説明

残容量算出方法、パック電池の出荷前調整方法、残容量算出装置及びパック電池

【課題】シャットダウンして保存された後にシャットダウンから復帰した場合、実際の残容量とのずれが少ない残容量を算出することが可能な残容量算出方法、パック電池の出荷前調整方法、残容量算出装置及びパック電池を提供する。
【解決手段】電源IC6と3.3V電源端子との間に接続されたMOSFET61をオフ状態にすることにより、RSOC(残容量比)を算出する制御部5が含まれる制御基板100がシャットダウンされる。制御基板100がシャットダウンから復帰した場合、最大セル電圧をOCV(開放端子電圧)として特定し、OCVの高/低とRSOCの大/小とを関連付ける一定の放電特性と照合して、放電特性を近似する二次曲線を特定し、特定した二次曲線が表す二次関数に対し、特定した最大セル電圧を代入してRSOCを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシャットダウンコマンドによってオン/オフが切り替わる回路を用いて二次電池の残容量を算出する残容量算出方法、パック電池の出荷前調整方法、残容量算出装置及びパック電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の充放電、残容量の積算等の制御を行う制御部を備えるパック電池では、制御部の消費電流が含まれた放電電流と充電電流とに基づいて周期的に残容量が算出されている。このようなパック電池では、制御部の消費電流が二次電池を僅かに放電させ続けるため、長期間にわたって使用されないことが想定される場合は、制御部の機能をシャットダウンすることによって、二次電池の残容量の低下及び過放電が防止される。パック電池がシャットダウンされた場合、残容量の積算のみならず、それまで制御部が実行していた全ての処理が実行されなくなるため、何らかの対策が必要になることがある。
【0003】
例えば特許文献1では、二次電池が過放電状態に保持された経過時間を演算するパック電池において、パック電池をシャットダウンする前に、過放電状態となったときの日時を不揮発性メモリに記憶しておき、その後、外部の電気機器に接続されてシャットダウンから復帰したときに電気機器から日時情報を取得して、復帰した日時を過放電状態から復帰した復帰日時とするパック電池が開示されている。
同様の技術が開示された特許文献2では、パック電池に内蔵した電波時計から日時情報を取得する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−228703号公報
【特許文献2】特開2009−112180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に開示されたパック電池をシャットダウンして保存する場合、二次電池そのものは自己放電し続けるため、比較的長期にわたって保存された後に充電器に接続されてシャットダウンから復帰したときに、シャットダウン前に保存されていた残容量と実際の残容量とのずれが無視できなくなるという問題があった。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シャットダウンして保存された後にシャットダウンから復帰した場合、実際の残容量とのずれが少ない残容量を算出することが可能な残容量算出方法、パック電池の出荷前調整方法、残容量算出装置及び該残容量算出装置を備えるパック電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る残容量算出方法は、オン/オフが切り替わる算出部で二次電池の残容量を算出する方法であって、前記算出部がオフからオンに切り替わった後に前記二次電池の開放電圧を取得し、取得した開放電圧に基づいて前記二次電池の残容量を算出することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る残容量算出方法は、前記二次電池の開放電圧と容量との関係を示す放電特性を記憶しておき、記憶した放電特性及び取得した開放電圧に基づいて前記二次電池の残容量を算出することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る残容量算出方法は、二次電池の残容量を記憶しておき、オン/オフが切り替わる算出部で二次電池の残容量を算出する方法であって、前記算出部がオフである状態の前後で日時情報を取得し、取得した日時情報の差分の大/小に応じて大/小となるように補正容量を算出し、記憶してある残容量から算出した補正容量を減算して前記二次電池の残容量を算出することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るパック電池の出荷前調整方法は、上述の残容量算出方法を用いて二次電池の残容量を算出するパック電池を製造し、製造したパック電池に、出荷前に外部から充電して前記算出部