説明

樹脂被膜付き鋼板の表面検査方法及びその表面検査装置

【課題】樹脂成分に依存して入射角度などを変更する必要がなく、鋼板地肌を精度良く検査すること。
【解決手段】樹脂被膜付き鋼板の表面検査方法は、所定の偏光角度で直線偏光されたシート状の光を被膜のブリュースター角度と所定の角度以上異なる入射角度で鋼板に照射する工程と、偏光角度0度の直線偏光を、入射光の正反射角度に対して所定の角度ずらした受光角度で撮像する工程とを含む。これにより、被膜からの反射が抑制され、被膜自体の異常を観察せず、鋼板の地肌を観察することができ、高精度な検査が可能になる。また、樹脂成分に依存して入射角度および受光角度を変更する必要がなく、鋼板地肌を精度良く検査することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な樹脂被膜付き鋼板の表面検査方法及びその表面検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板の表面検査においては、通常、正反射と拡散反射との両方を用いて検査する場合が多い。偏光を用いない通常の装置を樹脂コーティングされた鋼板の検査に使用すると、正反射においてコーティング表面の反射が強すぎ、鋼板地肌が隠されることによって、欠陥検出が困難になる。これは、例えば昼間に川面を観察すると、水面の反射が強くて川底が見えない現象と同じ現象である。
【0003】
ところで、偏光フィルタを用いて、鋼板の面に平行な偏光であるS偏光の反射を抑制する技術がある。この技術は、鋼板面に垂直な方向のP偏光のみを透過する偏光フィルタを受光側に用いることによって実現できる。これは、広く市販されている偏光眼鏡によって水面のS偏光の反射を抑制することによって、水底が見えるようになる現象と同じ現象である。
【0004】
これを工業的に実現したものとして、特許文献1及び特許文献2の検査方法がある。これらは、光源の角度をブリュースター角という特殊な角度に設定するものである。P偏光の反射はブリュースター角でゼロとなるため、受光側にS偏光をカットするP偏光方向のフィルタを設けることにより、コーティング被膜表面からの反射を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−26060号公報
【特許文献2】特開2002−214150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2の検査方法において設定されるブリュ−スター角度は、樹脂被膜の屈折率によって変化する性質がある。このため、被膜成分が異なる場合には、その度に光源の角度を設定し直さなければならない。受光側は、通常、光源角度に対応した受光角度を設定する必要があるので、受光側も受光角度の変更を余儀なくされる。従って、装置構成が複雑になる。一方、本願発明の発明者らの知見によれば、S偏光をカットできても、正反射角度においては、樹脂被膜そのものの厚み、成分又は何らかの異常が強く観察される。従って、この種の樹脂被膜付き鋼板の表面検査においては、解決すべき技術課題として次の2点がある。
(1)樹脂成分に依存して光源の入射角度および受光角度を変更しなければならない。
(2)正反射受光において、被膜部分の異常が見えてしまい、鋼板地肌の観察が困難になる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、樹脂成分に依存して入射角度などを変更する必要がなく、鋼板地肌を精度良く検査することを可能にした樹脂被膜付き鋼板の表面検査方法及びその表面検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る樹脂被膜付き鋼板の表面検査方法は、樹脂被膜付き鋼板を撮像して表面欠陥を検査する表面検査方法において、所定の偏光角度で直線偏光されたシート状の光を所定の入射角度で前記鋼板に照射する工程と、偏光角度0度の直線偏光を、入射光の正反射角度に対して所定の角度ずらした受光角度で撮像する工程とを含む。前記所定の入射角度は、前記被膜のブリュースター角度と所定の角度(例えば1度)以上異なることが好ましい。また、正反射受光角度から所定の角度(例えば10度以上)ずらした角度で前記鋼板表面を撮像する工程を、更に含むことが好ましい。
