説明

歯付ベルト劣化評価装置およびその方法

【課題】負荷変動が大きいベルト伝動装置に用いられる歯付ベルトであってもその劣化の度合いを正確に評価する。
【解決手段】原動プーリ11と従動プーリ12に歯付ベルト13を掛け回す。原動プーリ11の1つの歯である測定用の歯の両脇にスリット状の切り込みを設け、測定用の歯の両側面に歪みゲージを貼り付ける。歪みゲージからの信号をシャフトを介して制御装置14へと送信する。制御装置14において測定用の歯に掛かる歯荷重を算出する。算出された歯荷重から歯付ベルト13の劣化度を評価する。評価においてベルトが取り替え時期に達していると判定された場合には、警告装置15において警告を発する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付ベルトの劣化の度合いを評価、あるいは寿命を予知するための装置およびその方法に関し、特に自動車用エンジンに用いられるタイミングベルトの劣化の度合いの評価、あるいは寿命を予知するための装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンに用いられるタイミングベルトの寿命予知の方法としては、例えばベルトの目視検査やベルトの伸びに基づいて寿命を予知する方法が知られている。しかし、目視検査は経験を必要とする上、タイミングベルトはエンジン内部に取り付けられるため、目視検査には適さない。また、ベルトの寿命はベルトの縮みによる噛み合い不良などにも影響されるためベルトの伸張に基づいてベルトの寿命を正確に予測することはできない。
【0003】
このような問題に対して、一般産業機械等に設けられる歯付伝動ベルトの交換時期を判断するシステムとして、ベルトの有効張力を検出し、これに基づいて寿命を予知する方法が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−344807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、有効張力は、ベルトの歯荷重の合計であるため、ベルトの伸びや摩耗等による噛み合い不良に起因して1歯に掛かる歯荷重が増大しても、有効張力においてはそれらが相殺されてその影響が殆ど現れない。したがって、歯付ベルトの寿命を有効張力から予測する場合、ベルトの性能劣化による局所的な張力の増大を見落とすこととなり正確にベルトの劣化度を評価し、あるいは寿命を予測することは難しい。特に自動車エンジンへの応用においては、負荷の変動が大きいため、ベルトの1歯に掛かる荷重が増大している可能性があり、そのような場合、有効張力による評価では十分ではない。
【0005】
本発明は、歯付ベルトの劣化の度合いを正確に評価することを目的とし、特に負荷変動が大きいベルト伝動装置に用いられる歯付ベルトの劣化の度合いを正確に評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の歯付ベルト劣化評価装置は、歯付ベルトを用いたベルト伝動システムにおいて歯付ベルトの劣化の度合いを評価する装置であって、歯荷重を測定するための歯荷重測定手段と、歯荷重に基づいて歯付ベルトの劣化の度合いを評価する評価手段とを備えたことを特徴としている。
【0007】
評価手段は、測定された歯荷重の最大歯荷重に基づいて評価を行うことが好ましく、更に評価手段は、ベルト伝動システムの回転速度に沿った最大歯荷重のピーク値に基づいて評価を行うことが好ましい。
【0008】
歯荷重測定手段は、例えばベルト伝動システムの原動プーリの歯に設けられる。また歯付ベルト劣化評価装置は、評価の結果を出力する出力手段を備えることが好ましい。評価は例えばベルトの交換時期またはベルトの寿命に関する評価である。
【0009】
本発明の歯付ベルト劣化評価方法は、歯付ベルトを用いたベルト伝動システムにおいて、歯付ベルトの劣化の度合いを評価する方法であって、歯荷重を測定するステップと、歯荷重に基づいて歯付ベルトの劣化の度合いを評価するステップとを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明によれば、歯付ベルトの劣化の度合いを正確に評価することができ、負荷変動が大きいベルト伝動装置に用いられる歯付ベルトであってもその劣化の度合いを正確に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明を適用した実施形態のベルト寿命予知装置全体の構成を示す模式図である。ベルト寿命予知装置は、例えばタイミングベルトが用いられた車両用エンジンのベルト伝動システムや一般産業用機械の動力伝達システムなど歯付ベルトを用いたベルト伝動システムに用いられる。
【0012】
ベルト寿命予知装置10は、原動プーリ11と、従動プーリ12と、これらに掛け回される歯付ベルト13を備えたベルト伝動システムに適用される。例えば車両用エンジンの場合、原動プーリ11はクランクシャフトプーリであり、従動プーリ12は例えばカムシャフトプーリである。なお、ベルト伝動システムは、複数の従動プーリを備えていてもよく、車両用エンジンの場合には、通常例えばオイルポンプやウォーターポンプなど補機用のプーリが設けられ、またベルト背面側にはテンショナプーリが係合される。