をオンさせ、オンさせた算出部をオフに切り替えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る残容量算出装置は、オン/オフが切り替わる算出部を備え、二次電池の残容量を算出する残容量算出装置であって、前記算出部がオフからオンに切り替わった後に前記二次電池の開放電圧を取得する取得手段を備え、該取得手段が取得した開放電圧に基づいて前記二次電池の残容量を算出するようにしてあることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る残容量算出装置は、前記二次電池の開放電圧と容量との関係を示す放電特性を記憶する手段を備え、該手段が記憶した放電特性及び前記取得手段が取得した開放電圧に基づいて前記二次電池の残容量を算出するようにしてあることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る残容量算出装置は、二次電池の残容量を記憶しておき、オン/オフが切り替わる算出部を備え、二次電池の残容量を算出する残容量算出装置であって、前記算出部がオフである状態の前後で日時情報を取得する手段と、該手段が取得した日時情報の差分の大/小に応じて大/小となるように補正容量を算出する算出手段とを備え、記憶してある残容量から、前記算出手段が算出した補正容量を減算して前記二次電池の残容量を算出するようにしてあることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るパック電池は、上述の残容量算出装置と、該残容量算出装置によって残容量が算出される1又は複数の二次電池とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明にあっては、残容量を算出する算出部が含まれる制御部がシャットダウンから復帰した後に取得した二次電池の開放電圧の高低に応じて、二次電池の残容量を新たに算出する。
つまり、シャットダウンされていた期間の長短に関わらず、シャットダウンからの復帰時の開放電圧の高/低に応じて残容量が大/小となるように算出される。
【0016】
本発明にあっては、シャットダウンからの復帰時に取得した二次電池の開放電圧を、開放電圧の高/低と容量の大/小とを関連付ける放電特性と照合することにより、残容量を算出する。
これにより、二次電池の開放電圧と容量とが一定の関係にある場合は、シャットダウンからの復帰時の残容量が正確に算出される。
【0017】
本発明にあっては、残容量を算出する算出部が含まれる制御部がシャットダウンされる前とシャットダウンから復帰した後とで夫々取得した日時情報の差分の大/小に応じて大/小となるように残容量の補正容量を算出し、シャットダウンされる前に記憶した残容量から補正容量を減算した容量を残容量とする。
これにより、制御部がシャットダウンされていた期間の長/短に応じて、記憶していた残容量の減少分が大/小となるように算出される。
【0018】
本発明にあっては、上述した残容量算出装置によって二次電池の残容量が算出される。
これにより、比較的長期間保存された後にシャットダウンから復帰した場合、実際の残容量とのずれが少ない残容量を算出することが可能な残容量算出装置が、パック電池に適用される。
【0019】
本発明にあっては、製造後、出荷前に充電して算出部をオフからオンに切り替え、その後算出部をオフに切り替えるように出荷調整するため、出荷後に使用されないまま長期間保管されていた場合であっても、使用開始時に残容量が正確に算出される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シャットダウンからの復帰時に、制御部が二次電池の開放電圧の高低に応じて残容量を新たに算出する。
これにより、シャットダウンされていた期間の長短に関わらず、シャットダウンからの復帰時の開放電圧の高/低に応じて残容量が大/小となるように算出される。
従って、シャットダウンして保存された後にシャットダウンから復帰した場合、実際の残容量とのずれが少ない残容量を算出することが可能となる。例えば、製造者からのパック電池の出荷後に在庫期間が存在する場合(例えば、在庫期間が長い場合)等において、使用者が在庫から取り出して使用するときに、上記の効果が顕著に表れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1に係るパック電池の構成例を示すブロック図である。
【図2】Aは保存期間を挟んで変化する電池電圧を模式的に示す説明図、Bは保存期間を挟んで変化する残容量を模式的に示す説明図、Cは保存期間を挟んで変化する制御部の状態を模式的に示す説明図である。
【図3】二次電池を構成する1つの電池セルの開放端子電圧と残容量比との関係を例示するグラフである。
