説明

殺菌された異種移植片組織

本発明は、ヒトへの移植用の実質的に非免疫原性の異種移植片を含む製造物品を提供する。また、本発明は、ヒト以外の動物から軟組織の少なくとも一部分を取り出して異種移植片を与え、該異種移植片を生理食塩水及びアルコール中で洗浄し、該異種移植片を細胞破壊処理に付し、該異種移植片を架橋剤で処理し、そして該異種移植片をプロテオグリカン除去因子及び/又はグリコシダーゼで消化することによる異種移植片の製造方法も提供する。さらに、本発明は、実質的に非免疫原性の異種移植片材料を得、該異種移植片材料を少なくとも1種の架橋剤で処理し、そして該架橋異種移植片材料を放射線処理に付す工程を有する異種移植片の滅菌方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠陥のあるヒト組織の治療の分野に関し、特に、ヒト以外の動物からの実質的に免疫学的に適合性のある異種移植片材料を使用する欠陥のある又は損傷を受けたヒト組織の置換及び修復に関する。
【背景技術】
【0002】
異種移植術は、(a)ヒト以外の動物源からの生きた細胞、組織若しくは器官又は(b)ヒト以外の動物の生きた細胞、組織又は器官と生体外で接触しているヒトの体液、細胞、組織若しくは器官のいずれかをヒトの患者に移植し、埋め込み又は注入することを伴う処置である。同種移植片の移植用の組織は、一般に、例えば米国特許第5071741号、同5131850号、同5160313号及び同5171660号に開示されているように、貯蔵中の細胞の生存能力を最適化させるために低温保存される。
【0003】
いったん個体に移植されると、異種移植片は、該異種移植片の慢性及び超急性拒絶反応のような免疫原性反応を引き起こし得る。異種移植片材料は、患者への移植前に免疫原性を減少させるために化学的に処理され得る。例えば、米国特許第4755593号に詳細に説明されているように、その抗原性を減少させるために、グルタルアルデヒドを使用して異種移植組織を架橋させ又は「なめす」。脂肪族及び芳香族ジアミン化合物のような他の薬剤は、コラーゲンペプチドのアスパラギン酸の側鎖カルボキシル基とグルタミン酸残基とを介した追加の架橋を与え得る。また、グルタルアルデヒドとジアミンによるなめしは、異種移植片組織の安定性をも増大させる。しかしながら、異種移植技術においては、実質的に免疫原性ではない異種移植片材料に対する必要性がなお存在している。
【0004】
さらに、米国組織バンク協会の基準(Woll JE外,「Standards for Tissue Banking」(米国組織バンク協会,バージニア州マクレーン))は、処理前と処理後に培養液を得ることを推奨したが、これらの基準は、処理後の静菌という見込まれる問題に対処しておらず、又は培養方法を特定していない(MMWR51(10),207−210(2002年3月15日))。無菌処理は、微生物による汚染を根絶せず(CDC,「腱同種移植片を使用した前十字靱帯再建後の敗血性関節炎」,フロリダ及びルイジアナ,2000,(MMWR50,1081−3(2001))、そして抗生剤/抗真菌剤溶液はクロストリジウム属細菌のような微生物の胞子を排除しないであろう。従って、異種移植技術においては、実質的に非免疫原性の異種移植材料を滅菌する効果的な方法に対する必要性が存在している。
【特許文献1】米国特許第5071741号明細書
【特許文献2】米国特許第5131850号明細書
【特許文献3】米国特許第5160313号明細書
【特許文献4】米国特許第5171660号明細書
【特許文献5】米国特許第4755593号明細書
【非特許文献1】MMWR,2002年3月15日,第51巻(10),p.207−210
【非特許文献2】MMWR,2001年,第50巻,p.1081−1083
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ヒトへの移植用の実質的に非免疫原性の異種移植片材料を滅菌する方法を提供する。本発明の方法は、放射線による処理、凍結と解凍の1回以上のサイクル、化学架橋剤による処理、アルコールによる処理又はオゾン処理及び滅菌を単独で又はそれらの組み合わせで含む。これらの方法に加えて又はその代わりに、本発明の方法は、細胞破壊処理、異種移植片の炭水化物部分のグリコシダーゼ消化又はプロテオグリカン除去因子による処理を任意の順序で単独又はそれらの組み合わせで含む。随意として、異種移植片をさらなる架橋のためにアルデヒドにさらすことができる。上記処理工程の一つ以上の後に、本発明の方法は、相当する天然のヒト組織と実質的に同一の機械的性質を有する異種移植片を与える。
【0006】
一具体例では、本発明の方法は、化学的処理と最終処理の付加的な組み合わせである。この具体例は、有利には、電子線照射又はγ線照射のいずれかに当てはまる産物照射滅菌のための線量の確認を与える。
【0007】
特定の具体例では、電子線レベルは、ANSI/AAMI/ISO11137無菌保証限界(10−6)によって致死未満量評価により決定される。これは、本願の場合において、本方法については17.8kGy又は1.78mRad(産業上使用される前者の用語と同義)の有効線量を生じさせる。
【0008】
17.8kGyの線量は、放射線及び移植片の完全性を研究する当業者による公表と一致する。グルタルアルデヒドによる架橋は、コラーゲン構造を安定化させ、移植片の免疫認識を弱めるために使用され、且つ、ウイルスの不活性化に関わる滅菌効果を付与する。裏付けの生化学的データ(実施例3参照)によって示されるように、この具体例は、有利な完全性及び移植性を有する本発明の処理後の装置を提供する。
【0009】
別の具体例では、本発明は、ヒト以外の動物から軟組織の少なくとも一部分を取り出して異種移植片を準備し、該異種移植片を水及びアルコール中で洗浄し、そして該異種移植片を紫外線照射、アルコール浸漬、オゾン処理及び凍結/解凍循環よりなる群から選択される少なくとも1種の処理に付すことを含み、それによって該異種移植片が相当する天然のヒト組織と実質的に同一の機械的性質を有する、ヒトへの移植用の異種移植片の製造方法を提供する。
【0010】
さらなる具体例では、本発明は、ヒトへの移植用の滅菌された実質的に非免疫原性の異種移植片において、該移植片がグリコシダーゼ消化に対して感受性のある表面炭水化物部分を実質的に有しておらず、それによって該部分が相当する天然のヒト組織と実質的に同一の機械的性質を有する、ヒトへの移植用の滅菌された実質的に非免疫原性の異種移植片を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図面の簡単な説明
