説明

水中探知装置及び水中探知方法

【課題】より確実、且つ、より精度良く魚の追尾を行うことができる水中探知装置および方法を実現する。
【解決手段】送受波器10で得られた魚Fiのエコー信号に基づく受信信号をマッチドフィルタ処理することで、パルス圧縮した検出信号を得る。対象の魚Fiの観測位置および加速度を算出する。算出した加速度に基づいて、誤差共分散を設定する。設定した誤差共分散と、算出した観測位置とを、拡張カルマンフィルタに代入し、魚Fiの推定位置を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に超音波信号を送信し、そのエコー信号から探知対象物である魚の情報を取得する水中探知装置、特に、魚の追尾処理を行う水中探知装置および水中探知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、探知対象物である水中の魚に関する情報を取得する装置として、例えば特許文献1に示すような水中探知装置が各種考案されている。このような水中探知装置では、超音波信号を水中に送信する。水中探知装置は、送信信号が魚に反射して得られるエコー信号を受信することで、当該魚を検知する。さらに、水中探知装置は、受信信号を用いて、検知した魚に関する各種情報を検出する。
【0003】
このような水中探知装置の一つとして、非特許文献1に記載の水中探知装置は、所謂広域スプリットビームシステムを利用して、魚群内の各単体魚を検知する。そして、非特許文献1の水中探知装置は、検知した単体魚の位置情報に基づいて拡張カルマンフィルタを適用することで、当該単体魚の追尾処理を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−26734号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】NilsOlay Handegard, Ruben Patel, and Vidar Hjellvik, "Tracking individual fishfrom a moving platform using a split-beam transducer", Acoustical Societyof America, October 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に示す方法では、拡張カルマンフィルタに誤差共分散に対する設定が、実際の魚の挙動(実際の物理的現象)に基づいていなかった。具体的には、正解となる追跡結果を与えた上で拡張カルマンフィルタの推定位置の誤差が最小となるようなパラメータを、予め算出しておき、当該算出された固定の誤差共分散を拡張カルマンフィルタに設定していた。
【0007】
しかしながら、このような固定の誤差共分散を用いた場合、探知対象の魚の挙動が、予め与えた追跡結果と同じ挙動であれば、追尾が可能であるが、異なれば追尾精度が低下し、追尾できなくなる可能性もある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、より確実、且つ、より精度良く魚の追尾を行うことができる水中探知装置および水中探知方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、送受波器、検出部、観測値算出部、推定演算部を備える水中探知装置に関する。送受波器は、水中へ超音波信号を送信し、水中からのエコー信号を受信する。検出部は、送受波器のエコー信号に基づいて、魚の有無を検出する。観測値算出部は、検出した魚の観測位置を含む観測値を算出する。推定演算部は、検出した魚に応じた誤差共分散および観測位置を与えた拡張カルマンフィルタにより、魚の位置の推定演算を実行する。
【0010】
この構成では、従来のような固定の誤差共分散ではなく、検出した魚に応じた適切な誤差共分散が拡張カルマンフィルタに与えられる。これにより、拡張カルマンフィルタによる推定精度が向上し、検出した魚の位置が、より確実且つより高精度に推定可能になる。
【0011】
また、この発明の水中探知装置では、観測値算出部は、検出した魚の加速度を算出する加速度算出部を備える。推定演算部は、検出した魚の加速度に基づいて誤差共分散を設定する。
【0012】
