。
【0015】
前記構成においては、樹脂皮膜は、酸性触媒金属コロイド溶液に対しては実質的に膨潤せず、アルカリ性溶液に対しては膨潤又は溶解することが好ましい。
【0016】
前記構成においては、樹脂皮膜の酸性触媒金属コロイド溶液に対する膨潤度がアルカリ性溶液に対する膨潤度よりも小さいことを条件として、樹脂皮膜の酸性触媒金属コロイド溶液に対する膨潤度は60%以下であり、アルカリ性溶液に対する膨潤度は50%以上であることが好ましい。
【0017】
前記構成においては、樹脂皮膜は、樹脂組成物の樹脂液が基材表面に塗布された後、乾燥されることにより形成されることが好ましい。
【0018】
前記構成においては、樹脂皮膜は、樹脂組成物の樹脂液が支持基板に塗布された後、乾燥されることにより形成された樹脂皮膜が基材表面に転写されることにより形成されることが好ましい。
【0019】
前記構成においては、樹脂皮膜に対して照射する光の波長は266nm又は355nmであり、紫外線吸収剤は、少なくとも250〜400nmに吸収波長を有することが好ましい。
【0020】
前記構成においては、共重合体は、少なくとも200〜300nmに吸収波長を有することが好ましい。
【0021】
本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物を用いて絶縁基材表面に樹脂皮膜を形成する工程と、樹脂皮膜の外表面を基準として樹脂皮膜の厚み分以上の深さの凹部をレーザ加工により形成して回路パターンを形成する工程と、回路パターンの表面及び樹脂皮膜の表面にメッキ触媒又はその前駆体を被着させる工程と、絶縁基材から樹脂皮膜を除去する工程と、樹脂皮膜を除去した後のメッキ触媒又はその前駆体が残留する部分にのみ無電解メッキ膜を形成する工程とを含む回路基板の製造方法である。
【0022】
前記構成においては、回路パターンを形成する工程では、樹脂皮膜の外表面を基準として樹脂皮膜の厚み分を超える深さの凹部をレーザ加工により形成し、その場合に、樹脂皮膜は、レーザ加工部周辺の樹脂皮膜の厚みがレーザ加工後はレーザ加工前の2倍以下である加工特性を有するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、絶縁基材表面に形成した樹脂皮膜にレーザ光を照射して回路パターンを形成する工程を含む回路基板の製造方法において、樹脂皮膜のレーザ光の吸収率を高くできるから、回路基板の生産性の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る回路基板の製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
特許文献1に記載される回路基板の製造方法においては、回路形成工程で、レーザ加工により、樹脂皮膜の厚みと同じかそれを超える深さを有する凹部、すなわち回路パターンを形成する。このレーザ加工において、樹脂皮膜がレーザ光の波長と同じ波長領域に吸収波長を持たないときは、樹脂皮膜がレーザ光を吸収し難いため、樹脂皮膜を構成するポリマーの分子切断が起こり難くなる。そのため、樹脂皮膜に照射されたレーザ光の大部分は熱エネルギに変換されて樹脂皮膜が熱変形を起こす。その結果、レーザ加工後に、回路パターン周辺の樹脂皮膜が隆起したり、ポリマー成分が回路パターンの凹部の中に落ちて残渣となって残ったり、回路パターンが溶融したポリマーで塞がれる現象が起きる。このような現象が起きると、次の触媒被着工程において、回路パターンの凹部にメッキ触媒が良好に被着せず、最終的に、目的とする電気回路が良好に得られなくなり、回路基板の生産性が低下する。このような不具合は樹脂皮膜の厚みが大きいほど(例えば3μm以上)顕著となる。
【0026】
したがって、たとえ樹脂皮膜の厚みが大きくても(例えば5μm程度)、レーザ加工性に優れ、回路基板の生産性の向上を図ることができる樹脂皮膜の開発が望まれていた。
【0027】
本発明者等は、樹脂皮膜のレーザ光の吸収率を高くするものとして紫外線吸収剤を用いることにより、前記要望に対処し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0028】
すなわち、本実施形態に係る樹脂組成物は、少なくとも1つ以上のカルボキシル基を有するモノマー単位を含有する単量体及びこの単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体と、紫外線吸収剤とを含み、その樹脂液を塗布して生成する樹脂皮膜を溶媒で溶解した溶液での樹脂皮膜の単位重量あたりの吸光係数をε1としたときに、樹脂皮膜に対して照射する光の波長でのε1が0.01(L/(g・cm))以上である樹脂組成物である。
【0029】
また、本実施形態に係る回路基板の製造方法は、前記樹脂組成物を用いて絶縁基材表面に樹脂皮膜を形成する工程と、樹脂皮膜の外表面を基準として樹脂皮膜の厚み分以上の深さの凹部をレーザ加工により形成して回路パターンを形成する工程と、回路パターンの表面及び樹脂皮膜の表面にメッキ触媒又はその前駆体を被着させる工程と、絶縁基材から樹脂皮膜を除去する工程と、樹脂皮膜を除去した後のメッキ触媒又はその前駆体が残留する部分にのみ無電解メッキ膜を形成する工程とを含む回路基板の製造方法である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態に係る回路基板10の製造方法は、絶縁基材1の表面に樹脂皮膜2を形成する樹脂皮膜形成工程(A)と、樹脂皮膜2の外表面を基準として樹脂皮膜2の厚み分以上の深さの凹部3,4をレーザ加工により形成して回路パターンを形成する回路形成工程(B)と、回路パターンの表面及び樹脂皮膜2の表面にメッキ触媒5又はその前駆体を被着させる触媒被着工程(C)と、絶縁基材1から樹脂皮膜2を除去する皮膜除去工程(D)と、樹脂皮膜2を除去した後のメッキ触媒5又はその前駆体が残留する部分にのみ無電解メッキ膜6を形成するメッキ処理工程(E)とを備える。
【0031】
まず、図1(A)に示すように、樹脂皮膜形成工程では、絶縁基材1の表面に樹脂皮膜2を形成する。
【0032】
次に、図1(B)に示すように、回路形成工程では、樹脂皮膜2の外表面を基準として樹脂皮膜2の厚み分以上の深さの凹部3,4をレーザ加工により形成して回路パターンを形成する。回路パターンとしては、絶縁基材1の表面まで到達する凹部であってもよいが、最終的に得られる電気回路6が脱離し難い等の観点からは、図示したように、絶縁基材1を掘り込んだ凹部がより好ましい。
【0033】
図中、符号3は、回路パターンを構成する回路溝、符号4は、同じく回路パターンを構成する貫通孔である。これらの回路溝3及び貫通孔4により、無電解メッキ膜6、すなわち電気回路が形成される部分が規定される。以下、回路パターンとして回路溝3を中心に説明するが、貫通孔4においても状況は同様である。なお、回路溝3は、例えば電気回路6の配線を形成するためのもの、貫通孔4は、例えば電気回路6のビアホールを形成するためのものである。
【0034】
次に、図1(C)に示すように、触媒被着工程では、回路溝3の表面及び回路溝3が形成されなかった樹脂皮膜2の表面にメッキ触媒5又はその前駆体を被着させる。
【0035】
次に、図1(D)に示すように、皮膜除去工程では、絶縁基材1から樹脂皮膜2を除去する。この結果、絶縁基材1の表面のうち、回路溝3が形成された部分の表面にのみメッキ触媒5又はその前駆体が残留する。一方、樹脂皮膜2の表面に被着されたメッキ触媒5又はその前駆体は、樹脂皮膜2に担持された状態で、樹脂皮膜2と共に除去される。
【0036】
次に、図1(E)に示すように、メッキ処理工程では、樹脂皮膜2が除去された絶縁基材1に無電解メッキを施す。この結果、メッキ触媒5又はその前駆体が残留する部分にのみ無電解メッキ膜6が形成される。すなわち、回路溝3が形成された部分に電気回路6となる無電解メッキ膜が形成される。電気回路6は、無電解メッキ膜のみからなるものであってもよいし、無電解メッキ膜にさらに無電解メッキ(フィルアップメッキ)を施して、メッキ膜をさらに厚膜化したものであってもよい。例えば、図示したように、回路溝3や貫通孔4の全体を埋めるように無電解メッキ膜からなる電気回路6を形成し、絶縁基材1と電気回路6との段差を解消するようにしてもよい。
【0037】
前記各工程(A)〜(E)によって、図1(E)に示すような回路基板10が製造される。この回路基板10は、絶縁基材1上に高精度な電気回路6が形成されており、短絡やマイグレーションの発生が抑制されるものである。
【0038】
以下、各工程で用いられる材料を主にしてさらに説明する。
【0039】
<絶縁基材>
絶縁基材1は、回路基板の製造に用い得るものであれば、特に限定されない。例えば、樹脂を含む樹脂基材等が挙げられる。
【0040】
樹脂基材としては、回路基板、例えば、多層回路基板の製造に用い得る各種有機基板が特に限定なく採用可能である。有機基板の具体例としては、従来から多層回路基板の製造に使用される、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、シアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ビスマレイミド樹脂等からなる基板が挙げられる。
【0041】
エポキシ樹脂としては、回路基板の製造に用い得る各種有機基板を構成するエポキシ樹脂であれば、特に限定されない。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、アラルキルエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。さらに、難燃性を付与するために、臭素化又はリン変性したエポキシ樹脂、窒素含有樹脂、シリコーン含有樹脂等も挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
