説明

機能性シート及びその製造方法

【課題】高い平坦性を有する機能層を基材の表面に形成した、変形のない機能性シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】機能性シート10は、基材表面上で機能粒子を含む塗料を乾燥させて基材表面に圧縮前機能層を形成した圧縮前機能性シート10´を製造した後、メタリックホットローラ21とゴムローラ22とで圧縮前機能性シートを挟んでこれらローラ21、22を回転させてローラプレスすることによって製造される。メタリックホットローラは圧縮前機能層の表面に接触し、ゴムローラが基板の裏面に接触し、圧縮前機能性シートはこれらローラの間に挟まれて圧縮される。ゴムローラのショアーD硬度は86以上、90以下の範囲にある。ローラプレスにより圧縮前機能層の表面が250kgf/cm以上の線圧力で加圧され、メタリックホットローラにより圧縮前機能層が100℃を超える温度で加熱される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電層、磁性層、誘電体層、エレクトロクロミック層、エレクトロルミネッセンス層、絶縁層、光吸収層、反射層、反射防止層、触媒層などの各種の機能を有する層(以下、この層を“機能層”という)をシート状の基材の表面に形成した機能性シート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機能性シートは、シート状の基材の表面に、導電性、磁性などの各種の機能を有する粒子(以下、この粒子を“機能粒子”という)を固定して、機能粒子からなる機能層を形成したものであり、機能性シートの用途に従って、基材及び機能粒子の種類が選定される。
【0003】
例えば、基材の表面に機能層として導電層を形成する場合、機能粒子として、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)などから選択される材料からなる導電性粒子が使用される。
【0004】
基材の表面に機能層として磁性層を形成する場合、機能粒子として、γ−Fe、Fe、Co−Fe、Baフェライトなどの磁性粒子や、α−Fe、Fe−Co、Fe−Ni、Fe−Co−Ni、Co、Co−Niなどの磁性金属元素を主成分とする合金粒子が使用される。
【0005】
基材の表面に機能層として誘電体層を形成する場合、機能粒子として、チタン酸マグネシウム系、チタン酸バリウム系、チタン酸ストロンチウム系、チタン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系などの誘電体の粒子が使用され、機能層としてエレクトロルミネッセンス層を形成する場合、機能粒子として、硫化亜鉛からなる粒子が使用される。
【0006】
機能粒子の粒径は、基材の表面に形成される機能層の用途によって適宜に選定できるものであり、例えば、導電層を形成する場合、平均粒径10μm以下の導電性粒子を使用するのが一般的である。
【0007】
機能層は、上記のような機能粒子を溶媒中に混入した塗料を基材の表面に塗布し、乾燥させることによって形成できる。
【0008】
塗料として、バインダーを全く含んでいないバインダーレス塗料、又は機能粒子の機能を著しく劣化しない程度の微量のバインダーを含んだ塗料が使用されている。
【0009】
バインダーレス塗料を基材の表面に塗布し、この塗膜を乾燥して塗膜中の溶媒を蒸発させると、機能粒子とその凝集体が基材の表面に石垣状に積層した機能層が形成される。
【0010】
また、微量のバインダーを含んだ塗料を基材の表面に塗布し、この塗膜を乾燥して塗膜中の溶媒を蒸発させると、機能粒子とその凝集体が微量のバインダーによって基材の表面に固定されている機能層が形成される。
【0011】
ここで、バインダーとは、重合体、又は重合又は架橋によって重合体を形成する単量体であり、有機系のポリマー及びモノマー、さらにアルコキシシラン、クロロシランなどの無機系のバインダーも含む。また、微量のバインダーを含んだ塗料では、その乾燥時に溶媒が蒸発し、バインダーの固形分が機能粒子を被膜し、その機能を劣化させることになるため、バインダーの含有量は、機能を劣化させない程度の量だけ塗料中に含まれる。
【0012】
バインダーとして、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが塗料中に含まれている。
【0013】
溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類の他、エーテル類、アミド類など、さらに水が使用できる。ここで、基材として、プラスチックシートが使用される場合、プラスチックシートの表面は疎水性であるため、溶媒として、アルコール類を使用し、また水とアルコール類との混合液を使用している。
【0014】
基材として使用されているプラスチックシートとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルなどからなるシートが使用されている。
【0015】
そして、上記のバインダーレス塗料や微量のバインダーを含んだ塗料を基材の表面上で単に乾燥させるだけ(すなわち、溶媒を蒸発させるだけ)では、基材の表面に形成した機能層の表面の平坦性と機能層中の機能粒子の密度(機能粒子同士の接触)が十分でないため、塗料を乾燥させた後に、機能層(以下、これを“圧縮前機能層”という)を圧縮して、機能層中の機能粒子の密度を高くするとともに機能層の表面を平坦化している。
【0016】
この圧縮は、二本のメタリックローラを使用して、基材の表面に圧縮前機能層を形成した機能性シート(以下、これを“圧縮前機能性シート”という)をローラプレスすることによって行われている。
【0017】
このローラプレスでは、メタリックホットローラの温度が高すぎる(100℃を超える)と、基材(プラスチックシート)が熱により変形するので、メタリックホットローラは常温(15℃〜40℃)に設定されている。
【0018】
そして、圧縮前機能性シートを高圧でローラプレスして、機能層中の機能粒子の密度を高くするとともに機能層の表面を平坦化している(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0019】
この高密度化と平坦化のメカニズムについて説明する。
【0020】
基材の表面にコーティングした塗料の乾燥中、塗料中に分散している機能粒子は凝集して凝集体を形成する。この凝集体を形成している機能粒子の個々のサイズと形状は、微視的にみれば、一定ではなく、また凝集体の個々のサイズと形状も一定ではない。このため、乾燥後、機能粒子の凝集体同士が凝集して石垣状に積層した機能層には、凝集体内部の機能粒子同士及び凝集体同士の間に隙間が形成されており、機能層における機能粒子同士の接触が十分ではなく、また機能層の表面には凹凸(この凹凸は脱粒の原因となるものである)が形成されている。
【0021】
上記のように、二本のメタリックローラを使用して、この圧縮前機能層を有する圧縮前機能性シートをローラプレスすると、これらメタリックローラは、ローラの回転軸線に沿って、圧縮前機能性シートの両面にほぼ線接触しながら、圧縮前機能性シートを挟んで圧縮する。
【0022】
圧縮中、圧縮前機能層を形成している機能粒子とその凝集体はメタリックローラの圧力によって機械的に破壊され、凝集体内部の機能粒子同士及び凝集体同士の間の隙間が機能粒子によって埋められ、これにより、機能層中の機能粒子の密度が高くなるとともに、機能層の表面も平坦化される。
【特許文献1】特開平8−165147号公報
【特許文献2】特開2001−328195号公報
【特許文献3】特開2002−36411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかし、上記の従来の技術のように、二本のメタリックローラを使用し、常温(15℃〜40℃)で、圧縮前機能性シートを高圧でローラプレスすると、圧縮後の機能層の表層部分から機能粒子が局所的に脱粒し、機能層の平坦性が低下する(すなわち、機能層の表面に凹凸が形成され、この凹凸が、機能性シートの使用時における機能層からの機能粒子の脱粒の原因となる)、という問題が生じる。
【0024】
<圧縮後の機能層からの脱粒原因> 圧縮後の機能層からの脱粒原因について考察すると、上記の従来の技術では、常温下で、二本の硬いメタリックローラで圧縮前機能性シートを挟んで高い圧力(又は線圧力)でローラプレスしているので、機能層の機能粒子及びその凝集体が破壊され、圧縮後の機能層は、粉体となった機能粒子が機械的なローラの圧縮力のみによって積層されたものとなっている。このため、圧縮後の機能層の表層部分では、機能粒子同士の凝集力が弱くなっており、圧縮後の機能層の表層部分から、機能粒子が脱粒し易くなっていると考えられる。
【0025】