この構成では、拡張カルマンフィルタに与える誤差共分散の具体的例として、検出した魚の加速度を用いた例を示している。
【0013】
また、この発明の水中探知装置では、加速度算出部は、少なくとも三回以上の観測タイミングにおける検出した魚の観測位置を関連付けし、該関連付けした観測位置に基づいて加速度を算出する。
【0014】
この構成では、検出した魚の加速度の具体的算出方法を示している。
【0015】
また、この発明の水中探知装置では、加速度算出部は、複数の魚の観測位置から、互いに近傍に存在する複数の魚をグループ化し、該グループによる加速度を算出し、該グループの加速度に基づいて誤差共分散を設定する。
【0016】
この構成では、拡張カルマンフィルタに与える誤差共分散を設定するための加速度を、検出した魚を含む魚群の加速度で算出する。このように魚群単位で加速度を算出することで、観測時間毎の位置変化が捉えやすく、加速度の算出が容易になる。したがって、検出した魚単体の加速度による誤差共分散と同程度の推定精度を拡張カルマンフィルタに与えられる誤差共分散を、より容易に設定することができる。
【0017】
また、この発明の水中探知装置では、検出した魚の種類を取得する魚種取得部と、魚種に応じた誤差共分散を予め記憶した記憶部と、を備える。推定演算部は、魚種に応じた誤差共分散を拡張カルマンフィルタに与えることで、魚の位置の推定演算を実行する。
【0018】
この構成では、魚種毎の誤差共分散を予め用意しておく。そして、別途、検出した魚の種類を取得して、魚種に応じた誤差共分散を拡張カルマンフィルタへ与える。これより、検出した魚の魚種に応じた適切な誤差共分散が設定されるので、より確実且つより高精度な推定が可能になる。
【0019】
また、この発明の水中探知装置では、検出した魚の種類を取得する魚種取得部と、
魚種に応じた誤差共分散の範囲を記憶した記憶部と、を備える。推定演算部は、加速度および魚種に応じた誤差共分散の範囲とに基づいて、拡張カルマンフィルタに与える誤差共分散を設定する。
【0020】
この構成では、上述の加速度と魚種との両方を参照して、誤差共分散を設定する。これにより、さらに、確実且つ高精度な推定が可能になる。
【0021】
また、この発明の水中探知装置では、送受波器の挙動を検出する挙動検出部を備える。推定演算部は、送受波器の挙動に基づく誤差共分散を算出し、当該挙動に基づく誤差共分散をも与えて拡張カルマンフィルタによる推定演算を実行する。
【0022】
この構成では、送受波器の挙動による計測誤差等の誤差共分散も適切に設定される。これにより、さらに、確実且つ高精度な推定が可能になる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、魚の追尾を、より確実に、且つ、より精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る水中探知装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】水中探知装置1の演算処理部14で実行される単体魚の位置推定処理を示すフローチャートである。
【図3】魚群内の単体魚Fi(1)−Fi(5)毎の追尾結果を示す図である。
【図4】或る魚の真の加速度に基づく誤差共分散に対するカルマンフィルタに設定した誤差共分散の比と、推定誤差との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係る水中探知装置および水中探知方法について、図を参照して説明する。図1は本発明の実施形態に係る水中探知装置1の構成を示すブロック図である。
【0026】
水中探知装置1は、送受波器10、送信信号生成部11、送受切替器121,122,123,124、受信信号生成部13、演算処理部14、記憶部15、操作部16、表示器20を備える。なお、表示器20は、水中探知装置1に必須の構成ではなく、水中探知装置1の外部接続端子に接続される外部の表示装置であってもよい。
【0027】
送受波器10は、船舶の船底等に固定設置されている。送受波器10は、送受切替器121−124を介して送信信号生成部11から与えられた送信信号に基づいて超音波を水中へ送波する。また、送受波器10は、前記超音波が水中の魚Fi等の探知対象物に反射して得られるエコーを受波し、エコー信号を出力する。エコー信号は、送受切替器121−124を介して受信信号生成部13へ入力される。
