母材間連結構造及びその母材間連結構造用の接合用補助部材
【課題】母材と添板との間に設置される個々の接合用補助部材を簡単な操作により添板側の所定位置に保持し得るように構成し、もって作業負担を軽減するとともに、個々の接合用補助部材を所定位置に的確に設置でき、その方向性の維持にも有効な母材間連結技術を提供する。
【解決手段】母材間に跨って添設される添板7と母材との間に両面に係止部を設けた板状の接合用補助部材11を介在させる母材間連結構造において、接合用補助部材11に形成したボルト貫通用の挿通孔の周縁部に掛合可能な筒状嵌合部材22を備え、その筒状嵌合部材22を添板7に形成したボルト貫通用の挿通孔18に嵌入して接合用補助部材11を添板7側に保持した状態で、母材に添設してボルトとナットにより締付け固定する。
【解決手段】母材間に跨って添設される添板7と母材との間に両面に係止部を設けた板状の接合用補助部材11を介在させる母材間連結構造において、接合用補助部材11に形成したボルト貫通用の挿通孔の周縁部に掛合可能な筒状嵌合部材22を備え、その筒状嵌合部材22を添板7に形成したボルト貫通用の挿通孔18に嵌入して接合用補助部材11を添板7側に保持した状態で、母材に添設してボルトとナットにより締付け固定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば梁や柱を構成するH形鋼などの母材同士をそれらの母材間に跨って添設する添板と母材との間に両面に係止部を設けた板状の接合用補助部材を介在させた状態で連結する母材間連結技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築や橋梁などの鋼構造材の摩擦接合部に適用される接合用鋼材においては、その接合耐力を向上すべく、接合面における摩擦係数、すなわちすべり係数を大きくするための工夫が種々なされている。例えば、接合面の黒皮を除去して赤錆を発生させることによりすべり係数を増やしたり、ショットブラスト等のブラスト処理によりすべり係数を増やしたりする方法が知られている。しかしながら、これらの方法によるすべり係数の増加には自ずと限界があり、しかもいずれの場合にも、広いスペースが必要とされ、作業性にも問題があった。ところで、すべり係数の大小には、接合面の面粗さ、すなわち表面の凹凸の高低差だけではなく、接合面の表面の硬さも関与する。そこで、接合面の凹凸の高低差を拡大するために、凹凸状のロールによる転写、機械加工、レーザ加工、放電加工、化学的手段などを用い、さらに表面硬さを強化するために、焼入れ処理などを施すことにより、接合面の凹凸の高低差を0.2〜1.0mm、表面硬さをヴィッカース硬さで250以上に構成したものも提案されている(特許文献1参照)。また、母材間に跨って添設する添板と母材との間に両面に刃状突起を設けた板状の接合用補助部材を介在させ、それらを貫通する高力ボルトとナットにより締付け固定することにより、その接合用補助部材の両面に形成した刃状突起をそれぞれ添板及び母材の双方の接合面に食込ませることによって母材間の連結状態の強化を図ったものも知られている(特許文献2参照)。また、その場合に、前記接合用補助部材の両面に形成する刃状突起を母材の連結方向に直交する方向に平行に並設した複数条からなる刃状突起にて構成することにより、母材の連結方向のすべり係数を増加させる手法も知られているところである。
【特許文献1】特許第3607742号公報
【特許文献2】特公平8−30364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、両面に係合部を備えた接合用補助部材を母材間に跨って添設される添板と前記母材との間に介在させ、それらの添板、接合用補助部材及び母材に貫通させたボルトとナットによって締付け固定する際には、接合用補助部材を添板の外側から直視することができず、また作業中に移動したり脱落してしまう可能性もあることから、個々の接合用補助部材を所定位置に的確に設置するには作業者にかかる負担も大きかった。特に、その接合用補助部材の設置方向に方向性がある場合には作業負担が倍加されるといった問題があった。
【0004】
