説明

樽型複合構造体をレイアップするための方法及び装置

【課題】航空機のための胴体セクションといった樽型複合構造体をレイアップ(積層)するための方法及び装置を提供する。
【解決手段】上に複合レイアップが形成されうる内側ツール表面を有するOMLモールド26を提供すること、及びマニピュレータ30をモールドの内側を通って移動させることによって、回転体複合構造体が製造される。マニピュレータのエンドエフェクタを用いて複合材料がツール表面に付着され、そして当該エンドエフェクタはツール表面上で周方向に動かされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して複合部品の製造に関し、より特定すると、航空機のための胴体セクションといった樽型複合構造体をレイアップ(積層)するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
胴体樽型セクションといった回転体複合構造体は、完成した構造体の内側モールドライン(IML)を画定するマンドレルの外側ツール表面上にレイアップされうる。自動繊維配置(AFP)機械を用いて、マンドレルの回転中に繊維テープ又は麻くず状の複合材料をツール表面に付着させることができる。これらのマンドレルは、自立式であり、AFP機械によって加えられる力と開始/停止減速の両方に反応しなければならず、その結果、それらの製造は比較的大規模、複雑、且つコスト高である。また、追加の外部ツール据付が、構造体の外側モールドライン(OML)上に所望の表面を形成するために必要となりうる。例えば、航空機胴体セクションの場合、外部ツール据付が、構造体のOML(外側モールドライン)上に空気力学的表面を作成するために必要となりうる。また、相当な土台と、大きなモータ及びブレーキが、マンドレルの比較的大きな回転質量を支え且つ回転させるために必要となり、及びマンドレルを工場の作業場に移動させるために大きなクレーンが必要となりうる。上述した不都合に加えて、マンドレルが回転できる速度はそれらの大きな動質量により制限されているため、レイアップ速度及び生産速度は制限される。
【0003】
複合構造体のOMLに相当するマンドレルの内側樽型ツール表面上に複合材料をレイアップするために、他の生産装置が考案された。当該装置は、カンチレバー支持式ガントリーに取り付けられたAFPヘッドを用いて、マンドレルの回転中に内側ツール表面(内側モールドライン)に複合材料を付着させる。よって、当該装置もまた、ツール表面の周方向に複合材料を付着させるために、比較的巨大なマンドレルの回転に依存し、その結果、複合材料が回転中のマンドレルの外側ツール表面に付着されるという生産技術の不都合を数多く呈する。
【0004】
したがって、比較的巨大なマンドレルの回転に依存しない樽型複合構造体を形成するための方法及び装置が必要である。また、複合材料のレイダウン速度を上げ且つ生産効率を引き上げるとともに、ツール据付コストを低減する方法及び装置が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4699683号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007−0029030号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2010−0230043号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2010−0224716号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2009−0211698号明細書
【特許文献6】国際公開第03/106115号
【特許文献7】国際公開第02/22320号
【特許文献8】国際公開第2004/056538号
【特許文献9】国際公開第03/066289号
【特許文献10】国際公開第02/058895号
【特許文献11】米国特許第6412363号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
開示される実施形態は、AFP(自動繊維配置)ヘッドを用いて固定されたOMLモールドツール(成形型)に複合材料を付着することによって、樽型複合構造体をレイアップする方法及び装置を提供する。OMLモールドツール上に複合レイアップを形成することより、完成した構造体のOML表面を修正するための追加のツールの必要性が低減されうる。OMLモールドツールの固定取り付けにより、ツールの回転に必要とされる機構が不要になる。AFPヘッドをツール表面上で動かすための連続回転マニピュレータの使用は、複合材料の連続レイアップを可能とし、よってレイアップ速度及び生産効率が上がる。生産効率は、ツール表面上でのAFPヘッドの高動的動作を提供するPKM(パラレル運動機械)タイプのマニピュレータの使用によって更に高まる。