【0028】
送受波器10は、より具体的には、以下の構造を有する。
【0029】
送受波器10は、詳細を図示していない所要数の振動子が束状に一体化されてなる。これらの振動子は、各振動子の振動面が同一平面上に所定パターンで配列されるように、配置されている。受波器10は、送受波面が周方向に4分割されており、各分割面がチャンネルCH1,CH2,CH3,CH4に設定されている。これら、チャンネルCH1,CH2,CH3,CH4は、それぞれ共通の指向特性、特に所定の指向幅、例えば7°の指向幅を有する。
【0030】
送受波器10は、送受波面の全体から超音波を所定の指向性で送波する。送受波器10は、魚Fiのエコーを各チャンネルCH1〜CH4で受波する。
【0031】
各チャンネルCH1〜CH4と船舶方位との関係は、チャンネルCH1とCH4とが船首(fore)側であり、チャンネルCH2とCH3とが船尾(aft)側であり、さらに、チャンネルCH1とCH2とが右舷(starboard)側であり、チャンネルCH3とCH4とが左舷(port)側である。これにより、送受波器10は、チャンネルCH1,CH4の組とチャンネルCH2,CH3の組とにより指向幅内において船首−船尾方向のエコーを受波可能にしている。また、送受波器10は、チャンネルCH1,CH2の組とチャンネルCH3,CH4の組とにより、右舷−左舷方向からのエコーを受信可能にしている。
【0032】
送信信号生成部11は、FM(周波数変調)の送信信号を生成する。送信信号生成部11は、所定の送信時間幅(例えば数十μ秒の時間幅)において、周波数を所定の範囲内でチャープさせることで送信信号を生成する。例えば、送信信号生成部11は、中心周波数が100KHzで、最低低周波数が70KHz、最高周波数が130KHzであり、最低周波数から最高周波数に向かってチャープする送信信号を生成する。
【0033】
送信信号生成部11は、送信信号を送受切替器121−124のそれぞれに出力する。
【0034】
送受信部121−124は、送受波器10の各チャンネルCH1−CH4を構成する各振動子に接続するように設置されている。送受切替器121−124は、送信信号生成部11からの送信信号を送受波器10に出力し、送受波器10の各チャンネルCH1−CH4のエコー信号を、受信信号生成部13へ出力する。
【0035】
受信信号生成部13は、LNA等を備え、各チャンネルのエコー信号を所定のゲインで増幅して、チャンネル毎の受信信号を生成する。チャンネル毎の受信信号は、演算処理部14へ入力される。
【0036】
演算処理部14は、例えばマイクロコンピュータで構成され、記憶部15に記録されている制御プログラムを実行することによって、検出信号生成部141、観測値算出部142、推定演算部143、および表示制御部144として機能する。
【0037】
検出信号生成部141は、マッチドフィルタを備え、受信信号生成部13からの受信信号と、予め送信信号に基づいて設定した基準信号とを相関処理する。このようなマッチドフィルタによる相関処理を行うことで、受信信号をパルス圧縮した検出信号が得られる。検知信号は、観測値算出部142へ入力される。
【0038】
観測値算出部142は、各チャンネルCH1−CH4の検出信号に基づいて、魚Fiの位置算出する。この際、魚Fiの位置は、送受波器10の位置を基準とした船首−船尾方向の角度αと、送受波器10の位置を基準とした右舷−左舷方向の角度βと、送受波器10からの距離に相当する奥行きrとに基づく観測座標系(r,α,β座標系)により算出される。この魚Fiの位置算出には、既知のスプリットビームを用いたSSBL(Super short base line)法を用いる。この方法を用いることで、高い分解能で魚Fiを検出できるので、複数の魚が群れて泳ぐ魚群の単位ではなく、当該魚Fi単体の位置を測定することができる。このような魚Fiの検出および位置検出処理は、所定の観測タイミング毎(例えば、所謂1Ping毎)に実行される。
【0039】
観測値算出部142は、算出した魚Fiの位置を順次記憶する。この際、観測値算出部142は、魚Fi毎に観測位置を連結(関連付け)して記憶する。具体的には、例えば、今回の観測タイミングで検出された観測位置が、前回の観測位置に対して所定の距離範囲に該当する場合、もしくは、所定の距離範囲内で最接近位置に該当する場合に、同じ魚Fiの観測位置であるとして連結(関連付け)処理する。
