説明

水性クリヤー塗料組成物及びクリヤー塗膜形成方法

【課題】
タレ性を好適に制御することができて、良好な外観を有する塗膜を形成することができ、かつ環境に配慮した水性クリヤー塗料組成物及びクリヤー塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】
不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、水性アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含有する水性クリヤー塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性クリヤー塗料組成物及びクリヤー塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体等の塗装においては、ベース塗膜及びクリヤー塗膜からなる上塗り塗膜を形成することが広く行われている。特にクリヤー塗膜は、自動車車体等の塗膜における最外層を構成するものであることから、高外観、耐水性、耐候性等の諸物性が求められており、このような物性を有するクリヤー塗料組成物として種々のものが使用されている。
【0003】
一方、自動車用塗料の分野では環境への配慮等の観点から、有機溶剤の使用量を低減するための試みが行われており、このような目的を達成するため、塗料の水性化が検討されており、中塗り塗料やベース塗料においてはすでに実用化されている。しかし、水性クリヤー塗料においては、上述したような要求物性のすべてを満たすことは困難であることから、水性化が遅れていた。
【0004】
特に水性クリヤー塗料においては、タレ性を充分に制御することが望まれる。タレが生じた場合には、塗膜表面の凹凸を生じることとなってしまい、平滑性が悪化することによって外観不良を生じるため、タレを生じないようにすることは非常に重要な問題である。特に、自動車の車体は、複雑な形状を有するものであるため、平滑性の制御は極めて困難であった。このような問題は、溶剤系クリヤー塗料においても生じるものであるが、溶剤系塗料においては、溶剤が揮発することによる粘度の上昇が生じるため、このような問題による外観の悪化は比較的軽微である。しかし、水性クリヤー塗料では、水の揮発が遅いため、このような問題はより重要なものとなる。
【0005】
例えば、被塗装物の水平に近い面は、平滑性を得るためには過剰に粘度が高い塗料を塗装することは好ましいものではない。低粘度の塗料によって塗膜を形成すると、自然に平滑な表面が形成されるのに対して、高粘度の塗料であると塗膜を形成した塗料が流動しないために表面が平滑化しにくくなる。
【0006】
これに対して、垂直に近い面は、粘度が低いものであると容易に流れ落ちてしまうために、塗膜にはある程度の粘性が必要とされる。しかし、水平に近い面と垂直に近い面とで使用する塗料の種類を変えることは実用的ではないため、同一の塗料組成物を使用して、上述したような水平面と垂直面との平滑性を両立することが要求されている。
【0007】
特許文献1には、中塗り塗料においてタレを制御するため、活性エネルギー線硬化性化合物を含有するメラミン硬化系の塗料組成物を被塗装物へ塗布した後に、活性エネルギー線照射を行って予備硬化した後に、加熱して塗膜を完全硬化せしめる塗膜形成方法が記載されている。
特許文献2には、光硬化性組成物、熱硬化性樹脂組成物、光重合開始剤、光酸発生剤を含有する塗料組成物において、塗装後、光照射して塗膜を増粘した後、加熱、硬化させる熱硬化塗膜形成方法が記載されている。しかし、これらは、有機溶剤を含む塗料の硬化による塗膜形成方法であり、タレによる外観悪化の問題が顕著であるような水性クリヤー塗料の塗装方法は記載されていない。また、光酸発生剤を使用する場合、塗膜の耐水性、耐候性といった性質が悪化するおそれがあり、より高い耐水性、耐候性を有する塗膜を形成することが求められていた。
【0008】
【特許文献1】特開平11−300272号公報
【特許文献2】特開2003−245606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記に鑑み、タレ性を好適に制御することができて、良好な外観を有する塗膜を形成することができ、かつ環境に配慮した水性クリヤー塗料組成物及びクリヤー塗膜形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、水性アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含有することを特徴とする水性クリヤー塗料組成物である。
上記不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物は、(メタ)アクリレート基を有する化合物であることが好ましい。
上記ポリイソシアネート化合物は、ブロックポリイソシアネートであることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上述の水性クリヤー塗料組成物を被塗装物に対して塗布する工程(工程1)、工程1によって得られた未硬化塗膜に対して、略垂直面から活性エネルギー線を照射する工程(工程2)、及び、工程2を行った後の被塗物を加熱することによって硬化させる工程(工程3)からなることを特徴とするクリヤー塗膜形成方法でもある。
上記工程2を行った後の塗膜の粘度は、2000〜500000mPa・sであることが好ましい。
【0012】
本発明のクリヤー塗膜形成方法において、上記工程1の前に、硬化させた電着塗膜層上に中塗り塗料を塗布し、これを加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程(A−1)、及び、上記複層塗膜上にベース塗料を塗布する工程(A−2)を更に含むものであることが好ましい。
本発明のクリヤー塗膜形成方法において、上記工程1の前に、未硬化電着塗膜上に中塗り塗料を塗布し、これらを加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程(B−1)、及び、上記複層塗膜上にベース塗料を塗布する工程(B−2)を更に含むものであることが好ましい。
本発明のクリヤー塗膜形成方法において、上記工程3の後、更にダブルクリヤー塗料を塗布する工程(C)を含むものであることが好ましい。
