説明

樹脂組成物及び多層構造体

【課題】ガスバリア性に優れ、高温高湿下での耐湿性に優れ、しかも乾燥剤粒子の分散性に優れたEVOH樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エチレン含有量が15〜65モル%でケン化度が95モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、水和物を形成可能なリン酸塩(B)及び分散剤(C)からなる樹脂組成物であって;分散剤(C)が、脂肪酸塩、グリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種であり、(A)と(B)の合計100重量部に対して、(A)を50〜99重量部、(B)を1〜50重量部含有し、かつ(B)100重量部に対して、(C)を1〜20重量部含有することを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」ということがある。)、リン酸塩及び分散剤からなる樹脂組成物に関する。当該樹脂組成物からなる層を有する多層構造体は、レトルト処理される包装容器として好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
野菜やシーフードなどの食品をレトルト処理するための容器の素材としては、ガラス、金属及び金属箔が、現在でも独占的な地位にある。しかしながら最近では、スープやペットフードなど、その他の食品をレトルト処理するための容器として、プラスチック製のリジッドなあるいはセミリジッドな容器が、一般的に使用されるようになってきている。エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、加工性が良好であり、優れたガスバリア性を有することから、そのようなプラスチック製容器のためのバリア性樹脂として採用されている。
【0003】
EVOHはその化学構造に由来し、相対湿度が85%を超える環境ではそのガスバリア性が大きく低下することが、本質的な弱点として知られている。すなわち、水がEVOHの可塑剤として働いて、EVOHの非晶領域の水素結合を弱めて自由体積の量を増加させ、結果としてポリマーマトリックス中のガス拡散を増加させるのである。このような現象が、包装体を110〜132℃の温度で15〜80分間処理する典型的なスチームレトルト処理の後に発生すれば、包装業界で現在「レトルト・ショック」と呼ばれている期間を経験することになる。「レトルト・ショック」の間、EVOHの酸素透過速度は劇的に増加し、その間、食品は酸化劣化による大きなダメージを受けることになる。包装及び食品に関わる技術者は、様々な方法によって、保存安定性の良好な、食品保護のための包装容器の研究及び設計を行ってきた。例えば、蓋を通しての酸素透過に対しては、ダブルシーム金属蓋の使用や、アルミニウムとポリマーとの分厚い積層体の使用などによって、対応している。
【0004】
EVOHを用いる場合、そのEVOHをできるだけ乾燥状態に維持する設計手法によって、容器の酸素透過性は適切に保たれる。第一に、比較的厚いポリプロピレン壁のサイドウォールを形成することが検討され、ある用途では、45ミル(1143μm)もの厚さのポリプロピレン壁が採用された。第二に、比較的厚いEVOH層が検討され、20重量%ものEVOH層を有する多層構造体が市販された。第三に、レトルト処理後にEVOHを乾燥状態に保つために接着性樹脂層中に乾燥剤を配合した多層構造体が市販された。この第三の方法については、例えば、米国特許第4407897号公報(特許文献1)に記載されている。
【0005】
特開昭63−113062号公報(特許文献2)には、EVOHのマトリックス中に乾燥剤粒子が微粒子状態で分散されてなり、この無機系乾燥剤粒子のうちで長径10μm以上の粒子の体面積平均径が30μm以下であり、かつ前記エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物と無機系乾燥剤との重量比が97:3〜50:50であることを特徴とする組成物が記載されている。ここで用いられる乾燥剤として、水和物を形成可能なリン酸塩が記載されている。また当該樹脂組成物からなる層を有する多層構造体も記載されており、レトルト処理用容器に適していることも記載されている。
【0006】
しかしながら、乾燥剤粒子をEVOHのマトリックス中に均一に分散させるのは容易ではなく、溶融混練する際に凝集物が発生しやすかった。そのような凝集物が発生すると、得られる成形品のガスバリア性が低下したり外観が悪化したりするし、押出機のスクリーン交換の頻度も上昇することとなる。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4407897号公報
【特許文献2】特開昭63−113062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ガスバリア性に優れ、高温高湿下での耐湿性に優れ、しかも乾燥剤粒子の分散性に優れたEVOH樹脂組成物を提供することを目的とするものである。また、そのような樹脂組成物からなる層を有する、レトルト処理時にもガスバリア性の低下の抑制された多層構造体を提供することを目的とするものである。さらに、そのような樹脂組成物の好適な製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、エチレン含有量が15〜65モル%でケン化度が95モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、水和物を形成可能なリン酸塩(B)及び分散剤(C)からなる樹脂組成物であって;
分散剤(C)が、脂肪酸塩、グリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種であり、
(A)と(B)の合計100重量部に対して、(A)を50〜99重量部、(B)を1〜50重量部含有し、かつ
