水分測定装置及び水分測定方法
【課題】簡単な構造で機器類を構成することができると共に、測定対象に電解質が存在する場合であっても水分量をより高精度に測定すること。
【解決手段】測定者等は、測定部14を測定対象である人の肌等の測定対象に接触させる。次に、発信部11は、制御/記録部13からの発信周波数制御を受けて、所定の周波数の信号を発信する。受信部12は、当該信号を受信する。制御/記録部13は、受信部12に受信された信号についての共振周波数を検出し、当該共振周波数に基づいて、測定対象(人の肌)の水分量を測定する。
【解決手段】測定者等は、測定部14を測定対象である人の肌等の測定対象に接触させる。次に、発信部11は、制御/記録部13からの発信周波数制御を受けて、所定の周波数の信号を発信する。受信部12は、当該信号を受信する。制御/記録部13は、受信部12に受信された信号についての共振周波数を検出し、当該共振周波数に基づいて、測定対象(人の肌)の水分量を測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単な構造の機器類を用いて、測定対象の水分に電解質が含有されている場合であっても水分の量をより高精度に測定することが可能な、水分測定装置及び水分測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、測定対象の電気伝導度を利用して水分の量を測定する手法(以下、「導電率法」と呼ぶ)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−24307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した特許文献1に開示の導電率法を適用して、例えば、人の皮膚の水分量が測定された場合、精度が悪化することがあった。人の汗等に含有される電解質が、電気伝導度に影響を与えてしまうためである。
【0005】
このため、測定対象の水分に電解質が含有されている場合であっても水分の量を精度良く測定することが要求されているが、このような要求に十分に応えることはできていない状況である。
また、このような要求に応える機器類を実現する場合には、測定対象が人の肌等になることを想定すると、可能な限り簡単な構造で機器類を構成することが望ましい。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、簡単な構造の機器類を用いて、測定対象の水分に電解質が含有されている場合であっても水分の量をより高精度に測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面の水分測定装置は、
所定の周波数の信号を発信する発信手段と、
前記発信手段と同軸線で結線され、水分を含有する測定対象に接触する2つの電極を有する測定手段と、
前記測定手段と同軸線で結線されると共に、前記発信手段で発信された前記信号を受信する受信手段と、
前記受信手段に受信された前記信号についての共振周波数を検出し、当該共振周波数に基づいて、前記測定対象の水分量を測定する水分量測定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の一側面の水分測定装置においては、所定の周波数の信号が発信手段から発信され、発信手段と同軸線で結線され、水分を含有する測定対象に接触する2つの電極を有する測定手段を介して、当該測定手段と同軸線で結線された受信手段に受信される。そして、受信手段に受信された信号についての共振周波数が検出され、当該共振周波数に基づいて、前記測定対象の水分量が測定される。
【0009】
本発明の一側面の水分測定方法は、上述の本発明の一側面の水分測定装置に対応する方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単な構造の機器類を用いて、測定対象の水分に電解質が含有されている場合であっても水分の量をより高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態における水分測定装置の構成を示す図である。
【図2】図1の水分測定装置における測定部についての詳細な構成を示す図である。
【図3】図1の水分測定装置の等価回路としての共振プローブの回路を示す図である。
【図4】図1の水分測定装置についての測定の原理を説明する図である。
【図5】水分がない測定対象と測定部との間に厚さの異なる各テフロン(登録商標)のシートをそれぞれ挿入することにより、測定部位までの距離を各々異ならせた場合における、共振周波数を示すグラフである。
【図6】水分がある測定対象と測定部との間に厚さの異なる各テフロン(登録商標)のシートをそれぞれ挿入することにより、測定部位までの距離を各々異ならせた場合における、共振周波数を示すグラフである。
【図7】測定対象における時間の経過に伴う電気伝導度の変化を示す図である。
【図8】高周波分光法による水負荷試験を行った際に得られたスペクトルを示す図である。
【図9】負荷試験の経過時間と、スペクトルの吸収極大周波数との関係を示す図である。
【図10】差スペクトルのピーク周波数と強度変化を示す図である。
【図11】差スペクトルのピーク周波数及び強度の時間経過による変化を示す図である。
【図12】高周波スペクトルを解析した結果の一例を示す図である。
【図13】水負荷試験の解析結果を示す図である。
【図14】スペクトルから読み取った値と、最小自乗計算によって解析を行った結果の値とを比較する図である。
【図15】各手法のメリットについてまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る水分測定装置1の構成を示す図である。
水分測定装置1は、人の肌等を測定対象として、当該測定対象の水分量を測定すべく、発信部11と、受信部12と、制御/記録部13と、測定部14とを備えている。
【0013】
発信部11は、信号発生器(トラッキングジェネレータ)等で構成され、高周波の信号、より正確には、後述する制御/記録部13のスイープに応じて周波数を変化させた信号を発信する。
発信部11から出力された信号の電圧は、同軸線15を介して測定部14に印加される。このようにして、発信部11から測定部14に対して給電が行われる。
【0014】
受信部12は、発信部11から発信された高周波の信号を、測定部14を介して受信する。
【0015】
制御/記録部13は、スペクトルアナライザ等で構成され、発信部11から所定の周波数の信号が発信されるように制御する。なお、以下、このような制御を、図1の記載にあわせて「発信周波数制御」と呼ぶ。
制御/記録部13は、発信部11から発信された信号の周波数、及び受信部12により受信された信号の周波数をそれぞれ記録する。
制御/記録部13は、検波器として機能し、受信部12で受信された、高周波信号の電圧の不整合減衰(反射、吸収)について、電圧の周波数依存性から観測し、高周波スペクトルを解析する。
【0016】
測定部14は、発信部11と受信部12とを結合させる同軸線15の途中で接続されており、測定対象の水分量の測定を行うべく、当該測定対象に接触される。測定部14は、発信部11及び受信部12の各々と同軸線15を介して接続されるために、任意の形態を取ることができる。本実施形態で採用されている形態については、図2を参照して後述する。
【0017】
換言すると、同軸線15は、発信部11、測定部14、及び受信部12をその順番で接続する。
また、測定部14は、受信部12及び発信部11に同軸線15により接続されるために、測定部14の形状を自由に設定することができる。
【0018】
図2は、図1の水分測定装置1における測定部14の形態を示す図で、図2(a)は測定部14の平面図であり、図2(b)は測定部14の断面図である。
測定部14は、図2(a)及び(b)に示すように、筒形部141と、接触部142とを有する。
筒形部141は、筒形状の部材であり、同軸ケーブルが接続する接続部分を有する。
接触部142は、平面形状の部材であり、図2(a)に示す略正方形の面が、人の皮膚等の測定対象に接触する。本実施形態においては、接触部142は、測定部14よりも大きい測定対象を測定することを想定して、平面形状に形成されるが、形態はこれに限られない。
【0019】
測定部14のうち、図2(b)に示すハッチングで示される部分は、金属の部分である。また、ハッチング以外の部分は、テトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene,PTFE)の重合体で、フッ素原子と炭素原子のみからなるフッ素樹脂(フッ化炭素樹脂)、いわゆるテフロン(登録商標)である。
即ち、筒形部141の中央における金属の部分(ハッチングの部分)と、筒形部141の外周部及び接触部142の金属の部分(ハッチングの部分)とにより、2つの電極が構成される。
【0020】
以上説明したように、水分測定装置1は、非常に簡単な構造の機器類を用いて実現可能であることわかる。