固定されたOMLモールドツールの使用は、PKMマニピュレータによって発生される高重力への反応により適している。PKMマニピュレータによって生成された高G力は、レイアップ速度が増すにつれて複合材料に付加的な接着圧力を付与するのに役立ちうる。OMLモールドツールの固定取り付けは、自立式である必要がなく、また回転中のツールの緊急停止減速によって生じる慣性負荷に反応する必要がないため、ツールの質量を低減しうる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示される実施形態の1つによると、回転体複合構造体の製造方法が提供される。当該方法は、上に複合レイアップが形成されうる内側ツール表面を有するOMLモールドを提供すること、及びマニピュレータをモールドの内側を通って移動させることを含む。当該方法は更に、マニピュレータのエンドエフェクタを用いて複合材料をツール表面に付着させることを含み、これはエンドエフェクタをツール表面上で周方向に移動させることを含む。当該方法は更に、レイアップの形成中にOMLモールドを固定して保持することを含む。マニピュレータをモールド内で移動させることは、マニピュレータをOMLモールドの長手軸に沿って略直線的に変位させることを含む。マニピュレータを略直線的に変位させることは、マニピュレータを支持体上に取り付けることと、支持体を用いてマニピュレータの直線移動をガイドすることとによって実行される。
【0008】
別の実施形態によると、樽型複合構造体の製造方法が提供される。当該方法は、構造体の外側モールドラインを画定する内側表面を有する樽型モールドを提供すること、及びモールドを実質的に固定して保持することを含む。当該方法は更に、モールドが実質的に固定して保持されている間にモールドの内側表面上に複合レイアップを形成することを含む。レイアップの形成は、自動アプリケータヘッドを用いて複合材料をモールドの内側表面に付着させること、及びマニピュレータを用いてアプリケータヘッドをモールド内を通って移動させ且つ内側表面に複合材料を付着させることを含む。
【0009】
更なる実施形態によると、航空機の樽型胴体セクションの製造方法が提供される。当該方法は、上に複合レイアップが形成されうる樽型内側モールド表面を有するモールドを提供すること、及びマニピュレータをモールドの内側を通って略直線的に移動させることを含む。当該方法は更に、マニピュレータのアプリケータヘッドを用いてモールド表面に複合材料を付着させることを含み、これはモールドが固定されたままである間にアプリケータヘッドをモールド表面上で周方向に移動させることを含む。
【0010】
また別の実施形態によると、マンドレル上に複合材料をレイアップする方法が提供される。当該方法は、OMLモールドを提供すること、OMLモールド内で軸に沿って軸方向に及び軸の周りを回転して移動するようにレイアップヘッドを位置決めすること、複合材料をOMLマンドレル上にレイアップすることを含む。当該方法は更に、レイアップヘッド・エンドエフェクタをリストと連結すること、及びリストを少なくとも1つのアームに連結することを含む。当該方法は更に、アームが軸に対して回転して及び/又は軸方向に移動し及び/又は軸に対するその方向を変更できるように、少なくとも1つのアームを軸の周りに連結することを含む。
【0011】
また別の実施形態によると、樽型複合構造体を製造するための装置が提供される。当該装置は、構造体の外側モールドラインを画定する樽型内側ツール表面を有するモールド、及び複合材料をツール表面に付着させるための複合材料アプリケータヘッドを備える。当該装置は更に、モールド表面上でヘッドを周方向に移動させる手段を含む、アプリケータヘッドを操作するためのマニピュレータ、及びモールドの内側を通って移動するようにマニピュレータを取り付けるための手段を備える。
【0012】
更に別の実施形態によると、航空機の胴体を製造するための装置が提供される。当該装置は、概ね開口した内部と、上に湾曲した複合胴体レイアップが形成されうる湾曲した内側モールド表面とを有する固定モールドを備える。当該装置は更に、モールドを固定位置に保持するための手段、及び複合材料を湾曲した内側モールド表面に付着させるための複合材料アプリケータヘッドを備える。当該装置はまた、内側モールド表面上でアプリケータヘッドを移動させるためのマニピュレータ、及びモールドの開口内部を通ってマニピュレータをガイドするための手段を含む。
【0013】
本発明は、
上に複合レイアップが形成されうる内側ツール表面を有するOMLモールドを提供することと、
マニピュレータをモールドの内側を通って移動させることと、
マニピュレータのエンドエフェクタを用いて複合材料をツール表面に付着させることであって、エンドエフェクタをツール表面上で周方向に移動させることを含むことと、
を含む、樽型複合構造体の製造方法に関する。
【0014】
本発明は更に、
レイアップの形成中にOMLモールドを固定して保持すること
を更に含む、上述の方法に関する。
