説明

水中補修溶接方法

【課題】重ね溶接により構成された構造物の溶接ビードや母材部に発生した欠陥部分を補修する場合に、重ね溶接部の隙間に残留した水が水蒸気となって噴出する際に溶接金属を吹き飛ばして溶接不良が発生するのを防止する。
【解決手段】重ね板3を貫通する蒸気逃がし孔12を設ける工程と、その後に、欠陥部分1に不活性ガスをノズル9から噴出させながら、水中で、ノズル9と同軸にレーザ光7を照射して、レーザ溶接により欠陥部分1を補修する工程と、その後に、蒸気逃がし孔12に不活性ガスをノズル9から噴出させながら、水中で、ノズル9と同軸にレーザ光7を照射して、レーザ溶接により蒸気逃がし孔12を密封する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中において水を排出せずにレーザ光によって溶接補修を行なう水中補修溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中にある構造物をレーザ溶接する技術としては、溶接対象部位を気中環境とするために密閉性の高い覆い(チャンバ)を溶接対象部位へ押し当て、チャンバ内部の水を不活性ガスなどで押し出す方法(特許文献1参照)が知られている。しかしながら、上述の従来の水中レーザ溶接装置では、複雑且つ大型のドライ化装置が必要となるために構造が肥大化し、複雑な構造物内や狭隘箇所に対するアクセス性および操作性が悪いという不具合があった。
【0003】
このような課題に対し、レーザ溶接ヘッドノズルより不活性ガスを噴射し、その勢いで溶接部位のみ一時的に気中環境に維持して水中溶接を実現する技術(特許文献2および特許文献3参照)が知られている。しかしながらこの技術は、水中において溶接部位をチャンバなしでも一時的にガス中に保つためのノズル形状やガス流れの滞留に寄与する技術である。
【0004】
構造物の表面を水中にてレーザ溶接する場合は上記のような溶接ヘッドを用いても十分に健全な施工が可能であるが、構造物の表面に養生板(重ね板、当て板)を当ててする場合には、上記のような方法では養生板と溶接部位間の水の排出が十分でなく、良質な溶接品質を保つことは困難で、溶接内部に滞留した水の蒸発により噴出し不良が発生することが多い。すなわち、既存の技術では、水中において養生板溶接を行なう場合の具体的なレーザ集光方法、養生板形状や、養生板の位置決め要領、溶接方法などが明確となっておらず、水中における養生板と補修面との溶接接合方法、特に、その両者の隙間に滞留した水が蒸発により噴出することが問題であった。
【特許文献1】特開平05−031591号公報
【特許文献2】特許第3012175号公報
【特許文献3】特許第3619286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の事情に対処してなされたものであり、重ね溶接により構成された構造物の溶接ビードや母材部に発生した割れなどの欠陥部分を補修する場合に、重ね溶接部の隙間に残留した水が水蒸気となって噴出する際に溶接金属を吹き飛ばして溶接不良が発生する不具合を、抑制・防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、この発明は、金属製構造物の表面に沿ってその表面の一部を覆うように配置され溶接された重ね板自体の欠陥部分または前記重ね板の溶接部の欠陥部分を水中で補修する水中補修溶接方法において、前記重ね板を貫通する貫通孔を設ける貫通孔形成工程と、前記貫通孔形成工程の後に、前記欠陥部分に不活性ガスをノズルから噴出させながら、水中で、前記ノズルと同軸にレーザ光を照射して、レーザ溶接により前記欠陥部分を補修する欠陥部分溶接工程と、前記欠陥部分溶接工程の後に、前記貫通孔に不活性ガスをノズルから噴出させながら、水中で、前記ノズルと同軸にレーザ光を照射して、レーザ溶接により前記貫通孔を密封する貫通孔密封工程と、を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、重ね溶接により構成された構造物の溶接ビードや母材部に発生した割れなどの欠陥部分を補修する場合に、重ね溶接部の隙間に残留した水が水蒸気となって噴出する際に溶接金属を吹き飛ばして溶接不良が発生する不具合を、抑制・防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る水中補修溶接方法の実施形態について、図面を参照して説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0009】