さらに、水分測定装置1は、測定対象の水分に電解質が含有されている場合であっても水分の量をより高精度に測定することが可能である。そこで、以下、測定対象の水分に電解質が含有されている場合であっても水分の量をより高精度に測定することが可能となる、水分測定装置1の測定原理について、図3及び図4を適宜参照して説明する。
【0021】
図3は、水分測定装置1の等価回路としての共振プローブの回路図である。図3(a)は、電極となる測定部14が同軸線15に結合されていない場合の等価回路図であり、図3(b)は、電極となる測定部14を同軸線15に結合された場合の等価回路図である。
【0022】
同軸線15は、図3(a)に示すように、導線の有する固有抵抗R0、自己インダクタンスL0、及び心線−外皮線間に発生する容量C0がπ型に組み合わされ、任意の周波数fにおいて、一定のインピーダンスを示す。即ち、結合電極なしの共振ケーブルの場合である。さらに、この同軸線15に電極となる測定部14を組み込むことにより、図3(b)の破線で囲まれた回路が新たに形成される。この部分は、導線及び電極に使用した測定部14が有する自己インダクタンスLと、電極間容量Cとの直列回路となり、特定の周波数で共振する。
【0023】
このLC直列回路の共振周波数fRは、次の式(1)で示される。
【数1】
式(1)によれば、インダクタンスLは測定対象によらず一定であるので、共振周波数fRの変化は、主に容量Cの変化によるものであることがわかる。
【0024】
容量Cは、次の式(2)で表わされる。
【数2】
式(2)において、εrは測定対象の比誘電率であり、εOは真空の誘電率であり、Sは電極面積であり、lは電極間距離である。本実施形態では、εO,S,lはそれぞれ一定であるので、容量Cは、近似的に比誘電率εrのみの関数とみなすことができる。
【0025】
そこで、式(2)の関係を使って式(1)を置き換えると、次の式(3)の関係が得られる。
【数3】
式(3)において、Aは回路定数であり、測定対象によらず一定である。
式(3)から観測される共振周波数fRは、上記の近似の範囲で測定対象の比誘電率にεrに比例する。
【0026】
つまり、水分測定装置1は、測定対象の容量変化に起因する周波数の共振点(共振周波数fR)の変化に従って、測定対象の水分の測定を行う。
【0027】
図4は、水分測定装置1の測定の原理を説明する図であって、図4(a)は、共振周波数と水分量との関係を示すグラフであり、図4(b)は強度と水分量との関係を示すグラフである。
【0028】
図4(a)においては、縦軸は共振周波数fR(MHz)を示し、横軸は水分量(%)を示している。
図4(a)に、おいて、黒丸、白丸、黒三角、及び白三角の各々の印は、実測値を示している。
実測値から判断するに、共振周波数fRと水分量との関係は、水分量が高くなる程、共振周波数fRがほぼリニアに低くなる関係であることがわかる。
従って、水分測定装置1は、共振周波数fR以外の条件が同一の場合には、水分量が0のときの共振周波数fRを基準共振周波数fROとして、基準共振周波数fROに対する共振周波数fRのズレ量を判断し、当該ズレ量を用いることで、ある程度精度良く水分量を測定することができる。
【0029】
図4(b)において、縦軸は強度(dB)を示し、横軸は水分量(%)を示している。
強度は、次の式(4)で与えられる減衰量である。
【数4】
式(4)において、I(f)が強度(dB)であり、特定の周波数f(Hz)における極小を示している。Ioは、電極間が空気で満たされている場合、即ち測定部14が測定対象に接触していない場合の周波数fにおける検波電圧(受信部12に受信される信号の電圧)を示している。Iは、電極間が測定対象で満たされた場合、即ち測定部14が測定対象に接触している場合の周波数fにおける検波電圧を示している。
図4(b)に、おいて、黒丸、白丸、黒三角、及び白三角の各々の印は、実測値を示している。
実測値から判断するに、強度と水分量との関係は、水分量が高くなる程、強度がほぼリニアに大きくなる関係であることがわかる。
従って、水分測定装置1は、強度以外の条件が同一の場合には、強度を測定することによっても、ある程度精度良く水分量を測定することができる。
さらに、水分測定装置1は、測定対象から測定される共振周波数fRと強度との組み合わせを総合的に判断することで、測定対象の水分量をさらに高精度で測定することができる。
【0030】
水分測定装置1は、以上のような測定原理を用いているので、測定対象に電解質が包含される場合、例えば測定対象が人の肌の皮膚であり、当該皮膚に汗(電解質)が付着しているような場合であっても、従来の導電率法のように当該電解質の影響を受けることがほぼなくなる。その結果、従来の導電率法と比較して、より高精度な水分量の測定が可能になる。
さらに、水分測定装置1は、従来の導電率法による測定と比較して、水分量の測定をする箇所まで離間していても、水分量の測定をより高精度に測定することができる。即ち、水分測定装置1は、人の肌における真皮の水分量等、測定部14の接触面(角質層)よりも奥にある箇所の水分量であっても、より高精度に測定することができる。
このことについて、以下、図5及び図6を適宜参照して詳細に説明する。
【0031】
図5は、水分がない測定対象と測定部14との間に厚さの異なる各テフロン(登録商標)のシートをそれぞれ挿入することにより、測定部位までの距離を各々異ならせた場合における、共振周波数fRを示すグラフである。図5(a)は、周波数と強度との関係を示すグラフであり、図5(b)はテフロン(登録商標)のシートの厚さと周波数との関係を示すグラフである。
【0032】
図5(a)においては、縦軸は強度(dB)を示しており、横軸は周波数(MHz)を示している。
ここで、強度が最大(減衰量が最小)となっている周波数が、共振周波数fRになる。図5(a)に示すように、測定対象に水分が含有されない場合には、共振周波数fRは、測定部位までの距離の長短にほぼ影響を受けることなく、1500MHz付近に集中していることがわかる。
【0033】
このことは、図5(b)により顕著に示されている。図5(b)において、縦軸は共振周波数fR(MHz)を示し、横軸はテフロン(登録商標)のシートの厚さ(μm)、即ち測定部位までの距離(μm)を示している。
図5(b)に示すように、共振周波数fRは、1510MHz〜1540MHzの間に集中していることがわかる。
【0034】
このように、水分がない測定対象の場合には、測定部位までの距離が異なっても、ほぼ同一の共振周波数fRになっていること、即ち共振周波数fRに再現性があることがわかる。このことは、水分がない測定対象の共振周波数fRは、基準共振周波数fRoとして好適であることを意味している。
【0035】
図6は、一定の水分量を有する測定対象と測定部14との間に厚さの異なる各テフロン(登録商標)のシートをそれぞれ挿入することにより、測定部位までの距離を各々異ならせた場合における、共振周波数fRを示すグラフである。図6(a)は、周波数と強度との関係を示すグラフであり、図6(b)はテフロン(登録商標)のシートの厚さと周波数との関係を示すグラフである。
なお、図6(a)及び図6(b)のグラフの読み方は、図5(a)及び図6(b)のグラフの読み方と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0036】
図5に示した水分がない場合の共振周波数fR(=1525MHz付近)が、基準共振周波数fRoとして採用されるならば、当該基準共振周波数fRoに対する共振周波数fRのズレ量が大きくなる程、水分量が精度良く測定される。
換言すると、当該基準共振周波数fRoに対する共振周波数fRのズレ量が小さくなる程、水分量の測定の精度が悪化し、当該基準共振周波数fRoに対する共振周波数fRのズレ量が誤差の範囲内と区別できない程小さくなった段階で、水分量の測定が不可能になる。
図6によれば、水分量の測定が不可能になる限界は、測定部位までの距離が1000μm程度である。即ち、水分測定装置1は、測定部14から0μmから1000μm付近まで測定部位が離間していても、当該測定部位における水分量の測定ができる。
【0037】
以上説明したように、水分測定装置1は、次のようにして測定対象の水分量を測定することができる。なお、人の肌を測定対象として測定することを想定して以下の説明を行う。
まず、測定者等は、測定部14を測定対象である人の肌に接触させる。
次に、発信部11は、制御/記録部13からの発信周波数制御を受けて、所定の周波数の信号を発信する。受信部12は、当該信号を受信する。
制御/記録部13は、受信部12に受信された信号についての共振周波数を検出し、当該共振周波数に基づいて、測定対象(人の肌)の水分量を測定する。
