説明

機関吸気系の異常判定装置

【課題】電子スロットルシステムの故障時における補助機構の作動異常の発生の有無を適正に判定することのできる吸気量調節システムの異常判定装置を提供する。
【解決手段】この装置は、スロットルバルブ13に連結されたスロットルモータ14の作動制御を通じてスロットル開度を制御する電子スロットルシステムと、電子スロットルシステムの故障時にスロットルバルブ13を付勢してスロットル開度を所定開度で保持する補助機構40と、内燃機関11の吸入空気量を検出するためのエアフロメータ34とを備える。電子スロットルシステムの故障時に、内燃機関11の出力トルクの指標値としての車両10の加速度を加速度センサ35により検出するとともに、同加速度に基づいて補助機構40の作動異常の発生の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子スロットルシステムと同システムの故障時にスロットル開度を所定開度に変更して保持する補助機構とが設けられた機関吸気系の異常判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の吸気系に、電子スロットルシステムを搭載することが多用されている。この電子スロットルシステムは、内燃機関の吸気通路に設けられたスロットルバルブや、同スロットルバルブに連結されたスロットルモータ等を備えている。
【0003】
そして電子スロットルシステムでは、アクセル操作部材の操作量に基づいてスロットル開度についての制御目標値(目標スロットル開度)が算出されるとともに、目標スロットル開度と実際のスロットル開度とが一致するようにスロットルモータの作動制御が実行される。
【0004】
電子スロットルシステムではアクセル操作部材とスロットルバルブとの機械的なリンクが排除されているために、同システムの故障によって実際のスロットル開度が目標スロットル開度に収束しなくなると、スロットルバルブの制御が不能になってしまう。
【0005】
そのため従来、電子スロットルシステムが故障した際に、ばね等の機械要素からなる補助機構により、スロットル開度を退避走行の可能な所定開度で保持する装置が提案されている(例えば特許文献1)。特許文献1に記載の補助機構は、スロットルバルブを所定開度に向けて常時付勢するばねにより作動する構造になっている。そして電子スロットルシステムの正常作動時には、スロットルモータの駆動制御が実行されて、スロットルバルブが補助機構による付勢力に抗して作動するようになる。一方、電子スロットルシステムの故障時には、スロットルモータの駆動が停止されて、スロットルバルブが補助機構による付勢力によって作動することにより、スロットル開度が所定開度に変化して保持されるようになる。
【0006】
ここで、電子スロットルシステムの故障時においてスロットルモータの駆動を停止したとしても、例えばスロットルバルブが固着するなど、補助機構が適正に作動しなくなる異常が発生して、スロットル開度を所定開度にすることができなくなる場合がある。特許文献1には、そうした補助機構の作動異常が発生していることをスロットルセンサにより検出されるスロットル開度に基づいて判定する装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−107786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1に記載の装置によれば、電子スロットルシステムの故障時において補助機構の作動異常の発生の有無を判定することができるために、同異常の発生に適切に対処することが可能になる。
【0009】
ただし、こうした装置では、故障している電子スロットルシステムの一構成であるスロットルセンサを通じて補助機構の作動異常の有無が判定されるために、そうした異常発生の判定自体、これが適正に実行されているか否かについての懸念も拭いきれず、いまだ改善の余地を残すものとなっている。
【0010】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電子スロットルシステムの故障時における補助機構の作動異常の発生の有無を適正に判定することのできる吸気量調節システムの異常判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の装置では、その機関吸気系に、スロットルバルブに連結されたスロットルモータの作動制御を通じてスロットル開度を制御する電子スロットルシステムが設けられる。また機関吸気系には、スロットルバルブを常時付勢するばねを有して電子スロットルシステムの故障時において前記ばねの付勢力によってスロットル開度を所定開度で保持する補助機構と、内燃機関の吸入空気量を検出するための吸気センサとが設けられる。さらに上記装置には、内燃機関の出力トルク指標値を検出するための検出センサが設けられる。
