説明

水周り部材および水周り部材の製造方法

【課題】フッ素ガス処理により水周り部材の表面を改質するにあたって、大きな処理室を必要としなくとも一度に纏めて大量にフッ素ガス処理することが可能な生産効率の良い水周り部材を提供する。
【解決手段】基材と、前記基材の上に積層される前記基材より厚みが薄く形成された樹脂製の表面材と、を有する水周り部材であって、前記表面材の前記基材側に積層される面と反対側の面は、フッ素ガス処理により表面性状が改質されている水周り部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ガス処理により表面改質された水周り部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水周り部材の表面を親水化、撥水化、撥油化させることで防汚性や水捌け性を高めることが検討されてきた。特許文献1(特開2004−231970号公報)では、部材表面を所定のフッ素ガス環境下におくことで、部材の表面性状を改質させる製法が開示されている。この製法によれば、コーティングとは異なる製法で、部材表面を親水化、撥水化、撥油化させる等の機能性を付与することができる。
【特許文献1】特開2004−231970号公報
【特許文献2】特開2003−74174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、水周り部材は、大型部材や、3次元の複雑な形状をした部材が多くあり、これらの部材をフッ素ガス環境下において、表面改質処理するにあたっては、大きな処理室が必要となり、また形状的な制約によりデットスペースが大きく発生してしまい、生産効率が悪いといった問題があった。
【0004】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、フッ素ガス処理により水周り部材の表面を改質するにあたって、大きな処理室を必要としなくとも一度に纏めて大量にフッ素ガス処理することが可能な生産効率の良い水周り部材を提供することを目的とする。
【0005】
また、本発明は上述の問題に鑑みてなされ、フッ素ガス処理により水周り部材の表面を改質するにあたって、大きな処理室を必要としなくとも一度に纏めて大量にフッ素ガス処理することが可能な生産効率の良い水周り部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
基材と、
前記基材の上に積層固定される前記基材より厚みが薄く形成された樹脂製の表面材と、
を有する水周り部材であって、
前記表面材の前記基材側に積層される面と反対側の面は、フッ素ガス処理により表面性状が改質されていることを特徴とする水周り部材が提供される。
【0007】
また、本発明の一態様によれば、
基材と、
前記基材より厚みが薄く形成された樹脂製の表面材と、を備えた水周り部材の製造方法であって、
前記表面材の表面性状をフッ素ガス処理により改質させた後、
前記表面材を前記基材上に積層固定することを特徴とする水周り部材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フッ素ガス処理により水周り部材の表面を改質するにあたって、大きな処理室を必要としなくとも一度に纏めて大量にフッ素ガス処理することが可能な生産効率の良い水周り部材が提供される。また、本発明によれば、フッ素ガス処理により水周り部材の表面を改質するにあたって、大きな処理室を必要としなくとも一度に纏めて大量にフッ素ガス処理することが可能な生産効率の良い水周り部材の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
従来、水周りに用いられる樹脂製部材の表面に、機能性を付与することが広く検討されてきた。
【0010】
例えば、ユニットバスに組み込まれる洗い場床の表面を親水化処理すると、水濡れ性が高くなるため、水玉状の大きな残水が発生することなく排水口へ排水することが可能となる。洗い場床上の残水は、水垢やカビの発生の温床となるため、洗い場床表面を親水化処理することは、これまでも広く検討されてきた。また、超親水化処理することで、通常の入浴行為で付着する皮脂汚れや、シャンプーや石鹸カスなどの油脂系成分に対して、水が油脂系成分の下に入り込むことが可能となるので、水をかけるだけで汚れを浮かび上がらせて、水とともに排出することが可能となる。
【0011】
また、浴室ユニットの洗い場床の表面を撥油化処理すると、皮脂汚れや、シャンプーや石鹸カスなどの油脂系成分が固着しにくくなり、水をかけるだけで汚れを洗い流すことが可能となる。
【0012】
機能性を付与する手法としては、表面に塗料をコーティングする手法や、予め樹脂材料自体に機能性を有する成分を練り込んで製造する手法が広く知られている。
【0013】
しかしながら、コーティングにより部材表面に機能性を持たせる場合、基材とコーティング層との間に、境界面が発生するため、長期使用において境界面からコーティング層が剥離してしまうおそれがあった。このように、コーティング層が剥離すると、基材が表面に露出することとなるため、機能性が激減することとなり、耐久性に問題がある。特に浴室の洗い場床に用いる場合は、使用者が歩いたり、風呂椅子を移動させたり、清掃する際に生じる動荷重により、剥離するおそれがある。また、カビを落とすための高塩基性の洗浄剤などの影響で、コーティング層が剥離するおそれもある。
