正荷電ペプチドと複合化したPNA分子を細胞質および/または核への光化学的内在化(PCI)により導入する方法。
【課題】正に荷電したペプチドと結合したペプチド核酸(PNA)分子を細胞の細胞質、好ましくは核内に導入する方法に関する。
【解決手段】本発明は、細胞にPNA分子および光増感剤を接触させること、および該細胞
に該光増感剤を励起するのに有効な波長を有する光を照射することを含むものであって、PNA分子を細胞、好ましくは細胞の細胞質および/または核に導入するための方法に関する。さらに複合化したPNA分子を含む組成物、上記方法を用いた細胞、またはアンチセ
ンスまたはアンチジーン戦略など、遺伝子活動の評価または改変に向けた上記方法の使用、あるいはダウンレギュレーションされた遺伝子産物の効果を評価するためのハイスループットシステムなど、下流での応用に向けた上記方法の使用に関する。
【解決手段】本発明は、細胞にPNA分子および光増感剤を接触させること、および該細胞
に該光増感剤を励起するのに有効な波長を有する光を照射することを含むものであって、PNA分子を細胞、好ましくは細胞の細胞質および/または核に導入するための方法に関する。さらに複合化したPNA分子を含む組成物、上記方法を用いた細胞、またはアンチセ
ンスまたはアンチジーン戦略など、遺伝子活動の評価または改変に向けた上記方法の使用、あるいはダウンレギュレーションされた遺伝子産物の効果を評価するためのハイスループットシステムなど、下流での応用に向けた上記方法の使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光増感剤を用いて当該光増感剤を励起するために有効な波長の光の細胞への照射を利用し、正に荷電したペプチドと結合したペプチド核酸(PNA)分子を細胞、好ましくは細胞の細胞質および/または核に導入するための方法に関する。また、本発明は、たとえばアンチセンスまたはアンチジーン戦略など、遺伝子活動の評価または改変に向けた上記方法の使用、あるいは下方制御(down-regulation)された遺伝子産物の効果を評価するためのハイスループットシステムなど、下流での応用に向けた上記方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
PNAは、DNA主鎖に見られる通常のリン酸ジエステル結合が2−アミノエチル−グリシン結合で置換された、人工的なDNA類似化合物である。ヌクレオチド塩基は、メチルカルボニルリンカーを介して、主鎖の非荷電の繰り返し単位に結合している。
【0003】
このような結合のためPNAは非荷電である。また、化学的に安定で、加水分解による開裂に対して抵抗性があり、天然の核酸よりも高い親和性をもって相補的な核酸らせん鎖(DNAまたはRNA)に結合する。
【0004】
PNAの相補的なDNAまたはRNAへのハイブリダイゼーションは、ワトソン−クリック水素結合によるものであるが、パラレル、アンチパラレルのどちらの二重鎖を形成することもできる。さらに、そのハイブリッド複合体は、優れた熱耐性を示し、独特のイオン強度特性(ionic strength properties)を見せる。これらの利点、ならびにPNAがヌクレアーゼおよびプロテアーゼに対して抵抗性を有するという事実を見込んで、PNAはインビトロ・アンチセンス(mRNAの翻訳を妨害する)またはアンチジーン(遺伝子の複製または転写を妨害する)への応用に用いられてきた。PNA-RNA複合体はRNase Hの基質とはならず、それゆえ、RNAの翻訳またはプロセッシングのいずれかにおける空間的ブロックによってアンチセンス効果を誘発するのかもしれない。PNAがDNAに結合する結果として三量体(triplex)が生ずるが、そのような結合は複製または転写を妨げ、アンチジーン効果を惹き起こす。PNAのいかなる普遍的な毒性の徴候も観察されていない。
【0005】
そのため標的核酸分子に結合することにより、PNAは複製、翻訳および転写の過程に対して重大な影響を及ぼす。アンチジーンまたはアンチセンスへの応用に用いられるPNAは、DNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼ、逆転写酵素、テロメラーゼおよびリボソームの活性を妨げることが明らかにされている。
【0006】
これらの影響がうまく伝えられるためには、細胞に、さらに実用上は大抵、若干のRNAおよびミトコンドリアDNAを除くすべてのDNAを収容する核内にPNA分子が入る必要がある。しかしながら、細胞および核による取り込みは極めて遅く、しかも自発的には起こらない。したがって、細胞および核によるPNAの取り込みを増進することは、それを治療薬剤または治療方法として確立すること、あるいは広範に応用することについての現実的な見通しを立てる前に克服しなければならない重要な努力目標である。
【0007】
PNAを細胞内に送達するための取り組みの一つとして、マイクロインジェクションの使用がある(Ray and Norden, (2000), FASEB J. 14, 1041-1060で論じられている)。しかし、マイクロインジェクションは面倒で時間がかかる。しかも各細胞に個別に注入する
必要があるため、少数の細胞に対するときが最も好適であり、インビボで多数の細胞への適用には向いていない。細胞の損傷もまた問題となる。
【0008】
エレクトロポレーション法(electroporation)による送達も達成されているが(Shammasら(1999), Oncogene 18, 6191-6200)、これにもまた欠点があり、たとえばインビボでの使用に適さない。
【0009】
ストレプトリジン(streptolysin) Oを用いた過渡的透過法(transient permeabilisation)(Faruqiら(1997) , P.N.A.S. USA 95, 1398-1403)、リゾレクチン(lysolectin)による細胞膜透過法(Boffaら(1996), J. Biol. Chem. 271, 13228-13233)またはTween
などの界面活性剤による細胞膜透過法(Nortonら(1996), Nat. Biotech 14, 625-620)といった膜崩壊法(membrane disruptive methods)もまた試されてきた。これらの方法も
インビボでの使用には適さず、細胞に損傷を与えかねない。
【0010】
たとえPNA分子を細胞内に押し込むことが可能だとしても、核への取り込みは起こらないであろう。PNAはインビトロでも高濃度であれば強制的に細胞内に取り込まれるが、これを達成するためには極めて高い濃度(10〜20 μM)が要求される(Foliniら(2003), Cancer Research 63, 3490-3494)。そのため、PNAを細胞に導入するための改良された方法が求められているといえる。
【0011】
インビトロでPNAの細胞への送達は、カチオン性脂質とともに投与して複合体を形成したときに起こることも明らかにされている。この特徴的な手法において、機能性ペプチドと連結させたPNA分子はオリゴヌクレオチドと重なり合ってハイブリッドし、この複合体はカチオン性脂質と混合される。かくしてカチオン性脂質−DNA−PNA複合体は内在化され、受動的な荷物としてそのPNAを運搬する(Hamiltonら(1999), Chem. Biol. 6, 343-351)。
【0012】
PNAは、静電的相互作用によりカチオン性リポソームと凝縮および複合化するために必要とされる、ポリアニオン電荷(polyanionic charges)が不足している。しかしPN
A−DNAハイブリッドは、DNAからの寄与により分散した負の電荷を有する。凝縮した粒子はPNA−DNAハイブリッドとカチオン性脂質との相互作用により形成され、これらのリポプレックス(lipoplex)は培養された哺乳動物細胞にすみやかに取り込まれる(Borgattiら(2003), Oncol. Res. 13(5), 279-287;Borgattiら(2002), Biochem. Pharmacol. 64(4), 609-616;Nastruzziら(2000), J. Control Release 68(2), 237- 249)。PNAはまた、脂質への共有結合的な付着によっても細胞内に輸送されであろう(Muratovskaら(2001), Nucleic Acids Res. 29(9), 1852-1863;Ljungstromら(1999), Bioconjug. Chem. 10(6), 965-972 ;Filipovskaら (2004), FEBS Lett. 556 (1-3), 180-186)。
【0013】
より効率的な様式で細胞内に取り込まれ得るペプチド−PNA構造体を作成する試みもなされてきた。BrandenおよびSmith(2002, Methods in Enzymology 346, 106-124)は、機能性ペプチドをDNAに連結するためにPNAを用いることでDNAの送達を向上させた、いわゆるバイオプレックスシステム(Bioplex system)を使用した。また、ポリエチレンイミン(PEI)を核酸の圧縮を高めるために添加してもよい。
【0014】
このシステムは、核酸を細胞に供給することを目的とするものであり、DNAの送達を向上させるために設計されたペプチドに、送達するDNAを連結するための手段としてPNAを活用する。
【0015】
あるペプチドは細胞膜を横切る分子の送達を仲介することが知られている。PNAをそのような細胞輸送ペプチドまたは細胞貫入ペプチドと連結させることも、PNAの細胞内
に入り込む能力を向上させるために試みられてきた。PNAを細胞内に輸送する目的のために、様々な種類の輸送ペプチドが設計されている。
【0016】
抗テロメラーゼ剤として設計されたPNAが、HIV-tat内在化ペプチド(SEQ ID N0:l RKKRRQRRR)およびアンテナペディア細胞(Antennapedia cell)貫通ペプチド(SEQ ID NO:2 RQIKIWFQNRRMKWKK)と複合化され、アンチセンス分子としてほどほどの効果を有し、テロメラーゼ活性を低減させることが示されている。しかしながらこれらの実験では、テロメラーゼ活性の緩やかな低減が示されているにすぎない。tat複合化PNAは、48時間後の時点でコントロールレベルの73%までしかテロメラーゼ活性を低減しておらず、また、アンテナペディア複合化PNAは、>30μMという極めて高い濃度においてのみ、50%の阻害を達成しているだけである(Foliniら, 2003, 前記)。
【0017】
PNAの核への輸送を仲介しうるペプチドについても記載されている。新規に合成された核タンパク質は、核に到達して核膜を通過するためには特定のアミノ酸配列を必要とすることが明らかにされている。これらの核局在化シグナルも、タンパク質には存在しても核内に内因的に存在しない場合に、これらのタンパク質を核へと導きうる。
【0018】
PNAは、これを細胞の核へと差し向ける試行のために、核局在化シグナル(NLS)(SEQ ID NO:3 PKKKRKV)とも複合化されてきた。このNLSは、SV40 largeT抗原の核膜を越える移送を仲介することが明らかにされている。10 μMのPNA−NLSを細胞に投与した場合、24時間後には核内にその存在が認められる。この効果は、PNA配列には依存しないが、NLS配列には強く依存することが明らかにされている。PNAと複合化したスクランブル(scrambled)NLS配列(SEQ ID NO:4 KKVKPKR)では、極く僅少量のPNAが核内にあるのみである(Cutronaら, (2000), Nature Biotechnology 18, 300-303)。これらの結果は、スクランブルNLS配列と複合化したPNAが、コントロールPNAと明らかに同程度の効果しか有さないのに対して、PNA−NLS(wt)(このPNAはmycに対する抗原である)が細胞の成長を阻害したということを示した機能分析に相応するものである。
【0019】
Brandenら(1999, Nature Biotechnology 17, 784- 787)も同様に、NLS配列に依存す
る様式で、PNAのペプチドとの複合化はPNAの核への輸送を増進するが、NLS配列の
逆転(inversion)の後では核の局在化は見られないことを明らかにした。
【0020】
さらなる研究から、PNAを成功裡に核に輸送するためには、細胞膜輸送ペプチドおよびNLSの両方をPNA分子に複合化することが必要であることが示唆されている(Braunら
(2002), J. MoI. Biol. 318, 237-243)。細胞膜輸送ペプチド(cellular membrane transporter peptide)はPNAを引き入れると考えられており、さらにNLSはPNAを核の方に連れて行くと思われる。これらの実験において、リジン−リジンのペプチド配列だけを有する細胞貫通ペプチドを含有する構成物が細胞質に残されていたことから、NLSは核への輸送にとって必須であることが明らかにされた。
【0021】
Richardら(J. Biol. Chem., (2003), 278(1), 585-590)が実証した事実、すなわち、そのような実験において細胞の固定(fixation)が、たとえ穏やかな固定条件であっても人為産物を作り出し、穏やかな固定条件で核内にPNAが存在しなくとも核の染色が見られるというという事実によって、上記の結果の解釈は複雑なものとなる。
【0022】
このように、ある特定の条件下においてPNAまたは細胞貫通ペプチドと複合化したPNAが細胞に入り込むことは証明されており、また最近ではエンドソーム内に入り込むことも明らかにされているが(Richardら, 2003、前出)、仲介されるべきPNAによる生
物学的な効果のためには、大抵の場合、PNAが核へ移送されることが必要とされる。
【0023】
PNA分子の、細胞、たとえば細胞質へ、好ましくは核への取り込みを達成しうる、信頼できて再現性があり、かつ高濃度のPNAを適用する必要のない、PNA分子の投与方法に対する必要性は、依然として残されているようである。
【発明の開示】
【0024】
本発明者は驚くべきことに、正に荷電したペプチドと結合したPNA分子はエンドサイトーシスによって取り込まれ、光化学的内在化(PCI)の手法を用いてエンドソームから
放出されるときに、これらの分子が核へ移送されることを明らかにした。
【0025】
したがって、本発明の第一の態様により、細胞をPNA分子および光増感剤と接触させ、その光増感剤を励起するために効果的な波長の光で細胞を照射することを含む、PNA分子を細胞質内に、好ましくは細胞の核内に導入する方法が提供される。ここで上記PNA分子は、正に荷電したペプチドと複合化している。
【0026】
PCIは、光増感剤をその薬剤を励起させるための照射工程と組み合わせて使用する手法
であり、同時に投与された分子の細胞への内在化を達成するものである。この手法は、エンドソームなどの細胞のオルガネラに取り込まれた分子が、照射の後にはこれらのオルガネラから細胞質に放出されることを可能とする。
【0027】
光化学的内在化(PCI)の基本的な方法手順は、WO 96/07432およびWO 00/54802に記載
されている(参照により本明細書に取り込まれる)。そこで示されているように、内在化されるべき分子(本発明による利用においてはPNA−ペプチド複合体であろう)および光増感剤は、細胞と接触させられる。この光増感剤および内在化されるべき分子は、細胞内において細胞の膜で仕切られたサブコンパートメント(cellular membrane-bound subcompartment)に取り込まれる。この細胞を適切な波長の光で照射すると直ちに光増感剤は励起し、細胞内コンパートメントの膜を破壊させる有毒な化学種を直接的または間接的に生成する。これにより内在化された分子が細胞質内への放出が可能となる。
【0028】
これらの方法は、他の手法では膜を透過しない分子を細胞の細胞質内に導入するための機構として光化学的な効果を、次の態様で利用するものである。すなわち、照射時間または光増感剤の投与量を低めるなどして、過度の有毒化学種の生成を避けるようにその方法論を適合させたのであれば、広範囲の細胞破壊または細胞の死を起こしはしない態様である。
【0029】
PNAを細胞内に放出させるためにPCI法を用いる場合、PNAが細胞に入り、続いて
それが核に移送される上で、特定の細胞貫通配列も、NLS配列もPNAには必要とされな
いことは、特に驚くべきことである。PNAが少なくとも1つの正味の正電荷を有するペプチドと連結することが必要とされることのすべてである。
【0030】
したがって学説に束縛されることは望まないが、PCIを利用した場合、正に荷電したペ
プチドの存在が、細胞内、エンドソーム性コンパートメント(endosomal compartments)のような細胞コンパートメントへのPNA分子の取り込みを促進しているようにみえる。加えて、PNA分子の細胞質への放出または内在化に続いて、正に荷電したペプチドはPNA分子の核へのターゲティングをも仲介する。その結果、PNA分子を所望の部位に差し向けるために最小限の修飾のみが要求され、PNA分子を長いアミノ酸配列または複数のアミノ酸配列と複合化させることは必要とされない。
【0031】
これらの両方の役割、すなわち細胞内へのPNA分子の取り込みを導くこと、ならびに一旦、PNA−ペプチド分子が細胞質内に放出または内在化されたならば、核内への輸送を促進することを果たすために、たった一つのペプチドが必要とされるのみであることも
これまた驚くべきことである。
【0032】
核局在化シグナルはこれまでにある程度詳細に研究されており、効率的に核を標的化するためには、ある特定のアミノ酸コンセンサス配列が存在することが必要であることが明らかになっている。特に、核内に分子を取り込むための手段として、インポーチン(importin)経路が同定されている。「古典的な」アルギニン/リジンに富むNLS、たとえば「SV40T large抗原配列」は、インポーチンタンパク質α+βと相互作用する。この複合体は、核膜孔複合体(nuclear pore complex)の中央チャンネルを通って移送され、核内で解離する。この会合および解離の過程は、エネルギー依存性機構である(Cartierら(2002), Gene Therapy 9, 157-167で論じられている)。まだ充分に特定されていないが、核への移入のための他の経路も存在すると信じられている。
【0033】
したがって、PCI法を本発明で使用するときに、古典的なNLS配列が必要とされないことのみならず、さらに正味で一以上の正に荷電したあらゆる配列が核の局在化を仲介する能力を有することは、驚くべきことである。このことは、配列SEQ ID NO:5 GHHHHHGがSEQ ID NO:3 PKKKRKVと同様に機能したという事実、あるいはさらに、わずか一つの正電荷を有するトリペプチド(SEQ ID NO:6 AKL)が、PNAをまずエンドソームに差し向け、続いて核に向けて導入する能力を有するという事実によって証明される(実施例参照)。
【0034】
さらに驚くのは、元来、タンパク質をペルオキシゾームおよびミトコンドリアといった細胞のオルガネラに導く能力によって同定されていた配列が、PNA分子と複合化することにより、まずエンドソームに差し向けて、続いて核に向けて導入できるということが観察されたことである(実施例参照)。
【0035】
本発明の方法におけるPCIの正確な役割は分かっていない。しかし、PCIがなければ、正に荷電したペプチドを担持するPNA分子が細胞質または核に有効な程度にまでは進入しないことから、当該方法の成功の中枢となることは明らかである。
【0036】
その効果はまた、複合化したペプチドの全体的な長さとは無関係であるように見え、正に荷電した3アミノ酸長のペプチドは29アミノ酸を有する場合と同等に機能する。また、その影響は、正に荷電したペプチドの長さに対する電荷の比、あるいはその配列に含まれる荷電した特定のアミノ酸とも無関係である。
【0037】
本明細書で「PNA」とは、DNA相同体として振る舞い、偽ペプチド(pseudopeptide)骨格を基礎とし、それにヌクレオチド塩基が付加されたペプチド核酸分子をいう。こ
のPNAは、遊離の線状形態であってもよく、二量体またはbis-PNAのように自己連結(self-ligated)した形態であってもよい。
【0038】
PNAの標準的な形態の誘導体も考えられる。たとえば、ポリマーを構成する一または複数の偽ペプチドモノマーが、改変された性質を付与するなどのために、たとえばリジンや他のアミノ酸アナログを用いて修飾または誘導されていてもよい。同様に所望により、使用されている一または複数の塩基を、たとえば非天然の変異体を用いて修飾してもよい。したがって、その誘導体が相応する機能的な諸特性を保持する、すなわちDNAおよび/またはRNAと配列依存的複合体を形成する能力を有するのであれば、PNAはそのような標準的な形態の誘導体を包含する。換言すれば、そのようなPNA誘導体は、DNAまたはRNAの配列との相補性を与えるため、電荷および構造の点で適切なものである。
【0039】
PNA分子は、どのような配列または長さであってもよい。PNA分子は、塩基数が好ましくは25未満、たとえば20未満の塩基長であり、また好ましくは6塩基長よりは長い。
具体的には、6〜20塩基長の分子を用いることができる。長さ12〜17単位のPNAオリゴ
マーを選択することもできる。配列の長さは、用いられる方法に要求される特異性を第一に決定される。25塩基よりも長いものが要求されるDNAの適用は、それよりずっと短いPNAプローブを用いてルーチンに実施することができる。長いPNAオリゴマーは、配列にもよるが、凝集しやすいため精製および同定確認が難しい。しかしながら配列が短いほど、より特異的になる。結果的にミスマッチの影響は短い配列についてよりも大きくなる。それでも20単位のPNAオリゴマーは、凝集の問題を生じることなく使用することができる。
【0040】
そのような分子について、化学的な性質および合成方法は当業者によく知られており(Ray and Norden, 2000、前出)、いかなる都合のよい方法で調製してもよい。
PNA分子は、アンチセンスPNA分子であってもよく、または遺伝子(アンチジーン分子)と相補的なPNA分子であってもよく、特徴的な三重体構造を形成することができる。PNA分子はまた、プローブ、すなわち標的核酸配列と結合し、便宜的にはラベルを携えたものであってもよい。
【0041】
本発明の方法は、PNAペプチド複合化物を細胞質内に、好ましくは核内に移送することを達成する。細胞に接触した各分子のすべてについて取り込みがなされるわけではないことを理解されたい。しかし、PCIが用いられない従来技術水準よりは顕著かつ改善され
た取り込みが達成される。
【0042】
より好ましい本発明の方法であれば、複製、転写または翻訳への影響がそれを取り込んだ細胞の発現産物において明白となるほど充分な水準で、PNA分子が取り込まれることを可能とする。細胞と接触させるPNA−ペプチド複合体の適切な濃度は、この目的を達成できるよう調整することができる。たとえば細胞と、24、48、72または96時間、具体的には24〜48時間(例:図9参照)のインキュベーション後、標的遺伝子の発現を10%より
大きく減少させる、具体的には20、30、40または50%より大きく減少させることを達成できるようにである。タンパク質の減少レベルは、タンパク質の半減期に依存する。すなわち、既存のタンパク質は半減期に従って除去される。したがって、半減期を考慮するようにして、PNAがない場合における同じ時点での発現より10、20、30、40または50%よりも大きな減少が達成される。
【0043】
本明細書で「細胞」の用語は、すべての真核細胞(昆虫細胞および真菌細胞を含む)を包含するものとして使用される。したがって、典型的な「細胞」としては、哺乳動物および非哺乳動物の細胞、植物細胞、昆虫細胞、真菌細胞および原生動物細胞が挙げられるが、好ましいものは、哺乳動物(たとえばネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット(guinea pig)の細胞であり、最も好ましいものはヒトの細胞である。
【0044】
本明細書で「接触(contacting)」とは、細胞と光増感剤および/またはPNAペプチド複合体が、細胞内への内在化に適した条件下(たとえば、好ましくは37℃の栄養媒質の中)で、互いに物理的に接触することをいう。
【0045】
光増感剤は、適切な波長および強度の光照射により励起し、活性の化学種を生み出す薬剤である。そのような薬剤は、細胞内コンパートメント、特にエンドソームまたはリソソームに局在化するものが当該薬剤として便利である。このような光増感剤の品揃えは当業者に知られており、WO96/07432(参照により本明細書に取り込まれる)などの文献に記載されている。そのようなものとして、培養した細胞のエンドソームおよびリソソームに局在化することが明らかにされている、ジスルホン化-またはテトラスルホン化-アルミニウムフタロシアニン(たとえばAlPcS2a)、スルホン化テトラフェニルポルフィン(TPPSn)、ナイルブルー、クロリンe6誘導体、ウロポルフィリンI(uroporphyrin I)、フィロエリスリン(phylloerythrin)、ヘマトポルフィリン(hematoporphyrin)およびメチレンブルーが挙げられる。ほとんどの場合、光増感剤のエンドサイトーシスによる取り込みによるものである。したがって、リソソームまたはエンドソームの内在的なコンパートメントに取り込まれる薬剤が光増感剤として好ましい。本発明での使用にさらに適した光増感剤は、WO03/020309(参照により本明細書に取り込まれる)に記載されているもの、すなわちスルホン化メソ−テトラフェニルクロリン、好ましくはTPCS2aである。
【0046】
しかし、その他の細胞内コンパートメント、たとえば小胞体またはゴルジ装置に位置するその他の光増感剤もまた使用できる。光化学的処理の効果が細胞のその他の構成要素(例:膜で隔絶されたコンパートメント以外の構成要素)に及ぶようなメカニズムが作用することも考えられる。したがって光化学的処理が、細胞内輸送または小胞(vesicle)融合にとり重要な分子を破壊することも一つの可能性としてあり得る。そのような分子は、必ずしも膜隔絶コンパートメント内に位置しないかもしれない。しかしそれにもかかわらず、そのような分子の光化学的ダメージは、輸送分子の光化学的内在化を引き起こしかねない。たとえば、そのような分子に対する光化学的な影響が、内在化させる分子(すなわちPNA分子)のリソソームなどの分解小胞への輸送を低減する結果、内在化されるべき分子が分解される前に細胞形質に逃げ出してしまうことになるというメカニズムによってである。
【0047】
必ずしも膜隔絶コンパートメントに位置しない分子の例としては、ダイニン(dynein)およびダイナクチン(dynactin)構成物といった微小管輸送システムのいくつかの分子、たとえばrab5、rab7、N-エチルマレイミド感受性因子(NSF)、可溶性NSF付着タンパク質(SNAP)などがある。
【0048】
したがって、言及されうる好適な光増感剤の分類としては、ポルフィリン、フタロシアニン、プルプリン、クロリン、ベンゾポルフィリン、ナフタロシアニン、カチオン染料、テトラサイクリンおよびリソモトロピック(lysomotropic)弱塩基またはこれらの誘導体が挙げられる(Bergら, J. Photochemistry and Photobiology, 1997, 65, 403- 409)。その他の好適な光増感剤としては、テキサフィリン(texaphyrin)、フェオホルビド(pheophorbide)、ポルフィセン(porphycene)、バクテリオクロリン(bacteriochlorin)、ケトクロリン(ketochlorin)、ヘマトポルフィリン誘導体、およびこれらの誘導体、5-アミノレブリン酸から誘導される内因性光増感剤およびこれらの誘導体、光増感剤の二量体またはその他の複合体が挙げられる。
【0049】
好ましい光増感剤としては、TPPS4、TPPS2a、AlPcS2a、TPCS2aおよびその他の両親媒性の光増感剤が挙げられる。その他の好適な光増感剤としては、5-アミノレブリン酸化合物または5-アミノレブリン酸エステルもしくはその医薬的に許容できる塩が挙げられる。
【0050】
光増感剤を励起するための細胞の「照射」とは、以下に述べるように直接的または間接的な光の投与をいう。したがって細胞はたとえば直接的に光源で照らされていてもよい(例:インビトロで単一の細胞に対して)。あるいは、細胞は、たとえば皮膚表面の下にある場合、またはすべての細胞が直接的に(すなわち他の細胞に遮られることなく)照らされることない細胞層の形態をとっている場合において、インビボで間接的に光源に照らされていてもよい。
【0051】
ここで定義されている「ペプチド」には、あらゆる数のアミノ酸、すなわち一以上のアミノ酸を含有する分子が含まれる。しかし、このペプチドは連続的なアミノ酸の重合体であることが好ましい。
【0052】
正に荷電したペプチドは、好ましくは3(または4, 5もしくは6)から30アミノ酸長であ
り、より好ましくは、3(または4, 5もしくは6)から25、3(または4, 5もしくは6)から20、あるいは3(または4, 5もしくは6)から15のアミノ酸長である。さらに好ましい態様では、そのペプチドは10よりも小さい、たとえば3, 4, 5もしくは6アミノ酸長である。、
ペプチドは、いかなる好都合な方法(たとえば直接的な化学合成)により調製してもよく、また細胞内で適当な配列の核酸分子を発現させる組換え手法により調製してもよい。正に荷電した分子は、それが複合化するPNA分子を、細胞内、続いて細胞質内、好ましくは核内にも移送する能力を有する。
【0053】
本明細書で「正に荷電した(positively charged)」とは、全体的にまたは正味に、生理的なpH(すなわちpH7.2)におけるペプチドの電荷が+1またはそれ以上であることを
意味する。アミノ酸は、ペプチドの状況で存在するときに、もしも生理的なpHにおいて優勢な化学種のものが正に荷電しているならば、+1であると考えられる。ペプチド中のそのような各アミノ酸は、ペプチドの最終的な電荷を計算する上で、正の荷電にさらに寄与するものとなる。ペプチドは、その正味の電荷(各アミノ酸に帰属する電荷を合計することにより計算される)が正となる限りにおいて、中性の残基と同様に一以上の負に荷電したアミノ酸残基を有していてもよい。PNA分子は非荷電であり、そのもの自体は分子の全体的な荷電に寄与するものではない。しかしながら、重要なことであって、正に荷電したペプチドの存在を決定する上で評価がされるのは、ペプチド部分の電荷であることを理解すべきである。
【0054】
そのため、ペプチドの電荷はそのアミノ酸の組成に依存する。あるアミノ酸は、通常の生理的なpHにおいて荷電している。正に荷電したアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン
(R)およびヒスチジン(H)であり、上記の尺度において+1であると考えられる。アスパラギン酸(D)およびグルタミン酸(E)は、たいていの生理的なpHにおいて負の電荷を帯びており、上記の尺度において−1であると考えられる。その他の天然アミノ酸は電荷を帯びていないと考えられる。正または負に荷電したアミノ酸は、ペプチドの全体的な電荷が+1以上である限り、いくつ存在していてもよい。
【0055】
本発明で使用するペプチドに用いられているアミノ酸は、天然アミノ酸である必要はない。ペプチドの一つまたは複数のアミノ酸は、アミノ酸誘導体などの非天然アミノ酸で置換されていてもよい。そのようなアミノ酸もペプチドの電荷への寄与に基づいて同様に評価される。したがって、天然アミノ酸を用いるように、もしも主要な分子種が生理的pHにおいて正である場合、その電荷が誘導された部位(たとえば導入されたアミン基)またはその天然アミノ酸に存在する部位に由来するものか否かということは、全体的な電荷が+1以上である限り、関係のないことである。
【0056】
上記ペプチドは、たとえば、結合基(linking group)として用いられ得る有機ポリマー
のような非タンパク質分子に結合するなどして、ハイブリッド分子の一部として存在していてもよい。またそのペプチドは、天然ではタンパク質性であるが実際上ペプチドから独立している(たとえば、非荷電であるか、または構造的には分離した配置にある)ような分離した構成部分に結合していてもよい。このような場合には、そのペプチドは露出した、好ましくは周辺の部分を構成し、その部分の電荷が対応するペプチドのものとして評価されるだろう。
【0057】
正に荷電したペプチドは、PNA分子のN末端またはC末端のいずれかに複合化していてもよく、8-アミノ-3,6-ジオキサンオクタン酸、2-アミノエトキシ-2-エトキシ酢酸(AEEA)またはジスルフィドリンカーといった結合基によって、またはよらないで結合していてもよい。しかし、このペプチドは共有結合により直接的に複合化していることが好ましく、複合体にはPNAおよび該ペプチド以外の構成要素は存在しないことが特に好ましい。
【0058】
以前の研究によれば、古典的核局在化のシグナルだけが複合化分子を細胞核へ輸送するとされてきた。しかしながら、驚くべきことに上記のようにペプチドの核局在化能力は、PCIを用いて内在化方法を実施するときには電荷のみに依存し配列には依存しないことが
示された。正味の電荷が+5のペプチド取り込みが最高であり、これはその電荷に寄与する配列には依存しないことが分かった。ペプチドの電荷は>1, 好ましくは+1〜+10、具体的
には+2〜+8、すなわち+3〜+6、例えば+4 または +5である。
【0059】
好ましくはPNAに付着するペプチドは、K, R および/またはH残基に富んでいる。 特に好ましくは電荷を有する残基の連続連結が使用される。ペプチドに用いられる他の残基は中性であることが好ましい。よって例えば該ペプチドは、次の配列: Xn-(Y)m-Xoを有するか、含んでもよい。ここでXは中性残基類、およびYは、正の荷電した一つの残基であり、それらは現れる各位置において同一でも異なってもよい。n, mおよびoは≧1の整数であり、具体的には1〜10であり、nおよびoは好ましくは1または2であり、mは好ましくは2〜5である。Yは、各位置で同一であることが特に好ましく、K、RまたはHである。
【0060】
特に好ましいペプチドは、
SEQ ID NO:7 MSVLTPLLLRGLTGSARRLPVPRAKIHSL, SEQ ID NO:6 AKL および SEQ ID NO:5 GHHHHHGである。
【0061】
SEQ ID NO:7 MSVLTPLLLRGLTGSARRLPVPRAKIHSLおよびSEQ ID NO:6 AKLは、それぞれミトコンドリアおよびペルオキシソームをターゲティングとする配列である。それでもこれらは本明細書に記載されるPCI 方法を用いて核をターゲティングすることが可能であることが示された。
【0062】
この驚くべき知見によってペプチドが配列ではなく電荷に依存することが説明され、これは本発明によると有益である。好ましくは正に荷電したペプチドは、SEQ ID NO:3 PKKKRKVといったNLS、またはスクランブルNLS SEQ ID NO:4 KKVKPKR または逆NLS SEQ ID NO:8 VKRKKKP、あるいはHIV Tat SEQ ID NO:l RKKRRQRRRのような古典的な細胞透過ペプチド、またはAntennapedia細胞貫通ペプチド SEQ ID NO:2 RQIKIWFQNRRMKWKKではない。このことは例えばPCIがない場合の核内移送または細胞透過の程度を決定することによって評価できるかも知れない。そのような条件下で核内を移行するか、または細胞を透過することが実質的にできるペプチドは、NLSまたは細胞透過ペプチドと見なされるだろう。そうしたペプチドは、好ましくはポリリジンではない。加えてPNAまたは該ペプチドは、さらにタグ上の蛍光標識といった修飾を含んでもよい。
【0063】
上記のPNA-ペプチド複合体は本発明の別の態様を形成する。本明細書で「複合化("conjugation")」とは、ペプチドおよびPNA分子が一緒に結合して生理的条件下で単一の実体物を形成することをいう。PNAとペプチドとは共有結合により結びつくことが望ましい。
【0064】
上記PNA分子およびペプチドは、別個に合成するか、または精製してFmoc-NC603H11-OH (Brandenら , 1999, 上記)といったスペーサー分子を用いて、一緒に結びつける。あ
るいはそれらは、例えば、(Btoc)手法によって単一の分子として化学的に合成してもよい。この方法において、PNAモノマーは、 ペプチド合成の標準的プロトコルを利用して20塩基ものの長さのオリゴマーに合成される。PNAモノマーは、N- 末端モノマーアミノ基のfluorenylmethozycarbonyl (Fmoc) 保護、ならびにA、CおよびG外環アミノ基を保護するためにbenzhydryloxycarbonyl (Bhoc)を使用する。
【0065】
XAL合成の操作と結びついたBhoc基は、迅速に脱保護して樹脂からPNAオリゴマーを
開裂させる。結合の代表的な収率は>95%である。合成は、樹脂からのオリゴマーのTFMSA
開裂によって完了する。オリゴマーは、逆相HPLCによって精製される (Viirreら (2003) , J. Org. Chem. 68(4), 1630-1632; Neunerら (2002), Bioconjug. Chem. 13 (3) , 676-678)。
【0066】
かくして正に荷電したペプチドは、PNAを細胞内に取り込むことと、それがいったん細胞内コンパートメントから放出されたなら、核内への取り込みの両方に関わるようである。
【0067】
PNA分子の一種類より多い種類、すなわち異なる配列のPNA分子が投与されるか、同時に導入される。同様に正に荷電したペプチドを一種より多い種類を担持する PNA
分子が投与されるか、同時に導入される。
【0068】
細胞内に導入される光増感剤および複合化PNA分子の一方または他方、あるいは両方が、必要に応じて、光増感剤または複合化PNA分子の取り込みを促進するか、または増大するように働くか、あるいはそうした実体物を特定種類の細胞、組織または細胞内コンパートメントに向けて送り込むか、移送させるように働き得る、1以上の担体分子またはターゲティング分子に付着するか、結合するか、または複合化してもよい。複合化PNA分子の場合、細胞核へのターゲティングは、本発明に基づく複合体のペプチド成分によって達成されるだろう。
【0069】
担体系の例として、ポリリジンまたは他のポリカチオン、デキストランサルフェート、様々なカチオン脂質、リポソーム、再構成LDL粒子または立体的に安定化されたリポソー
ムが挙げられる。これらの担体系は一般には複合化PNA分子および/または光増感剤の
薬剤動力学を改善し、ならびに細胞の取り込みを増加させることができるが、さらにPNA分子および/または光増感剤を細胞内コンパートメントへ差し向けるであろう。これは
、特に光化学的内在化を得るには有益であるが、PNA分子および/または光増感剤を特
定の細胞(例えば癌細胞)または組織に差し向ける能力は通常はない。.
