説明

樹脂組成物

【課題】電子、電気機器用の放熱部材として利用出来る、高熱伝導率と絶縁性を併せ持つ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂、及び直径が90nm以下である繊維からなる樹脂組成物。さらに、繊維が、シランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤で表面処理された繊維である樹脂組成物。さらに、熱可塑性樹脂98〜40重量%、直径が90nm以下である繊維2〜60重量%からなる樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の樹脂組成物は絶縁性と熱伝導性を同時に要求される電子、電気機器用の放熱部材として利用出来る。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、半導体素子の高集積化に伴い、回路等からの発熱量が増大しており、トランジスタ、サイリスタ等の発熱性電子部品からの熱を電子機器のケース等に直接伝熱する等して発生する熱を外部に放散・除去を効率良く行うことが重要な技術的課題となっている。
【0003】
放熱材料としては、熱伝導性に優れたアルミナ等のセラミックの使用が有効であるが、高価であり、加工が容易な高分子材料が広く使用されている。しかしながら、高分子材料の熱伝導率は極めて低く、高分子材料に熱伝導性を有する無機材料をフィラーとして添加し熱伝導性を改善する方法が採られている。
【0004】
熱伝導性の無機材料を添加した高分子材料の放熱性は、無機材料の熱伝導性と添加量により決定され、無機材料の熱伝導性が大きく影響する。シリカ、アルミナ、窒化硼素等が使用されているが、これらの無機材料より高い熱伝導性を有する窒化アルミニウム粉末の利用が進んでいる(例えば、特許文献1参照)。ところが、これら無機フィラーは樹脂との親和性が低く、樹脂中に均一分散させるのが難しいという問題があった。
【0005】
また、熱伝導性を向上させる手段として広く用いられている方法として、カーボンファイバー、黒鉛を配合し、熱伝導性を付与する方法が提案されているが(例えば、特許文献2参照)、この方法では熱伝導性と同時に電気伝導性が付与されるため、電気絶縁性を要求されるような分野では使用できないという問題があった。また、高熱伝導性の樹脂組成物を得る他の方法として低融点金属等の利用が知られているが、これらの方法は樹脂組成物とした場合の電気絶縁性を低下させるため、放熱部品としての適用可能性を狭めるという欠点を有していた。
【0006】
更に、熱伝導性を向上させる手段として熱可塑性樹脂に高熱伝導性の無機繊維と無機粉末を充填した組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)が、この手法では無機繊維の直径が100nm以上と大きく、無機繊維としてウィスカー等の繊維状物質を用いているため、無機繊維及び無機粒子の充填量を多くしない限り高い熱伝導性が発現しないという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平9−328368号公報
【特許文献2】特開2003−41119号公報
【特許文献3】特許3512519号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高熱伝導率と絶縁性を併せ持つ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、樹脂に対して極めて高い熱伝導性を有する極細繊維を樹脂に混合することにより、絶縁性を有し、更に高い熱伝導性を有する樹脂組成物が得られることを見出し本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は熱可塑性樹脂、及び直径が90nm以下である繊維からなる樹脂組成物に関するものである。
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、及び直径が90nm以下である繊維からなることを特徴とする樹脂組成物である。
【0013】
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、特に制限はなく、例えばポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、全芳香族ポリエステル等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610,ナイロン12、ナイロン46、ナイロン9T、アラミド等のポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、鹸化エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン、エチレン−ノルボルネン共重合体等のポリオレフィン;ポリウレタン;ポリベンズオキサゾール;ポリフェニレンエーテル;ポリエーテルスルフォン;メタアクリレート、アクリレート等のアクリル樹脂;アクリロニトリル−スチレン共重合体;ポリ塩化ビニル;ポリビニルアルコ−ル(PVA);ポリテトラフルオロエチレン;ポリフッ化ビニリデン;ポリアクリロニトリル;ポリアクリル酸;ポリスチレン;セルロ−ス;酢酸セルロ−ス;酪酸セルロ−ス;ポリビニルピロリドン;ポリエチレンイミド;ポリオキシメチレン;ポリエチレンオキシド;ポリ(コハク酸エチレン);ポリ(硫化エチレン);ポリ(酸化プロピレン);ポリ(酢酸ビニル);ポリアニリン;ポリ(テレフタル酸エチレン);ポリ(ヒドロキシ酪酸);ポリ(酸化エチレン);ポリアセタール樹脂;ポリフェニレンサルファイド;ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリペプチド、タンパク質などのバイオポリマー等が例示される。
【0014】
