説明

歩行型管理機

【課題】エンジン停止の状態でも手動で容易に機体を押し引き操作できる歩行型管理機を廉価に得る。
【解決手段】静油圧無段変速装置16を設ける歩行型管理機において、前記エンジン14により駆動される油圧ポンプ16pと車軸4を連動する油圧モータ16mとこれら油圧ポンプ16pと油圧モータ16mの間を油路75,76で接続する閉油圧回路を備え、前記閉油圧回路に油圧モータ16mに対するバイパス油路80を設け、このバイパス油路80にスプール79a端部への押圧作用により常時はバイパス油路80を遮断する遮断位置にあるバイパス弁79をこのバイパス油路80を連通状態とする連通位置に切替える機械的連動機構Lを該バイパス弁79と操作ハンドル38との間に渡って設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耕耘装置を装着した歩行型管理機に係り、特に無段変速装置を備えて走行部を変速伝動する管理機に関する。
【背景技術】
【0002】
走行車輪等の走行部を静油圧無段変速装置によって無段変速する歩行型管理機は一般に公知である(特許文献1)。すなわち、ミッションケースの側面に入力軸と走行系伝動装置との間に無段変速装置を設け、無段階に変速した駆動力を走行車輪の走行軸に伝達するよう構成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2953802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、静油圧無段変速装置は、油圧ポンプと油圧モータとを油圧閉回路で接続構成し、油圧ポンプの可動斜板を調整することにより油圧閉回路内を循環させ油圧モータを連動するものであるから、エンジン停止の状態では油圧閉回路の圧油の循環が停止して油圧モータ側にはブレーキ作用が働く。このため前記特許文献1は、走行用変速装置に配設したシフタギヤを中立にするなど、車輪を無段変速装置に対してフリー状態とすることで管理機の機体を動かせることができるように構成している。
【0005】
しかしながら、上記構成では、無段変速の伝動後位にシフタ手段やクラッチ手段を設ける必要がある。そこで、本発明は無段変速装置の閉油圧回路の改良によって、安価な構成でありながら、上記した欠点を解消しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
請求項1に記載の発明は、エンジン14の駆動力を無段変速して車軸4に伝動する静油圧無段変速装置16を設ける歩行型管理機において、この静油圧無段変速装置16は、前記エンジン14により駆動される油圧ポンプ16pと車軸4を連動する油圧モータ16mとこれら油圧ポンプ16pと油圧モータ16mの間を油路75,76で接続する閉油圧回路を備え、この閉油圧回路内の圧油の油量の増減変更と循環方向の正逆切り替えで前記油圧モータ16mの回転数変更と回転方向の切り替えを行なう構成とし、前記閉油圧回路に油圧モータ16mに対するバイパス油路80を設け、このバイパス油路80にスプール79a端部への押圧作用により常時はバイパス油路80を遮断する遮断位置にあるバイパス弁79をこのバイパス油路80を連通状態とする連通位置に切替える機械的連動機構Lを該バイパス弁79と操作ハンドル38との間に渡って設けたことを特徴とする歩行型管理機とする。
【0007】
このように構成すると、油圧回路の圧油の量の変更及び循環方向の切替えに伴なって機体の速度の調節を行い、及び前進、後進の切り替えを行ない、圃場作業や移動を行なう。静油圧無段変速装置16の油圧回路は閉回路に形成されているため、エンジン停止位置では圧油の移動が生じないため油圧モータはブレーキ作用を呈することとなる。このような条件で、機体1を小刻みに移動させたい場合には、バイパス弁79のスプール79aを押圧して閉油圧回路を短絡させることにより油圧モータ16mはフリー状態となって前記ブレーキ作用が解除され手動で容易に機体1を前後に動かせることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、エンジン14の出力軸21とミッションケース2内入力軸22とをベルト伝動機構の伝動ベルト23によって連動し、該入力軸22は同軸芯に配設した油圧ポンプ16pのHST入力軸24を連動する構成とし、ミッションケース2内において、油圧モータ16mの出力軸25の回転は走行軸26,27、伝動ギヤ群28,29、チェン30からなる所定減速伝動機構を介して車軸4に伝達する構成とした請求項1に記載の歩行型管理機の構成とする。