【0015】
本発明は更に、マニピュレータをモールド内で移動させることが、マニピュレータをOMLモールドの長手軸に沿って略直線的に変位させることを含む、上述の方法に関する。
【0016】
本発明は更に、マニピュレータを略直線的に変位させることが、
支持体上にマニピュレータを取り付けることと、
支持体を用いてマニピュレータの直線移動をガイドすることと、
によって実行される、上述の方法に関する。
【0017】
本発明は、
構造体の外側モールドラインを画定する内側表面を有する回転体モールドを提供することと、
モールドを実質的に固定して保持することと、
モールドが実質的に固定して保持されている間にモールドの内側表面上に複合レイアップを形成することであって、
自動アプリケータヘッドを用いて複合材料をモールドの内側表面に付着させることと、
マニピュレータを用いてアプリケータヘッドをモールド内を通って移動させ且つ内側表面に複合材料を付着させることと、
を含むことと、
を含む、回転体複合構造体の製造方法に関する。
【0018】
本発明は更に、マニピュレータを用いてアプリケータヘッドを移動させることが、マニピュレータを略直線的な経路に沿ってモールドを通って移動させることを含む、上述の方法に関する。
【0019】
本発明は更に、マニピュレータを直線的な経路に沿って移動させることが、マニピュレータをモールドの内側を通る支持体に沿ってガイドすることを含む、上述の方法に関する。
【0020】
本発明は更に、マニピュレータを用いてアプリケータヘッドを移動させることが、マニピュレータを用いてアプリケータヘッドをモールドの内側表面上で周方向に移動させることを含む、上述の方法に関する。
【0021】
本発明は更に、
アプリケータヘッド及びマニピュレータを、当該アプリケータヘッド及び当該マニピュレータに制御信号を無線送信することにより制御すること
を更に含む、上述の方法に関する。
【0022】
本発明はまた、
上に複合レイアップが形成されうる樽型内側モールド表面を有するモールドを提供することと、
マニピュレータをモールドの内側を通って略直線的に移動させることと、
マニピュレータのアプリケータヘッドを用いてモールド表面に複合材料を付着させることであって、モールドが固定されたままである間にアプリケータヘッドをモールド表面上で周方向に移動させることを含むことと、
を含む、航空機の樽型胴体セクションの製造方法に関する。
【0023】
本発明は更に、
アプリケータヘッドがモールド表面上で周方向に移動させられている間、モールドを固定して保持すること
を更に含む、上述の方法に関する。
【0024】
本発明は更に、アプリケータヘッドをモールド表面上で周方向に移動させることが、マニピュレータをモールドの長手軸の周りを回転させることによって実行される、上述の方法に関する。
【0025】
本発明は更に、マニピュレータを略直線的に移動させることが、
マニピュレータを支持体上に取り付けることと、
支持体を用いてマニピュレータの直線移動をガイドすることと、
によって実行される、上述の方法に関する。
【0026】
本発明は、
OMLモールドを提供することと、
OMLモールド内で軸に沿って軸方向に及び軸の周りを回転して移動するようにレイアップヘッドを位置決めすることと、
複合材料をOMLマンドレル上にレイアップすることと、
を含む、マンドレル上に複合材料をレイアップする方法に関する。
【0027】
本発明は更に、
レイアップヘッド・エンドエフェクタをリストと連結すること
を更に含む、上述の方法に関する。
【0028】
本発明は更に、
リストを少なくとも1つのアームに連結すること
を更に含む、上述の方法に関する。
【0029】
本発明は更に、
アームが軸に対して回転して及び/又は軸方向に移動し及び/又は軸に対するその方向を変更できるように、少なくとも1つのアームを軸の周りに連結すること
を更に含む、上述の方法に関する。
【0030】
本発明はまた、
構造体の外側モールドラインを画定する樽型内側ツール表面を有するモールドと、
複合材料をツール表面に付着させるための複合材料アプリケータヘッドと、
モールド表面上でヘッドを周方向に移動させる手段を含む、アプリケータヘッドを操作するためのマニピュレータと、
モールドの内側を通って移動するようにマニピュレータを取り付けるための手段と、
を備えた、樽型複合構造体を製造するための装置に関する。
【0031】
本発明は更に、
モールドを支持表面上に固定して取り付けるように構成された手段
を備えた、上述の装置に関する。
【0032】
本発明は更に、マニピュレータがパラレル運動機械を含む、上述の装置に関する。
【0033】
本発明は更に、パラレル運動機械が、
共通軸の周りを回転する第一、第二及び第三のアームと、
アームとアプリケータヘッドの間に枢動可能に連結されたリンクと、
を含む、上述の装置に関する。
【0034】
本発明は更に、取り付け手段が、
その反対端に支持されるように構成され且つモールドの長手軸と実質的に一直線上に並ぶ、細長い支持体と、