図1は、材料特性群の比較図であり、モジュラスは比較する目的のためにMPa×10-1で報告されている。処理済み及び未処理ブタ試験群間では、極限強さ、降伏強さ又は極限歪のパラメーターにいかなる有意な差も見出されなかった。処理済み及び非処理ブタ群の間には降伏歪とモジュラスで僅かな有意ではない差が存在した。これらの差は、処理及び貯蔵による組織の水和の結果によるものと考えられ、処理前及び処理後の材料特性における重要な差を示すものではない。ヒト同種移植片群は、比較する目的のために与えられている。ブタ群とヒト移植片との間には、極限強さ、降伏強さ又は極限歪若しくは降伏歪のパラメーターに有意な差は見出されなかった。ブタ及びヒト群の間でモジュラスの差が存在したが、この差はACL再建移植片について許容できる値内にあり、そしてこれはおそらく成熟したヒト供与者と比較して若い(生後6〜10ヶ月)ブタから採取された靱帯の対応した性質によるものと考えられる。
【0012】
発明の詳細な説明
定義
本明細書で使用するときに、用語「異種移植片」とは、ある種の動物から別の種の動物に移される移植片をいう(ステッドマン医学大事典,ウィリアム&ウィルキンス、メリーランド州バルチモア,1995)。本明細書で使用するときに、用語「異種」とは、ある種の動物から別の種の動物に移される組織をいう(同上)。また、関節軟骨の置換は同種移植によることもできる(ある個体又は動物からその同一種の別のものになされる移植(「同種異系」),Sengupta外,(1974)J.Bone Suro.56B(1):167−177;Rodrigo外,(1978)Clin Orth.134:342−349)。異種移植片用の軟組織に関しては、当業者に周知の手順に従ってブタ腹膜又は心膜を採取して同種移植片又は異種移植片を形成させることができる。例えば、米国特許第4755593号に議論されている腹膜採取手順を参照されたい。
【0013】
本明細書で使用するときに、例えば、細胞破壊処理などの場合に、用語「細胞破壊」とは、細胞を死滅させるための処理をいう。また、異種移植片組織は、移植の準備の際に様々な物理的処理にも付され得る。例えば、米国特許第4755593号には、異種移植片組織を延伸による機械的歪に付してさらに薄く且つ固い移植用の生体材料を製造することが開示されている。同種移植片移植のための組織は、一般に、例えば米国特許第5071741号、同5131850号、同5160313号及び同5171660号に開示されているように、貯蔵中の細胞の生存能力を最適化させるために低温保存される。米国特許第5071741号には、組織の凍結が細胞外又は細胞内での氷結晶の形成及び浸透性脱水のためその内部の細胞に機械的損傷を生じさせることが開示されている。本明細書で使用するときに、用語「細胞外成分」とは、脊椎動物の組織に存在するような任意の細胞外の水、コラーゲン及び弾性繊維、プロテオグリカン、フィブロネクチン、エラスチン並びにその他の糖蛋白質をいう。
【0014】
本明細書で使用するときに、用語「軟組織」とは、半月板及び関節軟骨のような軟骨構造、前十字靱帯のような靱帯、腱及び心臓弁をいう。さらに、大腿骨の関節丘は、軟骨性の内側半月及び外側半月軟組織を介して頸骨の表面プラトーと関節をなし、そしてこれらの構造の全ては、様々な靱帯によって所定位置に保持されている。内側半月及び外側半月は、繊維軟骨細胞と呼ばれる細胞及びコラーゲンと弾性繊維の細胞外マトリックス並びに様々なプロテオグリカンからなる構造である。損傷を受けていない半月板は、膝関節内の相互作用する骨表面のために適切な力分配、安定化及び潤滑を確保することによって膝のための衝撃吸収を与えるが、このものは、正常な活動中に度重なる圧縮負荷に日常的にさらされる。内側半月及び外側半月の衝撃吸収機能の殆どは、軟骨に固有の弾性に由来する。半月板が負傷、病気又は炎症により損傷を受けると、膝関節内に関節の変化が生じ、その結果として機能が失われる。
【0015】
本明細書で使用するときに、用語「部分」とは、個々の軟組織異種移植片材料の全て又はその全てに満たないことをいう。
【0016】
本明細書で使用するときに、用語「慢性拒絶反応」とは、ある個体に移植された異種移植片に対する該個体の免疫反応をいう。典型的には、慢性拒絶反応は、異種移植片を受容した個体の血清中のIgG自然抗体と該異種移植片の細胞及び/又は細胞マトリックス及び/又は細胞外成分上に発現する炭水化物部分との相互作用により仲介される。例えば、霊長類以外の動物由来の(例えば、ブタ又はウシ起源の)異種移植片のヒトへの移植は、主としてヒトの血清中に存在するIgG自然抗Gal抗体と異種移植片中で発現する炭水化物構造Galα1−3Galβ1−4GlcNAc−R(α−ガラクトシル又はα−galエピトープ)との相互作用によって妨げられる(Stone KR外,「カニクイザル内でのブタ及びウシ軟骨移植物」:I.「慢性異種移植片拒絶反応のモデル」,Transplantation63,640−645(1997)及びGalili U外,「カニクイザル内でのブタ及びウシ軟骨移植物」:II.「慢性拒絶反応中の抗Gal応答の変化」,Transplantation63,646−651(1997))。慢性拒絶反応では、免疫系は、異種移植片の移植の1〜2週間以内に典型的に応答する。
【0017】
「慢性拒絶反応」とは異なり、本明細書で使用するときに、用語「超急性拒絶反応」とは、ある個体に移植された異種移植片に対する該個体の免疫反応であって、その拒絶反応が該異種移植片を受容した個体の血清中のIgM自然抗体と細胞上で発現する炭水化物部分との相互作用によって典型的に仲介されるものをいう。この相互作用は、数分〜2,3時間以内に受容個体の血管床の溶解及び血流の停止に起因して補体系を活性化させる。
【0018】
本明細書で使用するときに、用語「表面炭水化物部分」又は「第1表面炭水化物部分」とは、炭水化物鎖の非還元末端での末端α−ガラクトシル糖をいう。本明細書で使用するときに、用語「第2表面炭水化物部分」とは、炭水化物鎖の非還元末端でのN−アセチルラクトサミン残基をいい、該残基は、もともと又はα−ガラクトシルエピトープの事前の開列の結果としてキャップされていない。
【0019】
組織処理
本発明は、ヒトへの移植用の異種移植片の慢性拒絶反応に向けられる。従って、本発明の方法に従って製造された異種移植片は、実質的に非免疫原性であると同時に、一般には相当する天然ヒト組織の機械的性質を保持する。
【0020】
異種移植片は処理中にいくらか収縮し得るが、本発明に従って製造された異種移植片は、相当する天然ヒト組織の一般的な外観を有するであろう。
【0021】
本発明は、一具体例では、ヒトへの移植用の異種移植片組織を製造し又は処理するための方法を提供する。この組織は、本発明の異種移植片を製造するために任意のヒト以外の動物から採取できる。また、ヒト以外の遺伝子導入動物又は遺伝的に改変されたヒト以外の動物からの組織を本発明に従う異種移植片として使用することもできる。好ましくは、ウシ、ヒツジ又はブタの軟組織、好ましくはブタ軟組織は、異種移植片を製造するために使用される軟組織源としての役割を果たす。或いは、本発明の異種移植片を形成させるためにブタの心膜を使用することもできる。
【0022】
本発明の方法の第1工程では、そのままの軟組織がヒト以外の動物から取り出される。また、心膜も当業者に周知の方法によって採取され且つ損傷を受けた軟組織を置換し又は修復するために移植できる。
【0023】
