説明

水分解用半導体光電極

【課題】太陽光により水を分解することが可能な、光触媒と太陽電池を重ね合わせた構造の半導体光電極を提供する。
【解決手段】水分解用半導体光電極を、受光面側から、光触媒膜、透明導電膜、表裏面間を電気的に接続するための電極を備えた透明基板、透明導電膜、電解質溶液、色素担持した酸化チタン層、金属基板、および水素発生用触媒層で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光により水を水素と酸素に分解する水分解用半導体光電極に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化を防止するために温室効果ガスの排出量削減が求められており、この施策の一つとして、風力および太陽光などのクリーンエネルギーの導入が推進されている。また、水素を主要なエネルギー源と想定した水素社会実現に向け、燃料電池、水素製造技術、水素貯蔵・輸送技術などが、現在活発に研究されている。
【0003】
水素は、現状、石炭、石油や天然ガスなどの化石燃料を原料として製造することが出来るが、将来的には、水、バイオマスなどの非化石燃料とクリーンエネルギーを用いた水素製造技術が望まれている。
【0004】
ところで、太陽光などの光を受光して光起電力を発生し、その光起電力により電気化学反応を引き起こす半導体光触媒として、二酸化チタン(TiO2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)などの金属酸化物半導体が知られている。水中に白金電極と二酸化チタン電極とを配置し、該二酸化チタン電極に紫外線を照射すると、水を水素と酸素に分解できることが知られている。
【0005】
水の電気分解が可能で、太陽光を充分利用できる半導体光触媒や半導体光電極の条件としては、水の電解電圧(理論値1.23V)以上の光起電力を有すること、すなわち伝導体のエネルギー準位が水素発生電位よりもマイナスであり、かつ価電子帯のエネルギー準位が酸素発生電位よりプラスであること、および半導体光触媒や半導体光電極自身が電解液中で光溶解を起こさない化学的安定性を有することなどが必要である。
【0006】
代表的な光触媒である二酸化チタンは、エネルギーバンドギャップが約3.2eVと大きく水分解に必要な電位条件を満たすので、水の分解が可能で、電解液中で溶解しないという長所があるが、太陽光スペクトルの約380nmより長い波長の光に対して光触媒として機能せず光電変換効率が極めて低いという問題がある。よって、太陽光を利用して光触媒作用による化学反応を行う場合、太陽光のごく一部しか利用できず、エネルギー変換効率は極めて低くなってしまう。
【0007】
エネルギーバンドギャップの小さい材料、例えば酸化タングステンでは約2.7eV、三酸化二鉄では約2.3eV、を用いた場合、酸化タングステンでは波長約460nm以下の光を、三酸化二鉄では波長約540nm以下の光を吸収することができる。しかし、これらの材料の伝導体のエネルギー準位は水素発生電位よりもプラスであり、バイアスなしでは水素を発生することはできない。
【0008】
そこで、特表2003−504799号公報(特許文献1)または特表2004−504934号公報(特許文献2)に記載されているように、電解質水溶液に浸漬された光触媒と色素増感型太陽電池を積層し、電気的に接続したタンデムセルが知られている。このタンデムセルの概略を、図8を用いて説明する。まず、光触媒となる酸化物膜3では紫外から青または緑色部分の太陽光を吸収して電子と正孔を生じる。酸化物膜3の裏面に重ね合わされた色素増感型太陽電池では緑または黄色から赤色部分の太陽光を吸収して光起電力を生じる。光触媒となる酸化物膜3と色素増感型太陽電池の対極8を電気的接続し、色素増感型太陽電池のTiO2膜6と水素発生用触媒カソード10を電気的接続5することにより、色素太陽電池の起電力がバイアスとして機能し、電子のエネルギー準位を水素発生電位よりもマイナスに押し上げ、水素を発生させることができる。
【特許文献1】特表2003−504799号公報
【特許文献2】特表2004−504934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記のタンデムセルの構造では光触媒と色素増感型太陽電池との間をリード線などで配線しなければならず、モジュールにする場合煩雑である。
また、光触媒を大面積化する場合、透明導電膜のシート抵抗が約10Ω/□と高く、積層する色素増感型太陽電池の面積も大きくなるため直列抵抗が増加し、曲線因子を低下させてしまう。
