説明

歩行能力についての評価方法および評価装置

【課題】少ない歩数においても歩行能力を客観的に評価することができる技術の提供。
【解決手段】マイクロコンピュータによって歩行周期を多段階に分割し、グループ化することを前提とする。義足装着者が歩行訓練をするとき、訓練が進むにつれて、時系列的に取得する歩行周期がグループを超えて変化する傾向が大である。そこで、そのような歩行周期の変化、すなわち、グループあるいはブロックの移動回数や頻度の大きさを歩行能力のための評価指標とすることができる。マイクロコンピュータ機能をもつインテリジェント義足などでは、義足自体が備えるマイコン回路およびセンサ手段などを活用して評価を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歩行能力についての評価技術に関し、より具体的には、歩行機能に障害をもつ者、あるいは義足装着者などがリハビリテーションや訓練の段階でいかに歩行能力を向上させていくか、または歩行機能に障害をもつ者、あるいは義足装着者などが日常生活でどのような歩行を行っているのかを客観的に評価する上で有用な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の歩行能力については、専門家(義肢装具士や理学療法士など)が経験や勘に頼って判断する傾向があり、客観的な評価技術が要望される。客観的かつ有用な評価技術があるなら、リハビリテーションや訓練をより有効に行うことができるであろうし、義足などの装着具をより適切に使用することができるであろう。そこで、評価を客観化しようとする考え方がすでにいくつか提案されている。一つは、複数のセンサを被験者の身に付け、その者の歩行軌跡に基づいて評価するという評価法であり(特許文献1参照)、もう一つは、歩行者である義足装着者の歩行周期の分布の変化に着目した評価法である(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−102156号公報
【特許文献2】特開2005−111141号公報
【0003】
歩行軌跡に基づく前者の評価法は、いわば歩容(つまり、歩く姿)に着目した技術であり、後者の評価法は、歩行機能の一つ(歩行周期、あるいは歩行速度)に着目した技術である。それらの各技術は、歩行能力を評価する技術として、それぞれ単独で活用することもできるだろうし、両者を併用して適用することもできるだろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者等は、後者の歩行周期の変化に基づく評価技術に目を付けた。なぜなら、その評価技術によれば、歩行者が装着する装着具(たとえば、大腿義足)自体が備える手段や機能を利用して歩行能力について評価することが期待できるからである。しかし、そのような後者の評価技術には、評価のために必要とする歩行データ量を余りにも多く要するという難点がある。たとえば、一万歩を超えるような歩行データを要するほどである。したがって、必要とする歩行データ量を確保するまでの過程では、歩行能力を評価することができなくなってしまう。そのため、その間、リハビリテーションや訓練を見直すことができないことになる。また、日常生活でどのような歩行を行っているのかも評価することもできない。
【0005】
そこで、この発明は、より少ない歩行データ、つまり、より少ない歩数においても歩行能力について客観的に(あるいは定量的に)評価することができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
歩行周期を多段階に分割し、多数の歩行周期のグループを得、各グループごとの歩数の度数分布を作成することを何度も行いつつ、その時間経過に対する変化などを検討し続けたところ、歩行者のある歩行の変化に気付いた。すなわち、歩行能力が向上するにつれて、歩行周期をより大きく変化させる頻度が増えるという変化である。そこで、ある大きさのゾーンをもつ歩行周期の第1のグループから、それとは大きさの異なる(より大きいか、あるいはより小さい)歩行周期の第2のグループへと変化させる頻度を捉えることによって、歩行能力の向上を評価することができるのではないか、という発想を抱いた。なお、歩行周期を多段階に分割しグループ化する手法は、歩行周期を連続的に取り扱う手法に比べて簡易であり、それに基づいて制御を行うとき、電源であるバッテリの消耗が少なく、実用上有利である。