ここで、制御/記録部13は、基準共振周波数fRoに対する共振周波数fRのズレ量に基づいて、前記水分量を測定することができる。また、制御/記録部13は、共振周波数における信号の強度に基づいて、水分量を測定することができる。さらにまた、制御/記録部13は、基準共振周波数fRoに対する共振周波数fRのズレ量及びその信号の強度の組み合わせに基づいて、水分量を測定することができる。
なお、このような水分量の測定手法を、以下「高周波分光法」と適宜呼ぶ。
【0038】
このように、本実施形態の水分測定装置1によれば、簡単な構造の計測機器類(本実施形態においては、制御/記録部13、発信部11及び受信部12)に接続された同軸線15に、簡単な構造の測定部14を直に接続するだけで、電解質(人の汗等)の存在によらず、水分量を高精度に測定することが可能になる。
【0039】
さらに、図4乃至図6を用いて上述したように、本実施形態の水分測定装置1は、少なくとも測定対象の0μm〜1000μmまでの深さまでは、水分量を測定することが可能である。0μm〜1000μmまでの深さは、人の肌の場合には、皮膚の表面から真皮層までに相当する深さである。この真皮層は、肌のみずみずしさや弾力等に深く関わっており、シミやシワ等のアンチエイジングを考えるうえでも、とても大事な役割を持っている。このため、真皮層の水分を測定できることは、肌の状態を判断の重要な要素となる。また、真皮層の水分を測定できるために、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患の判定にも用いることができる。水分測定装置1は、このような人の肌の状態を測定する装置として好適である。
【0040】
また、測定部14の形状を種々の形状に変更することができるので、様々なものを測定対象とすることができる。例えば、測定部14の測定部分を平面形状にすることにより、広い範囲の測定を行うことができ、また、先端が尖る形状にすることで、形状が複雑な測定対象の測定を行うことができる。
【0041】
以上説明した水分測定装置1により測定を行うことで、高周波分光法で測定される共振周波数の変化から、物質(皮膚等)中の水分量についての時系列での変化を検出することが、特に好適であることが明らかとなった。
【0042】
水分測定装置1による測定では、従来の計測法(皮膚表面の導電率測定法)と比較しても、水分以外の成分(電解質等)の影響がほとんどないことや、測定面から2mm程度までの深さの情報が検出可能であるといったメリットがあることも明らかとなった。
【0043】
このように、電解質の影響を受けず水分量の測定が可能になると、測定環境の設定が容易になる。従来の計測法では、電解質である発汗などの影響が強く出るため、室温や湿度のコントロールが不可欠であった。しかし、水分測定装置1の高周波分光法による測定方法では、室温や湿度等のコントロールが不要になると考えられる。
【0044】
また、水分測定装置1の高周波分光法による測定方法では、測定面から2mm程度までの深さの情報が検出可能であるため、例えば、皮膚を測定した場合には、より正確な皮膚水分の評価が可能となることが想定される。これは、水負荷試験などで皮膚表面に吸収された水が皮膚の表面からの蒸発と内部への拡散といった複数の経路で移動するため、表面のみの情報を利用する評価では、非常に短時間で水分が減少したように見えてしまうと考えられるからである。
【0045】
そこで人の皮膚に対する水負荷試験を、従来の計測法と新たに開発した水分測定装置1を用いた高周波分光法の双方で行い、結果の比較及び得られたデータの解析法などについて検討を行った。
以下、従来の計測法との比較も含めて、水分測定装置1を用いた高周波分光法により得られた値の解析方法等について、新たな知見を交えて説明する。
【0046】
図7は、従来の計測法による水負荷試験の結果であって、測定対象における時間の経過に伴う電気伝導度の推移を示す図である。縦軸はConductance:電気伝導度(μS)を示し、横軸はTime:時間(sec)を示す。
【0047】
従来の計測法では、図7に示すように、試験開始直後には非常に高い伝導率を示し、その後急激に減少するという結果が得られた。また、その後80秒以降は、導電率の変化はほとんど観測されなかった。即ち、従来の計測法では、負荷試験によって皮膚表面から吸収された水のほとんどが消失したという結果が得られることになる。しかしながら、水分の減少の度合いが急峻すぎて、単に皮膚の表面の水分量になっているか、或いは実態とは離れた結果になっていると思われる。
【0048】
これに対して、図8は、本発明が適用される水分測定装置1を用いた場合の、高周波分光法による水負荷試験の結果であって、当該水負荷試験により得られたスペクトルを示す図である。縦軸はIntensity:強度(dB)を示し、横軸はFrequency:周波数(MHz)を示す。
【0049】
水分測定装置1を用いた高周波分光法では、図8に示すように、水負荷試験により水を皮膚に吸収させることにより、スペクトルの共振周波数が一端低周波側にシフトし、その後、高周波側へ戻っていく様子がわかる。
【0050】
そこで、本発明者らは、図8の結果得られたスペクトルの吸収極大周波数を読み取り、負荷試験の経過時間に対して、プロットしたものを図9に示す。
【0051】
図9は、水負荷試験の経過時間における、スペクトルの吸収極大周波数の基準時に対する差分の推移を示す図である。縦軸スペクトルの吸収極大周波数の基準時に対する差分の絶対値|Δfrequency|(MHz)を示し、横軸はTime:時間(sec)を示す。
なお、|Δfrequency|(MHz)は、次式(5)によって求められる。
【数5】
ここで、ftは水負荷試験開始からt秒後に測定された吸収極大周波数であり、fnは負荷試験前(40秒前)に測定された吸収極大周波数である。
【0052】
図9に示すように、水分測定装置1を用いた高周波分光法では、水負荷試験開始の40秒後でも高い値を示し、測定値の変化も水負荷試験開始後120秒に測定値の変化も120秒後まで継続していることがわかる。
このことは、水負荷試験で皮膚表面から吸収された水が、従来の計測法では検出できない領域にも拡散し、従来の計測法の測定結果で想定されるよりも長時間にわたって皮膚に滞在している可能性があることを示している。
ただし、水分の減少の度合いは図7に示したものでも実際よりは急激である、即ち本来は緩やかな変化をすることが予想される。そこで、本発明人らは、水分測定装置1を用いた高周波分光法の測定結果について、より詳細な解析をし、その解析内容について検討した。
【0053】
図10は、差スペクトルのピーク周波数と強度変化を示す図である。縦軸はFrequency:共振周波数(MHz)を示し、Time:時間(sec)を示す。
【0054】
図10では、図8に示す水負荷試験開始前(−40s)の皮膚で得られたスペクトルを基準とし、当該基準のスペクトルに対する、図8に示す各経過時間における各スペクトルの差(差スペクトル)が示されている。
このように差スペクトルの表現形態を採用したことにより、元の共振周波数のピークより低周波数側では負の方向に、高周波側では正の方向に共振周波数のピークを示すスペクトルが得られた。
図10の結果では、図7や図9において見られる測定値の急激な変動はなく、滑らかな減衰を示している。本発明人らは、おそらく、この図10の結果が本来の皮膚の水分量変化を示しているものと判断し、このような図10の結果は、従来の計測法では検知できない深さまで測定対象とすることができる高周波分光法だからこそ得られたものと結論付けた。
即ち、図9も高周波分光法の結果であるにも関わらず、水負荷試験開始後40秒から80秒の箇所で急激な変化が見られたのは、共振周波数のピークトップが寄生振動のため2つに分裂しており、吸収極大周波数が真の共振周波数に一致していなかったためと考えられる。このようなスペクトル中に含まれる寄生振動が、差スペクトルを取ることによって除去され、滑らかな変化が得られるようになったと考えられる。
ここで、差スペクトルの低周波側のピークは、元のスペクトルの共振周波数とほぼ一致する(微分係数が0となる点としてほぼ一致する)ので、水分量を求めるための1つの指標とすることができる。
また、得られた差スペクトルの強度変化も、元のスペクトルと一致すればゼロとなるため、水分量を求めるための指標の1つとして利用できる可能性がある。
【0055】
[差スペクトルのピーク周波数追跡法]及び[差スペクトルの強度変化追跡法]
図11は、差スペクトルのピーク周波数及び強度の時間経過による変化を示す図である。縦軸はFrequency:共振周波数(MHz)及びΔIntensity:強度(dBmV)を示し、横軸はTime:時間(sec)を示す。また、「○:白抜き丸印」はfR(lower):低周波側の共振周波数のピークを示し、「△:白抜き三角印」はIntensity(lower):低周波側の強度のピークを示し、「●:黒丸印」はfR(higher):高周波側の共振周波数のピークを示し、「▲:黒三角印」はIntensity(higher):高周波側の強度のピークを示す。
【0056】