また、一般的な色素増感型太陽電池の動作電圧は約0.6V付近であり、光触媒の材料物性によっては水素発生に必要なバイアス電圧が不足するおそれがある。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、水から水素と酸素を生成するのに適した、光触媒と太陽電池を重ね合わせた構造の水分解用半導体光電極を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、受光面側から、光触媒膜と、透明導電膜と、透明基板/透明導電膜/電荷輸送層/色素担持させた半導体層/金属基板からなる太陽電池と、水素発生用触媒層とを少なくとも備えてなり、該透明基板に、透明基板の表裏面の透明導電膜を電気的に接続するための電極が埋設されてなる水分解用半導体光電極である。
本発明はまた、受光面側が透明な筐体中に、上記の水分解用半導体電極と電解質水溶液とを有してなり、該筐体が、酸素取り出し口と水素取り出し口とを有する水分解装置でもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水分解用半導体光電極によれば、透明基板の表面と裏面の間を電気的に導通させるための電極を備え、かつ色素増感型太陽電池の色素担持した半導体層を金属基板上に形成し、重ね合わせることにより、リード線などの外部配線が必要なく、モジュール化が容易である。
また、光触媒膜を短冊状にし、その裏面に太陽電池を形成するため、基板の大面積化が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の水分解用半導体電極は、受光面側から、光触媒膜、透明導電膜、透明基板、透明導電膜、電荷輸送層、色素担持した半導体層、金属基板、および水素発生用触媒層を少なくとも備えてなる。このうち、透明基板、透明導電膜、電荷輸送層、色素担持した半導体層および金属基板は、色素増感型太陽電池と称される。
上記の水分解用半導体電極において、太陽電池は1つまたは複数の太陽電池セルからなるものであってよい。
【0014】
本発明の水分解用半導体電極の好ましい形態の一例を、図3および図4に示すが、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【0015】
まず、透明基板15に、透明基板の表裏面の透明導電膜を電気的に接続するための電極を埋設する(図3(a))。
透明基板としては、通常、色素増感型太陽電池に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、ガラス基板、プラスチック基板などが挙げられ、透明性の高い基板が好ましい点で特にガラス基板が好ましい。
透明基板の厚さは、太陽電池を構造的に支持し得る程度であればよく、例えば、0.1〜5mm程度である。
また、透明基板の大きさは、水分解用半導体電極として用いるのに適当な大きさであればよく、例えば縦100〜500mm、横100〜500mmが好ましい。
【0016】
透明基板に電極を形成する方法としては、図3(a)のように貫通孔16を形成し、ここに電極形成材料17を充填して焼成する形態であってもよいし、電極形成材料を予め焼成して成形した後に、貫通孔16に埋め込んでもよい。
孔の大きさは、直径0.1〜1mm程度が好ましい。また、孔の数は、1個であっても複数であってもよいが、太陽電池セル1つ当たり1個以上であるのが好ましく、より好ましくは太陽電池セル1つ当たり2〜4個である。
【0017】
電極形成材料としては、特に限定されないが、例えばAg、Auが挙げられ、特にAgが好ましい。
【0018】
次に、上記の透明基板の両面に透明導電膜19を形成する(図3(b))。透明導電膜は、通常、色素増感型太陽電池に使用されるものであれば特に限定されるものではなく、例えばITO(In23−SnO2)膜、FドープSnO2膜などが挙げられる。透明基板上に透明導電膜を形成する方法としては、材料となる成分の真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法などの気相法、ゾルゲル法によるコーティング法などの公知の方法が挙げられる。透明導電膜の膜厚は、0.1〜0.5μm程度が好ましい。
【0019】
上記の透明基板上に形成した透明導電膜のうちの一方に、光触媒膜18を形成する(図3(c))。
