説明

歯車測定装置の校正方法

【課題】機械的な基準部材を用いることなく、測定子の位置の校正をする。
【解決手段】基礎円の接線方向走査方法により歯車の歯形を求めこのときの歯形こう配誤差α1と、基礎円の接線方向以外の走査方法により歯車の歯形を求めこのときの歯形こう配誤差α2との偏差である、歯形こう配誤差の差Δαを求める。歯形こう配誤差の差Δαと歯車の諸元を用いて、位置誤差Δxを求め、位置誤差Δxに応じて測定子の位置の校正をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯車測定装置の校正方法に関し、基準ブロック等の機械的な基準部材を使用することなく、測定子の位置を校正することができるように工夫したものである。
【背景技術】
【0002】
歯車加工機械は被加工歯車を加工する機械であり、具体的には、切削加工により歯車を作製する歯車形削り盤やホブ盤、焼き入れ後の歯車を研削する歯車研削盤などがある。
このような歯車加工機械により、小型の被加工歯車を量産加工する場合には、加工した初品の被加工歯車に対して、歯形測定や歯厚測定をした後、その精度を確認し、精度が良好である場合には残りの未加工ロットを加工し、精度が不良である場合には加工精度の修正をしてから残りの未加工ロットを加工するようにしている。歯車測定機能を持たない歯車加工機械では、またぎ歯厚、オーバーピン径の確認しかできないために、初品は精度不良になることがある。
【0003】
また、加工する被加工歯車が大形である場合には、不良品を出すことができないため、取り代を残しながら、加工と測定とを数回繰り返し、最終的な加工精度を確認した後に、仕上加工を行うようにしている。加工と測定を繰り返すためには、歯車加工機械と歯車測定機の間で大型歯車の付け替え作業が必要であるため、長い作業時間を要している。
【0004】
被加工歯車に対する歯形測定や歯厚測定は、測定子(プローブ)を具備した測定器を備えた歯車測定装置により行われている。
このような歯車測定装置は、従前では、歯車加工機械とは別体の装置として構成することが一般的であった。歯車測定装置を歯車加工機械とは別体とした場合には、被加工歯車を、歯車加工機械から歯車測定装置に付け替える作業が必要である。
一方、近年では上記の付け替え作業を省略し作業性の向上を図ることを目的として、加工後の被加工歯車に対して、機上で歯形測定や歯厚測定ができるように、歯車測定装置を一体として備えた歯車加工機械が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
歯車加工機械と一体であっても別体であっても、歯車測定装置では、測定器の測定子(プローブ)を被加工歯車に接触させると、測定子が被加工歯車に接触した位置を示す位置信号が、測定器から出力される。測定子を被加工歯車に接触させる位置を変化していき、各位置での位置信号を演算処理することにより、歯形や歯厚を測定することができる。
【0006】
この場合、測定子が基準位置に位置しているときに、この基準位置を正確に示す位置信号が出力されれば、他の位置の測定をする場合でも正確な位置測定ができる。
しかし、周囲の温度や被加工歯車の加工時に発生する熱等により、測定器を含む歯車測定装置に熱変形が生じると、測定子が測定器に対しては基準位置に位置していたとしても、被加工歯車に対する位置に対して誤差が生じ、測定時の測定位置がずれてしまうことがある。
【0007】
このような測定子の位置誤差が発生すると、歯形測定や歯厚測定をした場合に測定精度が低下してしまう。特に、歯厚を測定する場合に測定誤差が大きくなる。
【0008】
そのため、測定に際して、測定子の位置を校正(キャリブレーション)することが行われている。
ここで、従来の校正方法を、図8を参照して説明する。
【0009】
図8は、小形または中形の歯車の測定をする歯車測定装置1である。同図に示すように、この歯車測定装置1の基台2には、X軸方向に沿い延在したガイドレール3と、回転テーブル4と、サポートコラム5が配置されている。
移動体6は、ガイドレール3に沿いX軸方向に沿い移動することができる。移動体6にはY軸方向(図8では紙面に垂直方向)に延在したガイドレール7が配置されており、移動体8はY軸方向に沿い移動することができる。移動体8にはZ軸方向に沿い延在したガイドレール9が配置されており、移動体10はZ軸方向に沿い移動することができる。
