説明

水性樹脂分散体の製造方法

【課題】脂肪酸変性ポリウレタン樹脂及び重合性不飽和モノマーを含む混合物を乳化重合して水性樹脂分散体を安定に製造する方法を提供することにあり、さらに1液型でありながら常温でも容易に硬化させることができ、しかも透明性、光沢、仕上り性(肉持ち感)に優れ、耐水性、耐候性、耐久性、耐食性等の性能にも優れた硬化被膜を形成できる水性樹脂組成物及び水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)、重合性不飽和モノマー(B)及び乳化剤(C)を含む混合物(I)を、水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られる乳化物を重合させることを特徴とする分散樹脂粒子の平均粒子径が500nm以下である水性樹脂分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性樹脂分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料、インキ、接着剤等の分野では、省資源、環境衛生、無公害、非危険物化等の観点から、有機溶剤型の組成物から水性型の組成物への転換が進められている。例えば、水性塗料組成物に使用されるビヒクルとしては、例えば、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂が挙げられる。これらの水性塗料組成物において、アルキド樹脂は、原材料として不飽和脂肪酸を用いることにより樹脂骨格中に酸化硬化基を導入することができ、それを用いた水性塗料組成物は1液常温硬化が可能となり、また、その油性から、金属面へ塗布された場合の防食性が期待できるが、その軟質な性質が塗膜の乾燥を遅らせ一般的に耐候性に弱さが見られる。他方、アクリル樹脂は、速乾性、耐候性に優れるものの防食性に劣る。これら2種の樹脂の特性を兼備した樹脂水性系材料として、アルキド樹脂とアクリル樹脂を化学反応により結合させるグラフト樹脂などが開発され数多く提案されている。例えば、特許文献1〜3には、非共役二重結合を有する不飽和脂肪酸にα,β−エチレン性不飽和酸のグリジシルエステルを反応させて得られる脂肪酸変性モノマー及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸などの不飽和モノマーを有機溶剤中で共重合し、得られる樹脂中のカルボキシル基を塩基性物質で中和した後に水で希釈することにより、樹脂の水溶化物もしくは水分散化物を製造する方法が開示されている。しかし、該方法により製造される親水性樹脂は、溶液重合を経由するために生成重合体が有機溶剤に溶解することが必要であって、高分子量化することが一般に困難であり、また、生成重合体を水溶化もしくは水分散化するためには、カルボキシル基や水酸基等の親水性基を有するモノマー又は乳化剤を多量に使用しなければならず、その結果、生成重合体を用いて形成される塗膜は耐水性が不十分であるという問題がある。
【0003】
また、特許文献4には、界面活性剤及び/又は高分子保護コロイドを用い、乾性油脂肪酸又は半乾性油脂肪酸とα,β−エチレン性不飽和酸グリシジルエステルとの反応により得られる脂肪酸変性モノマーを含むラジカル重合可能なモノマー混合物を乳化重合して酸化重合型水性エマルションを製造することが開示されている。
【0004】
ところで、乳化重合物の生成機構は、水相にある大きなモノマー滴からモノマーが水中を拡散し、界面活性剤が作るミセル中で重合が進行し重合体粒子(重合している小粒子)が生成することからなるものである。この場合、重合に用いられるモノマーは、重合を行う条件下でモノマー滴から重合体粒子へ水中を拡散して移動し供給されなければならない。
【0005】
一般に、モノマー滴と、ミセルから成長してゆく重合体粒子との間には大きな粒子径差がある。このことはモノマー滴全表面積と重合体粒子の全表面積に大きな差があることを意味し、従って、開始剤ラジカルや水中を拡散するモノマーは、表面積の大きな方、すなわち重合体粒子に侵入し、そこで重合が進行する。乳化重合法では、重合体粒子は徐々に粒子径が大きくなりながら成長する。
【0006】
上記の脂肪酸変性モノマーを含むラジカル重合可能なモノマー混合物を乳化重合する場合、水への溶解性が極めて乏しい脂肪酸変性モノマーは、重合段階においてモノマー滴に取り残され、モノマー滴内で重合が進行し、脂肪酸変性モノマー単位を多く含む重合体粒子が生成し、他方、脂肪酸変性モノマー以外のモノマーは、モノマー滴からミセル内へ水中を拡散していき、そこで脂肪酸変性モノマー以外のモノマー単位を多く含む重合体粒子が生成するので、最終的に得られるエマルション中の重合体粒子には、親水性重合体粒子と疎水性重合体粒子との不均一分布が極端に生ずる可能性が大きい。従って、このような酸化重合型水性エマルションから形成される塗膜には、疎水性の重合体粒子が核となってハジキを生じたり、表面浮きして表面に粘着性が残ったり、相溶性不良から透明フィルムができず塗膜の仕上がり外観を著しく低下させる等の問題がある。
【0007】
上記の如き問題を克服するための方策として、特許文献5には、ビニルモノマーの重合生成物であるコポリマーと、疎水性のエステル又は部分エステルとを含む水系コポリマー及びその製造方法が提案されている。該公報には、重合時において、モノマー滴以外の第2世代粒子の形成を抑制させるべく、モノマー滴に乾性油酸とポリオールとからの疎水エステルを添加することが提案されている。該公報に記載の水系コポリマーは、揮発性の融合助剤を含まず透明な被膜を形成するが、特に塗布後初期段階において、乾燥性が遅く、実用上は塗膜に粘着性が残り、また、形成塗膜の耐候性及び耐水性が十分ではないなどの欠点がある。
【0008】
一方、不飽和脂肪酸に由来する酸化硬化性基をポリウレタンに組み入れる試みがなされており、例えば特許文献6、7には、木材用の水性ポリウレタン分散液が提案されている。該公報に記載の水性ポリウレタン分散液は、低温で酸化硬化可能なポリウレタンであるが、やはり(不飽和)脂肪酸を導入することで、可塑化が著しく、速乾性が不十分であり、形成塗膜の耐候性等も十分ではないなどの欠点がある。
【0009】
【特許文献1】特開昭50−126723号公報
【特許文献2】特開昭56−5863号公報
【特許文献3】特開昭60−221469号公報
【特許文献4】特開昭59−8773号公報
【特許文献5】特表2000−319525号公報
【特許文献6】特開2000−226428号公報
【特許文献7】特開平7−166130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、脂肪酸変性ポリウレタン樹脂及び重合性不飽和モノマーを含む混合物を乳化重合して水性樹脂分散体を安定に製造する方法を提供することにあり、さらに1液型でありながら常温でも容易に硬化させることができ、しかも透明性、光沢、仕上り性(艶、肉持ち感)に優れ、耐水性、耐候性、耐久性、耐食性等の性能にも優れた硬化被膜を形成できる水性樹脂組成物及び水性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)、重合性不飽和モノマー(B)及び乳化剤(C)を含む混合物(I)を、水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られる乳化物を重合させることを特徴とする分散樹脂粒子の平均粒子径が500nm以下である水性樹脂分散体の製造方法に関し、また、該水性樹脂分散体を含んでなる水性樹脂組成物及び該水性樹脂組成物を含んでなる水性塗料組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水性樹脂分散体を安定に製造することができ、しかも得られる硬化被膜は耐水性や仕上り性に優れるだけでなく、速乾性や耐候性等にも非常に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)は、通常、1分子中に水酸基を2つ以上含有する脂肪酸エステル(a1)を含むポリオール(a)と、ポリイソシアネート化合物(b)と、必要に応じてカルボキシル基含有ジオール(c)とを反応させて得られるものである。
【0014】
上記脂肪酸エステル(a1)は、1分子中に水酸基を2つ以上含有し、通常、エステル結合を介して脂肪酸に由来する構造単位を有するものであり、低分子量のものから高分子量のものまで特に制限なく、本発明方法で得られる水性樹脂分散体の用途等に応じて適宜選択することが可能である。
【0015】
例えば脂肪酸エステル(a1)として、まずグリセリンモノ脂肪酸エステルが使用できる。該グリセリンモノ脂肪酸エステルには、例えばグリセリンモノラウレート、グリセリンモノオレート、グリセリンモノステアレートなどが挙げられ、さらにグリセリンと炭素数10以上の脂肪酸とのエステル化反応、油脂とグリセリンとのエステル交換反応などにより得られるものが挙げられる。またグリシドールと脂肪酸との反応生成物であってもよい。該グリセリンモノ脂肪酸エステルは、本発明の水性樹脂分散体を建築外装上塗り塗料や金属建材に塗布される下塗り塗料、その他金属面に塗られる1コート仕上げ塗料など、耐候性、防食性、耐水性、速乾性、仕上り性等が求められる用途において使用する場合、脂肪酸エステル(a1)として好適に選択され得るものである。
【0016】
上記脂肪酸としては、炭化水素鎖の末端にカルボキシル基が結合した構造を有しているものが挙げられ、例えば、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸、不乾性油脂肪酸を挙げることができる。乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸は、厳密に区別できるものではないが、通常、乾性油脂肪酸はヨウ素価が130以上の不飽和脂肪酸であり、半乾性油脂肪酸はヨウ素価が100以上かつ130未満の不飽和脂肪酸である。他方、不乾性油脂肪酸は、通常、ヨウ素価が100未満である脂肪酸である。
【0017】
乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸としては、例えば、魚油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸、ハイジエン酸脂肪酸等が挙げられ、また、不乾性油脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、水添ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。さらに、これらの脂肪酸は、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等と併用することができる。
