説明

歯車装置

【課題】高速で回転する歯車を有する歯車装置の風損を低減し、伝達効率の高い歯車装置を提供する。
【解決手段】互いにかみ合う二個の歯車で構成された歯車対と、前記歯車対の歯面に給油するための給油ノズルと、前記歯車対を収納する歯車対収納部を有する歯車容器と、給油用の潤滑油を貯蔵するオイルタンクと、前記オイルタンクから前記歯車対収納部に空気を供給するための空気流路と、前記歯車容器の内部で発生するオイルミストを前記オイルタンクに還流させるオイルミスト還流流路と、前記オイルミストから前記潤滑油を分離するためのミストコレクタとを含み、前記空気流路は、前記歯車対収納部に接続部を有し、前記歯車と前記歯車対収納部の内壁面部との隙間が最も狭くなる部位は、前記接続部に隣接して設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、産業機械に使用される歯車装置は、大容量で連続運転されるものが多いため、歯車装置の伝達効率を向上させることは、省資源・省エネルギーの観点から非常に重要である。
【0003】
歯車が動力を伝達する際に発生する損失は、歯面がこすれ合うことにより生じる摩擦損失、歯面に付着した潤滑油をはね飛ばす際に生じる攪拌損失、及び歯車の周囲の流体がつれ回ることにより生じる風損が挙げられ、これらの損失を低減することが歯車装置の伝達効率の向上につながる。
【0004】
歯車装置の伝達効率を向上させることを目的として、歯面への給油量を削減する歯車装置が提案されている。これは、潤滑油が歯車に衝突して飛散する際の攪拌損失を低減し、動力損失を低減する技術である。
【0005】
例えば、特許文献1には、歯車の周囲をシュラウドで覆い、ミスト潤滑とすることにより給油量を減少させ、攪拌損失を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−25832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、多くの場合、高速で運転される歯車装置においては、伝達損失のうち風損が大きな割合を占めているため、攪拌損失を低減する技術のみでは歯車装置の伝達効率の向上に関して不十分と考えられる。
【0008】
本発明は、高速で回転する歯車を有する歯車装置の風損を低減し、伝達効率の高い歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の歯車装置は、互いにかみ合う二個の歯車で構成された歯車対と、前記歯車対の歯面に給油するための給油ノズルと、前記歯車対を収納する歯車対収納部を有する歯車容器と、給油用の潤滑油を貯蔵するオイルタンクと、前記オイルタンクから前記歯車対収納部に空気を供給するための空気流路と、前記歯車容器の内部で発生するオイルミストを前記オイルタンクに還流させるオイルミスト還流流路と、前記オイルミストから前記潤滑油を分離するためのミストコレクタとを含み、前記空気流路は、前記歯車対収納部に接続部を有し、前記歯車と前記歯車対収納部の内壁面部との隙間が最も狭くなる部位は、前記接続部に隣接して設けてあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オイルミストの歯面への衝突を抑制することができるとともに、歯車の周囲における気圧を低減することができ、歯車の回転に伴う風損を低減することができる。
【0011】
また、本発明によれば、伝達効率の高い歯車装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による実施例の歯車装置を示す全体構造図である。
【図2】本発明による実施例の歯車及びその軸を含む部分の状態を示す断面図である。
【図3】本発明による他の実施例の歯車装置を示す全体構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は発電機や給水ポンプ等の産業機械で使用される歯車装置に関し、特に、歯車の回転に伴う風損を低減し、伝達効率を向上させる構造を備えた歯車装置に関する。
【0014】
以下、本発明の実施形態である歯車装置について説明する。
【0015】
本実施形態は、基本的に次のように構成する。
【0016】
前記歯車装置は、互いにかみ合う二個の歯車で構成された歯車対と、歯車対の歯面に給油するための給油ノズルと、歯車対を収納する歯車対収納部を有する歯車容器と、給油用の潤滑油を貯蔵するオイルタンクと、オイルタンクから歯車対収納部に空気を供給するための空気流路と、歯車容器の内部で発生するオイルミストをオイルタンクに還流させるオイルミスト還流流路と、オイルミストから潤滑油を分離するためのミストコレクタとを含む。そして、空気流路は、歯車対収納部に接続部を有し、歯車と歯車対収納部の内壁面部との隙間が最も狭くなる部位は、上記の接続部に隣接して設けてある。
【0017】
前記歯車装置において、空気流路は、送風部を有することが望ましい。
【0018】
前記歯車装置において、オイルミスト還流流路は、歯車対のかみ合い部の下方に設置してあることが望ましい。
【0019】
前記歯車装置において、空気流路は、冷却部を有することが望ましい。