各樹脂で基材を構成する場合、一般的に、硬化させるために、硬化剤を含有させる。硬化剤としては、硬化剤として用い得るものであれば、特に限定されない。例えば、ジシアンジアミド、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミノトリアジンノボラック系硬化剤、シアネート樹脂等が挙げられる。フェノール系硬化剤としては、例えば、ノボラック型、アラルキル型、テルペン型等が挙げられる。さらに、難燃性を付与するために、リン変性したフェノール樹脂又はリン変性したシアネート樹脂等も挙げられる。これらの硬化剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
なお、特に限定されないが、回路形成工程(B)ではレーザ加工により回路パターンが形成されることから、例えば100〜400nmの波長領域でのレーザ光の吸収率が高い樹脂等を用いることが好ましい。例えば、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0044】
絶縁基材1には、フィラーを含有してもよい。フィラーとしては、無機微粒子であっても、有機微粒子であってもよく、特に限定されない。フィラーを含有することによって、レーザ加工部にフィラーが露出し、露出したフィラーの凹凸によって、メッキと樹脂との密着度が向上する。
【0045】
無機微粒子を構成する材料としては、例えば、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、シリカ(SiO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、酸化チタン(TiO)等の高誘電率充填材;ハードフェライト等の磁性充填材;水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化アルミニウム(Al(OH))、三酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)、グアニジン塩、ホウ酸亜鉛、モリブテン化合物、スズ酸亜鉛等の無機系難燃剤;タルク(Mg(Si10)(OH))、硫酸バリウム(BaSO)、炭酸カルシウム(CaCO)、雲母等が挙げられる。これらの無機微粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの無機微粒子は、熱伝導性、比誘電率、難燃性、粒度分布、色調の自由度等が高いことから、所望の機能を選択的に発揮させる場合には、配合及び粒度設計を適宜行うことにより、容易に高充填化を行うことができる。また、特に限定はされないが、絶縁基材1の厚み以下の平均粒径のフィラーを用いるのが好ましく、例えば0.01〜10μm、より好ましくは0.05μm〜5μmの平均粒径のフィラーを用いるのがよい。
【0046】
絶縁基材1中での無機微粒子の分散性を高めるために、無機微粒子をシランカップリング剤で表面処理してもよく、シランカップリング剤を絶縁基材1に配合してもよい。シランカップリング剤としては、特に限定されない。例えば、エポキシシラン系、メルカプトシラン系、アミノシラン系、ビニルシラン系、スチリルシラン系、メタクリロキシシラン系、アクリロキシシラン系、チタネート系等のシランカップリング剤等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
また、絶縁基材1中での無機微粒子の分散性を高めるために、分散剤を絶縁基材1に配合してもよい。分散剤としては、特に限定されない。例えば、アルキルエーテル系、ソルビタンエステル系、アルキルポリエーテルアミン系、高分子系等の分散剤等が挙げられる。これらの分散剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
<樹脂皮膜>
樹脂皮膜2は、メッキ触媒5又はその前駆体をレーザ加工した部分にのみ被着させ残留させるためのレジストである。樹脂皮膜2は、触媒被着工程(C)では除去されず、皮膜除去工程(D)では除去可能なものであれば、特に限定されない。例えば、有機溶剤やアルカリ溶液により容易に溶解し得る可溶型樹脂や、後述する膨潤液(例えば皮膜除去工程で用いられるアルカリ性溶液等)で膨潤し得る樹脂からなる膨潤性樹脂皮膜等が挙げられる。これらの中では、正確な除去が容易である点から膨潤性樹脂皮膜が特に好ましい。膨潤性樹脂皮膜としては、例えば、膨潤液に対する膨潤度が50%以上であることが好ましい。なお、膨潤性樹脂皮膜には、膨潤液に対して実質的に溶解せず、膨潤により絶縁基材1表面から容易に剥離するような樹脂皮膜だけではなく、膨潤液に対して膨潤し、さらに少なくとも一部が溶解し、その膨潤や溶解により絶縁基材1表面から容易に剥離するような樹脂皮膜や、膨潤液に対して溶解し、その溶解により絶縁基材1表面から容易に剥離するような樹脂皮膜も含まれる。
【0049】
なお、膨潤度は、下記式により算出される。
膨潤度(%)={(Wa−Wb)/Wb)}×100
式中、Waは樹脂皮膜の膨潤後重量、Wbは樹脂皮膜の膨潤前重量である。
【0050】
樹脂皮膜2の形成方法としては、特に限定されない。例えば、絶縁基材1の表面に、樹脂皮膜を形成し得る液状材料(樹脂液)を塗布した後、乾燥させる方法や、支持基板に、樹脂皮膜を形成し得る液状材料(樹脂液)を塗布した後、乾燥させることにより形成された樹脂皮膜を絶縁基材1の表面に転写する方法等が挙げられる。なお、液状材料を塗布する方法としては、特に限定されない。例えば、既知のスピンコート法やバーコータ法等が挙げられる。
【0051】
樹脂皮膜2の厚みとしては、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。また、樹脂皮膜2の厚みとしては、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。樹脂皮膜2の厚みが厚すぎる場合には、回路形成工程(B)におけるレーザ加工によって形成される回路溝3や貫通孔4等の回路パターンの精度が低下する傾向がある。樹脂皮膜2の厚みが薄すぎる場合には、均一な膜厚の樹脂皮膜2を形成し難くなる傾向がある。また、回路形成工程(B)におけるレーザ加工によって形成される回路溝3や貫通孔4等の回路パターンの周囲の樹脂皮膜2まで剥がれてしまって不要な部分にメッキが形成される可能性が生じる(後述する「露出」の問題につながる)。
【0052】
膨潤性樹脂皮膜としては、前述のように、膨潤液に対する膨潤度が50%以上である樹脂皮膜が好ましく用い得る。さらに、膨潤液に対する膨潤度が100%以上である樹脂皮膜がより好ましい。なお、膨潤度が低すぎる場合には、皮膜除去工程(D)において膨潤性樹脂皮膜が剥離し難くなる傾向がある。
【0053】
膨潤性樹脂皮膜の形成方法は、特に限定されず、前述した樹脂皮膜2の形成方法と同様の方法であればよい。すなわち、絶縁基材1の表面に、膨潤性樹脂皮膜を形成し得る液状材料をスピンコート法やバーコータ法等により塗布した後、乾燥させる方法や、支持基板に、樹脂皮膜を形成し得る液状材料を塗布した後、乾燥させることにより形成される膨潤性樹脂皮膜を絶縁基材1の表面に転写する方法等が挙げられる。
【0054】
膨潤性樹脂皮膜を形成し得る液状材料としては、例えば、エラストマーのサスペンジョン又はエマルジョン等が挙げられる。エラストマーの具体例としては、例えば、スチレン−ブタジエン系共重合体等のジエン系エラストマー、アクリル酸エステル系共重合体等のアクリル系エラストマー、及びポリエステル系エラストマー等が挙げられる。このようなエラストマーによれば、サスペンジョン又はエマルジョンとして分散されたエラストマー樹脂粒子の架橋度又はゲル化度等を調整することにより所望の膨潤度の膨潤性樹脂皮膜を容易に形成することができる。
【0055】
膨潤性樹脂皮膜としては、特に、膨潤度が膨潤液のpHに依存して変化するような皮膜であることが好ましい。このような皮膜を用いた場合には、触媒被着工程(C)における液性条件と、皮膜除去工程(D)における液性条件とを異ならせることにより、触媒被着工程(C)におけるpHにおいては膨潤性樹脂皮膜は実質的に膨潤せずに(ここで、実質的に膨潤しないとは、溶解や剥離が起こるほどには膨潤しないという意味であり、触媒被着工程(C)におけるpHが酸性の場合は、耐酸性を有するという意味である)絶縁基材1に対する高い密着力を維持し、皮膜除去工程(D)におけるpHにおいては膨潤性樹脂皮膜は膨潤又は溶解して絶縁基材1から容易に剥離することができる。
【0056】
具体的には、例えば、触媒被着工程(C)が、pH1〜3の範囲の酸性メッキ触媒コロイド溶液(酸性触媒金属コロイド溶液)中で処理する工程を備え、皮膜除去工程(D)が、pH12〜14の範囲のアルカリ性溶液中で膨潤性樹脂皮膜を膨潤させる工程を備える場合には、膨潤性樹脂皮膜は、酸性メッキ触媒コロイド溶液に対する膨潤度が60%以下、さらには50%以下、さらには40%以下であり(すなわち耐酸性を示し)、アルカリ性溶液に対する膨潤度が50%以上、さらには100%以上、さらには500%以上である(すなわちアルカリ剥離性を示す)ような樹脂皮膜であることが好ましい。ただし、膨潤性樹脂皮膜の酸性メッキ触媒コロイド溶液に対する膨潤度がアルカリ性溶液に対する膨潤度よりも小さいことを条件とする。
【0057】
このような膨潤性樹脂皮膜の例としては、所定量のカルボキシル基を有するエラストマーから形成されるシートや、プリント配線板のパターニング用のドライフィルムレジスト(以下、DFRとも呼ぶ)等に用いられる光硬化性のアルカリ現像型のレジストを全面硬化して得られるシートや、熱硬化性やアルカリ現像型シート等が挙げられる。
【0058】