[第1の実施形態]
はじめに、本発明に係る水中補修溶接方法の第1の実施形態について、図1および図2を参照して説明する。ここに、図1は第1の実施形態の水中補修溶接方法の状況を示す概略縦断面図であり、図2はその場合の溶接部を示す概略平面図である。
【0010】
第1の実施形態は、欠陥部分1を有する溶接ビード11もしくは重ね板(表板)3を補修するものである。
【0011】
重ね板3は金属製構造物2の表面に沿って配置され、重ね板3の周囲が溶接ビード11によって気密に溶接されている。重ね板3は、たとえば、金属製構造物2の表面に瑕などの欠陥(図示せず)が生じた場合に、その欠陥部を保護するために取り付けられた養生板である。ここに実施形態では、溶接ビード11または重ね板3に欠陥部分1が生じた場合にその欠陥部分1を水中で溶接により補修する。図示の例では、溶接ビード11に欠陥部分1が生じた場合を示している。重ね板3と構造物2の表面の間には隙間40が形成されている。
【0012】
第1の実施形態の水中補修溶接方法を行なうに当たっては、初めに、欠陥部分1に近い重ね板3の部位に貫通孔である蒸気逃がし孔12を形成する。この蒸気逃がし孔12の形成方法の具体例については、第4の実施形態として後述する。
【0013】
次に、欠陥部分1をレーザ溶接ヘッド4を用いて補修する。レーザ溶接ヘッド4は、ファイバ6を介して発振器5に接続されており、集光レンズ8と、レーザ光7と同軸に設置されたノズル9とを有する。発振器5から照射されたレーザ光7はファイバ6によってレーザ溶接ヘッド4に伝送され、集光レンズ8によって集光される。それとともに、ノズル9から溶接部に不活性ガス10が供給される。
【0014】
次に、レーザ溶接ヘッド4を用いて、前記の欠陥部分1の補修と同様に溶接によって蒸気逃がし孔12を密閉する。このとき、蒸気逃がし孔12が密閉される前に、蒸気逃がし孔12から重ね溶接部の隙間40に残留した水が溶接中に蒸気となって排出されるようにする。
【0015】
以上説明したように、この実施形態によれば、重ね板3と構造物2の表面の間の隙間40に残留した水が溶接中に蒸気となって排出されるため、蒸気圧によって溶接金属が吹き飛ばされることなく欠陥部分を健全に溶接することができる。
【0016】
[第2の実施形態]
次に、本発明に係る水中補修溶接方法の第2の実施形態について、図3ないし図8を参照して説明する。ここに、図3ないし図8はそれぞれ、第2の実施形態の水中補修溶接方法の互いに異なる例における状況を示す概略縦断面図である。
【0017】
図3に示す例では、欠陥部分1を有する溶接ビード11を溶接する際に、キーホール溶接が実現できるように溶接ビード11の表面にレーザ光7を集光して溶接を行なう。
【0018】
蒸気逃がし孔12を欠陥部分近傍に加工することにより、重ね溶接部の隙間40に残留した水から溶接による発熱で発生する蒸気が溶接中に蒸気となって排出される。欠陥部分1を溶接する際にキーホール溶接で溶接することにより、欠陥部分1を完全に塞ぐことができる。
【0019】
本実施形態によれば、蒸気逃がし孔12から重ね溶接部の隙間40に残留した水が溶接中に蒸気となって排出されるため、蒸気圧によって溶接金属が吹き飛ばされることがない。また、キーホール溶接を用いることで、欠陥部分1を除去せずに内部に欠陥を残留させることなく欠陥部分1を塞ぐことができる。
【0020】
上記第2の実施形態の変形例として、図4に示すように、シールドカバー13にて溶接部を被い、不活性ガス10を供給しながら溶接してもよい。
【0021】
第2の実施形態のさらに他の変形例として、欠陥部分1を有する溶接ビード11の溶接を行なう際に、熱伝導型の溶接で行なう場合に、図5に示すようにレーザ光7を溶接ビード表面にビーム直径1.0mm以上に設定し溶接を行なってもよい。
【0022】
第2の実施形態のさらに他の変形例として、図6に示すように欠陥部分1の溶接部にフィラーワイヤ14を供給しながら溶接してもよい。
【0023】
第2の実施形態のさらに他の変形例として、熱伝導型の溶接で外周溶接を行なう場合に、図7に示すように熱源としてTIGアーク15、MIGアークまたはプラズマアークを用いてもよい。
