説明

機上現像型の平版印刷版原版を用いる印刷方法

【課題】印刷スタート時の損紙を減少し、印刷物にムラを発生させないための、機上現像型平版印刷版原版の簡易な印刷方法を提供する
【解決手段】下記(i)から(v)の工程順に行う印刷方法。
(i)機上現像型平版印刷版原版を画像様に露光し、印刷機の版胴に装着する。
(ii)印刷機の湿し水供給手段である水着けローラー、水着けローラーに水を給水するローラー、水量を安定化させるためのローラー、及びメータリングローラーの少なくとものいずれかに、湿し水及び有機溶剤を含む水溶液の少なくともいずれかをスプレー供給する。
(iii)給水ローラーを回転させる。
(iv)水着けローラーを平版印刷版原版に接触させ、湿し水を供給する。
(v)平版印刷版原版にインキ着けローラーから印刷インキを供給し、印刷用紙を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機上現像型の平版印刷版原版を用いる印刷方法に関し、特に機上現像に伴う刷り出しの損紙が少なく、印刷物にムラを発生させない印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷機上で湿し水及びインキの少なくとも一方により現像しうる、いわゆる機上現像型の平版印刷版原版は、現像液を用いた現像工程を省略することができるため、製版時間が短縮され、また、現像処理装置及び現像液が不要なことによる、コスト低減等の利点があることから、平版印刷の生産性を向上させる手段として知られている。
【0003】
本発明に関わる機上現像型平版印刷版原版の現像メカニズムは以下のように考えられている。(1)水着け工程:水着けローラから版面へ供給された湿し水が画像記録層に浸透する。浸透が進むと画像記録層と支持体の界面に湿し水の層が生じ、画像記録層と支持体間の密着力を低下させる。(2)インキ着け工程:版面にインキ着けローラを接触させ、インキの粘性により支持体との密着力の低下した画像記録層を剥離除去し、現像が終了する。現像終了後はそのまま引き続きいて、通常の印刷工程により印刷物が得られる。
【0004】
このような機上現像の具体例としては、画像描画の済んだ機上現像可能な平版印刷版原版を印刷機シリンダーに取り付けて、印刷機の湿し水ローラを版面に接触させて湿し水を平版印刷版原版に供給し、そして印刷シリンダーを10回転させた後にインキローラを版面に接触させてインキを供給し、さらに10回の回転後に、非画像部の汚れのない印刷物が得られることが開示されている(特許文献1及び2参照。)。
【0005】
しかし、上述のような機上現像においては、汚れのない印刷物が得られるまでの印刷用紙枚数は、一般の湿式現像による製版で得た平版印刷版に比べて、数倍多くなる。これは、損紙枚数の増加であり、機上現像型平版印刷版原版のウィークポイントとなる。
【0006】
機上現像を促進させ、損紙枚数を少なくする方法として、水着け工程における湿し水の供給量を機上現像開始時は機上現像終了時に比べて大幅に多くする方法、機上現像時の印刷シリンダー(版胴)の周速度を変化させる方法、等が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
しかしながら、この方法のような通常の印刷シーケンスを用いる方法では、湿し水ローラーに局所的な磨耗あるいは変形がある場合に水上がりに局所的なムラが発生し、得られた平版印刷版からの印刷物にムラが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−123387号公報
【特許文献2】特開平9−123388号公報
【特許文献3】特開2004−314530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、機上現像可能な平版印刷版原版用いた印刷方法であって、機上現像性を良化(すなわち、印刷初期時の損紙枚数を減少)し、印刷物にムラを発生させないための簡易な印刷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1.アルミニウム支持体上に、印刷インキ及び湿し水の少なくともいずれかを供給することにより現像される画像記録層を有する平版印刷版原版の印刷方法であって、印刷開始時に下記(i)〜(v)の工程を、(i)(ii)(iii)(iv)(v)の順又は(i)(iii)(ii)(iv)(v)の順で行うことを特徴とする印刷方法。
(i)平版印刷版原版を画像様に露光した後、印刷機の版胴に装着する。
(ii)印刷機の湿し水供給手段である水着けローラー、水着けローラーに水を給水するローラー、水量を安定化させるためのローラー、及びメータリングローラーの少なくとものいずれかに、湿し水及び有機溶剤を含む水溶液の少なくともいずれかをスプレー供給する。
(iii)給水ローラーを回転させる。
(iv)水着けローラーを平版印刷版原版に接触させ、平版印刷版原版に水着けローラーから湿し水を供給する。
(v)インキ着けローラーを平版印刷版原版に接触させ、平版印刷版原版にインキ着けローラーから印刷インキを供給し、インキ着けローラーを平版印刷版原版に接触させるのと同時に又は接触させた後に、印刷用紙を供給する。
2.前記1に記載の印刷方法において、印刷開始時の(i)〜(v)の工程が(i)(ii)(iii)(iv)(v)の順であり、工程(iii)において給水ローラーを1〜50回転させた後、水着けローラーを平版印刷版原版に接触させることを特徴とする印刷方法。
3.前記1又は2のいずれかに記載の印刷方法において、工程(iv)で水着けローラーを平版印刷版原版に接触させた後に、一旦接触を解除し、解除してから30分以内に再度接触させることを特徴とする印刷方法。
4.工程(ii)で噴射する有機溶剤を含む水溶液の有機溶剤が、水と混和できる溶剤であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の印刷方法。
5.有機溶剤がアルコール溶剤、エステル溶剤、エーテル溶剤、又はケトン溶剤であることを特徴とする前記4に記載の印刷方法。
6.工程(ii)で噴射する湿し水が、印刷時に使用する湿し水と同一組成であり、高濃度であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の印刷方法。
7.画像記録層が赤外線吸収剤、重合開始剤、ラジカル重合性化合物、及びバインダーポリマーを含有することを特徴とする前記1〜6のいずれか1項に記載の印刷方法。
8.バインダーポリマーが、ポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイドを側鎖に有するアクリル樹脂バインダーであることを特徴とする前記7に記載の印刷方法。
9.平版印刷版原版が、アルミニウム支持体と画像記録層の間に、親水性基と支持体表面に吸着する基を有する高分子化合物を有する下塗り層を有することを特徴とする前記1〜8のいずれか1項に記載の印刷方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、印刷初期時の損紙枚数が減少し、印刷物にムラを発生させない簡易な印刷方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】エピックデルタ給水装置の概念図である。
【図2】アルカラー給水装置の概念図である。
【図3】コモリマチック給水装置の概念図である。
【図4】(株)コモリコーポレーション製平版印刷機Spica26に付帯のコモリマチック給水装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の印刷方法及びそれに用いる機上現像型平版印刷版原版について説明するが、最初に、本発明の印刷方法に関わる、印刷機の湿し水及びインキ供給機構について説明する。
【0013】
印刷機には、インキや湿し水をそれぞれの供給源から版胴に供給するための複数のローラー(インキローラー及び給水ローラー)が設けられている。これらのローラー群は駆動源から駆動力を伝達されて自ら回転する駆動ローラーと駆動ローラーに対して従動して回転する従動ローラーとが駆動ローラーに隣接して配設されている。
【0014】
そして各ローラー上のインキや湿し水を隣接するローラーの周面に次々と転写していくことによりインキや湿し水を版胴へ供給し、版胴からブランケット胴を介して印刷用紙に絵柄を印刷するようになっている。
【0015】
給水ローラーとは、印刷機において、互いに接して回転することにより湿し水を伝達運搬するための印刷機装置であって、水元ローラー、水着けローラー、水着けローラーに給水するローラー、メータリングローラー、水量を安定化させるためのローラーから構成される。
水元ローラーとは、周面の一部が水舟(湿し水を貯留する湿し水供給源)の水に浸されるように構成されており、回転することによって水舟中の湿し水を水着けローラーに給水するローラー又はメータリングローラーに伝達するローラーである。
水着けローラーに給水するローラー及びメータリングローラーは、上記水元ローラーから供給された湿し水を、水着けローラーに伝達するローラーである。
水着けローラーとは、水着けローラーに給水するローラー、又は水量を安定化させるためのローラーから供給された湿し水を、版胴に装着した平版印刷版に供給するローラーである。
【0016】
これらのローラーは印刷機において、互いに接して回転することにより湿し水を伝達運搬するための印刷機のローラー装置であって、円筒状の外周面が金属によって形成され、周方向に回転可能なローラー、及び円筒状の外周面が弾性体によって形成され、前該ローラーに隣接し、前該ローラーの回転に従属して周方向に回転可能なローラーである。
【0017】
図1〜図4は、本発明の印刷方法の実施に用いることができる給水装置の例の概念図を示す。
図1に示される給水装置はエピックデルタ給水装置であり、図2に示される給水装置はアルカラー給水装置、図3に示される給水装置はコモリマチック給水装置である。いずれも給水ローラー20として、版胴10に接する水着けローラー21と、更にこれに接し、水舟50からの湿し水を水着けローラー21に供給するローラー22と、湿し水が入った水舟50に浸っている水元ローラー23とを有している。更には水着けローラー21に接し水着けローラー21上の水量を安定化させるためのローラー24を有す場合がある。ローラー24は給水方式によっては分配ローラーやライダーローラーなどと呼ばれることがある。また、インキ着けローラー31やその上の練りローラー32といったインキローラー30と給水ローラー20とを橋渡しすることで間接給水方式にすることができるブリッジローラー40を有していてもよい。図3のようにブリッジローラーが存在する場合には、ブリッジローラー経由の印刷インキが湿し水と同時に平版印刷版原版に供給されてもよい。
また、本発明の印刷方法においては、ブリッジローラー40は給水ローラー20とインキローラー30の少なくとも一方と接することなく、直接給水方式で湿し水が供給されてもよい。
図4に示される給水装置もコモリマチック給水装置であり、図3のコモリマチック給水装置からブリッジローラー40が除かれた直接給水方式専用の給水装置である。
【0018】
[印刷方法]
本発明の印刷方法は、アルミニウム支持体上に、印刷インキ及び湿し水の少なくとも一方を供給することにより現像される画像記録層を有する平版印刷版原版の印刷方法であって、印刷開始時に下記(i)〜(v)の工程を、(i)(ii)(iii)(iv)(v)の順又は(i)(iii)(ii)(iv)(v)の順で行うことを特徴とする。
(i)平版印刷版原版を画像様に露光した後、印刷機の版胴に装着する。
(ii)印刷機の湿し水供給手段である水着けローラー、水着けローラーに水を給水するローラー、水量を安定化させるためのローラー、及びメータリングローラーの少なくとものいずれかに、湿し水及び有機溶剤を含む水溶液の少なくともいずれかをスプレー供給する。
(iii)給水ローラーを回転させる。
(iv)水着けローラーを平版印刷版原版に接触させ、平版印刷版原版に水着けローラーから湿し水を供給する。
(v)インキ着けローラーを平版印刷版原版に接触させ、平版印刷版原版にインキ着けローラーから印刷インキを供給し、インキ着けローラーを平版印刷版原版に接触させるのと同時に又は接触させた後に、印刷用紙を供給する。
以下、各工程について説明する。
【0019】
<(i)平版印刷版原版を画像様に露光した後、印刷機の版胴に装着する。>
【0020】
本発明において画像露光に用いられる光源としては、レーザーが好ましい。本発明に用いられるレーザーは、特に限定されないが、波長760〜1200nmの赤外線を照射する固体レーザー及び半導体レーザーなどが好適に挙げられる。
赤外線レーザーに関しては、出力は100mW以上であることが好ましく、1画素当たりの露光時間は20マイクロ秒以内であるのが好ましく、また照射エネルギー量は10〜300mJ/cmであるのが好ましい。レーザーにおいては、露光時間を短縮するためマルチビームレーザーデバイスを用いるのが好ましい。
【0021】
露光された平版印刷版原版は、印刷機の版胴に装着される。レーザー露光装置付きの印刷機の場合は、平版印刷版原版を印刷機の版胴に装着したのち画像露光される。
【0022】
<(ii)印刷機の湿し水供給手段である水着けローラー、水着けローラーに水を給水するローラー、水量を安定化させるためのローラー、及びメータリングローラーの少なくとものいずれかに、湿し水及び有機溶剤を含む水溶液の少なくともいずれかをスプレー供給する。>
スプレー供給とは、スプレー噴射機構を有した容器や装置から、印刷オペレーターの手によって、水着けローラー、水着けローラーに水を給水するローラー、水量を安定化させるためのローラー、及びメータリングローラーの少なくとものいずれかに対して湿し水又は有機溶剤を含む水溶液を噴射供給することを言う。
なかでも、水着けローラーに給水するローラー及びメータリングローラーの少なくともいずれかにスプレー供給することが好ましい。
スプレー供給する手段は特に限定されないが、例えば、スプレー噴射機構を有した容器から、印刷オペレーターの手によって噴射する手段、又は、スプレー装置を印刷幅方向に複数配置することで、印刷幅方向に供給する液量をスプレー装置ごとに調整する装置によって噴射する手段などが挙げられる。
印刷オペレーターの手によって噴射する手段の具体例としては、家庭用のスプレーボトル(霧吹き)、ハンドスプレーガン、自動スプレーガン、ポータブル噴霧機、洗浄瓶などを挙げることができる。
噴射する液量は装着した平版印刷版原版の単位面積に対して2〜200ml/mが好ましく、5〜200ml/mがより好ましい。この範囲内で良好な機上現像性及び印刷ムラの解消が得られる。液温は10℃〜35℃が好ましい。特に15℃〜25℃が好ましい。
【0023】
<(iii)給水ローラーを回転させる。>
水着けローラーを版に接触させずに、給水ローラーを回転させる。この操作によって水元ローラー、水着けローラーに給水するローラー、水着けローラー間で(ii)の工程で噴射した水溶液又は湿し水が水舟から供給された湿し水と混ざりながら、各ローラーに均一に広がる。
回転は、水着けローラーの回転数として1〜50回転が好ましく、2〜25回転がより好ましく、3〜20回転が最も好ましい。回転させないと液が均一に広がらず、現像にムラができる。50回転超過だと噴射した効果が低減する傾向となる。回転は一旦中止した後に、再度回転を行ってもよい。
【0024】
<(iv)水着けローラーを平版印刷版原版に接触させ、平版印刷版原版に水着けローラーから湿し水を供給する。>
水着けローラーを平版印刷版原版に接触させることにより、スプレーされた液と水舟からの湿し水が平版印刷版原版に供給され、画像記録層に浸透する。これら水溶液が画像記録層に浸透することで画像記録層内での凝集力及び支持体(下塗り層を有する場合は下塗り層)と画像記録層間の密着性が低下する。
水着けローラーを原版面に接触後、インキ着けローラーを原版面に接触させるまでの版胴の回転数は、0〜50回転が好ましく、1〜25回転がより好ましく、2〜10回転がさらに好ましい。ここで、0回転は、水着けローラーとインキ着けローラーを同時に版面に接触させてもよいことを意味する。
版胴を原版面に接触させた後に、一旦接触を解除させ、再度接触させてもよい。この場合、最初の水着けローラーの接触時間は、版胴の回転数で、1〜50回転が好ましく、1〜25回転がより好ましく、1〜10回転がさらに好ましい。一旦接触を解除してから再度接触させるまでの時間(待機時間)は30分以内であることが好ましく、3〜10分がより好ましく、5〜8分が更に好ましい。再度接触後、次の(v)のインキ着けローラーを原版面に接触させるまでの版胴の回転数は0〜50回転が好ましく、1〜25回転がより好ましく、1〜10回転がさらに好ましい。再度接触させる時に、同時に(v)のインキ着けローラーの原版面接触を行ってもよい。
水着けローラーを原版面に接触させた後に、一旦接触を解除させ、再度接触させる場合、損紙減の観点からは、水着けローラーを原版面に接触させ、版胴を1〜10回転させた後に、一旦接触を解除する。そのまま5〜8分待機後、水着けローラーを原版面に再接触させる。再接触後、次の(v)のインキ着けローラーを原版面に接触させるまで、版胴を1〜10回転させる組合せが最も好ましい。
【0025】
<(v)インキ着けローラーを平版印刷版原版に接触させ、平版印刷版原版にインキ着けローラーから印刷インキを供給し、インキ着けローラーを平版印刷版原版に接触させるのと同時に又は接触させた後に、印刷用紙を供給する。>
インキ着けローラーを平版印刷版原版に接触させ、平版印刷版原版に印刷インキを供給し、さらに印刷用紙を供給する。
印刷用紙の供給は、インキ着けローラーを平版印刷版原版に接触させるのと同時に又は接触させた後に行う。本発明は、画像記録層の未露光部が溶解的に除去又は脱膜的に除去される場合があるが、脱膜的に除去されることが好ましい。脱膜的に除去する場合、インキのタックにより脱膜的に画像記録層の未露光部が除去され、インキのタックにより脱膜された画像記録層は紙に転写される。
【0026】
本発明では、上記(i)〜(v)の工程を(i)(ii)(iii)(iv)(v)の順に行う第一の方法以外に、(i)(iii)(ii)(iv)(v)の順に行う第二の方法を用いることもできる。第一の方法は、工程(ii)の後に、工程(iii)の給水ローラの回転があることで、第二の方法に比べて、水舟からの湿し水と噴射供給される液が混じりやすくなり、液がより均一化できる。そのため、液不均一が起因のムラを少なくする上では、第一の方法、(i)(ii)(iii)(iv)(v)の順が、好ましい。
【0027】
〔スプレー供給する水溶液〕
スプレー供給する水溶液としては、湿し水又は有機溶剤を含有する水溶液が挙げられる。有機溶剤を含有する水溶液に用いる有機溶剤は水溶性であるが好ましい。
【0028】
〔有機溶剤を含む水溶液の説明〕
有機溶剤を含む水溶液の有機溶剤としては、画像記録層を溶解又は膨潤させることのできる溶剤であり、水と混和できるもの(水混和性溶剤)が好ましく、水と混合させて使用することが好ましい。有機溶剤と水の混合比は有機溶剤:水が容量比で80:20〜5:95が好ましく、70:30〜10:90がより好ましく、60:40〜20:80が最も好ましい。