【0018】
グリセリンと上記脂肪酸との反応は、グリセリン中の水酸基と脂肪酸中のカルボキシル基との当量比が1:0.17〜1:0.5、好ましくは1:0.23〜1:0.43の範囲内となる割合で混合し、通常、エステル化触媒の存在下に、約100〜約180℃の温度で約0.5〜約10時間加熱することにより行うのが適している。エステル化触媒としては、例えば、硫酸、硫酸アルミニウム、硫酸水素カリウム、アルキル置換ベンゼン、塩酸、硫酸メチル、リン酸等が挙げられる。一方、油脂(脂肪酸のトリグリセライド)とグリセリンとの反応は、通常、酢酸亜鉛、リサージ、ジブチル錫オキサイド、ナフテン酸カルシウムなどのエステル交換反応触媒の存在下でそれ自体既知の方法により好適に行うことができる。
【0019】
また脂肪酸エステル(a1)として、1分子中にエポキシ基を2つ以上含有するエポキシ樹脂と脂肪酸との反応生成物が使用できる。該エポキシ樹脂と脂肪酸との反応生成物は、2級の水酸基を有するものであり、本発明の水性樹脂分散体を建築外装上塗り塗料や金属建材に塗布される下塗り塗料、その他金属面に塗られる1コート仕上げ塗料など、耐候性、防食性、耐水性、速乾性、仕上り性等が求められる用途において使用する場合、脂肪酸エステル(a1)として好適に選択され得るものである。特にエポキシ樹脂としてビスフェノールAのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を用いる場合には、高防食性が求められる下塗り塗料の用途に適する。
【0020】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAやビスフェノールFなどのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂;これらのエポキシ樹脂をアルキルフェノール及び脂肪酸から選ばれる少なくとも1種の変性剤によって変性してなる変性エポキシ樹脂;アルキルフェノール又はアルキルフェノールノボラック型樹脂とエピクロルヒドリンとを反応させてなるエポキシ基導入アルキルフェノール又はアルキルフェノールノボラック型樹脂;二塩基酸変性エポキシ樹脂、二塩基酸及びカルボキシル基含有フェノールで変性したエポキシ樹脂などを挙げることができる。エポキシ樹脂の重量平均分子量は約200〜約3,000の範囲内、好ましくは約300〜約2,000の範囲内であることが好適である。ここで重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィにより測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算したときの値である。ゲルパーミュエーションクロマトグラフィ装置には「HLC8120GPC」(東ソー(株)社製、商品名)が使用でき、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィに用いるカラムとしては、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)などを挙げることができる。
【0021】
上記脂肪酸としては、前記グリセリンモノ脂肪酸エステルの説明で列記したものの中から適宜選択して使用することができる。
【0022】
上記エポキシ樹脂と脂肪酸との反応は、エポキシ樹脂中のエポキシ基と脂肪酸中のカルボキシル基との当量比が1:0.6〜1:1.4、好ましくは1:0.8〜1:1.2の範囲内となる割合で混合し、例えばエポキシ基/カルボキシル基反応触媒の存在下で通常1〜10時間程度加熱反応させればよい。エポキシ基/カルボキシル基反応触媒としては、例えば、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルフォスフォニウムブロマイド、トリフェニルベンジルフォスフォニウムクロライド等の4級塩触媒;トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン類等を挙げることができる。また反応温度は、120〜150℃程度が適当である。
【0023】
脂肪酸エステル(a1)としては、さらに1分子中にカルボキシル基を2つ以上含有する化合物と長鎖炭化水素基を含有するモノエポキシ化合物との反応生成物が使用できる。該反応生成物は、2級の水酸基を有するものであり、本発明の水性樹脂分散体を金属面に塗られる1コート仕上げ塗料など、耐水性や仕上り性等が求められる用途において使用する場合、脂肪酸エステル(a1)として好適に選択され得るものである。
【0024】
上記の1分子中にカルボキシル基を2つ以上含有する化合物としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4−ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4´−ジカルボン酸、ヘット酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロトリメリット酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、リンゴ酸、クエン酸などの多価カルボン酸及びこれらの酸無水物が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組合せて使用することができる。
【0025】
上記の長鎖炭化水素基を含有するモノエポキシ化合物は、炭素数4以上、好ましくは炭素数6〜20の鎖状もしくは環状の炭化水素基を有するモノエポキシド化合物であり、具体例としては、例えば、ピバル酸グリシジルエステル、ヘキサン酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、2−エチルヘキサン酸グリシジルエステル、イソノナン酸グリシジルエステル、デカン酸グリシジルエステル、ウンデカン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、ミリスチン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、カージュラE10(ジャパンエポキシレジン社製、ネオデカン酸モノグリシジルエステル)などのグリシジルエステル;ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル;スチレンオキシド、AOEX24(ダイセル化学工業製、α−オレフィンモノエポキシド混合物)などのα−オレフィンモノエポキシド等が挙げられる。また、上記炭素数4以上の炭化水素基は、例えば、水酸基などの置換基を有していてもよく、かかる置換基を有する炭化水素基を有するモノエポキシド化合物としては、具体的には、例えば、1,2−エポキシオクタノール、ヒドロキシオクチルグリシジルエーテルなどを挙げることができる。これらは単独で又は2種以上組合せて使用することができる。
【0026】
上記カルボキシル基含有化合物とモノエポキシ化合物との反応は、前者中のカルボキシル基と後者中のエポキシ基との当量比が1:0.6〜1:1.4、好ましくは1:0.8〜1:1.2の範囲内となる割合で混合し、例えばエポキシ基/カルボキシル基反応触媒の存在下で通常1〜10時間程度加熱反応させればよい。エポキシ基/カルボキシル基反応触媒としては、前述の中から適宜選択して使用できる。
【0027】
ポリオール(a)は、上記脂肪酸エステル(a1)を含むものであり、必要に応じて該脂肪酸エステル(a1)以外の、1分子中に少なくとも2個以上の水酸基を有する、例えば低分子量グリコール類、高分子量グリコール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類等をそれぞれ単独に用いてもよく、また、ポリエステルポリオールや高分子量グリコールに低分子量グリコールを併用しても良い。
【0028】
低分子量グリコール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、オクタンジオール、トリシクロデカンジメチロール、水添ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAポリエチレングリコールエーテル、ビスフェノールAポリプロピレングリコールエーテルなどがあり、これ等は単独または2種以上混合して使用しても良い。
【0029】
高分子量グリコール類としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリカーボネートグリコールなどが挙げられ、ポリエステルポリオール類としては、グリコール成分とジカルボン酸成分を反応させたものが挙げられ、公知の方法で容易に製造でき、エステル化反応に限らず、エステル交換反応によっても製造できる。またε−カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環反応によって得られるポリエステルジオール及びこれ等の共縮合ポリエステルも含むことができる。
【0030】
上記ポリオール(a)中における脂肪酸エステル(a1)の含有割合は、5重量%以上、好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上であることが硬化性、耐水性、仕上り性の点から好適である。
【0031】
