説明

水中航走体の位置較正方法

【課題】 慣性航法位置の較正に要する音響測位回数及び水中航走体のエネルギー消費を低減させ、音響測位精度を向上させる。
【解決手段】 水中航走体6を、定点保持又は着底により海底21に対する相対位置変化を停止させる。この状態で、支援船7側からの音響測位を複数回行い、各計測結果における緯度方向の平均と経度方向の平均を求めて、水中航走体6の統計的に正しい緯度と経度を備えた音響測位位置を求める。又、水中航走体6自身による慣性航法に基づく測位を行い、その緯度及び経度について、音響測位位置の緯度及び経度と比較して、緯度方向と経度方向の偏差をそれぞれ求め、求められた緯度方向及び経度方向の偏差により、水中航走体6自身による慣性航法に基づく緯度と経度のデータを較正させる。更に、音響測位時に支援船7を水底付近に停止させた水中航走体6の鉛直線上付近に保持することで音響測位精度を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律航走できるようにしてある水中航走体にて、慣性航法により該水中航走体自身で測位される位置を較正するために用いる水中航走体の位置較正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海底(湖底)や水中における種々の調査等を行うための手段の1つとして、自律航走する無人の水中航走体が使用されている。
【0003】
この種の水中航走体は、地球座標上の緯度及び経度と、海面からの深度とからなる該水中航走体の位置を計測し、その計測された位置を基に、予め与えられた経路を航走するようにしてある。この際、水中航走体の地球座標上の緯度と経度を測位する方法としては、一般的に、音響測位と、慣性航法による測位の2つの測位方法が併用されている。
【0004】
上記音響測位は、たとえば、水中航走体用の支援船(母船)に、音響測位装置において水中に音波を送信し、反射波を受信するアレイ状の送受波器を装備し、水中航走体に、音響測位装置におけるトランスポンダを装備して、上記支援船の送受波器よりパルス波を発信し、水中航走体のトランスポンダがこのパルス波を受信すると、その時点で直ちに返信用のパルス波を返信するようにしたものとしてある。したがって、この返信用のパルス波を上記支援船の送受波器で受けて検出する。これにより、上記支援船の送受波器よりパルス波を発信してから返信用のパルス波が該送受波器で検出されるまでの経過時間に、水中の音速をかけ、その1/2の値を求めて上記支援船から水中航走体までの距離を検出すると共に、上記アレイ状としてある送受波器により上記返信用のパルス波の到来する方向を検出することで、上記支援船の送受波器に対する上記水中航走体の相対的な位置を計測するようにしたものである。
【0005】
更に、上記支援船には、GPS等の海上測位システム、及び、該支援船のロール、ピッチ、ヨーを計測する姿勢計測装置が装備してあり、上記のように支援船の送受波器と水中航走体のトランスポンダとの間でパルス波の送受信を行うときに、上記海上測位システムにより支援船の地球座標上における位置(緯度、経度及び海底からの高度)を計測すると共に、上記姿勢計測装置により支援船の姿勢変化(ロール、ピッチ、ヨー)を計測することで、該支援船に装備してある上記音響測位装置の送受波器を原点とした支援船固定の座標系(以下、送受波器座標系と記す)の、地球座標系における位置と姿勢を求めて、上記支援船の送受波器座標系での上記水中航走体の位置を地球座標系における位置に変換することで、上記水中航走体の地球座標上における位置(緯度、経度及び海底からの高度)を計測できるようにしてある。
【0006】
一方、上記慣性航法による測位は、水中航走体に、該水中航走体のロール、ピッチ、ヨーと、該水中航走体に作用する加速度を検出できるようにしてある慣性航法装置を搭載して、上記支援船の地球座標上における緯度と経度を基に与えられる上記水中航走体の航走を開始した始点の位置・速度情報に、上記慣性航法装置により検出される水中航走体の加速度を2階積分することで得た航走距離(移動量)の情報を足し合わせることにより、水中航走体の地球座標上における緯度と経度を、該水中航走体自身で計測するようにしたものである。
【0007】
なお、水中航走体は、通常、ドップラー流速計(ドップラー式対地速度計)を装備して、該水中航走体が海底(湖底)近くを航走するときには、上記ドップラー流速計により対地速度を検出することで、該水中航走体の航走距離(移動量)を精度よく検出できるようにしてある。しかし、上記ドップラー流速計は、海底の近くでしか使用できない。そのために、水中航走体を深深度で運用する場合は、支援船より海中に投入された水中航走体を海底近くに到達させるまでは、上記慣性航法、又は、該慣性航法に更に対水速度を考慮した慣性航法による測位を行いながら自律航走させる必要がある。