したがって、本発明の目的は、高い平坦性を有する機能層を基材の表面に形成した、変形のない機能性シート及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の発明者は、鋭意研究の結果、ショアーD硬度86以上、90以下の範囲の硬さのゴムローラと硬いメタリックホットローラとで圧縮前機能性シートを高圧で挟んで、圧縮前機能層をメタリックホットローラで100℃を超える温度で加熱しながらローラプレスすると、圧縮後の機能層からの機能粒子の脱粒が著しく減少し、さらに100℃を超える温度でローラプレスしても基材(プラスチックシート)を変形させることがないことを見出した。
【0027】
上記目的を達成する本発明の機能性シートは、機能粒子を含む塗料をシート状の基材の表面にコーティングし、基材の表面にコーティングした塗料を乾燥させ、基材の表面に圧縮前機能層を形成した圧縮前機能性シートを製造した後、メタリックホットローラとゴムローラとで圧縮前機能性シートを挟んでこれらメタリックホットローラとゴムローラを回転させて圧縮前機能性シートをローラプレスすることによって製造されるものである。
【0028】
メタリックホットローラは圧縮前機能層の表面に接触する。そして、ゴムローラは基板の裏面に接触し、圧縮前機能性シートは、これらローラの間に挟まれて圧縮される。
【0029】
ゴムローラのショアーD硬度は、86以上、90以下の範囲にある。そして、ローラプレスにより、圧縮前機能層の表面は、250kgf/cm以上、1000kgf/cm以下の範囲の線圧力で加圧され、メタリックホットローラにより、圧縮前機能層が100℃を超え、160℃以下の範囲の温度で加熱される。
【0030】
好適に、線圧力は、275kgf/cm以上、400kgf/cm以下の範囲にあり、加熱の温度は、130℃以上、150℃以下の範囲にある。
【0031】
機能粒子を含んだ塗料は、バインダーレス塗料であってもよいし、また微量のバインダーを含んでもよい。微量のバインダーを含んだ塗料では、その乾燥時に溶媒が蒸発し、バインダーの固形分が機能粒子を被膜し、その機能を劣化させることになるため、バインダーの含有量は、機能層(乾燥後)の全量を基準として、固形分で2重量%以下の範囲にある。
【0032】
塗料中の機能粒子の含有量は、塗料の全量を基準として、5重量%以上、60重量%以下の範囲、好適に15重量%以上、45重量%以下の範囲にある。
【0033】
基材として、厚さが一定で表面が平坦なシートが使用され、好適にプラスチックシートが使用され、より好適に光透過性を有するシート(例えば、PETシート、アクリルシート)が使用される。
【0034】
機能粒子として、既知の導電性粒子、磁性粒子、磁性金属元素を主成分とする合金粒子、誘電体の粒子などが使用される。機能粒子の粒径は、基材の表面に形成される機能層の用途によって適宜に選択できる。好適に、機能粒子として、平均粒径10μm以下の錫ドープ酸化インジウム(ITO)が使用される。
【0035】
バインダーとして、既知のシリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが使用される。
【0036】
溶媒として、既知のアルコール類、ケトン類、酢酸エチル、エステル類の他、エーテル類、アミド類など、さらに水が使用できる。ここで、基材として、プラスチックシートが使用される場合、プラスチックシートの表面は疎水性であるため、溶媒として、アルコール類を使用し、また水とアルコール類との混合液を使用してもよい。溶媒として、好適に、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン及び酢酸エチルから選択される一種又は二種以上の剤、又はこの剤を水に添加したものが使用される。
【発明の効果】
【0037】
本発明が以上のように構成されるので、機能層を高密度化でき、平坦化できるという効果を奏する。本発明では、圧縮前機能層にメタリックホットローラで100℃を超える温度を適用しながら、このメタリックホットローラと、所定の硬さのゴムローラとで圧縮前機能性シートを高圧でローラプレスすることで、機能層の機能粒子及びその凝集体が破壊され、この破壊された機能粒子及びその凝集体が位置ズレして圧縮前機能層の内部の隙間を埋め、また高温(100℃を超える温度)環境下で圧縮により位置ズレした直後に常温環境下で冷却されるので、位置ズレした凝集体同士及び機能粒子同士の凝集力が向上し、これにより、機能粒子同士が十分に接触して機能層の高密度化と平坦化が達成されるとともに、圧縮後の機能層からの脱粒が著しく減少すると考えられる。