【0012】
上記装置では、補助機構の作動異常が発生した場合と同作動異常が発生していない場合とで内燃機関の吸入空気量、ひいては出力トルクが変化する範囲が異なるために、そうした内燃機関の出力トルクをもとに補助機構に作動異常が生じていることを判定することが可能になる。
【0013】
この点をふまえて請求項1に記載の装置では、電子スロットルシステムが故障したときに、検出センサにより検出される出力トルク指標値に基づいて補助機構の作動異常の発生の有無が判定される。こうした装置によれば、故障している電子スロットルシステムの一部を構成するセンサの検出信号を用いることなく、内燃機関の出力トルクの指標値を検出するためのセンサであって機関吸気系に設けられた吸気センサ以外のセンサの検出信号を用いて、補助機構の作動異常の発生の有無を判定することができる。そのため、電子スロットルシステムの故障時における補助機構の作動異常の発生の有無を適正に判定することができる。
【0014】
上述したように補助機構の作動異常が発生した場合と同作動異常が発生していない場合とで内燃機関の吸入空気量が変化する範囲が異なるため、吸気センサが正常に作動している条件下であれば、同吸気センサにより検出される吸入空気量に基づいて補助機構に作動異常が生じていることを判定することができる。
【0015】
この点をふまえて請求項2に記載の装置では、吸気センサが正常に作動しているときには吸気センサにより検出される吸入空気量に基づいて補助機構の作動異常の有無が判定される。一方、吸気センサに異常が発生しているときには検出センサにより検出される出力トルク指標値に基づいて補助機構の作動異常の有無が判定される。
【0016】
こうした装置によれば、吸気センサおよび検出センサのいずれかを用いて補助機構の作動異常の有無の判定を実行することができるため、吸気センサおよび検出センサのいずれか一方に異常が発生している状況であっても同判定を精度良く実行することができる。そのため、補助機構の作動異常の発生の有無をより適正に判定することができるようになる。
【0017】
内燃機関が駆動源として車両に搭載されている場合、内燃機関の出力トルクが大きいときほど車両の加速度が大きくなり易いため、車両の加速度は内燃機関の出力トルクの指標値であると云える。
【0018】
請求項3に記載の装置によれば、内燃機関が駆動源として車両に搭載される装置において、同車両に設けられた加速度センサにより前記出力トルク指標値としての車両の加速度を検出することができ、その検出した加速度に基づいて補助機構の作動異常の発生の有無を判定することができる。
【0019】
請求項4に記載の装置では、前記出力トルク指標値に基づいて補助機構の作動異常の有無を判定する場合に、出力トルク指標値が予め定められた判定値より大きいときに上記作動異常が発生していると判定される。そのため請求項4に記載の装置によれば、補助機構の作動異常の発生によって内燃機関の出力トルクが大きくなっていること、すなわちスロットル開度が不要に大きくなっていることを精度良く判定することができる。
【0020】
請求項5に記載の装置では、駆動源として内燃機関が搭載された車両における電子スロットルシステムの故障時に、補助機構により、車両の退避走行が可能になる所定開度でスロットル開度が保持される。
【0021】
そのため請求項5に記載の装置によれば、電子スロットルシステムの故障時における車両の退避走行に際して、補助機構の作動異常の発生によってスロットル開度が不要に大きくなっていることを精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を具体化した一実施の形態にかかる機関吸気系の異常判定装置の概略構成を示す略図。
【図2】補助機構およびその周辺の構造を概略的に示す略図。
【図3】フェイルセーフ処理の具体的な実行手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明にかかる機関吸気系の異常判定装置を具体化した一実施の形態について説明する。
図1に示すように、車両10には駆動源としての内燃機関11が搭載されている。内燃機関11の吸気通路12にはスロットルバルブ13が設けられている。このスロットルバルブ13にはスロットルモータ14が連結されている。スロットルモータ14の作動制御を通じて、スロットルバルブ13の開度(スロットル開度TA)が調節される。これにより、吸気通路12を通じて燃焼室15内に吸入される空気の量(吸入空気量GA)が調節される。また、内燃機関11の吸気通路12には燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16の開弁駆動に伴って吸気通路12の内部に燃料が噴射される。内燃機関11の燃焼室15においては、吸入空気と噴射燃料とからなる混合気に対して点火プラグ18による点火が行われる。この点火動作によって混合気が燃焼してピストン19が往復移動し、クランクシャフト20が回転する。そして、燃焼後の混合気は排気として燃焼室15から排気通路21に送り出される。