支持体に沿って移動するように取り付けられたキャリッジと、
を含み、マニピュレータはキャリッジに取り付けられている、上述の装置に関する。
【0035】
本発明は、
概ね開口した内部と、上に湾曲した複合胴体レイアップが形成されうる湾曲した内側モールド表面とを有する固定モールドと、
モールドを固定位置に保持するための手段と、
複合材料を湾曲した内側モールド表面に付着させるための複合材料アプリケータヘッドと、
内側モールド表面上でアプリケータヘッドを移動させるためのマニピュレータと、
モールドの開口内部を通ってマニピュレータをガイドするための手段と、
を備えた、航空機の胴体を製造するための装置に関する。
【0036】
本発明は更に、
ガイド手段が、モールドの長手軸と一直線上に並んだ支持ガイドを含み、及び
マニピュレータが、支持ガイド上に支持され且つ支持ガイドに沿って移動するように取り付けられた管状ベースを有するSCARA Tau型のパラレル運動機械を含む、
上述した装置に関する。
【0037】
本発明は、
内側OMLツール表面を有するマンドレルを提供することと、
マンドレルの固定取り付けによって樽セクションのレイアップ中にマンドレルの移動を防止することと、
細長い支持体ガイドを、その長手軸をマンドレルの長手軸と一直線上に並べてマンドレル内に位置決めすることと、
PKMマニピュレータを、支持体ガイドに沿って直線的に移動し且つ支持体ガイドの周りに回転するように取り付け、管状ベースを支持体ガイド上に設置することと、
リストを、複数の動作自由度を有するマニピュレータ上に取り付けることと、
自動繊維配置ヘッドをリスト上に取り付けることと、
マニピュレータを支持体ガイドに沿って直線的に移動させることと、
マニピュレータを用いてヘッドをツール表面上で移動させることであってことと、
ヘッドを用いて複合材料をツール表面に付着させることと、
を含む、航空機胴体の複合樽型セクションのレイアップ方法に関する。
【0038】
本発明は、
樽型セクションの外側モールドラインを画定する樽形状内側ツール表面を有するマンドレルと、
マンドレルの内部を通って延び、且つその長手軸がマンドレルの長手軸と一直線上に並べられた、細長い支持体ガイドと、
支持体ガイドを支持するための、支持体ガイドの反対端にある支持体と、
管状ベース、ベース上で共通軸の周りを回転するように取り付けられた少なくとも3つのアーム、作業プラットフォーム、及びアームをプラットフォームと接続するリンクを有するSCARA Tau型のパラレル運動機械と、
管状ベースを、支持体ガイドに沿って直線的に移動するように取り付けるキャリッジと、
複数の動作自由度を有するプラットフォーム上に取り付けられたリストと、
複合材料をツール表面に付着させるための複合材料アプリケータヘッドと、
を備えた、航空機胴体の複合樽型セクションをレイアップするための装置に関する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】開示する実施例による、樽型複合構造体をレイアップするための装置の機能ブロック図を示す。
【図2】航空機のための樽型胴体セクションの斜視図を示す。
【図3】樽型複合構造体をレイアップするための方法の簡単なフロー図を示す。
【図4】図1に示した装置の斜視図を示す。
【図5】図4に示した、マンドレルの内側ツール表面上に複合材料をレイダウンするマニピュレータ、リスト及びヘッドのブロック図を示す。
【図6】破線で概略的に示されるマンドレルとの関連で示されたマニピュレータの側面図を示し、明確にするためにAFPヘッドは図示されていない。
【図7】図6に示したマニピュレータの拡大等角図を示す。
【図8】図4の線8−8に沿った縦断面図を示す。
【図9】マニピュレータの代替取り付け方法を示す縦断面図を示す。
【図10】図1及び4〜9に示した装置の制御要素形成部分のブロック図を示す。
【図11】航空機生産及び実用稼動(サービス)手順のフロー図である。
【図12】航空機のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
最初に図1を参照して、開示する実施例は、本明細書においてOMLモールド26と称されることもあるOMLモールドツール26上に、回転体複合構造体をレイアップするための装置20に関する。ここで用いられる「回転体」とは、平面又は複素曲線(図示せず)を同一平面上にある軸(図示せず)の周りで回転させることによって得られる構造体を指す。図示した実施例で、回転体は、図2に示された樽型セクション44といった樽型構造体として開示されているが、他の回転体、例えば及び限定するものではないが先端の切れた錐体といったものも想定される(図示せず)。
【実施例1】
【0041】
