説明

気相反応方法及び気相反応装置

【課題】サイクロンを内部に有する流動層反応器を用いて気相反応を行う方法において、サイクロンディプレッグの触媒による閉塞を低減し、さらにはディプレッグ内に滞留している触媒の劣化を抑制して触媒の性能を長期に渡り保持できる気相反応方法を提供すること。
【解決手段】(1)触媒層を含む流動層反応器に原料ガスを供給する工程、
(2)前記原料ガスを前記触媒層に通過させて生成ガスを得る工程、
(3)前記生成ガスを前記触媒層から排出してサイクロンに導入したのち、前記生成ガスを前記流動層反応器から排出する工程、
(4)前記生成ガスが前記サイクロンに導入される際に同伴する触媒をサイクロンディプレッグ中に回収する工程、
(5)前記サイクロンディプレッグ中に回収した前記触媒をサイクロンディプレッグ下部に設けられたトリクルバルブを用いて前記触媒層に戻す工程、
を含む気相反応方法であって、
前記工程(5)において前記トリクルバルブ内で前記触媒を流動化させることを含む、気相反応方法及びそれに好適な気相反応装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクロンを有する流動層反応器を用いた気相反応方法、及びその方法に好適な気相反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流動層技術は19世紀後半に開発されて以来、各種の製造技術に応用がなされてきた。流動層の主たる工業的応用としては、石炭ガス化炉、FCCプラント、プロピレンのアンモ酸化によるアクリロニトリル製造プラント、ポリエチレン気相重合プラント、無水マレイン酸製造プラント等が挙げられる。流動層反応器は、反応熱の除去又は付加が容易であるため、層内を均一温度に維持できること、爆発範囲の高濃度ガスの処理ができ、生産性が高いこと等が特徴として挙げられ、今後も各方面での応用、改良が期待されている。
【0003】
流動層反応装置の内部構造については、例えば、非特許文献1に記載されている。
図1に通常の流動層反応装置の概略図を示す。流動層反応器1の空気(酸素)導入管2から空気(酸素)を導入し、空気(酸素)分散板3の吹出し孔を通して触媒層6に導入する。一方、原料導入管4より原料を導入し、原料分散管5の吹出し管を通して触媒層6に導入し、空気(酸素)と原料で触媒を流動させる。
触媒層6を出る生成ガスに同伴されて触媒層6から飛び出した触媒粒子の一部は、生成ガスに同伴、輸送されて流動層反応装置外に排出されるので、流動層反応器1の上部にサイクロン8a、8b、8cを設置して触媒粒子の流動層反応装置外への排出を防止する。触媒粒子の捕集効率を上げるために、通常3段のサイクロンを直列につないで用いる。ガス流れの順にNo.1サイクロン、No.2サイクロン、No.3サイクロンと言う。図1では、3段のサイクロンが1系列描かれているが、生成ガス量に応じて2系列以上設置される。生成ガスは生成ガス流出管11を通して流動層反応器1から排出される。サイクロン8a、8b、8cで捕集された触媒粒子は、それぞれディプレッグ9a、9b、9cを流下して触媒層6に戻される。No.1サイクロンのディプレッグ9aの下部には受け板10cが設けられ、No.2及びNo.3サイクロンのディプレッグの下部にはトリクルバルブ10b、10aがそれぞれ設置される。これらは、ディプレッグ下部からガスが流入するとサイクロン捕集効率が著しく低下するので、この触媒捕集効率低下を防ぐために設置されている。
【0004】
図2に受け板10c並びにトリクルバルブ10a及び10bの概略図を示す。図2のa)に例示する受け板は、No.1ディプレッグ下端にとりつけられ、該受け板には触媒排出のための隙間が設けられている。図2のb)に例示するトリクルバルブは、No.2及びNo.3ディプレッグ下端に取り付けられ、該トリクルバルブの出口は普段は閉じている。ディプレッグ内部に触媒が一定量溜まるとその質量で該トリクルバルブに設けられている板が開かれ、触媒が排出される。
【0005】
サイクロンディプレッグ及び/又はトリクルバルブ内に触媒が堆積して詰まり、触媒粒子がディプレッグを流下しなくなると多量の触媒が流動層反応装置外に排出されてしまう。そのためディプレッグ内の詰まりの有無を確認する目的で、図1に示すように、ディプレッグ上部及び下部にノズルを設置してディプレッグ内の上部と下部の差圧を差圧測定器13で測定して、ディプレッグ内の触媒の流れを監視する。差圧が上昇すると触媒のつまりが起きたと確認される。触媒のノズル内への逆流による差圧測定器導管の閉塞を防止するため、パージガス導入管12を通してノズルにパージガスを導入する。図1には示していないが、No.2サイクロンのディプレッグ9bも、No.3サイクロンのディプレッグ9cと同様にパージガスを導入して、差圧を測定することもできる。差圧測定器13で測定した差圧が上昇してディプレッグの詰まりが検知された場合、パージガス導入管12を通じてトリクルバルブ内へ一時的に大量のパージガスを導入し、強制的な詰まり除去を試みることが行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】橋本健治、工業反応装置、培風館、(1984)、170頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような気相反応に用いる流動層反応装置に設置されているサイクロンディプレッグの閉塞は、反応装置外に排出される触媒量の増加を招き、この触媒の排出によって反応器内の触媒量が不足した場合は、好ましい反応成績が達成されなくなる。触媒の大量損失を防止するために、ディプレッグの閉塞を検知して異常を早期発見した時に、一時的に大量のガスを吹き込むことによってトリクルバルブに詰まっていた触媒をトリクルバルブから排出させることは有効ではある。しかしながら、従来から行われているこの差圧監視と差圧上昇時の大量ガスパージによる詰まり防止手段のみでは、ディプレッグの閉塞防止手段としては不十分である。