【0024】
車両10には、例えばマイクロコンピュータを有して構成される電子制御ユニット30が設けられている。この電子制御ユニット30には、車両10や内燃機関11の運転状態を検出するための各種センサの検出信号が取り込まれている。各種センサとしては、例えばクランクシャフト20の回転速度(機関回転速度NE)を検出するためのクランクセンサ31や、アクセルペダル(図示略)の踏み込み量(アクセル踏み込み量ACC)を検出するためのアクセルセンサ32、スロットルバルブ13の開度(スロットル開度TA)を検出するためのスロットルセンサ33が設けられている。その他、吸入空気量GAを検出するためのエアフロメータ34や、車両10の前後方向における加速度、すなわち車両10の加速や減速に伴い発生する加速度(車両加速度G)を検出するための加速度センサ35なども設けられている。
【0025】
電子制御ユニット30は、各種センサの検出信号をもとに各種の演算を行い、その演算結果に基づいてスロットルモータ14の駆動制御(スロットル制御)や、燃料噴射弁16の作動制御(燃料噴射制御)、点火プラグ18の作動制御(点火時期制御)などといった機関制御を実行する。
【0026】
なお、上記スロットル制御は次のように実行される。すなわち先ず、アクセル踏み込み量ACCおよび機関回転速度NEに基づいてスロットル開度TAについての制御目標値(目標スロットル開度)が設定される。そして、この目標スロットル開度Ttaと実際のスロットル開度TAとが一致するようにスロットルモータ14の作動が制御される。このように本実施の形態では、内燃機関11の吸気系に、スロットルバルブ13、スロットルモータ14、電子制御ユニット30、およびスロットルセンサ33により構成される電子スロットルシステムが設けられている。
【0027】
本実施の形態の車両10には、スロットルバルブ13を付勢するばねを備えた補助機構40が設けられている。そして、電子スロットルシステムが故障して実際のスロットル開度TAが目標スロットル開度に収束されなくなったときに、補助機構40のばねの付勢力によって、スロットル開度TAが所定開度Wdに変更されて保持されるようになっている。この所定開度Wdとしては、車両10の退避走行が可能になるスロットル開度TAが予め設定されている。これにより、車両10の走行のために最低限必要な吸入空気量が確保されるようになるため、このときスロットル開度TAが所定開度Wdである状況に応じたかたちで燃料噴射制御や点火時期制御を実行することにより、車両10の退避走行性能が確保されるようになる。上記所定開度Wdとしては具体的には、電子スロットルシステムの正常作動時における内燃機関11のアイドル運転に際して設定される目標スロットル開度よりも若干大きい開度が設定される。
【0028】
以下、上記補助機構40およびその周辺構造について詳細に説明する。
図2に示すように、スロットルバルブ13の回転軸13Aにはバルブレバー41が連結されている。このバルブレバー41には、スロットルバルブ13を開弁方向に回転させるように同バルブレバー41を付勢する退避走行用スプリング42が設けられている。また、補助機構40はバルブレバー41に対して独立して運動可能なバルブリターンレバー43を備えている。このバルブリターンレバー43には、スロットルバルブ13を閉弁方向に回転させるように、バルブリターンレバー43を付勢するバルブリターンスプリング44が設けられている。そして、上記バルブリターンスプリング44の付勢力F1が上記退避走行用スプリング42の付勢力F2より大きくなるように、それら付勢力F1,F2がそれぞれ設定されている。
【0029】
バルブリターンスプリング44の付勢力F1によって押圧されてバルブリターンレバー43が移動する際に同バルブリターンレバー43が突き当たる位置には、それ以上のバルブリターンレバー43の移動を禁止する中間ストッパ45が設けられている。そして、例えば電子スロットルシステムの故障時など、スロットルモータ14の駆動が停止されると、バルブリターンレバー43が中間ストッパ45に突き当たる位置まで移動するとともに同位置で保持されるようになる。また、このときバルブレバー41は、退避走行用スプリング42の付勢力F2によって押圧されることにより、バルブリターンレバー43に突き当たる位置で保持される。
【0030】
このように補助機構40では、スロットルモータ14の駆動が停止されたときに、中間ストッパ45によってバルブリターンレバー43およびバルブレバー41の移動が共に規制された状態(図2に示す状態)になることにより、同バルブレバー41に連結されたスロットルバルブ13の開度が所定開度Wdで保持される。
【0031】