本発明によれば、軟組織は、屠殺直後の動物から採取され、そして好ましくは好適な滅菌等張溶液その他の組織保存溶液中に直ちに置かれる。好ましくは、採取は、動物の屠殺後可能な限り早く行い、且つ、好ましくは、厳格な無菌技術の下で、組織の酵素分解を最小化させるために低温で、即ち、約5℃〜約20℃のおおよその範囲で実行される。
【0024】
採取された組織は、隣接する組織から解離される。いったん取り出されたならば、随意としてこの組織部分は、ステント、リングなどで支持される。この部分を注意深く同定し、そして付着組織、プラーク、石灰化などから解離させ、それによって異種移植片を形成させる。
【0025】
本発明の一形態では、当業者に周知の手順に従ってブタの腹膜又は心膜を採取して異種移植片を形成させる。例えば、米国特許第4755593号で議論されている腹膜採取手順を参照されたい。
【0026】
本発明の好ましい形態では、次いで異種移植片を約10容量の滅菌冷水で洗浄して残留する血液蛋白質及び水溶性物質を除去する。次いで、この異種移植片を室温で約5分間アルコール中に浸漬させて組織を滅菌し、そして非コラーゲン物質を除去する。アルコール浸漬後に、異種移植片を直接移植してよく、又は次の処理:放射線処理、アルコールによる処理、オゾン処理、凍結と解凍の1回以上のサイクル及び/又は化学架橋剤による処理の少なくとも一つに付してもよい。これらの処理のうちの一つ以上を異種移植片に適用するときには、該処理は任意の順序で行うことができる。
【0027】
本発明の一具体例では、異種移植片は、約15分間にわたる紫外線照射又は約0.5〜3メガラドの量のγ線照射によって処理される。
【0028】
別の具体例では、異種移植片は、再度アルコール溶液中に置くことによって処理される。任意のアルコール溶液を使用してこの処理を実行することができる。好ましくは、異種移植片は、室温で約70%のイソプロパノール溶液中に置かれる。
【0029】
さらに別の具体例では、異種移植片は、オゾン処理に付される。
【0030】
本発明の方法のさらなる具体例では、異種移植片は、凍結/解凍循環によって処理される。例えば、異種移植片は、該異種移植片が完全に凍結する限りにおいて、即ち、非凍結組織を含む内部温点が残存しない限りにおいて、任意の凍結方法を使用して凍結できる。好ましくは、異種移植片は、該方法のこの工程を実行するために約5分にわたって液体窒素に浸漬される。より好ましくは、異種移植片は、冷凍庫内に置くことによってゆっくりと凍結される。この凍結/解凍循環処理の次の工程では、異種移植片を室温(約25℃)で約10分間にわたる等張生理食塩水浴中への浸漬により解凍させる。繊維の分解を最小化させるために、外部熱又は放射線源は使用しない。
【0031】
さらなる具体例では、随意として異種移植片を化学剤にさらして細胞外成分内の蛋白質をなめし又は架橋させ、さらに異種移植片中に存在する免疫原決定基を減少させる。任意のなめし剤又は架橋剤をこの処理のために使用することができ、そして架橋を完了させ、しかして異種移植片の免疫原性を最適に減少させるために、一つ以上の架橋工程を実行し又は1種以上の架橋剤を使用することができる。例えば、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アジピン酸ジアルデヒドなどのようなアルデヒドを使用して本発明の方法に従う異種移植片の細胞外コラーゲンを架橋させることができる。その他の好適な架橋剤としては、脂肪族及び芳香族ジアミン、カルボジイミド、ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0032】
例えばグルタルアルデヒドのようなアルデヒドを架橋剤として使用するときに、異種移植片は、約0.001%〜約5.0%のグルタルアルデヒド、好ましくは約0.01%〜約5.0%のグルタルアルデヒドを含有し且つ約7.4のpHを有する緩衝化溶液中に置かれ得る。より好ましくは、約(0.01%〜約1.0%)のアルデヒド、最も好ましくは約(0.01%〜約0.20%)のアルデヒドが使用される。任意の好適な緩衝液、例えば、燐酸塩緩衝化生理食塩水又はトリスヒドロキシメチルアミノメタンなどを、架橋反応の持続期間(1〜14日、好ましくは1〜5日、最も好ましくは3〜5日であることができる)にわたって該溶液のpHの制御を維持するのを可能にする限りにおいて使用することができる。
【0033】
或いは、異種移植片は、例えば気化ホルムアルデヒドのような気化アルデヒド架橋剤を含めて蒸気の形態の架橋剤にさらすことができるが、これに限定されない。気化架橋剤は、ある濃度及びpHを有することができ、そして異種移植片は、架橋反応を生じさせるのに好適な時間にわたって該気化架橋剤にさらすことができる。例えば、異種移植片は、約0.001%〜約5.0%、好ましくは約0.01%〜約5.0%の濃度及び約7.4のpHを有する気化架橋剤にさらすことができる。より好ましくは、異種移植片は、約0.01%〜約0.10%の範囲の量のアルデヒドにさらすことができ、最も好ましくは約0.01%〜約0.05%の範囲の量のアルデヒドにさらすことができる。異種移植片は、所定時間(これは、1〜14日、好ましくは1〜5日、最も好ましくは3〜5日であることができる)にわたってアルデヒドにさらされる。気化架橋剤への暴露は、該架橋剤にさらされた異種移植片中の残留化学物質を減少させることができる。
【0034】
架橋反応は、免疫原決定基が異種組織から実質的に除去されるまで続行するが、該反応は、異種移植片の機械的性質が有意に変化する前に終了する。また、ジアミンを架橋剤として使用するときには、グルタルアルデヒドによる架橋はジアミンによる架橋後に生じ、そのため任意の未反応ジアミンがキャップされる。架橋反応を上記のように完了するまで続行した後に、異種移植片をすすいで残留化学物質を除去し、そして(0.01〜0.50M)のグリシン、好ましくは(0.01〜0.20M)のグリシンを添加して残存するいかなる未反応アルデヒド基もキャップする。
【0035】
上記の処理に加えて、異種移植片を細胞破壊処理に付して異種移植片細胞を死滅させる。細胞破壊処理は、異種移植片をグリコシダーゼで消化して該異種移植片から表面炭水化物部分を除去する前に又はその後に行う。グリコシダーゼ処理に加えて又はその代わりに、グリコシダーゼ処理を行う前又は行った後のいずれかに、異種移植片をプロテオグリカン除去因子で処理することができる。
【0036】
異種移植片は、異種移植片組織の細胞を死滅させるために細胞破壊処理に付される。典型的には、表面炭水化物部分が生細胞及び細胞外成分から除去された後に、該生細胞は、表面炭水化物部分を再度発現する。異種移植片の抗原部分の再発現は、異種移植片の継続する免疫原性拒絶反応を誘発し得る。対称的に、死細胞は、表面炭水化物部分を再発現することができない。異種移植片の死細胞及び細胞外成分から抗原性表面炭水化物部分を除去すると、該異種移植片の免疫原性拒絶反応源としての抗原性表面炭水化物部分が実質上永続的に除去される。
【0037】