【0040】
そして、観測値算出部142は、記憶した同一の魚Fiによる複数、少なくとも三回以上の観測タイミングでの観測位置に基づいて、加速度を算出する。この際、観測値算出部142は、加速度をワールド座標系(x、y、z座標系)で算出する。観測値算出部142は、魚Fiの観測位置と加速度とを、推定演算部143へ出力する。
【0041】
推定演算部143は、入力される魚Fiの加速度を順次記憶し、所定数以上の加速度が得られると、当該加速度の誤差共分散を算出する。
【0042】
推定演算部143は、算出した加速度の誤差共分散を、次に示す拡張カルマンフィルタに設定するとともに、観測位置を代入することで、魚Fiの位置推定演算を実行する。
【0043】
推定演算部143で設定される拡張カルマンフィルタは、次の原理により設定されている。
【0044】
今回の観測タイミング[t]の魚Fiのワールド座標系位置を[x,y,z]とし、次の観測タイミング[t+1]の魚Fiのワールド座標系位置を[xt+1,yt+1,zt+1]とする。観測タイミング間隔をΔtとし、今回の観測タイミング[t]の魚Fiのワールド座標系の速度を[xv,yv,zv]とし、今回の観測タイミング[t)の魚Fiのワールド座標系の加速度を[xa,ya,za]とする。これにより、状態遷移モデルは、次の(式1)で表すことができる。
【0045】
【数1】

【0046】
また、今回の観測タイミング[t)での魚Fiの観測位置を上述のように[r,α,β]とする。これにより、計測モデルは、次の式2で表すことができる。
【0047】
【数2】

【0048】
なお、式2において、n,nα,nβは、奥行きおよび各角度の計測誤差を示す。
【0049】
ここで、式1において、魚Fiが短い時間において等速直線運動であると仮定すると、加速度[xa,ya,za]の項は、雑音成分とみなすことができ、これらの加速度[xa,ya,za]が平均ゼロの正規分布に従う雑音成分であるとすると、一般的な拡張カルマンフィルタ(以下、単にカルマンフィルタと称する)を適用することができる。
【0050】
したがって、推定する状態として魚Fiの状態ベクトルをs=[x,y,z,xv,yv,zvとしたとき、誤差成分と見なせる加速度ベクトルをa=[xa,ya,zaとして、状態方程式は、次の(式3)で与えられる。
【0051】
【数3】

【0052】
なお、A,Bは、次の(式4)で与えられる。
【0053】
【数4】

【0054】
一方、観測ベクトルYt=[r,α,βとして、観測方程式は、次の(式5)で与えられる。
【0055】
【数5】

【0056】
なお、式5において、Hは、ワールド座標系と観測座標系との非線形写像を行う変換であり、vは観測誤差項である。
【0057】
ここで、上述の(式3)より、誤差項vを決定する共分散行列Rは、次の(式6)から得られる。
【0058】
【数6】

【0059】
(式6)において、E[ ]は期待値演算を表し、加速度の各成分が無相関であると仮定すれば、次の(式7)で表される。
【0060】
【数7】

【0061】
したがって、共分散行列Rは、次の(式8)で表される。
【0062】
【数8】

【0063】
このように設定された共分散行列Rと、観測誤差vと、予め設定した初期推定誤差とから設定される共分散行列Rm,Riをそれぞれカルマンフィルタに代入するとともに、観測値算出部142からの観測位置[r,α,β]を代入して、推定演算を行う。これにより、ワールド座標系からなる魚Fiの推定位置と速度を算出することができる。
【0064】
以上の処理を、図2に示すフローチャートにより、概略的に説明する。図2は、水中探知装置1の演算処理部14で実行される単体魚の位置推定処理を示すフローチャートである。
【0065】
まず、魚Fiのエコー信号に基づく受信信号を、マッチドフィルタ処理して、パルス圧縮された検出信号を取得する(S101)。次に、検出信号から、対象の魚Fiの観測位置[r,α,β]および加速度[xa,ya,za]を算出する(S102)。次に、算出した複数回分の加速度に基づいて、加速度の誤差分散[σ,σ,σ]を算出し、共分散行列Rを設定する(S103)。次に、観測位置[r,α,β]と共分散行列Rとをカルマンフィルタに代入し、魚Fiの推定位置を算出する(S104)。