しかしながら、首尾よく担体分子を特異的もしくは選択的にターゲティングさせるためには、PNA分子および/または光増感剤を、所望する細胞または組織内へのPNA分子
の細胞の取り込みを特別に推進する特定のターゲティング分子に結合させるか、複合化させてもよい。そのようなターゲティング分子は、またPNA分子を、光化学的内在化を得るのに特別に有益である細胞内コンパートメントに差し向けるであろう。
【0070】
多くの様々なターゲティング分子を用いることが可能であり、以下に記載されている:Curiel (1999), Ann. New York Acad. Sci. 886, 158-171; Bilbaoら, (1998), 「癌の遺伝子治療」(Waldenら , eds. , Plenum Press, New York) ; Peng および Russell (1999) , Curr. Opin. Biotechnol. 10, 454-457; Wickham (2000) , Gene Ther. 7, 110-114.
担体分子および/またはターゲティング分子は、PNA分子に、光増感剤に、または両
方に会合させるか、結合させるか、あるいは複合化させてもよく、同一または異なる担体またはターゲティング分子が使用されてもよい。上記のように1個より多い担体および/
またはターゲティング分子を同時に使用してもよい。
【0071】
本発明で使用される好ましい担体には、ポリリジン(例、ポリ-L-リジンまたはポリ-D-
リジン) のようなポリカチオン、ポリエチレンイミンまたはデンドリマー(例、SuperFect(R)のようなカチオン性デンドリマー) ;DOTAPまたはリポフェクチン(Lipofectin)のよ
うなカチオン脂質、およびペプチドが挙げられる。
【0072】
本発明の方法は、次のようにして実施されてもよい。本発明の方法において、内在化される分子および光増感化合物は同時にまたは順次に細胞に適用される。この場合、光増感
化合物および該分子は、エンドソーム、リソソームまたは他の細胞内の膜隔絶コンパートメント内へエンドサイトーシス(endocytosis)されるか、他の方式で移送される。
【0073】
PNA-ペプチド複合体および光増感化合物は、一緒にまたは順番に細胞へ適用されて
もよい。これらは、細胞によって同一または異なる細胞内コンパートメント (例えば一緒に移送される) 内に取り込まれる。その後該PNA-ペプチドは、光増感化合物を活性化
させるのに好適な波長の光に該細胞が曝されると放出される。活性化された光増感化合物は、細胞内コンパートメント膜を破壊して、その後に該分子(このものは光増感化合物と同じコンパートメント内に存在していてもよい)の細胞質への放出をもたらすのである。したがってこれらの方法において、細胞を光に曝す最終段階は問題の分子が光増感剤と同じ細胞内コンパートメントから放出され、細胞質に存在するようになる。 .
ごく最近WO 02/44396 (参照により本明細書に取り込まれる)は、ある方法を記載しており、その方法においては段階の順序を変更することができ、その結果、内在化され細胞に送達されるべき分子が細胞と接触するようになる前に、光増感剤が細胞と接触し、照射によって活性化される。この適応化された方法では、内在化される分子が光増感剤と同じ細胞サブコンパートメントに存在させる必要はないという利点がある。かくして好ましい態様において、該光増感剤およびPNA分子は、一緒にまたは順番に細胞に適用される。細胞により同一細胞内コンパートメント内へ取り込まれ、次いで前記の照射が実行される。
【0074】
代わりの態様において上記の方法は、前記細胞と光増感剤と接触させ、該細胞を導入されるべきPNA分子に接触させ、次にその細胞を、光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光で照射することによって実施される。ここで該光増感剤を含有する細胞内コンパートメント内への該PNA分子の細胞取り込みに先立って、その照射が実施される。好ましくは該分子のいずれの細胞内コンパートメント内への細胞取り込みの前に行なわれる。
【0075】
前記の照射は、光照射の時点で該PNA分子および光増感剤が同じ細胞内コンパートメントに存在してもしなくても、細胞コンパートメント内への該分子の細胞取り込みの後で行なうことができる。しかしながら好ましい態様では、 照射は内在化分子の細胞取り込
みの前に実施される。
【0076】
本明細書で「内在化(internalisation)」とは、分子の細胞質送達を意味する。本発明
の場合の「内在化」には、分子が細胞内/膜隔壁コンパートメントから細胞の細胞質へ放
出される段階も含まれる。
【0077】
本明細書で「細胞の取り込み」または「移送」は、細胞膜外の分子が、細胞内に取り込まれる結果、例えばエンドサイトーシス(endocytosis)または他の適切な取り込み機構
により、細胞内の膜隔絶コンパートメント、例えば小胞体、ゴルジ体、リソゾーム、エンドソームなどの中に、または結合し、外側に存在する細胞膜に対して内部で見出されるという内在化の段階の一つをいう。
【0078】
該細胞を光増感剤と接触させ、ならびにPNA-ペプチド複合体と接触させる段階は、
好都合な、または所望するいずれかの方法で実施してもよい。かくして、この接触段階が、インビトロで実施されるのであれば、その細胞は、例えば適切な細胞培養用培地のような水性培地で都合よく維持されるであろう。適切な時点で光増感剤および/またはPNA-ペプチド複合体が、適切な条件で、例えば適切な濃度および適切な期間にその培地に添加されるだけである。
【0079】
光増感剤は、適切な濃度で、かつ適切な期間にわたり細胞と接触させるが、それらは当業者により通常の技術で容易に決定され得るものであり、使用される具体的な光増感剤、標的細胞の種類および場所といった要素に依存するであろう。
【0080】
光増感剤の濃度は、いったん細胞内に取り込まれたなら、例えば一つまたはそれ以上の細胞内コンパートメントの中へ、あるいは結合して、光照射によって活性化され、一つまたはそれ以上の細胞構造を破壊する、例えば一つまたはそれ以上の細胞内コンパートメントを溶解し、または破壊するようなものでなければならない。
【0081】
具体的には本明細書の実施例で使用される光増感剤は、例えば10〜50μg/mlの濃度で用いられる。インビトロ使用では、その濃度範囲はさらに広くなり、具体的には0.05〜500 μg/mlである。インビボでのヒト治療では、光増感剤を全身投与の場合には0.05〜20 mg/kg体重の範囲で使用してもよい。または局所投与では、溶媒中で0.1〜20%である。小動物ではその濃度範囲は異なり、このため調整し得る。
【0082】
細胞と光増感剤とのインキュベーション時間(すなわち「接触時間」)は、数分間から数時間で変化し、具体的には48時間までまたはそれ以上、例えば12〜20時間である。インキュベーション時間は、光増感剤が適切な細胞に取り込まれ、具体的には該細胞の細胞内コンパートメント内に取り込まれるような時間であるべきである。細胞と光増感剤とのインキュベーションの後に、該細胞が光に曝されるかあるいはPNA分子が添加される前に、必要ならば光増感剤がない培地を用いるインキュベーションの時間、例えば10分間〜8 時間、特に1時間〜4 時間、設けてもよい。PNA分子は、該細胞と適切な濃度および適切な期間で接触させる。
【0083】
本発明の方法において使用されるPNA分子の適切な用量を決定することは、当業者にとりルーチンの作業である。インビトロの適用では典型的なPNA分子の用量は、大体0.1〜500μg PNA/mlになり、インビボ適用では、ヒトでの1回注射につき、約10-6〜1g PNAになるであろう。
【0084】
例えばPNA-ペプチド複合体は、50μM未満、具体的には30μM未満、特に好ましくは10μM未満のレベルで投与してもよい。例えば0.1 〜1μMまたは5〜30μMであり、示された濃度は、細胞と接触するレベルを反映している。上記したように 接触は、光増感剤が添加され、照射が起きてから数時間後にも始まることが見出されている。
【0085】
適切な濃度は、問題のPNA分子が問題の細胞内に取り込まれる効率ならびに細胞中での所望の最終濃度に依存して決定される。よって「トランスフェクション時間」または「細胞取込み時間」は、該分子が該細胞と接触するための時間であり、数分間または数時間までとなり得る。トランスフェクション時間は、例えば10分間〜24時間まで、例えば30分〜10時間まで、または例えば30分〜2時間まで、あるいは6時間が用い得る。より長いインキュベーション時間を使用してもよく、例えば24〜96時間もしくはそれより長く、例えば5〜10日間である。
【0086】
増加したトランスフェクション時間は、通常、問題の分子取り込みの増加となる。しかしながら、より短いインキュベーション時間、例えば30分〜1時間は、分子取り込みの特
異性の改善となるようである。 かくしていずれの方法でもトランスフェクション時間の
選択は、分子の充分な取り込みと、PCI治療の充分な特異性の確保との間で、適切な均衡
を打ちたてねばならない。
【0087】
インビボでPNA分子および光増感剤が標的細胞と接触させられる適切な方法およびインキュベーション時間は、投与方式およびPNA分子および光増感剤の種類といった因子に依存するであろう。例えば、もしPNA分子が、治療すべき腫瘍、組織または器官内に注入されるのであれば、注射位置近傍の細胞は、当該注射位置からはるかに離れた部位に位置する細胞よりも急速にPNA分子と接触し、よってそれを取り込むであろう。遠隔の
細胞は該PNA分子とは、より遅れた時点で、しかもより低濃度で接触することになるであろう。
【0088】
加えて経静脈注射で投与されたPNA分子は、標的細胞に到達するのに若干の時間を要し、したがって標的細胞または組織に充分量または最適量のPNA分子が蓄積するのに、より長い投与後期間、例えば数日間かかるかも知れない。もちろん同じ議論は、光増感剤の細胞内への取り込みに要する投与期間についても当てはまる。インビボで個々の細胞について求められる投与時間は、これらおよび他のパラメーターに依存して変化することはあり得る。
【0089】
それにもかかわらず、状況はインビトロよりもインビボでより複雑であるけれども、本発明の基にある概念は、依然同じである。すなわち該分子が標的細胞と接触するようになる時間は、照射が起きる前に、適切な量の光増感剤が標的細胞に取り込まれ、そして次のいずれかである: (i)照射の前またはその間、PNA分子は、標的細胞と充分に接触した後で 同一のまたは異なる細胞内コンパートメント内に取り込まれたか、または取り込ま
れるかのいずれかである。 (ii)照射後、該PNA分子は、細胞内に取り込みをされるの
に充分な期間、細胞と接触する。
【0090】
PNA分子が、光増感剤の活性化により影響を受ける細胞内コンパートメント(例えば
該剤が存在するコンパートメント)内に取り込まれるとすると、そのPNA分子は、照射
の前または後で取り込まれる。
【0091】
光増感剤を活性化する光照射の段階は、公知の技術と手順に基づいて起こるであろう。例えば光の波長および強度を使用する光増感剤に基づいて選択するのがよい。適切な光源は公知のものである。本発明の方法において、細胞が光に曝される時間は変わるであろう。PNA分子が細胞質内に内在化する効率は、それを超えると細胞傷害および細胞の死が増大する最大値まで光に曝すことを増やすと上昇するであろう。
【0092】
照射の段階で好ましい時間の長さは、標的、光増感剤、標的細胞または組織に蓄積された光増感剤の量、および光増感剤の吸収スペクトルと光源の発光スペクトルとの間の重複といった要素に依存するであろう。一般的に照射段階の時間の長さは、分のオーダーから数時間、好ましくは60分まで、例えば0.5または1分〜30分、具体的には0.5分〜3分、または1〜5分、または1〜10 分、例えば3〜7 分、好ましくは約3分、2.5〜3.5分である。
【0093】
適切な光量は、当業者により選択され、これもまた光増感剤、標的細胞または組織に蓄積された光増感剤の量に依存するであろう。例えば光増感剤のPhotofrinおよびプロトポ
ルフィリン(protoporphyrin)前駆体の5-アミノレブリン酸を用いる癌の光線力学治療について使用される典型的な光量は、高熱症を避けるために、200 mW/cm2未満のフルエンス(fluence)範囲で50〜150 J/cm2である。可視スペクトルの赤領域でより高い吸光係数を有する光増感剤が使用される場合には、通常、光量は低くなる。しかしながら非癌性の組織をより少ない蓄積量の光増感剤で治療する場合、必要とされる光の総量は癌の治療よりもはるかに高くなるかもしれない。 さらに細胞の生存力が維持されるべきであれば、毒
性種が過剰量、形成されることは避けるべきであり、このため関係するパラメーターが調整されるであろう。
【0094】
本発明の方法は、光増感剤の活性化による毒性種の発生を通しての光化学治療のために、必然的に何らかの細胞殺傷が生じるであろう。提案される使用にもよるが、かかる細胞死は重大ではないかも知れず、実際、ある応用(例えば癌治療)では有利に働くであろう。しかし細胞死を避けることが望ましい。本発明の方法を改変し、細胞の生存する部分または割合を光増感剤の濃度に関係させて光の用量を選択することにより調節されるようにしてもよい。これまた、そうした技術は知られている。
【0095】
細胞の生存が望まれる応用においては、実質的に細胞全部、あるいは極めて大多数(例
えば、細胞の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60、70、80または90%)が殺傷さ
れない。
【0096】
光増感剤の活性化によって誘発される細胞死の量に関係なく、細胞において作用を有するPNAについて、PCI効果が発揮される個々の細胞のあるものは光化学治療だけでは殺
傷されないように、光の用量が調節されることが重要である(もしこれらの分子が細胞毒
性作用を有するのであれば、それらの細胞は細胞内に導入される分子によってその後、殺傷されるのであるが。)
細胞毒性の作用は例えば遺伝子治療を用いることにより実現される。その治療では、本発明の方法によりアンチセンスPNA分子が腫瘍細胞の核内に内在化され、例えば遺伝子がダウンレギュレーションされる。
【0097】
本発明の方法は、次を含む様々な目的のために、インビトロまたはインビボ、例えばin
situ治療または処置細胞を後で身体に投与するエクスビボ(ex vivo)治療のいずれかで使用することができる; (i) mRNAまたはスプライシング中間体に結合させることに
よって特定遺伝子についての産物の発現を阻害すること; (ii)直接に特定遺伝子を干渉すること(例えば転写因子の結合の阻害)によるその遺伝子の転写を干渉すること ; (iii) in situハイブリダイゼーション用プローブ; (iv) スクリーニングアッセイ;および (v)
部位特異的突然変異または標的細胞内の欠陥遺伝子の修復。
【0098】
よって本発明は、上記の方法により標的遺伝子を含有する細胞内にPNA分子を導入することで、標的遺伝子の転写または発現を阻害する方法を提供する。この場合、該PNA分子 は特異的に標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物に結合する。よって例え
ば該PNAは、DNAおよび/またはRNAに結合してもよい。
【0099】
「特異的な結合」は、RNAまたはDNAである標的分子に対するPNAの配列依存性結合をいう。「標的遺伝子」は、PNAが結合することができ、調査の対象である遺伝子またはそのフラグメントである。
【0100】
本発明は、また標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物のレベルを同定または評価する方法を提供する。その方法は、標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物を含有する細胞内に上記の方法によってPNA分子を導入すること(この場合、該PNA分子は、特異的にその標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物に結合する)、ならびに該標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物の存在またはレベルを決定するために結合したPNAのレベルを評価することを含む。この方法で、そのPNA分子は、評価時に同定され得るレポーター分子、例えば放射能標識またはシグナルを発生する手段を担持することは便利である。その評価は定性的または定量的、その両方でもよい。
【0101】
本発明はまた部位特異的突然変異または標的遺伝子、好ましくは欠陥遺伝子の修復を細胞で実施する方法を提供する。その方法は、標的遺伝子を含有する細胞内に、上記の方法によってPNA分子および所望の配列を含むオリゴヌクレオチド分子を導入することを含む。この場合、該PNA分子は、特異的にその標的遺伝子に結合してPNAクランプを形成する。
【0102】
三重鎖(triplex)を形成している正常核酸の歪み(distortion)は標的部位で発生し
、その特定部位で修復または組換え(recombination)を促進する。PNAに結合させら
れるか、または単にPNAとともに一緒に投与されるドナーヌクレオチドは、所望のヌク
レオチド配列を含有する。それゆえPNAは、修復/組換えのプロモーターとして作用する
。
【0103】
これらの方法は、探索的な目的、例えば診断目的、あるいは細胞の発現プロフィールを変更する目的で用いてもよい。例えば単離または治療の目的で所望の産物を産生するために用いてもよい。
【0104】
かくして本発明の方法は、診断目的に使用できる。特定遺伝子またはその複製もしくは転写の産物の存在は、病気、病態または障害の存在、病期、または予後診断にとり有用である。本発明によって疾患、病態または障害を診断する方法が提供される; PNA分子
を細胞内に上記の方法によってPNA分子を導入すること(インビトロ、インビボまたはex vivoでもよい)この場合、該PNA分子は特異的にその標的遺伝子またはその複製も
しくは転写の産物(疾患、病態または障害の存在を表出している)に結合し、次いでそうした病気、病態または障害の存在、病期、または予後診断を決定するために結合したPNAのレベルを評価することを含む。
【0105】
本発明の方法は、1以上の遺伝子の下方調節、修復または突然変異によって利益を受ける 、いずれの疾患に治療に用いることができる。例えば癌で過剰発現している遺伝子は
、適切な PNA分子を投与することによってダウンレギュレーションすることが可能で
ある。
【0106】
例えば嚢胞性繊維症、癌、心臓血管疾患、ウィルスの感染および糖尿病の治療において、変異体で疾患原因である遺伝子の発現を抑制するPNAは、置換(replacement)遺伝子と組み合わせて(すなわち、遺伝子の治療的な移送または患者の細胞に存在している遺伝子の改変を含む遺伝子治療において)投与することもできる。その治療が1以上の遺伝子の下方調節によって利益を受ける疾患には、白血病および膵臓癌(Cogoi ら (2003) Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids 22(5-8), 1615- 1618)、 筋萎縮性側索硬化症(AMS) (Turner ら (2003), Neurochem. 87(3) , 752-763) , ハンチングトン(Huntington's)病 (Leeら (2002) J. Nucl. Med. 43(7), 948-956) およびアルツハイマー疾患 (McMahonら. (2002) J. MoI. Neurosci. 19(1-2), 71-76) が含まれる。
【0107】
上記のようにPNAは、存在している遺伝子を変更するためにも使用されるかも知れない。したがって、原因として欠陥遺伝子の発現または遺伝子の正常態様での発現不調に関係している疾患を治療するために欠陥遺伝子の修復に使用することもできる。(Rogersら (2002) , PNAS U.S.A. 99(26), 16695-16700; Faruqiら (1998) , PNAS U.S.A. 5(4), 1398-1403)
よって本発明の別の態様から、 PNA分子および必要に応じて別個に本明細書で記載
された光増感剤を含む組成物が提供される。該PNA分子は、正に荷電したペプチドと複合化している。本発明の別の局面は、そうした組成物を治療に使用する方法を提供する。
【0108】
代わりに本発明は、患者において1以上の標的遺伝子の発現を変更することにより疾患、障害または感染を治療または予防するための薬剤の製造において本明細書で記載されたPNA分子の使用を提供する。好ましくはその薬剤は、異常な遺伝子発現により代表される疾患または障害を治療する遺伝子治療用である。そうした変更としては、その発現のダウンレギュレーション、または該遺伝子の改変態様のアップレギュレーション(上方制御)が挙げられる。
【0109】
上記の様々な態様によれば、前記の光増感剤およびPNA分子は、患者の細胞または組織と同時にまたは順番に接触させられ、その細胞は、光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光で照射され、ならびに照射は、該光増感剤を含有する細胞内コンパートメント内
に該PNA分子の取り込みの前に、その間に、またはその後に実施される。いずれかの細胞内コンパートメントへの該移送分子の取り込みの前に行なわれるのが好ましい。
【0110】
したがって本発明のもう一つの態様では、患者の疾患、障害または感染を治療しまたは予防する方法であって、インビトロ、インビボまたはex vivoでPNA分子を1以上の細
胞内に上記の方法によって導入すること、ならびに必要であれば(すなわちトランスフェクションがインビトロ、インビボまたはex vivoで行なわれる場合に)さらに該細胞をその患者に投与することを含む。該PNA分子は正に荷電したペプチドに複合化されている。
【0111】
本明細書で「治療」は、治療前の症状に関して治療されるべき疾患、障害または感染の1以上の症状を減らすか、軽減するか、除くことをいう。「予防」は、疾患、障害または感染の症状の発症を遅らせるか、防止することを言う。
【0112】
本発明の組成物はPNA分子を含有する細胞を含んでもよく、そのPNA分子は正に荷電したペプチドに複合化され、細胞の細胞質または核内に本発明の方法により内在化される。本発明はさらに治療、とりわけ癌の治療または遺伝子治療において使用される組成物に拡張される。
【0113】
本発明の別の態様によれば、PNA分子を含み、本発明の方法によって得られる細胞または細胞集団が提供され、 そのPNA分子は正に荷電したペプチドに複合化され、そ(
れら)の細胞の細胞質または核に内在化される。
【0114】
本発明の他の局面から上記の治療、好ましくは癌の治療または遺伝子治療に使用される組成物または薬剤の製造における、そのような細胞または細胞集団の使用が提供される。
この場合、該PNA分子は正に荷電したペプチドに複合化されている。
【0115】
本発明は、また患者の治療方法を提供し、その方法は該患者に本発明の細胞または組成物を投与することを含む。すなわち上記の細胞に分子を導入すること、このようにして調製した細胞を該患者に投与することを含む方法である。好ましくはそうした方法は癌の治療または遺伝子治療に使用される。
【0116】
インビボでは、当業界で一般的または標準的であるいかなる投与方式、例えば注射、注入、身体の内表面および外表面両方への局所投与を使用することができる。インビボ使用については、本発明は、光増感剤およびPNA分子が局在化された細胞を含むすべての組織、固形組織のみならず体液部位を含む組織について使用できる。いずれの組織も、光増感剤が標的細胞に取り込まれ、光が適切に届く限り、治療することができる。
【0117】
本発明の組成物は、医薬業界で知られている技術、手順に従って、好都合な方法、例えば製薬学的に許容される1以上の担体または賦形剤を使用して処方調製してもよい。
本明細書で「製薬学的に許容される」とは、 レシピエントに生理学的に受け容れられ
るだけでなく、組成物の他の成分と適合性のある諸成分をいう。組成物および担体もしくは賦型剤の特性、材料、用量などは、選択および所望する投与経路、治療目的などに基づいて、通常のやり方で選択してもよい。同様に用量もまた、通常の方法で決められるが、分子の特性、治療目的、患者の年齢、投与様式などに基づくであろう。 光増感剤につい
ては、照射により膜を破壊する可能性、能力も考慮されねばならない。
【0118】
あるいは上記の方法は、ハイスループット・スクリーニング方法、特に特定遺伝子のサイレンシング効果を解析するための方法用のスクリーニングツールを生み出すために使用してもよい。1以上の特定遺伝子に向けられるPNAは、上記の本発明方法を用いて調製され、使用されてもよい。したがって、PNAが細胞集団においてある遺伝子の発現を減
らすために使用される。生じる細胞集団は、遺伝子サイレンシングの下流効果を同定するためのスクリーニングツールとして標準的技術とともに用いてもよい。例えば標的遺伝子のサイレンシングによって影響される遺伝子もまた同定することができる。そのように同定された遺伝子は、必要に応じてスクリーニングの次の過程、例えば特別のシグナル伝達事象に関与している分子を決定するための過程でPNAを用いて標的としてもよい。
【0119】
本発明は、改変された遺伝子発現のパターンを用いる細胞のスクリーニング方法に関係し、該方法は、a)本発明の方法によってPNA分子を導入することによって得られる細胞もしくは細胞集団の標的遺伝子、または1以上のさらなる遺伝子の発現を解析すること、この場合、該PNAは特異的に標的遺伝子またはその複製または転写の産物に結合し、ならびに1以上のそうした遺伝子発現を改変する;および b)標的および/または1以上のさらなる遺伝子の発現を対照細胞、好ましくは野生型細胞における遺伝子発現に対して比較することを含むものである。
【0120】
発現パターンは当業界で知られた適切ないずれかの技術、具体的にはmRNA (またはcDNA)分子に結合するプローブを担持するマイクロアレイを用いて決定することができる。さらに各転写物の量を評価するために使用してもよい。対照細胞は、発現が比較されるすべての細胞であり、そのような細胞はPNAが投与されなかったコントロール細胞が好ましい。特に好ましくはそうした細胞が野生型細胞、例えばPNAの使用という遺伝子操作にかけられなかった細胞である。
【0121】
正常および化学修飾アンチセンスのオリゴヌクレオチドを用いて遺伝子発現を低減させる以前の試みは、アンチセンスオリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ分解、非特異的な作用の発生および/または不充分な標的親和力を伴う問題によって制限されてきた。PNAを
投与するために本発明の方法を用いることによって、これらの問題は解決された。したがって、本発明のさらなる局面で、細胞(または細胞集団)の遺伝子発現パターンを改変して、スクリーニングツール(例えばハイスループット・スクリーニング)として使用する細胞 (または細胞集団)を調製するための方法が提供される。該方法は、ある遺伝子の発現を阻害するか、低下させることができるPNA分子および光増感剤と細胞(または細胞集団)とを接触させること、ならびに光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光で細胞 (例えば細胞集団)を照射することを含み、ここで該PNA分子は、正に荷電したペプチドに複合化されている。本発明はさらにそうした細胞およびそうした細胞をスクリーニングする方法まで拡張され、 この場合そのような細胞の特異的な諸性質、具体的にはそのような細胞のmRNA発現レベルを、例えばマイクロアレイ上で調べられる。.
