説明

止水電線、止水電線の製造方法、及び止水電線の製造装置

【課題】この発明は、安定した止水性能が得られる止水電線を提供することを目的とする。
【解決手段】バレル部30の圧着によって圧着端子20が取り付けられた被覆電線40の一端に、流動性シール剤12を滴下するシール剤滴下工程Sと、流動性シール剤12が滴下された部分の周囲圧力と、絶縁被覆41の内側である被覆電線内部40aの圧力との間に圧力差を生じさせ、流動性シール剤12を被覆電線内部40aに浸透させるシール剤浸透工程Pとで構成する止水電線1の製造方法において、シール剤浸透工程Pを、シール剤滴下工程Sにおいて所定量の流動性シール剤12の滴下が終了するシール剤滴下工程S終了後とするとともに、交互に繰り返した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、車両用電線として用いられる被覆電線の内部に止水部を備えた止水電線に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電子部品が実装された車両において、それらを接続する車両用電線は高い防水性を要求されるものがあり、従来から、防水、即ち止水を目的とした各種の車両用止水電線の製造方法が提案されている。例えば、特許文献1では、被覆電線の一端に止水剤を供給(滴下)しながら、他端から電線内部を吸引することで止水剤を電線内部に浸透させる方法が記載されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、止水剤の供給と吸引が同時に行われているため、止水剤が電線の径方向断面において不均一な分布状態で被覆材内に引き込まれることになる。
【0004】
これにより、例えば、電線径方向断面の止水剤供給側に止水剤が偏り、供給側から離間した側には止水剤が充分にいきわたらず、止水性能が安定して得られないという問題があった
【0005】
【特許文献1】特開2004―355851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、安定した止水性能が得られる止水電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、複数の素線で構成する導体部分が絶縁性被覆材で被覆され、圧着するバレル部によって端子が少なくとも一端に取り付けられた被覆電線における、前記端子が取り付けられた前記被覆電線の前記一端に止水剤を供給する止水剤供給工程と、前記止水剤が供給された部分の周囲圧力と、前記絶縁性被覆材の内側である被覆電線内部の圧力との間に圧力差を生じさせ、前記止水剤を前記被覆電線内部に浸透させる浸透工程とで構成する止水電線の製造方法であって、前記止水剤供給工程と前記浸透工程とを交互に繰り返すことを特徴とする。
【0008】
この発明の態様として、前記浸透工程を、前記止水剤供給工程において所定量の前記止水剤の供給が終了する前記止水剤供給工程終了後に開始することができる。
【0009】
また、この発明の態様として、前記浸透工程において、前記圧力差を発生させる圧力差発生タイミングを、前記止水剤供給工程における前記止水剤の供給停止の所定時間経過後に設定することができる。
【0010】
また、この発明の態様として、前記浸透工程を、直前の前記止水剤供給工程で供給された前記止水剤が、前記被覆電線内部に浸透完了するまで、または、その浸透完了後の所定時間経過後まで継続させることができる。
【0011】
また、この発明の態様として、前記浸透工程の後の前記止水剤供給工程において、前記止水剤を供給する供給開始タイミングを、直前の前記浸透工程における圧力差発生終了の所定時間経過後とすることができる。
【0012】
また、この発明は、上記止水電線の製造方法により製造され、複数の素線で構成する導体部分を絶縁性被覆材で被覆した前記被覆電線と、前記バレル部の圧着によって前記被覆電線の一端に取り付けられた前記端子と、前記被覆電線内部に形成された止水部とで構成した止水電線であることを特徴とする。
【0013】
この発明の態様として、前記止水部を、前記被覆電線内部において長手方向に連続する所定長さの止水体で形成することができる。
また、この発明の態様として、前記止水体を、前記被覆電線内部において適宜の間隔を隔てて複数備えることができる。