従って、上に特定した具体例では、本発明の異種移植片は、異種移植片組織の細胞を破壊、即ち死滅させるために上記のような凍結/解凍循環に付される。或いは、本発明の異種移植片は、0.2メガラド〜約3メガラドまでの量を有するγ線で処理される。このような放射線は細胞を死滅させ且つ異種移植片を滅菌する。いったん死滅すると、これらの細胞は、移植された異種移植片の免疫原性拒絶反応の因子であるα−galエピトープのような抗原性表面炭水化物部分をもはや再発現することができない。
【0038】
本発明の具体例では、細胞を死滅させる前又は死滅させた後のいずれかに、異種移植片をグリコシダーゼ、特にα−ガラクトシダーゼのようなガラクトシダーゼによる異種移植片の試験管内消化に付して抗原性表面炭水化物部分を酵素的に除去する。特に、α−galエピトープは、次の反応:
【化1】

で示されるようなα−ガラクトシダーゼによる酵素処理によって除去される。
【0039】
N−アセチルラクトサミン残基は、ヒト及びほ乳類細胞で普通に発現するエピトープであるため、免疫原性ではない。異種移植片のガラクトシダーゼによる試験管内消化は、様々な方法で達成される。例えば、異種移植片は、グリコシダーゼを含有する緩衝溶液中で浸漬又はインキュベートできる。さらに、以下に説明するように、異種移植片に穴をあけて透過性を増大させることができる。或いは、グリコシダーゼを含有する緩衝溶液を加圧下で拍動洗浄方法により異種移植片に強制的に押し入れることができる。
【0040】
異種移植片からのα−galエピトープの除去は、該異種移植片に対する免疫応答を低減させる。α−galエピトープは、霊長類以外の動物及び新世界ザル(南アメリカのサル)内で細胞当たり1×106〜35×106個のエピトープとして発現し、並びに細胞外成分のプロテオグリカンのような高分子上で発現する(Galili U外,「ヒト、類人猿及び旧世界ザルは、有核細胞上でのα−ガラクトシルエピトープの発現という点で他の動物とは相違する」,J.Biol.Chem.263:17755(1988))。しかしながら、このエピトープは、旧世界霊長類(アジア及びアフリカのサル及び類人猿)及びヒトには存在しない(同上)。抗Galは、胃腸細菌上のα−galエピトープ炭水化物構造に対する免疫応答の結果としてヒト及び霊長類内で産生される(Galili U外,「ヒト自然抗α−ガラクトシル免疫グロブリンGとヒト細菌との間の相互作用」,Infect.Immun.56:1730(1988)、Hamadeh R.M外,「ヒト自然抗GalIgGは細菌表面上での別の補体活性化経路の活性化を調節する」,J.Clin.Invest.89:1223(1992))。霊長類以外の動物はα−galエピトープを産生するため、これらの動物からの異種移植片を霊長類に異種移植すると、該異種移植片上のこれらのエピトープに結合している霊長類の抗Galのために拒絶反応を生じる。この結合は、補体結合及び抗体依存性細胞毒性により異種移植片の破壊を生じさせる(Galili U外,「自然抗Gal抗体とα−ガラクトシルエピトープとの相互作用:ヒトにおける異種移植の大きな障害」,Immunology Today 14:480(1993)、Sandrin M外,「ヒト血清中の抗ブタIgM抗体は主としてGalα1−3Galエピトープと反応する」,Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:11391(1993)、Good H外,「ヒト抗ブタ抗体を結合させる炭水化物構造の同定:ヒトにおける非調和性移植が意味するところ」,Transplant.Proc.24:559(1992)、Collins BH外,「霊長目間の心臓異種移植物は超急性拒絶反応におけるα−ガラクトシル決定基の重要性についての証拠を与える」,J.Immunol.154:5500(1995))。さらに、異種移植は、免疫系を大いに活性化させて増加量の高親和性抗Galを産生させる。本発明に従う異種移植片の細胞及び細胞外成分からのα−galエピトープの実質的な除去及び細胞α−galエピトープの再発現の防止は、α−galエピトープと結合する抗Gal抗体に関連する異種移植片に対する免疫応答を低減させる。
【0041】
さらに、本発明の異種移植片は、グリコシダーゼによる処理の前又はそれと同時にポリエチレングリコール(PEG)で処理できる。PEGは、酵素及びコラーゲン細胞外成分に共有結合することによってグリコシダーゼのためのキャリヤーとして作用する。さらに、PEGで処理された異種移植片は免疫原性を減少させる。
【0042】
本発明の具体例では、異種移植片細胞を死滅させる前又は死滅させた後のいずれかに、異種移植片を1種以上の異なるタイプのプロテオグリカン除去因子で洗浄し又は消化させる。このプロテオグリカン除去因子処理は、グリコシダーゼ処理の前又は後に行うことができる。グリコサミノグリカン(GAG)のようなプロテオグリカンは、本発明の異種移植片の細胞外成分内で個々の分子として均一に又は変化量内で点在する。GAGとしては、コンドロイチン4−スルフェート、コンドロイチン6−スルフェート、ケラタンスルフェート、デルマタンスルフェート、ヘパリンスルフェート、ヒアルロン酸及びこれらの2種以上の混合物のようなムコ多糖類が挙げられる。このようなGAGを含むプロテオグリカンは、α−galエピトープのような結合炭水化物を含有する。このようなエピトープは、上記のように、異種移植片が移植されるとすぐに免疫応答を刺激する。異種移植片をプロテオグリカン除去因子で洗浄し又は消化すると、異種移植片の細胞外成分からプロテオグリカン及び結合α−galエピトープの少なくとも一部分が除去され、それによってその移植による異種移植片に対する免疫応答が低減する。プロテオグリカン除去因子処理及びその後の移植の後に、自然組織は、残りのコラーゲンシェルを再度占有する。
【0043】
本発明に使用されるプロテオグリカン除去因子の例としては、コンドロイチナーゼABC、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチンACIIリアーゼ、ケラタナーゼ、トリプシン、フィブロネクチン及びフィブロネクチンの断片のようなプロテオグリカン除去因子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
また、当業者に周知の他のプロテオグリカン除去因子も本発明で使用することが可能である。本発明の異種移植片は、異種移植片の細胞外成分からプロテオグリカンの少なくとも一部分を除去するために有効な量のプロテオグリカン除去因子で処理される。好ましくは、異種移植片は、約1.0TRU/mL〜約100.0TRU/mLを範囲とする量のヒアルロニダーゼのようなプロテオグリカン除去因子、又は約0.01u/mL〜約2.0u/mLを範囲とする量若しくは最も好ましくは約1.0u/mL〜約2.0u/mLを範囲とする量のコンドロイチナーゼABCのようなプロテオグリカン除去因子で処理される。また、異種移植片は、約0.01μM〜約1.0μMを範囲とする量、好ましくは約0.1μM〜約1.0μMを範囲とする量のフィブロネクチン断片(例えば、アミノ末端29kDaフィブロネクチン断片)のようなプロテオグリカン除去因子で処理することもできる。
【0045】
