説明

水処理方法

【課題】閉塞トラブル等の問題を生じる活性炭処理、イオン交換樹脂カラムへの通水や膜処理等を行わなくてもノニオン性の溶解性COD成分等の溶解性COD成分を効率よく除去できる水処理方法を提供する。
【解決手段】被処理水に、無機凝集剤及び平均粒子径が100nm未満でSiO2として前記被処理水に対して2mg/L以上となる量のコロイダルシリカを添加した後、pHを6以下にし、その後有機高分子凝集剤を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水などの水処理方法に関し、さらに詳しくは、印刷工場、半導体工場、食品工場、紙・パルプ工場、化学工場などから排出される工場排水、し尿処理場、下水処理場からの処理水、あるいは、浄水や用水に含まれる溶解性COD成分を効率的に除去することができる水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境保護、人の健康確保の面から、年々排水処理に係わる規制が地球規模で厳しくなってきている。特に、河川への放流や閉鎖水域への放流については、水質管理項目の規制値の見直しなど、国および各地方自治体での動きが活発になってきている。水質規制の対象物質には、毒性等、有害性のある物質以外に、湖沼や海域の富栄養化の原因であるりん、窒素、BOD、COD(化学的酸素要求量)等があり、化学物質汚染の指標となるCODは、特に重要な規制管理項目である。
【0003】
従来より、工場排水などに含まれる溶解性COD成分の処理としては、活性汚泥法などの生物処理、凝集沈殿処理や加圧浮上処理が一般的である。しかし、生物処理の場合は処理装置に広大な面積が必要であるという問題があるため、凝集沈殿処理や加圧浮上処理にて処理するケースが多い。そして、凝集沈殿処理や加圧浮上処理は、無機凝集剤の荷電中和作用により主に負電荷を帯びている懸濁物質やアニオン性の溶解性COD成分を除去する方法であり、印刷工場、半導体工場、食品工場、紙・パルプ工場、化学工場など多くの工場排水で問題となるノニオン性界面活性剤などのノニオン性の溶解性COD成分を除去することは基本的に困難である。
【0004】
このノニオン性の溶解性COD成分も含め、水中から溶解性COD成分を除去する技術としては、活性炭処理、紫外線照射、オゾン処理、硫酸第一鉄と過酸化水素を組み合わせたフェントン処理などの物理化学的手法(非特許文献1参照)、被処理液をイオン交換樹脂カラムに通す方法や膜処理を行う方法(特許文献1及び特許文献2参照)、それ自身凝集性を高めてフロックを容易に生成させる親水性の粘土鉱物などの加重剤を排水に添加したのち凝集沈殿処理することにより排水処理を安定的に効率よく行う方法(特許文献3参照)が開示されている。
【0005】
しかしながら、活性炭処理、紫外線照射、オゾン処理、硫酸第一鉄と過酸化水素を組み合わせたフェントン処理などの物理化学的手法では、活性炭吸着塔の閉塞、紫外線照射効率の低下、オゾンや薬剤の消耗を招き易いという問題がある。また、薬剤コストや電気代が嵩むという問題もある。被処理液をイオン交換樹脂カラムに通す方法や、膜処理を行う方法では、懸濁物質を含んでいる場合には、容易に閉塞を起こすため、ろ過や沈降分離等の前処理設備が別途必要となるという問題がある。さらに、親水性の粘土鉱物などの加重剤を添加したのち凝集沈殿処理する方法では、粘土鉱物は薬剤自体が低価格であるという利点はあるものの、処理効率が低いという問題がある。また、汚泥量が増加してしまうという問題も生じる。
【0006】
【特許文献1】特開2000−317445号公報
【特許文献2】特開2001−276825号公報
【特許文献3】特開2003−245504号公報
【非特許文献1】山本信行、促進酸化法、化学工業、30巻9号、335−338(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した事情に鑑み、閉塞トラブル等の問題を生じる活性炭処理、イオン交換樹脂カラムへの通水や膜処理等を行わなくてもノニオン性の溶解性COD成分等の溶解性COD成分を効率よく除去できる水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意検討した結果、被処理水に、無機凝集剤、及び、平均粒子径が100nm未満でSiO2として被処理水に対して2mg/L以上となる量のコロイダルシリカを添加した後、pHを6以下にし、その後有機高分子凝集剤を添加することにより、上記目的が達成されることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明の水処理方法は、被処理水に、無機凝集剤及び平均粒子径が100nm未満でSiO2として前記被処理水に対して2mg/L以上となる量のコロイダルシリカを添加した後、pHを6以下にし、その後有機高分子凝集剤を添加することを特徴とする。
【0010】
また、前記被処理水に、前記コロイダルシリカを添加した後に、前記無機凝集剤を添加することが好ましい。
【0011】
そして、前記被処理水がノニオン性の溶解性COD成分を含む場合に、特に顕著に本発明の効果を発揮することができる。
【発明の効果】
【0012】
