説明

歯科技工用鋳造装置

【課題】 これまでに使用経験のない金属材料等を使用した鋳造の際の、作業者にとっての操作性・作業性を改善する。
【解決手段】 作業者が鋳込みに使用する金属の液相温度と金属量、及び鋳型の埋没材の材料の選択情報を操作部42より入力すると、プログラム作成部41は入力された情報に基づいて加熱炉の温度プログラムや鋳込み時の加圧タイミングなどを含む運転プログラムを自動的に作成し、制御部40はこの運転プログラムに従ってヒータ14による加熱温度やガス導入弁50の開閉などを制御する。金属の液相温度は金属メーカーから提供される説明書等に記載されており、金属量は作業者が実際に坩堝に収納する金属の重量であって簡単に求まる。したがって、こうした事項の入力は従来の装置で行われていた各種の温度や時間の設定に比べれば、作業者にとって軽微な負担であり、作業性が大きく改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インレー、クラウン(金属冠)、金属床、インプラント、インプラント上部構造などの歯科補綴物を貴金属又は非貴金属で作製するための歯科技工用鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カリエス(虫歯)、歯周疾患等によって一部又は全部の歯を喪失すると、咀嚼や発音機能の低下、容姿の変化をもたらすのみならず、健康にも悪影響を及ぼす。したがって、早期に治療を行い、欠損した歯を修復することが大切である。この修復の一方法として、欠損した部分を金属の鋳造物で置き換える方法が広く用いられている。歯の形態は個人で相違し、欠損した部位の大きさや形態も一様ではない。そのため、歯科治療では、欠損した部位を補う補綴物を大量生産することはできず、個人毎の症例に応じて異なる形状の補綴物を作製する必要がある。また、正確な咬合を得るには補綴物を高い精度で作製する必要がある。これらの要求を満たした適切な鋳造物を得るために、従来より、歯科技工用の鋳造装置が用いられている。
【0003】
こうした歯科技工用の鋳造装置では、加熱によって貴金属や非貴金属の材料を溶融させ、その溶融金属を補綴物に相当する形状が空洞に形成された鋳型に流し込むわけであるが、材料加熱の方法として、アーク加熱(例えば特許文献1など参照)、高周波誘導加熱(特許文献2など参照)、ヒータ加熱(特許文献3など参照)、などの方法がある。
【0004】
アーク加熱や高周波誘導加熱はヒータ加熱に比べて金属の温度上昇が速く、加熱時間が短くて済むという利点がある。その反面、正確な温度制御が難しいため、作業者(一般には歯科技工士)が坩堝内の金属の溶融状況を目視で観察しながら、充分に溶融したと判断したときに鋳型をセットして鋳込みを行う必要がある。そのため、作業者の経験や技量によって鋳造物の出来に差が生じ易い。また、溶融が不十分な状態で鋳込みを行うと鋳造欠陥や鋳込不足が発生して不良品となり、一方、金属の温度が高くなり過ぎると、鋳造物の表面がざらつく、いわゆる面荒れや肌荒れの状態となって研磨などの後工程に時間を要し作業効率が劣化する。
【0005】
これに対し、ヒータ加熱はアーク加熱や高周波誘導加熱に比べて加熱時間が長くなる傾向にあるものの、正確な温度制御が可能であるため、予め設定した温度を所定時間正確に保持して金属を適切な状態に溶融させ、その状態で鋳込みを行うことができる。したがって、作業者の経験や技量に大きく依存することなく、高い歩留まりで良好な鋳造物を作製することができるという大きな利点がある。
【0006】
上述したようにヒータ加熱を用いた歯科技工用鋳造装置では、予め設定した温度プログラムに従って正確に温度を制御することができる。例えば、非特許文献1に記載された市販の歯科技工用反転式真空加圧鋳造装置では、温度プログラムを含む運転プログラムに関して次の(1)〜(5)なる5つのパラメータの設定が可能となっている。
【0007】
(1)スタート温度(予熱温度)Ts
鋳込み材料である金属の融点よりは低い或る温度に加熱炉内を予熱しておくことで、溶融のための加熱開始後に迅速に加熱炉を溶融温度に到達させることができるから、その溶融加熱開始時の初期温度(予熱温度)としてスタート温度Tsを設定しておく。但し、スタート温度Tsが溶融温度に近過ぎると、金属材料が入っているセラミック製の坩堝が加熱炉内に収納されたときにサーマルショックにより坩堝が割れてしまうおそれがある。そのため、スタート温度Tsは坩堝が割れない温度範囲を考慮して、溶融温度に近くしておくことが望ましい。