また、柔軟性が求められる場合には、熱可塑性樹脂として、熱可塑性エラストマーを使用することが出来る。該熱可塑性エラストマー(TPE)としては、例えば塩ビ系TPE、オレフィン系TPE、ポリエステル系TPE、ポリアミド系TPE、シリコン系TPE、フッ素系TPE等が例示される。
【0015】
これらの熱可塑性樹脂の中でも、絶縁性、耐熱性に優れる樹脂組成物が得られることから特にポリエステル樹脂、ポリオレフィン、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイドが好適に用いられる。
【0016】
本発明で用いる繊維は、直径が90nm以下である繊維であり、該繊維としては、特に制限はなく、例えば窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、炭化ホウ素、炭化珪素等の繊維を例示することができ、特に熱伝導性に優れる樹脂組成物が得られることから窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタニウム、炭化ホウ素、炭化珪素であることが好ましい。これら繊維は1種または2種以上混合して用いることができる。
【0017】
なお繊維の製造方法は、公知の電界紡糸法(Polymer Preprints、4(2)巻、138頁,2003年)により製造することが可能である。電界紡糸法は既に1930年代に提案されたが、サブミクロン径の繊維需要の高まりに伴い、その重要性が増大している。製糸設備は単純であり、流体供給装置と繊維受取装置の間に電圧を印加して流体を繊維状に成形する。電界紡糸においては、紡糸対象となる溶液が曳糸性を持つことが重要であり、該溶液の粘度は500ポイズ以上であることが好ましく、特に1000ポイズ以上10000ポイズ以下が好ましい。
【0018】
また、曳糸性を持たない溶液に曳糸性を付与するため、該溶液に高分子を添加することが好ましい。用いる高分子として、曳糸性が付与される限り制限はなく、例えばポリビニルアルコール、部分鹸化ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル、鹸化エチレン酢酸ビニル共重合体等が例示され、特に鹸化エチレン酢酸ビニル共重合体が好適に用いられる。
【0019】
また、流体の種類に制限はなく、高分子の溶融液、高分子溶液、サスペンジョン、無機ゾル、あるいは、これらの混合体を利用できる。また、上記高分子にエマルジョンや有機粉末、金属酸化物等の粉末、無機物の粉末、無機物のウィスカーなどを混合可能である。
【0020】
そして、このように電界紡糸して得られた繊維を、さらに300〜1000℃で焼成することが好ましい。
【0021】
具体的な繊維の製造方法としては、例えば酸化バナジウムの極細繊維はゾルゲル法を利用し、公知の次の手順で製造出来る(Rev.Adv.Mater.Sci.5巻、5216頁,2003年)。即ち、エタノール、水、バナジウムオキシドイソプロポキシドを強攪拌下で混合し、その後、ポリ酢酸ビニルの溶液と混合した後、例えば15000Vの条件下でこの溶液を電界紡糸する。得られた糸を400〜500℃で焼成することで繊維を得ることができる。
【0022】
また、窒化珪素、窒化アルミニウム及び窒化ホウ素等の窒化繊維は適切な溶媒中でアミン化合物と金属ハライド類、或いはアミン化合物と金属アルコキシド類を反応させて前駆体を合成し、電界紡糸した後に400〜500℃で焼成することで得ることが出来る。この際、曳糸性を付与する目的で、前駆体溶液に、得られる繊維の熱伝導性を損なわない範囲でポリビニルアルコール等前述の高分子を添加することが出来る。
【0023】
更に、炭化珪素は、炭化珪素の前駆体となるポリマーを得た後、この前駆体ポリマーを電界紡糸し、400〜500℃で焼成することにより得ることが出来る。なお、前記前駆体となるポリマーは公知の方法で製造することが出来る(Macromolecules,35巻、555頁、2002年)。即ち、シァシクロブテンを有機溶剤中でブチルリチウム等のアニオン重合開始剤で重合することにより得ることが出来る。
【0024】
本発明で用いる繊維の直径(R)は90nm以下であり、好ましくは80nm以下であり、特に好ましくは50〜80nmである。この直径は、任意の糸を5本以上選び出し、変形を与えないようにフィラメントに揃える。該フィラメントの断面積(S)を走査電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡で観察し、R=2S1/2/πに従い求めることが出来る。
【0025】
本発明の樹脂組成物における熱可塑性樹脂組成物と繊維の配合割合は、熱可塑性樹脂98〜40重量%、繊維2〜60重量%が好ましく、特に好ましくは熱可塑性樹脂95〜40重量%、繊維5〜50重量%であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂95〜65重量%、繊維5〜35重量%である。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と繊維を混合することに得られるものである。その際の混合方法としては、特に制限はなく、例えばラボプラストミルを用い温度150〜180℃、時間1〜60min混合することにより得ることができる。
【0027】
また、本発明の樹脂組成物は、本発明の目的範囲内で、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、そり)、電気的性質等の性能の改良のため無機又は有機充填剤を配合したものでもよく、これには目的に応じて繊維状、粉粒状、板状の充填剤が用いられる。なお、繊維状充填剤は直径が100nm以上であるものを指す。
【0028】
該繊維状充填剤としては、例えばガラス繊維、アスベスト繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維等の無機質繊維状物質が挙げられ、その中でも特にガラス繊維が好ましい。
【0029】
