説明

歯車伝動装置

【課題】歯車間の摩擦係数をより適切に調整することができる歯車伝動装置を提供する。
【解決手段】歯車伝動装置1は、回転軸21の軸方向に複数の異なる表面粗さの歯面22a〜22cを有する駆動側歯車2と、駆動側歯車2と噛合された被駆動歯車3と、駆動側歯車2及び被駆動歯車3の回転数が増大するのに伴い、被駆動歯車3と噛み合う位置の駆動側歯車2の歯面の表面粗さが大きくなる方向へと、駆動側歯車2及び被駆動歯車3の少なくとも一方を軸方向に移動し、駆動側歯車2と被駆動歯車3との噛合い位置を変更する変更機構4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに噛み合う一対の歯車において、一方の歯車を軸方向で移動させることで他方の歯車の噛み合い位置を変更し、両歯車間の変速比や作動特性を変化させることができる歯車伝動装置が知られている。例えば特許文献1には、許容伝達トルク、伝達効率または静粛性のいずれかを優先する複数の歯面を有する歯車と、歯車間の伝達トルクの大きさに応じて、この歯車との噛み合い位置を変位可能な歯車とを備える構成について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−242809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯車伝動装置においては、動力損失を低減すべく、運転状態が変化しても歯車間の摩擦係数を低く維持できることが望まれている。
【0005】
一般に、「摩擦係数」は、歯車間の接触状態により決まるパラメータであることが知られている。周知のストライベック曲線によれば、潤滑油により歯車の噛み合う歯面間に形成される油膜の厚さが、噛み合う歯面の表面粗さに比べてかなり大きくなる状態(流体潤滑領域)が進行するほど、潤滑油の粘性抵抗の影響によって、摩擦係数は増大する。また、油膜厚さが表面粗さに比べてかなり小さくなる状態(境界潤滑領域)が進行するほど、歯面同士の接触がより頻繁に発生するようになり、摩擦係数は増大する。さらに、流体潤滑領域または境界潤滑領域からこれらの領域の中間的な状態(混合潤滑領域)に遷移して行くにつれて摩擦係数は減少し、混合潤滑領域において摩擦係数は極小値をとる。
【0006】
このように、歯車間の摩擦係数は、歯車間に形成される油膜厚さの影響を受けて変動するため、従来の歯車伝動装置では、運転状態の変化に応じて歯車間の摩擦係数を低く維持するよう調整できない虞がある。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、歯車間の摩擦係数をより適切に調整することができる歯車伝動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一対の歯車の間で動力を伝達する歯車伝動装置であって、軸方向に複数の異なる表面粗さの歯面を有する第一の歯車と、前記第一の歯車と噛合された第二の歯車と、前記第一及び第二の歯車の回転数が増大するのに伴い、前記第二の歯車と噛み合う位置の前記第一の歯車の歯面の表面粗さが大きくなる方向へと、前記第一の歯車及び前記第二の歯車の少なくとも一方を軸方向に移動し、前記第一の歯車と前記第二の歯車との噛合い位置を変更する変更機構と、を備えることを特徴とする。
【0009】
前記変更機構は、前記第一の歯車及び前記第二の歯車のうち前記軸方向に移動する歯車の回転軸まわりに設けられ該回転軸と共に回転する第一部材と、前記第一部材が設けられた前記歯車の回転軸において、該歯車と前記第一部材との間に、前記回転軸の軸方向に移動自在に設けられ、前記歯車と当接可能に設けられた第二部材と、前記第一部材と前記第二部材との間に、前記回転軸の径方向に移動自在に配置された第三部材と、前記第一部材及び前記第二部材の少なくとも一方に設けられ、前記第三部材が前記回転軸の回転に伴って発生した遠心力によって前記回転軸の半径方向外側に移動するのに伴い、前記第二部材を前記歯車と圧着させ、前記歯車を軸方向に移動させる方向へ、前記第二部材を押圧するカム面と、前記第三部材及び前記カム面による押圧によって前記第二部材が前記歯車を軸方向に移動すると、前記歯車の移動方向と逆方向に付勢力を加える弾性部材と、を備えることが好ましい。
