説明

水中油型乳化化粧料

【課題】べたつかず心地良い使用感が得られ、且つ乾き際によれが起こらない水中油型乳化化粧料を提供する。
【解決手段】(A)サクシノグリカン 0.05〜2質量%と、(B)ナイロン樹脂粉末、ウレタン樹脂粉末、シリコーンゴム粉末、及びシリコーン樹脂粉末から選ばれる一種または二種以上の疎水性粉末 0.1〜3質量%と、(C)疎水化処理粉体 1〜50質量%とを配合し、(A)、(B)成分は外水相に、(C)成分は内油相に含まれるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中油型乳化化粧料に関し、特に使用性が改良された水中油型乳化化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧料に粉体を配合することにより、肌や頭髪を彩色する、シミ・ソバカスなどを隠す、紫外線から肌を保護する、あるいは汗や皮脂を吸収させる等の機能を付与することが行われてきた。特に、水中油型乳化化粧料は良好な感触と多機能性を有することから、これに粉体を配合して、種々の化粧料、例えば乳化型ファンデーション、紫外線防御乳液・クリーム等としたものが開発されている。
【0003】
一方、近年、粉体の肌への密着性向上、あるいは耐水性付与等の目的で、疎水化処理粉体が使用されている。
しかし、疎水化処理粉体を配合した水中油型乳化化粧料は、製品として十分な安定性を得ることが一つの課題となっている。そこで、経時や温度変化等に起因する乳化粒子の合一や粉体微粒子の凝集、沈降を防止する研究が進められている(特許文献1、2参照)。しかし、その安定性にはさらに改良の余地があった。
【0004】
水中油型乳化基剤の安定性を確保するためには、増粘剤による連続相の増粘が非常に重要である。カルボキシビニルポリマー等の静電反発による増粘方法は増粘効果が高く、使用感もべたつかず良好であるが、イオン溶出の影響が無視できない疎水化処理粉体を配合した場合には、減粘もしくはゲル化するという問題を生じることがある。そこで、疎水化処理粉体等を配合する場合には、耐塩性に優れる多糖類などを用いた増粘方法が好ましい。
【0005】
しかしながら、多糖類は、前記カルボキシビニルポリマー等と比較して、増粘性が若干弱く、増粘効果を発揮させるためには、比較的多量に配合する必要があり、べたつきが生じることがあった。さらに、多糖類を配合した水中油型乳化組成物は、皮膚に塗布後、乾き際によれが生じることがあった。特に疎水化処理粉体を含む場合、多糖類と疎水化処理粉体との相互作用により、よれが増長される。
上記の問題を解決するために、増粘剤のサクシノグリカンと、グリセリン、ポリオキシエチレンメチルグルコシド、ポリエチレングリコール20000から選ばれる可塑剤を組み合わせることによりよれが解消された水中油型乳化組成物が開発されている(特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特公平7−94366号公報
【特許文献2】特開平8−310940号公報
【特許文献3】特開2004−203825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この水中油型乳化組成物は、よれの解消という点では改善されているものの、可塑剤由来の使用性のべたつきが問題点として残っており、化粧料として十分に満足できる使用性に至っているとは言うことはできない。よって感触が良好で、且つ粉体を安定に保持するものを得るのは困難であり、解決策が望まれていた。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、べたつかず心地良い使用感が得られ、且つ乾き際によれが起こらない水中油型乳化化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、増粘剤としてサクシノグリカンからなる水溶性増粘剤を使用し、さらに疎水性粉末を外水相に配合することにより、べたつきとよれが共に解消されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、次の成分(A)〜(C)を含み、(A)、(B)成分は外水相に、(C)成分は内油相に含まれることを特徴とする水中油型乳化化粧料である。
(A)サクシノグリカン 0.05〜2質量%
(B)ナイロン樹脂粉末、ウレタン樹脂粉末、シリコーンゴム粉末、及びシリコーン樹脂粉末から選ばれる一種または二種以上の疎水性粉末 0.1〜3質量%
(C)疎水化処理粉体 1〜50質量%
【0011】
また本発明は、(A)サクシノグリカンと、(B)疎水性粉末と、(C)疎水化処理粉体とを含む水中油型乳化化粧料の製造方法であって、
前記(A)サクシノグリカンと前記(B)疎水性粉末を水相に分散させた後、該水相を前記(C)疎水化処理粉体を含む油相と混合させることを特徴とする水中油型乳化化粧料の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水中油型乳化化粧料は、べたつかず心地良い使用感が得られ、且つ乾き際によれが起こらないものであり、また粉体の安定性にも優れたものである。
また本発明の製造方法によれば、べたつきや、よれがなく、使用性に優れると共に、粉体の安定性にも優れた水中油型乳化化粧料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の最良の実施の形態について説明する。
(サクシノグリカン)
本発明の水中油型乳化化粧料に用いられるサクシノグリカンは、微生物に由来する多糖類の一種であり、ガラクトース及びグルコースから誘導される糖単位に加え、コハク酸及びピルビン酸並びに随意成分としての酢酸、又はこれらの塩から誘導される単位を含む微生物に由来する多糖類を意味する。
【0014】
より具体的にはサクシノグリカンは、平均分子量が約600万の以下の構造式を有し、ガラクトース単位:1,グルコース単位:7,コハク酸単位:0.8及びピルビン酸単位:1に、随意成分である酢酸単位を含むことのある水溶性高分子である。
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、Glucはグルコース単位を,Galacはガラクトース単位を表す。また.括弧内の表示は糖単位同士の結合様式を表す。例えば(β1,4)は,β1−4結合を表す。)
【0017】