本発明はまた、被塗装物は、自動車車体又は自動車組み付け部品であり、上述のクリヤー塗膜形成方法により塗装される塗装物である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の水性クリヤー塗料組成物及びクリヤー塗膜形成方法においては、不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物及び光重合開始剤を水溶性の熱硬化性樹脂成分と併用して使用することを特徴とするものである。上記不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物及び光重合開始剤を含有する塗料組成物を被塗装物に対して塗装後、活性エネルギー線照射を行うと、活性エネルギー線照射により、上記不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物の重合反応が生じ、塗膜の粘度上昇が生じる。塗膜の粘度上昇が発生すると、タレが生じにくくなり、クリヤー塗膜の外観を制御することができるものである。
【0014】
このような塗料組成物を使用して上記方法を適用することによって、水性クリヤー塗料組成物であっても優れたタレ性抑制効果が得られるものであり、クリヤー塗料組成物の環境への負荷を小さくすることができる。
【0015】
本発明は、不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、水性アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含有することを特徴とする水性クリヤー塗料組成物である。
上記不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物は、1分子当たり2個以上のα,β−不飽和カルボニル基を有する化合物であることが好ましい。上記α,β−不飽和カルボニル基は、カルボニル基に対するα炭素及びβ炭素の間に二重結合がある官能基であり、例えば、メタクリレート基、アクリレート基、マレエート基、フマレート基等を挙げることができる。上記α,β−不飽和カルボニル基を1個しか有さない場合は、充分な活性エネルギー線硬化性を示さない点で好ましくない。上記α,β−不飽和カルボニル基は、一分子当たり10個以下であることが好ましく、6個以下であることがもっとも好ましい。
【0016】
上記不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物としては特に限定されず、例えば、ポリオールの(メタ)アクリル酸エステル、フマル酸やマレイン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸を酸成分として含む不飽和ポリエステル重合体、エポキシ重合体(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロイル基含有ウレタン化合物、α,β−不飽和カルボニル基含有アクリル重合体、(メタ)アクリロイル基含有ポリエーテル重合体及び(メタ)アクリロイル基含有シリコーンオリゴマー等を挙げることができる。
【0017】
上記ポリオールの(メタ)アクリル酸エステルは、2以上の水酸基を有するポリオールとアクリル酸とのエステルである。上記2以上の水酸基を有する化合物は、低分子量化合物であっても重合体であってもよい。上記ポリオールの(メタ)アクリル酸エステルとしては特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキシルジメタノールジ(メタ)アクリレート、4,4’−イソプロピリデンジシクロヘキサノールジ(メタ)アクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ〔5,2,1,0〕デカンジ(メタ)アクリレート、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)シアヌル酸トリ(メタ)アクリレート等の低分子量ポリオールの(メタ)アクリル酸エステル;水酸基を有するアクリル重合体の(メタ)アクリル酸エステル、ポリエステルポリオールの(メタ)アクリル酸エステル、ポリエーテルポリオールの(メタ)アクリル酸エステル、エポキシポリオールの(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタンポリオールの(メタ)アクリル酸エステル及びシリコーンポリオールのポリ(メタ)アクリル酸エステル等の水酸基含有重合体の(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタアクリレートを指す。
【0018】
上記不飽和ポリエステル重合体としては特に限定されず、例えば、無水マレイン酸、フマル酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸及び必要に応じて使用するその他の多価カルボン酸からなる酸成分と、水酸基を2以上有するポリオールとの重縮合により得られる重合体等を挙げることができる。
【0019】
上記不飽和ポリエステル重合体に使用するポリオールとしては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、4,4’−イソプロピリデンジシクロヘキサノール、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ〔5,2,1,0〕デカン、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)シアヌル酸、イソプロピリデンビス(3,4−シクロヘキサンジオール)並びにこれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及び/又はカプロラクトン等の付加物等を挙げることができる。
【0020】
上記不飽和ポリエステル重合体に使用することができるその他の多価カルボン酸としては特に限定されず、例えば、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、ドデセニルコハク酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸等を挙げることができる。
