説明

毛髪化粧料

【課題】アイロン処理等の高温加熱に対して毛髪を有効に保護できる毛髪化粧料を提供する。
【解決手段】(A)アスコルビン酸及びその誘導体及び還元糖から選択される少なくとも1種の抗酸化物質と、(B)組成物全重量に対して20質量%以下のアルコール成分とを含有し、洗い流さないことを特徴とする毛髪化粧料。毛髪化粧料は、熱アイロン時に塗布するアウトバス用であること、カチオン性高分子及び/又は両性高分子を更に含有するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に熱によるダメージから毛髪を保護する作用に優れた毛髪化粧料に関する。より詳細には、アスコルビン酸及びその誘導体、及び還元糖からなる群から選択される少なくとも1種の抗酸化物質を含有するとともにアルコールの含有量を制限することにより熱、特にアイロン処理等による高熱処理によるダメージから毛髪を保護する毛髪化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪は、パーマネントウェーブや染色等の人為的処理及び/又は光や熱などの様々な要因によってダメージ(損傷)を受けている。これらの要因のうち、光(紫外線)によって生じるダメージについては研究が進んでおり、紫外線照射によって発生した活性酸素種が毛髪表面のタンパク質を酸化し、酸化されたタンパク質がはがれ落ちることによる毛髪が劣化するものと考えられている。
【0003】
このような活性酸素種による作用を抑制するために、アスコルビン酸(ビタミンC)誘導体、クロロゲン酸、ポリフェノールなどの抗酸化物質を毛髪に適用することが有効であることも知られており(特許文献1〜3)、糖類等の電子供与対を共存させることによりクロロゲン酸を再生させ、光酸化防止能を持続させる試みもなされている(特許文献2)。
【0004】
一方、日常的なヘアセッティングにおいて、ドライヤー等により毛髪が加熱さられることも多く、特許文献4には、抗酸化物質であるポリフェノール(プロシアニンオリゴマー)が、ドライヤーによる熱乾燥に起因する毛髪のダメージを防止できることが記載されている。しかしながら、特許文献に記載された保護のメカニズムは、加熱によって湿った髪表面の水膜に溶解している酸素から発生した活性酸素種を抗酸化物質で消滅させるものであり、前記した光酸化防止と同一のメカニズムである(段落0006参照)。
【0005】
通常のドライヤーによる熱乾燥ではそれほど高温になることはなく、たかだか100℃未満であると考えられるが、毛髪の主成分であるタンパク質の変性や分解が起こるのは一般に150℃以上といわれている(非特許文献1)。従って、毛髪が150℃以上の高温に加熱されることのあるアイロン処理等にあっては、特許文献4に記載されたような保護メカニズムが有効であるかどうかは不明であり、そのような高温から毛髪を保護する研究は、これまでになされていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−126112号公報
【特許文献2】特開平9−95409号公報
【特許文献3】特開2002−212037号公報
【特許文献4】特開2002−193760号公報
【非特許文献1】「化粧品科学ガイド」;田上八朗、他、監修;フレグランスジャーナル社発行、2007年、第94頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、本発明における課題は、アイロン処理等の高温加熱に対して毛髪を有効に保護できる毛髪化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決すべく、本発明者等は鋭意研究を行った結果、従来の光酸化防止などに使用されていた特定の抗酸化物質が高温に対する保護においても有効であるのみならず、殆どの毛髪化粧料に含まれているアルコール又は多価アルコールが毛髪の熱ダメージを促進することも新たに見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、(A)アスコルビン酸及びその誘導体、及び還元糖からなる群から選択される抗酸化物質と、(B)組成物全重量に対して20質量%以下のアルコール成分とを含有し、洗い流さないことを特徴とする毛髪化粧料を提供する。