【0008】
ここで、前記ディプレッグ内での触媒の詰まりは以下の原因によって引き起こされると推測される。ディプレッグ下部に設けられているトリクルバルブ10a及び10bには常時触媒が堆積している。原料ガス供給量の増加や反応圧力の減少等により、生成ガスに同伴する触媒量が増大して、トリクルバルブの触媒排出能力を超過して触媒がトリクルバルブに溜まったり、トリクルバルブ内で何らかの理由により触媒固化及び/又は固着が生じて詰まりが生じたりする。詰まりが生じると、上述したように触媒の排出によって反応器内の触媒量が不足して、好ましい反応成績が達成されなくなるおそれがある。さらにある種の流動層触媒に関しては、ディプレッグ内に長時間滞留している間に、触媒が熱的影響及び/又はガス置換がなされ難い環境による影響を受けて性能劣化を生じる場合がある。例えば酸化触媒の場合、トリクルバルブ内に長時間滞留している間に酸素が不足して触媒が還元され、性能劣化に至る場合がある。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、サイクロンを内部に有する流動層反応器を用いて気相反応を行う方法において、サイクロンディプレッグの触媒による閉塞を低減し、さらにはディプレッグ内に滞留している触媒の劣化を抑制して触媒の性能を長期に渡り保持できる気相反応方法、及びこれに好適な気相反応装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来のサイクロンディプレッグの閉塞の原因が、トリクルバルブ内に堆積した触媒の非流動性に関係すると推定した。
非特許文献1に記載の方法の場合は、反応装置内では流動化されている触媒がトリクルバルブ内底部では一旦非流動性化されて堆積するために、触媒がトリクルバルブ内に詰まりを生じさせると考えられる。そして本発明者らは鋭意検討した結果、トリクルバルブ内で触媒を流動化させることが、サイクロンディプレッグの閉塞及び触媒劣化の課題を解決できることを見出し本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]
(1)触媒層を含む流動層反応器に原料ガスを供給する工程、
(2)前記原料ガスを前記触媒層に通過させて生成ガスを得る工程、
(3)前記生成ガスを前記触媒層から排出してサイクロンに導入したのち、前記生成ガスを前記流動層反応器から排出する工程、
(4)前記生成ガスが前記サイクロンに導入される際に同伴する触媒をサイクロンディプレッグ中に回収する工程、
(5)前記サイクロンディプレッグ中に回収した前記触媒をサイクロンディプレッグ下部に設けられたトリクルバルブを用いて前記触媒層に戻す工程、
を含む気相反応方法であって、
前記工程(5)において前記トリクルバルブ内で前記触媒を流動化させることを含む、気相反応方法。
[2]
前記トリクルバルブ内での前記触媒の流動化を、ガスを吹出させることによって行う上記[1]記載の方法。
[3]
前記ガスの吹出しを前記トリクルバルブ内の底部付近から行う上記[2]記載の方法。
[4]
前記ガスの吹出しを前記トリクルバルブ内の底部付近に設置されたノズルから行う上記[2]記載の方法。
[5]
前記ノズルが前記トリクルバルブ側面から挿入されている上記[4]記載の方法。
[6]
前記ガスの吹出し速度が10〜60m/secである上記[2]〜[5]のいずれか記載の方法。
[7]
前記原料ガスが炭素数2〜4のアルカン及び/又はアルケンを含む、上記[1]〜[6]のいずれか記載の方法。
[8]
前記アルカンはプロパン及び/又はイソブタンである、上記[7]記載の方法。
[9]
前記アルケンはプロピレン及び/又はイソブチレンである、上記[7]又は[8]記載の方法。
[10]
前記気相反応がアンモ酸化反応である、上記[1]〜[9]のいずれか記載の方法。
[11]
流動層触媒を含む流動層反応器、
前記流動層触媒を捕集するために前記流動層反応器内に設けられたサイクロン、
前記サイクロンに接続されたサイクロンディプレッグ、及び
前記サイクロンディプレッグ下部に設けられたトリクルバルブ、
を備える気相反応装置であって、
前記トリクルバルブ内にトリクルバルブ内部に堆積する触媒を流動化させる流動化装置を有する気相反応装置。
[12]
前記流動化装置はガスの吹出し穴を設けられたノズルである、上記[11]記載の気相反応装置。
[13]
前記ノズルが、トリクルバルブ底部からの距離0〜30mmの範囲内に設置されている、上記[12]記載の気相反応装置。
[14]
前記ノズルのトリクルバルブ内への挿入長さが、トリクルバルブの側壁間長さの0.5〜0.9倍である、上記[12]又は[13]記載の気相反応装置。
[15]