有機溶剤(水混和性溶剤)の例として、メチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、グリセリントリアセタートなどのエステル溶剤、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコールなどのエーテル溶剤、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン溶剤、イソプロピルアルコール(IPA)、イソブチルアルコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、メタノール、エタノールなどのアルコール溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコール溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンが挙げられ、アルコール溶剤、エステル溶剤、エーテル溶剤、又はケトン溶剤であることが好ましい。
【0029】
また、有機溶剤を含む水溶液には、界面活性剤を添加することができる。界面活性剤としては、後述する湿し水に添加する界面活性剤を挙げることができる。
一般的に水と混和できない有機溶剤でも界面活性剤を用いて水と混和させてもよい。
【0030】
〔湿し水〕
本発明におけるスプレー供給する水溶液として用いる湿し水は、印刷時に用いられる湿し水と同じ組成の湿し水でも、別の組成の湿し水でもよい。印刷時に使用される湿し水と同じ組成の湿し水が(iii)の工程で液が馴染みやすく好ましい。同じ組成の湿し水を使用する場合は、湿し水の濃度は特に限定されないが、印刷時に用いられる濃度より高濃度の湿し水が好ましい。
【0031】
本発明におけるスプレー供給する水溶液として用いる湿し水は、溶剤の他に以下のものを含ませることができる。
(a)濡れ性向上のための助剤
(b)水溶性高分子化合物
(c)pH調整剤
(d)臭気マスキング剤
(e)その他((i)防腐剤、(ii)キレート化剤、(iii)着色剤、(iv)防錆剤、(v)消泡剤など)
【0032】
湿し水に用いられる溶剤としては、特開2001-138659号、特開2001-180146号、特開2002-178661号、特開2002-187375号、特開2002-187376号、特開2002-192853号、特開2003-39847号、特開2003-170673号、特開2003-276357号、特開2003-285571号、特開2004-160869号、特開2004-174892号、特開2004-181632号、特開2004-181858号などの公報に記載されている溶剤が挙げられる.
具体例としては、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル及びトリプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル、プロピレングリコールモノn-ペンチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-ペンチルエーテル、プロピレングリコールモノイソペンチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソペンチルエーテル、プロピレングリコールモノn-ヘキサンエーテル、ジプロピレングリコールモノn-ヘキサンエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルペンチルエーテル、プロピレングリコールモノ2-エチルブチルエーテルなどが挙げられる。これらの化合物を1種単独で、あるいは2種以上を併用して使用することができる。
中でも、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノt−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノt−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノn-ペンチルエーテル、プロピレングリコールモノイソペンチルエーテルなどが好ましく使用できる。
【0033】
上記化合物の湿し水組成物における含有量は、湿し水組成物の全質量に基づいて0.2〜8質量%が適当であり、より好ましくは0.5〜5質量%である。この範囲内で、ローラーストリップや平版印刷版の耐刷不良等を起こすことなく、版面に対する湿し水の良好な濡れ性が得られる。
【0034】
(a)濡れ性向上の助剤として、界面活性剤や他の溶剤を使用することができる。界面活性剤のうち、例えばアニオン型界面活性剤としては、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩類、N−アルキルスルホ琥珀酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ひまし油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。これらの中でもジアルキルスルホ琥珀酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類及びアルキルナフタレンスルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0035】
非イオン型界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、蔗糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、トリエタノールアミン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー類、トリアルキルアミンオキシド類などが挙げられる。その他、弗素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤も使用することができる。界面活性剤を使用する場合、その含有量は発泡の点を考慮すると、1質量%以下、好ましくは0.001〜0.5質量%が適当である。また、2種以上併用することもできる。
【0036】
助剤としてはその他に、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、テトラエチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングルコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングルコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングルコールモノイソプロピルエーテル、テトラエチレングルコールモノイソプロピルエーテル、
【0037】
エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリブチルエーテル、ジエチレングリコールモノターシャリブチルエーテル、トリエチレングリコールモノターシャリブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノターシャリブチルエーテル、
【0038】
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、1-位が炭素原子数1〜8のアルキル基で置換された2−ピロリドン誘導体などが挙げられる。これらの中でも特にエチレングリコールモノターシャリブチルエーテルと3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールが好ましい。これらの溶剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。一般にこれらの溶剤は、湿し水の全質量に基づいて0.02〜1質量%の範囲で使用するのが適当で、好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0039】
本発明で用いる湿し水に使用する(b)水溶性高分子化合物としては、例えばアラビアガム、澱粉誘導体(例えば、デキストリン、酵素分解デキストリン、ヒドロキシプロピル化酵素分解デキストリン、カルボキシメチル化澱粉、リン酸澱粉、オクテニルコハク化澱粉)、アルギン酸塩、繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース)等の天然物及びその変性体、ポリエチレングリコール及びその共重合体、ポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリアクリルアミド及びその共重合体、ポリアクリル酸及びその共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、ポリスチレンスルホン酸及びその共重合体の合成物、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。これらの中でもカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースは特に好ましい。水溶性高分子化合物の含有量は、湿し水に対して0.001〜0.5質量%が適しており、より好ましくは、0.005〜0.2質量%である。
【0040】
本発明に使用される湿し水に用いられる(c)pH調整剤としては、水溶性の有機酸、無機酸及びそれらの塩類から選ばれる少なくとも1種が使用できる。これらの化合物は湿し水のpH調整あるいはpH緩衝、平版印刷版支持体の適度なエッチング又は防腐食に効果がある。好ましい有機酸としては、例えばクエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、酢酸、グルコン酸、ヒドロキシ酢酸、蓚酸、マロン酸、レブリン酸、スルファニル酸、p−トルエンスルホン酸、フィチン酸、有機ホスホン酸等が挙げられる。無機酸としては例えばリン酸、硝酸、硫酸、ポリリン酸が挙げられる。更にこれら有機酸及び無機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩あるいはアンモニウム塩、有機アミン塩も好適に用いられる。これらの有機酸、無機酸及びこれらの塩類から1種を単独で使用しても、あるいは2種以上の混合物として使用してもよい。
【0041】
これらpH調整剤の湿し水への添加量は有機酸、無機酸及びこれらの塩類を合わせて0.001質量%以上0.1質量%以下の範囲が適当である。0.001質量%以上であると、平版印刷版の支持体であるアルミニウムのエッチング力により印刷時の汚れが良好である。一方、0.1質量%以下であれば、印刷機の錆びの点において好ましい。 湿し水のpH値は3〜7の範囲の酸性領域で用いることが好ましいが、アルカリ金属水酸化物、リン酸、アルカリ金属塩、炭酸アルカリ金属塩、ケイ酸塩などを含有したpH7〜11のアルカリ性領域で用いることもできる。
【0042】
(d)臭気マスキング剤としては、従来香料としての用途が知られているエステルを含む。例えば下記一般式(I)で示されるものがある。
1−COOR 2 (I)
一般式(I)の化合物において、式中R 1は炭素原子数1〜15のアルキル基、アルケニル基又はアラルキル基、あるいはフェニル基である。アルキル基又はアルケニル基の場合、その炭素原子数は好ましくは4〜8である。R1がアルキル基、アルケニル基又はアラルキル基を表す場合、それらは直鎖でも分岐鎖でもよい。アルケニル基は特に二重結合を1個有するものが適当である。アラルキル基としては、ベンジル基やフェニルエチル基が挙げられる。なお、R1で示されるアルキル基、アルケニル基又はアラルキル基、あるいはフェニル基の1以上の水素原子が、ヒドロキシル基又はアセチル基で置換されていてもよい。Rは炭素原子数3〜10のアルキル基、アラルキル基又はフェニル基であって、それらは直鎖でも分岐鎖でもよい。アルキル基の場合、その炭素原子数は好ましくは3個から9個である。アラルキル基としては、ベンジル基やフェニルエチル基が挙げられる。
【0043】
使用できる(d)臭気マスキング剤として具体的に、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、2−エチル酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、2−メチル吉草酸、ヘキサン酸(カプロン酸)、4−メチルペンタン酸(イソヘキサン酸)、2−ヘキセン酸、4−ペンテン酸、ヘプタン酸、2−メチルヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、2−デセン酸、ラウリン酸又はミリスチン酸のエステルが挙げられる。その他、フェニル酢酸ベンジル、アセト酢酸エチルやアセト酢酸2−ヘキシルといったアセト酢酸エステル等もある。中でも好ましいものとして、酢酸n−ペンチル、酢酸イソペンチル、酪酸n−ブチル、酪酸n−ペンチル及び酪酸イソペンチルが挙げられ、特に酪酸n−ブチル、酪酸n−ペンチル及び酪酸イソペンチルが好適である。これらの臭気マスキング剤(d)の湿し水における含有量は、湿し水の全質量に基づいて0.001〜0.5質量%が適当で、より好ましくは0.002〜0.2質量%である。これらを使用することにより、作業環境をより改善することができる。また。バニリン、エチルバニリン等を併用してもよい。
【0044】
本発明で用いる湿し水に使用する(e)(i)防腐剤としては、フェノール又はその誘導体、ホルマリン、イミダゾール誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、4−イソチアゾリン−3−オン誘導体、ベンズトリアゾール誘導体、アミジン又はグアニジンの誘導体、四級アンモニウム塩類、ピリジン、キノリン又はグアニジンの誘導体、ダイアジン又はトリアゾールの誘導体、オキサゾール又はオキサジンの誘導体、ブロモニトロアルコール系のブロモニトロプロパノール、1,1−ジブロモ−1−ニトロ−2−エタノール、3−ブロモ−3−ニトロペンタン−2,4−ジオール等が挙げられる。好ましい添加量は細菌、カビ、酵母等に対して、安定に効力を発揮する量であって、細菌、カビ、酵母の種類によっても異なるが、湿し水に対し、0.001〜0.5質量%の範囲が好ましく、また種々のカビ、細菌、酵母に対して効力のあるような2種以上の防腐剤を併用することが好ましい。
【0045】
本発明で用いる湿し水は、さらに、(e)(ii)キレート化剤を含んでいてもよい。湿し水は、使用時に通常湿し水濃縮組成物に、水道水、井戸水などを加えて希釈して調製されるが、この際、希釈する水道水や井戸水に含まれているカルシウムイオン等が印刷に悪影響を与え、印刷物を汚れ易くする原因となることもある。このような場合、キレート化剤を添加しておくことにより、上記欠点を解消することができる。好ましいキレート化剤としては例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ジエチレントリアミンペンタ酢酸、そのカリウム塩、ナトリウム塩;トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ニトリロトリ酢酸、そのナトリウム塩;1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、そのカリウム塩、そのナトリウム塩などのような有機ホスホン酸類あるいはホスホノアルカントリカルボン酸類を挙げることができる。上記のキレート剤のナトリウム塩あるいはカリウム塩の代わりに、有機アミンの塩も有効である。これらのキレート化剤は使用時の湿し水中に安定に存在し、印刷性を阻害しないものが選ばれる。使用時の湿し水中のキレート化合物の含有量としては、0.0001〜0.5質量%が適当で、好ましくは0.0005〜0.2質量%である。
【0046】
本発明で用いる湿し水に使用する(e)(iii)着色剤としては、食品用色素等が好ましく使用できる。例えば、黄色色素としてはCINo. 19140、15985、赤色色素としてはCINo. 16185、45430、16255、45380、45100、紫色色素としてはCINo. 42640、青色色素としてはCINo.42090、73015、緑色色素としてはCINo. 42095、等が挙げられる。本発明で用いる湿し水に使用する(e)(iv)防錆剤としては、例えばベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、チオサリチル酸、ベンゾイミダゾール及びその誘導体等が挙げられる。本発明で用いる湿し水に使用する(e)(v)消泡剤としてはシリコン消泡剤が好ましく、その中で乳化分散型及び可溶化型等いずれも使用することができる。
【0047】
本発明におけるスプレー供給する水溶液用の湿し水としては、市販の平版印刷用湿し水を用いることもできる。市販の湿し水は、一般に濃縮液で販売されているので、濃縮液のまま使うこともできるし、水で適宜希釈して用いてもよい。
市販品の湿し水の例としては、富士フイルム(株)のECOLITY−2、ECOLITY−W1、(株)日研化学研究所のアストロマーク3、東京インキ(株)のCDS−709、光陽化学工業(株)のSOLAIA(ソライア)503等が挙げられる。
【0048】
〔機上現像型平版印刷版原版〕
本発明に用いる平版印刷版原版は、機上現像可能な平版印刷版原版であり、アルミニウム支持体上に、湿し水及び印刷インキの少なくとも一方で除去可能なラジカル重合型の画像記録層を有することが好ましい。また、本発明に用いる平版印刷版原版は、アルミニウム支持体とラジカル重合型の画像記録層の間に、親水性基と支持体表面に吸着する基を有する高分子化合物を有する下塗り層を有することが好ましい。さらに、本発明の平版印刷版原版は、画像記録層の上に酸素遮断性の保護層を有することが好ましい。
以下、本発明に用いる平版印刷版原版の要素、成分などについて説明する。
なお、以下の説明に記載のポリマーにおける繰り返し単位の比はモル比である。
【0049】
(画像記録層)
本発明の画像記録層は、ラジカル重合型の画像記録層であることが好ましい。また、画像記録層は、赤外線吸収染料、ラジカル重合性化合物、重合開始剤、及びバインダーポリマーを含有することが好ましい。また、バインダーポリマーは、画像記録層の皮膜特性や機上現像性の向上のため、ポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイドを側鎖に有するアクリル樹脂バインダーであることが好ましい。
【0050】
〔ポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイドを側鎖に有するアクリル樹脂〕
本発明に用いるポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイドを側鎖に有するアクリル樹脂としては、下記式(II)で表されるエーテル基を側鎖に有するポリマーが好ましい。また、ポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイドを側鎖に有するアクリル樹脂は、溶剤に対する溶解性が高いために、本発明において水に混用させた溶剤は、水浸透性、脱膜現像性を促進させることができ、本発明の印刷方法に適している。
【0051】
【化1】