【0008】
ところが、上記水中航走体が自身で測位を行うための慣性航法による測位は、上述したように、水中航走体に作用する加速度を2階積分して求まる上記水中航走体の航走距離(移動量)に基づいて、該水中航走体の位置を計測するという計測原理上、上記水中航走体の加速度を検出するために用いる検出器の精度に依存して生じる加速度の検出誤差や、姿勢の検出誤差のため位置誤差が時間の経過と共に累積する。そのために、水中航走体の慣性航法による自律航走を長時間行うと、該慣性航法に基づいて水中航走体が自身で測位している地球座標上の緯度及び経度と、実際の水中航走体の地球座標上の緯度及び経度にずれが生じてしまうため、上記慣性航法による測位のみでは、該水中航走体を、予め与えられた経路に沿って長時間航走させることが困難になる。
【0009】
そのため、上記水中航走体においては、慣性航法による位置誤差が運用で要求される位置誤差よりも大きくなった場合には、水中航走体が慣性航法により自身で測位している地球座標上の緯度及び経度について較正を行って、実際に水中航走体が存在している地球座標上の緯度及び経度とのずれを解消させる必要が生じる。
【0010】
特に、水中航走体を深深度で運用する場合は、支援船より海中に投入された水中航走体が慣性航法による自律航走により海底近くまで潜航して、ドップラー流速計による海底との対地速度の検出が可能になった後に、慣性航法により該水中航走体が自身で測位している地球座標上の緯度及び経度について較正を行うことが必須とされる。
【0011】
この種の水中航走体が慣性航法により水中航走体自身で測位した緯度及び経度の較正方法としては、図5に示す如く、水中航走体(図示せず)を、交差する2つの位置修正用経路として、慣性航法による測位に基づいて該水中航走体自身で判断した或る等緯度線に沿う緯度検出経路1と、或る等経度線に沿う経度検出経路2に沿って順次航走させて、上記緯度検出経路1に沿う航走時と、経度検出経路2に沿う航走時に、図示しない支援船側で音響測位による上記水中航走体の測位をそれぞれ複数回行い、音響測位で得られた図5に黒丸で示す如き上記水中航走体の位置3のデータを基に、水中航走体の緯度検出経路1に沿う航走時に得られた位置計測データの緯度成分のみを平均した平均緯度線4を求めて、該平均緯度線4と上記緯度検出経路1との偏差(差分)δLATを求める。
【0012】
更に、上記音響測位で得られた上記水中航走体の位置3のデータを基に、水中航走体の経度検出経路2に沿う航走時に得られた位置計測データの経度成分のみを平均した平均経度線5を求めて、該平均経度線5と上記経度検出経路2との偏差(差分)δLONを求める。
【0013】
次いで、上記緯度方向及び経度方向の偏差δLAT及びδLONを、上記図示しない支援船より水中航走体へ音響通信により与えて、水中航走体が慣性航法により自身で判断している地球座標上の緯度及び経度を、上記緯度方向及び経度方向の偏差δLAT及びδLONを用いてそれぞれ較正させるようにする手法が従来提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0014】
なお、上記水中航走体の深度の計測は、一般的に、該水中航走体に装備された深度計を用いるようにしてあり、その検出の際、積分計算を行うことはないため、時間の経過に伴って誤差が累積する虞はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−313087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところが、上記特許文献1に示された手法では、水中航走体が慣性航法により自身で判断している地球座標上の緯度及び経度を較正するために、該水中航走体を、探査等のために予め与えられた経路とは別に、交差する2つの位置修正用経路としての緯度検出経路1と経度検出経路2に沿ってそれぞれ航走させる必要があることから、エネルギーの消費が大きくなり、しかも、緯度方向の偏差δLATと、経度方向の偏差δLONを求めるために、上記緯度検出経路1に沿って航走させる水中航走体の音響測位と、上記経度検出経路2に沿って航走させる水中航走体の音響測位を別々に行うようにしてあるため、音響測位の回数が多くなると共に、時間を要するという問題がある。
