説明

樹脂被覆長尺体

【課題】断面の一部に樹脂が被覆されていない箇所が設けられていても被覆樹脂層が外れる恐れが小さく、且つ製造を簡便に行うことができる樹脂被覆長尺体を提供する。
【解決手段】抜け止め溝21に被覆樹脂層1の一部が入り込んでいることで、断面の一部に樹脂が被覆されていない無被覆部3が設けられていても被覆樹脂層1が外れる恐れが小さくできるが、抜け止め溝21の開口部211を覆って被覆樹脂層1が設けられることで、抜け止め溝21に溶融樹脂を流入させる成形を行うのに複雑な金型を必要とせず単なる被覆成形にて行うことができ、また抜け止め溝21の開口部211と被覆樹脂層の端縁11とが異なる位置に設けられていることで、抜け止め溝21の開口部211付近の成形後の樹脂ひけ等が顕著なものとなりにくいことから成形時の条件設定等が繁雑とならず、製造を簡便なものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属などのパイプ状物の表面に樹脂を被覆されると共に、断面の一部に樹脂が被覆されていない箇所が設けられている樹脂被覆長尺体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属などのパイプ状物の表面に樹脂を被覆してなる樹脂被覆長尺体としては、例えば予め金属芯材の形状に合わせて成形した樹脂成形体を、芯材に嵌め込むことによって被着する手すりは、簡便で施工性もよく、着脱も可能であるため、広く用いられている。このとき樹脂成形体を芯材に被着させる方法として、まず、芯材に開口部や溝を設けておき、被着させる樹脂成形体側にその開口部や溝に合わせて引っかけられるような爪を形成させ、その爪を開口部や溝に引っ掛けて被着させる樹脂成形体を固定する方法が用いられてきている(例えば特許文献1及び2)。
【0003】
また、断面の一部に樹脂が被覆されていない箇所が設けられている樹脂被覆長尺体としては、例えば本出願人による特許文献3において、内部が中空かつその長手方向に沿って開口部を有したパ
イプ状長尺体の、開口部を除く部分に樹脂が被覆された樹脂被覆長尺体であって、パイプ状長尺体の開口部端部には被覆された樹脂の一部が入り込んで被覆樹脂が係止された係止溝が設けられており、前記係止溝の内部には溝入口部に比べて溝断面が大きい係止部が設けられており、該係止部まで被覆樹脂の一部が入り込むことによって、被覆樹脂の脱離を防止することができるようになされている樹脂被覆長尺体が開示されている(例えば特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】特開平9−144265号公報
【特許文献2】特開2000−170341号公報
【特許文献3】特開2005−262805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のような従来の樹脂被覆長尺体では、樹脂成形体を芯材に嵌め込むことによって被着する手すりは、使用中や施工時などに樹脂成形体の爪の部分が芯材から外れてしまうようなケースが多々見受けられていた。
【0006】
これを防ぐために同時押出などによってパイプ状の芯材表面を完全に覆うように樹脂を被着させてもよいが、このようにすると手摺を壁などに取り付けたり支えたりする部品などを手摺に取り付ける場所がない。このような場合は、例えば手摺の外周をぐるりと回した部品などで固定すればよいのであるが、外観が損なわれたり、手摺に段差が出来てしまったりするため、あまり好ましいとは言い難い。
【0007】
また特許文献3の樹脂被覆長尺体では、係止溝内に被覆樹脂の一部が入り込んでいることで、断面の一部に樹脂が被覆されていない箇所が設けられていても被覆樹脂が容易に取れないようになされているが、被覆樹脂が下方に開口した係止溝に入り込まされるので、係止溝付近の外形を成形する金型の形状が複雑なものとなって、製造時において形成を行う設備の設計や、成形時の条件の設定が繁雑になる恐れがあった。
【0008】
本発明は上記の如き課題に鑑みてなされたものであり、断面の一部に樹脂が被覆されていない箇所が設けられていても被覆樹脂層が外れる恐れが小さく、且つ製造を簡便に行うことができる樹脂被覆長尺体を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成としている。すなわち、本発明に係わる樹脂被覆長尺体は、金属製の芯材の外面に合成樹脂を用いて被覆樹脂層が形成され、断面の一部に被覆樹脂層が設けられていない無被覆部が設けられると共に、前記芯材の被覆樹脂層の端縁と無被覆部との境界付近に蟻溝状の抜け止め溝が設けられ、抜け止め溝に被覆樹脂層の一部が入り込んでいる樹脂被覆長尺体であって、該抜け止め溝の開口部を覆って被覆樹脂層が設けられると共に、抜け止め溝の開口部と前記被覆樹脂層の端縁とが異なる位置に設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明に係わる樹脂被覆長尺体によれば、抜け止め溝に被覆樹脂層の一部が入り込んでいることで、断面の一部に樹脂が被覆されていない無被覆部が設けられていても被覆樹脂層が外れる恐れが小さくできるが、抜け止め溝の開口部を覆って被覆樹脂層が設けられることで、抜け止め溝に溶融樹脂を流入させる成形を行うのに複雑な金型を必要とせず単なる被覆成形にて行うことができ、また抜け止め溝の開口部と前記被覆樹脂層の端縁とが異なる位置に設けられていることで、抜け止め溝の開口部付近の成形後の樹脂ひけ等が顕著なものとなりにくいことから成形時の条件設定等が繁雑とならず、製造を簡便なものとすることができる。