【0007】
そのような発想の技術的な有効性を確認した実験では、いわゆるインテリジェント義足(ひざの部分で伸展および/または屈曲するように動く大腿側の第1の構成部材および下腿側の第2の構成部材、ならびに、それら第1および第2の両構成部材の動きを補助するための流体圧制御装置を含む大腿義足であり、その流体圧制御装置は、ひざの伸展および/または屈曲に伴う流体の流れを絞る可変制御弁を含み、その可変制御弁をマイクロコンピュータ制御する義足)を装着した者を被験者とした。被験者が、介助なしに、その義足を装着した歩行ができるようになった直後から、歩行能力の向上に応じた4つの段階に分け、各段階におけるグループ間の移動回数を記録した。
【0008】
各段階の使用日数が異なるため、グループ間の移動回数を歩数で割って比較した。その結果、当初の第1段階では、歩行と停止の繰り返しであり、歩行周期は、記録時期にかかわらず、概ね同一であった。歩行能力が次第に向上した第2段階、第3段階では歩行速度の変化幅が徐々に広がり(第1段階でのグループ間の移動回数のそれぞれ約1.6倍と約1.7倍に変化)、歩行能力が大きく向上した第4段階では自由な速度で歩けるようになった。第4段階でのグループ間の移動回数は、第1段階のそれに比べて約1.8倍になった。このような実験結果から、歩行周期の互いに異なるグループ間の移動回数あるいは移動頻度に基づいて、歩行能力について、定量的に評価することができることを確認した。しかも、そのような評価の考え方は、各種の義足を装着した場合の歩行訓練、あるいは義足を付けない者が歩行障害を回復する場や義足を装着した者、あるいは義足を付けない者が日常生活でどのような歩行を行っているのかを確認する場などにおいても有効に適用することができる、と考えられる。なぜなら、義足の種類、あるいは義足装着の有無にかかわらず、歩行能力が高くなるほど、前記のようなグループ間の移動回数あるいは移動頻度が増大することは確かだからである。
【0009】
したがって、この発明は、たとえば数千歩などという少ない歩数段階でも歩行能力を客観的に評価するための技術である。その評価技術は、マイクロコンピュータによって、歩行周期の大きさを多段階に分割し、グループ化することを前提とし、時系列的に取得する歩行周期がグループを超えて変化することを評価指標とする点に基本的な特徴をもつ。そのような評価指標は、歩行能力が高いことに密接な関係があるため、少ない歩数においても歩行能力を定量的に評価することができる。
【0010】
この発明は、歩行能力を評価するため、リハビリテーションや訓練の場や日常生活でどのような歩行を行っているのかを確認する場において広く適用することができる。しかし、この発明を実施する上で必要な手段をすでに備えているものに適用するならば、既存の手段を活用して、この発明による評価を行うことができる。たとえば、義足あるいは被験者である義足装着者に適用するとき、義足に装備される近接スイッチや加速度センサなどをセンサ手段として利用することができる。またこの発明は、マイクロコンピュータ機能を活用するため、マイクロコンピュータ機能を自ら備える義足などに好適に適用することができる。たとえば、ひざの伸展および/または屈曲を補助するための流体圧制御装置を備える義足であって、その流体圧制御装置をマイクロコンピュータ機能をもつ電子制御回路によって制御するもの(たとえば、前記したインテリジェント義足)への適用は非常に好適である。また、歩行速度は歩行周期に歩幅を乗じたものなので、この発明において、歩行周期の代わりに歩行速度を用いることもできる。
【0011】