(B)100重量部に対して、(C)を1〜20重量部含有することを特徴とする樹脂組成物を提供することによって解決される。
【0010】
このとき、リン酸塩(B)が、粒径16μm以下の粒子を97体積%以上含有する粉体からなることが好ましい。リン酸塩(B)が、平均粒径10μm以下の粉体からなることも好ましい。分散剤(C)が、炭素数が8〜40の化合物からなることも好ましい。分散剤(C)が、脂肪酸塩からなることも好ましい。また、分散剤(C)が、グリセリンモノ脂肪酸エステル、特にグリセリンモノステアリン酸エステルからなることも好ましい。そして、リン酸塩(B)100重量部に対して分散剤(C)を3〜10重量部含有することが好ましい。
【0011】
上記樹脂組成物からなる層の両側に、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル及びポリアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる層を有する多層構造体が、本発明の好適な実施態様である。また、上記樹脂組成物からなる層の両側に接着性樹脂層を介してポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル及びポリアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる層を有する多層構造体も、本発明の好適な実施態様である。前記多層構造体の好適な実施態様は包装容器である。また別の好適な実施態様は、上記包装容器に内容物を充填してなるレトルト包装体である。
【0012】
上記課題は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、リン酸塩(B)及び分散剤(C)を溶融混練することを特徴とする前記樹脂組成物の製造方法を提供することによっても解決される。
【0013】
このとき、リン酸塩(B)が、粒径16μm以下の粒子を97体積%以上含有する粉体からなることが好ましい。リン酸塩(B)及び分散剤(C)を予め混合してから、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と溶融混練することも好ましい。溶融混練する前に予めリン酸塩(B)を粉砕することが好ましく、分散剤(C)の存在下にリン酸塩(B)を粉砕する方法や、リン酸塩(B)を粉砕してから分散剤(C)を混合する方法が好適に採用される。溶融混練する前に予めリン酸塩(B)を乾燥することが好ましく、リン酸塩(B)を粉砕するのと同時に乾燥する方法や、リン酸塩(B)の含水率が2重量%以下になるように乾燥する方法が好適に採用される。また、溶融混練する際の温度が、190〜260℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物は、ガスバリア性に優れ、高温高湿下での耐湿性に優れ、しかも乾燥剤粒子の分散性にも優れている。したがって、本発明の樹脂組成物からなる層を有する多層構造体は、レトルト処理時のガスバリア性の低下が抑制されるので、酸化劣化の防止が要求される食品の包装容器などとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の樹脂組成物は、エチレン含有量が15〜65モル%でケン化度が95モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)(A)、水和物を形成可能なリン酸塩(B)及び分散剤(C)からなる樹脂組成物である。
【0016】
前述のように、EVOH(A)にリン酸塩(B)を配合することによって、高温高湿度下でのガスバリア性を改善することができる。しかしながら、溶融混練する際に凝集物が発生しやすかった。これに対し、さらに分散剤(C)を配合することによって、リン酸塩(B)を配合した場合であっても凝集物の発生を効果的に抑制できることを見出したものである。
【0017】
本発明で使用するEVOH(A)のエチレン含有量は15〜65モル%である。エチレン含有量が15モル%未満である場合には、耐湿性が不十分となり、特にレトルト処理のような高温高湿の条件下において使用することができなくなる。エチレン含有量は好適には20モル%以上であり、より好適には25モル%以上である。一方、エチレン含有量が65モル%を超える場合には、ガスバリア性が不十分となり、高度なガスバリア性が要求される用途に使用することができなくなる。エチレン含有量は好適には50モル%以下であり、より好適には40モル%以下である。
【0018】
EVOH(A)のケン化度は、95モル%以上である。ケン化度が低いと、EVOHの結晶化度が低くなり、ガスバリア性が低下するとともに、溶融成形時の熱安定性が大きく低下する。ケン化度は好適には98モル%以上であり、より好適には99モル%以上である。
【0019】
EVOH(A)のメルトフローレート(210℃、2160g荷重下)は、0.1〜50g/10分であることが好ましい。メルトフローレートが0.1g/10分未満である場合には、溶融成形が困難になるとともに、リン酸塩(B)を均一に混合するのが困難になるおそれがある。メルトフローレートは、より好適には、0.5g/10分以上であり、さらに好適には1g/10分以上である。一方、メルトフローレートが50g/10分を超える場合には、押出成形が困難になるとともに、EVOH(A)層の強度が低下する。メルトフローレートは、より好適には、20g/10分以下であり、さらに好適には10g/10分以下である。
【0020】
水和物を形成可能なリン酸塩(B)は、水和物を形成することによって水分を吸収するものであり、いわば、乾燥剤として機能するものである。したがって、結晶水として水分を吸収して水和物を形成することが可能なものが好ましく用いられる。多くのリン酸塩は、複数の水分子を結晶水として含む水和物を形成するので、単位重量あたりの吸収する水の重量が多く、本発明の樹脂組成物に好適に使用される。また、リン酸塩が含むことの可能な結晶水の分子数は、湿度の上昇にしたがって段階的に増加することが多いので、湿度環境の変化に伴って、徐々に水分を吸収することができる。