このサクシノグリカンの供給源となる微生物としては、例えばシュードモナス属,リゾビウム属,アルカリゲネス属又はアグロバクテリウム属に属する細菌を挙げることができる。これらの細菌の中でも、アグロバクテリウム属に属する細菌であるアグロバクテリウム・ツメファシエンスI−736(ブタペスト条約に従い1988年3月1日に微生物培養締約国収集機関に寄託され、I−736の番号で公に入手し得る)が特にサクシノグリカンの供給源として好ましい。
【0018】
サクシノグリカンは、これらの微生物を培地中で培養することによって製造することができる。より具体的には、グルコース,ショ糖,デンプンの加水分解物等の炭素源;カゼイン,カゼイネート,野菜粉末,酵母エキス,コーンスティープリカー等の有機窒素源;金属の硫酸塩,リン酸塩,炭酸塩等の無機塩類や随意微量元素等を含む培地で上記の微生物を培養することによって製造することができる。
【0019】
なお、本発明にかかる乳化化粧料には、このようにして製造したサクシノグリカンをそのまま配合し得ることは勿論、必要に応じて酸分解,アルカリ分解,酵素分解,超音波処理等の分解処理物も同様に配合することができる。
【0020】
一般に多糖類を増粘剤として使用する場合には、増粘効果を発揮させるために、比較的多量に配合する必要があるため、べたつきが生じることがあった。しかしながら本発明の水中油型乳化化粧料は、多糖類の中でもサクシノグリカンを増粘剤として使用することにより、べたつきが改善される。
【0021】
しかし、サクシノグリカンは、剛直性の直鎖状高分子であり、これを含む組成物は皮膚上で乾燥後、硬い被膜を形成するため、よれが生じやすい。そこで、本発明では疎水性粉末を配合することでサクシノグリカンの皮膚上での乾燥による皮膜の凝集を阻害することで、よれが防止され、かつ、べたつきを低減している。
【0022】
本発明において上記(A)サクシノグリカンの配合量は、0.05〜2質量%であり、特に0.1〜1質量%が好ましい。(A)サクシノグリカンの配合量が0.05質量%未満では、増粘性が十分でなく、疎水化処理粉体を安定に配合することが困難になることがある。また2質量%を超えて配合しても、配合量の増加に見合った、効果の向上を期待することができないうえ、べたつきが生じるため好ましくない。
【0023】
(疎水性粉末)
本発明の水中油型乳化化粧料における疎水性粉末は、ナイロン樹脂粉末、ウレタン樹脂粉末、シリコーンゴム粉末、及びシリコーン樹脂粉末から選ばれる一種または二種以上である。その中でも特にナイロン樹脂粉末及び/又はウレタン樹脂粉末が好ましい。ナイロン樹脂粉末及び/又はウレタン樹脂粉末を用いることで、よれを防ぎ、かつ粉末の凝集がなく安定性に優れた乳化化粧料とすることができる。
【0024】
このうちナイロン樹脂粉末としては、例えば、「ナイロンSP−500」(東洋レーヨン社製)が挙げられる。ウレタン樹脂粉末としては、例えば、「プラスティックパウダーD−400」(東色ピグメント社製)が挙げられる。シリコーンゴム粉末としては、例えば、「トレフィルE−506W」(東レ・ダウコーニング社製)が挙げられる。シリコーン樹脂粉末としては、例えば、「トスパール145A」(GE東芝シリコーン社製)が挙げられる。
【0025】
疎水性粉末は、外水相に含まれていることが必要である。外油相に含まれている場合には、粉末が凝集して安定性が損なわれる。
本発明にかかる水中油型乳化化粧料における疎水性粉末の配合量は、化粧料全体に対して0.1〜3質量%であり、0.2〜2質量%であることが好適である。粉末の配合量が、化粧料全体の0.1質量%未満であると、よれを防ぐことができないことがある。また、3質量%を超えて配合すると、配合量の増加に見合った効果の向上を期待することができないうえ、乳化化粧料の構築上好ましくない。
【0026】
(疎水化処理粉体)
本発明の水中油型乳化化粧料において疎水化処理粉体とは、粉体を通常公知の技術により疎水化したものである。粉体は、化粧品一般に使用される粉体であれば、球状、板状、針状等の形状;煙霧状、微粒子、顔料級等の粒子径;多孔質、無孔質等の粒子構造;等により特に限定されず、無機粉体類、光輝性粉体類、有機粉体類、色素粉体類、複合粉体類等が挙げられる。
【0027】
具体的には、酸化チタン、黒酸化チタン、コンジョウ、群青、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、水酸化クロム、カーボンブラック、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、マイカ、合成マイカ、合成セリサイト、セリサイト、タルク、カオリン、炭化珪素、硫酸バリウム、ベントナイト、スメクタイト、窒化硼素等の無機粉体類;オキシ塩化ビスマス、雲母チタン、酸化鉄コーティング雲母、酸化鉄雲母チタン、有機顔料処理雲母チタン、アルミニウムパウダー等の光輝性粉体類;ナイロンパウダー、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体パウダー、塩化ビニリデン−メタクリル酸共重合体パウダー、ポリエチレンパウダー、ポリスチレンパウダー、オルガノポリシロキサンエラストマーパウダー、ポリメチルシルセスキオキサンパウダー、ウールパウダー、シルクパウダー、結晶セルロース、N−アシルリジン等の有機粉体類、有機タール系顔料、有機色素のレーキ顔料等の色素粉体類;微粒子酸化チタン被覆雲母チタン、微粒子酸化亜鉛被覆雲母チタン、硫酸バリウム被覆雲母チタン、酸化チタン含有二酸化珪素、酸化亜鉛含有二酸化珪素等の複合粉体;等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。
【0028】
前記粉体を疎水化処理する処理剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、高粘度シリコーン、架橋型シリコーン、フッ素変性シリコーン、アクリル変性シリコーン、シリコーン樹脂等のシリコーン化合物;アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤等の界面活性剤;金属石鹸による処理、ポリイソブチレン、ワックス、油脂等の油剤;パーフルオロアルキルリン酸、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロポリエーテルアルキルリン酸等のフッ素化合物;PVP−ヘキサデセンのコポリマー等のPVP変性ポリマー;等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。前記処理剤を粉体に処理する方法は通常公知の方法が用いられ、例えば、溶媒を使用する湿式法、気相法、メカノケミカル法等が挙げられる。また、化粧料の製造過程中で粉体表面が油剤等で処理され、疎水化された粉体も本願でいう疎水化処理粉体に含まれる。