測定子31を具備した測定器30は、移動体10に取り付けられている。
【0010】
従来では、校正をするために、予め決めた基準位置に、機械的な基準部材である、基準ブロック21、テストバー22、マスターワーク23のうちのいずれか一つを設置している。
基準ブロック21は、サポートコラム5のサポートアーム部に設置しており、この場合には、基準ブロック21を設置した位置を基準位置としている。
テストバー22は、回転テーブル4の上面に同軸に設置しており、この場合には、テストバー22を設置した位置を基準位置としている。
マスターワーク23は、回転テーブル4の上面に同軸に設置しており、この場合には、マスターワーク23を設置した位置を基準位置としている。
【0011】
測定子31の位置の校正をする場合には、測定子31を、基準位置に設置した機械的な基準部材(基準ブロック21、テストバー22、マスターワーク23のうちのいずれか一つ)に接触させ、このとき測定器30から出力される位置信号を検査する。そして、この位置信号が基準位置を示していない場合には、このときに出力される位置信号が基準位置を示すように校正をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−111851号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図8に示すように、機械的な基準部材を用いて校正をする場合には、機械的な基準部材(基準ブロック21、テストバー22、マスターワーク23)が必要になると共に、基準部材を取り付けたり取り外したりするという作業時間を要するという問題があった。
【0014】
また、大形の歯車を測定する歯車測定装置においては、上記の問題のみならず、次に説明するような更なる問題があった。
図9は、大形の歯車の測定をする歯車測定装置11である。同図において、12は基台、13,17,19はそれぞれX軸方向,Y軸方向,Z軸方向に沿い延在したガイドレール、14は回転テーブル、16,18,20はそれぞれX軸方向,Y軸方向,Z軸方向に沿い移動することができる移動体、30は移動体20に取り付けられている測定器、31は測定子である。
なお、この歯車測定装置11では、設置スペースを削減するためサポートコラムは備えられていない。
【0015】
図9に示すような歯車測定装置11では、サポートコラムがないため、基準ブロックを設置することは困難である。また、サポートアームがあった場合でも、歯車が大形であるため、測定子31を基準ブロックへ接触させるため歯車測定装置11を移動させた場合、歯車測定装置11が大形の歯車に衝突する恐れがある。
また、測定子31を回転テーブル14の中心までストロークすることができないので、テストバー22aとしては、大きなものが必要である。
また、マスターワーク23aとしては、大きなものが必要である。
このようにテストバー22aやマスターワーク23aとして大きなものを用意しておかなければならないため、その作製費用や保管費用が大きくなるという問題及び校正を実施するたびにテストバー22aやマスターワーク23aを取り付けたり取り外したりする作業時間を要するという問題がある。
【0016】
本発明は、上記従来技術に鑑み、機械的な基準部材がなくても、測定子の位置の校正をすることができる歯車測定装置の校正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する本発明は、測定子を被測定歯車の歯面に接触させると、前記測定子が前記被測定歯車に接触した位置を示す位置信号を出力すると共に、三次元方向の各方向に沿い駆動される測定器と、
前記位置信号を演算処理することにより、前記被測定歯車の測定をする演算手段とを有する歯車測定装置において、
前記測定子を基礎円の接線方向に移動させるのと同期して前記被測定歯車をその回転軸周りで回転させていくことにより、前記被測定歯車の歯面に前記測定子が接触したときに出力される位置信号を演算処理して前記被測定歯車の歯形を求め、この歯形から前記被測定歯車の歯形こう配誤差(α1)を求める工程と、