【0008】
(2)溶融温度Tm
一般に溶融温度Tmは、鋳込み材料である金属のメーカーが情報提供する液相温度よりも100〜150℃程度高めに設定される。溶融温度Tmを液相温度近くに設定すると、坩堝内の金属が完全に溶融するまでに時間が掛かり、その途中で金属が酸化して鋳造欠陥が発生するおそれがある。逆に溶融温度Tmを液相温度よりも格段に高い温度に設定すると溶融は迅速に行われるが、鋳造後の特性が変化したり鋳型を構成する埋没材と金属とが化学反応を生じて鋳巣の原因となったりすることがある。したがって、溶融温度Tmは使用する金属の液相温度に対して適切に設定することが望ましい。
【0009】
(3)溶融時間tm
加熱炉の温度が溶融温度Tmに到達したとしても、その時点では坩堝内の溶融金属の温度が溶融温度Tmになっているわけではなく、金属が完全に溶融しているとも限らない。そこで、溶融温度Tmを適正な時間、つまり溶融時間tmだけ保持することによって、金属を完全に溶融させる。使用する金属の量が大きければ熱容量も大きいため、溶融時間tmもそれだけ長くする必要がある。
【0010】
(4)鋳造タイミングtp
鋳型温度は溶融金属の温度よりも必ず低くなければならない。そのため、高融点金属ほど鋳型温度との差が大きくなるため、溶融金属が鋳型に落下した後にできるだけ速やかに加圧を行う必要がある。しかしながら、鋳型のスプルー(湯道)に溶融金属が落ちる前に加圧してしまうと鋳造はできないから、適正なタイミングで加圧を行う必要がある。非特許文献1に記載の鋳造装置では、特許文献3に記載のように、坩堝及び鋳型が完全に反転して垂直になった時点を基準の±0とし、それより時間的に遡って加圧を開始する場合にマイナス、それより時間的に遅れて加圧を開始する場合をプラスとして、加圧開始のタイミングを設定可能としている。具体的には、マイナス、プラスのいずれの方向にも100m秒単位で鋳造タイミングtpを設定できるようにしている。
【0011】
(5)冷却時間tc
銀合金等の低融点金属では、加圧による鋳造の後に反転状態の坩堝及び鋳型を元の位置にすぐに戻してしまうと、完全に凝固していない金属が逆流してしまうおそれがある。そこで、これを防止するために、坩堝及び鋳型を反転させた状態のまま加熱を停止して金属が冷却することで完全に固相にするための時間を冷却時間tcとして設定する。
【0012】
上述したように従来の加圧鋳造装置では、スタート温度Ts、溶融温度Tm、溶融時間tm、鋳造タイミングtp、冷却時間tcという5つのパラメータを設定できるようになっており、これらを適切に設定しておくことで、経験に乏しい者が実際の作業を行っても良好な鋳造物を確実に作製することができる。
【0013】
ところが、常時使用している金属材料を用いたルーチン化された或いはマニュアル化された作業である場合には、過去に設定されているパラメータを用いて問題なく鋳造を行うことができるが、これまでに使用したことのない新しい金属材料を使用する場合等、過去のパラメータがそのまま使用できないような状況では、適切なパラメータを求める作業が作業者に要求されることになる。歯科技工士等の作業者は、多くの場合、そうした作業に不慣れであるため、鋳造装置のメーカーの担当者等に問い合わせて適当なアドバイスを受けながら上記のようなパラメータを設定しているのが実状である。
【0014】
【特許文献1】特開2002−96155号公報
【特許文献2】特開平11−285811号公報
【特許文献3】特開2000−176629号公報
【非特許文献1】「KDF SUPER CASCOM」、[online]、株式会社デンケン、[平成17年7月5日検索]、インターネット<URL : http://www.kdf.co.jp/japanese/products/sika/cascom/s_cascom.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