酵素処理及び化学処理中に、異種移植片処理溶液のヘッドスペースを連続的又は拍動的減圧に付して異種移植片中に閉じこめられた空気を除去することができる。例えば、酵素処理インキュベーション中に、処理溶液上のヘッドスペースは、約10〜1000millitorr、好ましくは50〜500millitorrの真空にさらされる。得られた異種移植片への溶液流入は、酵素剤又は化学剤の透過を高める。
【0046】
処理前に、随意として異種移植片に穴をあけて異種移植片を実質的に非免疫原性にするために使用される薬剤に対する透過性を増大させることができる。この穴開け工程を実行するために18ゲージ針のような滅菌外科用針が使用され、或いは複数の針を含む櫛様器具が使用される。この穴開けは、異種移植片の内部への所望の到達を確立させるために、様々なパターンで且つ様々な穴−穴間隔で実行できる。また、穴開けは、レーザーでも実行できる。本発明の一形態では、約3ミリメートル離れた1列以上の穿刺の直線が異種移植片の周囲の表面に確立される。
【0047】
移植前に、本発明の異種移植片は、組織の柔軟性を増大させるためにフィシン又はトリプシンのような蛋白質分解酵素による制限消化により処理でき、又は、石灰化防止剤、抗血栓被覆剤、抗生物質、成長因子又は受容者への異種移植片の取り込みを高め得る他の薬剤で被覆できる。本発明の異種移植片は、既知の方法、例えば、追加のグルタルアルデヒド又はホルムアルデヒド処理、エチレンオキシド滅菌法、プロピレンオキシド滅菌法などを使用してさらに滅菌できる。異種移植片は、使用する必要があるまで凍結状態で保存できる。
【0048】
本発明の異種移植片又はそのセグメントは、当業者であれば既知の外科技術を使用して、例えば心臓切開手術によって又は内視鏡技術及び内視鏡直視移植のような低侵襲技術によってヒトに移植できる。このような外科技術を実行するための特定の器具は当業者に周知であり、このものは異種移植片組織の正確且つ再現可能な置換を保証する。
【0049】
組織の滅菌
米国食品医薬品局(FDA)の生物製剤評価・研究センター(CBER)は、近年、組織機能又は特性を変化させない方法によって再生され、処理され、保管され又は分配される移植目的のヒト組織を規制しているが、現在のところヒト薬物、生物型製品又は医療用装置としては規制されていない。このような組織の例は、骨、皮膚、角膜、靱帯及び腱である。また、FDA(CBER)は、(a)ヒト以外の動物源からの生きた細胞、組織若しくは器官又は(b)ヒト以外の動物の生きた細胞、組織若しくは器官と生体外で接触したヒトの体液、細胞、組織若しくは器官をヒト受容者に移植し、埋め込み又は注入することを伴う任意の手順の異種移植も規制している。従って、組織バンクは、処理中の組織による感染症の汚染又は二次汚染を予防するための書面による手順を有するように義務づけられている。
【0050】
近年では、ミネソタ州健康省(MDH)は、米国疾病対策センター(CDC)と共同で、膝の手術後に思いがけず死亡した若い人の調査を実施している(CDC,「公衆衛生公文書:最新版:膝手術後の原因不明の死亡,ミネソタ州,2001,MMWR50(48),1080(2001年12月7日))。患者は、膝骨軟骨同種移植片を受容していた。同種移植片の組織加工者は、採取された組織の無菌処理を使用していた。伴組織は、同種移植片と共に処理されていた。同種移植片及び伴組織を抗生剤/抗真菌剤溶液中に懸濁した後に、該伴組織を培養していた。伴組織の好気的及び嫌気的培養液は、陰性と報告されていた。それにもかかわらず、患者から死亡前に得られた血液培養液にはクロストリジウム細菌が増殖した。
【0051】
汚染された移植片組織に関わる感染は異種移植片手術の知られた合併症であるため、MDH、CDC及びFDAは、この同種移植片が細菌の感染源であり得たかどうか調査した。当局者は、このような手術を受けた人々において25以上の深刻な細菌感染の事例を見出した(CDC,「最新版:同種移植片関連の細菌感染」,米国,2002,MMWR51(10),207−210(2002年3月15日)、ニューヨークタイムズ,オンライン版(2002年3月15日))。
【0052】
26人の患者のうち13人は、クロストリジウム細菌に感染していた(これらの患者のうち11人が同一の組織加工者によって処理された組織を受容していた)。クロストリジウム感染に関与した同種移植片は、前十字靱帯(ACL)再建のために使用された腱、大腿骨関節丘、骨及び半月板であった。これらの同種移植片のうち11個は凍結されたものであり、2個は新鮮なものであった(大腿骨関節丘)。これらの同種移植片の全ては無菌的に処理されていたが、最終の滅菌を受けていなかった(MMWR51(10),207−210(2002年3月15日)。
【0053】
11人の患者がグラム陰性細菌に感染していた(5人は複数菌感染を有していた)。移植された組織は、ACL、大腿骨関節丘、半月板及び骨を包含していた。一つの組織は新鮮なものであり(大腿骨関節丘)、一つは凍結乾燥されたものであり(骨)、残りは凍結されたものであった。これら13の事例のうち8の事例については、さらなる証拠が同種移植片に影響を与えていた(例えば、共通のドナー又は一致する微生物を有する陽性の移植前若しくは処理培養液)。8人の患者は、無菌処理を受けているが最終の滅菌は受けていない同種移植片を受容していた。3人の患者はγ線照射を受けたと報告されていた同種移植片を受容していた(MMWR 51(10),207−210(2002年3月15日))。
【0054】
これに応じて、CDCは、同種移植片に関連する感染についての危険性を低減させるためのいくつかの追加の工程を提案した。「可能な限り、細菌胞子を死滅させることのできる方法を使用して組織を処理すべきである。組織同種移植片のために使用されるγ線照射のような既存の滅菌技術又は細菌胞子に対して有効な新規な技術を考慮すべきである。」(MMWR51(10),207−210(2002年5月15日)。また、FDAは、移植を目的とするヒト組織の処理に関する組織加工者のための新たなガイドラインを公開した(CBER,「Guidance for Industry : Validation of Procedures for Processing of Human Tissues Intended for Transplantation」(2002年3月8日))。
【0055】
本発明の滅菌方法は、上記の組織処理プロセスからの2つの処理工程の組み合わせによって細菌汚染負荷及びウイルスの不活性化を与える。
【0056】
第1の工程は、グルタルアルデヒドによる化学滅菌処理であり、第2の工程は、電子線放射による最終滅菌である。化学滅菌工程は、組織を0.1%グルタルアルデヒド中で9〜16時間にわたって20℃〜25℃でインキュベートすることを伴う。組織のグルタルアルデヒド浸透は、熱水収縮温度アッセイによって確認した。
【0057】
第2工程は、ANSI/AAMI/ISO11137医療装置無菌保証限度に基づく最終滅菌であり、且つ、制御された電離放射線源として電子線を使用する。医療装置の滅菌保証は、現在の基準(SAL=10-6)を満たす滅菌保証限度を有する医療装置を繰り返し製造することができる滅菌方法の検証に基づいている。