本発明は、以上のような従来の技術状況に鑑み、簡単な操作により個々の接合用補助部材を添板側の所定位置に保持し得るように構成し、もって作業負担を軽減するとともに、個々の接合用補助部材を所定位置に的確に設置でき、その方向性の維持にも有効な母材間連結技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明では、母材間に跨って添設される添板と前記母材との間に両面に係止部を設けた板状の接合用補助部材を介在させ、それらの添板、接合用補助部材及び母材に貫通させた高力ボルト等のボルトとこれに適合するナットによって締付け固定するように構成した母材間連結構造において、前記接合用補助部材に形成した前記ボルト貫通用の挿通孔の周縁部に掛合可能な筒状嵌合部材を備え、その筒状嵌合部材を前記添板に形成したボルト貫通用の挿通孔に嵌入して接合用補助部材を添板側に保持した状態で母材に対して添設するという技術手段を採用した。なお、前記筒状嵌合部材に縦方向のスリットを形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、接合用補助部材に形成したボルト貫通用の挿通孔の周縁部に掛合可能な筒状嵌合部材を備え、その筒状嵌合部材を添板に形成したボルト貫通用の挿通孔に嵌入して接合用補助部材を添板側に保持するように構成したので、母材間の連結作業において、接合用補助部材を添板と母材との間に介在させながらボルトとナットによって締付け固定する際には、個々の接合用補助部材はボルト貫通用の挿通孔に嵌入された筒状嵌合部材により添板側の所定位置に保持され、その状態で添板を母材に対して添設することから、それらの接合用補助部材が作業中に移動したり脱落してしまう可能性は解消され、添板の外側から接合用補助部材を直視できなくとも、個々の接合用補助部材を所定位置に的確に設置することが可能となり、所期の耐力を確実に達成できるとともに作業者にかかる作業負担を大幅に軽減することができる。また、接合用補助部材の設置に方向性がある場合には、その方向性の維持にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る母材間連結技術は、建築や橋梁などにおいて梁や柱を構成するH形鋼などの母材同士をボルトとナットを用いて連結する場合に広く適用することが可能である。前記接合用補助部材の両面に設けられる係止部に関しては、その中の少なくとも母材側の面に形成される係止部は、母材の接合面に食込んですべり係数を増すように構成されるが、他方の添板側の面に形成される係止部については、母材側の場合と同様に添板の接合面に食込んですべり係数を増やすように構成してもよいし、あるいは添板側の接合面に予め前記係止部に係合し得る係合部を形成しておき、それらの接合用補助部材側に形成された前記係止部と添板側に予め形成された係合部との係合によってすべり係数を増やすように構成しても構わない。その接合用補助部材に形成される係止部の具体的形状に関しては、相手側の接合面に食込ませてすべり係数を増やす形態の場合には、先端が尖った刃状突起のものや錐状のものが適当である。これに対して、接合用補助部材側に形成された前記係止部と添板側に予め形成された係合部との係合によってすべり係数を増やす形態の場合には、添板側へ食込ませる必要性がないことから、係合可能な種々の形状が可能である。また、それらの係止部及び係合部のどちらが凸側でも凹側でも構わない。さらに、その接合用補助部材側に形成された前記係止部と添板側に予め形成された係合部との係合によってすべり係数を増やす形態を採用する場合に、それらの係合部を、母材間の連結方向に直交する方向に平行に並設される複数条の係合部から構成するようにすれば、それらの係止部と係合部との係合によって所要の方向性が自動的かつ的確に決り、母材間の連結方向に対するすべり係数を効率的かつ確実に向上することができる。因みに、接合用補助部材の外形に関しては、以下の実施例のように八角形に限らず、四角形や六角形などの他の多角形あるいは円形状のものでもよい。また、接合用補助部材は、焼入れ処理等によりとりわけ母材側の接合面に食込む係止部の部分の硬度を高めたものが望ましい。他方、添板に関しては、焼入れ処理を施さない方が、添板、接合用補助部材及び母材の締付け固定時に、部材の厚さに関する多少の寸法差や梁間における施工誤差があっても、変形して馴染みやすいことから、より安定した締付けが可能であるが、それらに限定されるものではない。前記筒状嵌合部材に関しては、その高さを前記添板の厚さより小さく設定して添板の途中まで嵌入するように構成してもよいし、前記添板の厚さより大きく設定して添板の反対側で突出した部分をかしめるように構成してもよい。また、その筒状嵌合部材に縦方向のスリットを形成したり、先細のテーパ状に形成することにより、添板に形成したボルト貫通用の挿通孔への嵌入をし易くできる。
【実施例】
【0008】