【0011】
また前記被覆樹脂層は、接着性の合成樹脂を用いて形成されたものであれば、抜け止め溝による抜け止めに加え、被覆樹脂層自体が芯材に接着することで、更に被覆樹脂層が芯材から外れる恐れを小さくでき好ましい。
【0012】
また前記被覆樹脂層は、芯材と密着する内層と、内層の外側に設けられた外層とを備え、前記内層が接着性の合成樹脂を用いて形成されていれば、芯材に被覆樹脂層を接着するのに用いる接着性樹脂の量を少なくして経済的に優れるものとでき好ましい。
【0013】
また前記芯材は、断面矩形であって、該矩形の三面の外側に被覆樹脂層が設けられると共に、残りの一面が無被覆部となされていれば、樹脂被覆長尺体を構造物等に取り付ける場合に、芯材を構造物に密着させて取り付けることができ、取り付けを堅牢なものとすることができるようになり好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係わる樹脂被覆長尺体によれば、抜け止め溝に被覆樹脂層の一部が入り込んでいることで、断面の一部に樹脂が被覆されていない無被覆部が設けられていても被覆樹脂層が外れる恐れが小さくできるが、抜け止め溝の開口部を覆って被覆樹脂層が設けられることで、抜け止め溝に溶融樹脂を流入させる成形を行うのに複雑な金型を必要とせず単なる被覆成形にて行うことができ、また抜け止め溝の開口部と前記被覆樹脂層の端縁とが異なる位置に設けられていることで、抜け止め溝の開口部付近の成形後の樹脂ひけ等が顕著なものとなりにくいことから成形時の条件設定等が繁雑とならず、製造を簡便なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係わる最良の実施の形態について、図面に基づき以下に具体的に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係わる樹脂被覆長尺体の、実施の一形態を示す断面図である。まず樹脂被覆長尺体10は、パイプ状で同一断面が連続して長尺に形成された、断面矩形のアルミニウム合金製の芯材2の外面に、合成樹脂を用いて被覆樹脂層1が押出成形により設けられて形成されたものであり、芯材2の断面の一部には被覆樹脂層1が設けられていない無被覆部3が設けられると共に、被覆樹脂層1と無被覆部3との境界付近の芯材2の外面には抜け止め溝21が設けられ、抜け止め溝21に被覆樹脂層1の一部が入り込んでいる。抜け止め溝21の開口部211は被覆樹脂層1に覆われると共に、被覆樹脂層1の端縁11は無被覆部3を挟んだ芯材2の角部24にそれぞれ設けられている。抜け止め溝21は、芯材2の角部24よりやや中央側に開口されていることで、被覆樹脂層1の端縁11と開口部211とは異なる位置に設けられている。
【0017】
抜け止め溝21は、開口部211の幅より内室部212の幅のほうが広くなされることで、入り込んだ被覆樹脂層1の一部が抜け止め溝21から抜けにくくなされると共に、内室部212も奧側から手前側に漸次幅広となされた開口部211側を底辺とする台形形状となされていることで、更に被覆樹脂層1の一部が抜けにくくなされて被覆樹脂層1が芯材2から外れにくくなされている。芯材2の中空部分には、断面の中央を横断するようにリブ22が設けられて強度が高められると共に、管状体の端部に蓋体をビス止めするためのビスホール23が一体に設けられている。
【0018】
被覆樹脂層1が、抜け止め溝21の外側を覆って設けられていることで、押出成形や射出成形等、合成樹脂を溶融させることで抜け止め溝21内に溶融樹脂を流入させて被覆樹脂層1を形成する場合に、金型の内面を複雑な形状とする必要がなく形成に係わる設備の設計が容易なものとなり、また被覆樹脂層1の端縁11と抜け止め溝21の開口部211とが異なる位置となることで、冷却時の樹脂引け等の成形後に生じる不具合が抜け止め溝21の開口部211付近に集中することが回避され、製造時の条件設定を比較的緩やかなものとして製造を簡便に行うことができるようになされる。
【0019】
被覆樹脂層1は、適宜の合成樹脂を用いて形成してよいが、熱成形時に溶融して蟻溝状の抜け止め溝21内に流入可能となる熱可塑性合成樹脂を用いるのが好ましく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、AAS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等を用いることができる。また被覆樹脂層1の形成に用いる合成樹脂として、金属材料との接着性を有する熱可塑性合成樹脂を用いれば、芯材2表面と被覆樹脂層1とが接着して、被覆樹脂層1を更に外れにくくすることができ、また被覆樹脂層1の浮きによる外観の悪化や被覆樹脂層1の破損を防ぐこともできる。金属材料との接着性を有する熱可塑性合成樹脂としては、例えばEVA(エチレン酢酸ビニルコポリマー)、PVB(ポリビニルブチラール)、無水マレイン酸等で変性した変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、
EAA樹脂等のα−オレフィンと不飽和カルボン酸の共重合体などを用いることができる。また被覆樹脂層1には、シリカ粉末、マイカ粉末、タルク、ガラスファイバー、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、クレー、鉱物、マイクロバルーン、金属粉、木粉、パルプ等のセルロース粉末等の充填材を適宜配合してもよい。