【0052】
式(II)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、aは1であり、lは2〜120の整数を表す。lは好ましくは2〜60の整数であり、より好ましくは2〜50の整数、さらに好ましくは2〜20の整数である。
【0053】
本発明のバインダーポリマーは機上現像性などの諸性能を向上させるために、親水性基を有するラジカル重合性化合物を共重合させてもよい。このような親水性基としては、アルカリ可溶性基でないことが好ましく、たとえば、アミド基、ヒドロキシル基、オニウム塩基などがあり、好ましいのはアミド基、ヒドロキシル基、である。親水性基を有するラジカル重合性化合物の具体例としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルアセトアミド、N−アクリロイルモルホリン、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが挙げられる。これらを1種あるいは1種以上用いることができ、これらの共重合成分の好適に使用される含有量は、0〜85モル%であり、特に好ましくは5〜70モル%である。
【0054】
本発明のバインダーポリマーは画像強度などの諸性能を向上する目的で、本発明の効果を損なわない限りにおいて、前述のラジカル重合性化合物に加えて、さらに、他のラジカル重合性化合物を共重合させることも好ましい態様である。本発明においてバインダーポリマーに共重合させることができるラジカル重合性化合物としては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、N,N-2置換アクリルアミド類、N,N-2置換メタクリルアミド類、スチレン類、アクリロニトリル類、メタクリロニトリル類などから選ばれるラジカル重合性化合物が挙げられる。
【0055】
具体的には、例えば、アルキルアクリレート(該アルキル基の炭素原子数は1〜20のものが好ましい)等のアクリル酸エステル類、(具体的には、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸−t−オクチル、クロルエチルアクリレート、2,2−ジメチルヒドロキシプロピルアクリレート、5−ヒドロキシペンチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ペンタエリヌリトールモノアクリレート、グリシジルアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレートなど)、アリールアクリレート(例えば、フェニルアクリレートなど)、アルキルメタクリレート(該アルキル基 の炭素原子は1〜20のものが好ましい)等のメタクリル酸エステル類(例えば、メチルメタ クリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、クロルベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクゾレート、5−ヒドロキシペンチルメタクリレート、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、グリシジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートなど)、アリールメタクリレート(例えば、フェニルメタクリレート、クレジルメタクリレート、ナフチルメタクリレートなど)、スチレン及びスチレン誘導体、例えばアルキルスチレン(例えば、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、シクロヘキシルスチレン、デシルスチレン、ベンジルスチレン、クロルメチルスチレン、トリフルオルメチルスチレン、エトキシメチルスチレン、アセトキシメチルスチレンなど)、アルコキシスチレン(例えばメトキシスチレン、4−メトキシ−3−メチルスチレン、ジメトキシスチレンなど)、ハロゲンスチレン(例えばクロルスチレン、ジクロルスチレン、トリクロルスチレン、テトラクロルスチレン、ペンタクロルスチレン、プロムスチレン、ジブロムスチレン、ヨードスチレン、フルオルスチレン、トリフルオルスチレン、2−ブロム−4−トリフルオルメチルスチレン、4−フルオル−3−トリフルオルメチルスチレンなど)、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
【0056】
これらラジカル重合性化合物のうち、好適に使用されるのは、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、スチレン類である。これらを1種あるいは2種以上用いることができ、これら共重合成分の好適に使用される含有量は、0〜95モル%であり、特に好ましくは、20〜90モル%である。
【0057】
上記のバインダーポリマーは、画像部の皮膜強度を向上するために、架橋性を有していてもよい。上記ポリマーに架橋性を持たせるためには、エチレン性不飽和結合などの架橋性官能基を高分子の主鎖中又は側鎖中、好ましくは側鎖にに導入すればよい。架橋性官能基は、共重合により導入してもよい。
分子の側鎖中にエチレン性不飽和結合を有するポリマーの例としては、アクリル酸又はメタクリル酸のエステル又はアミドのポリマーであって、エステル又はアミドの残基(−COOR又は−CONHRのR)がエチレン性不飽和結合を有するポリマーを挙げることができる。
【0058】
エチレン性不飽和結合を有する残基(上記R)の例としては、−(CH2 n CR1 =CR2 3 、−(CH2 O)n CH2 CR1 =CR2 3 、−(CH2 CH2 O)n CH2 CR1 =CR2 3 、−(CH2 n NH−CO−O−CH2 CR1 =CR2 3 、−(CH2 n −O−CO−CR1 =CR2 3 及び(CH2 CH2 O)2 −X(式中、R1 〜R3 はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子又は炭素原子数1〜20のアルキル基、アリール基、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基を表し、R1 とR2 又はR3 とは互いに結合して環を形成してもよい。nは、1〜10の整数を表す。Xは、ジシクロペンタジエニル残基を表す。)を挙げることができる。
【0059】
エステル残基の具体例としては、−CH2 CH=CH2 (特公平7−21633号公報に記載されている。)、−CH2 CH2 O−CH2 CH=CH2 、−CH2 C(CH3 )=CH2 、−CH2 CH=CH−C6 5 、−CH2 CH2 OCOCH=CH−C6 5 、−CH2 CH2 −NHCOO−CH2 CH=CH2 及びCH2 CH2 O−X(式中、Xはジシクロペンタジエニル残基を表す。)が挙げられる。
アミド残基の具体例としては、−CH2 CH=CH2 、−CH2 CH2 −Y(式中、Yはシクロヘキセン残基を表す。)、−CH2 CH2 −OCO−CH=CH2 が挙げられる。
【0060】
架橋性を有するバインダーポリマーは、例えば、その架橋性官能基にフリーラジカル(重合開始ラジカル又は重合性化合物の重合過程の生長ラジカル)が付加し、ポリマー間で直接に又は重合性化合物の重合連鎖を介して付加重合して、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。又は、ポリマー中の原子(例えば、官能性架橋基に隣接する炭素原子上の水素原子)がフリーラジカルにより引き抜かれてポリマーラジカルが生成し、それが互いに結合することによって、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。
【0061】
バインダーポリマー中の架橋性基の含有量(ヨウ素滴定によるラジカル重合可能な不飽和二重結合の含有量)は、高分子化合物1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは1.0〜7.0mmol、最も好ましくは2.0〜5.5mmolである。この範囲で、良好な感度と良好な保存安定性が得られる。
【0062】
本発明に係るバインダーポリマーは単独重合体でもよいが、一般式(II)で表される基を有するラジカル重合性化合物1種以上と上述の他のラジカル重合性化合物1種以上との共重合体である場合、その共重合体の構成として、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
本発明に係るバインダーポリマーは、質量平均モル質量(Mw)で、好ましくは2,000以上であり、さらに好ましくは、5,000〜300,000の範囲である。また、本発明に係るバインダーポリマー中には、未反応の単量体を含んでいてもよい。この場合、バインダーポリマーに占める単量体の割合は、15質量%以下が望ましい。
【0063】
本発明の画像記録層に含まれるバインダーポリマーの含有量は固形分で好ましくは約5〜95質量%であり、より好ましくは、約10〜85質量%である。この範囲内で、良好な画像部強度と画像形成性が得られる。
【0064】
本発明におけるバインダーポリマーの具体例を以下に示すがこれらに限定されない。
【0065】
【化2】