【0021】
上記エポキシ重合体(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ビスフェノール型、ノボラック型等のエポキシ重合体と(メタ)アクリル酸との開環付加反応によって得られる重合体等を挙げることができる。
【0022】
上記(メタ)アクロイル基含有ウレタン化合物としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のポリイソシアネート化合物又はそのウレタンプレポリマーと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの付加反応によって得られる化合物等を挙げることができる。
【0023】
上記α,β−不飽和カルボニル基含有アクリル重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルを共重合したアクリル重合体に(メタ)アクリル酸を反応させることによって得られる(メタ)アクリレート基を側鎖に有するアクリル重合体;カルボキシル基含有アクリル重合体にグリシジル(メタ)アクリレート等エポキシ基含有アクリル系単量体を反応させることによって得られる(メタ)アクリレート基を側鎖に有するアクリル重合体等を挙げることができる。
【0024】
上記(メタ)アクリロイル基含有ポリエーテル重合体としては、例えば、末端に水酸基を有するポリエーテルに、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートを反応させて得られる化合物等を挙げることができる。
【0025】
上記(メタ)アクリロイル基含有シリコーンオリゴマーとしては、例えば、両末端に3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル基を有するポリオルガノシロキサン等を挙げることができる。
【0026】
なお、上記不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物は、α,β−不飽和カルボニル基の他に、水酸基等を複数個有するものであってもよい。上記不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明の塗料組成物に含まれる不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物としては、高反応性、耐候性、相溶性に優れることや高光沢であることから、ポリオールの(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましい。
【0028】
本発明の塗料組成物に含まれる不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物の数平均分子量(Mn)は、下限200、上限5000の範囲内であることが好ましい。上記数平均分子量(Mn)が200未満である場合、加熱硬化時の揮散、塗膜の硬度の低下、塗料の硬化性の低下によって塗膜の耐溶剤性、耐水性や耐候性が低下する場合がある。上記数平均分子量(Mn)が5000を超える場合、不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物自体の粘度が高くなり、塗布する際の希釈された塗料中の溶液の含有量が多量になる場合がある。上記下限は、250であることがより好ましい。上記上限は、3000であることがより好ましい。なお、本明細書において、数平均分子量(Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0029】
上記不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物の二重結合当量は、下限50、上限1500の範囲内であることが好ましい。上記二重結合当量が50未満である場合、得られる塗膜中に未反応の(メタ)アクリレート基が残存し、塗膜の耐候性が低下したり、得られる塗膜が硬く脆くなったりする場合がある。また、1500を超えると、得られる塗膜の架橋密度が小さくなり、塗膜物性や性能が低下する場合がある。なお、本明細書における二重結合当量は、二重結合1個当たりの分子量を意味するものである。上記下限は、70であることがより好ましく、上記上限は、1000であることがより好ましい。
【0030】
上記不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物の市販品としては、A−TMM−3L(商品名、新中村化学社製)、M−400(商品名、東亜合成社製)、TMPTA(東亜合成社製)、D−330(商品名、日本化薬社製)等を挙げることができる。
【0031】
上記不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物の含有量は、水性アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物の合計の樹脂固形分100質量%中、下限1質量%、上限35質量%であることが好ましい。1質量%未満であると、効果が現れないおそれがある。35質量%を超えると、塗膜物性への影響が出てしまうおそれがある。上記含有量は、下限5質量%であることがより好ましく、上限30質量%であることがより好ましい。
【0032】
本発明の水性クリヤー塗料組成物は、更に光重合開始剤を有してなるものである。