【0058】
本発明の組織滅菌方法の一具体例では、Z−Lig装置(本発明の装置)は、電子線電離放射線を使用して最終滅菌される。この具体例に関して、17.8kGyの有効滅菌線量をANSI/AAMI/ISO11137照射方法1を使用して確立させて10-6の滅菌保証レベルを与えた。さらに、15.8〜21.3kGyの滅菌照射量の範囲は、最終滅菌照射量としての有用性を有する。
【0059】
確認試験によって確立されるように、単一の処理負荷内にある全ての装置が最低限の照射量を受けることを保証するために、照射量マッピング試験を該装置の標準的な包装形態について実施した。例えば、実施例1を参照されたい。この実施例は、標準的な包装内にある全ての装置が17.8kGyの電離放射線の有効線量を受けたであろうことを検証している。
【0060】
この具体例と実施例1は、共にこの製造方法がANSI/AAMI/ISO11137で確立された要件を再現可能に満たすことができることを確認している。
【実施例】
【0061】
実施例1
原材料の制御及びウイルスの不活性化
ブタ装置のウイルス安全性を動物源プロファイルの評価及び処理方法の殺ウイルス活性の評価によって評価した。使用した組織は、特定の限られたブタ群からの生後6ヶ月の動物が起源である。動物を獣医師有資格者による生前及び死後健康調査に付し、そしてUSDA検査を受けた施設で処理する。組織識別は、最終製品以前で且つ起源の動物以後の採取された材料の追跡を可能にする。製造設備における疾患制御のためにいかなる変性生ワクチンも使用しない。採取プロセス又は製造プロセスにおける任意の点での他の動物由来の材料による二次汚染はない。処理プロセスの内の2工程(グルタルアルデヒド処理及び電子線照射、17.8kGy)の殺ウイルス活性の評価中に6ログ以上のウイルス減少値がブタパルボウイルス、インフルエンザA型、仮性狂犬病ウイルス及びレオウイルス3型について観察された。換言すれば、得られた異種移植片材料は、これら3種のウイルスが「実質的にフリー」であった。
【0062】
グルタルアルデヒド及び電子線照射のウイルス不活性化工程の両方の結果を以下の表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
ブタ内因性レトロウイルス:
ブタ内因性レトロウイルス(PERV)は、異種材料からの潜在的危険性として議論されている(Takefman DM,Wong S.Maudru外,「ブタ血清及びブタ因子VIIにおけるブタ内因性レトロウイルスの検出及び特徴付け」,J.Virol 75(10):4551(2001))。本発明者らは、3つの別個のアッセイに基づきPERVの危険性を評価した。
【0065】
第1のアッセイは、PERVのモデルウイルスとしての非内因性ネズミ白血病ウイルスの標準的なウイルス不活性化アッセイであった。このモデルウイルス不活性化の試験を前々段落のウイルス不活性化試験と類似する試験条件下で実施した。ログ減少値は、これらの試験方法では4.21と算出された。
【0066】
第2のアッセイでは、最終Z−Lig装置材料(本発明の具体例)をPERVのための同時培養アッセイに付した。試料をヒトU293細胞と同時培養して該靱帯から該ヒト細胞系統への内因性PERVのトランスフェクションを評価した。これらのアッセイは、すでに公表されている方法に従って実施した(Takefman DM,Wong S.Maudru外,「ブタ血清及びブタ因子VIIにおけるブタ内因性レトロウイルスの検出及び特徴付け」,J.Virol 75(10):4551(2001))。PERVのトランスフェクションがないことが使用した方法により予測できた。
【0067】
第3のアッセイは、次の3つの製造工程による装置細胞の不活性化を評価した。(1)凍結/解凍(最低限の2回の凍結/解凍サイクル)、(2)0.10%グルタルアルデヒドとのインキュベーション及び(3)17.8kGy電離放射線暴露。これらの工程の細胞毒性ポテンシャルは、細胞死滅に対して推定108.9の安全域を有する。
【0068】
装置中に生細胞が存在しないことを確かめるために、本発明者らは35S標識メチオニン取り込みの試験を実行した。この放射性同位元素標識メチオニンの細胞取り込みをシンチレーションカウンターで測定する。生細胞は、それらの正常の代謝の一部分としてこの標識アミノ酸を取り入れる。細胞培養条件下で48時間にわたってインキュベートされた装置フラグメントの懸濁液ではメチオニンの取り込みは全く観察されなかった。装置内では細胞の生存と一致する代謝活性は全く観察されなかった。
【0069】
これらのアッセイの結果及び処理済み装置における生存細胞の明らかな欠如に基づき、該装置からヒト患者へのPERV感染の危険性は極めて低いことが推定された。
【0070】
例2
伝染性海綿状脳症
伝染性海綿状脳症(TSE)疾患群としては、ヒツジ及びヤギを冒すスクラピー、伝染性ミンク脳症、ネコ海綿状脳症、シカ及びエルク慢性消耗性疾患、並びにヒトではクールー、古典的及び異型クロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群及び致死性家族性不眠症が挙げられる。広く「狂牛病」と呼ばれるウシ海綿状脳症(BSE)は、ウシの中枢神経系を冒す慢性変性疾患である。また、TSEは、自家用外来反芻動物、外来のネコ及び家ネコにおいても報告されている。これらの症例のいくつかから単離された因子はウシのBSEと区別できないため、これらの種でのTSEの発生は、BSEに汚染された飼料に起因することが示唆される。
【0071】
BSE及びスクラピーを引き起こす感染性因子の性質は知られていない。近年において最も一般に認められている学説は、その感染性因子がプリオンとして知られている正常の細胞蛋白質の変性型であるというものである。
【0072】
Z−Lig装置(本発明の具体例)用の組織は、米国内の特定の限られたブタ群から供給される。これらの動物は、徹底的な群衛生プログラム及び疾病監視プログラムの下で管理されている。組織が採取される屠殺施設はUSDA検査済みであり、そして個々の動物から装置に至るまでの追跡能力が存在する。米国内ではウシ及びブタにTSEが存在しないという現在の知見及び米国内においてTSEを有することが知られている種を供給源動物の飼料供給から除外するという知見から、Z−Ligからヒト受容者へのTSE感染の危険性は極めて低く、しかも近年FDAによって米国内での販売が認可されたブタ組織を基材とする他の装置と関連する危険性と一致すると結論付けることができる。換言すれば、得られる異種移植片材料は、これらのTSE因子が「実質的にフリー」である。
【0073】
例3
生体力学試験