【0029】
疎水化処理粉体の好ましい具体例としては、疎水化処理酸化チタン又は疎水化処理酸化亜鉛等の紫外線散乱剤等が挙げられる。
【0030】
疎水化処理粉体の好ましい配合量は、1〜50質量%であり、特に1〜20質量%が好ましい。
【0031】
(水溶性エチレン性不飽和モノマーを分散相に溶解し分散相中にてラジカル重合して得られるミクロゲル)
本発明においては、増粘剤として上記サクシノグリカンを必須成分として用いるが、さらに下記のような特定のミクロゲルからなる増粘剤を併用することにより、べたつき感をさらに低減し、かつよれを改善することができる。このミクロゲルは例えば特願2007−308399号公報に開示されているものであるが、以下にその詳細について述べる。
【0032】
本発明に用いるミクロゲルとは、有機溶媒若しくは油分を分散媒とし水を分散相とする組成物において、水溶性エチレン性不飽和モノマーを分散相に溶解し分散相中にてラジカル重合して得られる合成高分子のミクロゲルからなる増粘剤である。
【0033】
すなわち、一般に逆相乳化重合法と称される重合法により製造される高分子ミクロゲルを増粘剤の用途に使用するものであり、特開平2001−114641号公報に開示されているような均一重合系により得られる合成高分子からなる増粘剤とは、その重合方法及び力学物性が異なる。
【0034】
ミクロゲルとは逆相マイクロエマルション重合法で製造された合成高分子電解質の微粒子である。本発明のミクロゲルからなる増粘剤は、水、エタノールあるいは水―エタノール混合溶液中で膨潤し、外観上肉眼的に均一な高粘度溶液を提供できる。
【0035】
増粘剤として使用されるミクロゲルの重合系は、従来の増粘剤である合成高分子を製造する均一重合系とは異なるものである。
【0036】
前記特開平2001−114641号公報に開示されている均一重合系による合成高分子は本発明に用いるミクロゲルではなく、合成高分子を重合後、化粧料に配合するためには粉末状態に粉砕しなければならない。また、合成高分子のゲルが目立ち、外観上問題を生じる場合がある。
一方、本発明に用いるミクロゲルは不均一重合系で重合される。得られる合成高分子は微細な高分子ゲル、すなわちミクロゲルとなり、化粧料に配合する際に新たに粉砕して粉末状態にする必要がなく、優れた増粘効果と優れた使用感を発揮し、さらに化粧料の外観上も好ましい。
【0037】
また、高分子の逆相乳化重合法に関しては、特許第1911623号公報にアクリル酸を用いた水膨潤性ポリマーを逆相重合により製造し、これを増粘剤として応用する技術の記載があるが、これは現在汎用されているカルボキシビニルポリマーの欠点を改良する本発明に用いるミクロゲルとは異なるものである。
また、特開平9−12613号公報には、水吸収性樹脂のミクロゲル粒子をおむつあるいは生理用品に適するように一定以上の大きさに製造することが開示されているが、これは化粧料増粘剤に応用できる技術ではなく、本発明に用いるミクロゲルとは全く異なるものである。
【0038】
本発明に用いる増粘剤は逆相乳化重合法において製造される。すなわち、有機溶媒若しくは油分を分散媒とし水を分散相とする組成物において、水溶性エチレン性不飽和モノマーを分散相に溶解し分散相中にてラジカル重合して製造される。重合されたミクロゲルは洗浄、乾燥されるが、粉砕する必要はない。
特に適宜選択された親水疎水バランス(HLB)に調節された界面活性剤を使用することにより、逆相乳化重合における重合系が一相マイクロエマルションあるいは微細W/Oエマルションを形成する条件下において、ミクロゲルからなる増粘剤が製造されることが好ましい。
【0039】
一相マイクロエマルションとは熱力学的に安定に油相と水相が共存している状態で油・水間の界面張力は極小になっている状態である。また、微細W/Oエマルションは熱力学的には不安定であるが速度論的に安定に油と水が微細なW/Oエマルションとして存在している状態である。一般的に微細W/Oエマルションの内水相の粒子径は数10〜100nm程度である。これらの状態は系の組成と温度のみで決定され、機械的な攪拌条件などには左右されない。
【0040】
重合系を構成する組成物は、水とは混合しない有機溶媒若しくは油分からなる分散媒(外相を構成する)、水からなる分散相(内相を構成する)とからなる。
好ましい有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカンなどのアルカン類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどのシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、デカリン、ナフタレンなどの芳香族および環状炭化水素が挙げられる。
好ましい油分としてはパラフィン油などの非極性油分が挙げられる。
水溶性エチレン性不飽和モノマーは、分散相である水に溶解し次いで分散媒である有機溶媒あるいは油分と混合され、所望の温度に加熱した後、重合開始剤を水相に添加し重合を行う。
【0041】
一般的に不均一重合法では重合中の攪拌条件により製造される高分子の物性が異なることが知られている。その理由は乳化系が熱力学的に安定な状態ではない為に攪拌条件による乳化粒子の形状、サイズに変化が生じる為である。本発明においては、熱力学的に安定な一相マイクロエマルション領域あるいは準安定的である一相領域の近傍に存在する微細W/Oエマルション領域で重合を行うことでこれらの問題を回避できることを見出した。具体的には、通常の熱重合あるいはレドックス重合用の重合開始剤の最適重合温度近傍に上記一相マイクロエマルションあるいは微細W/Oエマルション領域が出現するように重合系の組成(有機溶媒の種類、界面活性剤のHLB)を調節することで微細な水相(水滴)内で高分子を重合することで増粘効果が高いミクロゲルを得ることが可能になった。
【0042】
相図による例を図1に示す。図1は、有機溶媒にヘキサンを使用した場合の、ヘキサン(Wで示す)/界面活性剤/水溶性エチレンモノマー水溶液(Oで示す)の3成分系の相図である。図中に示したA領域が一相マイクロエマルション領域〜微細W/Oエマルション領域であり、この領域で重合を行うことにより、好ましいミクロゲルの重合が可能である。