【0017】
そこで、本発明は、水中航走体が慣性航法により自身で測位する緯度及び経度を、支援船側からの音響測位に基いて較正することができ、且つこの際、水中航走体におけるエネルギーの消費を削減できると共に、上記較正に要する音響測位の回数を低減できて、時間の短縮化を図ることが可能な水中航走体の位置較正方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、水中航走体を水底に対する相対位置が変化しないように停止させ、該水底に対し相対位置変化を停止させた水中航走体の位置を支援船より複数回の音響計測により計測して、その計測結果を平均して音響計測位置を求め、該音響計測位置の情報を基に、上記水中航走体が慣性航法に基づいて該水中航走体自身で測位している位置を較正させるようにする。
【0019】
又、請求項2に対応して、水中航走体を水底に対する相対位置が変化しないように停止させ、該水底に対し相対位置変化を停止させた水中航走体の位置を支援船より複数回の音響計測により計測して、その計測結果を平均して音響計測位置を求め、更に、該音響計測位置と、上記水中航走体が水底に対し相対位置変化を停止させた状態で慣性航法により該水中航走体自身で測位した位置の緯度方向及び経度方向の偏差をそれぞれ求め、該求められた緯度方向及び経度方向の偏差により、上記水中航走体が慣性航法により該水中航走体自身で測位している位置を較正させるようにする。
【0020】
更に、上記各構成において、水底に対し相対位置変化を停止させた水中航走体の位置を支援船より複数回の音響計測により計測するときに、上記支援船と、上記水底に対し相対位置を停止させた水中航走体とを鉛直方向に揃う配置とさせるようにする。
【0021】
上述の各構成において、水底に対し相対位置変化を停止させた水中航走体の位置を支援船より複数回の音響計測により計測するときに、水中航走体を、水底に着底又は定点保持させることで、該水底に対する相対位置を停止させるようにする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の水中航走体の位置較正方法によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)水中航走体を水底に対する相対位置が変化しないように停止させ、該水底に対し相対位置変化を停止させた水中航走体の位置を支援船より複数回の音響計測により計測して、その計測結果を平均して音響計測位置を求め、該音響計測位置の情報を基に、上記水中航走体が慣性航法に基づいて該水中航走体自身で測位している位置を較正させるようにしてあるので、上記水中航走体の地球座標上における位置の緯度と経度についてそれぞれ統計的に最も正しくなるように上記音響測位位置を求めるために行う複数回の音響測位を、緯度検出用と経度検出用に分けて別々に行う必要をなくすことができる。よって、上記音響測位位置を従来と同様の精度で得るために行う音響測位の回数を半減することができて、上記音響測位位置を求めるための音響測位に要する時間も半減できる。これにより、上記水中航走体の慣性航法に基づく水中航走体自身で計測する位置の緯度及び経度の較正に要する時間を短縮することができる。
(2)しかも、上記水中航走体の音響測位を行うときには、該水中航走体を特定の経路に沿って航走させる必要をなくすことができる。このため、エネルギーの消費を削減することができると共に、探査等のために予め与えられた経路から外れることなく上記水中航走体の慣性航法に基づく水中航走体自身で計測する位置の較正を行うことが可能になる。
(3)水中航走体を水底に対する相対位置が変化しないように停止させ、該水底に対し相対位置変化を停止させた水中航走体の位置を支援船より複数回の音響計測により計測して、その計測結果を平均して音響計測位置を求め、更に、該音響計測位置と、上記水中航走体が水底に対し相対位置変化を停止させた状態で慣性航法により該水中航走体自身で測位した位置の緯度方向及び経度方向の偏差をそれぞれ求め、該求められた緯度方向及び経度方向の偏差により、上記水中航走体が慣性航法により該水中航走体自身で測位している位置を較正させるようにすることによっても、上記(1)(2)と同様の効果を得ることができ、更に、上記緯度方向及び経度方向の偏差により上記水中航走体が慣性航法により該水中航走体自身で測位している位置を較正させる処理は、水底に対し相対位置変化を停止させた状態の水中航走体の位置についての上記支援船側からの複数回の音響計測と、慣性航法に基づく水中航走体自身による測位を行った後であれば、任意の時期に行うことができるため、音響通信の状況の影響を受けることなく上記水中航走体の航走を速やかに再開させることが可能になる。