プロセス開発の一部分として、本発明者らは、骨−膝蓋腱−骨同種移植片の移植前の生体力学特性を特徴付けるための試験を開始した。本発明者らは、比較生体力学評価のために臨床上適切なコントロールを移植した。ブタ膝蓋腱とヒト膝蓋腱との間の解剖学的類似性、構造的類似性及び細胞の類似性を記録し、そしてこれはヒト移植片の生体力学モデリングのための実行可能な選択物及び代替物としてのブタ膝蓋腱をサポートする(Fuss FK,「家畜ブタ(Sus scrofa domestica)の前十字靱帯の解剖学的構造及び機能:ヒト前十字靱帯との比較」,J Anat 178:11(1991年10月))。この試験の全体的な目的は、Z−Lig前十字靱帯置換装置(本発明の具体例)とヒト骨−膝蓋腱−骨構成体との内部同一比較であった。追加のコントロール群は、新鮮凍結死体移植片として処理(追加の処理は施されていない)及び採取された未加工ブタ膝蓋腱を包含した。試験群及び説明を表2に与える。
【0074】
【表2】

【0075】
以前に公表された結果は、ヒト前十字靱帯、薄筋靱帯、半腱様筋及び膝蓋腱の引張生体力学的及び構造的特性を評価している(Gibbons ML外,「ヤギ骨−膝蓋腱−骨同種移植片の初期機械的性質及び材料特性に及ぼすγ線の影響」,J Orthop Res 9(2):209(1991年3月)、Smith CW外,「腱の機械的性質:滅菌及び保存による変化」,J Biomech Eng 118(1):56−61(1996年2月))。
【0076】
この実施例の目的は、処理済みブタ膝蓋腱移植片と未処理のそれとの構造的特性及び材料特性の両方を比較すること、及びヒト膝蓋腱の特性との比較である。この実施例の結果は、内部同一比較の評価及び試験方法の確認としての役割を果たす。
【0077】
材料及び方法
生体力学評価は、FDAが推奨する計画及び試験数を取り入れている(「研究用装置製造の申請免除の指針書及び関節内人工膝靱帯装置の市販前承認申請書のアプリケーション」(1993年2月))。1群あたり最低限8種の試料を有する3種の試験群をこの研究で使用する。これらの試験群は、Z−Lig装置、ヒト膝蓋腱同種移植片及び未処理ブタ膝蓋腱移植片を包含する。全ての試験は、凍結した状態で保存され、試験直前に解凍された新鮮凍結移植片を使用した。
【0078】
骨から骨までの長さ及び中間部横断面積の両方を試験靱帯について測定した。中間部の厚さは、均一荷重(0.12MPA)で測定され、そして標準的な10mm不粘着溝、500gの加重、40mm2荷重表面で達成された。特別に設計されたネジクランプ固定具を使用して、試験試料を、セットされたネジによりその前部−後部平面を20インチ・lbsに圧縮した状態で骨プラグの末端部で保持した。次いで、これらのクランプを37℃生理食塩水を含有する円筒形アクリルチャンバー中に垂直に浸漬させた。上部のクランプをサーボ制御油圧試験機械(ショア・ウエスタン・マテリアルズ・テスティング・システムズ)の作動器に固定した。下部のクランプを該チャンバーの底部に固定した。機械的荷重をサーボ制御油圧式試験機械で生じさせ、そしてこれを1000lbのロードセルで測定した(ショア・ウエスタン・マテリアルズ・テスティング・システムズ)。EnduraTEC WinTest(商標)制御システムを使用して、200Hz及び標準的な100%/秒の歪速度(骨から骨までの長さを基にして)でデジタルデータを収集しつつ試験フレームを操作した。
【0079】
収集したデータを両方の荷重対変位プロットでプロットし、そしてこれを応力対歪プロットに標準化した。次の構造的特性を荷重変位曲線から決定した:極限荷重、極限変位、降伏荷重、降伏変位、軸方向剛性及びトウ領域。軸方向剛性は、荷重変位プロットの直線勾配領域を使用する最良適合直線分析から算出し、トウ領域、初期非直線領域及び降伏点は比例上限及び直線性からの偏差によって決定した。これらの引張特性の換算は、歪対歪プロット及び試料横断面積の標準化によって達成した。応力は、横断面積で割った荷重に等しく、歪は初期の骨から骨までの長さと比較した試料の伸びによって得られる。試料及び群について報告される材料特性としては、降伏強さ、極限強さ、降伏歪、極限歪及びモジュラスが挙げられる。全てのパラメーターについての統計的有意性をまずANOVAによって評価し、事後試験をp<0.05の有意性レベルでのt−試験によって実行した。
【0080】
結果
試料の物理的特徴を以下の表3に示す。有効な試験条件化での破損に対して試験された試料のみをこの分析のために使用した。ミリメートルで表す平均値は、それぞれの試験群について標準偏差として報告される分散で報告している。
【0081】
【表3】

【0082】
それぞれ48.0及び56.2mmであるZ−Lig及びpPT群の長さは、hPT長さ(43.2mm、P<0.05)よりも有意に長く、ブタ試験群間には有意でない差異があった。ブタ試験群は、横断面積がhPT(p≦0.05)と比較して有意に大きかった。
【0083】
極限荷重、降伏荷重、極限変位、降伏変位及び剛性の構造的特性を以下の表4に提供する。差異が見られるが、これらは群間での異なる横断面積によるものと考えられる。標準化群間分析は、表5に示すように構造的特性から材料特性までの換算及び比較によって達成される。
【0084】
【表4】

【0085】
【表5】

【0086】
本発明の1種以上の具体例の詳細を上記説明に示している。ここに説明した方法及び材料と類似する又は均等の任意の方法及び材料は、本発明の実施又は試験に使用できるが、好ましい方法及び材料は説明した通りである。当業者であれば、本発明がその精神又は必須の特徴から逸脱することなく他の特定の形態で具現化できることを認識するであろう。本発明のその他の特徴、目的及び利点は発明の詳細な説明及び請求の範囲から明らかになるであろう。本明細書及び添付した請求の範囲において、複数の形には特に指示がない限り複数の対象が含まれる。特に定義しない限り、ここで使用した全ての技術用語及び科学用語は、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者によって一般的に理解されている意味と同様の意味を有する。本明細書において引用した全ての特許文献及び刊行物は、参考のために示されている。
【0087】
先の説明は例示の目的にのみ与えられており、本発明を特許請求の範囲を除き開示された通りの形態に限定しようとするものではない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】材料特性群の比較図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程:
(1)実質的に非免疫原性の異種移植片材料を得、
(2)該異種移植片材料を少なくとも1種の架橋剤で処理し、
(3)該架橋異種移植片材料を放射線処理に付すこと
を含む、ヒトへの移植用の異種移植片材料の滅菌方法。
【請求項2】
異種移植片材料が、炭水化物鎖であってその炭水化物鎖の非還元末端に末端α−ガラクトシル糖を有するものを実質的に欠いている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
実質的に非免疫原性の異種移植片がプロテオグリカンを実質的に欠いている請求項1に記載の方法。
【請求項4】
実質的に非免疫原性の異種移植片材料が軟組織である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