【0010】
前記弾性部材は、前記歯車の内周に固設され、前記歯車の軸方向への移動に応じて弾性変形することが好ましい。
【0011】
同様に、前記弾性部材は、前記歯車の軸方向において、前記歯車を挟んで前記第二部材と反対側に配置され、前記歯車の軸方向への移動に応じて弾性変形することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る歯車伝動装置は、変更機構により、回転数が増大するのに伴い、第二の歯車と噛み合う位置の第一の歯車の歯面の表面粗さが大きくなる方向に、第一の歯車及び第二の歯車の少なくとも一方が軸方向に移動される。これにより、第一及び第二の歯車の噛み合い位置において、噛み合う歯面の表面粗さを大きくして油膜厚さの大きさに接近させることができるため、歯面間の接触が適度に増え、ストライベック曲線における混合潤滑領域に遷移するようになり、この結果、歯面間の摩擦係数が低減する。このように、本発明に係る歯車伝動装置は、運転状態(回転数)の変化に応じて、噛み合い位置の歯面の表面粗さを適切なものに変更して、摩擦係数を低く維持することが可能となり、歯車間の摩擦係数をより適切に調整することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る歯車伝動装置の概略図である。
【図2】図2は、図1の歯車伝動装置において、被駆動歯車が初期位置から移動した状態を示す模式図である。
【図3】図3は、本実施形態の変形例に係る歯車伝動装置の構成を示す概略図である。
【図4】図4は、図3の歯車伝動装置において、被駆動歯車が初期位置から移動した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる歯車伝動装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る歯車伝動装置1の概略図であり、図2は、図1の歯車伝動装置1において、被駆動歯車3が初期位置から移動した状態を示す模式図である。
【0016】
図1に示すように、歯車伝動装置1は、一対の歯車の間で動力を伝達する装置であって、駆動側歯車(第一の歯車)2と、駆動側歯車2と噛合する被駆動歯車(第二の歯車)3とを備えて構成される。図示しない駆動源により駆動側歯車2の軸に駆動力が付与されると、駆動側歯車2は駆動力の向きに回転し、噛み合い部を経て被駆動歯車3に駆動力が伝達され、被駆動歯車3は駆動側歯車2と連動して回転する。このような動力伝動装置1は、例えば自動車等の車両における動力伝達装置などに用いられる。
【0017】
特に本実施形態では、歯車伝動装置1は、駆動側歯車2及び被駆動歯車3の噛み合い部において、歯車の運転状態(回転数)に応じて駆動側歯車2の歯面性状(表面粗さ)を調整するよう構成されている。
【0018】
上述のとおり、周知のストライベック曲線によれば、歯車間の「摩擦係数」は、歯車間に形成される油膜厚さの影響を受けて変動し、油膜厚さと歯面の表面粗さとが略同一となる接触状態である混合潤滑領域において極小値をとることが知られている。
【0019】
「油膜厚さ」として一般に知られている最小油膜厚さや中央油膜厚さは、歯車の回転数や歯車間の伝達トルクなど歯車の運転状態により決定され、特に回転数の影響を大きく受けて変動する。より詳細には、歯車間の油膜厚さは、歯車の回転数の増加に伴って増大され、また、歯車の回転数の低下に伴って減少される。
【0020】
したがって、歯車伝動装置1において、動力損失を低減すべく、運転状態が変化しても歯車間の摩擦係数を低く維持するためには、歯車の回転数が変化して歯車間に形成される油膜厚さが変動するのに応じて、噛み合う歯面の表面粗さをこの変動した油膜厚さに接近させ略同一となるよう調整し、歯車の接触状態を混合潤滑領域に遷移させることが好ましい。