「改変された遺伝子発現パターン」により、該PNA分子が細胞核内に存在する結果、影響が及ぼされるのは、指定される遺伝子の転写または翻訳であることを意味する。
【0122】
遺伝子発現のかかる変化の結果として、他の遺伝子発現が影響されるかも知れない。したがって調査される遺伝子の正常な発現に影響を及ぼすことによって、他の遺伝子発現パターンの変化を決定することが可能である。これらの遺伝子を同定し、ならびに調査される遺伝子の発現がそれらの遺伝子に及ぼす影響を同定することは、遺伝子の機能、例えばそれらの下流機能(downstream functions)について結論をひきだすことを可能とするであろう。調査される遺伝子の正常な発現における変化によって影響を受ける遺伝子は、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされるだろう。しかし発現パターンにおける全体の変化は、正常細胞の機能における遺伝子の役割ならびにその誤制御の結果の指標を与えるであろう。
【0123】
当業界で周知の標準技術を用いて、問題とする遺伝子発現のダウンレギュレーション(downregulation)または消失(elimination)の効果を調べることは可能である。このこ
とは、例えば細胞 (または細胞集団)における機能上の変化、例えば細胞接着、タンパク
質分泌または形態的変化といった変化を探すことによってなし得る。代わりに遺伝子発現のプロファイルは、mRNAパターンおよび/またはタンパク質発現を、これ又知られて
いる標準的な技術を使用して分析することによって直接的に調べることができる。
【0124】
遺伝子発現を阻害または低下させることによって、該方法が適用されなかった細胞、すなわち野生型または正常細胞と比較すれば、問題とする遺伝子発現が低下することが理解されるであろう。遺伝子発現レベルの変化は、公知の標準方法によって決定できる。
【0125】
発現の完全な阻害があるかも知れず、その結果、遺伝子発現が検出されない、すなわちmRNAまたはタンパク質が何ら検出されないか、あるいは発現の部分的阻害、すなわち減少があるかも知れず、これによって遺伝子発現の量は、野生型または正常細胞よりも低いかもしれない。このことは特定配列を有するPNAの効果を、スクランブル配列(ヌクレオチドの組成は同じであるが、配列順序は異なる)を持つPNAの効果と比較することによって、評価でき、また制御できる。この技術が有用となるために発現の減少は、コントロールレベルの80%未満まで、コントロールレベルの、例えば<50%、 好ましくは<20、 10または5%である。使用される細胞は細胞集団が好ましく、その個々の細胞は、遺伝的に同一である。上記に論じたように細胞はいずれの細胞でもよい。
【0126】
この新しいPNA送達技術の開発以前では、PNAをそのような系に使用することは可能ではなった。この系でPNAを使用できることは、いくつかの利点がある。トランスフェクション作用剤を使用するといった、分子を細胞に投与するための公知の技術は、ラージスケールのスクリーニング系において使用される細胞のアッセイをしばしば乱して、その結果、遺伝子発現における破壊によっていずれの効果がひき起こされたのか、ならびにトランスフェクション技術そのものによっていずれがひき起こされたのかを確定することが困難になっている。PCIが仲介する送達ではそのような効果はほとんどなく、したがって適切なコントロールを使用することによってこのことを考慮することは可能である。
【0127】
細胞への分子送達に使用される他の物質のあるものは、スクリーニングのアッセイに非特異的な影響を及ぼすかも知れない。例えば遺伝子サイレンシング技術のために使用される低分子干渉RNA(siRNA)は、インターフェロン遺伝子の発現に影響を与えることが報告されていた(Sledzら. (2003), Natl. Cell Biol. 5(9), 834-839)。PNAの安定性
は高く、そのものとして遺伝子発現に有する作用は、一回の投与後であっても長引いている。
【0128】
PNAの有効性は、その阻害的作用がヌクレオチド分子との化学的相互作用に依存するために、特異的な酵素系とは無関係である。それ自体として阻害の度合いは、様々な種類の細胞において一定である。このことはsiRNAには当てはまらず、例えば特異的な酵素系に依存する。驚くべきことにPCI 技術は、遺伝子発現への非特異的な効果を生じさせるという予期される問題を有しないことが見出された。本発明の方法によって作り出された細胞または細胞集団は、本発明のさらなる態様を形成するライブラリーを作製するために使用することができる。
【0129】
本発明は、図を参照しながら、次の実施例でさらに詳細に記載されるが、これらは限定と解されるべきでない。
[実施例]
実験プロトコル
細胞株および培養条件
ヒト細胞株HeLa(頸部腺癌)、WiDr(結腸癌)、および293(胚腎臓)は、American Type Culture Collection(Manassas、バージニア州、米国)より得た。ヒトOHS(骨肉腫)およびFEMXIII(メラノーマ)は、Norwegian Radium Hospital (Fodstad ら, (1986), Int. J. Cancer 38(1), 33-40; Fodstad ら., (1988), Cancer Res. 48(15), 4382-8)で確立された。DMEM培地(Bio Whittaker、ベルビエ、ベルギー)で培養した293細胞株を除き、すべての細胞株をRPMI-1640培地(Bio Whittaker、ベルビエ、ベルギー)で培養した。
【0130】
両培地とも、10%ウシ胎仔血清(FCS; PAA Laboratories、リンツ、オーストリア)お
よび2mMのL−グルタミン(Bio Whittaker、ベルビエ、ベルギー)を加えたことを除き、
抗生物質を加えることなく使用した。細胞株は、5%CO2を含む加湿環境にて、37℃で培養し、インキュベーションした。すべての細胞株について、マイコプラズマ感染に関して試験を行ったが、すべて陰性であることがわかった。
【0131】
PNA設計
スクランブルPNAを含有するS100A4遺伝子に特異的なPNAは、Oswell DNA Service (サウサンプトン、英国)から得た。片方の末端もしくは両末端に修飾を施した(表1参照)。5'UTR(GeneBank accession number NM_002961, 2-15)に対する標的AUG開始領域(63-82)および2番目のエクソンのコード領域(98-118)は、先のPNA阻害に関する研究(Doyleら. , (2001), Biochem. 40, 53-64; Mologniら. , (1999), Biochem. Biophys. Res. Comm. 264, 537-543)及びリボザイムを用いるS100A4遺伝子抑制(Hovigら, (2001), Antisense Nucleic Acid Drug Dev. Apr 11(2), 67-75)をもとに、選択された。
配列は、BLASTサーチでヒトゲノムデータベースに対して位置合わせを行い、他の遺伝子に著しい相同性を持つものは除外した。ストック溶液(1mM)は、PNAを10%のトリフルオロ酢酸に溶かすことで調製し、PNAを確実に完全に溶かすために、使用前に50℃に加熱した。使用に先立ち、PNAをさらに滅菌水で希釈して使用液(10 μM)とし、−20℃に保った。
【0132】
siRNA設計およびアニーリング
Elbashirらにより提案された規則(Elbashirら, (2001), Genes Dev. 15, 188-200)に基づき、S100A4遺伝子のコード領域に対し、2つの標的を選択した。第一の標的はAA(N)19配列(GeneBank accession number NM_002961, 343-361)に対するもので、第二の標的はAA(N19)TT配列(264-282)とした。加えて、スクランブルコントロールsiRNAおよび蛍光標識したsiRNAを得た。siRNAはすべてEurogentec (スラン、ベルギー)よ
り購入した。標識は、両鎖で行い、FITCをアンチセンス鎖の5 '末端に、ローダミンをセ
ンス鎖の3 '末端に、行った。siRNA二重鎖の最適安定性を得るために、二重鎖のGC含
有量を40−70%の範囲に維持し、すべてのsiRNAはその3 '末端でdTdT突出を有するよ
うに合成された。この二つの標的配列も、BLASTサーチでヒトゲノムデータベースに対し
て位置合わせを行い、他の遺伝子に著しい相同性を持つものは除外した。乾燥したsiRNAオレゴヌクレオチドは、DEPC処理した水に再懸濁して100μMとし、−20℃で保管した。siRNAのアニーリングは、各RNAオリゴを別々にアリコットし、濃度50μMに希釈して行った。その後、100mMNaClの処理水において、最終濃度50 mM、pH7.5のトリス緩衝液、100mMNaCLとし、30μlの各RNAオリゴ溶液と15μlの5Xアニーリング緩衝液とを混合した。次に、その溶液を水浴中、95℃で2分間インキュベートし、続いて作業台上で、45分間徐冷した。非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、良好なアニーリングであったことを確認した。
【0133】
siRNA形質移入およびPNA電気穿孔法
OHS細胞は、上述の方法で培養し、形質移入前に6ウェルプレートで24時間培養して30−60%に密集させた。形質移入は、製造業者の取扱説明書に従って、Life Technologies Inc. (Gaithersburg、メリーランド州、米国) のリポフェクチン試薬、Invitrogen (Catlsbad、カリフォルニア州、米国)のリポフェクチン試薬、Boehringer Mannheim(マンハイム、ドイツ)の(N−(1−(2、3−ジオレオキシルオキシ)プロピル)−N、N、N、−トリメチルアンモニウムメチル硫酸塩(DOTAP)、Roche Diagnostics(マンハイム、ドイツ)のFuGene、Ambion(Austin、テキサス州、米国)のsiPORT Lipid Transfection Agent、およびSigma(St. Louis、ミズーリ州、米国)のポリ-L-リジン臭化水素酸塩(MW:15,000−30,000)を用いて、様々な濃度のsiRNAと共に、血清フリーのOPTI-MEM I培地(Invitrogen Corp、ペズーリ、英国)中で行った。
【0134】
電気穿孔法で、培養したOHS細胞を回収し、新しい培地に再懸濁した。およそ4×106の
細胞を、300μlの培地中でPNA(1−10μM)と混合し、氷上で10分間インキュベートした。950μF/250 V(ECM399、BTX、A Division Of Genetronics、カリフォルニア州)に
設定して、0.4cmのキュベット中で、細胞の電気穿孔法を行った。電気穿孔法後、細胞を30分間氷の上でインキュベートし、T25フラスコ中で希釈した。その後、5%CO2と共に37℃で24時間インキュベートし、蛍光顕微鏡検査法により分析した。
【0135】
PCI技術および処理
増感剤であるジスルホン化テトラフェニルポルフィン(TPPS2a)は、Porphyrin Products (Logan,ユタ州、米国)より購入した。まず、TPPS2aを0.1M NaOHに溶解し、その後、pH7.5のリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で濃度5mg/mlまで希釈し、最終濃度0.002M NaOHとした。光増感剤は、使用するまで、遮光し−20℃で保管した。照射において、TPPS2aで処理した細胞は、420nm付近に最高フルエンスを持つ4つの蛍光管(Osram 18W/67)列を収容できるLumiSource prototype(PCI Biotech AS、オスロ、ノルウェー)を使用して、青色光に露光された。
【0136】
使用に先立ち細胞は、6ウェルプレート内で、37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。
その後細胞を、種々のPNAと増感剤TPPS2a(1μg/ml)とともに18時間インキュベートした。取り込み後の細胞を新しい培地で3回洗浄し、増感剤フリーの培地で4時間インキュベートした。最後に、細胞を30秒間青色光に露光し、24、48、および96時間、再度インキュベートした。実験中は、細胞をアルミホイルで遮光した。
【0137】
蛍光顕微鏡検査
細胞は、FITC用(450−490nm BP510nm励起フィルター、510nm FTビームスリッター、および515−565nm LP発光フィルター)、ローダミン用(546/12nm BP励起フィルター、580nm FTビームスリッター、および590nm LP発光フィルター)、およびDAPI用(365/12nm BP励起フィルター、395nm FTビームフィルター、および397nm LP発光フィルター)のフィルターを備えたZeiss倒立顕微鏡、Axiovert 200で分析した。写真は、Carl Zeiss AxioCam HR、Version 5.05.10、およびAxioVision 3.1.2.1ソフトウェアを使用して作成した。
細胞小器官用の特異マーカーは、細胞内PNAの局在化を確認するために使用した。リソソームの局在化は、蛍光顕微鏡およびLysoTracker Red DND-99(Molecular Probes、Eugene、オレゴン州)を使用して決定した。核の局在化は、Hoechst H33342(Molecular Probes、Eugene、オレゴン州)を使用して決定した。
【0138】
フローサイトメトリー分析
細胞は、FACS-Calibur(Becton Dickinson)フローサイトメーターで分析する前に、トリプシン処理、遠心分離、400μlの培地での再懸濁を行い、50μmメッシュのナイロンフ
ィルターでろ過した。各サンプルに対し、10.000 イベント(events)ずつ収集した。FITC標識PNAは、アルゴンレーザー(15mW、488nm)で励起後、510−530nmのフィルターを通して、測定した。死細胞は、前方散乱-側方散乱をゲートすることにより、単一生存細
胞から識別した。データは、CELLQuestソフトウェア(Becton Dickinson)で解析した。
【0139】
ウェスタン・ブロッティング法
タンパク質可溶化液は、2g/mlのペプスタチン、アプロチニン(Sigma Chemical compa
ny、St Louis、ミズーリ州)、ロイペプチン(Roche Diagnostics、 マンハイム、ドイツ)とともに、150mM NaClおよび0.1%NP−40を含有するように、50mMのTris-HCl (pH 7.5)中で調製した。各サンプルの全タンパク質可溶化液(30μg)を、12% SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、製造業者の取扱説明書に従って、イモビロン-P膜(Millipore、Bedford、マサチューセッツ州)上に転写した。ローディングコントロール(loading control)および転写対照(transfer control)として、膜を0.1%のアミドブラックで染色した。その後、膜は、前に、10%粉ミルクとともに0.5M NaClおよび0.25% Tween 20(TBST)を含有する20mM Tris-HCl(pH 7.5)(ブロッキング溶液)中でインキュベートした。次いで5%の粉ミルクを含有するTBST中で、ウサギ多クローン性の抗S100A4(1:300希釈、DAKO、Glostrup、デンマーク)およびマウス単クローン性抗α−チューブリン(1:250希釈、Amersham Life Science、 バッキンガムシャー州、英国)を用いてインキュベートした。
【0140】
洗浄後、免疫反応性タンパク質を、二次抗体が接合した西洋わさびペルオキシターゼ(1:5000希釈、DAKO、Glostrup、デンマーク)およびエンハンストケミルミネッセンスシステム(Amersham Pharmacia Biotech、バッキンガムシャー州、英国)を用いて視覚化した。S100A4タンパク質レベルは、コントロール・サンプルの百分率として報告し、α-チューブリンはローディングコントロールとして使用した。
MTSアッセイを使用した細胞生死判別測定
100μlの細胞を96ウェルプレートに仕込み、37℃で24時間静置して増殖させた。細胞を含有していないネガティブコントロールも含めた。各ウェルに100μl当たり20μlのMTS試薬(テトラゾリウム塩)を加え、暗所、37℃にて2〜4時間インキュベートした。その後、その吸光度を490nmで測定した。
【0141】
リアルタイム逆転写酵素PCR
細胞は、上記のように培養して処理した。光化学処置の後、細胞を様々なPNAで96時間インキュベートし、その後、RNA単離のため回収した。細胞の総RNAは、GenElute
Mammalian Total RNA Miniprep Kit(Sigma-Aldrich、シュタインハイム、ドイツ)で製造業者の取扱説明書に従って単離した。CDNA合成のために、50pmolのオリゴ-dT、3μgの総RNAおよびdH2Oを含めた12μlのプライマー混合物を、各サンプルに対して調製し
た。その混合物は、65℃で5分間変性させ、すぐに氷上で冷却し、18μlの反応混合物と混合して、最終濃度を1×第一標準緩衝液(インビトロゲン)、10mM DTT、0.3mM dNTP、6.5
ng/μl酵母tRNA、200U(6.6U/μl)スーパースクリプトII酵素とした。CDNA合成は
、42℃で50分間行い、その後72℃で15分間不活性化した。
【0142】
PCR分析のために、各cDNAサンプルから3つの10倍希釈液を調製し、すべての反応を3連で行い、1つのcDNAサンプル当たり合計9個のPCRチューブを作った。PCRは、最終濃度3mM MgCl2、200μM dNTP、1×PCR緩衝液、0.5 U Platinum Taq、2μl cDNA、S100A4遺伝子に特異的な300nMプライマー(順方向プライマー、5' −AAGTTCAAGCTCAACAAGTCAGAAC−3'(配列ID:No. 9)および逆方向プライマー、5'−CATCTGTCCTTTTCCCCAAGA−3'(配列ID:No. 10)を使用して、総体積25μlで行った。加えてすべての反応は、iCyclerについて必要なときは、1nMフルオレセインでスパイクした。リアルタイムの結果は、検出試薬として最終希釈濃度1:100000のSYBR Green I(Molecular Probes, Eugene、オレゴン州)を用いて得られた。増幅サイクルは、以下の通りである。95℃で5分間、最初の変性を行った後、生成物増幅を95℃で15秒間、60℃で30秒間からなる40サイクルで行った。PCR生成物のリアルタイム検出は、Bio-Rad Laboratories(カリフォルニア州)によって製造された光学式96ウェルプレートおよびiCycler iQ検出システムを用いて行った。各サンプルは、3つ一組で構成された。誤った生成物あるいはプライマー二量体(SYBRGreen取り込みにより一様に標識されており、蛍光測定値に影響を与える)の増幅を検出するため、融解曲線、すなわち変性による蛍光損失が、PCR増幅プロトコルの最後に組み込まれた。
各サンプルの融解曲線プロファイルは、標準サンプルに対して得られたものと比較した。
【0143】
cDNAアレイ
本明細書で使用するマイクロアレイは、Micro Grid II robotic printer(Bio Robotics、ケンブリッジ、英国)を使用し、社内で作製した。これらの15kヒトcDNAアレイは、アミノシラン被覆スライド(CMT GAPS、Corning Life Sciences、Corning、ニューヨーク州)上にプリントされた。このアレイの内容に関する詳細は、以下を参照のこと。
http: //www.med.uio.no/dnr/microarray/index.html.
PNA精製および標識
PCIおよび様々なPNAで処置した培養細胞から得られた総RNAは、上述のように単
離された。S100A4遺伝子サイレンシング(silencing)の結果として考えられ得るダウン
ストリーム効果を分析するため、活性PNA(PNA382または453)およびスクランブルPNAまたはコントロールPNA(PNA452(対照)または454(スクランブル))で処置した細胞のcDNAで、各アレイをハイブリダイズした。
【0144】
cDNAは、各細胞培養物から得た50μgの総RNAから生成され、逆転写の間にCy3−
またはCy5−dCTP(Amersham Pharmacia Biotech AB)で様々に標識された。反応混合物は、定着したオリゴ-dT20merプライマー(4μg)、40 U RNAsin (Promega、Madison、WI)、第一標準ストランド緩衝液、0.01 M のDTT、0.5mMのdATP, dCTP, dGTPおよび0.2mMのdTTPを含有していた。混合物は、65℃の水浴中で5分間インキュベートした。その後、チューブを42℃のヒートブロックに移し、400U Superscript II(Invitrogen、フローニゲン、オランダ)に加えて、4μl(4nmol)のいずれかの蛍光団を、それぞれのチューブに加えた。60分後、5 μl の0.5 M EDTA (pH 8.0)で、反応を不活性化した。残余RNAを加水分解するために10μlの1M NaClを加え、チューブを65℃で60分間インキュベートした。25μlの1M Tris-HCl(pH 7.5)を加えて、混合物を中和した。標識Cy3−cDNAおよびCy5−cDNAは0.5×TE−緩衝液で希釈し、取込まれていない色素を除去して、Microcon YM カラム(Ambion, Millipore Corporation、Bedford、マサチューセッツ州)によりサンプルを濃縮した。
【0145】
スライドのプレハイブリダイゼーション
スライドは、150kJで60秒間、紫外線で架橋した。使用直前にスライドをプレハイブリ
ダイゼーションして、スライド表面上にある反応性官能基を不活性化し、結合していないDNAを洗い流した。プレハイブリダイゼーション溶液で満たした小スライドホルダーを、30分間50℃で予熱した。ハイブリダイゼーション溶液は、1%(w/v)のウシ血清アルブミン(BSA)フラクションV(Sigma-Aldrich)、3.5×SSCおよび0.1% SDSを含有していた。
スライドは、インキュベーションの後、直ちに50℃で25分間、予熱溶液中でインキュベートした。スライドは清浄なスライドラックに移し、室温にて超純水中で撹拌しながら2回洗浄した。DNAを一本鎖形態に変性するため、該スライドを沸騰直後の湯中で2分間撹拌し、その後プロパン-2-オール中に素早く浸して30秒間撹拌した。スライドは、遠心分離により乾燥させた。
【0146】
ハイブリダイゼーションおよびスキャニング
45μlのハイブリダイゼーション混合物は、15μlの各標識プローブ、16μgのポリA(Amersham Pharmacia Biotech AB)、4μgの酵母tRNA、1.25×Denhart溶液、5μgのBSA、3.5×SSC(pH 7.5)および0.3%のSDSからなっていた。最終混合物は、LifterSlip(Erie Scientific Company、Portsmouth、ニューハンプシャー州)下のマイクロアレイ・スライドに適用する前に、100℃で2分間加熱し、13Kで10分間、遠沈した。次いでスライドをArrayITハイブリダイザーション・チャンバー(Telechem、 Sunnyvale、カリフォルニア州)に収納し、水浴中65℃で一晩インキュベートした。スキャニングに先立ち、カバーグラスを0.5×SSCおよび0.1%SDSの溶液中で取り外した。その後、室温で5分間、スライドを同じ溶液中で二回洗浄し、続けて2回、0.06×SSC洗浄溶液中で5分間洗浄した。スライドは最終的に遠心分離により乾燥した。スキャニングは、ScanARRAY 4000(Packard Biosciences、Biochip Technologies LLC、 Meriden、CT)スキャナーで行い、GenePix Pro 4.0ソフトウェア(Axon Instruments Inc.、Union City、カリフォルニア州)を使用して、その画像からデータを得た。BASE(Lao Hら BioArray Software Environment: A Platform for Comprehensive Management and Analysis of Microarray Data Genome Biology 3(8): software0003.1-0003.6 (2002) .)を使用して、データを保存、解析、処理し、ならびに各スポットについてのバックグランドを補正した強度は、スポットにおけるピクセル平均値から局所バックグラウンド中のピクセル中央値を差し引くことにより計算した。
【実施例1】
【0147】
PNA分子の細胞取り込み
最初の一連の実験は、細胞取り込みの問題、すなわち様々な正味電荷を有する短ペプチドに結合したPNAが、種々のヒト癌細胞株の細胞膜に貫通するのか否かを取り扱うものである。細胞内にある化合物を検出するために、PNAをNまたはC末端のいずれかで、FITCを用いて標識した。表1にはその標的配列、化学修飾および荷電を含め、本研究で使用されたPNAが詳述されている。
【0148】
細胞取り込みは、フローサイトメトリーにより評価した。正味電荷が負のペプチドに結合しているPNA(PNA383)は、OHS細胞内に貫通していない(図1、−1の正味電荷)。負に荷電した分子の取り込みは、24時間後も実質的に起こらないため、電気穿孔法により細胞をトランスフェクトする可能性を検討した。この場合でも、PNA取り込みはほとんど起こらなかった。負に荷電したPNAとは対照的に、電荷を帯びておらず、かつ、どのペプチドとも結合していない中性PNA(PNA456)ならびに正味の電荷が中性であるペプチドに結合しているPNA(PNA385)は、ともに低レベルで内在化する(図1、PNA385の正味電荷は0、PNA456は示されていない)。
【0149】
次に正に荷電したPNAを調査した。PNAが正味の電荷が+1であるペプチドに結合すると(PNA384)に、取り込みが明確に観測された(図1、+1の正味電荷)。しかしながら、正味の電荷を+5に増加させると(PNA381)、+1のPNAに比べて細胞取り込みは
ほぼ5倍増加することを観測した(図1、+5の正味電荷)。
【0150】
OHS、FEMXIIおよびHela細胞で行った上記実験の結果が、表2にまとめられている。
PNA分子の存在位置の確認には、染色法を用いた。PNA分子に結合した標識の蛍光を使用して、細胞内のPNA分子の位置を確認した。Hoechst染色法およびLysoTracker染色法を使用して、それぞれ核およびリソソームコンパートメントを調べた。図2Aは、PCI
後にPNA分子が細胞内に分布したことを示している。図2BおよびCは、PCI後に、PNA分子が核に分布したことを示している(すなわちその分布はHoechst染色法と一致する)
。
【0151】
細胞取り込みがNLSペプチドのコンホメーションに依存するのか、あるいは電荷のみに
依存するのかを調査するため、+5の正味電荷を有し、29アミノ酸鎖長のミトコンドリア移入シグナルにPNAを結合させた(PNA382)(図3B)。PNA381(図3A)に対する第二のコントロールとして、もとのNLSアミノ酸配列、PKKKRKV(配列ID:NO.3)を、代替のGHHHHHG (+5)配列(配列ID:No.5、PNA457)で置換した(図3C)。3つの異なるPNA構築物についての細胞取り込みの相対レベルは、顕微鏡検査で明らかにされた相対レベルと同様であった。すべての場合において、PCI後にPNAは核に局在化していた。このこ
とはHeLaおよびFEMXIII細胞において実施したときも同様であった。(図3DおよびE)。
【0152】
NLSの配向に関係しているかも知れない細胞取り込みにおいて、考えられるあらゆる差
異を検討するために、N末端(PNA453)およびC末端(PNA381)の両方にペプチドを結合させた。取り込みレベルに違いはないことが観測できた(図4)。種々の細胞株中で
、様々なPNAとその細胞取り込みについても試験した(HeLa、WiDr、293、OHS、FEMX5
、SW620、HCT116、SaO)が、目立った変化は見られなかった(図5)。
【0153】
我々のデータは、キメラ的なPNAの取り込みがペプチド分子の正味電荷に強く依存しており、アミノ酸コンホメーションには依存しないということを示している。本明細書では、共役したペプチド上の正の正味電荷が高くなると、PNA分子の取り込みが増加することを示した。
【実施例2】
【0154】
PNA取り込み機構および局在化
改変PNAの取り込み機構を評価するため、様々な温度のもとでのそれらの取り込みを検討した。その結果、37℃では取り込みが見られるが、4℃では内在化が見られないこと
がわかった(図6)。さらに、蛍光顕微鏡検査法のデータは、ちょうど核膜付近における
識別範囲に、粒状の蛍光スポットを示した。最後に、PNA構築物およびエンドソーム/リソソーム(LysoTracker Red DND)のマーカーの細胞内位置の間に、完全な一致が見ら
れた(データは示していない)。
【0155】
これらの結果は、エンドサイトーシスが関係していることを示している。これは、被膜されたベシクルを介する内在化により生じたかも知れない。本実験では、PNAの取り込みは4℃で阻害された。これらの結果は、KuismanenおよびSaraste(Kuismanen Eら (1989) Methods. Cell. Biol. 32, 257-274)の知見により支持されており、エンドサイトーシスが低温で阻害されることを示している。温度依存性は、さらにPNAとLysoTrackerの
重複した局在化により支持される。
【0156】
エンドサイトーシスは、いくつかの主要なタイプに分けることができる。すなわち、クラスリン依存性レセプター媒介、クラスリン非依存性、およびファゴサイトーシスである。しかしながら、エンドサイトーシスのタイプを特定するためにはさらなる研究が必要である。
【0157】
クラスリン依存レセプター媒介エンドトーシスの証拠がないことから、本実験で使用したPNA分子はクラスリン非依存エンドサイトーシスにより取り込まれたということが示唆される。PNAは、同じ電荷を持つ様々なペプチドシグナルに結合しており、その結果は同一である。これより取り込みが特定レセプターに依存していないことを示した。結論として、正に荷電したPNA分子は、負に荷電したPNA分子よりも、細胞膜と緊密な結合を持つ可能性が高く、それが細胞内取り込みを増加させるのであろうということがいえる。
【実施例3】
【0158】
PCI処理の効果
顕微鏡検査法のデータから、中性/正の正味電荷を有するPNAがエンドソーム/リソソーム内に局在化していたことを示された。顕微鏡検査法のデータは、PCI処理後に、P
NA構築物がエンドソーム/リソソームから核へ転移していることを明示している。PNAの再局在化を確認するために、上記のHoechst核染色法も用いた(図2および図3参照)
。
【実施例4】
【0159】
PNA分子の核内輸送
核をベースとするPNAターゲティングには、大きな障壁を克服する必要がある:最も重要なものは、細胞膜、細胞内の膜および核膜である。エンドソーム/リソソームからのPNAの放出に関して、NLSペプチドの局在化能力およびNLSペプチドの配向が核局在化に重要であるか否かを調べることとした。これらの問題に取り組むために、NLSペプチドを
PNAにNおよびC両末端で結合した。顕微鏡検査法のデータは、NまたはC末端のいずれかでNLSペプチドに結合したPNAが、核に転移していることを示した(図4)。露光時間およびFITC/PNA構築物の濃度を増加することで、蛍光シグナルの増加が観測された。タイプの異なる蛍光プローブ間にあり得る食い違いを検証するため、PNAの蛍光体をFITCからローダミン(Rho)に交換した。しかしながらその場合には、局在化に明らかな変化
は見られなかった(図7)。PNAのNまたはC末端のいずれか一方のみにもFITCを結合し
てみたが、同じく位置または効率に変化はなかった(図4)。
【0160】
次に、PKKKRKV(配列ID:No.3)の核局在化能力が、単にPNAの電荷の変化によるも
のか、あるいは特異的なアミノ酸配列によるものなのかについても調べた。NLSペプチド