これに対して、従来の懸濁重合による高分子の増粘剤(例えば、前述の特開平2001−114641号公報記載の方法)では重合時の水滴の粒子径コントロールが困難であり、良質なミクロゲルを得ることは困難である。
【0043】
水溶性エチレン性不飽和モノマーは、非イオン性モノマーとイオン性モノマー(アニオン性モノマー若しくはカチオン性モノマー)とを併用することが好ましい。
非イオン性モノマーは一般式(1)に示すジアルキルアクリルアミドが好ましい。
【0044】
【化2】

【0045】
(R1はHまたはメチル基、R2及びR3はそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基を表わす。)
【0046】
イオン性モノマーは、一般式(2)に示すアニオン性アクリルアミド誘導体または一般式(3)に示すカチオン性アクリルアミド誘導体が好ましい。
【0047】
【化3】

【0048】
(R4及びR5はそれぞれ独立にH又はメチル基、R6は炭素原子数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基、Xは金属イオン若しくはNH3を表わす。)
【0049】
【化4】

【0050】
(R7はH又はメチル基、R8はHまたは炭素原子数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基、R9は炭素原子数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基、R10、R11、R12はメチル基またはエチル基、Yは金属イオンを表わす。)
【0051】
特に好ましいジアルキルアクリルアミドは、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミドである。
特に好ましいイオン性アクリルアミド誘導体は、2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸およびその塩である。
特に好ましいカチオン性アクリルアミド誘導体はN,N,−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルクロライドである。
【0052】
非イオン性モノマーとイオン性モノマーの重合系におけるモノマー組成比(重合系の仕込み比)は、目的とするミクロゲルのモノマー構成比に応じて適宜任意に決定される。ミクロゲルのモノマー構成比と重合系への仕込み比はほぼ同一となる。非イオン性モノマーとイオン性モノマーの重合系の仕込み比(モル比)は、通常、非イオン性モノマー:イオン性モノマー=0.5:9.5〜9.5:0.5、好ましくは1:9〜9:1、さらに好ましくは7:3〜9:1の範囲で共重合に供される。最適比率は、非イオン性モノマー:イオン性モノマー=8:2である。
【0053】
上記の水溶性エチレン性不飽和モノマーを任意に選択して本発明に用いる増粘剤が重合される。特に好ましい増粘剤は、水溶性エチレン性不飽和モノマーにジメチルアクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を用い、これらのモノマーから共重合される2元共重合体のミクロゲルである。この場合に、架橋モノマーは必要がなく、自己架橋により優れた増粘効果と使用感が発揮される増粘剤が得られる。なお、架橋モノマーを用いることもでき、その場合には一般式(4)で示される架橋モノマーが好ましく、特にメチレンビスアクリルアミドが好ましい。
【0054】
水溶性エチレン性不飽和モノマーを、分散相に溶解して本発明に好ましいミクロゲルを重合するためには、最適な外相油分あるいは有機溶媒と、界面活性剤とをそれぞれを選択することが必要である。非イオン界面活性剤の親水性疎水性バランス(HLB)を重合系の組成において相図を作成することにより、熱ラジカル重合に適する温度において曇点を示すように調製することで、通常の熱ラジカル重合温度において一相マイクロエマルションあるいは微細W/Oエマルションを形成する状態を作り、増粘剤として好ましいレオロジー特性を持つミクロゲルが得られる。
【0055】
好ましい界面活性剤は、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ソルビタン脂肪酸エステル、モノ脂肪酸グリセリン、トリ脂肪酸グリセリン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、トリイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、ジステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、トリステアリン酸ポリオキシエチレングリセリルなどが挙げられる。
これらの界面活性剤を適宜組み合わせて所望のHLBに調整して重合系に添加することが出来る。
【0056】
またジアルキルアクリルアミドとアクリルアミド系イオン性モノマーを共重合したミクロゲルにおいては、自発的な架橋反応が進行し、特に第三成分として多官能性架橋モノマーを共重合しなくても、化学的に自己架橋されたミクロゲルが得られ、特に好ましい増粘剤となる。
【0057】
第三成分の多官能性架橋モノマーは必要ではないが、これを添加し共重合しても本発明に使用されるミクロゲルは合成可能である。多官能性架橋モノマーは、一般式(4)に示されるモノマーが好ましく、一般式(4)で示される架橋モノマーの一種類あるいは二種類以上を使用して架橋することが出来る。これらの架橋性モノマーはジアルキルアクリルアミドとイオン性アクリルアミド誘導体との重合系において効率よく架橋構造を取り得ることが必須である。
【0058】
【化5】

【0059】
好ましい架橋性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリオキシエチレンジアクリレート、ポリオキシエチレンジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、N,N'-メチレンビスアクリルアミド、N,N'-エチレンビスアクリルアミド、イソシアヌル酸トリアリル、ペンタエリスリトールジメタクリレート等が挙げられ、この中から選ばれた一種または二種以上を用いることが出来る。本発明においては、特に、N,N'-メチレンビスアクリルアミドが好ましく使用される。
【0060】