図2に示された樽型複合セクション44は、航空機胴体(図示せず)の一部を成してよく、OMLツール26上にレイアップされる複数の積層プライ(図示せず)を備える。樽型セクション44は、プライダブラー又は補強を成す個々のプライセクション46を含みうる。説明の簡単化及び簡易化のために、用語「樽」「樽型」及び「樽セクション」はこれより、開示される方法及び装置によって製造されうる全ての複合回転体の形状を述べるために用いられ、円筒形状又は樽のような形状の意味に限定することを意図するものではない。
【0042】
図1に示した装置20は更に、ガイド支持体54によってOMLモールド26の開口内部24内でOMLモールド26の長手軸34に沿って双方向運動32するように取り付けられた、ロボット又は工作機械と称されることもあるマニピュレータ30を備える。AFPヘッド28の形態のエンドエフェクタが、マニピュレータ30によって担持されるリスト29上に取り付けられる。リスト29は、AFPヘッド28を複数軸(図示せず)に沿って又はその周りを移動させることができる。AFPヘッド28は、プリプレグテープ、繊維又は繊維麻くずの形態の複合材料22をOMLモールド26の内側ツール表面26aに付着させる、当該技術分野で良く知られた種類の自動繊維配置機械を備えうる。本実施例で、ツール表面26aは略円筒形状であり、その結果、略樽型のレイアップが形成される。後に詳述するが、マニピュレータ30は、OMLモールド26の長手軸34の周りを完全に又は連続的に回転可能であり、それによりAFPヘッド28は、OMLモールド26が固定されている間に複合材料22を、矢印55で示されたように円周方向に、又は所要の角度でツール表面26aに付着させることができる。
【0043】
次に、樽型複合構造体44のレイアップ方法の全体的なステップを概略的に示す図3を見る。ステップ36から開始して、図示された実施形態で円筒形状又は樽型を有する所望の回転面に相当するツール表面26a(図1)を有するOMLモールド26が提供される。ステップ38で、OMLモールド26が、工場の作業場といった適切な支持体又は土台(図示せず)上に固定して取り付けられる。ステップ40で、マニピュレータ30が、OMLモールド26内で直線移動するように取り付けられる。ステップ42で、AFPヘッド28が、OMLモールド26の内側ツール表面26a上にプライ(図示せず)をレイアップするために用いられる。このレイアップ工程は、モールド26の長手軸34に沿って又はそれに平行して直線的にマニピュレータ30を移動させること、及びマニピュレータ30を用いてAFPヘッド28を、ツール表面26a上で図1で矢印55によって示されたように円周方向に移動させ、OMLモールド26の実質的に全周で、ツール表面26a上に複合材料をレイアップすることを含む。これらの直線及び円周方向の移動は協調されてよく、よってマニピュレータ30は、ツール表面26a上で所望の角度で移動される。
【0044】
図4は、図1に示した装置20を更に詳細に示したものである。ガイド支持体54は、工場の作業場48または他の土台に支持された支柱56に固定された対向する両端を有する円筒形状管を備えうる。他の実施形態で、ガイド支持体54は、複数の支持体要素(図示せず)を備えてよく、及び/又は、他の断面形状を有してよい。OMLモールド26は、土台48に載り且つOMLモールド26に固定された架台50によって工場の作業場48上に固定取り付けされる。OMLモールド26の固定取り付けのための他の技術も可能である。
【0045】
マニピュレータ30は、ガイド支持体54を袖状に覆う管状ベース52によってガイド支持体54上に取り付けられる。管状ベース52は、OMLモールド26の長手軸34(図1)に相当する参照番号45によって示される座標系のZ軸に沿った直線移動と、Z軸の周りの回転の両方をするようにマニピュレータ30をガイド支持体54上に取り付ける。図4に示されたように、リスト29はマニピュレータ30上に取り付けられ、AFPヘッド28は、特定のアプリケーションの要件に応じて複数方向での運動の自由(自由度)を有しうるリスト29上に取り付けられている。後に詳述するが、マニピュレータ30は、矢印57の方向並びにツール表面26a上の円周方向55に、OMLモールド26の内部24を通ってZ軸に沿って直線的にAFPヘッド28を移動させる。これらの組み合わされた運動によって、アプリケータヘッド28は実質的にツール表面26a全体を旋回移動することができる。
【0046】
図5は、ヘッド28及びリスト29を示す。ヘッド28は、ツール表面26aに麻くず又はスリットテープ22の群をレイダウンできる複数の周知の繊維配置機械のいずれかを備えうる。例えば、アプリケータヘッド28は、以下に開示するアプリケータに類似するか又はその特徴を有してよく、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる:1987年10月13日発行の米国特許第4699683号、2007年2月8日公開の米国特許出願公開第2007−0029030号、2010年9月16日公開の米国特許出願公開第2010−0230043号、2010年9月9日公開の米国特許出願公開第2010−0224716号、及び2009年8月27日公開の米国特許出願公開第2009−0211698号。