【0014】
また、この発明は、複数の素線で構成する導体部分が絶縁性被覆材で被覆され、圧着するバレル部によって端子が少なくとも一端に取り付けられた被覆電線における、前記端子が取り付けられた前記被覆電線の前記一端に所定量の止水剤を供給する止水剤供給手段と、前記止水剤が供給された部分の周囲圧力と、前記絶縁性被覆材の内側である被覆電線内部の圧力との間に圧力差を生じさせ、前記止水剤を前記被覆電線内部に浸透させる圧力差発生手段とを備えた止水電線の製造装置であって、前記圧力差発生手段が、前記止水剤供給手段による前記止水剤の供給停止後、前記圧力差を発生させることを特徴とする。
【0015】
この発明の態様として、前記圧力差発生手段による前記圧力差を発生させる圧力差発生タイミングを、前記止水剤供給手段による前記止水剤の供給停止後の所定時間経過後に設定することができる。
【0016】
また、この発明の態様として、前記圧力差発生手段を、前記止水剤供給手段によって直前に供給された前記止水剤が、前記被覆電線内部に浸透完了するまで、または、その浸透完了後の所定時間経過後まで作動させることができる。
【0017】
また、この発明の態様として、前記止水剤供給手段による止水剤の供給開始タイミングを、直前の前記圧力差発生手段による圧力差の発生が終了した所定時間経過後とすることができる。
【0018】
上記端子は、バレル部と、雌型コネクタ、雄型コネクタ、あるいはねじ挿通孔等の端子接続部とを備えた接続端子や、バレル部のみで構成する接続端子であることを含む。
【0019】
上記止水剤は、たとえば液状シリコーンゴム等の液状止水剤や、軟ペースト状あるいはゲル状の止水剤であることを含むとともに、一液硬化型または二液硬化型、あるいは非硬化型の止水剤であることを含む。
【0020】
圧力差発生手段は、止水剤を供給しているのと逆側の端部を密閉して減圧することで、止水剤を供給している部位周辺よりも被覆電線内部の圧力を低い状態とする圧力差発生手段や、止水剤を被覆電線内部の導体部分を構成する素線間にまで浸透させるために、止水剤を供給している部位周辺を加圧し、被覆電線内部の圧力よりも高い圧力とする圧力差発生手段であることを含む。
所定量は、上記止水剤で、導体部分を構成する素線を全周に亘って覆うことができる程度の量であることをいう。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、安定した止水性能が得られる止水電線を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1に示す本発明の止水電線1は、複数の素線42aで構成する導体部分42を絶縁被覆41で被覆した前記被覆電線40と、前記バレル部30の圧着によって前記被覆電線40の一端に取り付けられた圧着端子20と、被覆電線内部40aに形成されたシール部10とで構成している。
【0023】
なお、図1は圧着端子20が取り付けられた止水電線1について説明する説明図であり、図1(a)は止水電線1の全体平面図を示し、図1(b)は止水電線1の一端側Xの拡大平面図を示し、図1(c)は止水電線1の一端側Xの拡大側面図を示し、図1(d)は止水電線1の一端側Xの拡大断面図を示している。
また、前記シール部10は、被覆電線内部40aにおいて長手方向Dに連続する所定長さLのシール体11で形成している。
【0024】
上記止水電線1の構成について詳述すると、止水電線1は、複数の素線42aで構成する導体部分42を絶縁被覆41で被覆して構成するとともに、両端の一部の絶縁被覆41をむいて適宜の長さの導体部分42を露出させた部分に圧着端子20を取り付け、被覆電線内部40aにシール部10を形成している。
【0025】
なお、上記止水電線1は両端に圧着端子20を備えているが、被覆電線40の両端の導体部分42を露出させ、一方の端部にのみ圧着端子20を備えてもよく、また、圧着端子20を取り付ける側の導体部分42のみを露出させて圧着端子20を備えてもよい。
【0026】
圧着端子20は、長手方向Dの先端側(図1中左側)に、図示省略する接続部材の挿通を許容する挿通接続部21を備え、基端側(図1中右側)にバレル部30を備えている。ただし、圧着端子は上記構成に限定されず、雌型コネクタ、雄型コネクタ等の端子接続部と前記バレル部とで構成する圧着端子や、バレル部のみで構成する圧着端子であってもよい。