前記ノズルに設けられたガスの吹出し穴が1〜20個である、上記[12]〜[14]のいずれか記載の気相反応装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流動層反応器を用いた気相反応において、該流動層反応器内に設置したサイクロンディプレッグの流動層触媒による閉塞を低減することで触媒の飛散損失を少なくし、さらにはディプレッグ内に滞留している触媒の劣化を抑制して触媒の性能を長期に渡り保持できる気相反応方法、及びその方法に好適な気相反応装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態で用いられる流動層反応装置の一例の概略図を示す。
【図2】ディプレッグに取り付けられる受け板、トリクルバルブの概略図を示す。
【図3】本実施の形態で用いられるサイクロンディプレッグ下部のトリクルバルブ付近の概略図を示す。
【図4】本実施の形態で用いられるサイクロンディプレッグ下部のトリクルバルブ付近の別の態様の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0015】
本実施の形態の気相反応方法は、
(1)触媒層を含む流動層反応器に原料ガスを供給する工程、
(2)前記原料ガスを前記触媒層に通過させて生成ガスを得る工程、
(3)前記生成ガスを前記触媒層から排出してサイクロンに導入したのち、前記生成ガスを前記流動層反応器から排出する工程、
(4)前記生成ガスが前記サイクロンに導入される際に同伴する触媒をサイクロンディプレッグ中に回収する工程、
(5)前記サイクロンディプレッグ中に回収した前記触媒をサイクロンディプレッグ下部に設けられたトリクルバルブを用いて前記触媒層に戻す工程、
を含む気相反応方法であって、
前記工程(5)において前記トリクルバルブ内で前記触媒を流動化させることを含む、方法である。
【0016】
図1は、本実施の形態で用いられる流動層反応装置の一例の概略図を示す。
流動層反応器1は公知のものと同様でよく、例えば、
該流動層反応器下部に接続された空気(酸素)導入管2、
該流動層反応器1の下部に設けられた反応原料である空気(酸素)分散板3及び空気(酸素)以外の原料分散管5、
該原料分散管5上部に接続された原料導入管4、
該原料分散管5上部に充填された触媒層6、
該流動層反応器1内の上部に備え付けられたサイクロン8a、8b及び/又は8c、
該サイクロン8cの入口7、
該サイクロン8a、8b及び/又は8cに接続されたディプレッグ9a、9b及び/又は9c、
該ディプレッグ9a、9b及び/又は9c下部に設けられたトリクルバルブ10a及び/又は10b、受け板10c、
該流動層反応器上部に設けられた生成ガス流出管11、
該ディプレッグ内の上部と下部の差圧を測定する差圧測定器13、
該測定器と該ディプレッグを接続するノズル15a及び15b、
該ノズルに接続されたパージガス導入管12、
を備えている。
【0017】
気相反応が発熱反応の場合は、図示していないが、流動層反応器1内に設けられた複数の除熱管等を用いて反応熱が除熱されて反応温度が制御されることが好ましい。また、吸熱反応の場合は、図示していないが、加熱管等を用いて加熱されて反応温度が制御されることが好ましい。反応温度は温度計で測定されるが、ケミカルプラントにおいて通常用いられるものでよく、特に形式等は限定されない。温度計は触媒層の温度分布を把握できる箇所に複数個設置することが好ましい。
【0018】
気相反応としては、特に限定されないが、例えば、反応温度が200℃〜500℃で行われる酸化反応、アンモ酸化反応、アルキル化反応等が挙げられる。
【0019】
以下、図1に例示する流動層反応装置を用いた、本実施の形態の気相反応方法について詳述する。
[工程(1)]
工程(1)は、触媒層を含む流動層反応器に原料ガスを供給する工程である。
原料ガスは、原料導入管4等により流動層反応器1に供給される。原料ガスとしては気相反応の原料となるものであれば特に限定されず、例えば、アルカン、アルケン、アルコール、芳香族炭化水素等の炭化水素、必要に応じて、前記炭化水素に加えてアンモニア及び/又は空気(酸素)が使用される。具体的には、酸化反応の場合、前記炭化水素と酸素や空気等の酸化剤が用いられ、アンモ酸化反応の場合、前記炭化水素と、酸素や空気等の酸化剤と、アンモニアとが用いられ、アルキル化反応の場合、前記炭化水素から選ばれる2種類以上の物質が用いられる。
【0020】
アルカンとしては炭素数1〜4のもの(メタン、エタン、プロパン、n−ブタン、イソブタン等)が挙げられ、アルケンとしては炭素数2〜4のもの(エチレン、プロピレン、n−ブチレン、イソブチレン、t−ブチレン等)が挙げられ、アルコールとしてはメタノール、エタノール、t−ブチルアルコール等が挙げられ、芳香族炭化水素としては、ベンゼン、フェノール、o−キシレン、ナフタレン等が挙げられる。
【0021】
気相反応がアンモ酸化反応である場合、生成するニトリル化合物の化学品中間原料としての価値の観点から、アルカンとしてメタン、プロパン及び/又はイソブタン、アルケンとしてプロピレン及び/又はイソブチレンを用いることが好ましい。
【0022】
原料分散管5の上部には、反応の種類に応じた流動層触媒が必要量充填される。流動層反応器内に用いられる気相反応の流動層触媒としては、固体触媒であれば特に限定されず、例えば、シリカ等に担持された金属酸化物触媒が挙げられる。例えば、プロパン又はプロピレンのアンモ酸化の場合、Mo−V−(Sb及び/又はTi)系、Mo−V−Fe系やMo−Bi−Fe系の複合酸化物であって、90質量%以上の触媒粒子の粒子径が10〜197μm、圧壊強度が10MPa以上のものが流動層触媒として好適に用いられる。