【0047】
次に、マニピュレータ30を更に詳細に示した図6及び7を見る。図6及び7に示された特定のマニピュレータ30は、SCARA(選択的コンプライアンス組み立てロボットアーム)Tauと称されるタイプのパラレル運動機械(PKM)である。PKM機構は、エンドエフェクタ(図示せず)が少なくとも2つの独立した運動学的鎖によってベース(図示せず)に接続されている閉ループ機構として定義されうる。SCARAタイプのPKMマニピュレータは、物体の傾斜を変えずに物体を移動及び回転することでよく知られている。SCARAタイプのマニピュレータは、直列に連結された運動学的リンクを備え、且つ通常、x、y、z方向での4つの自由度と、Z軸に平行な軸の周りでの物体の回転とを有する。SCARA Tau PKM形式は、高速なレイアップ動作及びより良いレイアップ生産性を生む非常に高動的動作を可能とする。このマニピュレータ形式は、その移動質量が比較的低く、且つ慣性中心が、当該アプリケーションでOMLモールド26の長手軸34(図1)に相当する動作軸に近接していることにより、高動力学が可能である。
【0048】
マニピュレータ30は、概して、対応する回転ベアリング68,70,72によって管状ベース52上に直列にそれぞれ取り付けられた3つのアーム62,64,66を備える。リスト29及びヘッド28が取り付けられうる作業プラットフォーム80(図6及び7には図示せず)は、一連のリンク74,76,78,79によってアーム62,64,66のそれぞれに枢動可能に接続される。より特定すると、単一のリンク74は、回転の軸となる接続部84によってそれぞれアーム62の端部とプラットフォーム80とに枢動可能に連結された対向する端部を有する。2つの平行するリンク76のそれぞれは、回転の軸となる接続部84によってそれぞれアーム64の端部とプラットフォーム80とに枢動可能に接続された対向する端部を有する。最後に、第一及び第二の平行するリンク78及び第三の平行するリンク79は、回転の軸となる接続部84によってそれぞれ第三のアーム66の端部と作業プラットフォーム80とに接続された対向する端部を有する。多数の他のアーム及びリンクの組合せが可能である。
【0049】
適切なSCARA Tauタイプのマニピュレータ30の操作に関する更なる詳細及び説明は、以下の公報に見出され、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる:2003年12月24日公開の国際公開第03/106115号、2002年3月21日公開の国際公開第02/22320号、2003年4月1日発行の米国特許第6540471号、2004年7月8日公開の国際公開第2004/056538号、2003年8月14日公開の国際公開第03/066289号、2002年8月1日公開の国際公開第02/058895号、及び2002年7月2日発行の米国特許第6412363号。
【0050】
次に図8を参照して、アーム62,64,66のそれぞれは、対応する回転ベアリング68,70及び72によって管状ベースに取り付けられる。電気モータ86,88,90は、アーム62,64,66を管状ベース52の周りに回転させるリングギア108,110及び112を回動する対応するピニオン85,87,89を駆動する。管状ベース52は、管状シリンダベース52内に位置決めされた電気モータ98によって駆動されるキャリッジ96を用いてガイド支持体54に沿って直線移動するように取り付けられる。電気ケーブル102,106は、モータ86,88,90及びAFPヘッド28(図4)といった電子部品を、後述する場外コントローラ116(図10)と連結するケーブル鎖92に担持されている。1つ又は複数のスイベル118がワイヤ102,106をケーブル鎖92からマニピュレータ30へと経路付けし、且つマニピュレータ30がガイド支持体54に沿って移動する間にワイヤ102,106が捩れたり、もつれたり、巻いたりしないように旋回する。スイベル出力ロック115は、ワイヤ102,106がもつれたり延びたりしないようにスイベル118の回転する出力セクション115aをロックする。
【0051】
開示したSCARA Tau形式のマニピュレータ30は、アーム62,64,66及び3−2−1構成のリンク74,76,78,79の配置を有し、これにはリスト29は6つの自由度を有することが必要である。3−2−1構成とは、アーム62,64,66のそれぞれに取り付けられるリンク74,76,78の数を指す。また別の形式を用いて、非心質量を下げ、マニピュレータ30の慣性モーメントの時間を低減することができる。例えば、各アーム62,64,66は、別個のモータ(図示せず)上にテープで留められてよく、作業プラットフォーム80に傾斜と回転が付与される。また、アーム62,64,66の2つ又は3つは、例えばボールねじ(図示せず)を用いた伸縮自在なものであってもよい。これによっても作業プラットフォームに傾斜と回転が付与され、また他の利点もある。