前記測定子を基礎円の接線方向以外の方向に移動させるのと同期して前記被測定歯車をその回転軸周りで回転させていくことにより、前記被測定歯車の歯面に前記測定子が接触したときに出力される位置信号を演算処理して前記被測定歯車の歯形を求め、この歯形から前記被測定歯車の歯形こう配誤差(α2)を求める工程と、
前記歯形こう配誤差(α1)と前記歯形こう配誤差(α2)との差である歯形こう配誤差の差(Δα)を算出する工程と、
前記測定子の位置誤差(Δx)を、前記歯形こう配誤差の差(Δα)と前記被測定歯車の歯車諸元を用いて求める工程と、
前記位置誤差(Δx)を基に、前記測定子の位置を校正する工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
また本発明は、前記測定子の位置誤差(Δx)を、前記歯形こう配誤差の差(Δα)と前記被測定歯車の歯車諸元を用いて求める工程では
次式を用いて位置誤差(Δx)を求めることを特徴とする歯車測定装置の校正方法。
Δx=Δα/{tan(α21+αA)−tan(α22−αB)}
但し、αAは歯先計測オフセット角度、αBは歯元計測オフセット角度であり、
被測定歯車の基礎円直径をDg、外径をDo、歯底直径をDr、測定子のボール径をdとしたときに、
α21=tan-1〔(Do2−Dg20.5+d〕/Dg〕
α22=tan-1〔(Dr2−Dg20.5+d〕/Dg〕である。
なお、歯先計測オフセット角度αA、歯元計測オフセット角度αBは、図7に示す角度である。
また、測定子を基礎円の接線方向以外の方向に移動させる方向として、半径方向とした場合は、αA=0、αB=0になる(図6参照)。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、2つの工程で得られる、歯形測定の歯形こう配誤差の差から演算処理により測定子の位置を校正することができ、さらに、2つの工程で、同じ歯を計測すれば、歯形形状誤差の要因をキャンセルできるので、被加工歯車を使用しての校正も候補になる。被加工歯車を使用して校正することができれば、機械的な基準部材(基準ブロック,テストバー、マスターワーク)を使用する必要が無くなり、また、機械的な基準部材の取り付け・取り外しのための時間を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明方法を適用した歯車測定装置を示す構成図。
【図2】ワーク(被測定歯車、被加工歯車)の一部を示す斜視図。
【図3】歯形測定をする第1の手法(基礎円の接線方向走査方式)を示す図。
【図4】歯形測定をする第2の手法(半径方向走査方式)を示す図。
【図5】本発明方法の動作を示すフローチャート。
【図6】ワークの歯車諸元を示す特性図。
【図7】ワークの歯車諸元、歯先計測オフセット角度、歯元計測オフセット角度を示す特性図。
【図8】従来技術に係る歯車測定装置を示す構成図。
【図9】従来技術に係る歯車測定装置を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例】
【0022】
図1は本発明方法を適用した歯車測定装置101を示す。同図に示すように、この歯車測定装置101の基台102には、X軸方向に沿い延在したガイドレール103と、回転テーブル104が配置されている。
回転テーブル104は、回転軸C周りに回転することができる。
【0023】
移動体106は、ガイドレール103に沿いX軸方向に沿い移動することができる。移動体106にはY軸方向(図1では紙面に垂直方向)に延在したガイドレール107が配置されており、移動体108はY軸方向に沿い移動することができる。移動体108にはZ軸方向(鉛直方向)に沿い延在したガイドレール109が配置されており、移動体110はZ軸方向に沿い移動することができる。
【0024】
測定子131を具備した測定器130は、移動体110に取り付けられている。回転テーブル104の上面には、研削後の大形のワーク(被測定歯車、被加工歯車)W(図2参照)が同軸に載置される。
測定器130(測定子131)は、移動体106,108,110がそれぞれX軸,Y軸,Z軸方向に沿い駆動されることにより、三次元の各方向に沿い駆動(移動)される。測定器130は、測定子131がワークWに接触すると、接触した位置を示す位置信号を出力する。