カルボキシル基を有するエラストマーの具体例としては、カルボキシル基を有するモノマー単位を共重合成分として含有することにより、分子中にカルボキシル基を有する、スチレン−ブタジエン系共重合体等のジエン系エラストマー;アクリル酸エステル系共重合体等のアクリル系エラストマー;及びポリエステル系エラストマー等が挙げられる。このようなエラストマーによれば、サスペンジョン又はエマルジョンとして分散されたエラストマーの、酸当量、架橋度又はゲル化度等を調整することにより所望のアルカリ膨潤度を有する膨潤性樹脂皮膜を形成することができる。エラストマー中のカルボキシル基はアルカリ水溶液に対して膨潤性樹脂皮膜を膨潤させて、絶縁基材表面から膨潤性樹脂皮膜を剥離する作用をする。なお、酸当量とは、カルボキシル基1個当たりのポリマー分子量である。
【0059】
カルボキシル基を有するモノマー単位の具体例としては、(メタ)アクリル酸、フマル酸、ケイ皮酸、クロトン酸、イタコン酸、及びマレイン酸無水物等が挙げられる。
【0060】
このようなカルボキシル基を有するエラストマー中のカルボキシル基の含有割合としては、酸当量で100〜2000、さらには100〜800であることが好ましい。酸当量が小さすぎる場合(カルボキシル基の数が相対的に多い場合)には、溶媒または他の組成物との相溶性が低下することにより、メッキ前処理液に対する耐性が低下する傾向がある。また、酸当量が大きすぎる場合(カルボキシル基の数が相対的に少ない場合)には、アルカリ水溶液に対する剥離性が低下する傾向がある。
【0061】
また、エラストマーの重量平均分子量としては、5,000〜100万、さらには1万〜100万、さらには2万〜6万であることが好ましい。エラストマーの分子量が大きすぎる場合には剥離性が低下する傾向があり、小さすぎる場合には粘度が低下するために膨潤性樹脂皮膜の厚みを均一に維持することが困難になるとともに、メッキ前処理液に対する耐性も悪化する傾向がある。
【0062】
また、樹脂皮膜としては、(a)分子中に重合性不飽和基を少なくとも1個有するカルボン酸又は酸無水物の少なくとも1種類以上の単量体と、(b)前記単量体(a)と重合しうる少なくとも1種類以上の単量体と、を重合させることで得られる重合体樹脂又はその重合体樹脂を含む樹脂組成物からなるものが挙げられる。
【0063】
樹脂組成物としては、メイン樹脂として重合体樹脂を必須成分とし、オリゴマー、モノマー、フィラーやその他添加剤の少なくとも1種類を添加してもよい。メイン樹脂は、熱可塑的性質を持ったリニア型のポリマーが良い。流動性、結晶性等をコントロールするためにグラフトさせて枝分かれさせることもある。その重量平均分子量としては、1000〜500000程度であり、5000〜50000が好ましい。分子量が小さすぎると、膜の屈曲性やメッキ核付け薬液耐性(耐酸性)が低下する傾向がある。また、分子量が大きすぎると、アルカリ剥離性やドライフィルムにした場合の貼り付け性が悪くなる傾向がある。さらに、メッキ核付け薬液耐性向上やレーザ加工時の熱変形抑制、流動制御のために架橋点を導入してもよい。
【0064】
メイン樹脂としての前記重合体樹脂の組成としては、上述したように、(a)分子中に重合性不飽和基を少なくとも1個有するカルボン酸又は酸無水物の単量体と(b)前記(a)単量体と重合しうる単量体を重合させることで得られる。公知技術としては、例えば、特開平7−281437号公報や特開2000−231190号公報、特開2001−201851号公報に記載のもの等が挙げられる。
【0065】
(a)の一例として、(メタ)アクリル酸、フマル酸、ケイ皮酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸半エステル、アクリル酸ブチル等が挙げられ、単独、もしくは2種類以上を組み合わせても良い。
【0066】
(b)の例としては、非酸性で分子中に重合性不飽和基を(一個)有するものが一般的であり、その限りではない。メッキ工程での耐性、硬化膜の可とう性等の種々の特性を保持するように選ばれる。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート類がある。また酢酸ビニル等のビニルアルコールのエステル類や(メタ)アクリロニトリル、スチレンまたは重合可能なスチレン誘導体等がある。また前記の重合性不飽和基を分子中に一個有するカルボン酸または酸無水物のみの重合によっても得ることが出来る。さらには、3次元架橋できるように、重合体に用いる単量体に複数の不飽和基を持つ単量体を選定する、分子骨格にエポキシ基、水酸基、アミノ基、アミド基、ビニル基などの反応性官能基を導入することができる。樹脂中に含まれるカルボキシル基の量は酸当量で100〜2000が良く、100〜800が好ましい。酸当量が低すぎる場合、溶媒または他の組成物との相溶性の低下やメッキ前処理液耐性が低下する傾向がある。また、酸当量が高すぎる場合、剥離性が低下する傾向がある。また(a)単量体の組成比率は5〜70質量%である。
【0067】
モノマーやオリゴマーとしては、メッキ核付け薬液への耐性やアルカリで容易に除去できるようなものであれば何でも良い。またドライフィルム(DFR)の貼り付け性を向上させるために粘着性付与材として可塑剤的に用いることが考えられる。さらに各種耐性をあげるために架橋剤を添加する。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート類がある。また酢酸ビニル等のビニルアルコールのエステル類や(メタ)アクリロニトリル、スチレンまたは重合可能なスチレン誘導体等がある。また前記の重合性不飽和基を分子中に一個有するカルボン酸または酸無水物のみの重合によっても得ることが出来る。さらに、多官能性不飽和化合物を含んでも良い。前記のモノマーもしくはモノマーを反応させたオリゴマーのいずれでも良い。前記のモノマー以外に他の光重合性モノマーを2種類以上含むことも可能である。モノマーの例としては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、またポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ジ(p−ヒドロキシフェニル)プロパンジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルトリ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシペンタエトキシフェニル)プロパン、ウレタン基を含有する多官能(メタ)アクリレート等がある。前記のモノマーもしくはモノマーを反応させたオリゴマーのいずれでも良い。
【0068】
さらに、フィラーを含有してもよい。フィラーは特に限定されないが、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、クレー、カオリン、酸化チタン、硫酸バリウム、アルミナ、酸化亜鉛、タルク、マイカ、ガラス、チタン酸カリウム、ワラストナイト、硫酸マグネシウム、ホウ酸アルミニウム、有機フィラー等が挙げられる。また樹脂皮膜の厚みは、一般的に1〜10μmと薄いため、フィラーサイズも小さいものが好ましい。平均粒径が小さく、粗粒をカットしたものを用いることが良いが、分散時に砕いたり、ろ過で粗粒を除去することもできる。
【0069】
その他の添加剤としては、例えば、光重合性樹脂(光重合開始剤)、重合禁止剤、着色剤(染料、顔料、発色系顔料)、熱重合開始剤、エポキシやウレタンなどの架橋剤等が挙げられる。
【0070】
また、DFRとしては、所定量のカルボキシル基を含有する、アクリル系樹脂;エポキシ系樹脂;スチレン系樹脂;フェノール系樹脂;ウレタン系樹脂等を樹脂成分とし、光重合開始剤を含有する光硬化性樹脂組成物のシートが用いられうる。このようなDFRの具体例としては、特開2000−231190号公報、特開2001−201851号公報、特開平11−212262号公報に開示されたような光重合性樹脂組成物のドライフィルムを全面硬化させて得られるシートや、アルカリ現像型のDFRとして市販されている、例えば、旭化成株式会社製のUFGシリーズ等が挙げられる。
【0071】
さらに、その他の膨潤性樹脂皮膜の例としては、カルボキシル基を含有する、ロジンを主成分とする樹脂(例えば、吉川化工株式会社製の「NAZDAR229」)やフェノールを主成分とする樹脂(例えば、LEKTRACHEM社製「104F」)等が挙げられる。
【0072】
膨潤性樹脂皮膜は、絶縁基材表面に樹脂のサスペンジョン又はエマルジョンを従来から知られたスピンコート法やバーコータ法等の塗布手段を用いて塗布した後、乾燥する方法や、支持基板に形成されたDFRを真空ラミネータ等を用いて絶縁基材表面に貼りあわせた後、全面硬化することにより容易に形成することができる。
【0073】
また、前記樹脂皮膜を構成するレジスト材料としては、前記のものに加えて、以下のようなものが挙げられる。
【0074】
前記樹脂皮膜を構成するレジスト材料に必要な特性としては、例えば、(1)後述の触媒被着工程で、樹脂皮膜が形成された絶縁基材を浸漬させる液体(メッキ核付け薬液)に対する耐性が高いこと、(2)後述の皮膜除去工程、例えば、樹脂皮膜が形成された絶縁基材をアルカリに浸漬させる工程によって、樹脂皮膜(レジスト)が容易に除去できること、(3)成膜性が高いこと、(4)ドライフィルム(DFR)化が容易なこと、(5)保存性が高いこと等が挙げられる。
【0075】
メッキ核付け薬液としては、後述するが、例えば、酸性Pd−Snコロイドキャタリストシステムの場合、全て酸性(pH1〜2)水溶液である。また、アルカリ性Pdイオンキャタリストシステムの場合は、触媒付与アクチベーターが弱アルカリ(pH8〜12)であり、それ以外は酸性である。以上のことから、メッキ核付け薬液に対する耐性としては、pH1〜11、好ましくはpH1〜12に耐えることが必要である。なお、耐えうるとは、レジストを成膜したサンプルを薬液に浸漬した際、レジストの膨潤や溶解が充分に抑制され、レジストとしての役割を果たすことである。また、浸漬温度は、室温〜60℃、浸漬時間は、1〜10分間、レジスト膜厚は、1〜10μm程度が一般的であるが、これらに限定されない。
【0076】
