正弦波周期の決定
物体測距システムは、周波数掃引された信号から導出されるパルスを送信し、周波数掃引された信号と、物体からのその反射信号とを合成した信号のビート周波数を求めることによって動作する。近い物体の距離を求めるために、ビート周波数信号のサンプルを積分して、正弦波の半サイクルの積分を表す値を求め、その積分値に基づいて、正弦波がそのサイクル内に所定の段階に達しているはずの時点を表す積分しきい値を確立し、正弦波の積分があるしきい値から別のしきい値まで変化するのにかかった時間(この時間は、ビート周波数の周期を示す)を測定することによって、時間領域においてビート周波数が求められる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は正弦波の周期を決定するための方法に関する。本発明は、完全な連続波とは異なるような、離散的なサンプルの形において正弦波が存在する装置にも適用することができる。本発明は、限定はしないが、パルス伝送と組み合わせて周波数変調された搬送波を使用して、送信される信号と物体から反射される信号とを合成することによって導出されるビート周波数によって距離が求められるような、物体までの距離を求めるためのシステムに特に適用することができる。そのようなシステムは、たとえば、障害物を検出するマイクロ波センサを備えることができ、自動車レーダシステムとして用いることができる。
【背景技術】
【0002】
[従来技術の記載]
特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5及び特許文献6に記載されているシステムのような、自動車用警報及び衝突回避のために用いられる数多くのシステムのうちの1つが、周波数変調断続型連続波(frequency modulated interrupted continuous wave)(FMICW)レーダである。図1にブロック図の形で示される、そのようなシステムでは、発振器OSCによって生成される搬送波の周波数が、電圧制御発振器VCO内の周波数変調器FMを用いて、所定の周波数範囲ΔFにわたって、周期TSWで周期的に線形に掃引される。変調パターンが、制御モジュールCMの制御下で線形波形発生器LWGによって与えられる。周波数変調された連続波(FM−CW)信号は、結合器CPLによって電力増幅器PAに結合され、その信号は電力増幅器において増幅され、その後、送信−受信スイッチTRS(制御モジュールCMによってトリガされ、パルス繰返し周波数PRIにおいて動作する)によってゲーティングされる。送信−受信スイッチTRSは周期的に、短い区間ΔTTだけ、電力増幅器PAの出力をアンテナANに結合し、対象とする障害物OBに向けて送信されるパルス化されたRF送信信号TXが得られる。この区間(通常はゲーティング周期TPRI=1/PRIのうちのごくわずかな部分である)中、スイッチTRSは、レーダ受信機をアンテナから切り離しておく。物体距離Dに比例する時間τだけ遅延した反射信号RXが、同じアンテナによって検出され、送信−受信スイッチTRSを介して低雑音増幅器LNAに結合される。
【0003】
障害物から反射したパルス信号は、ダウンコンバータDRにおいて、結合器CPLから受信される送信信号のあるバージョンによって形成される基準信号と混合される。送信パルス信号及び受信パルス信号は互いに遅延しているので、送信パルス信号及び受信パルス信号の瞬時周波数は異なる。それゆえ、ダウンコンバータの出力において得られるビート信号は、周波数差FDを有し、周波数差FDは、障害物までの未知の距離Dに正比例する。
【0004】
ダウンコンバータDRの出力はシグナルプロセッサモジュールSPMに供給され、シグナルプロセッサモジュールSPMは、クロックCLKからのクロックパルスによって駆動される、アナログ/デジタルコンバータADC及びデジタルプロセッサDPを備える。コンバータADCは、ダウンコンバータDRからの信号s(t)をデジタル信号に変換し、このデジタル信号はデジタルプロセッサDPによって用いられ、ビート周波数が、それゆえ物体距離が、求められる。
【0005】
線形波形発生器LWGが与える変調パターンは、たとえば、図2aに示されるように、一定の傾きを有する周期的な三角波形に従う。この三角波形によって、三角波形の立ち上がり部分及び立ち下がり部分において送信信号及び受信信号から導出される一対の周波数シフト差から計算されるドップラ周波数から、動いている障害物の速度も推定できるようになるので、この三角波形を用いることは多くの場合に、他の線形変調方式(のこぎり波等)よりも好ましい。
【0006】
図2bは、図1のシステムの様々な部分において観測されるパルス信号を示す。スイッチTRSが動作することによって、反射信号は確実に所定の時間スロットΔTR(送信機から信号を送信するために用いられる時間スロットΔTTの外側にある)中にだけレーダ受信機に結合されるようになることが図から明らかである。そのようなゲーティング方式は、アンテナ結合から生じる強い信号(結果として、受信機増幅器及び/又はアナログ/デジタルコンバータADCの飽和等、受信機に望ましくない影響を与えることがある)を最小限に抑える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第03/044559号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/044560号パンフレット
【特許文献3】米国特許第6,646,587号明細書
【特許文献4】特開2000−275333号公報
【特許文献5】特開2004−333269号公報
【特許文献6】特開2004−144696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
FMICWレーダでは、物体への距離が短い場合には正確な結果を得ることが比較的難しい。距離が短いと、相対的に長い周期TD=1/FDを有するビート信号が生成される。その距離が十分に短い場合には、その周期は、周波数掃引の持続時間TSWより長い。そのような特定の事例が図2cにおいて提示される。これは、従来技術のシステムの場合のように、信号の包絡線(それゆえ周波数FD)を持続時間TSWの一度の周波数掃引中に観測されるパルスの受信列から推定する場合には特に、ビート周波数を推定するのを難しくする。
【0009】
FMICWレーダの短距離性能の別の制限が、スイッチTRSによって実行される上記のゲーティング方式から生じる。図2bに示されるように、送信パルスの持続時間ΔTTよりも短い時間遅延τに対しては、ダウンコンバータDRに供給されるパルスの持続時間ΔTDR(すなわちエネルギー)は低減される。そのように短くなったパルスの形状は、たとえば、増幅器LNA及びダウンコンバータDRの雑音及び帯域制限に起因して歪む可能性が高くなる。結果として、コンバータADCにおいて、クロックCLKによって支配される速度で実行されるサンプリング過程は、パルスの振幅を正確に求められないことがある。これにより、デジタルプロセッサDPにおいて実行される計算からビート周波数を推定する際に誤差が生じることがあり、それゆえ、障害物距離に関して間違った指示がなされることがある。
【0010】
物体までの距離が短いことに関連するさらに別の問題は以下の例から明らかにすることができる。
【0011】
自動車用FMICWレーダが以下のパラメータを有するものと仮定する。
‐線形周波数掃引の持続時間TSW=4ms
‐掃引中の周波数変化範囲ΔF=80MHz
‐パルス繰返し間隔TPRI=2μs
【0012】
図2aは、解析中の概念的な自動車用レーダの場合の時間と周波数との関係、すなわち周波数/時間特性を概略的に示す。
【0013】
この事例では、パルス繰返し間隔TPRIは2μsに等しいので、距離測定の曖昧でない範囲は300mに及ぶであろう。線形周波数掃引を用いるレーダでは、障害物までの距離Dは、2つの周波数間、すなわち送信される信号の周波数と、障害物から反射される信号の周波数との間の差FDから求められる。ただし、以下の式が成り立つ。
【0014】
【数1】
【0015】
…(1)
ただし、cは光速であり、SFTは、以下の式によって与えられる周波数/時間特性の傾きである。
【0016】
【数2】
【0017】
…(2)
それゆえ、検討中の事例では、距離D=3mにある障害物が、400Hzの周波数差(ビート周波数)FDを引き起こすであろう。
【0018】
ビート周波数FDの測定(それゆえ、距離測定)が、周波数掃引の持続時間TSWに等しい時間区間内で取得されたサンプルを用いて果たされるべきである場合には、スペクトル解析における周波数ステップ(「ビン」)の幅は1/TSW=250Hzに等しい。メインローブの3dB帯域幅及びサポートはそれぞれ、0.9/TSW及び2/TSWに等しい。
【0019】
当業者に既知であるように、この3dB帯域幅は、持続時間TSWの適当に整形された観測窓が受信信号に適用され、望ましくない周波数サイドローブが抑圧されるときに、増加する。たとえば、ハミング窓の場合、メインローブの3dB帯域幅は1.3TSWに等しいであろう。
【0020】
図4は、周波数及び距離測定の過程における観測時間が有限であることの影響を示す。図に示されるように、距離測定の相対的な誤差は、距離が短くなるほど大きくなり、著しい性能劣化に繋がる。
【0021】
上記のことから、結果として、上記の信号処理方式を利用するFMICWレーダシステムは、短い距離において性能劣化を受けることになるであろう。それゆえ、衝突回避又は/及び警報システムの用途において特に、従来技術による技法によって提供される効率よりも高い効率で、特に短い距離においてFMICWレーダの性能を改善するための新規の信号処理方法及び装置を開発することが望ましいであろう。
【0022】
振幅A、周期T及び初期位相θが未知である正弦波の短いセグメントから情報を抽出するのに適している2つの時間領域周期/周波数推定器が既知である。解析中のセグメントの持続時間は、正弦波の単一の周期程度に短いか、さらに短くてもよい。2つの推定器は、ゼロクロッシング推定器と、勾配/振幅推定器とである。これら2つの時間領域推定器の原理がそれぞれ図5a及び図5bにおいて示される。
【0023】
ゼロクロッシング推定器では、信号s(t)=A・sin(2πt/T+θ)が、明示的に、又は暗黙のうちに、2値表現b(t)=sign[s(t)]に変換され、その正弦波のレベルが連続して0を横切る時刻t1及びt2が求められるようにする。未知の周期
【0024】
【数3】
【0025】
は以下の式から推定される。
【0026】
【数4】
【0027】
…(3)
勾配−振幅推定器では、時刻t1及びt2が再び求められる。これらの2つの各時刻における正弦波の上り勾配及び下り勾配S+及びS-も求められる。未知の周期Tは以下の式から推定される。
【0028】
【数5】
【0029】
…(4)
ただし、振幅Aは、max|s(t)|又は|s[(t2−t1)/2]|として推定され、勾配|S|は勾配|S+|及び|S-|の平均値である。
【0030】
しかしながら、これら2つの従来の各時間領域推定器よりも効率的であり、且つ正確であり、好ましくはFMICWレーダに適している技法を有することが望ましいであろう。また、正弦波のサンプルを用いて正弦波周期を測定し、上記のように、サンプルが短くされる場合であっても良好に機能する技法を提供することも望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0031】
[発明の要約]
本発明の複数の態様が、添付の特許請求の範囲に記載される。
【0032】
本発明は、周波数掃引された信号から導出されるパルスを送信し、周波数掃引された信号と、物体からのその反射信号とを合成した信号のビート周波数を求めることによって動作する、たとえば、物体測距システムにおいて用いることができる方法又は装置として具現されることが好ましい。近い物体の距離を求めるために、ビート周波数信号のサンプルを積分して、正弦波の部分サイクル(たとえば、半サイクル)の積分を表す値を求め、その積分値に基づいて、正弦波がそのサイクル内に所定の段階に達しているはずの時点を表す積分しきい値を確立し、正弦波の積分がしきい値間で変化するのにかかった時間(すなわちビート周波数の周期を示す時間)を測定することによって、時間領域においてビート周波数が求められる。