【0020】
前記歯車装置において、前記給油ノズルは、歯車対のかみ合い部の下方に設置してあることが望ましい。
【実施例1】
【0021】
以下、本発明による実施例の歯車装置の構造及び動作について図を用いて説明する。
【0022】
図1は、本発明による実施例の歯車装置を示す全体構造図である。
【0023】
本図において、歯車箱6は、小歯車1、大歯車2、給油ノズル3、シュラウド部4(歯車対収納部)及びオイルミストガイド5を内包しており、歯車箱6(歯車容器)の下部には配管17(オイルミスト還流流路)を介してオイルタンク7が接続してある。小歯車1と大歯車2とは、互いにかみ合って歯車対51を形成している。本図においては、小歯車1の直径が大歯車2の直径よりも小さくなっているが、これに限定されるものではなく、2個の歯車の直径が等しくてもよく、また、小歯車1の位置に大歯車2が設置され、大歯車2の位置に小歯車1が設置されていてもよい。
【0024】
給油ノズル3は、歯車対51のかみ合い位置の近傍(本図においては、かみ合い部の下方。)に設置され、オイルタンク7から給油ポンプ(図示せず。)を介して小歯車1及び大歯車2のかみ合い部18付近に潤滑油を供給するようになっている。シュラウド部4は、歯車箱6の中空部を形成する内壁面部であり、小歯車1及び大歯車2の歯面と適切なクリアランスを保持する形状で小歯車1及び大歯車2を覆っている。
【0025】
本図において、シュラウド部4は、歯車対51の外形に合わせて歯車対51を覆う形状を有し、かみ合い部18の下方は開放され、配管17に接続されている。
【0026】
オイルミストガイド5は、かみ合い部18の鉛直下方向に空間部を形成し、シュラウド部4が形成する中空部と配管17との間に設置されている。
【0027】
ミストコレクタ8(潤滑油分離部)は、オイルタンク7の内部の油面上方に設置されており、ミストコレクタカバー15で覆われている。ミストコレクタ8は、管路9と接続され、管路9は、シュラウド部4が形成する中空部に接続されている。
【0028】
本図において、管路9は、ブロワ10(送風部)を有し、小歯車1側に接続された流路11と大歯車2側に接続された流路12とに分岐されている。ここで、管路9、流路11及び流路12を合わせて空気流路と呼んでもよい。
【0029】
オイルミストガイド5は、歯車対51のかみ合い部18近傍で発生するオイルミストをオイルタンク7に誘導する形状であることが好ましい。
【0030】
また、シュラウド部4と小歯車1及び大歯車2とで形成される空間部にオイルミストが流入しにくいように、シュラウド部4の凸部16a及び16bと小歯車1及び大歯車2との隙間19は小さい方が好ましい。
【0031】
本図において、流路11及び流路12はそれぞれ、凸部16a及び16bの近傍に接続されている。また、凸部16a及び16bは、流路11及び流路12の接続部(開放部)よりオイルミストガイド5側に設置してある。
【0032】
本図において、小歯車1は時計方向に回転し、大歯車2は反時計方向に回転させる。すなわち、かみ合い部18においては、小歯車1及び大歯車2がともに下方に向かって回転する。
【0033】
給油ノズル3から小歯車1及び大歯車2の歯面に潤滑油が供給されることにより、歯面の潤滑及び冷却が行われる。潤滑及び冷却を行った潤滑油の一部は、オイルミストとなってシュラウド部4の内部の空気とともに流動する。オイルミストを含む空気は、オイルミストガイド5によってオイルタンク7へ誘導される。
【0034】
空気に含まれるオイルミストは、ミストコレクタ8によって分離される。分離された潤滑油は、オイルタンク7内に落下し、ミストコレクタ8によって分離されたオイルミストを含まない空気(オイルミストを除去された空気)は管路9へ誘導される。ミストコレクタ8の周囲には、粒径の大きい油滴がミストコレクタ8に付着することを防止するためのミストコレクタカバー15が設置してあり、ミストコレクタ8の性能低下を防いでいる。
【0035】
オイルミストを含まない空気は、ブロワ10によりオイルタンク7から管路9を介して歯車箱6の方向に送られる。そして、流路11と流路12とに分かれて流れ、シュラウド部4の内部に誘導される。
【0036】
小歯車1及び大歯車2(歯車対)の回転により、流路11及び流路12の接続部からオイルミストを含まない空気が隙間19に供給されるとともに、隙間19の空気がオイルミストガイド5側に排出されるため、隙間19におけるオイルミストの密度が低下し、かつ、隙間19の気圧が低下する。これによって、隙間19にある小歯車1及び大歯車2の歯面に衝突するオイルミスト及び空気が減少し、風損を低減させることができる。ここで、風損は、歯車がオイルミスト及び空気と衝突することにより発生するものを含むものとする。
【0037】
本実施例において、ミストコレクタ8は、オイルタンク7の内部の油面上方に設置してあるが、オイルタンク7の外部(管路9の内部)に設置してもよい。
【0038】