皮膜除去工程に用いるアルカリ剥離の薬液としては、後述するが、例えば、NaOH水溶液や炭酸ナトリウム水溶液が一般的である。そのpHは、11〜14であり、好ましくはpH12から14でレジスト膜が簡単に除去できることが望ましい。NaOH水溶液濃度は、1〜10%程度、処理温度は、室温〜50℃、処理時間は、1〜10分間で、浸漬やスプレイ処理をすることが一般的であるが、これらに限定されない。
【0077】
絶縁材料上にレジストを形成するため、成膜性も重要となる。はじき等がない均一性な膜形成が必要である。また、製造工程の簡素化や材料ロスの低減等のためにドライフィルム化されるが、ハンドリング性を確保するためにフィルムの屈曲性が必要である。また絶縁材料上にドライフィルム化されたレジストをラミネーター(ロール、真空)で貼り付ける。貼り付けの温度は、室温〜160℃、圧力や時間は任意である。このように、貼り付け時に粘着性が求められる。そのために、ドライフィルム化されたレジストはゴミの付着防止も兼ねて、キャリアフィルム、カバーフィルムでサンドイッチされた3層構造にされることが一般的であるが、これらに限定されない。
【0078】
保存性は、室温での保存できることがもっとも良いが、冷蔵、冷凍での保存ができることも必要である。このように低温時にドライフィルムの組成が分離したり、屈曲性が低下して割れたりしないようにすることが必要である。
【0079】
レジスト材料の樹脂組成は、メイン樹脂(バインダー樹脂)を必須成分とし、オリゴマー、モノマー、フィラーやその他添加剤の少なくとも1種類を添加してもよい。
【0080】
メイン樹脂は熱可塑的性質を持ったリニア型のポリマーが良い。流動性、結晶性などをコントロールするためにグラフトさせて枝分かれさせることもある。その分子量としては、数平均分子量で1000〜500000程度であり、5000〜50000が好ましい。分子量が小さすぎると、膜の屈曲性やメッキ核付け薬液耐性(耐酸性)が低下する傾向がある。また、分子量が大きすぎると、アルカリ剥離性やドライフィルムにした場合の貼り付け性が悪くなる傾向がある。さらに、メッキ核付け薬液耐性向上やレーザ加工時の熱変形抑制、流動制御のために架橋点を導入してもよい。
【0081】
メイン樹脂の組成としては、(a)分子中に重合性不飽和基を少なくとも1個有するカルボン酸または酸無水物の単量体と(b)(a)単量体と重合しうる単量体を重合させることで得られる。公知技術としては、例えば、特開平7−281437号公報、特開2000−231190号公報、及び特開2001−201851号公報に記載のもの等が挙げられる。(a)の一例として、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、ケイ皮酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸半エステル、アクリル酸ブチル等が挙げられ、単独、もしくは2種類以上を組み合わせても良い。(b)の例としては、非酸性で分子中に重合性不飽和基を(一個)有するものが一般的であり、その限りではない。メッキ工程での耐性、硬化膜の可とう性等の種々の特性を保持するように選ばれる。具体的には、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート類等が挙げられる。また、酢酸ビニル等のビニルアルコールのエステル類や(メタ)アクリロニトリル、スチレンまたは重合可能なスチレン誘導体等が挙げられる。また、前記の重合性不飽和基を分子中に一個有するカルボン酸または酸無水物のみの重合によっても得ることが出来る。さらには、3次元架橋できるように、重合体に用いる単量体に複数の不飽和基を持つ単量体を選定する、分子骨格にエポキシ基、水酸基、アミノ基、アミド基、ビニル基などの反応性官能基を導入することができる。樹脂中にカルボキシル基が含まれる場合、樹脂中に含まれるカルボキシル基の量は、酸当量で100〜2000が良く、100〜800が好ましい。酸当量が低すぎる場合、溶媒または他の組成物との相溶性の低下やメッキ前処理液耐性が低下する傾向がある。また、酸当量が高すぎる場合、剥離性が低下する傾向がある。また、(a)単量体の組成比率は、5〜70重量%である。
【0082】
モノマーやオリゴマーとしては、メッキ核付け薬液への耐性やアルカリで容易に除去できるようなものであれば何でも良い。またドライフィルム(DFR)の貼り付け性を向上させるために粘着性付与材として可塑剤的に用いることが考えられる。さらに各種耐性をあげるために架橋剤を添加する。具体的には、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート類等が挙げられる。また、酢酸ビニル等のビニルアルコールのエステル類や(メタ)アクリロニトリル、スチレンまたは重合可能なスチレン誘導体等も挙げられる。また、前記の重合性不飽和基を分子中に一個有するカルボン酸または酸無水物のみの重合によっても得ることが出来る。さらに、多官能性不飽和化合物を含んでも良い。前記のモノマーもしくはモノマーを反応させたオリゴマーのいずれでも良い。前記のモノマー以外に他の光重合性モノマーを2種類以上含むことも可能である。このモノマーの例としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、またポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ジ(p−ヒドロキシフェニル)プロパンジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルトリ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシペンタエトキシフェニル)プロパン、ウレタン基を含有する多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、前記のモノマーもしくはモノマーを反応させたオリゴマーのいずれでも良い。
【0083】
さらに、フィラーを含有してもよい。フィラーは特に限定されないが、具体的には、例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、クレー、カオリン、酸化チタン、硫酸バリウム、アルミナ、酸化亜鉛、タルク、マイカ、ガラス、チタン酸カリウム、ワラストナイト、硫酸マグネシウム、ホウ酸アルミニウム、有機フィラー等が挙げられる。またレジストの厚みは、一般的に1〜10μmと薄いため、フィラーサイズも小さいものが好ましい。平均粒径が小さく、粗粒をカットしたものを用いることが良いが、分散時に砕いたり、ろ過で粗粒を除去することもできる。
【0084】
その他の添加剤としては、例えば、光重合性樹脂(光重合開始剤)、重合禁止剤、着色剤(染料、顔料、発色系顔料)、熱重合開始剤、エポキシやウレタンなどの架橋剤等が挙げられる。
【0085】
本発明のプリント板加工プロセスでは、例えば、レーザ加工が用いられる場合があるが、レーザ加工の場合、レジスト材料にレーザによるアブレーション性を付与することが必要である。レーザ加工機は、例えば、炭酸ガスレーザやエキシマレーザ、UV−YAGレーザ等が選定される。これらのレーザ加工機は、種々の固有の波長を持っており、この波長に対して吸収率の高い材料にすることで、生産性を向上させることができる。そのなかでもUV−YAGレーザは微細加工に適しており、レーザ光の基本波長は1064nm、3倍高調波は355nm、4倍高調波は266nmであるため、レジスト材料としては、これらの波長に対して、吸収率が高いことが望ましい。一方、吸収率がある程度低い材料のほうが好ましい場合もある。具体的には、例えば、UV吸収率の低いレジストを用いると、UV光がレジストを透過するので、下地の絶縁層加工にエネルギを集中させることができる。すなわち、レーザ光の吸収率によって、利点が異なるので、状況に応じて、レジストのレーザ光の吸収率を調整したレジストを用いることが好ましい。
【0086】
《本実施形態の特徴及び作用効果》
そこで、本実施形態では、(i)少なくとも1つ以上のカルボキシル基を有するモノマー単位を含有する単量体及び(ii)この単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体と、紫外線吸収剤とを含む樹脂組成物を用いる。その場合に、樹脂組成物の樹脂液を塗布して生成する樹脂皮膜2を溶媒(例えばメタノール等)で溶解した溶液での樹脂皮膜2の単位重量あたり(1g/L)の吸光係数をε1としたときに、樹脂皮膜2に対して照射する光(レーザ光)の波長(例えば266nmや355nm等)でのε1が0.01(L/(g・cm))以上である樹脂組成物を用いる。これにより、レーザ光が有する固有の波長に対して吸収率の高い樹脂皮膜2を得ることができる。そして、これにより、レーザ加工性が向上し、回路基板10の生産性の向上が図られる。
【0087】
なお、前記吸光係数ε1は、例えば「残渣」の問題の観点から、0.1(L/(g・cm))以上、さらには1.0(L/(g・cm))以上がより好ましい結果が得られる。また、前記吸光係数ε1は、例えば「露出」の問題(後述する)の観点から、10(L/(g・cm))以下がより好ましい結果が得られる。
【0088】
本実施形態では、吸光係数ε1は、例えば次のようにして得ることができる。樹脂皮膜2に対して照射する光の波長として355nmを例に挙げて説明する。樹脂組成物の樹脂液を塗布することにより形成された樹脂皮膜を例えばメタノールで溶解させ、樹脂皮膜のメタノール溶液(濃度:0.40g/L)を調製する。調製したメタノール溶液の吸収スペクトルを、紫外可視分光光度計を用い、例えば200〜600nmの範囲で測定する。得られたスペクトルデータ(吸光度A)に基づき、下記[式]により、355nmにおける吸光係数ε1を算出する。吸光係数ε1は、セル長dが1cmのセルに溶液濃度cが1g/Lの溶液を入れて測定したときの吸光度に相当する。
[式]355nmにおける吸光度A=ε1(L/(g・cm))×c(g/L:溶液の濃度)×d(cm:セル長)
【0089】