【0066】
【化3】

【0067】
【化4】

【0068】
【化5】

【0069】
【化6】

【0070】
【化7】

【0071】
〔赤外線吸収染料〕
赤外線吸収染料は、吸収した赤外線を熱に変換する機能と赤外線により励起して後述の重合開始剤に電子移動及びエネルギー移動の少なくとも一方をする機能を有する。本発明において使用される赤外線吸収染料は、波長760〜1200nmに吸収極大を有する染料である。
【0072】
染料としては、市販の染料及び例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。更に、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい例として下記一般式(a)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0073】
【化8】

【0074】
一般式(a)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、−N(R)(R10)、−X−L又は以下に示す基を表す。ここで、R及びR10は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10の芳香族炭化水素基、炭素原子数1〜8のアルキル基、水素原子を表し、またRとR10とが互いに結合して環を形成してもよい。なかでもフェニル基が好ましい。Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。以下に示す基において、Xaは後述するZaと同様に定義され、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0075】
【化9】

【0076】
及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。画像記録層塗布液の保存安定性から、R及びRは、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、またRとRは互いに連結し環を形成してもよく、環を形成する際は5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0077】
Ar、Arは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアリール基を示す。好ましいアリール基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y、Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R、Rは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボン酸基、スルホン酸基が挙げられる。R、R、R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Zaは、対アニオンを示す。ただし、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZaは必要ない。好ましいZaは、画像記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0078】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落番号[0017]〜[0019]、特開2002−023360号公報の段落番号[0012]〜[0021]、特開2002−040638号公報の段落番号[0012]〜[0037]に記載された化合物、好ましくは特開2002−278057号公報段落番号[0034]〜[0041]、特開2008−195018号公報段落番号[0080]〜[0086]に記載の化合物、最も好ましくは特開2007−90850号公報段落番号[0035]〜[0043]に記載の化合物が挙げられる。
また特開平5−5005号公報[0008]〜[0009]、特開2001−222101号公報[0022]〜[0025]に記載の化合物も好ましく使用することができる。
【0079】
また、これらの(A)赤外線吸収染料は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、顔料等の赤外線吸収染料以外の赤外線吸収剤を併用してもよい。顔料としては、特開2008−195018号公報[0072]〜[0076]に記載の化合物が好ましい。
【0080】
本発明における画像記録層中の赤外線吸収染料の含有量は、画像記録層の全固形分の0.1〜10.0質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5.0質量%である。
【0081】
〔重合開始剤〕
本発明に用いられる重合開始剤としては、重合性化合物の重合を開始、促進する化合物を示す。本発明において使用しうる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましく、公知の熱重合開始剤、結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物、光重合開始剤などを使用することができる。
本発明における重合開始剤としては、例えば、(a)有機ハロゲン化物、(b)カルボニル化合物、(c)アゾ化合物、(d)有機過酸化物、(e)メタロセン化合物、(f)アジド化合物、(g)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(h)有機ホウ酸塩化合、(i)ジスルホン化合物、(j)オキシムエステル化合物、(k)オニウム塩化合物、が挙げられる。
【0082】
(a)有機ハロゲン化物としては、特開2008−195018号公報の段落番号[0022]〜[0023]に記載の化合物が好ましい。
【0083】
(b)カルボニル化合物としては、特開2008−195018号公報の段落番号[0024]に記載の化合物が好ましい。
【0084】
(c)アゾ化合物としては、例えば、特開平8−108621号公報に記載のアゾ化合物等を使用することができる。
【0085】
(d)有機過酸化物としては、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0025]に記載の化合物が好ましい。
【0086】
(e)メタロセン化合物としては、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0026]に記載の化合物が好ましい。
【0087】
(f)アジド化合物としては、2,6−ビス(4−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン等の化合物を挙げることができる。
(g)ヘキサアリールビイミダゾール化合物としては、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0027]に記載の化合物が好ましい。
【0088】
(h)有機ホウ酸塩化合物としては、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0028]に記載の化合物が好ましい。
【0089】
(i)ジスルホン化合物としては、特開昭61−166544号、特開2002−328465号の各公報に記載の化合物が挙げられる。
【0090】
(j)オキシムエステル化合物としては、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0028]〜[0030]に記載の化合物が好ましい。
【0091】
(k)オニウム塩化合物としては、例えば、S.I.Schlesinger,Photogr.Sci.Eng.,18,387(1974)、T.S.Bal et al,Polymer,21,423(1980)、特開平5-158230号公報に記載のジアゾニウム塩、米国特許第4,069,055号明細書、特開平4−365049号公報等に記載のアンモニウム塩、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号の各明細書に記載のホスホニウム塩、欧州特許第104、143号、米国特許出願公開第2008/0311520号の各明細書、特開平2−150848号、特開2008−195018号の各公報、又はJ.V.Crivello et al,Macromolecules,10(6),1307(1977)に記載のヨードニウム塩、欧州特許第370,693号、同233,567号、同297,443号、同297,442号、米国特許第4,933,377号、同4,760,013号、同4,734,444号、同2,833,827号、独国特許第2,904,626号、同3,604,580号、同3,604,581号の各明細書に記載のスルホニウム塩、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,17,1047(1979)に記載のセレノニウム塩、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)に記載のアルソニウム塩、特開2008−195018号公報に記載のアジニウム塩等のオニウム塩等が挙げられる。
【0092】
上記の中でもより好ましいものとして、オニウム塩、なかでもヨードニウム塩、スルホニウム塩及びアジニウム塩が挙げられる。以下に、これらの化合物の具体例を示すが、これに限定されない。
【0093】
ヨードニウム塩の例としては、ジフェニルヨードニウム塩が好ましく、特に電子供与性基、例えばアルキル基又はアルコキシル基で置換されたジフェニルヨードニウム塩が好ましく、更に好ましくは非対称のジフェニルヨードニウム塩が好ましい。具体例としては、ジフェニルヨードニウム=ヘキサフルオロホスファート、4−メトキシフェニル−4−(2−メチルプロピル)フェニルヨードニウム=ヘキサフルオロホスファート、4−(2−メチルプロピル)フェニル−p−トリルヨードニウム=ヘキサフルオロホスファート、4−ヘキシルオキシフェニル−2,4,6−トリメトキシフェニルヨードニウム=ヘキサフルオロホスファート、4−ヘキシルオキシフェニル−2,4−ジエトキシフェニルヨードニウム=テトラフルオロボラート、4−オクチルオキシフェニル−2,4,6−トリメトキシフェニルヨードニウム=1−ペルフルオロブタンスルホナート、4−オクチルオキシフェニル−2,4,6−トリメトキシフェニルヨードニウム=ヘキサフルオロホスファート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウム=テトラフェニルボラートが挙げられる。
【0094】
スルホニウム塩の例としては、トリフェニルスルホニウム=ヘキサフルオロホスファート、トリフェニルスルホニウム=ベンゾイルホルマート、ビス(4−クロロフェニル)フェニルスルホニウム=ベンゾイルホルマート、ビス(4−クロロフェニル)−4−メチルフェニルスルホニウム=テトラフルオロボラート、トリス(4−クロロフェニル)スルホニウム=3,5−ビス(メトキシカルボニル)ベンゼンスルホナート、トリス(4−クロロフェニル)スルホニウム=ヘキサフルオロホスファートが挙げられる。
【0095】
アジニウム塩の例としては、1−シクロヘキシルメチルオキシピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−シクロヘキシルオキシ−4−フェニルピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−エトキシ−4−フェニルピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−(2−エチルヘキシルオキシ)−4−フェニルピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、4−クロロ−1−シクロヘキシルメチルオキシピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−エトキシ−4−シアノピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、3,4−ジクロロ−1−(2−エチルヘキシルオキシ)ピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−ベンジルオキシ−4−フェニルピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−フェネチルオキシ−4−フェニルピリジニウム=ヘキサフルオロホスファート、1−(2−エチルヘキシルオキシ)−4−フェニルピリジニウム=p−トルエンスルホナート、1−(2−エチルヘキシルオキシ)−4−フェニルピリジニウム=ペルフルオロブタンスルホナート、1−(2−エチルヘキシルオキシ)−4−フェニルピリジニウム=ブロミド、1−(2−エチルヘキシルオキシ)−4−フェニルピリジニウム=テトラフルオロボラートが挙げられる。
【0096】
本発明における重合開始剤は、画像記録層を構成する全固形分に対し好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは0.8〜20質量%の割合で添加することができる。この範囲で良好な感度と印刷時の非画像部の良好な汚れ難さが得られる。
【0097】
〔ラジカル重合性化合物〕
本発明における画像記録層に用いるラジカル重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。これらは、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物などの化学的形態をもつ。
【0098】
モノマーの例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能イソシアネート類あるいはエポキシ類との付加反応物、及び単官能もしくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。これらは、特表2006−508380号公報、特開2002−287344号公報、特開2008−256850号公報、特開2001−342222号公報、特開平9−179296号公報、特開平9−179297号公報、特開平9−179298号公報、特開2004−294935号公報、特開2006−243493号公報、特開2002−275129号公報、特開2003−64130号公報、特開2003−280187号公報、特開平10−333321号公報、を含む参照文献に記載されている。
【0099】