なお電子スロットルシステムの正常作動時において、スロットル開度TAを所定開度Wdより大きい開度に変更する際には、スロットルモータ14の駆動力により、バルブレバー41およびバルブリターンレバー43がバルブリターンスプリング44の付勢力F1に抗して(図2に矢印OPで示す方向に)移動するようになる。一方、電子スロットルシステムの正常作動時において、スロットル開度TAを所定開度Wdより小さい開度に変更する際には、スロットルモータ14の駆動力により、バルブレバー41が退避走行用スプリング42の付勢力F2に抗して(図2に矢印CLで示す方向に)移動するようになる。
【0032】
ここで、電子スロットルシステムの故障時においてスロットルモータ14の駆動を停止したとしても、例えばスロットルバルブ13が固着するなど、補助機構40が適正に作動しなくなる異常が発生することによって、スロットル開度TAを所定開度Wdにすることができなくなる場合がある。そして、この場合には車両10の退避走行に際して内燃機関11の出力トルクの制限を適正に行うことができなくなってしまう。
【0033】
そのため本実施の形態では、そうした補助機構40の作動異常の発生の有無を判定する判定処理を実行するとともに、その判定処理において補助機構40の作動異常が発生したと判定されたときに、燃料噴射弁16の開弁駆動や点火プラグ18による点火動作を強制停止させるようにしている。
【0034】
こうした補助機構40の作動異常が発生したことを判定するためには、スロットル開度TAが所定開度Wdになっていないことが分かればよいため、これをスロットルセンサ33の検出信号をもとに判定することが考えられる。この場合には、故障している電子スロットルシステムの一構成であるスロットルセンサ33を通じて補助機構40の作動異常の有無が判定されることとなるため、判定精度の低下を招くおそれがあるばかりか、判定自体を実行することができなくなる可能性もある。
【0035】
そのため本実施の形態では、スロットルセンサ33以外のセンサの検出信号を用いて、補助機構の作動異常の発生の有無を判定するようにしている。
以下、上述した判定処理を含むフェイルセーフ処理の実行手順について説明する。
【0036】
図3はフェイルセーフ処理の具体的な実行手順を示すフローチャートであり、このフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理として、電子制御ユニット30により実行される。
【0037】
図3に示すように、この処理では先ず、電子スロットルシステムが故障しているか否かが判断される(ステップS10)。ここでは、以下の(条件イ)〜(条件ハ)のいずれかが満たされることをもって、電子スロットルシステムが故障していると判断される。
(条件イ)スロットル開度TAと目標スロットル開度との差が大きい状態が所定時間以上継続されていること。
(条件ロ)スロットルセンサ33の検出信号が異常な値になっていること。
(条件ハ)スロットルモータ14の駆動電流が異常な値になっていること。
【0038】
そして、電子スロットルシステムが故障していないと判断される場合には(ステップS10:NO)、以下の処理を実行することなく、本処理は一旦終了される。
一方、電子スロットルシステムが故障していると判断されると(ステップS10:YES)、スロットルモータ14の駆動が停止される(ステップS11)。このときスロットル開度TAを所定開度Wdに変更して保持するべく、補助機構40が作動するようになる。そして、その後において補助機構40の作動異常の発生の有無を判定する処理が実行される。
【0039】
補助機構40の作動異常が発生してスロットル開度TAが所定開度Wdより大きくなっているときには、作動異常が発生していないときと比較して、内燃機関の吸入空気量GAが多くなる。そのため、エアフロメータ34が正常に作動している条件下であれば、エアフロメータ34により検出される吸入空気量GAに基づいて、スロットル開度TAが所定開度Wdより大きくなっていること、すなわち補助機構40に作動異常が生じていることを判定することができる。
【0040】
本処理では、エアフロメータ34が正常に作動している場合に(ステップS12:YES)、同エアフロメータ34により検出される吸入空気量GAが所定量Lga以上であるか否かが判断される(ステップS13)。そして、吸入空気量GAが所定量Lga以上である場合には(ステップS13:YES)、スロットル開度TAが所定開度Wdより大きくなっているために吸入空気量GAが多くなっているとして、補助機構40の作動異常が発生していると判断される(ステップS14)。一方、吸入空気量GAが所定量Lga未満である場合には(ステップS13:NO)、補助機構40の作動異常が発生していると判断されない(ステップS14の処理がジャンプされる)。
【0041】