図11に示すように、低周波数側の共振周波数のピーク(○)は、時間経過と共に滑らかに変化する挙動を示した。これに対し高周波数側の共振周波数のピーク(●)は、周波数はほぼ一定値を示した。
高周波数側に観測される共振周波数のピークは、基本的に、基準とした水負荷試験開始前のスペクトルにおけるピーク位置に強く依存するため変動を示さなかった。
【0057】
これらの結果から、差スペクトルの低周波数側の吸収極大周波数(共振周波数のピーク)を追跡することで、水分量変化を測定することが可能であることがわかった。なお、水分測定装置1を用いた、高周波分光法による、水分量の時間推移についての測定手法のうち、このようにして差スペクトルの低周波数側の吸収極大周波数を追跡することで水分量変化を測定する手法を、以下、「差スペクトルのピーク周波数追跡法」と呼ぶ。
【0058】
一方で、強度変化については、図11に示すように、低周波数側及び高周波数側のピーク(△、▲)は、時間経過と共に滑らかに変化する挙動を示した。強度はスペクトルのズレの大きさに比例するため、低周波側と同様の傾向を示したと考えられる。
【0059】
これらの結果から、差スペクトルの強度変化(低周波数側でも高周波数側でも可能)を追跡することで、水分量変化を測定することが可能であることがわかった。なお、水分測定装置1を用いた高周波分光法による、水分量の時間推移についての測定手法のうち、このようにして差スペクトルの強度変化を追跡することで水分量変化を測定する手法を、以下、「差スペクトルの強度変化追跡法」と呼ぶ。
【0060】
ただし、差スペクトルのピーク周波数追跡法や強度変化追跡法では、水負荷試験開始前のスペクトルをリファレンスとしているため、皮膚の水分量が水負荷試験前に近づくに従いピーク強度が弱くなってしまうため、ノイズの影響などで測定精度が著しく低下する恐れがある。さらに、基準時の共振周波数、本例ではt=−40秒(水負荷試験開始前40秒)の共振周波数を決定することが困難であり、基準時と比較して、水負荷試験によりどの程度の水が増えたのか、どの程度の時間で元の値に戻るかなどについて知見を得ることが困難である。
そこで、スペクトルの詳細な解析を行うことにより、より正確な水分量変化の検出を行う方法について検討した。
【0061】
本発明人らは、図9に示した高周波分光法の測定結果とは、装置由来の周期的な電圧変動(1000MHz以降に見られるスペクトルについての周期的な乱れ)の影響を受け、共振周波数を正しく読み取りていない結果であると考えた。この周期的な電圧変動によりピークトップが2つに分裂し、真の共振周波数の読み取りが困難になっているためである。
そこで、本発明人らは、ピーク近傍の周期的な電圧変動の影響を受けていない部分のデータを抽出し、最小自乗計算によって本来の共振周波数を推定する解析法について検討を行った。
【0062】
[共振周波数推定法]
図12は、高周波スペクトルを解析した結果の一例を示す図である。縦軸はIntensity:強度(dB)を示し、横軸はFrequency:共振周波数(MHz)を示す。
【0063】
同図中、破線で示す部分は、元スペクトルの一部を利用し、二次関数によるフィッティングを行った部分である。これにより、スペクトルの吸収極大よりも低周波側にピークを示す解析結果が得られた。
本解析例は、水負荷試験開始前の皮膚の測定結果であり、解析によって得られた曲線(破線)は次式(6)により表わされる。
【数6】
ここで、「y」は強度であり、「x」は周波数である。
【0064】
共振周波数は得られた関数が極値を示す周波数であるので、dy/dx=0となるxについて求めたところ、x=1121MHzと求められた。元スペクトルから吸収極大の周波数を読み取ると、f=1144MHzであった。
【0065】
図13は、水負荷試験の解析結果を示す図である。図13は、水負荷試験開始後の経過時間ごとに得られた高周波分光スペクトルについて、図12と同様に最小自乗計算によって解析を行った結果を示した図であり、解析によって得られた共振周波数(即ち推定された共振周波数)及びスペクトルの吸収極大周波数についてまとめた図である。なお、「spectrum」はスペクトルから読み取った値を示し、「calculation」は最小自乗計算によって解析を行った結果の値を示す。
【0066】
スペクトルから読み取った値(spectrum)は、図13に示すように、水負荷試験開始後80秒以降はほぼ一定になってしまう。一方、最小自乗法による解析結果の値(calculation)では、水負荷試験開始後120秒までは変化が継続していることがわかる。
【0067】
また、読み取った周波数から周波数の変化量を求め、水負荷試験の時間経過に対してプロットしたところ、図14に示すような結果となった。
【0068】
図14は、スペクトルから読み取った値と、最小自乗計算によって解析を行った結果の値とを比較する図である。縦軸はスペクトルの吸収極大周波数の基準時に対する差分の絶対値|Δfrequency|(MHz)を示し、横軸はTime:時間(sec)を示す。また、「○」はspectrum:スペクトルから読み取った値を示し、「●」はcalculation:最小自乗法による解析結果の値を示す。
【0069】
図14に示すように、最小自乗法を用いた解析結果は、水負荷試験開始(0秒)から水負荷試験開始後120秒まで緩やかな減少曲線を描く結果となった。水負荷試験開始後120秒以降も|Δfrequency|は、0MHzには戻っておらず、皮膚の水分量が水負荷試験前よりも高い状態にあることを示している。
ここで、本試験では、スペクトルの本来の波形を予測して共振周波数を予測する手法としては、最小自乗法が採用されたが、特にこれに限定されず、近似曲線を求める手法等を適宜採用することができる。
なお、水分測定装置1を用いた高周波分光法による、水分量の時間推移についての測定手法のうち、このように、スペクトルの本来の波形を予測して共振周波数を予測し、予測された共振周波数に基づいて水分量の時間推移を測定する手法を、以下、「共振周波数推定法」と呼ぶ。
【0070】
従来の計測法による水負荷試験の結果は、皮膚の表面近傍の水分に強く依存する。従って、皮膚表面の水分が蒸発することによって、図9に示したように短時間で測定値が減少する結果になる。
これに対して水分測定装置1のよる高周波分光法を応用した皮膚水分測定法では、測定面である皮膚の表面から2mm程度までの水分量を検知するため、皮膚表面に存在する水のみならず、内部に浸透した水についても検出していると考えられる。このため、従来の計測法よりも長時間にわたって測定値の減少、即ち水分の減少過程が観測されたと言える。
【0071】
以上、水分測定装置1を用いた高周波分光法による、水分量の時間推移についての測定手法として、水負荷試験における高周波分光法による測定結果の解析に基づいて得られた3つの手法、即ち、差スペクトルのピーク周波数追跡法、差スペクトルの強度変化追跡法、及び共振周波数推定法について説明した。
【0072】
図15は、これらの3つの手法についてのメリットについてまとめた図である。
図15に示すように、いずれの解析法もメリットが考えられるが、いずれの手法を用いても、従来の計測法では検出できなかった緩やかな水分量についての減少傾向を検出できており、これまでとは異なった保湿能評価法として利用可能と言えるという知見を得た。
【符号の説明】
【0073】
1 水分測定装置
11 発信部
12 受信部
13 制御/記録部
14 測定部
15 同軸線
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単な構造の機器類を用いて、測定対象の水分に電解質が含有されている場合であっても水分の量をより高精度に測定することが可能な、水分測定装置及び水分測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、測定対象の電気伝導度を利用して水分の量を測定する手法(以下、「導電率法」と呼ぶ)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−24307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した特許文献1に開示の導電率法を適用して、例えば、人の皮膚の水分量が測定された場合、精度が悪化することがあった。人の汗等に含有される電解質が、電気伝導度に影響を与えてしまうためである。
【0005】
このため、測定対象の水分に電解質が含有されている場合であっても水分の量を精度良く測定することが要求されているが、このような要求に十分に応えることはできていない状況である。
また、このような要求に応える機器類を実現する場合には、測定対象が人の肌等になることを想定すると、可能な限り簡単な構造で機器類を構成することが望ましい。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、簡単な構造の機器類を用いて、測定対象の水分に電解質が含有されている場合であっても水分の量をより高精度に測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面の水分測定装置は、