【0014】
一方、樹脂材料自体に機能性成分を練り込む場合、一般的に機能性成分は(母材の強度を低下させるため)強度が低いため、主成分に対してどうしても多くを内添できないという問題がある。さらに、内添した機能性成分は、全体に分散されるため、水周り部材表面に露出する機能性成分は更に少量となる。このように、機能性成分を内添する製法においては、高い表面性能を付与しにくい問題がある。
【0015】
上述した課題を解決するために、本発明者は、表面処理されていない状態の樹脂材料をフッ素ガス処理室に置くことで、樹脂材料の表面性状を改質させる手法を採用した。
【0016】
以下にフッ素ガスによる表面改質方法の概略を示す。図1に示すように、ガス処理反応室1に供給するためのフッ素ガスを生成するためには、ガス原料貯留部2に貯留された液状のHF(フッ化水素)を電気分解装置から成るフッ素ガス生成装置5に供給する。フッ素ガス生成装置には、アノード(陽極)とカソード(陰極)から成る少なくとも一対の電極が設けられており、電極間に電流を流す。それぞれの電極で酸化還元反応が起き、液状のHFが電気分解される。具体的には、アノード側からはフッ素ガスが発生し、カソード側からは水素ガスが発生する。発生したフッ素ガスは、図示しないバッファー室などで貯留され、必要なタイミングでガス処理反応室1に供給される。一方、カソード側で発生した水素ガスは、ガスフィルター8で吸着処理される。
【0017】
生成したフッ素ガスは、ガス処理反応室1に被処理物が置かれた後に、貯留部9に貯留された酸素ガスまたは窒素ガスなどとともに供給される。図2に示すように、ガス処理反応室1にフッ素ガスと窒素ガスが供給された場合、被処理物の表面は炭素原子に結合していた水素原子がフッ素原子に置換され、撥水性を呈するようになる。また、図3に示すように、ガス処理反応室1にフッ素ガスと酸素ガスが供給された場合、被処理物の表面は炭素原子に結合していた水素原子がフッ素原子と酸素原子に置換され、さらにフッ素原子が加水分解反応し、水酸基に置換されることで親水性を呈するようになる。
【0018】
処理後のガス処理反応室1内に残留した残留フッ素ガスは、前述したガスフィルター8に供給され、吸着処理する。
【0019】
上述した、フッ素ガス処理による表面改質の製法は、樹脂材料(被処理物)自体の表面を改質しているものであるため、コーティングのような境界面が存在しない。つまり、コーティング層が剥離することで、性能が急激に低下するようなことを防止できる。
【0020】
また、フッ素ガスと触れている部分の表面は、全てに機能性を付与することが可能となる。つまり、樹脂材料自体に機能性成分を練り込む手法に対して、部材表面に高い機能性を付与することが可能となる。
【0021】
一般的に、水周り部材の中には大型な部材や、3次元形状などの嵩張る部材がある。このような大きな部材をガス処理反応室1に置くと、生産効率が悪くなる。例えば、図4に示すようなユニットバス用の洗い場床10はFRPから形成された硬質な材料であり、平面サイズが大きい。また、強度が求められる部材であるため、鉛直方向の厚みが厚く、且つ裏面には補強用のリブが垂下形成されている。また、上面の周縁部には、水返し用の側壁が立ち上がり形成されている。つまり、複数の洗い場床をフッ素ガス処理しようとすると、大容積のフッ素ガス処理室が必要となる。特に、洗い場床を積み重ねた状態でガス処理反応室1内に置くと、図5に示すように、デッドスペースが多く発生してしまう。つまり、洗い場床10自体を、そのままガス処理反応室1で処理しようとすると、1回の処理で生産できる洗い場床の個数が少なく、且つ生産効率が悪いという問題がある。
【0022】
そこで、本発明では、図6に示すように、リブや側壁が形成されたFRP製の基材20の上に、可撓性を有する表面材40を積層固定する構造を採用している。具体的には、基材20に積層する前の、表面材40のみをガス処理反応室1に置いて表面材40の表面性状を改質し、その後に表面材40を基材20上に積層固定することとした。表面材40は基材20より厚みが薄く、且つ可撓性を有するシート状に形成されているため、嵩張らずに、ガス処理反応室1に置くことができる。つまり、硬質で不撓性の基材20自体は、ガス処理反応室1に入れる必要がない。このことから、大型なガス処理反応室1を必要とせず、且つ生産効率の高い、フッ素ガス処理により表面改質された水周り部材を提供することが可能となる。
【0023】
また、図7に示すように、表面材40が可撓性を有していることで、ガス処理反応室1に柔軟に表面材40を入れることが可能となるため、よりデッドスペースを最小化することが可能となる。
【0024】
フッ素ガス処理により表面性状が改質された表面材40は、材料の表面が削り取られない限り、その性能を保持できる。万が一、削り取られた場合に備えて、ガス処理反応室1で反応させる時間を長くすることで、厚み方向の全体にわたって性状を改質させることも可能である。短時間の処理であれば、表面のみが改質され、内部は不改質状態となるが、長時間の処理であれば、表面材だけでなく、内部も改質状態にすることが可能となる。
【0025】
特に、表面材40の厚み方向全体にわたって、フッ素ガス処理の反応を浸透させるにあたっては、ガス処理反応室1に、洗い場床10の表面だけでなく基材20に積層される側である裏面も、フッ素ガスが触れるようにすることが好ましい。つまり、表面材40の両面からフッ素ガスによる反応が起き、両面側から内部に浸透することで、厚み方向の全体が改質されるまでに時間を短縮化することが可能となる。