【図4】OCV−RSOCの放電特性を近似する複数の近似曲線を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態1に係るパック電池でシャットダウンの復帰時にRSOCを算出するCPUの処理手順を示すフローチャートである。
【図6】通信部から受信したコマンドに応じた処理を行うCPUの処理手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態2に係るパック電池で通信部から受信したコマンドに応じた処理を行うCPUの処理手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態2に係るパック電池で通信部から受信したコマンドに応じた処理を行うCPUの処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るパック電池の構成例を示すブロック図である。図中10はパック電池であり、パック電池10は、パーソナルコンピュータ(PC)、携帯端末等の電気機器20に着脱可能に装着される。パック電池10は、リチウムイオン電池からなる電池セル111,112,113,121,122,123,131,132,133を3個ずつ順に並列接続してなる電池ブロックB11,B12,B13を、この順番に直列接続してなる二次電池1を備える。二次電池1は、電池ブロックB13の正極及び電池ブロックB11の負極が夫々正極端子及び負極端子となるようにしてある。
【0023】
電池ブロックB11,B12,B13の電圧は、夫々独立してA/D変換部4のアナログ入力端子に与えられ、デジタルの電圧値に変換されてA/D変換部4のデジタル出力端子から、マイクロコンピュータからなる制御部5に与えられる。A/D変換部4のアナログ入力端子には、また、二次電池1に密接して配置されており、サーミスタを含む回路によって二次電池1の温度を検出する温度検出器3の検出出力と、二次電池1の負極端子側の充放電路に介装されており、二次電池1の充電電流及び放電電流を検出する電流検出抵抗2の検出出力とが与えられている。これらの検出出力は、デジタルの検出値に変換されてA/D変換部4のデジタル出力端子から制御部5に与えられる。
【0024】
二次電池1の正極端子側の充放電路には、充電電流及び放電電流を夫々遮断するPチャネル型のMOSFET71,72からなる遮断部7が介装されている。MOSFET71,72は、ドレイン電極同士を突き合わせて直列に接続してある。MOSFET71,72夫々のドレイン電極及びソース電極間に並列接続されているダイオードは、寄生ダイオード(ボディダイオード)である。二次電池1の正極端子側の充放電路には、また、電源(レギュレータ)IC6の入力端子が接続されており、電源IC6によって安定化された3.3Vの直流電源が、Pチャネル型のMOSFET61のソース電極及びドレイン電極を介して、制御部5が搭載された制御基板100の3.3V電源入力端子に与えられる。MOSFET61のソース電極及びゲート電極間には、抵抗器62が接続されている。
【0025】
制御部5は、CPU51を有し、CPU51は、プログラム等の情報を記憶するROM52、一時的に発生した情報を記憶するRAM53、時間を計時するタイマ54、及びパック電池10内の各部に対して入出力を行うI/Oポート55と互いにバス接続されている。I/Oポート55は、A/D変換部4のデジタル出力端子、MOSFET71,72,61夫々のゲート電極、及び電気機器20が有する制御・電源部(充電器)21と通信する通信部9に接続されている。ROM52は、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM )又はフラッシュメモリからなる不揮発性メモリである。ROM52には、プログラムの他に、満充電容量(FCC;Full Charge Capacity )の学習値(=学習容量)と、充放電のサイクル数と、残容量、日付情報等の各種保存データと、各種設定データとが保存される。
【0026】
尚、少なくともA/D変換部4、制御部5及び抵抗器62が搭載された制御基板100と、電流検出抵抗2、電源IC6及びMOSFET61とが残容量算出装置を構成する。
【0027】
CPU51は、ROM52に予め格納されている制御プログラムに従って、演算及び入出力等の処理を実行する。例えば、CPU51は、定周期(例えば250m秒)で電池ブロックB11,B12,B13の電圧値と、二次電池1の充放電電流の検出値とを取り込み、取り込んだ電圧値及び検出値に基づいて二次電池1の残容量を積算してRAM53に記憶する。更に、CPU51は、取り込んだ電池ブロックB11,B12,B13の電圧値のうち最も高い電圧(以下、最大セル電圧という)を特定してRAM53に記憶する。電圧値及び充放電電流の検出値の取り込み周期は250m秒に限定されない。
CPU51は、また、残容量のデータを生成し、生成したデータを通信部9の図示しないレジスタに書き込むことによって、残容量のデータを通信部9から出力する。
【0028】