本実施形態では、回路形成工程で樹脂皮膜2に対して照射するレーザ光の波長は266nm又は355nmであり、紫外線吸収剤は、例えば、少なくとも250〜400nm、さらには、少なくとも300〜400nmに吸収波長を有する。これにより、4倍高調波のUV−YAGレーザ又は3倍高調波のUV−YAGレーザを用いて、レーザ吸収率の高い樹脂皮膜2を得ることができる。
【0090】
本実施形態では、紫外線吸収剤は、例えば、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾエート誘導体、トリアジン誘導体、ベンゾチアゾール誘導体及びベンゾイルメタンからなる群より選ばれる少なくとも1つである。これらは、共役系がベンゼンと同程度あるいはベンゼンよりも広がった構造を有し、芳香環とヘテロ原子とを有する化合物である。このような紫外線吸収剤を樹脂皮膜2に含有することにより、樹脂皮膜2の厚みに拘らず(例えば樹脂皮膜2の厚みが5μmと厚くても)、レーザ加工時におけるレーザ加工波長領域での樹脂皮膜2のレーザ光吸収率がアップし、レーザ加工性が向上する。それにより、レーザ加工後の加工部への樹脂皮膜の残渣を少なくし、樹脂皮膜の隆起や、回路パターンが塞がれる不具合が抑制される。そのため、最終的な選択的なメッキによる良好な回路形成が可能になり、高精度な電気回路を絶縁基材上に形成でき、短絡やマイグレーションの発生が抑制された回路基板10が得られる。
【0091】
樹脂皮膜2の隆起に関していえば、本実施形態では、レーザ加工に用いるレーザ光の波長(355nmや266nm等)で樹脂皮膜2をレーザ加工し、回路溝3や貫通孔4を形成したときに、レーザ加工した加工部の周辺の樹脂皮膜の厚みがレーザ加工後はレーザ加工前の2倍以下になるような加工特性を有することが好ましい。これにより、隆起が抑えられて、回路パターンの凹部へのメッキ触媒5の被着が良好となり、最終的に、目的とする電気回路の形成が良好となり、回路基板10の生産性の低下が抑制される。より具体的な状況としては、例えば、図1(B)に示す回路形成工程において、樹脂皮膜2の外表面を基準として樹脂皮膜2の厚み分を超える深さの凹部3,4をレーザ加工により形成した場合に、つまり絶縁基材1も掘り込んだ場合に、樹脂皮膜2は、レーザ加工部周辺の樹脂皮膜2の厚みがレーザ加工後はレーザ加工前の2倍以下である加工特性を有するものであることが好ましい。
【0092】
本実施形態では、紫外線吸収剤の含有量は、共重合体に対して0.1〜60質量%であることが好ましい。紫外線吸収剤の含有量を0.1質量%以上とすることにより、樹脂皮膜2のレーザ光吸収率の向上が十分図られる。紫外線吸収剤の含有量を60質量%以下とすることにより、樹脂皮膜2のレーザ光吸収率が大きくなりすぎることに起因する「露出」の問題(後述する)が抑制される。
【0093】
共重合体に対する紫外線吸収剤の含有量は、例えば「残渣」の問題の観点から、より好ましくは、1質量%以上、さらに好ましくは、5質量%以上である。
【0094】
本実施形態では、紫外線吸収剤は、例えば、ベンゾトリアゾール系の商品「TINUVIN」シリーズが使用できる。これらの紫外線吸収剤の吸収領域は、置換基及び共役系の広がり度合いに応じて、少なくとも250〜400nm、さらには少なくとも300〜400nmを含み、YAGレーザ加工機のレーザ波長266nmや355nmを含む波長領域を吸収波長とするものである。例えば、「TINUVIN P」(λmax(吸収極大)340nm)、「TINUVIN 234」(λmax(吸収極大)346nm)、「TINUVIN 326」(λmax(吸収極大)353nm)、「TINUVIN 329」(λmax(吸収極大)340nm)、「TINUVIN 213」(λmax(吸収極大)343nm)、「TINUVIN 571」(λmax(吸収極大)344nm)等が挙げられる。なお、「TINUVIN 571」(2−(5−メチル−2−ヒドロキシ−3−ドデシルフェニル[分岐又は直鎖])ベンゾトリアゾール)は液状であり、本実施形態では、取り扱いの点で好ましい。
【0095】
また、本実施形態では、紫外線吸収剤は、例えば、ベンゾフェノン系の商品「CHIMASSORB 81」等が使用できる。これらの紫外線吸収剤の吸収領域もまた、置換基及び共役系の広がり度合いに応じて、少なくとも250〜400nm、さらには少なくとも300〜400nmを含み、YAGレーザ加工機のレーザ波長266nmや355nmを含む波長領域を吸収波長とするものである。
【0096】
また、本実施形態では、紫外線吸収剤は、例えば、ベンゾエート系の商品「TINUVIN 120」等が使用できる。これらの紫外線吸収剤の吸収領域もまた、置換基及び共役系の広がり度合いに応じて、少なくとも250〜400nm、さらには少なくとも300〜400nmを含み、YAGレーザ加工機のレーザ波長266nmや355nmを含む波長領域を吸収波長とするものである。
【0097】
また、本実施形態では、紫外線吸収剤は、例えば、トリアジン系の商品「TINUVIN 1577」等が使用できる。これらの紫外線吸収剤の吸収領域もまた、置換基及び共役系の広がり度合いに応じて、少なくとも250〜400nm、さらには少なくとも300〜400nmを含み、YAGレーザ加工機のレーザ波長266nmや355nmを含む波長領域を吸収波長とするものである。
【0098】
本実施形態では、これらの紫外線吸収剤を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することにより、例えば、少なくとも250〜400nm、さらには少なくとも300〜400nmの波長に対して吸収率の高い樹脂組成物ひいてはレジスト材料を得ることができる。その結果、使用頻度が高く汎用性が高い4倍高調波のUV−YAGレーザ又は3倍高調波のUV−YAGレーザ等を用いて、樹脂皮膜2を精度よく微細加工することができ、回路形成が良好に行え、高精度な電気回路を絶縁基材上に生産性よく形成することができる。
【0099】
前述のように、本実施形態では、樹脂皮膜形成工程で、液状材料(樹脂組成物の樹脂液)が絶縁基材1の表面に塗布された後、乾燥されることにより、樹脂皮膜2が絶縁基材1の表面に形成される。あるいは、樹脂皮膜形成工程で、液状材料(樹脂組成物の樹脂液)が支持基板上に塗布された後、乾燥されることにより支持基板上に形成された樹脂皮膜(ドライフィルム)が絶縁基材1の表面に転写されることにより、樹脂皮膜2が絶縁基材1の表面に形成される。この場合、樹脂皮膜の厚みは、絶縁基材1に液状材料を塗布する前者の場合で1μmが容易であり、ドライフィルムを転写する後者の場合で3〜5μmが容易である。本実施形態では、樹脂皮膜の厚みが大きいほうが樹脂皮膜(レジスト)の形成がより一層容易である。したがって、本実施形態では、樹脂皮膜2の厚みは、3〜5μmが狙いの厚みである。また、樹脂皮膜2が過度に薄いと、樹脂皮膜のレーザ吸収率の向上に伴って、レーザ加工性が良好になるため、回路パターンの凹部だけでなく、回路パターンとすべき凹部の周囲の樹脂皮膜も除去され、樹脂皮膜2の下の絶縁基材1の表面が露出する可能性がある(「露出」の問題)。そうすると、回路パターン以外の回路パターンの周囲にもメッキ触媒が被着し、回路パターンの周辺にもメッキが形成されて、電気回路(配線幅)の細線化が阻害される。この絶縁基材1の「露出」の問題は、樹脂皮膜2が過度に薄い場合だけでなく、紫外線吸収剤が樹脂皮膜2に過度に多く含有された場合にも起こり得る問題である。
【0100】
本実施形態では、樹脂皮膜2は、レーザ加工性、耐酸性、アルカリ剥離性の全てで優れる特性を有することが望まれる。本実施形態では、紫外線吸収剤を用いることにより、樹脂皮膜2のレーザ光吸収率を高くでき、レーザ加工性を向上できる。その際、他の必要な特性(耐酸性及びアルカリ剥離性)を維持したまま、レーザ加工性に優れることが望まれる。そのような観点から、(i)少なくとも1つ以上のカルボキシル基を有するモノマー単位を含有する単量体と、(ii)この単量体と共重合可能な単量体とからなる共重合体を、樹脂皮膜2を構成するポリマーの成分としている。
【0101】
本実施形態では、樹脂皮膜2のレーザ加工性は、例えば、樹脂皮膜2の絶縁基材1への密着性が高いことや、ポリマーの分子切断が起こり易いこと等によって、向上すると考えられる。
【0102】
本実施形態では、樹脂皮膜2の耐酸性は、例えば、樹脂皮膜2の絶縁基材1への密着性が高いことや、ポリマーが酸性の官能基を持つこと等によって、向上すると考えられる。
【0103】
本実施形態では、樹脂皮膜2のアルカリ剥離性は、例えば、ポリマーが酸性の官能基を持つことや、ポリマーがアルカリ溶解性を持つことや、ポリマーが嵩高い官能基を持つこと等によって、向上すると考えられる。
【0104】
前記のような観点から、本実施形態では、共重合体は、前記単量体(i)として、α,β−不飽和カルボニル基含有単量体が好ましく用いられる。そして、その共重合体中の含有量を10〜90質量%とする。一方、前記単量体(ii)として、単量体(i)と共重合可能な分子末端に重合性不飽和基を有する単量体が好ましく用いられる。そして、その共重合体中の含有量を10〜90質量%とする。さらに、共重合体は、少なくとも2元系以上の共重合体であることが好ましい。このような構成の共重合体は、レーザ加工性、耐酸性、アルカリ剥離性の全てで優れる樹脂皮膜2を提供し得る。
【0105】
本実施形態では、α,β−不飽和カルボニル基含有単量体は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸及びこれらのエステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。樹脂皮膜2のレーザ加工性、耐酸性、アルカリ剥離性がより一層良好となる。
【0106】
本実施形態では、分子末端に重合性不飽和基を有する単量体は、例えば、スチレン及びジエン骨格を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。樹脂皮膜2のレーザ加工性、耐酸性、アルカリ剥離性がより一層良好となる。