光触媒膜を構成する光触媒は、公知の光触媒であれば特に限定されないが、酸化チタン、酸化タングステンおよび三酸化二鉄からなる群より選択されるものが好ましい。酸化チタンとしては、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、無定形酸化チタン、メタチタン酸、オルソチタン酸などの種々の酸化チタン、含酸化チタン複合体などが挙げられるが、光触媒膜中に酸素欠陥を有し、波長500nm以下の光を吸収することができる点で、アナターゼ+ルチル型混在酸化チタン膜が好ましい。
三酸化二鉄としては、α型などが挙げられる。
【0020】
光触媒膜の膜厚は、0.5〜1.5μmが好ましい。
光触媒膜を形成する方法としては特に限定されないが、高周波スパッタリング法、ゾルゲル法、化学気相蒸着(CVD)法などが挙げられる。
【0021】
次に、透明基板15上の光触媒膜18と透明導電膜19を、形成する太陽電池セルの数に応じて複数領域に分離することができる(図3(d))。分離する方法としては、レーザーによるスクライブにより光触媒層18と透明導電膜19とを除去する方法が挙げられる。
【0022】
透明基板15の光触媒膜を形成したのと反対側の透明導電膜19も、形成する太陽電池セルの数に応じて複数領域に分離することができる(図3(d))。分離する方法としては、レーザーによるスクライブにより透明導電膜19を除去する方法が挙げられる。
【0023】
上記の光触媒膜を形成したのと反対側の透明導電膜19に形成したスクライブライン21のうち、全部または一部に封止材を設けてもよい。封止材としては、太陽電池を構成する材料が外に漏れ出さないように色素増感太陽電池をシールできるものであれば、特に限定されない。例えば、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0024】
次いで、上記の光触媒膜を形成したのと反対側の透明導電膜19に、対向電極を形成することができる(図3(e))。対向電極の材料としては、通常、太陽電池の対向電極として用いられるものであれば特に限定されず、白金(Pt)が好ましい。
対向電極を形成する方法としては特に限定されず、スパッタリング法により蒸着させる方法が挙げられる。対向電極であるPtは、点状に蒸着させることが好ましいが、上記のようにスクライブラインのうちの全部または一部に熱硬化性樹脂を印刷した場合は、熱硬化性樹脂の上面と側面にもPtを蒸着させることが好ましい。
【0025】
次いで、上記の透明基板15と同じ大きさの金属基板25に、水素発生用触媒層26を形成する。
上記の金属基板25としては、ステンレス、Ti、Ptなどが挙げられ、特にステンレス基板が好ましい。また、金属基板の厚さは、0.1〜1mmが好ましい。
【0026】
水素発生用触媒層26としては、公知の水素発生用触媒を用いて形成することができ、PtまたはNiMoを用いるのが好ましい。水素発生用触媒層を形成する方法としては、材料となる成分の真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法などの気相法、ゾルゲル法によるコーティング法などが挙げられる。
【0027】
また、上記の水素発生用触媒層26を形成したのと反対側の金属基板25の表面に、色素増感型太陽電池の発電層となる、色素担持させた半導体層27を形成する。色素担持させた半導体層を構成する半導体としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウムなどの公知の半導体が挙げられ、これらの半導体は2種類以上を混合して用いることもできる。これらの中でも、光電変換効率、安定性、安全性の点から酸化チタンが特に好ましい。このような酸化チタンとしては、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、無定形酸化チタン、メタチタン酸、オルソチタン酸などの種々の酸化チタン、含酸化チタン複合体などが挙げられるが、これらはいずれであってもよい。
【0028】
半導体層27は、次のようにして金属基板25上に形成することができる。
まず、材料となる半導体微粒子を、高分子材料などの有機化合物と共に、分散剤、有機溶媒、水などに加え、分散させて懸濁液を調製する。得られた懸濁液を、ドクターブレード法、スキージ法、スピンコート法、スクリーン印刷法など公知の方法により、金属基板25上に塗布する。
【0029】
その後、得られた塗膜を乾燥・焼成することにより、半導体層を得る。
乾燥・焼成においては、使用する金属基板や半導体微粒子の種類により、温度、時間、雰囲気などの条件を適宜調整する必要がある。焼成は、例えば、大気雰囲気下また不活性ガス雰囲気下、50〜800℃程度の温度で、10秒〜12時間程度で行うことができる。この乾燥および焼成は、単一の温度で1回または温度を変化させて2回以上行うことができる。