この発明の評価技術については、方法あるいは装置のいずれのカテゴリーの発明としても理解することができる。評価方法としては、被験者からセンサ手段によって歩行周期に関する情報を取得し、その取得情報をマイクロコンピュータによって歩行周期の時系列情報にする第1工程と、前記歩行周期の時系列情報について、ある時点における第1の歩行周期と、その時点に隣り合う別の時点における第2の歩行周期とが、前記多段階に分割したグループの同じものに属するか否かを前記マイクロコンピュータによって判断する第2工程とを備える。そして、第2工程において、同じグループに属さないという判断が所定回数あるいは所定頻度を超えるとき、被験者の歩行能力が所定のレベルにあると評価する。評価の結果については、マイクロコンピュータの処理結果を視覚的に表示する表示部に表示することによって、あるいはまた、音声や振動などの視覚以外の手段によって(音声などの手段は、視覚的な表示手段と併用するのが好ましい)、被験者や専門家に知らせることができる。
【0012】
また、評価装置としては、次のA〜Dの各手段を備えるものである。
A 被験者から歩行周期に関する信号を取得するセンサ手段
B そのセンサ手段からの信号に基づいて、取得した歩行周期を時系列データとして記憶するメモリ手段
C そのメモリ手段に記憶したある時点における第1の歩行周期と、その時点に隣り合う別の時点における第2の歩行周期とが、前記多段階に分割した同じグループ内に属するか否かを判断する判断手段
D その判断手段が前記同じグループに属さないと判断する回数あるいは頻度を計数する計数手段
【0013】
取得した歩行周期の時系列データの中には、実際の歩行とは関係のないデータも含まれる。たとえば、義足を装着しているが、歩行をしていない時に小刻みあるいは緩慢にひざを動作することが見られる。センサ手段は、そのような動作に応じる信号をもキャッチする。歩行周期にとっては、それらの信号はいわばノイズであるので、好ましくは、それらを除去するのが良い。実際に歩行する際の一般的な時間は、たとえば、0.85sec〜2secであるので、その範囲から外れる信号(歩行周期)は歩行とは関係がないものと見なすことができる。したがって、歩行能力の向上を評価するとすれば、前記した第1の歩行周期または第2の歩行周期の少なくとも一方が、実際に歩行する際の一般的な時間の範囲内にあるときにのみ判断を行うことが好ましい。また、歩行速度は歩行周期に歩幅を乗じたものなので、評価装置としても、歩行周期の代わりに歩行速度を用いることもできる。
【好適な実施形態】
【0014】
図1は、この発明を適用する義足の一つである大腿義足10を全体的に示している。大腿義足10は、マイクロコンピュータによる制御機能を備える義足であり、その義足自体がもつマイクロコンピュータ機能をこの発明の評価に活用することができる。大腿義足10は、切断した断端を入れるための樹脂ソケット20、ひざの屈曲−伸展の機能を得るためのひざ継手30および接地部分となる足部40を備える。また、大腿義足10は、義足の軸線方向の長さを装着者に適合させるため、長さ調節可能なアダプタ50や軸線周りの回転を可能にする回転継手52をそれぞれ備える。そして、それらの構成部材の外側を脚形態のカバー60が被う。
【0015】
ひざ継手30の部分を見ると、大腿義足10は、大腿側の第1の構成部材(ニー部材)310と下腿側の第2の構成部材(フレーム部材)320とを回転可能に連結するひざ軸330を備える。さらに、大腿義足10は、屈曲−伸展の機能を補助するための流体圧制御装置としてシリンダ装置70を備える。流体圧制御装置70は、たとえば空圧を利用したエアシリンダ装置である。
【0016】
図2は、ひざ継手30の部分の断面構造を明らかにしている。ひざ継手30のフレーム部材320の内部上方には、ひざ軸330の周りに位置するブレーキ機構12、ニー部材310側のマグネット14mとフレーム部材320側の近接スイッチ14sとを含むセンサ手段140がある。また、エアシリンダ装置70は、ピストンロッド72の一端に第1の支持点601、ハウジング部材である筒型のシリンダ本体74の下部に第2の支持点702をそれぞれもつ。ピストンロッド72は、シリンダ本体74の内部にピストン76を保持する。ピストン76は、シリンダ本体74の内部を第1室701と第2室702とに区画する。ひざが屈曲および伸展するとき、第1室701と第2室702との間にエアが流れる。第1室701と第2室702とを連絡する連絡通路が、ピストン76の内部およびシリンダ本体74の内部にある。それらの連絡通路は互いに並列である。一方の連絡通路の途中に可変制御弁80がある。可変制御弁80は、ひざの屈曲に対して抵抗力を与えるための弁である。その弁の開度を大きくすればするほど屈曲に対する抵抗力を小さくし、また逆に、開度を小さくすればするほど屈曲に対する抵抗力を大きくする。