【0009】
このように構成すると、静油圧無段変速装置16の油圧モータ16mの回転は所定減速伝動機構を経て車軸4に伝達されるが、機体を手動で移動させる場合には、閉油圧回路のバイパス弁79による短絡処理で油圧モータ16mひいては車軸4がフリーの状態となるから、所定減速伝動機構中にクラッチ手段を設ける必要がない。
【0010】
請求項3に記載の発明は、静油圧無段変速装置16のバイパス油路80に設けるバイパス弁79のスプール79aを静油圧無段変速装置16のハウジング16aから突出状に設け、このスプール79aの突出端部を押圧する揺動プレート88を設け、左右操作ハンドル38のハンドル杆途中を左右連結する連結アーム85にグリップハンドル86の操作により連結具87を介して前記揺動プレート88を作動する構成とした請求項1又は請求項2に記載の歩行型管理機とする。
【0011】
手動で機体1を動かせる場合にはグリップハンドル81を握って連結アーム80毎機体1に押し引きの作用を加えることができ、もう一方の手で操作ハンドル38を握って同じく機体1を押し引き作用できる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、ミッションケース2には車軸4の後側に耕耘軸5を設け、前記スプール79aの突出方向を静油圧無段変速装置16の前側とした請求項1〜3のいずれか1項に記載の歩行型管理機の構成とする。
【0013】
このように構成すると、耕耘軸5回転による耕耘作業を行なうとき、突出方向を静油圧無段変速装置16の前側としたため、スプール79a配置側までにはその土壌が飛散し難い。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明は、バイパス弁79のスプール79aを押圧して油圧回路を短絡させることにより静油圧無段変速装置16のブレーキ作用が解除されて手動で容易に機体1を動かせることができる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の効果に加え、機体を手動で移動させる場合には、油圧回路のバイパス弁79の短絡処理で車軸4がフリーの状態となるから、所定減速伝動機構中にクラッチ手段を設ける必要がなく、構成の複雑化を招かないため廉価に構成できる。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の効果に加え、手動で機体1を動かせる場合にはグリップハンドル81を握って連結アーム80毎機体1に押し引きの作用を加えることができ、もう一方の手で操作ハンドル38を握って同じく機体1を押し引き作用できるため、取扱い性が良好である。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3に記載の発明の効果に加え、耕耘軸5の回転による耕耘作業を行なうとき、スプール79a配置側までにはその土壌が飛散し難く、清掃メンテ作業を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】全体側面図
【図2】全体平面図
【図3】展開した伝動機構図
【図4】要部の側面図
【図5】要部の平面図
【図6】操作ハンドル標準状態の作用説明図(A)(B)
【図7】操作ハンドル振替変更状態の作用説明図(A)(B)
【図8】切替機構Tの作用説明図(A)(B)
【図9】操作ハンドル把持部の拡大側面図(A)、変速レバーガイド体(B)
【図10】油圧回路図
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
上記技術思想に基づき具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
図1は歩行型管理機の側面図であり、機体1は、側面視へ字型に形成されたミッションケース2と該ミッションケース2の前側に設ける支持フレーム3等を備える。このうちミッションケース2の前側ケース2a下部には車軸4を突設し左右車輪4L,4Rを支持し、後側ケース2b下部には耕耘軸5を突設して耕耘爪6,6…を設けて耕耘装置7を構成する。
【0020】
耕耘装置7の上面はロータリカバー8で覆う構成であり、後面は後部カバー9で覆う構成としている。耕耘装置7中央フレーム7aの後端側にはホルダ10を備え、支持柱11を介して尾輪12を上下高さ調節自在に設けている。13は尾輪高さ固定用のロックボルトである。
【0021】