ポリイソシアネート化合物(b)は、1分子中にイソシアネート基を2個以上含有するものであり、その具体的としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート類;これらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;イソホロンジイソシアネート、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−(又は−2,6−)ジイソシアネート、1,3−(又は1,4−)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート類;これらのジイソシアネ−トのビュ−レットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、4,4´−トルイジンジイソシアネ−ト、4,4´−ジフェニルエーテルイソシアネート、(m−もしくはp−)フェニレンジイソシアネート、4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、3,3´−ジメチル−4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトフェニル)スルホン、イソプロピリデンビス(4−フェニルイソシアネート)などの芳香族ジイソシアネート化合物;これらのジイソシアネ−ト化合物のビュ−レットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;トリフェニルメタン−4,4´,4´´−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、4,4´−ジメチルジフェニルメタン−2,2´,5,5´−テトライソシアネートなどの1分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート類;これらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ポリアルキレングリコール、トリメチロ−ルプロパン、ヘキサントリオ−ルなどのポリオールの水酸基にイソシアネート基が過剰量となる比率でポリイソシアネート化合物を反応させてなるウレタン化付加物;これらのウレタン化付加物のビュ−レットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物等を挙げることができる。
【0032】
カルボキシル基含有ジオール(c)としては、例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸及びこれ等を縮合したポリエステルポリオールまたはポリエーテルポリオールなどが挙げられる。これ等に12−ヒドロキシステアリン酸、パラオキシ安息香酸、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオン酸、サリチル酸等のヒドロキシカルボン酸を併用することもできる。
【0033】
本発明で使用される脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)は、必要に応じて末端にラジカル重合性不飽和基を有していても良く、該ラジカル重合性不飽和基を導入する目的で、上記(a)、(b)成分にさらに水酸基含有重合性不飽和モノマー(d)を、さらに必要に応じて上記(c)成分を反応させて製造することができる。水酸基含有重合性不飽和モノマー(d)としては、1分子中に1個の水酸基と1個の重合性不飽和基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコ−ル、上記C〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
上記脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)の製造は、特に限定されることなく従来公知の手法が採用でき、例えば前記した(a)及び(b)、さらに(c)、(d)成分を一度に反応させても良いし、多段的に反応させても良い。また脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)の製造は、イソシアネート基に不活性な有機溶剤中で行っても良いが、溶剤の持ち込みを排除する点からは、後述の重合性不飽和モノマー(B)中、イソシアネート基に不活性なモノマーを希釈成分として用いて脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)の製造を行うことが好適である。上記(a)及び(b)、さらに(c)、(d)成分の使用割合は種々変えることができるが、全成分中のイソシアネート基と水酸基との当量比が一般に1:1〜1:3、好ましくは1:1〜1:2.5になるようにするのが望ましい。1:1より小さいと末端がイソシアネートとなり本目的上好ましくなく、1:3より大きいと反応しない過剰の水酸基成分が多くなり、水性樹脂分散体製造時の安定性を低下させるので好ましくない。また、過剰のイソシアネート基を封鎖する目的で、必要に応じて1価アルコールを配合しても良い。さらに(d)成分を用いる場合には、その使用量がイソシアネート基1当量に対し0.01〜1、好ましくは0.02〜0.8当量の範囲とすることが適当である。
【0035】
反応は通常40〜180℃、好ましくは60〜130℃の温度で行われる。この反応を促進させるため、通常のウレタン化反応において使用されるトリエチルアミン、N−エチルモルホリン、トリエチレンジアミン等のアミン系触媒や、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等の錫系触媒などを必要に応じて用いてもよい。また(d)成分や場合によっては希釈成分として用いる重合性不飽和モノマー(B)の一部がウレタン化反応中に重合するのを防止するため、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、p−ベンゾキノンなどを使用することができる。
【0036】
このように製造された脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)は、酸価が30mgKOH/g以下、好ましくは20mgKOH/g以下であることが、形成被膜の耐水性等の点から好適である。
【0037】
上記の通り得られる脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)は、好ましくは5〜50%、さらに好ましくは10〜45%の範囲内の油長を有するのが、得られる被膜の酸化硬化性や塗膜性能の点から好適である。ここでの油長は脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)固形分に含まれる脂肪酸の重量百分率である。
【0038】
本発明で使用される重合性不飽和モノマー(B)としては、特に制限なく従来公知のモノマーが使用でき、通常、分子中に少なくとも1個、好ましくは1個の重合性不飽和基、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などを含有する化合物が包含される。
【0039】
上記重合性不飽和モノマー(B)の具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、シクロドデシル(メタ)アクリレ−ト等のアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート等のイソボルニル基を有する重合性不飽和化合物;アダマンチル(メタ)アクリレート等のアダマンチル基を有する重合性不飽和化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基を有する重合性不飽和化合物;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等のフッ素化アルキル基を有する重合性不飽和化合物;マレイミド基等の光重合性官能基を有する重合性不飽和化合物;N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等のビニル化合物;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基を有する化合物;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物等の含窒素重合性不飽和化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコ−ル、上記C〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等の水酸基を有する重合性不飽和化合物;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレート及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩等のスルホン酸基を有する重合性不飽和化合物;2−ヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノンなどのヒドロキシベンゾフェノン類とグリシジル(メタ)アクリレートとの付加反応生成物、或いは2−(2'−ヒドロキシ−5'−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収性官能基を有する重合性不飽和化合物;4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の紫外線安定性重合性不飽和化合物;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等のカルボニル基を有する重合性不飽和化合物;アリル(メタ)アクリレ−ト、エチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、テトラエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,3−ブチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリ(メタ)アクリレ−ト、1,4−ブタンジオ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ネオペンチルグリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,6−ヘキサンジオ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ペンタエリスリト−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ペンタエリスリト−ルテトラ(メタ)アクリレ−ト、グリセロ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレ−ト、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレ−ト、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレ−ト、トリアリルイソシアヌレ−ト、ジアリルテレフタレ−ト、ジビニルベンゼン等の1分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する多ビニル化合物等が挙げられ、これらは得られる水性樹脂分散体に望まれる性能などに応じて単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0040】