【0017】
可変制御弁80はニードル弁であり、ニードルを軸線方向に移動させることによって、弁の開度を変えることができる。シリンダボトム側に位置する駆動機構90が、可変制御弁80のニードルの移動を行う。駆動機構90は、電子制御可能なステッピングモータ92と、そのステッピングモータ92の回転を直線運動に変換するねじ部94とを備える。ねじ部94が生じる直線的な動きによって、可変制御弁80のニードルを軸線方向に移動させることができる。
【0018】
シリンダボトム側には、また、駆動機構90に制御指令を与える電子制御回路100がある。電子制御回路100がマイクロコンピュータ機能をもつ。そのマイコン回路100には、バッテリ150に接続するための電源端子151、および義足装着者の各人に適合した制御データを設定するためのコネクタ510、さらには、マグネット14mと近接スイッチ14sとからなるセンサ手段(つまり、歩行周期を取得するためのセンサ手段)140からの信号を受けるセンサ端子141がある。ここで、電源端子151およびセンサ端子141は、それぞれリード線を通してバッテリ150あるいはセンサ手段140に接続されている。それに対し、コネクタ510は、その差込み口をフレーム部材320に設けた開口窓320wに臨ませている。なお、センサ手段140として、磁気方式以外に静電容量方式の近接スイッチや、ポテンショメータやロータリエンコーダなどの角度センサ、ロードセルなどの荷重センサを用いることもできる。近接スイッチでは、ON・OFFするタイミングから歩行周期が得られるし、角度センサや荷重センサでは、所定の角度、あるいは荷重から、別の角度、あるいは荷重に変化し、再度所定の角度、あるいは荷重に戻るまでのタイミングから歩行速度が得られる。
【0019】
図3は、大腿義足10と、その義足10内部の電子制御回路(つまりマイコン回路)100と通信可能なパ−ソナルコンピュ−タ200とを接続した構成のブロック図を示している。大腿義足10は、すでに述べたように、マイコン回路である電子制御回路100を中心にして、センサ手段140、バッテリ150、駆動機構90、可変制御弁80を備える。電子制御回路100は、データを演算、処理するCPU120と、CPU120とデータのやり取りをしつつデータを記憶するメモリ130とを備える。この電子制御回路100は、メモリ130内の制御データに基づいて、駆動機構90を通して可変制御弁80の弁開度を制御する。この電子制御回路100のメモリ130の中には、多段階の各弁開度の使用頻度デ−タを保存あるいは蓄積する部分もある。
【0020】
また、調整装置であるパ−ソナルコンピュ−タ200(以下、パ−ソナルコンピュ−タをPCと表現する)は、義足10の外部にあり、有線あるいは無線での通信により、義足10側の電子制御回路100と相互に交信する。それにより、義足10側の電子制御回路100のメモリ130にデータを設定したり、設定したデータを更新したりする処理を行う。調整装置としてのPC200は、小型のマイクロコンピュ−タであり、たとえば複数のキーを含みデータの入力をするための入力部210と、その入力部210に入力されたデータを演算、処理するCPU220と、CPU220と外部との通信を可能にする出力部230と、CPU220のデータを表示する表示部240と、データを記憶するメモリ260とを備える。図は、有線による通信の例を示す。調整装置であるPC200と、義足10側の電子制御回路100とは、一端にコネクタ270(義足10側のコネクタ510に適合するコネクタ)を付属したケ−ブル250を通して電気的な接続をとる。無線による通信では、義足10側および調整装置200の各入出力部に通信回路があり、それら通信回路を通して無線による相互交信が可能である。そのため、有線による場合のケーブル250などが不要であり、ケーブル250が歩行やデータ処理の邪魔になることがない。
【0021】