即ち、上記のような従来のヒータ加熱式の歯科技工用鋳造装置は、正確な温度制御が可能であり、そのために良好な鋳造物を高い歩留まりで作製することができるという大きな利点があるものの、そうした温度制御を行うために作業者が入力設定すべきパラメータが分かりにくく、作業性や操作性が充分に高いものとはいえなかった。本発明はこうした課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、作業者が設定すべき項目を作業者にとって分かり易いものとして、作業性や操作性を向上させることができる歯科技工用鋳造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために成された本発明は、鋳込み材料である金属が収容された坩堝を加熱することで該金属を溶融させ、その溶融金属を鋳型に注ぎ込んで冷却・固化させることで歯科補綴物を作製する歯科技工用鋳造装置において、
a)少なくとも鋳込みに使用する前記金属の液相温度と該金属の重量とについての情報を作業者が入力するための入力手段と、
b)該入力手段により入力された前記情報に基づいて、前記坩堝を加熱する際の温度プログラムを含む一連の鋳造動作の制御用の運転プログラムを作成するプログラム作成手段と、
c)前記運転プログラム又はそれを元に作業者により修正された運転プログラムに従って、鋳造動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0017】
本発明に係る歯科技工用鋳造装置の一態様としては、前記坩堝を内部に収容可能な容器、及び該容器内に収容された坩堝の開口上方に湯口が面するように鋳型を配した状態で該鋳型を押さえる蓋体から成るチャンバと、前記容器内に収容された前記坩堝を加熱する加熱手段と、前記坩堝内の金属が溶解した後に前記チャンバを上下反転させて溶融金属を鋳型に注ぎ込むチャンバ駆動手段と、鋳込み時に前記チャンバ内を加圧する加圧手段と、を具備する反転式加圧鋳造装置であって、前記運転プログラムは、前記加熱手段による坩堝加熱時の温度プログラムと、前記チャンバの反転動作に対する前記加圧手段による加圧タイミングとを含むものである構成とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る歯科技工用鋳造装置では、作業者が鋳造作業にあたって使用する金属の液相温度TLとその金属の重量(金属量)Mとを入力手段により入力すると、プログラム作成手段は決められたアルゴリズムに従って、従来の装置で入力すべき必要があった上記のような運転プログラムを決めるために必要なパラメータ、即ち、スタート温度Ts、溶融温度Tm、溶融時間tm、鋳造タイミングtp、冷却時間tcというパラメータを自動的に算出し、これに基づいた運転プログラムを作成する。そして、制御手段は、例えば作業者による運転開始の指示に応じて、上記運転プログラムに従って鋳造を担う各手段、具体的には上記のように加熱手段、チャンバ駆動手段、加圧手段等の各部を制御して鋳造を遂行する。
【0019】
作業者が入力すべき情報について、液相温度TLは金属のメーカーの情報提供により容易に入手可能であり、金属量Mは作製しようとする補綴物のサイズ等に応じて作業者自身が決めるものであるから既知である。したがって、これらを入力することは作業者にとって非常に簡単なことであり、従来のように煩雑なパラメータを入力する場合のように煩雑な計算を行ったり鋳造装置のメーカー担当者にアドバイスを求めたりする必要はない。その結果、本発明に係る歯科技工用鋳造装置によれば、歯科用補綴物の鋳造作業の作業性が大きく向上し、作業に未熟練である者であってもミスを起こしにくく良好な補綴物を作製することができる。
【0020】
また、運転プログラムを作成するためには、最低限、液相温度TLとその金属の重量Mとを入力すればよいが、好ましくは、前記入力手段はさらに鋳型の埋没材の種類に関する情報を入力するものとし、前記プログラム作成手段は、前記金属の液相温度と該金属の重量とについての情報に加えて、埋没材の種類に関する情報に基づいて運転プログラムを作成する構成とするとよい。
【0021】
実際上、埋没材の種類が運転プログラムに与える影響はそれほど大きくないものの、埋没材の種類によって特に高温にしたときの或る種の金属との化学反応が起き易いといった特性の相違があるため、この情報を運転プログラムに反映させることで補綴物の品質を一層良好なものとすることができる。
【0022】