の核局在化能力をコントロールするために、同一の正味電荷(+5)と置換アミノ酸を持つ代替ペプチドを有するPNAを試験した(PNA457、図3C)。中性PNAの核内輸送(
PNA456および385、それぞれ図8CおよびB)について調査するとともに、ミトコンドリ
アおよびペルオキシソームへ向けてターゲティングさせる移入ペプチドシグナルに結合したPNA(PNA382、PNA384、それぞれFigure 3Bおよび8D)に関しても調べた。驚
くべきことにそれらのデータは、PCI処理後に、試験を行った中性および正に荷電したP
NAすべてが核に転移したことを示した。
【0161】
要約すると、以上の結果により、中性/正の正味電荷を持つPNAが、自発的に高いレベルで培地からリソソームへ転移するだけでなく、光化学処理後には細胞質から核に転移することも示された。その効率は、中性PNAおよび正に荷電したPNAの間で変化するが、核の取り込みではなく、恐らく細胞の取り込みにおける変動の直接的な影響によるものであろう。
【実施例5】
【0162】
PNA/PCIを用いたS100A40E発現の阻害
阻害剤としてのPNAの機能を評価するために、S100A4遺伝子に沿う3つの異なる標的
部位に指向するPNAを合成した。5'-UTR (PNA381)の末端に対しターゲットしたキメラ14bpホモプリンPNA、ならびに開始コドン(PNA200)および第二エクソン内のコ
ード領域(PNA452)を標的とさせた2つの20bp混合塩基PNAを選択した。用量依存的な様式で、S100A4をダウンレギュレートできるか否かを調べることを目的とした。したがって96時間、OHS細胞を様々な濃度(100〜2000nM)のPNA200にさらして、生存率を確認し、ウェスタン・ブロッティングによりS100A4タンパク質の存在を確認した(図9AおよびF)。データは、PNA200を使用し、濃度100nMから始まるシグナル減少とともに、S100A4活性の用量依存的阻害を明示している。関係する典型的なコントロールを図9Dに示した。さらにこの結果は、S100A4発現の最大阻害が1000nMのPNA200で起こることを示している。細胞生存率(viability)の測定としてミトコンドリアの構造保全性を測定するMTSデータによれば(詳細は実験プロトコルを参照)、使用するPNA濃度が2000nM未満の時には毒性は観察されない(図10、5および6行)。それゆえ、その後の全実験ではPNA濃度1000nMを選択した。
【0163】
S100A4タンパク質レベルが時間依存様式でダウンレギュレートされるか否かを評価するため、細胞をPNAとともに24、48、96時間インキュベートした(図9B)。24時間後、S100A4タンパク質レベルは、45%(PNA200)および35%(PNA381)だけ減少した。より長い暴露時間(48時間)では、発現レベルはコントロールと比較して、それぞれ25%(PNA200)および35%(PNA381)まで低下した。最後に、PCI後にPNAと96時間インキュベートした細胞においてS100A4発現は、コントロールと比較して、10%(PNA200)および20%(PNA381)に落ち込んだ(図9B、C、およびE)。これらのデータから、AUG開始部位(PNA200)および5’ UTRの末端(PNA381)の両方を標的としたPNAがS100A4発現を阻害し、AUG開始部位に向けられたPNAが最も効率的な阻害剤であることが示された。対照的にウェスタン・ブロッティングによる測定では、第2エクソン(PNA452)を標的指向したPNAによるS100A4発現の阻害は何ら検出されなかった(図11)。
【0164】
S100A4 mRNAの関連発現も調べた。PNA-AUG、PNA-5'-UTR およびスクランブルPNAを用いるPNA/PCI処理後に、総RNAをOHS細胞から単離した。スクランブルPNAに加えて、PCI処理したOHS細胞をコントロールとして選択した。すべてのサンプルを逆転写し、次いでcDNAの希釈物についてSYBRGreen Iを検出試薬として用いるリアルタイムPCR分析を行った。同じ希釈物から得られたCT値は、遺伝子発現に関してほとんど差
異がないことが示された。結果を表3に示した。
【実施例6】
【0165】
siRNAを用いたS100A4発現の阻害
S100A4発現を阻害するPNAの機能を、S100A4発現を阻害するsiRNAの機能とを比較した。siRNAのトランスフェクション効率および分布を解析するために、4つのsiR
NAのうち1つをローダミンおよびFITCで標識した。次に様々なトランスフェクション試
薬および濃度を試験した。顕微鏡検査法のデータからは、FuGene、Lipofectamin、siPORTまたはLipofectinのいずれを用いても取り込みは起こらないことが示された。しかしながら、DOTAPおよびポリ−L−リジンの両方では取り込みが見られ、また、ポリ-L-リジンが
最も効率的な試薬であった。それゆえポリ−L−リジンを以後のすべての実験に使用した
。
【0166】
本実験では、siRNAをElbashirら((2001), Genes Dev. 15, 188-200)に従って設計した。選択した標的遺伝子に対して設計されたsiRNAに加えて、コントロールsiRNAをスクランブルsiRNAを作成することにより設計し、GenBankに対してBLASTサーチを行い、偽りのハイブリダイゼーションを除外した。OHS細胞は、様々な時間と濃度でsiRN
Aとともにインキュベートし、次いでS100A4タンパク質レベルの測定をウェスタン・ブロッティングによって行った。しかし、S100A4遺伝子の二つの領域を標的として20、50、100nM siRNAを用いた24、48、96時間後のS100A4発現において、いかなるダウンレギュレーションも観測されなかった(データは示さず)。
【0167】
PNAは、安定した三重鎖構造、すなわちDNAとストランド侵入(strand-invaded)もしくはストランド置換(strand displacement)の複合体を形成する自身の能力により
、転写過程を抑制することで作用するかも知れない。そのような複合体は立体障害を生じ、PNAポリメラーゼの安定な機能を阻害し、それゆえに抗原性作用剤として働く機能を有している可能性がある。翻訳レベルでは、PNAのアンチセンス効果は、RNAプロセッシング、細胞質への輸送、または翻訳のいずれかを立体的にブロックすることに基づいている。PNAがRNase Hを活性化できないことから、非標的mRNAが望まない分解を受ける可能性を排除することができる。
【0168】
加えて、通常は負に荷電した高分子と結合するように作用する、細胞内外の多数のタンパク質とPNAとが結合することは、負に荷電した主鎖の不足のために阻まれる。PNA381の抑制作用は、5'−UTRの末端を標的としたPNAがルシフェラーゼmRNAにおいて
効率的な阻害剤であることを示したDoyleら(2001, 上記文献)と一致している。さらに
、無細胞抽出物中で行った翻訳実験により、PNAがRNAのAUG開始コドン付近を標的
としたときに、用量依存的様式で翻訳を阻害することが示された(Knudsen & Nielsen (1
996) , Nucleic Acids Res. 24, 494-500)。PNAがコード領域中の配列に対して標的
としたときには、効果は何も見られなかった。これらの結果は、S100A4のAUG開始部位に
対して標的としたPNA200ならびにS100A4の第2エクソンに対して標的としたPNA452
についての本実施例の結果を支持している(図9および11)。
【0169】
スクランブルPNA201/202に曝された細胞、ならびにPNAを含有しないが増感剤を有するコントロール細胞でのS100A4発現のパターンは、処置しない細胞と実質的に一致する。加えて、OHS細胞において増感剤を使用しまたは使用せずに、S100A4発現を試験した
。この場合でもタンパク質レベルでの違いは観察されなかった(図11A)
【実施例7】
【0170】
リアルタイム逆転写酵素PCR分析
遺伝子サイレンシング(gene silencing)の根本的な機構を解明するため、リアルタイムRT−PCRにより、PNA/PCI処理前後における相対的なS100A4 mRNAレベルを測定
した。その目的は、我々のPNA分子がその作用を、転写レベルまたはタンパク質合成過程の他のあるレベルで遂行するかどうかを調査することにあった。増幅の図から見て取れるように処置後96時間で、PNA/PCI処理したサンプルから得られたCT値と処置しなか
ったコントロールから得られたCT値との間に明確な違いはなかった(図12)。スクランブルPNA201が、PNA200およびPNA381それぞれについての内部PNAコントロール
として使用された。
【0171】
以前、Demidovら((1995) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 92, 2637-2641)は、PNAの二重鎖DNAに結合する速度論および機構を研究した。その結果は、三重鎖侵入複合体(triplex invasion complex)の形成が、ホモプリンDNA標的に結合しているホモピリミジンPNAに依存することを示した。ホモプリンRNAを用いた場合を除き、二重鎖侵入複合体(duplex invasion complex)と呼ばれる第二の複合体も形成され得る。これまで
の三重鎖は、シトシンに富むホモピリミジンPNAとのみ形成されるようである。
【0172】
これらの結果から、二重鎖DNAを標的とすることができる(今回使用の)唯一のPNA分子は、5'−UTRの末端を標的としたホモプリンPNA381であることが示唆される。しかしながら、DNAおよびRNA双方に結合できるようにホモプリンPNA(PNA381
)を設計したにもかかわらず、リアルタイムRT−PCRのデータは、それが翻訳レベルで機
能していることを示している。混合の塩基組成を有する他のPNAは、転写過程を阻止するために必要とされる三重鎖もしくは二重鎖侵入複合体を形成することができないという理論に従う。このことはリアルタイムRT−PCRの結果と一致し、混合塩基PNA(PNA200)は転写過程を阻害することができないという説を支持している。
【実施例8】
【0173】
マイクロアレイ解析
遺伝子転写に対するS100A4阻害の想定される影響をCDNAマイクロアレイ実験におい
て調べるため、スクランブルPNAを除き全く同じ処理を同じ時間、施した細胞とPNA処理細胞とを比較した。その遺伝子上の二つの標的配列に向けられたPNA分子が試験された。すべての実験は二つ一組で行った。少数の遺伝子のみが、2倍を超える発現におい
て相対的な変化を一貫して示した。階層的クラスタ分析を使用することで、S100A4レベルで最大の低下をもたらすPNAで処理されたときに一貫してアップレギュレーションのパターンを示し、効率の悪いPNAで処理されたときにより小さなアップレギュレーションを示す一クラスタを確認した。このクラスタは、9つの命名された遺伝子(GAS2、UBE4B、FREQ、SHC1、PON3、CTSD、WNT3A、SCDおよびRAB6A)を含有していた。これらの遺伝子は
、ストレス応答、アポトーシスおよびカルシウム結合を含む過程に関与する遺伝子である。転写ダウンレギュレーションのレベルは、リアルタイムPCRを使用して検証した。観察された変化が、標的遺伝子に対するPNAの配列特異的作用の結果であることを示すため、リアルタイムPCRを上記過程の各段階について別々に行ったところ、この結論を支持する結果となった(データは示さず)。
【0174】
系統的な遺伝子サイレンシングにPNA/PCI/LSを利用できることについての第一の
証明として、cDNAマイクロアレイを使用し、全体的なmRNA発現レベル変化を調べた。遺伝子発現に及ぼすPNA添加および/または光化学処理の効果は現在知られていないため、スクランブルPNAで処理した細胞を参照チャンネルとして使用してマイクロアレイ実験を行った。これは処理法に潜在する紛らわしい影響を最小とするために行った。処理操作、暴露時間などにおける変動が少しでも起こり得るため、処理の過程での各段階でリアルタイムPCRを実施し、観察された発現変化がS100A4に特異的な効果であるよりも処理の結果であることを除外した。特に、PCIはアポトーシスを含む過程に関係した転写の変化を引き起こすことが可能であった(Ferreira S. D.ら, 2004, Lasers Med Sci 18(4) : 207-12)。それゆえ、PNA/PCI/LSは、そのような過程に関係する遺伝子の遺伝子サイレンシングをモニタリングするには、一般的な手段としてあまり適さないと考えられていた。しかしながらこの方法は、標的配列設計の容易さ、PNA安定性、大量の合成と投与において多くの興味深い特徴を備えており、この系は時機を得た投与により細胞株のインビトロ系統的サイレンシングに関しての良い選択肢となる。siRNA遺伝子サイレンシングもまた実施可能性の高い方法であることが示されているが、標的配列設計および安定性に関わる問題が多少伴う(Amarzguioui Mら, 2004: Biochem. Biophys. Res. Commun. 316(4) : 1050-8)。
【0175】
遺伝子発現を調整するS100A4の機能は一般には知られていないが、これは細胞骨格再構築に関わることを示唆されるタンパク質であり、転写レギュレータというよりむしろそのような細胞構造タンパク質であるので、比較的小さな影響が予期される。したがって、観察された転写レベルの変化は、増幅および影響を受ける遺伝子の数に関して、比較的小さかった。一貫した変化が観察された遺伝子の中で、フリクエニン(frequenin)は特に興
味深く、このものは4個のEFの手を有するカルシウム結合タンパク質である(多クローン
性抗体はwww.abcam.com で得られる)。
【実施例9】
【0176】
メラノーマ(FEMX V)細胞株におけるチロシナーゼ遺伝子(TYR)のPNA/PCIを用いた遺伝子サイレンシング
チロシナーゼ(TYR)、チロシナーゼ関連タンパク質1(TRP-I)、および小眼球症転写
因子(MITF)を含め、メラニン生合成に関係する様々な遺伝子に対するPNAを設計した。その目的は、PNA/PCI法を使用することにより3つすべての遺伝子をサイレンスさせることにある。TYR、TRP-IおよびMITFは互いに関連しており、このことがモデル系として興味深いものにしている。これらの遺伝子は互いに関連しているため、MITFをノックダウンする場合、TYR/TRP-1タンパク質レベルでの想定可能な影響を調べることは、極めて興味深いものになるであろう。
細胞株および培地条件
FEMX V(メラノーマ)細胞は、Norwegian Radium Hospitalで確立された。細胞はRPMI
−1640培地(Bio Whittaker、ベルビエ、ベルギー)で培養された。培地は、10%ウシ胎
児血清(FCS:PAA Laboratories、リンツ、オーストリア)および2mMのL-グルタミン(Bio Whittaker、ベルビエ、ベルギー)を加えたことを除き、抗生物質を加えることなく使用した。細胞は、5%CO2を含む加湿環境にて、37℃で増殖、培養された。すべての細胞株について、マイコプラズマ感染に関して試験を行い、すべて陰性であることがわかった。
PNA設計
スクランブルPNAを含め、チロシナーゼ(TYR)遺伝子に特異的なPNAは、Oswell DNA Service (サウサンプトン、英国)から得た。修飾は両末端で(FAMおよびNLS配列
を用いて)行った。AUG開始コドンに対する標的は、先のPNA阻害研究に基づいて選択
した。配列は、BLASTサーチでヒトゲノムデータベースに対して位置合わせを行い、他の
遺伝子と著しい相同性を有するものを除外した。
【0177】
以下のPNA配列を使用した。
CTTTAGTTATAGCTCTCCCC (TYRSCR−配列ID:No. 11)
AATGTTTGAAGAACTCAATA (TYR5UTR−配列ID:No. 12)
CAGCCAGGAGCATTCTTCCT (TYRATG−配列ID:No. 13)
各PNA分子は、N末端(5'末端)でFAM、C末端(3'末端)でNLSペプチドを用いて標識した。すなわち、FAM−L−L−PNA−L−L−PKKKRKVであり、Lはリンカー(2−アミノエトキシ−2−エトキシ酢酸(AEEA)である。
【0178】
ストック溶液(1mM)は、PNAを0.1%のトリフルオロ酢酸に溶解することで調製し、PNAの完全溶解を確実にするために使用前に50℃に加熱した。使用に先立ち、PNAをさらに滅菌水で希釈して使用液(100 mM)とし、−20℃に保った。
【0179】
実施例6に記載したPCI法を使用して、PNA分子をFEMX V細胞に投与し、タンパク質レベルをウェスタン・ブロッティングにより決定した。
図13に示した結果は、TYRがPNA/PCI法によりサイレンスされ得ることを示しているが、さらなる最適化によって、より強力な遺伝子サイレンシング効果がもたらされると考えられる。特にレーン番号7は、開始コドン領域にターゲティングされた10mM PNAを用いたインキュベーション後においてTYRタンパク質のダウンレギュレーションを示してい
る。
【図面の簡単な説明】
【0180】
【図1】図1は、OHS、HeLaおよびFEMXIII細胞へのFITC-PNA 取り込みについてのフローサイトメトリー分析を使用し、PNA内在化への電荷の作用を示す。細胞を種々の1000nM FITC-PNAとともに24時間、37℃でインキュベートし、次いで「実験プロトコル」に記載したようにフローサイトメトリーで分析した。
【0181】
"-1" PNA383, "0" PNA385, "+1" PNA384, "+5" PNA381.
結果は、平均蛍光強度(mean fluorescence intensity)対 種々のPNA分子の正味電
荷として表示されている。バーは、各6並行(parallels)を有する、3つの個別実験を示す。誤差バーは平均の標準偏差を示す。
【図2】図2は、OHS細胞でPNA 200を用いるPCI処置を使用し、FITC-PNA-NLSの細胞内小胞から核内への再局在化を示す。A) PCI 処置(3時間)の前および後 , (B) PCI処置の前(i) 位相差顕微鏡下, (ii) FITC-PNA染色使用, (iii) LysoTracker 染色使用, (iv) Hoechst 染色使用および (v) 組合わせ染色を示す, および (C) PCI処置後で、Bのように染色。
【図3】図3は、異なるタイプの細胞において種々のPNA分子を使用し、PCI後の核局在化を蛍光顕微鏡で示す。細胞を種々の1000nM FITC-PNAとともに24 時間、インキュベートし、次いで「実験プロトコル」に記載されたように、蛍光顕微鏡で分析した。(A) OHS-PNA-NLS (PNA381), (B) OHS-PNA-MITO (PNA382), (C) OHS-PNA-GHHHHHG (PNA457), (D) HeLa-PNA-NLS (PNA381), (E) FEMXIII-PNA-NLS (PNA381)。 結果は、左から右へ位相差イメージ, FITC-PNA, Hoechst, LysoTracker染色である。
【図4】図4は、PNAの核への送達が使用した蛍光団(fluorophore)の位置とは無関係であることを示す。OHS細胞を、C末端またはN末端にFITCを有するPNA(1000nM)とともに24 時間、インキュベートし、次いで「実験プロトコル」に記載されたように蛍光顕微鏡で分析した。結果:左はC末端(C-terminal)に結合したFITC、右はN末端(N-terminal)に結合したFITC
【図5】図5は、PCI処置後、種々の細胞の核へのPNA 200の取り込みを示す。 , (A) PCI処置前, (B) PCI処置後, FITC-PNA染色で検出; 細胞 FEMX1, FEMX5, HeLa, OHS, SW620, HCT116, WiDr, 293および SaOs
【図6】図6は、PNA取り込みが温度に依存することを示す。 OHS細胞を1000nM PNA 200に(A) 4℃で5 時間、および(B) 37℃で 5 時間、曝した。. 結果:左から右へ位相差イメージ, FITC/PNA, 組合わせ染色;倍率、上の図は10x、および下の図は32x
【図7】図7は、PNAの核への送達が使用した蛍光団(fluorophore)の種類とは無関係であることを示す。細胞を、rhodamineに結合させたPNA455(1000nM)とともに24 時間、インキュベートし、次いで「実験プロトコル」に記載されたように蛍光顕微鏡で分析した。結果:左から右へ位相差イメージ, rhodamine イメージ, 組合わせイメージ
【図8】図8は、荷電が異なるPNA分子のPCI処置後の核内移送への効果を示す。OHS細胞を、PNA(1000nM)とともに「実験プロトコル」に記載されたようにインキュベートした。(A) 383, (B) 385, (C) 456, (D) 384, (E) 381, (F) 455. 結果:左から右へ位相差イメージ, FITCイメージ, 組合わせイメージ
【図9】図9は、OHS細胞におけるS100A4発現が、種々のPNA(1000nM)により阻害されたことを、ウェスタンブロッティング評価で表わす。(A) PNA200を使用し、用量依存阻害(B) 種々のPNAによる時間依存性阻害 結果は、コントロール細胞のパーセントとして表わす。バーは、3つの個別実験からの平均を示す。誤差バーは平均の標準偏差を示す。対応する実験についてのウェスタンブロッティングの代表例をC〜Eに示す。(C) および (D) ローディング・コントロール(loading control;α−チューブリン),(E) 96時間後の阻害;左から右へ、コントロール, スクランブルPNA(PNA201), PNA200, PNA381 (F) PNA200を使用した用量依存性阻害(96 時間後);左から右へ、コントロール, 100nM, 500nM, 1000nM, 2000nM
【図10】図10は、OHS細胞のPCI処置後のMTS結果を示す。その結果は、PNASだけでは非毒性であることを示す。-
【図11】図11は、S100A4 のコード領域を標的としたPNA (PNA452)について、OHS 細胞におけるタンパク質レベルへの影響は見られないことを表わすウェスタンブロットの結果を示す。(A) 上部のバンド;ローディング・コントロール(loading control)としてのα−チューブリン(α-tubulin), 下部のバンド; S100A4, レーン1 ;増感剤なしで光処置もないコントロールレーン 2;増感剤を使用し光処置はない レーン 3 ;増感剤なしで光処置あり レーン 4 ;増感剤を使用し光処置あり(B) 上部のバンド;loading controlとしてのα−チューブリン(α-tubulin), 下部のバンド; S100A4, レーン1; コントロール, レーン2;スクランブルPNA(PNA202), レーン3; (PNA452) 1000nM, レーン4;(PNA452) 2000nM;
【図12】図12は、PNA/PCI処置OHS細胞 対 コントロールにおけるS100A4 mRNA相対的発現を示す。A) 総RNAは、PNA-AUG、PNA-5'UTRおよびスクランブルPNAを用いるPNA/PCI処置後のOHS 細胞から単離された。PCI処置OHS細胞が、スクランブルPNAに加えてコントロールとして選択された。サンプル全部を逆転写し、cDNA希釈物を、検出試薬としてSYBRGreen Iを使用するリアルタイムPCR解析法にかけた。種々のサンプルから得られたCT値は、遺伝子発現ではほとんど差異が見られなかった。B) メルティングカーブ解析は、関心を向ける産物のみを示す。
【図13】図13は、72時間後にウェスタン・イムノブロッティングを用いてTYR タンパク質レベルを示す。各レーンには次のものが置かれた: 1.コントロール (PNAなし), 2.PNA TYRスクランブル(1mM), 3.PNA TYR スクランブル(10mM), 4.PNA TYR UTR (1mM), 5.PNA TYR UTR (10mM), 6.PNA TYR AUG (1mM), 7.PNA TYR AUG (10mM) . ローディング・コントロール(loading control)としてのα−チューブリン(α-tubulin)が示されている。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光増感剤を用いて当該光増感剤を励起するために有効な波長の光の細胞への照射を利用し、正に荷電したペプチドと結合したペプチド核酸(PNA)分子を細胞、好ましくは細胞の細胞質および/または核に導入するための方法に関する。また、本発明は、たとえばアンチセンスまたはアンチジーン戦略など、遺伝子活動の評価または改変に向けた上記方法の使用、あるいは下方制御(down-regulation)された遺伝子産物の効果を評価するためのハイスループットシステムなど、下流での応用に向けた上記方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
PNAは、DNA主鎖に見られる通常のリン酸ジエステル結合が2−アミノエチル−グリシン結合で置換された、人工的なDNA類似化合物である。ヌクレオチド塩基は、メチルカルボニルリンカーを介して、主鎖の非荷電の繰り返し単位に結合している。
【0003】
このような結合のためPNAは非荷電である。また、化学的に安定で、加水分解による開裂に対して抵抗性があり、天然の核酸よりも高い親和性をもって相補的な核酸らせん鎖(DNAまたはRNA)に結合する。
【0004】
PNAの相補的なDNAまたはRNAへのハイブリダイゼーションは、ワトソン−クリック水素結合によるものであるが、パラレル、アンチパラレルのどちらの二重鎖を形成することもできる。さらに、そのハイブリッド複合体は、優れた熱耐性を示し、独特のイオン強度特性(ionic strength properties)を見せる。これらの利点、ならびにPNAがヌクレアーゼおよびプロテアーゼに対して抵抗性を有するという事実を見込んで、PNAはインビトロ・アンチセンス(mRNAの翻訳を妨害する)またはアンチジーン(遺伝子の複製または転写を妨害する)への応用に用いられてきた。PNA-RNA複合体はRNase Hの基質とはならず、それゆえ、RNAの翻訳またはプロセッシングのいずれかにおける空間的ブロックによってアンチセンス効果を誘発するのかもしれない。PNAがDNAに結合する結果として三量体(triplex)が生ずるが、そのような結合は複製または転写を妨げ、アンチジーン効果を惹き起こす。PNAのいかなる普遍的な毒性の徴候も観察されていない。
【0005】
そのため標的核酸分子に結合することにより、PNAは複製、翻訳および転写の過程に対して重大な影響を及ぼす。アンチジーンまたはアンチセンスへの応用に用いられるPNAは、DNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼ、逆転写酵素、テロメラーゼおよびリボソームの活性を妨げることが明らかにされている。
【0006】
これらの影響がうまく伝えられるためには、細胞に、さらに実用上は大抵、若干のRNAおよびミトコンドリアDNAを除くすべてのDNAを収容する核内にPNA分子が入る必要がある。しかしながら、細胞および核による取り込みは極めて遅く、しかも自発的には起こらない。したがって、細胞および核によるPNAの取り込みを増進することは、それを治療薬剤または治療方法として確立すること、あるいは広範に応用することについての現実的な見通しを立てる前に克服しなければならない重要な努力目標である。
【0007】
PNAを細胞内に送達するための取り組みの一つとして、マイクロインジェクションの使用がある(Ray and Norden, (2000), FASEB J. 14, 1041-1060で論じられている)。しかし、マイクロインジェクションは面倒で時間がかかる。しかも各細胞に個別に注入する
必要があるため、少数の細胞に対するときが最も好適であり、インビボで多数の細胞への適用には向いていない。細胞の損傷もまた問題となる。
【0008】
エレクトロポレーション法(electroporation)による送達も達成されているが(Shammasら(1999), Oncogene 18, 6191-6200)、これにもまた欠点があり、たとえばインビボでの使用に適さない。
【0009】
ストレプトリジン(streptolysin) Oを用いた過渡的透過法(transient permeabilisation)(Faruqiら(1997) , P.N.A.S. USA 95, 1398-1403)、リゾレクチン(lysolectin)による細胞膜透過法(Boffaら(1996), J. Biol. Chem. 271, 13228-13233)またはTween
などの界面活性剤による細胞膜透過法(Nortonら(1996), Nat. Biotech 14, 625-620)といった膜崩壊法(membrane disruptive methods)もまた試されてきた。これらの方法も
インビボでの使用には適さず、細胞に損傷を与えかねない。
【0010】
たとえPNA分子を細胞内に押し込むことが可能だとしても、核への取り込みは起こらないであろう。PNAはインビトロでも高濃度であれば強制的に細胞内に取り込まれるが、これを達成するためには極めて高い濃度(10〜20 μM)が要求される(Foliniら(2003), Cancer Research 63, 3490-3494)。そのため、PNAを細胞に導入するための改良された方法が求められているといえる。
【0011】
インビトロでPNAの細胞への送達は、カチオン性脂質とともに投与して複合体を形成したときに起こることも明らかにされている。この特徴的な手法において、機能性ペプチドと連結させたPNA分子はオリゴヌクレオチドと重なり合ってハイブリッドし、この複合体はカチオン性脂質と混合される。かくしてカチオン性脂質−DNA−PNA複合体は内在化され、受動的な荷物としてそのPNAを運搬する(Hamiltonら(1999), Chem. Biol. 6, 343-351)。
【0012】
PNAは、静電的相互作用によりカチオン性リポソームと凝縮および複合化するために必要とされる、ポリアニオン電荷(polyanionic charges)が不足している。しかしPN
A−DNAハイブリッドは、DNAからの寄与により分散した負の電荷を有する。凝縮した粒子はPNA−DNAハイブリッドとカチオン性脂質との相互作用により形成され、これらのリポプレックス(lipoplex)は培養された哺乳動物細胞にすみやかに取り込まれる(Borgattiら(2003), Oncol. Res. 13(5), 279-287;Borgattiら(2002), Biochem. Pharmacol. 64(4), 609-616;Nastruzziら(2000), J. Control Release 68(2), 237- 249)。PNAはまた、脂質への共有結合的な付着によっても細胞内に輸送されであろう(Muratovskaら(2001), Nucleic Acids Res. 29(9), 1852-1863;Ljungstromら(1999), Bioconjug. Chem. 10(6), 965-972 ;Filipovskaら (2004), FEBS Lett. 556 (1-3), 180-186)。
【0013】
より効率的な様式で細胞内に取り込まれ得るペプチド−PNA構造体を作成する試みもなされてきた。BrandenおよびSmith(2002, Methods in Enzymology 346, 106-124)は、機能性ペプチドをDNAに連結するためにPNAを用いることでDNAの送達を向上させた、いわゆるバイオプレックスシステム(Bioplex system)を使用した。また、ポリエチレンイミン(PEI)を核酸の圧縮を高めるために添加してもよい。
【0014】
このシステムは、核酸を細胞に供給することを目的とするものであり、DNAの送達を向上させるために設計されたペプチドに、送達するDNAを連結するための手段としてPNAを活用する。
【0015】
あるペプチドは細胞膜を横切る分子の送達を仲介することが知られている。PNAをそのような細胞輸送ペプチドまたは細胞貫入ペプチドと連結させることも、PNAの細胞内
に入り込む能力を向上させるために試みられてきた。PNAを細胞内に輸送する目的のために、様々な種類の輸送ペプチドが設計されている。