本発明に用いる増粘剤である共重合体中の2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単位とジアルキルアクリルアミド単位の含有量のモル比は、通常、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単位:ジアルキルアクリルアミド単位=0.5:9.5〜9.5:0.5、好ましくは1:9〜9:1であり、さらに好ましくは=3:7〜1:9である。最適比は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単位:ジアルキルアクリルアミド単位=2:8である。本発明に用いる増粘剤の粘性は強解離基であるスルホニル基に基づく静電反発による分子鎖の伸展およびジアルキルアクリルアミドの自発架橋反応あるいは架橋性単量体による架橋構造に起因しているが、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単位またはその塩の含有量が、ジアルキルアクリルアミド単位に対して5モル%未満では十分に分子鎖の伸展が起こらないため十分な粘度が得られないことがある。
【0061】
架橋性モノマーの使用量は、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはその塩とジアルキルアクリルアミドの全モル数に対し0.0001〜2.0モル%の範囲で添加されることが好ましい。0.0001モル%未満で調製された増粘剤は架橋の効果が見られない場合がある。また、2モル%を超えて調製された場合、架橋密度が高すぎてミクロゲルが充分に膨潤出来ないために充分な増粘効果を発揮しない場合がある。
【0062】
本発明に増粘剤として用いるミクロゲルの分子量は重量平均分子量10万〜500万(PEG換算:GPCによる測定)程度であり、増粘剤として求められる粘度により調節される。
上記の重合法によって得られるミクロゲルは、下記(1)〜(3)のすべてのレオロジー的性質を有する。このミクロゲルからなる増粘剤は上記の重合法による製造方法により得られ、増粘剤として好ましく使用される。
(1)ミクロゲルの0.5%(質量百分率)の水分散液の見かけ粘度が、ずり速度1.0s-1において10000mPa・s以上である。
(2)ミクロゲルの0.5%(質量百分率)のエタノール分散液の見かけ粘度が、ずり速度1.0 s-1において5000mPa・s以上である。
(3)ミクロゲルの0.5%(質量百分率)の水分散液若しくはエタノール分散液における動的弾性率が、歪み1%以下、周波数0.01〜10Hzの範囲でG'>G"である。
なお、ミクロゲルの水若しくはエタノール分散液の見かけ粘度とは、コーンプレート型レオメータ(Paar Rhysica製 MCR-300)を用い、測定温度25℃、ずり速度1s-1における粘度である。
また、動的弾性率は、同上の測定装置を用いて測定温度25℃、歪み1%以下で周波数範囲0.1〜10Hzで測定した貯蔵弾性率(G')および損失弾性率(G")の値を意味する。
【0063】
本発明に増粘剤として用いるミクロゲルは重合後簡単な沈殿精製工程を経て粉末状態で分離することが可能である。粉末状に分離されたミクロゲルは、水あるいはエタノールまたは水/エタノールの混合溶剤に容易に分散して速やかに膨潤し増粘剤として機能する。
【0064】
本発明にかかる水中油型乳化化粧料における(D)水溶性エチレン性不飽和モノマーを分散相に溶解し分散相中にてラジカル重合して得られるミクロゲルを配合する時の好ましい配合量は、(A)成分と(D)成分からなる増粘剤の合計配合量が、乳化化粧料全体に対して0.05〜2質量%であることが好適である。
【0065】
(D)成分を使用することにより、べたつき感をさらに低減し、かつよれを改善できるが、(D)成分のみでは増粘が十分に発揮されない。また(D)成分は、塩などの影響を受けやすいため、粘度は下がる傾向にある。このため、(A)サクシノグリカンと、(D)成分からなる水溶性増粘剤とを併用することが望ましい。
【0066】
本発明の水中油型乳化化粧料は、上記(A)サクシノグリカンと上記(B)疎水性粉末を水相に分散させた後、水相を上記(C)疎水化処理粉体を含む油相と混合させることによって製造することができる。
【0067】
本発明による水中油型乳化化粧料の形態は特に限定されず、化粧水,乳液,クリーム,洗顔料,ジェル,エッセンス(美容液),パック等の基礎化粧品、口紅,アイシャドウ,アイライナー,マスカラ,ファンデーション,サンスクリーン等のメーキャップ化粧品、口腔化粧品、芳香化粧品、毛髪化粧品、ボディ化粧品等、従来化粧料に用いるものであれば何れの形態でも広く適用可能である。
【0068】
本発明にかかる化粧料においては、上記した必須構成成分の他にこれらの所望する形態や剤型に応じて通常公知の基剤成分等を、その配合により本発明の所期の効果を損なわない範囲で広く配合して用いることができる。
例えば、流動パラフィン,スクワラン,ワセリン,マイクロクリスタリンワックス,セレシン,セチルアルコール,イソステアリルアルコール,オレイルアルコール,2−ヘキシルデカノール,2−エチルヘキサン酸セチル,パルミチン酸2−エチルヘキシル,ジ2−エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール,ジカプリル酸ネオペンチルグリコール,ジカプリン酸ネオペンチルグリコール,トリ2─エチルヘキサン酸グリセリン,トリイソステアリン酸グリセリン,オリーブ油,マカデミアナッツ油,ヒマワリ油,ラノリン,ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,ビースワックス,キャンデリラロウ,カルナウバロウ,ジメチルポリシロキサン,ポリシロキサン,メチルフェニルポリシロキサン等の油性原料;ポリオキシエチレンオレイルエーテル,モノイソステアリン酸ソルビタン,モノステアリン酸ポリエチレングリコール,ラウロイルジエタノールアミド,ショ糖脂肪酸エステル,ラウリン酸ナトリウム,ラウリル硫酸ナトリウム,ミリスチン酸ナトリウム,ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム,ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド,ポリエーテル変性シリコーン等の界面活性剤;ニコチン酸アミド,ニコチン酸ベンジル,ビタミンEアセテート,ビタミンH,センブリ抽出物,グリチルレチン酸,パントテニルエチルエーテル等の薬効成分;増粘剤、紫外線防御剤、紫外線吸収剤、防腐剤、酸化防止剤、酸化防止助剤、保湿剤、皮膜剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖、アミノ酸、有機アミン、pH調整剤、皮膚栄養剤、無機粉体、有機粉体、香料、色剤、水等を適宜本発明組成物中に配合し、目的とする剤形に応じて常法により製造することが出来る。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。配合量については質量%で示す。