【0021】
本発明で用いられるリン酸塩(B)としては、リン酸ナトリウム(NaPO)、リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、ポリリン酸ナトリウム、リン酸リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム、ポリリン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、ポリリン酸カリウム、リン酸カルシウム(Ca(PO)、リン酸水素カルシウム(CaHPO)、リン酸二水素カルシウム(Ca(HPO)、ポリリン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが例示される。ここで、ポリリン酸塩は、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)などを含むものである。これらのリン酸塩(B)のうち、結晶水を含まない無水物が好適である。また、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムが好適である。
【0022】
本発明で用いられるリン酸塩(B)は、通常粉体である。通常市販されているリン酸塩(B)の粉体は、平均粒径が15〜25μmで、含まれる最大粒子の寸法が40〜100μmである。このような大きい粒子を含有する粉体を用いたのでは、本発明の樹脂組成物からなる層のガスバリア性が不十分になるおそれがある。本発明者らが、検討したところ、EVOH樹脂組成物層の厚さよりも大きい粒子を含有することによってガスバリア性が大きく低下する傾向が認められた。そして、EVOHを用いた多層容器では、EVOH層の厚さが20ミクロン程度くらいまで薄くなる用途が存在する。
【0023】
したがって、本発明で用いられるリン酸塩(B)の粉体は、粒径16μm以下の粒子を97体積%以上含有することが好ましい。粒径13μm以下の粒子を97体積%以上含有することがより好ましい。粒径10μm以下の粒子を97体積%以上含有することがさらに好ましい。また、本発明で用いられるリン酸塩(B)の粉体は、その平均粒径が10μm以下であることが好ましい。平均粒径は、より好適には8μm以下であり、さらに好適には6μm以下である。このような粒度分布や平均粒径はコールターカウンターなどの粒度分析計で測定することができる。
【0024】
本発明で用いられる分散剤(C)は、脂肪酸塩、グリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種である。このような分散剤(C)を使用することによって、良好な分散性が得られる。なお、芳香族カルボン酸のグリセリンエステルは、一般的に室温において液体であり、リン酸塩(B)とドライブレンドするのに適していない。
【0025】
分散剤(C)に用いられる脂肪酸塩としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどが例示される。グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノステアリン酸エステル、グリセリンジステアリン酸エステル、グリセリントリステアリン酸エステル、モノデカノイルオクタノイルグリセリドなどが例示される。脂肪酸アミドとしては、エチレンビスステアリン酸アミドなどが例示される。
【0026】
これらの分散剤(C)のうちでも、リン酸塩(B)粉体の滑り性改善や、溶融混練時の押出機のスクリーン閉塞防止の観点からは脂肪酸塩が好適に用いられる。なかでも、カルシウム塩、亜鉛塩などが好適であり、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛が特に好適である。また、特に良好な分散性を得る観点からはグリセリン脂肪酸エステルが好適に用いられる。なかでも、グリセリンのモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましく、グリセリンモノ脂肪酸エステルがより好ましく、グリセリンモノステアリン酸エステルが特に好ましい。
【0027】
また、分散剤(C)が、炭素数が8〜40の化合物からなることが好ましい。このような範囲の炭素数を有することによって良好な分散性を得ることができる。より好適な炭素数の下限値は12であり、より好適な炭素数の上限値は30である。
【0028】
本発明の樹脂組成物における、EVOH(A)とリン酸塩(B)の配合比は、(A)と(B)の合計100重量部に対して、(A)が50〜99重量部、(B)が1〜50重量部である。本発明の樹脂組成物では、EVOH(A)が主成分としてマトリックスを形成し、ガスバリア性が確保される。リン酸塩(B)の含有量が(A)と(B)の合計100重量部に対して1重量部未満である場合には、樹脂組成物の耐湿性、特に高温高湿下での耐湿性が低下する。リン酸塩(B)の含有量は、好適には5重量部以上であり、より好適には10重量部以上であり、さらに好適には15重量部以上である。一方、リン酸塩(B)の含有量が(A)と(B)の合計100重量部に対して50重量部を超える場合には、樹脂組成物のガスバリア性が低下する。リン酸塩(B)の含有量は、好適には40重量部以下であり、より好適には30重量部以下である。
【0029】
また、分散剤(C)の配合量はリン酸塩(B)100重量部に対して1〜20重量部である。分散剤(C)の含有量がリン酸塩(B)100重量部に対して1重量部未満である場合、リン酸塩(B)の凝集物の発生を抑制することができない。分散剤(C)の含有量は、好適には2重量部以上であり、より好適には3重量部以上である。一方、分散剤(C)の含有量がリン酸塩(B)100重量部に対して20重量部を超える場合、樹脂組成物のペレットの滑りが大きくなりすぎて押出機へのフィードが困難になるとともに、多層構造体を製造する際の層間接着力が低下する。分散剤(C)の含有量は、好適には15重量部以下であり、より好適には10重量部以下である。
