説明

水性塗料

【課題】耐水性に優れ、缶用塗料、特に缶胴部の内面塗料として使用する場合にはフレーバー性と密着性及び加工性を兼ね備えた塗膜を形成し得る水性塗料を提供すること。
【解決手段】変性エポキシ樹脂(A)と塩基性化合物(B)の存在下で、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)を共重合してなるポリマーを含むことを特徴とする水性塗料。好ましくは、変性エポキシ樹脂(A)が、カルボキシル基含有モノマーと、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)とを共重合してなるポリマー(D)と、エポキシ樹脂(E)とを塩基性化合物(B)の存在下で反応させてなる水性塗料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属缶に好適に使用される水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、缶の内面には内容物からの腐食を防止し、かつ内容物のフレーバーを損なわないよう塗装が施されている。そのため、缶用塗料には加工性、耐内容物性、塗膜物性等の諸物性が求められ、これまで芳香族系エポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物を溶剤に溶解させた塗料等の溶剤系塗料が多く用いられてきた。
【0003】
しかし、省資源、省エネルギー、あるいは環境保全等の観点から水性の金属用の塗料が検討されており、樹脂自体が水性の媒体に溶解ないし分散しない芳香族系エポキシ樹脂を主成分とする塗料についても種々の提案がなされている。例えば、芳香族系エポキシ樹脂を、界面活性剤を用いて水中に分散させる方法が知られているが、界面活性剤の作用により塗料の貯蔵安定性や塗膜物性に悪影響を及ぼす傾向がある。
【0004】
そこで、界面活性剤を用いずに芳香族系エポキシ樹脂を水性化する方法として、一分子
中にカルボキシル基とエポキシ基とを併せ持つ、いわゆる自己乳化型芳香族系エポキシ樹
脂なども種々提案されてきている。
【0005】
例えば、特許文献1および特許文献2には、カルボキシル基を有するアクリル系樹脂中のカルボキシル基の一部と芳香族系エポキシ樹脂中のエポキシ基の一部とを三級アミン類の存在下にエステル反応せしめ変性エポキシ樹脂を得(エステル化法)、次いで係る変性エポキシ樹脂中に残存する過剰のカルボキシル基をアンモニアもしくはアミン類等の塩基性化合物で中和せしめることによって変性エポキシ樹脂を水性媒体中に安定に分散し得ることが示されている。
【0006】
また、特許文献3および特許文献4には、芳香族系エポキシ樹脂中のエポキシ基の一部を、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基とエチレン性不飽和基とを併せ持つモノマー中のカルボキシル基と反応せしめ、一分子中にエポキシ基とエチレン性不飽和基とを併せ持つ化合物を得、係る化合物を、エチレン性不飽和基を有する種々のモノマーと(メタ)アクリル酸との混合物と共重合し(直接重合法)、得られる共重合体、即ち変性エポキシ樹脂中のカルボキシル基をアンモニアもしくはアミン類等の塩基性化合物で中和することによって変性エポキシ樹脂を水性媒体中に安定に分散し得ることが開示されている。
【0007】
さらに、特許文献5には、芳香族系エポキシ樹脂の存在下でベンゾイルパーオキサイドなどのフリーラジカル発生剤を用いて(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基とエチレン性不飽和基とを併せ持つモノマーを含む種々のエチレン性不飽和基含有モノマーの混合物を共重合することにより、アクリル共重合体が芳香族系エポキシ樹脂にグラフトしてなる変性エポキシ樹脂(グラフト法)を、アンモニアもしくはアミン類等の塩基性化合物で中和することによって水性媒体中に安定に分散し得ることが示されている。
【0008】
上記方法により得られる変性エポキシ樹脂は、いずれも変性エポキシ樹脂自身が水に対する分散性を有する自己乳化型であり、塗料として用いた場合、その塗膜は界面活性剤を含まないので、化学的性能、耐水性等が優れている。しかしながら、上記自己乳化型エポキシ樹脂は、いずれもエポキシ樹脂が本来持つ耐食性、加工性が良好である等の性能をアクリル樹脂に由来する部分が損ないやすいという欠点を有していた。
【0009】
また、芳香族系エポキシ樹脂と同等の密着性を有する樹脂として、例えば、乳化重合法により合成したエマルジョン型アクリル樹脂がある。乳化重合法で合成したエマルジョン型アクリル樹脂は、一般に、溶液重合法で合成したアクリル樹脂と比べ、非常に高分子量になることが知られており、これにより、加工性、密着性が得られると考えられる。
しかし、一般に乳化重合法には、通常、乳化剤として界面活性剤が用いられるので、硬化塗膜中に界面活性剤が含まれることとなる。この界面活性剤が硬化塗膜の耐レトルト性悪化の原因となるので、現状では、界面活性剤を用いた乳化重合法により合成したエマルジョン型アクリル樹脂を缶内面被覆用塗料に使用するには至っていない。
【0010】