【0070】
実施例において使用したサクシノグリカンは、特公平6−74283号公報記載の方法に準じて製造した。
水溶性増粘剤として用いるミクロゲルの合成例を以下に説明する。この合成例で得られるミクロゲルを用いて本発明の水中油型乳化化粧料を調製した。
【0071】
合成例1
ジメチルアクリルアミド(興人製)を40gと2-アクリルアミド2-メチルプロパンスルホン酸(Sigma製)9gを250gのイオン交換水に溶解し水酸化ナトリウムでpH=7.0に調節する。還流装置を備えた1000ml三つ口フラスコに、n-ヘキサン250gとポリオキシエチレン(3)オレイルエーテル(エマレックス503、日本エマルション製)8.2gおよびポリオキシエチレン(6)オレイルエーテル(エマレックス506、日本エマルション製)16.4gを入れ混合溶解しN2置換する。この三つ口フラスコにモノマー水溶液を添加してN2雰囲気下で攪拌しながらオイルバスで65℃〜70℃に加熱する。系の温度が65℃〜70℃に達したところで系が半透明なマイクロエマルション状態になっていることを確認した後、過硫酸アンモニウム2gを重合系に添加し重合を開始する。重合系を65〜70℃に3時間攪拌しながら維持することでミクロゲルが生成する。重合終了後ミクロゲル懸濁液にアセトンを加えてミクロゲルを沈殿させ、引き続きアセトンで3回洗浄し、残存モノマーおよび界面活性剤を除去する。沈殿物は濾過後減圧乾燥し、白色粉末状のミクロゲル乾燥物を得る。
【0072】
合成例2
ジメチルアクリルアミド(興人製)を35gと2-アクリルアミド2-メチルプロパンスルホン酸(Sigma製)17.5gを260gのイオン交換水に溶解し水酸化ナトリウムでpH=7.0に調節する。還流装置を備えた1000ml三つ口フラスコに、n-ヘキサン260gとポリオキシエチレン(3)オレイルエーテル(エマレックス503、日本エマルション製)8.7gおよびポリオキシエチレン(6)オレイルエーテル(エマレックス506、日本エマルション製)17.6gを入れ混合溶解しN2置換する。この三つ口フラスコにモノマー水溶液を添加してN2雰囲気下で攪拌しながらオイルバスで65℃〜70℃に加熱する。系の温度が65℃〜70℃に達したところで系が半透明なマイクロエマルション状態になっていることを確認した後、過硫酸アンモニウム2gを重合系に添加し重合を開始する。重合系を65〜70℃に3時間攪拌しながら維持することでミクロゲルが生成する。重合終了後ミクロゲル懸濁液にアセトンを加えてミクロゲルを沈殿させ、引き続きアセトンで3回洗浄し、残存モノマーおよび界面活性剤を除去する。沈殿物は濾過後減圧乾燥し、白色粉末状のミクロゲル乾燥物を得る。
【0073】
合成例3
ジメチルアクリルアミド(興人製)を30gと2-アクリルアミド2-メチルプロパンスルホン酸(Sigma製)26.7gを280gのイオン交換水に溶解し水酸化ナトリウムでpH=7.0に調節する。還流装置を備えた1000ml三つ口フラスコに、n-ヘキサン280gとポリオキシエチレン(3)オレイルエーテル(エマレックス503、日本エマルション製)9.4gおよびポリオキシエチレン(6)オレイルエーテル(エマレックス506、日本エマルション製)19gを入れ混合溶解しN2置換する。この三つ口フラスコにモノマー水溶液を添加してN2雰囲気下で攪拌しながらオイルバスで65℃〜70℃に加熱する。系の温度が65℃〜70℃に達したところで系が半透明なマイクロエマルション状態になっていることを確認した後、過硫酸アンモニウム2gを重合系に添加し重合を開始する。重合系を65〜70℃に3時間攪拌しながら維持することでミクロゲルが生成する。重合終了後ミクロゲル懸濁液にアセトンを加えてミクロゲルを沈殿させ、引き続きアセトンで3回洗浄し、残存モノマーおよび界面活性剤を除去する。沈殿物は濾過後減圧乾燥し、白色粉末状のミクロゲル乾燥物を得る。
【0074】
合成例4
ジメチルアクリルアミド(興人製)を35gと2-アクリルアミド2-メチルプロパンスルホン酸(Sigma製)17.5gおよびメチレンビスアクリルアミド70mgを260gのイオン交換水に溶解し水酸化ナトリウムでpH=7.0に調節する。還流装置を備えた1000ml三つ口フラスコに、n-ヘキサン260gとポリオキシエチレン(3)オレイルエーテル(エマレックス503、日本エマルション製)8.7gおよびポリオキシエチレン(6)オレイルエーテル(エマレックス506、日本エマルション製)17.6gを入れ混合溶解しN2置換する。この三つ口フラスコにモノマー水溶液を添加してN2雰囲気下で攪拌しながらオイルバスで65℃〜70℃に加熱する。系の温度が65℃〜70℃に達したところで系が半透明なマイクロエマルション状態になっていることを確認した後、過硫酸アンモニウム2gを重合系に添加し重合を開始する。重合系を65〜70℃に3時間攪拌しながら維持することでミクロゲルが生成する。重合終了後ミクロゲル懸濁液にアセトンを加えてミクロゲルを沈殿させ、引き続きアセトンで3回洗浄し、残存モノマーおよび界面活性剤を除去する。沈殿物は濾過後減圧乾燥し、白色粉末状のミクロゲル乾燥物を得る。
【0075】
次に、本実施例において評価した、べたつき、よれ、増粘性、粉末凝集の評価基準について述べる。
(1)べたつきの評価基準
女性パネラー20名によって、被験試料を顔部に手で塗布してもらい、その時のべたつき感を以下の基準で評価した。
○:べたつかないと答えたパネラーが16名以上。
△:べたつかないと答えたパネラーが6名以上、15名以下。
×:べたつかないと答えたパネラーが5名以下。
【0076】
(2)よれの評価基準
女性パネラー20名によって、顔部に、被験試料を手で塗布してもらい、乾き際のよれ具合を以下の基準で評価した。
○:よれないと答えたパネラーが16名以上。
△:よれないと答えたパネラーが6名以上、15名以下。
×:よれないと答えたパネラーが5名以下。