なお、より良好な補綴物の作製のためには上述したように自動作成された運転プログラムを修正したり変更したりするほうがよい場合もあるから、自動作成された運転プログラムを適宜修正・変更できる機能を設けることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る歯科技工用鋳造装置の一実施例である反転式真空加圧鋳造装置について図面を参照して説明する。
図1は本実施例の加圧鋳造装置の内部の要部の概略構成図であり、チャンバ10の内部について縦断面図で示している。
【0024】
チャンバ10は金属製であり容器部10aと蓋部10bとから成り、両者は図示しないヒンジにより連結されている。容器部10aと蓋部10bとの密着面にはシール材としてOリング11が周設されており、両者を密着させて図示しないロック機構によりロックした状態ではチャンバ10内部は気密に保たれる。容器部10aの内部には、断熱材から成る支持基体12が配設されており、その中央に略円柱形状に窪んで形成された凹部13の内周面にはヒータ14が周設されている。ヒータ14は、例えば白金合金等から成る加熱線ヒータや炭化珪素等から成るセラミックヒータなどである。
【0025】
凹部13には有底円筒形状のセラミック製の坩堝レトルト15が嵌挿され、その内側に坩堝16が着脱自在に遊嵌される。坩堝レトルト15の上端縁にはフランジが形成され、そのフランジを押圧するように耐火材から成る上部支持体17が設けられている。この上部支持体17にはストッパ片18が内周側に突出及び退避自在に設けられている。チャンバ10の倒立時にはこのストッパ片18が内方に突出し、坩堝16の開放端縁部(図1では上縁部)がストッパ片18に当接することにより位置が規制される。凹部13の底面と坩堝レトルト15の下底面との間の空隙には支持基体12を貫通して温度検知用の熱電対19が設けられ、これにより坩堝16の温度が検知可能となっている。
【0026】
チャンバ10の蓋部10b天面内側にはコイルばね20が設けられ、円錐形状のクルーシブル31を下向きにした状態で装着された鋳型30の上面をコイルばね20でもって押圧することにより上部支持体17の上面と鋳型30の下面とが密着するようにしている。図1には現れていないが、上部支持体17は鋳型30に全周で接しているわけではなく、複数個所で途切れてクルーシブル31とチャンバ10内空間とを連通する流路が形成されている。鋳型30はその側周全体が円筒形状の金属製リング32で覆われており、その内部にはクルーシブル31の頂点に開口した湯口に連通する湯道33と空洞部34とが形成されている。
【0027】
チャンバ10の容器部10aには水平に延伸する回転軸21が固着され、モータ22の回転駆動力がモータプーリ23、タイミングベルト24、プーリ25を介して回転軸21に伝達される。これにより、モータ22が作動すると、回転軸21を中心にチャンバ10が回動し得る。また、回転軸21の内部は中空に形成されており、チャンバ10の内部と図1には記載していない真空ポンプやガス導入弁とを連通する給排気路26となっている。
【0028】
図2は本実施例の加圧鋳造装置の電気系構成図である。制御部40はCPU、RAM、ROMなどを含むマイクロコンピュータなどを中心に構成されている。この制御部40には、複数の操作キーを含む操作部42と数値表示器を含む表示部43とが接続され、作業者は自分が入力した数値等を表示部43により確認しながら操作部42の操作キーにより入力を行うことができる。また、制御部40にはチャンバ10の蓋部10bの開閉を検知する蓋開閉スイッチ45、チャンバ10内の圧力を検知する圧力センサ46、熱電対19により坩堝16近傍の温度を検知する温度センサ47、チャンバ10の回動時にその回転位置を検知する回転位置センサ48からそれぞれ所定の検知信号が入力される。さらに、制御部40は鋳込みを行うために、負荷駆動部44を介して真空ポンプ49、ガス導入弁50、モータ22、ヒータ14の動作を制御する。ここで、真空ポンプ49は給排気路26を介してチャンバ10内部の空気を外部へ排出するためのものであり、ガス導入弁50は逆に給排気路26を介してチャンバ10内部へ空気又はアルゴンなどの不活性ガスを導入するために設けられている。
【0029】
本実施例の鋳造装置に特徴的な構成として、制御部40はプログラム作成部41を機能として備える。次に、このプログラム作成部41について詳述する。この鋳造装置では、従来、操作部で設定する必要があった5つのパラメータに代えて、次の3つのパラメータを入力設定するようになっている。