そこで、カルボキシル基含有成分の存在下、水媒体中においてエチレン性不飽和モノマーをラジカル重合してポリマーエマルジョンを得る方法が提案された(特許文献6参照)。即ち、特許文献6には、カルボキシル基を有する水性樹脂の存在下に、アクリル系モノマーの水性分散体を滴下重合してなる、ソープフリー型アクリル樹脂エマルジョンが缶用水性塗料に用い得る旨記載されており、上記水性塗料は、加工性、密着性、耐煮沸性に優れる塗膜を形成し得るとされる。しかし、上記水性塗料は、芳香族系エポキシ樹脂を主成分とする塗料と比較すると、加工性、耐食性の点において劣るという欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭53−14963号公報
【特許文献2】特開昭55−9433号公報
【特許文献3】特開昭57−105418号公報
【特許文献4】特開昭58−198513号公報
【特許文献5】特開昭53−1228号公報
【特許文献6】特開2008−255204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、自己乳化型エポキシ樹脂及びソープフリー型アクリル樹脂エマルジョンが持つ種々の欠点を改善し、耐レトルト性、加工性、密着性、耐腐食性に優れる塗膜を形成し得る、缶内面被覆用として好適に用いられる水性塗料及びそれを用いて缶内面を被覆してなる被覆缶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題に対し、本発明者らが研究を重ねた結果、変性エポキシ樹脂の存在下、水媒体中においてエチレン性不飽和モノマーを共重合してなるポリマーエマルジョンが、実質的に界面活性剤を使用することなく、耐レトルト性、加工性、密着性、耐腐食性に優れる塗膜を形成することが可能であり、缶内面被覆用水性塗料に好適に使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本願において、第1の発明は、変性エポキシ樹脂(A)の存在下で、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)を共重合してなるポリマー(F)を含むことを特徴とする水性塗料に関する。
【0015】
第2の発明は、変性エポキシ樹脂(A)が、カルボキシル基含有モノマーと、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)とを共重合してなるポリマー(D)と、エポキシ樹脂(E)とを塩基性化合物(B)の存在下で反応させてなることを特徴とする上記発明の水性塗料に関する。
【0016】
第3の発明は、エポキシ樹脂(E)が、エポキシ当量1500〜3500g/eqで、重量平均分子量7000〜15000であることを特徴とする上記発明の水性塗料に関する。
【0017】
第4の発明は、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)100重量部に対して、変性エポキシ樹脂(A)を20〜70重量部用いてなることを特徴とする上記発明の水性塗料に関する。
【0018】
第5の発明は、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)が、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリルアミドからなる群より選択されるモノマーを1種以上含有することを特徴とする上記発明の水性塗料に関する。
【0019】
第6の発明は、少なくともフェノール樹脂またはアミノ樹脂のいずれか一方を含むことを特徴とする上記発明の水性塗料。
【0020】
第7の発明は、金属と、上記発明の水性塗料から形成されてなる塗膜とを有する塗装金属板に関する。
【0021】
第8の発明は、缶体内面に、上記発明の水性塗料から形成されてなる塗膜を有する金属缶に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、衛生性に優れ、耐レトルト性、加工性、密着性に優れ、かつ飲料物の香り、味の変化を引き起こさない塗膜を形成し得る、缶内面被覆用として好適に使用でき、安定性に優れる水性塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の水性塗料は、界面活性剤を用いる代わりに、変性エポキシ樹脂(A)を高分子乳化剤として用い、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)を共重合してなるポリマーを含むことを特徴とするものである。
【0024】
次に、本発明で使用する各種成分について詳細に説明する。
<変性エポキシ樹脂(A)>
変性エポキシ樹脂(A)は、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)に対し、乳化剤成分として機能するものである。
変性エポキシ樹脂(A)は、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)を共重合する際にこれらを液滴としたモノマー滴を形成したり、変性エポキシ樹脂(A)からなるミセル内にエチレン性不飽和基含有モノマー(C)を可溶化したりし、共重合開始剤から発生するラジカルをミセル内に取り込んだ状態で重合を開始させる。つまり、変性エポキシ樹脂(A)は、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)に、水中での重合の場を提供するものである。従って変性エポキシ樹脂(A)は、重合速度や分子量、粒子の大きさ、エマルジョンの安定性、塗膜物性等に大きく影響するので、本発明にとって最も重要な成分の1つとして位置づけられる。