【0107】
本実施形態では、共重合体の重量平均分子量は、例えば、5,000〜1,000,000であることが好ましい。共重合体の重量平均分子量が1,000,000以下であることにより、樹脂皮膜2の良好な剥離性が確保される。共重合体の重量平均分子量が5,000以上であることにより、樹脂皮膜2の良好な耐酸性が確保される。
【0108】
本実施形態では、樹脂皮膜2は、酸性触媒金属コロイド溶液(酸性メッキ触媒コロイド溶液)に対しては実質的に膨潤せず、アルカリ性溶液に対しては膨潤又は溶解することが好ましい。ここで、実質的に膨潤しないとは、前述したように、溶解や剥離が起こるほどには膨潤しないという意味であり、触媒被着工程(C)におけるpHが酸性の場合は、耐酸性を有するという意味であるから、本実施形態では、樹脂皮膜2は耐酸性を有する。これにより、樹脂皮膜2の耐酸性及びアルカリ剥離性が良好に実現する。そのため、触媒被着工程では、樹脂皮膜2は絶縁基材1に対して高い密着力を維持し、皮膜除去工程では、樹脂皮膜2は絶縁基材1から容易に除去される。
【0109】
本実施形態では、樹脂皮膜2の酸性触媒金属コロイド溶液(酸性メッキ触媒コロイド溶液)に対する膨潤度は60%以下であり、アルカリ性溶液に対する膨潤度は50%以上であることが好ましい。ただし、樹脂皮膜2の酸性触媒金属コロイド溶液に対する膨潤度がアルカリ性溶液に対する膨潤度よりも小さいことを条件とする。これにより、樹脂皮膜2が酸性触媒金属コロイド溶液に対しては実質的に膨潤せず、アルカリ性溶液に対しては膨潤又は溶解することが達成される。
【0110】
単量体(i)と単量体(ii)とからなる構成の共重合体の具体例の1つとして、アクリル酸−スチレン−アクリル酸アルキルの3元系共重合体を挙げることができる。この共重合体はランダム共重合体である。3元の配合比として、例えば、アクリル酸15〜35質量%、スチレン45〜65質量%、アクリル酸アルキル10〜30質量%を1例として挙げることができ、さらには、アクリル酸25質量%、スチレン55質量%、アクリル酸アルキル20質量%を1例として挙げることができる。アクリル酸アルキルとしては、例えば、アクリル酸2−エチルヘキシルが挙げられる。この共重合体は、例えば、固形分20%の有機溶媒(IPA等)の溶液として保管し使用し得る。
【0111】
本実施形態では、前述したように、紫外線吸収剤を含有する樹脂組成物の樹脂液を塗布して得られる樹脂皮膜2の、例えばメタノール溶液の単位重量あたり(1g/L)の吸光係数ε1が、例えば355nmや266nm等の波長において、0.01(L/(g・cm))以上である樹脂組成物を用いる。このような性状はレジスト機能の指標の1つであり、このような性状を示す樹脂組成物は、レーザ加工性、耐酸性、アルカリ剥離性の全てで優れる特性を具備する樹脂皮膜2を提供し得る。
【0112】
本実施形態では、共重合体は、少なくとも200〜300nmに吸収波長を有することが好ましい。つまり、共重合体自体が、本来的に少なくとも200〜300nmに吸収波長を有するのである。これにより、4倍高調波のUV−YAGレーザ(レーザ光波長:266nm)を用いて、レーザ吸収率の高い樹脂皮膜2を得ることができる。
【0113】
共重合体自体が本来的に少なくとも200〜300nmに吸収波長を有する構造は、例えば、共重合体が縮合していない単独のベンゼン環を有することによって達成し得る。単独のベンゼン環自体が本来的に少なくとも200〜300nmに吸収波長を有するからである(ベンゼンのλmax(吸収極大)255nm)。単独のベンゼン環を有する共重合体としては例えばスチレン系の共重合体等が挙げられる。
【0114】
共重合体自体が少なくとも200〜300nmに吸収波長を有する場合において、例えば少なくとも250〜400nmに吸収波長を有する紫外線吸収剤を含有した樹脂組成物は、3倍高調波のUV−YAGレーザを用いても、また、4倍高調波のUV−YAGレーザを用いても、樹脂皮膜2のレーザ加工性が確実に向上し、回路基板10の生産性がより一層向上する。このような樹脂組成物は、汎用性が拡大してより一層有利である。
【0115】
<回路形成工程>
回路形成工程は、絶縁基材1に回路溝3等の回路パターンを形成する工程である。回路パターンとしては、上述したように、回路溝3だけではなく、貫通孔4や、パッド用穴等を含むものであってもよい。
【0116】
前記回路パターンを形成する方法としては、特に限定されない。具体的には、例えば、前記樹脂皮膜2が形成された絶縁基材1に、前記樹脂皮膜2の外表面側から、レーザ加工、及びダイシング加工等の切削加工や型押加工等の機械加工等を施すことにより、所望の形状及び深さの回路溝3を形成させる方法等が挙げられる。高精度の微細な回路を形成する場合には、レーザ加工を用いることが好ましい。レーザ加工によれば、レーザの出力等を変化させることにより、切削深さ等を自由に調整することができる。また、型押加工としては、例えば、ナノインプリントの分野において用いられるような微細樹脂型による型押加工が好ましく用い得る。
【0117】
レーザ加工の場合、UV−YAGレーザが微細加工に適しており、レーザ光の基本波長が1064nm、3倍高調波が355nm、4倍高調波が266nmのものが好ましく用い得る。
【0118】
この工程により、回路溝3の形状及び深さや貫通孔4の径及び位置等の回路パターンの形状が規定される。回路形成工程は、樹脂皮膜2の厚み分以上掘り込めばよく、樹脂皮膜2の厚み分だけ掘り込んでもよいし、樹脂皮膜2の厚み分を超えて掘り込んでもよい。
【0119】
回路形成工程で形成される回路溝3等の回路パターンの幅は特に限定されない。なお、レーザ加工を用いた場合には、線幅20μm以下のような微細な回路も容易に形成できる。また、回路溝の深さは、フィルアップメッキにより、電気回路と絶縁基材とに段差をなくした場合には、本実施形態で形成する電気回路の深さとなる。
【0120】
<触媒被着工程>
触媒被着工程は、前記回路溝3等の回路パターンの表面及び前記樹脂皮膜2の表面にメッキ触媒5又はその前駆体を被着させる工程である。このとき、貫通孔4が形成されている場合、貫通孔4内壁表面にもメッキ触媒又はその前駆体を被着される。
【0121】
メッキ触媒5又はその前駆体は、メッキ処理工程において無電解メッキにより無電解メッキ膜を形成したい部分にのみ無電解メッキ膜を形成させるために付与される触媒である。メッキ触媒としては、無電解メッキ用の触媒として知られたものであれば特に限定なく用いられうる。また、予めメッキ触媒の前駆体を被着させ、樹脂皮膜の除去後にメッキ触媒を生成させてもよい。メッキ触媒の具体例としては、例えば、金属パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)等、または、これらを生成させるような前駆体等が挙げられる。
【0122】
メッキ触媒5又はその前駆体を被着させる方法としては、例えば、pH1〜3の酸性条件下で処理される酸性Pd−Snコロイド溶液で処理した後、酸溶液で処理するような方法等が挙げられる。具体的には、例えば、次のような方法が挙げられる。
【0123】
はじめに、回路溝3及び貫通孔4が形成された絶縁基材1の表面に付着している油分等を界面活性剤の溶液(クリーナー・コンディショナー)中で所定の時間湯洗する。次に、必要に応じて、過硫酸ナトリウム−硫酸系のソフトエッチング剤でソフトエッチング処理する。そして、pH1〜2の硫酸水溶液や塩酸水溶液等の酸性溶液中でさらに酸洗する。次に、濃度0.1%程度の塩化第一錫水溶液等を主成分とするプリディップ液に浸漬して絶縁基材1表面に塩化物イオンを吸着させるプリディップ処理を行う。その後、塩化第一錫と塩化パラジウムを含む、pH1〜3の酸性Pd−Snコロイド等の酸性メッキ触媒コロイド溶液にさらに浸漬することによりPd及びSnを凝集させて吸着させる。そして、吸着した塩化第一錫と塩化パラジウムとの間で、酸化還元反応(SnCl+PdCl→SnCl+Pd↓)を起こさせる。これにより、メッキ触媒である金属パラジウムが析出する。
【0124】
なお、酸性メッキ触媒コロイド溶液としては、公知の酸性Pd−Snコロイドキャタリスト溶液等が使用でき、酸性メッキ触媒コロイド溶液を用いた市販のメッキプロセスを用いてもよい。このようなプロセスは、例えば、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社からシステム化されて販売されている。
【0125】
このような触媒被着処理によって、前記回路溝3の表面、前記貫通孔4の内壁表面、及び前記樹脂皮膜2の表面にメッキ触媒5又はその前駆体を被着させることができる。
【0126】
<皮膜除去工程>
皮膜除去工程は、前記触媒被着工程を施した絶縁基材1から前記樹脂皮膜2を除去する工程である。
【0127】
前記樹脂皮膜2を除去する方法としては、特に限定されない。具体的には、例えば、所定の溶液(膨潤液)で前記樹脂皮膜2を膨潤させた後に、前記絶縁基材1から前記樹脂皮膜2を剥離させる方法、所定の溶液(膨潤液)で前記樹脂皮膜2を膨潤させ、さらに一部を溶解させた後に、前記絶縁基材1から前記樹脂皮膜2を剥離させる方法、及び所定の溶液(膨潤液)で前記樹脂皮膜2を溶解させて除去する方法等が挙げられる。前記膨潤液としては、前記樹脂皮膜2を膨潤させることができるものであれば、特に限定されない。また、前記膨潤又は溶解は、前記樹脂皮膜2で被覆された前記絶縁基材1を前記膨潤液に所定時間浸漬させること等によって行う。そして、その浸漬中に超音波照射することにより除去効率を高めてもよい。なお、膨潤させて剥離するときには、軽い力で引き剥がしてもよい。
【0128】
また、前記樹脂皮膜2として、前記膨潤性樹脂皮膜を用いた場合について、説明する。
【0129】