所定の周波数の信号を発信する発信手段と、
前記発信手段と同軸線で結線され、水分を含有する測定対象に接触する2つの電極を有する測定手段と、
前記測定手段と同軸線で結線されると共に、前記発信手段で発信された前記信号を受信する受信手段と、
前記受信手段に受信された前記信号についての共振周波数を検出し、当該共振周波数に基づいて、前記測定対象の水分量を測定する水分量測定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の一側面の水分測定装置においては、所定の周波数の信号が発信手段から発信され、発信手段と同軸線で結線され、水分を含有する測定対象に接触する2つの電極を有する測定手段を介して、当該測定手段と同軸線で結線された受信手段に受信される。そして、受信手段に受信された信号についての共振周波数が検出され、当該共振周波数に基づいて、前記測定対象の水分量が測定される。
【0009】
本発明の一側面の水分測定方法は、上述の本発明の一側面の水分測定装置に対応する方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単な構造の機器類を用いて、測定対象の水分に電解質が含有されている場合であっても水分の量をより高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態における水分測定装置の構成を示す図である。
【図2】図1の水分測定装置における測定部についての詳細な構成を示す図である。
【図3】図1の水分測定装置の等価回路としての共振プローブの回路を示す図である。
【図4】図1の水分測定装置についての測定の原理を説明する図である。
【図5】水分がない測定対象と測定部との間に厚さの異なる各テフロン(登録商標)のシートをそれぞれ挿入することにより、測定部位までの距離を各々異ならせた場合における、共振周波数を示すグラフである。
【図6】水分がある測定対象と測定部との間に厚さの異なる各テフロン(登録商標)のシートをそれぞれ挿入することにより、測定部位までの距離を各々異ならせた場合における、共振周波数を示すグラフである。
【図7】測定対象における時間の経過に伴う電気伝導度の変化を示す図である。
【図8】高周波分光法による水負荷試験を行った際に得られたスペクトルを示す図である。
【図9】負荷試験の経過時間と、スペクトルの吸収極大周波数との関係を示す図である。
【図10】差スペクトルのピーク周波数と強度変化を示す図である。
【図11】差スペクトルのピーク周波数及び強度の時間経過による変化を示す図である。
【図12】高周波スペクトルを解析した結果の一例を示す図である。
【図13】水負荷試験の解析結果を示す図である。
【図14】スペクトルから読み取った値と、最小自乗計算によって解析を行った結果の値とを比較する図である。
【図15】各手法のメリットについてまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る水分測定装置1の構成を示す図である。
水分測定装置1は、人の肌等を測定対象として、当該測定対象の水分量を測定すべく、発信部11と、受信部12と、制御/記録部13と、測定部14とを備えている。
【0013】
発信部11は、信号発生器(トラッキングジェネレータ)等で構成され、高周波の信号、より正確には、後述する制御/記録部13のスイープに応じて周波数を変化させた信号を発信する。
発信部11から出力された信号の電圧は、同軸線15を介して測定部14に印加される。このようにして、発信部11から測定部14に対して給電が行われる。
【0014】
受信部12は、発信部11から発信された高周波の信号を、測定部14を介して受信する。
【0015】
制御/記録部13は、スペクトルアナライザ等で構成され、発信部11から所定の周波数の信号が発信されるように制御する。なお、以下、このような制御を、図1の記載にあわせて「発信周波数制御」と呼ぶ。
制御/記録部13は、発信部11から発信された信号の周波数、及び受信部12により受信された信号の周波数をそれぞれ記録する。
制御/記録部13は、検波器として機能し、受信部12で受信された、高周波信号の電圧の不整合減衰(反射、吸収)について、電圧の周波数依存性から観測し、高周波スペクトルを解析する。
【0016】
測定部14は、発信部11と受信部12とを結合させる同軸線15の途中で接続されており、測定対象の水分量の測定を行うべく、当該測定対象に接触される。測定部14は、発信部11及び受信部12の各々と同軸線15を介して接続されるために、任意の形態を取ることができる。本実施形態で採用されている形態については、図2を参照して後述する。
【0017】
換言すると、同軸線15は、発信部11、測定部14、及び受信部12をその順番で接続する。
また、測定部14は、受信部12及び発信部11に同軸線15により接続されるために、測定部14の形状を自由に設定することができる。
【0018】
図2は、図1の水分測定装置1における測定部14の形態を示す図で、図2(a)は測定部14の平面図であり、図2(b)は測定部14の断面図である。
測定部14は、図2(a)及び(b)に示すように、筒形部141と、接触部142とを有する。
筒形部141は、筒形状の部材であり、同軸ケーブルが接続する接続部分を有する。
接触部142は、平面形状の部材であり、図2(a)に示す略正方形の面が、人の皮膚等の測定対象に接触する。本実施形態においては、接触部142は、測定部14よりも大きい測定対象を測定することを想定して、平面形状に形成されるが、形態はこれに限られない。
【0019】
測定部14のうち、図2(b)に示すハッチングで示される部分は、金属の部分である。また、ハッチング以外の部分は、テトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene,PTFE)の重合体で、フッ素原子と炭素原子のみからなるフッ素樹脂(フッ化炭素樹脂)、いわゆるテフロン(登録商標)である。
即ち、筒形部141の中央における金属の部分(ハッチングの部分)と、筒形部141の外周部及び接触部142の金属の部分(ハッチングの部分)とにより、2つの電極が構成される。
【0020】
以上説明したように、水分測定装置1は、非常に簡単な構造の機器類を用いて実現可能であることわかる。
さらに、水分測定装置1は、測定対象の水分に電解質が含有されている場合であっても水分の量をより高精度に測定することが可能である。そこで、以下、測定対象の水分に電解質が含有されている場合であっても水分の量をより高精度に測定することが可能となる、水分測定装置1の測定原理について、図3及び図4を適宜参照して説明する。
【0021】
図3は、水分測定装置1の等価回路としての共振プローブの回路図である。図3(a)は、電極となる測定部14が同軸線15に結合されていない場合の等価回路図であり、図3(b)は、電極となる測定部14を同軸線15に結合された場合の等価回路図である。
【0022】
同軸線15は、図3(a)に示すように、導線の有する固有抵抗R0、自己インダクタンスL0、及び心線−外皮線間に発生する容量C0がπ型に組み合わされ、任意の周波数fにおいて、一定のインピーダンスを示す。即ち、結合電極なしの共振ケーブルの場合である。さらに、この同軸線15に電極となる測定部14を組み込むことにより、図3(b)の破線で囲まれた回路が新たに形成される。この部分は、導線及び電極に使用した測定部14が有する自己インダクタンスLと、電極間容量Cとの直列回路となり、特定の周波数で共振する。
【0023】
このLC直列回路の共振周波数fRは、次の式(1)で示される。
【数1】
式(1)によれば、インダクタンスLは測定対象によらず一定であるので、共振周波数fRの変化は、主に容量Cの変化によるものであることがわかる。
【0024】
容量Cは、次の式(2)で表わされる。
【数2】
式(2)において、εrは測定対象の比誘電率であり、εOは真空の誘電率であり、Sは電極面積であり、lは電極間距離である。本実施形態では、εO,S,lはそれぞれ一定であるので、容量Cは、近似的に比誘電率εrのみの関数とみなすことができる。
【0025】
そこで、式(2)の関係を使って式(1)を置き換えると、次の式(3)の関係が得られる。
【数3】
式(3)において、Aは回路定数であり、測定対象によらず一定である。
式(3)から観測される共振周波数fRは、上記の近似の範囲で測定対象の比誘電率にεrに比例する。
【0026】
つまり、水分測定装置1は、測定対象の容量変化に起因する周波数の共振点(共振周波数fR)の変化に従って、測定対象の水分の測定を行う。
【0027】
図4は、水分測定装置1の測定の原理を説明する図であって、図4(a)は、共振周波数と水分量との関係を示すグラフであり、図4(b)は強度と水分量との関係を示すグラフである。
【0028】