また本発明は、熱アイロン時に塗布する毛髪化粧料において、(A)アスコルビン酸及びその誘導体、及び還元糖からなる群から選択される抗酸化物質と、(B)組成物全重量に対して20質量%以下のアルコール成分とを含有し、洗い流さないことを特徴とする毛髪化粧料を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の毛髪化粧料は、特定の抗酸化物質を含有することにより、水性であっても油性であっても熱による毛髪の劣化を有効に防止できる。また、本発明の毛髪化粧料は、アルコール成分の含有量が20質量%以下に制限されているため、アルコールによる熱ダメージを抑制することができる。逆に、制限された量ではあるがアルコール成分を配合しているため使用感触に優れた毛髪化粧料を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書における「抗酸化物質」とは、活性酸素種等のラジカル種を捕捉して不活性化する作用を有する物質であり、具体的には、スーパーオキサイドジスムターゼ等の酵素、ビタミンC及びビタミンE等のビタミン類、カテキン、リコピン等の植物栄養素、ポリフェノール、還元糖などが知られている。本発明の毛髪化粧料では、これらの抗酸化物質の中から、アスコルビン酸(ビタミンC)及びその誘導体、及び還元糖を特に選択したことを特徴としている。特にアスコルビン酸又はその誘導体を用いるのが好ましい。
【0012】
本発明で使用されるアスコルビン酸又はその誘導体としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸−2−グルコシド、2−O−メチルアスコルビン酸、3−O−メチルアスコルビン酸、2−O−エチルアスコルビン酸、3−O−エチルアスコルビン酸、アスコルビン酸−6−パルミテート、アスコルビン酸二パルミチン酸エステル、6−O−パルミトイルアスコルビン酸−2−O−リン酸、6−O−アシル−2−O−α−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸、アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム、アスコルビン酸−2−リン酸、アスコルビン酸−2−リン酸ナトリウム、アスコルビン酸−2−硫酸、アスコルビン酸−2−硫酸カリウム、アスコルビン酸−2−硫酸バリウム、アスコルビン酸−2−硫酸エステル二ナトリウム、アスコルビン酸−2−リン酸エステル三ナトリウム等が挙げられる。
【0013】
還元糖は、アルデヒド基、ケトン基等の還元性の官能基を持つ単糖又はオリゴ糖であり、具体的には、ブドウ糖、果糖、乳糖、マンノース、ガラクトース、フラクトースなどが挙げられる。
【0014】
本発明における抗酸化物質の配合量は、通常は20質量%未満、好ましくは10質量%未満、より好ましくは0.001〜5質量%の範囲である。
【0015】
本発明の毛髪化粧料のもう一つの特徴は、アルコール成分の含有量が20質量%以下に制限されていることである。毛髪化粧料が一般的に含有しているアルコール成分が、熱による毛髪ダメージを促進することは本発明において初めて見出されたことである。
一方で、アルコール成分は組成物を毛髪に適用する際の使用感を向上させる作用を有するため、本発明の毛髪化粧料はアルコール成分を必須成分として含有している。ただし、その配合量が20質量%以下であることは上記した通りであり、20質量%を越えて配合すると熱に対する保護効果が十分ではなくなる。配合量の下限は良好な使用感が得られれば特に限定されないが、例えば、少なくとも0.001質量%、好ましくは少なくとも0.01質量%、より好ましくは少なくとも0.1質量%程度である。
【0016】
なお、本明細書における「アルコール成分」とは、一価アルコール(単に「アルコール」と呼ぶ)及び多価アルコールを含むものとする。
本発明の毛髪化粧料に配合されるアルコール成分としては以下のものが好ましい。
アルコールとしては、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール等が挙げられる。
多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、イソプレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール(平均分子量200〜20,000)、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0017】
さらに、本発明の毛髪化粧料は、上記の抗酸化物質及びアルコール成分に加えて、両性高分子及び/又はカチオン性高分子を配合するのが好ましい。両性高分子及び/又はカチオン性高分子を配合することにより、髪表面に高分子が吸着し、ドライヤーやアイロンの熱から髪が保護されるものと考えられる。また、アイロン使用時に起こる髪表面への摩擦ダメージからも髪が保護されることも期待できる。
【0018】
本発明の毛髪化粧料に配合される両性高分子としては、例えば、N−メタクリロイルN,N−ジメチルアンモニウム・α−N−メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体液等が挙げられる。