【0038】
また、メタリックホットローラと、所定の硬さのゴムローラとで圧縮前機能性シートをローラプレスするので、100℃を超える温度で加圧しても基材(プラスチックシート)を変形させずに圧縮前機能層を圧縮できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
<機能性シート> 図1に示すように、本発明の機能性シート10は、シート状の基材11の表面に、機能粒子からなる機能層12を形成したものである。
【0040】
基材11及び機能粒子の種類は、機能性シート10の用途に従って選定される。
【0041】
例えば、基材11の表面に機能層12として導電層を形成する場合、機能粒子として、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)などから適宜に選択される材料からなる既知の導電性粒子が使用される。
【0042】
基材11の表面に機能層12として磁性層を形成する場合、機能粒子として、γ−Fe、Fe、Co−Fe、Baフェライトなどの既知の磁性粒子や、α−Fe、Fe−Co、Fe−Ni、Fe−Co−Ni、Co、Co−Niなどの磁性金属元素を主成分とする既知の合金粒子が使用される。
【0043】
基材11の表面に機能層12として誘電体層を形成する場合、機能粒子として、チタン酸マグネシウム系、チタン酸バリウム系、チタン酸ストロンチウム系、チタン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系などの既知の誘電体の粒子が使用され、機能層12としてエレクトロルミネッセンス層を形成する場合、機能粒子として、硫化亜鉛からなる既知の粒子が使用される。
【0044】
機能粒子の粒径は、基材11の表面に形成される機能層12の用途によって適宜に選定できる。好適に、機能粒子として、平均粒径10μm以下の錫ドープ酸化インジウム(ITO)が使用される。
【0045】
基材11として、厚さが一定で表面が平坦なシートが使用され、好適に厚さ20μm以上、300μm以下の範囲にあるプラスチックシートが使用される。プラスチックシートとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルなどからなるシートが使用され、好適に、光透過性を有するシート(例えば、PETシート、アクリルシート)が使用される。
【0046】
<製造方法> 上記本発明の機能性シート10は、図2に示すようなローラプレス機20を使用して製造する。
【0047】
上記本発明の機能性シート10は、まず、コンマコータなどの既知の塗工装置(図示せず)を使用して、機能粒子を含む塗料をシート状の基材11の表面にコーティングし、基材11の表面にコーティングした塗料を乾燥させ、基材11の表面に圧縮前機能層を形成した圧縮前機能性シート10´を製造する。塗料は、乾燥後の圧縮前機能層の厚さが50nm以上、1000nm以下の範囲となるようにコーティングされる。
【0048】
次に、図2に示すローラプレス機20を使用して、圧縮前機能性シート10´をローラプレスする。すなわち、図示のように、メタリックホットローラ(加熱ローラ)21とゴムローラ(加圧ローラ)22とで圧縮前機能性シート10´を挟んでこれらメタリックホットローラ21とゴムローラ22とを回転させて圧縮前機能性シート10´をローラプレスし、これにより、本発明の機能性シート10が製造される。圧縮後の機能層の厚さは、45nm以上、850nm以下の範囲にある。
【0049】
図示のローラプレス機20は、メタリックホットローラ21をゴムローラ22で下方から押し付けて、圧縮前機能性シート10´をこれらローラ21、22で挟んで圧縮前機能性シート10´を圧縮し、これらローラ21、22を矢印R、rの方向に回転させながら圧縮前機能性シート10´を矢印Tで示すパス方向に送るタイプのものである。
【0050】
メタリックホットローラ21として、加熱手段(図示せず)を内蔵した、又は加熱手段(図示せず)を外部に配置した、例えばスチール製の既知のメタリックホットローラを使用する。メタリックホットローラ21の表面は、ローラプレスの際に圧縮前機能層の付着を防ぐため、鏡面に加工されている。
【0051】