尚、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂などの高融点有機質繊維物質も使用することができる。
【0030】
粉粒状充填剤としては、例えば石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイト等の珪酸塩;酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩が例示される。
【0031】
板状充填剤としては、例えばマイカ、ガラスフレーク等が例示される。
【0032】
これら無機充填剤は目的に応じて1種又は2種以上併用することができる。
【0033】
本発明においては熱可塑性樹脂との親和性を高めるためシランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤による繊維表面の処理を行なうことが好ましい。該シランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤の量は、通常、繊維100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、特に好ましくは、0.03〜2重量部である。
【0034】
該シランカップリング剤、チタンカップリング剤としては、特に制限はなく、例えばγ−メルカプト−プロピル−トリメトキシシラン、2−スチリル−エチル−トリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノ−プロピル−トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル−トリメトキシシラン、γ−アミノプロピル−トリメトキシシラン、γ−グリシドキシ−プロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルパイロフォスフェート)チタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N,N−ジアミノエチル)チタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルフォスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルフォスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルフォスフェート)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)フォスフェートチタネート、ビス(ジオクチルパイロフォスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロフォスフェート)エチレンチタネート、チタニウムステアレート、(2−n−ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン等のチタンカップリング剤が例示される。これらの中でもシランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、チタニウムステアレート、(2−n−ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン等が好ましい。これらは二種以上を混合して使用することもできる。又、シランカップリング剤とチタンカップリング剤を併用することもできる。
【0035】
シランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤は、繊維と共に直接熱可塑性樹脂に添加するか、予めシランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤で該繊維を表面処理して使用することができる。また、繊維と共に他の無機物の添加剤を用いる場合には、繊維同様に、熱可塑性樹脂との親和性を高めるためにシランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤で表面処理しておくことが好ましい。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、加工特性、機械的、電気的及び熱的特性、表面特性並びに光安定性を改良するため更に本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤を配合し得る。このような添加剤としては、例えば微粒状充填材、強化充填材、可塑剤、滑剤、離型剤、付着促進剤、酸化防止剤、熱及び光安定剤、難燃剤、顔料、染料等が挙げられる。また、結晶化促進剤、結晶核剤等も要求性能に応じ適宜添加したものも本発明の組成物として使用できる。
【0037】
これら添加剤は、例えばプラスチック材料と一緒に、その製造の前にドライブレンド等により、あるいはその製造の途中又は後に混合し、プラスチック材料を可塑化して充填材と混合することで得ることができる。
【0038】
本発明の樹脂組成物の成形方法としては、押出成形、射出成形を好適に用いることができる。また、本発明の樹脂組成物は、一旦ペレットとして保存、流通させ、必要に応じて目的の形状に成形することもできる。本発明の樹脂組成物の成形にあたっては、フィルム状、或いは、シート状に成形する際には押出し成形、インフレーション成形、Tダイ成形、カレンダー加工、あるいは真空成形によって得ることができ、更にはプラスチック材料を溶媒に溶かし、その溶媒に充填材を懸濁させ、次いで溶媒を除去する方法によっても得ることができる。
【0039】
このようにして得られた本発明の樹脂組成物を用い、射出成形や押出成形、ブロー成形等で得られた成形品は、高い耐湿熱性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性、優れた放熱性を示す。この利点を生かして、例えば熱交換器、放熱板、光ピックアップ等といった内部で発生した熱を外部に放熱する部品に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明により、樹脂の絶縁性を犠牲にすることなく、高い熱伝導性を示す樹脂組成物を得ることが出来る。