【0030】
(A)使用する金属材料の液相温度TL
いずれの金属材料を使用するのかは作業者が選択するわけであり、その金属の液相温度はその金属のメーカーが提供する説明書等に記載されている。したがって、作業者にとって液相温度TLは簡単に知ることができるパラメータである。なお、ここでは液相温度TLは1℃単位で入力できるようにしている。
(B)使用する金属材料の重量(金属量)M
作業者はこれから鋳造しようとする補綴物にどの程度の重量の金属が必要であるのかは容易に求めることができる。例えば、鋳型に入っているワックスの重量を測定して、その測定値から換算することもできる。貴金属を鋳造する場合には必要以上の金属を鋳造に使用するとコスト的に無駄が大きいため、作業者は特に注意してあまり必要以上の金属を使用することがないように配慮するのが普通である。なお、ここでは金属量は1g単位で入力できるようにしている。
(C)鋳型に使用する埋没材の種類
一般的に金属材料の液相温度TLによって石膏系又はリン酸塩系のいずれかの埋没材が使用される。また、金属床を鋳造する場合には金属床用の埋没材が使用される。したがって、ここでは選択肢は石膏系、リン酸塩系、又は金属床用の3であるが、いずれにしてもこれらは作業者が選択するものである。
【0031】
以上の3つのパラメータはいずれも作業者がこれから行おうとする鋳造作業に関して容易に知り得るものであるから、上述したような運転プログラムに関する温度や時間などの5つのパラメータとは異なり、作業者にとっては殆ど負担となるものではない。
【0032】
操作部42により入力設定された液相温度TLの数値、重量Mの数値、及び埋没材の選択に関する情報(上記3つのうちのいずれか)は制御部40のプログラム作成部41に与えられ、ここで次のような演算処理により運転プログラムに必要な5つのパラメータが算出される。
【0033】
(1)スタート温度Ts
液相温度TL<1200℃ : Ts=液相温度TL−100[℃]
液相温度TL≧1200℃ : Ts=1100[℃]
(2)溶融温度Tm
(a)埋没材が石膏系である場合
液相温度TL<1000℃ : Tm=TL×1.08
1000℃≦液相温度TL<1100℃ : Tm=TL×1.09
液相温度TL≧1100℃ : Tm=TL×1.10
(b)埋没材がリン酸塩系である場合
液相温度TL<1000℃ : Tm=TL×1.08
1000℃≦液相温度TL<1100℃ : Tm=TL×1.09
1100℃≦液相温度TL<1200℃ : Tm=TL×1.10
液相温度TL≧1200℃ : Tm=TL×1.12
(c)埋没材が金属床用である場合
液相温度TLに関係なく Tm=TL×1.12
但し、この計算式によるTmが1500℃を超える場合には、Tm=1500℃とする。
なお、この溶融温度Tmの計算でTmが小数点になる場合には四捨五入により整数化する。
【0034】
(3)溶融時間tm
金属量M<10g : tm=3分
11g≦金属量M<20g : tm=4分
21g≦金属量M<30g : tm=5分
31g≦金属量M<40g : tm=6分
41g≦金属量M<50g : tm=7分
51g≦金属量M<60g : tm=8分
61g≦金属量M<70g : tm=9分
71g≦金属量M<80g : tm=10分
81g≦金属量M<90g : tm=11分
91g≦金属量M<100g : tm=12分
【0035】
(4)鋳造タイミングtp
(a)埋没材が石膏系である場合
液相温度TL<1050℃ : tp=+0.3秒
液相温度TL≧1050℃ : tp=+0.2秒
(b)埋没材がリン酸塩系である場合
液相温度TLに関係なく tp=+0.2秒
(c)埋没材が金属床用である場合
液相温度TLに関係なく tp=−0.3秒
(5)冷却時間tc
液相温度TL<800℃ : tc=金属量M1g当たり18秒
800℃≦液相温度TL<1200℃ : tc=金属量M1g当たり6秒
液相温度TL≧1200℃ : tc=金属量M1g当たり3秒
但し、tcの計算では上記式で計算した後に二(七)捨三(八)入で5秒単位とする。
【0036】