【0025】
変性エポキシ樹脂(A)は、溶剤中でカルボキシル基含有モノマーと、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)とを共重合し、得られたポリマー(D)とエポキシ樹脂(E)とを塩基性化合物(B)の存在下で反応させることで得ることが好ましい。
【0026】
エポキシ樹脂(E)は、エポキシ当量が1500〜8000g/eqが好ましく、2500〜3500g/eqがより好ましい。また重量平均分子量は7000〜20000が好ましく、8000〜15000がより好ましい。エポキシ当量が1500g/eq未満では変性エポキシ樹脂(A)の水溶液ないしエマルジョンの安定性が劣り、乳化剤成分としての機能が低下する。エポキシ当量が8000g/eqを超えると変性エポキシ樹脂(A)の水溶液ないしエマルジョンの粘度が高くなったりゲル化しやすくなったりする。また、エポキシ樹脂の重量平均分子量が7000未満の場合や20000より大きな場合も、変性エポキシ樹脂(A)の水溶液ないしエマルジョンのゲル化が起こりやすくなる。
【0027】
変性エポキシ樹脂(A)は、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)100重量部に対して、20〜70重量部用いることが好ましい。変性エポキシ樹脂(A)が、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)100重量部に対して20重量部よりも少ない場合、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)が安定的に重合されず凝集物が発生する恐れがある。また、変性エポキシ樹脂(A)が、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)100重量部に対して70重量部よりも多い場合、焼き付け硬化後の塗膜の加工性があまり期待できない。
【0028】
カルボキシル基含有モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸〔「アクリル酸」と「メタクリル酸」とを併せて「(メタ)アクリル酸」と表記する。以下同様。〕、イタコン酸、マレイン酸等のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和基含有モノマー、無水イタコン酸、無水マレイン酸等の酸無水物基を有するエチレン性不飽和基含有モノマーが挙げられる。
【0029】
エチレン性不飽和基含有モノマー(C)の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和基含有モノマー、スチレン、メチルスチレン等の芳香族系モノマー、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−、イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリルアミド等のアミド系モノマーが挙げられる。
【0030】
ポリマー(D)は、カルボキシル基含有モノマーと、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)とをラジカル重合性開始剤を用いて共重合して得ることが好ましい。ポリマー(D)の重量平均分子量は10000〜60000であることが好ましく、20000〜50000であることがより好ましい。ポリマー(D)の重量平均分子量が10000未満の場合や60000より大きな場合、ポリマー(D)と、エポキシ樹脂(E)とを反応させてなる変性エポキシ樹脂(A)の水溶液ないしエマルジョンのゲル化が起こりやすくなる。
【0031】
変性エポキシ樹脂(A)の酸価は30〜300mgKOH/gであることが好ましく、50〜150mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が30mgKOH/gより小さいと乳化力が低下し、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)の共重合が不安定になったり、変性エポキシ樹脂(A)を水溶化もしくは水分散化することが困難となったりする恐れがある。また、酸価が300mgKOH/gより大きい場合には、得られる塗膜の耐水性が低下する傾向にある。
【0032】
<塩基性化合物(B)>
塩基性化合物(B)は、ポリマー(D)と、エポキシ樹脂(E)とを反応させるために用いられ、さらに、変性エポキシ樹脂(A)中のカルボキシル基の一部ないし全部が塩基性化合物(B)により中和されることで、変性エポキシ樹脂(A)が水溶化ないし水に分散することができる。
【0033】
塩基性化合物(B)としては、有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等が挙げられるが、有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
これら塩基性化合物(B)は、変性エポキシ樹脂(A)中のカルボキシル基100モル%に対して、30〜100モル%使用することが好ましい。
【0034】
<ポリマー(F)>