【0025】
制御演算装置140は、歯車測定装置101全体を統合的に制御すると共に、位置信号を演算処理する装置である。
即ち、制御演算装置140は、予め設定・記憶されている、ワークWの歯車諸元や、測定子131の位置(座標)、歯形測定位置及び歯厚測定位置に基づいて、移動体106,108,110のX,Y,Z軸方向の移動を制御して測定器130(測定子131)のX,Y,Z軸方向の移動を制御し、また、ワークWが載置された回転テーブル104の回転軸C周りの回転を制御する。
更に、制御演算装置140は、測定器130から出力された位置信号を基に、歯形や歯厚を測定すると共に、測定子131の位置の校正をする。
【0026】
次に、この歯車測定装置101を用いて、ワークWの歯形測定をする2つの手法と、ワークWの歯厚測定をする手法と、測定子131の位置の校正をする方法を順に説明する。
【0027】
まず最初に、ワークWの歯形測定をする第1の手法(基礎円の接線方向走査方法)を、図3を参照して説明する。なお図3において、Lは基礎円に対する接線を示す。走査方向とする基礎円の接線方向は、通常の歯車測定機は水平方向にするが、斜め方向としても良く、本図は斜め方向で作図している。
【0028】
第1の手法(基礎円の接線方向走査方法)によりワークWの歯形測定を行う場合には、図3に示すように、まずワークWを回転軸C周りに僅かに回転させて、ワークWの歯溝を測定器130に対向させた後、測定器130をX軸,Y軸,Z軸方向に駆動させて、その測定子131をワークWの歯面上における歯元円との交点に接触させる。即ち、この交点が歯面における測定開始位置♯1となる。
【0029】
続いて、測定子131を測定開始位置♯1に接触させた状態から、測定子131を基礎円の接線Lに沿い移動させるように測定器130をX軸,Y軸方向に駆動するのと同期して、回転テーブル104を駆動してワークWを回転軸C周りで回転させる。
測定子131がアナログ式のプローブである場合には測定子131をワークWの歯面に連続的に接触しつつ、また、測定子131がデジタル式(オンオフ式)である場合には測定子131をワークWの歯面に間欠的に接触しつつ、測定子131が基礎円の接線Lに沿い移動していくことで、ワークWの歯面と基礎円の接線Lとが交差する各位置を示す位置信号が、測定器130から出力される。
【0030】
そして、測定子131が、ワークWの歯面上における歯先円との交点に到達したところで、歯形測定が終了する。即ち、この交点が歯面における測定終了位置♯2となる。
【0031】
制御演算装置140は、測定子131が測定開始位置♯1から測定終了位置♯2にまで移動していったときに、測定器130から出力される位置信号を演算処理することにより、ワークWの歯形を求めることができる。そして、演算して求めた歯形を基に、ワークWの歯形こう配誤差α1を求めることができる。
【0032】
なお、測定開始位置♯1における接触角をα12、測定終了位置♯2における接触角をα11とし、更に、測定子131に位置誤差がありその位置誤差(X軸方向の位置ずれ)をΔxとした場合、歯形こう配誤差α1の計測誤差e1は次式(1)により表される。
e1=Δx(tanα11−tanα12) ・・・(1)
【0033】
第1の手法(基礎円の接線方向走査方法)によるワークWの歯形測定においては、ワークWの歯面と測定子131との接触角はほぼ変化しないので、つまりα11とα12がほぼ等しいので、位置誤差(X軸方向の位置ずれ)Δxがあったとしても、歯形こう配誤差α1の計測誤差e1はほとんど生じないという特性がある。
【0034】
次に、ワークWの歯形測定をする第2の手法(基礎円の接線方向以外の方向の走査方法)を、図4を参照して説明する。ここでは、基礎円の接線方向以外の方向として、半径方向とした場合について説明する。
【0035】
第2の手法(半径方向走査方法)によりワークWの歯形測定を行う場合には、図4に示すように、まずワークWを回転軸C周りに僅かに回転させて、ワークWの歯溝を測定器130に対向させた後、測定器130をX軸,Y軸,Z軸方向に駆動させて、その測定子131をワークWの歯面上における歯元円との交点に接触させる。即ち、この交点が歯面における測定開始位置♯3となる。