多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド(EO)変性トリアクリレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等がある。メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等がある。また、多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。
【0100】
また、イソシアネートとヒドロキシル基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(b)で示されるヒドロキシル基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
CH2=C(R4)COOCH2CH(R5)OH (b)
(ただし、R4及びR5は、H又はCH3を示す。)
【0101】
また、特開昭51−37193号公報、特公平2−32293号公報、特公平2−16765号公報、特開2003−344997号公報、特開2006−65210号公報に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号公報、特公昭56−17654号公報、特公昭62−39417号公報、特公昭62−39418号公報、特開2000−250211号公報、特開2007−94138号公報記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類や、米国特許第7153632号明細書、特表平8−505958号公報、特開2007−293221号公報、特開2007−293223号公報記載の親水基を有するウレタン化合物類も好適である。
【0102】
上記の中でも、機上現像性に関与する親水性と耐刷性に関与する重合能のバランスに優れる点から、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ビス(アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレートなどのイソシアヌル酸エチレンオキシド変性アクリレート類が特に好ましい。
【0103】
これらの重合性化合物の構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な平版印刷版原版の性能設計にあわせて任意に設定できる。上記の重合性化合物は、画像記録層の全固形分に対して、好ましくは5〜75質量%、更に好ましくは10〜70質量%、特に好ましくは15〜60質量%の範囲で使用される。
【0104】
〔ポリマー微粒子〕
本発明では、機上現像性を向上させるため、ポリマー微粒子を用いることができる。特に、ポリアルキレンオキシド構造を有するポリマー微粒子が好ましい。特に側鎖にポリアルキレンオキシド基を有するポリマー微粒子が好ましい。これらにより、湿し水の浸透性が向上し、機上現像性が良好となる。
本発明におけるポリマー微粒子は、熱が加えられたときに画像記録層を疎水性に変換できる疎水化前駆体であることが好ましい。疎水化前駆体ポリマー微粒子としては、疎水性熱可塑性ポリマー微粒子、熱反応性ポリマー微粒子、疎水性化合物を内包しているマイクロカプセル、及びミクロゲル(架橋ポリマー微粒子)から選ばれる少なくともひとつの粒子が好ましい。なかでも、重合性基を有するポリマー微粒子及びミクロゲルが好ましい。機上現像性を向上させるためには、上記の如く、ポリアルキレンオキシド構造を有することが好ましい。
【0105】
疎水性熱可塑性ポリマー微粒子としては、1992年1月のResearch Disclosure No.333003、特開平9−123387号公報、同9−131850号公報、同9−171249号公報、同9−171250号公報及び欧州特許第931647号明細書などに記載の疎水性熱可塑性ポリマー微粒子を好適なものとして挙げることができる。
このようなポリマー微粒子を構成するポリマーの具体例としては、エチレン、スチレン、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルカルバゾール、ポリアルキレン構造を有するアクリレート又はメタクリレートなどのモノマーのホモポリマーもしくはコポリマー又はそれらの混合物を挙げることができる。その中で、より好適なものとして、ポリスチレン、スチレン及びアクリロニトリルを含む共重合体、ポリメタクリル酸メチルを挙げることができる。
【0106】
本発明に用いられる疎水性熱可塑性ポリマー微粒子の平均粒径は0.01〜2.0μmが好ましい。
【0107】
本発明に用いられる熱反応性ポリマー微粒子としては、熱反応性基を有するポリマー微粒子が挙げられ、これらは、熱反応による架橋、及びその際の官能基変化により疎水化領域を形成する。
【0108】
本発明に用いる熱反応性基を有するポリマー微粒子における熱反応性基としては、化学結合が形成されるならば、どのような反応を行う官能基でもよいが、ラジカル重合反応を行うエチレン性不飽和基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基など)、カチオン重合性基(例えば、ビニル基、ビニルオキシ基など)、付加反応を行うイソシアナート基又はそのブロック体、エポキシ基、ビニルオキシ基及びこれらの反応相手である活性水素原子を有する官能基(例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基など)、縮合反応を行うカルボキシ基及び反応相手であるヒドロキシ基又はアミノ基、開環付加反応を行う酸無水物及び反応相手であるアミノ基又はヒドロキシ基などを好適なものとして挙げることができる。
【0109】
本発明で用いられるマイクロカプセルとしては、例えば、特開2001−277740号公報、特開2001−277742号公報に記載のごとく、画像記録層の構成成分の全て又は一部をマイクロカプセルに内包させたものである。なお、画像記録層の構成成分は、マイクロカプセル外にも含有させることもできる。更に、マイクロカプセルを含有する画像記録層は、疎水性の構成成分をマイクロカプセルに内包し、親水性の構成成分をマイクロカプセル外に含有することが好ましい態様である。
【0110】
本発明においては、架橋樹脂粒子、すなわちミクロゲルを含有する態様であってもよい。このミクロゲルは、その中及び表面の少なくとも一方に、画像記録層の構成成分の一部を含有することができ、特に、(C)ラジカル重合性化合物をその表面に有することによって反応性ミクロゲルとした態様が、画像形成感度や耐刷性の観点から特に好ましい。
【0111】
画像記録層の構成成分をマイクロカプセル化、もしくはミクロゲル化する方法としては、公知の方法が適用できる。
【0112】
上記のマイクロカプセルやミクロゲルの平均粒径は、0.01〜3.0μmが好ましい。0.05〜2.0μmが更に好ましく、0.10〜1.0μmが特に好ましい。この範囲内で良好な解像度と経時安定性が得られる。
【0113】
ポリマー微粒子の含有量としては、画像記録層全固形分の5〜90質量%の範囲であることが好ましい。
【0114】
〔上述以外の画像記録層成分〕
本発明の画像記録層には、さらに、必要に応じて種々の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、現像性の促進及び塗布面状を向上させるための界面活性剤、塗布面質質改良剤、現像性と原版から得られる平版印刷版の耐刷性両立の為のマイクロカプセル、現像性の向上やマイクロカプセルの分散安定性向上などのための親水性ポリマー、画像部と非画像部を視認するための着色剤や焼き出し剤、画像記録層の製造中又は保存中のラジカル重合性化合物の不要な熱重合を防止するための重合禁止剤、酸素による重合阻害を防止するための高級脂肪誘導体などの疎水性低分子化合物、画像部の硬化皮膜強度向上のための無機微粒子、有機微粒子、現像性向上のための低分子親水性化合物、感度向上の為の共増感剤や連鎖移動剤、可塑性向上のための可塑剤、着肉性を向上させるために、画像記録層にホスホニウム化合物、含窒素低分子化合物、アンモニウム基含有ポリマーなどの感脂化剤を用いることができる。これの化合物はいずれも公知のものを使用でき、例えば、特開2007−206217号公報段落番号[0161]〜[0215]に記載の化合物、特表2005−509192号公報段落番号[0067]、特開2004−310000号公報段落番号[0023]〜[0026}及び[0059]〜[0066]、特開2009-29124号公報段落番号[0222]〜[0231]、特開2007−50660号公報段落番号[0039]〜[0042]、特開2008−284858号公報段落番号[0021]〜[0037]、特開2009−90645号公報段落番号[0030]〜[0057]、特開2009−208458号公報段落番号[0089]〜[0105]に記載の化合物を使用することができる。
【0115】
〔画像記録層の形成〕
本発明の画像記録層は、必要な上記各成分を溶剤に分散又は溶解して塗布液を調製し、塗布して形成される。ここで使用する溶剤としては、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、γ−ブチルラクトン等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独又は混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
また塗布、乾燥後に得られる支持体上の画像記録層塗布量(固形分)は、0.3〜3.0g/mが好ましい。塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。
【0116】
(支持体)
本発明の平版印刷版原版に用いられる支持体は、特に限定されず、寸度的に安定な板状な親水性支持体であればよい。特に、アルミニウム板が好ましい。アルミニウム板を使用するに先立ち、粗面化処理、陽極酸化処理等の表面処理を施すのが好ましい。アルミニウム板表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理( 電気化学的に表面を溶解させる粗面化処理) 、化学的粗面化処理( 化学的に表面を選択溶解させる粗面化処理) が挙げられる。これらの処理については、特開2007−206217号公報段落番号[0241]〜[0245]に記載された方法を好ましく用いることができる。
【0117】
また、上記アルミニウム板は必要に応じて、特開2001−253181号公報や特開2001−322365号公報に記載されている陽極酸化皮膜のマイクロポアの拡大処理や封孔処理、及び米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、同第3,280,734号及び同第3,902,734号の各明細書に記載されているようなアルカリ金属シリケートあるいは米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号及び同第4,689,272号の各明細書に記載されているようなポリビニルホスホン酸などによる表面親水化処理を適宜選択して行うことができる。
【0118】
支持体は、中心線平均粗さが0.10〜1.2μmであるのが好ましい。この範囲内で、画像記録層との良好な密着性、原版から得られる平版印刷版の良好な耐刷性と良好な汚れ難さが得られる。
また、支持体の色濃度としては、反射濃度値として0.15〜0.65であるのが好ましい。この範囲内で、画像露光時のハレーション防止による良好な画像形成性と現像後の良好な検版性が得られる。
支持体の厚さは0.1〜0.6mmであるのが好ましく、0.15〜0.4mmであるのがより好ましく、0.2〜0.3mmであるのが更に好ましい。
【0119】
本発明の支持体には必要に応じて、裏面に、特開平5−45885号公報に記載されている有機高分子化合物、特開平6−35174号公報に記載されているケイ素のアルコキシ化合物を含むバックコート層を設けることができる。
【0120】
(下塗り層)
本発明の平版印刷版原版には、画像記録層と支持体との間に下塗り層を設けることが好ましい。下塗り層は、未露光部において、画像記録層の支持体からのはく離を生じやすくさせるため、本発明の印刷方法に適しており、機上現像性が特に向上する。また、赤外線レーザー露光の場合は、下塗り層が断熱層として機能することにより、露光により発生した熱が支持体に拡散せず、効率よく利用されるようになるため、高感度化が図れるという利点がある。
下塗り層は、親水性基と支持体表面に吸着する基を有する高分子化合物を含有することが好ましく、このような高分子化合物は、吸着性基を有するモノマー/親水性基を有するモノマーを共重合した高分子樹脂であることが好ましく、吸着性基を有するモノマー/親水性基を有するモノマー/架橋性基を有するモノマーを共重合した高分子樹脂であることがより好ましい。
【0121】
親水性支持体表面への吸着性の有無は、例えば以下のような方法で判断できる。
試験化合物を易溶性の溶媒に溶解させた塗布夜を作製し、その塗布夜を乾燥後の塗布量が30mg/mとなるように支持体上に塗布・乾燥させる。次に試験化合物を塗布した支持体を、易溶性溶媒を用いて十分に洗浄した後、洗浄除去されなかった試験化合物の残存量を測定して支持体吸着量を算出する。ここで残存量の測定は、残存化合物量を直接定量してもよいし、洗浄液中に溶解した試験化合物量を定量して算出してもよい。化合物の定量は、例えば蛍光X線測定、反射分光吸光度測定、液体クロマトグラフィー測定などで実施できる。支持体吸着性がある化合物は、上記のような洗浄処理を行っても1mg/m以上残存する化合物である。
【0122】
親水性支持体表面への吸着性基は、親水性支持体表面に存在する物質(例えば、金属、金属酸化物)あるいは官能基(例えば、ヒドロキシル基)と、化学結合(例えば、イオン結合、水素結合、配位結合、分子間力による結合)を引き起こすことができる官能基である。吸着性基は、酸基又はカチオン性基が好ましい。
酸基は、酸解離定数(pKa)が7以下であることが好ましい。酸基の例は、フェノール性ヒドロキシル基、カルボキシル基、−PO32、−OPO32、及び−COCH2COCH3を含む。なかでも−OPO32及び−PO32が特に好ましい。またこれら酸基は、金属塩であっても構わない。
カチオン性基は、オニウム基であることが好ましい。オニウム基の例は、アンモニウム基、ホスホニウム基、アルソニウム基、スチボニウム基、オキソニウム基、スルホニウム基、セレノニウム基、スタンノニウム基、ヨードニウム基を含む。アンモニウム基、ホスホニウム基及びスルホニウム基が好ましく、アンモニウム基及びホスホニウム基がさらに好ましく、アンモニウム基が最も好ましい。
【0123】
吸着性基を有するモノマーの特に好ましい例としては、下記式(III)又は(IV)で表される化合物が挙げられる。
【0124】
【化10】