これらのうち本発明では、上記重合性不飽和モノマー(B)が、その成分の少なくとも一部として水酸基含有重合性不飽和モノマー(b1)を含有することが、得られる水性分散体を水酸基と反応し得る硬化剤、例えばイソシアネート系やメラミン系等の硬化剤と共に用いる場合の該硬化剤との架橋性の点から、また重合段階における微粒化されたモノマー乳化物又は貯蔵段階における水性樹脂分散体の粒子の安定性を確保する点から好適である。
【0041】
水酸基含有重合性不飽和モノマー(b1)としては、1分子中に1個の水酸基と1個の重合性不飽和基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコ−ル、上記C〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0042】
重合性不飽和モノマー(B)の少なくとも一部として、水酸基基含有重合性不飽和モノマー(b1)を含んでなるものを使用し、且つ得られる水性樹脂分散体にイソシアネート系硬化剤やメラミン系硬化剤などを配合せしめることにより、水酸基含有重合性不飽和モノマー(b1)由来の水酸基と硬化剤との架橋を進行させることができ、塗膜の硬化性をより一層向上させることができ、耐候性、耐水性等の物性にも優れた塗膜を形成する塗料組成物を調製することができる。
【0043】
かかる水酸基含有重合性不飽和モノマー(b1)は、一般に、モノマー(B)の合計重量を基準にして、0.5〜30重量%、好ましくは1〜20重量%の範囲内で使用するのが適している。
【0044】
また本発明では、上記重合性不飽和モノマー(B)が、その成分の少なくとも一部としてカルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b2)を含有することが、得られる水性分散体を常温架橋型塗料等として使用する場合、後述のヒドラジン誘導体との架橋性の点から好適である。
【0045】
カルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b2)としては、1分子中に1個のカルボニル基と1個の重合性不飽和結合を有する化合物が包含され、具体的には例えば、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、特にダイアセトン(メタ)アクリルアミドが好適である。
【0046】
重合性不飽和モノマー(B)の少なくとも一部として、カルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b2)を含んでなるものを使用し、且つ得られる水性樹脂分散体に後述のヒドラジン誘導体を配合せしめることにより、脂肪酸成分による酸化硬化に加えてカルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b2)由来のカルボニル基とヒドラジン誘導体との補助架橋を進行させることができ、塗膜の乾燥性をより一層向上させることができ、耐候性、耐水性等の物性にも優れた塗膜を形成する塗料組成物を調製することができる。
【0047】
かかるカルボニル基含有重合性不飽和モノマー(b2)は、一般に、モノマー(B)の合計重量を基準にして、0.5〜35重量%、好ましくは2〜20重量%の範囲内で使用するのが適している。
【0048】
さらに本発明では、重合性不飽和モノマー(B)が、その成分の少なくとも一部として脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(b3)を含有することが、脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)との相溶性の点から、またモノマー混合物の乳化時の微粒化(又はミニエマルション化)を容易にし、重合段階において微粒化後のモノマー乳化物を安定化させ、重合性不飽和モノマー(B)の水性媒体中への拡散を抑制させる点から、さらに製造される水性樹脂分散体粒子を用いて形成される塗膜の仕上り性に肉もち感を付与する点から好適である。
【0049】
上記脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(b3)は、通常、脂肪酸由来の炭化水素鎖の末端に重合性不飽和基を有する重合性不飽和モノマーが包含される。ここで、重合性不飽和基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などを挙げることができ、特に(メタ)アクリロイル基が好適である。
【0050】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(b3)としては、例えば、脂肪酸(s1)をエポキシ基含有重合性不飽和モノマー(s2)又は水酸基含有重合性不飽和モノマー(s3)と反応させることにより得られるものを挙げることができる。
【0051】
脂肪酸(s1)としては、炭化水素鎖の末端にカルボキシル基が結合した構造を有しているものが挙げられ、例えば、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸、不乾性油脂肪酸を挙げることができる。乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸は、厳密に区別できるものではないが、通常、乾性油脂肪酸はヨウ素価が130以上の不飽和脂肪酸であり、半乾性油脂肪酸はヨウ素価が100以上かつ130未満の不飽和脂肪酸である。他方、不乾性油脂肪酸は、通常、ヨウ素価が100未満である脂肪酸である。
【0052】
乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸としては、例えば、魚油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸、ハイジエン酸脂肪酸等が挙げられ、また、不乾性油脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、水添ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。さらに、これらの脂肪酸は、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等と併用することができる。
【0053】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(b3)を製造するために上記脂肪酸(s1)と反応させうるエポキシ基含有重合性不飽和モノマー(s2)としては、1分子中に1個のエポキシ基と1個の重合性不飽和基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β一メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0054】
上記脂肪酸(s1)とエポキシ基含有重合性不飽和モノマー(s2)は、脂肪酸(s1)中のカルボキシル基とエポキシ基含有モノマー(s2)中のエポキシ基との当量比が0.75:1〜1.25:1、好ましくは0.8:1〜1.2:1の範囲内となるような割合で反応させることができる。
【0055】
上記脂肪酸(s1)とエポキシ基含有重合性不飽和モノマー(s2)との反応は、通常、重合禁止剤の存在下に、ゲル化などの反応上の問題を起こすことなく、脂肪酸成分中のカルボキシル基とエポキシ基含有重合性不飽和モノマー中のエポキシ基とが円滑に反応できる条件下で行うことができ、通常、約100〜約180℃の温度で約0.5〜約10時間加熱することにより行うのが適している。
【0056】
この反応において、N,N−ジメチルアミノエタノール等の3級アミン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム等の4級アンモニウム塩等のエステル化反応触媒を用いることができ、さらに、反応に対して不活性な有機溶剤を使用してもよい。
【0057】
上記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロカテコール、p−tert−ブチルカテコールなどのヒドロキシ化合物;ニトロベンゼン、ニトロ安息香酸、o−,m−又はp−ジニトロベンゼン、2,4−ジニトロトルエン、2,4−ジニトロフェノール、トリニトロベンゼン、ピクリン酸などのニトロ化合物;p−ベンゾキノン、ジクロロベンゾキノン、クロルアニル、アンスラキノン、フェナンスロキノンなどのキノン化合物;ニトロソベンゼン、ニトロソ−β−ナフトールなどのニトロソ化合物等、それ自体既知のラジカル重合禁止剤が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0058】
また、脂肪酸変性重合性モノマー(b3)は、上記脂肪酸(s1)を水酸基含有重合性不飽和モノマー(s3)とエステル化反応させることによっても得ることができる。かかる水酸基含有重合性不飽和モノマー(s3)としては、1分子中に1個の水酸基と1個の重合性不飽和基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコ−ル、上記C〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0059】
上記脂肪酸(s1)と水酸基含有重合性不飽和モノマー(s3)は、通常、該脂肪酸(s1)中のカルボキシル基対水酸基含有モノマー(s3)中の水酸基との当量比が0.4:1〜1.25:1、好ましくは0.5:1〜1.2:1の範囲内となるような割合で反応させることができる。
【0060】
上記脂肪酸(s1)と水酸基含有重合性不飽和モノマー(s3)との反応は、通常、重合禁止剤の存在下に、ゲル化などの反応上の問題を起こすことなく、脂肪酸(s1)成分中のカルボキシル基と水酸基含有重合性不飽和モノマー中の水酸基とが円滑に反応できる条件下で行うことができ、通常、エステル化触媒の存在下に、約100〜約180℃の温度で約0.5〜約10時間加熱することにより行うのが適している。エステル化触媒としては、例えば、硫酸、硫酸アルミニウム、硫酸水素カリウム、アルキル置換ベンゼン、塩酸、硫酸メチル、リン酸等が挙げられ、これらの触媒は、通常、反応させる上記脂肪酸(s1)と水酸基含有重合性不飽和モノマー(s3)の合計量に基準にして、約0.001〜約2.0重量%の範囲内で使用することができる。さらに、反応に対して不活性な有機溶剤を使用することもできる。
【0061】