【0036】
続いて、測定子131を測定開始位置♯3に接触させた状態から、測定子131を半径方向(X軸方向)に移動させるように測定器130をX軸方向に駆動するのと同期して、回転テーブル104を駆動してワークWを回転軸C周りに回転させる。
測定子131がアナログ式のプローブである場合には測定子131をワークWの歯面に連続的に接触しつつ、また、測定子131がデジタル式(オンオフ式)である場合には測定子131をワークWの歯面に間欠的に接触しつつ、測定子131が半径方向(X軸方向)に移動していくことで、ワークWの歯面とX軸(測定子131の移動軌跡)とが交差する各位置を示す位置信号が、測定器130から出力される。
【0037】
そして、測定子131が、ワークWの歯面上における歯先円との交点に到達したところで、歯形測定が終了する。即ち、この交点が歯面における測定終了位置♯4となる。
【0038】
制御演算装置140は、測定子131が測定開始位置♯3から測定終了位置♯4にまで移動していったときに、測定器130から出力される位置信号を演算処理することにより、ワークWの歯形を求めることができる。そして、演算して求めた歯形を基に、ワークWの歯形こう配誤差α2を求めることができる。
【0039】
なお、測定開始位置♯3における接触角をα22、測定終了位置♯4における接触角をα21とし、更に、測定子131に位置誤差がありその位置誤差(X軸方向の位置ずれ)をΔxとした場合、歯形こう配誤差α2の計測誤差e2は次式(2)により表される。
e2=Δx(tanα21−tanα22) ・・・(2)
【0040】
第2の手法(半径方向走査方法)によるワークWの歯形測定においては、ワークWの歯面と測定子131との接触角が変化するので、つまりα21とα22が異なるので、位置誤差(X軸方向の位置ずれ)Δxがあった場合には、歯形こう配誤差α2の計測誤差e2は、第1の手法(基礎円の接線方向走査方法)における計測誤差e1に比べて、大きくなるという特性がある。
【0041】
次に、ワークWの歯厚測定の手法を図2を参照して説明する。
歯厚測定をするには、測定器130をX軸,Y軸,Z軸方向に駆動させて、測定子131を、ワークWの右歯面WR上においてピッチ円と交差する交点に接触させる。このとき測定器130から出力される位置信号を制御演算装置140が演算処理して、このときの位置を検出する。
【0042】
続いて、測定器130をX軸,Y軸,Z軸方向に駆動させて、測定子131を、ワークWの左歯面WL上においてピッチ円と交差する交点に接触させる。このとき測定器130から出力される位置信号を制御演算装置140が演算処理して、このときの位置を検出する。
【0043】
そして、右歯面WL上の交点位置と、左歯面WR上の交点の位置を基に、ワークWの歯厚を計測することができる。
【0044】
この場合、測定子131の位置に位置誤差(X軸方向の位置ずれ)Δxがあった場合には、歯厚の計測誤差は大きくなってしまうという特性がある。
【0045】
次に、本発明方法に係る歯車測定装置の校正方法により、測定子131の位置を校正する方法を、図5に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0046】
制御演算装置140は、前述したワークWの歯形測定の第1の手法(基礎円の接線方向走査方法)を用いてワークWの歯形を求め、演算して求めたワークWの歯形からワークWの歯形こう配誤差α1を求める(ステップS1)。
なお、測定子131の位置に位置誤差(X軸方向の位置ずれ)Δxがある場合には、求めた歯形こう配誤差α1には計測誤差e1が含まれる。ここで、α1=αw1+e1(αw1は歯形こう配誤差の真値)とする。
【0047】
制御演算装置140は、前述したワークWの歯形測定の第2の手法(半径方向走査方法)を用いてワークWの歯形を求め、演算して求めたワークWの歯形からワークWの歯形こう配誤差α2を求める(ステップS2)。
なお、測定子131の位置に位置誤差(X軸方向の位置ずれ)Δxがある場合には、求めた歯形こう配誤差α2には計測誤差e2が含まれる。ここで、α2=αw2+e2(αw2は歯形こう配誤差の真値)とする。
【0048】