プログラム作成処理部41では上記演算処理を行うことによって、入力設定された液相温度TL、金属量M、及び埋没材の選択情報という3つの情報に基づいて、スタート温度Ts、溶融温度Tm、溶融時間tm、鋳造タイミングtp、冷却時間tcという5つのパラメータを算出し、それにより運転プログラムを作成する。但し、上記5つのパラメータを導出する際の式等は一例であり、例えば温度の大小関係等の傾向としては同様であるもの、式や導出方法自体は上記記載に限るものではない。
【0037】
図3はこれにより作成される運転プログラムの一例を、鋳造作業時の時間経過に伴う温度変化(温度プログラム)と実行動作として示す模式図である。制御部40にはこのように自動作成された運転プログラムがデフォルトとして設定されるが、作業者は必要に応じて、操作部42からの操作によりパラメータを適宜に修正・変更して運転プログラムを修正・変更することもできる。図3を参照して、この鋳造装置による鋳造動作について説明する。
【0038】
上述したように運転プログラムが確定すると、制御部40は負荷駆動部44を介してヒータ14を作動させ、温度センサ47による検知温度をスタート温度Tsにまで上昇させてその状態を維持する。その状態において、作業者は坩堝16内に金属のインゴットを収納し、操作部42にて溶融開始を指示する。すると、制御部40からの指示によりヒータ14には大きな加熱電流が供給され、温度センサ47による検知温度が溶融温度Tmに達するまで昇温され、それからその溶融温度Tm近傍に維持される。このとき坩堝16は金属が充分に溶解する温度になっているため、坩堝16内で金属インゴットが溶解して液化する。
【0039】
溶融温度Tmに達してからの経過時間が溶融時間tmになると、制御部40はブザーや表示による報知によって溶融金属の準備が整ったことを知らせる。これに応じて作業者は、本装置とは別の電気炉などにおいて例えば600〜900℃程度の温度に加熱しておいた鋳型30を、図1に示すように坩堝16の上方に上下逆さまにセットし、蓋部10bを閉鎖してチャンバ10を密閉状態とする。この蓋部10bの閉鎖は蓋開閉スイッチ45により制御部40へ知らされる。鋳型30はコイルばね20により下方に強く付勢されており、図1に示すように、鋳型30の湯口と坩堝16の開口面とは上下に対向した状態となっている。
【0040】
作業者が操作部42により鋳造開始を指示すると、制御部40の指示によりガス導入弁50が閉鎖されると共に真空ポンプ49が作動される。これにより、チャンバ10内部の空気は給排気路26を介して外部へ排出され、チャンバ10内の真空度は高まる。この真空吸引期間中も坩堝16の温度は先の溶融温度Tmに維持される。圧力センサ46によりチャンバ10内の圧力はモニタされ、この圧力が所定値に達すると、制御部40の指示によりモータ22は駆動され、チャンバ10は正立位置から正転方向に回転される。坩堝16内の溶融金属の流動性が高い場合には、チャンバ10が完全に反転する前に傾斜した坩堝16から流れ出した溶融金属が鋳型30のクルーシブル31の中に注がれ始める。そして、倒立位置よりもtpだけ早い(tpの設定によっては遅い)所定の時点で、制御部40は真空ポンプ49の動作を停止すると共にガス導入弁50を開放させる。すると、給排気路26を介してチャンバ10内部へと圧搾空気が急速に流入し、坩堝16の開口端と鋳型30との間隙を介してクルーシブル31内側に空気が流れ込む。これにより、坩堝16から流れ出た溶融金属がクルーシブル31の中に流れ込んで湯口を完全に閉塞した直後に、その上面に空気による圧力が加わり、溶融金属はスムーズに空洞部34に流入する。
【0041】
ガス導入の直前までチャンバ10内部は真空雰囲気に維持されるため、溶融金属で閉塞された空洞部34内部は真空状態となっており、上面側の空気圧との差圧により溶融金属は湯道33を通って空洞部34へと押し込まれる。この間にもチャンバ10の反転は進み、チャンバ10が倒立位置に達すると、回転位置センサ48からその旨の検知信号を受けた制御部40はモータ22を停止される。それから所定時間経過後に制御部40はヒータ14への通電を停止する。ヒータ14への通電が停止されると、チャンバ10内部は自然冷却され、鋳型30の空洞部34内に充填された溶融金属は固化し始める。
【0042】