【0023】
供給された原料ガスは、流動層反応器1の下側に接続された導入管4等を経て分散管5から、必要量の流動層触媒が充填されている流動層反応器内に供給される。原料ガスには、炭化水素に加えて空気及び/又は酸素を用いることができ、この場合、空気(酸素)は、流動層反応器1の下側に接続された導入管2を経て分散板3から、必要量の流動層触媒が充填されている流動層反応器内に導入される。空気(酸素)を使用しない気相発熱反応の場合、導入管2及び分散板3を省略することもできる。反応原料及び反応生成物は概して反応器内を下から上へと流通する。
【0024】
反応原料ガスが触媒層に導入されることで、流動層触媒は流動化する。
尚、図1には流動触媒層6の界面が記載されている。該界面は、原料ガス未導入時は静止している。原料ガス導入後は、触媒層の空隙率の増加及び大小のあわだちによって界面の突出が起こるため、層高は均一ではなくなる。従って、界面の位置はあくまで近似的・平均的に図示されたものにすぎない。
【0025】
[工程(2)]
工程(2)は、原料ガスを触媒層に通過させて生成ガスを得る工程である。
原料ガスは触媒層を通過しながら反応して、生成ガスが得られる。得られる生成ガスとしては、例えば、プロパン及び/又はプロピレンを原料とするアンモ酸化反応の場合はアクリロニトリル等を含むガスであり、n−ブタン、1−ブテン、2−ブテン、ブタジエン、ベンゼンからなる群から選ばれる1種以上を原料とする酸化反応の場合は無水マレイン酸等を含むガスであり、i−ブテン及び/又はi−ブタンを原料とするアンモ酸化反応の場合はメタクリロニトリル等を含むガスであり、o−キシレン及び/又はナフタレンを原料とする酸化反応の場合は無水フタル酸等を含むガスであり、フェノール及びメタノールを原料とするアルキル化反応の場合は2,6−キシレノール及び/又はo−クレゾール等を含むガスであり、メタン及び/又はメタノールを原料とするアンモ酸化反応の場合は青酸(HCN)等を含むガスであり、エタン、エテン、エタノールからなる群から選ばれる1種以上を原料とするアンモ酸化反応の場合はアセトニトリル等を含むガスである。
【0026】
[工程(3)]
工程(3)は、生成ガスを触媒層から排出してサイクロンに導入したのち、前記生成ガスを流動層反応器から排出する工程である。
工程(2)で得られた生成ガスは触媒層から排出されてサイクロン入り口7からサイクロン8c、8b及び/又は8aに導入されたのち、流動層反応器から排出される。
【0027】
[工程(4)]
工程(4)は、生成ガスがサイクロンに導入される際に同伴する触媒をサイクロンディプレッグ中に回収する工程である。
生成ガスが触媒層から排出される際に、生成ガスに触媒が同伴されるため、触媒が飛散される。生成ガスと同伴して飛散された触媒を捕集して生成ガスと分離するために、サイクロン8a、8b及び/又は8cを用いる。触媒を同伴している生成ガスは図1のサイクロン入り口7に流入され、No.1サイクロン8c、No.2サイクロン8b、No.3サイクロン8aの順に通過して、生成ガスと触媒は分離される。生成ガスと分離された触媒は、それぞれのサイクロンに取り付けられたサイクロンディプレッグ9a、9b及び9c中に回収される。
【0028】
[工程(5)]
工程(5)は、サイクロンディプレッグ中に回収した触媒をサイクロンディプレッグ下部に設けられたトリクルバルブを用いて触媒層に戻す工程である。
生成ガスと分離された触媒は、それぞれのサイクロンに取り付けられたディプレッグ9a、9b及び9cを介して流下し、それぞれ受け板10c及びトリクルバルブ10b、10aを経て反応器下部に戻される。実質的に触媒と分離された生成ガスは、流出管11により流動層反応器から排出される。
【0029】
図2は、ディプレッグに取り付けられる受け板及びトリクルバルブを示す概略図である。
図2のa)に例示する受け板は、No.1ディプレッグ下端にとりつけられ、該受け板には触媒排出のための隙間が設けられている。図2のb)に例示するトリクルバルブは、No.2及びNo.3ディプレッグ下端に取り付けられ、該トリクルバルブの出口は普段は閉じられている。ディプレッグ内部に触媒が一定量溜まるとその質量で該トリクルバルブに設けられている板が開かれ、触媒が排出される。
【0030】
ディプレッグの詰まり検知のため、差圧測定器13による監視がなされることが好ましい。差圧測定ノズル用パージガス導入管12に供給するパージガス量は、触媒の逆流防止及び正確な差圧測定及び経済的な観点から、ノズル流速で0.5〜3m/secであることが好ましく、0.7〜2m/secであることがより好ましい。当該流速計算において、パージガス温度は反応温度、パージガス圧力は反応器頂部、反応器底部圧力及び反応器高さから計算した圧力として、パージガスの温度及び圧力補正計算をすることができる。パージガスとしては、水分の結露による触媒固化低減及び性能低下抑制の観点から低含水のガスが好ましく、さらに大気圧下の露点が−30℃以下の空気又は窒素を用いることがより好ましい。
【0031】
図1では、ディプレッグの上下間の差圧の測定を例示しているが、ディプレッグの中位にノズルを設け、上中間及び/又は中下間の差圧を測定することもできる。このように中位にノズルを設け分割して差圧を測定すると、詰まり部位の特定に有効である。
【0032】