【0009】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る樹脂被膜付き鋼板の表面検査装置は、樹脂被膜付き鋼板を撮像して表面欠陥を検査する表面検査装置において、所定の偏光角度で直線偏光されたシート状の光を前記鋼板に所定の入射角度で照射する光源と、偏光角度0度の直線偏光を、入射光の正反射角度に対して所定の角度ずらした受光角度で撮像する第1の撮像装置とを備える。前記光源は、その入射角度が、前記樹脂被膜のブリュースター角度と所定の角度(例えば1度)以上異なる角度に設定されることが好ましい。また、正反射受光角度から所定の角度(例えば10度以上)ずらした角度で前記鋼板表面を撮像する第2の撮像装置を、更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る樹脂被膜付き鋼板の表面検査方法及びその表面検査装置によれば、所定の偏光角度で直線偏光されたシート状の光を所定の入射角度で鋼板に照射し、偏光角度約0度の直線偏光を入射光の正反射角度に対して所定の角度ずらした受光角度で撮像するようにしている。このため、本発明に係る樹脂被膜付き鋼板の表面検査方法及びその表面検査装置によれば、被膜からの反射が抑制され、被膜自体の異常を観察せず、鋼板の地肌を観察することができ、高精度な検査が可能になる。また、本発明に係る樹脂被膜付き鋼板の表面検査方法及びその表面検査装置によれば、樹脂成分に依存して入射角度および受光角度を変更する必要がなく、鋼板地肌を精度良く検査することができる。なお、本発明の好ましい形態によれば、シート状の光を被膜のブリュースター角度と所定の角度(例えば1度)以上異なる入射角度で鋼板に照射しており、このため安定した反射による検査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る樹脂被膜付き鋼板の表面検査装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、受光側に偏光フィルタを配置した場合の光学系の偏光状態を説明する図である。
【図3A】図3Aは、図2の光学系において偏光フィルタが無い場合のサンプル欠陥画像の例を示す図である。
【図3B】図3Bは、図2の光学系において偏光フィルタがある場合のサンプル欠陥画像の例を示す図である。
【図4】図4は、準正反射カメラの受光角度と欠陥画像との関係を示す図である。
【図5A】図5Aは、正反射の位置にカメラを配置した場合の樹脂被膜付き鋼板の画像の例を示す図である。
【図5B】図5Bは、拡散光を受光する位置にカメラを配置した場合の樹脂被膜付き鋼板の画像の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る樹脂被膜付き鋼板(以下、単に鋼板という)の表面検査装置の構成を示すブロック図である。この表面検査装置は、圧延、焼鈍、樹脂コーティングなどを経て、コイル状に巻き取られる直前の鋼板表面の欠陥検査に適用される。鋼板の両面には、トランスなどに使用される際に上下の鋼板と絶縁するために、樹脂被膜が形成されている。欠陥検査は鋼板の両面が対象になるが、図1の例においては、便宜上一方の表面を検査する事例について図示されている。
【0013】
この表面検査装置は、発光側に、シート状光源10及び偏光フィルタ11を備えている。シート状光源10は、複数のランプ、ランプ毎にライン状に並べられた光ファイバー束(以降バンドルファイバー)、及びシリンドリカルレンズを備え、全体としてシート状(ライン状)の光を出射するように形成されている。シート状光源10は、鋼板30に対する入射角が例えば60度になるように配置され、偏光フィルタ11を介してシート状の光を鋼板30に照射する。入射角を60度に設定した理由は、鋼板30の被膜のブリュースター角度と所定の角度(例えば1度)以上異なる入射角度にするためである。樹脂被膜の成分は、例えば透明なアクリル樹脂であり、そのブリュースター角度は、56.1度である。従って、鋼板30への光源の入射角度は60.0度に設定される。偏光フィルタ11は、例えば45度の偏光フィルタから構成されている。偏光フィルタ11は、シート状光源10と鋼板30との間、例えばシート状光源10の出射面に近接して配置され、シート状光源10からのシート状(ライン状)の光を直線偏光する。偏光角度は、鋼板の法線の方向を0(ゼロ)度とする。
【0014】