【0021】
そこで、本実施形態の歯車伝動装置1では、歯車の回転数が増加するときに、油膜厚さが増大するのに合わせて歯車の噛み合う歯面の表面粗さが大きくなるよう、また、歯車の回転数が減少するときに、油膜厚さが減少するのに合わせて歯面の表面粗さが小さくなるように、歯車の噛み合い位置において、噛み合う歯面の表面粗さが油膜厚さに接近するよう変更される。これにより、歯車伝動装置1は、歯車同士の接触状態を好適に調整して、ストライベック曲線における混合潤滑領域に遷移させ、歯車間の摩擦係数を低く維持することができるよう構成されるものである。
【0022】
なお、本実施形態において、「油膜厚さ」という用語は、周知の「最小油膜厚さ」や「中央油膜厚さ」などのパラメータを意味するものであり、また、「表面粗さ」という用語は、周知の「二乗平均平方根粗さ(RMS)」、「算術平均粗さ(Ra)」、「最大高さ粗さ(Rz)」などのパラメータを意味するものである。
【0023】
図1に戻ると、駆動側歯車2は、その周面において、回転軸21方向に複数の異なる表面粗さの歯面22を有する。図1では3種類の歯面22a〜22cが例示されているが、歯面22の数はこれに限定されない。駆動側歯車2では、一端から他端へ段階的に表面粗さが大きく/小さくなるよう歯面が加工されている。図1の例では、右端の歯面22aが最小の表面粗さの歯面であり、左端の歯面22cが最大の表面粗さの歯面である。
【0024】
被駆動歯車3は、駆動側歯車2より歯幅が小さく、その周面に単一の歯面性状(表面粗さ)の歯面を備え、回転軸31の方向に移動可能に構成されている。被駆動歯車3は、軸方向に移動することで、駆動側歯車2の複数の表面粗さの歯面22a〜22cのいずれか1つと噛合することができる。なお、被駆動歯車3は、初期状態(静止状態または所定の回転数以下の状態)では、駆動側歯車2の複数の歯面22a〜22cのうち、表面粗さが最小の歯面22a(図1では右端)と噛合するように配置されている。
【0025】
ここで、初期状態において被駆動歯車3が噛合する駆動側歯車2の歯面22aの表面粗さは、初期状態の運転条件(たとえば所定の回転数未満)の下で歯車間の潤滑状態が混合潤滑領域となり、ストライベック曲線において摩擦係数が極小値の近傍をとりうるように、設定されることが好ましい。具体的には、歯面22aの表面粗さは、初期状態の運転条件(たとえば所定の回転数未満)において歯車間に形成されうる油膜厚さと略同一となるよう設定されることが好ましい。
【0026】
被駆動歯車3の回転軸31には、変更機構4が配設されている。変更機構4は、被駆動歯車3及び駆動側歯車2の回転数の変化に応じて、被駆動歯車3を回転軸31方向に移動させ、駆動側歯車2と被駆動歯車3との噛み合い位置を変更することができるよう構成されている。より詳細には、変更機構4は、被駆動歯車3及び駆動側歯車2の回転数が増大するのに伴い、被駆動歯車3と噛み合う位置の駆動側歯車2の歯面の表面粗さが大きくなる方向へと、被駆動歯車3を回転軸31方向に移動する。図1では、変更機構4は、回転数増大に応じて左方向へ被駆動歯車3を移動させる。
【0027】
変更機構4は、反歯車側部材(第一部材)41、歯車側部材(第二部材)42、ボール(第三部材)43、及び弾性部材44を備えて構成されている。
【0028】
反歯車側部材41は、軸方向に移動する被駆動歯車3の回転軸31まわりに設けられており、回転軸31と共に一体回転可能である。反歯車側部材41は、図1に示すように、歯車側部材42を挟んで被駆動歯車3と反対側の位置において回転軸31に圧入され固設されている。
【0029】
歯車側部材42は、回転軸31において、被駆動歯車3と反歯車側部材41との間に、回転軸31の軸方向に移動自在に設けられ、被駆動歯車3と当接可能に設けられている。より詳細には、歯車側部材42は、回転軸31に固設されたカラー部材47に複数個所で連結されている。このカラー部材47との連結部分は回転軸31の軸方向に延在しており、歯車側部材42は、カラー部材47の連結部分上を摺動して、回転軸31の軸方向に沿って移動自在である。また、歯車側部材42の被駆動歯車3側の端面42aは、被駆動歯車3と対向し、反歯車側部材41の方向から外力を受けることで被駆動歯車3と当接可能である。