ゴムローラ22として、シャフトの周囲に中空円筒形のゴムを装着したものが使用される。このゴムローラ22は、図示のように、メタリックホットローラ21に関して下方に配置されていることが好ましい。これは、ローラ21、22の間に異物が挟まったときに、ゴムローラ(加圧ローラ)22を重力の方向(図2において下方向)に落下させ、直ちにゴムローラ22による加圧を解除できるようにするためである。
【0052】
ゴムローラ22のショアーD硬度は、86以上、90以下の範囲にある。ゴムローラのショアーD硬度が86未満であると、ゴムローラ22の弾力性が高すぎて、圧縮中に機能性シートが変形する。ゴムローラ22のショアーD硬度が90を超えると、圧縮中に機能性シートが変形するようになる。
【0053】
圧縮前機能性シート10´は、メタリックホットローラ21とゴムローラ22によって250kgf/cm以上、1000kgf/cm以下の範囲の線圧力で加圧され、メタリックホットローラ21で100℃を超え、160℃以下の範囲の温度に加熱される。
【0054】
線圧力が250kgf/cm未満であると、機能粒子同士を十分に接触させることができないだけでなく、機能層の表層部分から機能粒子が脱粒する(後述する比較例5、6を参照)。一方、線圧力が1000kgf/cmを超えると、圧縮前機能層の機能粒子とその凝集体が多量に破壊され、圧縮後の機能層の表層部分から機能粒子が脱粒し易くなる。
【0055】
また、加熱の温度が100℃以下であると、機能粒子同士を十分に接触させることができないだけでなく、機能層の表層部分から機能粒子が脱粒する(後述する比較例1、2を参照)。一方、160℃を超える範囲の温度で加熱すると、圧縮後の機能性シート10が変形する。
【0056】
好適に、圧縮前機能性シート10´は、メタリックホットローラ21とゴムローラ22によって275kgf/cm以上、400kgf/cm以下の線圧力で加圧され、メタリックホットローラ21で130℃以上、150℃以下の範囲の温度で加熱される。
【0057】
機能粒子を含んだ塗料は、バインダーレス塗料であってもよいし、また機能性シートの機能に悪影響を与えない程度のバインダーを含んでもよい。ここで、微量のバインダーを含んだ塗料では、その乾燥時に溶媒が蒸発し、バインダーの固形分が機能粒子を被膜し、その機能を劣化させることになるため、バインダーの含有量は、塗料の全量を基準として、固形分で2重量%以下にある。
【0058】
塗料中の機能粒子の含有量は、塗料の全量を基準として、5重量%以上、60重量%以下の範囲にある。機能粒子の含有量が5重量%未満であると、機能層における機能粒子同士の接触が十分とならず、機能層に所定の機能を付与できなくなる。一方、60重量%を超えると、圧縮後の機能層からの機能粒子の脱粒が多くなり、機能層の平坦性が低下する。塗料中の機能粒子の含有量は、好適に、塗料の全量を基準として、15重量%以上、45重量%以下の範囲にある。
【0059】
バインダーとして、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが使用される。
【0060】
溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類の他、エーテル類、アミド類など、さらに水が使用できる。ここで、基材11として、プラスチックシートが使用される場合、プラスチックシートの表面は疎水性であるため、溶媒として、アルコール類を使用し、また水とアルコール類との混合液を使用できる。
【0061】
好適に、溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン及び酢酸エチルから選択される一種又は二種以上の剤、又はこの剤を水に添加したものを含む。
【0062】
<実施例> 実施例1〜7の機能性シートを製造した。
【0063】
塗料として、平均粒径30nmの錫ドープ酸化インジウム(ITO)粒子(25重量%)をメタノール(75重量%)に分散させたバインダーレス塗料を使用した。
【0064】
このバインダーレス塗料をコンマコータで厚さ125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シートの表面にコーティングし、PETシート表面にコーティングしたバインダーレス塗料を50℃の雰囲気中で乾燥させ、PETシートの表面に厚さ500nmの圧縮前機能層を形成し、圧縮前機能性シートを製造した。