遮断部7は、通常の充放電時にI/Oポート55からMOSFET71,72のゲート電極にL(ロウ)レベルのオン信号が与えられることにより、MOSFET71,72夫々のドレイン電極及びソース電極間が導通するようになっている。二次電池1の充電電流を遮断する場合、I/Oポート55からMOSFET71のゲート電極にH(ハイ)レベルのオフ信号が与えられることにより、MOSFET71のドレイン電極及びソース電極間の導通が遮断される。同様に二次電池1の放電電流を遮断する場合、I/Oポート55からMOSFET72のゲート電極にH(ハイ)レベルのオフ信号が与えられることにより、MOSFET72のドレイン電極及びソース電極間の導通が遮断される。適当に充電された二次電池1が放電状態にある場合、少なくともMOSFET72がオンしており、放電電流が大きいときはMOSFET71もオンするようになっている。
【0029】
電気機器20は、制御・電源部21に接続された端末部22を備える。制御・電源部21は、図示しない商用電源より電力を供給されて端末部22を駆動すると共に、二次電池1の充放電路に充電電流を供給する。制御・電源部21は、また、商用電源から電力の供給が絶たれた場合、二次電池1の充放電路から供給される放電電流により、端末部22を駆動する。制御・電源部21が充電する二次電池1がリチウムイオン電池の場合は、最大の電流、及び最大の電圧を規制した定電流(MAX電流0.5〜1C程度)・定電圧(MAX4.2〜4.4V/電池セル程度)充電が行われ、二次電池1の電池電圧が所定値以上、及び充電電流が一定時間以上所定値以下の条件のときに満充電とされる。
【0030】
制御・電源部21及び通信部9の間では、制御・電源部21をサーバに、通信部9をクライアントにしてSMBus(System Management Bus )方式による通信が行われる。この場合、シリアルクロック(SCL)は制御・電源部21から供給され、シリアルデータ(SDA)は制御・電源部21及び通信部9間で双方向に授受される。本実施の形態では、制御・電源部21が通信部9を2秒周期でポーリングして通信部9の前記レジスタの内容を読み出す。このポーリングにより、例えば、二次電池1の残容量のデータが、通信部9から制御・電源部21に2秒周期で受け渡され、電気機器20が有する図示しない表示器に残容量の値(%)として表示される。
尚、上述したポーリング周期の2秒は、制御・電源部21で決められる値である。通信部9と制御・電源部21との間では、他の通信方式によって通信してもよい。
【0031】
二次電池1の残容量は、二次電池1の学習容量(Ah又はWhで表される値)から放電容量が減算され、電流の積算量又は電力の積算量として算出される。残容量は、学習容量を100%とする百分率で表わされる。二次電池1の学習容量は、二次電池1が満充電の状態から放電終止電圧まで放電する間の、放電電流又は放電電力の積算量でもよいし、放電終止電圧まで放電した状態から満充電の状態となるまでの、充電電流又は充電電力の積算量であってもよい。制御部5は、残容量を積算するだけでも数百μAの電流を消費し続けるため、二次電池1の電池電圧が放電終止電圧以下に低下した場合は、二次電池1の過放電を防止するために、制御基板100がシャットダウンされる。これにより、制御部5がシャットダウンされて二次電池1から流出する漏れ電流は30μA程度となる。尚、パック電池10の出荷時は、制御基板100がシャットダウンされている。
【0032】
CPU51の処理によって制御基板100がシャットダウンされる場合は、I/Oポート55を介してMOSFET61のゲート電極にHレベルのオフ信号が与えられる。制御基板100がシャットダウンされているときは、電源IC6の出力端子に接続されたMOSFET61のゲート電極とソース電極とが抵抗器62を介して同電位となるため、MOSFET61がオフ状態に保持される。制御・電源部21から二次電池1に対する充電が開始された場合、図示しない回路よりMOSFET61のゲート電極に強制的にLレベルのオン信号が与えられてMOSFET61がオンし、制御基板100のシャットダウンが解除されるようになっている。MOSFET61のゲート電極には、制御部5のCPU51が動作し始めた直後から、I/Oポート55よりLレベルのオン信号が与えられ続ける。
【0033】
次に、制御基板100をシャットダウンしてパック電池10を保存している間の状態変化について説明する。このようなシャットダウンは、パック電池を製造して充電した後、出荷する前に実行される。
図2のAは保存期間を挟んで変化する電池電圧を模式的に示す説明図、Bは保存期間を挟んで変化する残容量を模式的に示す説明図、Cは保存期間を挟んで変化する制御部5の状態を模式的に示す説明図である。図において横軸は時間(t)を表し、縦軸の夫々は、電池電圧(相対値)、残容量(相対値)及び制御部5の状態を表す。図2では、保存期間より前の期間で二次電池1が充電されており、保存期間より後の期間で使用が開始されて放電が始まる場合の例が示されている。但し、保存期間中の時間軸のスケールを適当に縮小してある。