カチオン性高分子としては、例えば、ビニルピロリドン/N,N−ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩液、ビニルピロリドン/塩化メチルビニルイミダゾリニウム共重合体、アルキルメタクリレート/ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体、ビニルピロリドン/メチルビニルイミダゾール共重合体/ビニルカプロラクタム共重合体、セチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムジヒドロ燐酸塩、ラウリル/ミリスチルトリメチルアンモニウム硫酸塩、ビニルピロリドン/ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド/t−アクリル酸ブチル燐酸塩等が挙げられる。
【0019】
本発明の毛髪化粧料における両性高分子及び/又はカチオン性高分子の配合量は特に限定されないが、通常は0.001〜10質量%、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0020】
本発明の毛髪化粧料は、主にアウトバスでの使用を意図した洗い流さない化粧料の形態で提供されることを特徴としている。具体的には、ヘアトリートメント、ヘアジェル、スタイリングムース、ヘアミスト、ヘアワックス、ヘアオイル等が挙げられるが、これらに限られるものではない。例えば、ヘアリンス、シャンプーなどのインバス用毛髪化粧料では、アルコール成分の含有量が20質量%以下であるものも存在するが、アウトバス用の毛髪化粧料では使用感向上のために20質量%を越えるアルコール成分を配合するのが一般的であった。本発明の毛髪化粧料は、洗い流さないアウトバス用化粧料において、敢えてアルコール成分の含有量を制限することによって、良好な使用感を維持したまま毛髪の熱ダメージを抑制することが可能となった。
【0021】
本発明の毛髪化粧料は、上記の(A)抗酸化物質及び(B)アルコール成分の所定量を含有し、任意に両性高分子及び/又はカチオン性高分子を含有する以外に、毛髪化粧料、特に洗い流さない化粧料に通常用いられる他の任意成分を含んでいてもよい。
【実施例】
【0022】
以下、具体例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。なお、以下の実施例、比較例及び処方例における配合量は全て質量%である。
【0023】
下記の表1及び2に掲げた組成を有する組成物を調製した。これらの組成物を用いて以下の引張強度試験を行った。
引張り強度試験:
(1)毛髪12本の束を水に浸漬した。
(2)(1)の毛髪束について、引張強度測定機(島津オートグラフAGS−H 5N)を用いて引張強度を測定した。
(3)当該毛髪束を各組成物に浸漬した。
(4)(3)の毛髪束を200℃で20分間熱処理した。
(5)(4)の毛髪束を洗浄し、水に浸漬した後、再度(2)と同様に引張強度を測定した。
【0024】
評価方法:
熱処理前後の引張強度変化(%)を評価した(下記式参照)。結果を表1及び2に併せて示す。
引張強度変化(%)=[(5)の引張強度/(2)の引張強度]×100
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

(1)ポリクオタニウムー11(PDMポリマー(PF);ビニルピロリドン/N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩液;大阪有機化学工業)
(2)ポリクオタニウムー39(マーコート プラス 3330;アクリルアミド/アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体液;イー・シー・シー・インターナショナル)
(3)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(エマレックス HC−60;日本エマルジョン株式会社)
【0027】
上記表1及び2に示されるように、組成物中のアルコール成分量が増大するにつれて熱処理による引張強度の低下が著しい(比較例1、2及び3)にも関わらず、抗酸化物質であるアスコルビン酸又はグルコースを配合すると毛髪のダメージが抑制されることが明らかとなった(実施例1、2及び3)。また、このような毛髪へのダメージの改善効果は、両性高分子又はカチオン性高分子を配合した組成物においても観察された(実施例4及び5)が、抗酸化物質を含まず両性高分子又はカチオン性高分子のみを含む組成物では効果は見られなかった(比較例4)。
【0028】
(処方例1)
アウトバストリートメント:
配合成分 配合量(質量%)
メチルポリシロキサン(20cs) 5.0
高重合ジメチルポリシロキサン 10.0
(重合度8000、揮発性イソパラフィン溶液20%)
エチルアルコール 5.0