なお、ステップS1とステップS2の順番を逆にしてもよい。
【0049】
次に制御演算装置140は、ステップS1により求めた歯形こう配誤差α1と、ステップS2により求めた歯形こう配誤差α2との差である、歯形こう配誤差の差Δαを算出する(ステップS3)。
この歯形こう配誤差の差Δαは、次式(3)により表される。
Δα=α2−α1=(αw1+e1)−(αw2+e2) ・・・(3)
つまり、歯形こう配誤差の差Δαは、「歯形こう配誤差α2」と「歯形こう配誤差α1」の差を示すものとなる。
ここで、ステップ1とステップ2で、同じ歯面を計測すれば、αw1=αw2になること、e1はほとんど生じない(e1≒0)ことを考慮すれば、
Δα≒e2=Δx(tanα21−tanα22) ・・・(4)
とすることができる。
【0050】
次に制御演算装置140は、測定子131の位置誤差(X軸方向の位置ずれ)Δxを、式(4)を変形した、次式(5)を用いて演算する(ステップS4)。
Δx=Δα/(tanα21−tanα22) ・・・(5)
ここにおいて、ワークWの基礎円直径をDg、外直径をDo、歯底直径をDr、測定子のボール径をdとすると(図6参照)、式(4)におけるα21とα22は、次式(6),(7)により与えられる値(即ち、歯車諸元により与えられる値)である。
α21=tan-1〔(Do2−Dg20.5+d〕/Dg〕 ・・・(6)
α22=tan-1〔(Dr2−Dg20.5+d〕/Dg〕 ・・・(7)
【0051】
制御装置140は、上記(5)式により測定子131の位置に位置誤差(X軸方向の位置ずれ)Δxを算出したら、検出器130から出力される位置信号に、位置誤差Δxに対応する値が含まれていると判定する。
そして、制御装置140は、位置誤差Δxの値に応じて、記憶されている測定子131の位置(座標)に対して校正をする(ステップS5)。これにより検出子131の位置を校正することができる。
【0052】
このような校正をした後に測定を行った場合には、検出器130から出力される位置信号は、位置誤差を含まない正確な位置を示すものとなるため、この校正後に歯厚測定をすれば、正確な歯厚測定をすることができる(ステップS6)。
【0053】
このように本発明に係る歯車測定装置の校正方法は、第2の手法(半径方向走査方法)により求めた歯形こう配誤差α2に含まれる計測誤差e2は大きく、第1の手法(基礎円の接線方向走査方法)により求めた歯形こう配誤差α1に含まれる計測誤差e1は殆ど無く、2つの手法で、同じ歯面を計測すれば、歯車自身の歯形こう配誤差の影響をキャンセルできるという特性を利用して、歯形こう配誤差α2と歯形こう配誤差α1の差である歯形こう配誤差の差Δαがある場合には、測定子131の位置に位置誤差Δxがあると判定する。
このようにして位置誤差があると判定した場合には、歯形こう配誤差の差Δαを基に、測定子131の位置誤差Δxを演算し、演算した位置誤差Δxが無くなるように校正する。
歯形こう配誤差α1、α2の演算において、歯形形状の影響を受けることに対しては、2つの手法で測定する歯面を同じ歯面とすれば、影響が同じになるので、これも式(3)の演算においてキャンセルさせることができる。よって、校正に必要な歯車はマスターギヤのような高精度なものは必要ではなく、加工途中の歯車も使用できる。
【0054】
このように演算処理のみにより測定子131の位置の校正をすることができるので、機械的な基準部材を使用する必要が無くなり、また、機械的な基準部材の取り付け・取り外しのための時間を無くすことができる。
【0055】
第2の手法(基礎円の接線方向以外の方向の走査方法)の走査方向は半径以外としても良く、以下に示す方法によれば、さらに校正の精度を高めることができる。
式(5)より、測定子131の位置誤差Δxに対する歯形こう配誤差の差Δαの感度は、
Δα/Δx=(tanα21−tanα22)である。
α21とα22は式(6)、(7)により歯車諸元で決まる値であるが、(tanα21−tanα22)は、測定子131とワークWの接触角の差を意味する。感度を高めるには、測定子131とワークWの接触角の差を大きくすれば良い。
【0056】