半導体層の膜厚は、特に限定されるものではないが、透過性、光電変換効率などの観点から、0.5〜35μm程度が好ましい。
【0030】
半導体微粒子としては、市販されているもののうち、透過型電子顕微鏡により観察される粒径が1〜500nm程度である、上記のような半導体の粒子が挙げられる。光電変換効率を向上させるためには、より多くの色素を半導体層に吸着させることが必要であり、このために半導体の比表面積は大きなものが好ましく、1〜200m2/g程度が好ましい。
【0031】
半導体層に担持させて光増感剤として機能する色素としては、種々の可視光領域および/また赤外光領域に吸収を有するものであれば、特に限定されない。半導体層に色素を強固に吸着させるためには、色素分子中にカルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、スルホン酸基、エステル基、メルカプト基、ホスホニル基などのインターロック基を有するものが好ましく、これらの中でも、カルボキシル基が特に好ましい。なお、インターロック基は、励起状態の色素と多孔性半導体層の伝導帯端との間の電子移動を容易にする電気的結合を提供する。
【0032】
インターロック基を有する色素としては、例えば、ルテニウム錯体色素、クマリン系色素、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポリフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ベリレン系色素、インジゴ系色素、ナフタロシアニン系色素などが挙げられる。
【0033】
半導体層に色素を吸着させる方法としては、例えば、金属基板の表面に形成された半導体層を、色素を溶解した溶液(色素吸着用溶液)に浸漬する方法が挙げられる。
【0034】
色素を溶解するために用いる溶媒としては、色素を溶解し得るものであれば、特に限定されず、例えば、(無水)エタノールなどのアルコール系、アセトンなどのケトン系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリルなどの窒素化合物類、クロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼンなどの芳香族炭化水素類、酢酸エチルなどのエステル類、水などが挙げられる。これらの溶剤は2種類以上を混合して用いることもできる。
【0035】
色素吸着用溶液中の色素濃度は、使用する色素および溶媒の種類により適宜調整することができ、吸着機能を向上させるためにはある程度高濃度である方が好ましい。例えば5×10-5モル/リットル以上であればよい。
【0036】
半導体層を色素吸着用溶液に浸漬する際の条件、すなわち、雰囲気、温度、圧力および浸漬時間は特に限定されるものではなく、使用する色素、溶媒の種類、溶液の濃度などにより適宜調整することができる。例えば、大気圧下、室温程度が挙げられる。
【0037】
なお、上記の金属基板25の表面の一部に、上記の色素担持させた半導体層27を形成する前に、SiO2膜をCVD法などにより成膜し、その上に貴金属膜を形成してから色素担持させた半導体層27を形成してもよい。
【0038】
このようにして形成した金属基板を含む層と、図3のようにして形成した光触媒膜を含む層とを、色素担持させた半導体層27と対向電極20とが相対するようにして配置し、電荷輸送層注入口以外の部分を封止材を用いて封止する(図4(g))。
【0039】
次に、電荷輸送層注入口から電荷輸送層29を注入し、該注入口を封止材で封止する。電荷輸送層としては、通常、電解液が用いられるが、特に限定されない。電解液としてはヨウ素電解質溶液などが挙げられる。
【0040】
電荷輸送層29を注入する前に、光触媒膜18を分割したスクライブライン21と同じ直線上で金属基板25を分割して、この分割部を封止材で封止した後、上記のような電荷輸送層を注入することもできる(図4(h)および(i))。
【0041】
上記のような水分解用半導体光電極は、受光面側が透明な筐体中の電解質水溶液に浸漬して、光触媒膜18の側から太陽光を照射することにより、水を酸素と水素とに分解することができる。該筐体は、酸素取り出し口と水素取り出し口とを有する。
上記の筐体を構成する部材は、ガラスまたはプラスチックが好ましい。
【0042】
上記の電解質水溶液としては、通常、水分解に用いられる電解質水溶液であれば特に限定されず、水、海水のような塩化ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液(例えば0.1N)、硫酸などが挙げられる。