前記ディプレッグ内での触媒の詰まりは以下の原因によって引き起こされると推測される。ディプレッグ下部に設けられているトリクルバルブ10a及び10bには常時触媒が堆積している。原料ガス供給量の増加や反応圧力の減少等により、生成ガスに同伴する触媒量が増大して、トリクルバルブの触媒排出能力を超過して触媒がトリクルバルブやディプレッグに溜まったり、トリクルバルブ内で何らかの理由により触媒固化及び/又は固着が生じて詰まりが生じる。ディプレッグ内での触媒の詰まりが生じると、触媒のディプレッグ内の流下が起こりにくくなり、反応装置外に排出される触媒量の増加を招く。この触媒の排出によって反応器内の触媒量が不足した場合、好ましい反応成績が達成されなくなるおそれがある。
【0033】
さらにある種の流動層触媒に関しては、ディプレッグ内に長時間滞留している間に、触媒が熱的影響及び/又はガス置換がなされ難い環境による影響を受けて性能劣化を生じる場合がある。例えば酸化触媒の場合、トリクルバルブ内に長時間滞留している間に酸素が不足して触媒が還元され、性能劣化に至る場合がある。本発明者らは、上述したトリクルバルブ内での触媒の詰まりの問題を解決する手段として、トリクルバルブ内に堆積された触媒を常時流動化させる手段が有効であることを見出した。
【0034】
即ち、本発明者らは、上述した工程(5)においてトリクルバルブ内で触媒を流動化させることにより、サイクロンディプレッグの触媒による閉塞を低減し、且つ、触媒劣化を防止することで触媒の性能を長期に渡って保持できることを発見した。
【0035】
本実施の形態において、トリクルバルブ内での触媒の流動化は、例えば、トリクルバルブ内にガスを吹出させることにより行うことができる。
【0036】
ガスの吹出す方向はトリクルバルブ内の触媒全体を流動化できる場所であれば特に限定されない。例えば、底部付近から上方に向かう、底部付近で一旦底部に吹き付けた後に反射して上方にガスが向かう、壁面全体からトリクルバルブ内にガスが向かう等が挙げられる。ガス分散装置自身による流動化阻害やガス分散装置の簡便さの観点からは、底部付近から上方に向かって行うことが好ましい。ここで、底部付近とは、ディプレッグ下端の斜めに傾斜している部分及びその近傍を意味する。ガスの吹出し方法は、前記のガスの吹出す方向を満たすものであれば特に限定されない。
【0037】
ガスの吹出しに用いられる装置の設置方法はトリクルバルブ内の底部付近に設置されていれば特に限定されない。既存のトリクルバルブに簡単に取り付けられるという観点からは、トリクルバルブ側面の壁から底部に沿って設置する方法が好ましい。
【0038】
触媒をより良好に流動化させる観点からは、トリクルバルブ内に吹き込まれたガスのディプレッグ内における流速は0.1〜50cm/sであることが好ましく、より好ましくは0.5〜30cm/s、更に好ましくは1.0〜30cm/s、特に好ましくは2.0〜30cm/sである。当該流速計算において、ガス温度は反応温度、ガス圧力は反応器底部の圧力として、ガスの温度及び圧力補正計算をすることができる。
【0039】
前記流動化させるために吹出させるガスの種類は特に限定されないが、水分の結露による触媒固化防止の観点から低含水のガスが好ましく、より好ましくは大気圧下の露点が−30℃以下の空気又は窒素である。
【0040】
図3は、本実施形態で用いられるサイクロンディプレッグ下部のトリクルバルブ付近の概略図を示す。
図3a)は、トリクルバルブを正面から見た概略図である。ここで、ディプレッグ下端の開口部には、図2のb)に示すような板が取り付けられているが、図3a)においては、便宜上、省略して描いている。分散板17の上部に設けられたガスを吹き出させるためのトリクルバルブパージガス吹出し口16が示されている。ここで、図3a)において、ガス吹出し口16は8個設けられているが、これは便宜上示されている個数であるため、当然、この個数に限定されるものではない。
図3b)は、トリクルバルブを側面から見た概略図であり、分散板17、分散板上部に設けられたトリクルバルブパージガス吹出し口16、及びノズル14が示されている。ここで、ディプレッグ下端の開口部には、図2のb)に示すような板が取り付けられているが、図3a)と同様に、便宜上、省略して描いている。
【0041】
トリクルバルブ内の底部に設置された分散板17にノズル14からパージ用ガスを導入する。分散板17には、トリクルバルブパージガス吹出し口16(以下、小穴とも言う。)を設けてガスを吹出させるが、トリクルバルブ内の触媒を効果的に流動させるため、小穴からの最小吹出流速が存在する。さらに、パージガス吹出流速が速い程、また小穴の数が多い程、触媒の凝固固化を防止するのに有効であるが、パージガスの量が多くなり過ぎると経済的な損失となる上、ガスの吹出流速が高過ぎるとガス吹出し部での触媒の磨耗を加速させ触媒ロスにつながる。上記観点から、適正な吹出流速や穴数で操作することが好ましい。即ち、パージガス最小吹出流速を、好ましくは10m/sec、より好ましくは15m/secとし、パージガス最大吹出流速を、好ましくは80m/sec、より好ましくは60m/secとすることで、吹出流速を操作して触媒の凝固固化を防止する。トータルガス量は、前記したようにディプレッグ内の流速から規定される。また小穴の数は、トリクルバルブ内全体へのガスパージのしやすさを考慮して、好ましくは1〜20個、より好ましくは3〜10個設ける。小穴の設置位置は、トリクルバルブ内を均一に流動させるために、分散板上を均一に設置されているのが好ましい。小穴の穴径は、異物混入等による穴の閉塞を考慮して、1mm以上とするのが好ましい。