なお、本実施の形態では、実験やシミュレーションの結果をもとにスロットル開度TAが所定開度Wdより大きいことを的確に判定することの可能な吸入空気量GAが予め求められるとともに、同吸入空気量GAに相当する量が上記所定量Lgaとして電子制御ユニット30に記憶されている。
【0042】
これにより、スロットルセンサ33の検出信号を用いることなく、正常に作動しているエアフロメータ34の検出信号を用いて、補助機構40の作動異常の発生の有無を判定することができる。そのため、電子スロットルシステムの故障時における車両10の退避走行に際して、補助機構40の作動異常の発生の有無を適正に判定することができる。
【0043】
エアフロメータ34の異常時には、同エアフロメータ34の検出信号を用いて補助機構40の作動異常の有無を判定することはできない。
補助機構40の作動異常が発生してスロットル開度TAが所定開度Wdより大きくなっているときには、作動異常が発生していないときと比較して、内燃機関の吸入空気量GAが多くなっているために内燃機関11の出力トルクが大きくなる。そのため、そうした内燃機関11の出力トルクをもとに、スロットル開度TAが所定開度Wdより大きくなっていること、すなわち補助機構40に作動異常が生じていることを判定することが可能になる。また内燃機関11の出力トルクが大きいときほど車両加速度Gが大きくなり易いために、車両加速度Gは内燃機関11の出力トルクの指標値であると云える。
【0044】
本処理では、エアフロメータ34が異常である場合であり(ステップS12:NO)、且つ加速度センサ35が正常に作動している場合には(ステップS15:YES)、同加速度センサ35により検出される車両加速度Gが判定値Jgより大きいか否かが判断される(ステップS16)。そして、車両加速度Gが判定値Jgより大きい場合には(ステップS16:YES)、スロットル開度TAが所定開度Wdより大きくなっているために内燃機関11の出力トルクが大きくなっているとして、補助機構40の作動異常が発生していると判断される(ステップS14)。一方、車両加速度Gが判定値Jg以下である場合には(ステップS16:NO)、補助機構40の作動異常が発生していると判断されない(ステップS14の処理がジャンプされる)。
【0045】
なお、本実施の形態では、実験やシミュレーションの結果をもとにスロットル開度TAが所定開度Wdより大きいことを的確に判定することの可能な車両加速度Gが予め求められるとともに、同車両加速度Gに相当する値が上記判定値Jgとして電子制御ユニット30に記憶されている。
【0046】
これにより、スロットルセンサ33の検出信号を用いることなく、正常に作動している加速度センサ35の検出信号を用いて、補助機構40の作動異常の発生の有無を判定することができる。そのため、電子スロットルシステムの故障時における車両10の退避走行に際して、補助機構40の作動異常の発生の有無を適正に判定することができる。
【0047】
なお、電子スロットルシステムの故障時において(ステップS10:YES)、エアフロメータ34および加速度センサ35が共に異常である場合には(ステップS12:NO且つステップS15:NO)、補助機構40の作動異常の有無を判定することができないとして、ステップS14およびステップS16の処理がジャンプされる。
【0048】
このように本処理では、エアフロメータ34が正常に作動しているときには同エアフロメータ34により検出される吸入空気量GAに基づいて補助機構40の作動異常の有無が判定される一方、エアフロメータ34に異常が発生しているときには加速度センサ35により検出される車両加速度Gに基づいて補助機構40の作動異常の有無が判定される。その後、本処理は一旦終了される。
【0049】
本実施の形態によれば、エアフロメータ34および加速度センサ35のいずれかを用いて補助機構40の作動異常の有無の判定を実行することができるため、エアフロメータ34および加速度センサ35のいずれか一方に異常が発生している状況であっても同判定を精度良く実行することができる。そのため、補助機構40の作動異常の発生の有無を適正に判定することができるようになる。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)電子スロットルシステムの故障時において、加速度センサ35により検出される車両加速度Gに基づいて、補助機構40の作動異常の発生の有無を判定するようにした。これにより、スロットルセンサ33以外のセンサの検出信号を用いて補助機構40の作動異常の発生の有無を判定することができるため、電子スロットルシステムの故障時における補助機構40の作動異常の発生の有無を適正に判定することができる。
【0051】