マイコン回路100を含む大腿義足10、および調整装置としてのPC200を備える義足システムにおいて、歩行訓練の当初、義足10側のマイコン回路100内のメモリ130に対し、義足装着者の歩行に適合するであろう多段階にわたる弁開度の設定データ(つまり、歩行周期に対する弁開度の設定データ)を保存し設定する。この当初の設定データは、義足装着者と専門家との対話に基づく経験的なデータである。歩行訓練が進むにつれて義足装着者の歩行能力は向上していく。したがって、適正なタイミングで既存の設定データを再調整あるいは更新する(つまり、調整する)ことが望まれる。そのため、歩行訓練を有効かつ適正に行う上で、歩行能力のレベル、あるいはその変化を的確に知ることが必要である。
【0022】
この発明による評価技術によれば、そのような評価を客観的に、しかも、比較的に歩数の少ない段階で実行することができる。大腿義足10および調整装置200のそれぞれがマイクロコンピュータ機能をもつため、歩行能力の評価をする処理をそれらのいずれにおいても行うことができる。図4および図5は、時系列的に隣り合う第1および第2の歩行周期が同じグループに属さない度合い(回数や頻度)について調整装置200側で処理する際の制御フローを示し、図4が義足10側の義足制御フローチャート、図5が調整装置200側の調整装置フローチャートをそれぞれ示している。
【0023】
図4の義足制御フローチャートが示すように、大腿義足10側のマイコン回路100内のCPU120は、調整装置であるPC200からデータ送信を要求されているか否かを判断する(S1)。その判断結果が「Y」(つまり「YES」)のとき、時系列に記憶された歩行周期のデータのすべてをPC200に送信する(S2)。それに対し、ステップS1の判断結果が「N」(つまり「NO」)のときには、センサ手段140の近接スイッチ14sがON・OFFするタイミングから歩行周期(あるいは、義足の揺動周期)の情報を取得する(S3)。ついで、ステップS3で取得した情報が、義足を使用していると見なすことができる所定の時間内にあるか否かを判断する(S4)。使用時間に対応する時間の範囲は、経験的な範囲であり、たとえば0.26sec〜8secである。ステップS4は、義足を装着している使用時間を把握するために必要な判断である。
【0024】
そして、ステップS4を通して取得した歩行周期を時系列データとして電子制御回路100のメモリ130に記憶する(S5)。時系列データとしては、一歩ずつの歩数ごとに応じる歩行周期、あるいは、二歩や三歩といった複数の歩数ごとに応じる歩行周期、の形態にすることができる。その場合、各サンプリングごとの歩行周期をすべて記憶することもできるが、メモリ130を節約するために、歩行周期に変化があったときだけデータとして記憶することもできる。たとえば、図4に示す例では、歩数ごとのサンプリングであるにもかかわらず、時刻としての歩数の数値123から歩数の数値134に飛んでいる。歩数123に応じる歩行周期は1.049であり、その123歩から133歩目までは歩行周期が同じグループに属し、134歩目の歩数に至って歩行周期が1.180となり、異なるグループに変化している。
【0025】
ステップS5でメモリ130に記憶するデータは、可変制御弁80の弁開度を制御するデータでもある。CPU120は、メモリ130内のデータに基づいて弁開度を変更する必要があるか否かを判断する(ステップS6)。必要あり「Y」という判断であれば、CPU120は、駆動機構90のステッピングモータ92を制御し可変制御弁80を所定の弁開度にする(S7)。
【0026】
それに対し、外部の調整装置であるPC200は、図5に示すように、大腿義足10側にデータの送信を要求する(ステップ10)。PC200のCPU220は、大腿義足10側のデータの受信を完了したかを判断し(ステップ11)、受信完了「Y」を確認したら、次のステップへと進む。ステップS12において、受信した時系列データの歩行周期とその頻度(度数)を乗じることにより、CPU220は、大腿義足10の使用時間(つまり、義足を装着している時間)を算出する。このような使用時間は、大腿義足10の活用状況を知る上での有用な要素の一つである。ついで、ステップS13において、まず受信した時系列データの先頭に記憶された歩行周期を第1のデータとして選択する。そして、ステップ13で選択した第1のデータ(つまり、第1の歩行周期)から時系列方向に所定個数(たとえば、一個あるいは数個)離れた位置に記憶された歩行周期を第2のデータとして選択する(ステップS14)。