【0027】
バレル部30は、導体部分42をかしめて圧着するワイヤーバレル部31と、ワイヤーバレル部31の後方で、導体部分42と絶縁被覆41とを所定の長さ露出させる領域32を介して配置され、絶縁被覆41の端部付近をかしめて圧着するインシュレーションバレル部33とがこの順で一体に構成されている。
【0028】
シール部10は、止水性を有する流体状の流動性シール剤12が、被覆電線内部40aの素線42a間まで隙間なく充填されて硬化し、被覆電線40の絶縁被覆41の端部から長手方向Dの基端側に向かって所定長さLで形成されたシール体11で構成されている。
【0029】
なお、シール体を構成するシール剤は、流動性シール剤12に限定されず、流動性や止水性を備えておればよく、ブチルゴム等を主成分とする硬化しないシール剤やゲル状のシール剤であってもよい。
【0030】
次に、上述の止水電線1を製造する止水電線製造ユニット100について、止水電線製造ユニット100の概略構成図を示す図2とともに説明する。
止水電線製造ユニット100は、バレル部30の圧着によって圧着端子20が取り付けられた被覆電線40の一端側Xに、所定量の流動性シール剤12を滴下するシール剤滴下装置110と、流動性シール剤12が供給された部分の周囲圧力と、絶縁性被覆材の内側である被覆電線内部40aの圧力との間に圧力差を生じさせ、流動性シール剤12を被覆電線内部に浸透させる圧力差発生装置120とで構成している。
【0031】
なお、圧力差発生装置120は、シール剤滴下装置110による流動性シール剤12の供給停止後、圧力差を発生させる構成であり、シール剤滴下装置110によって直前に滴下された流動性シール剤12が、被覆電線内部40aに引き込まれるまで作動するよう設定されている。
【0032】
止水電線製造ユニット100の構成について詳述すると、止水電線製造ユニット100は、シール剤滴下装置110と、圧力差発生装置120と、それらを制御するコントローラ101とで構成されている。
【0033】
シール剤滴下装置110は、流動性シール剤12を被覆電線40の所定箇所に滴下する滴下ノズル113、滴下ノズル113から流動性シール剤12が滴下される滴下部分の周辺を監視し、滴下部分の液面を検出する液面センサ112と、滴下ノズル113からの流動性シール剤12の滴下を規制するシール剤滴下バルブ111とで構成している。
【0034】
なお、滴下ノズル113によって所定量の流動性シール剤12が滴下される被覆電線40の所定箇所は、被覆電線40の圧着端子20が取り付けられた一端側Xのワイヤーバレル部31とインシュレーションバレル部33との間である。
【0035】
また、滴下ノズル113から滴下する流動性シール剤12の量は、1滴あたり1ml以下に設定され、所定量、即ち、導体部分42の断面にまんべんなく行き渡る量の流動性シール剤12を複数回にわたって滴下するよう設定されているが、所定量の流動性シール剤12を一滴で滴下する構成であってもよい。
【0036】
圧力差発生装置120は、シール体11を形成する被覆電線40の一端側Xに対して反対側である他端側Yの挿入を許容する挿入口121aを備え、内部を密閉状態に保つことのできる密閉ボックス121と、該密閉ボックス121内部を減圧状態にする真空ポンプ122とで構成している。
【0037】
このように構成された止水電線製造ユニット100のコントローラ101は、シール剤滴下装置110と圧力差発生装置120とを制御している。
詳しくは、コントローラ101は、シール剤滴下バルブ111を開放して滴下ノズル113から流動性シール剤12を滴下させ、滴下された流動性シール剤12の液面を上記液面センサ112でセンシングして、所定量の流動性シール剤12の滴下を検出すると、シール剤滴下バルブ111を閉じて滴下ノズル113からの流動性シール剤12の滴下を停止するよう制御している。
【0038】
また、コントローラ101は、シール剤滴下装置110による流動性シール剤12の滴下停止後、圧力差発生装置120の真空ポンプ122を作動させて、前記圧力差を発生させるよう制御しており、前記圧力差を発生させる圧力差発生タイミングTを、シール剤滴下装置110による流動性シール剤12の滴下停止後となるように設定している。