【0052】
使用において、回転マニピュレータ30によって発生する高重力は、固定OMLモールド26によって反応される。よって、マニピュレータ30は、より軽微な機構でより高い速度及び重力を達成しうるか、又は更なる重力を支えうる(例えばクリール材料(creel material))。増加する重力はまた、更に、レイアップ速度が増すにつれ、複合材料に接着圧力を付与するのに役立ちうる。
【0053】
マニピュレータの水平取り付けが図4、6、7及び8に示されているが、図9に示されたようにマニピュレータ30を垂直操作するように取り付けることが可能である。当該実施形態で、ガイド支持体54は、略垂直に配され且つベース114上に支持される。OMLモールド26は、OMLモールド26の長手軸34と実質的に同軸のガイド支持体54に沿って直線移動するように位置決めされたマニピュレータ30を有する支持体50上に固定取り付けされる。
【0054】
次に、装置20の追加の構成要素及び制御要素を示す図10を見る。アプリケータヘッド28、リスト29及びマニピュレータ30は、場外コントローラ116と電気接続されてよく、当該コントローラは、限定するものではないがPC(パソコン)、PLC(プログラマブル論理コントローラ)、又は他の適切な種類のコントローラを含みうる。他の実施形態で、コントローラ116はマニピュレータ30上に取り付けられうる。スイベル接続118は、マニピュレータ30のガイド支持体54に対する位置及び/又は移動に関係なく、アプリケータヘッド28、リスト29及びマニピュレータ30上の電気部品とコントローラ116との間の電気接点を維持する図8に示されたスイベル接続118と同様であってよい。コントローラ116が場外にあるのではなくマニピュレータ30上に取り付けられているこれらの実施形態では、単一のスイベル接続118だけが、電力を電源124からモータ/ブレーキ122に供給するのに必要とされうる。
【0055】
マニピュレータ30は、追加のスイベル接続118を介してコントローラ116にフィードバックされるアーム62,64,66(図8)の位置といった、マニピュレータ30の1つ又は複数の要素の位置を決定する機能を果たすレゾルバ及び/又はエンコーダ120を含みうる。同様に、モータ86,88,90及び98並びに対応するブレーキ122は、追加のスイベル接続118によって適切な電力源124に連結されうる。いくつかのアプリケーションでは、スイベル接続118を使用する替わりに、マニピュレータ30上に取り付けられた受信機/送信機126と、コントローラ116と連結された地上の受信機/送信機128との間でプロセス制御及びフィードバック信号を無線送信することが可能でありうる。
【0056】
次に図11及び12を参照して、開示された実施形態は、図11に示された航空機製造及び実用稼動方法130及び図12に示された航空機132に関連して使用されうる。生産前において、例示的方法130は、航空機の仕様及び設計134及び資材調達136を含みうる。生産中、航空機132の部品及びサブアセンブリの製造138、及びシステム統合140が行われる。ステップ138では、開示された方法及び装置を用いて胴体セクションといった複合部分を製造でき、該部分は次にステップ140で組み立てられる。その後、航空機132は、実用稼動144するために認証及び搬送142を経る。顧客による実用稼動中、航空機132は、日常保守及びアフターサービス146(改良、再構成、改修等も含みうる)が予定されうる。
【0057】
方法130の各工程は、システムインテグレータ、第三者、及び/又はオペレータ(例えば顧客)によって実行又は遂行されうる。本明細書において、システムインテグレータとは、限定するものではないが任意の数の航空機製造業者及び主要システム下請け業者を含んでよく、第三者とは、限定するものではないが任意の数のベンダー、下請け業者及びサプライヤーを含んでよく、そしてオペレータとは、航空会社、リース会社、軍事体、サービス組織等であってよい。
【0058】
図12に示されたように、例示的方法130によって生産された航空機132は、複数のシステム150を有した機体148及び内部152を含みうる。開示された方法及び装置を用いて、機体148の一部を成す胴体セクションが製造されうる。高レベルのシステム150の例には、1つ又は複数の推進システム154、電気システム(系統)156、油圧システム(系統)158、及び環境システム160が含まれる。任意の数の他のシステムも含まれうる。航空機の例が示されているが、本発明の原理は、自動車産業といったほかの産業に適用可能である。
【0059】
本明細書で具体化された装置は、生産及び実用稼動方法130のいずれか1つ又は複数の段階中に使用されうる。例えば、生産工程138に対応する部品又はサブアセンブリは、航空機132が実用稼働中に生産される部品又はサブアセンブリと同様の方法で製作又は製造されうる。また、1つ又は複数の装置実施形態は、生産段階138及び140で、例えば実質的に航空機132の組み立てを促進するか又はコストを軽減することに利用されうる。同様に、1つ又は複数の装置実施形態は、航空機132の実用稼働中に、例えば及び限定するものではないが保守及びアフターサービス146で利用されうる。