図1は母材間の連結状態を示した正面図であり、図2はその平面図である。また、図3は添板を外して示した平面図、図4は図1中の丸内を示した部分拡大図である。図中1,2はH形鋼からなる母材で、それらの母材1,2間を本発明に係る母材間連結構造により連結した状態を示したものである。図示のように、母材1及び母材2に対しては、それらの母材1のフランジ部3,4と母材2のフランジ部5,6との間に跨った状態に添板7〜10が添設される。添板7〜10と母材1,2のフランジ部3〜6との間には、図3及び図4に示したように、両面に適宜の係止部を設けた板状からなる所要数の接合用補助部材11が介装され、それらの添板7〜10、個々の接合用補助部材11及び母材1,2を、それらに貫通させたボルト12及びナット13によって締付け固定するように構成されている。また、母材1のウェブ14と母材2のウェブ15とは、図1に示したように添板16を用いて接合用補助部材11と同様の接合用補助部材を介装しながらボルト17とナットにより連結されている。なお、図5は母材1のフランジ部3と母材2のフランジ部5との厚さに寸法差がある場合の連結状態を示したものである。ここでは、添板7〜10に焼入れ処理を施していない場合を示したものであり、図示のように添板8が変形してフランジ部3,5の寸法差を吸収しながら馴染むことから、より安定した締付けが可能である。
【0009】
次に、図6〜図11に基づいて本発明の特徴である筒状嵌合部材による接合用補助部材の添板側への保持に関して説明する。図6は前記添板7の平面図であり、図7はそのA−A断面図である。なお、以下の説明は添板8〜10に関しても共通である。因みに、添板7,9の場合には、以下の手順で接合用補助部材11が所定位置に保持された添板7,9は、使用に際して、上下を逆転して接合用補助部材11を下方にした状態で母材1,2に添設され、ボルト12及びナット13を用いて締付け固定されることになる。しかして、図中18は添板7に形成された前記ボルト12用の挿通孔であり、図1〜図3ではボルト12を計12本使用する場合を例示したが、ここでは計16本使用する場合を例示した。図8は添板7に形成された各挿通孔18に対応させて同数の接合用補助部材11を載置した状態を示した平面図であり、図9はその部分拡大縦断面図である。図示のように、本実施例におけるそれぞれの接合用補助部材11は若干偏平に変形された八角形からなり、その長手方向の両側に位置する平行辺部を隣接間で互いに当接させることにより、接合用補助部材11の設置方向を規制し得るとともに、ボルト12による締付け時などにおける接合用補助部材11の供回りを防止できるように構成している。また、接合用補助部材11の中心部には、添板7に形成された前記挿通孔18と同じか若干大径の挿通孔19が形成され、その挿通孔19の周縁部には後述の筒状嵌合部材の一方の端部に形成された鍔部を掛合支持する段部20を形成している。なお、図示のように、本実施例では、接合用補助部材11の両面に備える係止部として、母材1,2の連結方向に直交する方向に平行に並設した複数条からなる突起21を形成した場合を示した。因みに、接合用補助部材11の添板7側に形成する突起21を大きくし、その突起21に係合する係合凹部を添板7の接合面に形成して、両者が係合するように構成すれば、上述のように八角形の接合用補助部材11を使用しなくても、接合用補助部材11の方向性を的確に維持できるとともに、供回りの防止も可能である。さらに、接合用補助部材11の片面をこのような大きな突起とすれば、添板7に対する当接面積を大きくとることが可能なことから、他方の面に形成した突起の食込みの安定化にも有効である。
【0010】
図10は添板7に形成された各挿通孔18に対応して載置されたそれぞれの接合用補助部材11の挿通孔19に対して筒状嵌合部材22を嵌入した状態を示した平面図であり、図11はその部分拡大縦断面図、図12は同部分を更に拡大した部分拡大縦断面図である。図示のように、本実施例では、筒状嵌合部材22が添板7に形成された挿通孔18の途中まで嵌入される場合を示した。図12に示したように、筒状嵌合部材22の一方の端部には鍔部23が形成されており、挿通孔18,19への嵌入状態において、前記段部20に掛合支持されるように構成されている。なお、図13は筒状嵌合部材に関する他の実施例を示した縦断面図であり、この実施例に係る筒状嵌合部材24は、スリット25を設けて挿通孔18,19への嵌入操作の容易化を図ったものである。また、図14に示した実施例に係る筒状嵌合部材26は、その高さを高くすることにより、挿通孔18を貫通して添板7の反対側に突出した部分をかしめて下方にも鍔部27を形成し得るように構成し、その鍔部27を添板7に形成した段部28に掛合することにより、接合用補助部材11を添板7に対してより強固に保持し得るように構成したものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】母材間の連結状態を示した正面図である。