(2)補助機構40の作動異常の有無の判定を、エアフロメータ34の正常作動時においては同エアフロメータ34により検出される吸入空気量GAに基づき実行し、エアフロメータ34の異常発生時においては加速度センサ35により検出される車両加速度Gに基づき実行するようにした。そのため、エアフロメータ34および加速度センサ35のいずれか一方に異常が発生している状況であっても同判定を精度良く実行することができ、補助機構40の作動異常の発生の有無を適正に判定することができるようになる。
【0052】
(3)内燃機関11が駆動源として車両10に搭載された装置において、同車両10に設けられた加速度センサ35により出力トルク指標値としての車両加速度Gを検出することができ、その車両加速度Gに基づいて補助機構40の作動異常の発生の有無を判定することができる。
【0053】
(4)車両加速度Gが予め定められた判定値Jgより大きいときに補助機構40の作動異常が発生していると判定するようにした。そのため、補助機構40の作動異常の発生によって内燃機関11の出力トルクが大きくなっていること、すなわちスロットル開度TAが不要に大きくなっていることを精度良く判定することができる。
【0054】
(5)電子スロットルシステムの故障時における車両10の退避走行に際して、補助機構40の作動異常の発生によってスロットル開度TAが不要に大きくなっていることを精度よく判定することができる。
【0055】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記実施の形態にかかる装置は、内燃機関11の吸気通路12内の吸入空気の圧力(吸気圧)を検出するための圧力センサを新たに設けるとともに、同圧力センサにより検出される吸気圧に基づいて内燃機関11の吸入空気量GAを検出する装置にも、その構成を適宜変更したうえで適用することができる。こうした装置においては、吸気圧センサにより検出される吸気圧に基づいて補助機構40の作動異常の発生の有無を判定するようにすればよい。具体的には、例えば予め定められた所定圧力よりも圧力センサにより検出される吸気圧が高いことをもって、補助機構40の作動異常が発生していると判定することが可能である。こうした構成によっても、スロットル開度TAが不要に大きくなる補助機構40の作動異常の発生に起因して内燃機関11の出力トルクが大きくなっていることを精度良く判定することができる。
【0056】
・エアフロメータ34の正常作動時に同エアフロメータ34により検出される吸入空気量GAに基づいて補助機構40の作動異常を判定する処理を省略してもよい。すなわち電子スロットルシステムの故障時に、エアフロメータ34の状態によることなく、加速度センサ35により検出される車両加速度Gに基づいて補助機構40の作動異常の発生の有無を判定するようにしてもよい。
【0057】
・補助機構40の作動異常の有無の判定を、加速度センサ35により検出される車両加速度Gを用いて実行することに限らず、内燃機関11の出力トルク指標値として車両加速度G以外の値を車両10に設けられる何らかの検出センサにより検出するとともに同トルク指標値に基づいて実行するようにしてもよい。具体的には、内燃機関11の気筒(詳しくは、燃焼室15)内の圧力(筒内圧)を検出するための筒内圧センサを新たに設けるとともに、内燃機関11の圧縮行程や燃焼行程における所定のタイミングにおいて筒内圧センサにより検出される出力トルク指標値としての筒内圧に基づいて補助機構40の作動異常の発生の有無を判定することができる。また、クランクセンサ31により検出される出力トルク指標値としての機関回転速度NEの単位時間あたりの変化速度を算出するとともに、同変化速度に基づいて補助機構40の作動異常の発生の有無を判定することができる。その他、車両10の走行速度を検出するための車速センサを新たに設けるとともに、同車速センサにより検出される出力トルク指標値としての走行速度の単位時間あたりの変化速度を算出して、同変化速度に基づいて補助機構40の作動異常の発生の有無を判定することなども可能である。
【0058】
・加速度センサ35により検出される車両加速度Gに基づく判定、筒内圧センサにより検出される筒内圧に基づく判定、クランクセンサ31により検出される機関回転速度NEに基づく判定、および車速センサにより検出される車両10の走行速度に基づく判定のうちの複数を組み合わせて実行するようにしてもよい。こうした構成によっても、複数のセンサのうちの正常に作動しているセンサの検出信号に基づいて補助機構40の作動異常の有無の判定を実行することができるため、同判定を精度良く実行することができる。
【0059】