【0042】
図4のa)に、本実施の形態で用いられるサイクロンディプレッグ下部のトリクルバルブ付近の別の態様の概略図を示す。トリクルバルブ側面からトリクルバルブ内に、ノズルをディプレッグ下端壁と平行に挿入設置する。なお、図4においてはノズルとしてトリクルバルブパージ用配管14を用いている。トリクルバルブパージ用配管14とディプレッグ下端壁との距離dは、トリクルバルブ内の良好な流動性確保の観点からより短いことが好ましく、例えば0〜30mmの範囲で設置する。該配管14の挿入長さlは、ディプレッグ下端の側壁間の距離をLとしたときに、l=0.5〜0.9Lであることが好ましい。ここでl及びLは、ディプレッグ下端壁と平行時の測定長さである。ディプレッグ側面で該配管14の挿入部の上部には、ディプレッグ差圧測定用ノズル15aを設置する。なお、本図では14及び15aの配管が切れているが、反応器の外側でガス供給源と繋がっている。
【0043】
図4のb)は、本実施の形態で用いられるトリクルバルブパージ用配管の概略図を示す。パージ用配管14には、小穴を設けてガスを吹出させるが、トリクルバルブ内の触媒を効果的に流動させるため、上述した分散板17にノズル14からパージ用ガスを導入する場合と同様の小穴からの最小吹出流速が存在する。小穴の設置位置は、トリクルバルブ内を均一に流動させるために、ノズルの長さ方向に均一に設置されているのが好ましい。小穴の穴径は、異物混入等による穴の閉塞を考慮して1mm以上とするのが好ましい。小穴の設置角度については、バルブ底面からのガス吹出しの観点から、図4b)のθが0°〜80°であることが好ましい。
【0044】
次に、本実施の形態の気相反応方法を好適に実施し得る気相反応装置について説明する。
本実施の形態の気相反応方法に好適な気相反応装置は、
流動層触媒を含む流動層反応器、
前記流動層触媒の一部を捕集するために前記流動層反応器内に設けられたサイクロン、
前記サイクロンに接続されたサイクロンディプレッグ、及び
前記サイクロンディプレッグ下部に設けられたトリクルバルブ
を備える気相反応器であって、
前記トリクルバルブ内にトリクルバルブ内部に堆積する触媒を流動化させる流動化装置を有する気相反応装置である。
【0045】
上述したように、本発明者らは、サイクロンディプレッグ下部に設けられたトリクルバルブ内で触媒を流動化させることにより、サイクロンディプレッグの触媒による閉塞を低減し、且つ、触媒劣化を防止することで触媒の性能を長期に渡って保持できることを見出した。
【0046】
ここで、トリクルバルブ内部に堆積する触媒を流動化させるための流動化装置としては、トリクルバルブ内にガスを吹出させる装置等が挙げられ、より具体的には、ガスの吹出し穴が設けられたノズル等を用いることができる。
【0047】
流動化装置として、ガスを吹出させる装置を用いる場合のガスの吹出す方向、装置の設置方法、ガスの流速、ガスの種類等は上述した通りである。また、上記で説明した図3及び図4は、本実施の形態の流動化装置の一例を示すものである。
【0048】
本実施の形態の気相反応装置を用いて実施される気相反応としては、特に限定されず、例えば、酸化反応、アンモ酸化反応、アルキル化反応等が挙げられる。
【実施例】
【0049】
次に、本実施の形態を実施例及び比較例により更に詳細に説明する。ただし、本実施の形態はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で用いた流動層反応装置は、図1に示したものと同様であり、流動層反応器の下部には、反応原料であるガスの分散管及び分散板を有し、反応熱の除去のための除熱管が内装されていた。また、流動層反応器の上部には、反応器から流出する生成ガスに混入した触媒を捕集するサイクロンを有し、ディプレッグで触媒を下部に返送した。
【0050】
サイクロンは、図1に示す直列に3段のサイクロンで、同様なものが計8系列設置されていた。サイクロンディプレッグの内径は、No.1ディプレッグが0.25m、No.2ディプレッグが0.20m、No.3ディプレッグが0.20mであった。
ディプレッグの差圧測定ノズルパージ管の内径は0.020mで、図のようにディプレッグの上部及び下部に接続されていた。
計器、付属設備は通常使用されるものであり、通常の誤差範囲内のものであった。
反応生成物の収率及び未反応率は、生成ガスをサンプリングし、ガスクロマトグラフィーで測定した分析データから下式により計算した。
(反応生成物の収率(%))=(生成物中の炭素質量(g))/(供給した反応原料である有機化合物中の炭素質量(g))×100
(未反応率(%))=(未反応の反応原料である有機化合物中の炭素質量(g))/(供給した反応原料である有機化合物中の炭素質量(g))×100
触媒の粒径は、エスケイ・レーザー・ミクロン・サイザー・プロ−7000S(セイシンエンタープライズ社製)を用い、分散時間90秒として測定を行った。平均粒径は、体積平均で求めた。
【0051】
[実施例1]
反応の原料ガスであるプロピレン、アンモニア及び空気を図1に示すものと同様の流動層反応器1に供給し、プロピレンのアンモ酸化反応を下記のとおりに行った。
No.2及びNo.3サイクロンディプレッグ下端に取り付けられているトリクルバルブ10b及び10cには、図3に示すトリクルバルブパージ用配管14が設置されていた。ノズルの設置位置はl=0.25m、d=5mm、L=0.3mであった。