【0077】
(3)増粘性の評価基準
組成物の粘度をB型粘度計で測定する(30℃、12rpm)。1000mPa・sは、経時で凝集物が認められる指標の粘度である。
○:1000mPa・s以上
×:1000mPa・s未満
【0078】
(4)粉末凝集の評価基準
組成物をアクリル製の黒板上に伸ばし、状態を観察し凝集の度合いを評価する。
粉末が凝集している場合は、白い凝集物が観察される。
○:凝集した粉末は認められない。
△:わずかに白い凝集物が認められる。
×:白い凝集物が多数認められる。
【0079】
試験例1〜8、試験例1A〜8A(増粘剤の配合量の検討)
本発明の水中油型乳化化粧料において用いる増粘剤の配合量を検討した。
サクシノグリカン、又はサクシノグリカンと水溶性エチレン性不飽和モノマーを分散相に溶解し分散相中にてラジカル重合して得られるミクロゲルからなる水溶性増粘剤を用いて、下記に示す方法で水中油型乳化化粧料を調製し、べたつき、よれ、及び増粘性を上記の評価基準に基づいて評価した。結果を表1、2に示す。
なお表1の処方はすべて疎水性粉末が配合されていないものであり、表2の処方は表1の処方にナイロン樹脂粉末1質量%を加えたものである。
表1中、ナイロン樹脂粉末※1は、「ナイロンSP−500」(東洋レーヨン社製)を用いた。
【0080】
(製造方法)
1.(1)〜(5)を混合溶解し、70℃に加熱する。
2.(6)〜(12)をビーズミルにより高分散処理し、70℃に加熱する。
3.(13)〜(14)を混合溶解し、70℃に加熱する。
4.1〜3を混合乳化し、室温まで攪拌冷却する。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
試験例1では、よれ防止成分であるグリセリン由来と思われるべたつきが生じた。グリセリンの配合量を減量し、サクシノグリカンの配合量が0.01質量%である試験例2では、増粘が十分発揮されず、中味が不安定になった。
サクシノグリカンの配合量が0.05質量%あるいは2質量%である試験例3〜4では、増粘は十分発揮されるが、よれが発生した。さらにサクシノグリカンの配合量を3質量%に増やした試験例7ではよれとべたつきが生じた。みずみずしい使用性で知られるミクロゲルの増粘剤を配合した(試験例5,6、8)ところ、べたつきが改善され、さらに、よれも改善した。しかしながら、ミクロゲルだけでは増粘が十分に発揮されず中味状態が不安定になった。増粘剤の配合量を検討しただけでは、どの試験例においても、べたつき・よれ・増粘性のいずれの問題点も改善した組成物は得られなかった。
【0084】
一方、これにナイロン粉末を配合したところ(試験例1A〜8A)、試験例1A、2A6A〜8Aについては上記と同様の不都合があったが、試験例3A〜5Aについては、増粘が十分発揮され、べたつきが改善され、さらに、よれも生じなかった。
【0085】
試験例9〜15、試験例9A(好ましい疎水性粉末の検討、製造方法の検討)
多糖類を配合した水中油型乳化組成物は、皮膚に塗布後、乾き際によれが生じる。特に粉末を含む場合、多糖類と粉末との相互作用により、よれが増長される。この問題を解決するために、様々な粉末を用いて、下記のような水中油型乳化組成物を作製し、べたつき、よれ、及び増粘性を前記評価基準に基づいて評価した。また、製造方法の違いによる安定性(粉末凝集)の影響を評価した。結果を表3に示す。
【0086】
(試験例9〜15の製造方法)
1.(1)〜(5)を混合溶解し、70℃に加熱する。
2.(6)〜(12)をビーズミルにより高分散処理し、70℃に加熱する。
3.(13)〜(15)を混合溶解し、70℃に加熱する。
4.1〜3を混合乳化し、室温まで攪拌冷却する。
【0087】
(試験例9Aの製造方法)
1.(1)〜(5)を混合溶解し、70℃に加熱する。
2.(6)〜(12)、(15)をビーズミルにより高分散処理し、70℃に加熱する。
3.(13)〜(14)を混合溶解し、70℃に加熱する。
4.1〜3を混合乳化し、室温まで攪拌冷却する。
【0088】
【表3】

【0089】
※1:ナイロン樹脂粉末(「ナイロンSP−500」(東洋レーヨン社製))
※2:ウレタン樹脂粉末(「プラスティックパウダーD−400」(東色ピグメント社製))
※3:シリコーンゴム粉末(「トレフィルE−506W」(東レ・ダウコーニング社製))
※4:シリコーン樹脂粉末(「トスパール145A」(GE東芝シリコーン社製))
※5:ポリメタクリル酸メチル粉末(「ガンツパールGMX0810」(ガンツ化成社製))
※6:セルロース粉末(「セルロフロー C−25」(チッソ社製))
※7:無水ケイ酸粉末(「SILDEX L-51」(旭硝子社製))
【0090】
疎水性粉末としてナイロン樹脂粉末、ウレタン樹脂粉末、シリコーンゴム粉末、及びシリコーン樹脂粉末を用いた場合(試験例9〜12)は、べたつき、よれ、増粘性が共に改善された。
しかしながら、疎水性粉末の中にはよれは改善されたが、経時の粘度が上昇する粉末が確認された(試験例13)。親水性粉末を使用した場合(試験例14、15)は、よれが生じた。
以上の結果から、好ましい疎水性粉末は、ナイロン樹脂粉末、ウレタン樹脂粉末、シリコーンゴム粉末、及びシリコーン樹脂粉末であることが確認された。
また、その中でもナイロン樹脂粉末、ウレタン樹脂粉末は、経時における粉末の凝集がなくて安定性が高く、好ましいものであった。
【0091】
また、疎水性粉末を内油相に分散させた試験例9Aは、疎水化処理粉体と凝集物をつくり安定性に劣る結果となった。
【0092】
試験例16〜23(疎水性粉末の配合量の検討)
疎水性粉末の配合量を変化させ、下記のような水中油型乳化化粧料を調製し、べたつき、よれ、増粘性、及び粉末凝集を前記評価基準に基づいて評価した。結果を表4に示す。
なお表4中、ナイロン樹脂粉末※1は、具体的には、「ナイロンSP−500」(東洋レーヨン社製)を、ウレタン樹脂粉末※2は「プラスティックパウダーD−400」(東色ピグメント社製)を、それぞれ用いた。
【0093】
(製造方法)
1.(1)〜(5)を混合溶解し、70℃に加熱する。
2.(6)〜(12)をビーズミルにより高分散処理し、70℃に加熱する。
3.(13)〜(15)を混合溶解し、70℃に加熱する。
4.1〜3を混合乳化し、室温まで攪拌冷却する。
【0094】
【表4】

【0095】