【0033】
本発明の技法は、周波数の非常に正確な指標を与えるために、粗く量子化されつつも大きくオーバーサンプリングされたデータを処理するのに適している。
【0034】
解析される信号のセグメント内で検出されるゼロクロッシング又は他のレベルのクロッシングの数に基づいて適応的に異なる動作モードを選択できることが好ましい。
【0035】
ここで、一例として、本発明を具現する構成を添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】自動車衝突回避のために用いられる従来のFMICWレーダシステムのブロック図である。
【図2】図2aは、図1のFMICWレーダシステムにおいて用いられる線形変調パターンを示す図である。図2bは、図1のFMICWレーダシステムの様々な点において観測されるパルス信号を示す図である。図2cは、ビート信号の周波数を推定するために、ビート信号の包絡線を再構成する過程を示す図である。
【図3】自動車衝突回避のために用いられる、本発明によるFMICWレーダシステムのブロック図である。
【図4】観測時間が有限であるということが、周波数及び距離を求めることに及ぼす影響を示す図である。
【図5】図5aは、持続時間が周期未満であるセグメントから正弦波信号の周期を推定するために利用される従来技術のゼロクロッシング推定器の動作原理を示す図である。図5bは、持続時間が周期未満であるセグメントから正弦波信号の周期を推定するために利用される従来技術の勾配/振幅推定器の動作原理を示す図である。
【図6】図6aは、図3のシステムの第1のモードの動作原理を示す図である。図6bは、粗い量子化(符号+4ビットの大きさ)が、第1のモードを用いて正弦波の未知の周期を求めることに及ぼす影響を示す図である。図6cは、粗い量子化(符号+3ビットの大きさ)が、第1のモードを用いて正弦波の未知の周期を求めることに及ぼす影響を示す図である。
【図7】図7aは、図3のシステムの第2のモードの動作原理を示す図である。図7bは、図3のシステムの第3のモードの動作原理を示す図である。
【図8】第3の動作モードの理解を助ける図である。
【図9】図3のシステムの第4のモードの動作原理を示す図である。
【図10】第4の動作モードの理解を助ける図である。
【図11】図3のシステムの第5のモードの動作原理を示す図である。
【図12】図3のシステムの第6のモードの動作原理を示す図である。
【図13】図13aおよび図13bは、横軸の時間軸が任意の単位であり、+1及び−1単位の最大値及び最小値を有する正弦波信号のゼロクロッシング及び極値を検出するための技法を図式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[好適な実施形態の詳細な説明]
図2cを参照すると、ビート周波数が減少するのに応じて、(従来のシステムでは)相対的な測距精度が減少するが、正弦波周期当たりのサンプル数が増加することが理解されよう。本発明はこの現象を利用することができる。以下に記述される本発明の実施形態は、解析される信号の全ての入手可能なデータを利用し、積分推定器として、粗く量子化されたデータを処理することによって、(特にオーバーサンプリングも用いられるときに)正確な結果を与えることができる。
【0038】
その実施形態の原理を、以下に詳細に説明する。
【0039】
図3は、本発明によるFMICWレーダシステムの概略的なブロック図である。このシステムは、本発明の技法を用いるデジタルプロセッサDPを組み込むが、それ以外は図1を参照しながら説明されたように動作する。このプロセッサは、明確さのためにハードウエアの実施態様において例示されるが、代替的にソフトウエアとして実現することができる。
【0040】
図3では、信号s(t)のデジタル化されたサンプルがバッファBFに送られ、それらのサンプルはバッファから、バッファによって受信されたのと同じ速度でコントローラCTの制御下で読み出すことができる。本実施形態では、それらのサンプルは、dcオフセットを除去するために事前に処理されるので、それらのサンプルはまとめて、ゼロレベル平均値を有する正弦波の少なくとも一部のサンプルを表す。各観測区間中に受信されるサンプルは、2パス動作を用いて処理される。制御モジュールCMは、観測区間の開始/終了時に開始/終了サイクルパルスを周期的に生成する。これらのパルスは、コントローラCTの動作を観測区間と同期させるために、コントローラCTによって用いられる。
【0041】
第1のパスでは、ゼロクロッシング検出器ZCDが、サンプル値が始めてゼロレベルを横切る時点を検出し、それに応答して、アキュームレータACCをリセットする。その際、アキュームレータACCは、次のゼロクロッシングが検出されるまで、そのサンプル値を加算(積分)し始め、次のゼロクロッシングが検出された時点で、コントローラCTは、アキュームレータACCによって格納される累算された値を読み出す。したがって、この値Dは、それらのサンプルによって表されるような正弦波の半サイクルの積分を表す。十分なゼロクロッシングが検出される場合には、後続する半サイクルのための積分値Dを測定するために、この動作を繰り返すことができる。
【0042】
その後、動作の第2のパスが始まる。コントローラCTは第1及び第2の積分しきい値I1及びI2を計算する。これらのしきい値は、それぞれ半サイクル積分値Dの所定の割合である。コントローラはそれらのしきい値をそれぞれのコンパレータC1及びC2の第1の入力に適用し、コンパレータの第2の入力は、アキュームレータACCの出力を受信するように構成される。コンパレータ出力は、カウンタCNTの開始及び停止制御端子にそれぞれ接続され、カウンタは周期的な同期パルスをカウントするように構成される。それらのパルスは、制御モジュールCMによって生成され、パルス形式のRF伝送を生成するために用いられるタイムマークと一致する場合がある。
【0043】
コントローラCTはカウンタCNTにリセットパルスを加え、そして、バッファBFに、デジタル化された正弦波サンプルの出力を再開させる。その構成は、積分されたサンプルが第1の積分しきい値I1に達したときにコンパレータC1がカウンタを起動し、積分されたサンプルが第2の積分しきい値I2に達したときにコンパレータC2がカウンタを停止するようになされる。したがって、カウンタCNTは、積分されたサンプル値が第1のしきい値から第2のしきい値まで変化するのにかかる時間に比例する値(この値はコントローラCTに送られる)までカウントアップする。その後、以下に説明されるように、この値を用いて正弦波の周期を計算することができる。
【0044】
この実施形態は、種々のモードにおいて動作することができる。
【0045】
[第1の動作モード]
その実施形態の第1の動作モードを、図6を参照しながら説明する。解析される信号において、少なくとも2つのゼロクロッシングが検出されるものと仮定する。
【0046】
上記で説明されたように、その動作の第1の部分では、正弦波の半サイクルの積分を表す積分値Dが計算される(図6aを参照されたい)。その後、コントローラCTは、以下のように積分しきい値を計算する。
I1=D/4, I2=3D/4
したがって、カウンタCNTは、積分された値が値Dの4分の1に達する時刻tLQと、積分された値が値Dの4分の3に達する時刻tUDとの間の区間を表すカウントに達する。
【0047】
正弦波が(A・sinγ)と表されるものと仮定すると、以下の式から、正弦波がπ/3ラジアン及び2π/3ラジアンにそれぞれ達するときにこの区間が開始及び終了することを明らかにすることができる。
【0048】
【数6】
【0049】
したがって、未知の周期
【0050】
【数7】
【0051】
は以下の式から推定される。
【0052】
【数8】
【0053】
…(5)
その後、ビート周波数を物体距離に変換するための既知の技法を用いて、コントローラCTによって距離推定値Lxを導出し、出力することができる。
【0054】
図6b及び図6cにおいて示されるように、正弦波は粗く(たとえば、符号+4ビットの大きさ、又は符号+3ビットの大きさにそれぞれ)量子化されてもよいが、一方で、好ましい実施形態では大きくオーバーサンプリングされる。それゆえ、正弦波の下側及び上側それぞれの4分の1、そして未知の周期Tも求められており、誤差は無視することができる。後者の場合、正弦波の未知の周期Tは、1%以下のわずかな誤差で求めることができる。その技法は、従来技術の時間領域技法と比べて、ゼロクロッシング検出の誤差の影響を緩和する。なぜなら、ゼロクロッシングの領域内のサンプル値が小さく、それゆえ、積分される値にほとんど影響を及ぼさないためである。
【0055】
後に説明される他の動作モードもこれらの利点を共有する。
【0056】
第1の動作モードでは、(たとえば、あらゆるdcオフセットが除去されるのを確実にすることによって、又は図12を参照しながら後に説明する技法のような検出技法を用いることによって)正弦波のゼロレベルがわかっているものと仮定する。また、上記で示されたように、ゼロレベルを推定する際のあらゆる誤差の影響が緩和されるものとする。しかしながら、ゼロクロッシング検出器ZCDが仮定するゼロレベルに起こり得る誤差を補償するステップが実施される場合には、さらに正確な結果を得ることができる。後に説明される第2〜第4の動作モードは、そのような補償を成し遂げる。これらのモードを説明する際に、ゼロクロッシング検出器は最初に、必ずしも正弦波の本当のゼロレベルではない、「仮想ゼロ」レベルと呼ばれる仮のゼロレベルを用いるものと仮定する。
【0057】
[第2の動作モード]
第2の動作モードを図7aを参照しながら説明する。2つのゼロクロッシングだけが検出されているものと仮定される。
【0058】
図7aに示される手順では、正弦波信号の予想される対称性が利用される。その手順は、以下に説明されることを除いて、上記の第1のモードの手順に対応する。その手順は、正弦波の1つの半サイクルからのサンプルと、別の半サイクルからのさらに別のサンプルとを使用することを含み、それらの半サイクルのうちの一方は正であり、他方は負である。
【0059】
その動作は、
A.実際の正弦波のゼロレベルに対応しない場合がある「仮想ゼロ」レベルを有する仮の振幅しきい値を用いて、上記のように積分値Dを求めること;
B.サンプル積分の2つの所定の値間の区間(たとえば、上記のような時刻tLQとtUQとの間隔)を求めること;
C.第2のゼロクロッシングに応答してアキュームレータACCをリセットし、その後、ステップBにおいて測定された区間(tUQ−tLQ)に対して所定の関係を有する(たとえば、等しい)区間tQの後に、アキュームレータACCの出力を読み出すこと;
を含む。
【0060】
その後、ステップCの結果(DD)が、コントローラCTによって、以前に得られた積分値Dと比較され、所定の条件が満たされたか否か、たとえば、以下の条件のいずれかが満たされたか否かが判断される。
DD<D/4である場合には、「仮想ゼロ」レベルが低すぎる
DD>D/4である場合には、「仮想ゼロ」レベルが高すぎる
【0061】
その結果に応じて、その後、コントローラは、図3において破線で示される経路に沿って供給される制御信号を用いて、「仮想ゼロ」レベルを調整する。その後、DDがD/4に等しくなるまで、又はD/4から所定の範囲内に入るまで、バッファBFからのサンプルの出力を再開することによって、その動作全体が繰り返される。その結果、計算された周期Tは正確になる。
【0062】
[第3の動作モード]