【0066】
このように、本実施形態の構成および処理を用いて、魚Fiの観測結果に基づいて、共分散行列Rを設定することで、従来のような固定値の共分散行列を用いるよりも、より確実且つ精度の高い推定位置を算出することができる。
【0067】
そして、このような位置推定処理を、所定タイミング毎、例えば各Ping毎に継続的に実行することで、魚群単位ではなく、当該魚群内の単体の魚Fiを単独で追尾することができる。
【0068】
図3は、本実施形態の構成および処理を用いた場合の魚群内の単体魚Fi(1)−Fi(5)毎の追尾結果を示す図である。図3に示すように、本実施形態の構成および処理を用いることで、実験的にも、魚群内の単体の魚Fiを単独で追尾することができることが分かる。
【0069】
推定演算部143は、推定結果を表示制御部143へ出力する。表示制御部142は、魚Fiの位置推定結果を含む各種情報に基づいて、探知画像を形成し、表示器20へ出力する。
【0070】
なお、上述の実施形態では、共分散行列Rの設定に用いる加速度の誤差共分散は、算出した加速度に基づく誤差共分散をそのまま用いたが、適宜補正を行った誤差共分散を用いてもよい。
【0071】
図4は、魚Fiの真の加速度に基づく誤差共分散に対するカルマンフィルタに設定した誤差共分散の比と、推定誤差との関係を表す図である。図4に示すように、設定した誤差共分散と真の誤差共分散が同じであれば、推定誤差は最小になる。しかしながら、設定した誤差共分散が真の加速度の誤差共分散よりも小さいと、推定誤差が大きくなる。一方、設定した誤差共分散が真の加速度の誤差共分散よりも大きく、且つ所定の範囲内であれば、推定誤差を小さく抑えることができる。
【0072】
したがって、算出した加速度の誤差共分散に対して、所定量だけ大きく(例えば、2倍から3倍程度に)誤差共分散を設定しても、精度良く位置推定を行うことができる。また、このように、誤差共分散を所定量だけ大きくすることで、設定した誤差共分散が真の加速度よりも小さくなってしまい、推定誤差が大きくなるリスクの生じる可能性を低くすることができる。
【0073】
また、上述の説明では、魚単体毎に加速度を設定する例を示したが、魚群単位で加速度を設定してもよい。このような方法にすれば、魚群内の単体魚毎に連結処理を行わずに、各単体魚の大まかな観測時間毎の位置変化をとらえることができる。これにより、加速度の算出を、より容易に行うことができる。ここで、上述の図3のように、加速度の誤差共分散が所定範囲であれば、所定レベル以上の推定精度を維持することができる。したがって、魚単体での加速度による誤差共分散と、魚群単位での加速度による誤差共分散との間に、若干の開きがあっても、カルマンフィルタとしての推定精度は、同程度に維持することができる。このように、加速度を単体魚でなく魚群単位で算出し、誤差共分散を設定することで、所定の推定精度を得ながら、より簡素な処理で、単体魚毎の位置推定を行うことができる。
【0074】
また、上述の説明では、算出した加速度に基づいて、誤差共分散を設定する例を示したが、魚種に応じた誤差共分散を設定する方法を用いてもよい。この場合、魚種毎に誤差共分散を予め設定して、記憶部15に記憶しておく。そして、例えば、操作部16を介して魚種を選択する。ここで、魚種の確認方法としては、例えばユーザが経験的に判別したり、実際の釣果に基づくものであってもよい。さらには、漁の時期、漁場の位置、魚の深度等を魚種毎にデータベースしておき、これらに基づいて魚種を決定してもよい。演算処理部14の推定演算部143は、選択された魚種に応じた誤差共分散をカルマンフィルタに設定して、魚Fiの位置推定を実行する。
【0075】
また、さらには、魚種毎に、加速度に基づく誤差共分散の補正値を予め設定しておき、魚種と加速度とから誤差共分散を設定してもよい。
【0076】
また、上述の説明では、加速度および魚種に基づいて誤差共分散を設定する例を示した。しかしながら、さらに送受波器および当該送受波器が実装された船舶の挙動を検出し、当該挙動による計測誤差に関する誤差共分散も、カルマンフィルタへ代入するとよい。この場合、例えば、船舶にジャイロや測位装置の挙動検出手段を備えておき、これら挙動検出手段による船舶や送受波器の挙動検出結果から誤差共分散を設定する。これにより、加速度等や魚種等の探知対象物に起因する誤差だけでなく、計測系の誤差をも含んでカルマンフィルタの誤差共分散を設定できる。この結果、さらに高精度な魚Fiの位置推定が可能になる。