図4(a)においては、縦軸は共振周波数fR(MHz)を示し、横軸は水分量(%)を示している。
図4(a)に、おいて、黒丸、白丸、黒三角、及び白三角の各々の印は、実測値を示している。
実測値から判断するに、共振周波数fRと水分量との関係は、水分量が高くなる程、共振周波数fRがほぼリニアに低くなる関係であることがわかる。
従って、水分測定装置1は、共振周波数fR以外の条件が同一の場合には、水分量が0のときの共振周波数fRを基準共振周波数fROとして、基準共振周波数fROに対する共振周波数fRのズレ量を判断し、当該ズレ量を用いることで、ある程度精度良く水分量を測定することができる。
【0029】
図4(b)において、縦軸は強度(dB)を示し、横軸は水分量(%)を示している。
強度は、次の式(4)で与えられる減衰量である。
【数4】
式(4)において、I(f)が強度(dB)であり、特定の周波数f(Hz)における極小を示している。Ioは、電極間が空気で満たされている場合、即ち測定部14が測定対象に接触していない場合の周波数fにおける検波電圧(受信部12に受信される信号の電圧)を示している。Iは、電極間が測定対象で満たされた場合、即ち測定部14が測定対象に接触している場合の周波数fにおける検波電圧を示している。
図4(b)に、おいて、黒丸、白丸、黒三角、及び白三角の各々の印は、実測値を示している。
実測値から判断するに、強度と水分量との関係は、水分量が高くなる程、強度がほぼリニアに大きくなる関係であることがわかる。
従って、水分測定装置1は、強度以外の条件が同一の場合には、強度を測定することによっても、ある程度精度良く水分量を測定することができる。
さらに、水分測定装置1は、測定対象から測定される共振周波数fRと強度との組み合わせを総合的に判断することで、測定対象の水分量をさらに高精度で測定することができる。
【0030】
水分測定装置1は、以上のような測定原理を用いているので、測定対象に電解質が包含される場合、例えば測定対象が人の肌の皮膚であり、当該皮膚に汗(電解質)が付着しているような場合であっても、従来の導電率法のように当該電解質の影響を受けることがほぼなくなる。その結果、従来の導電率法と比較して、より高精度な水分量の測定が可能になる。
さらに、水分測定装置1は、従来の導電率法による測定と比較して、水分量の測定をする箇所まで離間していても、水分量の測定をより高精度に測定することができる。即ち、水分測定装置1は、人の肌における真皮の水分量等、測定部14の接触面(角質層)よりも奥にある箇所の水分量であっても、より高精度に測定することができる。
このことについて、以下、図5及び図6を適宜参照して詳細に説明する。
【0031】
図5は、水分がない測定対象と測定部14との間に厚さの異なる各テフロン(登録商標)のシートをそれぞれ挿入することにより、測定部位までの距離を各々異ならせた場合における、共振周波数fRを示すグラフである。図5(a)は、周波数と強度との関係を示すグラフであり、図5(b)はテフロン(登録商標)のシートの厚さと周波数との関係を示すグラフである。
【0032】
図5(a)においては、縦軸は強度(dB)を示しており、横軸は周波数(MHz)を示している。
ここで、強度が最大(減衰量が最小)となっている周波数が、共振周波数fRになる。図5(a)に示すように、測定対象に水分が含有されない場合には、共振周波数fRは、測定部位までの距離の長短にほぼ影響を受けることなく、1500MHz付近に集中していることがわかる。
【0033】
このことは、図5(b)により顕著に示されている。図5(b)において、縦軸は共振周波数fR(MHz)を示し、横軸はテフロン(登録商標)のシートの厚さ(μm)、即ち測定部位までの距離(μm)を示している。
図5(b)に示すように、共振周波数fRは、1510MHz〜1540MHzの間に集中していることがわかる。
【0034】
このように、水分がない測定対象の場合には、測定部位までの距離が異なっても、ほぼ同一の共振周波数fRになっていること、即ち共振周波数fRに再現性があることがわかる。このことは、水分がない測定対象の共振周波数fRは、基準共振周波数fRoとして好適であることを意味している。
【0035】
図6は、一定の水分量を有する測定対象と測定部14との間に厚さの異なる各テフロン(登録商標)のシートをそれぞれ挿入することにより、測定部位までの距離を各々異ならせた場合における、共振周波数fRを示すグラフである。図6(a)は、周波数と強度との関係を示すグラフであり、図6(b)はテフロン(登録商標)のシートの厚さと周波数との関係を示すグラフである。
なお、図6(a)及び図6(b)のグラフの読み方は、図5(a)及び図6(b)のグラフの読み方と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0036】
図5に示した水分がない場合の共振周波数fR(=1525MHz付近)が、基準共振周波数fRoとして採用されるならば、当該基準共振周波数fRoに対する共振周波数fRのズレ量が大きくなる程、水分量が精度良く測定される。
換言すると、当該基準共振周波数fRoに対する共振周波数fRのズレ量が小さくなる程、水分量の測定の精度が悪化し、当該基準共振周波数fRoに対する共振周波数fRのズレ量が誤差の範囲内と区別できない程小さくなった段階で、水分量の測定が不可能になる。
図6によれば、水分量の測定が不可能になる限界は、測定部位までの距離が1000μm程度である。即ち、水分測定装置1は、測定部14から0μmから1000μm付近まで測定部位が離間していても、当該測定部位における水分量の測定ができる。
【0037】
以上説明したように、水分測定装置1は、次のようにして測定対象の水分量を測定することができる。なお、人の肌を測定対象として測定することを想定して以下の説明を行う。
まず、測定者等は、測定部14を測定対象である人の肌に接触させる。
次に、発信部11は、制御/記録部13からの発信周波数制御を受けて、所定の周波数の信号を発信する。受信部12は、当該信号を受信する。
制御/記録部13は、受信部12に受信された信号についての共振周波数を検出し、当該共振周波数に基づいて、測定対象(人の肌)の水分量を測定する。
ここで、制御/記録部13は、基準共振周波数fRoに対する共振周波数fRのズレ量に基づいて、前記水分量を測定することができる。また、制御/記録部13は、共振周波数における信号の強度に基づいて、水分量を測定することができる。さらにまた、制御/記録部13は、基準共振周波数fRoに対する共振周波数fRのズレ量及びその信号の強度の組み合わせに基づいて、水分量を測定することができる。
なお、このような水分量の測定手法を、以下「高周波分光法」と適宜呼ぶ。
【0038】
このように、本実施形態の水分測定装置1によれば、簡単な構造の計測機器類(本実施形態においては、制御/記録部13、発信部11及び受信部12)に接続された同軸線15に、簡単な構造の測定部14を直に接続するだけで、電解質(人の汗等)の存在によらず、水分量を高精度に測定することが可能になる。
【0039】
さらに、図4乃至図6を用いて上述したように、本実施形態の水分測定装置1は、少なくとも測定対象の0μm〜1000μmまでの深さまでは、水分量を測定することが可能である。0μm〜1000μmまでの深さは、人の肌の場合には、皮膚の表面から真皮層までに相当する深さである。この真皮層は、肌のみずみずしさや弾力等に深く関わっており、シミやシワ等のアンチエイジングを考えるうえでも、とても大事な役割を持っている。このため、真皮層の水分を測定できることは、肌の状態を判断の重要な要素となる。また、真皮層の水分を測定できるために、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患の判定にも用いることができる。水分測定装置1は、このような人の肌の状態を測定する装置として好適である。
【0040】
また、測定部14の形状を種々の形状に変更することができるので、様々なものを測定対象とすることができる。例えば、測定部14の測定部分を平面形状にすることにより、広い範囲の測定を行うことができ、また、先端が尖る形状にすることで、形状が複雑な測定対象の測定を行うことができる。
【0041】
以上説明した水分測定装置1により測定を行うことで、高周波分光法で測定される共振周波数の変化から、物質(皮膚等)中の水分量についての時系列での変化を検出することが、特に好適であることが明らかとなった。
【0042】
水分測定装置1による測定では、従来の計測法(皮膚表面の導電率測定法)と比較しても、水分以外の成分(電解質等)の影響がほとんどないことや、測定面から2mm程度までの深さの情報が検出可能であるといったメリットがあることも明らかとなった。
【0043】
このように、電解質の影響を受けず水分量の測定が可能になると、測定環境の設定が容易になる。従来の計測法では、電解質である発汗などの影響が強く出るため、室温や湿度のコントロールが不可欠であった。しかし、水分測定装置1の高周波分光法による測定方法では、室温や湿度等のコントロールが不要になると考えられる。
