説明

歪補償増幅器

【課題】 入力レベルが装置の仕様範囲外やバースト状態から通常状態に戻った場合に、歪と利得を速く安定させることができる歪補償増幅器を提供する。
【解決手段】 可変減衰器8,11,13と可変位相器9,12を適宜制御することにより、歪補償制御を行う歪補償増幅器において、入力レベルが装置の仕様範囲外の時又はバースト時、前記歪補償制御を停止するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変減衰器と可変位相器を制御することにより、歪補償制御を行う歪補償増幅器に関し、特に、増幅時に発生する歪をプリディストーション(PD)方式により補償する歪補償増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の歪補償増幅器として、PD方式による歪補償増幅器が提案されている(例えば特許文献1参照)。
ここで、PD方式による歪補償増幅器の一例を図5を用いて説明する。図5は従来の歪補償増幅器の構成の一例を示すブロック図である。1は入力端、2はプリアンプ、3、5、6、7、15は方向性結合器、4は例えば遅延線で構成される遅延部、10は歪発生素子、14は入力された信号を増幅する増幅部、17は各構成を制御する制御部、16は出力端である。
【0003】
さらに、方向性結合器6と方向性結合器7の間に可変減衰器8、可変位相器9が設けられ、方向性結合器7と方向性結合器5の間に可変減衰器11、可変位相器12が設けられ、方向性結合器5と増幅部14の間に可変減衰器13が設けられる。
【0004】
ここでは、方向性結合器6,7、可変減衰器8、可変位相器9、歪発生素子10を増幅部14により増幅されたときに発生する歪を相殺する歪相殺信号を生成する歪相殺信号生成部と呼ぶ。
【0005】
可変減衰器8と可変位相器9は、方向性結合器6で分配された信号dと、同じ方向性結合器6で分配され歪発生素子10からの出力信号となった信号fとの位相、振幅を調整するものである。信号dの位相、振幅を信号fに合わせて調整することにより、信号fの歪成分以外の成分が信号dの成分により相殺され、信号gでは増幅部14で発生する歪と同等の信号のみを抽出することができる。
【0006】
可変減衰器11、可変位相器12は、信号gを信号bに合わせて振幅、位相を調整するものである。これにより、方向性結合器5の出力信号hが増幅部14により増幅されたとき、予め与えた歪成分、ここでは信号gの成分が相殺されるようになる。
【0007】
可変減衰器8,11、可変位相器9,12は、例えば入力信号レベルを検出した信号kや出力信号レベルj、さらに歪発生素子の出力である信号fの一部を検出した信号l、方向結合器15からの出力信号の歪成分である信号mなどの値から制御部17が各減衰器、位相器を制御するものである。
【0008】
以下、動作について説明する。
入力端子1から入力された信号aはプリアンプ2を経由して方向性結合器3へ入力される。方向性結合器3にて信号は分配され、一方は信号bとして遅延部4へ、他方は信号cとして方向性結合器6へ入力される。方向性結合器6にて更に信号が分配され、一方は信号dとして可変減衰器8、可変位相器9を経由して方向性結合器7へ、他方の信号eは歪発生素子10へ入力され、そこで、歪発生素子の歪成分を合成し、信号fとなる。信号dと信号fは方向性結合器で合成される。このとき、信号dとfは逆相となるようにする。方向性結合器7で合成後の信号gでほぼ歪成分のみが出力される。
【0009】
信号bと信号gは方向性結合器5で結合され、信号hが生成される。信号hは歪成分と信号bが合成されたものであり、増幅部14により増幅される。増幅されることにより、予め歪ませた成分、つまり信号gの成分が相殺され、信号iでは歪の無い増幅された信号成分のみが出力される。信号jは増幅された信号iの一部を検出したものであり、ここでは出力レベルを検出する。信号kは入力信号の一部を検出したものであり、入力レベルを検出することができる。信号lは歪発生素子からの出力信号fの一部を検出したものであり、信号mは信号iの歪成分を検出したものである。
【0010】
制御部17は信号j、k、l、mを読み込み、歪成分が出力されない、もしくは規定のレベル以下になるように、それらの値に応じて可変減衰器8,11,13、可変位相器9,12,14を制御する。
【特許文献1】特開2000−261252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の歪補償増幅器は変調された信号の電力を増幅する線形増幅器において、非線形歪を補償するために電力増幅器に入力される信号を、その信号の瞬時振幅に対応して、振幅および位相をあらかじめ歪ませておき、電力増幅器の出力信号電力スペクトルのうち、非線形歪みによって発生される帯域内の歪電力が最小となるように、プリディストーション回路の振幅および位相を制御している。
【0012】
また、利得制御は入力レベルと出力レベルを監視し、利得が一定になるように常に減衰器13等を変化させている。
ここで、図6を用いて利得補正について説明する。図6のA2は装置入力レベルに対する電力増幅器出力レベルの関係を表したものであり、B2は装置入力レベルに対する装置出力レベルの理想図を表している。前述したように、利得が一定になるように制御をしなくてはならないが、現実的には図6から分かるように、A2では入力レベルが低い場合は利得が一定となっていない。A2の出力が装置の出力として大きくかかわるため、A2をそのまま装置の出力とした場合、結果的に利得が一定ではなくなる。そこで、A2をB2に近づけるために、減衰器13等を用いて利得の調整を行う。