上記光重合開始剤としては、公知のものを用いることができ、具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテルのようなベンゾイン及びベンゾインアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノンのようなアセトフェノン類;2−メチル1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1,2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、N,N−ジメチルアミノアセトフェノンのようなアミノアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリ−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノンのようなアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンのようなチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールのようなケタール類;ベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノンのようなベンゾフェノン類又はキサントン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等を挙げることができる。これらは、2種以上であってもよく、更にトリエタノールアミン等の3級アミン、ジメチルアミノ安息香酸エチル等の光重合開始助剤を併用することができる。
上記光重合開始剤の市販品としては、ダロキュアー1173、Irgacure184、Irgacure500、Irgacure2959(商品名、いずれもチバスペシャリティケミカルズ社製)等を挙げることができる。
【0033】
上記光重合開始剤の配合量としては特に限定されず、熱硬化と光硬化の反応割合に応じて適宜設定される。また、要求される耐候性等の度合いにより、更に、紫外線吸収剤成分等の添加剤の種類や量に応じて調整することができる。本発明で用いられる硬化性バインダーを含有する塗料組成物における上記光重合開始剤の一般的な配合量としては、上記不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物に対して、例えば、0.01〜10質量%である。
【0034】
本発明の水性クリヤー塗料組成物は、更に水性アクリル樹脂を有してなるものである。アクリル樹脂は、耐加水分解性に優れるため、これを用いることによって、長時間の保存安定性に優れた塗料組成物を得ることができる水性クリヤー塗料となる。
【0035】
上記水性アクリル樹脂は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を主成分とした共重合体であり、上記水性アクリル樹脂の重合に使用する単量体としては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のエチレン系不飽和カルボン酸単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル等のエチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチル等のエチレン系不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンとの反応物等のヒドロキシル基含有エチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル等のエチレン系不飽和カルボン酸アミノアルキルエステル単量体;アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のエチレン系不飽和カルボン酸アミノアルキルアミド単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、メトキシブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のその他のアミド基含有エチレン系不飽和カルボン酸単量体;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等の不飽和脂肪酸グリシジルエステル単量体;(メタ)アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステル単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体等を挙げることができる。上記単量体混合物は、上記単量体を単独で使用するものであっても、2以上の成分を併用して使用するものであってもよい。
【0036】
上記アクリル樹脂を得るための重合方法は特に限定されるものではなく、溶液重合、分散重合、乳化重合等の公知の方法を使用することができる。
【0037】
上記アクリル樹脂は、上記単量体混合物から得られるアクリル樹脂を更にグラフト化したものであってもよい。上記アクリル樹脂をグラフト化することにより、加水分解を受けにくい構造にすることができる。また、グラフト化することで水性塗料組成物中に高濃度で含有しても塗料の粘度が上昇しにくいので、高固形分で塗装でき、塗装効率を向上させることができる。
上記グラフト化の方法としては、特に限定されず、溶液重合、乳化重合等の公知の方法を使用することができる。
【0038】
本発明の水性アクリル樹脂は、数平均分子量が、下限1000、上限10000の範囲内であることが好ましい。
上記アクリル樹脂の数平均分子量が1000未満の場合、分子量が低すぎてクリヤーとしての耐候性、硬化性に劣り、クリヤーとしての基本的な物性を損なうおそれがある。また、数平均分子量が8000を超える場合は、水性塗料組成物を塗布する時に粘度が高くなりすぎて塗装効率が低下するおそれがある。上記下限は、1500であることがより好ましく、2000であることが更に好ましい。上記上限は、7500であることがより好ましく、6000であることが更に好ましい。
【0039】
上記水性アクリル樹脂は、樹脂の水酸基価が、下限30mgKOH/g、上限150mgKOH/gの範囲内であることがより好ましい。水酸基価が30mgKOH/g未満であると、架橋性が不充分になり、充分な塗膜性能を確保することができない場合がある。水酸基価が150mgKOH/gを超えると、この樹脂を用いて得られた塗料の塗膜の耐水性及び耐候性が低下する場合がある。上記下限は、40mgKOH/gであることがより好ましく、50mgKOH/gであることが更に好ましい。上記上限は、130mgKOH/gであることがより好ましく、100mgKOH/gであることが更に好ましい。
【0040】