【0030】
以下、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではないが、通常、EVOH(A)、リン酸塩(B)及び分散剤(C)を溶融混練することによって製造される。
【0031】
本発明のリン酸塩(B)は粗大粒子を含まない方がよく、前述のように、特定の粒径分布あるいは特定の平均粒径を有する粉体が好適に使用される。このような粉体を製造する方法は特に限定されないが、市販のリン酸塩(B)の粉体を粉砕することが好ましい。すなわち、溶融混練する前に、予めリン酸塩(B)を粉砕することが好ましい。粉砕装置としては、ジェットミル、ボールミル、カッティングミル、衝撃粉砕機などを使用することができる。これらのうちでも、ジェットミル、特に流動層式ジェットミルが好適に使用される。流動層式ジェットミルにおいて、対抗ジェットエアーの衝突によって粒子同士を衝突させて粒子を粉砕することが好ましく、そうすることによって金属による汚染を防止することができる。また、粉砕装置が、同時に分級機を内蔵することが好ましい。内蔵される分級機としては、マルチホイール分級機が好ましく、これによって、シャープな粒度分布の粉体を効率よく得ることができる。
【0032】
また、EVOH(A)に溶融混練されるリン酸塩(B)の含水率は、得られる樹脂組成物中の凝集物の発生数をコントロールするための重要な要素である。したがって、リン酸塩(B)の含水率は2重量%以下であることが好ましい。リン酸塩(B)の含水率が高いと、EVOH(A)と溶融混練した際に、得られる樹脂組成物に凝集物が発生しやすくなる。含水率は、より好適には1重量%以下であり、さらに好適には0.5重量%以下である。そのため、EVOH(A)と溶融混練する前に、予めリン酸塩(B)を乾燥することが好ましく、そのときの乾燥温度は60〜120℃であることが好ましい。なお、EVOH(A)と溶融混練する前に、予めリン酸塩(B)と分散剤(C)が混合されている場合には、その全重量に対する含水率をリン酸塩(B)の含水率とする。
【0033】
リン酸塩(B)を粉砕するのと同時に乾燥することも好ましい。粉砕機の中に乾燥ガスを導入しながら粉砕することによって粉砕と同時に乾燥することができる。例えば、ジェットミルを用いるのであれば、加熱した圧縮ガスを用いて粉砕することによって、容易に粉砕と同時に乾燥することもできて好適である。予めリン酸塩(B)のみを乾燥しておいて、さらに粉砕と同時に乾燥することも好ましい。
【0034】
分散剤(C)の配合のタイミングは特に限定されない。分散剤(C)の存在下にリン酸塩(B)を粉砕してもよいし、リン酸塩(B)を粉砕してから分散剤(C)を混合してもよい。分散剤(C)の存在下にリン酸塩(B)を粉砕する場合には、工程数を省略できる利点があるとともに、均一に混合することが容易になる。一方、リン酸塩(B)を粉砕してから分散剤(C)を混合する場合には、粉砕機中でブロッキングすることなく、水の沸点近傍以上の温度の空気中で粉砕できるので、粉砕操作中に効率よく乾燥することができる。分散剤(C)の種類、粉砕条件、乾燥条件などを考慮して適当に選択される。
【0035】
以上のようにして、リン酸塩(B)及び分散剤(C)を予め混合してから、EVOH(A)と溶融混練することが好ましい。そうすることによって、EVOH(A)のマトリックス中にリン酸塩(B)の粒子を均一に分散させることができる。
【0036】
溶融混練する場合には、樹脂の溶融混練に用いられる一般的な装置を採用することができる。混練装置としては、一軸押出機、二軸押出機などの連続混練装置を用いてもよいし、バンバリーミキサーなどのバッチ式混練装置を用いてもよい。このような混練装置に投入する前に、EVOH(A)のペレット又は粉末に対して、リン酸塩(B)及び分散剤(C)をヘンシエルミキサーやタンブラーを用いて予め混合しても良い。
【0037】
溶融混練する際の温度は、EVOH(A)が溶融可能な温度であれば特に限定されないが、190〜260℃であることが好ましい。溶融混練温度が190℃未満である場合には、EVOH(A)の溶融が不十分になるおそれがあり、より好適には210℃以上である。一方、溶融混練温度が260℃を超える場合には、EVOH(A)あるいはリン酸塩(B)の分解が生じるおそれがあり、より好適には245℃以下である。
【0038】
こうして得られた本発明の樹脂組成物は、レトルト処理のような高温高湿条件での処理を経た後であっても、ガスバリア性の低下が少ないという特徴を有している。オートクレーブ中で100℃以上に加熱して加圧する通常のレトルト処理以外にも、スチームレトルト処理、ウォーターカスケードレトルト処理、マイクロウェーブレトルト処理、ホット充填、殺菌処理、ボイリング処理などにおいても同様の効果が得られると期待される。
【0039】
溶融成形に先立ち、本発明の樹脂組成物の含水率が1重量%以下であることが好ましい。含水率を低くすることによって、溶融成形時に発泡するのを防止することができる。含水率は、より好適には0.5%以下であり、さらに好適には、0.25重量%以下である。このような含水率の樹脂組成物とするには、溶融成形前の樹脂組成物を加熱乾燥してもよいし、予め十分に乾燥した材料を用いて樹脂組成物を製造してもよい。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分を含有してもよい。例えば、EVOH(A)以外の熱可塑性樹脂を含有してもよい。このような熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(超低密度、低密度、中密度、高密度)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、アイオノマーなどのポリオレフィン;前記ポリオレフィンの無水マレイン酸、グリシジルメタクリレートなどのグラフト変性物;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの半芳香族ポリエステル;ポリバレロラクトン、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族ポリエステル;ポリカプロラクタム、ポリラウロラクタム、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアゼラミドなどの脂肪族ポリアミド;ポリエチレングリコール、ポリフェニレンエーテルなどのポリエーテルなどが挙げられる。