上記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロカテコール、p−tert−ブチルカテコールなどのヒドロキシ化合物;ニトロベンゼン、ニトロ安息香酸、o−,m−又はp−ジニトロベンゼン、2,4−ジニトロトルエン、2,4−ジニトロフェノール、トリニトロベンゼン、ピクリン酸などのニトロ化合物;p−ベンゾキノン、ジクロロベンゾキノン、クロルアニル、アンスラキノン、フェナンスロキノンなどのキノン化合物;ニトロソベンゼン、ニトロソ−β−ナフトールなどのニトロソ化合物等、それ自体既知のラジカル重合禁止剤が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0062】
本発明において、前記脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)と上記重合性不飽和モノマー(B)との使用割合は、固形分重量比で90:10〜5:95、好ましくは80:20〜10:90の範囲内であることが、乳化し易さや塗膜性能の点から好適である。
【0063】
本発明に使用される乳化剤(C)としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤が好適である。該アニオン性乳化剤としては、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸などのナトリウム塩やアンモニウム塩が挙げられ、また、ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられる。
【0064】
また、1分子中にアニオン性基とポリオキシエチレン基やポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基を有するポリオキシアルキレン基含有アニオン性乳化剤や、1分子中に該アニオン性基と重合性不飽和基とを有する反応性アニオン性乳化剤を使用してもよい。
【0065】
該乳化剤(C)は上記脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)及び重合性不飽和モノマー(B)の合計量を基準にして0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜12重量%の範囲内で使用することができる。
【0066】
本発明方法では、上記脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)、重合性不飽和モノマー(B)及び乳化剤(C)を含む混合物(I)を、水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られる乳化物を重合させる。
【0067】
本発明の方法において、上記乳化物中の混合物(I)粒子の平均粒子径が500nmを超えると、乳化物の貯蔵時の沈降や、得られる水性樹脂分散体粒子の親水−疎水組成分布の不均一性が極端になり、それを用いて形成される塗膜の白濁などの原因となることがあるので好ましくない。
【0068】
本明細書において、平均粒子径は、試料を脱イオン水にて希釈し、「SALD−3100」(商品名、島津製作所社製、レーザー回折式粒度分布測定装置)を用いて、常温(20℃程度)にして測定したときの値であり、また、平均粒子径の測定は、微粒化されたモノマー乳化物又は水性樹脂分散体の製造後24時間以内に行うものとする。
【0069】
また、重合時に使用する水性媒体としては、水、又は水を主体としてこれに水溶性有機溶媒などの有機溶媒を混合してなる水−有機溶媒混合溶液などを挙げることができる。
【0070】
上記混合物(I)は、以上に述べた脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)、重合性不飽和モノマー(B)及び乳化剤(C)を必須成分として含むものであるが、混合物(I)は、さらに、実質的に重合性不飽和基を含有しない化合物を含有することもできる。
【0071】
混合物(I)として、上記の実質的に重合性不飽和基を含有しない化合物を含有するものを使用することにより、該化合物を内包する水性樹脂分散体粒子を製造することができる。
【0072】
実質的に重合性不飽和基を含有しない化合物としては、例えば、紫外線吸収剤、紫外線安定剤及び金属ドライヤー等の塗料用添加剤;アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等の樹脂;顔料、染料等の着色剤を挙げることができ、これらは単独で又は適宜選択して2種以上組み合わせて使用することができるが、特に、紫外線吸収剤、紫外線安定剤及び金属ドライヤーから選ばれる少なくとも1種が好適である。
【0073】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリシレ−ト、p−オクチルフェニルサリシレ−ト、4−t−ブチルフェニルサリシレ−トなどのサリチル酸誘導体;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2´−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノントリヒドレ−ト、2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、ナトリウム2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2´,4,4´−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、5−クロロ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、レゾルシノ−ルモノベンゾエ−ト、2,4−ジベンゾイルレゾルシノ−ル、4,6−ジベンゾイルレゾルシノ−ル、ヒドロキシドデシルベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物;2−(2´−ヒドロキシ−5´−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ルなどのベンゾトリアゾ−ル系化合物、その他シュウ酸アニリド、シアノアクリレ−トなどの化合物、上記例示の紫外線吸収モノマーを共重合成分とするアクリル共重合体などが挙げられる。
【0074】
紫外線安定剤としては、例えば、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t-ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t-ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ビス−(2,2´,6,6´−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバテ−ト、4−ベンゾイルオキシ−2,2´,6,6´−テトラメチルピペリジン、上記例示の紫外線安定性モノマーを共重合成分とするアクリル共重合体等が挙げられる。
【0075】
上記紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤は、単独で使用してもよいし、適宜選択して組み合わせて使用することもできる。上記紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤は、一般に、(A)及び(B)成分の合計重量を基準にして、紫外線吸収剤は0.1〜5.0重量%、特に0.2〜0.7重量%の範囲内、そして紫外線安定剤は0.1〜5.0重量%、特に0.2〜3.0重量%の範囲内で使用するのが好適である。
【0076】
本発明において、混合物(I)に紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤を含有させると、得られる水性樹脂分散体粒子の少なくとも一部が該紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤を内包し、その結果、該水性樹脂分散体を用いて形成される被膜に均一に該紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤が分散されるようになるとともに、被膜形成後、雨水等により溶出されることがなく、その効果を長期にわたり安定に発揮するようになる。
【0077】
また、金属ドライヤーとしては、例えば、アルミニウム、カルシウム、セリウム、コバルト、鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、ジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と酸との塩が挙げられ、該酸としては、例えば、カプリン酸、カプリル酸、イソデカン酸、リノレン酸、ナフテン酸、ネオデカン酸、オクテン酸、オレイン酸、パルミチン酸、樹脂酸、リシノール酸、大豆油脂肪酸、ステアリン酸、トール油脂肪酸等が挙げられる。
【0078】
本発明において、金属ドライヤーが重合を行う前の混合物(I)に含まれると、得られる水性樹脂分散体から形成される硬化被膜の酸化硬化性を向上させることができる。これは、水性樹脂分散体粒子の少なくとも一部に金属ドライヤーが内包され、該内包粒子が成膜されると金属ドライヤーが内包粒子内で効果的に酸化硬化型重合性不飽和基に作用することができるためであると考えられる。該金属ドライヤーの使用量は、一般に、(A)及び(B)成分の合計重量を基準にして、0.5〜10重量%、特に1〜7重量%の範囲内が好適である。
【0079】
また、混合物(I)は、得られる水性樹脂分散体の分子量を調整する目的で、連鎖移動剤を含んでいてもよい。該連鎖移動剤としては、メルカプト基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルへキシル、2−メチル−5−tert−ブチルチオフェノール、メルカプトエタノ−ル、チオグリセロ−ル、メルカプト酢酸(チオグリコ−ル酸)、メルカプトプロピオネート、n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート等が挙げられる。該連鎖移動剤の使用量は、一般に、全モノマーの合計量を基準にして、0.05〜10重量%、特に0.1〜5重量%の範囲内が好適である。
【0080】
さらに、混合物(I)には、必要に応じて、ヘキサデカン等の長鎖飽和炭化水素系溶剤、ヘキサデカノール等の長鎖アルコール系溶剤等の有機溶剤等を配合してもよい。
【0081】
本発明に従えば、以上に述べた混合物(I)は水性媒体中に微分散させることにより乳化物が形成せしめられる。