【0044】
また、水分測定装置1の高周波分光法による測定方法では、測定面から2mm程度までの深さの情報が検出可能であるため、例えば、皮膚を測定した場合には、より正確な皮膚水分の評価が可能となることが想定される。これは、水負荷試験などで皮膚表面に吸収された水が皮膚の表面からの蒸発と内部への拡散といった複数の経路で移動するため、表面のみの情報を利用する評価では、非常に短時間で水分が減少したように見えてしまうと考えられるからである。
【0045】
そこで人の皮膚に対する水負荷試験を、従来の計測法と新たに開発した水分測定装置1を用いた高周波分光法の双方で行い、結果の比較及び得られたデータの解析法などについて検討を行った。
以下、従来の計測法との比較も含めて、水分測定装置1を用いた高周波分光法により得られた値の解析方法等について、新たな知見を交えて説明する。
【0046】
図7は、従来の計測法による水負荷試験の結果であって、測定対象における時間の経過に伴う電気伝導度の推移を示す図である。縦軸はConductance:電気伝導度(μS)を示し、横軸はTime:時間(sec)を示す。
【0047】
従来の計測法では、図7に示すように、試験開始直後には非常に高い伝導率を示し、その後急激に減少するという結果が得られた。また、その後80秒以降は、導電率の変化はほとんど観測されなかった。即ち、従来の計測法では、負荷試験によって皮膚表面から吸収された水のほとんどが消失したという結果が得られることになる。しかしながら、水分の減少の度合いが急峻すぎて、単に皮膚の表面の水分量になっているか、或いは実態とは離れた結果になっていると思われる。
【0048】
これに対して、図8は、本発明が適用される水分測定装置1を用いた場合の、高周波分光法による水負荷試験の結果であって、当該水負荷試験により得られたスペクトルを示す図である。縦軸はIntensity:強度(dB)を示し、横軸はFrequency:周波数(MHz)を示す。
【0049】
水分測定装置1を用いた高周波分光法では、図8に示すように、水負荷試験により水を皮膚に吸収させることにより、スペクトルの共振周波数が一端低周波側にシフトし、その後、高周波側へ戻っていく様子がわかる。
【0050】
そこで、本発明者らは、図8の結果得られたスペクトルの吸収極大周波数を読み取り、負荷試験の経過時間に対して、プロットしたものを図9に示す。
【0051】
図9は、水負荷試験の経過時間における、スペクトルの吸収極大周波数の基準時に対する差分の推移を示す図である。縦軸スペクトルの吸収極大周波数の基準時に対する差分の絶対値|Δfrequency|(MHz)を示し、横軸はTime:時間(sec)を示す。
なお、|Δfrequency|(MHz)は、次式(5)によって求められる。
【数5】
ここで、ftは水負荷試験開始からt秒後に測定された吸収極大周波数であり、fnは負荷試験前(40秒前)に測定された吸収極大周波数である。
【0052】
図9に示すように、水分測定装置1を用いた高周波分光法では、水負荷試験開始の40秒後でも高い値を示し、測定値の変化も水負荷試験開始後120秒に測定値の変化も120秒後まで継続していることがわかる。
このことは、水負荷試験で皮膚表面から吸収された水が、従来の計測法では検出できない領域にも拡散し、従来の計測法の測定結果で想定されるよりも長時間にわたって皮膚に滞在している可能性があることを示している。
ただし、水分の減少の度合いは図7に示したものでも実際よりは急激である、即ち本来は緩やかな変化をすることが予想される。そこで、本発明人らは、水分測定装置1を用いた高周波分光法の測定結果について、より詳細な解析をし、その解析内容について検討した。
【0053】
図10は、差スペクトルのピーク周波数と強度変化を示す図である。縦軸はFrequency:共振周波数(MHz)を示し、Time:時間(sec)を示す。
【0054】
図10では、図8に示す水負荷試験開始前(−40s)の皮膚で得られたスペクトルを基準とし、当該基準のスペクトルに対する、図8に示す各経過時間における各スペクトルの差(差スペクトル)が示されている。
このように差スペクトルの表現形態を採用したことにより、元の共振周波数のピークより低周波数側では負の方向に、高周波側では正の方向に共振周波数のピークを示すスペクトルが得られた。
図10の結果では、図7や図9において見られる測定値の急激な変動はなく、滑らかな減衰を示している。本発明人らは、おそらく、この図10の結果が本来の皮膚の水分量変化を示しているものと判断し、このような図10の結果は、従来の計測法では検知できない深さまで測定対象とすることができる高周波分光法だからこそ得られたものと結論付けた。
即ち、図9も高周波分光法の結果であるにも関わらず、水負荷試験開始後40秒から80秒の箇所で急激な変化が見られたのは、共振周波数のピークトップが寄生振動のため2つに分裂しており、吸収極大周波数が真の共振周波数に一致していなかったためと考えられる。このようなスペクトル中に含まれる寄生振動が、差スペクトルを取ることによって除去され、滑らかな変化が得られるようになったと考えられる。
ここで、差スペクトルの低周波側のピークは、元のスペクトルの共振周波数とほぼ一致する(微分係数が0となる点としてほぼ一致する)ので、水分量を求めるための1つの指標とすることができる。
また、得られた差スペクトルの強度変化も、元のスペクトルと一致すればゼロとなるため、水分量を求めるための指標の1つとして利用できる可能性がある。
【0055】
[差スペクトルのピーク周波数追跡法]及び[差スペクトルの強度変化追跡法]
図11は、差スペクトルのピーク周波数及び強度の時間経過による変化を示す図である。縦軸はFrequency:共振周波数(MHz)及びΔIntensity:強度(dBmV)を示し、横軸はTime:時間(sec)を示す。また、「○:白抜き丸印」はfR(lower):低周波側の共振周波数のピークを示し、「△:白抜き三角印」はIntensity(lower):低周波側の強度のピークを示し、「●:黒丸印」はfR(higher):高周波側の共振周波数のピークを示し、「▲:黒三角印」はIntensity(higher):高周波側の強度のピークを示す。
【0056】
図11に示すように、低周波数側の共振周波数のピーク(○)は、時間経過と共に滑らかに変化する挙動を示した。これに対し高周波数側の共振周波数のピーク(●)は、周波数はほぼ一定値を示した。
高周波数側に観測される共振周波数のピークは、基本的に、基準とした水負荷試験開始前のスペクトルにおけるピーク位置に強く依存するため変動を示さなかった。
【0057】
これらの結果から、差スペクトルの低周波数側の吸収極大周波数(共振周波数のピーク)を追跡することで、水分量変化を測定することが可能であることがわかった。なお、水分測定装置1を用いた、高周波分光法による、水分量の時間推移についての測定手法のうち、このようにして差スペクトルの低周波数側の吸収極大周波数を追跡することで水分量変化を測定する手法を、以下、「差スペクトルのピーク周波数追跡法」と呼ぶ。
【0058】
一方で、強度変化については、図11に示すように、低周波数側及び高周波数側のピーク(△、▲)は、時間経過と共に滑らかに変化する挙動を示した。強度はスペクトルのズレの大きさに比例するため、低周波側と同様の傾向を示したと考えられる。
【0059】
これらの結果から、差スペクトルの強度変化(低周波数側でも高周波数側でも可能)を追跡することで、水分量変化を測定することが可能であることがわかった。なお、水分測定装置1を用いた高周波分光法による、水分量の時間推移についての測定手法のうち、このようにして差スペクトルの強度変化を追跡することで水分量変化を測定する手法を、以下、「差スペクトルの強度変化追跡法」と呼ぶ。
【0060】
ただし、差スペクトルのピーク周波数追跡法や強度変化追跡法では、水負荷試験開始前のスペクトルをリファレンスとしているため、皮膚の水分量が水負荷試験前に近づくに従いピーク強度が弱くなってしまうため、ノイズの影響などで測定精度が著しく低下する恐れがある。さらに、基準時の共振周波数、本例ではt=−40秒(水負荷試験開始前40秒)の共振周波数を決定することが困難であり、基準時と比較して、水負荷試験によりどの程度の水が増えたのか、どの程度の時間で元の値に戻るかなどについて知見を得ることが困難である。
そこで、スペクトルの詳細な解析を行うことにより、より正確な水分量変化の検出を行う方法について検討した。
【0061】
本発明人らは、図9に示した高周波分光法の測定結果とは、装置由来の周期的な電圧変動(1000MHz以降に見られるスペクトルについての周期的な乱れ)の影響を受け、共振周波数を正しく読み取りていない結果であると考えた。この周期的な電圧変動によりピークトップが2つに分裂し、真の共振周波数の読み取りが困難になっているためである。