それから、冷却時間tcが経過すると、制御部40の指示によりモータ22は再び駆動され、先の正転方向とは逆方向にチャンバ10を倒立位置から正立位置まで回転させる。金属の種類と量に応じた適切な冷却時間tcが設定されているため、チャンバ10の再回転の際には鋳込まれた金属は固化していて逆流することがない。チャンバ10が正立位置に達したことが回転位置センサ48により検知されるとモータ22は停止され、鋳造作業が終了する。その後、作業者はチャンバ10の蓋部10bを開けて鋳型30を取り出し、鋳型30が冷えるのを待って金属製リング32から鋳型30を引き抜き、埋没材を粉砕して鋳込まれた金属を取り出す。
【0043】
以上のように、本実施例による鋳造装置では、作業者が不慣れで面倒な入力操作を行わなくても、選択した金属材料や金属量等に応じた適切な鋳造が可能であり、良好な補綴物を作製することができる。
【0044】
なお、上記実施例は本発明の一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜修正や変更、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施例である鋳造装置の内部の要部の概略構成図。
【図2】本実施例の加圧鋳造装置の電気系構成図。
【図3】本実施例の加圧鋳造装置により作成される運転プログラムの一例を、鋳造作業時の時間経過に伴う温度変化(温度プログラム)と実行動作として示す模式図。
【符号の説明】
【0046】
10…チャンバ
10a…容器部
10b…蓋部
11…Oリング
12…支持基体
13…凹部
14…ヒータ
15…坩堝レトルト
16…坩堝
17…上部支持体
18…ストッパ片
19…熱電対
20…コイルばね
21…回転軸
22…モータ
23…モータプーリ
24…タイミングベルト
25…プーリ
26…給排気路
30…鋳型
31…クルーシブル
32…金属製リング
33…湯道
34…空洞部
40…制御部
41…プログラム作成部
42…操作部
43…表示部
44…負荷駆動部
45…蓋開閉スイッチ
46…圧力センサ
47…温度センサ
48…回転位置センサ
49…真空ポンプ
50…ガス導入弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳込み材料である金属が収容された坩堝を加熱することで該金属を溶融させ、その溶融金属を鋳型に注ぎ込んで冷却・固化させることで歯科補綴物を作製する歯科技工用鋳造装置において、
a)少なくとも鋳込みに使用する前記金属の液相温度と該金属の重量とについての情報を作業者が入力するための入力手段と、
b)該入力手段により入力された前記情報に基づいて、前記坩堝を加熱する際の温度プログラムを含む一連の鋳造動作の制御用の運転プログラムを作成するプログラム作成手段と、
c)前記運転プログラム又はそれを元に作業者により修正された運転プログラムに従って、鋳造動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする歯科技工用鋳造装置。
【請求項2】
前記坩堝を内部に収容可能な容器、及び該容器内に収容された坩堝の開口上方に湯口が面するように鋳型を配した状態で該鋳型を押さえる蓋体から成るチャンバと、前記容器内に収容された前記坩堝を加熱する加熱手段と、前記坩堝内の金属が溶解した後に前記チャンバを上下反転させて溶融金属を鋳型に注ぎ込むチャンバ駆動手段と、鋳込み時に前記チャンバ内を加圧する加圧手段と、を具備する反転式加圧鋳造装置であって、
前記運転プログラムは、前記加熱手段による坩堝加熱時の温度プログラムと、前記チャンバの反転動作に対する前記加圧手段による加圧タイミングとを含むものであることを特徴とする請求項1に記載の歯科技工用鋳造装置。
【請求項3】
前記入力手段はさらに鋳型の埋没材の種類に関する情報を入力するものであり、前記プログラム作成手段は、前記金属の液相温度と該金属の重量とについての情報に加えて、埋没材の種類に関する情報に基づいて運転プログラムを作成することを特徴とする請求項1又は2に記載の歯科技工用鋳造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−37676(P2007−37676A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223716(P2005−223716)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(390038999)株式会社デンケン (3)
【Fターム(参考)】