【0125】
式(III)において、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素原子数が1乃至6のアルキル基である。R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数が1乃至6のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素原子数が1乃至3のアルキル基であることがさらに好ましく、水素原子又はメチル基であることが最も好ましい。R2及びR3は、水素原子であることが特に好ましい。
式(III)において、Xは、酸素原子(−O−)又はイミノ(−NH−)である。Xは、酸素原子であることがさらに好ましい。式(III)において、Lは、2価の連結基である。Lは、2価の脂肪族基(アルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、置換アルケニレン基、アルキニレン基、置換アルキニレン基)、2価の芳香族基(アリレン基、置換アリレン基)又は2価の複素環基であるか、あるいはそれらと、酸素原子(−O−)、硫黄原子(−S−)、イミノ(−NH−)、置換イミノ(−NR−、Rは脂肪族基、芳香族基又は複素環基)又はカルボニル(−CO−)との組み合わせであることが好ましい。
脂肪族基は、環状構造又は分岐構造を有していてもよい。脂肪族基の炭素原子数は、1乃至20が好ましく、1乃至15がさらに好ましく、1乃至10が最も好ましい。脂肪族基は、不飽和脂肪族基よりも飽和脂肪族基の方が好ましい。脂肪族基は、置換基を有していてもよい。置換基の例は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、芳香族基及び複素環基を含む。
芳香族基の炭素原子数は、6乃至20が好ましく、6乃至15がさらに好ましく、6乃至10が最も好ましい。芳香族基は、置換基を有していてもよい。置換基の例は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、脂肪族基、芳香族基及び複素環基を含む。
複素環基は、複素環として5員環又は6員環を有することが好ましい。複素環に他の複素環、脂肪族環又は芳香族環が縮合していてもよい。複素環基は、置換基を有していてもよい。置換基の例は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、オキソ基(=O)、チオキソ基(=S)、イミノ基(=NH)、置換イミノ基(=N−R、Rは脂肪族基、芳香族基又は複素環基)、脂肪族基、芳香族基及び複素環基を含む。
Lは、複数のポリオキシアルキレン構造を含む二価の連結基であることが好ましい。ポリオキシアルキレン構造は、ポリオキシエチレン構造であることがさらに好ましい。言い換えると、Lは、−(OCH 2CH 2n−(nは2以上の整数)を含むことが好ましい。
式(III)において、Zは、親水性支持体表面に吸着する官能基である。
【0126】
式(IV)において、R1、L及びZは、式(III)におけるものと同義である。
Yは、炭素原子又は窒素原子である。Y=窒素原子でY上にLが連結し四級ピリジニウム基になった場合、それ自体が吸着性を示すことからZは必須ではない。
【0127】
以下に、式(III)又は(IV)で表される代表的なモノマーの例を示す。
【0128】
【化11】

