説明

橋梁と土工部分の伸縮連結構造

【課題】短時間でしかも低コストにて補修及び既設道路に対する新規施工が可能となり、沈下や不陸が生じた場合や橋梁に対する活荷重による曲がりに対しても滑らかな状態で順応する橋梁と土工部分の伸縮連結構造の提供。
【解決手段】橋台3に支持された橋梁端部から、その橋台3の背面の土工路盤30上に延長された延長床版10を有し、その延長床版10の先端を、土工路盤30上に設置した固定床版11に一体成型された延長床版受け部11a上に滑動可能に載荷させ、固定床版11と延長床版10との間に伸縮装置13を備え、延長床版10は、その道路軸方向の全長を複数に分割した形状の延長床版用プレキャストコンクリート版15をもって構成し、そのプレキャストコンクリート版15間を非接着の突合せ接合構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変化やコンクリートのクリープ、乾燥収縮による橋梁の伸縮を吸収させるために橋梁と土工部分との間に設ける伸縮連結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、橋桁の温度変化等による伸縮を吸収するために、橋桁と橋台との間に伸縮装置を設けていたが、伸縮装置が橋桁と橋台との隙間にあると、車両が通過する際にショックが発生して乗員に不快感を与えるとともに、騒音及び振動の発生による環境悪化が問題となっていた。
【0003】
このような問題を解決するものとして、従来、橋梁から土工部分上に伸びる延長床版を設け、その上長床版の先端と、土工部分上に設置した固定床版との間に伸縮装置を介在させたもの、即ち伸縮装置を橋梁と土工部分の間ではなく、土工部分上に置くようにしたものが開発されている(例えば特許文献1及び2)。
【特許文献1】特開2006−30747号公報
【特許文献2】特開2006−328867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の伸縮連結構造にあっては、延長床版の土工部分における滑動を許容する必要上及び土工部分の沈下においても平坦性を保つ必要上などの理由から、延長床版下にコンクリート製の底版を設置している。しかし、土工部分の沈下や不陸の発生は殆どの場合これを防止することができず、補修が必要となる場合が発生する。
【0005】
このように補修が必要となった場合や、既に使用に供されている既設道路における橋梁と土工部間に新たに上述した伸縮連結構造を設置する場合には、コンクリート製の底版を造成するために長時間を要し、長時間に亘る道路閉鎖を余儀なくされるという問題がある。
【0006】
また、長時間の道路完全閉鎖を防止できるものとして、延長床版をその幅員方向を複数に分割した形状のプレキャストコンクリート版を幅員方向に並べて設置することにより、道路を完全閉鎖することなく、部分的に補修を可能としたものも存在するが、これらの従来の構造にあっても、延長床版の道路軸方向の長さは、その全長又はそれに近い長さが一体の剛構造となっているため、活荷重による橋梁の曲げや、土工部分に沈下や不陸が生じた際の車両通行等によって延長床版に曲げ力が作用し、段差が生じたり、ひび割れが発生したりするという問題がある。
本発明は、このような従来の問題に鑑み、延長床版下の底版施工が不要となり、短時間でしかも低コストにて補修及び既設道路に対する新規施工が可能となり、沈下や不陸が生じた場合や橋梁に対する活荷重による曲がりに対しても、極端な段差を生じさせずに滑らかな状態で順応する橋梁と土工部分の伸縮連結構造の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載する発明の特徴は、橋台に支持された橋梁端部から、該橋台背面の土工路盤上に延長された延長床版を有し、該延長床版の先端を、前記土工路盤上に設置した固定床版に一体成型された延長床版受け部上に滑動可能に載荷させ、前記固定床版と延長床版との間に伸縮装置を備えてなる橋梁と土工部分の伸縮連結構造において、前記延長床版は、その道路軸方向の全長を複数に分割した形状の延長床版用プレキャストコンクリート版をもって構成し、該プレキャストコンクリート版間を非接着の突合せ接合構造とし、該プレキャストコンクリート版間を道路軸方向に向けたアンボンドPC緊張材をもって緊張することによって連結したことにある。