【実施例】
【0041】
以下に実施例によって本技術を具体的に述べる。
【0042】
本発明に用いたアルミウムイソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、ジメチルジクロロシラン、メチルアミン、メタノール、エタノール、ヘキサン、キシレン、無水テトラヒドロフラン(THF)、塩化リチウム溶液、ブチルリチウムヘキサン溶液は和光純薬製の試薬を用い、1,1−ジメチルシラシクロブタンは信越化学(株)製品を用いた。
【0043】
シランカップリング剤は、ビニルトリメトキシシラン(VTMS)(日硝産業(株)製、(商品名)TSL8310)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(AMTES)(日硝産業(株)製、(商品名)TSL8331)を、
チタンカップリング剤は、チタニウムステアレート(TS)(日本曹達(株)製、(商品名)S−151)、(2−n−ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン(2BCBOTBT)(日本曹達(株)製、(商品名)S−181)を用いた。
【0044】
なお、チタンカップリング剤はトルエンに溶解した5重量%溶液を用いて、シランカップリング剤と同様の手法で繊維の表面処理に使用した。
【0045】
また、ポリマー、無機粒子には下記のものを使用した。
【0046】
鹸化エチレン酢酸ビニル共重合体;東ソー(株)製、(商品名)メルセンH6820
高密度ポリエチレン:東ソー(株)製、(商品名)ニポロンハード1000
ポリフェニレンサルファイド(PPS):東ソー(株)製、サスティールB−60
ポリアセタール樹脂(POM):東レ(株)製、アミラスS781
ポリエチレンテレフタレート(PET):東洋紡(株)製、(商品名)バイロペットEMC355
酸化アルミニウム粒子:キンセイマテック(株)製、セラフ00610、直径600nm
酸化チタニウム粒子:石原産業(株)製、R−680、直径210nm。
【0047】
実施例及び比較例で用いた評価・測定方法を以下に示す。
【0048】
〜熱伝導率の測定〜
熱伝導率測定装置(アルバック社製、(商品名)TC7000;ルビーレーザー)を用い、23℃の条件下で、レーザーフラッシュ法により測定した。厚み方向の熱伝導率は、1次元法により、厚み方向の熱拡散率αを求め、また、平面方向の熱伝導率は二次元法により、平面方向の熱拡散率α’を求めて、次式により算出した。
【0049】
厚み方向の熱伝導率=ρ・Cp・α
平面方向の熱伝導率=ρ・Cp・α’
ここで、密度ρはASTM D−792 A法(水中置換法)により測定した。また、CpはDSC測定により求めた。
【0050】
〜電気抵抗値の測定〜
JISK6701の方法に従い、平行端子電極法により体積抵抗値ρv(Ω・m)を下記の関係式から求めた。
R=dρv/wt=V/I
ρv=Rwt/d=(V/I)・(wt/d)
ここで、Vは通電1分後の電位差(V)、wは試験片の幅(m)、tは試験片の厚さ(m)、Iは通電1分後の電流値(I)、dは電位差電極間の距離(m)を表す。
【0051】
製造例1 酸化アルミニウム繊維の製造例
アルミニウムイソプロポキシド5gをエタノール5gに溶解させた後、水2gを加えてホモジナイザーで攪拌した。得られた溶液を、メルセンH6820 5gをトルエン30gに溶解させた溶液に加え、4時間攪拌した。その後、シリンジでこの溶液10mlを採取し、このシリンジの先端、及びシリンジの対極に5cm離して設置した白金電極に5000ボルトを印加し、電界紡糸を行った。得られた繊維を電気炉中500℃で焼成し酸化アルミニウム繊維1.2gを得た。得られた繊維の直径を電子顕微鏡観察により測定した結果、50nmであることが分かった。
【0052】
製造例2 酸化チタニウム繊維の製造例
アルミニウムイソプロポキシド5gをチタニウムテトラブトキシド5gに変更した以外は、製造例1と同様の手法により直径50nmの酸化チタン繊維1gを得た。
【0053】
製造例3 酸化マグネシウム繊維の製造例
アルミニウムイソプロポキシド5gをマグネシウムエトキシド5.6gに変更した以外は、製造例1と同様の手法により直径70nmの酸化マグネシウム繊維1.8gを得た。
【0054】
製造例4 窒化珪素繊維の製造例
500mlのガラス反応器に、ジメチルジクロロシラン10g、キシレン200ml、及びジメチルアミン7gを加えて室温で2時間反応した後、反応液をろ過し、続いてメルセンH6820 1gを加えて溶解させた後に濃縮し、90mlのポリシラザン、及びメルセンが溶解したポリマー溶液を得た。この溶液を製造例1と同様に4000Vで電界紡糸した繊維を500℃で焼成し、直径80nmの窒化珪素繊維3.1gを得た。
【0055】
製造例5 窒化アルミニウム繊維の製造例
500mlのガラス反応器に、アルニウムイソプロポキシド10g、キシレン100ml、及びジメチルアミン2.2gを加えて、50℃で3時間反応し、続いてメルセンH6820 2.0gを加えて溶解させた後に、加熱減圧下で濃縮し、50mlのメルセン、窒化アルミニウムプリカーサが溶解した溶液を得た。この溶液を製造例1と同様に4500Vで電界紡糸した繊維を500℃で焼成し、直径60nmの窒化アルミニウム繊維1.9gを得た。
【0056】
製造例6 炭化珪素繊維の製造例
500mlのガラス反応器に、無水THF50ml、ヘキサン40ml、0.35モル/Lの塩化リチウム溶液10ml、1.0モル/L濃度のブチルリチウムヘキサン溶液2.5mlを添加し、更にモノマーである1,1−ジメチルシラシクロブタン10gを添加し、−48℃で1時間重合させた。その後、メタノール5mlを添加し反応を停止した。この溶液をろ過し、加熱減圧下で濃縮し、50mlのポリシラシクロブタン溶液を得た。この溶液を製造例1と同様に4500Vで電界紡糸した繊維を500℃で焼成し、直径75nmの炭化珪素繊維3.2gを得た。