前記支持フレーム3にはエンジン14を設け、ベルト伝動機構を介してエンジン出力をミッションケース2内伝動機構に伝達する構成である。15はベルト伝動機構を覆うベルトカバーである。
【0022】
前記ミッションケース2を挟んでベルト伝動機構の反対側には、油圧ポンプ16p及び油圧モータ16mを備えた静油圧無段変速装置(以下、「HST」)16を装着している。
【0023】
ついでミッションケース2内伝動構成について説明する。
前記エンジン14の出力軸21とミッションケース2内入力軸22とをベルト伝動機構の伝動ベルト23によって連動し、該入力軸22は同軸芯に配設した前記HST16の油圧ポンプ16pのHST入力軸24を連動する構成としている。HST入力軸24の回転は油圧ポンプ16pを駆動する構成であり、油圧モータ16mの出力軸25は、ミッションケース2内の第1走行軸26を連動する構成としている。
【0024】
前記ミッションケース2の前側ケース2a内において、前記第1走行軸26と並行に第2走行軸27を配設し、両走行軸26,27間には減速ギヤ28,29を設けると共に、第2走行軸27と前記車軸4との間にはチェン30を介在させてHST16で変速された駆動力がこれら減速ギヤ28,29やチェン30を介して車軸4に伝達される構成である。なお車軸4には左右一対の車輪4L,4Rを配設し同一回転する構成である。
【0025】
ミッションケース2の後側ケース2bに、前記耕耘軸5に正逆転切替動力を伝達する伝動機構を内装し、前記入力軸22の駆動力をこの伝動機構に伝達する構成である。すなわち、入力軸22と並行な作業中間軸31上にスライドギヤ32を設け、途中にカウンタ軸33とカウンタギヤ34を介在し、入力軸22上の第1ギヤ35の回転が該カウンタギヤ34を経由して上記作業中間軸31のスライドギヤ32に噛み合うようにスライド操作して耕耘軸5を正転連動させ、他方にスライド操作して入力軸22上の第2ギヤ36を直接スライドギヤ32に噛み合わせて逆転連動させる構成である。なお作業中間軸31の回転はチェン37を介して耕耘入力軸5aに伝動される。該耕耘入力軸5aには中空の耕耘軸5,5を着脱自在に設け夫々を連動する構成としている。
【0026】
前記HST16の油圧ポンプ16p側には斜板を設けてトラニオン軸40の正逆回転により油圧モータ16mを正転乃至逆転及びその回転を制御し得る構成である。トラニオン軸40は操作ハンドル38手元の変速レバー39の操作による。該変速レバー39は、左右の操作ハンドル38のうち右側の操作ハンドル38の内側にあって水平軸芯周りに前後に揺動自在に設けている。
【0027】
次いで、前記HSTの油圧モータ16mを駆動する油圧回路について説明する。前記油圧ポンプ16pと油圧モータ16mとは一対の油路75,76によって接続されるが、後記トラニオン軸の正転側回動の場合符号75が高圧油路に、符号76が低圧油路になって油圧モータ16mを正転させ、後記トラニオン軸の逆転側回動によって図外の斜板を作動することで高圧油路と低圧油路が切り替わり油圧モータ16mを後進側に逆転させる構成である。符号77はリリーフバルブ、78はチャージ油路を示す。
【0028】
また、前記一対の油路75,76間には油圧モータ16mを短絡可能にバイパス油路80を形成し、このバイパス油路80途中にバイパス弁79を設けている。このバイパス弁79は、遮断と連通の2位置切替えの構成であり、常時はスプリングで遮断位置に付勢されているスプール79aに押圧力を付与して遮断位置から連通位置に切替えると、高圧油路(図例では75)から低圧油路(同76)に向けて作動圧油が流れ油圧モータ16mへの作動圧油が作用しない状態となる。
【0029】
次いでトラニオン軸40の回転操作を行なう操作系について説明する。
前記HST16に上下軸周りに回動されるトラニオン軸40を設け、該トラニオン軸40には軸方向に摺動可能にかつ回転方向には一体的となるようにトラニオンアーム41のボス部41aを挿通している。なお該ボス部41aとHST16のハウジング16a部に形成した受部16bとの間には、トラニオン軸40に巻き付く状態にスプリング42を介在させ、トラニオン軸40の上部はナット43を固定してボス部41aの抜け出しを防止している。
【0030】
前記トラニオンアーム41はワイヤ44を介して手元の変速レバー39の操作に基づきトラニオン軸40を正逆に回転連動する構成とするが、ワイヤ44とトラニオンアーム41との間にはリンク機構Sを介在すると共に、同じくワイヤ44の引き方向操作が作用してもトラニオン軸40を正転又は逆転に連動する切替機構Tを介在している。
【0031】