【0034】
図2Cに示すように、保存期間の前に起動中であった制御部5の状態が、保存期間が始まる時にシャットダウン中となり、保存期間が終わる時にシャットダウンから復帰して再び起動中となる。
一方、二次電池1の電池電圧及び残容量の夫々は、図2A及び2Bに示すように保存期間中に自己放電によって徐々に低下して、白抜き矢印の長さ分だけ減少する。この間の電池電圧及び残容量の低下率は、一般的には図示した直線のように一定とはならず、時間の経過と共に変化するものとなる。保存期間より後の使用期間における電池電圧及び残容量は、放電電流の大きさに応じた割合で低下して行く。
【0035】
次に、電池電圧と残容量との関係について説明する。
図3は、二次電池1を構成する1つの電池セルの開放端子電圧と残容量比との関係を例示するグラフである。図中横軸は、満充電容量(FCC)に対する残容量(RC;Remaining Capacity )の比として定義される残容量比(以下、RSOC;Relative State Of Capacity ともいう)(%)を表し、縦軸は、開放端子電圧(以下、OCV;Open Circuit Voltage ともいう)(V)を表す。
【0036】
本発明者らは、二次電池1の温度及び劣化度の何れもが、OCVに対するRSOCの放電特性に大きな影響を及ぼさないとの知見を得ている。一方、制御基板100がシャットダウンから復帰した直後は、遮断部7のMOSFET71,72が充放電路を遮断しているため、二次電池1の電池電圧が略OCVとみなされる。これにより、制御基板100がシャットダウンから復帰した場合、検出した二次電池1の電池電圧を図3に示すOCV−RSOCの放電特性と照合することにより。RSOCを算出することができる。本実施の形態1では、二次電池1の電池電圧として電池セル111,112,113,121,122,123,131,132,133のうちの最大セル電圧を用いるが、これに限定されず、例えば平均的なセル電圧を用いてもよい。
【0037】
次に、二次電池1の端子電圧をOCV−RSOCの放電特性と照合する具体的な方法について説明する。
図4は、OCV−RSOCの放電特性を近似する複数の近似曲線を示すグラフである。図中横軸は残容量比(RSOC)(%)を表し、縦軸は開放端子電圧(OCV)(mV)を表す。図4では、太い実線で示されたOCV−RSOCの放電特性を4つの区間に分け、夫々の区間をOCVが低い方から、細い実線、破線、一点鎖線及び二点鎖線の夫々で示された近似曲線A、B、C及びDによって近似している。本実施の形態1では近似曲線A,B,C,Dを二次曲線としているが、これに限定されるものではなく、例えば複数の直線を用いてOCV−RSOCの放電特性を直線近似するようにしてもよい。
【0038】
より具体的には、OCV−RSOCの放電特性のうち、OCVが3400mVより小さい領域を近似曲線Aで近似する。以下同様に、OCVが3400mVより大きく3565mVより小さい範囲、3565mVより大きく3660mVより小さい範囲、及び3660mVより大きい範囲の夫々を、近似曲線B、C及びDによって近似する。これにより、RSOCが7%より小さい範囲、7%から25%の範囲、25%から53%の範囲、及び53%より大きい範囲の夫々が、近似曲線A、B、C及びDによって近似される。
【0039】
以下では、上述したパック電池10の制御部5の動作を、それを示すフローチャートを用いて説明する。以下に示す処理は、ROM52に予め格納された制御プログラムに従ってCPU51により実行される。
図5は、本発明の実施の形態1に係るパック電池10でシャットダウンの復帰時にRSOCを算出するCPU51の処理手順を示すフローチャートである。図5の処理は、250m秒周期で起動されるが、これに限定されるものではない。図5の処理でRAM53から読み出される最大セル電圧は、前述したように250m秒周期でRAM53に書き込まれたものである。
【0040】
図5の処理が起動された場合、CPU51は、RAM53から最大セル電圧を読み出し(S11)、読み出した最大セル電圧をカバーする1つの近似曲線を、図4に示す4つの近似曲線A,B,C,Dのうちから特定する(S12)。具体的には、図4で示されるように、3400mVより低電圧、3400mVから3565mV、3565mVから3660mV、及び3660mVより高電圧という各OCVの範囲に含まれる最大セル電圧について、夫々の範囲を近似する近似曲線A、B、C、及び近似曲線Dを特定する。
【0041】
その後、CPU51は、特定した近似曲線から、読み出した最大セル電圧に対応するRSOCを算出する(S13)。具体的には、特定した近似曲線が表すOCV及びRSOCの関係式(二次関数)に対し、読み出した最大セル電圧をOCVとして代入することによってRSOCを算出する。そして、CPU51は、算出したRSOCをRAM53に記憶して(S14)図5の処理を終了する。