(4)一般に海中の温度分布は等深度では同じ温度で深度方向にだけ温度が変化するような分布が支配的であり、このような温度分布下では、水底付近で停止させている水中航走体の鉛直線上付近に支援船を保持した場合、音響測位の音線が曲がらないので音響測位精度を上げることができる。
(5)海底に対して移動していれば、ドップラー流速計の速度計測誤差と慣性航法装置の姿勢計測誤差で、較正のための航走中にも慣性航法位置に誤差が生ずるが、水中航走体を海底に着底させた場合には対地速度はゼロであり、着底中の慣性航法の移動量をゼロとすることができるので、これらの誤差の影響を排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の水中航走体の位置較正方法の実施の一形態を示す概要図である。
【図2】図1の位置較正方法の実施に用いる水中航走体とその支援船のシステム構成の概要を示す図である。
【図3】図1の位置較正方法にて複数の音響測位に基づいて求める音響測位位置と、慣性航法に基づく水中航走体の停止位置との関係を示す概要図である。
【図4】本発明の実施の他の形態を示す概要図である。
【図5】従来提案されている水中航走体の慣性航法による測位位置の較正方法の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0025】
図1乃至図3は本発明の水中航走体の位置較正方法の実施の一形態を示すもので、以下のようにしてある。
【0026】
すなわち、本発明の水中航走体の位置較正方法の実施に用いる装置の構成は、図1及び図2に示すように、水中航走体6用の支援船7に、海上に浮かぶ該支援船7の地球座標上の位置を計測するためのGPS等の海上測位システム9と、該支援船7のロール、ピッチ、ヨーを計測する姿勢計測装置10を接続した水中航走体6用の船上管制装置8を設け、該船上管制装置8に、音響測位装置において水中に音波を送信し反射波を受信するアレイ式の送受波器11と、水中航走体6と音響通信を行うための音響通信装置12を接続する。13は上記船上管制装置8の入力部、14は上記船上管制装置8の表示部である。
【0027】
一方、水中航走体6には、慣性航法装置16と、深度計17と、ドップラー流速計(ドップラー式対地速度計)18を接続した水中航走体制御装置15を設けると共に、該水中航走体制御装置15に、上記支援船7の音響測位装置の送受波器11より発信されるパルス波を受信すると直ちに返信用のパルス波を返信するトランスポンダ19と、上記支援船7の音響通信装置12と相互に音響通信を行うための音響通信装置20を装備してなる構成とする。
【0028】
上記構成としてある支援船7と水中航走体6を用いて本発明の水中航走体の位置較正方法を実施する場合は、先ず、慣性航法に基づく測位を行いながら或る時間自律航走した水中航走体6、たとえば、深深度で運用するために海上の支援船7から海中に投入された後、慣性航法による自律航走でドップラー流速計18による対地速度の計測が可能になる水底としての海底21近くまで潜航した水中航走体6を、上記ドップラー流速計18により検出される海底21に対する対地速度がゼロになるよう、該水中航走体6の海底21に対する相対位置変化を停止させる。
【0029】
上記のように水中航走体6の海底21に対する相対位置変化を停止させるための具体的な手法としては、たとえば、水中航走体6に装備されているスラスター等の各種推進機構を、水中の流れを相殺するよう適宜作動させて、図1に実線で示すように、該水中航走体6を定点保持させるようにすればよい。この水中航走体6の定点保持によれば、水中航走体6を航走させる場合に比してエネルギー消費を低減できる。
【0030】
あるいは、支援船7より海中に投入された水中航走体6を深深度まで潜航させる際には、水中航走体6にバラスト(図示せず)を搭載して潜航させ、海底近くに達すると搭載していたバラストを所要量投下して水中航走体6の中性浮力を得るようにすることが多いことから、上記のようにバラストを使用して海底21近くまで潜航させる形式の水中航走体6では、海底21近くまで潜航した水中航走体6にて、バラストの重量が該水中航走体6の中性浮力に対してやや過剰となるように調整することで、図1に二点鎖線で示すように水中航走体6を海底21に着底させ、これにより、該水中航走体6の海底21に対する相対位置変化を停止させるようにしてもよい。このようにすれば、水中航走体6の海底21に対する相対位置変化を停止させるために要するエネルギー消費をゼロにすることが可能になる。