【0041】
また、他の各種可塑剤、安定剤、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、架橋剤、金属塩、充填剤、各種繊維などの補強剤などを含有することも可能である。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、溶融成形によりフィルム、シート、容器、パイプ、繊維等、各種の成形物に成形される。溶融成形法としては押出成形、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、射出成形等が可能である。溶融成形温度はEVOH(A)の融点等により異なるが、150〜270℃程度が好ましい。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、当該樹脂組成物のみの単層からなる成形物としても使用可能であるが、当該樹脂組成物からなる少なくとも1層を含む多層構造体とすることが好適である。多層構造体の層構成としては、本発明の樹脂組成物をEVOH、接着性樹脂をTie、熱可塑性樹脂をPで表わすと、EVOH/P、P/EVOH/P、EVOH/Tie/P、P/Tie/EVOH/Tie/P等が挙げられるが、これに限定されない。ここで示されたそれぞれの層は単層であってもよいし、場合によっては多層であってもよい。
【0044】
なかでも、耐湿性に優れるという本発明の樹脂組成物の性能を生かすためには、樹脂組成物からなる層の両側に、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル及びポリアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる層を有する多層構造体が好適な実施態様である。これらのうちでも、耐湿性を考慮すれば、ポリオレフィン、ポリスチレン及びポリエステルが好適に用いられ、ポリオレフィンが特に好適に用いられる。
【0045】
ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、アイオノマー等が例示される。
【0046】
上記多層構造体において、前記樹脂組成物からなる層の両側に接着性樹脂層を介してポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル及びポリアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる層を有する多層構造体とすることも好ましい。
【0047】
接着性樹脂は、樹脂組成物層と熱可塑性樹脂層とを接着できるものであれば特に限定されないが、カルボン酸変性ポリオレフィンからなる接着性樹脂が好ましい。ここでカルボン酸変性ポリオレフィンとは、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物を化学的(たとえば付加反応、グラフト反応により)結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体のことをいう。また、ここでオレフィン系重合体とはポリエチレン(低圧、中圧、高圧)、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリブテンなどのポリオレフィン、オレフィンと該オレフィンとを共重合し得るコモノマー(ビニルエステル、不飽和カルボン酸エステルなど)との共重合体、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチルエステル共重合体などを意味する。エチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物とはエチレン性不飽和モノカルボン酸、そのエステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸、そのモノ又はジエステル、その無水物があげられ、このうちエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物が好適である。具体的にはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステルなどが挙げられ、なかんずく、無水マレイン酸が好適である。
【0048】
エチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物のオレフィン系重合体への付加量又はグラフト量(変性度)はオレフィン系重合体に対し0.01〜15重量%、好ましくは0.02〜10重量%である。
【0049】
このようにして得られた共押出多層構造体又は共射出多層構造体を二次加工することにより、各種成形品(フィルム、シート、チューブ、ボトルなど)を得ることができる。たとえば以下のようなものが挙げられる。
(1)多層構造体(シート又はフィルムなど)を一軸又は二軸方向に延伸し、必要に応じて熱処理することによる多層共延伸シート又はフィルム
(2)多層構造体(シート又はフィルムなど)を圧延することによる多層圧延シート又はフィルム
(3)多層構造体(シート又はフィルムなど)を真空成形、圧空成形、真空圧空成形等、熱成形加工することによる多層トレーカップ状容器
(4)多層構造体(パイプなど)からのストレッチブロー成形等によるボトル、カップ状容器
(5)多層構造体(パリソンなど)からの二軸延伸ブロー成形等によるボトル状容器
【0050】