【図2】同母材間の連結状態を示した平面図である。
【図3】同母材間の連結状態を添板を外して示した平面図である。
【図4】図1中の丸内を示した部分拡大図である。
【図5】母材のフランジ部の厚さに寸法差がある場合の連結状態を示した部分拡大図である。
【図6】添板を示した平面図である。
【図7】同添板のA−A断面図である。
【図8】同添板に接合用補助部材を載置した状態を示した平面図である。
【図9】図8の部分拡大縦断面図である。
【図10】接合用補助部材の挿通孔に対して筒状嵌合部材を嵌入した状態を示した平面図である。
【図11】図10の部分拡大縦断面図である。
【図12】図11を更に拡大した部分拡大縦断面図である。
【図13】筒状嵌合部材に関する他の実施例を示した縦断面図である。
【図14】筒状嵌合部材に関する他の実施例の挿入状態を示した縦断面図である。
【符号の説明】
【0012】
1,2…母材、3〜6…フランジ部、7〜10…添板、11…接合用補助部材、12…ボルト、13…ナット、14,15…ウェブ、16…添板、17…ボルト、18,19…挿通孔、20…段部、21…突起、22…筒状嵌合部材、23…鍔部、24…筒状嵌合部材、25…スリット、26…筒状嵌合部材、27…鍔部、28…段部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば梁や柱を構成するH形鋼などの母材同士をそれらの母材間に跨って添設する添板と母材との間に両面に係止部を設けた板状の接合用補助部材を介在させた状態で連結する母材間連結技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築や橋梁などの鋼構造材の摩擦接合部に適用される接合用鋼材においては、その接合耐力を向上すべく、接合面における摩擦係数、すなわちすべり係数を大きくするための工夫が種々なされている。例えば、接合面の黒皮を除去して赤錆を発生させることによりすべり係数を増やしたり、ショットブラスト等のブラスト処理によりすべり係数を増やしたりする方法が知られている。しかしながら、これらの方法によるすべり係数の増加には自ずと限界があり、しかもいずれの場合にも、広いスペースが必要とされ、作業性にも問題があった。ところで、すべり係数の大小には、接合面の面粗さ、すなわち表面の凹凸の高低差だけではなく、接合面の表面の硬さも関与する。そこで、接合面の凹凸の高低差を拡大するために、凹凸状のロールによる転写、機械加工、レーザ加工、放電加工、化学的手段などを用い、さらに表面硬さを強化するために、焼入れ処理などを施すことにより、接合面の凹凸の高低差を0.2〜1.0mm、表面硬さをヴィッカース硬さで250以上に構成したものも提案されている(特許文献1参照)。また、母材間に跨って添設する添板と母材との間に両面に刃状突起を設けた板状の接合用補助部材を介在させ、それらを貫通する高力ボルトとナットにより締付け固定することにより、その接合用補助部材の両面に形成した刃状突起をそれぞれ添板及び母材の双方の接合面に食込ませることによって母材間の連結状態の強化を図ったものも知られている(特許文献2参照)。また、その場合に、前記接合用補助部材の両面に形成する刃状突起を母材の連結方向に直交する方向に平行に並設した複数条からなる刃状突起にて構成することにより、母材の連結方向のすべり係数を増加させる手法も知られているところである。
【特許文献1】特許第3607742号公報
【特許文献2】特公平8−30364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、両面に係合部を備えた接合用補助部材を母材間に跨って添設される添板と前記母材との間に介在させ、それらの添板、接合用補助部材及び母材に貫通させたボルトとナットによって締付け固定する際には、接合用補助部材を添板の外側から直視することができず、また作業中に移動したり脱落してしまう可能性もあることから、個々の接合用補助部材を所定位置に的確に設置するには作業者にかかる負担も大きかった。特に、その接合用補助部材の設置方向に方向性がある場合には作業負担が倍加されるといった問題があった。
【0004】