【0016】
抗テロメラーゼ剤として設計されたPNAが、HIV-tat内在化ペプチド(SEQ ID N0:l RKKRRQRRR)およびアンテナペディア細胞(Antennapedia cell)貫通ペプチド(SEQ ID NO:2 RQIKIWFQNRRMKWKK)と複合化され、アンチセンス分子としてほどほどの効果を有し、テロメラーゼ活性を低減させることが示されている。しかしながらこれらの実験では、テロメラーゼ活性の緩やかな低減が示されているにすぎない。tat複合化PNAは、48時間後の時点でコントロールレベルの73%までしかテロメラーゼ活性を低減しておらず、また、アンテナペディア複合化PNAは、>30μMという極めて高い濃度においてのみ、50%の阻害を達成しているだけである(Foliniら, 2003, 前記)。
【0017】
PNAの核への輸送を仲介しうるペプチドについても記載されている。新規に合成された核タンパク質は、核に到達して核膜を通過するためには特定のアミノ酸配列を必要とすることが明らかにされている。これらの核局在化シグナルも、タンパク質には存在しても核内に内因的に存在しない場合に、これらのタンパク質を核へと導きうる。
【0018】
PNAは、これを細胞の核へと差し向ける試行のために、核局在化シグナル(NLS)(SEQ ID NO:3 PKKKRKV)とも複合化されてきた。このNLSは、SV40 largeT抗原の核膜を越える移送を仲介することが明らかにされている。10 μMのPNA−NLSを細胞に投与した場合、24時間後には核内にその存在が認められる。この効果は、PNA配列には依存しないが、NLS配列には強く依存することが明らかにされている。PNAと複合化したスクランブル(scrambled)NLS配列(SEQ ID NO:4 KKVKPKR)では、極く僅少量のPNAが核内にあるのみである(Cutronaら, (2000), Nature Biotechnology 18, 300-303)。これらの結果は、スクランブルNLS配列と複合化したPNAが、コントロールPNAと明らかに同程度の効果しか有さないのに対して、PNA−NLS(wt)(このPNAはmycに対する抗原である)が細胞の成長を阻害したということを示した機能分析に相応するものである。
【0019】
Brandenら(1999, Nature Biotechnology 17, 784- 787)も同様に、NLS配列に依存す
る様式で、PNAのペプチドとの複合化はPNAの核への輸送を増進するが、NLS配列の
逆転(inversion)の後では核の局在化は見られないことを明らかにした。
【0020】
さらなる研究から、PNAを成功裡に核に輸送するためには、細胞膜輸送ペプチドおよびNLSの両方をPNA分子に複合化することが必要であることが示唆されている(Braunら
(2002), J. MoI. Biol. 318, 237-243)。細胞膜輸送ペプチド(cellular membrane transporter peptide)はPNAを引き入れると考えられており、さらにNLSはPNAを核の方に連れて行くと思われる。これらの実験において、リジン−リジンのペプチド配列だけを有する細胞貫通ペプチドを含有する構成物が細胞質に残されていたことから、NLSは核への輸送にとって必須であることが明らかにされた。
【0021】
Richardら(J. Biol. Chem., (2003), 278(1), 585-590)が実証した事実、すなわち、そのような実験において細胞の固定(fixation)が、たとえ穏やかな固定条件であっても人為産物を作り出し、穏やかな固定条件で核内にPNAが存在しなくとも核の染色が見られるというという事実によって、上記の結果の解釈は複雑なものとなる。
【0022】
このように、ある特定の条件下においてPNAまたは細胞貫通ペプチドと複合化したPNAが細胞に入り込むことは証明されており、また最近ではエンドソーム内に入り込むことも明らかにされているが(Richardら, 2003、前出)、仲介されるべきPNAによる生
物学的な効果のためには、大抵の場合、PNAが核へ移送されることが必要とされる。
【0023】
PNA分子の、細胞、たとえば細胞質へ、好ましくは核への取り込みを達成しうる、信頼できて再現性があり、かつ高濃度のPNAを適用する必要のない、PNA分子の投与方法に対する必要性は、依然として残されているようである。
【発明の開示】
【0024】
本発明者は驚くべきことに、正に荷電したペプチドと結合したPNA分子はエンドサイトーシスによって取り込まれ、光化学的内在化(PCI)の手法を用いてエンドソームから
放出されるときに、これらの分子が核へ移送されることを明らかにした。
【0025】
したがって、本発明の第一の態様により、細胞をPNA分子および光増感剤と接触させ、その光増感剤を励起するために効果的な波長の光で細胞を照射することを含む、PNA分子を細胞質内に、好ましくは細胞の核内に導入する方法が提供される。ここで上記PNA分子は、正に荷電したペプチドと複合化している。
【0026】
PCIは、光増感剤をその薬剤を励起させるための照射工程と組み合わせて使用する手法
であり、同時に投与された分子の細胞への内在化を達成するものである。この手法は、エンドソームなどの細胞のオルガネラに取り込まれた分子が、照射の後にはこれらのオルガネラから細胞質に放出されることを可能とする。
【0027】
光化学的内在化(PCI)の基本的な方法手順は、WO 96/07432およびWO 00/54802に記載
されている(参照により本明細書に取り込まれる)。そこで示されているように、内在化されるべき分子(本発明による利用においてはPNA−ペプチド複合体であろう)および光増感剤は、細胞と接触させられる。この光増感剤および内在化されるべき分子は、細胞内において細胞の膜で仕切られたサブコンパートメント(cellular membrane-bound subcompartment)に取り込まれる。この細胞を適切な波長の光で照射すると直ちに光増感剤は励起し、細胞内コンパートメントの膜を破壊させる有毒な化学種を直接的または間接的に生成する。これにより内在化された分子が細胞質内への放出が可能となる。
【0028】
これらの方法は、他の手法では膜を透過しない分子を細胞の細胞質内に導入するための機構として光化学的な効果を、次の態様で利用するものである。すなわち、照射時間または光増感剤の投与量を低めるなどして、過度の有毒化学種の生成を避けるようにその方法論を適合させたのであれば、広範囲の細胞破壊または細胞の死を起こしはしない態様である。
【0029】
PNAを細胞内に放出させるためにPCI法を用いる場合、PNAが細胞に入り、続いて
それが核に移送される上で、特定の細胞貫通配列も、NLS配列もPNAには必要とされな
いことは、特に驚くべきことである。PNAが少なくとも1つの正味の正電荷を有するペプチドと連結することが必要とされることのすべてである。
【0030】
したがって学説に束縛されることは望まないが、PCIを利用した場合、正に荷電したペ
プチドの存在が、細胞内、エンドソーム性コンパートメント(endosomal compartments)のような細胞コンパートメントへのPNA分子の取り込みを促進しているようにみえる。加えて、PNA分子の細胞質への放出または内在化に続いて、正に荷電したペプチドはPNA分子の核へのターゲティングをも仲介する。その結果、PNA分子を所望の部位に差し向けるために最小限の修飾のみが要求され、PNA分子を長いアミノ酸配列または複数のアミノ酸配列と複合化させることは必要とされない。
【0031】
これらの両方の役割、すなわち細胞内へのPNA分子の取り込みを導くこと、ならびに一旦、PNA−ペプチド分子が細胞質内に放出または内在化されたならば、核内への輸送を促進することを果たすために、たった一つのペプチドが必要とされるのみであることも
これまた驚くべきことである。
【0032】
核局在化シグナルはこれまでにある程度詳細に研究されており、効率的に核を標的化するためには、ある特定のアミノ酸コンセンサス配列が存在することが必要であることが明らかになっている。特に、核内に分子を取り込むための手段として、インポーチン(importin)経路が同定されている。「古典的な」アルギニン/リジンに富むNLS、たとえば「SV40T large抗原配列」は、インポーチンタンパク質α+βと相互作用する。この複合体は、核膜孔複合体(nuclear pore complex)の中央チャンネルを通って移送され、核内で解離する。この会合および解離の過程は、エネルギー依存性機構である(Cartierら(2002), Gene Therapy 9, 157-167で論じられている)。まだ充分に特定されていないが、核への移入のための他の経路も存在すると信じられている。
【0033】
したがって、PCI法を本発明で使用するときに、古典的なNLS配列が必要とされないことのみならず、さらに正味で一以上の正に荷電したあらゆる配列が核の局在化を仲介する能力を有することは、驚くべきことである。このことは、配列SEQ ID NO:5 GHHHHHGがSEQ ID NO:3 PKKKRKVと同様に機能したという事実、あるいはさらに、わずか一つの正電荷を有するトリペプチド(SEQ ID NO:6 AKL)が、PNAをまずエンドソームに差し向け、続いて核に向けて導入する能力を有するという事実によって証明される(実施例参照)。
【0034】
さらに驚くのは、元来、タンパク質をペルオキシゾームおよびミトコンドリアといった細胞のオルガネラに導く能力によって同定されていた配列が、PNA分子と複合化することにより、まずエンドソームに差し向けて、続いて核に向けて導入できるということが観察されたことである(実施例参照)。
【0035】
本発明の方法におけるPCIの正確な役割は分かっていない。しかし、PCIがなければ、正に荷電したペプチドを担持するPNA分子が細胞質または核に有効な程度にまでは進入しないことから、当該方法の成功の中枢となることは明らかである。
【0036】
その効果はまた、複合化したペプチドの全体的な長さとは無関係であるように見え、正に荷電した3アミノ酸長のペプチドは29アミノ酸を有する場合と同等に機能する。また、その影響は、正に荷電したペプチドの長さに対する電荷の比、あるいはその配列に含まれる荷電した特定のアミノ酸とも無関係である。
【0037】
本明細書で「PNA」とは、DNA相同体として振る舞い、偽ペプチド(pseudopeptide)骨格を基礎とし、それにヌクレオチド塩基が付加されたペプチド核酸分子をいう。こ
のPNAは、遊離の線状形態であってもよく、二量体またはbis-PNAのように自己連結(self-ligated)した形態であってもよい。
【0038】
PNAの標準的な形態の誘導体も考えられる。たとえば、ポリマーを構成する一または複数の偽ペプチドモノマーが、改変された性質を付与するなどのために、たとえばリジンや他のアミノ酸アナログを用いて修飾または誘導されていてもよい。同様に所望により、使用されている一または複数の塩基を、たとえば非天然の変異体を用いて修飾してもよい。したがって、その誘導体が相応する機能的な諸特性を保持する、すなわちDNAおよび/またはRNAと配列依存的複合体を形成する能力を有するのであれば、PNAはそのような標準的な形態の誘導体を包含する。換言すれば、そのようなPNA誘導体は、DNAまたはRNAの配列との相補性を与えるため、電荷および構造の点で適切なものである。
【0039】
PNA分子は、どのような配列または長さであってもよい。PNA分子は、塩基数が好ましくは25未満、たとえば20未満の塩基長であり、また好ましくは6塩基長よりは長い。
具体的には、6〜20塩基長の分子を用いることができる。長さ12〜17単位のPNAオリゴ
マーを選択することもできる。配列の長さは、用いられる方法に要求される特異性を第一に決定される。25塩基よりも長いものが要求されるDNAの適用は、それよりずっと短いPNAプローブを用いてルーチンに実施することができる。長いPNAオリゴマーは、配列にもよるが、凝集しやすいため精製および同定確認が難しい。しかしながら配列が短いほど、より特異的になる。結果的にミスマッチの影響は短い配列についてよりも大きくなる。それでも20単位のPNAオリゴマーは、凝集の問題を生じることなく使用することができる。
【0040】
そのような分子について、化学的な性質および合成方法は当業者によく知られており(Ray and Norden, 2000、前出)、いかなる都合のよい方法で調製してもよい。
PNA分子は、アンチセンスPNA分子であってもよく、または遺伝子(アンチジーン分子)と相補的なPNA分子であってもよく、特徴的な三重体構造を形成することができる。PNA分子はまた、プローブ、すなわち標的核酸配列と結合し、便宜的にはラベルを携えたものであってもよい。
【0041】
本発明の方法は、PNAペプチド複合化物を細胞質内に、好ましくは核内に移送することを達成する。細胞に接触した各分子のすべてについて取り込みがなされるわけではないことを理解されたい。しかし、PCIが用いられない従来技術水準よりは顕著かつ改善され
た取り込みが達成される。
【0042】
より好ましい本発明の方法であれば、複製、転写または翻訳への影響がそれを取り込んだ細胞の発現産物において明白となるほど充分な水準で、PNA分子が取り込まれることを可能とする。細胞と接触させるPNA−ペプチド複合体の適切な濃度は、この目的を達成できるよう調整することができる。たとえば細胞と、24、48、72または96時間、具体的には24〜48時間(例:図9参照)のインキュベーション後、標的遺伝子の発現を10%より
大きく減少させる、具体的には20、30、40または50%より大きく減少させることを達成できるようにである。タンパク質の減少レベルは、タンパク質の半減期に依存する。すなわち、既存のタンパク質は半減期に従って除去される。したがって、半減期を考慮するようにして、PNAがない場合における同じ時点での発現より10、20、30、40または50%よりも大きな減少が達成される。
【0043】
本明細書で「細胞」の用語は、すべての真核細胞(昆虫細胞および真菌細胞を含む)を包含するものとして使用される。したがって、典型的な「細胞」としては、哺乳動物および非哺乳動物の細胞、植物細胞、昆虫細胞、真菌細胞および原生動物細胞が挙げられるが、好ましいものは、哺乳動物(たとえばネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット(guinea pig)の細胞であり、最も好ましいものはヒトの細胞である。
【0044】
本明細書で「接触(contacting)」とは、細胞と光増感剤および/またはPNAペプチド複合体が、細胞内への内在化に適した条件下(たとえば、好ましくは37℃の栄養媒質の中)で、互いに物理的に接触することをいう。
【0045】
光増感剤は、適切な波長および強度の光照射により励起し、活性の化学種を生み出す薬剤である。そのような薬剤は、細胞内コンパートメント、特にエンドソームまたはリソソームに局在化するものが当該薬剤として便利である。このような光増感剤の品揃えは当業者に知られており、WO96/07432(参照により本明細書に取り込まれる)などの文献に記載されている。そのようなものとして、培養した細胞のエンドソームおよびリソソームに局在化することが明らかにされている、ジスルホン化-またはテトラスルホン化-アルミニウムフタロシアニン(たとえばAlPcS2a)、スルホン化テトラフェニルポルフィン(TPPSn)、ナイルブルー、クロリンe6誘導体、ウロポルフィリンI(uroporphyrin I)、フィロエリスリン(phylloerythrin)、ヘマトポルフィリン(hematoporphyrin)およびメチレンブルーが挙げられる。ほとんどの場合、光増感剤のエンドサイトーシスによる取り込みによるものである。したがって、リソソームまたはエンドソームの内在的なコンパートメントに取り込まれる薬剤が光増感剤として好ましい。本発明での使用にさらに適した光増感剤は、WO03/020309(参照により本明細書に取り込まれる)に記載されているもの、すなわちスルホン化メソ−テトラフェニルクロリン、好ましくはTPCS2aである。
【0046】
しかし、その他の細胞内コンパートメント、たとえば小胞体またはゴルジ装置に位置するその他の光増感剤もまた使用できる。光化学的処理の効果が細胞のその他の構成要素(例:膜で隔絶されたコンパートメント以外の構成要素)に及ぶようなメカニズムが作用することも考えられる。したがって光化学的処理が、細胞内輸送または小胞(vesicle)融合にとり重要な分子を破壊することも一つの可能性としてあり得る。そのような分子は、必ずしも膜隔絶コンパートメント内に位置しないかもしれない。しかしそれにもかかわらず、そのような分子の光化学的ダメージは、輸送分子の光化学的内在化を引き起こしかねない。たとえば、そのような分子に対する光化学的な影響が、内在化させる分子(すなわちPNA分子)のリソソームなどの分解小胞への輸送を低減する結果、内在化されるべき分子が分解される前に細胞形質に逃げ出してしまうことになるというメカニズムによってである。
【0047】
必ずしも膜隔絶コンパートメントに位置しない分子の例としては、ダイニン(dynein)およびダイナクチン(dynactin)構成物といった微小管輸送システムのいくつかの分子、たとえばrab5、rab7、N-エチルマレイミド感受性因子(NSF)、可溶性NSF付着タンパク質(SNAP)などがある。
【0048】
したがって、言及されうる好適な光増感剤の分類としては、ポルフィリン、フタロシアニン、プルプリン、クロリン、ベンゾポルフィリン、ナフタロシアニン、カチオン染料、テトラサイクリンおよびリソモトロピック(lysomotropic)弱塩基またはこれらの誘導体が挙げられる(Bergら, J. Photochemistry and Photobiology, 1997, 65, 403- 409)。その他の好適な光増感剤としては、テキサフィリン(texaphyrin)、フェオホルビド(pheophorbide)、ポルフィセン(porphycene)、バクテリオクロリン(bacteriochlorin)、ケトクロリン(ketochlorin)、ヘマトポルフィリン誘導体、およびこれらの誘導体、5-アミノレブリン酸から誘導される内因性光増感剤およびこれらの誘導体、光増感剤の二量体またはその他の複合体が挙げられる。
【0049】
好ましい光増感剤としては、TPPS4、TPPS2a、AlPcS2a、TPCS2aおよびその他の両親媒性の光増感剤が挙げられる。その他の好適な光増感剤としては、5-アミノレブリン酸化合物または5-アミノレブリン酸エステルもしくはその医薬的に許容できる塩が挙げられる。
【0050】
光増感剤を励起するための細胞の「照射」とは、以下に述べるように直接的または間接的な光の投与をいう。したがって細胞はたとえば直接的に光源で照らされていてもよい(例:インビトロで単一の細胞に対して)。あるいは、細胞は、たとえば皮膚表面の下にある場合、またはすべての細胞が直接的に(すなわち他の細胞に遮られることなく)照らされることない細胞層の形態をとっている場合において、インビボで間接的に光源に照らされていてもよい。
【0051】
ここで定義されている「ペプチド」には、あらゆる数のアミノ酸、すなわち一以上のアミノ酸を含有する分子が含まれる。しかし、このペプチドは連続的なアミノ酸の重合体であることが好ましい。
【0052】
正に荷電したペプチドは、好ましくは3(または4, 5もしくは6)から30アミノ酸長であ
り、より好ましくは、3(または4, 5もしくは6)から25、3(または4, 5もしくは6)から20、あるいは3(または4, 5もしくは6)から15のアミノ酸長である。さらに好ましい態様では、そのペプチドは10よりも小さい、たとえば3, 4, 5もしくは6アミノ酸長である。、
ペプチドは、いかなる好都合な方法(たとえば直接的な化学合成)により調製してもよく、また細胞内で適当な配列の核酸分子を発現させる組換え手法により調製してもよい。正に荷電した分子は、それが複合化するPNA分子を、細胞内、続いて細胞質内、好ましくは核内にも移送する能力を有する。
【0053】
本明細書で「正に荷電した(positively charged)」とは、全体的にまたは正味に、生理的なpH(すなわちpH7.2)におけるペプチドの電荷が+1またはそれ以上であることを
意味する。アミノ酸は、ペプチドの状況で存在するときに、もしも生理的なpHにおいて優勢な化学種のものが正に荷電しているならば、+1であると考えられる。ペプチド中のそのような各アミノ酸は、ペプチドの最終的な電荷を計算する上で、正の荷電にさらに寄与するものとなる。ペプチドは、その正味の電荷(各アミノ酸に帰属する電荷を合計することにより計算される)が正となる限りにおいて、中性の残基と同様に一以上の負に荷電したアミノ酸残基を有していてもよい。PNA分子は非荷電であり、そのもの自体は分子の全体的な荷電に寄与するものではない。しかしながら、重要なことであって、正に荷電したペプチドの存在を決定する上で評価がされるのは、ペプチド部分の電荷であることを理解すべきである。
【0054】
そのため、ペプチドの電荷はそのアミノ酸の組成に依存する。あるアミノ酸は、通常の生理的なpHにおいて荷電している。正に荷電したアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン
(R)およびヒスチジン(H)であり、上記の尺度において+1であると考えられる。アスパラギン酸(D)およびグルタミン酸(E)は、たいていの生理的なpHにおいて負の電荷を帯びており、上記の尺度において−1であると考えられる。その他の天然アミノ酸は電荷を帯びていないと考えられる。正または負に荷電したアミノ酸は、ペプチドの全体的な電荷が+1以上である限り、いくつ存在していてもよい。
【0055】
本発明で使用するペプチドに用いられているアミノ酸は、天然アミノ酸である必要はない。ペプチドの一つまたは複数のアミノ酸は、アミノ酸誘導体などの非天然アミノ酸で置換されていてもよい。そのようなアミノ酸もペプチドの電荷への寄与に基づいて同様に評価される。したがって、天然アミノ酸を用いるように、もしも主要な分子種が生理的pHにおいて正である場合、その電荷が誘導された部位(たとえば導入されたアミン基)またはその天然アミノ酸に存在する部位に由来するものか否かということは、全体的な電荷が+1以上である限り、関係のないことである。
【0056】
上記ペプチドは、たとえば、結合基(linking group)として用いられ得る有機ポリマー
のような非タンパク質分子に結合するなどして、ハイブリッド分子の一部として存在していてもよい。またそのペプチドは、天然ではタンパク質性であるが実際上ペプチドから独立している(たとえば、非荷電であるか、または構造的には分離した配置にある)ような分離した構成部分に結合していてもよい。このような場合には、そのペプチドは露出した、好ましくは周辺の部分を構成し、その部分の電荷が対応するペプチドのものとして評価されるだろう。
【0057】
正に荷電したペプチドは、PNA分子のN末端またはC末端のいずれかに複合化していてもよく、8-アミノ-3,6-ジオキサンオクタン酸、2-アミノエトキシ-2-エトキシ酢酸(AEEA)またはジスルフィドリンカーといった結合基によって、またはよらないで結合していてもよい。しかし、このペプチドは共有結合により直接的に複合化していることが好ましく、複合体にはPNAおよび該ペプチド以外の構成要素は存在しないことが特に好ましい。
【0058】
以前の研究によれば、古典的核局在化のシグナルだけが複合化分子を細胞核へ輸送するとされてきた。しかしながら、驚くべきことに上記のようにペプチドの核局在化能力は、PCIを用いて内在化方法を実施するときには電荷のみに依存し配列には依存しないことが
示された。正味の電荷が+5のペプチド取り込みが最高であり、これはその電荷に寄与する配列には依存しないことが分かった。ペプチドの電荷は>1, 好ましくは+1〜+10、具体的
には+2〜+8、すなわち+3〜+6、例えば+4 または +5である。
【0059】
好ましくはPNAに付着するペプチドは、K, R および/またはH残基に富んでいる。 特に好ましくは電荷を有する残基の連続連結が使用される。ペプチドに用いられる他の残基は中性であることが好ましい。よって例えば該ペプチドは、次の配列: Xn-(Y)m-Xoを有するか、含んでもよい。ここでXは中性残基類、およびYは、正の荷電した一つの残基であり、それらは現れる各位置において同一でも異なってもよい。n, mおよびoは≧1の整数であり、具体的には1〜10であり、nおよびoは好ましくは1または2であり、mは好ましくは2〜5である。Yは、各位置で同一であることが特に好ましく、K、RまたはHである。
【0060】
特に好ましいペプチドは、
SEQ ID NO:7 MSVLTPLLLRGLTGSARRLPVPRAKIHSL, SEQ ID NO:6 AKL および SEQ ID NO:5 GHHHHHGである。
【0061】
SEQ ID NO:7 MSVLTPLLLRGLTGSARRLPVPRAKIHSLおよびSEQ ID NO:6 AKLは、それぞれミトコンドリアおよびペルオキシソームをターゲティングとする配列である。それでもこれらは本明細書に記載されるPCI 方法を用いて核をターゲティングすることが可能であることが示された。
【0062】
この驚くべき知見によってペプチドが配列ではなく電荷に依存することが説明され、これは本発明によると有益である。好ましくは正に荷電したペプチドは、SEQ ID NO:3 PKKKRKVといったNLS、またはスクランブルNLS SEQ ID NO:4 KKVKPKR または逆NLS SEQ ID NO:8 VKRKKKP、あるいはHIV Tat SEQ ID NO:l RKKRRQRRRのような古典的な細胞透過ペプチド、またはAntennapedia細胞貫通ペプチド SEQ ID NO:2 RQIKIWFQNRRMKWKKではない。このことは例えばPCIがない場合の核内移送または細胞透過の程度を決定することによって評価できるかも知れない。そのような条件下で核内を移行するか、または細胞を透過することが実質的にできるペプチドは、NLSまたは細胞透過ペプチドと見なされるだろう。そうしたペプチドは、好ましくはポリリジンではない。加えてPNAまたは該ペプチドは、さらにタグ上の蛍光標識といった修飾を含んでもよい。
【0063】
上記のPNA-ペプチド複合体は本発明の別の態様を形成する。本明細書で「複合化("conjugation")」とは、ペプチドおよびPNA分子が一緒に結合して生理的条件下で単一の実体物を形成することをいう。PNAとペプチドとは共有結合により結びつくことが望ましい。
【0064】
上記PNA分子およびペプチドは、別個に合成するか、または精製してFmoc-NC603H11-OH (Brandenら , 1999, 上記)といったスペーサー分子を用いて、一緒に結びつける。あ
るいはそれらは、例えば、(Btoc)手法によって単一の分子として化学的に合成してもよい。この方法において、PNAモノマーは、 ペプチド合成の標準的プロトコルを利用して20塩基ものの長さのオリゴマーに合成される。PNAモノマーは、N- 末端モノマーアミノ基のfluorenylmethozycarbonyl (Fmoc) 保護、ならびにA、CおよびG外環アミノ基を保護するためにbenzhydryloxycarbonyl (Bhoc)を使用する。
【0065】
XAL合成の操作と結びついたBhoc基は、迅速に脱保護して樹脂からPNAオリゴマーを
開裂させる。結合の代表的な収率は>95%である。合成は、樹脂からのオリゴマーのTFMSA
開裂によって完了する。オリゴマーは、逆相HPLCによって精製される (Viirreら (2003) , J. Org. Chem. 68(4), 1630-1632; Neunerら (2002), Bioconjug. Chem. 13 (3) , 676-678)。
【0066】
かくして正に荷電したペプチドは、PNAを細胞内に取り込むことと、それがいったん細胞内コンパートメントから放出されたなら、核内への取り込みの両方に関わるようである。
【0067】
PNA分子の一種類より多い種類、すなわち異なる配列のPNA分子が投与されるか、同時に導入される。同様に正に荷電したペプチドを一種より多い種類を担持する PNA
分子が投与されるか、同時に導入される。
【0068】
細胞内に導入される光増感剤および複合化PNA分子の一方または他方、あるいは両方が、必要に応じて、光増感剤または複合化PNA分子の取り込みを促進するか、または増大するように働くか、あるいはそうした実体物を特定種類の細胞、組織または細胞内コンパートメントに向けて送り込むか、移送させるように働き得る、1以上の担体分子またはターゲティング分子に付着するか、結合するか、または複合化してもよい。複合化PNA分子の場合、細胞核へのターゲティングは、本発明に基づく複合体のペプチド成分によって達成されるだろう。
【0069】
担体系の例として、ポリリジンまたは他のポリカチオン、デキストランサルフェート、様々なカチオン脂質、リポソーム、再構成LDL粒子または立体的に安定化されたリポソー
ムが挙げられる。これらの担体系は一般には複合化PNA分子および/または光増感剤の
薬剤動力学を改善し、ならびに細胞の取り込みを増加させることができるが、さらにPNA分子および/または光増感剤を細胞内コンパートメントへ差し向けるであろう。これは
、特に光化学的内在化を得るには有益であるが、PNA分子および/または光増感剤を特
定の細胞(例えば癌細胞)または組織に差し向ける能力は通常はない。.
しかしながら、首尾よく担体分子を特異的もしくは選択的にターゲティングさせるためには、PNA分子および/または光増感剤を、所望する細胞または組織内へのPNA分子
の細胞の取り込みを特別に推進する特定のターゲティング分子に結合させるか、複合化させてもよい。そのようなターゲティング分子は、またPNA分子を、光化学的内在化を得るのに特別に有益である細胞内コンパートメントに差し向けるであろう。
【0070】
多くの様々なターゲティング分子を用いることが可能であり、以下に記載されている:Curiel (1999), Ann. New York Acad. Sci. 886, 158-171; Bilbaoら, (1998), 「癌の遺伝子治療」(Waldenら , eds. , Plenum Press, New York) ; Peng および Russell (1999) , Curr. Opin. Biotechnol. 10, 454-457; Wickham (2000) , Gene Ther. 7, 110-114.
担体分子および/またはターゲティング分子は、PNA分子に、光増感剤に、または両
方に会合させるか、結合させるか、あるいは複合化させてもよく、同一または異なる担体またはターゲティング分子が使用されてもよい。上記のように1個より多い担体および/
またはターゲティング分子を同時に使用してもよい。
【0071】
本発明で使用される好ましい担体には、ポリリジン(例、ポリ-L-リジンまたはポリ-D-
リジン) のようなポリカチオン、ポリエチレンイミンまたはデンドリマー(例、SuperFect(R)のようなカチオン性デンドリマー) ;DOTAPまたはリポフェクチン(Lipofectin)のよ
うなカチオン脂質、およびペプチドが挙げられる。
【0072】
本発明の方法は、次のようにして実施されてもよい。本発明の方法において、内在化される分子および光増感化合物は同時にまたは順次に細胞に適用される。この場合、光増感
化合物および該分子は、エンドソーム、リソソームまたは他の細胞内の膜隔絶コンパートメント内へエンドサイトーシス(endocytosis)されるか、他の方式で移送される。
【0073】
PNA-ペプチド複合体および光増感化合物は、一緒にまたは順番に細胞へ適用されて
もよい。これらは、細胞によって同一または異なる細胞内コンパートメント (例えば一緒に移送される) 内に取り込まれる。その後該PNA-ペプチドは、光増感化合物を活性化
させるのに好適な波長の光に該細胞が曝されると放出される。活性化された光増感化合物は、細胞内コンパートメント膜を破壊して、その後に該分子(このものは光増感化合物と同じコンパートメント内に存在していてもよい)の細胞質への放出をもたらすのである。したがってこれらの方法において、細胞を光に曝す最終段階は問題の分子が光増感剤と同じ細胞内コンパートメントから放出され、細胞質に存在するようになる。 .