上記水性アクリル樹脂は、樹脂の酸価が、下限10mgKOH/g、上限100mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。酸価が10mgKOH/g未満であると、水溶性が低下して安定性が損なわれるおそれがある。酸価が100mgKOH/gを超えると、樹脂の親水性が高くなりすぎて、塗膜の耐水性及び耐候性が低下するおそれがある。上記下限は、20mgKOH/gであることがより好ましく、30mgKOH/gであることが更に好ましい。上記上限は、80mgKOH/gであることがより好ましく、60mgKOH/gであることが更に好ましい。
【0041】
上記水性アクリル樹脂は、水性クリヤー塗料組成物中に含まれる樹脂固形分全量に対して、下限50質量%、上限95質量%の割合で含まれることが好ましい。50質量%未満であると、得られた塗膜の耐水性、耐候性及び外観を確保することが困難になるおそれがある。95質量%を超えると、架橋性不充分で充分な塗膜性能を確保できないおそれがある。上記下限は、65質量%であることがより好ましく。上記上限は、90質量%であることがより好ましい。
【0042】
本発明の水性クリヤー塗料組成物は、更にポリイソシアネート化合物を含有してなるものである。
上記ポリイソシアネート化合物としては、2以上のイソシアネート基を有する化合物であれば、特に限定されず、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネート等の脂肪族環式イソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネートメチル等の脂環族イソシアネート、これらのビューレット体、ヌレート体等の多量体及び混合物等を挙げることができる。
【0043】
上記ポリイソシアネート化合物は、ブロックポリイソシアネートであることが好ましい。ブロックポリイソシアネートを使用すると、塗料の保存安定性が良好なものとなることから、好ましいものである。上記ブロックポリイソシアネートとしては、上記ポリイソシアネート化合物に活性水素を有するブロック剤を付加させることによって得られ、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生し、上記水性アクリル樹脂中の官能基と反応し硬化するものが挙げられる。
【0044】
上記ブロック剤としては、例えば、ハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、フルフリルアルコール、アルキル基置換フルフリルアルコール、ベンジルアルコールなどの脂肪族、芳香族または複素環式アルコール、メチルエチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、アセトンオキシム、シクロヘキサンオトキシムなどのオキシム類、その他にカプロラクタム等を挙げることができる。
【0045】
上記水性クリヤー塗料組成物は、水酸基を有する塗膜形成性樹脂を含有するものであることが好ましい。上記塗膜形成性樹脂に対するイソシアネート化合物の配合比は、目的により種々選択できるが、本発明で用いるクリヤー塗料においてはイソシアネート基(NCO)と水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が、下限0.2/1、上限5/1の範囲内となるように構成するのが好ましい。上記含有量が下限を下回ると硬化性が不十分となり、上限を上回ると硬化膜が固くなりすぎ脆くなる。上記下限は、0.5/1がより好ましく、上記上限は、2/1がより好ましい。
【0046】
上記水性クリヤー塗料組成物中には、上記重合体の他、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、架橋樹脂粒子、表面調整剤等を配合しても良い。上記架橋樹脂粒子を用いる場合は、本発明の硬化性樹脂組成物の樹脂固形分に対して、下限0.01質量%、上限10質量%の割合で配合することが好ましい。上記下限は、0.1質量%であることがより好ましく、上記上限は、5質量%であることがより好ましい。上記架橋樹脂粒子の添加量が10質量%を超えると得られる塗膜の外観が悪化し、0.01質量%未満であるとレオロジーコントロール効果が得られない。
【0047】
上記水性クリヤー塗料組成物の製造方法は、特に限定されず、上記重合体等の配合物をニーダー又はロール等を用いて混練、分散する等の当業者に周知の方法を適用することができる。
【0048】
本発明の塗料組成物は、水系のものであるが、粘度の調整において、溶媒の揮発分を考慮する必要がなく、好適にタレを制御することができ、また環境にやさしい塗料である。上記水性塗料において使用する溶液としては特に限定されず、例えば、Byketol−Special、Byketol−OK(商品名、いずれもビックケミー・ジャパン社製)等、周知のものを挙げることができる。水性クリヤー塗料組成物は、塗装時の粘度をフォードカップNo.4、20℃で20秒〜50秒に調製することが好ましい。この範囲のものと限定することによって、塗装後の平滑性に優れ、かつ、タレを好適に防止することができるものである。
【0049】
本発明は、上述した水性クリヤー塗料組成物を使用してなるクリヤー塗膜形成方法でもある。本発明のクリヤー塗膜形成方法は、上述した水性クリヤー塗料組成物を被塗装物に対して塗布する工程(工程1)、工程1によって得られた未硬化塗膜に対して略垂直面から活性エネルギー線を照射する工程(工程2)、及び、工程2を行った後の被塗装物を加熱することによって硬化させる工程(工程3)からなるものである。
【0050】
本発明のクリヤー塗膜形成方法は、上述した水性クリヤー塗料組成物を使用して、上述した塗装工程によって塗装を行うことによって、略垂直面であってもタレを生じることなく塗膜を形成することができるものである。
【0051】
上記工程1は、上述した水性クリヤー塗料組成物を被塗装物に対して塗布する工程である。上記工程1において、硬化性バインダーを含有する塗料組成物を塗布する方法としては特に限定されず、例えば、ハケ塗り、ローラー塗布、エアースプレー塗布、エアーレススプレー塗布、浸漬塗布、流し塗り等を挙げることができる。特に、被塗装物が自動車車体や自動車用部品である場合には、エアー静電スプレー塗装方法や回転霧化式静電塗装方法であることが好ましい。上記硬化性バインダーを含有する塗料組成物は、塗装する方法に応じて水により粘度を適宜調整することができる。塗布膜厚としては特に限定されず、得られる塗装物の用途に応じて適宜設定することができる。