本発明は、以上のような従来の技術状況に鑑み、簡単な操作により個々の接合用補助部材を添板側の所定位置に保持し得るように構成し、もって作業負担を軽減するとともに、個々の接合用補助部材を所定位置に的確に設置でき、その方向性の維持にも有効な母材間連結技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明では、母材間に跨って添設される添板と前記母材との間に両面に係止部を設けた板状の接合用補助部材を介在させ、それらの添板、接合用補助部材及び母材に貫通させた高力ボルト等のボルトとこれに適合するナットによって締付け固定するように構成した母材間連結構造において、前記接合用補助部材に形成した前記ボルト貫通用の挿通孔の周縁部に掛合可能な筒状嵌合部材を備え、その筒状嵌合部材を前記添板に形成したボルト貫通用の挿通孔に嵌入して接合用補助部材を添板側に保持した状態で母材に対して添設するという技術手段を採用した。なお、前記筒状嵌合部材に縦方向のスリットを形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、接合用補助部材に形成したボルト貫通用の挿通孔の周縁部に掛合可能な筒状嵌合部材を備え、その筒状嵌合部材を添板に形成したボルト貫通用の挿通孔に嵌入して接合用補助部材を添板側に保持するように構成したので、母材間の連結作業において、接合用補助部材を添板と母材との間に介在させながらボルトとナットによって締付け固定する際には、個々の接合用補助部材はボルト貫通用の挿通孔に嵌入された筒状嵌合部材により添板側の所定位置に保持され、その状態で添板を母材に対して添設することから、それらの接合用補助部材が作業中に移動したり脱落してしまう可能性は解消され、添板の外側から接合用補助部材を直視できなくとも、個々の接合用補助部材を所定位置に的確に設置することが可能となり、所期の耐力を確実に達成できるとともに作業者にかかる作業負担を大幅に軽減することができる。また、接合用補助部材の設置に方向性がある場合には、その方向性の維持にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る母材間連結技術は、建築や橋梁などにおいて梁や柱を構成するH形鋼などの母材同士をボルトとナットを用いて連結する場合に広く適用することが可能である。前記接合用補助部材の両面に設けられる係止部に関しては、その中の少なくとも母材側の面に形成される係止部は、母材の接合面に食込んですべり係数を増すように構成されるが、他方の添板側の面に形成される係止部については、母材側の場合と同様に添板の接合面に食込んですべり係数を増やすように構成してもよいし、あるいは添板側の接合面に予め前記係止部に係合し得る係合部を形成しておき、それらの接合用補助部材側に形成された前記係止部と添板側に予め形成された係合部との係合によってすべり係数を増やすように構成しても構わない。その接合用補助部材に形成される係止部の具体的形状に関しては、相手側の接合面に食込ませてすべり係数を増やす形態の場合には、先端が尖った刃状突起のものや錐状のものが適当である。これに対して、接合用補助部材側に形成された前記係止部と添板側に予め形成された係合部との係合によってすべり係数を増やす形態の場合には、添板側へ食込ませる必要性がないことから、係合可能な種々の形状が可能である。また、それらの係止部及び係合部のどちらが凸側でも凹側でも構わない。さらに、その接合用補助部材側に形成された前記係止部と添板側に予め形成された係合部との係合によってすべり係数を増やす形態を採用する場合に、それらの係合部を、母材間の連結方向に直交する方向に平行に並設される複数条の係合部から構成するようにすれば、それらの係止部と係合部との係合によって所要の方向性が自動的かつ的確に決り、母材間の連結方向に対するすべり係数を効率的かつ確実に向上することができる。因みに、接合用補助部材の外形に関しては、以下の実施例のように八角形に限らず、四角形や六角形などの他の多角形あるいは円形状のものでもよい。また、接合用補助部材は、焼入れ処理等によりとりわけ母材側の接合面に食込む係止部の部分の硬度を高めたものが望ましい。他方、添板に関しては、焼入れ処理を施さない方が、添板、接合用補助部材及び母材の締付け固定時に、部材の厚さに関する多少の寸法差や梁間における施工誤差があっても、変形して馴染みやすいことから、より安定した締付けが可能であるが、それらに限定されるものではない。前記筒状嵌合部材に関しては、その高さを前記添板の厚さより小さく設定して添板の途中まで嵌入するように構成してもよいし、前記添板の厚さより大きく設定して添板の反対側で突出した部分をかしめるように構成してもよい。また、その筒状嵌合部材に縦方向のスリットを形成したり、先細のテーパ状に形成することにより、添板に形成したボルト貫通用の挿通孔への嵌入をし易くできる。
【実施例】
【0008】