【0008】
請求項2に記載する発明の特徴は、前記請求項1の構成に加え、前記延長床版を構成する各プレキャストコンクリート版間にゴム状の弾性目地材を介在させていることにある。
【0009】
請求項3に記載する発明の特徴は、前記請求項1又は2のいずれか1の請求項の構成に加え、前記延長床版を構成する最も橋梁端部側に位置する最橋梁寄り端部側プレキャストコンクリート版と橋梁上面床版とは鉄筋によって連結させ、該最橋梁寄り端部側プレキャストコンクリート版には、その上面に開口させたPC緊張材端部定着用の凹部を設け、該凹部内にて前記アンボンドPC緊張材の一端を定着させていることにある。
【0010】
請求項4に記載する発明の特徴は、前記請求項1〜3のいずれか1の請求項の構成に加え、橋台背面の土工路盤上面と前記延長床版との間には合成樹脂シート及び/又は砂層、及び裏込めモルタルを介在させていることにある。
【0011】
請求項5に記載する発明の特徴は、前記請求項1〜4のいずれか1の請求項の構成に加え、前記各延長床版用プレキャストコンクリート版は、道路の幅員方向の全幅に至る長さを一体形成していることにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、請求項1のように、延長床版を、その道路軸方向の全長を複数に分割した形状の延長床版用プレキャストコンクリート版をもって構成し、該プレキャストコンクリート版間を非接着の突合せ接合構造とし、該プレキャストコンクリート版間を道路軸方向に向けたアンボンドPC緊張材をもって緊張することによって連結したことにより、土工部分の路盤の沈下や不陸の発生、更には活荷重による橋梁の屈伸の繰り返しに対して、柔軟にしかも局部的に急激な折れ曲がり段差が生じることなく順応することとなり、従来のようにひび割れなどの損傷が発生せず、車の走行性を大きく損なわない。
【0013】
また、請求項2のように、延長床版を構成する各プレキャストコンクリート版間にゴム状の弾性目地材を介在させることにより、プレキャストコンクリート版間のヒンジ構造が柔軟なものとなり、より大きな曲げに滑らかに順応することとなる。
【0014】
請求項3のように、延長床版を構成する最も橋梁端部側に位置する最橋梁寄り端部側プレキャストコンクリート版と橋梁上面床版とは鉄筋によって連結させ、該最橋梁寄り端部側プレキャストコンクリート版には、その上面に開口させたPC緊張材端部定着用の凹部を設け、該凹部内にて前記アンボンドPC緊張材の一端を定着させることにより、延長床版の組み立てを容易且つ迅速になし得、既設道路における伸縮連結構造の新設や補修に際し、道路閉鎖時間を短縮できる。
【0015】
請求項4のように、橋台背面の土工路盤上面と前記延長床版との間には合成樹脂シート及び/又は砂層、及び裏込めモルタルを介在させることにより、橋梁の伸縮にスムーズに順応して移動できる。
【0016】
更に請求項5のように、各延長床版用プレキャストコンクリート版は、道路の幅員方向の全幅に至る長さを一体形成することにより、施工現場における作業を少なくでき、より短時間での新設や取り換え補修作業ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に本発明の好適な実施形態を図面に基づいて具体的に説明する。
【0018】
図1は本発明を実施した伸縮連結構造の一例の全体の概略を示しており、図において符号1は橋桁、2は橋梁上面の床版、3は橋台である。橋台3には桁受け部3aが段状に形成されており、その上面に支承部材4を介して橋桁1が支持されている。橋台3の桁受け部前面に立ち上げた衝立部3bの頂面と橋桁1の上面の切欠き凹部1aに跨らせてプレキャストコンクリート製の枕版5が掛け渡されている。この枕版5はそのアンカーボルト6によって橋桁1に固定され、橋台3の上面との間にはゴム状弾性材からなる滑り用パッド7が介在され、橋桁の伸縮を拘束しないようになっている。尚、図中符号8はクッション材、9は伸縮材である。