【0024】
第2の実施形態のさらに他の変形例として、キーホール溶接を用いる代わりに、図8に示すように、欠陥部分1を有する溶接ビード11をあらかじめ機械加工等で除去し、その後に、フィラーワイヤ14を供給しながら欠陥部分の再溶接を行なってもよい。
【0025】
[第3の実施形態]
次に、本発明に係る水中補修溶接方法の第3の実施形態について、図9を参照して説明する。ここに、図9は第3の実施形態の水中補修溶接方法の状況を示す概略平面図である。この実施形態では、図示のように、蒸気逃がし孔12を、欠陥部分1近傍のほかに重ね板3の下部に蒸気逃がし孔12aを設けている。溶接は、欠陥部分1、欠陥部分1の近傍に設置した蒸気逃がし孔12、上板下部に設置した蒸気逃がし孔12aの順に溶接を行なう。
【0026】
この実施形態において、蒸気逃がし孔12,12aから欠陥部分1の溶接中に発生する水蒸気が排出されるとともに、下部の蒸気逃がし孔12aの溶接時に、隙間40に残留した水を全て排出後に溶接することができる。これにより、蒸気圧によって溶接金属が吹き飛ばされることなく欠陥部分1を健全に溶接でき、重ね板3下部の蒸気逃がし孔12aを溶接する際に隙間40に残留した水を全て排出後に、補修溶接することができる。
【0027】
[第4の実施形態]
次に、本発明に係る水中補修溶接方法の第4の実施形態について、図10を参照して説明する。ここに、図10は第4の実施形態の水中補修溶接方法の状況を示す概略縦断面図である。この実施形態では、図示のように、蒸気逃がし孔12をレーザ加工にて加工するさいに、第1の実施形態における補修溶接および蒸気逃がし孔を密閉するのに用いられるのと同様のレーザ溶接ヘッド(レーザ加工ヘッド)4、ファイバ6、発振器5、ノズル9などを用いる(図1参照)。
【0028】
発振器5から照射されたレーザ光7はファイバ6によってレーザ溶接ヘッド4に伝送され、集光レンズ8によって集光される。それとともに、ノズル9から溶接部に不活性ガス10が供給される。
【0029】
次に、レーザ溶接ヘッド4を用いて、前記の第1ないし第3の実施形態と同様に、欠陥部分1の補修溶接によって蒸気逃がし孔12、12aを密閉する。
【0030】
この実施形態によれば、蒸気逃がし孔12、12aを加工するにあたり、その後の補修溶接および蒸気逃がし孔を密閉する溶接で用いられるのと同じレーザ溶接ヘッド(レーザ加工ヘッド)を用いることができる。
【0031】
[他の実施形態]
以上説明した各実施形態は単なる例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。たとえば、上記実施形態で、重ね板3は、たとえば、金属製構造物2の表面に瑕などの欠陥が生じた場合に、その欠陥部を保護するために取り付けられた養生板であるとした。しかし、重ね板は必ずしも上記養生板に相当するものでなくてもよく、金属製構造物2の表面に重ねて溶接された板であればよい。
【0032】
また、第3の実施形態(図9)および第4の実施形態(図10)の特徴は、第2の実施形態の上記種々具体例(図3ないし図8)のいずれと組み合わせることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る水中補修溶接方法の第1の実施形態の状況を示す概略縦断面図。
【図2】本発明に係る水中補修溶接方法の第1の実施形態における溶接部を示す概略平面図。
【図3】本発明に係る水中補修溶接方法の第2の実施形態の状況を示す概略縦断面図。
【図4】本発明に係る水中補修溶接方法の第2の実施形態の変形例の状況を示す概略縦断面図。
【図5】本発明に係る水中補修溶接方法の第2の実施形態の他の変形例の状況を示す概略縦断面図。
【図6】本発明に係る水中補修溶接方法の第2の実施形態のさらに他の変形例の状況を示す概略縦断面図。
【図7】本発明に係る水中補修溶接方法の第2の実施形態のさらに他の変形例の状況を示す概略縦断面図。
【図8】本発明に係る水中補修溶接方法の第2の実施形態のさらに他の変形例の状況を示す概略縦断面図。
【図9】本発明に係る水中補修溶接方法の第3の実施形態における溶接部を示す概略平面図。
【図10】本発明に係る水中補修溶接方法の第4の実施形態の状況を示す概略縦断面図。
【符号の説明】
【0034】