・補助機構40の作動異常として、スロットル開度TAが不要に大きくなる異常の発生を判定することに代えて、あるいは併せて、スロットル開度TAが不要に小さくなる異常の発生を判定するようにしてもよい。スロットル開度TAが不要に小さくなる異常の発生を判定するための条件としては、以下の(条件ニ)〜(条件チ)などを挙げることができる。(条件ニ)ブレーキペダルの踏み込み操作が解除されてから所定時間が経過するまでの間において車両加速度Gが所定値より大きくならないこと。(条件ホ)エアフロメータ34により検出される吸入空気量GAが所定量以下であること。(条件ヘ)内燃機関11の圧縮行程や燃焼行程における所定のタイミングにおいて筒内圧センサにより検出される筒内圧が所定圧以下であること。(条件ト)ブレーキペダルの踏み込み操作が解除されてから所定時間が経過するまでの間において、クランクセンサ31により検出される機関回転速度NEの単位時間当たりの変化速度が所定値より大きくならないこと。(条件チ)ブレーキペダルの踏み込み操作が解除されてから所定時間が経過するまでの間において、車速センサによって検出される車両10の走行速度の単位時間あたりの変化速度が所定値より大きくならないこと。
【0060】
・電子スロットルシステムの故障時においてスロットル開度TAを保持する開度(前記所定開度Wd)は、車両10の退避走行が可能になる開度に限らず、目的に応じて任意に変更することができる。所定開度としては、例えば内燃機関11の運転を継続するために最低限必要なスロットル開度TAに相当する開度を設定することができる。
【0061】
・本発明は、車両に駆動源として搭載される内燃機関の吸気系に適用することに限らず、工場内に設置される内燃機関の吸気系などにも適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
10…車両、11…内燃機関、12…吸気通路、13…スロットルバルブ、13A…回転軸、14…スロットルモータ、15…燃焼室、16…燃焼噴射弁、18…点火プラグ、19…ピストン、20…クランクシャフト、21…排気通路、30…電子制御ユニット、31…クランクセンサ、32…アクセルセンサ、33…スロットルセンサ、34…エアフロメータ(吸気センサ)、35…加速度センサ(検出センサ)、40…補助機構、41…バルブレバー、42…退避走行用スプリング、43…バルブリターンレバー、44…バルブリターンスプリング、45…中間ストッパ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットルバルブに連結されたスロットルモータの作動制御を通じてスロットル開度を制御する電子スロットルシステムと、前記スロットルバルブを付勢するばねを有してなるとともに前記電子スロットルシステムの故障時において前記ばねの付勢力によって前記スロットル開度を予め定められた所定開度で保持してなる補助機構と、内燃機関の吸入空気量を検出するための吸気センサと、が設けられてなる機関吸気系の異常判定装置であって、
前記内燃機関の出力トルク指標値を検出するための検出センサを更に備え、
前記電子スロットルシステムの故障時において前記検出センサにより検出される出力トルク指標値に基づいて前記補助機構の作動異常の発生の有無を判定する
ことを特徴とする機関吸気系の異常判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の機関吸気系の異常判定装置において、
当該装置は、前記作動異常の有無の判定を、前記吸気センサの正常作動時においては同吸気センサにより検出される吸入空気量に基づき実行し、前記吸気センサの異常発生時においては前記検出センサにより検出される出力トルク指標値に基づき実行する
ことを特徴とする機関吸気系の異常判定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の機関吸気系の異常判定装置において、
前記内燃機関は駆動源として車両に搭載されるものであり、
前記検出センサは、前記出力トルク指標値としての前記車両の加速度を検出するべく、同車両に設けられた加速度センサである
ことを特徴とする機関吸気系の異常判定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の機関吸気系の異常判定装置において、
当該装置は、前記出力トルク指標値に基づいて前記作動異常の有無を判定する場合、前記出力トルク指標値が予め定められた判定値より大きいときに前記作動異常が発生していると判定する
ことを特徴とする機関吸気系の異常判定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の機関吸気系の異常判定装置において、
前記内燃機関は駆動源として車両に搭載されるものであり、
前記所定開度は、前記車両の退避走行が可能になるスロットル開度である
ことを特徴とする機関吸気系の異常判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−225245(P2012−225245A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93181(P2011−93181)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】