【0031】
上記のように水中航走体6を定点保持あるいは着底により海底21に対する相対位置変化を停止させた後、該水中航走体6では、水中航走体制御装置15にて、海上測位システム9から取得した潜航開始時の位置情報に、上記慣性航法装置16により検出される水中航走体6の加速度を2階積分することで得た航走距離(移動量)の情報を足し合わせることにより、該水中航走体6が停止している位置についての地球座標上における緯度と経度を算出し、この慣性航法に基づく水中航走体6の停止位置の緯度と経度の計測データと深度計17により計測される水中航走体6の停止している深度の計測データを、音響通信装置20と12を介して上記支援船7の船上管制装置8へ伝達する。
【0032】
一方、上記支援船7の船上管制装置8では、上記のように定点保持あるいは着底により水中航走体6の海底21に対する相対位置変化を停止させた状態で、上記支援船7側より上記水中航走体6の音響測位を複数回行う。
【0033】
この音響測位は、具体的には、支援船7に設けてある音響測位装置のアレイ式の送受波器11よりパルス波を発信させ、このパルス波を受信した水中航走体6のトランスポンダ19が直ちに返信する返信用のパルス波が上記支援船7の送受波器11により受信された時点で、該送受波器11よりパルス波を発信してから上記トランスポンダ19より返信された返信用のパルス波が検出されるまでに要した時間と、水中の音速とから、上記支援船7に設けた送受波器11から上記水中航走体6までの距離を求めると共に、上記アレイ式の送受波器11で受信される上記返信用のパルス波の到来する方向とから、上記支援船7の送受波器11に対する上記水中航走体6の相対的な配置を求める。
【0034】
同時に、上記支援船7の海上測位システム9により検出される地球座標上における該支援船7の位置(緯度、経度及び海底からの高度)を計測すると共に、上記姿勢計測装置10により支援船7の姿勢変化(ロール、ピッチ、ヨー)を計測して、これらの支援船7の位置の計測データと姿勢計測データを上記船上管制装置8に入力させ、該船上管制装置8にて、上記支援船7の地球座標上での緯度及び経度の計測データ、及び、支援船7の姿勢計測データより求まる上記支援船7に装備してある上記送受波器11を原点とした支援船7に固定の送受波器11座標系の地球座標系における位置と姿勢を求め、上記支援船7の送受波器11座標系での上記水中航走体6の位置を地球座標系での位置に変換することで、上記水中航走体6の地球座標上における緯度、経度及び海面からの深度を計測するようにする。
【0035】
上記のようにして水中航走体6の音響測位を複数回行って得られる水中航走体6の位置22の各計測結果は、図3に白抜きの丸で示すように緯度方向及び経度方向にほぼ正規分布した状態でプロットされるようになる。よって、上記船上管制装置8において、上記水中航走体6の音響測位による位置22の各計測結果の緯度成分と経度成分をそれぞれ平均することで、図3に黒丸で示す如き上記水中航走体6の地球座標上における緯度及び経度が統計的に最も正しくなる音響測位位置23を求める。
【0036】
なお、この際、上記支援船7側からの音響測位により求まる水中航走体6の海面からの深度の値が、上記水中航走体6の深度計17により計測された深度の値より所定の設定値以上のずれ、たとえば、上記水中航走体6の深度計17により計測された深度の値に対し10%以上のずれを生じている場合は、その音響測位の結果がマルチパス等により本来の水中航走体6の停止位置ではない場所を計測している可能性が大きいと考えられる。そのため、上記のようなずれを生じている音響測位の結果を除外した状態で、上記水中航走体6の地球座標上における緯度及び経度についての音響測位位置23を求めるようにしてもよい。このようにすれば、上記水中航走体6の音響測位位置23の実際の水中航走体6の位置に対する正確性をより向上させる効果が期待できる。
【0037】
その後、上記船上管制装置8では、上記水中航走体6より伝えられた慣性航法に基づく水中航走体6の停止位置24(図3に二重丸で示す)を、上記音響測位位置23と比較して、両者の緯度方向の偏差(差分)Δlatと経度方向の偏差(差分)Δlonをそれぞれ算出する。
【0038】
しかる後、上記算出された緯度方向と経度方向の偏差Δlat及びΔlonを、上記船上管制装置8より音響通信装置12と20を介して水中航走体6の水中航走体制御装置15へ送り、これにより、該水中航走体6の水中航走体制御装置15にて、慣性航法に基づく水中航走体6自身で計測する緯度及び経度に対し、上記船上管制装置8より与えられた緯度方向と経度方向の偏差Δlat及びΔlonによる較正を行うようにする。