【0082】
上記混合物(I)の水性媒体中における濃度は、形成される乳化物の微粒化適性、重合段階における安定性、水性塗料に適用したときの実用性などの観点から、一般に、10〜70重量%、好ましくは20〜60重量%の範囲内が好適である。
【0083】
混合物(I)の水性媒体中への微分散は、通常、高エネルギーせん断能力を有する分散機を用いて行うことができる。その際に使用しうる該分散機としては、例えば、高圧乳化装置、超音波乳化機、高圧コロイドミル、高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの分散機は、通常、10〜1000MPa、好ましくは50〜300MPa程度の高圧下で操作することができる。また、該機械にて分散を行う前に、該モノマー混合物をあらかじめディスパー等で予備乳化してもよい。
【0084】
混合物(I)を上記手法により水性媒体中に微分散させることにより得られるモノマー乳化物中の分散粒子の平均粒子径は、形成塗膜の透明性、耐水性等の点から、500nm以下、好ましくは80〜400nm、さらに好ましくは100〜300nmの範囲内が適している。
【0085】
かくして得られる乳化物の重合は、例えば、ミニエマルション重合法に従い、微分散後の乳化物を撹拌機を備えた反応器に全量仕込み、重合開始剤を添加し、攪拌しながら加熱することにより行うことができる。
【0086】
上記重合開始剤としては、油溶性、水溶性のいずれのタイプのものであってもよく、油溶性の重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキシド、ステアロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられ、また、水溶性の開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレート、 tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、 tert−ブチルパーオキシアセテート、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビス(2−メチルプロピオンニトリル)、アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、4、4'−アゾビス(4−シアノブタン酸)、ジメチルアゾビス(2−メチルプロピオネート)、アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]−プロピオンアミド}等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等が挙げられる。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて用いることができる。また、上記重合開始剤に、必要に応じて、糖、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、鉄錯体等の還元剤を併用し、レドックス重合系としてもよい。
【0087】
上記重合開始剤の使用量は、一般に、重合性不飽和モノマー(B)の合計重量を基準にして、0.1〜5重量%、特に0.2〜3重量%の範囲内が好ましい。該重合開始剤の添加方法は、特に制限されるものではなく、その種類や量などに応じて適宜選択することができる。例えば、予め混合物(I)又は水性媒体に含ませてもよく、或いは重合時に一括して添加してもよく又は滴下してもよい。
【0088】
本発明においては、得られる水性樹脂分散体の粒子の機械的安定性を向上させるために、該水性樹脂分散体が酸性基を有する場合には、これを中和剤により中和することが望ましい。該中和剤としては、酸性基を中和できるものであれば特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、ジメチルアミノエタノール、2−メチル−2−アミノ−1−プロパノール、トリエチルアミン、アンモニア水などが挙げられ、これらの中和剤は、中和後の水性樹脂分散体のpHが6.5〜9.0程度となるような量で用いることが望ましい。
【0089】
以上に述べた本発明の方法によれば、分散樹脂の平均粒子径が500nm以下、特に好ましくは100〜300nmの範囲内にある水性樹脂分散体を製造することができる。水性樹脂分散体中の分散樹脂の平均粒子径は、重合前の乳化物中の分散粒子の平均粒子径に依存する。本発明に従う水性樹脂分散体の製造方法において、重合前の乳化物中の分散粒子の平均粒子径を上記範囲とすることにより、乳化物中の分散粒子の平均粒子径に対する水性樹脂分散体中の分散樹脂の平均粒子径の変化率を、一般に、50〜150%、特に60%以上且つ100%未満、さらに特に70〜99%範囲内とすることができる。なお、乳化物中の分散粒子の平均粒子径に対する水性樹脂分散体中の分散樹脂の平均粒子径の変化率は、下記式に基づいて算出することができる。
【0090】
【数1】

【0091】
平均粒子径の変化率が上記範囲内であれば、安定に乳化重合を行うことができ、最終的に得られる水性樹脂分散体中の分散樹脂の平均粒子径を上述の範囲内(500nm以下、特に80〜400nm、さらに特に100〜300nm)とすることができ、透明性を有する硬化被膜を形成せしめることが可能となる。
【0092】
本発明の方法に従って製造される水性樹脂分散体は、一般に5〜70%、好ましくは7.5〜60%、さらに好ましくは10〜50%の範囲内の油長を有するのが好適である。油長が7.5%未満では、被膜の酸化硬化性が不十分であり、他方、60%を超えると、乾燥経時で被膜が硬く脆くなり、形成される塗膜の耐候性、耐アルカリ性等の性能に劣ることがある。ここでの油長は水性樹脂分散体固形分に含まれる脂肪酸の重量百分率である。
【0093】
本発明により提供される水性樹脂組成物は以上に述べた如くして得られる水性樹脂分散体を含んでなるものである。
【0094】
上記水性樹脂組成物は、ヒドラジン誘導体をさらに含んでなることができる。該ヒドラジン誘導体としては、具体的には例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、こはく酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等の2〜18個の炭素原子を有する飽和ジカルボン酸ジヒドラジド;マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドなどのモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸ジヒドラジド;フタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジドまたはイソフタル酸ジヒドラジド;ピロメリット酸のジヒドラジド、トリヒドラジドまたはテトラヒドラジド;ニトリロトリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド;カルボン酸低級アルキルエステル基を有する低重合体をヒドラジンまたはヒドラジン水化物(ヒドラジンヒドラード)と反応させることにより得られるポリヒドラジド;炭酸ジヒドラジド等のヒドラジド基含有化合物;ビスセミカルバジド;ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート又はそれから誘導されるポリイソシアネート化合物にN,N−ジメチルヒドラジン等のN,N−置換ヒドラジンや上記例示のヒドラジドを過剰に反応させて得られる多官能セミカルバジド、該ポリイソシアネート化合物とポリエーテルとポリオール類やポリエチレングリコールモノアルキルエーテル類等の親水性基を含む活性水素化合物との反応物中のイソシアネート基に上記例示のジヒドラジドを過剰に反応させて得られる水系多官能セミカルバジド;該多官能セミカルバジドと水系多官能セミカルバジドとの混合物等のセミカルバジド基を有する化合物;ビスアセチルジヒドラゾン等のヒドラゾン基を有する化合物等が挙げられる。
【0095】
水性樹脂組成物が上記ヒドラジン誘導体を含有することにより、それから形成される塗膜は空気中の有害物質、例えばホルムアルデヒドを吸着するので、これらの有害物質の除去のために有用であり、また、水性樹脂分散体がカルボニル基を有する場合には、補助架橋のための架橋剤として作用することができる。
【0096】
上記ヒドラジン誘導体の配合量は、水性樹脂分散体の樹脂固形分に対して、一般に、0.01〜10重量%、特に0.1〜8重量%の範囲内が望ましい。
【0097】
また上記水性樹脂組成物は、水性樹脂分散体が水酸基などの架橋性官能基を有する場合には、該官能基と反応し得る架橋性官能基を有する硬化剤、例えばイソシアネート系硬化剤やメラミン系硬化剤などを含有することができる。
【0098】
上記水性樹脂組成物は、さらに必要に応じて、湿潤剤、消泡剤、可塑剤、造膜助剤、有機溶剤、増粘剤、防腐剤、防かび剤、pH調整剤、硬化触媒、表面調整剤などの添加剤を適宜選択し組合わせて含有することができる。また、前記で説明したごとき金属ドライヤー、紫外線吸収剤、紫外線安定剤を該水性樹脂組成物に含ませることもできる。
【0099】
かくして、上記水性樹脂組成物は、建築用、自動車外板用、自動車部品用等の塗料用途や印刷インキ等の被覆材、塗料用添加剤、不織布用等の接合剤、接着剤、充填剤、成形材料、レジスト等の種々の用途に使用することができる。
【0100】
本発明はまた、上記の水性樹脂組成物を含んでなる水性塗料組成物を提供するものである。
【0101】
上記水性塗料組成物は、クリヤー塗料として又はエナメル塗料として使用することができる。
【0102】
エナメル塗料として使用する場合には、顔料分として、塗料分野で既知の着色顔料,光輝性顔料、体質顔料、防錆顔料等を配合することができる。
【0103】
上記水性塗料組成物は、上記成分の他に、水溶性もしくはエマルション型のアクリル樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の改質用樹脂、顔料分散剤、界面活性剤、分散剤、消泡剤、増粘剤、造膜助剤、防腐剤、防カビ剤、凍結防止剤、pH調整剤、フラッシュラスト抑止剤、アルデヒド捕捉剤、層状粘度鉱物、粉状もしくは微粒子状の活性炭、光触媒酸化チタン、ポリアルキレングリコール変性アルキルシリケート等の低汚染化剤等の添加剤を単独でもしくは2種以上組み合わせて含有することができる。
【0104】