ガス吹出し口16は図3のように6ヶで、穴の径は3.0mm、θは65°であった。
ディプレッグまわりのパージガスは、圧力3.0kg/cm2Gの窒素を用いた。パージガス配管径は、内径20mmであった。サイクロン1系列あたりの各流量は、下表の通りであった。
トリクルバルブパージ用配管の吹出し口16のガス吹出流速は、36m/secであった。
ディプレッグ内下部でのガスの流速は5.68cm/sec、上部でのガスの流速は6.61cm/secであった。
【0052】
【表1】

【0053】
流動層反応器1は、内径8m、長さ20mの縦型円筒型で、下から2mの位置に空気分散板3、その上に原料分散管5を有するものであった。触媒層の温度を測定するため、温度計は、空気分散板から上方1.5〜4.5mの間に20点取り付けられていた。
触媒には、粒径10〜100μm、平均粒径55μm、粒径24μm以下の含有率が1.4wt.%であるモリブデン−ビスマス−鉄系担持触媒を用い、静止層高2.7mとなるよう充填した。空気分散板から空気を56000Nm3/h供給し、原料ガス分散管からプロピレンを6200Nm3/h及びアンモニアを6600Nm3/h供給した。反応温度は440℃、反応器上部の圧力は0.70kg/cm2G、反応器下部(原料分散管5付近)の圧力は0.73kg/cm2Gであった。
反応器運転開始直後、反応成績を分析したところ、アクリロニトリルの収率は81.5%、プロピレンの未反応率は1.1%であった。
2年間の運転期間中、ディプレッグの詰まりは生じなかった。アクリロニトリルの収率は、80.9〜81.7%、プロピレンの未反応率は、0.80〜1.3%で変動した。
反応開始から2年後、反応器を停止した。空気分散板3の上にのっていた触媒とトリクルバルブ内に残っている触媒を採取した。それぞれの触媒について、実験室において、内径0.020mの小型反応器でプロピレンのアンモ酸化反応を行うことで両者の触媒性能を比較した。その結果、両者の性能に差異はなかった。
【0054】
[実施例2]
実施例1と同様の装置を用いて、原料ガスのうちプロピレンをプロパンに変えて原料ガスを流動層反応器に供給し、プロパンのアンモ酸化反応を下記のとおりに行った。
触媒には、粒径10〜100μm、平均粒径55μm、粒子径24μm以下の含有率が1.3wt.%であるモリブデン−バナジウム系担持触媒を用い、静止層高2.2mとなるよう充填した。空気分散板から空気を64500Nm3/h供給し、原料ガス分散管からプロパンを4300Nm3/h及びアンモニアを4300Nm3/h供給した。反応温度は440℃、流動層反応器上部の圧力は0.75kg/cm2G、反応器下部(原料分散管5付近)の圧力は0.77kg/cm2Gであった。
ディプレッグまわりのガスは、圧力3.0kg/cm2Gの窒素を用いた。パージガス配管径は、内径20mmであった。各流量は、下表の通りであった。
トリクルバルブパージ用配管の吹出し口16のガス流速は、32m/secであった。
ディプレッグ内下部でのガスの流速は5.32cm/sec、上部でのガスの流速は6.34cm/secであった。
【0055】
【表2】

【0056】
反応器運転開始直後、反応成績を分析したところ、アクリロニトリルの収率は52.1%、プロパンの未反応率は10.8%であった。
2年間の運転期間中、ディプレッグの詰まりは生じなかった。アクリロニトリルの収率は、51.7〜52.5%、プロパンの未反応率は、9.9〜11.3%で変動した。
反応開始から2年後、反応器を停止した。空気分散板3の上にのっていた触媒とトリクルバルブ内に残っている触媒を採取した。それぞれの触媒について、実験室において、内径0.02mの小型反応器でプロパンのアンモ酸化反応を行うことで触媒性能を比較した。その結果、両者の性能に差異はなかった。
【0057】
[比較例1]
トリクルバルブにパージ用配管を設置せずに、トリクルバルブ内の触媒を流動化させなかったこと以外は実施例1と同様の流動層反応装置で、実施例1と同様の触媒及び同流量のプロピレン、アンモニア及び空気で流動層反応装置を運転した。
反応器運転開始直後、反応成績を分析したところ、アクリロニトリルの収率は81.6%、プロピレンの未反応率は1.0%であった。
反応開始後4ヶ月目に1系列のNo.3ディプレッグの差圧が上昇し、詰まりを検知した。当該ディプレッグ各部のパージガス導入ノズルを通してパージガスを多量に流し、詰まりを除去した。
その後も1ヶ月に1〜3回の頻度で詰まりが発生し、前述の対応を行った。
2年間の運転期間中、アクリロニトリルの収率は、79.1〜81.6%、プロピレンの未反応率は、0.80〜2.1%で変動した。
2年後、反応器を停止した。空気分散板3の上にのっていた触媒とトリクルバルブ内に残っていた触媒を採取した。空気分散板3の上にのっていた触媒は、さらさらしており、茶褐色であった。一方、トリクルバルブ内に残っていた触媒の一部は固化し、黒色であった。それぞれの触媒について、実験室において、内径0.020mの小型反応器でプロピレンのアンモ酸化反応を行うことで両者の触媒性能を比較した。その結果、トリクルバルブ内に残っていた固化した触媒は、空気分散板3の上にのっていた触媒と比べて性能が低下していた。
【0058】
[比較例2]
トリクルバルブにパージ用配管を設置せずに、トリクルバルブ内の触媒を流動化させなかったこと以外は実施例2と同様の流動層反応装置で、実施例2と同様の触媒及び同流量のプロパン、アンモニア及び空気で流動層反応装置を運転した。