ポリマー(F)は、変性エポキシ樹脂(A)の存在下で、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)を共重合して得ることが好ましい。またポリマー(F)はエマルションの形態をとることが好ましい。
エチレン性不飽和基含有モノマー(C)は、上述の通りに例示したモノマーを用いることができるが、その中でも、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリルアミドからなる群より選択されるモノマーを1種以上含有することが好ましい。これらのモノマーは、いずれも自己架橋性モノマーであり、加熱や、酸性条件下で容易に自己縮合し得る。また、カルボキシル基や水酸基の存在下では、それらの官能基とも反応することが知られている。即ち、上記モノマーを含有するエチレン性不飽和基含有モノマー(C)を共重合してなるポリマーエマルジョンは、その粒子内に自己架橋性を有することができる。本発明で、上記モノマーを含有するエチレン性不飽和基含有モノマー(C)を共重合してなるポリマー(F)のエマルジョンの架橋反応は、共重合時及び塗装時の焼付工程において進行する。共重合時の架橋反応は、エマルジョン粒子内の高分子量化、三次元構造化に寄与し、得られる塗膜の加工性や耐食性を向上させる。また、焼付工程においてはポリマー(F)間の架橋に寄与し、造膜性を向上させて強固な塗膜を形成することができる。また、ポリマー(F)の合成には、物性を阻害しない範囲であれば、上記カルボキシル基含有モノマーを用いて良い。
【0035】
本発明の水性塗料には、塗膜の硬化性や密着性を向上させる目的で、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコールの誘導体等を1種以上添加することができる。
フェノール樹脂やアミノ樹脂は、自己架橋反応する他、変性エポキシ樹脂(A)中のカルボキシル基と反応し得る。また、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)から形成されるポリマー(F)が水酸基を有する場合には、フェノール樹脂やアミノ樹脂は、それらの水酸基とも反応し得る。さらに、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)がアミド系モノマーに由来する架橋性官能基を有する場合は、これら架橋性官能基とも反応し得る。
【0036】
本発明において用いられるフェノール樹脂としては、石炭酸、m−クレゾール、3,5−キシレノール等の三官能フェノール化合物や、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール等の二官能フェノール化合物とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で反応させたもの等を挙げることができる。
本発明において用いられるアミノ樹脂としては、尿素やメラミン、ベンゾグアナミンにホルマリンを付加反応させたもの等を挙げることができる。
フェノール樹脂やアミノ樹脂は、ポリマー(F)100重量部に対して、0.5〜20重量部添加することが好ましく、1〜10重量部添加することがより好ましい。
【0037】
本発明の水性塗料には、必要に応じて、製缶工程における塗膜の傷付きを防止する目的で、ワックス等の滑剤を添加することもできる。
ワックスとしては、カルナバワックス、ラノリンワックス、パーム油、キャンデリラワックス、ライスワックス等の動植物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス、ポリオレフィンワックス、テフロン(登録商標)ワックス等の合成ワックス等が好適に用いられる。
【0038】
本発明の水性塗料には、塗装性を向上させる目的で、親水性有機溶剤を添加することが出来る。
親水性有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、エチレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、1,3−ブチレングリコール−3−モノメチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジヘキシルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、プロピレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル等の各種エーテルアルコール類ないしはエーテル類;
メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、フルフリルアルコール等のアルコール類;
メチルエチルケトン、ジメチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトン類;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアルコキシエステル類等が挙げられ、これらは1種類のみを用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0039】
その他、本発明の水性塗料には、物性を低下させない範囲内で疎水性有機溶剤や、界面活性剤、消泡剤等の各種助剤を添加することも出来る。
【0040】