【0039】
また、コントローラ101は、シール剤滴下装置110によって直前に供給された前記流動性シール剤12が、被覆電線内部40aに浸透完了するまで圧力差発生装置120の真空ポンプ122が作動するよう制御している。
【0040】
このようにコントローラ101によって制御された止水電線製造ユニット100を用いて止水電線1を製造する製造方法について、図3に示すタイミングチャートとともに説明する。
【0041】
本発明の止水電線1は、圧着端子20が取り付けられた被覆電線40の一端側Xに、流動性シール剤12を滴下するシール剤滴下工程Sと、流動性シール剤12を被覆電線内部40aに浸透させるシール剤浸透工程Pとで構成され、前記シール剤滴下工程Sと前記シール剤浸透工程Pとを交互に繰り返して製造される。
【0042】
なお、シール剤滴下工程Sは、上述のシール剤滴下装置110を用いて被覆電線40の一端側Xに、流動性シール剤12を滴下する工程であり、シール剤浸透工程Pは、上述の圧力差発生装置120を用いて、流動性シール剤12が滴下された部分の周囲圧力と、被覆電線内部40aの圧力との間に圧力差を生じさせ、滴下した流動性シール剤12を被覆電線内部40aに浸透させる、すなわち引き込む工程である。
【0043】
またシール剤浸透工程Pは、シール剤滴下工程Sにおいて所定量の流動性シール剤12の滴下が終了する前記シール剤滴下工程Sの終了後に実行されるよう設定されるとともに、直前の前記シール剤滴下工程Sで滴下された流動性シール剤12が、被覆電線内部40aに浸透完了するまで継続させる構成である。
【0044】
止水電線1の製造方法について詳述すると、まず図示省略する端子取付装置で、所定長さ分の絶縁被覆41がむかれた被覆電線40の端部にバレル部30を圧着させて圧着端子20を取り付け、端部に圧着端子20が取り付けられた被覆電線40において、シール部10を形成する一端側Xをシール剤滴下装置110に、反対側である他端側Yを圧力差発生装置120の密閉ボックス121内部に挿入してセットする。
【0045】
この状態で、図3(a)のタイミングチャートに示すように、止水電線製造ユニット100のスタートスイッチ(スタートSW)がONになると、まず、コントローラ101はシール剤滴下装置110のシール剤滴下バルブ111を開放して滴下ノズル113から流動性シール剤12を滴下するよう制御する(シール剤滴下工程S開始)。
【0046】
なお、図3(a)乃至(c)におけるタイミングチャートは、上から順に止水電線製造ユニット100のスタートSW、滴下ノズル113による流動性シール剤12の滴下、圧力差発生装置120による真空ポンプ122の作動を示している。
【0047】
そして、上述の液面センサ112で所定量の流動性シール剤12の滴下を確認すると、コントローラ101は、シール剤滴下バルブ111を閉じて滴下ノズル113からの流動性シール剤12の滴下を停止する(シール剤滴下工程S終了)。
【0048】
なお、本実施例においては、液面センサ112で所定量の流動性シール剤12の滴下を確認して、滴下ノズル113からの流動性シール剤12の滴下を停止する構成であるが、液面センサ112を用いずとも、滴下ノズル113から滴下する流動性シール剤12の滴下量を上記所定量となるように予め設定し、設定された滴下量の流動性シール剤12を滴下する構成であってもよい。
【0049】
流動性シール剤12の滴下停止制御したコントローラ101は圧力差発生装置120の真空ポンプ122を作動させ、密閉ボックス121内部を減圧することによって、密閉ボックス121内部に挿入された被覆電線40の他端側Yの端部を介して密閉ボックス121に連通する被覆電線内部40aを減圧状態として、被覆電線内部40aの圧力を低減させる(シール剤浸透工程Pにおける圧力差発生タイミングT)。
【0050】
このようにして、被覆電線内部40aの圧力が低下することによって、流動性シール剤12が供給された被覆電線40の一端側Xの周囲の圧力に比べて、被覆電線内部40aの圧力が低くなり、滴下された流動性シール剤12が素線42aの間に浸透するとともに、他端側Yに向かって引き込まれる。
【0051】