【0030】
また、歯車側部材42の反歯車側部材41側の端面42bは、反歯車側部材41の一端面41aと対向している。
【0031】
互いに対向する反歯車側部材41の端面41aと歯車側部材42の端面42bには、それぞれ凹形状の曲面で形成された複数のカム面45,46が設けられている。カム面45,46は、回転軸31の径方向の等距離の位置に、回転軸31の周方向に等間隔で、それぞれ同数の複数個が形成されている。そして、反歯車側部材41のカム面45と、歯車側部材42のカム面46とは、それぞれの1つずつが対となって、カム面45とカム面46との間に空間48を区画形成している。
【0032】
この空間48のそれぞれには、略球状のボール43が配置されている。すなわち、反歯車側部材41及び歯車側部材42の間には、カム面45,46によって形成される空間48と同数の複数のボール43が配置されている。複数のボール43は、回転軸31の周方向に変位不能である一方、径方向に移動自在に配置されている。
【0033】
カム面45,46は、回転軸31の回転に伴って発生した遠心力によってボール43が回転軸31の径方向外側に移動するのに伴い、歯車側部材42を被駆動歯車3と圧着させ被駆動歯車3を軸方向に移動させる方向へ、歯車側部材42を押圧して案内するように形成されている。具体的には、カム面45,46は、図1に示すように、回転軸31の径方向に沿って設けられ、回転軸31の径方向外側に向かう程、対向する反歯車側部材41または歯車側部材42に近づくように形成されている。そして、カム面45,46により形成された空間48が、回転軸31の径方向外側に向けて先細りとなり、歯車側部材42と反歯車側部材41とが当接している状態(図1)では、径方向外側の最縁端部において、回転軸31方向のクリアランス(隙間)の幅がボール43の直径より小さくなっている。また、ボール43が回転軸31の径方向で最も内側に位置するとき(図1)には、回転軸31方向の幅がボール43の直径と同等または直径より大きく、ボール43が歯車側部材42を押圧しないよう形成されている。
【0034】
被駆動歯車3の内周には弾性部材44が配置されている。この弾性部材44は、ボール43及びカム面45,46による押圧によって歯車側部材42が被駆動歯車3を軸方向に移動させると、被駆動歯車3から受けるせん断力によって弾性変形し、被駆動歯車3の移動方向と逆方向に付勢力を加えるよう構成される。また弾性部材44は、被駆動歯車3の内周に固設され被駆動歯車3と一体的な構造とすることで、変更機構4全体の軸方向の省スペース化を図ることができるよう構成されている。弾性部材44は、被駆動歯車3と比較してバネ定数が大きくなるように、そのような特性をもつ材料(好ましくは金属材料)を用いて形成してもよいし、または、被駆動歯車3と同じ材料で形成し、切削加工などの加工処理を施してバネ定数を変更してもよい。
【0035】
次に、本実施形態の歯車伝動装置1による歯車移動機能について説明する。歯車伝動装置1は、回転数に比例して、回転による遠心力で推力を発生させ、歯車を移動させる。
【0036】
まず、歯車の回転数が所定未満の場合、図1に示すように、ボール43は、反歯車側部材41のカム面45と歯車側部材42のカム面46によって挟持され、空間48において回転軸31の径方向に関し最も内側に位置している。このとき、歯車側部材42は、ボール43から押圧力を受けず、被駆動歯車3に圧着されていない。また、被駆動歯車3は、駆動側歯車2の複数の歯面22a〜22cのうち、表面粗さが最も小さい歯面22aと噛み合っている。この歯面22aの表面粗さは、このときの運転状態(歯車の回転数が所定未満)における油膜形成能力と照らし合わせて、ストライベック曲線において歯車の接触状態が混合潤滑領域となり、摩擦係数が極小値近傍となるように設定することが好ましい。