被処理水に、無機凝集剤、及び、平均粒子径が100nm未満でSiO2として被処理水に対して2mg/L以上となる量のコロイダルシリカを添加した後、pHを6以下にし、その後有機高分子凝集剤を添加することにより、閉塞トラブル等の問題を生じる活性炭処理、イオン交換樹脂カラムへの通水や膜処理等を行わなくても、工場排水などの被処理水から、ノニオン性の溶解性COD成分などの溶解性COD成分を効率よく除去できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の水処理方法は、被処理水に、無機凝集剤及び平均粒子径が100nm未満でSiO2として被処理水に対して2mg/L以上となる量のコロイダルシリカを添加した後、pHを6以下にし、その後有機高分子凝集剤を添加するものである。
【0014】
被処理水としては、印刷工場、半導体工場、食品工場、紙・パルプ工場、化学工場などから排出される工場排水、し尿処理場、下水処理場からの処理水、或いは、浄水や用水が挙げられる。このような被処理水は、通常、糖類やタンパク質など天然由来、界面活性剤、工業原料や化学品由来、食品由来、それらの分解物由来などの、アニオン性、カチオン性又はノニオン性の溶解性COD成分を含む。本発明の水処理方法によれば、これらの被処理水に含まれる溶解性COD成分、特に従来除去し難かったノニオン性の溶解性COD成分も効率的に除去することができる。
【0015】
本発明においては、このような被処理水に、まず、コロイダルシリカと無機凝集剤を添加する。被処理水に添加するコロイダルシリカは、平均粒子径が100nm未満である。平均粒子径が100nm以上ではコロイダルシリカが安定しないためである。また、平均粒子径は5nm以上であることが好ましい。5nm未満では、コロイダルシリカが安定せず、溶解性COD成分の除去効果を発揮し難いためである。さらに、平均粒子径50nm以上では、凝集反応に悪影響を及ぼし処理水の濁度が上昇する場合があるため、50nm未満が好ましい。なお、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所製 レーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−7000)で測定できる。
【0016】
そして、コロイダルシリカの添加量は、被処理水に対してSiO2として2mg/L以上である。2mg/L未満では、溶解性COD成分の除去効果を発揮し難いためである。また、被処理水に対してSiO2として100mg/L以上添加すると、被処理水中のコロイダル成分が上昇して凝集阻害を生じる場合があるため、100mg/L未満が好ましい。なお、コロイダルシリカを被処理水に添加する形態に特に限定はなく、コロイダルシリカの水溶液を通常の水処理での操作方法、例えば、送液ポンプを用いて処理水量に応じて一定量添加すればよい。
【0017】
被処理水に添加する無機凝集剤に特に限定はなく、例えば、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄などが挙げられる。また、無機凝集剤の添加量にも特に限定はなく、被処理水の性状に応じて調整すればよいが、被処理水に対して概ね固形分で100〜5000mg/Lである。
【0018】
また、有機凝結剤も併用することができる。有機凝結剤は特に限定はなく、例えば、ポリエチレンイミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、エチレンジアミンエピクロルヒドリン重縮合物、ポリアルキレンポリアミンなど、通常水処理で使用されるカチオン性有機系ポリマーが挙げられる。また、有機凝結剤の添加量にも特に限定はなく、被処理水の性状に応じて調整すればよいが、被処理水に対して概ね固形分で1〜100mg/Lである。
【0019】
このようなコロイダルシリカ、無機凝集剤、及び、必要に応じて添加する有機凝結剤を被処理水に添加する順序に特に限定はなく、例えば、被処理水にコロイダルシリカを添加してコロイダルシリカと被処理水に含まれるノニオン性の溶解性COD成分などの濁質とをよく反応させた後に無機凝集剤を添加してもよく、また、被処理水に無機凝集剤を添加した後コロイダルシリカを添加して濁質と反応させてもよく、さらに、被処理水にコロイダルシリカを添加してコロイダルシリカを濁質とよく反応させた後に無機凝集剤と有機凝結剤を添加するようにしてもよい。
【0020】
被処理水にコロイダルシリカ、無機凝集剤、及び、必要に応じて有機凝結剤を添加した後、このコロイダルシリカ等を添加した被処理水のpHを6以下、好ましくは5.5以下に調整する。なお、pHの下限に特に制限はないが、装置腐食などの障害を生じさせないためにはpH3以上にすることが好ましい。ここで、コロイダルシリカはアルカリpH液中で安定であるが、pHを6、好ましくはpH5.5以下にすることにより、コロイダルシリカが表面に有するシラノール基間の縮合反応が起こりやすくなり、コロイダルシリカ粒子同士が結合して鎖状のコロイダルシリカの集合体を形成して分子量が大きくなるためにコロイダルシリカは析出を起こす。この析出反応により、被処理水に溶解しているノニオン性の溶解性COD成分等の溶解性COD成分を共沈させるため、被処理水のCOD成分量を低下させたり、後段の高分子凝集剤の添加による凝集反応を効率的に行うことができる。このように、無機凝集剤とコロイダルシリカを添加した後にpHを6以下にし、その後有機高分子凝集剤を添加することで、ノニオン性の溶解性COD成分などの溶解性COD成分を被処理水から容易に除去することができる。なお、pH6以下に調整する方法は特に限定されず、例えば、硫酸、塩酸、硝酸などの酸性物質を添加すればよい。