図1は母材間の連結状態を示した正面図であり、図2はその平面図である。また、図3は添板を外して示した平面図、図4は図1中の丸内を示した部分拡大図である。図中1,2はH形鋼からなる母材で、それらの母材1,2間を本発明に係る母材間連結構造により連結した状態を示したものである。図示のように、母材1及び母材2に対しては、それらの母材1のフランジ部3,4と母材2のフランジ部5,6との間に跨った状態に添板7〜10が添設される。添板7〜10と母材1,2のフランジ部3〜6との間には、図3及び図4に示したように、両面に適宜の係止部を設けた板状からなる所要数の接合用補助部材11が介装され、それらの添板7〜10、個々の接合用補助部材11及び母材1,2を、それらに貫通させたボルト12及びナット13によって締付け固定するように構成されている。また、母材1のウェブ14と母材2のウェブ15とは、図1に示したように添板16を用いて接合用補助部材11と同様の接合用補助部材を介装しながらボルト17とナットにより連結されている。なお、図5は母材1のフランジ部3と母材2のフランジ部5との厚さに寸法差がある場合の連結状態を示したものである。ここでは、添板7〜10に焼入れ処理を施していない場合を示したものであり、図示のように添板8が変形してフランジ部3,5の寸法差を吸収しながら馴染むことから、より安定した締付けが可能である。
【0009】
次に、図6〜図11に基づいて本発明の特徴である筒状嵌合部材による接合用補助部材の添板側への保持に関して説明する。図6は前記添板7の平面図であり、図7はそのA−A断面図である。なお、以下の説明は添板8〜10に関しても共通である。因みに、添板7,9の場合には、以下の手順で接合用補助部材11が所定位置に保持された添板7,9は、使用に際して、上下を逆転して接合用補助部材11を下方にした状態で母材1,2に添設され、ボルト12及びナット13を用いて締付け固定されることになる。しかして、図中18は添板7に形成された前記ボルト12用の挿通孔であり、図1〜図3ではボルト12を計12本使用する場合を例示したが、ここでは計16本使用する場合を例示した。図8は添板7に形成された各挿通孔18に対応させて同数の接合用補助部材11を載置した状態を示した平面図であり、図9はその部分拡大縦断面図である。図示のように、本実施例におけるそれぞれの接合用補助部材11は若干偏平に変形された八角形からなり、その長手方向の両側に位置する平行辺部を隣接間で互いに当接させることにより、接合用補助部材11の設置方向を規制し得るとともに、ボルト12による締付け時などにおける接合用補助部材11の供回りを防止できるように構成している。また、接合用補助部材11の中心部には、添板7に形成された前記挿通孔18と同じか若干大径の挿通孔19が形成され、その挿通孔19の周縁部には後述の筒状嵌合部材の一方の端部に形成された鍔部を掛合支持する段部20を形成している。なお、図示のように、本実施例では、接合用補助部材11の両面に備える係止部として、母材1,2の連結方向に直交する方向に平行に並設した複数条からなる突起21を形成した場合を示した。因みに、接合用補助部材11の添板7側に形成する突起21を大きくし、その突起21に係合する係合凹部を添板7の接合面に形成して、両者が係合するように構成すれば、上述のように八角形の接合用補助部材11を使用しなくても、接合用補助部材11の方向性を的確に維持できるとともに、供回りの防止も可能である。さらに、接合用補助部材11の片面をこのような大きな突起とすれば、添板7に対する当接面積を大きくとることが可能なことから、他方の面に形成した突起の食込みの安定化にも有効である。
【0010】
図10は添板7に形成された各挿通孔18に対応して載置されたそれぞれの接合用補助部材11の挿通孔19に対して筒状嵌合部材22を嵌入した状態を示した平面図であり、図11はその部分拡大縦断面図、図12は同部分を更に拡大した部分拡大縦断面図である。図示のように、本実施例では、筒状嵌合部材22が添板7に形成された挿通孔18の途中まで嵌入される場合を示した。図12に示したように、筒状嵌合部材22の一方の端部には鍔部23が形成されており、挿通孔18,19への嵌入状態において、前記段部20に掛合支持されるように構成されている。なお、図13は筒状嵌合部材に関する他の実施例を示した縦断面図であり、この実施例に係る筒状嵌合部材24は、スリット25を設けて挿通孔18,19への嵌入操作の容易化を図ったものである。また、図14に示した実施例に係る筒状嵌合部材26は、その高さを高くすることにより、挿通孔18を貫通して添板7の反対側に突出した部分をかしめて下方にも鍔部27を形成し得るように構成し、その鍔部27を添板7に形成した段部28に掛合することにより、接合用補助部材11を添板7に対してより強固に保持し得るように構成したものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】母材間の連結状態を示した正面図である。