そこで、図7に示すように歯先測定位置と歯元測定位置をオフセットすれば、測定子131とワークWの接触角の差を大きくすることができる。すなわち、αAを歯先計測オフセット角度、αBを歯元計測オフセット角度として、tanα21を(tanα21+αA)に増やし、tanα22を(tanα22―αB)に減らして、感度を{tan(α21+αA)−tan(α22−αB)}に増やす。
【0057】
これにより、感度(Δα/Δx)は次式(8)に示すようになり、測定子131の位置誤差Δxは次式(9)に示すようになり、図6に示す半径方向に走査した場合よりも感度を高めることができ、校正精度を上げることができる。
(Δα/Δx)={tan(α21+αA)−tan(α22−αB)} ・・・(8)
Δx=Δα/{tan(α21+αA)−tan(α22−αB)} ・・・(9)
【0058】
ちなみに、測定子131を基礎円の接線方向以外の方向に走査移動させる方向として、半径方向とした場合は、αA=0、αB=0となり、この場合には、位置誤差Δxは前述した式(5)のようになる。
つまり、式(9)は位置誤差Δxを示す一般式であり、式(5)は測定子131の移動方向を半径方向に特定したときの位置誤差Δxを示す特定式である。
【符号の説明】
【0059】
1,11,101 歯車測定装置
2,12,102 基台
3,7,9,13,17,19,103,107,109 ガイドレール
4,14,104 回転テーブル
5 サポートコラム
6,8,19,16,18,20,106,108,110 移動体
21 基準ブロック
22 テストバー
23 マスターワーク
30,130 測定器
31,131 測定子
140 制御演算装置
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定子を被測定歯車の歯面に接触させると、前記測定子が前記被測定歯車に接触した位置を示す位置信号を出力すると共に、三次元方向の各方向に沿い駆動される測定器と、
前記位置信号を演算処理することにより、前記被測定歯車の測定をする演算手段とを有する歯車測定装置において、
前記測定子を基礎円の接線方向に移動させるのと同期して前記被測定歯車をその回転軸周りで回転させていくことにより、前記被測定歯車の歯面に前記測定子が接触したときに出力される位置信号を演算処理して前記被測定歯車の歯形を求め、この歯形から前記被測定歯車の歯形こう配誤差(α1)を求める工程と、
前記測定子を基礎円の接線方向以外の方向に移動させるのと同期して前記被測定歯車をその回転軸周りで回転させていくことにより、前記被測定歯車の歯面に前記測定子が接触したときに出力される位置信号を演算処理して前記被測定歯車の歯形を求め、この歯形から前記被測定歯車の歯形こう配誤差(α2)を求める工程と、
前記歯形こう配誤差(α1)と前記歯形こう配誤差(α2)との差である歯形こう配誤差の差(Δα)を算出する工程と、
前記測定子の位置誤差(Δx)を、前記歯形こう配誤差の差(Δα)と前記被測定歯車の歯車諸元を用いて求める工程と、
前記位置誤差(Δx)を基に、前記測定子の位置を校正する工程と、
を有することを特徴とする歯車測定装置の校正方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記測定子の位置誤差(Δx)を、前記歯形こう配誤差の差(Δα)と前記被測定歯車の歯車諸元を用いて求める工程では、
次式を用いて位置誤差(Δx)を求めることを特徴とする歯車測定装置の校正方法。
Δx=Δα/{tan(α21+αA)−tan(α22−αB)}
但し、αAは歯先計測オフセット角度、αBは歯元計測オフセット角度であり、
被測定歯車の基礎円直径をDg、外径をDo、歯底直径をDr、測定子のボール径をdとしたときに、
α21=tan-1〔(Do2−Dg20.5+d〕/Dg〕
α22=tan-1〔(Dr2−Dg20.5+d〕/Dg〕である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−215090(P2011−215090A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85661(P2010−85661)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】