【0021】
pHを6以下に調整した後、有機高分子凝集剤を添加する。有機高分子凝集剤は特に限定はなく、水処理で通常使用される高分子凝集剤を用いることができる。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルアミドの共重合物、及び、それらのアルカリ金属塩等のアニオン系の有機高分子凝集剤、ポリ(メタ)アクリルアミド等のノニオン系の有機高分子凝集剤、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートもしくはその4級アンモニウム塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドもしくはその4級アンモニウム塩等のカチオン性モノマーからなるホモポリマー、及び、それらカチオン性モノマーと共重合可能なノニオン性モノマーとの共重合体等のカチオン系の有機高分子凝集剤が挙げられる。また、有機高分子凝集剤の添加量にも特に限定はなく、被処理水の性状に応じて調整すればよいが、被処理水に対して概ね固形分で1〜100mg/Lである。
【0022】
有機高分子凝集剤を添加し、撹拌などして反応させてノニオン性の溶解性COD成分などの溶解性COD成分を凝集させた後は、生成した凝集フロックを、重力沈降、加圧浮上、ろ過などで分離除去することで、被処理水から溶解性COD成分を除去することができる。なお、溶解性COD成分の除去の効果は、本発明の水処理方法で処理して得られた処理水を必要に応じてろ過などして、CODMnやCODCrを測定することで確認できる。
【0023】
また、必要に応じて、殺菌剤、消臭剤、消泡剤、防食剤などを添加してもよい。さらに、必要に応じて、紫外線照射、オゾン処理、膜処理、生物処理などを併用してもよい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳述するが、本発明はこの実施例により何ら限定されるものではない。
【0025】
(実施例1〜7)
紙パルプ工場から排出された総合排水(ノニオン性の溶解性COD成分を含有、SS(濁質)濃度4520mg/L、原水CODMn=125mg/L)500mLを入れた500mLビーカーを7個用意し、ジャーテスターに設置した。そして、各ビーカーに、下記表1に示すコロイダルシリカを下記表2に示す種類及び排水に対する添加率で添加した後、150rpmで120秒間撹拌した。次いで、各ビーカーに無機凝集剤(Al23で18重量%の硫酸バンド)を排水に対して400mg/Lで添加した後、5%NaOHでpHを5.5に調整し、150rpmで60秒間撹拌した。その後、有機高分子凝集剤(アクリル酸ソーダ:アクリルアミド=20:80(モル比)の共重合体、1N−NaCl,30℃で測定した固有粘度dL/g=22)を各ビーカーに排水に対して1mg/L添加し、まず150rpmで60秒、次いで50rpmにて180秒間撹拌し、SS(濁質)を凝集させた。そして、撹拌停止後、各ビーカーの上澄み液をNo.5Aろ紙(アドバンテック社製、保留粒子径7μm)でろ過し、ろ液のCODMnを測定した。測定結果を表2に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
(比較例1)
コロイダルシリカ及び無機凝集剤を添加せず、また、pHを5.5に調整する代わりに6.5に調整した以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。なお、凝集フロックの大きさから判断して凝集処理が最適に行われていたpHが、6.5であった。
【0028】
(比較例2〜7)
コロイダルシリカの種類・添加量及び調整するpHを表2に示す値にした以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0029】
表2に示すように、本発明の水処理方法で処理した実施例1〜7では、CODMn成分は良好に除去できることが確認された。一方、コロイダルシリカ及び無機凝集剤を添加しなかった比較例1や、コロイダルシリカの添加量が1mg/Lである比較例2〜5や、pHを6.5以上にした比較例6及び7では、CODMn成分を除去することができなかった。
【0030】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に、無機凝集剤及び平均粒子径が100nm未満でSiO2として前記被処理水に対して2mg/L以上となる量のコロイダルシリカを添加した後、pHを6以下にし、その後有機高分子凝集剤を添加することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記被処理水に、前記コロイダルシリカを添加した後に、前記無機凝集剤を添加することを特徴とする請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記被処理水がノニオン性の溶解性COD成分を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理方法。

【公開番号】特開2009−142761(P2009−142761A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323110(P2007−323110)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】