【0026】
また、図8に示すように、ロール状に連続的に繋がった状態の表面材40を、ガス処理反応室1に入れ、引っ張り出された表面材40部分がフッ素ガスと触れることで表面性状が改質され、改質された表面材部分はロール状に巻き取られるようにしても良い。そして、ガス処理反応室1内で処理されたロール状の表面材40を、ガス処理反応室1外に取り出し、図9に示すように所定の表面材のサイズにカットするようにしてもよい。このようなロール型50を用いれば、さらに嵩張らずにフッ素ガス処理することが可能となるため、生産効率を大幅に高めることが可能となる。
【0027】
以上の通り、本発明では、基材20とは別体で形成され、嵩張らない形状で形成された表面材40をガス処理反応室1に置いて、機能性を付与した後に、表面材40よりも大型で嵩張る形状をした基材20上に積層固定させている。そのため、水周り部材の表面をフッ素ガス処理で改質するにあたって、大きなガス処理反応室1を必要とせず、且つ一度に纏めて大量に処理することが可能な生産効率の良い水周り部材を提供することができる。
【0028】
本発明が適用可能な表面材40の具体例としては、塩ビ・アクリル・ポリエステル・ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ナイロン・ウレタン・ABSなどの各種樹脂薄物材料のほか、軟質塩ビ・TPO等の各種エラストマー・EVAなどの軟質系樹脂。または可撓性を持つ各種ゴム系材料や合成樹脂繊維や不織布など、基本的に高分子ポリマー材料であれば、特異な機能を有する表面に処理可能である。
【0029】
本発明が適用可能な水周り部材の具体例としては、上述した浴室用洗い場床10の他に、浴槽・カウンター・バスエプロン・樹脂製の成型天井などの浴室用部材のほか、洗面所用の樹脂製洗面ボウルやカウンタ−など、樹脂を用いて製作される、大型で嵩張る材料であればあるほど、本発明の効果は大きなものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る製造プロセスを示した概略図。
【図2】本発明に係る撥水化処理の化学反応式。
【図3】本発明に係る親水化処理の化学反応式。
【図4】一般的なユニットバス用洗い場床を表した外観斜視図。
【図5】本発明の比較例に係るガス処理反応室内の断面図。
【図6】本発明に係るユニットバス用洗い場床を表した外観斜視図。
【図7】本発明の一実施形態に係るガス処理反応室内の断面図。
【図8】本発明の一実施形態に係るガス処理反応室内の断面図。
【図9】本発明に係るユニットバス用洗い場床を表した分解斜視図。
【符号の説明】
【0031】
1…ガス処理反応室、2…ガス原料貯留部、5…フッ素ガス生成装置、8…ガスフィルター、9…ガス貯留部、10…洗い場床、20…基材、40…表面材、50…ロール型、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の上に積層固定される前記基材より厚みが薄く形成された樹脂製の表面材と、
を有する水周り部材であって、
前記表面材の前記基材側に積層される面と反対側の面は、フッ素ガス処理により表面性状が改質されていることを特徴とする水周り部材。
【請求項2】
前記表面材は、可撓性を有することを特徴とする請求項1記載の水周り部材。
【請求項3】
前記表面材の基材側に積層される面は、フッ素ガス処理により性状が改質されており、
前記表面材の厚み方向の全体に対して、性状がフッ素ガス処理により改質されていることを特徴とする請求項1または2記載の水周り部材。
【請求項4】
ユニットバスに組み込まれる洗い場床に用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水周り部材。
【請求項5】
基材と、
前記基材より厚みが薄く形成された樹脂製の表面材と、を備えた水周り部材の製造方法であって、
前記表面材の表面性状をフッ素ガス処理により改質させた後、
前記表面材を前記基材上に積層固定することを特徴とする水周り部材の製造方法。
【請求項6】
フッ素ガス処理時における前記表面材は、前記基材よりも平面積が大きく、
フッ素ガス処理後に、前記基材の表面サイズに合うようにカットし、
カット後の前記表面材を、前記基材上に積層固定することを特徴とする請求項5記載の水周り部材の製造方法。
【請求項7】
前記表面材の表面性状をフッ素ガス処理により改質させる際、前記表面材の両面が、フッ素ガスに触れるように処理することを特徴とする請求項5または6記載の水周り部材の製造方法。
【請求項8】
ユニットバスに組み込まれる洗い場床に用いられることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の水周り部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−77756(P2010−77756A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250041(P2008−250041)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】