第3の動作モードを図7bを参照しながら説明する。このモードでは、少なくとも3つのゼロクロッシングが検出される必要がある。第3の動作モードは、正弦波の連続する半サイクルに対してコントローラCTが測定tQ=tUQ−tLQを繰り返すように動作することができることを除いて、第1のモードに対応する。その測定値は平均される。この平均は、好ましくは、正の半サイクル及び負の半サイクルに対する結果を別々に平均し、それにより、正の半サイクル平均値と負の半サイクル平均値との平均から、最終的な時間測定値が形成されるようにして行われる。図7bの場合、3つの連続する測定値が存在し、平均パルスカウント
【0063】
【数9】
【0064】
(それは上記で示されるようにT/6を表す)は以下のように与えられる。
【0065】
【数10】
【0066】
このモードでは、「仮想ゼロ」レベルの誤差は自動的に補償される。なぜなら、誤差は正の半サイクル測定値及び負の半サイクル測定値に互いに逆の影響を及ぼすことになるからである。
【0067】
実際の用途では、第3のモードを用いる距離推定手順は、図8において示される過程に従う。制御モジュールCMによって生成される周期的な同期パルスをカウントすることによって、時間推定値が得られる。アキュームレータACCは、その過程の第1段階において(積分値Dを求めるために)動作するときに、リーディングアキュームレータLAと呼ばれ、第2段階において(その出力を積分しきい値と比較するために)動作するときに、トレーリングアキュームレータTAと呼ばれる。検出された各ゼロクロッシング事象tZCにおいて、パルス信号を用いて、リーディングアキュームレータLAがリセットされる。アキュームレータLAの出力を用いて、下側4分の1の終端tLQ及び上側4分の1の始点tUQに対応する積分しきい値が求められ、トレーリングアキュームレータTAの出力をモニタして、それらの積分値に達したときのそれぞれの時刻の間の同期パルスをカウントできるようにする。全観測区間内の解析される信号の各半サイクル中に得られる同期パルスのカウントが上記のように平均され、その後、式(5)に従って、未知の周期
【0068】
【数11】
【0069】
を計算するために用いられる。
【0070】
以下の実施例は、第3のモードが用いられるときの、自動車FMICWレーダの短距離性能の潜在的な精度改善を例示する。
【0071】
FMICWレーダのパラメータが、掃引TS中に、LO=2mの距離にある障害物に対するビート周波数FDのちょうど1周期を観測するように選択されているものと仮定する。TS中に生成される同期パルスの数がKS=2048に等しい場合には、未知の距離Lxは、以下のように、平均同期パルスカウントKPから推定することができる。
【0072】
【数12】
【0073】
…(6)
この例では、結果として、±70同期パルスの誤差は、±10cmの距離推定誤差と等価である。
【0074】
[第4の動作モード]
第4のモードの動作原理を、図9を参照しながら説明する。このモードは、解析される信号において少なくとも3つのゼロクロッシングが検出されるときに利用することができる。
【0075】
このモードの動作は、以下を除いて、上述の各モードの動作に類似である。
【0076】
第1の動作段階中に、これまでのように、コントローラは、観測窓TSW中に正弦波の半サイクル毎に積分値Dを得る。各積分値はDiに等しいものと仮定する。ただし、iはそれぞれの半サイクルを表す。第2の動作段階中に、各積分しきい値がDi/2に設定され、それにより、カウンタCNTが、積分された正弦波がそれぞれの積分値の半分に達する時点に対応する時刻ti間の区間を連続して測定する。
【0077】
推定される正弦波周期
【0078】
【数13】
【0079】
は、以下のように、連続する時刻ti+1とtiとの間の距離の2倍に等しい。
【0080】
【数14】
【0081】
…(7)
実際には、周期
【0082】
【数15】
【0083】
は連続する時刻ti間の全ての区間を平均することによって得られる。したがって、n+1個の半サイクルが存在する場合には、以下の式が成り立つ。
【0084】
【数16】
【0085】
…(8)
測定される各時刻tiの位置は、ゼロレベルオフセットとは無関係である。したがって、推定される「仮想ゼロ」レベルを補正するための手順は不要である。
【0086】
実際の用途では、このモードを用いる距離推定手順は、図10において示される過程に従う。制御モジュールCMによって生成される周期的な同期パルスをカウントすることによって、時間推定値が得られる。アキュームレータACCは、その過程の第1段階において(積分値Diを求めるために)動作するときに、リーディングアキュームレータLAと呼ばれ、第2段階において(その出力を積分しきい値Di/2と比較するために)動作するときに、トレーリングアキュームレータTAと呼ばれる。検出された各ゼロクロッシング事象tZCにおいて、パルス信号を用いて、リーディングアキュームレータLAがリセットされる。アキュームレータLAの出力を用いて、積分値Diの半分に対応する積分しきい値が求められる。トレーリングアキュームレータTAの出力をモニタして、それらの積分値に達したときのそれぞれの時刻の間の同期パルスをカウントできるようにする。全観測区間内で得られる同期パルスの連続するカウントが上記のように平均され、その後、式(8)に従って、未知の周期
【0087】
【数17】
【0088】
を計算するために用いられる。
【0089】
一例として、FMICWレーダのパラメータが、掃引TS中に、LO=2mの距離にある障害物に対するビート周波数FDのちょうど1周期を観測するように選択されているものと仮定する。TS中に送信されるパルスの数がKS=2048に等しい場合には、未知の距離Lxは、以下のように、平均パルスカウントKPから推定することができる。
【0090】
【数18】
【0091】
第4のモードは、「仮想ゼロ」レベルのシフトに影響されないので、測定される距離の正確な推定を成し遂げるのにオフセット補償は不要である。
【0092】
第4のモードは、正(又は負)の半サイクルの処理を省くように(したがって単に、連続する正(又は負)のピーク間の区間を測定するように)変更することができる。
【0093】
[第5の動作モード]
上記の各動作モードでは、サンプルはゼロクロッシング間で積分される。第5のモードによれば、サンプルは、ゼロクロッシングと、隣接する信号極値との間で積分される。ただし、極値は、先行又は後続の最大値又は最小値とすることができる。
【0094】
こうして、図11を参照すると、この例では、最大値Mが検出され、その後、ゼロクロッシングZが検出される。これらの事象間のサンプルが積分され、積分値Dが導出される。これから、第1及び第2の積分しきい値(いずれもD/2に等しい)が導出される。バッファBFからサンプルが出力され、該出力は、ゼロクロッシングZにおいて開始して、受信した系列と逆の順序で進み、サンプルの絶対値の積分が第1のしきい値D/2に等しくなるまで続く。これにより、第1の時点t1が決定される。その後、バッファBFからのサンプルが出力され、該出力は、ゼロクロッシングZにおいて開始して、順方向に(すなわち、受信した系列と同じ順序に)進み、サンプルの絶対値の積分が第2のしきい値D/2に等しくなるまで続く。これにより、第2の時点t2が決定される。その際、未知の正弦波周期は以下の式から導出される。
【0095】
【数19】
【0096】
第5のモードは、1つのゼロクロッシングだけを含み、正弦波の半サイクル未満しか占有しないサンプルからであっても周期を導出できることは理解されよう。
【0097】
[第6の動作モード]
第6のモードは第5のモードに類似であるが、サンプルが、単一のゼロクロッシングと、先行及び後続の双方の信号極値との間で積分されることが異なる。
【0098】
こうして、図12を参照すると、この例では、最大値M+が検出され、その後、ゼロクロッシングZが検出され、その後、最小値M-が検出される。
【0099】
第6のモードの第1の実施形態では、最大値M+とゼロクロッシングZとの間のサンプルが積分され、積分値D+が導出される。これから、第1の積分しきい値D+/2が導出される。バッファBFからサンプルが出力され、該出力は、ゼロクロッシングZにおいて開始して、受信した系列と逆の順序に進み、サンプルの絶対値の積分が第1のしきい値D+/2に等しくなるまで続く。これにより、第1の時点t1が決定される。ゼロクロッシングZと最小値M-との間のサンプルが積分され、積分値D-が導出される。これから、第2の積分しきい値D-/2が導出される。その後、バッファBFからのサンプルが出力され、該出力は、ゼロクロッシングZにおいて開始して、順方向に(すなわち、受信した系列と同じ順序に)進み、サンプルの絶対値の積分が第2のしきい値D-/2に等しくなるまで続く。これにより、第2の時点t2が決定される。
【0100】
第6のモードの、第2の(代替的な)実施形態では、第1の積分しきい値D+/2を用いて、ゼロクロッシングZから前方及び後方の双方に積分することによって、値t1+及びt2+が求められる。また、第2の積分しきい値D-/2を用いて、ゼロクロッシングZから前方及び後方の双方に積分することによって、値t1-及びt2-が求められる。2つの値t1+及びt1-並びに2つの値t2+及びt2-をそれぞれ適切に合成する(たとえば、平均する)ことによって、最終的な値t1及びt2が得られる。
【0101】
その後、未知の正弦波周期が以下の式から導出される。
【0102】
【数20】
【0103】
第5及び第6のモードにおいてゼロクロッシング及び極値を検出するための好ましい技法を図13を参照しながら説明する。これらの技法は、バッファBFに格納されているサンプルを調べることによってコントローラCTによって実行することができる。コントローラCTは、バッファBFから、図3において示されるようにサンプル値を直に受信することができる。その技法を実行するために、コントローラCTは、スライディングウインドウを使用する。スライディングウインドウは所定数の連続サンプルからなる群に対して動作し、その後、1サンプルだけ繰返しシフトされ、その動作が繰り返される。
【0104】
図13aを参照すると、これは、ゼロクロッシングZの近くのスライディングウインドウWを概略的に示す。ゼロクロッシングを検出するために、コントローラCTは最初に、バッファBFの先頭にサンプルウインドウを配置し、その後、
(i)(N+−N-)の絶対値である第1の値C1を導出し(ただし、N+は正のサンプル値の数であり、N-は負のサンプル値の数である)、そして、
(ii)(N++N-)に等しい第2の値C2を導出する。
【0105】
C1が第1の所定の数(たとえば1)以下であり、且つC2が第2の所定の数(たとえば2)以上である場合には、コントローラCTは、そのウインドウの中央にゼロクロッシングが存在するものと判断する。C1条件は、負のサンプルの数が正のサンプル値の数に実質的に等しいことを表す。C2条件は、所定数の0でない値が検出されたことを意味し、それゆえ、ゼロ値の長い系列から生じる誤った指示を避ける。
【0106】
その後、スライディングウインドウWは1サンプルだけずらされ、テストが繰り返される。これは、ウインドウがバッファの最後に達するまで続けられる。以下に示されるように、その構成によって、ちょうど1つのゼロクロッシングが検出された場合にのみ、第5の動作モードが用いられるようにすることができる。
【0107】
極値を検出するために、以下の式を用いて、サンプル値がコントローラCTによって変換される。
【0108】
【数21】
【0109】
ただし、Sはサンプル値であり、Vは変換されたサンプル値である。したがって、正弦波の最大値又は最小値のいずれかの場所を求めることは、変換されたデータの最大値を検出することと等価である。
【0110】
したがって、極値を検出するために、コントローラCTはmax(|S|)、すなわちバッファBF内の最も大きな絶対サンプル値を求め、その後、残りの変換されたサンプル値を求める。その後、コントローラCTは、図13bにおいて概略的に表されるように、変換された値Vの系列の先頭にサンプルウインドウを配置し、その後、