【0043】
以下に、図3および図4を参照して、本発明の水分解用半導体光電極の一形態の製造方法について説明する。
横100mm×縦50mm×厚さ2mmの透明基板としてのガラス基板15に直径0.5mmの貫通孔16を2列×4個形成し、その貫通孔16に電極形成材料としてのAgペースト17をディスペンサーなどにより充填し、約250℃で焼成する(図3(a))。
【0044】
次に、ガラス基板両面に透明導電膜19を形成する。透明導電膜としてはITO(In23−SnO2)あるいはFドープSnO2などを、スパッタ法あるいは熱CVD法で、厚さ約0.1μm成膜する(図3(b))。
【0045】
ガラス基板片面に光触媒膜として、酸化チタン光触媒膜18を成膜する(図3(c))。
可視光領域に感度を持つ光触媒膜として酸化チタンを、高周波マグネトロンスパッタ装置を用いて成膜する。ターゲットには、直径6インチで厚み5mmのルチル型結晶構造の二酸化チタン(TiO2)焼結体を用い、ガラス基板を試料ホルダーに設置し、基材加熱ヒーターで約600℃に加熱して、高周波スパッタリングを行うことにより、該光触媒膜18を形成することができる。なお、高周波パワーは約300Wとし、酸化チタン光触媒膜18の厚さが約1μmになるように成膜する。この際、真空チャンバーの真空度は約1Paとし、アルゴンガスのみを導入しつつ、スパッタリングを行う。本実施形態の酸化チタンは膜中に酸素欠陥を有し、波長500nm以下の光を吸収することができる。
【0046】
次に、ガラス基板15上の酸化チタン光触媒膜18と透明導電膜19をレーザーによるスクライブにより除去し、2領域に分離する。裏面の透明導電膜19も同様にレーザーでスクライブ除去し、2領域に分離する(図3(d))。
【0047】
次にメタルマスクを用いて、透明導電膜上に点状に、対向電極としての白金(Pt)20をスパッタ法で蒸着する(図3(e))。
【0048】
次いで、ガラス基板15と同サイズ(縦-横の寸法)で厚さが約0.1mmの金属基板としてのステンレス基板25の裏面に、水素発生用触媒26として機能するPtまたはNiMoをスパッタ法で蒸着する。また、ステンレス基板25の水素発生用触媒層26が形成されたのと反対側に、色素増感型太陽電池の発電層となる酸化チタン層27を形成する。この酸化チタン層は、酸化チタン粒子を含むペーストをスクリーン印刷法により印刷し、約400℃で焼成して形成される。この基板を色素増感剤溶液に浸漬し、色素増感剤を酸化チタン層27に担持させる。色素増感剤としては、ルテニウム錯体色素やクマリン系色素などを用いることができる(図4(f))。
【0049】
次いで、この基板と、上記で作製した酸化チタン光触媒膜18を有するガラス基板15とを図4(g)のようにして重ね合わせ、基板周囲を、電荷輸送層としての電解質溶液注入用の注入口以外の部分をエポキシ樹脂28で封止する(図4(g))。
ステンレス基板25を、ダイサーなどを用いて酸化チタン光触媒膜18のスクライブライン21と同じライン上で2分割し、分割部をエポキシ樹脂28で封止する(図4(h))。
そして、ヨウ素電解質溶液29を注入口から注入し、最後に注入口をエポキシ樹脂で封止し、水分解用半導体光電極30を得る(図4(i))。
【0050】
図7に水分解用半導体光電極30を上面から見た図を示す。横100mm×縦50mm×厚さ2mmのガラス基板15に直径0.5mmの貫通孔16を2列×4個形成し、その貫通孔16にAgペースト17を充填している。酸化チタン光触媒膜18は95mm×20mmの短冊状にスクライブされており、その裏面に太陽電池が形成されている(図示せず)。
【0051】
図1に、上記の水分解用半導体電極を用いて製造した水分解システムを、本発明の一実施形態として示す。
水分解用半導体光電極30を電解質水溶液31に浸漬し、水分解用半導体光電極30の酸化チタン光触媒膜18側から電解質水溶液31を介して太陽光33を照射する。電解質水溶液としては、例を挙げると、海水または0.1N水酸化ナトリウム水溶液や硫酸などの電解質水溶液を用いることができる。
【0052】
電解質水溶液31を介して照射された太陽光33スペクトルのうち波長約500nm以下の光は酸化チタン光触媒膜18で吸収され、電子(e-)と正孔(h+)を生じる。酸化チタン光触媒膜18と電解質水溶液31の接触電位差により、酸化チタン光触媒膜18中で励起された電子は透明導電膜で集められ、そして貫通孔に形成された電極を通って色素増感型太陽電池の対向電極に流れる。正孔は酸化チタン光触媒膜18の表面に移動する。酸化チタン光触媒膜18の表面の正孔は、次の式のように、水を酸化して酸素34を発生させる。