【0060】
本開示の実施形態は特定の例示的実施形態について説明したが、特定の実施形態は例示を目的としたものであり、限定するものではなく、当業者は他の変形も考えうることを理解されたい。
【符号の説明】
【0061】
20 装置
22 複合材料、麻くず、スリットテープ
24 開口内部
26 OMLモールドツール(型)
26a 内側ツール表面
28 アプリケータヘッド、AFPヘッド
29 リスト
30 マニピュレータ
32 双方向運動
34 長手軸
44 樽型複合セクション
45 座標系
46 各プライセクション
48 工場作業場、土台
50 架台、支持体
52 管状ベース
54 ガイド支持体
56 支柱
62,64,66 アーム
68,70,72 回転ベアリング
74,76,78,79 リンク
80 作業プラットフォーム
85,87,89 ピニオン
86,88、90 電気モータ
92 ケーブル鎖
98 電気モータ
102,106 電気ケーブル、ワイヤ
115 スイベル出力ロック
115a 回転する出力セクション
116 コントローラ
118 スイベル、スイベル接続
120 レゾルバ、エンコーダ
122 ブレーキ、モータ
124 電力源
126 マニピュレータ30上に取り付けられた受信機/送信機
128 コントローラ116と連結された地上の受信機/送信機
130 航空機製造及び実用稼動方法
132 航空機
134 仕様及び設計
136 資材調達
138 部品及びサブアセンブリの製造
140 システム統合
142 認証及び搬送
144 実用稼動
146 日常保守及びアフターサービス
148 機体
150 システム
152 内部
154 推進システム
156 電気システム
158 油圧システム
160 環境システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樽型複合構造体の製造方法であって、
上に複合レイアップが形成されうる内側ツール表面を有するOMLモールドを提供することと、
マニピュレータをモールドの内側を通って移動させることと、
マニピュレータのエンドエフェクタを用いて複合材料をツール表面に付着させることであって、エンドエフェクタをツール表面上で周方向に移動させることを含むことと
を含む方法。
【請求項2】
レイアップの形成中にOMLモールドを固定して保持することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
マニピュレータをモールド内で移動させることが、マニピュレータをOMLモールドの長手軸に沿って略直線的に変位させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
マニピュレータを略直線的に移動させることが、
マニピュレータを支持体上に取り付けることと、
支持体を用いてマニピュレータの直線移動をガイドすることと
によって実行される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
樽型複合構造体を製造するための装置であって、
構造体の外側モールドラインを画定する樽型内側ツール表面を有するモールドと、
複合材料をツール表面に付着させるための複合材料アプリケータヘッドと、
モールド表面上でヘッドを周方向に移動させる手段を含む、アプリケータヘッドを操作するためのマニピュレータと、
モールドの内側を通って移動するようにマニピュレータを取り付けるための手段と
を備えた装置。
【請求項6】
モールドを支持表面上に固定して取り付けるように構成された手段
を更に備えた、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
マニピュレータがパラレル運動機械を含む、請求項5に記載の装置。
【請求項8】
パラレル運動機械が、
共通軸の周りを回転する第一、第二及び第三のアームと、
アームとアプリケータヘッドの間に枢動可能に連結されたリンクと
を含む、請求項5に記載の装置。
【請求項9】
取り付け手段が、
その反対端に支持されるように構成されて、モールドの長手軸と実質的に一直線上に並ぶ細長い支持体と、
支持体に沿って移動するように取り付けられたキャリッジと
を含み、マニピュレータはキャリッジに取り付けられている、請求項5に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−71824(P2012−71824A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−185882(P2011−185882)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】