【0039】
このように、本発明の水中航走体の位置較正方法によれば、水中航走体6を海底21に対する相対位置変化を停止させた状態で音響測位を行うようにしてあるため、上記水中航走体6の地球座標上における緯度と経度について、それぞれ統計的に最も正しくなる音響測位位置23を求めるために行う複数回の音響測位を、特許文献1に示された従来の手法のように緯度検出用と経度検出用に分けて別々に行う必要をなくすことができる。
【0040】
よって、上記水中航走体6の地球座標上における緯度及び経度が統計的に最も正しくなる音響測位位置23を従来と同様の精度で得るために行う音響測位の回数を、半減することができる。更に、上記音響測位位置23を求めるための音響測位に要する時間も半減できることから、上記水中航走体6の慣性航法に基づく水中航走体6自身で計測する緯度及び経度の較正に要する時間を短縮することができる。
【0041】
しかも、上記水中航走体6の音響測位を行うときには、該水中航走体6は定点保持あるいは着底させることによって、海底21に対する相対位置変化を停止させるようにしてあるため、定点保持させる場合であっても、水中航走体6を所定の位置修正用経路に沿って航走させながら音響測位を行う場合に比してエネルギーの消費を削減できる。更には、上記水中航走体6を着底させる場合は、該水中航走体6の海底21に対する相対位置変化を停止させるために要するエネルギー消費をゼロにすることが可能になる。
【0042】
又、上記水中航走体6の音響測位を行うときには、水中航走体6を単に海底21に対し相対位置変化を停止させるのみでよいため、探査等のために予め与えられた経路のいずれの場所でも、水中航走体6の音響測位が可能になる。よって、上記探査等のために予め与えられた経路から外れることなく上記水中航走体6の慣性航法に基づく水中航走体6自身で計測する緯度及び経度の較正を行うことが可能になる。
【0043】
次に、図4は本発明の実施の他の形態を示すもので、図1乃至図3に示したと同様の構成において、支援船7側から上記海底21に対する相対位置変化を停止させた状態の水中航走体6の音響測位を行うようにときに、支援船7と、上記海底21に対する相対位置変化を停止させた状態の水中航走体6とを鉛直方向に揃うように配置させるようにしたものである。
【0044】
具体的には、先ず、上記水中航走体6を図4に実線で示す如く定点保持させるか、あるいは、図4に二点鎖線で示す如く水中航走体6を着底させることにより海底21に対する相対位置変化を停止させた状態とした後、支援船7側から、水中航走体6の慣性航法に基づいて計測される緯度及び経度の較正のための音響測位を行う以前に、予め上記水中航走体6の予備的な音響測位を行い、計測された水中航走体6の直上に位置するように上記支援船7を移動させる。
【0045】
その後、図1乃至図3の実施の形態と同様の手順で本発明の水中航走体の位置較正方法を実施するようにすればよい。
【0046】
本実施の形態によれば、以下の理由により、海底21に対し相対位置変化を停止させた状態の水中航走体6について支援船7側から行う音響測位の精度を高めることができる。
【0047】
すなわち、海中には深度方向に温度分布の差が比較的生じ易く、このような深度方向だけに温度分布の差が生じた状態では、深度方向に対して傾いた方向に進行している音波(超音波)は水の温度差に基づく音速差の影響を受けて進行方向が変化する虞が懸念される。
【0048】
これに対し、本実施の形態では、上記支援船7を、上記海底21に対する相対位置変化を停止させた状態の水中航走体6の真上に配置することができて、支援船7側から海底21に対し相対位置変化を停止させた状態の上記水中航走体6についての音響測位を、鉛直に進行する音波(超音波)のみによって行うことができる。
【0049】
したがって、上記海底21に対し相対位置変化を停止させた状態の水中航走体6について支援船7側から行う音響測位において深度方向の温度勾配に基づく測位角度の誤差を低減させて精度を高めることができるため、水中航走体6の慣性航法による計測位置をより正確に較正することが可能になる。