4h+ + 2H2O → O2 + 4H+
【0053】
酸化チタン光触媒膜18を透過した波長約500nm以上の太陽光33スペクトルは、色素増感型太陽電池の半導体層である酸化チタン層で吸収され、光起電力を生じる。色素増感型太陽電池は、光触媒膜18で励起された電子のエネルギー準位を水素発生電位よりも充分にマイナスに押し上げる。したがって、水素発生用触媒部では、次の式のように水分子を還元して水素35が発生する。
4H+ + 4e- → 2H2
このようにして、水分解用半導体光電極30に太陽光を照射することにより、水を酸素と水素に分解することができる。また、水素と酸素の発生場所が分離されているため効率よく水素を回収することができる。
【0054】
図5および図6を参照して、本発明の水分解用半導体光電極の別の好ましい形態の製造方法について説明する。
横100mm×縦50mm×厚さ2mmの透明基板としてのガラス基板15に直径0.5mmの貫通孔16を2列×4個形成し、その貫通孔16に電極形成材料としてのAgペースト17をディスペンサーなどにより充填し、約250℃で焼成する(図5(a))。
【0055】
次に、ガラス基板15の両面に透明導電膜19を形成する。透明導電膜19としてはITO(In23−SnO2)あるいはFドープSnO2などを、スパッタ法あるいは熱CVD法で、厚さ約0.1μm成膜する(図5(b))。
【0056】
ガラス基板15の片面にバンドギャップが約2.7eVの酸化タングステン光触媒膜22を成膜する(図5(c))。
例えばスパッタ法を用いて酸化タングステンを成膜する場合の条件としては、ターゲットには、直径6インチで厚み5mmの金属タングステンを用い基材温度約600℃に加熱し、高周波パワーは約300W、真空度は約1Paで、アルゴンガスと酸素ガスの混合ガスを導入し、スパッタリングを行う。
その他の光触媒膜として、バンドギャップが約2.3eVの三酸化二鉄を用いることもできる。成膜方法としては、ゾルゲル法、化学気相蒸着(CVD)法、スパッタ法などを用いることができる。スパッタ法の場合、三酸化二鉄の場合はターゲットとしてα―三酸化二鉄(α―Fe23)焼結体を用い、同様にスパッタリングして成膜することができる。
【0057】
次に、ガラス基板15上の酸化タングステン光触媒膜22と透明導電膜をレーザーによるスクライブにより除去し、2領域に分離する。裏面の透明導電膜も同様にレーザーでスクライブ除去し、4領域に分離する(図5(d))。
これらのスクライブライン21の内、2本にスクリーン印刷法により高さ約30μmの封止材としての熱硬化性樹脂23を印刷し、約180℃で硬化させる(図5(e))。
【0058】
次にメタルマスクを用いて、透明導電膜19上には点状に、スクライブライン上の熱硬化樹脂23には側面と上面に対向電極としてのPt20をスパッタ法で蒸着する(図5(f))。
【0059】
次いで、ガラス基板15と同サイズで厚さが約0.1mmのステンレス基板25表面の一部に、CVD法などによりSiO2膜24を約0.2μm成膜する(図6(g))。
このSiO2膜24上に貴金属膜32、例えばAgをスパッタ法で蒸着し、基板裏面に水素発生用触媒26として機能するPtまたはNiMoをスパッタ法で蒸着する(図6(h))。
【0060】
次に、色素増感型太陽電池の発電層となる酸化チタン層27を形成する。この酸化チタン層27は、酸化チタン粒子を含むペーストをスクリーン印刷法により印刷し、約400℃で焼成して形成される。この基板を色素増感剤溶液に浸漬し、色素増感剤を酸化チタン層27に担持させる。色素増感剤としては、ルテニウム錯体色素やクマリン系色素などを用いることができる(図6(i))。
【0061】
次いで、この基板と上記で作製した酸化タングステン光触媒膜22付のガラス基板15とを図6(j)のようにして重ね合わせ、基板周囲を電解質溶液注入用の注入口以外の部分をエポキシ樹脂28で封止する。これにより色素増感型太陽電池の酸化チタン層27とガラス基板15上の透明導電膜19とが電気的に接続される(図6(j))。
【0062】
ステンレス基板25を、ダイサーなどを用いて光触媒膜22のスクライブライン21と同じライン上で2分割し、分割部をエポキシ樹脂28で封止する(図6(k))。
そして、ヨウ素電解質溶液29を注入口から注入し、最後に注入口をエポキシ樹脂で封止し、水分解用半導体光電極40を作製する(図6(l))。
【0063】
図2に、上記の水分解用半導体電極を用いて製造した水分解システムを、本発明の一実施形態として示す。