【0037】
駆動側歯車2及び被駆動歯車3の回転数が増し、所定回転数以上となると、図2に示すように、ボール43が遠心力を受けて回転軸31の径方向外向きに移動を始める。
【0038】
このとき、ボール43は反歯車側部材41のカム面45と歯車側部材42のカム面46に沿って移動する。カム面45,46によって形成された空間48の軸方向の幅は、回転軸31の径方向外側ほどボール43の径に対して小さくなっていくので、ボール43が径方向外側に進むほど、ボール43はカム面45,46を押しのけてクリアランスを広げながら径方向外側へ移動して行き、カム面45,46がボール43から受ける押圧力が増加する。このため、歯車側部材42は、カム面46から受けるボール43の押圧力によって、ボール43が径方向外側に向かうほど、回転軸31の軸方向に関して被駆動歯車3側に押し込まれる。この結果、歯車側部材42の端面42aと被駆動歯車3とが圧着され、被駆動歯車3が軸方向(図1、2では左側)に移動される。
【0039】
被駆動歯車3が軸方向に移動すると、被駆動歯車3の内周に設けられた弾性部材44は、図2に示すように、被駆動歯車3からせん断力を受けて弾性変形し、被駆動歯車3の移動方向と反対側(すなわち被駆動歯車3の初期位置に戻る方向)に付勢力を発生させる。
【0040】
そして、被駆動歯車3は、歯車側部材42による押圧力と、弾性部材44による付勢力とが釣り合う位置に、駆動側歯車2との噛み合い位置を移動する。このように、歯車伝動装置1では、回転数の増加に応じて、被駆動歯車3と噛み合う位置の駆動側歯車2の歯面の表面粗さが大きくなるように、被駆動歯車3の駆動側歯車2との噛み合い位置を変更させることができる。図2に示す例では、回転数が最大限度付近まで増大し、駆動側歯車2の最も表面粗さが大きい歯面22cの位置(図1,2では駆動側歯車2左端)まで噛み合い位置が移動した状態を示している。
【0041】
さらに、図2に示す状態から、回転数が低くなると、ボール43が受ける遠心力が小さくなるため、ボール43により歯車側部材42へ付加される押圧力が減少する。このため、弾性部材44による付勢力によって被駆動歯車3の位置が反対方向へ戻される。すなわち、回転数の減少に応じて、被駆動歯車3と噛み合う位置の駆動側歯車2の歯面の表面粗さが小さくなるように、被駆動歯車3の駆動側歯車2との噛み合い位置が変更される。
【0042】
そして、回転数が所定以下になると、ボール43が歯車側部材42に付加する押圧力がなくなるため、図1に示すように、弾性部材44による付勢力によって被駆動歯車3及び歯車側部材42が初期位置に戻され、ボール43も空間48内において径方向で最も内側の位置に戻され、駆動側歯車2は最小の表面粗さの歯面22aで被駆動歯車3と噛み合うようになる。
【0043】
なお、回転数の変化に応じて被駆動歯車3が軸方向に移動される量は、ボール43の径、カム面45,46やクリアランスの形状、弾性部材44のバネ定数などを適宜変更することで所望の値を実現することができる。
【0044】
次に、図3,4を参照して本実施形態の変形例について説明する。図3は、本実施形態の変形例に係る歯車伝動装置1′の構成を示す概略図であり、図4は、図3の歯車伝動装置1′において、被駆動歯車3が初期位置から移動した状態を示す模式図である。図3,4に示す歯車伝動装置1′は、変更機構4′の弾性部材44′が、被駆動歯車3の回転軸31の軸方向において、被駆動歯車3を挟んで歯車側部材42と反対側に配置される点において、上述の歯車伝動装置1から変更されている。
【0045】
弾性部材44′は、図3に示すように、回転軸31上のつば部49によって軸方向の移動を拘束されている。そして、図4に示すように、ボール43及びカム面45,46による誘導によって歯車側部材42が被駆動歯車3を軸方向に移動させると、被駆動歯車3から受ける押圧力によって弾性変形し、被駆動歯車3の移動方向と逆方向に付勢力を加えるよう構成される。