(i)(サンプルウインドウの左半分内(第1の半分内)の変換された値の和)−(サンプルウインドウの右半分内(第2の半分内)の変換された値の和)によって与えられる第1の値C3を導出する。(所望により、結果として生成された量をバッファ内の全ての値の和で割って、値C3を正規化することができる)
(ii)C2と同様に、(N++N-)に等しい第2の値C4を導出する。(ただし、N+は正のサンプル値Sの数であり、N-は負のサンプル値Sの数である)
(iii)そのウインドウ内に、0である変換された値V(又は小さい値、たとえば、量子化レベル間の差よりも小さい値)が存在するか否かを示す(又は代替的には、そのような値Vがウインドウの中央に、若しくは中央近くに存在することを示す)第3の値C5を導出する。
【0111】
C3が第3の所定の数以下であり、且つC4が第4の所定の数以上であり、且つC5がウインドウ内に0値(又は小さい値、たとえば、量子化レベル間の差よりも小さい値)が存在することを示す場合には、コントローラCTは、極値がウインドウの中央に存在するものと判断する。C3条件は、サンプル値がウインドウの中央に対して実質的に対称であることを表す。C4条件は、所定数の0でない値が検出されたことを意味し、それゆえ、ゼロ値の長い系列から生じる誤った指示を避ける。C5条件は、ウインドウの中央について対称であるが極値ではない、変換された信号の他の部分(たとえば、ゼロクロッシング)から生じる誤った指示を見分ける。
【0112】
その後、スライディングウインドウWは1サンプルだけずらされ、テストが繰り返される。これは、ウインドウがバッファの最後に達するまで続けられる。その動作は、最初の極値が見つけられるとただちに停止するように構成することができる。
【0113】
所望により、図13aの技法及び/又は図13bの技法を、2つ以上のゼロクロッシング及び/又は極値を利用する他の動作モードにおいて用いることもできる。
【0114】
上記の実施形態において用いられるバッファBFによって、必ずしも上記の動作の順序に対応するとは限らない種々の系列においてもサンプルを処理できるようになる。これはいくつかの利点を有する。たとえば、図7aは、値DDを得るための、第2のゼロクロッシングに続くサンプルの積分を示す。しかしながら、その代わりに、バッファ内でサンプルを適切に処理することによって、第1のゼロクロッシングに先行する周期tQにおいて生じるサンプルを積分することもできるであろう。
【0115】
サンプルは任意の所定の速度においてバッファから読み出すことができるので、所望によりサンプルはバッファに書き込まれる速度よりも速い速度で処理することができる。
【0116】
所望により、カウンタCNTは、制御モジュールCMからの同期パルスではなく、固定周波数のクロックパルスをカウントするように構成することができる。
【0117】
変更された実施形態は複数のバッファを用いて、連続する観測区間からのサンプルを並列的に処理できるようにする。
【0118】
所望により、物体距離は、単一の観測区間だけでなく、複数の観測区間において受信されるサンプルから計算することができる。
【0119】
上記の実施形態では、各積分しきい値は、正弦波において、そのしきい値が計算される積分値Dを導出するために用いられるのと同じ部分からのサンプルに適用される。この構成は、バッファBFのような遅延デバイスを使用しており、雑音の影響を低減するために好ましいが、不可欠ではない。代わりに、そのしきい値を、たとえば、次の半サイクルのサンプルに対して用いることもできる。
【0120】
[モードの選択]
自動車FMICWレーダシステムでは、上記の方法のような時間ベースのアルゴリズム法は、1つ又は複数の他の技法(距離が長くなるほど正確な距離推定値を与えることができる標準的なFFTベースのアルゴリズム等)とともに動作することができる。たとえば、全距離を走査して潜在的な障害物を記録するために、調査の目的で標準モードを用いることができ、一方、レーダの近くに位置する障害物を調べるために、上記のモードのうちの1つを用いる短距離(ズーミング)動作を使用することができる。標準モードを用いる代わりに、又はそれに加えて、システムは、参照により本明細書に援用される、2005年10月24日出願の欧州特許出願第05256585.0号の技法を用いることもできる。
【0121】
コントローラCTは、観測区間内で検出されるゼロクロッシングの数Nに基づいて動作モードを選択するように動作できることが好ましい。たとえば、コントローラは以下の表に基づいてモードを選択することができる。Xは所定の数(たとえば、10)であり、条件Kは、ゼロクロッシング前後の双方において必要な積分を実行するのに、最初のゼロクロッシングの前、又は最後のゼロクロッシングの後のいずれかの観測区間内に十分な時間があることを示す(図7a及び図11を参照されたい)。
【0122】
【表1】
【0123】
種々の変更が可能である。たとえば、上記の第2のモードは、正弦波のゼロレベルを求めるための手順を含むのに対して、第3及び第4のモードは、ゼロレベル誤差の影響を受けない結果を与える。それにもかかわらず、第3及び第4のモードは、第2のモードの手順に対応するレベル補正手順を用いるように変更することができる。信号s(t)からのdcオフセットの除去は、任意の既知の技法を用いて、アナログ又はデジタルのいずれかの領域において成し遂げることができるか、又はたとえば、第2のモードのオフセット補償技法に頼ることが望ましい場合には、省くことができる。
【0124】
本発明の好ましい実施形態のこれまでの説明は、例示し、説明するために提示されてきた。それは、本発明を包括的に述べること、又は本発明を開示される厳密な形態に限定することは意図していない。これまでの説明に鑑みて、数多くの改変、変更及び変形によって、当業者が、意図される特定の用途に適した種々の実施形態において本発明を利用できるようになることは明らかである。
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は正弦波の周期を決定するための方法に関する。本発明は、完全な連続波とは異なるような、離散的なサンプルの形において正弦波が存在する装置にも適用することができる。本発明は、限定はしないが、パルス伝送と組み合わせて周波数変調された搬送波を使用して、送信される信号と物体から反射される信号とを合成することによって導出されるビート周波数によって距離が求められるような、物体までの距離を求めるためのシステムに特に適用することができる。そのようなシステムは、たとえば、障害物を検出するマイクロ波センサを備えることができ、自動車レーダシステムとして用いることができる。
【背景技術】
【0002】
[従来技術の記載]
特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5及び特許文献6に記載されているシステムのような、自動車用警報及び衝突回避のために用いられる数多くのシステムのうちの1つが、周波数変調断続型連続波(frequency modulated interrupted continuous wave)(FMICW)レーダである。図1にブロック図の形で示される、そのようなシステムでは、発振器OSCによって生成される搬送波の周波数が、電圧制御発振器VCO内の周波数変調器FMを用いて、所定の周波数範囲ΔFにわたって、周期TSWで周期的に線形に掃引される。変調パターンが、制御モジュールCMの制御下で線形波形発生器LWGによって与えられる。周波数変調された連続波(FM−CW)信号は、結合器CPLによって電力増幅器PAに結合され、その信号は電力増幅器において増幅され、その後、送信−受信スイッチTRS(制御モジュールCMによってトリガされ、パルス繰返し周波数PRIにおいて動作する)によってゲーティングされる。送信−受信スイッチTRSは周期的に、短い区間ΔTTだけ、電力増幅器PAの出力をアンテナANに結合し、対象とする障害物OBに向けて送信されるパルス化されたRF送信信号TXが得られる。この区間(通常はゲーティング周期TPRI=1/PRIのうちのごくわずかな部分である)中、スイッチTRSは、レーダ受信機をアンテナから切り離しておく。物体距離Dに比例する時間τだけ遅延した反射信号RXが、同じアンテナによって検出され、送信−受信スイッチTRSを介して低雑音増幅器LNAに結合される。
【0003】
障害物から反射したパルス信号は、ダウンコンバータDRにおいて、結合器CPLから受信される送信信号のあるバージョンによって形成される基準信号と混合される。送信パルス信号及び受信パルス信号は互いに遅延しているので、送信パルス信号及び受信パルス信号の瞬時周波数は異なる。それゆえ、ダウンコンバータの出力において得られるビート信号は、周波数差FDを有し、周波数差FDは、障害物までの未知の距離Dに正比例する。
【0004】
ダウンコンバータDRの出力はシグナルプロセッサモジュールSPMに供給され、シグナルプロセッサモジュールSPMは、クロックCLKからのクロックパルスによって駆動される、アナログ/デジタルコンバータADC及びデジタルプロセッサDPを備える。コンバータADCは、ダウンコンバータDRからの信号s(t)をデジタル信号に変換し、このデジタル信号はデジタルプロセッサDPによって用いられ、ビート周波数が、それゆえ物体距離が、求められる。
【0005】
線形波形発生器LWGが与える変調パターンは、たとえば、図2aに示されるように、一定の傾きを有する周期的な三角波形に従う。この三角波形によって、三角波形の立ち上がり部分及び立ち下がり部分において送信信号及び受信信号から導出される一対の周波数シフト差から計算されるドップラ周波数から、動いている障害物の速度も推定できるようになるので、この三角波形を用いることは多くの場合に、他の線形変調方式(のこぎり波等)よりも好ましい。
【0006】
図2bは、図1のシステムの様々な部分において観測されるパルス信号を示す。スイッチTRSが動作することによって、反射信号は確実に所定の時間スロットΔTR(送信機から信号を送信するために用いられる時間スロットΔTTの外側にある)中にだけレーダ受信機に結合されるようになることが図から明らかである。そのようなゲーティング方式は、アンテナ結合から生じる強い信号(結果として、受信機増幅器及び/又はアナログ/デジタルコンバータADCの飽和等、受信機に望ましくない影響を与えることがある)を最小限に抑える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第03/044559号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/044560号パンフレット
【特許文献3】米国特許第6,646,587号明細書
【特許文献4】特開2000−275333号公報
【特許文献5】特開2004−333269号公報
【特許文献6】特開2004−144696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
FMICWレーダでは、物体への距離が短い場合には正確な結果を得ることが比較的難しい。距離が短いと、相対的に長い周期TD=1/FDを有するビート信号が生成される。その距離が十分に短い場合には、その周期は、周波数掃引の持続時間TSWより長い。そのような特定の事例が図2cにおいて提示される。これは、従来技術のシステムの場合のように、信号の包絡線(それゆえ周波数FD)を持続時間TSWの一度の周波数掃引中に観測されるパルスの受信列から推定する場合には特に、ビート周波数を推定するのを難しくする。
【0009】
FMICWレーダの短距離性能の別の制限が、スイッチTRSによって実行される上記のゲーティング方式から生じる。図2bに示されるように、送信パルスの持続時間ΔTTよりも短い時間遅延τに対しては、ダウンコンバータDRに供給されるパルスの持続時間ΔTDR(すなわちエネルギー)は低減される。そのように短くなったパルスの形状は、たとえば、増幅器LNA及びダウンコンバータDRの雑音及び帯域制限に起因して歪む可能性が高くなる。結果として、コンバータADCにおいて、クロックCLKによって支配される速度で実行されるサンプリング過程は、パルスの振幅を正確に求められないことがある。これにより、デジタルプロセッサDPにおいて実行される計算からビート周波数を推定する際に誤差が生じることがあり、それゆえ、障害物距離に関して間違った指示がなされることがある。