前記リンク機構S及び切替機構Tについて詳述する。ワイヤ44の端部を連結する第1リンク46を適宜に機体側に固着した縦軸47に挿通するボス部47aに固定し、該ボス部47aにく字状の第2リンク48を固定して設け、縦軸47に対して第1リンク46及び第2リンク48が回動すべく構成する。49はこれらリンク46,48を一定方向に付勢するスプリングである。そして第1リンク46にワイヤ44接続部と縦軸47との間に位置して係合ピン50を設け、この係合ピン50はトラニオンアーム41に形成され平面視で前後方向に突出する第1突出部41aの係合孔41bに係脱可能に設けられる。従って、前記変速レバー39を前側に倒すよう操作するほどワイヤ44が引かれトラニオン軸40は反時計方向(CCW)に回動し、変速レバー39を戻して中立位置から更に後方に倒すと第2リンク48に接続する前記スプリング49の付勢力によってワイヤ44は戻されトラニオン軸40は時計方向(CW)に回動する構成である。
【0032】
また、変速レバー39を中立位置に戻した状態で、トラニオンアーム41のボス部41aをスプリング42に抗して下方に押圧すると(図4中仮想線)、該トラニオンアーム41の機体側方に突出する第2突出部41cに設けた係合ピン52が、前記第2リンク48に縦軸47と並行な軸芯を有して回動自在に設けた回動駒部材48aに対して一体的に設けた第3リンク53の係合孔53aに嵌合し、トラニオンアーム41は第3リンク53の動きに追従することとなる。従って、変速レバー39を前側に操作してワイヤ44を引くと第1リンク46、縦軸47、第2リンク48、第3リンク53を介してトラニオン軸40を時計方向(CW)に回動する。変速レバー39を中立位置から後方に操作すると、スプリング49の付勢力によってワイヤ44は戻されトラニオン軸40を反時計方向(CCW)に連動する。
【0033】
以上のように、リンク機構Sは、第1リンク46、縦軸47、第2リンク48、第3リンク53によって構成される。また切替機構Tはトラニオンアーム41と係合ピン50によるリンク機構Sとの第1係合状態又は係合ピン52による第2係合状態へ切替える構成をいうものである。
【0034】
上記切替機構Tについて詳述する。前記のトラニオンアーム41の上下位置の切替作動は、前記ミッションケース2の上部に装着され縦軸芯Z周りに前後に振替変更自在な操作ハンドル38の当該前後振替操作に基づく構成としている。即ち、先端がトラニオンアーム41のボス部41aの上部まで延出され前後軸芯P周りに上下揺動自在に押圧アーム56を設け、操作ハンドル38を前後に振替操作すると操作ハンドル38の基部カバー57内に構成したカム体58は、該操作ハンドル38と一体的の回動フレーム39aが前後に振替作動するに伴ないそのカム面58aで押圧アーム56を下方に押してトラニオンアーム41のボス部41aを下方に移動させるよう構成している。このため操作ハンドル38がミッションケース2から耕耘装置7の上方を経て機体後方に延出する標準状態においては、前記スプリング42の付勢力で上位に位置する状態となって前記第1係合状態となし(図4中実線、図8(A))、操作ハンドル38を前後に振り替えて固定するときは、前記スプリング42の付勢力に抗してトラニオンアーム41のボス部41aが押し下げられ、前記第2係合状態となす(図4中仮想線、図8(B))。
【0035】
59はトラニオンアーム41を時計方向(CW)に付勢するスプリングである。また符号60は、第3リンク53の途中部を支持すべくその下面に設ける保持機構である。該保持機構60は機体側固定部材から上向きに突出しスプリングで上方に付勢した構成とし、前記第2係合状態への切替時において、押圧アーム56の作動によって係合ピン52が下動するとき下方の係合孔53aと一致しない場合であっても第3リンク53は保持機構60のスプリングで退避動でき、従って変速レバー39を中立位置に復帰させないままで操作ハンドル振替操作しても各部の破損を防止できる。
【0036】
前記第3リンク53は、軸方向の長さが調整できるボルト状部材と係合孔53aを形成したプレート部からなり、有効長を調整できる構成としている。このためトラニオンアーム41の中立状態を調整できる。なお、中立状態の調整は前記ワイヤ44の有効長調整と相俟って調整するよう構成している。
【0037】