POE(60)硬化ヒマシ油 1.0
メチルパラベン 0.1
POE(20)セチルエーテル 0.2
メトキシケイ皮酸オクチル 0.1
乳酸 0.37
乳酸ナトリウム 0.15
アスコルビン酸 6.0
香料 適量
精製水 残余
水酸化ナトリウム 適量
ハイドロサルファイトナトリウム 0.001
【0029】
(処方例2)
ヘアジェル:
配合成分 配合量(質量%)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体 3.0
(「PVP/VA・S−630」;ISP社製)
ビニルピロリドン/ジメチルアミノエチルメタクリレート 2.0
ジエチル硫酸塩共重合体(水/エタノール=3/1の混合溶液)
(「HCポリマー5」;大阪有機化学工業(株)製)
リン酸 0.3
リン酸ナトリウム 0.08
アクリル酸アルキル/メタクリル酸アルキル/
POE(20)ステアリルエーテル共重合体エマルション 5.0
(「アキュリン22」;ISP社製)
カルボキシビニルポリマー 0.05
2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール 適量
エチルアルコール 15.0
イオン交換水 残余
香料 0.2
乳糖 4.0
【0030】
(処方例3)
スタイリングムース:
配合成分 配合量(質量%)
エチルアルコール 5.0
2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−
ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン 5.0
POE硬化ヒマシ油(60EO) 0.5
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 0.2
パラメトキシ安息香酸エステル 適量
アスコルビン酸−2−グルコシド 0.01
乳酸 0.37
乳酸ナトリウム 0.15
果糖 0.5
製造方法:
上記成分を常法によって混合し、ヘアムース原液を調製した。この原液をエアゾール缶に92重量部詰めて弁をする。次いで、液化石油ガス8重量部を充填し、ヘアムースを得た。
【0031】
(処方例4)
ヘアミスト:
配合成分 配合量(質量%)
塩化トリメチルアンモニウム 0.2
PEG/PPG(14/7)ジメチルエーテル 2.0
アスコルビン酸−2−グルコシド 7.0
リン酸 0.3
リン酸ナトリウム 0.08
エタノール 5.0
水酸化カリウム 適量
イオン交換水 残余
ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム 0.05
ジブチルヒドロキシトルエン 0.005
メタリン酸ナトリウム 0.01
【0032】
(処方例5)
ヘアワックス:
配合成分 配合量(質量%)
流動パラフィン 10.0
マイクロクリスタリンワックス 10.0
ジメチルポリシロキサン(20cs) 4.0
ステアリルアルコール 4.0
カルナバロウ 3.0
アスコルビン酸 1.0
乳酸 0.37
乳酸アンモニウム 0.18
イソステアリン酸 0.5
ステアリン酸 4.5
テトラ2−エチルへキサン酸ペンタエリスリット 2.0
POE硬化ヒマシ油(60EO) 3.0
POEオレイルエーテルリン酸 2.0
自己乳化型モノステアリン酸グリセリン 3.0
トリエタノールアミン 適量
パラオキシ安息香酸ナトリウム 適量
イオン交換水 残余
ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム 0.05
ジブチルヒドロキシトルエン 0.005
エデト酸二ナトリウム 0.01

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アスコルビン酸及びその誘導体、及び還元糖からなる群から選択される抗酸化物質と、(B)組成物全重量に対して20質量%以下のアルコール成分とを含有し、洗い流さないことを特徴とする毛髪化粧料。
【請求項2】
熱アイロン時に塗布する毛髪化粧料において、
(A)アスコルビン酸及びその誘導体、及び還元糖からなる群から選択される抗酸化物質と、(B)組成物全重量に対して20質量%以下のアルコール成分とを含有し、洗い流さないことを特徴とする毛髪化粧料。
【請求項3】
両性高分子及び/又はカチオン性高分子を更に含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の毛髪化粧料。

【公開番号】特開2010−95472(P2010−95472A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268161(P2008−268161)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】