水分解用半導体光電極40を電解質水溶液31に浸漬し、水分解用半導体光電極40の酸化タングステン光触媒膜22側から水溶液を介して太陽光33を照射する。電解質水溶液としては、例を挙げると、海水または0.1N水酸化ナトリウム水溶液や硫酸などの電解質水溶液を用いることができる。
【0064】
電解質水溶液31を介して照射された太陽光33スペクトルのうち波長約460nm以下の光は酸化タングステン光触媒膜22で吸収され、電子(e-)と正孔(h+)を生じる。光触媒膜22と電解質水溶液31の接触電位差により、光触媒膜22中で励起された電子は透明導電膜で集められ、そして貫通孔を通って色素増感型太陽電池の対向電極に流れる。正孔は酸化タングステン光触媒膜22の表面に移動し、次の式のように、水を酸化して酸素34を発生させる。
4h+ + 2H2O → O2 + 4H+
酸化タングステン光触媒膜22を透過した波長約460nm以上の太陽光33スペクトルは、色素増感型太陽電池の色素担持した酸化チタン層で吸収され、光起電力を生じる。色素増感型太陽電池は、光触媒膜1領域に付2つのセルが直列に接続されており、光触媒膜18で励起された電子のエネルギー準位を水素発生電位よりも充分にマイナスに押し上げることができる。したがって、水素発生用触媒部では、次の式のように水分子を還元して水素35が発生する。
4H+ + 4e- → 2H2
このようにして、水分解用半導体光電極40に太陽光を照射することにより、水を酸素と水素に分解することができる。また、水素と酸素の発生場所が分離されているため効率よく水素を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本発明の水分解用半導体光電極を含む水分解用システムの好ましい形態の概略図である。
【図2】図2は、本発明の水分解用半導体光電極を含む水分解用システムの好ましい形態の概略図である。
【図3】図3は、本発明の水分解用半導体光電極の製造プロセスを示す略断面図である。
【図4】図4は、本発明の水分解用半導体光電極の製造プロセスを示す略断面図である。
【図5】図5は、本発明の水分解用半導体光電極の製造プロセスを示す略断面図である。
【図6】図6は、本発明の水分解用半導体光電極の製造プロセスを示す略断面図である。
【図7】図7は、本発明の水分解用半導体光電極の概略上面図である。
【図8】図8は、従来技術のタンデムセルの模式図である。
【符号の説明】
【0066】
1 ガラスシート
2 水性電解質液
3 中間細孔の酸化物膜
4 透明導電膜
5 電気的接続
6 色素増感化中間細孔TiO2
7 色素増感型太陽電池の電解質
8 色素増感型太陽電池の対極
9 水性電解質液
10 水素発生用の触媒カソード
11 ガラスフリット
15 透明基板(ガラス基板)
16 貫通孔
17 電極形成材料(Agペースト)
18 (酸化チタン)光触媒膜
19 透明導電膜
20 対向電極(Pt)
21 スクライブライン
22 (酸化タングステン)光触媒膜
23 封止材(熱硬化性樹脂)
24 SiO2
25 金属基板(ステンレス基板)
26 水素発生用触媒層
27 色素担持した半導体層(酸化チタン層)
28 封止材(エポキシ樹脂)
29 電解質(ヨウ素電解質)溶液、
30、40 水分解用半導体光電極
31 電解質水溶液
32 貴金属膜
33 太陽光
34 酸素
35 水素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光面側から、光触媒膜と、透明導電膜と、透明基板/透明導電膜/電荷輸送層/色素担持させた半導体層/金属基板からなる太陽電池と、水素発生用触媒層とを少なくとも備えてなり、
該透明基板に、透明基板の表裏面の透明導電膜を電気的に接続するための電極が埋設されてなることを特徴とする水分解用半導体光電極。
【請求項2】
光触媒膜が、酸化チタン、酸化タングステンおよび三酸化二鉄からなる群より選択される材料からなる膜である請求項1に記載の水分解用半導体光電極。
【請求項3】
太陽電池が、1つまたは複数の太陽電池セルからなる請求項1または2に記載の水分解用半導体電極。
【請求項4】
受光面側が透明な筐体中に、請求項1〜3のいずれか1つに記載の水分解用半導体電極と電解質水溶液とを有してなり、該筐体が、酸素取り出し口と水素取り出し口とを有する水分解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−265697(P2006−265697A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−89235(P2005−89235)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】