前記トラニオン軸40の近傍には作業機変速レバー61が設けられている。該作業機変速レバー61は縦軸部の下端に係合プレート62を設け、該係合プレート62をミッションケース2側から突出するシフタステー63の先端部に上向きに突出させたピン部材63aに係合させてなり、作業機変速レバー61の縦軸部61aを縦軸芯Q周りに正逆に回動させることにより、シフタステー63を長手方向に往復スライドさせ、該シフタステー63は前記スライドギヤ32を係合してスライド移動し、シフタステー63がミッションケース2の内側に向けてスライドすると耕耘軸5が正転連動し、該ケース2の外側に向けてスライドさせると該耕耘軸5を逆転する構成である。
【0038】
前記係合プレート62には2箇所にピン部材63aを係合する孔部62a,62bを形成し、L型の作業機変速レバー61の把持部は、孔部62aに係合するときには機体後方(耕耘装置5の方向)に向くよう設定され、縦軸部を長手方向に上動させた後該縦軸Qを中心に回転させて再度該長手方向に押し下げることにより、孔部62bに係合させるときは前後に振替られる構成である。
【0039】
前記作業機変速レバー61の近傍には、ミッションケース2側壁に突出させて設けた支持ブラケット64に縦軸周りに揺動可能な牽制プレート65を設け、作業機変速レバー61の上下途中部に固着したハート状のカムプレート66に該牽制プレート65の一側に固着した丸棒67に該カムプレート66外周を接触可能に設けている。丸棒67がカムプレート66の外周のうち凹部に対応するとき変速位置は中立位置である。この中立位置から作業機変速レバー61を正転側にシフトすると(図5中矢印(X))、カムプレート66が押されて牽制プレート65は支持ブラケット64の縦軸中心に回動するよう構成している。一方前記トラニオンアーム41の作業機変速レバー61に近い側にはストッパ手段としてのストッパボルト68を設け、このストッパボルト68と前記牽制プレート65が干渉することでトラニオンアーム41の回動操作を牽制できる。具体的には、操作ハンドル38が標準の位置にあって、作業機変速レバー61を中立位置以外の正転又は逆転操作するとカムプレート66の凹部から牽制プレート65の丸棒67が脱して、牽制プレート65を支持ブラケット64の縦軸周りに時計方向に回転し、トラニオンアーム41の逆転側への移行を牽制できる(図5)。
【0040】
なお、トラニオンアーム41は、カムプレート66の凹部に牽制プレート65の丸棒67が嵌合位置する作業機変速中立位置のときのみ後進側への作動が可能な構成となっている(図6(B))。
【0041】
操作ハンドル38の変速レバー39を略直線状に案内するガイド体70には、中立位置70nを挟んで操作ハンドル基部側(前側)に前進側70f、反対側(後側)に後進側70rのガイド溝71を形成している。なお、前進側には段階状にストッパ部を形成した複数段の規制部を形成して操作性を向上する。
【0042】
前記操作ハンドル38の左右操作ハンドルアームの途中を連結する連結アーム85に、該アーム85に支点を有したグリップハンドル86を設け、該グリップハンドル86を連結アーム85と一緒に握ることにより該グリップハンドル86に一端を接続したワイヤ87(連結具)を引く構成とし、このワイヤ87他端はHST16の近傍に延出させている。前記のとおりHST16の油圧回路にはバイパス弁79を設け、このバイパス弁79のスプール79aは、HST16本体の前側即ちエンジン14設置側にその突出先端部をのぞませて設けている(図4)。そしてこの突出先端部に接当する揺動プレート88を設け、この揺動プレート88の揺動動作によりスプール79aを押圧して前記バイパス油路80を遮断位置から連通位置に切替えるよう構成している。そしてこの揺動プレート88に前記ワイヤ87の他端を接続し、ワイヤ87の引き作用によってスプール79aを押圧し連通位置に切替える構成としている。
【0043】
なお、前記揺動プレート88の具体的な構成は図4に示すように、機体1側の固定部材に横軸芯周りに前後揺動自在に設けるホルダ89とこのホルダ89に揺動プレート88の一側端縁を溶接固定する構成である。90はホルダ89及び揺動プレート88を共にスプール79aの先端部に当接すべく付勢するスプリングである。このスプリング90は、HSTハウジング16aに内蔵されスプール79aをバイパス油路80遮断側に付勢するスプリングに対しては弱い弾性力に形成され、揺動プレート88のふらつきをなくし、応答性を高めるものである。
【0044】
上記のように構成する揺動プレート88、ワイヤ87、グリップハンドル86等からなる機械的連動機構Lをもって、バイパス弁79のスプール79aを作動する構成とする。