【0019】
床版3の端部には、橋台背面の土工部分上面に延長させた延長床版10が一体的に備えられている。この延長床版10は枕版5上面を経て土工部分上面に伸びており、その先端は、土工部分の路面上に設置した固定床版11の片側に段状に形成された延長床版受け部11a上にゴム状弾性材からなる滑り用パッド12を介して載せられている。
【0020】
延長床版10の先端面10aと対向する固定床版11の立ち上がり面11bとの間には橋梁の温度変化伸縮が吸収できるだけの間隔aが設けられており、その間隔を跨ぐ配置に伸縮装置13が設置されている。尚、この伸縮装置13は間隔aを跨ぐ構造のもの他、間隔a内に収容される伸縮目地状の伸縮装置であっても良い。
【0021】
延長床版10は、その全体の道路軸方向を複数に分割した形状の複数のプレキャストコンクリート版15,15……をもって構成されている。これらのプレキャストコンクリート版15は、それぞれ道路幅員の全幅に亘って一定成型されており、両端には地覆16が一体に備えられている。
【0022】
各プレキャストコンクリート版15間にはゴム状の弾性目地材17が介在されて非接着の突合せ接合構造とし、延長床版10の道路軸方向に向けて全域に跨らせて肉厚内に挿通したPC緊張材18,18……をもって緊張することにより一体化されている。このPC緊張材18にはアンボンドケーブルが使用されている。このようにして弾性目地材17を介在させアンボンドケーブルからなるPC緊張材18による緊張によって一体化させることにより、各プレキャストコンクリート版15,15間をヒンジ結合状態としている。
【0023】
PC緊張材18による緊張は、最も橋梁端部側に位置する最橋梁寄り端部側プレキャストコンクリート版15aに、その上面に開口させたPC緊張材端部定着用の所要数の凹部20,20……を設け、各凹部20内にPC緊張材挿通孔を開口させ、そのPC緊張材挿通孔に通したPC緊張材18を凹部20内にて定着具21をもって定着させ、該PC緊張材18の他端側は、延長床版10の最先端側に位置する最先端側プレキャストコンクリート版15bの端面に形成した凹部22内にて定着具23により定着させている。尚、図中符号20aは定着作業の後に凹部20の開口部開口を閉鎖する蓋である
また、上記最橋梁寄り端部側プレキャストコンクリート版15aには、内部に埋設した多数の連結用鉄筋24を橋梁側端面に突出させておき、橋梁上面の床版2内に埋設する鉄筋26とオーバーラップさせてコンクリートを打設することにより床版2を構築することによって延長床版10と橋梁上面の床版2とを一体化させている。尚、延長床版10と床版2との一体化は、鉄筋同士をオーバーラップさせる他、鉄筋間を継ぎ手によって連結させることにより行ってもよい。
【0024】
枕版5と固定床版11との間の延長床版10の下には、突き固め土工路盤30上に敷設した砂層31、その上に敷設したビニールシートを使用した縁切り用シート32、更にその上にあって各プレキャストコンクリート版15の設置に際してその下面の空隙を埋めるために充填したモルタルからなるグラウト層33があり、その上に延長床版10が載荷されている。
【0025】
尚、延長床版10の設置に際しては、図には示してないが、突き固め土工路盤30を造成後、その上に砂層31を敷設してその上面を均し、その上に縁切り用シート32を敷設した後、その上にプレキャストコンクリート版15を設置し、レベル調整用のボルトなどのレベル調整具を使用してプレキャストコンクリート版15の設置水平度を調整し、しかる後、プレキャストコンクリート版15に設けたグラウト注入孔より、プレキャストコンクリート版15下の隙間にモルタルからなるグラウトを注入する。
【0026】
このように延長床版10下に縁切り用シート32や砂層31を敷設しておくことにより、橋梁の伸縮に対応した延長床版10の移動がスムーズになされる。また、路盤30が沈下した際には、延長床版10に持ち上げ用の作業孔をあけ、ジャッキを使用して所要の水平度を回復させ、それによって生じる下面の空隙にグラウトすることにより補修することができる。尚、縁切り用シートと砂層とは必ずしも共に設置する必要はなく、いずれか一方のみでも良い。