【0065】
次に、図2に示すようなローラプレス機を使用して、この圧縮前機能性シートを下記の表1に示すローラプレス条件でローラプレスし、各実施例の機能性シートを製造した。各実施例の機能性シートの機能層(圧縮後)の厚さは400nmであった。
【0066】
なお、表中、「加熱ローラ」及び「加圧ローラ」は、それぞれ、図2に示すメタリックホットローラ及びゴムローラに該当する。また、「線圧力」は、圧縮前機能層に適用される「線圧力」であり、「パス速度」は、圧縮前機能性シートがプレスローラ機を通過する速度であり、「パス回数」は、プレスローラ機を通過させた回数である。
【0067】
【表1】

【0068】
<比較例> 比較例1〜8の機能性シートを製造した。比較例1〜8の機能性シートの製造は、上記実施例1〜7の機能性シートの製造において、ローラプレス条件が異なる以外は同一であった。比較例1〜8の機能性シートの製造におけるローラプレス条件を下記の表2に示す。各比較例の機能性シートの機能層(圧縮後)の厚さは400nmであった。
【0069】
なお、表中、「加熱ローラ」は、図2に示すメタリックホットローラに該当し、「加圧ローラ」は、上記実施例で使用したゴムローラと同一のゴムローラ、又はこのゴムローラと同径のスチール製のメタリックローラである。また、「線圧力」は、圧縮前機能層に適用される「線圧力」であり、「パス速度」は、圧縮前機能性シートがプレスローラ機を通過する速度であり、「パス回数」は、プレスローラ機を通過させた回数である。
【0070】
【表2】

【0071】
<比較試験結果> 上記実施例及び比較例の機能性シートの圧縮前後の表面抵抗値を比較し、また圧縮後の各機能性シートの熱又は機械的な変形の有無、及び機能層からの脱粒の有無について比較した。比較試験結果を下記の表3(実施例)及び表4(比較例)に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
表4に示すように、本発明と同様に加圧ローラとしてゴムローラを使用し且つ線圧力を本発明に従った範囲内に設定しても、メタリックホットローラの加熱温度が100℃以下に設定されていると、機能粒子同士を十分に接触させることができない(圧縮前後の性能比較が約30倍)だけでなく、機能層の表層部分から機能粒子が脱粒する(比較例1、2を参照)。
【0075】
本発明と同様に加圧ローラとしてゴムローラを使用し且つメタリックホットローラの加熱温度を100℃を超えるように設定しても、線圧力が250kgf/cm未満に設定されていると、機能粒子同士を十分に接触させることができない(圧縮前後の性能比較が約30倍)だけでなく、機能層の表層部分から機能粒子が脱粒する(比較例5、6を参照)。
【0076】
メタリックホットローラの加熱温度を100℃を超えるように設定しても、従来の技術と同様に加圧ローラとしてメタリック(スチール製)ローラが使用され且つ線圧力が250kgf/cm未満に設定されていると、機能粒子同士を十分に接触させることができない(圧縮前後の性能比較が約30倍)だけでなく、機能性シートが変形し、機能層の表層部分から機能粒子が脱粒する(比較例7を参照)。
【0077】
線圧力を本発明に従った範囲内に設定しても、従来の技術と同様に加圧ローラとしてメタリック(スチール製)ローラが使用され且つメタリックホットローラの加熱温度が100℃以下の範囲に設定されていると、機能粒子同士を十分に接触させることができない(圧縮前後の性能比較が約30倍)だけでなく、機能層の表層部分から機能粒子が脱粒する(比較例3を参照)。
【0078】
線圧力を本発明に従った範囲内に設定し且つメタリックホットローラの加熱温度を本発明に従った範囲内に設定しても、従来の技術と同様に加圧ローラとしてメタリック(スチール製)ローラが使用されていると、機能粒子同士を十分に接触させることができる(圧縮前後の性能比較が約100倍)が、機能性シートが変形するだけでなく、機能層の表層部分から機能粒子が脱粒する(比較例4、8を参照)。
【0079】
表5に示すように、本発明に従うと、機能粒子同士を十分に接触させることができ(圧縮前後の性能比較が約50倍以上)、機能性シートの変形がなく、機能層の表層部分からの機能粒子の脱粒もない(実施例1〜7を参照)。
【0080】