【0052】
上記クリヤー塗料を塗装する方法としては、具体的には、マイクロマイクロベル、マイクロベルと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機による塗装方法を挙げることができる。上記工程1における上記クリヤー塗料の塗装膜厚は、乾燥膜厚で下限25μm、上限45μmの範囲内であることが好ましい。
【0053】
上記工程2は、上記工程1によって得られた未硬化塗膜に対して、略垂直面から活性エネルギー線を照射する工程である。すなわち、特にタレが生じやすい略垂直面に対して活性エネルギー線を照射することによって、粘度を上昇させ、タレを抑制して塗膜の平滑性を向上させ、これによって塗膜の表面外観を良好にするものである。
【0054】
上記工程2は、略垂直面から活性エネルギー線の照射を行うことから、特にタレを生じやすい垂直面及び垂直に近い面のタレを抑制し、これによって塗膜表面の凹凸を抑制し、表面外観を向上させるものである。ここで、略垂直面からの活性エネルギー線の照射とは、水平面に対して略垂直方向から照射を行うという意味であるが、照射方向は正確に垂直である必要はなく、タレを生じやすい垂直面及び垂直に近い面に対して充分な活性エネルギー線を照射できる程度の角度で照射することを意味するものである。上記工程2においては、少なくとも略垂直方向からの照射を行うものであるが、同時に水平からの照射も行うものであってもよい。
【0055】
上記工程2における活性エネルギー線の照射は、紫外線照射、太陽光、可視光線、マイクロ波、電子線等を挙げることができるが、なかでも紫外線照射によって行うことが特に好ましい。上記紫外線照射は、カーボンアークランプ、無電極ランプ、水銀蒸気ランプ、キセノンランプ、蛍光ランプ、アルゴングロー放電等を紫外線照射源として照射することによって行うことができる。なかでも、複雑な構造を有する被塗装物に対しても均一に照射できることから、無電極ランプが好ましい。
【0056】
上記工程2は、工程1の直後に行うものであっても、工程1を行った後でプレヒート工程を行い、その後に行うものであってもよいが、工程1の直後に行うことがより好ましい。工程2における紫外線の照射強度は、200mJ/cm〜2000mJ/cmであることが好ましく、照射時間は、数秒であることが好ましい。
【0057】
工程2を行った後、塗膜の粘度は、2000mPa・s〜500000mPa・sとなるように、水性クリヤー塗料組成物の組成及び活性エネルギー線照射条件を調整することが好ましい。塗膜粘度が2000mPa・s未満であると、タレを充分に抑制することができないおそれがある。500000mPa・sを超えると、平滑性を失い、ゆず肌等の外観不良になるという問題を生じるおそれがある。上記下限は、5000mPa・sであることがより好ましく、上記上限は、100000mPa・sであることがより好ましい。
【0058】
上記工程3は、工程2を行った後の被塗装物を加熱することによって硬化させる工程である。上記工程3の硬化条件は、使用する塗料組成物の組成によっても相違し、当業者によって適宜設定することができるが、一般的には80〜200℃、好ましくは100〜180℃で、加熱時間は10〜40分であることが好ましい。
【0059】
本発明のクリヤー塗膜形成方法においては、上記工程3を行った後の塗膜に対して更に活性エネルギー線を照射する工程(工程4)を有するものであってもよい。上記工程2によって反応しなかった不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物が残存すると、耐候性等の性質が悪くなるおそれがあり、上記工程4を行うことによって、より高い架橋密度が得られるため、塗膜の耐衝撃性が向上する。上記工程4は、上記活性エネルギー線硬化性化合物中の炭素−炭素不飽和二重結合をラジカル重合反応によって硬化させるものであり、具体的には、カーボンアークランプ、無電極ランプ、水銀蒸気ランプ、キセノンランプ、蛍光ランプ、アルゴングロー放電等を紫外線照射源として照射するものである。なかでも、複雑な構造を有する被塗装物に対しても均一に照射できることから、無電極ランプが好ましい。
【0060】
本発明のクリヤー塗膜形成方法において使用する被塗装物としては、種々の基材、例えば金属成型品、プラスチック成型品、発泡体等に用いることができるが、更に詳しくは、鉄、アルミニウム及びこれらの合金、アルマイト、真鍮、青銅、亜鉛メッキ鋼板、スズメッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板、クロムメッキ鋼板等の金属成型品やプラスチック成型品等を挙げることができる。本発明のクリヤー塗膜形成方法は、特に、被塗装物が略水平面及び略垂直面の両方を有する形状である場合に特に有効な方法である。従って、自動車車体、自動車組み付け部品、特殊車両等の複雑な形状を有する被塗装物の塗装方法に特に好適に使用することができる。
【0061】
本発明のクリヤー塗膜形成方法は、上記工程1の前に、硬化させた電着塗膜層上に中塗り塗料を塗布し、これを加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程(A−1)、及び、上記複層塗膜上にベース塗料を塗布する工程(A−2)を更に含んでいてもよい。
また、上記工程1の前に、未硬化電着塗膜上に中塗り塗料を塗布し、これらを加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程(B−1)、及び、上記複層塗膜上にベース塗料を塗布する工程(B−2)を更に含んでいてもよい。
【0062】
上記工程(A−1)は、被塗装物上に形成された電着塗膜層上に中塗り塗料を塗布し、これを加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程である。
本発明のクリヤー塗膜形成方法は、カチオン電着塗装可能な金属成型品に対して適用することが好ましい。上記被塗装物は、表面が化成処理されていることが好ましい。更に、被塗装物は、電着塗膜が形成されていてもよい。上記電着塗料としては、カチオン型及びアニオン型を使用できるが、防食性の観点から、カチオン型電着塗料であることが好ましい。
【0063】