本発明の水性塗料は、一般の金属素材ないし金属製品等にも広く用いることもできるが、特に飲料や食品を収容する缶の内外面被覆用塗料として好適に用いられ、特に缶内面被覆用に好適である。
缶の素材としては、アルミニウム、錫メッキ鋼板、クロム処理鋼板、ニッケル処理鋼板等が用いられ、これらの素材はジルコニウム処理や燐酸処理等の表面処理を施される場合がある。
【0041】
一般に、飲料や食品を収容する缶は、缶蓋、缶胴、缶底からなる3ピース缶と、缶底と缶胴が一体の2ピース缶に大別され、3ピース缶は金属板に塗料が塗装された後に各々加工されるのに対し、2ピース缶は金属板が加工され缶胴が形成された後に塗料が塗装される。
本発明の水性塗料は、2ピース缶の缶胴及び缶底部に塗装されることが好ましく、そのため、塗装方法としては、エアースプレー、エアレススプレー、静電スプレー等のスプレー塗装が好ましいが、3ピース缶の塗装に用いられるロールコーター塗装や、その他浸漬塗装、電着塗装等でも塗装することが出来る。
本発明の水性塗料は、塗装した後、揮発成分が揮発しただけでも皮膜を形成出来るが、優れた耐レトルト性や加工性、密着性を得るためには焼き付け工程を加えた方が良い。焼き付けの条件としては、150℃〜280℃の温度で10秒〜30分間焼き付けることが好ましい。乾燥後の塗膜厚さは用途によって適宜選定すればよいが、通常1〜50μm程度が好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を説明する。例中、部とは重量部、%とは重量%をそれぞれ表す。
【0043】
[合成例1]ポリマー(D−1)の合成
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル510部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ、撹拌しながら110℃まで昇温した。反応容器内の温度を110℃に保ちながら、アクリル酸エチル90部、スチレン75部、メタクリル酸135部、過酸化ベンゾイル4部及びエチレングリコールモノブチルエーテル30部からなる混合物を滴下槽から2時間にわたって連続滴下した。
滴下終了から30分後から30分毎に計3回、過酸化ベンゾイル0.4部及びエチレングリコールモノブチルエーテル4部をそれぞれ添加し、滴下終了から2時間にわたって反応を続け、不揮発分35%、重量平均分子量33000のポリマー(D−1)を得た。
なお、重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定し、ポリスチレン換算での数平均分子量を算出した。
【0044】
[合成例2]ポリマー(D−2)の合成
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル440部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ、撹拌しながら110℃まで昇温した。反応容器内の温度を110℃に保ちながら、アクリル酸エチル90部、スチレン75部、メタクリル酸135部、過酸化ベンゾイル20部及びエチレングリコールモノブチルエーテル30部からなる混合物を滴下槽から2時間にわたって連続滴下した。
滴下終了から30分後から30分毎に計3回、過酸化ベンゾイル2部及びエチレングリコールモノブチルエーテル20部をそれぞれ添加し、滴下終了から2時間にわたって反応を続け、不揮発分35%、重量平均分子量10000のポリマー(D−2)を得た。
【0045】
[合成例3]ポリマー(D−3)の合成
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル153部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ、撹拌しながら110℃まで昇温した。反応容器内の温度を110℃に保ちながら、アクリル酸エチル90部、スチレン75部、メタクリル酸135部、過酸化ベンゾイル4部及びエチレングリコールモノブチルエーテル30部からなる混合物を滴下槽から2時間にわたって連続滴下した。
滴下終了から30分後から30分毎に計3回、過酸化ベンゾイル0.4部及びエチレングリコールモノブチルエーテル4部をそれぞれ添加し、滴下終了から2時間にわたって反応を続け、エチレングリコールモノブチルエーテル357部を添加して不揮発分35%、重量平均分子量60000のポリマー(D−3)を得た。
【0046】
[合成例4]変性エポキシ樹脂(A−1)の合成
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エポキシ樹脂としてJER1009(ジャパンエポキシレジン(株)社製、エポキシ当量2950)50部及び合成例1で得られたポリマー(D−1)溶液95部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ、撹拌しながら120℃まで昇温し、エポキシ樹脂を溶解させた。その後、100℃まで冷却し、反応容器内の温度を100℃に保ちながら50%ジメチルアミノエタノール水溶液15部を添加し、2時間にわたって撹拌した。
その後、イオン交換水200部を添加し、不揮発分25%の変性エポキシ樹脂(A−1)分散体を得た。
【0047】
[合成例5]変性エポキシ樹脂(A−2)の合成