【0020】
芯材2は、金属製で抜け止め溝21が設けられていれば特に限定されるものではなく鉄鋼、アルミニウム、ステンレス、亜鉛、チタン等の金属材料を用いて形成してよいが、蟻溝状の抜け止め溝21を設けるには金属押出成形により成形するのが好適であり、また押出成形の容易さ及び軽量であることから、アルミニウム若しくはアルミニウム合金を用いて形成するのが好ましい。また金属材料を用いた場合であっても、芯材2の表面には最大表面粗さが0.01〜0.1mm程度の微細な凹凸を設けて被覆樹脂層1との接触面積を大きくすると共に被覆樹脂層1の収縮による位置ずれを防いで被覆樹脂層1の芯材2からの剥離を防止するようにしておくのが好ましい。
【0021】
図2は、図1に示した樹脂被覆長尺体の、構造物への取り付けの一例を示す断面図である。樹脂被覆長尺体10は、芯材2が断面矩形となされると共に該矩形の三面の外側に被覆樹脂層1が設けられ、残りの一面が無被覆部3となされているものであるが、芯材2の一面に被覆樹脂層1が設けられず無被覆部3となされている。この無被覆部3には、蟻溝状の取付溝31が設けられると共に、この取付溝31に摺動自在に取付金具32が挿入され、取付金具32に設けられたねじ孔33に構造物Sに挿通されたボルト34が螺着されることで構造物Sへの取り付けが行われる。取付溝31の両側には平坦な当接面35が形成され、平坦な構造物Sへ取り付けられた際には、構造物Sの平面と当接面35とが当接されて安定した取り付け状態となされるが、更に芯材2の一面が無被覆部3となされ、被覆樹脂層1の端縁11が当接面35と同じ位置か又は中央側となされていることで、構造物Sと芯材2(当接面35)との間に被覆樹脂層1が介在することがなく、ボルト34を緊結しても被覆樹脂層1のクリープ変形によるボルト34の緩みが防止され、長期に亘って樹脂被覆長尺体10が構造物Sに安定して取り付けられるようになされる。
【0022】
図3は、本発明に係わる樹脂被覆長尺体の、他の実施形態を示す断面図である。樹脂被覆長尺体10の被覆樹脂層1は、芯材2と密着する内層13と、内層13の外側に外面と密着して設けられた外層12とを備え、内層13と外層12とが相溶して一体となされると共に、内層13が接着性の合成樹脂を用いて形成されることで芯材2と内層13とが接着されているものである。被覆樹脂層1を内層13及び外層12の複数層とすることで、比較的高価な接着性樹脂の量を少なくして経済的に優れたものとできると共に、外層12に耐候性の高い合成樹脂を用いることで樹脂被覆長尺体10の劣化を抑制することができる。また内層13を形成する接着性の合成樹脂は、上述の金属材料との接着性を有する熱可塑性合成樹脂を用いるのが好ましい。更にまた外層12には、合成樹脂の他に上述のような充填材を配合して、例えば金属粉を配合して外観に金属感を持たせたり、木粉を配合して触感を木質感のものにしたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係わる樹脂被覆長尺体の、実施の一形態を示す断面図である。
【図2】図1に示した樹脂被覆長尺体の、構造物への取り付けの一例を示す断面図である。
【図3】本発明に係わる樹脂被覆長尺体の、他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 被覆樹脂層
11 端縁
12 外層
13 内層
2 芯材
21 取付溝
211 開口部
3 無被覆部
10 樹脂被覆長尺体
S 構造物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の芯材の外面に合成樹脂を用いて被覆樹脂層が形成され、断面の一部に被覆樹脂層が設けられていない無被覆部が設けられると共に、前記芯材の被覆樹脂層の端縁と無被覆部との境界付近に蟻溝状の抜け止め溝が設けられ、抜け止め溝に被覆樹脂層の一部が入り込んでいる樹脂被覆長尺体であって、該抜け止め溝の開口部を覆って被覆樹脂層が設けられると共に、抜け止め溝の開口部と前記被覆樹脂層の端縁とが異なる位置に設けられていることを特徴とする樹脂被覆長尺体。
【請求項2】
前記被覆樹脂層は、接着性の合成樹脂を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆長尺体。
【請求項3】
前記被覆樹脂層は、芯材と密着する内層と、内層の外側に設けられた外層とを備え、前記内層が接着性の合成樹脂を用いて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆長尺体。
【請求項4】
前記芯材は、断面矩形であって、該矩形の三面の外側に被覆樹脂層が設けられると共に、残りの一面が無被覆部となされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂被覆長尺体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−213198(P2008−213198A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50915(P2007−50915)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】