【0046】
弾性部材44′は、被駆動歯車3と比較してバネ定数が大きくなるように、そのような特性をもつ材料(ゴム、ばね、金属材料など)を用いて形成してもよいし、または、被駆動歯車3と同じ材料で形成し、切削加工などの加工処理を施してバネ定数を変更してもよい。
【0047】
次に、本実施形態の歯車伝動装置1,1′の作用効果について説明する。
【0048】
一対の歯車が噛合して回転している状況において、歯車の回転数が増加すると、回転数に応じて歯車間に形成される油膜厚さが増大する。そして、回転数増加により、噛み合う歯面の表面粗さに対して油膜厚さが大きくなると、ストライベック曲線における流体潤滑領域に遷移し、歯面同士が直接接触しない状態となる。この場合、潤滑油の粘性の影響などによって歯面間の摩擦係数は増大する。
【0049】
同様に、回転数減少により、歯車間に形成される油膜厚さが減少し、噛み合う歯面の表面粗さに対して油膜厚さが小さくなると、ストライベック曲線における境界潤滑領域に遷移し、歯面間の直接接触が増えるため、歯面間の摩擦係数は増大する。
【0050】
本実施形態の歯車伝動装置1、1′では、被駆動歯車3の回転数が増大すると、変更機構4が、被駆動歯車3と噛み合う位置の駆動側歯車2の歯面22の表面粗さが大きくなる方向(図1〜4では左方向)へと、被駆動歯車3を軸方向に移動する。これにより、駆動側歯車2及び被駆動歯車3の回転数が増大した場合、歯車の噛み合い位置において、歯面間に形成される油膜厚さが増大する一方で、噛み合う歯面22の表面粗さを油膜厚さの大きさに接近させ略同一とすることができる。この結果、噛み合う歯面間の接触を適度に増加させ、歯車の接触状態を、ストライベック曲線における流体潤滑領域から混合潤滑領域に遷移させることができ、歯面間の摩擦係数を低減させることができる。
【0051】
また、被駆動歯車3の回転数が減少すると、変更機構4が、被駆動歯車3と噛み合う位置の駆動側歯車2の歯面22の表面粗さが小さくなる方向(図1〜4では右方向)へと、被駆動歯車3を軸方向に移動する。これにより、駆動側歯車2及び被駆動歯車3の回転数が減少した場合、歯車の噛み合い位置において、歯面間に形成される油膜厚さが減少する一方で、噛み合う歯面22の表面粗さを油膜厚さの大きさに接近させ略同一とすることができる。この結果、噛み合う歯面間の接触を適度に減少させ、歯車の接触状態を、ストライベック曲線における境界潤滑領域から混合潤滑領域に遷移させることができ、歯面間の摩擦係数を低減させることができる。
【0052】
このように、本実施形態の歯車伝動装置1,1′は、運転状態(回転数)の変化に応じて、噛み合い位置の歯面22の表面粗さを適切なものに変更して、摩擦係数を低く維持することが可能となり、歯車間の摩擦係数をより適切に調整することが可能となる。
【0053】
以上、本発明について好適な実施形態を示して説明したが、本発明はこれらの実施形態により限定されるものではない。変更機構4のカム面45,46は、ボール43により歯車側部材42に押圧力が加えることが可能であればよく、例えば反歯車側部材41と歯車側部材42の一方のみに設けられる構成としてもよいし、他の形状でもよい。
【0054】
また、変更機構4のボール43は、回転軸31の径方向に移動することが可能であればよく、例えば、俵状、円筒状、円柱状など、上記の略球状以外の形状であってもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、複数の異なる歯面性状をもつ歯車を駆動側歯車2とし、単一の歯面性状をもち変更機構4によって軸方向に移動可能な歯車を被駆動歯車3としたが、駆動源と連結する歯車を入れ替えてもよい。すなわち、変更機構4によって軸方向に移動可能な歯車(上記実施形態では被駆動歯車3)を駆動側歯車とし、複数の歯面性状をもつ歯車(上記実施形態では駆動側歯車2)を被駆動歯車としてもよい。
【0056】