【0027】
ステップ13および14で選択した第1および第2のデータは、歩行時だけでなく、非歩行時の情報をも含んでいる。そこで、ステップ15において、第1または第2の歩行周期のデータの少なくとも一方が0.85sec〜2secの時間の範囲内にあるかについて判断する。この時間範囲は、歩行しているときの一般的な歩行周期である。ステップS15の判断が「N」(つまり「NO」)のときには、ステップ16に移り、現在の第1のデータの時系列方向で次の歩行周期を新しい第1のデータとして選択する。そして、選択した新しい第1のデータに基づいて、ステップ13以降の処理を繰り返す。
【0028】
一方、ステップ15における判断が「Y」(つまり「YES」)のとき、次のステップ17において、選択した第1のデータと第2のデータとが分割した歩行周期の同じグループに属するか否かを判断する。その判断の結果が「N」(つまり、属さないという「NO」)のとき、ステップ18において、メモリ260にグループを超えた移動回数(別にいうと、ブロック移動回数)を加算して記憶する。ステップ17の判断が「Y」(つまり、属するという「YES」)のときには、ステップ18の処理は行わない。ステップ17および18の各処理を、受信したすべての時系列データについて行う。そして、時系列データのすべてについて計算を完了したことを確認(ステップ19)した後で、算出したブロック移動回数と義足使用時間とを表示部240に表示し(ステップ20)、PC200での計算あるいは処理を終える。なお、ステップ19の判断が未完了「N」のときには、ステップ16に戻り計算あるいは処理を続行する。
【0029】
以上ブロック移動回数の計算をPC200側で行い、その結果をPC200側で表示する場合を示した。しかし、大腿義足10側もマイクロコンピュータ機能をもつので、ブロック移動回数の計算を義足10側で行うようにすることもできる。
【0030】
図6および図7は、大腿義足10側でブロック移動回数の計算を行う際の制御フローを示し、図6が義足10側の義足制御フローチャート、図7が調整装置であるPC200側の調整装置フローチャートをそれぞれ示している。ブロック移動回数の計算を義足10のマイコン回路100側で行うという違いはあるが、多くの処理が図4および図5で述べた場合と共通する。したがって、共通する部分については、重複した説明は省略する。図6に示す義足制御フローチャートにおいて、留意すべきは二つである。一つは、マイコン回路100のメモリ130へ記憶させるデータである。ステップS25において、メモリ130に対し、取得した歩行周期に対応する回数を加算して記憶するようにしている。その記憶データは、別の図8に示すように、歩行周期を多段階に分割した各グループ(あるいはブロック)と、各グループごとの近接スイッチ14sのON/OFF回数に応じて加算する度数とを含む形態である。もう一つの留意点は、ステップS27における処理であり、新たに取得した歩行周期と時系列方向に所定個数離れた、たとえば、一歩あるいは複数歩前の歩行周期が同じグループに属するか否かの判断を義足10側で行っている点である。
【0031】
そこで、PC200側における主な処理は、図7に示すように、義足10側にデータ送信を要求をすること(ステップS30)、それによって受信したデータに基づいて義足10の使用時間を算出すること(ステップ32)である。そして、PC200は、義足10側から受信したブロック移動回数と、自らの側で算出した義足使用時間とを表示部240に表示する(ステップS33)。したがって、訓練を指導する専門家は、表示部240に表示されるブロック移動回数に基づいて、義足装着者の歩行能力のレベル、あるいはその変化を定量的に把握することができる。
【0032】
さらに、歩行能力を評価するための評価装置を、義足とは独立した形態で構成することもできる。そのような実施形態は、義足装着者ではあるが、義足がマイクロコンピュータ機能をもたない場合、あるいは、義足装着者ではなく、歩行機能に障害をもつ場合における評価に適している。
【0033】