この流動性シール剤12の浸透を監視している液面センサ112によって、直前のシール剤滴下工程Sで滴下された流動性シール剤12の大部分が被覆電線内部40aに引き込まれたことを検出すると、液面センサ112はコントローラ101に検出結果情報を送信し、検出結果情報を受信したコントローラ101は圧力差発生装置120の真空ポンプ122の作動を停止する(シール剤浸透工程P終了)。
【0052】
なお、本実施例においては、液面センサ112による流動性シール剤12の被覆電線内部40aへの引き込み検出によって圧力差発生装置120の真空ポンプ122の作動を停止する構成であったが、予め圧力差発生装置120の真空ポンプ122の作動時間を設定し、真空ポンプ122を設定された作動時間、作動させる構成であってもよい。
【0053】
圧力差発生装置120を停止制御したコントローラ101は、再度シール剤滴下装置110に流動性シール剤12の滴下を制御して、上記シール剤滴下工程Sとシール剤浸透工程Pを繰り返して、図1(d)に示すように、被覆電線内部40aに素線42a間に充填された所定長さLで形成されたシール体11によるシール部10を形成する。
【0054】
なお、図3(a)に示すように、2度目以降のシール剤浸透工程Pにおける真空ポンプ122の作動時間は、引き込むシール体11の長さが長くなることによって引き込み負荷が増大するため、だんだん長くなっている。
【0055】
このように、端子取付工程で圧着端子20が取り付けられた被覆電線40の一端側Xに、流動性シール剤12を滴下するシール剤滴下工程Sと、流動性シール剤12が滴下された部分の周囲圧力と、絶縁被覆41の内側である被覆電線内部40aの圧力との間に圧力差を生じさせ、流動性シール剤12を被覆電線内部40aに浸透させるシール剤浸透工程Pとで構成する止水電線1の製造方法及び該製造方法で製造する止水電線製造ユニット100において、シール剤滴下工程Sとシール剤浸透工程Pとが交互に繰り返されるため、被覆電線内部40aの素線42a間に充填されたシール体11でシール部10を構成でき、確実な止水性の有する止水電線1を得ることができる。
【0056】
また、シール部10を形成するにあたり、シール剤浸透工程Pとシール剤滴下工程Sとを繰り返すことによって所定長さLのシール体11を形成しているため、シール剤浸透工程Pにおける過度の圧力を流動性シール剤12に付加せずに構成できる。このため、たとえば過度の圧力差による流動性シール剤12の材料分離や、シール体11内部における空隙の発生を防止することができ、より密実で止水性の高いシール部10を構成することができる。
【0057】
また、シール剤浸透工程Pを、シール剤滴下工程Sにおいて所定量の流動性シール剤12の滴下が終了するシール剤滴下工程Sの終了後に開始することとしたことにより、流動性シール剤12が滴下される際には圧力差は生じていない。すなわち、シール剤滴下工程Sにおいて流動性シール剤12が導体部分42の径方向断面に均等に浸透した後、シール剤浸透工程Pで圧力差を発生させて、流動性シール剤12を被覆電線内部40aに引き込むため、被覆電線内部40aに均一なシール構造のシール部10を形成することができる。これにより、安定したシール性能を確保することができる。
【0058】
シール剤浸透工程Pを、直前のシール剤滴下工程Sで滴下された流動性シール剤12が、被覆電線内部40aに浸透完了するまで継続することによって、シール剤浸透工程Pの時間を管理することで工程作業を効率化することができる。
【0059】
詳しくは、上述の止水電線1の製造方法により製造され、複数の素線42aで構成する導体部分42を絶縁被覆41で被覆した被覆電線40と、バレル部30の圧着によって被覆電線40の一端に取り付けられた圧着端子20と、被覆電線内部40aに形成されたシール部10とを備えた止水電線1は、安定したシール性能を確保することができる。
【0060】
また、シール部10を、被覆電線内部40aにおいて長手方向Dに連続する所定長さLのシール体11で形成しているため、確実なシール性能を有する止水電線1を構成することができる。
【0061】
なお、図3(b)に示すように、シール剤滴下工程Sにおける流動性シール剤12の滴下する所定量を増加させる(シール剤滴下装置110による流動性シール剤12の滴下時間を長くする)ことによって、シール剤浸透工程Pにおける圧力差発生装置120の真空ポンプ122の作動時間も長くなるが、これにより、より密実なシール体11を形成することができる。