【0129】
本発明に用いることができる下塗り用高分子樹脂の親水性基としては、例えば、カルボキシレート基、ポリオキシエチル基、ポリオキシプロピル基、スルホン酸基等が好適に挙げられる。中でも高親水性を示すスルホン酸基及びポリオキシエチル基を有するモノマーが好ましい。
スルホン酸基を有するモノマーの具体例としては、メタリルオキシベンゼンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、メタリルスルホン酸、アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(3−アクリロイルオキシプロピル)ブチルスルホン酸のナトリウム塩、アミン塩が挙げられる。中でも親水性能及び合成の取り扱いから2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム塩が好ましい。
【0130】
本発明の下塗り層用の水溶性高分子樹脂は、架橋性基を有すことが好ましい。架橋性基によって画像部との密着の向上が得られる。下塗り層用の高分子樹脂に架橋性を持たせるためには、エチレン性不飽和結合等の架橋性官能基を高分子の側鎖中に導入したり、高分子樹脂の極性置換基と対荷電を有する置換基とエチレン性不飽和結合を有する化合物で塩構造を形成させたりして導入することができる。
【0131】
分子の側鎖中にエチレン性不飽和結合を有するポリマーの例としては、アクリル酸又はメタクリル酸のエステル又はアミドのポリマーであって、エステル又はアミドの残基(−COOR又は−CONHRのR)がエチレン性不飽和結合を有するポリマーを挙げることができる。
【0132】
エチレン性不飽和結合を有する残基(上記R)の例としては、−(CH2 n CR1 =CR2 3 、−(CH2 O)n CH2 CR1 =CR2 3 、−(CH2 CH2 O)n CH2 CR1 =CR2 3 、−(CH2 n NH−CO−O−CH2 CR1 =CR2 3 、−(CH2 n −O−CO−CR1 =CR2 3 及び(CH2 CH2 O)2 −X(式中、R1 〜R3 はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子又は炭素原子数1〜20のアルキル基、アリール基、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基を表し、R1 とR2 又はR3 とは互いに結合して環を形成してもよい。nは、1〜10の整数を表す。Xは、ジシクロペンタジエニル残基を表す。)を挙げることができる。
エステル残基の具体例としては、−CH2 CH=CH2 (特公平7−21633号公報に記載されている。)、−CH2 CH2 O−CH2 CH=CH2 、−CH2 C(CH3 )=CH2 、−CH2 CH=CH−C6 5 、−CH2 CH2 OCOCH=CH−C6 5 、−CH2 CH2 −NHCOO−CH2 CH=CH2 及びCH2 CH2 O−X(式中、Xはジシクロペンタジエニル残基を表す。)が挙げられる。
アミド残基の具体例としては、−CH2 CH=CH2 、−CH2 CH2 −Y(式中、Yはシクロヘキセン残基を表す。)、−CH2 CH2 −OCO−CH=CH2 が挙げられる。
下塗り層用高分子樹脂の架橋性基を有するモノマーとしては、上記架橋性基を有するアクリル酸又はメタクリル酸のエステル又はアミドが好適である。
【0133】
下塗り層用高分子樹脂中の架橋性基の含有量(ヨウ素滴定によるラジカル重合可能な不飽和二重結合の含有量)は、高分子樹脂1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは1.0〜7.0mmol、最も好ましくは2.0〜5.5mmolである。この範囲で、良好な感度と汚れ性の両立、及び良好な保存安定性が得られる。
【0134】
下塗り層用の高分子樹脂は、質量平均モル質量(Mw)が5000以上であるのが好ましく、1万〜30万であるのがより好ましく、また、数平均モル質量(Mn)が1000以上であるのが好ましく、2000〜25万であるのがより好ましい。多分散度(Mw/Mn)は、1.1〜10であるのが好ましい。
下塗り層用の高分子樹脂は、ランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマー等のいずれでもよいが、ランダムポリマーであるのが好ましい。
【0135】
下塗り用高分子樹脂は単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
下塗り用高分子樹脂は、溶剤に溶解させ、下塗り層塗布液として使用される。使用し得る溶剤は、下塗り用高分子樹脂を溶解又は分散可能で、塗布後の乾燥工程で揮発する溶剤であれば、いずれも使用することができ、例えば、画像記録層を形成する際に使用される溶剤を使用することができる。
【0136】
本発明の下塗り層は、上記下塗り層用化合物の他に、経時における汚れ防止のため、キレート剤、第2級又は第3級アミン、重合禁止剤、アミノ基又は重合禁止能を有する官能基とアルミニウム支持体表面と相互作用する基とを有する化合物等(例えば、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、2,3,5,6−テトラヒドロキシ−p−キノン、クロラニル、スルホフタル酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸など)を含有することができる。
【0137】
下塗り層は、公知の方法で塗布される。下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/m2であるのが好ましく、1〜30mg/m2であるのがより好ましい。
【0138】
(保護層)
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層の上に保護層(オーバーコート層)を設けることが好ましい。保護層は酸素遮断によって画像形成阻害反応を抑制する機能の他、画像記録層における傷の発生防止、及び高照度レーザー露光時のアブレーション防止の機能を有する。
【0139】
このような特性の保護層については、例えば、米国特許第3,458,311号明細書及び特公昭55−49729号公報に記載されている。保護層に用いられる酸素低透過性のポリマーとしては、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマーのいずれをも適宜選択して使用することができ、必要に応じて2種類以上を混合して使用することもできる。具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース誘導体、ポリ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
変性ポリビニルアルコールとしては、カルボキシ基又はスルホ基を有する酸変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。具体的には、特開2005−250216号、特開2006−259137号の公報に記載の変性ポリビニルアルコールが好適である。
【0140】
また、保護層には酸素遮断性を高めるため、特開2005−119273号公報に記載のように天然雲母、合成雲母等の無機質の層状化合物を含有することが好ましい。
また、保護層には、可撓性付与のための可塑剤、塗布性を向上させための界面活性剤、表面の滑り性を制御する無機微粒子など公知の添加物を含むことができる。また、画像記録層の説明に記載した感脂化剤を保護層に含有させることもできる。
【0141】
保護層は、公知の方法で塗布される。保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.01〜10g/mの範囲であることが好ましく、0.02〜3g/mの範囲がより好ましく、最も好ましくは0.02〜1g/mの範囲である。
【0142】
また、画像部との密着性や耐傷性も、版の取り扱い上極めて重要である。すなわち、水溶性ポリマーからなる親水性の層を親油性の重合層に積層すると、接着力不足による膜剥離が発生しやすく、剥離部分が酸素の重合阻害により膜硬化不良などの欠陥を引き起こす。これに対し、これらの2層間の接着性を改良すべく種々の提案がなされている。例えば特公昭54−12215号公報、英国特許出願公開第1303578号明細書には、主にポリビニルアルコールからなる親水性ポリマー中に、アクリル系エマルジョン又は水不溶性ビニルピロリドン−ビニルアセテート共重合体などを20〜60質量%混合し、重合層の上に積層することにより、十分な接着性が得られることが記載されている。本発明における保護層に対しては、これらの公知の技術をいずれも適用することができる。このような保護層の塗布方法については、例えば米国特許第3,458,311号明細書、特開昭55−49729号公報に詳しく記載されている。
【実施例】
【0143】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例で使用するポリマーに記載の、繰り返し単位の比はモル比である。
【0144】
〔平版印刷版原版(1)〜(3)の作製〕
【0145】
1.平版印刷版原版(1)の作製
(1)支持体の作製
厚み0.3mmのアルミニウム板(材質JIS A 1050)の表面の圧延油を除去するため、10質量%アルミン酸ソーダ水溶液を用いて50℃で30秒間、脱脂処理を施した後、毛径0.3mmの束植ナイロンブラシ3本とメジアン径25μmのパミス−水懸濁液(比重1.1g/cm)を用いアルミニウム表面を砂目立てして、水でよく洗浄した。この板を45℃の25質量%水酸化ナトリウム水溶液に9秒間浸漬してエッチングを行い、水洗後、さらに60℃で20質量%硝酸に20秒間浸漬し、水洗した。この時の砂目立て表面のエッチング量は約3g/mであった。
【0146】
次に、60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃であった。交流電源波形は、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で30A/dm、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。硝酸電解における電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量175C/dmであった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0147】
続いて、塩酸0.5質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃の電解液にて、アルミニウム板が陽極時の電気量50C/dmの条件で、硝酸電解と同様の方法で、電気化学的な粗面化処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
次に、この板に15質量%硫酸(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)を電解液として電流密度15A/dmで2.5g/mの直流陽極酸化皮膜を設けた後、水洗、乾燥して支持体(1)を作製した。
その後、非画像部の親水性を確保するため、支持体(1)に2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて60℃で10秒間、シリケート処理を施し、その後、水洗して支持体(2)を得た。Siの付着量は10mg/mであった。この基板の中心線平均粗さ(Ra)を直径2μmの針を用いて測定したところ、0.51μmであった。
【0148】
(2)下塗り層の形成
次に、上記支持体(2)上に、下記下塗り層用塗布液(1)を乾燥塗布量が20mg/mになるよう塗布して、以下の実験に用いる下塗り層を有する支持体を作製した。
【0149】
<下塗り層用塗布液(1)>
・下記構造の下塗り層用化合物(1) 0.18g
・ヒドロキシエチルイミノ二酢酸 0.10g
・メタノール 55.24g
・水 6.15g
【0150】
【化12】

【0151】
(3)画像記録層の形成
上記のようにして形成された下塗り層上に、下記組成の画像記録層塗布液(1)をバー塗布した後、100℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.0g/mの画像記録層を形成した。
画像記録層塗布液(1)は下記感光液(1)及びミクロゲル液(1)を塗布直前に混合し攪拌することにより得た。
【0152】
<感光液(1)>
・バインダーポリマー(1)〔下記構造〕 0.240g
・赤外線吸収染料(1)〔下記構造〕 0.030g
・重合開始剤(1)〔下記構造〕 0.162g
・ラジカル重合性化合物
トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート
(NKエステルA−9300、新中村化学(株)製) 0.192g
・低分子親水性化合物
トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート 0.062g
・低分子親水性化合物(1)〔下記構造〕 0.050g
・感脂化剤 ホスホニウム化合物(1)〔下記構造〕 0.055g
・感脂化剤
ベンジル−ジメチル−オクチルアンモニウム・PF6塩 0.018g
・感脂化剤 アンモニウム基含有ポリマー
[下記構造、還元比粘度44cSt/g/ml] 0.035g
・フッ素系界面活性剤(1)〔下記構造〕 0.008g
・2−ブタノン 1.091g
・1−メトキシ−2−プロパノール 8.609g
【0153】
<ミクロゲル液(1)>
・ミクロゲル(1) 2.640g
・蒸留水 2.425g
【0154】
上記の、バインダーポリマー(1)、赤外線吸収染料(1)、重合開始剤(1)、ホスホニウム化合物(1)、低分子親水性化合物、(1)アンモニウム基含有ポリマー、及びフッ素系界面活性剤(1)の構造は、以下に示す通りである。
【0155】
【化13】

【0156】
【化14】

【0157】
−ミクロゲル(1)の合成−
油相成分として、トリメチロールプロパンとキシレンジイソシアナート付加体(三井化学(株)製、タケネートD−110N)10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬(株)製、SR444)3.15g、及びパイオニンA−41C(竹本油脂(株)製)0.1gを酢酸エチル17gに溶解した。水相成分としてクラレポバールPVA−205((株)クラレ製ポリビニルアルコール、けん化度 86.5−89.0モル%)の4質量%水溶液40gを調製した。油相成分及び水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12,000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、50℃で3時間攪拌した。このようにして得られたミクロゲル液の固形分濃度を、15質量%になるように蒸留水を用いて希釈し、これを前記ミクロゲル(1)とした。ミクロゲルの平均粒径を光散乱法により測定したところ、平均粒径は0.2μmであった。
【0158】
(4)保護層の形成
上記画像記録層上に、さらに下記組成の保護層塗布液(1)をバー塗布した後、120℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.15g/mの保護層を形成して平版印刷版原版(1)を得た。
【0159】
<保護層用塗布液(1)>
・無機質層状化合物分散液(1) 1.5g
・ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製CKS50、スルホン酸変性、
けん化度99モル%以上、重合度300)6質量%水溶液 0.55g
・ポリビニルアルコール((株)クラレ製PVA−405、
けん化度81.5モル%、重合度500)6質量%水溶液 0.03g
・日本エマルジョン(株)製界面活性剤
(エマレックス710)1質量%水溶液 0.86g
・イオン交換水 6.0g
【0160】
(無機質層状化合物分散液(1)の調製)
イオン交換水193.6gに合成雲母ソマシフME−100(コープケミカル(株)製)6.4gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)が3μmになるまで分散した。得られた分散粒子のアスペクト比は100以上であった。
【0161】
2.平版印刷版原版(2)の作製
下塗り層を設けなかったこと以外は平版印刷版原版(1)と同様に行ない、平版印刷版原版(2)を作製した。
【0162】
3.平版印刷版原版(3)の作製
平版印刷版原版(1)の画像記録層のバインダーポリマー(1)を下記バインダーポリマー(2)にした以外は平版印刷版原版(1)と同様にして、平版印刷版原版(3)を作製した。
【0163】
【化15】