このようにして得られた多層構造体の用途は特に限定されず、例えば、包装用フィルム、深絞り容器、カップ状容器、ボトル等の材料として好適に用いられる。中でも、酸素劣化が嫌われる内容物、特に食品を包装する容器として好適である。本発明の多層構造体は、高温高湿条件下でも優れたガスバリア性を示すことから、レトルト処理用の容器として特に好適である。レトルト処理としては、100℃以上に加熱して加圧する通常のレトルト処理以外にも、スチームレトルト処理、ウォーターカスケードレトルト処理、マイクロウェーブレトルト処理なども採用される。また、レトルト処理に限られず、ホット充填、殺菌処理、ボイリング処理を行う容器としても好適である。
【0051】
また、多層構造体を溶融混練してなる回収組成物も本発明の好適な実施態様である。熱成形容器などの製造プロセスにおいては、製造プロセス中で発生する、打ち抜きクズや成形不良品を回収、粉砕して、容器製造に再使用するのが普通である。したがって、回収再使用されて溶融混練された回収組成物からなる層を有する多層構造体が経済的な観点から好ましい態様である。本発明の樹脂組成物は、リン酸塩(B)の凝集物が発生しにくいので、溶融混練を繰り返す回収組成物であっても凝集物の発生を効果的に抑制することができる。回収組成物層は、前述の多層構造体の層構成の例において、熱可塑性樹脂(P)層を回収組成物(Reg)層に置き換えた構成か、あるいは、熱可塑性樹脂(P)層を熱可塑性樹脂(P)層と回収組成物(Reg)層の積層体(P/Reg)に置き換えた構成とされる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
【0053】
実施例1(各種分散剤の添加効果)
本実施例で用いたリン酸水素二ナトリウム(B)は、ICL Performance Product Inc.社製「683522」であり、平均粒径が3.4μm、D97(その粒径以下の粒子が占める比率が97重量%である粒径)が10.4μmの粉体である。ここで、上記平均粒子径及び粒度分布のデータは、Beckman-Coulter’s Particle Size Characterization Laboratory製の「Beckman-Coulter LS I3 320」を用いて測定したものであり、以下の実施例においても同様である。
【0054】
上記リン酸水素二ナトリウム(B)を、90℃の対流オーブンで2時間加熱して乾燥した。引き続き、協立理工株式会社(Kyoritsu-Riko)製小型ハンマースタイル粉砕機「SK-M10」を用いて2分間かけて分散剤(C)とブレンドした。用いた分散剤(C)の種類と量は、表1に示すとおりである。
【0055】
こうして得られたリン酸水素二ナトリウム(B)と分散剤(C)との混合物と、Eval Company of America社製のEVOH(A)「EVAL L171」(エチレン含有量27.2モル%、ケン化度99.6モル%、MFR3.8g/10分(210℃、2160g荷重))とを、得られる樹脂組成物中のリン酸水素二ナトリウム(B)の含有量が20重量%になるように溶融混練した。溶融混練は、二軸押出機「DSM15 microcompounder」を用い、スクリュー回転数80rpm、温度220℃で行った。押し出された2mm径のストランドを2.5〜3mmの長さに切断して樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレット50gを熱プレス成形して約8ミル(約0.2mm)の厚さのフィルムを成形した。得られたフィルムの50mm×90mmの範囲を肉眼で観察し、約50μm以上の凝集物の数をカウントした。
【0056】
試験に用いた分散剤(C)は、グリセリンモノステアリン酸エステル(GMS:炭素数21)、グリセリンジステアリン酸エステル(GDS:炭素数39)、グリセリントリステアリン酸エステル(GTS:炭素数57)、ステアリン酸亜鉛(ZnSt:炭素数18)及びエチレンビスステアリン酸アミド(EBSA:炭素数38)であり、それぞれの分散剤(C)が、リン酸水素二ナトリウム(B)100重量部に対して、0、2、5及び10重量部含有されるように配合した。結果を表1にまとめて示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1からわかるように、分散剤(C)を配合することによって、凝集物の発生を抑制することができる。凝集物の発生防止の観点から特に優れているのは、グリセリンモノステアリン酸エステル(GMS)である。一方、ステアリン酸亜鉛(ZnSt)を用いた場合には、グリセリンモノステアリン酸エステル(GMS)に比べて、リン酸塩(B)粉体の乾燥流動性が改善され、EVOH(A)と溶融混練する際の操作性に優れていた。
【0059】
実施例2(押出機スクリーンの閉塞試験)
実施例1と同じリン酸水素二ナトリウム(B)を用い、実施例1と同様の操作で加熱してから分散剤(C)とブレンドした。得られたリン酸水素二ナトリウム(B)と分散剤(C)との混合物と、実施例1と同じEVOH(A)とを、得られる樹脂組成物中のリン酸水素二ナトリウム(B)の含有量が20重量%になるように溶融混練した。溶融混練は、スクリュー径が47mmでL/Dが42の二軸押出機を用いて、230℃で行った。押出機の末端には、20メッシュ、60メッシュ、40メッシュのスクリーンがこの順番に重ねられたスクリーンパックが装着されている。
【0060】
表2に示すような種類と量(リン酸水素二ナトリウム(B)100重量部に対する量)の分散剤(C)を用い、表2に示す押出速度(ポンド/時間)で溶融混練したときの、スクリーン交換時間を表2にまとめて示す。ここで、230℃で溶融混練する際の押出機の背圧は、通常200〜300psi程度であるが、溶融混練時間の経過に伴ってスクリーンが閉塞し、背圧が上昇するとともに温度も上昇する。ここでは、背圧が500psiに到達するか、温度が255℃に到達したときをスクリーン交換時間とした。
【0061】
【表2】

【0062】