この表面検査装置は、受光側に、偏光フィルタ21、準正反射カメラ22、拡散カメラ23、及び画像処理装置24を備えている。偏光フィルタ21は、例えば約0度(−5乃至5度)の偏光角度に設定する。準正反射カメラ22は、ラインセンサから構成されている。準正反射カメラ22は、その受光角が例えば57.5度になるように配置され、偏光フィルタ21を介して鋼板30からの反射光に基づいた映像を撮影する。拡散カメラ23は、ラインセンサから構成され、その受光角が30度乃至50度の範囲になるように配置される。この例では受光角が40度になるように配置される。通常、拡散カメラ23と鋼板30の間には偏光フィルタは設けない。画像処理装置24は、準正反射カメラ22及び拡散カメラ23の出力を取り込んで画像処理し、表面欠陥の有無を判定する。準正反射カメラ22は本発明の第1の撮像装置、拡散カメラ23は本発明の第2の撮像装置に相当する。
【0015】
次に、偏光フィルタ21及び準正反射カメラ22を図1のように配置した技術的な意義を図2乃至図4に基づいて説明し、拡散カメラ23を図1のように配置した技術的な意義を図5に基づいて説明する。
【0016】
図2は、受光側に偏光フィルタ21を配置した場合の光学系の偏光状態を説明する図である。鋼板30のコーティング表面反射光はS偏光成分が多い。従って、偏光フィルタ21によりS偏光をカットすることによって、コーティング表面反射光は1/2以下になり、コーティング表面からの反射が抑制され、鋼板30の地肌が見やすくなる。
【0017】
図3A,図3Bはそれぞれ、図2の光学系において偏光フィルタが無い場合と有る場合の、同一サンプルの欠陥画像の例である。図3Aに示されるように、偏光フィルタ21が無い場合には、欠陥信号とノイズ信号との比S/Nが1.3になり、欠陥が見えにくくなる。しかし、図3Bに示されるように、偏光フィルタ21が有る場合にはS/Nが2.6になり、欠陥が見やすくなっている。
【0018】
図4は、準正反射カメラ22の受光角度と欠陥画像との関係を示した図である。図4においては、カメラの受光角度を60度(正反射受光)、59度、及び57.5度としたときの欠陥画像の例が図示されている。カメラの受光角度が60度のときには、S/Nが低く、欠陥を検出することができない。これに対して、カメラの受光角度を少しずつずらし、カメラの受光角度を59度、57.5度とするに従って、樹脂被膜の不均質に起因すると思われるノイズが見えにくくなり、S/Nが高くなる。カメラの受光角度を、正反射の位置から例えば2度乃至5度程度外すと、S/Nが改善されることが確認されている。その場合においても、前方拡散よりも後方拡散、すなわち受光角度が小さくなる方向に外す方が良好であることも確認されている。本発明においては、このように、正反射の位置から上記の角度をずらした状態を準正反射と称している。なお、5度を超えて傾けると正反射よりむしろ拡散反射の撮像となるので、準正反射で検出すべき欠陥が検出できなくなる可能性がある。
【0019】
図5A,図5Bはそれぞれ、拡散カメラ23の受光角度の説明図である。図5Aに示されるように、正反射の位置にカメラを配置すると、コーティングによる反射光が強く、鋼板の表面反射が隠れてしまう。その結果、カメラにより撮像された画像では、コーテイングムラが見えるが、地肌(欠陥)は見えないという状態になる。しかし、図5Bに示されるように、拡散光を受光する位置(正反射受光角度から所定の角度(例えば10度以上)ずらした角度)にカメラを配置すると、正反射光の影響が無くなり、地肌(欠陥)が良く見える状態になる。なお、図5A、図5Bの画像は、非欠陥部を撮像したものである。
【0020】
以上の説明により、本実施の形態における偏光フィルタ21、準正反射カメラ22、及び拡散カメラ23の技術的な意義が明らかになったところで、図1に戻って、画像処理装置24について説明する。
【0021】
画像処理装置24は、準正反射カメラ22及び拡散カメラ23がそれぞれ撮像した映像信号に画像処理を施し、輝度値を所定の閾値と対比することによって表面欠陥の有無を判定する。鋼板は、検査位置の上流において溶接されており、検査位置では連続的であるが、検査装置の下流でシャーによって切断されてコイルとして出荷される。このため、検査装置は、切断位置の情報を基にコイル毎に欠陥マップを作成し、欠陥数又は密度などの管理基準に照合して、顧客に出荷可能であるかどうかをコイル毎に判断する。画像処理装置24は、その判断結果を上位通信網を通じて出荷管理部門に伝送する。
【0022】