また、上記電着塗膜層上に中塗り塗膜が形成されていてもよい。中塗り塗膜の形成には中塗り塗料が用いられる。上記中塗り塗料としては特に限定されず、当業者によってよく知られている水性又は有機溶剤型のもの等を挙げることができる。上記中塗り塗料を適用する際、上記電着塗膜は、未硬化のものであってもよい。すなわち、未硬化電着塗膜上に中塗り塗料を塗布し、これらを加熱硬化させて複層塗膜を形成してもよい(工程(B−1))。
上記中塗り塗料を加熱硬化させる方法としては、公知の方法を用いることができる。
【0064】
上記工程(A−2)及び(B−2)は、電着塗膜層及び中塗り塗膜からなる複層塗膜上に、ベース塗料を塗布する工程である。
上記ベース塗料としては特に限定されず、例えば、塗膜形成性樹脂、硬化剤、有機系、無機系又は光輝材等の着色顔料及び体質顔料等を含んでも良い。上記ベース塗料の形態としては特に限定されず、水性又は有機溶剤型のもの等を挙げることができる。
【0065】
上記複層塗膜が形成された被塗装物に対して、上記ベース塗料を塗装する方法としては特に限定されず、スプレー塗装、回転霧化式塗装等を挙げることができ、外観向上の観点から、これらの方法を用いた多ステージ塗装、又は、これらを組み合わせた塗装方法であることが好ましい。
【0066】
本発明のクリヤー塗膜形成方法は、被塗装物に対してベース塗料を塗装してベース未硬化塗膜を形成した後、上記ベース未硬化塗膜上に上記水性クリヤー塗料組成物を上記工程1〜3に従って塗装し、上記ベース未硬化塗膜及びクリヤー未硬化塗膜を同時に加熱して硬化させる2コート1ベークの方法によって塗装を行うものであってもよいし、上記ベース未硬化塗膜を加熱硬化させた後に、上記水性クリヤー塗料組成物を塗装してクリヤー未硬化塗膜を形成し、加熱硬化させる2コート2ベークの方法によって塗装を行うものであってもよい。
【0067】
2コート1ベーク法によって塗装を行う場合、上記ベース塗料による塗装膜厚は、乾燥膜厚で下限10μm、上限20μmの範囲内であることが好ましい。
【0068】
本発明の複層塗膜形成方法において、上記ベース塗料が水性のものである場合、良好な仕上がり塗膜を得るために、上記水性クリヤー塗料組成物を塗装する前に、ベース未硬化塗膜を40〜100℃で2〜10分間加熱しておくことが望ましい。
【0069】
上記の方法によって形成されたベースの未硬化塗膜は、本発明のクリヤー塗膜形成方法における上記工程1及び上記工程2より得られるクリヤーの未硬化塗膜とともに、上記工程3において同時に加熱されて硬化し、複層塗膜を形成することができる。
【0070】
また、上記2コート2ベークによって複層塗膜を形成する場合、上記ベースの未硬化塗膜を加熱硬化した後に、上記工程1〜3を行うことによりクリヤー塗膜を形成し、複層塗膜とすることができる。
上記ベース未硬化塗膜を加熱硬化する場合の加熱温度は、下限100℃、上限180℃の範囲内で行うことが好ましい。また、下限120℃、上限160℃であることがより好ましい。加熱硬化時間は硬化温度等によって変化するが、上記加熱硬化温度で行う場合は、10〜30分であることが適当である。
【0071】
本発明のクリヤー塗膜形成方法はまた、上記工程3の後、更にダブルクリヤー塗料を塗布する工程(C)を含んでいてもよい。上記ダブルクリヤー塗料は、より高外観を得る場合やベース塗膜中の顔料の粒径が大きい場合に、クリヤー塗膜を2層以上形成するためのものである。これらの形成方法としては、例えば、特開平11−253877号公報に記載されている方法を挙げることができる。
【発明の効果】
【0072】
本発明の水性クリヤー塗料組成物及びクリヤー塗膜形成方法によって、タレ性を好適に制御することができ、かつ、クリヤー塗膜において要求される外観性能等の物性を満足することができるような塗膜を形成することができる。すなわち、クリヤー塗膜としての物性を維持したままで、タレ性を改善することができ、これによって外観特性の優れたクリヤー塗膜を得ることができるものである。また、本発明の塗料組成物は、水性であるため、VOC等の問題もなく、環境にもやさしいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0073】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味し、「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0074】
(製造例1 アクリル樹脂の製造)
コンデンサー、溶剤回収装置、撹拌棒、温度計、窒素導入管を備えたフラスコにDPM(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)を40部入れ、130℃に昇温して保持した後、モノマーとしてアクリル酸15部、ヒドロキシルエチルメタクリレート16部、エチルクリレート39部、スチレン5部及びMSD−100を5部、NKエステルM−90G(新中村化学工業社製)20部、開始剤カヤエステル−O(t−ブチルパーオキシヘキサノエート、化薬アクゾ社製)13部と、DPMを10部混合したものを3時間かけて滴下した。その後130℃で30分攪拌した後、カヤエステル−Oを0.3部とDPMを5部溶解したものを30分かけて滴下した。その後110℃に温度を下げてカージュラE10P(商品名、ジャパンエポキシレジン社製)を20部、TBAH(テトラブチルアンモニウムヒドロキシド)2.6部を添加し110℃で攪拌することによりグラフト化させた。酸価が58.8になったところで脱溶剤を行い、溶剤を全て抜き、DMEA100%で中和した後、脱イオン水で水溶化した。得られたアクリル樹脂溶液の固形分は44.8重量%、GPCによる数平均分子量は3000であった。
【0075】
(製造例2 ポリイソシアネート樹脂の調製)
2個の末端NCO官能基を含有するウレトジオンすなわち2量化されたヘキサメチレンジイソシアネートを70部と、N,N’,N’’−トリス−(6−イソシアナートヘキシル)−イソシアヌレート30部とを混合した。得られたポリイソシアネート樹脂溶液の固形分は100質量%、平均粘度150mPa・sで、平均NCO含有量22.5%であった。
【0076】
(実施例1)
チヌビン384(チバガイギー社製紫外線吸収剤)2部、チヌビン292(チバガイギー社製光安定剤)2部、日本ペイント社製アクリル系表面調整剤(固形分50重量%)2部を混合して、添加剤溶液を得た。
【0077】