合成例1で得られたポリマー(D−1)溶液の代わりに、合成例2で得られたポリマー(D−2)溶液を用いた以外は、合成例4と同様の方法で、不揮発分25%の変性エポキシ樹脂(A−2)分散体を得た。
【0048】
[合成例6]変性エポキシ樹脂(A−3)の合成
合成例1で得られたポリマー(D−1)溶液の代わりに、合成例2で得られたポリマー(D−3)溶液を用いた以外は、合成例4と同様の方法で、不揮発分25%の変性エポキシ樹脂(A−3)分散体を得た。
【0049】
[比較合成例1]カルボキシル基を有するポリエステルの合成
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器にイソフタル酸30部、1,4−ジシクロヘキサンジカルボン酸27部、エチレングリコール17部、ジエチレングリコール13部、トリメチロールプロパン13部を仕込み、常圧、窒素雰囲気下で撹拌して、昇温しながら脱水を行い、ゆっくりと230℃まで加熱した。その後、230℃で30分間減圧を行った。その後、180℃まで降温させてから、無水トリメリット酸24部を加え、常圧、窒素雰囲気下で1時間撹拌し、数平均分子量約1000、酸価225mgKOH/gのカルボキシル基を有するポリエステルを得た。
次に、ジメチルエタノールアミン4.2部を添加して、10分間撹拌した後、イオン交換水270部を加えて撹拌し、不揮発分が25%のカルボキシル基を有するポリエステル水溶液を得た。
【0050】
[比較合成例2]カルボキシル基含有アクリル系共重合体の合成
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル100部、イオン交換水100部を仕込んで、90℃まで昇温した。反応容器内の温度を90℃に保ちながら、メタクリル酸96部、スチレン52部、アクリル酸エチル42部、N−ブトキシメチルアクリルアミド10部及び過酸化ベンゾイル2部からなる混合物を滴下槽から4時間にわたって連続滴下した。
滴下終了から1時間後及び2時間後に過酸化ベンゾイル0.2部をそれぞれ添加し、滴下終了から3時間にわたって反応を続け、数平均分子量45000、ガラス転移温度73℃、酸価312mgKOH/gのアクリル系共重合体の溶液(不揮発分50%)を得た。
次に、ジメチルエタノールアミン29.8部を添加して、10分間撹拌した後、イオン交換水368.2部を加えて水溶化せしめ、不揮発分25%のカルボキシル基を有する水性アクリル共重合体の水溶液を得た。
【0051】
[実施例1]
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例4で得られた変性エポキシ樹脂(A−1)分散体140部、イオン交換水107部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ、撹拌しながら70℃まで昇温した。
次に、滴下槽1にスチレン55.5部、アクリル酸エチル22.1部、N−ブトキシメチルアクリルアミド4.1部を仕込み、滴下槽2に1%過酸化水素水2.0部を、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液2.6部をそれぞれ仕込み、夫々同時に2時間かけて反応容器内の温度を70℃に保ちながら、撹拌下に滴下した。
滴下終了から1時間後に、1%過酸化水素水0.8部及び1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液1.0部をそれぞれ添加し、滴下終了から1時間にわたって撹拌し、ポリマーエマルジョンを得た。
その後、イオン交換水90部、n−ブタノール19.3部、エチレングリコールモノブチルエーテル23.6部を添加し、5μmのフィルターで濾過して内容物を取り出し、不揮発分が23%の水性塗料(1)を得た。
【0052】
[実施例2]
合成例4で得られた変性エポキシ樹脂(A−1)分散体の代わりに、合成例5で得られた変性エポキシ樹脂(A−2)分散体を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、不揮発分が23%の水性塗料(2)を得た。
【0053】
[実施例3]
合成例4で得られた変性エポキシ樹脂(A−1)分散体の代わりに、合成例6で得られた変性エポキシ樹脂(A−3)分散体を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、不揮発分が23%の水性塗料(3)を得た。
【0054】
[実施例4]
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例4で得られた変性エポキシ樹脂(A−1)分散体77.8部、イオン交換水153部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ、撹拌しながら70℃まで昇温した。
次に、滴下槽1にスチレン66.1部、アクリル酸エチル26.3部、N−ブトキシメチルアクリルアミド4.9部を仕込み、滴下槽2に1%過酸化水素水2.4部を、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液3.0部をそれぞれ仕込み、夫々同時に2時間かけて反応容器内の温度を70℃に保ちながら、撹拌下に滴下した。
滴下終了から1時間後に、1%過酸化水素水1.0部及び1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液1.2部をそれぞれ添加し、滴下終了から1時間にわたって撹拌し、ポリマーエマルジョンを得た。