【0013】
原動プーリ11には、プーリ歯に掛かる歯荷重を測定するためのセンサが設けられ、センサからの信号は、原動プーリ11が設けられた原動機の回転軸を介して、制御装置14に送られる。制御装置14では歯荷重が算出され、これに基づいてベルトの劣化度あるいは寿命が評価される。本実施形態では、例えば歯荷重が予め設定された所定値を越えた場合に警告装置15において例えばベルトの交換時期が到来したことを知らせる警告が発せられる。なお、警告装置としては、例えばランプの点灯や表示器への文字等の表示、あるいは警告音を発する装置などが挙げられる。また例えば予め実験的に求めたデータに基づいて歯荷重からベルト余命を推定し、その余命に対応した表示(交換までの走行距離や時間)を行う構成とすることもできる。
【0014】
図2に、本実施形態の原動プーリ11の正面図を、図3に背面図を示す。図2、3に示されるように、原動プーリ11は、例えば歯数が22歯の歯付プーリで、21個の通常の歯16と1個の歯荷重測定用の歯17(斜線部)とを備える。21個の歯16が原動プーリ11の外周面に一体的に形成されているのに対して、歯荷重測定用の歯17は、その歯に掛かる荷重を測定するため、その両脇にスリット状の切り込みが設けられる。すなわち、歯17は、原動プーリ11の外周面からではなく、より中心に近い所定の位置から径方向外側に延出して片持支持される。
【0015】
図4に、歯荷重測定用の歯17周辺の部分拡大図を示す。図4に示されるように、歯17の基端側の両側面17A、17Bには、例えば歪みゲージ18A、18Bが歯荷重測定用のセンサとして貼着される。すなわち、本実施形態では、原動プーリの歯17の歪みを測定することによりベルト歯に掛かる歯荷重が推定される。なお、本実施形態では歯面荷重と歯先面摩擦力の合力が測定されるが、歯面荷重のみを測定する構成などとすることもできる。
【0016】
歪みゲージ18A、18Bからの信号は、信号線を介して原動プーリ11が装着されたシャフト軸(図示せず)へと導かれ、例えばブラシ接触を介してエンジンブロックなどの固定部へと出力されて制御装置14へと送られる。制御装置14では、歪みゲージ18A、18Bからの信号の変化に基づいて、歯17の歯荷重が算出され、算出された歯荷重が所定値以上のときに警告装置15において警告を発する。
【0017】
次に、図5〜図10を参照して、本実施形態におけるベルトの劣化の度合いの評価方法の原理について説明する。
【0018】
図5、図6は、ベルト伝動システムの回転速度と、各回転速度において計測された最大歯荷重との間の関係を示すグラフであり、新品のベルトと市場走行済みのベルト(歯底帆布が摩耗し、歯ゴムにクラックが発生しているベルト)についてのデータが示される。図5、6には新品ベルト、市場走行ベルト各々に対するベルト走行方向(+側)への最大歯荷重Ln+、Lu+と、ベルト走行方向逆向き(−側)への最大歯荷重Ln-、Lu-が示される。
【0019】
図5は、新品ベルト、市場走行ベルトの間の最大歯荷重の差が+側で顕著な場合を例示したもので、+側最大歯荷重Ln+、Lu+の各グラフのピーク値Pn+、Pu+は、市場走行ベルトの方が20%高い。一方、図6は、新品ベルト、市場走行ベルトの間の最大歯荷重の差が−側で顕著な場合を例示したものであり、−側最大歯荷重Ln-、Lu-の各グラフのピーク値Pn-、Pu-は、市場走行ベルトの方が50%高い。
【0020】
また、図7は図5のピーク値Pn+、Pu+を測定したときに原動プーリの各歯における荷重の分担を示すグラフの一例である。横軸は各歯に順番に付けられた歯番号(No.1〜22)に対応し、グラフは原動プーリが所定の位相にあるときに各歯に掛かる歯荷重を示している。
【0021】
図7において、市場走行ベルトの各歯が分担する歯荷重Ldu+は、例えば歯No.2においてピーク値Pu+を取り、これは噛入時の歯荷重に対応する。図に示されるように、市場走行ベルトにおいて、歯No.2の歯が分担する歯荷重は他の歯が分担する歯荷重に比べ顕著に大きい。これは走行により経時的に発生したベルトの伸び、摩耗に伴う噛み合い異常によって、噛入時の歯荷重が増大することによる。一方、新品ベルトの各歯が分担する歯荷重Ldn+では、歯No.4においてピーク値Pn+を取るが、ベルトが掛け回されている各歯において、歯荷重分担に大きな差はない。
【0022】
次ぎに図8に、原動プーリの荷重分担が図7で示されるときの新品ベルト、市場走行ベルトの有効張力の値を示す。図7に示されるように、新品ベルト、市場走行ベルトの間において、+側の最大歯荷重のピーク値Pn+、Pu+は大きく異なるが、図8に示されるように、そのときの有効張力の差は僅かである。
【0023】