以上のように本実施の形態においては、偏光フィルタ11で所定の偏光角度(例えば45度)に直線偏光されたシート状の光を鋼板30に照射し、その反射光を偏光フィルタ21で偏光し、偏光角度約0度の直線偏光を、入射光の正反射角度に対して所定の角度ずらした受光角度で準正反射カメラ22により撮像するようにしている。このため、被膜表面からの反射が抑制され、被膜自体の異常を観察せず、鋼板30の地肌を観察することができるようになり、高精度な検査が可能になる。特に、本実施の形態においては、光源側に約45度の直線偏光を用いて、P偏光とS偏光との割合を光源側で約1:1に安定させ、且つ、ブリュースター角度を避けた角度で入射する構成を採用している。このため、被膜表面反射の抑制効果が安定して得られる。本願発明の発明者らの知見によれば、このような効果は、偏光フィルタ11の偏光角度を、30乃至60度の間の角度に設定すると、ほぼ良好である。なお、シート状光源10からの光の入射角は40〜85°の範囲内とすることが好ましい。
【0023】
また、本実施の形態においては、シート状光源10からシート状の光を被膜のブリュースター角度と1度以上異なる入射角度で鋼板に照射しており、安定した反射による検査が可能になっている。ブリュースター角度を設定して検査する方法には以下の課題があるが、上記のように本実施の形態においてはこれらの課題が全て解決されている。
(1)ブリュースター角度は、P偏光反射がゼロになるピンポイントの微妙な角度であり、設定には0.1度未満の入射角度の精度を要する。入射角度がブリュースター角度から0.1度外れると、樹脂表面からP偏光が反射されて鋼板の地肌が見えにくくなる。鋼板のような大規模な製造ラインにおける工業的応用では、入射角度の維持が困難であるために、検査結果が不安定となる。
(2)樹脂の成分毎に異なるブリュースター角度の設定が必要となり、装置が複雑化する。
(3)樹脂の厚みに依存した模様が検出されるため、充分な検査が困難である。
【0024】
本実施の形態においては、正反射受光角度から所定の角度ずらした角度で鋼板表面を拡散カメラ23により撮像することによって、高精度な検査が可能になる。また、拡散カメラ23による撮像と準正反射カメラ22による撮像とを組み合わせることによって、更に高精度な検査が可能になる。
【0025】
また、本実施の形態においては、上記のように被膜付き鋼板の安定した表面検査が可能になっている。このため、顧客への品質保証レベルが向上し、かつリアルタイムで製品品質が把握可能になって、工程内の異常発見が早められて歩留り、生産性が向上する。
【0026】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、このように、本実施形態に基づいて当業者などによりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0027】
10 シート状光源
11 偏光フィルタ
21 偏光フィルタ
22 準正反射カメラ
23 拡散カメラ
24 画像処理装置
30 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂被膜付き鋼板を撮像して表面欠陥を検査する表面検査方法において、
所定の偏光角度で直線偏光されたシート状の光を前記鋼板に照射する工程と、
偏光角度0度の直線偏光を、入射光の正反射角度に対して所定の角度ずらした受光角度で撮像する工程と
を含む樹脂被膜付き鋼板の表面検査方法。
【請求項2】
前記シート状の光を、前記被膜のブリュースター角度と所定の角度以上異なる入射角度で、前記鋼板に照射する請求項1に記載の樹脂被膜付き鋼板の表面検査方法。
【請求項3】
正反射受光角度から所定の角度ずらした角度で前記鋼板表面を撮像する工程を、更に含む請求項1又は2に記載の樹脂被膜付き鋼板の表面検査方法。
【請求項4】
樹脂被膜付き鋼板を撮像して表面欠陥を検査する表面検査装置において、
所定の偏光角度で直線偏光されたシート状の光を前記鋼板に照射する光源と、
偏光角度0度の直線偏光を、入射光の正反射角度に対して所定の角度ずらした受光角度で撮像する第1の撮像装置と
を備えた樹脂被膜付き鋼板の表面検査装置。
【請求項5】
前記光源は、その入射角度が、前記樹脂被膜のブリュースター角度と所定の角度以上異なる角度に設定される請求項4に記載の樹脂被膜付き鋼板の表面検査装置。
【請求項6】
正反射受光角度から所定の角度ずらした角度で前記鋼板表面を撮像する第2の撮像装置を、更に備えた請求項4又は5に記載の樹脂被膜付き鋼板の表面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2011−227058(P2011−227058A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45436(P2011−45436)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】