図9が、義足とは独立した独立タイプの評価装置500を示す構成図である。評価装置500は、マイクロコンピュータ機能をもつマイコン回路300、およびマイコン回路300からの指令を受けて表示するディスプレイ(表示部)340のほか、マイコン回路300に信号を入れる加速度センサ380およびキースイッチ400を備える。このような評価装置300は、評価対象者の身に装着し、評価に供される加速度センサ380は、センサ手段を構成するものであって、評価対象者の動きを通して歩行周期に関する情報を取得する。また、キースイッチ400は、評価装置500のモードを切り換える切換えスイッチであって、切換えあるいは選択の操作によって、データを収集するモードか、計算結果を表示するモードかを選択する。
【0034】
図10Aおよび10Bは、評価装置500による制御フローを示すフローチャートである。まず、マイコン回路300は、図10Aに示すように、データ収集モードであるか否かを判断する(ステップS51)。データ収集モードである「Y」と判断すると、前に述べた例と同様に、センサ手段である加速度センサ380から加速度を取得し、加速度の方向が変化するタイミングからマイコン回路300は歩行周期を算出する(ステップS52)。ついで、算出した歩行周期が義足の使用時間に対応する所定の範囲(たとえば、0.26sec〜8sec)にあるか否かを判断(ステップS53)した後、その範囲内の歩行周期について、各歩行周期が属するグループごとに回数を加算して記憶する(ステップS54)。そして、算出した歩行周期について、歩行時間に対応する所定の範囲内(たとえば、0.85sec〜2sec)にあるものを選択し(ステップS55)、新たに取得した歩行周期と時系列方向に所定個数離れた前の歩行周期が同じグループに属するか否かを判断する(ステップS56)。その判断において、属しない「N」とされたもの(つまり、歩行周期がグループを超えて移動したもの)のブロック移動回数を加算して記憶する(ステップS57)。
【0035】
他方、ステップS51の判断が表示モードのときには、図10Bに示すように、マイコン回路300のメモリに記憶した歩行周期とその頻度とを乗じることにより、義足の使用時間を算出する(ステップS58)。そして、評価装置500は、マイコン回路300の指令によって、記憶したブロック移動回数と算出した義足使用時間とをディスプレイ340に表示する(ステップS59)。したがって、この評価装置500においても、訓練を指導する専門家は、ディスプレイ340に表示されるブロック移動回数に基づいて、訓練あるいはリハビリを受ける者の歩行能力のレベル、あるいはその変化を定量的に把握することができる。
【0036】
上記いずれの実施形態においても、歩行周期を用いて説明したが、歩幅は同一人であれば概ね一定であるため、歩行周期の代わりに、歩行周期に歩幅を乗じたものである歩行速度を用いても同様の効果を得ることができる。またリハビリテーションや訓練の場での適用例を説明したが、日常生活でどのような歩行を行っているのかを確認する場においても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明を適用する義足の一例を示す図である。
【図2】図1の義足のひざ継手の部分を示す断面構造図である。
【図3】この発明に好適な義足と調整装置との接続関係を示すブロック図である。
【図4】この発明を適用した義足制御フローチャートの一例を示す。
【図5】図4の義足制御フローチャートに伴う調整装置フローチャートの一例を示す。
【図6】この発明を適用した義足制御フローチャートの別の例を示す。
【図7】図6の義足制御フローチャートに伴う調整装置フローチャートの一例を示す。
【図8】歩行周期のグループと各グループに加算する度数分布の例を示す図である。
【図9】この発明による評価装置の別の例であり、義足とは独立した独立タイプの構成図である。
【図10A】独立タイプの評価装置による制御フローを示すフローチャートの第1分図である。
【図10B】図10Aと組み合う第2分図である。
【符号の説明】
【0038】
10 義足(大腿義足)
310 第1の構成部材(ニー部材)
320 第2の構成部材(フレーム部材)
70 流体圧制御装置(エアシリンダ装置)
80 可変制御弁
90 駆動機構
100 電子制御回路(マイコン回路)