実質的に非免疫原性の異種移植片材料が心臓弁組織である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
実質的に非免疫原性の異種移植片材料がブタのものである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
実質的に免疫原性の異種移植片材料が滅菌されている請求項1に記載の方法。
【請求項8】
滅菌をエチレンオキシド及びプロピレンオキシドよりなる群から選択される1種以上の薬剤で行う請求項7に記載の方法。
【請求項9】
架橋剤がアルデヒド、芳香族ジアミン、カルボジイミド及びジイソシアネートよりなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1種の架橋剤がグルタルアルデヒドである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
架橋剤が約0.01%〜約5%のグルタルアルデヒドを含有する溶液である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
架橋処理を、異種移植片材料を蒸気の形態の架橋剤にさらすことによって行う、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
放射線処理が15.8kGy〜21.3kGyの範囲の滅菌線量を含む請求項1に記載の方法。
【請求項14】
放射線処理が17.8kGyの有効滅菌線量を含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】
放射線処理を電子線照射又はγ線照射によって行う請求項1に記載の方法。
【請求項16】
滅菌された異種移植片材料が少なくとも10-6の滅菌保証レベルを有する請求項1に記載の方法。
【請求項17】
滅菌された異種移植片がブタパルボウイルス、インフルエンザA型、仮性狂犬病ウイルス及びレオウイルス3型よりなる群から選択されるウイルスを実質的に含まない請求項1に記載の方法。
【請求項18】
滅菌された異種移植片材料が伝染性海綿状脳症(TSE)因子を実質的に含まない請求項1に記載の方法。
【請求項19】
滅菌された異種移植片材料が天然心臓弁と実質的に同一の機械的性質を有する請求項1に記載の方法。
【請求項20】
次の工程:
(a)ヒト以外の動物から軟組織異種移植片材料を得、
(b)該異種移植片材料を水及びアルコール中で洗浄し、
(c)該異種移植片材料を細胞破壊処理に付し、
(d)該異種移植片材料をグリコシダーゼで処理して複数の第1表面炭水化物部分を除去すること
を含むヒトへの移植用の異種移植片材料の製造方法において、
(i)該グリコシダーゼ処理をグリコシダーゼ処理溶液中で行い、
(ii)該グリコシダーゼ処理中に、該グリコシダーゼ処理溶液のヘッドスペースを減圧に付して該異種移植片材料内に閉じこめられている空気を除去し、
それによって該異種移植片材料が実施的に非免疫原性であり且つ予め選択されたヒト組織と実質的に同一の機械的性質を有する、ヒトへの移植用の異種移植片材料の製造方法。
【請求項21】
減圧が10〜1000milliorrの間にある請求項20に記載の方法。
【請求項22】
減圧が50〜500millitorrの間にある請求項20に記載の方法。
【請求項23】
減圧処理が連続的である請求項20に記載の方法。
【請求項24】
減圧処理が拍動的である請求項20に記載の方法。
【請求項25】
グリコシダーゼがガラクトシダーゼである請求項20に記載の方法。
【請求項26】
ガラクトシダーゼがα−ガラクトシダーゼである請求項25に記載の方法。
【請求項27】
異種移植片材料から複数のプロテオグリカンを実質的に除去する工程をさらに含む請求項20に記載の方法。
【請求項28】
プロテオグリカン除去工程が、異種移植片をコンドロイチナーゼABC、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチンACIIリアーゼ、ケラタナーゼ、トリプシン及びフィブロネクチン断片よりなる群から選択される少なくとも1種のプロテオグリカン除去因子で消化することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
(a)プロテオグリカン除去工程をプロテオグリカン除去処理溶液中で行い、しかも(b)該プロテオグリカン除去工程中に、該プロテオグリカン除去処理溶液のヘッドスペースを減圧に付して異種移植片材料内に閉じこめられている空気を除去する、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
異種移植片材料を少なくとも1種の架橋剤で処理する工程をさらに含む請求項20に記載の方法。
【請求項31】
架橋剤がアルデヒド、芳香族ジアミン、カルボジイミド及びジイソシアネートよりなる群から選択される請求項30に記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1種の架橋剤がグルタルアルデヒドである請求項30に記載の方法。
【請求項33】
(a)架橋処理を架橋処理溶液中で行い、しかも(b)該架橋処理中に、該架橋処理溶液のヘッドスペースを減圧に付して異種移植片材料内に閉じこめられている空気を除去する、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
異種移植片材料を少なくとも1種の酵素で処理する工程をさらに含む請求項20に記載の方法。
【請求項35】
酵素がフィシン及びトリプシンよりなる群から選択される請求項34に記載の方法。
【請求項36】
(a)酵素処理を酵素処理溶液中で行い、しかも(b)該酵素処理中に、該酵素処理溶液のヘッドスペースを減圧に付して異種移植片材料内に閉じこめられている空気を除去する、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
異種移植片材料を石灰化防止剤、抗血栓剤、抗生剤、成長因子及びポリエチレングリコールよりなる群から選択される1種以上の薬剤で処理する工程をさらに含む請求項20に記載の方法。
【請求項38】
(a)前記処理を処理溶液中で行い、しかも(b)該処理中に、該処理溶液のヘッドスペースを減圧に付して異種移植片材料内に閉じこめられている空気を除去する、請求項37に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−511246(P2006−511246A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−506468(P2004−506468)
【出願日】平成15年5月16日(2003.5.16)
【国際出願番号】PCT/US2003/015630
【国際公開番号】WO2003/097809
【国際公開日】平成15年11月27日(2003.11.27)
【出願人】(500418299)クロスカート インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】