【0010】
物体までの距離が短いことに関連するさらに別の問題は以下の例から明らかにすることができる。
【0011】
自動車用FMICWレーダが以下のパラメータを有するものと仮定する。
‐線形周波数掃引の持続時間TSW=4ms
‐掃引中の周波数変化範囲ΔF=80MHz
‐パルス繰返し間隔TPRI=2μs
【0012】
図2aは、解析中の概念的な自動車用レーダの場合の時間と周波数との関係、すなわち周波数/時間特性を概略的に示す。
【0013】
この事例では、パルス繰返し間隔TPRIは2μsに等しいので、距離測定の曖昧でない範囲は300mに及ぶであろう。線形周波数掃引を用いるレーダでは、障害物までの距離Dは、2つの周波数間、すなわち送信される信号の周波数と、障害物から反射される信号の周波数との間の差FDから求められる。ただし、以下の式が成り立つ。
【0014】
【数1】
【0015】
…(1)
ただし、cは光速であり、SFTは、以下の式によって与えられる周波数/時間特性の傾きである。
【0016】
【数2】
【0017】
…(2)
それゆえ、検討中の事例では、距離D=3mにある障害物が、400Hzの周波数差(ビート周波数)FDを引き起こすであろう。
【0018】
ビート周波数FDの測定(それゆえ、距離測定)が、周波数掃引の持続時間TSWに等しい時間区間内で取得されたサンプルを用いて果たされるべきである場合には、スペクトル解析における周波数ステップ(「ビン」)の幅は1/TSW=250Hzに等しい。メインローブの3dB帯域幅及びサポートはそれぞれ、0.9/TSW及び2/TSWに等しい。
【0019】
当業者に既知であるように、この3dB帯域幅は、持続時間TSWの適当に整形された観測窓が受信信号に適用され、望ましくない周波数サイドローブが抑圧されるときに、増加する。たとえば、ハミング窓の場合、メインローブの3dB帯域幅は1.3TSWに等しいであろう。
【0020】
図4は、周波数及び距離測定の過程における観測時間が有限であることの影響を示す。図に示されるように、距離測定の相対的な誤差は、距離が短くなるほど大きくなり、著しい性能劣化に繋がる。
【0021】
上記のことから、結果として、上記の信号処理方式を利用するFMICWレーダシステムは、短い距離において性能劣化を受けることになるであろう。それゆえ、衝突回避又は/及び警報システムの用途において特に、従来技術による技法によって提供される効率よりも高い効率で、特に短い距離においてFMICWレーダの性能を改善するための新規の信号処理方法及び装置を開発することが望ましいであろう。
【0022】
振幅A、周期T及び初期位相θが未知である正弦波の短いセグメントから情報を抽出するのに適している2つの時間領域周期/周波数推定器が既知である。解析中のセグメントの持続時間は、正弦波の単一の周期程度に短いか、さらに短くてもよい。2つの推定器は、ゼロクロッシング推定器と、勾配/振幅推定器とである。これら2つの時間領域推定器の原理がそれぞれ図5a及び図5bにおいて示される。
【0023】
ゼロクロッシング推定器では、信号s(t)=A・sin(2πt/T+θ)が、明示的に、又は暗黙のうちに、2値表現b(t)=sign[s(t)]に変換され、その正弦波のレベルが連続して0を横切る時刻t1及びt2が求められるようにする。未知の周期
【0024】
【数3】
【0025】
は以下の式から推定される。
【0026】
【数4】
【0027】
…(3)
勾配−振幅推定器では、時刻t1及びt2が再び求められる。これらの2つの各時刻における正弦波の上り勾配及び下り勾配S+及びS-も求められる。未知の周期Tは以下の式から推定される。
【0028】
【数5】
【0029】
…(4)
ただし、振幅Aは、max|s(t)|又は|s[(t2−t1)/2]|として推定され、勾配|S|は勾配|S+|及び|S-|の平均値である。
【0030】
しかしながら、これら2つの従来の各時間領域推定器よりも効率的であり、且つ正確であり、好ましくはFMICWレーダに適している技法を有することが望ましいであろう。また、正弦波のサンプルを用いて正弦波周期を測定し、上記のように、サンプルが短くされる場合であっても良好に機能する技法を提供することも望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0031】
[発明の要約]
本発明の複数の態様が、添付の特許請求の範囲に記載される。
【0032】
本発明は、周波数掃引された信号から導出されるパルスを送信し、周波数掃引された信号と、物体からのその反射信号とを合成した信号のビート周波数を求めることによって動作する、たとえば、物体測距システムにおいて用いることができる方法又は装置として具現されることが好ましい。近い物体の距離を求めるために、ビート周波数信号のサンプルを積分して、正弦波の部分サイクル(たとえば、半サイクル)の積分を表す値を求め、その積分値に基づいて、正弦波がそのサイクル内に所定の段階に達しているはずの時点を表す積分しきい値を確立し、正弦波の積分がしきい値間で変化するのにかかった時間(すなわちビート周波数の周期を示す時間)を測定することによって、時間領域においてビート周波数が求められる。
【0033】
本発明の技法は、周波数の非常に正確な指標を与えるために、粗く量子化されつつも大きくオーバーサンプリングされたデータを処理するのに適している。
【0034】
解析される信号のセグメント内で検出されるゼロクロッシング又は他のレベルのクロッシングの数に基づいて適応的に異なる動作モードを選択できることが好ましい。
【0035】
ここで、一例として、本発明を具現する構成を添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】自動車衝突回避のために用いられる従来のFMICWレーダシステムのブロック図である。
【図2】図2aは、図1のFMICWレーダシステムにおいて用いられる線形変調パターンを示す図である。図2bは、図1のFMICWレーダシステムの様々な点において観測されるパルス信号を示す図である。図2cは、ビート信号の周波数を推定するために、ビート信号の包絡線を再構成する過程を示す図である。
【図3】自動車衝突回避のために用いられる、本発明によるFMICWレーダシステムのブロック図である。
【図4】観測時間が有限であるということが、周波数及び距離を求めることに及ぼす影響を示す図である。
【図5】図5aは、持続時間が周期未満であるセグメントから正弦波信号の周期を推定するために利用される従来技術のゼロクロッシング推定器の動作原理を示す図である。図5bは、持続時間が周期未満であるセグメントから正弦波信号の周期を推定するために利用される従来技術の勾配/振幅推定器の動作原理を示す図である。
【図6】図6aは、図3のシステムの第1のモードの動作原理を示す図である。図6bは、粗い量子化(符号+4ビットの大きさ)が、第1のモードを用いて正弦波の未知の周期を求めることに及ぼす影響を示す図である。図6cは、粗い量子化(符号+3ビットの大きさ)が、第1のモードを用いて正弦波の未知の周期を求めることに及ぼす影響を示す図である。
【図7】図7aは、図3のシステムの第2のモードの動作原理を示す図である。図7bは、図3のシステムの第3のモードの動作原理を示す図である。
【図8】第3の動作モードの理解を助ける図である。
【図9】図3のシステムの第4のモードの動作原理を示す図である。
【図10】第4の動作モードの理解を助ける図である。
【図11】図3のシステムの第5のモードの動作原理を示す図である。
【図12】図3のシステムの第6のモードの動作原理を示す図である。
【図13】図13aおよび図13bは、横軸の時間軸が任意の単位であり、+1及び−1単位の最大値及び最小値を有する正弦波信号のゼロクロッシング及び極値を検出するための技法を図式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[好適な実施形態の詳細な説明]
図2cを参照すると、ビート周波数が減少するのに応じて、(従来のシステムでは)相対的な測距精度が減少するが、正弦波周期当たりのサンプル数が増加することが理解されよう。本発明はこの現象を利用することができる。以下に記述される本発明の実施形態は、解析される信号の全ての入手可能なデータを利用し、積分推定器として、粗く量子化されたデータを処理することによって、(特にオーバーサンプリングも用いられるときに)正確な結果を与えることができる。
【0038】
その実施形態の原理を、以下に詳細に説明する。
【0039】
図3は、本発明によるFMICWレーダシステムの概略的なブロック図である。このシステムは、本発明の技法を用いるデジタルプロセッサDPを組み込むが、それ以外は図1を参照しながら説明されたように動作する。このプロセッサは、明確さのためにハードウエアの実施態様において例示されるが、代替的にソフトウエアとして実現することができる。
【0040】
図3では、信号s(t)のデジタル化されたサンプルがバッファBFに送られ、それらのサンプルはバッファから、バッファによって受信されたのと同じ速度でコントローラCTの制御下で読み出すことができる。本実施形態では、それらのサンプルは、dcオフセットを除去するために事前に処理されるので、それらのサンプルはまとめて、ゼロレベル平均値を有する正弦波の少なくとも一部のサンプルを表す。各観測区間中に受信されるサンプルは、2パス動作を用いて処理される。制御モジュールCMは、観測区間の開始/終了時に開始/終了サイクルパルスを周期的に生成する。これらのパルスは、コントローラCTの動作を観測区間と同期させるために、コントローラCTによって用いられる。
【0041】
第1のパスでは、ゼロクロッシング検出器ZCDが、サンプル値が始めてゼロレベルを横切る時点を検出し、それに応答して、アキュームレータACCをリセットする。その際、アキュームレータACCは、次のゼロクロッシングが検出されるまで、そのサンプル値を加算(積分)し始め、次のゼロクロッシングが検出された時点で、コントローラCTは、アキュームレータACCによって格納される累算された値を読み出す。したがって、この値Dは、それらのサンプルによって表されるような正弦波の半サイクルの積分を表す。十分なゼロクロッシングが検出される場合には、後続する半サイクルのための積分値Dを測定するために、この動作を繰り返すことができる。
【0042】
その後、動作の第2のパスが始まる。コントローラCTは第1及び第2の積分しきい値I1及びI2を計算する。これらのしきい値は、それぞれ半サイクル積分値Dの所定の割合である。コントローラはそれらのしきい値をそれぞれのコンパレータC1及びC2の第1の入力に適用し、コンパレータの第2の入力は、アキュームレータACCの出力を受信するように構成される。コンパレータ出力は、カウンタCNTの開始及び停止制御端子にそれぞれ接続され、カウンタは周期的な同期パルスをカウントするように構成される。それらのパルスは、制御モジュールCMによって生成され、パルス形式のRF伝送を生成するために用いられるタイムマークと一致する場合がある。
【0043】
コントローラCTはカウンタCNTにリセットパルスを加え、そして、バッファBFに、デジタル化された正弦波サンプルの出力を再開させる。その構成は、積分されたサンプルが第1の積分しきい値I1に達したときにコンパレータC1がカウンタを起動し、積分されたサンプルが第2の積分しきい値I2に達したときにコンパレータC2がカウンタを停止するようになされる。したがって、カウンタCNTは、積分されたサンプル値が第1のしきい値から第2のしきい値まで変化するのにかかる時間に比例する値(この値はコントローラCTに送られる)までカウントアップする。その後、以下に説明されるように、この値を用いて正弦波の周期を計算することができる。