ごく最近WO 02/44396 (参照により本明細書に取り込まれる)は、ある方法を記載しており、その方法においては段階の順序を変更することができ、その結果、内在化され細胞に送達されるべき分子が細胞と接触するようになる前に、光増感剤が細胞と接触し、照射によって活性化される。この適応化された方法では、内在化される分子が光増感剤と同じ細胞サブコンパートメントに存在させる必要はないという利点がある。かくして好ましい態様において、該光増感剤およびPNA分子は、一緒にまたは順番に細胞に適用される。細胞により同一細胞内コンパートメント内へ取り込まれ、次いで前記の照射が実行される。
【0074】
代わりの態様において上記の方法は、前記細胞と光増感剤と接触させ、該細胞を導入されるべきPNA分子に接触させ、次にその細胞を、光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光で照射することによって実施される。ここで該光増感剤を含有する細胞内コンパートメント内への該PNA分子の細胞取り込みに先立って、その照射が実施される。好ましくは該分子のいずれの細胞内コンパートメント内への細胞取り込みの前に行なわれる。
【0075】
前記の照射は、光照射の時点で該PNA分子および光増感剤が同じ細胞内コンパートメントに存在してもしなくても、細胞コンパートメント内への該分子の細胞取り込みの後で行なうことができる。しかしながら好ましい態様では、 照射は内在化分子の細胞取り込
みの前に実施される。
【0076】
本明細書で「内在化(internalisation)」とは、分子の細胞質送達を意味する。本発明
の場合の「内在化」には、分子が細胞内/膜隔壁コンパートメントから細胞の細胞質へ放
出される段階も含まれる。
【0077】
本明細書で「細胞の取り込み」または「移送」は、細胞膜外の分子が、細胞内に取り込まれる結果、例えばエンドサイトーシス(endocytosis)または他の適切な取り込み機構
により、細胞内の膜隔絶コンパートメント、例えば小胞体、ゴルジ体、リソゾーム、エンドソームなどの中に、または結合し、外側に存在する細胞膜に対して内部で見出されるという内在化の段階の一つをいう。
【0078】
該細胞を光増感剤と接触させ、ならびにPNA-ペプチド複合体と接触させる段階は、
好都合な、または所望するいずれかの方法で実施してもよい。かくして、この接触段階が、インビトロで実施されるのであれば、その細胞は、例えば適切な細胞培養用培地のような水性培地で都合よく維持されるであろう。適切な時点で光増感剤および/またはPNA-ペプチド複合体が、適切な条件で、例えば適切な濃度および適切な期間にその培地に添加されるだけである。
【0079】
光増感剤は、適切な濃度で、かつ適切な期間にわたり細胞と接触させるが、それらは当業者により通常の技術で容易に決定され得るものであり、使用される具体的な光増感剤、標的細胞の種類および場所といった要素に依存するであろう。
【0080】
光増感剤の濃度は、いったん細胞内に取り込まれたなら、例えば一つまたはそれ以上の細胞内コンパートメントの中へ、あるいは結合して、光照射によって活性化され、一つまたはそれ以上の細胞構造を破壊する、例えば一つまたはそれ以上の細胞内コンパートメントを溶解し、または破壊するようなものでなければならない。
【0081】
具体的には本明細書の実施例で使用される光増感剤は、例えば10〜50μg/mlの濃度で用いられる。インビトロ使用では、その濃度範囲はさらに広くなり、具体的には0.05〜500 μg/mlである。インビボでのヒト治療では、光増感剤を全身投与の場合には0.05〜20 mg/kg体重の範囲で使用してもよい。または局所投与では、溶媒中で0.1〜20%である。小動物ではその濃度範囲は異なり、このため調整し得る。
【0082】
細胞と光増感剤とのインキュベーション時間(すなわち「接触時間」)は、数分間から数時間で変化し、具体的には48時間までまたはそれ以上、例えば12〜20時間である。インキュベーション時間は、光増感剤が適切な細胞に取り込まれ、具体的には該細胞の細胞内コンパートメント内に取り込まれるような時間であるべきである。細胞と光増感剤とのインキュベーションの後に、該細胞が光に曝されるかあるいはPNA分子が添加される前に、必要ならば光増感剤がない培地を用いるインキュベーションの時間、例えば10分間〜8 時間、特に1時間〜4 時間、設けてもよい。PNA分子は、該細胞と適切な濃度および適切な期間で接触させる。
【0083】
本発明の方法において使用されるPNA分子の適切な用量を決定することは、当業者にとりルーチンの作業である。インビトロの適用では典型的なPNA分子の用量は、大体0.1〜500μg PNA/mlになり、インビボ適用では、ヒトでの1回注射につき、約10-6〜1g PNAになるであろう。
【0084】
例えばPNA-ペプチド複合体は、50μM未満、具体的には30μM未満、特に好ましくは10μM未満のレベルで投与してもよい。例えば0.1 〜1μMまたは5〜30μMであり、示された濃度は、細胞と接触するレベルを反映している。上記したように 接触は、光増感剤が添加され、照射が起きてから数時間後にも始まることが見出されている。
【0085】
適切な濃度は、問題のPNA分子が問題の細胞内に取り込まれる効率ならびに細胞中での所望の最終濃度に依存して決定される。よって「トランスフェクション時間」または「細胞取込み時間」は、該分子が該細胞と接触するための時間であり、数分間または数時間までとなり得る。トランスフェクション時間は、例えば10分間〜24時間まで、例えば30分〜10時間まで、または例えば30分〜2時間まで、あるいは6時間が用い得る。より長いインキュベーション時間を使用してもよく、例えば24〜96時間もしくはそれより長く、例えば5〜10日間である。
【0086】
増加したトランスフェクション時間は、通常、問題の分子取り込みの増加となる。しかしながら、より短いインキュベーション時間、例えば30分〜1時間は、分子取り込みの特
異性の改善となるようである。 かくしていずれの方法でもトランスフェクション時間の
選択は、分子の充分な取り込みと、PCI治療の充分な特異性の確保との間で、適切な均衡
を打ちたてねばならない。
【0087】
インビボでPNA分子および光増感剤が標的細胞と接触させられる適切な方法およびインキュベーション時間は、投与方式およびPNA分子および光増感剤の種類といった因子に依存するであろう。例えば、もしPNA分子が、治療すべき腫瘍、組織または器官内に注入されるのであれば、注射位置近傍の細胞は、当該注射位置からはるかに離れた部位に位置する細胞よりも急速にPNA分子と接触し、よってそれを取り込むであろう。遠隔の
細胞は該PNA分子とは、より遅れた時点で、しかもより低濃度で接触することになるであろう。
【0088】
加えて経静脈注射で投与されたPNA分子は、標的細胞に到達するのに若干の時間を要し、したがって標的細胞または組織に充分量または最適量のPNA分子が蓄積するのに、より長い投与後期間、例えば数日間かかるかも知れない。もちろん同じ議論は、光増感剤の細胞内への取り込みに要する投与期間についても当てはまる。インビボで個々の細胞について求められる投与時間は、これらおよび他のパラメーターに依存して変化することはあり得る。
【0089】
それにもかかわらず、状況はインビトロよりもインビボでより複雑であるけれども、本発明の基にある概念は、依然同じである。すなわち該分子が標的細胞と接触するようになる時間は、照射が起きる前に、適切な量の光増感剤が標的細胞に取り込まれ、そして次のいずれかである: (i)照射の前またはその間、PNA分子は、標的細胞と充分に接触した後で 同一のまたは異なる細胞内コンパートメント内に取り込まれたか、または取り込ま
れるかのいずれかである。 (ii)照射後、該PNA分子は、細胞内に取り込みをされるの
に充分な期間、細胞と接触する。
【0090】
PNA分子が、光増感剤の活性化により影響を受ける細胞内コンパートメント(例えば
該剤が存在するコンパートメント)内に取り込まれるとすると、そのPNA分子は、照射
の前または後で取り込まれる。
【0091】
光増感剤を活性化する光照射の段階は、公知の技術と手順に基づいて起こるであろう。例えば光の波長および強度を使用する光増感剤に基づいて選択するのがよい。適切な光源は公知のものである。本発明の方法において、細胞が光に曝される時間は変わるであろう。PNA分子が細胞質内に内在化する効率は、それを超えると細胞傷害および細胞の死が増大する最大値まで光に曝すことを増やすと上昇するであろう。
【0092】
照射の段階で好ましい時間の長さは、標的、光増感剤、標的細胞または組織に蓄積された光増感剤の量、および光増感剤の吸収スペクトルと光源の発光スペクトルとの間の重複といった要素に依存するであろう。一般的に照射段階の時間の長さは、分のオーダーから数時間、好ましくは60分まで、例えば0.5または1分〜30分、具体的には0.5分〜3分、または1〜5分、または1〜10 分、例えば3〜7 分、好ましくは約3分、2.5〜3.5分である。
【0093】
適切な光量は、当業者により選択され、これもまた光増感剤、標的細胞または組織に蓄積された光増感剤の量に依存するであろう。例えば光増感剤のPhotofrinおよびプロトポ
ルフィリン(protoporphyrin)前駆体の5-アミノレブリン酸を用いる癌の光線力学治療について使用される典型的な光量は、高熱症を避けるために、200 mW/cm2未満のフルエンス(fluence)範囲で50〜150 J/cm2である。可視スペクトルの赤領域でより高い吸光係数を有する光増感剤が使用される場合には、通常、光量は低くなる。しかしながら非癌性の組織をより少ない蓄積量の光増感剤で治療する場合、必要とされる光の総量は癌の治療よりもはるかに高くなるかもしれない。 さらに細胞の生存力が維持されるべきであれば、毒
性種が過剰量、形成されることは避けるべきであり、このため関係するパラメーターが調整されるであろう。
【0094】
本発明の方法は、光増感剤の活性化による毒性種の発生を通しての光化学治療のために、必然的に何らかの細胞殺傷が生じるであろう。提案される使用にもよるが、かかる細胞死は重大ではないかも知れず、実際、ある応用(例えば癌治療)では有利に働くであろう。しかし細胞死を避けることが望ましい。本発明の方法を改変し、細胞の生存する部分または割合を光増感剤の濃度に関係させて光の用量を選択することにより調節されるようにしてもよい。これまた、そうした技術は知られている。
【0095】
細胞の生存が望まれる応用においては、実質的に細胞全部、あるいは極めて大多数(例
えば、細胞の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60、70、80または90%)が殺傷さ
れない。
【0096】
光増感剤の活性化によって誘発される細胞死の量に関係なく、細胞において作用を有するPNAについて、PCI効果が発揮される個々の細胞のあるものは光化学治療だけでは殺
傷されないように、光の用量が調節されることが重要である(もしこれらの分子が細胞毒
性作用を有するのであれば、それらの細胞は細胞内に導入される分子によってその後、殺傷されるのであるが。)
細胞毒性の作用は例えば遺伝子治療を用いることにより実現される。その治療では、本発明の方法によりアンチセンスPNA分子が腫瘍細胞の核内に内在化され、例えば遺伝子がダウンレギュレーションされる。
【0097】
本発明の方法は、次を含む様々な目的のために、インビトロまたはインビボ、例えばin
situ治療または処置細胞を後で身体に投与するエクスビボ(ex vivo)治療のいずれかで使用することができる; (i) mRNAまたはスプライシング中間体に結合させることに
よって特定遺伝子についての産物の発現を阻害すること; (ii)直接に特定遺伝子を干渉すること(例えば転写因子の結合の阻害)によるその遺伝子の転写を干渉すること ; (iii) in situハイブリダイゼーション用プローブ; (iv) スクリーニングアッセイ;および (v)
部位特異的突然変異または標的細胞内の欠陥遺伝子の修復。
【0098】
よって本発明は、上記の方法により標的遺伝子を含有する細胞内にPNA分子を導入することで、標的遺伝子の転写または発現を阻害する方法を提供する。この場合、該PNA分子 は特異的に標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物に結合する。よって例え
ば該PNAは、DNAおよび/またはRNAに結合してもよい。
【0099】
「特異的な結合」は、RNAまたはDNAである標的分子に対するPNAの配列依存性結合をいう。「標的遺伝子」は、PNAが結合することができ、調査の対象である遺伝子またはそのフラグメントである。
【0100】
本発明は、また標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物のレベルを同定または評価する方法を提供する。その方法は、標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物を含有する細胞内に上記の方法によってPNA分子を導入すること(この場合、該PNA分子は、特異的にその標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物に結合する)、ならびに該標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物の存在またはレベルを決定するために結合したPNAのレベルを評価することを含む。この方法で、そのPNA分子は、評価時に同定され得るレポーター分子、例えば放射能標識またはシグナルを発生する手段を担持することは便利である。その評価は定性的または定量的、その両方でもよい。
【0101】
本発明はまた部位特異的突然変異または標的遺伝子、好ましくは欠陥遺伝子の修復を細胞で実施する方法を提供する。その方法は、標的遺伝子を含有する細胞内に、上記の方法によってPNA分子および所望の配列を含むオリゴヌクレオチド分子を導入することを含む。この場合、該PNA分子は、特異的にその標的遺伝子に結合してPNAクランプを形成する。
【0102】
三重鎖(triplex)を形成している正常核酸の歪み(distortion)は標的部位で発生し
、その特定部位で修復または組換え(recombination)を促進する。PNAに結合させら
れるか、または単にPNAとともに一緒に投与されるドナーヌクレオチドは、所望のヌク
レオチド配列を含有する。それゆえPNAは、修復/組換えのプロモーターとして作用する
。
【0103】
これらの方法は、探索的な目的、例えば診断目的、あるいは細胞の発現プロフィールを変更する目的で用いてもよい。例えば単離または治療の目的で所望の産物を産生するために用いてもよい。
【0104】
かくして本発明の方法は、診断目的に使用できる。特定遺伝子またはその複製もしくは転写の産物の存在は、病気、病態または障害の存在、病期、または予後診断にとり有用である。本発明によって疾患、病態または障害を診断する方法が提供される; PNA分子
を細胞内に上記の方法によってPNA分子を導入すること(インビトロ、インビボまたはex vivoでもよい)この場合、該PNA分子は特異的にその標的遺伝子またはその複製も
しくは転写の産物(疾患、病態または障害の存在を表出している)に結合し、次いでそうした病気、病態または障害の存在、病期、または予後診断を決定するために結合したPNAのレベルを評価することを含む。
【0105】
本発明の方法は、1以上の遺伝子の下方調節、修復または突然変異によって利益を受ける 、いずれの疾患に治療に用いることができる。例えば癌で過剰発現している遺伝子は
、適切な PNA分子を投与することによってダウンレギュレーションすることが可能で
ある。
【0106】
例えば嚢胞性繊維症、癌、心臓血管疾患、ウィルスの感染および糖尿病の治療において、変異体で疾患原因である遺伝子の発現を抑制するPNAは、置換(replacement)遺伝子と組み合わせて(すなわち、遺伝子の治療的な移送または患者の細胞に存在している遺伝子の改変を含む遺伝子治療において)投与することもできる。その治療が1以上の遺伝子の下方調節によって利益を受ける疾患には、白血病および膵臓癌(Cogoi ら (2003) Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids 22(5-8), 1615- 1618)、 筋萎縮性側索硬化症(AMS) (Turner ら (2003), Neurochem. 87(3) , 752-763) , ハンチングトン(Huntington's)病 (Leeら (2002) J. Nucl. Med. 43(7), 948-956) およびアルツハイマー疾患 (McMahonら. (2002) J. MoI. Neurosci. 19(1-2), 71-76) が含まれる。
【0107】
上記のようにPNAは、存在している遺伝子を変更するためにも使用されるかも知れない。したがって、原因として欠陥遺伝子の発現または遺伝子の正常態様での発現不調に関係している疾患を治療するために欠陥遺伝子の修復に使用することもできる。(Rogersら (2002) , PNAS U.S.A. 99(26), 16695-16700; Faruqiら (1998) , PNAS U.S.A. 5(4), 1398-1403)
よって本発明の別の態様から、 PNA分子および必要に応じて別個に本明細書で記載
された光増感剤を含む組成物が提供される。該PNA分子は、正に荷電したペプチドと複合化している。本発明の別の局面は、そうした組成物を治療に使用する方法を提供する。
【0108】
代わりに本発明は、患者において1以上の標的遺伝子の発現を変更することにより疾患、障害または感染を治療または予防するための薬剤の製造において本明細書で記載されたPNA分子の使用を提供する。好ましくはその薬剤は、異常な遺伝子発現により代表される疾患または障害を治療する遺伝子治療用である。そうした変更としては、その発現のダウンレギュレーション、または該遺伝子の改変態様のアップレギュレーション(上方制御)が挙げられる。
【0109】
上記の様々な態様によれば、前記の光増感剤およびPNA分子は、患者の細胞または組織と同時にまたは順番に接触させられ、その細胞は、光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光で照射され、ならびに照射は、該光増感剤を含有する細胞内コンパートメント内
に該PNA分子の取り込みの前に、その間に、またはその後に実施される。いずれかの細胞内コンパートメントへの該移送分子の取り込みの前に行なわれるのが好ましい。
【0110】
したがって本発明のもう一つの態様では、患者の疾患、障害または感染を治療しまたは予防する方法であって、インビトロ、インビボまたはex vivoでPNA分子を1以上の細
胞内に上記の方法によって導入すること、ならびに必要であれば(すなわちトランスフェクションがインビトロ、インビボまたはex vivoで行なわれる場合に)さらに該細胞をその患者に投与することを含む。該PNA分子は正に荷電したペプチドに複合化されている。
【0111】
本明細書で「治療」は、治療前の症状に関して治療されるべき疾患、障害または感染の1以上の症状を減らすか、軽減するか、除くことをいう。「予防」は、疾患、障害または感染の症状の発症を遅らせるか、防止することを言う。
【0112】
本発明の組成物はPNA分子を含有する細胞を含んでもよく、そのPNA分子は正に荷電したペプチドに複合化され、細胞の細胞質または核内に本発明の方法により内在化される。本発明はさらに治療、とりわけ癌の治療または遺伝子治療において使用される組成物に拡張される。
【0113】
本発明の別の態様によれば、PNA分子を含み、本発明の方法によって得られる細胞または細胞集団が提供され、 そのPNA分子は正に荷電したペプチドに複合化され、そ(
れら)の細胞の細胞質または核に内在化される。
【0114】
本発明の他の局面から上記の治療、好ましくは癌の治療または遺伝子治療に使用される組成物または薬剤の製造における、そのような細胞または細胞集団の使用が提供される。
この場合、該PNA分子は正に荷電したペプチドに複合化されている。
【0115】
本発明は、また患者の治療方法を提供し、その方法は該患者に本発明の細胞または組成物を投与することを含む。すなわち上記の細胞に分子を導入すること、このようにして調製した細胞を該患者に投与することを含む方法である。好ましくはそうした方法は癌の治療または遺伝子治療に使用される。
【0116】
インビボでは、当業界で一般的または標準的であるいかなる投与方式、例えば注射、注入、身体の内表面および外表面両方への局所投与を使用することができる。インビボ使用については、本発明は、光増感剤およびPNA分子が局在化された細胞を含むすべての組織、固形組織のみならず体液部位を含む組織について使用できる。いずれの組織も、光増感剤が標的細胞に取り込まれ、光が適切に届く限り、治療することができる。
【0117】
本発明の組成物は、医薬業界で知られている技術、手順に従って、好都合な方法、例えば製薬学的に許容される1以上の担体または賦形剤を使用して処方調製してもよい。
本明細書で「製薬学的に許容される」とは、 レシピエントに生理学的に受け容れられ
るだけでなく、組成物の他の成分と適合性のある諸成分をいう。組成物および担体もしくは賦型剤の特性、材料、用量などは、選択および所望する投与経路、治療目的などに基づいて、通常のやり方で選択してもよい。同様に用量もまた、通常の方法で決められるが、分子の特性、治療目的、患者の年齢、投与様式などに基づくであろう。 光増感剤につい
ては、照射により膜を破壊する可能性、能力も考慮されねばならない。
【0118】
あるいは上記の方法は、ハイスループット・スクリーニング方法、特に特定遺伝子のサイレンシング効果を解析するための方法用のスクリーニングツールを生み出すために使用してもよい。1以上の特定遺伝子に向けられるPNAは、上記の本発明方法を用いて調製され、使用されてもよい。したがって、PNAが細胞集団においてある遺伝子の発現を減
らすために使用される。生じる細胞集団は、遺伝子サイレンシングの下流効果を同定するためのスクリーニングツールとして標準的技術とともに用いてもよい。例えば標的遺伝子のサイレンシングによって影響される遺伝子もまた同定することができる。そのように同定された遺伝子は、必要に応じてスクリーニングの次の過程、例えば特別のシグナル伝達事象に関与している分子を決定するための過程でPNAを用いて標的としてもよい。
【0119】
本発明は、改変された遺伝子発現のパターンを用いる細胞のスクリーニング方法に関係し、該方法は、a)本発明の方法によってPNA分子を導入することによって得られる細胞もしくは細胞集団の標的遺伝子、または1以上のさらなる遺伝子の発現を解析すること、この場合、該PNAは特異的に標的遺伝子またはその複製または転写の産物に結合し、ならびに1以上のそうした遺伝子発現を改変する;および b)標的および/または1以上のさらなる遺伝子の発現を対照細胞、好ましくは野生型細胞における遺伝子発現に対して比較することを含むものである。
【0120】
発現パターンは当業界で知られた適切ないずれかの技術、具体的にはmRNA (またはcDNA)分子に結合するプローブを担持するマイクロアレイを用いて決定することができる。さらに各転写物の量を評価するために使用してもよい。対照細胞は、発現が比較されるすべての細胞であり、そのような細胞はPNAが投与されなかったコントロール細胞が好ましい。特に好ましくはそうした細胞が野生型細胞、例えばPNAの使用という遺伝子操作にかけられなかった細胞である。
【0121】
正常および化学修飾アンチセンスのオリゴヌクレオチドを用いて遺伝子発現を低減させる以前の試みは、アンチセンスオリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ分解、非特異的な作用の発生および/または不充分な標的親和力を伴う問題によって制限されてきた。PNAを
投与するために本発明の方法を用いることによって、これらの問題は解決された。したがって、本発明のさらなる局面で、細胞(または細胞集団)の遺伝子発現パターンを改変して、スクリーニングツール(例えばハイスループット・スクリーニング)として使用する細胞 (または細胞集団)を調製するための方法が提供される。該方法は、ある遺伝子の発現を阻害するか、低下させることができるPNA分子および光増感剤と細胞(または細胞集団)とを接触させること、ならびに光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光で細胞 (例えば細胞集団)を照射することを含み、ここで該PNA分子は、正に荷電したペプチドに複合化されている。本発明はさらにそうした細胞およびそうした細胞をスクリーニングする方法まで拡張され、 この場合そのような細胞の特異的な諸性質、具体的にはそのような細胞のmRNA発現レベルを、例えばマイクロアレイ上で調べられる。.