【0013】
装置の入力レベルが低い状態で立ち上がったとき、可変減衰器の減衰量は小さくなる。また増幅素子の歪も装置入力レベルにより大きく変化する。
そのため、装置の歪が最小になるプリディストーション回路の振幅と位相量も大きく変わってくる。これらのことから、装置の入力レベルが大きく変動した時に利得と歪が安定するまでに時間を要するという問題があった。
【0014】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、入力レベルが装置の仕様範囲外やバースト状態から通常状態に戻った場合に、歪と利得を速く安定させることができる歪補償増幅器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決するために本発明は、可変減衰器と可変位相器を適宜制御することにより、歪補償制御を行う歪補償増幅器において、入力レベルが装置の仕様範囲外の時又はバースト時、前記歪補償制御を停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、入力レベルが装置の仕様範囲外やバースト状態から通常入力レベルに戻ったときに利得、歪特性を迅速に安定させることができる歪補償増幅器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、実施の形態における歪補償増幅器を示すブロック図である。この歪補償増幅器の基本構成は図5に示したものと同じであり、図5と同一符号は図5に示したものと同一又は相当物を示しており、ここでの説明を省略する。
【0018】
本実施の形態では、制御部18に入力レベルが装置の使用範囲外のレベルになった場合を判定する入力レベル判定部18a及びバースト時を判定するバースト判定部18bと、これら判定部18a,18bの判定結果に基づいて歪補償の制御を停止する制御停止部18cとを備えている点で図5の従来の歪補償増幅器と異なる。制御部18は、入力レベル判定部18a、バースト判定部18b、並びに制御停止部18cの機能の他に、従来の制御部17の機能、例えば可変減衰器13の制御、歪補償の制御等を行う機能を有する。
入力レベル判定部18aは、信号kを受信し、そのレベルを測定している。また、バースト判定部18bは、入力レベル判定部18aと同様に信号kを受信し、バースト信号か否かを判定する。制御停止部18cは、入力レベル判定部18a、バースト信号判定部17bの判定結果に応じて、歪補償のための制御、可変減衰器13の制御を停止するものである。ここで、「歪補償のための制御を停止する」とは、例えば出力される歪を小さくするように可変減衰器8,11,13、可変位相器9,12の制御、さらに歪発生素子10や増幅部14へのバイアス制御を停止することである。入力レベル判定部18a、バースト信号判定部18bは、ここでは便宜の為に別々に記載したものであるが、それぞれを判定することができれば一つにまとめても良い。
【0019】
以下、動作について説明する。
【0020】
(利得制御)
本発明の利得制御について、図1、図2を用いて説明する。
図2は、左軸が装置出力レベルを、右軸は電力増幅器出力レベルを、横軸は装置入力レベルを表している。A1は、入力レベルに応じた現実の電力増幅器出力レベルを表しており、B1は入力レベルに応じた理想の装置出力レベルを表している。歪補償増幅器では、上述した説明にもあるように、A1をB1に近づけるように、可変減衰器13で信号レベルの補正を行っている。
増幅される信号が入力部1に入力されると、その信号の一部を信号kとして分配し、信号kは制御部18の入力レベル判定部に受信される。信号レベル判定部18aは、信号kの入力レベルが装置の仕様範囲内であるか否か判定する。装置の仕様範囲内であれば、入力レベル判定部18aは制御部18に入力レベルを伝え、制御部18は入力レベルに応じて、図2におけるA1をB1に近づけるよう、可変減衰器13を制御する。
信号レベル判定部18aが、装置の仕様範囲外であると判定したとき、入力レベル判定部18aは制御停止部18cにその旨を伝える。制御停止部18cは可変減衰器13の制御を停止する。
ここで、入力レベル判定を行わない場合を考える。入力レベル判定を行わない場合、装置の入力レベルが仕様範囲外のとき(入力レベルが低い時)は、可変減衰器での補正量は大きくなる。入力レベルが突然低くなって、その後、また仕様範囲内になった時、可変減衰器で減衰量が小さくなる方向(電力増幅器の利得を下げる方向)に制御が働いた後に減衰量を大きくする。装置は、入力レベルに対する出力レベルの利得一定のテーブルに従ってテーブルの値になるまで制御を繰り返し可変減衰器を動作させているため補正量が大きいとその分安定するまでに時間がかかることとなる。
【0021】
これに対して、可変減衰器の変化量が大きくなるような入力レベルが仕様範囲外のときは、それをレベル判定部17aで判定して、制御停止部17cにより歪補償制御、すなわち利得制御を停止することにより、大きな補正量を必要とする補正が行われないこととなるので、入力レベルが通常状態に戻ったときに、利得が安定するまでの時間を短縮することができる。