120 義足側のCPU
130メモリ
140 センサ手段
200 調整装置(PC)
220 調整装置側のCPU
240 表示部
300 マイコン回路
340 表示装置(ディスプレイ)
380 加速度センサ
500 独立タイプの評価装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロコンピュータによって、歩行周期の大きさを多段階に分割し、グループ化することを前提とし、時系列的に取得する歩行周期がグループを超えて変化することを評価指標とする評価方法であって、
被験者からセンサ手段によって歩行周期に関する情報を取得し、その取得情報をマイクロコンピュータによって歩行周期の時系列情報にする第1工程と、
前記歩行周期の時系列情報について、ある時点における第1の歩行周期と、その時点に隣り合う別の時点における第2の歩行周期とが、前記多段階に分割したグループの同じものに属するか否かを前記マイクロコンピュータによって判断する第2工程とを備え、
前記第2工程において、同じグループに属さないという判断が所定回数あるいは所定頻度を超えるとき、前記被験者の歩行能力が所定のレベルにあると評価することを特徴とする、歩行能力についての評価方法。
【請求項2】
前記隣り合う別の時点は、前記ある時点に対し、歩数が一歩あるいは複数歩隔てた時点である、請求項1の評価方法。
【請求項3】
前記被験者は義足の装着者であり、その義足が、ひざの部分で伸展および/または屈曲するように動く大腿側の第1の構成部材および下腿側の第2の構成部材、ならびに、それら第1および第2の両構成部材の動きを補助するための流体圧制御装置を含む大腿義足である、請求項1の評価方法。
【請求項4】
前記センサ手段および前記マイクロコンピュータは、前記流体圧制御装置を制御するためのものでもある、請求項3の評価方法。
【請求項5】
前記第1の歩行周期または第2の歩行周期の少なくとも一方が、実際に歩行する際の一般的な時間の範囲内にあるときに、前記第2工程の判断を行う、請求項1の評価方法。
【請求項6】
前記歩行周期に代え、歩行速度を用いる、請求項1の評価方法。
【請求項7】
マイクロコンピュータを利用し、歩行周期の大きさを多段階に分割し、グループ化することを前提とし、歩行能力について評価する評価装置であって、次のA〜Dの各手段を備えることを特徴とする、歩行能力についての評価装置。
A 被験者から歩行周期に関する信号を取得するセンサ手段
B そのセンサ手段からの信号に基づいて、取得した歩行周期を時系列データとして記憶するメモリ手段
C そのメモリ手段に記憶したある時点における第1の歩行周期と、その時点に隣り合う別の時点における第2の歩行周期とが、前記多段階に分割した同じグループ内に属するか否かを判断する判断手段
D その判断手段が前記同じグループに属さないと判断する回数あるいは頻度を計数する計数手段
【請求項8】
前記被験者は義足の装着者であり、その義足が、ひざの部分で伸展および/または屈曲するように動く大腿側の第1の構成部材および下腿側の第2の構成部材、ならびに、それら第1および第2の両構成部材の動きを補助するための流体圧制御装置を含む大腿義足である、請求項7の評価装置。
【請求項9】
前記センサ手段および前記マイクロコンピュータは、前記流体圧制御装置を制御するためのものでもある、請求項8の評価装置。
【請求項10】
前記Cにおける判断手段は、前記第1の歩行周期または第2の歩行周期の少なくとも一方が、実際に歩行する際の一般的な時間の範囲内にあるときに、前記判断を行う、請求項7の評価装置。
【請求項11】
前記センサ手段は、加速度センサである、請求項7の評価装置。
【請求項12】
前記歩行周期に代え、歩行速度を用いる、請求項7の評価装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【公開番号】特開2010−125016(P2010−125016A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301767(P2008−301767)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】