1:欠陥部分、2:構造物、3:重ね板(養生板、表板)、4:レーザ溶接ヘッド、5:発振器、6:ファイバ、7:レーザ光、8:集光レンズ、9:ノズル、10:不活性ガス、11:溶接ビード、12,12a:蒸気逃がし孔(貫通孔)、13:シールドカバー、14:フィラーワイヤ、15:TIGアーク、40:隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製構造物の表面に沿ってその表面の一部を覆うように配置され溶接された重ね板自体の欠陥部分または前記重ね板の溶接部の欠陥部分を水中で補修する水中補修溶接方法において、
前記重ね板を貫通する貫通孔を設ける貫通孔形成工程と、
前記貫通孔形成工程の後に、前記欠陥部分に不活性ガスをノズルから噴出させながら、水中で、前記ノズルと同軸にレーザ光を照射して、レーザ溶接により前記欠陥部分を補修する欠陥部分溶接工程と、
前記欠陥部分溶接工程の後に、前記貫通孔に不活性ガスをノズルから噴出させながら、水中で、前記ノズルと同軸にレーザ光を照射して、レーザ溶接により前記貫通孔を密封する貫通孔密封工程と、
を有すること、を特徴とする水中補修溶接方法。
【請求項2】
前記欠陥部分溶接工程は、前記欠陥部分を除去せずにキーホール溶接にて溶接すること、を特徴とする請求項1に記載の水中補修溶接方法。
【請求項3】
前記欠陥部分溶接工程は、欠陥部分を除去せずにフィラーワイヤを供給しながら行なうこと、を特徴とする請求項1に記載の水中補修溶接方法。
【請求項4】
前記欠陥部分溶接工程は、キーホール型溶接または熱伝導型レーザ溶接を用いること、を特徴とする請求項3に記載の水中補修溶接方法。
【請求項5】
前記欠陥部分溶接工程は、熱伝導型レーザ溶接を用いるものであって、熱伝導型レーザ溶接における熱源としてTIGアーク、MIGアークおよびプラズマアークのいずれかを用いること、を特徴とする請求項4に記載の水中補修溶接方法。
【請求項6】
前記欠陥部分溶接工程は、前記欠陥部分を除去し、その後にフィラーワイヤを供給しながらレーザ溶接によって肉盛り溶接をすること、を特徴とする請求項1に記載の水中補修溶接方法。
【請求項7】
前記欠陥部分溶接工程は、前記欠陥部分をシールドカバーで覆い、そのシールドカバー内にシールドガスを供給しながら前記欠陥部分を補修すること、を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の水中補修溶接方法。
【請求項8】
前記貫通孔形成工程は、前記欠陥部分溶接工程で発生する蒸気を逃がすために前記欠陥部分の近傍に第1の貫通孔を形成する工程と、前記金属製構造物と重ね板との間の隙間に残留した水を排出するために前記第1の貫通孔よりも下方に第2の貫通孔を形成する工程と、を含むこと、を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の水中補修溶接方法。
【請求項9】
前記貫通孔密封工程は、前記第1の貫通孔を密封する第1の貫通孔密封工程と、その後に前記第2の貫通孔を密封する第2の貫通孔密封工程と、を含むことを特徴とする請求項8に記載の水中補修溶接方法。
【請求項10】
前記第2の貫通孔密封工程は、前記第2の貫通孔をシールドカバーで覆い、そのシールドカバー内にシールドガスを供給して、前記金属製構造物と重ね板との間の隙間に残留した水を排出し、その後に前記第2の貫通孔を密封すること、を特徴とする請求項9に記載の水中補修溶接方法。
【請求項11】
前記欠陥部分は前記金属製構造物と重ね板との溶接部の欠陥部分であって、前記欠陥部分溶接工程は、前記欠陥部分を除去し、その後に前記金属製構造物と重ね板とを再溶接すること、を特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の水中補修溶接方法。
【請求項12】
前記貫通孔形成工程は、レーザ加工を用いること、を特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載の水中補修溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−207234(P2008−207234A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48431(P2007−48431)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】