【0164】
[実施例1]
上記のようにして得られた平版印刷版原版(1)を用いて、下記(i)→(ii)→(iii)→(iv)→(v)の工程の順で印刷を行った。
【0165】
(i)平版印刷版原版を画像様に露光した後、印刷機の版胴に装着
得られた平版印刷版原版を赤外線半導体レーザー搭載の富士フイルム(株)製Luxel PLATESETTER T−6000IIIにて、外面ドラム回転数1000rpm、レーザー出力70%、解像度2400dpiの条件で露光した。露光画像にはベタ画像、ベタ非画像、及び20μmドットFMスクリーンの50%網点チャートを含むようにした。
得られた露光済み原版を現像処理することなく、(株)小森コーポレーション製印刷機“Spica 26”(図4に示すコモリマチック給水装置を装備)の版胴に取り付けた。
印刷機には印刷時に供給する湿し水として、ECOLITY−2(富士フイルム(株)製)/水=2/98(容量比)を水舟に入れ(温度20℃)、湿し水供給量は10ml/mに設定した。
印刷インキには、スペースカラーフュージョンG墨インキ(DICグラフィックス(株)製)を用いた。
【0166】
(ii)湿し水をスプレー噴射
湿し水〔ECOLITY−2/水=2/98(容量比)(湿し水温度25℃)〕を、版胴に装着した平版印刷版原版の単位面積あたり50ml/mの割合の量、家庭用スプレーボトル(霧吹き)で、水着けローラに水を給水するローラ(図4のローラー(22))に均一に噴射させた。
【0167】
(iii)給水ローラーを回転
スプレー供給後に、給水ローラーを回転させた。回転は水着けローラーの回転数として9回行った。
【0168】
(iv)水着けローラーを平版印刷版原版に接触
水着けローラーを平版印刷版原版に接触させた後、版胴を10回回転させた。
【0169】
(v)平版印刷版原版にインキローラーから印刷インキを供給し、さらに版胴に印刷用紙を供給
インキ供給と同時に、印刷用紙(特菱アート(76.5kg)紙)を供給した。
毎時6000枚の印刷速度で印刷を行った。
【0170】
〔機上現像性の評価〕
非画像部がきれいに機上現像され、汚れのない印刷物を得られるまでの損紙数で評価した。結果を表1に示す。
【0171】
〔印刷ムラの評価〕
汚れのない印刷物を得た枚数の印刷物において、20μmドットFMスクリーンの50%網画像のムラを次の基準で評価した。結果を表1に示す。
○: インキが均一にのっている
○△: インキがのっているが、わずかにムラらしきものが観察される。印刷物としては許容されるレベルである。
△: インキはのっているが、ムラが見られる。
×: インキがのりにくい(うすい)。
【0172】
[実施例2〜8]
スプレー噴射する手段、噴射量、及び、ローラー幅方向の噴射の仕方を表1に示すように行った以外は実施例1と同様に印刷及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0173】
[比較例1]
工程(ii)の湿し水ECOLITY−2/水=2/98(容量比)のスプレー噴射を行わない以外は、実施例1と同様に印刷した。結果を表1に示す。
【0174】
[比較例2]
工程(ii)の次に、工程(iii)給水ローラーの回転を行わず、水着けローラーとインキ着けローラーを同時に版胴上の版に接触させた以外は実施例1と同様に印刷した。結果を表1に示す。
【0175】
[比較例3]
工程(ii)の湿し水ECOLITY−2/水=2/98(容量比)のスプレー噴射を、図4のローラー(22)ではなく、版胴に取り付けられた版に直接行った。それ以外は実施例1と同様に印刷した。結果を表1に示す。
【0176】
[比較例4]
比較例3において、工程(iii)の給水ローラーの回転を行わず、水着けローラーとインキ着けローラーを同時に版胴上の版に接触させて、印刷した。結果を表1に示す。
【0177】
[比較例5]
湿し水をスプレー噴射することなく、機上現像時の水舟から版に供給される湿し水量を印刷時の10倍(100ml/m)とし、機上現像を行った後、通常の湿し水供給量(10ml/m)に戻した。結果を表1に示す。
【0178】
【表1】

【0179】
表1の結果から、湿し水を給水ローラーに噴射することにより印刷ムラがなくなり、湿し水噴射量が多くなることで、機上現像性が良化することがわかる。
ローラーへのスプレー供給のない比較例1では、機上現像性が劣り、またローラー起因と見られるたて筋状の印刷ムラが発生した。
ローラーへのスプレー供給はあるが、工程(iii)を除いた比較例2では、供給された液がローラー上で均されず、ローラーの周面に水滴が形成され現像性は劣化した。また、水滴に由来すると考えられる点状の印刷ムラが生じた。
版に直接湿し水を供給した比較例3では、版面に均一に水が供給されないため、印刷初期から現像ムラに由来すると考えられる点状の印刷ムラが発生した。
さらに工程(iii)を除いた比較例4では、比較例3より機上現像性、点状の印刷ムラが悪化した。
ローラーへのスプレー供給はないが、水舟からの湿し水供給量を10倍増やした比較例5は、機上現像性は良好であったが、印刷ムラが発生した。
【0180】
[実施例9〜16及び比較例6〜8〕
実施例1〜8、比較例2〜4のスプレー噴射する湿し水をECOLITY−2/水=2/98(容量比)からECOLITY−2原液(ECOLITY−2/水=100/0)に変更した以外は、同様の条件で印刷及び評価を行った。結果を表2に示す。表2には、比較のため、比較例1、5を再掲した。
【0181】
【表2】

【0182】
表1と表2の比較から、印刷時に使用する湿し水よりもスプレー供給する湿し水の方が高濃度だと一層好結果が得られることがわかる。
【0183】
[実施例17〜27]
実施例1のスプレー噴射する湿し水を表3に記載の液種に代えた以外は、実施例1と同様の条件で印刷及び評価を行った。結果を表3に示す。表3には、比較のため、実施例1、9及び比較例1、5を再掲した。
【0184】
【表3】

【0185】
スプレーする湿し水が同一組成の時は、濃度が高くなるほど良好な結果が得られた。
水と混合する溶剤の水溶液のスプレーの場合も良好な効果を得ることができた。特に、画像記録層が脱膜、溶解現像されやすくなり、湿し水スプレーより機上現像性良化する傾向であった。
水と混合する溶剤の水溶液のスプレーでも、高濃度の湿し水スプレーでも、機上現像後は、水舟から上がってきた湿し水(通常濃度)により、スプレー供給した液濃度が下がり、支障なく安定に印刷できた。
【0186】
[実施例28〜33]
スプレー液を噴射後、給水ローラーを表4に記載の回数回転させた以外は、実施例9と同様に印刷及び評価を行った。
【0187】
【表4】

【0188】
回転数が3〜20回転の範囲だと噴射した液と、水舟から供給された湿し水が混ざり合い機上現像性が良好であるが、これ以上回転数が多くなると、水舟からの湿し水に濃度が近づくため、機上現像性が劣化する。また、回転数が少ないと印刷ムラがわずかにではあるが発生する。
【0189】
[実施例34]
実施例9と同様に露光し、印刷機の版胴に装着された平版印刷版原版(1)を(iii)→(ii)→(iv)→(v)の工程の順で印刷を行った。
工程(iii) 給水ローラーの回転では、水着けローラーの回転数として9回回転させた。
工程(ii) 湿し水の噴射では、湿し水〔ECOLITY−2原液(湿し水温度 25℃)〕を、版胴に装着した平版印刷版原版の単位面積あたり50ml/mの割合の量、家庭用スプレーボトル(霧吹き)でローラー(22)に均一に噴射させた。
工程(iv) 水着けローラーを平版印刷版原版に接触では、水着けローラーを平版印刷版原版に接触させた後、版胴を10回回転させた。
工程(v) 平版印刷版原版にインキローラーから印刷インキを供給し、さらに版胴に印刷用紙を供給では、インキ供給と同時に、印刷用紙(特菱アート(76.5kg)紙)を供給した。毎時6000枚の印刷速度で印刷を行った。結果を表5に示す。
【0190】
【表5】

【0191】
工程の順を替えた実施例34でも、スプレー供給を行わない比較例1及び5より、機上現像性、印刷ムラとも勝っていることが確認された。
【0192】
[実施例35〜38]
工程(iv)で水着けローラーを平版印刷版原版に接触し、次いで、版胴を5回回転させた後、水着けローラーを版から離し、同時に給水ローラーの回転を停止した。表6に記載の時間放置した後、再度、水着けローラーを版に接触させ、版胴を5回回転させた。それ以外は、実施例9と同様に印刷を開始した。
【0193】
【表6】

【0194】
表6から、一旦停止の時間は3〜10分であることが、機上現像性の点で好ましいことがわかる。
【0195】
[実施例39〜40]
実施例9で用いた平版印刷版原版(1)を表7に記載の平版印刷版原版に代えた以外は実施例9と同様に,印刷し、評価した。結果を表7に示す。
【0196】
[比較例9〜10]
【0197】
実施例39及び40において、工程(ii)の湿し水ECOLITY−2(原液)のスプレー噴射を行わない以外は、それぞれ実施例39及び40と同様に印刷し、評価した。結果を表7に示す。
【0198】
【表7】

【0199】
〔実施例41〜43〕
工程(ii)のスプレー噴射する場所を表8に記載の場所に変更した以外は実施例9と同様に印刷し、評価した。結果を表8に示した。
【0200】
【表8】

【0201】
水着けローラーに水を給水するローラー又はメータリングローラーに給水する方が、水着けローラー又は水量を安定化させるためのローラーに給水するよりもわずかにではあるが、機上現像性が良好となる。
【符号の説明】
【0202】
10.版胴
20.給水ローラー
21.水着けローラー
22.水着けローラーに水を給水するローラー
23.水元ローラー
24.水量を安定化させるためのローラー
25.メータリングローラー
30.インキローラー
31.インキ着けローラー
32.練りローラー
40.ブリッジローラー
50.水舟

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム支持体上に、印刷インキ及び湿し水の少なくともいずれかを供給することにより現像される画像記録層を有する平版印刷版原版の印刷方法であって、印刷開始時に下記(i)〜(v)の工程を、(i)(ii)(iii)(iv)(v)の順又は(i)(iii)(ii)(iv)(v)の順で行うことを特徴とする印刷方法。
(i)平版印刷版原版を画像様に露光した後、印刷機の版胴に装着する。
(ii)印刷機の湿し水供給手段である水着けローラー、水着けローラーに水を給水するローラー、水量を安定化させるためのローラー、及びメータリングローラーの少なくとものいずれかに、湿し水及び有機溶剤を含む水溶液の少なくともいずれかをスプレー供給する。
(iii)給水ローラーを回転させる。
(iv)水着けローラーを平版印刷版原版に接触させ、平版印刷版原版に水着けローラーから湿し水を供給する。
(v)インキ着けローラーを平版印刷版原版に接触させ、平版印刷版原版にインキ着けローラーから印刷インキを供給し、インキ着けローラーを平版印刷版原版に接触させるのと同時に又は接触させた後に、印刷用紙を供給する。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷方法において、印刷開始時の(i)〜(v)の工程が(i)(ii)(iii)(iv)(v)の順であり、工程(iii)において給水ローラーを1〜50回転させた後、水着けローラーを平版印刷版原版に接触させることを特徴とする印刷方法。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の印刷方法において、工程(iv)で水着けローラーを平版印刷版原版に接触させた後に、一旦接触を解除し、解除してから30分以内に再度接触させることを特徴とする印刷方法。
【請求項4】
工程(ii)で噴射する有機溶剤を含む水溶液の有機溶剤が、水と混和できる溶剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項5】
有機溶剤がアルコール溶剤、エステル溶剤、エーテル溶剤、又はケトン溶剤であることを特徴とする請求項4に記載の印刷方法。
【請求項6】
工程(ii)で噴射する湿し水が、印刷時に使用する湿し水と同一組成であり、高濃度であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項7】
画像記録層が赤外線吸収剤、重合開始剤、ラジカル重合性化合物、及びバインダーポリマーを含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項8】
バインダーポリマーが、ポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイドを側鎖に有するアクリル樹脂バインダーであることを特徴とする請求項7に記載の印刷方法。
【請求項9】
平版印刷版原版が、アルミニウム支持体と画像記録層の間に、親水性基と支持体表面に吸着する基を有する高分子化合物を有する下塗り層を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−78851(P2013−78851A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218545(P2011−218545)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】