表2からわかるように、分散剤(C)を配合することによって、スクリーンが閉塞しにくくなり、スクリーン交換に要する時間が長くなって、スクリーン交換の頻度を低くすることができた。特に、ステアリン酸亜鉛(ZnSt)を用いた場合には、グリセリンモノステアリン酸エステル(GMS)よりもその頻度を低くすることができた。
【0063】
実施例3(分散剤の配合量)
本実施例で用いたリン酸二水素ナトリウム(B)は、Budenheim社製「N11-30」であり、平均粒径が5.3μm、D97が15.7μmの粉体である。このリン酸二水素ナトリウム(B)を、実施例1と同様の操作で加熱してから、分散剤(C)とブレンドした。このとき、分散剤(C)(グリセリンモノステアリン酸エステル)の含有量を表3に示すように変動させて混合物を得た。得られたリン酸二水素ナトリウム(B)と分散剤(C)との混合物と、実施例1と同じEVOH(A)とを、得られる樹脂組成物中のリン酸水素二ナトリウム(B)の含有量が20重量%になるように溶融混練した。溶融混練は、スクリュー径が30mmでL/Dが45.5の二軸押出機を用いて行った。
【0064】
得られたEVOH樹脂組成物ペレットと、LLDPEペレット(Dow社製「Dowlex 2025」)と、接着性樹脂(Tie)ペレット(DuPont社製「Bynel CXA4125」)を用いて、総厚みが6ミル(152μm)の3種5層の多層フィルムを得た。層構成は、LLDPE/Tie/EVOH/Tie/LLDPE=66/4/12/4/66(μm)であった。このとき、押出機にEVOH樹脂組成物ペレットを導入する際のスリップ発生の有無を評価した。得られた多層フィルムの層間接着性を、「Instron」引張試験機を用いて、T剥離接着力(g/25mm)として求めた。これらの結果を表3にまとめて示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3からわかるように、リン酸塩(B)に対して配合する分散剤(C)の量が増加すると、得られるEVOH樹脂組成物ペレットを押出機へ導入する際にスリップの発生が多くなり、円滑なペレットのフィードが困難になることがわかる。また、分散剤(C)の量が増加すると、層間接着力が低下することもわかる。したがって、リン酸塩(B)に対して配合する分散剤(C)の量が多すぎるのは好ましくないことがわかった。
【0067】
実施例4(各種条件の影響)
3種類の異なる含水率(4.94重量%、3.24重量%、1.22重量%)を有するリン酸水素二ナトリウム(B)の粉末を原料として用いた。これらの粉末の平均粒子径は15.5μmで、D97は52.1μmである。これらのリン酸水素二ナトリウム(B)と、表4に示される種類と配合量(リン酸水素二ナトリウム(B)100重量部に対する量)の分散剤(C)とを、タンブラーを用いて20分間混合した。
【0068】
こうして得られた混合物を、Alpine and Hosowaka Micron Powder Systems製の流動層式ジェットミル「Hosowaka AFG-400」を用いて粉砕した。このジェットミルは、対抗ジェットエアーの衝突によって粒子同士を衝突させて粒子を粉砕するものであり、マルチホイール分級機が内蔵されている。マルチホイール分級機の回転数を変動させることによって、所望の粒径の粒子が得られる。マルチホイール分級機の回転数は表4に示したとおりである。粉砕に際し、ジェットミルには87℃に加熱した100psiの加熱圧縮空気を供給し、粉砕と同時に乾燥させた。粉砕後の平均粒径、D97及び含水率をそれぞれ表4に示す。
【0069】
粉砕後のリン酸水素二ナトリウム(B)と分散剤(C)との混合物と、実施例1と同じEVOH(A)とを、得られる樹脂組成物中のリン酸水素二ナトリウム(B)の含有量が20重量%になるように溶融混練した。溶融混練は、株式会社日本製鋼所製二軸押出機「TEX30」を用いて行い、EVOH樹脂組成物ペレットを得た。この二軸押出機は、スクリュー径が30mmで、L/Dが45.5である。得られた樹脂組成物をマッフル炉で600℃、20分間加熱して、樹脂組成物の灰分含有量を測定した。
【0070】
得られたEVOH樹脂組成物ペレットを用いて、フィルムアタッチメントを装着した押出機(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミル 20R200」)によって、厚さ2ミル(51μm)の単層フィルムを製造した。この押出機は、L/Dが24のスクリューを備え、圧縮比が3.2で、8インチ(203mm)のコートハンガータイプのフラットダイを備えている。押出機のバレルの温度はゾーン1、2及び3がそれぞれ175℃、215℃及び225℃であり、ダイの温度は200℃であった。
【0071】
得られたフィルムを顕微鏡観察して、860μm×640μmのエリア内に観察される、16μm以上の粒子あるいは凝集物の数をカウントした。その結果を表4に示す。
【0072】
また、得られたEVOH樹脂組成物ペレットと、ポリプロピレン(PP)ペレット(Chevron Phillips Chemical社製「Marlex HNZ-020」)と、接着性樹脂(Tie)ペレット(Mitsui Chemicals社製「Admer QF551A」)を用いて、総厚みが56ミル(1.42mm)の3種5層の多層シートを得た。多層シートの層構成は、PP/Tie/EVOH/Tie/PP=24/2/4/2/24ミル(=0.61/0.05/0.10/0.05/0.61mm)であった。これを熱成形して、容量300mlのボウルを得た。底部と側壁との境界部に形成された最も薄い部分の厚みは約20μmであった。得られたボウルに対して、121℃で60分間のレトルト処理を施し、レトルト処理の24時間後に、酸素透過速度を測定した。ここでの酸素透過速度は、ASTM F1307に従い、モコン社製の「Oxtran 2/21 モジュールHユニット」を用いて、20℃において、内部相対湿度を100%、外部相対湿度を65%として測定した値である。以上の試験条件及び試験結果を表4にまとめて示す。
【0073】
【表4】

【0074】