前記膨潤性樹脂皮膜2を膨潤させる液体(膨潤液)としては、前記絶縁基材1、及び前記メッキ触媒又はその前駆体5を実質的に分解又は溶解させることなく、前記膨潤性樹脂皮膜2を膨潤又は溶解させることができる液体であれば特に限定なく用いられうる。また、前記膨潤性樹脂皮膜2を容易に剥離される程度に膨潤させうる液体が好ましい。このような膨潤液は、膨潤性樹脂皮膜2の種類や厚みにより適宜選択されうる。具体的には、例えば、膨潤性樹脂皮膜がジエン系エラストマー、アクリル系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーのようなエラストマーや、(a)分子中に重合性不飽和基を少なくとも1個有するカルボン酸又は酸無水物の少なくとも1種類以上の単量体と(b)前記(a)単量体と重合しうる少なくとも1種類以上の単量体を重合させることで得られる重合体樹脂又は前記重合体樹脂を含む樹脂組成物、カルボキシル基含有アクリル系樹脂から形成されている場合には、例えば、1〜10%程度の濃度の水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液が好ましく用いられうる。
【0130】
なお、触媒被着工程において上述したような酸性条件で処理するメッキプロセスを用いた場合には、膨潤性樹脂皮膜2が、酸性条件下においては膨潤度が50%未満、好ましくは40%以下であり、アルカリ性条件下では膨潤度が50%以上であるような、例えば、ジエン系エラストマー、アクリル系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーのようなエラストマー、(a)分子中に重合性不飽和基を少なくとも1個有するカルボン酸又は酸無水物の少なくとも1種類以上の単量体と(b)前記(a)単量体と重合しうる少なくとも1種類以上の単量体を重合させることで得られる重合体樹脂又は前記重合体樹脂を含む樹脂組成物、カルボキシル基含有アクリル系樹脂から形成されていることが好ましい。このような膨潤性樹脂皮膜は、pH12〜14であるようなアルカリ水溶液、例えば、1〜10%程度の濃度の水酸化ナトリウム水溶液等により容易に膨潤し、剥離する。
【0131】
膨潤性樹脂皮膜2を膨潤させる方法としては、膨潤液に、膨潤性樹脂皮膜2で被覆された絶縁基材1を所定の時間浸漬する方法が挙げる。また、剥離性を高めるために、浸漬中に超音波照射することが特に好ましい。なお、膨潤のみにより剥離しない場合には、必要に応じて軽い力で引き剥がすことにより剥離してもよい。
【0132】
<メッキ処理工程>
メッキ処理工程は、前記樹脂皮膜2を除去した後の前記絶縁基材1に無電解メッキ処理を施す工程である。
【0133】
前記無電解メッキ処理の方法としては、部分的にメッキ触媒又はその前駆体5が被着された絶縁基材1を無電解メッキ液に浸漬して、メッキ触媒又はその前駆体5が被着された部分のみに無電解メッキ膜(メッキ層)を析出させるような方法等が用いられうる。
【0134】
無電解メッキに用いられる金属としては、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。これらの中では、Cuを主成分とするメッキが導電性に優れている点から好ましい。また、Niを含む場合には、耐食性や、はんだとの密着性に優れる点から好ましい。
【0135】
無電解メッキ膜6の膜厚は、特に限定されない。具体的には、例えば、0.1〜10μm、さらには1〜5μm程度であることが好ましい。特に、前記回路溝3の深さを深くすることにより、膜厚の厚いメッキであって、断面積が大きい金属配線を容易に形成することができる。この場合には、金属配線の強度を向上させることができる点から好ましい。
【0136】
メッキ処理工程により、絶縁基材1表面のメッキ触媒又はその前駆体5が残留する部分のみに無電解メッキ膜が析出する。そのために、回路パターン部を形成したい部分のみに正確に導電層を形成することができる。一方、回路パターン部を形成していない部分に対する無電解メッキ膜の析出を抑制することができる。従って、狭いピッチ間隔で線幅が狭いような微細な回路を複数本形成するような場合でも、隣接する回路間に不要なメッキ膜が残らない。そのために、短絡の発生やマイグレーションの発生を抑制することができる。
【実施例】
【0137】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施例により何ら限定されて解釈されるものではない。
【0138】
まず、次のようにして、絶縁基材を作製した。すなわち、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製の「850S」)と、硬化剤としてのジシアンジアミド(日本カーバイド工業株式会社製の「DICY」)と、硬化促進剤としての2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業製の「2E4MZ」)と、無機フィラーとしてのシリカ(電気化学工業株式会社製の「FB1SDX」)と、溶剤としてのメチルエチルケトン(MEK)及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)とを含む樹脂組成物からなる樹脂基材の表面に、離型フィルム(東洋紡績株式会社製の「TN100」)を積層させた。そして、その積層体を加圧加熱成形し、さらに加熱乾燥して、前記樹脂基材を硬化させた。その後、前記離型フィルムを剥離し、200μm厚の絶縁基材を作製した。
【0139】
作製した絶縁基材を50mm×50mmにカットしたものを用い、表1に示すように、絶縁基材の表面に1μm厚、3μm厚、5μm厚の樹脂皮膜を形成した(試験番号1〜8)。樹脂皮膜として、アクリル酸−スチレン−アクリル酸2−エチルヘキシルの3元系共重合体(配合比:アクリル酸25質量%、スチレン55質量%、アクリル酸2−エチルヘキシル20質量%)と、紫外線吸収剤である「TINUVIN 571」(λmax(吸収極大):344nm)とを含有する樹脂組成物を用いた(試験番号1は紫外線吸収剤を含有せず)。なお、樹脂皮膜の形成は、絶縁基材の片面に、樹脂組成物のIPA溶液(固形分20%)をスピンコート法で塗布し、120℃で30分間乾燥することにより行った(樹脂皮膜形成工程)。また、表1において、「紫外線吸収剤添加量(%)」は、共重合体に対する紫外線吸収剤の添加量(質量%)である。
【0140】
そして、樹脂皮膜が形成された絶縁基材に対して、レーザ加工により凹溝及び凹穴(有底のもの)を形成した。ここで、凹溝は回路パターンの回路溝(電気回路の配線を形成するためのもの)に相当し、凹穴は回路パターンのパッド用穴(電気回路のパッド部を形成するためのもの)に相当する。具体的には、凹溝は、溝幅20μm、長さ20mmの直線状のものを相互に平行に10本形成した。隣接する凹溝と凹溝との間のスペースは15μmとした。凹溝の深さは絶縁基材の表面から10μmの深さとした(すなわち絶縁基材を掘り込んで樹脂皮膜の厚み分を超える深さの凹部を形成した)。凹穴は、3mm×3mmの矩形状のものを6箇所形成した。凹穴の深さは絶縁基材の表面から10μmの深さとした(すなわち絶縁基材を掘り込んで樹脂皮膜の厚み分を超える深さの凹部を形成した)。凹穴は、相互に平行な多数の直線状の凹溝を少しづつ重なり合うように幅方向にずらして形成することにより形成した。レーザ加工にはUV−YAGレーザを備えたESI社製の「MODEL5330」(レーザ光波長:355nm)を用いた(回路形成工程)。
【0141】
次に、凹溝及び凹穴が形成された絶縁基材をクリーナーコンディショナー(界面活性剤溶液、pH<1:ローム&ハース電子材料(株)製C/N3320)中に浸漬し、その後、水洗した。そして、過硫酸ナトリウム−硫酸系のpH<1のソフトエッチング剤でソフトエッチング処理した。そして、PD404(シプレイ・ファーイースト(株)製、pH<1)を用いてプリディップ工程を行った。そして、塩化第一錫と塩化パラジウムを含むpH1の酸性Pd−Snコロイド溶液(CAT44、シプレイ・ファーイースト(株)製)に浸漬することにより、無電解銅メッキの核となるパラジウムをスズ−パラジウムコロイドの状態で絶縁基材に被着させた(触媒被着工程)。
【0142】
次に、絶縁基材をpH<1のアクセラレータ薬液(ACC19E、シプレイ・ファーイースト(株)製)に浸漬することによりパラジウム核を発生させた。そして、絶縁基材をpH14の5%水酸化ナトリウム水溶液中に超音波処理しながら10分間浸漬した(皮膜除去工程)。
【0143】
次に、絶縁基材を無電解銅メッキ液(CM328A、CM328L、CM328C、シプレイ・ファーイースト(株)製)に浸漬することにより無電解銅メッキ処理を行った(メッキ処理工程)。
【0144】
以上の過程において、絶縁基材表面に形成された樹脂皮膜の355nmにおける吸光係数、回路形成工程中のレーザ加工性(露出、残渣、隆起)、触媒被着工程中の耐酸性、皮膜除去工程中のアルカリ剥離性を下記のようにして評価した。結果を表1に示す。なお、アルカリ剥離性は、触媒被着工程後(表1中「メッキ核被着後」と表示)だけでなく、触媒被着工程前(表1中「メッキ核被着前」と表示)にも評価した(つまり回路形成工程の後すぐに皮膜除去工程を行った)。
【0145】
[吸光係数]
絶縁基材表面に形成された樹脂皮膜をメタノールに溶解させ、樹脂皮膜のメタノール溶液(濃度:0.40g/L)を得た。得られた溶液の吸収スペクトルを、紫外可視分光光度計(島津製作所社製の「UV−2100」)を用いて測定した(測定範囲:200−600nm)。得られたスペクトルデータ(吸光度A)に基づき、下記[式]により、355nmにおける吸光係数(単位重量当たりの吸光係数ε1)を算出した。
[式]355nmにおける吸光度A=ε1(L/(g・cm))×c(g/L:溶液の濃度)×d(cm:セル長)
【0146】
[レーザ加工性]
「露出」及び「残渣」に関しては、レーザ加工後の樹脂皮膜表面をSEM(走査型顕微鏡)により観察し、下記基準により評価した。「隆起」に関しては、レーザ加工部の周辺という意味で、隣接する凹溝と凹溝との間の15μmのスペースにおいて、樹脂皮膜の厚みを5点測定し、その平均値を用いて、レーザ加工後の樹脂皮膜の厚みがレーザ加工前の樹脂皮膜の厚みの何倍であるかを算出した(2倍以下を合格とする)。
【0147】