【0027】
上述したように、本発明では、このようにして各プレキャストコンクリート版15,15間を非接着の接合構造とし、且つPC緊張材18にて緊張することによってヒンジ構造にして延長床版10を構成しているため、土工部分の路盤の沈下や不陸の発生、更には活荷重による橋梁の屈伸の繰り返しに対して、柔軟にしかも局部的に急激な折れ曲がり段差が生じることなく順応することとなり、しかも、補修や既設橋梁における新たな伸縮連結構造の設置に際し、低コストで短時間に施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る橋梁と土工部分の伸縮連結構造を示す縦断面図である。
【図2】図1に示した伸縮連結構造におけるプレキャストコンクリート版の斜視図である。
【図3】図1に示す橋梁と土工部分の伸縮連結構造におけるPC緊張材の定着部及び橋梁床版と延長床版の連結部を示す部分省略断面図である。
【符号の説明】
【0029】
a 間隔
1 橋桁
1a 切欠き凹部
2 床版
3 橋台
3a 桁受け部
3b 衝立部
4 支承部材
5 枕版
6 アンカーボルト
7 滑り用パッド
8 クッション材
9 伸縮材
10 延長床版
10a 先端面
11 固定床版
11b 立ち上がり面
12 滑り用パッド
13 伸縮装置
15 プレキャストコンクリート版
15a 最橋梁寄り端部側プレキャストコンクリート版
16 地覆
17 弾性目地材
18 PC緊張材
20 凹部
21 定着具
22 凹部
23 定着具
24 連結用鉄筋
26 鉄筋
30 突き固め土工路盤
31 砂層
32 縁切り用シート
33 グラウト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋台に支持された橋梁端部から、該橋台背面の土工路盤上に延長された延長床版を有し、該延長床版の先端を、前記土工路盤上に設置した固定床版に一体成型された延長床版受け部上に滑動可能に載荷させ、前記固定床版と延長床版との間に伸縮装置を備えてなる橋梁と土工部分の伸縮連結構造において、
前記延長床版は、その道路軸方向の全長を複数に分割した形状の延長床版用プレキャストコンクリート版をもって構成し、該プレキャストコンクリート版間を非接着の突合せ接合構造とし、該プレキャストコンクリート版間を道路軸方向に向けたアンボンドPC緊張材をもって緊張することによって連結したことを特徴とてなる橋梁と土工部分の伸縮連結構造。
【請求項2】
前記延長床版を構成する各プレキャストコンクリート版間にゴム状の弾性目地材を介在させている請求項1に記載の橋梁と土工部分の伸縮連結構造。
【請求項3】
前記延長床版を構成する最も橋梁端部側に位置する最橋梁寄り端部側プレキャストコンクリート版と橋梁上面床版とは鉄筋によって連結させ、該最橋梁寄り端部側プレキャストコンクリート版には、その上面に開口させたPC緊張材端部定着用の凹部を設け、該凹部内にて前記アンボンドPC緊張材の一端を定着させている請求項1又は2のいずれかに記載の橋梁と土工部分の伸縮連結構造。
【請求項4】
橋台背面の土工路盤上面と前記延長床版との間には合成樹脂シート及び/又は砂層、及び裏込めモルタルを介在させている請求項1〜3の何れか1に記載の橋梁と土工部分の伸縮連結構造。
【請求項5】
前記各延長床版用プレキャストコンクリート版は、道路の幅員方向の全幅に至る長さを一体形成している請求項1〜4の何れか1に記載の橋梁と土工部分の伸縮連結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−240348(P2008−240348A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81971(P2007−81971)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】