また、前記バイパス弁79のスプール79aの突出方向を前側とし、機体1のエンジン後部側に対応させるように構成して、後部の耕耘軸5や耕耘爪6を備えた耕耘装置7からはHST16のハウジング16aを介して反対側に配置している。このように構成することによって耕耘時の土壌飛散の影響を少なくし、飛散土壌による作動不良およびそのメンテ作業を少なくできる。
【0045】
機械的連結機構Lの構成は上記の例に限定されるものではなく、また連結具はワイヤに限らずロッド形態としてもよい。
操作ハンドル38及び作業機変速レバー61を耕耘装置7の上方に位置させた標準状態において、変速レバー39を前進側に操作すると、ワイヤ44が引かれ、トラニオンアーム41を回動しトラニオン軸40を連動する。この標準状態にあっては、トラニオンアーム41を上下切替する切替機構Tは、ボス部41aを下方に押圧する作用力が発生しないため、上位に位置してトラニオンアーム41とリンク機構Sとは係合ピン50による第1係合状態となって、ワイヤ44の引き作動によりトラニオンアーム41を図6(A)のように反時計周りに回動して、機体は矢印SF方向に進む。作業機変速レバー61の把持部を左右に揺動操作して耕耘装置7の変速を正転側(ダウンカット)又は逆転側(アップカット)に入れて作業を行なうものである。
【0046】
また、上記標準状態で変速レバー39を中立位置に戻し、後進側に切替操作しようとすると、作業機変速レバー61が正逆のいずれかに変速状態のときは、トラニオンアーム41のストッパボルト68によりその回動は牽制プレート65によって牽制され変速レバー39中立位置までとなる。さらに後進側に変速しようとするときは、予め作業機変速レバー61を中立位置にして行うことができる。従って、バック耕耘牽制を変速レバー39の操作によって実現でき、牽制操作を簡単化できる。また、牽制手段として、トラニオンアーム41を直接牽制する構成としたから、変速レバー39の操作域に牽制具を出退させる場合に比較して、ワイヤ等の連携手段をなくして牽制具操作連携手段を極めて簡単化できる利点がある。
【0047】
そして、操作ハンドル38を前後振替の振替変更状態で、かつ作業機変速レバー61を略180度振替えた状態に変更しておき、変速レバー39を前進側に操作すると、ワイヤ44は引かれ、トラニオンアーム41を回動しトラニオン軸40を連動する。この振替変更状態にあっては、トラニオンアーム41を上下切替する切替機構Tはボス部41aを下方に押圧する作用力が働くため、下位に位置変更してトラニオンアーム41とリンク機構Sとは係合ピン52による第2係合状態となって、ワイヤの引き作動によりトラニオンアーム41を図6中時計周りに回動して、機体は矢印CF方向に進む。作業機操作レバー61の把持部を左右に揺動操作して耕耘装置7の変速を逆転側又は正転側に入れて作業を行なう。
【0048】
また、上記振替変更状態で変速レバー39を中立に戻し、後進側に切替操作するときは、作業機変速レバー61の変速位置にかかわらず機体は反矢印CF方向に進む。振替変更状態でオペレータは作業機としての耕耘装置7から離れた位置で操作を行なうこととなるから、例え後進中に耕耘装置7が作動しても危険状態に陥り難くオペレータの意図通りに機体を走行させることができる。
【0049】
以上のように、操作ハンドルが標準状態、あるいは振替変更状態のいずれにおいても、変速レバー39操作に基づき、機体を前進又は後進させることができ、変速レバー39の操作感覚を同じにすることができ、操作性を向上する。
【0050】
更に、エンジン14停止中、手動で機体1を移動させる場合には、機械的連動機構Lを介して油圧モータ16mをフリー状態とすることにより軽く機体1を押し引きできるようにする。即ち、グリップハンドル86を片方の手(右手)で握りワイヤ87を引く。このワイヤ87の引き操作で揺動プレート88は揺動し油圧バイパス弁79のスプール79aが押圧されて高低圧油路75,76は互いに連通して油圧モータ16mをフリー状態とする。このため車軸4のブレーキ作用も解除状態となって機体1を容易に移動させることができる。なおこのときグリップハンドル86と共に連結アーム85を同時に把持することができるため、他方の手(左手)は操作ハンドル38を握った状態の両手で機体1を押し引き操作できる。ワイヤ87によってグリップハンドル86と揺動プレート88を連動連結する構成であるから、操作ハンドル38を縦軸周りに回動する構成にも対応でき、前後振り替えいずれの位置でもグリップハンドル86を把持操作可能であるため便利である。
【0051】