そこで、本発明人らは、ピーク近傍の周期的な電圧変動の影響を受けていない部分のデータを抽出し、最小自乗計算によって本来の共振周波数を推定する解析法について検討を行った。
【0062】
[共振周波数推定法]
図12は、高周波スペクトルを解析した結果の一例を示す図である。縦軸はIntensity:強度(dB)を示し、横軸はFrequency:共振周波数(MHz)を示す。
【0063】
同図中、破線で示す部分は、元スペクトルの一部を利用し、二次関数によるフィッティングを行った部分である。これにより、スペクトルの吸収極大よりも低周波側にピークを示す解析結果が得られた。
本解析例は、水負荷試験開始前の皮膚の測定結果であり、解析によって得られた曲線(破線)は次式(6)により表わされる。
【数6】
ここで、「y」は強度であり、「x」は周波数である。
【0064】
共振周波数は得られた関数が極値を示す周波数であるので、dy/dx=0となるxについて求めたところ、x=1121MHzと求められた。元スペクトルから吸収極大の周波数を読み取ると、f=1144MHzであった。
【0065】
図13は、水負荷試験の解析結果を示す図である。図13は、水負荷試験開始後の経過時間ごとに得られた高周波分光スペクトルについて、図12と同様に最小自乗計算によって解析を行った結果を示した図であり、解析によって得られた共振周波数(即ち推定された共振周波数)及びスペクトルの吸収極大周波数についてまとめた図である。なお、「spectrum」はスペクトルから読み取った値を示し、「calculation」は最小自乗計算によって解析を行った結果の値を示す。
【0066】
スペクトルから読み取った値(spectrum)は、図13に示すように、水負荷試験開始後80秒以降はほぼ一定になってしまう。一方、最小自乗法による解析結果の値(calculation)では、水負荷試験開始後120秒までは変化が継続していることがわかる。
【0067】
また、読み取った周波数から周波数の変化量を求め、水負荷試験の時間経過に対してプロットしたところ、図14に示すような結果となった。
【0068】
図14は、スペクトルから読み取った値と、最小自乗計算によって解析を行った結果の値とを比較する図である。縦軸はスペクトルの吸収極大周波数の基準時に対する差分の絶対値|Δfrequency|(MHz)を示し、横軸はTime:時間(sec)を示す。また、「○」はspectrum:スペクトルから読み取った値を示し、「●」はcalculation:最小自乗法による解析結果の値を示す。
【0069】
図14に示すように、最小自乗法を用いた解析結果は、水負荷試験開始(0秒)から水負荷試験開始後120秒まで緩やかな減少曲線を描く結果となった。水負荷試験開始後120秒以降も|Δfrequency|は、0MHzには戻っておらず、皮膚の水分量が水負荷試験前よりも高い状態にあることを示している。
ここで、本試験では、スペクトルの本来の波形を予測して共振周波数を予測する手法としては、最小自乗法が採用されたが、特にこれに限定されず、近似曲線を求める手法等を適宜採用することができる。
なお、水分測定装置1を用いた高周波分光法による、水分量の時間推移についての測定手法のうち、このように、スペクトルの本来の波形を予測して共振周波数を予測し、予測された共振周波数に基づいて水分量の時間推移を測定する手法を、以下、「共振周波数推定法」と呼ぶ。
【0070】
従来の計測法による水負荷試験の結果は、皮膚の表面近傍の水分に強く依存する。従って、皮膚表面の水分が蒸発することによって、図9に示したように短時間で測定値が減少する結果になる。
これに対して水分測定装置1のよる高周波分光法を応用した皮膚水分測定法では、測定面である皮膚の表面から2mm程度までの水分量を検知するため、皮膚表面に存在する水のみならず、内部に浸透した水についても検出していると考えられる。このため、従来の計測法よりも長時間にわたって測定値の減少、即ち水分の減少過程が観測されたと言える。
【0071】
以上、水分測定装置1を用いた高周波分光法による、水分量の時間推移についての測定手法として、水負荷試験における高周波分光法による測定結果の解析に基づいて得られた3つの手法、即ち、差スペクトルのピーク周波数追跡法、差スペクトルの強度変化追跡法、及び共振周波数推定法について説明した。
【0072】
図15は、これらの3つの手法についてのメリットについてまとめた図である。
図15に示すように、いずれの解析法もメリットが考えられるが、いずれの手法を用いても、従来の計測法では検出できなかった緩やかな水分量についての減少傾向を検出できており、これまでとは異なった保湿能評価法として利用可能と言えるという知見を得た。
【符号の説明】
【0073】
1 水分測定装置
11 発信部
12 受信部
13 制御/記録部
14 測定部
15 同軸線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数の信号を発信する発信手段と、
前記発信手段と同軸線で結線され、水分を含有する測定対象に接触する2つの電極を有する測定手段と、
前記測定手段と同軸線で結線されると共に、前記発信手段で発信された前記信号を受信する受信手段と、
前記受信手段に受信された前記信号についての共振周波数を検出し、当該共振周波数に基づいて、前記測定対象の水分量を測定する水分量測定手段と、
を備えることを特徴とする水分測定装置。
【請求項2】
前記水分量測定手段は、基準となる周波数に対する前記共振周波数のズレ量に基づいて、前記水分量を測定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の水分測定装置。
【請求項3】
前記水分量測定手段は、前記共振周波数における信号の強度に基づいて、前記水分量を測定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水分測定装置。
【請求項4】
前記測定手段の前記測定対象への接触部位が平板形状に形成される、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水分測定装置。
【請求項5】
所定の周波数の信号を発信する発信手段と、
前記発信手段と同軸線で結線され、水分を含有する測定対象に接触する2つの電極を有する測定手段と、
前記測定手段と同軸線で結線されると共に、前記発信手段で発信された前記信号を受信する受信手段と、
を備える水分測定装置を用いた水分測定方法であって、
前記水分測定装置の前記受信手段に受信された前記信号についての共振周波数を検出し、当該共振周波数に基づいて、前記測定対象の水分量を測定する、
ことを特徴とする水分測定方法。
【請求項1】
所定の周波数の信号を発信する発信手段と、
前記発信手段と同軸線で結線され、水分を含有する測定対象に接触する2つの電極を有する測定手段と、
前記測定手段と同軸線で結線されると共に、前記発信手段で発信された前記信号を受信する受信手段と、
前記受信手段に受信された前記信号についての共振周波数を検出し、当該共振周波数に基づいて、前記測定対象の水分量を測定する水分量測定手段と、
を備えることを特徴とする水分測定装置。
【請求項2】
前記水分量測定手段は、基準となる周波数に対する前記共振周波数のズレ量に基づいて、前記水分量を測定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の水分測定装置。
【請求項3】
前記水分量測定手段は、前記共振周波数における信号の強度に基づいて、前記水分量を測定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水分測定装置。
【請求項4】
前記測定手段の前記測定対象への接触部位が平板形状に形成される、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水分測定装置。
【請求項5】
所定の周波数の信号を発信する発信手段と、
前記発信手段と同軸線で結線され、水分を含有する測定対象に接触する2つの電極を有する測定手段と、
前記測定手段と同軸線で結線されると共に、前記発信手段で発信された前記信号を受信する受信手段と、
を備える水分測定装置を用いた水分測定方法であって、
前記水分測定装置の前記受信手段に受信された前記信号についての共振周波数を検出し、当該共振周波数に基づいて、前記測定対象の水分量を測定する、
ことを特徴とする水分測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−249769(P2012−249769A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123818(P2011−123818)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】
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