以後、CPU51は、図示しない定周期(例えば250m秒)の処理によって、RAM53に記憶したRSOCを逐次更新する。
【0042】
次に、RSOCのデータを通信部9から送信する処理と、シャットダウンを行う際の処理とについて説明する。
図6は、通信部9から受信したコマンドに応じた処理を行うCPU51の処理手順を示すフローチャートである。図6の処理は、制御・電源部21からのポーリング周期より短い周期(例えば1秒周期)で起動されるが、これに限定されるものではない。
【0043】
図6の処理が起動された場合、CPU51は、通信部9でコマンドを受信したか否かを判定し(S20)、受信していない場合(S20:NO)、そのまま図6の処理を終了する。コマンドを受信した場合(S20:YES)、CPU51は、受信したコマンドが残容量の問い合わせであるか否かを判定し(S21)、問い合わせである場合(S21:YES)、RAM53に記憶したRSOCを読み出して(S22)RSOCのデータ生成し(S23)、生成したデータを通信部9から送信して(S24)図6の処理を終了する。
【0044】
ステップS21で、受信したコマンドが残容量の問い合わせではない場合(S21:NO)、CPU51は、受信したコマンドがシャットダウンの要求であるか否かを判定する(S25)。シャットダウンの要求である場合(S25:YES)、CPU51は、通信部9から前記要求に対する応答を送信した(S26)後に、I/Oポート55を介してMOSFET61のゲート電極にHレベルのオフ信号を与える。これにより、MOSFET61がオフ状態となり、電源IC6と制御基板100とが分離されて制御基板100がシャットダウンされる(S27)。その後、CPU51は図6の処理を終了する。
【0045】
ステップS25で、受信したコマンドがシャットダウンの要求ではない場合(S25:NO)、CPU51は、受信したその他のコマンドに対応する処理を行い(S28)、通信部9から応答を送信した(S29)後に、図6の処理を終了する。
【0046】
以上のように本実施の形態1によれば、RSOCを算出する制御部が含まれる制御基板がシャットダウンから復帰した後に特定した最大セル電圧の高低に応じて、二次電池のRSOCを新たに算出する。つまり、制御部がシャットダウンされていた期間の長短に関わらず、シャットダウンからの復帰時のOCVの高/低に応じてRSOCが大/小となるように算出される。
従って、シャットダウンして保存された後にシャットダウンから復帰した場合、実際の残容量とのずれが少ない残容量を算出することが可能となる。
【0047】
また、シャットダウンからの復帰時に特定した最大セル電圧を、OCVの高/低とRSOCの大/小とを関連付ける放電特性と照合することにより、RSOCを算出する。ここでは、電池セルの温度及び劣化度の何れもが、OCVに対するRSOCの放電特性に大きな影響を及ぼさないとの知見が得られている。
従って、二次電池の開放電圧と容量とが一定の関係にあることを利用して、シャットダウンからの復帰時の残容量を正確に算出することが可能となる。
【0048】
更にまた、残容量算出装置によって二次電池の残容量が算出される。
従って、シャットダウンして保存された後にシャットダウンから復帰した場合に、実際の残容量とのずれが少ない残容量を算出することが可能な残容量算出装置をパック電池に適用することが可能となる。
【0049】
更にまた、出荷前に充電して一旦立ち上げた制御基板をシャットダウンさせるように出荷調整するため、出荷後に使用されないまま長期間保管されていた場合であっても、使用開始時に残容量を正確に算出することが可能となる。
【0050】
尚、本実施の形態1にあっては、残容量のデータとして生成したRSOCのデータを通信部9から送信したが、これに限定されるものではない。例えば、RSOCにFCCを乗じて得たRCから残容量のデータを生成して通信部9から送信するようにしてもよい。
【0051】
(実施の形態2)
実施の形態1が、シャットダウンから復帰した場合、残容量を新たに算出する形態であるのに対し、実施の形態2は、シャットダウンの前後で取得した日時情報の差分に応じて、記憶してある残容量を削減する形態である。本実施の形態2では、パック電池10の放電電流として電気機器20で消費される消費電流が略一定であるため、電気機器20に装着されたパック電池10が使用可能な残時間を残容量として表す。
【0052】
ところで、パック電池10をシャットダウンして保存した場合、例えば24ヶ月が経過する都度、二次電池1の自己放電により、電気機器20で使用可能な時間に換算して約17分だけ残容量が減少することが分かっている。そこで、シャットダウン期間中は1ヶ月あたり0.7分(≒17/24)ずつ残容量が減少するものとして残容量を補正する。換言すれば、(消費電流)×(時間)[Ah]で表される容量が減少する方向に補正する。