さらに、上記実施形態では、複数の異なる歯面性状をもつ駆動側歯車2を軸方向に固定し、単一の歯面性状をもつ被駆動歯車3を変更機構4によって軸方向に移動可能としたが、歯車の回転数の増加に伴って、被駆動歯車3と噛み合う位置の駆動側歯車2の歯面の表面粗さが大きくなる方向に、駆動側歯車2と被駆動歯車3との噛み合い位置が変更されさえすればよい。
【0057】
例えば、被駆動歯車3を軸方向に固定し、複数の異なる歯面性状をもつ駆動側歯車2の回転軸21まわりに変更機構4を設け、駆動側歯車2を変更機構4によって軸方向に移動可能としてもよい。この場合、図1,3に示す例では、変更機構4は、駆動側歯車2の左側に設けられ、回転数の増加に伴い駆動側歯車2を左側から押圧して右方向へ移動させる。
【0058】
同様に、駆動側歯車2の回転軸21及び被駆動歯車3の回転軸31の両方に変更機構4を設け、駆動側歯車2及び被駆動歯車3の両方を変更機構4によって軸方向に移動可能としてもよい。この場合、駆動側歯車2及び被駆動歯車3は、回転数の増減に応じてそれぞれ反対方向に移動するよう構成される。図1,3に示す例では、回転数の増加に伴い、駆動側歯車2は右方向に移動され、被駆動歯車3は左方向に移動される。
【符号の説明】
【0059】
1,1′…歯車伝動装置、2…駆動側歯車(第一の歯車)、22(22a-22c)…歯面、3…被駆動歯車(第二の歯車)、4,4′…変更機構、41…反歯車側部材(第一部材)、42…歯車側部材(第二部材)、43…ボール(第三部材)、44,44′…弾性部材、45,46…カム面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の歯車の間で動力を伝達する歯車伝動装置であって、
軸方向に複数の異なる表面粗さの歯面を有する第一の歯車と、
前記第一の歯車と噛合された第二の歯車と、
前記第一及び第二の歯車の回転数が増大するのに伴い、前記第二の歯車と噛み合う位置の前記第一の歯車の歯面の表面粗さが大きくなる方向へと、前記第一の歯車及び前記第二の歯車の少なくとも一方を軸方向に移動し、前記第一の歯車と前記第二の歯車との噛合い位置を変更する変更機構と、
を備えることを特徴とする歯車伝動装置。
【請求項2】
前記変更機構は、
前記第一の歯車及び前記第二の歯車のうち前記軸方向に移動する歯車の回転軸まわりに設けられ、該回転軸と共に一体回転可能な第一部材と、
前記第一部材が設けられた前記歯車の回転軸において、該歯車と前記第一部材との間に、前記回転軸の軸方向に移動自在に設けられ、前記歯車と当接可能に設けられた第二部材と、
前記第一部材と前記第二部材との間に、前記回転軸の径方向に移動自在に配置された第三部材と、
前記第一部材及び前記第二部材の少なくとも一方に設けられ、前記第三部材が前記回転軸の回転に伴って発生した遠心力によって前記回転軸の半径方向外側に移動するのに伴い、前記第二部材を前記歯車と圧着させ、前記歯車を軸方向に移動させる方向へ、前記第二部材を押圧するカム面と、
前記第三部材及び前記カム面による押圧によって前記第二部材が前記歯車を軸方向に移動すると、前記歯車の移動方向と逆方向に付勢力を加える弾性部材と、
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の歯車伝動装置。
【請求項3】
前記弾性部材は、前記歯車の内周に固設され、前記歯車の軸方向への移動に応じて弾性変形することを特徴とする、請求項2に記載の歯車伝動装置。
【請求項4】
前記弾性部材は、前記歯車の軸方向において、前記第二の歯車を挟んで前記第二部材と反対側に配置され、前記歯車の軸方向への移動に応じて弾性変形することを特徴とする、請求項2に記載の歯車伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−163123(P2012−163123A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21775(P2011−21775)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】