【図2】同母材間の連結状態を示した平面図である。
【図3】同母材間の連結状態を添板を外して示した平面図である。
【図4】図1中の丸内を示した部分拡大図である。
【図5】母材のフランジ部の厚さに寸法差がある場合の連結状態を示した部分拡大図である。
【図6】添板を示した平面図である。
【図7】同添板のA−A断面図である。
【図8】同添板に接合用補助部材を載置した状態を示した平面図である。
【図9】図8の部分拡大縦断面図である。
【図10】接合用補助部材の挿通孔に対して筒状嵌合部材を嵌入した状態を示した平面図である。
【図11】図10の部分拡大縦断面図である。
【図12】図11を更に拡大した部分拡大縦断面図である。
【図13】筒状嵌合部材に関する他の実施例を示した縦断面図である。
【図14】筒状嵌合部材に関する他の実施例の挿入状態を示した縦断面図である。
【符号の説明】
【0012】
1,2…母材、3〜6…フランジ部、7〜10…添板、11…接合用補助部材、12…ボルト、13…ナット、14,15…ウェブ、16…添板、17…ボルト、18,19…挿通孔、20…段部、21…突起、22…筒状嵌合部材、23…鍔部、24…筒状嵌合部材、25…スリット、26…筒状嵌合部材、27…鍔部、28…段部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材間に跨って添設される添板と前記母材との間に両面に係止部を設けた板状の接合用補助部材を介在させ、それらの添板、接合用補助部材及び母材に貫通させたボルトとナットによって締付け固定するように構成した母材間連結構造において、前記接合用補助部材に形成した前記ボルト貫通用の挿通孔の周縁部に掛合可能な筒状嵌合部材を備え、その筒状嵌合部材を前記添板に形成したボルト貫通用の挿通孔に嵌入して接合用補助部材を添板側に保持した状態で前記母材に対して添設するように構成したことを特徴とする母材間連結構造。
【請求項2】
母材間に跨って添設される添板と前記母材との間に両面に係止部を設けた板状の接合用補助部材を介在させ、それらの添板、接合用補助部材及び母材に貫通させたボルトとナットによって締付け固定するように構成した母材間連結構造に使用される接合用補助部材であって、その中央部に形成された前記ボルト貫通用の挿通孔の周縁部に掛合可能で、前記添板に形成したボルト貫通用の挿通孔に嵌入可能な筒状嵌合部材を備えたことを特徴とする母材間連結構造用の接合用補助部材。
【請求項3】
前記筒状嵌合部材に縦方向のスリットを形成したことを特徴とする請求項2に記載の母材間連結構造用の接合用補助部材。
【請求項1】
母材間に跨って添設される添板と前記母材との間に両面に係止部を設けた板状の接合用補助部材を介在させ、それらの添板、接合用補助部材及び母材に貫通させたボルトとナットによって締付け固定するように構成した母材間連結構造において、前記接合用補助部材に形成した前記ボルト貫通用の挿通孔の周縁部に掛合可能な筒状嵌合部材を備え、その筒状嵌合部材を前記添板に形成したボルト貫通用の挿通孔に嵌入して接合用補助部材を添板側に保持した状態で前記母材に対して添設するように構成したことを特徴とする母材間連結構造。
【請求項2】
母材間に跨って添設される添板と前記母材との間に両面に係止部を設けた板状の接合用補助部材を介在させ、それらの添板、接合用補助部材及び母材に貫通させたボルトとナットによって締付け固定するように構成した母材間連結構造に使用される接合用補助部材であって、その中央部に形成された前記ボルト貫通用の挿通孔の周縁部に掛合可能で、前記添板に形成したボルト貫通用の挿通孔に嵌入可能な筒状嵌合部材を備えたことを特徴とする母材間連結構造用の接合用補助部材。
【請求項3】
前記筒状嵌合部材に縦方向のスリットを形成したことを特徴とする請求項2に記載の母材間連結構造用の接合用補助部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−177589(P2007−177589A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−380514(P2005−380514)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】
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