また、図9は図6のピーク値Pn-、Pu-を測定したときに原動プーリの各歯における荷重の分担を示すグラフの一例である。図9において、市場走行ベルトの各歯が分担する歯荷重Ldu-は、例えば歯No.6においてピーク値Pu-を取り、これは噛出時の歯荷重に対応する。図に示されるように、市場走行ベルトにおいては、歯No.6の歯が分担する歯荷重が他の歯が分担する歯荷重に比べ顕著に大きい。これはピーク値Pu+と同様に、走行により経時的に発生したベルトの伸び、摩耗に伴う噛み合い異常によって、噛出時の-側歯荷重が増大することによる。一方、新品ベルトの歯荷重Ldn-では、歯No.6においてピーク値Pn-を取るが、+側と同様にベルトが掛け回されている各歯において歯荷重分担に大きな差はない。
【0024】
図10に、原動プーリの荷重分担が図9で示されるときの新品ベルト、市場走行ベルトの有効張力の値を示す。+側の最大歯荷重のときと同様に、図10では、新品ベルト、市場走行ベルトの間において、−側の有効張力の差は僅かである。
【0025】
以上のように、市場走行済みで歯底帆布が摩耗し、歯ゴムにクラックが発生しているベルトであっても、有効張力については新品ベルトと大きな違いがなく、ベルトの劣化度の評価や寿命の予測に有効張力の値を用いることは必ずしも有効ではない。これに対して、図5、6に示されるように、最大歯荷重は新品と市場走行済みのベルトとでは、+側あるいは−側において大きくことなり、特に最大歯荷重のピーク値の違いは顕著である。
【0026】
したがって、本実施形態のように、ベルト伝動システムにおいて、走行時の歯荷重を測定し、これに基づいてベルトの劣化の度合いを評価し、あるいは寿命を予測することにより、正確な劣化度の評価、寿命の予測、ベルト交換時期の判別が可能となる。またこれにより、ベルト伝動システムの信頼性を向上することができる。
【0027】
なお、本実施形態では、原動プーリに歯荷重測定用の機構を設けたが、他のプーリに、あるいは複数のプーリにそのような機構を設けることも可能である。また、1つのプーリの複数の歯を歯荷重測定用とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を適用したベルト寿命予知装置全体の構成を示す模式図である。
【図2】本実施形態の原動プーリの正面図である。
【図3】本実施形態の原動プーリの背面図である。
【図4】歯荷重測定用の歯周辺の部分拡大図である。
【図5】各回転速度において計測された最大歯荷重の一例を示すグラフである。
【図6】各回転速度において計測された最大歯荷重の別例を示すグラフである。
【図7】図5のピーク値Pn+、Pu+を測定したときに原動プーリの各歯に掛かる歯荷重分担を示すグラフである。
【図8】原動プーリの荷重分担が図7で示されるときの新品ベルト、市場走行ベルトの有効張力の値を示す。
【図9】図6のピーク値Pn-、Pu-を測定したときに原動プーリの各歯に掛かる歯荷重分担を示すグラフである。
【図10】原動プーリの荷重分担が図9で示されるときの新品ベルト、市場走行ベルトの有効張力の値を示す。
【符号の説明】
【0029】
10 ベルト寿命予知装置
11 原動プーリ
12 従動プーリ
13 歯付ベルト
14 制御装置
15 警告装置
17 歯荷重測定用の歯
18A、18B 歪みゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯付ベルトを用いたベルト伝動システムにおいて前記歯付ベルトの劣化の度合いを評価する装置であって、歯荷重を測定するための歯荷重測定手段と、前記歯荷重に基づいて歯付ベルトの劣化の度合いを評価する評価手段とを備えることを特徴とする歯付ベルト劣化評価装置。
【請求項2】
前記評価手段が、測定された前記歯荷重の最大歯荷重に基づいて前記評価を行うことを特徴とする請求項1に記載の歯付ベルト劣化評価装置。
【請求項3】
前記評価手段が、前記ベルト伝動システムの回転速度に沿った前記最大歯荷重のピーク値に基づいて前記評価を行うことを特徴とする請求項2に記載の歯付ベルト劣化評価装置。
【請求項4】
前記歯荷重測定手段が、前記ベルト伝動システムの原動プーリの歯に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の歯付ベルト劣化評価装置。
【請求項5】
前記歯付ベルト劣化評価装置が、前記評価の結果を出力する出力手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の歯付ベルト劣化評価装置。
【請求項6】
前記評価がベルトの交換時期またはベルトの寿命に関する評価であることを特徴とする請求項1に記載の歯付ベルト劣化評価装置。
【請求項7】
歯付ベルトを用いたベルト伝動システムにおいて前記歯付ベルトの劣化の度合いを評価する方法であって、歯荷重を測定するステップと、前記歯荷重に基づいて歯付ベルトの劣化の度合いを評価するステップとを備えることを特徴とする歯付ベルト劣化評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−304204(P2008−304204A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149116(P2007−149116)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】