【0057】
実施例1
製造例1で得た酸化アルミニウム繊維2gを高密度ポリエチレン48gと混合し、ラボプラストミルを用いて、180℃で10分間溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をプレス成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。このシートを用いて、その熱伝導性を評価した結果、1.6W/m・Kであった。また、体積抵抗値は0.95×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示した。
【0058】
実施例2
製造例2で得た酸化チタニウム繊維2gを高密度ポリエチレン48gと混合し、ラボプラストミルを用いて、180℃で10分間溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をプレス成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。このシートを用いて、その熱伝導性を評価した結果、1.4W/m・Kであった。また、体積抵抗値は0.96×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示した。
【0059】
実施例3
製造例3で得た酸化マグネシウム繊維5gを高密度ポリエチレン45gと混合し、ラボプラストミルを用いて、180℃で10分間溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をプレス成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。その熱伝導性と電気絶縁性を評価した結果、2.9W/m・Kであった。体積抵抗値は0.95×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示した。
【0060】
実施例4
製造例5で得た窒化アルミニウム繊維15gを高密度ポリエチレン35gと混合し、ラボプラストミルを用いて、180℃で10分間溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をプレス成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。その熱伝導性を評価した結果、5.0W/m・Kであった。また、体積抵抗値は0.92×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示した。
【0061】
実施例5
製造例4で得た窒化珪素繊維10gをPPS90gと混合し、ラボプラストミルを用いて、310℃で10分間溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を射出成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。その熱伝導性と電気絶縁性を評価した結果、2.2W/m・Kであった。体積抵抗値は5.2×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示した。
【0062】
実施例6〜12
実施例1〜5と同様の手法を用いて、表1に記載の処方により樹脂組成物を作成し評価した。その結果を表1に示す。
【0063】
実施例13
製造例1で得た酸化アルミニウム繊維2gにシランカップリング剤であるビニルトリメトキシシラン(VTMS)のメタノール溶液(濃度5重量%)を噴霧し、室温で乾燥した後、24時間放置し表面処理された繊維を得た。その後、高密度ポリエチレン48gと混合し、ラボプラストミルを用いて、180℃で5分間溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をプレス成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。このシートを用いて、その熱伝導性を評価した結果、2.3W/m・℃であった。また、体積抵抗値は0.94×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示した。さらに、溶融混練時間が5分と短く生産性に優れるものであった。
【0064】
実施例14
製造例2で得た酸化チタニウム繊維2gにシランカップリング剤VTMSのメタノール溶液(濃度5重量%)を噴霧し、室温で乾燥した後、24時間放置し表面処理された繊維を得た。その後、高密度ポリエチレン48gと混合し、ラボプラストミルを用いて、180℃で5分間溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をプレス成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。このシートを用いて、その熱伝導性を評価した結果、2.0W/m・℃であった。また、体積抵抗値は0.95×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示した。さらに、溶融混練時間が5分と短く生産性に優れるものであった。
【0065】
実施例15
製造例3で得た酸化マグネシウム繊維5gにシランカップリング剤VTMSのメタノール溶液(濃度5重量%)を噴霧し、室温で乾燥した後、24時間放置し、表面処理された繊維を得た。その後、高密度ポリエチレン45gと混合し、ラボプラストミルを用いて、180℃で5分間溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をプレス成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。その熱伝導性と電気絶縁性を評価した結果、4.0W/m・℃であった。体積抵抗値は0.96×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示した。さらに、溶融混練時間が5分と短く生産性に優れるものであった。