ミストコレクタ8は、大量の油滴が付着すると、目詰まりを起こし、空気の流れの抵抗となってしまうが、オイルタンク7の外部に設置した場合、粒径の大きい油滴がミストコレクタ8の上流側で捕捉され、直接付着することが防止でき、オイルミストの除去をより効率的に行うことができる。このとき、ミストコレクタ8により分離した潤滑油をオイルタンク7に還流させる管路を設置してもよい。潤滑油をオイルタンク7に還流させる管路を設置しない場合は、ミストコレクタ8の上流側の管路9をオイルタンク7に向かって下りの傾斜部を設けることにより、空気の流れとは反対に潤滑油をオイルタンク7に還流させることができる。
【0039】
また、本実施例において、管路9は外気に曝されているのみであるが、管路9の途中に水冷又は空冷によるクーラー(冷却部)を設けてもよい。このクーラーによって冷却された空気をシュラウド部4の内部へ誘導することにより、小歯車1及び大歯車2の周囲の空気温度を低くすることができる。これにより、歯車温度を低くすることができ、小歯車1及び大歯車2の歯面が焼付く可能性を低くすることができる。このため、小歯車1及び大歯車2への給油量を減らすことができ、歯車装置の損失低減に対して更なる効果が期待できる。
【0040】
図2は、本発明による実施例の歯車及びその軸を含む部分の状態を示す断面図である。
【0041】
本図においては、互いにかみ合って歯車対を構成する小歯車1及び大歯車2、小歯車1の軸101及び大歯車2の軸102、並びにシュラウド部4を示している。
【実施例2】
【0042】
図3は、本発明による他の実施例の歯車装置を示す全体構造図である。
【0043】
以下、主として、実施例1と異なる構成について説明する。
【0044】
本図においては、実施例1に比べて、シュラウド部4の内壁面部と歯車対51との隙間19を大きくしてある。シュラウド部4の内壁面部と歯車対51との隙間19(クリアランス)が最も狭い部位は、凸部16a及び16bである。
【0045】
また、シュラウド部4における流路11及び流路12の接続部(開放部)を凸部16a及び16bよりオイルミストガイド5側に設置してある。
【0046】
本図の位置に流路11及び流路12の接続部を設置した場合も、小歯車1及び大歯車2の回転によってオイルミストを含まない空気が隙間19に供給されるため、隙間19にある小歯車1及び大歯車2の歯面に衝突するオイルミストの量を低減することができる。
【0047】
実施例1及び本実施例において示すように、凸部16a及び16bは、流路11及び流路12の接続部に隣接して設けることが望ましい。
【0048】
さらに、オイルミストガイド5によって形成される空間部は、配管17に向かって寸法(幅)が小さくなっている。これにより、オイルミストガイド5に付着した潤滑油を速やかにオイルタンク7に流下させることができる。
【0049】
以上の実施例においては、給油ノズル3を小歯車1と大歯車2とのかみ合わせ部の下方に設置しているが、これに限定されるものではなく、給油ノズル3を小歯車1と大歯車2とのかみ合わせ部の上方に設置してもよい。本発明は、小歯車1及び大歯車2の風損低減を目的とするものであり、給油量は別途制御すべきものだからである。
【符号の説明】
【0050】
1:小歯車、2:大歯車、3:給油ノズル、4:シュラウド部、5:オイルミストガイド、6:歯車箱、7:オイルタンク、8:ミストコレクタ、9:管路、10:ブロワ、11:流路、12:流路、15:ミストコレクトカバー、16a、16b:凸部、17:配管、18:かみ合い部、19:隙間、51:歯車対。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いにかみ合う二個の歯車で構成された歯車対と、前記歯車対の歯面に給油するための給油ノズルと、前記歯車対を収納する歯車対収納部を有する歯車容器と、給油用の潤滑油を貯蔵するオイルタンクと、前記オイルタンクから前記歯車対収納部に空気を供給するための空気流路と、前記歯車容器の内部で発生するオイルミストを前記オイルタンクに還流させるオイルミスト還流流路と、前記オイルミストから前記潤滑油を分離するためのミストコレクタとを含み、前記空気流路は、前記歯車対収納部に接続部を有し、前記歯車と前記歯車対収納部の内壁面部との隙間が最も狭くなる部位は、前記接続部に隣接して設けたことを特徴とする歯車装置。
【請求項2】
前記空気流路は、送風部を有することを特徴とする請求項1記載の歯車装置。
【請求項3】
前記オイルミスト還流流路は、前記歯車対のかみ合い部の下方に設置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記空気流路は、冷却部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯車装置。
【請求項5】
前記給油ノズルは、前記歯車対のかみ合い部の下方に設置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−133042(P2011−133042A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293575(P2009−293575)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(303025663)株式会社日立ニコトランスミッション (25)
【Fターム(参考)】