【0044】
この実施形態は、種々のモードにおいて動作することができる。
【0045】
[第1の動作モード]
その実施形態の第1の動作モードを、図6を参照しながら説明する。解析される信号において、少なくとも2つのゼロクロッシングが検出されるものと仮定する。
【0046】
上記で説明されたように、その動作の第1の部分では、正弦波の半サイクルの積分を表す積分値Dが計算される(図6aを参照されたい)。その後、コントローラCTは、以下のように積分しきい値を計算する。
I1=D/4, I2=3D/4
したがって、カウンタCNTは、積分された値が値Dの4分の1に達する時刻tLQと、積分された値が値Dの4分の3に達する時刻tUDとの間の区間を表すカウントに達する。
【0047】
正弦波が(A・sinγ)と表されるものと仮定すると、以下の式から、正弦波がπ/3ラジアン及び2π/3ラジアンにそれぞれ達するときにこの区間が開始及び終了することを明らかにすることができる。
【0048】
【数6】
【0049】
したがって、未知の周期
【0050】
【数7】
【0051】
は以下の式から推定される。
【0052】
【数8】
【0053】
…(5)
その後、ビート周波数を物体距離に変換するための既知の技法を用いて、コントローラCTによって距離推定値Lxを導出し、出力することができる。
【0054】
図6b及び図6cにおいて示されるように、正弦波は粗く(たとえば、符号+4ビットの大きさ、又は符号+3ビットの大きさにそれぞれ)量子化されてもよいが、一方で、好ましい実施形態では大きくオーバーサンプリングされる。それゆえ、正弦波の下側及び上側それぞれの4分の1、そして未知の周期Tも求められており、誤差は無視することができる。後者の場合、正弦波の未知の周期Tは、1%以下のわずかな誤差で求めることができる。その技法は、従来技術の時間領域技法と比べて、ゼロクロッシング検出の誤差の影響を緩和する。なぜなら、ゼロクロッシングの領域内のサンプル値が小さく、それゆえ、積分される値にほとんど影響を及ぼさないためである。
【0055】
後に説明される他の動作モードもこれらの利点を共有する。
【0056】
第1の動作モードでは、(たとえば、あらゆるdcオフセットが除去されるのを確実にすることによって、又は図12を参照しながら後に説明する技法のような検出技法を用いることによって)正弦波のゼロレベルがわかっているものと仮定する。また、上記で示されたように、ゼロレベルを推定する際のあらゆる誤差の影響が緩和されるものとする。しかしながら、ゼロクロッシング検出器ZCDが仮定するゼロレベルに起こり得る誤差を補償するステップが実施される場合には、さらに正確な結果を得ることができる。後に説明される第2〜第4の動作モードは、そのような補償を成し遂げる。これらのモードを説明する際に、ゼロクロッシング検出器は最初に、必ずしも正弦波の本当のゼロレベルではない、「仮想ゼロ」レベルと呼ばれる仮のゼロレベルを用いるものと仮定する。
【0057】
[第2の動作モード]
第2の動作モードを図7aを参照しながら説明する。2つのゼロクロッシングだけが検出されているものと仮定される。
【0058】
図7aに示される手順では、正弦波信号の予想される対称性が利用される。その手順は、以下に説明されることを除いて、上記の第1のモードの手順に対応する。その手順は、正弦波の1つの半サイクルからのサンプルと、別の半サイクルからのさらに別のサンプルとを使用することを含み、それらの半サイクルのうちの一方は正であり、他方は負である。
【0059】
その動作は、
A.実際の正弦波のゼロレベルに対応しない場合がある「仮想ゼロ」レベルを有する仮の振幅しきい値を用いて、上記のように積分値Dを求めること;
B.サンプル積分の2つの所定の値間の区間(たとえば、上記のような時刻tLQとtUQとの間隔)を求めること;
C.第2のゼロクロッシングに応答してアキュームレータACCをリセットし、その後、ステップBにおいて測定された区間(tUQ−tLQ)に対して所定の関係を有する(たとえば、等しい)区間tQの後に、アキュームレータACCの出力を読み出すこと;
を含む。
【0060】
その後、ステップCの結果(DD)が、コントローラCTによって、以前に得られた積分値Dと比較され、所定の条件が満たされたか否か、たとえば、以下の条件のいずれかが満たされたか否かが判断される。
DD<D/4である場合には、「仮想ゼロ」レベルが低すぎる
DD>D/4である場合には、「仮想ゼロ」レベルが高すぎる
【0061】
その結果に応じて、その後、コントローラは、図3において破線で示される経路に沿って供給される制御信号を用いて、「仮想ゼロ」レベルを調整する。その後、DDがD/4に等しくなるまで、又はD/4から所定の範囲内に入るまで、バッファBFからのサンプルの出力を再開することによって、その動作全体が繰り返される。その結果、計算された周期Tは正確になる。
【0062】
[第3の動作モード]
第3の動作モードを図7bを参照しながら説明する。このモードでは、少なくとも3つのゼロクロッシングが検出される必要がある。第3の動作モードは、正弦波の連続する半サイクルに対してコントローラCTが測定tQ=tUQ−tLQを繰り返すように動作することができることを除いて、第1のモードに対応する。その測定値は平均される。この平均は、好ましくは、正の半サイクル及び負の半サイクルに対する結果を別々に平均し、それにより、正の半サイクル平均値と負の半サイクル平均値との平均から、最終的な時間測定値が形成されるようにして行われる。図7bの場合、3つの連続する測定値が存在し、平均パルスカウント
【0063】
【数9】
【0064】
(それは上記で示されるようにT/6を表す)は以下のように与えられる。
【0065】
【数10】
【0066】
このモードでは、「仮想ゼロ」レベルの誤差は自動的に補償される。なぜなら、誤差は正の半サイクル測定値及び負の半サイクル測定値に互いに逆の影響を及ぼすことになるからである。
【0067】
実際の用途では、第3のモードを用いる距離推定手順は、図8において示される過程に従う。制御モジュールCMによって生成される周期的な同期パルスをカウントすることによって、時間推定値が得られる。アキュームレータACCは、その過程の第1段階において(積分値Dを求めるために)動作するときに、リーディングアキュームレータLAと呼ばれ、第2段階において(その出力を積分しきい値と比較するために)動作するときに、トレーリングアキュームレータTAと呼ばれる。検出された各ゼロクロッシング事象tZCにおいて、パルス信号を用いて、リーディングアキュームレータLAがリセットされる。アキュームレータLAの出力を用いて、下側4分の1の終端tLQ及び上側4分の1の始点tUQに対応する積分しきい値が求められ、トレーリングアキュームレータTAの出力をモニタして、それらの積分値に達したときのそれぞれの時刻の間の同期パルスをカウントできるようにする。全観測区間内の解析される信号の各半サイクル中に得られる同期パルスのカウントが上記のように平均され、その後、式(5)に従って、未知の周期
【0068】
【数11】
【0069】
を計算するために用いられる。
【0070】
以下の実施例は、第3のモードが用いられるときの、自動車FMICWレーダの短距離性能の潜在的な精度改善を例示する。
【0071】
FMICWレーダのパラメータが、掃引TS中に、LO=2mの距離にある障害物に対するビート周波数FDのちょうど1周期を観測するように選択されているものと仮定する。TS中に生成される同期パルスの数がKS=2048に等しい場合には、未知の距離Lxは、以下のように、平均同期パルスカウントKPから推定することができる。
【0072】
【数12】
【0073】
…(6)
この例では、結果として、±70同期パルスの誤差は、±10cmの距離推定誤差と等価である。
【0074】
[第4の動作モード]
第4のモードの動作原理を、図9を参照しながら説明する。このモードは、解析される信号において少なくとも3つのゼロクロッシングが検出されるときに利用することができる。
【0075】
このモードの動作は、以下を除いて、上述の各モードの動作に類似である。
【0076】
第1の動作段階中に、これまでのように、コントローラは、観測窓TSW中に正弦波の半サイクル毎に積分値Dを得る。各積分値はDiに等しいものと仮定する。ただし、iはそれぞれの半サイクルを表す。第2の動作段階中に、各積分しきい値がDi/2に設定され、それにより、カウンタCNTが、積分された正弦波がそれぞれの積分値の半分に達する時点に対応する時刻ti間の区間を連続して測定する。
【0077】
推定される正弦波周期
【0078】
【数13】
【0079】
は、以下のように、連続する時刻ti+1とtiとの間の距離の2倍に等しい。
【0080】
【数14】
【0081】
…(7)
実際には、周期
【0082】
【数15】
【0083】
は連続する時刻ti間の全ての区間を平均することによって得られる。したがって、n+1個の半サイクルが存在する場合には、以下の式が成り立つ。
【0084】
【数16】
【0085】
…(8)
測定される各時刻tiの位置は、ゼロレベルオフセットとは無関係である。したがって、推定される「仮想ゼロ」レベルを補正するための手順は不要である。
【0086】
実際の用途では、このモードを用いる距離推定手順は、図10において示される過程に従う。制御モジュールCMによって生成される周期的な同期パルスをカウントすることによって、時間推定値が得られる。アキュームレータACCは、その過程の第1段階において(積分値Diを求めるために)動作するときに、リーディングアキュームレータLAと呼ばれ、第2段階において(その出力を積分しきい値Di/2と比較するために)動作するときに、トレーリングアキュームレータTAと呼ばれる。検出された各ゼロクロッシング事象tZCにおいて、パルス信号を用いて、リーディングアキュームレータLAがリセットされる。アキュームレータLAの出力を用いて、積分値Diの半分に対応する積分しきい値が求められる。トレーリングアキュームレータTAの出力をモニタして、それらの積分値に達したときのそれぞれの時刻の間の同期パルスをカウントできるようにする。全観測区間内で得られる同期パルスの連続するカウントが上記のように平均され、その後、式(8)に従って、未知の周期
【0087】
【数17】
【0088】
を計算するために用いられる。
【0089】
一例として、FMICWレーダのパラメータが、掃引TS中に、LO=2mの距離にある障害物に対するビート周波数FDのちょうど1周期を観測するように選択されているものと仮定する。TS中に送信されるパルスの数がKS=2048に等しい場合には、未知の距離Lxは、以下のように、平均パルスカウントKPから推定することができる。
【0090】
【数18】
【0091】
第4のモードは、「仮想ゼロ」レベルのシフトに影響されないので、測定される距離の正確な推定を成し遂げるのにオフセット補償は不要である。
【0092】
第4のモードは、正(又は負)の半サイクルの処理を省くように(したがって単に、連続する正(又は負)のピーク間の区間を測定するように)変更することができる。
【0093】
[第5の動作モード]
上記の各動作モードでは、サンプルはゼロクロッシング間で積分される。第5のモードによれば、サンプルは、ゼロクロッシングと、隣接する信号極値との間で積分される。ただし、極値は、先行又は後続の最大値又は最小値とすることができる。
【0094】