【0050】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、水中航走体6自身による慣性航法に基づく該水中航走体6の停止位置24の緯度及び経度の計測と、上記支援船7側から音響測位を行う間、上記水中航走体6を海底21に対し相対位置変化を停止させて、慣性航法に基づく水中航走体6の停止位置24と音響測位位置23との緯度方向の偏差Δlatと経度方向の偏差Δlonを求めることができるようにしてあれば、上記支援船7の船上管制装置8より上記偏差Δlatと偏差Δlonを音響通信装置12と20を介して水中航走体6の水中航走体制御装置15へ送って、慣性航法に基づく水中航走体6自身で計測する緯度及び経度の上記緯度方向と経度方向の偏差Δlat及びΔlonによる較正の処理を実施させるタイミングは、必ずしも水中航走体6を海底21に対し相対位置変化を停止させた状態のときに限定されるものではない。
【0051】
又、水中航走体6を海底21に対し相対位置変化を停止させた状態であれば、上記支援船7の船上管制装置8より、上記音響測位位置23の緯度と経度に関する計測データを、音響通信装置12と20を介して水中航走体6の水中航走体制御装置15へ与えて、この音響測位位置23の緯度と経度の計測データにより、水中航走体6の慣性航法に基づく水中航走体6自身で計測する緯度及び経度を更新することで較正を行うようにしてもよい。
【0052】
慣性航法に基づいて自身の位置の計測を行いながら自律航走を或る時間継続した水中航走体6であれば、支援船7より海中に投入されて海底21近くまで潜航した時点以外のいかなる場合であっても、本発明の水中航走体の位置較正方法を実施してよい。
【0053】
深深度で運用される水中航走体6以外のいかなる運用形式の水中航走体6、更には、海以外の水中で運用される水中航走体6であっても、本発明の水中航走体の位置較正方法を適用してよい。
【0054】
図1及び図4に示した水中航走体6及び支援船7のサイズや形状は、図示するための便宜上のものであり、水中航走体6及び支援船7のサイズや形状は任意に設定してよい。例えば、支援船7は浮体構造物でもよい。
【0055】
支援船7に装備する海上測位システム9は、該支援船7の地球座標上における緯度と経度を所望する精度で得ることができれば、GPS以外のいかなる形式の海上測位システム9を採用してもよい。
【0056】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
6 水中航走体
7 支援船
21 海底(水底)
Δlat 緯度方向の偏差
Δlon 経度方向の偏差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中航走体を水底に対する相対位置が変化しないように停止させ、該水底に対し相対位置変化を停止させた水中航走体の位置を支援船より複数回の音響計測により計測して、その計測結果を平均して音響計測位置を求め、該音響計測位置の情報を基に、上記水中航走体が慣性航法に基づいて該水中航走体自身で測位している位置を較正させるようにすることを特徴とする水中航走体の位置較正方法。
【請求項2】
水中航走体を水底に対する相対位置が変化しないように停止させ、該水底に対し相対位置変化を停止させた水中航走体の位置を支援船より複数回の音響計測により計測して、その計測結果を平均して音響計測位置を求め、更に、該音響計測位置と、上記水中航走体が水底に対し相対位置変化を停止させた状態で慣性航法により該水中航走体自身で測位した位置の緯度方向及び経度方向の偏差をそれぞれ求め、該求められた緯度方向及び経度方向の偏差により、上記水中航走体が慣性航法により該水中航走体自身で測位している位置を較正させるようにすることを特徴とする水中航走体の位置較正方法。
【請求項3】
水底に対し相対位置変化を停止させた水中航走体の位置を支援船より複数回の音響計測により計測するときに、上記支援船と、上記水底に対し相対位置を停止させた水中航走体とを鉛直方向に揃う配置とさせるようにする請求項1又は2記載の水中航走体の位置較正方法。
【請求項4】
水底に対し相対位置変化を停止させた水中航走体の位置を支援船より複数回の音響計測により計測するときに、水中航走体を、水底に着底又は定点保持させることで、該水底に対する相対位置を停止させるようにする請求項1、2又は3記載の水中航走体の位置較正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−163930(P2011−163930A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27008(P2010−27008)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】