上記水性塗料組成物は、新しい基材面や旧塗膜面に適用することができ、該基材としては、特に制限されるものではなく、例えば、コンクリート、モルタル、スレート板、PC板、ALC板、セメント珪酸カルシウム板、コンクリートブロック、木材、石材等の無機基材;プラスチック等の有機基材;鉄、アルミニウム等の金属などが挙げられ、また、旧塗膜としては、これら基材上に設けられたアクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、ポリウレタン樹脂系、フッ素樹脂系、シリコンアクリル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、エポキシ樹脂系、アルキド樹脂などの塗膜が挙げられる。これらの被塗面には、水性又は溶剤型の下塗り材を塗布してもよく、必要に応じて、該下塗り材を塗布した後、上記水性塗料組成物を上塗り材として塗布することができる。また、本発明の水性塗料組成物を下塗り材として塗布した後、既知の水性上塗り材を塗布することも可能である。
【0105】
本発明の水性塗料組成物を鉄基材等の金属面に適用する場合、該水性塗料組成物は、リン酸系顔料をPVCで1〜10%、好ましくは2〜8%の範囲内で含有することが望ましい。
【0106】
リン酸系顔料は、防食性及び光沢の観点から、高分子界面活性剤の存在下で容易に分散可能なものであることが望ましい。該リン酸系顔料の具体例としては、例えば、リン酸亜鉛、リン・ケイ酸亜鉛、りん酸アルミニウム亜鉛、りん酸カルシウム亜鉛、リン酸カルシウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸カルシウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸カルシウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0107】
また、本発明の水性塗料組成物は、さらに、亜硝酸塩、フィチン酸塩、タンニン酸塩、及びポリアミン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性化合物を含むことができる。亜硝酸塩としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸アンモニウムなどが挙げられ、フィチン酸塩としては、例えば、フィチン酸ナトリウム、フィチン酸カリウムなどが挙げられ、タンニン酸塩としては、例えば、タンニン酸ナトリウム、タンニン酸カリウム等が挙げられ、ポリアミン化合物としては、例えば、はN−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、プロピレンジアミン四酢酸(PDTA)、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DTPMP)、及びこれらのアルカリ金属塩、モノアルキルアミンやポリアミン、第四級アンモニウムイオンなどをトリポリリン酸二水素アルミニウムなどの層状りん酸塩にインターカレートしてなる層間化合物等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0108】
これら塩基性化合物の添加により、水性塗料組成物を金属面に直接塗布した場合に該金属面の錆が塗膜表面にブリードして点錆などを発生させるのを防止することが可能である。上記塩基性化合物の添加量は、水性塗料組成物の重量を基準にして、0.02〜2重量%、好ましくは0.05〜1重量%の範囲内が適当である。
【0109】
本発明の水性塗料組成物は、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装、ハケ塗装、ローラー塗装、リシンガン、万能ガン等の方法で塗布することができ、また、乾燥方法としては、加熱乾燥、強制乾燥、常温乾燥のいずれであってもよい。本明細書では、40℃未満の乾燥条件を常温乾燥とし、40℃以上で且つ80℃未満の乾燥条件を強制乾燥とし、80℃以上の乾燥条件を加熱乾燥とする。本発明の水性塗料組成物の塗布量としては、例えば、50〜300g/mの範囲内とすることができる。
【実施例】
【0110】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。尚、「部」及び「%」は、別記しない限り「重量部」及び「重量%」を示す。
【0111】
脂肪酸エステルの製造
製造例1
反応容器に下記の成分を入れ、攪拌しながら150℃に昇温し、酸価1mgKOH/g以下まで反応させ、脂肪酸エステル(a1−1)を得た。
【0112】
「エピコート828EL」(注1) 598部
アマニ油脂肪酸 905部
テトラエチルアンモニウムブロマイド 1.5部
【0113】
(注1)エピコート828EL:ジャパンエポキシレジン社製、商品名、液状エポキシ樹脂。
【0114】
製造例2
反応容器に下記の成分を入れ、攪拌しながら150℃に昇温し、酸価1mgKOH/g以下まで反応させ、脂肪酸エステル(a1−2)を得た。
【0115】
アジピン酸 292部
「カージュラE10P」(注2) 480部
テトラエチルアンモニウムブロマイド 1.25部
【0116】
(注2)カージュラE10P:ジャパンエポキシレジン社製、商品名、チオデカン酸グリシジルエステル。
【0117】
脂肪酸変性モノマーの製造
製造例3
反応容器に下記の成分を入れ、攪拌しながら反応温度140℃で、酸価5mgKOH/g以下となるまで反応させ、脂肪酸変性モノマー(b3−1)を得た。
【0118】
サフラワー油脂肪酸 560部
グリシジルメタクリレート 284部
ハイドロキノン 0.65部
【0119】
製造例4
下記の成分を反応容器に入れ、攪拌しながら120℃に昇温させた。
【0120】
大豆油脂肪酸 560部
ハイドロキノン 0.45部
メチル硫酸 0.65部
トルエン 36部
【0121】
続いて、下記に示す成分の混合物を上記反応容器に2時間かけて滴下した。
【0122】
ヒドロキシエチルメタクリレート 325部
ハイドロキノン 0.45部
メチル硫酸 1.4部
トルエン 58.5部
【0123】
滴下終了後150℃まで昇温し、縮合水を除去しながら、酸価が8.7mgKOH/g以下になるまで約5時間反応させた。その後、加熱残分が95%以上になるまでトルエンを減圧除去し、脂肪酸変性モノマー(b3−2)を製造した。
【0124】
水性樹脂分散体の製造
実施例1
反応容器に下記の成分を仕込み、80℃に昇温した。
【0125】
「エマルジーMU」(注3) 19.45部
ブチルエチルプロパンジオール 4.48部
ハイドロキノン 0.0126部
n−ブチルメタクリレート 22.5部
i-ブチルメタクリレート 17.0部
ジブチル錫ジラウレート 0.0189部
【0126】
次いで、この中にイソホロンジイソシアネート23部を一時間かけて滴下し、NCO価20(NCO価−1)まで反応させた。その後、n−ブタノール3.07部、ハイドロキノン0.0126部を投入し、NCO価1以下(NCO価−2)まで反応させた。該反応が終了後、冷却し、温度40℃になったら、該反応容器内にハイドロキノン0.0126部、2−エチルヘキシルメタクリレート10部、メタクリル酸0.5部を投入し、モノマー希釈の脂肪酸変性ポリウレタン樹脂液を得た。
【0127】
ビーカーに、上記で得たモノマー希釈の脂肪酸変性ポリウレタン樹脂液100部、アニオン型乳化剤(日本乳化剤社製、「ニューコール707SF」、有効成分30%)10部、水90部を仕込んで混合し、ディスパーで2000rpmで約15分攪拌し、予備乳化液を作成した。この予備乳化液を、高圧エネルギーを加えて流体同士を衝突させる高圧乳化装置で100MPaの高圧処理をし、分散粒子の平均粒子径が280nmの乳化液を得た。
【0128】
この乳化液をフラスコに移し、80℃に昇温した。過硫酸アンモニウム0.24部を水10部に溶解した重合開始剤水溶液を、1時間かけてフラスコ内に滴下投入し、該温度を保持しながら重合反応を行った。その後、更に、2時間80℃を維持し、反応を進めた後、冷却し、アンモニア水でpHを8.0に調整し、分散樹脂の平均粒子径267nm、固形分濃度49%の水性樹脂分散体(I−1)を得た。
【0129】
(注3)エマルジーMU:理研ビタミン社製、蒸留モノ脂肪酸グリセライド(モノエステル含量93%以上、ヨウ素価108〜120)
【0130】
実施例2
反応容器に下記の成分を仕込み、80℃に昇温した。
【0131】
脂肪酸エステル(a1−1) 30.99部
ブチルエチルプロパンジオール 2.69部
ハイドロキノン 0.0126部
n−ブチルメタクリレート 22.5部
i-ブチルメタクリレート 14.5部
ジブチル錫ジラウレート 0.0189部
【0132】
次いで、この中にイソホロンジイソシアネート13.8部を一時間かけて滴下し、NCO価12.4(NCO価−1)まで反応させた。その後、n−ブタノール0.738部、ハイドロキノン0.0126部を投入し、NCO価7.3(NCO価−2)まで反応させてから、2−ヒドロキシエチルアクリレート4.24部を投入し、NCO価1以下(NCO価−3)まで反応させた。該反応が終了後、冷却し、温度40℃になったら、該反応容器内にハイドロキノン0.0126部、2−エチルヘキシルメタクリレート10部、メタクリル酸0.5部を投入し、モノマー希釈の脂肪酸変性ポリウレタン樹脂液を得た。
【0133】
ビーカーに、上記で得たモノマー希釈の脂肪酸変性ポリウレタン樹脂液100部、アニオン型乳化剤(日本乳化剤社製、「ニューコール707SF」、有効成分30%)10部、水90部を仕込んで混合し、ディスパーで2000rpmで約15分攪拌し、予備乳化液を作成した。この予備乳化液を、高圧エネルギーを加えて流体同士を衝突させる高圧乳化装置で100MPaの高圧処理をし、分散粒子の平均粒子径が195nmの乳化液を得た。
【0134】
この乳化液をフラスコに移し、80℃に昇温した。過硫酸アンモニウム0.24部を水10部に溶解した重合開始剤水溶液を、1時間かけてフラスコ内に滴下投入し、該温度を保持しながら重合反応を行った。その後、更に、2時間80℃を維持し、反応を進めた後、冷却し、アンモニア水でpHを8.0に調整し、分散樹脂の平均粒子径208nm、固形分濃度49%の水性樹脂分散体(I−2)を得た。
【0135】
実施例3
反応容器に下記の成分を仕込み、80℃に昇温した。
【0136】
脂肪酸エステル(a1−2) 25.83部
ブチルエチルプロパンジオール 2.12部
ジメチロールブタン酸 1.15部
ハイドロキノン 0.0126部
n−ブチルメタクリレート 22.5部
i-ブチルメタクリレート 14.5部
ジブチル錫ジラウレート 0.0189部
【0137】