こうして、図11を参照すると、この例では、最大値Mが検出され、その後、ゼロクロッシングZが検出される。これらの事象間のサンプルが積分され、積分値Dが導出される。これから、第1及び第2の積分しきい値(いずれもD/2に等しい)が導出される。バッファBFからサンプルが出力され、該出力は、ゼロクロッシングZにおいて開始して、受信した系列と逆の順序で進み、サンプルの絶対値の積分が第1のしきい値D/2に等しくなるまで続く。これにより、第1の時点t1が決定される。その後、バッファBFからのサンプルが出力され、該出力は、ゼロクロッシングZにおいて開始して、順方向に(すなわち、受信した系列と同じ順序に)進み、サンプルの絶対値の積分が第2のしきい値D/2に等しくなるまで続く。これにより、第2の時点t2が決定される。その際、未知の正弦波周期は以下の式から導出される。
【0095】
【数19】
【0096】
第5のモードは、1つのゼロクロッシングだけを含み、正弦波の半サイクル未満しか占有しないサンプルからであっても周期を導出できることは理解されよう。
【0097】
[第6の動作モード]
第6のモードは第5のモードに類似であるが、サンプルが、単一のゼロクロッシングと、先行及び後続の双方の信号極値との間で積分されることが異なる。
【0098】
こうして、図12を参照すると、この例では、最大値M+が検出され、その後、ゼロクロッシングZが検出され、その後、最小値M-が検出される。
【0099】
第6のモードの第1の実施形態では、最大値M+とゼロクロッシングZとの間のサンプルが積分され、積分値D+が導出される。これから、第1の積分しきい値D+/2が導出される。バッファBFからサンプルが出力され、該出力は、ゼロクロッシングZにおいて開始して、受信した系列と逆の順序に進み、サンプルの絶対値の積分が第1のしきい値D+/2に等しくなるまで続く。これにより、第1の時点t1が決定される。ゼロクロッシングZと最小値M-との間のサンプルが積分され、積分値D-が導出される。これから、第2の積分しきい値D-/2が導出される。その後、バッファBFからのサンプルが出力され、該出力は、ゼロクロッシングZにおいて開始して、順方向に(すなわち、受信した系列と同じ順序に)進み、サンプルの絶対値の積分が第2のしきい値D-/2に等しくなるまで続く。これにより、第2の時点t2が決定される。
【0100】
第6のモードの、第2の(代替的な)実施形態では、第1の積分しきい値D+/2を用いて、ゼロクロッシングZから前方及び後方の双方に積分することによって、値t1+及びt2+が求められる。また、第2の積分しきい値D-/2を用いて、ゼロクロッシングZから前方及び後方の双方に積分することによって、値t1-及びt2-が求められる。2つの値t1+及びt1-並びに2つの値t2+及びt2-をそれぞれ適切に合成する(たとえば、平均する)ことによって、最終的な値t1及びt2が得られる。
【0101】
その後、未知の正弦波周期が以下の式から導出される。
【0102】
【数20】
【0103】
第5及び第6のモードにおいてゼロクロッシング及び極値を検出するための好ましい技法を図13を参照しながら説明する。これらの技法は、バッファBFに格納されているサンプルを調べることによってコントローラCTによって実行することができる。コントローラCTは、バッファBFから、図3において示されるようにサンプル値を直に受信することができる。その技法を実行するために、コントローラCTは、スライディングウインドウを使用する。スライディングウインドウは所定数の連続サンプルからなる群に対して動作し、その後、1サンプルだけ繰返しシフトされ、その動作が繰り返される。
【0104】
図13aを参照すると、これは、ゼロクロッシングZの近くのスライディングウインドウWを概略的に示す。ゼロクロッシングを検出するために、コントローラCTは最初に、バッファBFの先頭にサンプルウインドウを配置し、その後、
(i)(N+−N-)の絶対値である第1の値C1を導出し(ただし、N+は正のサンプル値の数であり、N-は負のサンプル値の数である)、そして、
(ii)(N++N-)に等しい第2の値C2を導出する。
【0105】
C1が第1の所定の数(たとえば1)以下であり、且つC2が第2の所定の数(たとえば2)以上である場合には、コントローラCTは、そのウインドウの中央にゼロクロッシングが存在するものと判断する。C1条件は、負のサンプルの数が正のサンプル値の数に実質的に等しいことを表す。C2条件は、所定数の0でない値が検出されたことを意味し、それゆえ、ゼロ値の長い系列から生じる誤った指示を避ける。
【0106】
その後、スライディングウインドウWは1サンプルだけずらされ、テストが繰り返される。これは、ウインドウがバッファの最後に達するまで続けられる。以下に示されるように、その構成によって、ちょうど1つのゼロクロッシングが検出された場合にのみ、第5の動作モードが用いられるようにすることができる。
【0107】
極値を検出するために、以下の式を用いて、サンプル値がコントローラCTによって変換される。
【0108】
【数21】
【0109】
ただし、Sはサンプル値であり、Vは変換されたサンプル値である。したがって、正弦波の最大値又は最小値のいずれかの場所を求めることは、変換されたデータの最大値を検出することと等価である。
【0110】
したがって、極値を検出するために、コントローラCTはmax(|S|)、すなわちバッファBF内の最も大きな絶対サンプル値を求め、その後、残りの変換されたサンプル値を求める。その後、コントローラCTは、図13bにおいて概略的に表されるように、変換された値Vの系列の先頭にサンプルウインドウを配置し、その後、
(i)(サンプルウインドウの左半分内(第1の半分内)の変換された値の和)−(サンプルウインドウの右半分内(第2の半分内)の変換された値の和)によって与えられる第1の値C3を導出する。(所望により、結果として生成された量をバッファ内の全ての値の和で割って、値C3を正規化することができる)
(ii)C2と同様に、(N++N-)に等しい第2の値C4を導出する。(ただし、N+は正のサンプル値Sの数であり、N-は負のサンプル値Sの数である)
(iii)そのウインドウ内に、0である変換された値V(又は小さい値、たとえば、量子化レベル間の差よりも小さい値)が存在するか否かを示す(又は代替的には、そのような値Vがウインドウの中央に、若しくは中央近くに存在することを示す)第3の値C5を導出する。
【0111】
C3が第3の所定の数以下であり、且つC4が第4の所定の数以上であり、且つC5がウインドウ内に0値(又は小さい値、たとえば、量子化レベル間の差よりも小さい値)が存在することを示す場合には、コントローラCTは、極値がウインドウの中央に存在するものと判断する。C3条件は、サンプル値がウインドウの中央に対して実質的に対称であることを表す。C4条件は、所定数の0でない値が検出されたことを意味し、それゆえ、ゼロ値の長い系列から生じる誤った指示を避ける。C5条件は、ウインドウの中央について対称であるが極値ではない、変換された信号の他の部分(たとえば、ゼロクロッシング)から生じる誤った指示を見分ける。
【0112】
その後、スライディングウインドウWは1サンプルだけずらされ、テストが繰り返される。これは、ウインドウがバッファの最後に達するまで続けられる。その動作は、最初の極値が見つけられるとただちに停止するように構成することができる。
【0113】
所望により、図13aの技法及び/又は図13bの技法を、2つ以上のゼロクロッシング及び/又は極値を利用する他の動作モードにおいて用いることもできる。
【0114】
上記の実施形態において用いられるバッファBFによって、必ずしも上記の動作の順序に対応するとは限らない種々の系列においてもサンプルを処理できるようになる。これはいくつかの利点を有する。たとえば、図7aは、値DDを得るための、第2のゼロクロッシングに続くサンプルの積分を示す。しかしながら、その代わりに、バッファ内でサンプルを適切に処理することによって、第1のゼロクロッシングに先行する周期tQにおいて生じるサンプルを積分することもできるであろう。
【0115】
サンプルは任意の所定の速度においてバッファから読み出すことができるので、所望によりサンプルはバッファに書き込まれる速度よりも速い速度で処理することができる。
【0116】
所望により、カウンタCNTは、制御モジュールCMからの同期パルスではなく、固定周波数のクロックパルスをカウントするように構成することができる。
【0117】
変更された実施形態は複数のバッファを用いて、連続する観測区間からのサンプルを並列的に処理できるようにする。
【0118】
所望により、物体距離は、単一の観測区間だけでなく、複数の観測区間において受信されるサンプルから計算することができる。
【0119】
上記の実施形態では、各積分しきい値は、正弦波において、そのしきい値が計算される積分値Dを導出するために用いられるのと同じ部分からのサンプルに適用される。この構成は、バッファBFのような遅延デバイスを使用しており、雑音の影響を低減するために好ましいが、不可欠ではない。代わりに、そのしきい値を、たとえば、次の半サイクルのサンプルに対して用いることもできる。
【0120】
[モードの選択]
自動車FMICWレーダシステムでは、上記の方法のような時間ベースのアルゴリズム法は、1つ又は複数の他の技法(距離が長くなるほど正確な距離推定値を与えることができる標準的なFFTベースのアルゴリズム等)とともに動作することができる。たとえば、全距離を走査して潜在的な障害物を記録するために、調査の目的で標準モードを用いることができ、一方、レーダの近くに位置する障害物を調べるために、上記のモードのうちの1つを用いる短距離(ズーミング)動作を使用することができる。標準モードを用いる代わりに、又はそれに加えて、システムは、参照により本明細書に援用される、2005年10月24日出願の欧州特許出願第05256585.0号の技法を用いることもできる。
【0121】
コントローラCTは、観測区間内で検出されるゼロクロッシングの数Nに基づいて動作モードを選択するように動作できることが好ましい。たとえば、コントローラは以下の表に基づいてモードを選択することができる。Xは所定の数(たとえば、10)であり、条件Kは、ゼロクロッシング前後の双方において必要な積分を実行するのに、最初のゼロクロッシングの前、又は最後のゼロクロッシングの後のいずれかの観測区間内に十分な時間があることを示す(図7a及び図11を参照されたい)。
【0122】
【表1】
【0123】
種々の変更が可能である。たとえば、上記の第2のモードは、正弦波のゼロレベルを求めるための手順を含むのに対して、第3及び第4のモードは、ゼロレベル誤差の影響を受けない結果を与える。それにもかかわらず、第3及び第4のモードは、第2のモードの手順に対応するレベル補正手順を用いるように変更することができる。信号s(t)からのdcオフセットの除去は、任意の既知の技法を用いて、アナログ又はデジタルのいずれかの領域において成し遂げることができるか、又はたとえば、第2のモードのオフセット補償技法に頼ることが望ましい場合には、省くことができる。
【0124】
本発明の好ましい実施形態のこれまでの説明は、例示し、説明するために提示されてきた。それは、本発明を包括的に述べること、又は本発明を開示される厳密な形態に限定することは意図していない。これまでの説明に鑑みて、数多くの改変、変更及び変形によって、当業者が、意図される特定の用途に適した種々の実施形態において本発明を利用できるようになることは明らかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正弦波のサンプルから前記正弦波の周期を求める方法であって、
少なくとも第1の積分しきい値及び第2の積分しきい値を計算することであって、
前記しきい値はそれぞれ、
前記正弦波が第1の振幅しきい値レベル及び第2の振幅しきい値レベルをとるそれぞれの時刻の間の区間中の前記サンプルを積分して積分値を求め、
前記積分値の所定の割合を計算することによって計算される
計算すること、及び
前記サンプルの前記積分が前記第1の積分しきい値レベルから前記第2の積分しきい値レベルに変化するのに要した時間であって、前記時間は前記正弦波周期に比例する、時間を求めること
を含む、方法。
【請求項2】