製造例1で得たアクリル樹脂178部、製造例2で得たポリイソシアネート樹脂22部、A−TMM−3L(新中村化学社製特殊アクリレート)10部、ダロキュアー1173(チバガイギー社製光重合開始剤)2部をディスパーにて攪拌、混合して均一にした後、さらに得られた添加剤溶液を加えて攪拌し、硬化性塗料生成物を得た。得られた硬化性塗料生成物をイオン交換水によって、塗料組成物の粘度をNo.4フォードカップ(20℃)で25秒になるように希釈した。
【0078】
リン酸亜鉛処理した長さ300mm、幅100mmおよび厚さ0.8mmのダル鋼板にカチオン電着塗料である日本ペイント社製パワートップPU−50(商品名)を乾燥膜厚約25μmになるように電着塗装し、その上に日本ペイント社製オルガP−2シーラー(商品名)を乾燥膜厚約40μmになるようにエアースプレー塗装して140℃で30分間加熱硬化させた。この塗装試験板に黒色水性ベース塗料を乾燥膜厚16μmになるようにエアースプレー塗装して、塗装試験板を140℃で30分間加熱硬化した。さらに#1000のサンドペーパーで研ぎ、石油ベンジンで拭いて脱脂し、塗装試験板を得た。
【0079】
この塗装試験板を縦向きに置いて上側70mm部分に上記作成の塗料を乾燥膜厚約40μmになるようにエアースプレー塗装してただちに、フュージョン UVシステムズジャパン株式会社製 F600(240W/cm)無電極ランプで、バルブ種類Hバルブ、コンベアスピード4m/分、ランプ距離10cmの条件で紫外線を照射した。その後、縦向きに置いて140℃で30分間加熱硬化させ、試験板を得た。
【0080】
(実施例2〜10)
表1の各配合に基づいて、実施例1と同様にして、所定の加熱条件で、硬化性塗料を調製し、試験板を得た。
【0081】
(比較例1〜4)
表2の各配合に基づいて、実施例1と同様にして、所定の加熱条件で、硬化性塗料を調製し、試験板を得た。
【0082】
(評価方法)
上記で得られた各試験板は、以下に示す評価方法により、得られた塗料試験板の塗膜を評価した。その結果を表1及び表2に示した。
(1)粘度測定
上記塗装試験板の代わりにブリキ板を用いた以外は同様の操作を行い、UVを照射する前のブリキ板の塗膜と照射した後のブリキ板の塗膜をそれぞれかき取り、それぞれの粘度についてE型粘度計(東機産業株式会社製VISCONIC EMD粘度計)を用い温度25℃において粘度測定した。
(2)タレ評価
塗料試験板の下部の塗装していない30mmの部位に塗装した部分の塗料が加熱硬化後に何mmタレているかを実測した。
(3)鉛筆硬度
JIS K5400 8.4.2に準拠して鉛筆硬度を測定した。
(4)塗膜外観
得られた硬化塗膜の外観を目視により評価した。評価基準を以下の通りとした。
◎:シワ、ヘコミ等の発生が認められない。
〇:シワ、ヘコミ等の発生がほとんど認められない。
△:シワ、ヘコミ等の発生が少し認められる。
×:シワ、ヘコミ等の発生が多数に認められる。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
表1及び表2より、実施例の水性クリヤー塗料組成物によって得られたクリヤー塗膜は、タレが充分に抑制されており、外観性能が良好であった。
これに対して、比較例の水性クリヤー塗料組成物によって得られたクリヤー塗膜は、タレが充分に抑制されていないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の水性クリヤー塗料組成物及びクリヤー塗膜形成方法は、自動車車体、自動車部品、特殊車両等の塗装に適した方法であり、これによってクリヤー塗料において要求される各種物性を維持したままで、タレの抑制を行うことができ、これによって優れた外観を有するクリヤー塗膜を形成することができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、水性アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含有することを特徴とする水性クリヤー塗料組成物。
【請求項2】
不飽和結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物は、(メタ)アクリレート基を有する化合物である請求項1の水性クリヤー塗料組成物。
【請求項3】
ポリイソシアネート化合物は、ブロックポリイソシアネートである請求項1又は2記載の水性クリヤー塗料組成物。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の水性クリヤー塗料組成物を被塗装物に対して塗布する工程(工程1)、
工程1によって得られた未硬化塗膜に対して、略垂直面から活性エネルギー線を照射する工程(工程2)、及び、
工程2を行った後の被塗物を加熱することによって硬化させる工程(工程3)
からなることを特徴とするクリヤー塗膜形成方法。
【請求項5】
工程2を行った後の塗膜の粘度は、2000〜500000mPa・sである請求項4記載のクリヤー塗膜形成方法。
【請求項6】
工程1の前に、硬化させた電着塗膜層上に中塗り塗料を塗布し、これを加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程(A−1)、及び、前記複層塗膜上にベース塗料を塗布する工程(A−2)を更に含む請求項4又は5記載のクリヤー塗膜形成方法。
【請求項7】
工程1の前に、未硬化電着塗膜上に中塗り塗料を塗布し、これらを加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程(B−1)、及び、前記複層塗膜上にベース塗料を塗布する工程(B−2)を更に含む請求項4又は5記載のクリヤー塗膜形成方法。
【請求項8】
工程3の後、更にダブルクリヤー塗料を塗布する工程(C)を含む請求項4、5、6又は7記載のクリヤー塗膜形成方法。
【請求項9】
被塗装物は、自動車車体又は自動車組み付け部品であり、請求項4、5、6、7又は8記載の方法により塗装される塗装物。

【公開番号】特開2007−2048(P2007−2048A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181784(P2005−181784)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】