その後、イオン交換水90部、n−ブタノール19.3部、エチレングリコールモノブチルエーテル23.6部を添加し、5μmのフィルターで濾過して内容物を取り出し、不揮発分が23%の水性塗料(4)を得た。
【0055】
[実施例5]
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、合成例4で得られた変性エポキシ樹脂(A−1)分散体192部、イオン交換水69部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ、撹拌しながら70℃まで昇温した。
次に、滴下槽1にスチレン46.7部、アクリル酸エチル18.5部、N−ブトキシメチルアクリルアミド3.4部を仕込み、滴下槽2に1%過酸化水素水1.7部を、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液2.1部をそれぞれ仕込み、夫々同時に2時間かけて反応容器内の温度を70℃に保ちながら、撹拌下に滴下した。
滴下終了から1時間後に、1%過酸化水素水0.7部及び1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.9部をそれぞれ添加し、滴下終了から1時間にわたって撹拌し、ポリマーエマルジョンを得た。
その後、イオン交換水90部、n−ブタノール19.3部、エチレングリコールモノブチルエーテル23.6部を添加し、5μmのフィルターで濾過して内容物を取り出し、不揮発分が23%の水性塗料(5)を得た。
【0056】
[実施例6]
実施例1で得た水性塗料(1)90部の撹拌下に「PR−C−101」(住友ベークライト(株)製、フェノール樹脂)の20%ブタノール溶液1部を添加し、5μmのフィルターで濾過して内容物を取り出し、不揮発分が23%の水性塗料(6)を得た。
【0057】
[比較例1]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、比較合成例1で得られたカルボキシル基を有するポリエステル水溶液120部、イオン交換水95部を仕込み、常圧、窒素雰囲気下で撹拌しながら90℃まで昇温した。
次に、滴下槽1にスチレン35部、アクリル酸エチル27.5部、N−ブトキシメチルアクリルアミド7.5部からなる混合物を仕込み、滴下槽2にベンゾイルパーオキサイド0.2部をトルエン6部に溶解せしめたものを仕込み、夫々同時に3時間かけて反応容器内の温度を90℃に保ちながら、撹拌下に滴下してポリマーエマルジョンを得た。
その後、イオン交換水109部、n−ブタノール50部、エチレングリコールモノブチルエーテル50部を添加し、5μmのフィルターで濾過して内容物を取り出し、不揮発分が20%の水性塗料(比較例1)を得た。
【0058】
[比較例2]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、比較合成例2で得られたカルボキシル基含有アクリル共重合体水溶液120部、イオン交換水88.9部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ、撹拌しながら70℃まで昇温した。
次に、滴下槽1にスチレン39.0部、アクリル酸エチル23.5部、N−ブトキシメチルアクリルアミド7.5部を仕込み、滴下槽2に1%過酸化水素水3.0部を、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液3.8部をそれぞれ仕込み、夫々同時に3時間かけて反応容器内の温度を70℃に保ちながら、撹拌下に滴下してポリマーエマルジョンを得た。
その後、イオン交換水114.3部、n−ブタノール50部、エチレングリコールモノブチルエーテル50部を添加し、5μmのフィルターで濾過して内容物を取り出し、不揮発分が20%の水性塗料(比較例2)を得た。
【0059】
[塗膜の評価]
実施例1〜6、比較例1〜2で得た各塗料を、厚さ0.26mmのアルミ板に、乾燥膜厚が5〜6μmになるように塗工し、ガスオーブンを用い雰囲気温度200℃で2分間焼き付け、評価用テストパネルを得て、以下の評価項目により塗膜の性能を評価した。結果を表1に示す。
各評価の方法を以下に説明する。
【0060】
<塗膜の外観>
テストパネルの外観を目視で評価する。
◎:塗膜が平滑で、ブツや発泡がない。
○:僅かに微細なブツがあるが、実用上、問題ない。
△:塗膜にブツが多く、実用上、問題あり。
×:塗膜の全面に、著しくブツがある。
【0061】
<硬化性>
2ポンドハンマーにガーゼを巻き、メチルエチルケトンを含浸させ、テストパネルの塗膜上を往復させ、下地のアルミが露見するまでの回数を求める。
◎:200回以上
○:100回以上200回未満
△:50回以上100回未満
×:50回未満
【0062】
<鉛筆硬度>
JIS K5400に準拠し、常温で評価した。評価基準は、塗膜が剥離しない最高硬度を表示した。
◎:5H以上
○:3H−4H
△:H−2H
×:F以下
【0063】
<加工性>
テストパネルを大きさ30mm×50mmに切断し、塗膜を外側にして、試験部位が30mmの幅になるように手で予め折り曲げ、この2つ折りにした試験片の間に厚さ0.26mmのアルミ板を3枚はさみ、1kgの荷重を高さ40cmから折り曲げ部に落下させて完全に折り曲げた。