前記積分値を得るために用いられる前記第1の振幅しきい値レベル及び前記第2の振幅しきい値レベルのうちの少なくとも一方は、前記正弦波のゼロレベルに実質的に等しい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記積分値を得るために用いられる前記第1の振幅しきい値レベル及び前記第2の振幅しきい値レベルの双方は、前記正弦波のゼロレベルに実質的に等しい、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記積分値を得るために用いられる前記第1の振幅しきい値レベル及び前記第2の振幅しきい値レベルのうちの他方は、前記正弦波の極値である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の積分しきい値レベル及び前記第2の積分しきい値レベルは、同じ積分値に対してそれぞれ所定の割合になるように計算される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の積分しきい値レベル及び前記第2の積分しきい値レベルはそれぞれ、前記同じ積分値の4分の1及び4分の3である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記サンプルの前記積分が前記第1の積分しきい値レベルから前記第2の積分しきい値レベルに変化するのに要した時間を求めるステップは、前記正弦波の後続する半サイクルに対して繰り返され、その結果を平均して前記周期が求められる、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
正の半サイクル及び負の半サイクルに対する結果が別々に平均され、2つの平均値を平均して前記周期が求められる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、前記正弦波の1つの正の半サイクル及び1つの負の半サイクルのサンプルを用いて、前記正弦波の前記ゼロレベルに対応するように前記各振幅しきい値レベルを計算するステップを含み、
前記振幅しきい値レベルは、前記半サイクルのうちの一方において前記サンプルを積分することによって得られる第1の値(D)が、前記半サイクルの他方において前記サンプルを積分することによって得られる第2の値(DD)に対して所定の関係を有するという条件を満たすように計算され、
前記第2の値(DD)は、前記一方の半サイクル中の前記サンプルの前記積分が前記第1の値(D)に所定の態様で関連付けられる第1の所定の値(D/4)から第2の所定の値(3D/4)まで変化するのに要する持続時間(tUQ−tLQ)に対して所定の関係を有する持続時間(tQ)にわたって積分することによって得られる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の積分しきい値レベル及び前記第2の積分しきい値レベルはそれぞれの積分値の半分に等しく、
各前記積分値は、前記正弦波のそれぞれの半サイクル中にサンプルを積分することによって得られる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記時間を求めるステップは、前記区間内のサンプルの前記積分が前記第1の積分しきい値レベルから前記第2の積分しきい値レベルまで変化するのに要する時間を求めることを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
物体までの距離を求める方法であって、
周波数変調された主信号を生成すること、
前記主信号から、基準信号と、異なる複数の周波数における離散的なパルスを含む質問信号とを導出すること、
前記質問信号を送信すること、
物体からの前記質問信号の反射を含む受信信号を得ること、
前記基準信号と前記受信信号とを合成して、前記物体の前記距離を示すビート周波数を有する正弦波のサンプルを導出すること、及び
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法を用いて前記正弦波の周期を求めること
を含む、方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法に従って動作するように構成される装置。
【請求項14】
前記装置は、前記正弦波が振幅しきい値を横切る回数に応じて異なる動作モードを選択する手段を備え、
前記モードはそれぞれ前記正弦波周期を計算するために異なるアルゴリズムを用いる、請求項13に記載の装置。
【請求項1】
正弦波のサンプルから前記正弦波の周期を求める方法であって、
少なくとも第1の積分しきい値及び第2の積分しきい値を計算することであって、
前記しきい値はそれぞれ、
前記正弦波が第1の振幅しきい値レベル及び第2の振幅しきい値レベルをとるそれぞれの時刻の間の区間中の前記サンプルを積分して積分値を求め、
前記積分値の所定の割合を計算することによって計算される
計算すること、及び
前記サンプルの前記積分が前記第1の積分しきい値レベルから前記第2の積分しきい値レベルに変化するのに要した時間であって、前記時間は前記正弦波周期に比例する、時間を求めること
を含む、方法。
【請求項2】
前記積分値を得るために用いられる前記第1の振幅しきい値レベル及び前記第2の振幅しきい値レベルのうちの少なくとも一方は、前記正弦波のゼロレベルに実質的に等しい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記積分値を得るために用いられる前記第1の振幅しきい値レベル及び前記第2の振幅しきい値レベルの双方は、前記正弦波のゼロレベルに実質的に等しい、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記積分値を得るために用いられる前記第1の振幅しきい値レベル及び前記第2の振幅しきい値レベルのうちの他方は、前記正弦波の極値である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の積分しきい値レベル及び前記第2の積分しきい値レベルは、同じ積分値に対してそれぞれ所定の割合になるように計算される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の積分しきい値レベル及び前記第2の積分しきい値レベルはそれぞれ、前記同じ積分値の4分の1及び4分の3である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記サンプルの前記積分が前記第1の積分しきい値レベルから前記第2の積分しきい値レベルに変化するのに要した時間を求めるステップは、前記正弦波の後続する半サイクルに対して繰り返され、その結果を平均して前記周期が求められる、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
正の半サイクル及び負の半サイクルに対する結果が別々に平均され、2つの平均値を平均して前記周期が求められる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、前記正弦波の1つの正の半サイクル及び1つの負の半サイクルのサンプルを用いて、前記正弦波の前記ゼロレベルに対応するように前記各振幅しきい値レベルを計算するステップを含み、
前記振幅しきい値レベルは、前記半サイクルのうちの一方において前記サンプルを積分することによって得られる第1の値(D)が、前記半サイクルの他方において前記サンプルを積分することによって得られる第2の値(DD)に対して所定の関係を有するという条件を満たすように計算され、
前記第2の値(DD)は、前記一方の半サイクル中の前記サンプルの前記積分が前記第1の値(D)に所定の態様で関連付けられる第1の所定の値(D/4)から第2の所定の値(3D/4)まで変化するのに要する持続時間(tUQ−tLQ)に対して所定の関係を有する持続時間(tQ)にわたって積分することによって得られる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の積分しきい値レベル及び前記第2の積分しきい値レベルはそれぞれの積分値の半分に等しく、
各前記積分値は、前記正弦波のそれぞれの半サイクル中にサンプルを積分することによって得られる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記時間を求めるステップは、前記区間内のサンプルの前記積分が前記第1の積分しきい値レベルから前記第2の積分しきい値レベルまで変化するのに要する時間を求めることを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
物体までの距離を求める方法であって、
周波数変調された主信号を生成すること、
前記主信号から、基準信号と、異なる複数の周波数における離散的なパルスを含む質問信号とを導出すること、
前記質問信号を送信すること、
物体からの前記質問信号の反射を含む受信信号を得ること、
前記基準信号と前記受信信号とを合成して、前記物体の前記距離を示すビート周波数を有する正弦波のサンプルを導出すること、及び
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法を用いて前記正弦波の周期を求めること
を含む、方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法に従って動作するように構成される装置。
【請求項14】
前記装置は、前記正弦波が振幅しきい値を横切る回数に応じて異なる動作モードを選択する手段を備え、
前記モードはそれぞれ前記正弦波周期を計算するために異なるアルゴリズムを用いる、請求項13に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−529450(P2010−529450A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510875(P2010−510875)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001932
【国際公開番号】WO2008/149100
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(501253316)ミツビシ・エレクトリック・アールアンドディー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ (77)
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC R&D CENTRE EUROPE B.V.
【住所又は居所原語表記】20 Frederick Sanger Road, The Surrey Research Park, Guildford, Surrey GU2 5YD, Great Britain
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001932
【国際公開番号】WO2008/149100
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(501253316)ミツビシ・エレクトリック・アールアンドディー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ (77)
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC R&D CENTRE EUROPE B.V.
【住所又は居所原語表記】20 Frederick Sanger Road, The Surrey Research Park, Guildford, Surrey GU2 5YD, Great Britain
【Fターム(参考)】
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