このようにして算出及び補正される残容量は、電気機器20での消費電流が略一定であることを前提としているため、この消費電流の設定が前提と異なる場合は、上述した0.7分/月という割合が変わることは言うまでもない。
【0053】
本実施の形態2では、通信部9からシャットダウン要求を受信した場合、その時にRAM53に記憶している残容量をROM52に保存すると共に、通信部9を介して日付情報を取得してROM52に保存した後に制御基板100をシャットダウンさせる。一方、シャットダウンから復帰した場合、初回の残容量の問い合わせの際に通信部9を介して日付情報を取得し、取得した日付情報から保存した日付情報を減算して得たシャットダウン期間に0.7を乗じて補正容量を算出し、保存した残容量から補正容量を減算して残容量とする。
実施の形態2に係るパック電池10の構成は、実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。
【0054】
以下では、上述したパック電池10の制御部5の動作を、それを示すフローチャートを用いて説明する。以下に示す処理は、ROM52に予め格納された制御プログラムに従ってCPU51により実行される。
図7及び8は、本発明の実施の形態2に係るパック電池で通信部9から受信したコマンドに応じた処理を行うCPU51の処理手順を示すフローチャートである。図7の処理は、制御・電源部21からのポーリング周期より短い周期(例えば1秒周期)で起動されるが、これに限定されるものではない。ここで用いる初回フラグは、シャットダウンから復帰したときの初期化処理によって1にセットされるフラグである。また、シャットダウンフラグは、通信部9からシャットダウン要求を受信したときに1にセットされるフラグである。
【0055】
図7の処理が起動された場合、CPU51は、通信部9でコマンドを受信したか否かを判定し(S31)、受信していない場合(S31:NO)、そのまま図7の処理を終了する。コマンドを受信した場合(S31:YES)、CPU51は、受信したコマンドが残容量の問い合わせであるか否かを判定し(S32)、問い合わせである場合(S32:YES)、初回フラグが1にセットされているか否か、即ちシャットダウンから復帰した1回目の問い合わせの場合であるか否かを判定する(S33)。
【0056】
初回フラグが1にセットされていない場合(S33:NO)、即ち2回目以降の残容量の問い合わせの場合、CPU51は、残容量(残時間)をRAM53から読み出して(S34)、残容量のデータを生成し(S35)、生成したデータを通信部9から送信して(S36)図7の処理を終了する。初回フラグが1にセットされている場合(S33:YES)、即ちシャットダウンから復帰した1回目の残容量の問い合わせの場合、CPU51は、初回フラグをゼロクリアした(S37)後に、通信部9から日付情報要求を送信して(S38)図7の処理を終了する。
【0057】
ステップS32で、受信したコマンドが残容量の問い合わせではない場合(S32:NO)、CPU51は、受信したコマンドがシャットダウンの要求であるか否かを判定する(S41)。シャットダウンの要求である場合(S41:YES)、CPU51は、シャットダウンフラグを1にセットし(S42)、RAM53に記憶している残容量を、不揮発性メモリからなるROM52に保存した(S43)後に、通信部9から日付情報要求を送信して(S44)図7の処理を終了する。
【0058】
次に図8の処理について説明する。ステップS41で、受信したコマンドがシャットダウンの要求ではない場合(S41:NO)、CPU51は、受信したコマンドが日付の設定であるか否かを判定し(S51)、日付の設定である場合(S51:YES)、通信部9から応答を送信する(S52)。その後、CPU51は、シャットダウンフラグが1にセットされているか否か、即ちシャットダウン要求を既に受信しているか否かを判定し(S53)、フラグが1にセットされている場合(S53:YES)、日付の設定コマンドを受信して取得した日付情報をROM52に保存した(S54)後に、MOSFET61をオフ状態にして制御基板100をシャットダウンし(S55)、図7の処理を終了する。
【0059】
ステップS53でシャットダウンフラグが1にセットされていない場合(S53:NO)、CPU51は、日付の設定コマンドを受信して取得した日付情報からROM52に保存した日付情報を減算してシャットダウン期間を算出する(S56)。次いで、CPU51は、算出したシャットダウン期間を月単位に丸めた値にして0.7を掛け算することにより、分単位の補正容量(残時間)を算出する(S57)。更に、CPU51は、算出した分単位の補正容量をROM52に保存した残容量から減算して、残時間として表される残容量を算出し(S58)、算出した残容量をRAM53に記憶して(S59)図7の処理を終了する。
【0060】