前記連結アーム85のグリップハンドル86近傍には非常停止スイッチ91のホルダ91aを配置している。この構成によると、エンジン14作動中不測にグリップハンドル86を握ってしまった場合には、グリップハンドル86を握った側の手で上記非常エンジン停止スイッチ91を押し操作することができ、不測の機体移動をなくして安全に寄与しうる。
【0052】
以上の実施例では、トラニオン軸40を縦軸型に構成したが、このトラニオン軸40、トラニオンアーム41、リンク機構等を横向きに配置することもできる。
ワイヤ44によって押し引きされるリンク機構Sの構成は実施例の構成に限らず、操作レバー39に連携する操作具の引き作用でトラニオンアームを正転又は逆転に選択切替できるリンク機構であればよく実施例の構成に限定されない。
【0053】
作業機変速レバー61操作に基づく変速対象として前記の実施例では、正・逆転変速の例としたが、高速・低速の切替としてもよい。また単なる入り・切り操作でもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 機体
2 ミッションケース
4 車軸
5 耕耘軸
6 耕耘爪
7 耕耘装置
14 エンジン
16 静油圧無段変速装置(HST)
16p 油圧ポンプ
16m 油圧モータ
21 出力軸
22 入力軸
23 伝動ベルト
24 HST入力軸
25 出力軸
26 (第1)走行軸
27 (第2)走行軸
28 伝動ギヤ
29 伝動ギヤ
30 チェン
38 操作ハンドル
40 トラニオン軸
41 トラニオンアーム
75 (高圧側)油路
76 (低圧側)油路
79 バイパス弁
79a スプール
80 バイパス油路
85 連結アーム
86 グリップハンドル
87 ワイヤ
88 揺動プレート
89 ホルダ
90 スプリング
L 機械的連動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(14)の駆動力を無段変速して車軸(4)に伝動する静油圧無段変速装置(16)を設ける歩行型管理機において、この静油圧無段変速装置(16)は、前記エンジン(14)により駆動される油圧ポンプ(16p)と車軸(4)を連動する油圧モータ(16m)とこれら油圧ポンプ(16p)と油圧モータ(16m)の間を油路(75,76)で接続する閉油圧回路を備え、この閉油圧回路内の圧油の油量の増減変更と循環方向の正逆切り替えで前記油圧モータ(16m)の回転数変更と回転方向の切り替えを行なう構成とし、前記閉油圧回路に油圧モータ(16m)に対するバイパス油路(80)を設け、このバイパス油路(80)にスプール(79a)端部への押圧作用により常時はバイパス油路(80)を遮断する遮断位置にあるバイパス弁(79)をこのバイパス油路(80)を連通状態とする連通位置に切替える機械的連動機構(L)を該バイパス弁(79)と操作ハンドル(38)との間に渡って設けたことを特徴とする歩行型管理機。
【請求項2】
エンジン(14)の出力軸(21)とミッションケース(2)内入力軸(22)とをベルト伝動機構の伝動ベルト(23)によって連動し、該入力軸(22)は同軸芯に配設した油圧ポンプ(16p)のHST入力軸(24)を連動する構成とし、ミッションケース(2)内において、油圧モータ(16m)の出力軸(25)の回転は走行軸(26,27)、伝動ギヤ群(28,29)、チェン(30)からなる所定減速伝動機構を介して車軸(4)に伝達する構成とした請求項1に記載の歩行型管理機。
【請求項3】
静油圧無段変速装置(16)のバイパス油路(80)に設けるバイパス弁(79)のスプール(79a)を静油圧無段変速装置(16)のハウジング(16a)から突出状に設け、このスプール(79a)の突出端部を押圧する揺動プレート(88)を設け、左右操作ハンドル(38)のハンドル杆途中を左右連結する連結アーム(85)にグリップハンドル(86)の操作により連結具(87)を介して前記揺動プレート(88)を作動する構成とした請求項1又は請求項2に記載の歩行型管理機。
【請求項4】
ミッションケース(2)には車軸(4)の後側に耕耘軸(5)を設け、前記スプール(79a)の突出方向を静油圧無段変速装置(16)の前側とした請求項1〜3のいずれか1項に記載の歩行型管理機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−274782(P2010−274782A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129418(P2009−129418)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】