次いで、この中にイソホロンジイソシアネート17.28部を一時間かけて滴下し、NCO価15.7(NCO価−1)まで反応させた。その後、2−ヒドロキシエチルアクリレート6.11部を投入し、NCO価1以下(NCO価−3)まで反応させた。該反応が終了後、冷却し、温度40℃になったら、該反応容器内にハイドロキノン0.0126部、2−エチルヘキシルメタクリレート10部、メタクリル酸0.5部を投入し、モノマー希釈の脂肪酸変性ポリウレタン樹脂液を得た。
【0138】
ビーカーに、上記で得たモノマー希釈の脂肪酸変性ポリウレタン樹脂液100部、アニオン型乳化剤(日本乳化剤社製、「ニューコール707SF」、有効成分30%)10部、水90部を仕込んで混合し、ディスパーで2000rpmで約15分攪拌し、予備乳化液を作成した。この予備乳化液を、高圧エネルギーを加えて流体同士を衝突させる高圧乳化装置で100MPaの高圧処理をし、分散粒子の平均粒子径が216nmの乳化液を得た。
【0139】
この乳化液をフラスコに移し、80℃に昇温した。過硫酸アンモニウム0.24部を水10部に溶解した重合開始剤水溶液を、1時間かけてフラスコ内に滴下投入し、該温度を保持しながら重合反応を行った。その後、更に、2時間80℃を維持し、反応を進めた後、冷却し、アンモニア水でpHを8.0に調整し、分散樹脂の平均粒子径229nm、固形分濃度49%の水性樹脂分散体(I−3)を得た。
【0140】
実施例4、6及び比較例1
実施例1の方法に従って、配合組成を表1に記載のとおりに変更する以外は上記実施例1と同様にして、水性樹脂分散体(I−4)、(I−6)及び(I−8)を得た。
(注4)プラクセル205:ダイセル化学工業社製、商品名、ポリカプロラクトンジオール。
【0141】
実施例5、7
実施例2の方法に従って、配合組成を表1に記載のとおりに変更する以外は上記実施例2と同様にして、水性樹脂分散体(I−5)及び(I−7)を得た。
【0142】
【表1】

【0143】
比較例2
ビーカーに、実施例1において得たモノマー希釈の脂肪酸変性ポリウレタン樹脂液100部、アニオン型乳化剤(日本乳化剤社製、「ニューコール707SF」、有効成分30%)10部、水90部を仕込んで混合し、ディスパーで2000rpmで約15分攪拌し、乳化液を作成した。この乳化液の分散粒子の平均粒子径は8300nmであった。
【0144】
この乳化液をフラスコに移し、80℃に昇温した。過硫酸アンモニウム0.24部を水10部に溶解した重合開始剤水溶液を、1時間かけてフラスコ内に滴下投入し、該温度を保持しながら重合反応を行った。その後、更に、2時間80℃を維持し、反応を進めたが、反応途中で、ブツの生成が激しく、さらに分離沈降したため、水性樹脂分散体は得られなかった。
【0145】
水性樹脂組成物の製造
実施例8〜17及び比較例3
下記表2に記載の配合組成により、水性樹脂組成物を得た。各水性樹脂組成物を下記性能試験に供し評価した。結果を表2にあわせて示す。
【0146】
(注5)水分散性ポリイソシアネート:フラスコに、数平均分子量550の片末端メトキシポリエチレングリコール55部、「タケネートD170HN」(三井タケダ社製、ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体)504部を入れ、70℃でNCO価218まで反応させて、水分散可能なポリイソシアネートを作成した。
【0147】
(注6)水分散性ブロックポリイソシアネート:フラスコに、数平均分子量550の片末端メトキシポリエチレングリコール275部、「タケネートD170HN」504部を入れ、70℃で反応させて、NCO価135となった時点で、メチルイソブチルケトン50部を入れ、120℃に昇温し、次いでその中にメチルエチルケトオキシム219部を1時間かけて滴下・投入し、更にNCO価1以下まで反応を進行させた。反応終了後、プロピレングリコールモノメチルエーテル60部を入れて希釈し、固形分90%の水分散可能なブロックポリイソシアネートを作成した。
【0148】
(注7)「サイメル325」:サイテックインダストリー社製、商品名、固形分80%のメチル化メラミン樹脂
(注8)「DICNATE1000W」:大日本インキ社製、商品名、金属ドライヤー、Co含有率3.6%
(注9)「TEXANOL」:イーストマンケミカル社製、商品名、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレート、造膜助剤
【0149】
【表2】

【0150】
評価試験方法
(*1)耐水性:各水性樹脂組成物を乾燥膜厚が40μmとなるように鋼板にスプレー塗装し、表2中の各被膜形成条件で乾燥・加熱させて、各試験板を作成した。
【0151】
得られた試験板を室温20℃の恒温水槽に7日間浸漬後、塗膜状態を目視で観察した。
【0152】
◎:異常無し
○:若干フクレ、変色があるが、良好な状態
△:フクレ、変色があり、実用困難
×:フクレ、変色が著しい
【0153】
(*2)硬化性:各水性樹脂組成物をガラス板にドクタ−ブレ−ドにて乾燥膜厚で40μmになるように塗装し、表2中の各被膜形成条件で乾燥・加熱させた後、ガラス板から乾燥膜を剥離して4×4cmの大きさにカットし、試験片とした。
【0154】
得られた試験片を、アセトン中で還流条件下6時間浸漬した。抽出前後の塗膜重量から塗膜抽出残分を下記の通り算出した。
塗膜抽出残分(%)=(抽出した後の膜の重量/抽出前の膜の重量)×100(%)
【0155】
(*3)防食性:耐水性(*1)と同様にして各試験板を作成し、得られた試験板に、素地に達するようにナイフでクロスカット傷を入れ、これをJIS Z−2371に準じて240時間耐塩水噴霧試験を行い、ナイフ傷からの錆、フクレ幅によって以下の基準で評価した。
【0156】
○:錆、フクレの最大幅がカット部より2mm未満(片側)
△:錆、フクレの最大幅がカット部より2mm以上、3mm未満(片側)でかつ
塗面全体にブリスターの発生がみられる
×:錆、フクレの最大幅がカット部より3mm以上でかつ塗面全体にブリスターの
発生がみられる、ことを示す。
【0157】
(*4)仕上がり性:耐水性(*1)と同様にして各試験板を作成し、その被膜面の艶、肉持ち感を目視にて評価した。
【0158】
○:非常に良好、△:やや良好、×:不良

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)、重合性不飽和モノマー(B)及び乳化剤(C)を含む混合物(I)を、水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られる乳化物を重合させることを特徴とする分散樹脂粒子の平均粒子径が500nm以下である水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項2】
脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)が、1分子中に水酸基を2つ以上含有する脂肪酸エステル(a1)を含むポリオール(a)と、ポリイソシアネート化合物(b)と、必要に応じてカルボキシル基含有ジオール(c)とを反応させて得られるものである請求項1記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項3】
脂肪酸変性ポリウレタン樹脂(A)が、1分子中に水酸基を2つ以上含有する脂肪酸エステル(a1)を含むポリオール(a)と、ポリイソシアネート化合物(b)と、ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(d)と、必要に応じてカルボキシル基含有ジオール(c)とを反応させて得られるものである請求項1記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項4】
脂肪酸エステル(a1)が、グリセリンモノ脂肪酸エステルである請求項2又は3記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項5】
脂肪酸エステル(a1)が、1分子中にエポキシ基を2つ以上含有するエポキシ樹脂と脂肪酸との反応生成物である請求項2又は3記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項6】
脂肪酸エステル(a1)が、1分子中にカルボキシル基を2つ以上含有する化合物と長鎖炭化水素基を含有するモノエポキシ化合物との反応生成物である請求項2又は3記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項7】
重合性不飽和モノマー(B)が、その成分の少なくとも一部として水酸基含有重合性不飽和モノマーを含有する請求項1記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項8】
重合性不飽和モノマー(B)が、その成分の少なくとも一部としてカルボニル基含有重合性不飽和モノマーを含有する請求項1記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項9】
重合性不飽和モノマー(B)が、その成分の少なくとも一部として脂肪酸変性重合性不飽和モノマーを含有する請求項1記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項10】
1ないし9のいずれか1項に記載の方法により製造される水性樹脂分散体。
【請求項11】
10項に記載の水性樹脂分散体を含んでなる水性樹脂組成物。
【請求項12】
ヒドラジン誘導体をさらに含んでなる11項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項13】
イソシアネート系硬化剤及び/又はメラミン系硬化剤をさらに含んでなる11項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項14】
11ないし13のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物を含んでなる水性塗料組成物。
【請求項15】
被塗面に、14項に記載の水性塗料組成物を塗装することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項16】
15項に記載の方法により形成される塗装物品。


【公開番号】特開2006−52294(P2006−52294A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234290(P2004−234290)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】