ステップS51で、受信したコマンドが日付の設定ではない場合(S51:NO)、CPU51は、その他のコマンドに対応する処理を行い(S61)、通信部9から応答を送信した(S62)後に、図6の処理を終了する。
【0061】
その他、実施の形態1に対応する箇所には同様の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0062】
以上のように本実施の形態2によれば、残容量を算出する制御部が含まれる制御基板がシャットダウンされる前に通信部から受信してROMに保存した日時情報と、シャットダウンから復帰した後に通信部から受信した日時情報との差分の大/小に応じて残容量の補正容量が大/小となるように算出し、シャットダウンされる前にROMに保存した残容量から補正容量を減算した容量を残容量とする。
従って、シャットダウンされていた期間の長/短に応じて、記憶していた残容量の減少分が大/小となるように算出することが可能となる。
【0063】
尚、本実施の形態2にあっては、通信部9を介して日付情報を取得し、通信部9からシャットダウン要求を受信したときに、取得した日付情報をROM52に保存したが、これに限定されるものではない。例えば、二次電池1から常時給電される時計ICを用意し、日付情報を前記時計ICから取得し、制御基板100がシャットダウンされている間は、前記時計ICを待機(HALT)状態にして日付情報を保持させるようにしてもよい。
【0064】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
1 二次電池
2 電流検出抵抗
4 A/D変換部(取得手段)
5 制御部(算出部)
51 CPU
52 ROM(記憶する手段)
53 RAM
6 電源IC
7 遮断部
9 通信部
10 パック電池
20 電気機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オン/オフが切り替わる算出部で二次電池の残容量を算出する方法であって、
前記算出部がオフからオンに切り替わった後に前記二次電池の開放電圧を取得し、
取得した開放電圧に基づいて前記二次電池の残容量を算出すること
を特徴とする残容量算出方法。
【請求項2】
前記二次電池の開放電圧と容量との関係を示す放電特性を記憶しておき、
記憶した放電特性及び取得した開放電圧に基づいて前記二次電池の残容量を算出すること
を特徴とする請求項1に記載の残容量算出方法。
【請求項3】
二次電池の残容量を記憶しておき、オン/オフが切り替わる算出部で二次電池の残容量を算出する方法であって、
前記算出部がオフである状態の前後で日時情報を取得し、
取得した日時情報の差分の大/小に応じて大/小となるように補正容量を算出し、
記憶してある残容量から算出した補正容量を減算して前記二次電池の残容量を算出すること
を特徴とする残容量算出方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の残容量算出方法を用いて二次電池の残容量を算出するパック電池を製造し、
製造したパック電池に、出荷前に外部から充電して前記算出部をオンさせ、
オンさせた算出部をオフに切り替えること
を特徴とするパック電池の出荷前調整方法。
【請求項5】
オン/オフが切り替わる算出部を備え、二次電池の残容量を算出する残容量算出装置であって、
前記算出部がオフからオンに切り替わった後に前記二次電池の開放電圧を取得する取得手段を備え、
該取得手段が取得した開放電圧に基づいて前記二次電池の残容量を算出するようにしてあること
を特徴とする残容量算出装置。
【請求項6】
前記二次電池の開放電圧と容量との関係を示す放電特性を記憶する手段を備え、
該手段が記憶した放電特性及び前記取得手段が取得した開放電圧に基づいて前記二次電池の残容量を算出するようにしてあること
を特徴とする請求項5に記載の残容量算出装置。
【請求項7】
二次電池の残容量を記憶しておき、オン/オフが切り替わる算出部を備え、二次電池の残容量を算出する残容量算出装置であって、
前記算出部がオフである状態の前後で日時情報を取得する手段と、
該手段が取得した日時情報の差分の大/小に応じて大/小となるように補正容量を算出する算出手段とを備え、
記憶してある残容量から、前記算出手段が算出した補正容量を減算して前記二次電池の残容量を算出するようにしてあること
を特徴とする残容量算出装置。
【請求項8】
請求項5から7の何れか1項に記載の残容量算出装置と、該残容量算出装置によって残容量が算出される1又は複数の二次電池とを備えることを特徴とするパック電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−242135(P2012−242135A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109803(P2011−109803)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】