【符号の説明】
【0077】
1−水中探知装置、10−送受波器、11−送信信号生成部、121,122,123,124−送受切替器、13−受信信号生成部、14−演算処理部、141−検出信号生成部、142−観測値算出部、143−推定演算部、144−表示制御部、15−記憶部、16−操作部、20−表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中へ超音波信号を送信し、水中からのエコー信号を受信する送受波器と、
前記送受波器のエコー信号に基づいて、前記魚の有無を検出する検出部と、
前記検出した魚の観測位置を含む観測値を算出する観測値算出部と、
前記検出した魚に応じた誤差共分散および前記観測位置を与えた拡張カルマンフィルタにより、前記魚の位置の推定演算を実行する推定演算部と、
を備えた、水中探知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水中探知装置であって、
前記観測値算出部は、前記検出した魚の加速度を算出する加速度算出部を備え、
前記推定演算部は、前記検出した魚の加速度に基づいて前記誤差共分散を設定する、水中探知装置。
【請求項3】
請求項2に記載の水中探知装置であって、
前記加速度算出部は、少なくとも三回以上の観測タイミングにおける前記検出した魚の観測位置を関連付けし、該関連付けした観測位置に基づいて前記加速度を算出する、水中探知装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の水中探知装置であって、
前記加速度算出部は、複数の魚の観測位置から、互いに近傍に存在する複数の魚をグループ化し、該グループによる加速度を算出し、該グループの加速度に基づいて前記誤差共分散を設定する、水中探知装置。
【請求項5】
請求項1に記載の水中探知装置であって、
前記検出した魚の種類を取得する魚種取得部と、
魚種に応じた誤差共分散を予め記憶した記憶部と、を備え、
前記推定演算部は、前記魚種に応じた誤差共分散を前記拡張カルマンフィルタに与えることで、前記魚の位置の推定演算を実行する、水中探知装置。
【請求項6】
請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の水中探知装置であって、
前記検出した魚の種類を取得する魚種取得部と、
魚種に応じた誤差共分散の範囲を記憶した記憶部と、を備え、
前記推定演算部は、前記加速度および前記魚種に応じた誤差共分散の範囲とに基づいて、前記拡張カルマンフィルタに与える誤差共分散を設定する、水中探知装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の水中探知装置であって、
前記送受波器の挙動を検出する挙動検出部を備え、
前記推定演算部は、前記送受波器の挙動に基づく誤差共分散を算出し、当該挙動に基づく誤差共分散をも与えて前記拡張カルマンフィルタによる推定演算を実行する、水中探知装置。
【請求項8】
水中へ超音波信号を送信し、水中からのエコー信号を受信する送受信工程と、
前記送受波器のエコー信号に基づいて、前記魚の有無を検出する検出工程と、
前記検出した魚の観測位置を含む観測値を算出する観測値算出工程と、
前記検出した魚に応じた誤差共分散および前記観測位置を与えた拡張カルマンフィルタにより、前記魚の位置の推定演算を実行する推定演算工程と、
を有する、水中探知方法。
【請求項9】
請求項8に記載の水中探知方法であって、
前記観測値算出工程は、前記検出した魚の加速度を算出し、
前記推定演算工程は、前記検出した魚の加速度に基づいて前記誤差共分散を設定する、水中探知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−247624(P2011−247624A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118289(P2010−118289)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【出願人】(709002004)学校法人東北学院 (10)
【Fターム(参考)】