【0062】
また、図3(c)に示すように、シール剤浸透工程Pにおいて、圧力差を発生させる圧力差発生タイミングTを、シール剤滴下工程Sにおける流動性シール剤12の供給停止の所定時間経過後に設定することができる。すなわち、シール剤滴下工程Sにおける流動性シール剤12の滴下する終了後に所定時間のタイムラグRを設定することにより、導体部分42に滴下された流動性シール剤12が素線42a内部に浸透するため、導体部分42の断面方向に均一なシール体11を形成することができる。
【0063】
詳しくはシール剤滴下工程Sとシール剤浸透工程Pの間に所定時間のタイムラグRを設定することで、流動性シール剤12が複数の素線42a間に浸透する時間が十分に確保され、流動性シール剤12が径方向断面により均一に浸透して、被覆電線内部40aに均一なシール構造のシール部10を形成することができる。これにより、さらに安定したシール性能を確保することができる。
【0064】
なお、特に粘性の高い止水剤を使用する場合には有用である。また、このタイムラグRは流動性シール剤12の硬化時間を考慮すると30秒以内に設定され、工程時間の短縮の観点からは1乃至10秒以内がより望ましい。
【0065】
また、図3(d)に示すように、シール剤浸透工程P完了後、すなわち、真空ポンプ122の停止後、シール剤滴下工程Sにおける流動性シール剤12の供給開始タイミングT’の間に、タイムラグR’を設定してもよい。
【0066】
このように、真空ポンプ122の停止後、シール剤滴下工程Sにおける流動性シール剤12の滴下開始タイミングT’までの間にタイムラグR’を設定する、即ち流動性シール剤12の滴下開始タイミングT’より早く真空ポンプ122の作動を停止することによって、過度の吸引状態が生じることを防止することができる。
【0067】
詳しくは、真空ポンプ122の停止後、直ちに被覆電線内部40a内部が大気圧まで回復しないため、過剰に流動性シール剤12を被覆電線内部40aに引き込む惧れがあるが、適宜の作動時間で真空ポンプ122を作動させ、その後にタイムラグR’を設定することによって、滴下された流動性シール剤12を所望の引き込み状態で引き込むことができ、より密実で断面方向に均一なシール体11を形成することができる。
【0068】
さらにまた、図4(a)に示すように、シール部10aを、被覆電線内部40aにおいて適宜の間隔dを隔てて複数配置したシール体11で構成してもよい。
この場合、真空ポンプ122を、前記止水剤供給手段によって直前に供給された前記流動性シール剤12が、被覆電線内部40aに浸透完了し、その浸透完了後の所定時間経過後まで作動させることによって複数のシール体11で構成するシール部10aを備えた止水電線1aを製造することができる。
【0069】
複数のシール体11で構成するシール部10aを備えた止水電線1aについて、止水電線1aの断面図を示す図4(a)、止水電線1aの製造するタイムチャートを示す図4(b)とともに詳述すると、止水電線1aは被覆電線内部40aに、適宜の間隔dを隔てて配置した複数のシール体11でシール部10aを構成している。
【0070】
図4(b)のタイムチャートに示すように、止水電線製造ユニット100のスタートスイッチ(スタートSW)がONになると、まず、上述の止水電線1を製造する製造方法と同様に、コントローラ101によって、シール剤滴下装置110の滴下ノズル113から流動性シール剤12の滴下を開始する。所定量の流動性シール剤12の滴下が完了すると、圧力差発生装置120の真空ポンプ122を作動させる。すなわち、シール剤滴下工程S完了後にシール剤浸透工程Pを開始させる。
【0071】
そして、このシール剤浸透工程Pを、すなわち圧力差発生装置120の真空ポンプ122の作動時間を、上記止水電線1の場合の作動時間(図4(b)において点線で示す)より、長く設定することにより、直前のシール剤滴下工程Sで所定量滴下された流動性シール剤12がすべて被覆電線内部40aに引き込まれ、さらに被覆電線40の他端側Yに引き込まれる。
【0072】