(露出評価基準)
この露出評価基準にいう「凹溝又は凹穴の周辺」とは、レーザ加工部の周辺という意味であり、凹溝の周辺や凹穴の周辺の他、隣接する凹溝と凹溝との間のスペース等も含まれる。
×:凹溝又は凹穴の周辺の樹脂皮膜が除去されて絶縁基材が露出している箇所が絶縁基材1枚あたり2箇所以上ある。
△:凹溝又は凹穴の周辺の樹脂皮膜が除去されて絶縁基材が露出している箇所が絶縁基材1枚あたり1箇所だけある。
○:凹溝又は凹穴の周辺の樹脂皮膜が除去されて絶縁基材が露出している箇所がない。
【0148】
(残渣評価基準)
×:ポリマー成分が凹溝又は凹穴の中に落ちて残渣となって残っている箇所が絶縁基材1枚あたり2箇所以上ある。
△:ポリマー成分が凹溝又は凹穴の中に落ちて残渣となって残っている箇所が絶縁基材1枚あたり1箇所だけある。
○:ポリマー成分が凹溝又は凹穴の中に落ちて残渣となって残っている箇所がない。
【0149】
[耐酸性]
触媒被着後の樹脂皮膜表面及びメッキ処理後の絶縁基材表面をSEM(走査型顕微鏡)により観察し、下記基準により評価した。
【0150】
(評価基準)
×:触媒被着後に樹脂皮膜が剥離もしくは変性し、メッキ処理後にその部分にメッキ膜が析出している箇所が絶縁基材1枚あたり2箇所以上ある。
△:触媒被着後に樹脂皮膜が剥離もしくは変性し、メッキ処理後にその部分にメッキ膜が析出している箇所が絶縁基材1枚あたり1箇所だけある。
○:触媒被着後に樹脂皮膜が剥離もしくは変性し、メッキ処理後にその部分にメッキ膜が析出している箇所がない。
【0151】
[アルカリ剥離性]
水酸化ナトリウム水溶液に浸漬後の絶縁基材表面をSEM(走査型顕微鏡)により観察し、下記基準により評価した。
【0152】
(評価基準)
×:樹脂皮膜が残存している箇所が絶縁基材1枚あたり2箇所以上ある。
△:樹脂皮膜が残存している箇所が絶縁基材1枚あたり1箇所だけある。
○:樹脂皮膜が残存している箇所がない。
【0153】
【表1】

【0154】
表1の結果から明らかなように、紫外線吸収剤を含有せず、吸光係数ε1が0(零)の試験番号1は、紫外線吸収剤を含有し、吸光係数ε1が0.01(L/(g・cm))以上の試験番号2〜8に比べて、レーザ加工性の「残渣」及び「隆起」の点で、評価が劣っていた。
【0155】
紫外線吸収剤を含有し、吸光係数ε1が0.01(L/(g・cm))以上であり、かつ、共重合体が、少なくとも1つ以上のカルボキシル基を有するモノマー単位を含有する単量体及びこの単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体である試験番号2〜8は、レーザ加工性、耐酸性、アルカリ剥離性の全ての点で、評価が良好であった。そのなかでも、吸光係数ε1が10(L/(g・cm))以下である試験番号2〜7は、それが10(L/(g・cm))超である試験番号8に比べて、レーザ加工性の「露出」の点で、評価がさらに優れていた(樹脂皮膜厚1μm参照)。
【0156】
また、共重合体に対する紫外線吸収剤の添加量が0.1〜60質量%である試験番号2〜7は、それが70質量%である試験番号8に比べて、レーザ加工性の「露出」の点で、評価がさらに優れていた(樹脂皮膜厚1μm参照)。
【0157】
また、吸光係数ε1が0.1(L/(g・cm))以上である試験番号3〜8(紫外線吸収剤の添加量が1質量%以上)は、それが0.1(L/(g・cm))未満である試験番号2(紫外線吸収剤の添加量が0.1質量%以下)に比べて、レーザ加工性の「残渣」の点で、評価がさらに優れていた(樹脂皮膜厚3μm参照)。
【0158】
また、吸光係数ε1が1.0(L/(g・cm))以上である試験番号4〜8(紫外線吸収剤の添加量が5質量%以上)は、それが1.0(L/(g・cm))未満である試験番号2及び3(紫外線吸収剤の添加量が1質量%以下)に比べて、レーザ加工性の「残渣」の点で、評価がさらに優れていた(樹脂皮膜厚5μm参照)。
【0159】
樹脂皮膜の隆起に関していえば、樹脂皮膜厚が1μmの場合は、試験番号5〜8で2.0倍以下(合格)、樹脂皮膜厚が3μm及び5μmの場合は、試験番号2〜8で2.0倍以下(合格)であった。
【符号の説明】
【0160】
1 絶縁基材
2 樹脂皮膜(レジスト)
3 回路溝(凹部(回路パターン))
4 貫通孔(凹部(回路パターン))
5 メッキ触媒
6 電気回路(無電解メッキ膜)
10 回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つ以上のカルボキシル基を有するモノマー単位を含有する単量体及びこの単量体と共重合可能な単量体からなる共重合体と、紫外線吸収剤とを含み、その樹脂液を塗布して生成する樹脂皮膜を溶媒で溶解した溶液での樹脂皮膜の単位重量あたりの吸光係数をε1としたときに、樹脂皮膜に対して照射する光の波長でのε1が0.01(L/(g・cm))以上である樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂皮膜は、樹脂皮膜に対して照射する光の波長を有するレーザ光でレーザ加工されたとき、レーザ加工部周辺の樹脂皮膜の厚みがレーザ加工後はレーザ加工前の2倍以下である加工特性を有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
紫外線吸収剤は、共役系がベンゼンよりも広がった構造を有し、芳香環とヘテロ原子とを有する化合物であり、共重合体に対して0.1〜60質量%含有される請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾエート誘導体、トリアジン誘導体、ベンゾチアゾール誘導体及びベンゾイルメタンからなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項1から3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
共重合体は、α,β−不飽和カルボニル基含有単量体を10〜90質量%及びこれと共重合可能な分子末端に重合性不飽和基を有する単量体を10〜90質量%含む、少なくとも2元系以上の共重合体である請求項1から4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
α,β−不飽和カルボニル基含有単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸及びこれらのエステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
分子末端に重合性不飽和基を有する単量体は、スチレン及びジエン骨格を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項5又は6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
共重合体の重量平均分子量は、5,000〜1,000,000である請求項1から7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
樹脂皮膜は、酸性触媒金属コロイド溶液に対しては実質的に膨潤せず、アルカリ性溶液に対しては膨潤又は溶解する請求項1から8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
樹脂皮膜の酸性触媒金属コロイド溶液に対する膨潤度がアルカリ性溶液に対する膨潤度よりも小さいことを条件として、樹脂皮膜の酸性触媒金属コロイド溶液に対する膨潤度は60%以下であり、アルカリ性溶液に対する膨潤度は50%以上である請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
樹脂皮膜は、樹脂組成物の樹脂液が基材表面に塗布された後、乾燥されることにより形成される請求項1から10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
樹脂皮膜は、樹脂組成物の樹脂液が支持基板に塗布された後、乾燥されることにより形成された樹脂皮膜が基材表面に転写されることにより形成される請求項1から10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
樹脂皮膜に対して照射する光の波長は266nm又は355nmであり、紫外線吸収剤は、少なくとも250〜400nmに吸収波長を有する請求項1から12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
共重合体は、少なくとも200〜300nmに吸収波長を有する請求項1から13のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いて絶縁基材表面に樹脂皮膜を形成する工程と、樹脂皮膜の外表面を基準として樹脂皮膜の厚み分以上の深さの凹部をレーザ加工により形成して回路パターンを形成する工程と、回路パターンの表面及び樹脂皮膜の表面にメッキ触媒又はその前駆体を被着させる工程と、絶縁基材から樹脂皮膜を除去する工程と、樹脂皮膜を除去した後のメッキ触媒又はその前駆体が残留する部分にのみ無電解メッキ膜を形成する工程とを含む回路基板の製造方法。
【請求項16】
回路パターンを形成する工程では、樹脂皮膜の外表面を基準として樹脂皮膜の厚み分を超える深さの凹部をレーザ加工により形成し、その場合に、樹脂皮膜は、レーザ加工部周辺の樹脂皮膜の厚みがレーザ加工後はレーザ加工前の2倍以下である加工特性を有するものである請求項15に記載の回路基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−241149(P2012−241149A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114652(P2011−114652)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】