反応器運転開始直後、反応成績を分析したところ、アクリロニトリルの収率は52.0%、プロパンの未反応率は10.9%であった。
反応開始後3ヶ月目に1系列のNo.3ディプレッグの差圧が上昇し、詰まりを検知した。当該ディプレッグ各部のパージガス導入ノズルを通してパージガスを多量に流し、詰まりを除去した。
その後も1ヶ月に2〜5回の頻度で詰まりが発生し、前述の対応を行った。
1年8ヶ月後、ディプレッグの閉塞は改善されず触媒が多量に流失し始めたので、流動層反応装置の運転を停止した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、流動層反応装置を用いて気相反応を実施する際に、有効に利用できる。
【符号の説明】
【0060】
1 流動層反応器
2 空気(酸素)導入管
3 空気(酸素)分散板
4 原料導入管
5 原料分散管
6 触媒層
7 第1段サイクロン入口
8c 第1段サイクロン
8b 第2段サイクロン
8a 第3段サイクロン
9a 第1段サイクロンディプレッグ
9b 第2段サイクロンディプレッグ
9c 第3段サイクロンディプレッグ
10c受け板
10bトリクルバルブ
10aトリクルバルブ
11 生成ガス流出管
12 差圧測定ノズル用パージガス導入管
13 差圧測定器
14 ノズル(トリクルバルブパージ用配管)
15aディプレッグ差圧測定用下部ノズル
15bディプレッグ差圧測定用上部ノズル
16 ノズル(トリクルバルブパージ用配管)ガス吹出し口
17 トリクルバルブパージガス分散板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)触媒層を含む流動層反応器に原料ガスを供給する工程、
(2)前記原料ガスを前記触媒層に通過させて生成ガスを得る工程、
(3)前記生成ガスを前記触媒層から排出してサイクロンに導入したのち、前記生成ガスを前記流動層反応器から排出する工程、
(4)前記生成ガスが前記サイクロンに導入される際に同伴する触媒をサイクロンディプレッグ中に回収する工程、
(5)前記サイクロンディプレッグ中に回収した前記触媒をサイクロンディプレッグ下部に設けられたトリクルバルブを用いて前記触媒層に戻す工程、
を含む気相反応方法であって、
前記工程(5)において前記トリクルバルブ内で前記触媒を流動化させることを含む、気相反応方法。
【請求項2】
前記トリクルバルブ内での前記触媒の流動化を、ガスを吹出させることによって行う請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ガスの吹出しを前記トリクルバルブ内の底部付近から行う請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ガスの吹出しを前記トリクルバルブ内の底部付近に設置されたノズルから行う請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記ノズルが前記トリクルバルブ側面から挿入されている請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ガスの吹出し速度が10〜60m/secである請求項2〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記原料ガスが炭素数2〜4のアルカン及び/又はアルケンを含む、請求項1〜6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記アルカンはプロパン及び/又はイソブタンである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記アルケンはプロピレン及び/又はイソブチレンである、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
前記気相反応がアンモ酸化反応である、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
流動層触媒を含む流動層反応器、
前記流動層触媒を捕集するために前記流動層反応器内に設けられたサイクロン、
前記サイクロンに接続されたサイクロンディプレッグ、及び
前記サイクロンディプレッグ下部に設けられたトリクルバルブ、
を備える気相反応装置であって、
前記トリクルバルブ内にトリクルバルブ内部に堆積する触媒を流動化させる流動化装置を有する気相反応装置。
【請求項12】
前記流動化装置はガスの吹出し穴を設けられたノズルである、請求項11記載の気相反応装置。
【請求項13】
前記ノズルが、トリクルバルブ底部からの距離0〜30mmの範囲内に設置されている、請求項12記載の気相反応装置。
【請求項14】
前記ノズルのトリクルバルブ内への挿入長さが、トリクルバルブの側壁間長さの0.5〜0.9倍である、請求項12又は13記載の気相反応装置。
【請求項15】
前記ノズルに設けられたガスの吹出し穴が1〜20個である、請求項12〜14のいずれか1項記載の気相反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−168331(P2010−168331A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14367(P2009−14367)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】