次いで、試験片の折り曲げ先端部を濃度1%の食塩水中に浸漬させ、試験片の食塩水中に浸漬されていない金属部分と、食塩水との間を6.0V×6秒通電した時の電流値を測定した。塗膜の加工性が乏しい場合、折り曲げ加工部の塗膜がひび割れて、下地の金属板が露出して導電性が高まるため、高い電流値が得られる。
◎:10mA未満
○:10mA以上20mA未満
△:20mA以上50mA未満
×:50mA以上
【0064】
<レトルト後の加工性>
テストパネルを水に浸漬したまま、レトルト釜で130℃−1時間レトルト処理を行った。処理したテストパネルを用いて、上記<加工性>と同様にして、電流値を測定した。
◎:20mA未満
○:20mA以上50mA未満
△:50mA以上70mA未満
×:70mA以上
【0065】
<耐食性>
上記<加工性>と同様のテストパネルを市販の炭酸飲料に浸漬したまま、37℃で2週間静置し、取り出した後、塗膜を外側にして、試験部位が30mmの幅になるように手で折り曲げた。
次いで、試験片の折り曲げ先端部を濃度1%の食塩水中に浸漬させ、試験片の食塩水中に浸漬されていない金属部分と、食塩水との間を6.0V×6秒通電した時の電流値を測定した。塗膜の耐食性が乏しい場合、折り曲げ加工部の塗膜がひび割れて、下地の金属板が露出して導電性が高まるため、高い電流値が得られる。
◎:20mA未満
○:20mA以上30mA未満
△:30mA以上50mA未満
×:50mA以上
【0066】
<耐レトルト密着性>
テストパネルを水に浸漬したまま、レトルト釜で130℃−1時間レトルト処理を行った。その塗膜面にカッターにてクロスカットをした後、セロハン粘着テープを貼着し、剥離したのちの塗膜面の評価を行った。
◎:全く剥離なし
○:5%未満の剥離あり
△:5〜50%の剥離あり
×:50%を超える剥離あり
【0067】
<耐レトルト白化>
テストパネルを水に浸漬したまま、レトルト釜で130℃−1時間レトルト処理を行い、塗膜の外観について目視で評価した。
◎:未処理の塗膜と変化なし
○:ごく薄く白化
△:やや白化
×:著しく白化
【0068】
<水フレーバー性>
各水性塗料を厚さ0.1mmのアルミ箔に両面塗工し200℃−2分間加熱して硬化させ(膜厚5〜6μm)、得られたテストパネルを10cm×25cm(両面500cm2)の大きさに切断する。この切断後のテストパネルを活性炭処理した水道水500gとともに耐熱瓶に入れ密栓し、125℃−30分のレトルト処理を行い、その後、水フレーバー性試験を実施する。水フレーバー性試験の比較対照として、テストパネルを入れない水道水についてもブランクとして同時にレトルト処理する。
◎:無味
○:僅かに味がする
△:味がする
×:かなり味がする
【0069】
【表1】

【0070】
表1の結果より、変性エポキシ樹脂(A)の存在下で、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)を共重合してなるポリマー(F)を含む実施例1〜6の水性塗料は、エポキシ樹脂の物性に由来して加工性、レトルト後の加工性、耐食性が良好であり、硬化性、鉛筆硬度、耐レトルト密着性も良好であったのに対し、エポキシ樹脂を含まない比較例1〜2は加工性、耐食性、耐レトルト密着性が実施例に比べて劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性エポキシ樹脂(A)の存在下で、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)を共重合してなるポリマー(F)を含むことを特徴とする水性塗料。
【請求項2】
変性エポキシ樹脂(A)が、カルボキシル基含有モノマーと、エチレン性不飽和基含有モノマー(C)とを共重合してなるポリマー(D)と、エポキシ樹脂(E)とを塩基性化合物(B)の存在下で反応させてなることを特徴とする請求項1記載の水性塗料。
【請求項3】
エポキシ樹脂(E)が、エポキシ当量1500〜8000g/eqで、重量平均分子量7000〜20000であることを特徴とする請求項2記載の水性塗料。
【請求項4】
エチレン性不飽和基含有モノマー(C)100重量部に対して、変性エポキシ樹脂(A)を20〜70重量部用いてなることを特徴とする請求項2または3記載の水性塗料。
【請求項5】
エチレン性不飽和基含有モノマー(C)が、N−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリルアミドからなる群より選択されるモノマーを1種以上含有することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の水性塗料。
【請求項6】
さらに、少なくともフェノール樹脂またはアミノ樹脂のいずれか一方を含むことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の水性塗料。
【請求項7】
金属と、請求項1〜6いずれか記載の水性塗料から形成されてなる塗膜とを有する塗装金属板。
【請求項8】
缶体内面に、請求項1〜6いずれか記載の水性塗料から形成されてなる塗膜を有する金属缶。

【公開番号】特開2011−202039(P2011−202039A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71215(P2010−71215)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】