表4からわかるように、含水率の低いリン酸塩(B)を用いることにより、得られる樹脂組成物中の凝集物の発生が抑制される。そして、凝集物の発生が抑制されることにより、良好なガスバリア性を得ることができる。したがって、本発明の樹脂組成物を製造するに際しては、EVOH(A)に配合されるリン酸塩(B)の水分管理が重要であることがわかる。また、リン酸塩(B)の粒径が大きい場合には、得られる樹脂組成物中の粗大粒子の数が増加するとともにレトルト処理後の酸素透過速度も大きくなる。各種の分散剤のうち、グリセリン脂肪酸エステルであるグリセリンモノステアリン酸エステル(GMS)が、凝集物発生を抑制する効果に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン含有量が15〜65モル%でケン化度が95モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、水和物を形成可能なリン酸塩(B)及び分散剤(C)からなる樹脂組成物であって;
分散剤(C)が、脂肪酸塩、グリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種であり、
(A)と(B)の合計100重量部に対して、(A)を50〜99重量部、(B)を1〜50重量部含有し、かつ
(B)100重量部に対して、(C)を1〜20重量部含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
リン酸塩(B)が、粒径16μm以下の粒子を97体積%以上含有する粉体からなる請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
リン酸塩(B)が、平均粒径10μm以下の粉体からなる請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
分散剤(C)が、炭素数が8〜40の化合物からなる請求項1〜3のいずれか記載の樹脂組成物。
【請求項5】
分散剤(C)が、脂肪酸塩からなる請求項1〜4のいずれか記載の樹脂組成物。
【請求項6】
分散剤(C)が、グリセリンモノ脂肪酸エステルからなる請求項1〜4のいずれか記載の樹脂組成物。
【請求項7】
分散剤(C)が、グリセリンモノステアリン酸エステルからなる請求項6記載の樹脂組成物。
【請求項8】
リン酸塩(B)100重量部に対して分散剤(C)を3〜10重量部含有する請求項1〜7のいずれか記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか記載の樹脂組成物からなる層の両側に、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル及びポリアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる層を有する多層構造体。
【請求項10】
前記樹脂組成物からなる層の両側に接着性樹脂層を介してポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル及びポリアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる層を有する請求項9記載の多層構造体。
【請求項11】
請求項9又は10記載の多層構造体からなる包装容器。
【請求項12】
請求項11記載の包装容器に内容物を充填してなるレトルト包装体。
【請求項13】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、リン酸塩(B)及び分散剤(C)を溶融混練することを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
リン酸塩(B)が、粒径16μm以下の粒子を97体積%以上含有する粉体からなる請求項13記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
リン酸塩(B)及び分散剤(C)を予め混合してから、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と溶融混練する請求項13又は14記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
溶融混練する前に、予めリン酸塩(B)を粉砕する請求項13〜15のいずれか記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
分散剤(C)の存在下にリン酸塩(B)を粉砕する請求項16記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項18】
リン酸塩(B)を粉砕してから、分散剤(C)を混合する請求項16記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項19】
溶融混練する前に、予めリン酸塩(B)を乾燥する請求項13〜18のいずれか記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項20】
リン酸塩(B)を粉砕するのと同時に乾燥する請求項19記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項21】
リン酸塩(B)の含水率が2重量%以下になるように乾燥する請求項19又は20記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項22】
溶融混練する際の温度が、190〜260℃である請求項13〜21のいずれか記載の樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−75084(P2008−75084A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238781(P2007−238781)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】