疎水性粉末の配合量が0.05質量%である試験例16,20においては、配合量が足りず、べたつきとよれが生じた。また、疎水性粉末の配合量が4質量%である試験例19,23においては、配合量が過剰であり、べたつき及び疎水性粉末の凝集が生じた。これに対し、疎水性粉末の配合量が0.1質量%あるいは3質量%である試験例17〜18,21〜22においては、べたつき、よれ、増粘性、及び粉末凝集の点で好ましいものであった。よって、疎水性粉末の配合量は0.1〜3質量%であることが好ましい。
以上より、疎水性粉末の好適な配合量は0.1〜3質量%であることが確認された。
【0096】
以下に、本発明を実施するために好適な水中油型乳化化粧料の処方例を挙げるが、本発明の技術範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0097】
実施例1 サンスクリーンクリーム
(処方) 質量%
(1)イオン交換水 残量
(2)POE−60 水添ヒマシ油 2
(3)サクシノグリカン 0.5
(4)合成例1のミクロゲル 0.5
(5)カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.3
(6)グリセリン 0.5
(7)エデト酸塩 適量
(8)疎水化処理酸化チタン 5
(9)ジメチコンポリオール 2
(10)デカメチルペンタポリシロキサン 12
(11)イソステアリン酸 1
(12)オクチルメトキシシンナメート 5
(13)防腐剤 適量
(14)エタノール 6
(15)ウレタン樹脂粉末 1
【0098】
(製法)
1.(1)〜(7)を混合溶解し、70℃に加熱する。
2.(8)〜(12)をビーズミルにより高分散処理し、70℃に加熱する。
3.(13)〜(15)を混合溶解し、70℃に加熱する。
4.1〜3を混合乳化し、室温まで攪拌冷却する。
【0099】
実施例2 サンスクリーン乳液
(処方) 質量%
(1)イオン交換水 残量
(2)POE−60 水添ヒマシ油 2
(3)サクシノグリカン 0.05
(4)合成例2のミクロゲル 0.05
(5)カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.3
(6)グリセリン 0.5
(7)エデト酸塩 適量
(8)疎水化処理酸化チタン 5
(9)ジメチコンポリオール 2
(10)デカメチルペンタポリシロキサン 12
(11)イソステアリン酸 1
(12)オクチルメトキシシンナメート 5
(13)防腐剤 適量
(14)エタノール 6
(15)ナイロン樹脂粉末 0.5
【0100】
(製法)
1.(1)〜(7)を混合溶解し、70℃に加熱する。
2.(8)〜(12)をビーズミルにより高分散処理し、70℃に加熱する。
3.(13)〜(15)を混合溶解し、70℃に加熱する。
4.1〜3を混合乳化し、室温まで攪拌冷却する。
【0101】
実施例3 水中油型乳化ファンデーション
(処方) 質量%
(1)イオン交換水 残量
(2)PEG-60水添ヒマシ油 2
(3)サクシノグリカン 0.3
(4)合成例3のミクロゲル 0.05
(5)ポリオキシエチレンメチルグルコシド 0.5
(6)エデト酸塩 適量
(7)カルボキシメチルセルロース 0.3
(8)シリコーン処理二酸化チタン 10
(9)シリコーン処理タルク 3
(10)シリコーン処理黄酸化鉄 0.8
(11)シリコーン処理黒酸化鉄 0.16
(12)シリコーン処理ベンガラ 0.3
(13)ポリオキシアルキレン変性ポリシロキサン 2
(14)デカメチルペンタシクロシロキサン 10
(15)オクチルメトキシシンナメート 5
(16)防腐剤 適量
(17)エタノール 5
(18)シリコーンゴム粉末 2
【0102】
(製法)
1.(1)〜(7)を混合溶解し、70℃に加熱する。
2.(8)〜(15)をビーズミルにより高分散処理し、70℃に加熱する。
3.(16)〜(18)を混合溶解し、70℃に加熱する。
4.1〜3を混合乳化し、室温まで攪拌冷却する。
【0103】
実施例1〜3はいずれも、べたつかず心地良い使用感が得られ、且つ乾き際によれが起こらないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明に使用するミクロゲルを重合する際のヘキサン/界面活性剤/水溶性エチレンモノマー水溶液の相図の例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)〜(C)を含み、(A)、(B)成分は外水相に、(C)成分は内油相に含まれることを特徴とする水中油型乳化化粧料。
(A)サクシノグリカン 0.05〜2質量%
(B)ナイロン樹脂粉末、ウレタン樹脂粉末、シリコーンゴム粉末、及びシリコーン樹脂粉末から選ばれる一種または二種以上の疎水性粉末 0.1〜3質量%
(C)疎水化処理粉体 1〜50質量%
【請求項2】
(B)疎水性粉末が、ナイロン樹脂粉末及び/又はウレタン樹脂粉末であることを特徴とする請求項1に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項3】
さらに、(D)水溶性エチレン性不飽和モノマーを分散相に溶解し分散相中にてラジカル重合して得られるミクロゲルを含むことを特徴とする請求項1に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項4】
(D)成分中の水溶性エチレン性不飽和モノマーが、ジアルキルアクリルアミド及び/又はイオン性アクリルアミドであることを特徴とする請求項1に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項5】
(C)疎水化処理粉体が疎水化処理酸化チタン及び/又は疎水化処理酸化亜鉛であることを特徴とする請求項1に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項6】
(A)サクシノグリカンと、(B)疎水性粉末と、(C)疎水化処理粉体とを含む水中油型乳化化粧料の製造方法であって、
前記(A)サクシノグリカンと前記(B)疎水性粉末を水相に分散させた後、該水相を前記(C)疎水化処理粉体を含む油相と混合させることを特徴とする水中油型乳化化粧料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−286748(P2009−286748A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142852(P2008−142852)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】