【0022】
(歪制御)
歪制御は、歪相殺信号生成回路6,7,8,9,10から構成される回路部分で発生する歪の位相と振幅を調整することで行われる。プリディストーション増幅器で歪制御を行うときには、フィードフォワード増幅器のようにパイロット信号を利用して歪制御を行うことはできないので、直接、歪レベルを検波することとなり、出力レベルからの相対値ではなく、絶対値で歪を検出することになる。このため、出力レベルが低い時は、出力レベルの相対値が同じ場合に絶対値は低くなる。そのため、出力レベルが低い時は、歪の絶対値の規格ではなく、信号からの相対値の規格の方が厳しくなり、従来のようにどこまで歪を下げればいいのか出力レベルごとに閾値を持たなくてはいつまでも歪制御を行うこととなる。
【0023】
常に歪制御を行っていれば出力レベルごとの閾値を持つ必要は無いが、全く歪がない時(通常入力レベルが十分低い時であり、仕様入力範囲外)でも制御を行うこととなるため、突然、入力レベルが元(使用範囲内)に戻った時、位相と振幅が最適な値から離れた値になっている場合、歪レベルが安定するまでに位相と振幅を動かす量が大きく動かす必要があるため、時間を要することになる。
【0024】
図3(a)(b)に示されるように、入力レベルにより最適値は振幅・位相とも左右のどちらかにずれることとなる。歪レベルが検出できなくなるくらい入力レベルが小さい時は、位相と振幅を動かしても歪レベルが変わらないため、いつまでも最適値が見つからないこととなる。従って、このような仕様範囲外の入力レベルのときに、制御停止部17cによって、歪制御を止めることによって、最適値からのずれ(位相と振幅の最適値の幅)を小さく抑えることができ、安定するまでの時間を短縮することができる。
【0025】
(バースト入力)
バースト波が装置に入力された時、出力レベルの検波がタイミングによってはできなくなり、利得制御が誤動作を起こす場合がある。図4のようなタイミングの時は装置は出力が低いと認識してしまい、利得を上げる方向に誤動作する。これは、歪の検出のタイミングも出力と同じで、歪みが全く出ていないと認識してしまい、最適値とはかけ離れた値になってしまう可能性がある。そのため、バースト波から連続波に戻った時、利得と歪が安定するまでに時間がかかる可能性がある。そこで、バースト波入力時には利得・歪の制御を停止することによって、安定する(最適値になる)までの時間を短縮することができる。
【0026】
以上に述べた、実施の形態に示される歪補償増幅器は、例えば移動通信システムなどの無線通信システムに備えられる基地局装置や中継増幅器などの適用されるものであり、無線通信システムとしては、例えば、携帯電話システムや簡易型携帯電話システム(PHS:Personal Handy Phone System)などの種々のシステムが用いられる。
【0027】
また、通信方式としては、例えば、CDMA(Code Division Multiple Access)方式やW(Wide band)−CDMA方式やTDMA(Time Division Multiple Access)方式やFDMA(Frequency Division Multiple Access)方式などの種々な方式が用いられてもよい。
【0028】
ここで、本発明に係る増幅器などの構成としては、必ずしも、以上に示したものに限られず、種々な構成が用いられてもよい。例えば、歪発生素子10や増幅部14は個々のデバイスから構成されているが、デバイスは並列に設けてもよく、また直列に設けても良い。更に直列、並列の組み合わせでも良い。なお、本発明は、例えば本発明に係る処理を実行する方法或いは方式や、このような方法を実現するためのプログラムなどとして提供することも可能である。
【0029】
また、本発明の適用分野としては、必ずしも以上に示したものに限られず、種々な分野に適用することが可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態における歪補償増幅器を示すブロック図である。
【図2】実施の形態の歪補償制御の動作範囲を示す図である。
【図3】歪補償動作を説明するための図である。
【図4】バースト時の動作を説明するための図である。
【図5】従来の歪補償増幅器を示すブロック図である。
【図6】従来の歪補償増幅器の動作を説明するための図である。
【符号の説明】
【0031】
1 入力端、2 プリアンプ、3,5,6,7,15 方向性結合器、4 遅延部、8,11,13 可変減衰器、9,12 可変位相器、10 歪発生素子、14 増幅部、16 出力端、17 制御部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変減衰器と可変位相器を適宜制御することにより、歪補償制御を行う歪補償増幅器において、
入力レベルが装置の仕様範囲外の時又はバースト時、前記歪補償制御を停止することを特徴とする歪補償増幅器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−100930(P2006−100930A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281442(P2004−281442)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】