「改変された遺伝子発現パターン」により、該PNA分子が細胞核内に存在する結果、影響が及ぼされるのは、指定される遺伝子の転写または翻訳であることを意味する。
【0122】
遺伝子発現のかかる変化の結果として、他の遺伝子発現が影響されるかも知れない。したがって調査される遺伝子の正常な発現に影響を及ぼすことによって、他の遺伝子発現パターンの変化を決定することが可能である。これらの遺伝子を同定し、ならびに調査される遺伝子の発現がそれらの遺伝子に及ぼす影響を同定することは、遺伝子の機能、例えばそれらの下流機能(downstream functions)について結論をひきだすことを可能とするであろう。調査される遺伝子の正常な発現における変化によって影響を受ける遺伝子は、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされるだろう。しかし発現パターンにおける全体の変化は、正常細胞の機能における遺伝子の役割ならびにその誤制御の結果の指標を与えるであろう。
【0123】
当業界で周知の標準技術を用いて、問題とする遺伝子発現のダウンレギュレーション(downregulation)または消失(elimination)の効果を調べることは可能である。このこ
とは、例えば細胞 (または細胞集団)における機能上の変化、例えば細胞接着、タンパク
質分泌または形態的変化といった変化を探すことによってなし得る。代わりに遺伝子発現のプロファイルは、mRNAパターンおよび/またはタンパク質発現を、これ又知られて
いる標準的な技術を使用して分析することによって直接的に調べることができる。
【0124】
遺伝子発現を阻害または低下させることによって、該方法が適用されなかった細胞、すなわち野生型または正常細胞と比較すれば、問題とする遺伝子発現が低下することが理解されるであろう。遺伝子発現レベルの変化は、公知の標準方法によって決定できる。
【0125】
発現の完全な阻害があるかも知れず、その結果、遺伝子発現が検出されない、すなわちmRNAまたはタンパク質が何ら検出されないか、あるいは発現の部分的阻害、すなわち減少があるかも知れず、これによって遺伝子発現の量は、野生型または正常細胞よりも低いかもしれない。このことは特定配列を有するPNAの効果を、スクランブル配列(ヌクレオチドの組成は同じであるが、配列順序は異なる)を持つPNAの効果と比較することによって、評価でき、また制御できる。この技術が有用となるために発現の減少は、コントロールレベルの80%未満まで、コントロールレベルの、例えば<50%、 好ましくは<20、 10または5%である。使用される細胞は細胞集団が好ましく、その個々の細胞は、遺伝的に同一である。上記に論じたように細胞はいずれの細胞でもよい。
【0126】
この新しいPNA送達技術の開発以前では、PNAをそのような系に使用することは可能ではなった。この系でPNAを使用できることは、いくつかの利点がある。トランスフェクション作用剤を使用するといった、分子を細胞に投与するための公知の技術は、ラージスケールのスクリーニング系において使用される細胞のアッセイをしばしば乱して、その結果、遺伝子発現における破壊によっていずれの効果がひき起こされたのか、ならびにトランスフェクション技術そのものによっていずれがひき起こされたのかを確定することが困難になっている。PCIが仲介する送達ではそのような効果はほとんどなく、したがって適切なコントロールを使用することによってこのことを考慮することは可能である。
【0127】
細胞への分子送達に使用される他の物質のあるものは、スクリーニングのアッセイに非特異的な影響を及ぼすかも知れない。例えば遺伝子サイレンシング技術のために使用される低分子干渉RNA(siRNA)は、インターフェロン遺伝子の発現に影響を与えることが報告されていた(Sledzら. (2003), Natl. Cell Biol. 5(9), 834-839)。PNAの安定性
は高く、そのものとして遺伝子発現に有する作用は、一回の投与後であっても長引いている。
【0128】
PNAの有効性は、その阻害的作用がヌクレオチド分子との化学的相互作用に依存するために、特異的な酵素系とは無関係である。それ自体として阻害の度合いは、様々な種類の細胞において一定である。このことはsiRNAには当てはまらず、例えば特異的な酵素系に依存する。驚くべきことにPCI 技術は、遺伝子発現への非特異的な効果を生じさせるという予期される問題を有しないことが見出された。本発明の方法によって作り出された細胞または細胞集団は、本発明のさらなる態様を形成するライブラリーを作製するために使用することができる。
【0129】
本発明は、図を参照しながら、次の実施例でさらに詳細に記載されるが、これらは限定と解されるべきでない。
[実施例]
実験プロトコル
細胞株および培養条件
ヒト細胞株HeLa(頸部腺癌)、WiDr(結腸癌)、および293(胚腎臓)は、American Type Culture Collection(Manassas、バージニア州、米国)より得た。ヒトOHS(骨肉腫)およびFEMXIII(メラノーマ)は、Norwegian Radium Hospital (Fodstad ら, (1986), Int. J. Cancer 38(1), 33-40; Fodstad ら., (1988), Cancer Res. 48(15), 4382-8)で確立された。DMEM培地(Bio Whittaker、ベルビエ、ベルギー)で培養した293細胞株を除き、すべての細胞株をRPMI-1640培地(Bio Whittaker、ベルビエ、ベルギー)で培養した。
【0130】
両培地とも、10%ウシ胎仔血清(FCS; PAA Laboratories、リンツ、オーストリア)お
よび2mMのL−グルタミン(Bio Whittaker、ベルビエ、ベルギー)を加えたことを除き、
抗生物質を加えることなく使用した。細胞株は、5%CO2を含む加湿環境にて、37℃で培養し、インキュベーションした。すべての細胞株について、マイコプラズマ感染に関して試験を行ったが、すべて陰性であることがわかった。
【0131】
PNA設計
スクランブルPNAを含有するS100A4遺伝子に特異的なPNAは、Oswell DNA Service (サウサンプトン、英国)から得た。片方の末端もしくは両末端に修飾を施した(表1参照)。5'UTR(GeneBank accession number NM_002961, 2-15)に対する標的AUG開始領域(63-82)および2番目のエクソンのコード領域(98-118)は、先のPNA阻害に関する研究(Doyleら. , (2001), Biochem. 40, 53-64; Mologniら. , (1999), Biochem. Biophys. Res. Comm. 264, 537-543)及びリボザイムを用いるS100A4遺伝子抑制(Hovigら, (2001), Antisense Nucleic Acid Drug Dev. Apr 11(2), 67-75)をもとに、選択された。
配列は、BLASTサーチでヒトゲノムデータベースに対して位置合わせを行い、他の遺伝子に著しい相同性を持つものは除外した。ストック溶液(1mM)は、PNAを10%のトリフルオロ酢酸に溶かすことで調製し、PNAを確実に完全に溶かすために、使用前に50℃に加熱した。使用に先立ち、PNAをさらに滅菌水で希釈して使用液(10 μM)とし、−20℃に保った。
【0132】
siRNA設計およびアニーリング
Elbashirらにより提案された規則(Elbashirら, (2001), Genes Dev. 15, 188-200)に基づき、S100A4遺伝子のコード領域に対し、2つの標的を選択した。第一の標的はAA(N)19配列(GeneBank accession number NM_002961, 343-361)に対するもので、第二の標的はAA(N19)TT配列(264-282)とした。加えて、スクランブルコントロールsiRNAおよび蛍光標識したsiRNAを得た。siRNAはすべてEurogentec (スラン、ベルギー)よ
り購入した。標識は、両鎖で行い、FITCをアンチセンス鎖の5 '末端に、ローダミンをセ
ンス鎖の3 '末端に、行った。siRNA二重鎖の最適安定性を得るために、二重鎖のGC含
有量を40−70%の範囲に維持し、すべてのsiRNAはその3 '末端でdTdT突出を有するよ
うに合成された。この二つの標的配列も、BLASTサーチでヒトゲノムデータベースに対し
て位置合わせを行い、他の遺伝子に著しい相同性を持つものは除外した。乾燥したsiRNAオレゴヌクレオチドは、DEPC処理した水に再懸濁して100μMとし、−20℃で保管した。siRNAのアニーリングは、各RNAオリゴを別々にアリコットし、濃度50μMに希釈して行った。その後、100mMNaClの処理水において、最終濃度50 mM、pH7.5のトリス緩衝液、100mMNaCLとし、30μlの各RNAオリゴ溶液と15μlの5Xアニーリング緩衝液とを混合した。次に、その溶液を水浴中、95℃で2分間インキュベートし、続いて作業台上で、45分間徐冷した。非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により、良好なアニーリングであったことを確認した。
【0133】
siRNA形質移入およびPNA電気穿孔法
OHS細胞は、上述の方法で培養し、形質移入前に6ウェルプレートで24時間培養して30−60%に密集させた。形質移入は、製造業者の取扱説明書に従って、Life Technologies Inc. (Gaithersburg、メリーランド州、米国) のリポフェクチン試薬、Invitrogen (Catlsbad、カリフォルニア州、米国)のリポフェクチン試薬、Boehringer Mannheim(マンハイム、ドイツ)の(N−(1−(2、3−ジオレオキシルオキシ)プロピル)−N、N、N、−トリメチルアンモニウムメチル硫酸塩(DOTAP)、Roche Diagnostics(マンハイム、ドイツ)のFuGene、Ambion(Austin、テキサス州、米国)のsiPORT Lipid Transfection Agent、およびSigma(St. Louis、ミズーリ州、米国)のポリ-L-リジン臭化水素酸塩(MW:15,000−30,000)を用いて、様々な濃度のsiRNAと共に、血清フリーのOPTI-MEM I培地(Invitrogen Corp、ペズーリ、英国)中で行った。
【0134】
電気穿孔法で、培養したOHS細胞を回収し、新しい培地に再懸濁した。およそ4×106の
細胞を、300μlの培地中でPNA(1−10μM)と混合し、氷上で10分間インキュベートした。950μF/250 V(ECM399、BTX、A Division Of Genetronics、カリフォルニア州)に
設定して、0.4cmのキュベット中で、細胞の電気穿孔法を行った。電気穿孔法後、細胞を30分間氷の上でインキュベートし、T25フラスコ中で希釈した。その後、5%CO2と共に37℃で24時間インキュベートし、蛍光顕微鏡検査法により分析した。
【0135】
PCI技術および処理
増感剤であるジスルホン化テトラフェニルポルフィン(TPPS2a)は、Porphyrin Products (Logan,ユタ州、米国)より購入した。まず、TPPS2aを0.1M NaOHに溶解し、その後、pH7.5のリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で濃度5mg/mlまで希釈し、最終濃度0.002M NaOHとした。光増感剤は、使用するまで、遮光し−20℃で保管した。照射において、TPPS2aで処理した細胞は、420nm付近に最高フルエンスを持つ4つの蛍光管(Osram 18W/67)列を収容できるLumiSource prototype(PCI Biotech AS、オスロ、ノルウェー)を使用して、青色光に露光された。
【0136】
使用に先立ち細胞は、6ウェルプレート内で、37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。
その後細胞を、種々のPNAと増感剤TPPS2a(1μg/ml)とともに18時間インキュベートした。取り込み後の細胞を新しい培地で3回洗浄し、増感剤フリーの培地で4時間インキュベートした。最後に、細胞を30秒間青色光に露光し、24、48、および96時間、再度インキュベートした。実験中は、細胞をアルミホイルで遮光した。
【0137】
蛍光顕微鏡検査
細胞は、FITC用(450−490nm BP510nm励起フィルター、510nm FTビームスリッター、および515−565nm LP発光フィルター)、ローダミン用(546/12nm BP励起フィルター、580nm FTビームスリッター、および590nm LP発光フィルター)、およびDAPI用(365/12nm BP励起フィルター、395nm FTビームフィルター、および397nm LP発光フィルター)のフィルターを備えたZeiss倒立顕微鏡、Axiovert 200で分析した。写真は、Carl Zeiss AxioCam HR、Version 5.05.10、およびAxioVision 3.1.2.1ソフトウェアを使用して作成した。
細胞小器官用の特異マーカーは、細胞内PNAの局在化を確認するために使用した。リソソームの局在化は、蛍光顕微鏡およびLysoTracker Red DND-99(Molecular Probes、Eugene、オレゴン州)を使用して決定した。核の局在化は、Hoechst H33342(Molecular Probes、Eugene、オレゴン州)を使用して決定した。
【0138】
フローサイトメトリー分析
細胞は、FACS-Calibur(Becton Dickinson)フローサイトメーターで分析する前に、トリプシン処理、遠心分離、400μlの培地での再懸濁を行い、50μmメッシュのナイロンフ
ィルターでろ過した。各サンプルに対し、10.000 イベント(events)ずつ収集した。FITC標識PNAは、アルゴンレーザー(15mW、488nm)で励起後、510−530nmのフィルターを通して、測定した。死細胞は、前方散乱-側方散乱をゲートすることにより、単一生存細
胞から識別した。データは、CELLQuestソフトウェア(Becton Dickinson)で解析した。
【0139】
ウェスタン・ブロッティング法
タンパク質可溶化液は、2g/mlのペプスタチン、アプロチニン(Sigma Chemical compa
ny、St Louis、ミズーリ州)、ロイペプチン(Roche Diagnostics、 マンハイム、ドイツ)とともに、150mM NaClおよび0.1%NP−40を含有するように、50mMのTris-HCl (pH 7.5)中で調製した。各サンプルの全タンパク質可溶化液(30μg)を、12% SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、製造業者の取扱説明書に従って、イモビロン-P膜(Millipore、Bedford、マサチューセッツ州)上に転写した。ローディングコントロール(loading control)および転写対照(transfer control)として、膜を0.1%のアミドブラックで染色した。その後、膜は、前に、10%粉ミルクとともに0.5M NaClおよび0.25% Tween 20(TBST)を含有する20mM Tris-HCl(pH 7.5)(ブロッキング溶液)中でインキュベートした。次いで5%の粉ミルクを含有するTBST中で、ウサギ多クローン性の抗S100A4(1:300希釈、DAKO、Glostrup、デンマーク)およびマウス単クローン性抗α−チューブリン(1:250希釈、Amersham Life Science、 バッキンガムシャー州、英国)を用いてインキュベートした。
【0140】
洗浄後、免疫反応性タンパク質を、二次抗体が接合した西洋わさびペルオキシターゼ(1:5000希釈、DAKO、Glostrup、デンマーク)およびエンハンストケミルミネッセンスシステム(Amersham Pharmacia Biotech、バッキンガムシャー州、英国)を用いて視覚化した。S100A4タンパク質レベルは、コントロール・サンプルの百分率として報告し、α-チューブリンはローディングコントロールとして使用した。
MTSアッセイを使用した細胞生死判別測定
100μlの細胞を96ウェルプレートに仕込み、37℃で24時間静置して増殖させた。細胞を含有していないネガティブコントロールも含めた。各ウェルに100μl当たり20μlのMTS試薬(テトラゾリウム塩)を加え、暗所、37℃にて2〜4時間インキュベートした。その後、その吸光度を490nmで測定した。
【0141】
リアルタイム逆転写酵素PCR
細胞は、上記のように培養して処理した。光化学処置の後、細胞を様々なPNAで96時間インキュベートし、その後、RNA単離のため回収した。細胞の総RNAは、GenElute
Mammalian Total RNA Miniprep Kit(Sigma-Aldrich、シュタインハイム、ドイツ)で製造業者の取扱説明書に従って単離した。CDNA合成のために、50pmolのオリゴ-dT、3μgの総RNAおよびdH2Oを含めた12μlのプライマー混合物を、各サンプルに対して調製し
た。その混合物は、65℃で5分間変性させ、すぐに氷上で冷却し、18μlの反応混合物と混合して、最終濃度を1×第一標準緩衝液(インビトロゲン)、10mM DTT、0.3mM dNTP、6.5
ng/μl酵母tRNA、200U(6.6U/μl)スーパースクリプトII酵素とした。CDNA合成は
、42℃で50分間行い、その後72℃で15分間不活性化した。
【0142】
PCR分析のために、各cDNAサンプルから3つの10倍希釈液を調製し、すべての反応を3連で行い、1つのcDNAサンプル当たり合計9個のPCRチューブを作った。PCRは、最終濃度3mM MgCl2、200μM dNTP、1×PCR緩衝液、0.5 U Platinum Taq、2μl cDNA、S100A4遺伝子に特異的な300nMプライマー(順方向プライマー、5' −AAGTTCAAGCTCAACAAGTCAGAAC−3'(配列ID:No. 9)および逆方向プライマー、5'−CATCTGTCCTTTTCCCCAAGA−3'(配列ID:No. 10)を使用して、総体積25μlで行った。加えてすべての反応は、iCyclerについて必要なときは、1nMフルオレセインでスパイクした。リアルタイムの結果は、検出試薬として最終希釈濃度1:100000のSYBR Green I(Molecular Probes, Eugene、オレゴン州)を用いて得られた。増幅サイクルは、以下の通りである。95℃で5分間、最初の変性を行った後、生成物増幅を95℃で15秒間、60℃で30秒間からなる40サイクルで行った。PCR生成物のリアルタイム検出は、Bio-Rad Laboratories(カリフォルニア州)によって製造された光学式96ウェルプレートおよびiCycler iQ検出システムを用いて行った。各サンプルは、3つ一組で構成された。誤った生成物あるいはプライマー二量体(SYBRGreen取り込みにより一様に標識されており、蛍光測定値に影響を与える)の増幅を検出するため、融解曲線、すなわち変性による蛍光損失が、PCR増幅プロトコルの最後に組み込まれた。
各サンプルの融解曲線プロファイルは、標準サンプルに対して得られたものと比較した。
【0143】
cDNAアレイ
本明細書で使用するマイクロアレイは、Micro Grid II robotic printer(Bio Robotics、ケンブリッジ、英国)を使用し、社内で作製した。これらの15kヒトcDNAアレイは、アミノシラン被覆スライド(CMT GAPS、Corning Life Sciences、Corning、ニューヨーク州)上にプリントされた。このアレイの内容に関する詳細は、以下を参照のこと。
http: //www.med.uio.no/dnr/microarray/index.html.
PNA精製および標識
PCIおよび様々なPNAで処置した培養細胞から得られた総RNAは、上述のように単
離された。S100A4遺伝子サイレンシング(silencing)の結果として考えられ得るダウン
ストリーム効果を分析するため、活性PNA(PNA382または453)およびスクランブルPNAまたはコントロールPNA(PNA452(対照)または454(スクランブル))で処置した細胞のcDNAで、各アレイをハイブリダイズした。
【0144】
cDNAは、各細胞培養物から得た50μgの総RNAから生成され、逆転写の間にCy3−
またはCy5−dCTP(Amersham Pharmacia Biotech AB)で様々に標識された。反応混合物は、定着したオリゴ-dT20merプライマー(4μg)、40 U RNAsin (Promega、Madison、WI)、第一標準ストランド緩衝液、0.01 M のDTT、0.5mMのdATP, dCTP, dGTPおよび0.2mMのdTTPを含有していた。混合物は、65℃の水浴中で5分間インキュベートした。その後、チューブを42℃のヒートブロックに移し、400U Superscript II(Invitrogen、フローニゲン、オランダ)に加えて、4μl(4nmol)のいずれかの蛍光団を、それぞれのチューブに加えた。60分後、5 μl の0.5 M EDTA (pH 8.0)で、反応を不活性化した。残余RNAを加水分解するために10μlの1M NaClを加え、チューブを65℃で60分間インキュベートした。25μlの1M Tris-HCl(pH 7.5)を加えて、混合物を中和した。標識Cy3−cDNAおよびCy5−cDNAは0.5×TE−緩衝液で希釈し、取込まれていない色素を除去して、Microcon YM カラム(Ambion, Millipore Corporation、Bedford、マサチューセッツ州)によりサンプルを濃縮した。
【0145】
スライドのプレハイブリダイゼーション
スライドは、150kJで60秒間、紫外線で架橋した。使用直前にスライドをプレハイブリ
ダイゼーションして、スライド表面上にある反応性官能基を不活性化し、結合していないDNAを洗い流した。プレハイブリダイゼーション溶液で満たした小スライドホルダーを、30分間50℃で予熱した。ハイブリダイゼーション溶液は、1%(w/v)のウシ血清アルブミン(BSA)フラクションV(Sigma-Aldrich)、3.5×SSCおよび0.1% SDSを含有していた。
スライドは、インキュベーションの後、直ちに50℃で25分間、予熱溶液中でインキュベートした。スライドは清浄なスライドラックに移し、室温にて超純水中で撹拌しながら2回洗浄した。DNAを一本鎖形態に変性するため、該スライドを沸騰直後の湯中で2分間撹拌し、その後プロパン-2-オール中に素早く浸して30秒間撹拌した。スライドは、遠心分離により乾燥させた。
【0146】
ハイブリダイゼーションおよびスキャニング
45μlのハイブリダイゼーション混合物は、15μlの各標識プローブ、16μgのポリA(Amersham Pharmacia Biotech AB)、4μgの酵母tRNA、1.25×Denhart溶液、5μgのBSA、3.5×SSC(pH 7.5)および0.3%のSDSからなっていた。最終混合物は、LifterSlip(Erie Scientific Company、Portsmouth、ニューハンプシャー州)下のマイクロアレイ・スライドに適用する前に、100℃で2分間加熱し、13Kで10分間、遠沈した。次いでスライドをArrayITハイブリダイザーション・チャンバー(Telechem、 Sunnyvale、カリフォルニア州)に収納し、水浴中65℃で一晩インキュベートした。スキャニングに先立ち、カバーグラスを0.5×SSCおよび0.1%SDSの溶液中で取り外した。その後、室温で5分間、スライドを同じ溶液中で二回洗浄し、続けて2回、0.06×SSC洗浄溶液中で5分間洗浄した。スライドは最終的に遠心分離により乾燥した。スキャニングは、ScanARRAY 4000(Packard Biosciences、Biochip Technologies LLC、 Meriden、CT)スキャナーで行い、GenePix Pro 4.0ソフトウェア(Axon Instruments Inc.、Union City、カリフォルニア州)を使用して、その画像からデータを得た。BASE(Lao Hら BioArray Software Environment: A Platform for Comprehensive Management and Analysis of Microarray Data Genome Biology 3(8): software0003.1-0003.6 (2002) .)を使用して、データを保存、解析、処理し、ならびに各スポットについてのバックグランドを補正した強度は、スポットにおけるピクセル平均値から局所バックグラウンド中のピクセル中央値を差し引くことにより計算した。
【実施例1】
【0147】
PNA分子の細胞取り込み
最初の一連の実験は、細胞取り込みの問題、すなわち様々な正味電荷を有する短ペプチドに結合したPNAが、種々のヒト癌細胞株の細胞膜に貫通するのか否かを取り扱うものである。細胞内にある化合物を検出するために、PNAをNまたはC末端のいずれかで、FITCを用いて標識した。表1にはその標的配列、化学修飾および荷電を含め、本研究で使用されたPNAが詳述されている。
【0148】
細胞取り込みは、フローサイトメトリーにより評価した。正味電荷が負のペプチドに結合しているPNA(PNA383)は、OHS細胞内に貫通していない(図1、−1の正味電荷)。負に荷電した分子の取り込みは、24時間後も実質的に起こらないため、電気穿孔法により細胞をトランスフェクトする可能性を検討した。この場合でも、PNA取り込みはほとんど起こらなかった。負に荷電したPNAとは対照的に、電荷を帯びておらず、かつ、どのペプチドとも結合していない中性PNA(PNA456)ならびに正味の電荷が中性であるペプチドに結合しているPNA(PNA385)は、ともに低レベルで内在化する(図1、PNA385の正味電荷は0、PNA456は示されていない)。
【0149】
次に正に荷電したPNAを調査した。PNAが正味の電荷が+1であるペプチドに結合すると(PNA384)に、取り込みが明確に観測された(図1、+1の正味電荷)。しかしながら、正味の電荷を+5に増加させると(PNA381)、+1のPNAに比べて細胞取り込みは
ほぼ5倍増加することを観測した(図1、+5の正味電荷)。
【0150】
OHS、FEMXIIおよびHela細胞で行った上記実験の結果が、表2にまとめられている。
PNA分子の存在位置の確認には、染色法を用いた。PNA分子に結合した標識の蛍光を使用して、細胞内のPNA分子の位置を確認した。Hoechst染色法およびLysoTracker染色法を使用して、それぞれ核およびリソソームコンパートメントを調べた。図2Aは、PCI
後にPNA分子が細胞内に分布したことを示している。図2BおよびCは、PCI後に、PNA分子が核に分布したことを示している(すなわちその分布はHoechst染色法と一致する)
。
【0151】
細胞取り込みがNLSペプチドのコンホメーションに依存するのか、あるいは電荷のみに
依存するのかを調査するため、+5の正味電荷を有し、29アミノ酸鎖長のミトコンドリア移入シグナルにPNAを結合させた(PNA382)(図3B)。PNA381(図3A)に対する第二のコントロールとして、もとのNLSアミノ酸配列、PKKKRKV(配列ID:NO.3)を、代替のGHHHHHG (+5)配列(配列ID:No.5、PNA457)で置換した(図3C)。3つの異なるPNA構築物についての細胞取り込みの相対レベルは、顕微鏡検査で明らかにされた相対レベルと同様であった。すべての場合において、PCI後にPNAは核に局在化していた。このこ
とはHeLaおよびFEMXIII細胞において実施したときも同様であった。(図3DおよびE)。
【0152】
NLSの配向に関係しているかも知れない細胞取り込みにおいて、考えられるあらゆる差
異を検討するために、N末端(PNA453)およびC末端(PNA381)の両方にペプチドを結合させた。取り込みレベルに違いはないことが観測できた(図4)。種々の細胞株中で
、様々なPNAとその細胞取り込みについても試験した(HeLa、WiDr、293、OHS、FEMX5
、SW620、HCT116、SaO)が、目立った変化は見られなかった(図5)。
【0153】
我々のデータは、キメラ的なPNAの取り込みがペプチド分子の正味電荷に強く依存しており、アミノ酸コンホメーションには依存しないということを示している。本明細書では、共役したペプチド上の正の正味電荷が高くなると、PNA分子の取り込みが増加することを示した。
【実施例2】
【0154】
PNA取り込み機構および局在化
改変PNAの取り込み機構を評価するため、様々な温度のもとでのそれらの取り込みを検討した。その結果、37℃では取り込みが見られるが、4℃では内在化が見られないこと
がわかった(図6)。さらに、蛍光顕微鏡検査法のデータは、ちょうど核膜付近における
識別範囲に、粒状の蛍光スポットを示した。最後に、PNA構築物およびエンドソーム/リソソーム(LysoTracker Red DND)のマーカーの細胞内位置の間に、完全な一致が見ら
れた(データは示していない)。
【0155】
これらの結果は、エンドサイトーシスが関係していることを示している。これは、被膜されたベシクルを介する内在化により生じたかも知れない。本実験では、PNAの取り込みは4℃で阻害された。これらの結果は、KuismanenおよびSaraste(Kuismanen Eら (1989) Methods. Cell. Biol. 32, 257-274)の知見により支持されており、エンドサイトーシスが低温で阻害されることを示している。温度依存性は、さらにPNAとLysoTrackerの
重複した局在化により支持される。
【0156】
エンドサイトーシスは、いくつかの主要なタイプに分けることができる。すなわち、クラスリン依存性レセプター媒介、クラスリン非依存性、およびファゴサイトーシスである。しかしながら、エンドサイトーシスのタイプを特定するためにはさらなる研究が必要である。
【0157】
クラスリン依存レセプター媒介エンドトーシスの証拠がないことから、本実験で使用したPNA分子はクラスリン非依存エンドサイトーシスにより取り込まれたということが示唆される。PNAは、同じ電荷を持つ様々なペプチドシグナルに結合しており、その結果は同一である。これより取り込みが特定レセプターに依存していないことを示した。結論として、正に荷電したPNA分子は、負に荷電したPNA分子よりも、細胞膜と緊密な結合を持つ可能性が高く、それが細胞内取り込みを増加させるのであろうということがいえる。
【実施例3】
【0158】
PCI処理の効果
顕微鏡検査法のデータから、中性/正の正味電荷を有するPNAがエンドソーム/リソソーム内に局在化していたことを示された。顕微鏡検査法のデータは、PCI処理後に、P
NA構築物がエンドソーム/リソソームから核へ転移していることを明示している。PNAの再局在化を確認するために、上記のHoechst核染色法も用いた(図2および図3参照)
。
【実施例4】
【0159】
PNA分子の核内輸送
核をベースとするPNAターゲティングには、大きな障壁を克服する必要がある:最も重要なものは、細胞膜、細胞内の膜および核膜である。エンドソーム/リソソームからのPNAの放出に関して、NLSペプチドの局在化能力およびNLSペプチドの配向が核局在化に重要であるか否かを調べることとした。これらの問題に取り組むために、NLSペプチドを
PNAにNおよびC両末端で結合した。顕微鏡検査法のデータは、NまたはC末端のいずれかでNLSペプチドに結合したPNAが、核に転移していることを示した(図4)。露光時間およびFITC/PNA構築物の濃度を増加することで、蛍光シグナルの増加が観測された。タイプの異なる蛍光プローブ間にあり得る食い違いを検証するため、PNAの蛍光体をFITCからローダミン(Rho)に交換した。しかしながらその場合には、局在化に明らかな変化
は見られなかった(図7)。PNAのNまたはC末端のいずれか一方のみにもFITCを結合し
てみたが、同じく位置または効率に変化はなかった(図4)。
【0160】
次に、PKKKRKV(配列ID:No.3)の核局在化能力が、単にPNAの電荷の変化によるも
のか、あるいは特異的なアミノ酸配列によるものなのかについても調べた。NLSペプチド
の核局在化能力をコントロールするために、同一の正味電荷(+5)と置換アミノ酸を持つ代替ペプチドを有するPNAを試験した(PNA457、図3C)。中性PNAの核内輸送(
PNA456および385、それぞれ図8CおよびB)について調査するとともに、ミトコンドリ
アおよびペルオキシソームへ向けてターゲティングさせる移入ペプチドシグナルに結合したPNA(PNA382、PNA384、それぞれFigure 3Bおよび8D)に関しても調べた。驚
くべきことにそれらのデータは、PCI処理後に、試験を行った中性および正に荷電したP
NAすべてが核に転移したことを示した。
【0161】
要約すると、以上の結果により、中性/正の正味電荷を持つPNAが、自発的に高いレベルで培地からリソソームへ転移するだけでなく、光化学処理後には細胞質から核に転移することも示された。その効率は、中性PNAおよび正に荷電したPNAの間で変化するが、核の取り込みではなく、恐らく細胞の取り込みにおける変動の直接的な影響によるものであろう。
【実施例5】
【0162】
PNA/PCIを用いたS100A40E発現の阻害
阻害剤としてのPNAの機能を評価するために、S100A4遺伝子に沿う3つの異なる標的
部位に指向するPNAを合成した。5'-UTR (PNA381)の末端に対しターゲットしたキメラ14bpホモプリンPNA、ならびに開始コドン(PNA200)および第二エクソン内のコ
ード領域(PNA452)を標的とさせた2つの20bp混合塩基PNAを選択した。用量依存的な様式で、S100A4をダウンレギュレートできるか否かを調べることを目的とした。したがって96時間、OHS細胞を様々な濃度(100〜2000nM)のPNA200にさらして、生存率を確認し、ウェスタン・ブロッティングによりS100A4タンパク質の存在を確認した(図9AおよびF)。データは、PNA200を使用し、濃度100nMから始まるシグナル減少とともに、S100A4活性の用量依存的阻害を明示している。関係する典型的なコントロールを図9Dに示した。さらにこの結果は、S100A4発現の最大阻害が1000nMのPNA200で起こることを示している。細胞生存率(viability)の測定としてミトコンドリアの構造保全性を測定するMTSデータによれば(詳細は実験プロトコルを参照)、使用するPNA濃度が2000nM未満の時には毒性は観察されない(図10、5および6行)。それゆえ、その後の全実験ではPNA濃度1000nMを選択した。
【0163】
S100A4タンパク質レベルが時間依存様式でダウンレギュレートされるか否かを評価するため、細胞をPNAとともに24、48、96時間インキュベートした(図9B)。24時間後、S100A4タンパク質レベルは、45%(PNA200)および35%(PNA381)だけ減少した。より長い暴露時間(48時間)では、発現レベルはコントロールと比較して、それぞれ25%(PNA200)および35%(PNA381)まで低下した。最後に、PCI後にPNAと96時間インキュベートした細胞においてS100A4発現は、コントロールと比較して、10%(PNA200)および20%(PNA381)に落ち込んだ(図9B、C、およびE)。これらのデータから、AUG開始部位(PNA200)および5’ UTRの末端(PNA381)の両方を標的としたPNAがS100A4発現を阻害し、AUG開始部位に向けられたPNAが最も効率的な阻害剤であることが示された。対照的にウェスタン・ブロッティングによる測定では、第2エクソン(PNA452)を標的指向したPNAによるS100A4発現の阻害は何ら検出されなかった(図11)。
【0164】
S100A4 mRNAの関連発現も調べた。PNA-AUG、PNA-5'-UTR およびスクランブルPNAを用いるPNA/PCI処理後に、総RNAをOHS細胞から単離した。スクランブルPNAに加えて、PCI処理したOHS細胞をコントロールとして選択した。すべてのサンプルを逆転写し、次いでcDNAの希釈物についてSYBRGreen Iを検出試薬として用いるリアルタイムPCR分析を行った。同じ希釈物から得られたCT値は、遺伝子発現に関してほとんど差
異がないことが示された。結果を表3に示した。
【実施例6】
【0165】
siRNAを用いたS100A4発現の阻害
S100A4発現を阻害するPNAの機能を、S100A4発現を阻害するsiRNAの機能とを比較した。siRNAのトランスフェクション効率および分布を解析するために、4つのsiR
NAのうち1つをローダミンおよびFITCで標識した。次に様々なトランスフェクション試
薬および濃度を試験した。顕微鏡検査法のデータからは、FuGene、Lipofectamin、siPORTまたはLipofectinのいずれを用いても取り込みは起こらないことが示された。しかしながら、DOTAPおよびポリ−L−リジンの両方では取り込みが見られ、また、ポリ-L-リジンが
最も効率的な試薬であった。それゆえポリ−L−リジンを以後のすべての実験に使用した
。
【0166】
本実験では、siRNAをElbashirら((2001), Genes Dev. 15, 188-200)に従って設計した。選択した標的遺伝子に対して設計されたsiRNAに加えて、コントロールsiRNAをスクランブルsiRNAを作成することにより設計し、GenBankに対してBLASTサーチを行い、偽りのハイブリダイゼーションを除外した。OHS細胞は、様々な時間と濃度でsiRN
Aとともにインキュベートし、次いでS100A4タンパク質レベルの測定をウェスタン・ブロッティングによって行った。しかし、S100A4遺伝子の二つの領域を標的として20、50、100nM siRNAを用いた24、48、96時間後のS100A4発現において、いかなるダウンレギュレーションも観測されなかった(データは示さず)。
【0167】
PNAは、安定した三重鎖構造、すなわちDNAとストランド侵入(strand-invaded)もしくはストランド置換(strand displacement)の複合体を形成する自身の能力により
、転写過程を抑制することで作用するかも知れない。そのような複合体は立体障害を生じ、PNAポリメラーゼの安定な機能を阻害し、それゆえに抗原性作用剤として働く機能を有している可能性がある。翻訳レベルでは、PNAのアンチセンス効果は、RNAプロセッシング、細胞質への輸送、または翻訳のいずれかを立体的にブロックすることに基づいている。PNAがRNase Hを活性化できないことから、非標的mRNAが望まない分解を受ける可能性を排除することができる。
【0168】
加えて、通常は負に荷電した高分子と結合するように作用する、細胞内外の多数のタンパク質とPNAとが結合することは、負に荷電した主鎖の不足のために阻まれる。PNA381の抑制作用は、5'−UTRの末端を標的としたPNAがルシフェラーゼmRNAにおいて
効率的な阻害剤であることを示したDoyleら(2001, 上記文献)と一致している。さらに
、無細胞抽出物中で行った翻訳実験により、PNAがRNAのAUG開始コドン付近を標的
としたときに、用量依存的様式で翻訳を阻害することが示された(Knudsen & Nielsen (1
996) , Nucleic Acids Res. 24, 494-500)。PNAがコード領域中の配列に対して標的
としたときには、効果は何も見られなかった。これらの結果は、S100A4のAUG開始部位に
対して標的としたPNA200ならびにS100A4の第2エクソンに対して標的としたPNA452
についての本実施例の結果を支持している(図9および11)。
【0169】