また、本発明では、パス回数を増大すると、性能が増大する(実施例5〜7を参照)。すなわち、複数回のローラプレスを行っても、機能性シートの変形がなく、機能層の表層部分からの機能粒子の脱粒もなく、ローラプレスの回数を増やすことにより、より高い性能の機能性シートが製造される。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、本発明の機能性シートの断面図を示す。
【図2】図2は、本発明を実施するローラプレス機を示す。
【符号の説明】
【0082】
10・・・機能性シート(圧縮後の機能性シート)
10´・・・圧縮前機能性シート
11・・・基材
12・・・機能層
20・・・ローラプレス機
21・・・メタリックホットローラ
22・・・ゴムローラ
R、r・・・回転方向
T・・・パス方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性シートを製造するための方法であって、
機能粒子を含む塗料をシート状の基材の表面にコーティングし、前記基材の表面にコーティングした前記塗料を乾燥させて、前記基材の表面に圧縮前機能層を形成した圧縮前機能性シートを製造する工程、及び
メタリックホットローラとゴムローラとで前記圧縮前機能性シートを挟んで前記メタリックホットローラと前記ゴムローラとを回転させて前記圧縮前機能性シートをローラプレスする工程、
から成り、
前記メタリックホットローラが前記圧縮前機能層の表面に接触し、前記ゴムローラが前記基板の裏面に接触し、前記圧縮前機能性シートが、前記メタリックホットローラと前記ゴムローラとの間に挟まれて圧縮され、
前記ゴムローラのショアーD硬度が86以上、90以下の範囲にあり、
前記ローラプレスにより、前記圧縮前機能層の表面が250kgf/cm以上、1000kgf/cm以下の範囲の線圧力で加圧され、
前記メタリックホットローラにより、前記圧縮前機能層が100℃を超え、160℃以下の範囲の温度で加熱される、
ところの方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、
前記線圧力が275kgf/cm以上、400kgf/cm以下の範囲にあり、
前記温度が130℃以上、150℃以下の範囲にある、
ところの方法。
【請求項3】
請求項1の方法であって、
前記塗料が、前記機能粒子を含むバインダーレス塗料である、
ところの方法。
【請求項4】
請求項3の方法であって、
前記バインダーレス塗料中に含まれる前記機能粒子の含有量が、5重量%以上、60重量%以下の範囲にある、
ところの方法。
【請求項5】
請求項3の方法であって、
前記バインダーレス塗料が、
前記機能粒子として、錫ドープ酸化インジウムからなる平均粒径10μm以下の導電性粒子を含み、
溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン及び酢酸エチルから選択される一種又は二種以上の剤、又は前記剤を水に添加したものを含む、
ところの方法。
【請求項6】
請求項1の方法であって、
前記塗料が、バインダーを含み、
前記塗料中に含まれる前記バインダーの固形分含有量が、2重量%以下の範囲にあり、
前記塗料中の前記機能粒子の含有量が、5重量%以上、60重量%以下の範囲にある、
ところの方法。
【請求項7】
請求項6の方法であって、
前記塗料が、
前記機能粒子として、錫ドープ酸化インジウムからなる平均粒径10μm以下の導電性粒子、
前記バインダーとして、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン及びポリプロピレンから選択される樹脂を含み、
溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン及び酢酸エチルから選択される一種又は二種以上の剤、又は前記剤を水に添加したものを含む、
ところの方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1の方法で製造される機能性シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−144248(P2007−144248A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338445(P2005−338445)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(390037165)日本ミクロコーティング株式会社 (79)
【Fターム(参考)】