【0066】
実施例16
製造例5で得た窒化アルミニウム繊維15gにシランカップリング剤VTMSのメタノール溶液(濃度5重量%)を噴霧し、室温で乾燥した後、24時間放置し、高密度ポリエチレン35gと混合し、ラボプラストミルを用いて、180℃で5分間溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をプレス成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。その熱伝導性を評価した結果、8.5W/m・℃であった。また、体積抵抗値は0.94×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示した。さらに、溶融混練時間が5分と短く生産性に優れるものであった。
【0067】
実施例17〜24
実施例13と同様の手法を用いて、表2に記載の処方により樹脂組成物を作成し、評価した。その結果を表2に示す。何れも、高い熱伝導率及び優れた電気絶縁性を示した。また、溶融混練時間が5分と短く生産性に優れるものであった。
【0068】
比較例1
酸化アルミニウム粒子2gを高密度ポリエチレン48gと混合し、ラボプラストミルを用いて、180℃で10分間溶融混練した。得られた組成物をプレス成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。このシートを用いて、その熱伝導性と電気絶縁性を評価した。体積抵抗値は0.98×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示したが、熱伝導性は、0.3W/m・Kと劣っていた。
【0069】
比較例2
酸化チタニウム粒子2gを高密度ポリエチレン48gと混合し、ラボプラストミルを用いて、180℃で10分間溶融混練した。得られた組成物をプレス成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。このシートを用いて、その熱伝導性と電気絶縁性を評価した。体積抵抗値は0.97×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示したが、熱伝導性は0.4W/m・Kと劣っていた。
【0070】
比較例3
酸化チタニウム粒子15gを高密度ポリエチレン35gと混合し、ラボプラストミルを用いて、180℃で10分間溶融混練した。得られた組成物をプレス成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。このシートを用いて、その熱伝導性と電気絶縁性を評価した。体積抵抗値は0.90×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示したが、熱伝導性は0.6W/m・Kと劣っていた。
【0071】
比較例4
製造例1と同様の手法を用い、3000Vで電界紡糸により得た直径が100nmの酸化アルミニウム繊維2gを高密度ポリエチレン48gと混合し、ラボプラストミルを用いて、180℃で10分間溶融混練した。得られた組成物をプレス成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。このシートを用いて、その熱伝導性と電気絶縁性を評価した。体積抵抗値は0.94×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示したが、熱伝導性は0.8W/m・Kと劣っていた。
【0072】
比較例5
製造例4と同様の手法を用い、3000Vで電界紡糸により得た直径が200nmの窒化珪素繊維2gを高密度ポリエチレン48gと混合し、ラボプラストミルを用いて、180℃で10分間溶融混練した。得られた組成物をプレス成形し、10mm、厚さ1mmの円板を得た。このシートを用いて、その熱伝導性と電気絶縁性を評価した。体積抵抗値は0.94×1018(Ω・m)であり、優れた電気絶縁性を示したが、熱伝導性は0.7W/m・Kと劣っていた。
【0073】
比較例6〜8
表面処理された繊維を、粒径が90nmを超える繊維(粒子)とし、表2に記載の処方により樹脂組成物を作成し、評価した。その結果を表2に示す。何れも、熱伝導率に劣っていた。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、及び直径が90nm以下である繊維からなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
繊維が、シランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤で表面処理された繊維であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂98〜40重量%、直径が90nm以下である繊維2〜60重量%からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
繊維が酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化珪素から選ばれた少なくとも1種の繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
繊維が電界紡糸した後、焼成することによって得られる繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−179752(P2008−179752A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64403(P2007−64403)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】