このように、上述の止水電線1のシール剤浸透工程Pより長く設定したシール剤浸透工程Pの完了後に、再度、シール剤滴下工程Sを開始するとともに、長く設定したシール剤浸透工程Pを繰り返すことによって、適宜の間隔dを隔てて配置した複数のシール体11で構成するシール部10aを備えた止水電線1aを構成することができる。
【0073】
このように、シール部10aには、シール体11とシール体11との間にシール体11がない部分、即ち図4(a)における適宜の間隔dの部分が介在するため、圧着端子20が取り付けられた被覆電線40の端部近傍は、圧着端子20を他部品に取り付ける際など不意に発生する外力により屈曲させられることがあるが、シール体11がない部分で屈曲するため、シール部10の損傷を防止することができる。
また、複数のシール体11が設けられていることで、シール部10のシール性能を補償することができる。
【0074】
また、止水電線1aの製造方法において、シール剤浸透工程Pを、直前の前記シール剤滴下工程Sで供給された前記流動性シール剤12が、前記被覆電線内部40aに浸透完了し、その浸透完了後の所定時間経過後まで継続させることによって、次に供給される流動性シール剤12によるシール体11との間に空気層が介在するシール体11を形成することができる。このため、空気中の水分等による硬化がなされる流動性シール剤12では、流動性シール剤12の硬化が均一になされ、安定したシール性能を確保することのできる止水電線1aを構成できる。
【0075】
なお、ここでは、シール剤浸透工程Pを、被覆電線40の他端側Yを密閉した密閉ボックス121に真空ポンプ122で真空にすることによって、流動性シール剤12が滴下された被覆電線40の一端側Xの周囲の圧力と、被覆電線内部40aの圧力とに圧力差を発生させて流動性シール剤12が素線42a内に隙間なく浸透させる構成を示した。しかし、被覆電線40の一端側Xを密閉し、流動性シール剤12が滴下された周囲の圧力を向上させることによって被覆電線内部40aとの間に圧力差を生じさせて流動性シール剤12を浸透させる構成であってもよい。
また、圧力差発生装置120における密閉ボックス121に、真空ポンプ122の作動停止と同時に、密閉ボックス121内部を大気圧程度まで気圧を回復されるための、開放バルブを備えてもよい。
【0076】
また、上記実施例において、滴下する流動性シール剤12の所定量を図示省略する液面センサ112で検出する構成であったが、滴下ノズル113から滴下される流動性シール剤12の1滴あたりの滴下量や滴下回数で制御する構成であってもよい。この場合、液面センサ112を装備する必要がなくなり、装置コストを低減することができる。
【0077】
以上、この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の絶縁性被覆材は、絶縁被覆41に対応し、
以下同様に、
端子は、圧着端子20に対応し、
止水剤供給工程は、シール剤滴下工程Sに対応し、
浸透工程は、シール剤浸透工程Pに対応し、
止水剤は、流動性シール剤12に対応し、
止水剤の供給停止の所定時間経過後は、タイムラグRに対応し、
止水部は、シール部10,10aに対応し、
止水体は、シール体11に対応し、
適宜の間隔は、間隔dに対応し、
止水剤供給手段は、シール剤滴下装置110に対応し、
圧力差発生手段は、圧力差発生装置120に対応し、
製造装置は、止水電線製造ユニット100に対応し、
圧力差発生終了の所定時間経過後は、タイムラグR’に対応し、
供給開始タイミングは、滴下開始タイミングT’するも
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】圧着端子が取り付けられた止水電線について説明する説明図。
【図2】止水電線製造ユニットの概略構成図。
【図3】止水電線製造ユニットを製造する製造方法のタイミングチャート。
【図4】複数の止水体で構成する止水部を備えた止水電線についての説明図。
【符号の説明】
【0079】
1,1a…止水電線
10,10a…シール部
11…シール体
12…流動性シール剤
20…圧着端子
30…バレル部
31…ワイヤーバレル部
33…インシュレーションバレル部
40…被覆電線
40a…被覆電線内部
41…絶縁被覆
42…導体部分
42a…素線
100…止水電線製造ユニット
110…シール剤滴下装置
120…圧力差発生装置