スクランブルPNA201/202に曝された細胞、ならびにPNAを含有しないが増感剤を有するコントロール細胞でのS100A4発現のパターンは、処置しない細胞と実質的に一致する。加えて、OHS細胞において増感剤を使用しまたは使用せずに、S100A4発現を試験した
。この場合でもタンパク質レベルでの違いは観察されなかった(図11A)
【実施例7】
【0170】
リアルタイム逆転写酵素PCR分析
遺伝子サイレンシング(gene silencing)の根本的な機構を解明するため、リアルタイムRT−PCRにより、PNA/PCI処理前後における相対的なS100A4 mRNAレベルを測定
した。その目的は、我々のPNA分子がその作用を、転写レベルまたはタンパク質合成過程の他のあるレベルで遂行するかどうかを調査することにあった。増幅の図から見て取れるように処置後96時間で、PNA/PCI処理したサンプルから得られたCT値と処置しなか
ったコントロールから得られたCT値との間に明確な違いはなかった(図12)。スクランブルPNA201が、PNA200およびPNA381それぞれについての内部PNAコントロール
として使用された。
【0171】
以前、Demidovら((1995) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 92, 2637-2641)は、PNAの二重鎖DNAに結合する速度論および機構を研究した。その結果は、三重鎖侵入複合体(triplex invasion complex)の形成が、ホモプリンDNA標的に結合しているホモピリミジンPNAに依存することを示した。ホモプリンRNAを用いた場合を除き、二重鎖侵入複合体(duplex invasion complex)と呼ばれる第二の複合体も形成され得る。これまで
の三重鎖は、シトシンに富むホモピリミジンPNAとのみ形成されるようである。
【0172】
これらの結果から、二重鎖DNAを標的とすることができる(今回使用の)唯一のPNA分子は、5'−UTRの末端を標的としたホモプリンPNA381であることが示唆される。しかしながら、DNAおよびRNA双方に結合できるようにホモプリンPNA(PNA381
)を設計したにもかかわらず、リアルタイムRT−PCRのデータは、それが翻訳レベルで機
能していることを示している。混合の塩基組成を有する他のPNAは、転写過程を阻止するために必要とされる三重鎖もしくは二重鎖侵入複合体を形成することができないという理論に従う。このことはリアルタイムRT−PCRの結果と一致し、混合塩基PNA(PNA200)は転写過程を阻害することができないという説を支持している。
【実施例8】
【0173】
マイクロアレイ解析
遺伝子転写に対するS100A4阻害の想定される影響をCDNAマイクロアレイ実験におい
て調べるため、スクランブルPNAを除き全く同じ処理を同じ時間、施した細胞とPNA処理細胞とを比較した。その遺伝子上の二つの標的配列に向けられたPNA分子が試験された。すべての実験は二つ一組で行った。少数の遺伝子のみが、2倍を超える発現におい
て相対的な変化を一貫して示した。階層的クラスタ分析を使用することで、S100A4レベルで最大の低下をもたらすPNAで処理されたときに一貫してアップレギュレーションのパターンを示し、効率の悪いPNAで処理されたときにより小さなアップレギュレーションを示す一クラスタを確認した。このクラスタは、9つの命名された遺伝子(GAS2、UBE4B、FREQ、SHC1、PON3、CTSD、WNT3A、SCDおよびRAB6A)を含有していた。これらの遺伝子は
、ストレス応答、アポトーシスおよびカルシウム結合を含む過程に関与する遺伝子である。転写ダウンレギュレーションのレベルは、リアルタイムPCRを使用して検証した。観察された変化が、標的遺伝子に対するPNAの配列特異的作用の結果であることを示すため、リアルタイムPCRを上記過程の各段階について別々に行ったところ、この結論を支持する結果となった(データは示さず)。
【0174】
系統的な遺伝子サイレンシングにPNA/PCI/LSを利用できることについての第一の
証明として、cDNAマイクロアレイを使用し、全体的なmRNA発現レベル変化を調べた。遺伝子発現に及ぼすPNA添加および/または光化学処理の効果は現在知られていないため、スクランブルPNAで処理した細胞を参照チャンネルとして使用してマイクロアレイ実験を行った。これは処理法に潜在する紛らわしい影響を最小とするために行った。処理操作、暴露時間などにおける変動が少しでも起こり得るため、処理の過程での各段階でリアルタイムPCRを実施し、観察された発現変化がS100A4に特異的な効果であるよりも処理の結果であることを除外した。特に、PCIはアポトーシスを含む過程に関係した転写の変化を引き起こすことが可能であった(Ferreira S. D.ら, 2004, Lasers Med Sci 18(4) : 207-12)。それゆえ、PNA/PCI/LSは、そのような過程に関係する遺伝子の遺伝子サイレンシングをモニタリングするには、一般的な手段としてあまり適さないと考えられていた。しかしながらこの方法は、標的配列設計の容易さ、PNA安定性、大量の合成と投与において多くの興味深い特徴を備えており、この系は時機を得た投与により細胞株のインビトロ系統的サイレンシングに関しての良い選択肢となる。siRNA遺伝子サイレンシングもまた実施可能性の高い方法であることが示されているが、標的配列設計および安定性に関わる問題が多少伴う(Amarzguioui Mら, 2004: Biochem. Biophys. Res. Commun. 316(4) : 1050-8)。
【0175】
遺伝子発現を調整するS100A4の機能は一般には知られていないが、これは細胞骨格再構築に関わることを示唆されるタンパク質であり、転写レギュレータというよりむしろそのような細胞構造タンパク質であるので、比較的小さな影響が予期される。したがって、観察された転写レベルの変化は、増幅および影響を受ける遺伝子の数に関して、比較的小さかった。一貫した変化が観察された遺伝子の中で、フリクエニン(frequenin)は特に興
味深く、このものは4個のEFの手を有するカルシウム結合タンパク質である(多クローン
性抗体はwww.abcam.com で得られる)。
【実施例9】
【0176】
メラノーマ(FEMX V)細胞株におけるチロシナーゼ遺伝子(TYR)のPNA/PCIを用いた遺伝子サイレンシング
チロシナーゼ(TYR)、チロシナーゼ関連タンパク質1(TRP-I)、および小眼球症転写
因子(MITF)を含め、メラニン生合成に関係する様々な遺伝子に対するPNAを設計した。その目的は、PNA/PCI法を使用することにより3つすべての遺伝子をサイレンスさせることにある。TYR、TRP-IおよびMITFは互いに関連しており、このことがモデル系として興味深いものにしている。これらの遺伝子は互いに関連しているため、MITFをノックダウンする場合、TYR/TRP-1タンパク質レベルでの想定可能な影響を調べることは、極めて興味深いものになるであろう。
細胞株および培地条件
FEMX V(メラノーマ)細胞は、Norwegian Radium Hospitalで確立された。細胞はRPMI
−1640培地(Bio Whittaker、ベルビエ、ベルギー)で培養された。培地は、10%ウシ胎
児血清(FCS:PAA Laboratories、リンツ、オーストリア)および2mMのL-グルタミン(Bio Whittaker、ベルビエ、ベルギー)を加えたことを除き、抗生物質を加えることなく使用した。細胞は、5%CO2を含む加湿環境にて、37℃で増殖、培養された。すべての細胞株について、マイコプラズマ感染に関して試験を行い、すべて陰性であることがわかった。
PNA設計
スクランブルPNAを含め、チロシナーゼ(TYR)遺伝子に特異的なPNAは、Oswell DNA Service (サウサンプトン、英国)から得た。修飾は両末端で(FAMおよびNLS配列
を用いて)行った。AUG開始コドンに対する標的は、先のPNA阻害研究に基づいて選択
した。配列は、BLASTサーチでヒトゲノムデータベースに対して位置合わせを行い、他の
遺伝子と著しい相同性を有するものを除外した。
【0177】
以下のPNA配列を使用した。
CTTTAGTTATAGCTCTCCCC (TYRSCR−配列ID:No. 11)
AATGTTTGAAGAACTCAATA (TYR5UTR−配列ID:No. 12)
CAGCCAGGAGCATTCTTCCT (TYRATG−配列ID:No. 13)
各PNA分子は、N末端(5'末端)でFAM、C末端(3'末端)でNLSペプチドを用いて標識した。すなわち、FAM−L−L−PNA−L−L−PKKKRKVであり、Lはリンカー(2−アミノエトキシ−2−エトキシ酢酸(AEEA)である。
【0178】
ストック溶液(1mM)は、PNAを0.1%のトリフルオロ酢酸に溶解することで調製し、PNAの完全溶解を確実にするために使用前に50℃に加熱した。使用に先立ち、PNAをさらに滅菌水で希釈して使用液(100 mM)とし、−20℃に保った。
【0179】
実施例6に記載したPCI法を使用して、PNA分子をFEMX V細胞に投与し、タンパク質レベルをウェスタン・ブロッティングにより決定した。
図13に示した結果は、TYRがPNA/PCI法によりサイレンスされ得ることを示しているが、さらなる最適化によって、より強力な遺伝子サイレンシング効果がもたらされると考えられる。特にレーン番号7は、開始コドン領域にターゲティングされた10mM PNAを用いたインキュベーション後においてTYRタンパク質のダウンレギュレーションを示してい
る。
【図面の簡単な説明】
【0180】
【図1】図1は、OHS、HeLaおよびFEMXIII細胞へのFITC-PNA 取り込みについてのフローサイトメトリー分析を使用し、PNA内在化への電荷の作用を示す。細胞を種々の1000nM FITC-PNAとともに24時間、37℃でインキュベートし、次いで「実験プロトコル」に記載したようにフローサイトメトリーで分析した。
【0181】
"-1" PNA383, "0" PNA385, "+1" PNA384, "+5" PNA381.
結果は、平均蛍光強度(mean fluorescence intensity)対 種々のPNA分子の正味電
荷として表示されている。バーは、各6並行(parallels)を有する、3つの個別実験を示す。誤差バーは平均の標準偏差を示す。
【図2】図2は、OHS細胞でPNA 200を用いるPCI処置を使用し、FITC-PNA-NLSの細胞内小胞から核内への再局在化を示す。A) PCI 処置(3時間)の前および後 , (B) PCI処置の前(i) 位相差顕微鏡下, (ii) FITC-PNA染色使用, (iii) LysoTracker 染色使用, (iv) Hoechst 染色使用および (v) 組合わせ染色を示す, および (C) PCI処置後で、Bのように染色。
【図3】図3は、異なるタイプの細胞において種々のPNA分子を使用し、PCI後の核局在化を蛍光顕微鏡で示す。細胞を種々の1000nM FITC-PNAとともに24 時間、インキュベートし、次いで「実験プロトコル」に記載されたように、蛍光顕微鏡で分析した。(A) OHS-PNA-NLS (PNA381), (B) OHS-PNA-MITO (PNA382), (C) OHS-PNA-GHHHHHG (PNA457), (D) HeLa-PNA-NLS (PNA381), (E) FEMXIII-PNA-NLS (PNA381)。 結果は、左から右へ位相差イメージ, FITC-PNA, Hoechst, LysoTracker染色である。
【図4】図4は、PNAの核への送達が使用した蛍光団(fluorophore)の位置とは無関係であることを示す。OHS細胞を、C末端またはN末端にFITCを有するPNA(1000nM)とともに24 時間、インキュベートし、次いで「実験プロトコル」に記載されたように蛍光顕微鏡で分析した。結果:左はC末端(C-terminal)に結合したFITC、右はN末端(N-terminal)に結合したFITC
【図5】図5は、PCI処置後、種々の細胞の核へのPNA 200の取り込みを示す。 , (A) PCI処置前, (B) PCI処置後, FITC-PNA染色で検出; 細胞 FEMX1, FEMX5, HeLa, OHS, SW620, HCT116, WiDr, 293および SaOs
【図6】図6は、PNA取り込みが温度に依存することを示す。 OHS細胞を1000nM PNA 200に(A) 4℃で5 時間、および(B) 37℃で 5 時間、曝した。. 結果:左から右へ位相差イメージ, FITC/PNA, 組合わせ染色;倍率、上の図は10x、および下の図は32x
【図7】図7は、PNAの核への送達が使用した蛍光団(fluorophore)の種類とは無関係であることを示す。細胞を、rhodamineに結合させたPNA455(1000nM)とともに24 時間、インキュベートし、次いで「実験プロトコル」に記載されたように蛍光顕微鏡で分析した。結果:左から右へ位相差イメージ, rhodamine イメージ, 組合わせイメージ
【図8】図8は、荷電が異なるPNA分子のPCI処置後の核内移送への効果を示す。OHS細胞を、PNA(1000nM)とともに「実験プロトコル」に記載されたようにインキュベートした。(A) 383, (B) 385, (C) 456, (D) 384, (E) 381, (F) 455. 結果:左から右へ位相差イメージ, FITCイメージ, 組合わせイメージ
【図9】図9は、OHS細胞におけるS100A4発現が、種々のPNA(1000nM)により阻害されたことを、ウェスタンブロッティング評価で表わす。(A) PNA200を使用し、用量依存阻害(B) 種々のPNAによる時間依存性阻害 結果は、コントロール細胞のパーセントとして表わす。バーは、3つの個別実験からの平均を示す。誤差バーは平均の標準偏差を示す。対応する実験についてのウェスタンブロッティングの代表例をC〜Eに示す。(C) および (D) ローディング・コントロール(loading control;α−チューブリン),(E) 96時間後の阻害;左から右へ、コントロール, スクランブルPNA(PNA201), PNA200, PNA381 (F) PNA200を使用した用量依存性阻害(96 時間後);左から右へ、コントロール, 100nM, 500nM, 1000nM, 2000nM
【図10】図10は、OHS細胞のPCI処置後のMTS結果を示す。その結果は、PNASだけでは非毒性であることを示す。-
【図11】図11は、S100A4 のコード領域を標的としたPNA (PNA452)について、OHS 細胞におけるタンパク質レベルへの影響は見られないことを表わすウェスタンブロットの結果を示す。(A) 上部のバンド;ローディング・コントロール(loading control)としてのα−チューブリン(α-tubulin), 下部のバンド; S100A4, レーン1 ;増感剤なしで光処置もないコントロールレーン 2;増感剤を使用し光処置はない レーン 3 ;増感剤なしで光処置あり レーン 4 ;増感剤を使用し光処置あり(B) 上部のバンド;loading controlとしてのα−チューブリン(α-tubulin), 下部のバンド; S100A4, レーン1; コントロール, レーン2;スクランブルPNA(PNA202), レーン3; (PNA452) 1000nM, レーン4;(PNA452) 2000nM;
【図12】図12は、PNA/PCI処置OHS細胞 対 コントロールにおけるS100A4 mRNA相対的発現を示す。A) 総RNAは、PNA-AUG、PNA-5'UTRおよびスクランブルPNAを用いるPNA/PCI処置後のOHS 細胞から単離された。PCI処置OHS細胞が、スクランブルPNAに加えてコントロールとして選択された。サンプル全部を逆転写し、cDNA希釈物を、検出試薬としてSYBRGreen Iを使用するリアルタイムPCR解析法にかけた。種々のサンプルから得られたCT値は、遺伝子発現ではほとんど差異が見られなかった。B) メルティングカーブ解析は、関心を向ける産物のみを示す。
【図13】図13は、72時間後にウェスタン・イムノブロッティングを用いてTYR タンパク質レベルを示す。各レーンには次のものが置かれた: 1.コントロール (PNAなし), 2.PNA TYRスクランブル(1mM), 3.PNA TYR スクランブル(10mM), 4.PNA TYR UTR (1mM), 5.PNA TYR UTR (10mM), 6.PNA TYR AUG (1mM), 7.PNA TYR AUG (10mM) . ローディング・コントロール(loading control)としてのα−チューブリン(α-tubulin)が示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞にPNA分子および光増感剤を接触させること、および該細胞に該光増感剤を励起す
るのに有効な波長を有する光を照射することを含むものであって、該PNA分子は正に荷電
したペプチドと複合化していることを特徴とする、PNA分子を細胞の細胞質内に導入する
方法。
【請求項2】
細胞にPNA分子および光増感剤を接触させること、および該細胞に該光増感剤を励起す
るのに有効な波長を有する光を照射することを含むものであって、該PNA分子は正に荷電
したペプチドと複合化していることを特徴とする、PNA分子を細胞の核内に導入する方法
。
【請求項3】
前記PNA分子が25塩基長よりも短いことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法
。
【請求項4】
前記PNA分子が、アンチセンス分子であり、遺伝子と相補的であり、またはプローブで
あることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記PNA分子の導入が、24時間、細胞とインキュベーションした後に、標的遺伝子の発
現を10%より大きく低減させる濃度で行われることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記光増感剤がTPPS4、TPPS2a、AlPcS2a、TPCS2a、5−アミノレブリン酸および5−ア
ミノレブリン酸エステルから選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記の正に荷電したペプチドが連続的なアミノ酸のポリマーであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記の正に荷電したペプチドが3〜30アミノ酸長であることを特徴とする、請求項1〜
8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記の正に荷電したペプチドが共有結合により直接にPNA分子と複合化していることを
特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記の正に荷電したペプチドが+1〜+10、好ましくは+3〜+6の電荷を有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記の正に荷電したペプチドが、配列Xn-(Y)m-Xo(ここでXは中性残基であり、Yは正に荷電した残基であって、それが現れるそれぞれの位置で同一または相違していてもよく、n、mおよびoは≧1の整数である)を有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
Yが各位置で同一であり、K、RまたはHであることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記の正に荷電したペプチドが、
SEQ ID NO: 7 MSVLTPLLLRGLTGSARRLPVPRAKIHSL、
SEQ ID NO: 6 AKL、または
SEQ ID NO: 5 GHHHHHG
であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
一種類より多い種類のPNA分子が同時に導入され、各種類が異なる配列を有することを
特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記光増感剤および前記PNA分子の一方または両方が、一種類以上の担体分子またはタ
ーゲティング分子と、結合、会合または複合化していることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記の担体分子またはターゲティング分子がポリカチオン、カチオン脂質、リポフェクチン(lipofectin)またはペプチドであることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記光増感剤および前記PNA分子を一緒にまたは順番に細胞に適用することを特徴とす
る、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記細胞を光増感剤と接触させ、導入させるPNA分子と該細胞とを接触させ、次にその
細胞を、該光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光で照射するものであって、該光増感剤を含有する細胞内コンパートメントへの該PNA分子の細胞取り込みに先立って、好ま
しくは該分子のいずれの細胞内コンパートメントへの細胞取り込みに先立って、その照射が実施されることを特徴とする、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
照射が60分までで実施されることを特徴とする、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
インビトロ(in vitro)またはエクスビボ(ex vivo)で実施されることを特徴とする
請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法に基づき、標的遺伝子を含有する細胞内にPNA
分子を導入することによって標的遺伝子の転写または発現を阻害するものであって、該PNA分子は該標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物に特異的に結合することを特徴
とする方法。
【請求項23】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法により、PNA分子を標的遺伝子またはその複製
もしくは転写の産物を含有する細胞に導入すること(ここで該PNA分子は該標的遺伝子ま
たはその複製もしくは転写の産物に特異的に結合する)、および結合したPNAのレベルを
評価することにより当該標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物の存在またはレベルを決定することを含む、標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物のレベルを同定または評価する方法。
【請求項24】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法によりPNA分子および所望の配列を含むオリゴ
ヌクレオチド分子を、標的遺伝子を含有する細胞に導入すること(該PNA分子は該標的遺
伝子に特異的に結合し、PNAクランプを形成する)を含むことを特徴とする、部位特異的
突然変異または標的遺伝子、好ましくは欠陥遺伝子の修復を細胞で実施する方法。
【請求項25】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法により、PNA分子を細胞に導入すること(ここ
で該PNA分子は疾患、病態または障害の存在を表出している標的遺伝子またはその複製も
しくは転写の産物に特異的に結合する)、およびそれらの疾患、病態または障害の存在、
病期、または予後診断を決定するために結合したPNAのレベルを評価することを含むこと
を特徴とする、疾患、病態または障害を診断する方法。
【請求項26】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法により、PNA分子を細胞に導入することを含む
ことを特徴とする、1以上の遺伝子のダウンレギュレーション、修復または突然変異によって利益を受ける疾患、好ましくは癌、嚢胞性線維症、心臓血管疾患、ウィルス感染、糖尿病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチングトン病またはアルツハイマー疾患の治療方法。
【請求項27】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法により得られる、細胞質内または核内に内在化されたPNA分子を含有する(ここで該PNA分子は正に荷電したペプチドと複合化している)ことを特徴とする細胞または細胞集団。
【請求項28】
正に荷電したペプチドと複合化している、好ましくは請求項3、4または8〜14のいずれかにおいて規定されたものであるPNA分子と、必要に応じて別個に光増感剤とを含有
することを特徴とする組成物。
【請求項29】
請求項27に記載の細胞または細胞集団を含有することを特徴とする組成物。
【請求項30】
治療用、好ましくは癌治療用もしくは遺伝子治療用であることを特徴とする、請求項28または29に記載の組成物。
【請求項31】
患者において1以上の標的遺伝子の発現を変更することにより疾患、障害または感染を治療し、または予防するための医薬の製造における、請求項1〜4、または8〜14のいずれかにおいて規定されたPNA分子の使用。
【請求項32】
患者において1以上の標的遺伝子の発現を変更することにより疾患、障害または感染を治療し、または予防するための組成物または医薬の製造における、請求項27に記載の細胞または細胞集団の使用。
【請求項33】
前記薬剤が遺伝子治療用または癌治療用である、請求項31または32に記載の使用。
【請求項34】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法により、インビトロ、インビボまたはエクスビボでPNA分子を1以上の細胞内に導入すること、ならびに必要であれば該細胞をその患者
に投与することを含むことを特徴とする、患者の疾患、障害または感染を治療または予防する方法。
【請求項35】
請求項27に記載の細胞または細胞集団を患者に投与するステップを含むことを特徴とする、患者の疾患、障害または感染を治療または予防する方法。
【請求項36】
癌の治療のため、または遺伝子治療において用いられることを特徴とする、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
スクリーニングツールとしてである、請求項27に記載の細胞または細胞集団の使用。
【請求項38】
下記a)およびb)を含むことを特徴とする、改変された遺伝子発現のパターンを有する細胞のスクリーニング方法;
a)請求項27に記載された細胞の標的遺伝子または1以上のさらなる遺伝子の発現を解析すること(ここで前記PNAは特異的に該標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物
に結合し、上記1以上のさらなる遺伝子の発現を改変する);
b)上記の標的遺伝子および/または1以上のさらなる遺伝子の発現を、対照細胞、好ま
しくは野生型細胞のそれらの遺伝子発現に対して比較すること。
【請求項39】
前記標的遺伝子の発現が、コントロール(野生型)のレベルの80%未満に低減していることを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項1】
細胞にPNA分子および光増感剤を接触させること、および該細胞に該光増感剤を励起す
るのに有効な波長を有する光を照射することを含むものであって、該PNA分子は正に荷電
したペプチドと複合化していることを特徴とする、PNA分子を細胞の細胞質内に導入する
方法。
【請求項2】
細胞にPNA分子および光増感剤を接触させること、および該細胞に該光増感剤を励起す
るのに有効な波長を有する光を照射することを含むものであって、該PNA分子は正に荷電
したペプチドと複合化していることを特徴とする、PNA分子を細胞の核内に導入する方法
。
【請求項3】
前記PNA分子が25塩基長よりも短いことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法
。
【請求項4】
前記PNA分子が、アンチセンス分子であり、遺伝子と相補的であり、またはプローブで
あることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記PNA分子の導入が、24時間、細胞とインキュベーションした後に、標的遺伝子の発
現を10%より大きく低減させる濃度で行われることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記光増感剤がTPPS4、TPPS2a、AlPcS2a、TPCS2a、5−アミノレブリン酸および5−ア
ミノレブリン酸エステルから選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記の正に荷電したペプチドが連続的なアミノ酸のポリマーであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記の正に荷電したペプチドが3〜30アミノ酸長であることを特徴とする、請求項1〜
8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記の正に荷電したペプチドが共有結合により直接にPNA分子と複合化していることを
特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記の正に荷電したペプチドが+1〜+10、好ましくは+3〜+6の電荷を有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記の正に荷電したペプチドが、配列Xn-(Y)m-Xo(ここでXは中性残基であり、Yは正に荷電した残基であって、それが現れるそれぞれの位置で同一または相違していてもよく、n、mおよびoは≧1の整数である)を有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
Yが各位置で同一であり、K、RまたはHであることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記の正に荷電したペプチドが、
SEQ ID NO: 7 MSVLTPLLLRGLTGSARRLPVPRAKIHSL、
SEQ ID NO: 6 AKL、または
SEQ ID NO: 5 GHHHHHG
であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
一種類より多い種類のPNA分子が同時に導入され、各種類が異なる配列を有することを
特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記光増感剤および前記PNA分子の一方または両方が、一種類以上の担体分子またはタ
ーゲティング分子と、結合、会合または複合化していることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記の担体分子またはターゲティング分子がポリカチオン、カチオン脂質、リポフェクチン(lipofectin)またはペプチドであることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記光増感剤および前記PNA分子を一緒にまたは順番に細胞に適用することを特徴とす
る、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記細胞を光増感剤と接触させ、導入させるPNA分子と該細胞とを接触させ、次にその
細胞を、該光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光で照射するものであって、該光増感剤を含有する細胞内コンパートメントへの該PNA分子の細胞取り込みに先立って、好ま
しくは該分子のいずれの細胞内コンパートメントへの細胞取り込みに先立って、その照射が実施されることを特徴とする、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
照射が60分までで実施されることを特徴とする、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
インビトロ(in vitro)またはエクスビボ(ex vivo)で実施されることを特徴とする
請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法に基づき、標的遺伝子を含有する細胞内にPNA
分子を導入することによって標的遺伝子の転写または発現を阻害するものであって、該PNA分子は該標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物に特異的に結合することを特徴
とする方法。
【請求項23】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法により、PNA分子を標的遺伝子またはその複製
もしくは転写の産物を含有する細胞に導入すること(ここで該PNA分子は該標的遺伝子ま
たはその複製もしくは転写の産物に特異的に結合する)、および結合したPNAのレベルを
評価することにより当該標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物の存在またはレベルを決定することを含む、標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物のレベルを同定または評価する方法。
【請求項24】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法によりPNA分子および所望の配列を含むオリゴ
ヌクレオチド分子を、標的遺伝子を含有する細胞に導入すること(該PNA分子は該標的遺
伝子に特異的に結合し、PNAクランプを形成する)を含むことを特徴とする、部位特異的
突然変異または標的遺伝子、好ましくは欠陥遺伝子の修復を細胞で実施する方法。
【請求項25】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法により、PNA分子を細胞に導入すること(ここ
で該PNA分子は疾患、病態または障害の存在を表出している標的遺伝子またはその複製も
しくは転写の産物に特異的に結合する)、およびそれらの疾患、病態または障害の存在、
病期、または予後診断を決定するために結合したPNAのレベルを評価することを含むこと
を特徴とする、疾患、病態または障害を診断する方法。
【請求項26】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法により、PNA分子を細胞に導入することを含む
ことを特徴とする、1以上の遺伝子のダウンレギュレーション、修復または突然変異によって利益を受ける疾患、好ましくは癌、嚢胞性線維症、心臓血管疾患、ウィルス感染、糖尿病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチングトン病またはアルツハイマー疾患の治療方法。
【請求項27】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法により得られる、細胞質内または核内に内在化されたPNA分子を含有する(ここで該PNA分子は正に荷電したペプチドと複合化している)ことを特徴とする細胞または細胞集団。
【請求項28】
正に荷電したペプチドと複合化している、好ましくは請求項3、4または8〜14のいずれかにおいて規定されたものであるPNA分子と、必要に応じて別個に光増感剤とを含有
することを特徴とする組成物。
【請求項29】
請求項27に記載の細胞または細胞集団を含有することを特徴とする組成物。
【請求項30】
治療用、好ましくは癌治療用もしくは遺伝子治療用であることを特徴とする、請求項28または29に記載の組成物。
【請求項31】
患者において1以上の標的遺伝子の発現を変更することにより疾患、障害または感染を治療し、または予防するための医薬の製造における、請求項1〜4、または8〜14のいずれかにおいて規定されたPNA分子の使用。
【請求項32】
患者において1以上の標的遺伝子の発現を変更することにより疾患、障害または感染を治療し、または予防するための組成物または医薬の製造における、請求項27に記載の細胞または細胞集団の使用。
【請求項33】
前記薬剤が遺伝子治療用または癌治療用である、請求項31または32に記載の使用。
【請求項34】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法により、インビトロ、インビボまたはエクスビボでPNA分子を1以上の細胞内に導入すること、ならびに必要であれば該細胞をその患者
に投与することを含むことを特徴とする、患者の疾患、障害または感染を治療または予防する方法。
【請求項35】
請求項27に記載の細胞または細胞集団を患者に投与するステップを含むことを特徴とする、患者の疾患、障害または感染を治療または予防する方法。
【請求項36】
癌の治療のため、または遺伝子治療において用いられることを特徴とする、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
スクリーニングツールとしてである、請求項27に記載の細胞または細胞集団の使用。
【請求項38】
下記a)およびb)を含むことを特徴とする、改変された遺伝子発現のパターンを有する細胞のスクリーニング方法;
a)請求項27に記載された細胞の標的遺伝子または1以上のさらなる遺伝子の発現を解析すること(ここで前記PNAは特異的に該標的遺伝子またはその複製もしくは転写の産物
に結合し、上記1以上のさらなる遺伝子の発現を改変する);
b)上記の標的遺伝子および/または1以上のさらなる遺伝子の発現を、対照細胞、好ま
しくは野生型細胞のそれらの遺伝子発現に対して比較すること。
【請求項39】
前記標的遺伝子の発現が、コントロール(野生型)のレベルの80%未満に低減していることを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【図1】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【公表番号】特表2008−505633(P2008−505633A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519886(P2007−519886)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【国際出願番号】PCT/GB2005/002679
【国際公開番号】WO2006/003463
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(507008448)ザ ノルウェジアン ラディウム ホスピタル リサーチ ファウンデーション (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【国際出願番号】PCT/GB2005/002679
【国際公開番号】WO2006/003463
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(507008448)ザ ノルウェジアン ラディウム ホスピタル リサーチ ファウンデーション (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]