S…シール剤滴下工程
P…シール剤浸透工程
d…間隔
R,R’…タイムラグ
X…一端側
D…長手方向
L…所定長さ
T…圧力差発生タイミング
T’…滴下開始タイミング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線で構成する導体部分が絶縁性被覆材で被覆され、圧着するバレル部によって端子が少なくとも一端に取り付けられた被覆電線における、前記端子が取り付けられた前記被覆電線の前記一端に止水剤を供給する止水剤供給工程と、
前記止水剤が供給された部分の周囲圧力と、前記絶縁性被覆材の内側である被覆電線内部の圧力との間に圧力差を生じさせ、前記止水剤を前記被覆電線内部に浸透させる浸透工程とで構成する止水電線の製造方法であって、
前記止水剤供給工程と前記浸透工程とを交互に繰り返す
止水電線の製造方法。
【請求項2】
前記浸透工程を、
前記止水剤供給工程において所定量の前記止水剤の供給が終了する前記止水剤供給工程終了後に開始することとした
請求項1に記載の電線の製造方法。
【請求項3】
前記浸透工程において、前記圧力差を発生させる圧力差発生タイミングを、
前記止水剤供給工程における前記止水剤の供給停止の所定時間経過後とした
請求項2に記載の止水電線の製造方法。
【請求項4】
前記浸透工程を、
直前の前記止水剤供給工程で供給された前記止水剤が、前記被覆電線内部に浸透完了するまで、または、その浸透完了後の所定時間経過後まで継続させる
請求項1、2または3に記載の止水電線の製造方法。
【請求項5】
前記浸透工程の後の前記止水剤供給工程において、前記止水剤を供給する供給開始タイミングを、
直前の前記浸透工程における圧力差発生終了の所定時間経過後とした
請求項1から4のうちいずれかに記載の止水電線の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のうちいずれかに記載の止水電線の製造方法により製造され、
複数の素線で構成する導体部分を絶縁性被覆材で被覆した前記被覆電線と、
前記バレル部の圧着によって前記被覆電線の一端に取り付けられた前記端子と、
前記被覆電線内部に形成された止水部とで構成した
止水電線。
【請求項7】
前記止水部を、
前記被覆電線内部において長手方向に連続する所定長さの止水体で形成した
請求項6に記載の止水電線。
【請求項8】
前記止水体を、
前記被覆電線内部において適宜の間隔を隔てて複数備えた
請求項7に記載の止水電線。
【請求項9】
複数の素線で構成する導体部分が絶縁性被覆材で被覆され、圧着するバレル部によって端子が少なくとも一端に取り付けられた被覆電線における、前記端子が取り付けられた前記被覆電線の前記一端に所定量の止水剤を供給する止水剤供給手段と、
前記止水剤が供給された部分の周囲圧力と、前記絶縁性被覆材の内側である被覆電線内部の圧力との間に圧力差を生じさせ、前記止水剤を前記被覆電線内部に浸透させる圧力差発生手段とを備えた止水電線の製造装置であって、
前記圧力差発生手段が、
前記止水剤供給手段による前記止水剤の供給停止後、前記圧力差を発生させる
止水電線の製造装置。
【請求項10】
前記圧力差発生手段による前記圧力差を発生させる圧力差発生タイミングを、
前記止水剤供給手段による前記止水剤の供給停止後の所定時間経過後に設定した
請求項9に記載の止水電線の製造装置。
【請求項11】
前記圧力差発生手段を、
前記止水剤供給手段によって直前に供給された前記止水剤が、前記被覆電線内部に浸透完了するまで、または、その浸透完了後の所定時間経過後まで作動させる
請求項9または10に記載の止水電線の製造装置。
【請求項12】
前記止水剤供給手段による止水剤の供給開始タイミングを、
直前の前記圧力差発生手段による圧力差の発生が終了した所定時間経過後とした
請求項9、10または11に記載の止水電線の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−272122(P2009−272122A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121213(P2008−121213)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】